(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025322
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】鉄骨梁の設計方法
(51)【国際特許分類】
E04C 3/06 20060101AFI20240216BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20240216BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
E04C3/06
E04B1/24 L
E04B1/58 505S
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128689
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】仁田脇 雅史
(72)【発明者】
【氏名】石井 大吾
(72)【発明者】
【氏名】久保山 寛之
(72)【発明者】
【氏名】牛坂 伸也
(72)【発明者】
【氏名】佐野 達彦
【テーマコード(参考)】
2E125
2E163
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB01
2E125AB16
2E125AG03
2E125AG04
2E125AG32
2E125BB02
2E125BD01
2E125BD02
2E163FA12
2E163FB02
(57)【要約】
【課題】水平スチフナのみを用いて補剛を行う場合のせん断座屈の影響を考慮した補剛範囲を設計できる鉄骨梁の設計方法を提供する。
【解決手段】第1スチフナ補剛長さ算出工程と、第2スチフナ補剛長さ算出工程と、スチフナ補剛部6の長さ寸法を第1スチフナ補剛部61の長さ寸法と第2スチフナ補剛部62の長さ寸法とを合わせた値以上とするスチフナ補剛長さ算出工程と、を有し、第1スチフナ補剛長さ算出工程では、水平スチフナ5が第2スチフナ補剛部62には設けられず第1スチフナ補剛部61のみに設けられていると想定し、第1スチフナ補剛部61における第2端部61bの位置に生じる曲げモーメントM
2よりもウェブ4に水平スチフナ5が設けられていない無補剛部71の耐力M
a0が大きくなるように設計し、第2スチフナ補剛長さ算出工程では、第2スチフナ補剛部62の長さ寸法を鉄骨梁1の梁せい寸法(1.0H)と同じ値に設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブの長さ方向の端部から中央に向かった所定の長さ範囲に水平方向に延びる水平スチフナを接合したスチフナ補剛部が設けられた鉄骨梁における前記スチフナ補剛部の長さ寸法を算出する鉄骨梁の設計方法において、
前記スチフナ補剛部は、
前記ウェブの長さ方向の端部側に位置する第1スチフナ補剛部と、
前記第1スチフナ補剛部と連続し前記ウェブの長さ方向の中央側に位置する第2スチフナ補剛部と、を有し、
前記第1スチフナ補剛部の長さ寸法を算出する第1スチフナ補剛長さ算出工程と、
前記第2スチフナ補剛部の長さ寸法を算出する第2スチフナ補剛長さ算出工程と、
前記スチフナ補剛部の長さ寸法を前記第1スチフナ補剛部の長さ寸法と前記第2スチフナ補剛部の長さ寸法とを合わせた値以上とするスチフナ補剛長さ算出工程と、を有し、
前記第1スチフナ補剛長さ算出工程では、
前記水平スチフナが前記第2スチフナ補剛部には設けられず前記第1スチフナ補剛部のみに設けられていると想定し、前記第1スチフナ補剛部における前記ウェブの前記長さ方向の中央側の端部の位置に生じる曲げモーメントM
2よりも前記ウェブに前記水平スチフナが設けられていない無補剛部の耐力M
a0が大きくなるように設計し、
前記無補剛部の耐力M
a0は、下式(1.1)および(1.2)により算出し、
前記曲げモーメントM
