(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025360
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】建築物および建築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/30 20060101AFI20240216BHJP
E04C 1/39 20060101ALI20240216BHJP
E04B 2/02 20060101ALI20240216BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
E04B1/30 F
E04C1/39 105
E04B2/02
B28B1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128731
(22)【出願日】2022-08-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年4月6日,神奈川県鎌倉市津西1-4-19 令和4年4月7日,群馬県渋川市金井2482-1 令和4年4月12日,株式会社テレビ朝日,TV番組「ワイド!スクランブル」 令和4年4月25日,株式会社テレビ朝日,https://www.youtube.com/watch?v=WXPXyBADrVw
(71)【出願人】
【識別番号】520332793
【氏名又は名称】株式会社Polyuse
(71)【出願人】
【識別番号】517086801
【氏名又は名称】株式会社MAT一級建築士事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 太陽
(72)【発明者】
【氏名】岩本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 朋亨
【テーマコード(参考)】
4G052
【Fターム(参考)】
4G052DA01
4G052DB12
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】本発明は、3Dプリンタによって製作した外壁を利用しても鉄骨造の採用が可能な建築物および建築方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の建築物Bは、3Dプリンタ100により造形されて自立可能な複数の壁体1で形成された外壁Wと、外壁Wの内側に立設される複数の鉄骨柱3とを備え、壁体1が3Dプリンタ100による造形中に埋め込まれるとともに鉄骨柱3に緊結される複数の鉄筋1eを備えている。また、本発明の建築方法は、3Dプリンタ100により造形されて自立可能であって複数の鉄筋1eを有する壁体1を基礎F上に載置して外壁Wを形成する外壁形成工程と、外壁形成工程によって形成された外壁Wの内側に鉄骨柱3を基礎F上に立設する鉄骨柱設置工程と、鉄骨柱3に壁体1に予め埋め込まれた鉄筋1eを緊結する緊結工程とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタにより射出されるセメント系混合流体によって造形されて自立可能な複数の壁体で形成されて地盤に設置された基礎上に載置される外壁と、
前記外壁の内側に立設されて前記基礎に連結される複数の鉄骨柱とを備え、
前記壁体は、3Dプリンタによる造形中に埋め込まれるとともに前記鉄骨柱に緊結される複数の鉄筋を有する
ことを特徴とする建築物。
【請求項2】
前記壁体は、前記外壁の外側へ向けて膨出して内側に前記鉄骨柱を収容する凹部を形成する膨出部を有し、
前記鉄筋は、前記膨出部に埋め込まれて前記凹部内に突出している
ことを特徴とする請求項1に記載の建築物。
【請求項3】
前記外壁は、前記壁体を上下に重ねて形成される部分を有し、
前記壁体は、上下方向に貫通する通し孔を有し、
下層の壁体の前記通し孔と、前記下層の壁体の上方に積層された上層の壁体の前記通し孔とが互いに上下に連通され、
前記通し孔内に挿通される壁体接続用鉄筋と、
前記通し孔内に充填されるモルタルとを備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の建築物。
【請求項4】