2は、前記ウェブの前記長さ方向の端部の位置に生じる曲げモーメントM
1を前記無補剛部の長さと鉄骨梁の内法長さの比率で減少させて算出し、前記曲げモーメントM
1は、下式(1.3)により算出し、
前記第2スチフナ補剛長さ算出工程では、
前記第2スチフナ補剛部の長さ寸法を前記鉄骨梁の梁せい寸法と同じ値に設定する鉄骨梁の設計方法。
【数1】
【請求項2】
前記水平スチフナを前記ウェブの一方の面のみに設ける請求項1に記載の鉄骨梁の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェブ幅厚比の大きな鉄骨梁を対象に、梁端部のヒンジ形成位置近傍のウェブのみを水平方向に延びる水平スチフナで補剛することによって使用する鋼材量を低減しつつ、必要な塑性変形性能を確保する薄肉ウェブスチフナ補剛工法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-094339号公報
【特許文献2】特開2021-183782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような薄肉ウェブスチフナ補剛工法では、ウェブにおける水平スチフナの端部が位置するスパン中央側の領域に、水平スチフナの曲げ変形の影響を受けてせん断座屈が発生しやすくなる。ウェブのせん断座屈が発生すると、せん断座屈波形が周辺の耐力や塑性変形能力に影響を及ぼすことが懸念される。このウェブのせん断座屈の影響を抑えるために、ウェブにおける水平スチフナのスパン中央側の端部が位置する領域に縦スチフナを設置している。
しかしながら、ディテールの都合や、製作の簡略化などにより縦スチフナを設置できないことがある。このような場合、水平スチフナのみを用いて補剛を行うことになる。水平スチフナのみを用いて補剛を行う場合には、せん断座屈の影響が小さくなる範囲まで水平スチフナを設置する必要があるが、せん断座屈の影響を考慮した設計は現状確立されていない。
【0005】
そこで、本発明は、水平スチフナのみを用いて補剛を行う場合のせん断座屈の影響を考慮した補剛範囲を設計できる鉄骨梁の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄骨梁の設計方法は、ウェブの長さ方向の端部から中央に向かった所定の長さ範囲に水平方向に延びる水平スチフナを接合したスチフナ補剛部が設けられた鉄骨梁における前記スチフナ補剛部の長さ寸法を算出する鉄骨梁の設計方法において、前記スチフナ補剛部は、前記ウェブの長さ方向の端部側に位置する第1スチフナ補剛部と、前記第1スチフナ補剛部と連続し前記ウェブの長さ方向の中央側に位置する第2スチフナ補剛部と、を有し、前記第1スチフナ補剛部の長さ寸法を算出する第1スチフナ補剛長さ算出工程と、前記第2スチフナ補剛部の長さ寸法を算出する第2スチフナ補剛長さ算出工程と、前記スチフナ補剛部の長さ寸法を前記第1スチフナ補剛部の長さ寸法と前記第2スチフナ補剛部の長さ寸法とを合わせた値以上とするスチフナ補剛長さ算出工程と、を有し、前記第1スチフナ補剛長さ算出工程では、前記水平スチフナが前記第2スチフナ補剛部には設けられず前記第1スチフナ補剛部のみに設けられていると想定し、前記第1スチフナ補剛部における前記ウェブの前記長さ方向の中央側の端部の位置に生じる曲げモーメントM2よりも前記ウェブに前記水平スチフナが設けられていない無補剛部の耐力Ma0が大きくなるように設計し、前記無補剛部の耐力Ma0は、下式(1.1)および(1.2)により算出し、前記曲げモーメントM2は、前記ウェブの前記長さ方向の端部の位置に生じる曲げモーメントM1を前記無補剛部の長さと鉄骨梁の内法長さの比率で減少させて算出し、前記曲げモーメントM1は、下式(1.3)により算出し、前記第2スチフナ補剛長さ算出工程では、前記第2スチフナ補剛部の長さ寸法を前記鉄骨梁の梁せい寸法と同じ値に設定する。
【0007】
【0008】