前記外壁における水平方向で隣り合う前記壁体間に前記壁体同士の相対移動を許容するとともに前記壁体間の隙間を埋める充填物を備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の建築物。
【請求項5】
3Dプリンタにより射出されるセメント系混合流体によって造形されて自立可能であって複数の鉄筋を有する壁体を地盤に設置された基礎上に載置して外壁を形成する外壁形成工程と、
前記外壁形成工程によって形成された前記外壁の内側に鉄骨柱を前記基礎上に立設する鉄骨柱設置工程と、
前記鉄骨柱に前記壁体に予め埋め込まれた鉄筋を緊結する緊結工程とを含む
ことを特徴とする建築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物および建築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造の建築物を建築する場合、地盤に建築物からの荷重を地盤に伝え、建築物を支えるための基礎を地盤に設置する。そして、基礎上に鉄骨でなる柱と梁を格子状に組み合わせてできる構造体を設置した後、構造体に対して外壁を接合して建築物を得る(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、3Dプリンタで制作されるモルタル製の外壁で、安価に建築物を建築しようとする試みがある。3Dプリンタは、3D形状の造形物を上下方向に多数層に分割して層毎に印刷することで複雑な形状の造形物であっても制作することが可能であるために、複雑な形状の外壁でも難なく制作することができる。
【0005】
3Dプリンタで制作されたモルタル製の外壁は、内部に全体的に配筋されておらず引張強度が不足するため、当該外壁を用いた建築物では鉄骨造の採用が要求される。
【0006】
3Dプリンタを利用して外壁を制作するメリットは、型枠の利用によって外壁を成型する従来技術に比して、複雑な形状の外壁を簡単かつ短時間で得られることにあるが、従来の建築物の建築では、基礎上に鉄骨の柱と梁とでなる構造体を設置してから外壁を構造体に接合するといった手順がとられるため、外壁の形状や構造によっては構造体に外壁を接合することが困難な場合がある。
【0007】
よって、従来の建築物および建築方法では、3Dプリンタを利用して外壁を制作するメリットを享受できない場合があり、鉄骨造の採用が難しい場合があった。
【0008】
そこで、本発明は、3Dプリンタによって製作した外壁を利用しても鉄骨造の採用が可能な建築物および建築方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の建築物は、3Dプリンタにより射出されるセメント系混合流体によって造形されて自立可能な複数の壁体で形成されて地盤に設置された基礎上に載置される外壁と、外壁の内側に立設されて基礎に連結される複数の鉄骨柱とを備え、壁体は3Dプリンタによる造形中に埋め込まれるとともに鉄骨柱に緊結される複数の鉄筋を備えている。
【0010】
このように構成された建築物によれば、壁体が3Dプリンタによって造形されて自立するので、基礎上への鉄骨柱の設置に先行して外壁を構成する壁体を基礎上に設置でき、壁体に設置した鉄筋を利用して後から鉄骨柱と緊結できる。このように、建築物によれば、鉄骨柱に邪魔されずに壁体を基礎に設置できるから、複雑な形状の外壁の採用が可能となり、3Dプリンタによって製作した外壁を利用しても鉄骨造の建築物を実現できる。
【0011】
さらに、建築物における壁体は、外壁の外側へ向けて膨出して内側に鉄骨柱を収容する膨出部を備え、鉄筋は、膨出部に埋め込まれて凹部内に突出してもよい。このように構成された建築物によれば、膨出部の室内側の凹部に鉄骨柱を収容でき、当該凹部内で鉄骨柱と鉄筋とを緊結できるので、外壁で囲われる室内で鉄骨柱や鉄筋が邪魔にならず、室内空間を広く確保できる。また、壁体の壁厚が薄くても自立性が向上して安定して基礎上に設置できるとともに、壁体の形状の設計自由度が向上するので、外壁の形状の設計自由度も向上する。
【0012】
また、外壁が壁体を上下に重ねて形成される部分を有し、壁体が上下方向に貫通する通し孔を有し、下層の壁体の通し孔と、下層の壁体の上方に積層された上層の壁体の通し孔とが互いに上下に連通されており、建築物は、通し孔内に挿通される壁体接続用鉄筋と、通し孔内に充填されたモルタルとを備えていてもよい。このように構成された建築物によれば、上方に壁体を積層して連結することができ外壁を高くできるとともに、3Dプリンタによって造形された壁体同士を壁体接続用鉄筋によって連結するので上下方向に積層される壁体の引張強度を向上できる。
【0013】
そして、建築物は、外壁における水平方向で隣り合う壁体間に壁体同士の相対移動を許容するとともに壁体間の隙間を埋める充填物を備えてもよい。このように構成された建築物によれば、地震動によって建築物が振動した際に隣り合う壁体同士が独立に振動することが許容されるため、壁体で形成される外壁のひび割れや破損を抑制できる。
【0014】
また、本発明の建築方法は、3Dプリンタにより射出されるセメント系混合流体によって造形されて自立可能であって複数の鉄筋を有する壁体を地盤に設置された基礎上に載置して外壁を形成する外壁形成工程と、外壁形成工程によって形成された外壁の内側に鉄骨柱を基礎上に立設する鉄骨柱設置工程と、鉄骨柱に壁体に予め埋め込まれた鉄筋を緊結する緊結工程とを含んでいる。
【0015】
このように構成された建築方法は、3Dプリンタによって造形されて自立する壁体を基礎上に載置した後に、基礎へ鉄骨柱を立設させるので、鉄骨柱に邪魔されずに壁体を基礎に設置できるとともに、鉄骨柱の設置に先行して基礎上に載置した壁体に設置した後、鉄筋を利用して鉄骨柱と外壁Wを緊結できる。よって、建築方法によれば、鉄骨柱に邪魔されずに壁体を基礎に設置できるから、複雑な形状の外壁の採用が可能となり、3Dプリンタによって製作した外壁Wを利用しても鉄骨造の建築物を実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の建築物および建築方法によれば、3Dプリンタによって製作した外壁を利用しても鉄骨造の採用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態における建築物の外壁の平面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態における建築物の外壁の斜視図である。
【
図3】本発明の一実施の形態における建築物の外壁の分解斜視図である。
【
図4】本発明の一実施の形態における建築物の断面図である。
【
図5】本発明の一実施の形態における建築物の壁体の造形に使用される3Dプリンタの一例を示した図である。
【
図6】基礎上に外壁を構成する壁体を設置された外壁形成工程を説明する図である。
【
図7】外壁の下層壁を構成する壁体の内側に鉄骨を立設する鉄骨立設工程を説明する図である。
【
図8】外壁の下層壁を構成する壁体の内側にコンクリート床を打設するコンクリート打設工程を説明する図である。
【
図9】下層壁を構成する壁体の上方に上層壁を構成する壁体を設置する工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施の形態の建築物Bを図に基づいて説明する。
図1から
図4に示すように、一実施の形態における建築物Bは、3Dプリンタ100により射出されるセメント系混合流体によって造形されて自立可能な複数の壁体1で形成されて地盤に設置された基礎F上に載置される外壁Wと、外壁Wの内側の地盤Gに外壁Wを型枠にして打設されるコンクリートで形成されるコンクリート床2とを備えている。また、外壁Wは、基礎F上に立設される複数の鉄骨柱3に緊結されており、躯体である鉄骨柱3に一体化されて建築物Bを構成している。
【0019】
以下、一実施の形態の建築物Bを構成する各部について詳細に説明する。外壁Wは、
図1および
図3に示すように、複数の壁体1を周方向に並べるとともに、上下方向に積層することで室内を取り囲むように形成されている。本実施の形態の外壁Wは、
図1から
図3に示したように、平面視で左側が円形であって右側が方形となっている。外壁Wは、主平方向に並べて配置される6個の壁体1
1L,1
2L・・・1
6Lで形成された下層壁W
Lと、下層壁W
L上に積層されるとともに水平方向に並べて配置される6個の壁体1
1U,1
2U・・・1
6Uで形成された上層壁W
Uとで形成されており、合計12個の壁体1によって形成されている。なお、本書では、壁体1の符号に添え字を付している場合、12個の壁体1のうち特定の壁体を示し、特定の壁体についての説明ではなく各壁体のそれぞれに共通する事項を説明する場合には壁体や壁体の各部の符号に添え字を付していない。