本発明では、第1スチフナ補剛部における長さ方向の中央側の端部、すなわち無補剛部との境界に生じる曲げモーメントM2よりも無補剛部の耐力Ma0が小さい場合、第1スチフナ補剛部と無補剛部との境界に生じる曲げモーメントM2が無補剛部の耐力Ma0に達すると第1スチフナ補剛部と無補剛部との境界に塑性ヒンジが形成され、2ヒンジ状態となり塑性変形能力が急激に低下する変形状態になる虞がある。これに対し、本発明では、第1スチフナ補剛長さ算出工程において、第1スチフナ補剛部と無補剛部との境界に生じる曲げモーメントM2よりも無補剛部の耐力Ma0が大きくなるように第1スチフナ補剛部の長さ寸法を設計しているため、上記のような変形状態になる虞が無く、水平スチフナの補剛による耐力上昇を考慮した第1スチフナ補剛長さの設計が可能である。
さらに、ウェブのせん断座屈が発生する場合では、せん断座屈波形が周辺の耐力や塑性変形能力に影響を及ぼすことが懸念される。これに対し、本発明では、第2スチフナ補剛長さ算出工程において、水平スチフナの長さ方向の中央側の端部のせん断座屈波形が影響を及ぼす範囲が第2スチフナ補剛部によって補剛されるように第2スチフナ補剛長さを算出し、スチフナ補剛長さ算出工程において、スチフナ補剛部の長さ寸法を第1スチフナ補剛部の長さ寸法と第2スチフナ補剛部の長さ寸法とを合わせた値以上となるように算出している。
せん断座屈波形は、梁せい方向(高さ方向)に対して45°の角度で生じるものと仮定すると、水平スチフナの長さ方向の中央側の端部から鉄骨梁の端部に向かって梁せい寸法分以下の範囲では、せん断座屈波形の影響を受ける範囲であると考えられる。一方、水平スチフナの長さ方向の中央側の端部から鉄骨梁の端部に向かって梁せい寸法以上の範囲は、ウェブのせん断座屈が発生する場合であっても、せん断座屈の影響をあまり受けない範囲と考えることができる。以上の理由により、第2スチフナ補剛の長さ寸法を梁せい寸法と同じ値とし、スチフナ補剛部の長さ寸法を第1スチフナ補剛部の長さ寸法と第2スチフナ補剛部の長さ寸法とを合わせた値以上とすることにより、スチフナ補剛部と無補剛部とが双方に及ぼす影響を防ぐことができる。
【0009】
本発明に係る鉄骨梁の設計方法では、前記水平スチフナを前記ウェブの一方の面のみに設けるようにしてもよい。
【0010】
このようにすることにより、鉄骨梁の設計及び製作が容易となるとともに鋼材料削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水平スチフナのみを用いて補剛を行う場合のせん断座屈の影響を考慮した補剛範囲を設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態による鉄骨梁の斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態による鉄骨梁の側面図である。
【
図3】FEM解析によるスチフナ補剛長さの設計式の検証に用いた解析ケースの諸元を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による鉄骨梁の設計方法について、
図1-
図9に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による鉄骨梁の設計方法は、
図1、
図2に示すように、本実施形態による鉄骨梁1は、H形鋼である。鉄骨梁1は、上フランジ2と下フランジ3と、ウェブ4と、を有している。鉄骨梁1は、水平方向に延び、両端部が柱12に接合されている。以下では、鉄骨梁1が延びる水平方向を長さ方向と表記する。長さ方向に直交する水平方向を幅方向と表記する。鉄骨梁1の説明において鉛直方向を高さ方向と表記する。
図1、
図2では、鉄骨梁1の長さ方向の一方の端部1aの近傍を示している。
【0014】