【0020】
また、壁体の符号の添え字の数字は、平面視で外壁Wの左方から時計回りに付した番号を示しており、壁体の符号の添え字のLは、壁体が外壁Wの下層壁WLを形成する壁体であることを示し、壁体の符号の添え字のUは、壁体が外壁Wの上層壁WUを形成する壁体であることを示している。さらに、本書では、壁体1の左右は、特に断りがない限り、外壁Wで囲われる室内側から見た場合の左右を示している。
【0021】
したがって、本実施の形態の建築物Bでは、壁体1は、3Dプリンタ100によって射出されるモルタルで成形されている。そして、壁体11Lと壁体11U、壁体12Lと壁体12U、壁体13Lと壁体13U、壁体14Lと壁体14U、壁体15Lと壁体15U、壁体16Lと壁体16Uは、それぞれ3Dプリンタ100によって造形されるモルタル部分が略同じ形状に形成されている。
【0022】
壁体11L,11Uは、所定高さおよび所定の壁厚を有して平面視で略4分円形状に形成されたモルタル製の壁であって、外壁Wの周方向の中央に外壁Wで囲われる室内側から見て外側となる一方側へ膨出する略半円形の膨出部1a1L,1a1Uを備えるとともに、膨出部1a1L,1a1Uの周方向の両側に上下方向に貫通する通し孔1b1L,1b1Uと、周方向の左端に設けられて突出する突出部1c1L,1c1Uと、周方向の右端に設けられて突出する突出部1d1L,1d1Uと、一部が膨出部1a1L,1a1Uを形成している壁の肉厚に対して埋め込まれて固定されるとともに先端が膨出部1a1L,1a1U内に突出する複数の鉄筋1e1L,1e1Uとを備えている。
【0023】
膨出部1a1L,1a1Uは、平面視で半円形であって外側に向けて膨出して室内側に後述する鉄骨柱3を収容する凹部を形成している。膨出部1a1L,1a1Uには、高さ方向で所定の間隔を空けた異なる3箇所にそれぞれ2本ずつの合計6本のL字状の鉄筋1e1L,1e1Uが埋め込まれている。鉄筋1e1L,1e1Uは、L字部分が膨出部1a1L,1a1U内に埋め込まれて膨出部1a1L,1a1Uへの定着長さが確保されており、先端が膨出部1a1L,1a1Uの室内側へ向けて放射状に突出するように設置される。鉄筋1e1L,1e1Uは、膨出部1a1L,1a1Uに沿って湾曲する円弧状部分と円弧状部分の両端から直線状に内側へ延びる一対の先端部分とを備えたC形状とされて、1本の鉄筋1e1L,1e1Uの設置で凹部内に2つの先端を突出させてもよい。また、壁体11Lの上方に壁体11Uを積層すると、膨出部1a1Lの上に膨出部1a1Uが正対して重なって壁体11L,11Uの室内側に一続きの凹部が形成される。
【0024】
通し孔1b1L,1b1Uは、壁体11L,11Uを上下に貫いており、壁体11L,11Uに対して同じ位置に設けられている。よって、壁体11L,11Uを上下に重ねると通し孔1b1L,1b1U同士が互いに連通されて、膨出部1a1L,1a1Uを挟んで壁体1L,11Uを上下に貫く一対の縦孔を形成する。
【0025】
突出部1c1L,1c1Uは、壁体11L,11Uの周方向の左端の外側寄りに設けられて壁厚の1/3程度の厚さで上端から下端までにかけて突出している。また、突出部1c1L,1c1Uは、平面視で壁体11L,11Uに沿う円弧状となっており、壁体11L,11Uの外面と面一となるように設けられている。突出部1d1L,1d1Uは、壁体11L,11Uの周方向の右端の内側寄りに設けられて壁厚の1/3程度の厚さで上端から下端までにかけて突出している。また、突出部1d1L,1d1Uは、平面視で壁体11L,11Uに沿う円弧状となっており壁体11L,11Uの内面と面一となるように設けられている。
【0026】
壁体11L,11Uの室内側から見て左方に配置される壁体16L,16Uは、壁体11L,11Uと同様に、膨出部1a6L,1a6Uと、通し孔1b6L,1b6Uと、突出部1c6L,1c6Uと、突出部1d6L,1d6Uと、複数の鉄筋1e6L,1e6Uと備えており、壁体11L,11Uと同様の形状および構造を備えている。
【0027】
壁体12L,12Uは、壁体11L,11Uと同じ高さおよび同じ壁厚を有したモルタル製の壁であって、外壁Wの周方向で中央部に室内側から見て外側となる一方側へ膨出する略半円形の膨出部1a2L,1a2Uを備えるとともに、平面視で膨出部1a2L,1a2Uの周方向の左側が壁体11L,11Uと同じ曲率で湾曲する円弧状に形成されるとともに、膨出部1a2L,1a2Uの周方向の右側が直線状に形成されている。また、下層壁WLの一部を形成する壁体12Lは、右端の上方側に矩形の切欠部1f2Lを備え、上層壁WUの一部を形成する壁体12Uは、右端の下方側に矩形の切欠部1f2Uを備えている。さらに、壁体12L,12Uは、膨出部1a2L,1a2Uの周方向の両側に上下方向に貫通する通し孔1b2L,1b2Uと、周方向の左端に設けられて突出する突出部1c2L,1c2Uと、周方向の右端に設けられて突出する突出部1d2L,1d2Uと、基端が膨出部1a2L,1a2Uを形成している壁の肉厚に対して挿入されて固定されるとともに先端が膨出部1a2L,1a2U内に突出する複数の鉄筋1e2L,1e2Uとを備えている。
【0028】
膨出部1a2L,1a2Uは、平面視で円弧状であって外側に向けて膨出して室内側に後述する鉄骨柱3を収容する凹部を形成している。膨出部1a2L,1a2Uには、壁体11L,11Uと同様に、所定の位置に合計6本のL字状の鉄筋1e2L,1e2Uが膨出部1a2L,1a2Uの室内側へ向けて放射状に突出するように設置されている。また、壁体12Lの上方に壁体12Uを積層すると、膨出部1a2Lの上に膨出部1a2Uが正対して重なって壁体12L,12Uの室内側に一続きの凹部が形成される。鉄筋1e2L,1e2Uは、鉄筋1e1L,1e1Uと同様にL字状とされているが、前述したC形状とされてもよい。
【0029】
通し孔1b2L,1b2Uは、壁体12L,12Uを上下に貫いており、壁体12L,12Uに対して同じ位置に設けられている。よって、壁体12L,12Uを上下に重ねると通し孔1b2L,1b2U同士が互いに連通されて、膨出部1a2L,1a2Uを挟んで壁体12L,12Uを上下に貫く一対の縦孔を形成する。
【0030】
突出部1c2L,1c2Uは、壁体12L,12Uの周方向の左端の外側寄りに設けられて壁厚の1/3程度の厚さで上端から下端までにかけて突出している。また、突出部1c2L,1c2Uは、平面視で壁体12L,12Uの膨出部1a2L,1a2Uの左側に沿う円弧状となっており、壁体12L,12Uの外面と面一となるように設けられている。突出部1d2L,1d2Uは、壁体12L,12Uの右端の切欠部1f3L,1f3Uを除き、内側寄りに壁体12L,12Uの内面と面一となるように設けられて壁厚の1/3程度の厚さで右端から垂直に突出している。
【0031】
切欠部1f2Lは、下層壁WLの一部を形成する壁体12Lの右端の上方側の角を切り取る矩形の切欠となっている。切欠部1f2Uは、上層壁WUの一部を形成する壁体12Uの右端の下方側の角を切り取る矩形の切欠となっており、切欠部1f2Lと同じ幅で形成されている。よって、壁体12Lの上方に壁体12Uを積層すると、切欠部1f2L,1f2Uが互いに連通されて、積層された壁体12L,12Uの右端に1つの矩形の開口を形成する。
【0032】
壁体13L,13Uは、壁体11L,11Uと同じ高さおよび同じ壁厚を有して平面視で略L字形状のモルタル製の壁であって、外壁Wの周方向で中央部に室内側から見て外側となる一方側へ膨出する略半円形の膨出部1a3L,1a3Uを備えている。また、下層壁WLの一部を形成する壁体12Lは、左端の上方側に矩形の切欠部1f3Lを備えるとともに右端の上方側に矩形の切欠部1g3Lを備えている。上層壁WUの一部を形成する壁体13Uは、左端の下方側に矩形の切欠部1f3Uを備えるとともに、右端の下方側に矩形の切欠部1g3Uを備えている。さらに、壁体13L,13Uは、膨出部1a3L,1a3Uの周方向の両側に上下方向に貫通する通し孔1b3L,1b3Uと、周方向の左端に設けられて突出する突出部1c3L,1c3Uと、周方向の右端に設けられて突出する突出部1d3L,1d3Uと、基端が膨出部1a3L,1a3Uを形成している壁の肉厚に対して挿入されて固定されるとともに先端が膨出部1a3L,1a3U内に突出する複数の鉄筋1e3L,1e3Uとを備えている。
【0033】