鉄骨梁1のウェブ4の長さ方向の端部4aから長さ方向の中央に向かう所定の領域には、2つの水平スチフナ5が接合されている。鉄骨梁1のウェブ4は、2つの水平スチフナ5によって補剛されている。2つの水平スチフナ5は、ウェブ4の一方の面のみに接合されている。2つの水平スチフナ5は、上下に間隔をあけて1つずつ配置されている。2つの水平スチフナ5は、同じ長さである。
【0015】
ウェブ4における水平スチフナ5が接合されて補剛されている領域を「スチフナ補剛部6」と表記する。スチフナ補剛部6は、ウェブ4の長さ方向の両方の端部近傍に設けられている。ウェブ4におけるスチフナ補剛部6以外の領域、すなわち水平スチフナ5が設けられていない領域を「無補剛部7」と表記する。無補剛部7は、ウェブ4の長さ方向の中間部に設けられている。
スチフナ補剛部6の長さ方向の端部のうち、柱12に近接する側の端部を第1端部6aと表記する。スチフナ補剛部6の長さ方向の端部のうち、柱12と離間する側、すなわち、無補剛部7側の端部を第2端部6bと表記する。第1端部6aは、ウェブ4の長さ方向の端部4aに位置している。
【0016】
スチフナ補剛部6は、第1端部6a側の第1スチフナ補剛部61と、第2端部6b側の第2スチフナ補剛部62とを有する。第1スチフナ補剛部61と第2スチフナ補剛部62とは連続して一体に設けられている。第1スチフナ補剛部61における柱12に近接する側の端部を第1端部61aと表記し、第2スチフナ補剛部62と連続する側の端部を第2端部61bと表記する。第1スチフナ補剛部61の第2端部61bは、「第1スチフナ補剛部61におけるウェブ4の長さ方向の中央側の端部」に相当する。
水平スチフナ5のうち、第1スチフナ補剛部61に設けられている部分を第1水平スチフナ51と表記する。
【0017】
水平スチフナ5の長さ方向の端部のうち、柱12に近接する側の端部を第1端部5aと表記し、柱12と離間する側の端部を第2端部5bと表記する。水平スチフナ5の第1端部5aは、ウェブ4の長さ方向の端部4aの位置すなわち、スチフナ補剛部6の第1端部6aの位置に配置されている。水平スチフナ5の第2端部5bは、スチフナ補剛部6の第2端部6bの位置に配置されている。
【0018】
本実施形態による鉄骨梁の設計方法では、第1スチフナ補剛部の長さ寸法を算出する第1スチフナ補剛長さ算出工程と、第2スチフナ補剛部の長さ寸法を算出する第2スチフナ補剛長さ算出工程と、スチフナ補剛部の長さ寸法を第1スチフナ補剛部の長さ寸法と第2スチフナ補剛部の長さ寸法とを合わせた値以上とするスチフナ補剛長さ算出工程と、を行う。
【0019】
(第1スチフナ補剛長さ算出工程)
第1スチフナ補剛部61の長さ寸法は、水平スチフナ5が第1スチフナ補剛部61のみに設けられ、第2スチフナ補剛部62には設けられていないものと想定して算出する。すなわち、水平スチフナ5は、第1水平スチフナ51のみであると想定する。このように想定した場合、第1水平スチフナ51が設けられていない領域を無補剛部71と表記する。この無補剛部71には、第2スチフナ補剛部62も含まれる。必要となる第1スチフナ補剛部61の長さ寸法を「スチフナ補剛長さLst」と表記する。
スチフナ補剛長さLstは、第1スチフナ補剛部61の第2端部61bに生じる曲げモーメントM2よりも無補剛部71の耐力Ma0が大きくなるように設計する。無補剛部71の耐力Ma0は、下式(1.1)および(1.2)により算出する。
ウェブ4の幅厚比が大きくなり、鉄骨梁1の最大耐力(WF0による無補剛部耐力Mmax)が無補剛部断面の全塑性モーメントMpを下回る場合についても適切な耐力評価が可能である。
【0020】
【0021】
第1スチフナ補剛部61の第2端部61bに生じる曲げモーメントM2は、鉄骨梁1の端部1aの曲げモーメントM1を鉄骨梁1の無補剛部71の長さ(鉄骨梁1の内法長さL0-スチフナ補剛長さLst×2)と鉄骨梁1の内法長さL0の比率で減少させたものとして算出する。
ここで、スチフナ補剛長さLstの設計用の鉄骨梁1の端部1aの曲げモーメントM1は、下記の文献1による幅厚比指標WFを用いた最大耐力の評価式を用いて算出する。
文献1 五十嵐規矩夫、末國良太、篠原卓馬、王韜:鋼構造H形断面梁の耐力及び塑性変形能力評価のための新規幅厚比指標と幅厚比区分、日本建築学会構造系論文集(668)、pp.1865-1872、2011.10)
スチフナ補剛長さLstの算出においては、端部応力を大きく評価し安全側の設計をするため、最大耐力の下限値を取る形で導出された文献1の最大耐力の評価式を、最大耐力の上限値を取るように修正した下式(1.3)を用いて算出する。
【0022】
【0023】
(第2スチフナ補剛長さ算出工程)
第2スチフナ補剛部62の長さ寸法は、鉄骨梁1の梁せい寸法(H)と同じ値(1.0H)とする。
【0024】
(スチフナ補剛長さ算出工程)
スチフナ補剛部6の長さ寸法は、第1スチフナ補剛長さ算出工程で算出した第1スチフナ補剛部61の長さ寸法、すなわちスチフナ補剛長さLst」と、第2スチフナ補剛長さ算出工程で算出した第2スチフナ補剛部62の長さ寸法、すなわち鉄骨梁1の梁せい寸法(1.0H)と、を合わせた値とする。
【0025】
ウェブ4のせん断座屈が発生する場合では、せん断座屈波形が周辺の耐力や塑性変形能力に影響を及ぼすことが懸念される。このため、水平スチフナ5の第2端部5bのせん断座屈波形が影響を及ぼす範囲を設定する。せん断座屈波形は,梁せい方向(高さ方向)に対して45°の角度で生じるものと仮定すると、水平スチフナ5の第2端部5bから第1端部5a(鉄骨梁1の端部1a)に向かった梁せい寸法(1.0H)以下の範囲では、せん断座屈波形の影響を受ける範囲であると考えられる。一方、水平スチフナ5の第2端部5bから第1端部5aに向かった梁せい寸法(1.0H)以上の範囲は、ウェブ4のせん断座屈が発生する場合であっても、せん断座屈の影響をあまり受けない範囲と考えることができる。以上の理由により、水平スチフナ5の長さ寸法を算出した必要スチフナ補剛長さLstに加えて、梁せい寸法(1.0H)延長することで、補剛部と無補剛部7が双方に及ぼす影響を防ぐことができる。
【0026】
(FEM解析による設計手法の検証)
上記の鉄骨梁1の上記の鉄骨梁の設計方法によるスチフナ補剛部6の長さ寸法の算出の妥当性を検証するために大変形非線形解析(FEM解析)を実施した。
図3に解析ケースを示す。いずれのケースにおいても鉄骨梁はH形鋼である。梁断面はH-650×200×8×13、せん断スパンは、5000mmと設定した。本解析ではスチフナ補剛長さl
stをパラメータにした解析検討を実施した。
必要スチフナ補剛長さL
stは、上記の計算式に基づいて設計すると、1430mm程度となる。
【0027】
解析Case1は、スチフナ補剛長さlstが必要スチフナ補剛長さLstを満たしていない長さ寸法であり、スチフナ補剛長さlstは必要スチフナ補剛長さLstの0.91倍である。
解析Case2は、スチフナ補剛長さlstが必要スチフナ補剛長さLstに梁せいの0.1倍の寸法を加えた寸法(Lst+0.1H)であり、スチフナ補剛長さlstは必要スチフナ補剛長さLstの1.05倍である。
解析Case3は、スチフナ補剛長さlstが必要スチフナ補剛長さLstに梁せいの0.5倍の寸法を加えた寸法(Lst+0.5H)であり、スチフナ補剛長さlstは必要スチフナ補剛長さLstの1.19倍である。
【0028】
図4-
図9に解析結果の荷重変形関係と変形性状示す。
図4および
図5に示すように、解析Case1は、スチフナ補剛長さが必要スチフナ補剛長さより短いため、スチフナ補剛部と無補剛部の境界におけるフランジとウェブの連成座屈が発生している。
図6および
図7に示すように、解析Case2では、必要スチフナ補剛長さを超える位置付近までスチフナ補剛を施しているため、鉄骨梁の端部におけるフランジとウェブの連成座屈による破壊が支配的であることが確認できる。
図8および
図9に示すように、解析Case3では、解析Case2よりも長く超える位置付近までスチフナ補剛を施しているため、鉄骨梁の端部におけるフランジとウェブの連成座屈による破壊が支配的であることが確認できる。
本解析により、スチフナ補剛長さをL
st+0.5Hとした解析Case3であっても安定した履歴性状を示すことが確認された。このことから、解析Case3よりも安全側となるスチフナ補剛長さ(L
st+1.0H)とする上記の鉄骨梁の設計方法は、本解析の検討の結果から妥当性を検証できる。
【0029】
次に、本実施形態による鉄骨梁の設計方法の作用・効果について説明する。
本実施形態による鉄骨梁の設計方法では、第1スチフナ補剛部61における長さ方向の中央側の端部(第2端部61b)、すなわち無補剛部71との境界に生じる曲げモーメントM2よりも無補剛部の耐力Ma0が小さい場合、第1スチフナ補剛部と無補剛部との境界に生じる曲げモーメントM2が無補剛部の耐力Ma0に達すると第1スチフナ補剛部61と無補剛部71との境界に塑性ヒンジが形成され、2ヒンジ状態となり塑性変形能力が急激に低下する変形状態になる虞がある。これに対し、本実施形態では、第1スチフナ補剛長さ算出工程において、第1スチフナ補剛部61と無補剛部71との境界に生じる曲げモーメントM2よりも無補剛部71の耐力Ma0が大きくなるように第1スチフナ補剛部61の長さ寸法を設計しているため、上記のような変形状態になる虞が無く、第1水平スチフナ51の補剛による耐力上昇を考慮した第1スチフナ補剛部61の設計が可能である。
さらに、ウェブ4のせん断座屈が発生する場合では、せん断座屈波形が周辺の耐力や塑性変形能力に影響を及ぼすことが懸念される。これに対し、本実施形態では、第2スチフナ補剛長さ算出工程において、水平スチフナ5の第2端部5bのせん断座屈波形が影響を及ぼす範囲が第2スチフナ補剛部62によって補剛されるように第2スチフナ補剛長さを算出し、スチフナ補剛長さ算出工程において、スチフナ補剛部6の長さ寸法を第1スチフナ補剛部61の長さ寸法と第2スチフナ補剛部62の長さ寸法とを合わせた値以上となるように算出している。
せん断座屈波形は,梁せい方向に対して45°の角度で生じるものと仮定すると、水平スチフナ5の第2端部5bから第1端部5a(鉄骨梁1の端部1a)に向かった梁せい寸法(1.0H)以下の範囲では、せん断座屈波形の影響を受ける範囲であると考えられる。一方、水平スチフナ5の第2端部5bから第1端部5aに向かった梁せい寸法(1.0H)以上の範囲は、ウェブ4のせん断座屈が発生する場合であっても、せん断座屈の影響をあまり受けない範囲と考えることができる。以上の理由により、水平スチフナ5の長さ寸法を算出した必要スチフナ補剛長さLstに加えて、梁せい寸法(1.0H)延長することで、補剛部と無補剛部7が双方に及ぼす影響を防ぐことができる。
これらのことにより、本実施形態による鉄骨梁の設計方法では、水平スチフナ5のみを用いて補剛を行う場合のせん断座屈の影響を考慮した補剛範囲を設計できる。
【0030】
本実施形態では、水平スチフナ5は、ウェブ4の一方の面のみに接合されている。これにより、鉄骨梁1の設計及び製作が容易となるとともに鋼材料削減を図ることができる。
【0031】
以上、本発明による鉄骨梁の設計方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、1つのスチフナ補剛部6に2つの水平スチフナ5が設けられているが、1つのスチフナ補剛部6に設けられる水平スチフナ5の数は適宜設定されてよい。
【0032】
上記の実施形態では、水平スチフナ5は、ウェブ4の片面のみに接合されているが、剛性を考慮してウェブ4の両面それぞれに接合されていてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 鉄骨梁
4 ウェブ
5 水平スチフナ
5b 第2端部
6 スチフナ補剛部
6a 第1端部
6b 第2端部
7,71 無補剛部
51 第1水平スチフナ
61 第1スチフナ補剛部
62 第2スチフナ補剛部