膨出部1a3L,1a3Uは、平面視で中心角が270度の扇の弧と略同じ形状となっており、外側に向けて膨出して室内側に後述する鉄骨柱3を収容する凹部を形成している。膨出部1a3L,1a3Uには、壁体11L,11Uと同様に、所定の位置に合計6本のL字状の鉄筋1e3L,1e3Uが膨出部1a3L,1a3Uの室内側へ向けて放射状に突出するように設置されている。また、壁体13Lの上方に壁体13Uを積層すると、膨出部1a3Lの上に膨出部1a3Uが正対して重なって壁体13L,13Uの室内側に一続きの凹部が形成される。鉄筋1e3L,1e3Uは、鉄筋1e1L,1e1Uと同様にL字状とされているが、前述したC形状とされてもよい。
【0034】
通し孔1b3L,1b3Uは、壁体13L,13Uを上下に貫いており、壁体13L,13Uに対して同じ位置に設けられている。よって、壁体13L,13Uを上下に重ねると通し孔1b3L,1b3U同士が互いに連通されて、膨出部1a3L,1a3Uを挟んで壁体13L,13Uを上下に貫く一対の縦孔を形成する。
【0035】
突出部1c3L,1c3Uは、壁体13L,13Uの左端の切欠部1f3L,1f3Uを除き、外側寄りに壁体13L,13Uの外面と面一となるように設けられて壁厚の1/3程度の厚さで左端から垂直に突出している。突出部1d3L,1d3Uは、壁体13L,13Uの右端の切欠部1g3L,1g3Uを除き、内側寄りに壁体13L,13Uの内面と面一となるように設けられて壁厚の1/3程度の厚さで右端から垂直に突出している。
【0036】
切欠部1f3Lは、下層壁WLの一部を形成する壁体13Lの左端の上方側の角を切り取る矩形の切欠となっている。切欠部1f3Uは、上層壁WUの一部を形成する壁体13Uの左端の下方側の角を切り取る矩形の切欠となっており、切欠部1f3Lと同じ幅で形成されている。よって、壁体13Lの上方に壁体13Uを積層すると、切欠部1f3L,1f3Uが互いに連通されて、積層された壁体13L,13Uの左端に1つの矩形の開口を形成する。また、切欠部1g3Lは、下層壁WLの一部を形成する壁体13Lの右端の上方側の角を切り取る矩形の切欠となっている。切欠部1g3Uは、上層壁WUの一部を形成する壁体13Uの左端の下方側の角を切り取る矩形の切欠となっており、切欠部1g3Lと同じ幅で形成されている。よって、壁体13Lの上方に壁体13Uを積層すると、切欠部1g3L,1g3Uが互いに連通されて、積層された壁体13L,13Uの右端に1つの矩形の開口を形成する。
【0037】
壁体14L,14Uは、壁体11L,11Uと同じ高さおよび同じ壁厚を有して平面視で略L字形状のモルタル製の壁であって、外壁Wの周方向で中央部に室内側から見て外側となる一方側へ膨出する略半円形の膨出部1a4L,1a4Uを備えている。
【0038】
また、下層壁WLの一部を形成する壁体14Lは、左端の上方側に矩形の切欠部1f3Lを備えている。壁体14Lにおける膨出部1a4Lよりも右側の長さは、壁体14Lの上方に積層される壁体14Uの膨出部1a4Uよりも右側の長さよりも短い。上層壁WUの一部を形成する壁体14Uは、左端の下方側に矩形の切欠部1f4Uを備えるとともに、右端の下方側に矩形の切欠部1g4Uを備えている。
【0039】
さらに、壁体14L,14Uは、膨出部1a4L,1a4Uの周方向の両側に上下方向に貫通する通し孔1b4L,1b4Uと、周方向の左端に設けられて突出する突出部1c4L,1c4Uと、基端が膨出部1a4L,1a4Uを形成している壁の肉厚に対して挿入されて固定されるとともに先端が膨出部1a4L,1a4U内に突出する複数の鉄筋1e4L,1e4Uとを備えている。なお、壁体14Lの右端には、突出部がもうけられていないが、壁体14Uの右端には、突出部1d4Uが設けられている。
【0040】
膨出部1a4L,1a4Uは、平面視で中心角が270度の扇の弧と略同じ形状となっており、外側に向けて膨出して室内側に後述する鉄骨柱3を収容する凹部を形成している。膨出部1a4L,1a4Uには、壁体11L,11Uと同様に、所定の位置に合計6本のL字状の鉄筋1e4L,1e4Uが膨出部1a4L,1a4Uの室内側へ向けて放射状に突出するように設置されている。また、壁体14Lの上方に壁体14Uを積層すると、膨出部1a4Lの上に膨出部1a4Uが正対して重なって壁体14L,14Uの室内側に一続きの凹部が形成される。鉄筋1e4L,1e4Uは、鉄筋1e1L,1e1Uと同様にL字状とされているが、前述したC形状とされてもよい。
【0041】
通し孔1b4L,1b4Uは、壁体14L,14Uを上下に貫いており、壁体14L,14Uに対して同じ位置に設けられている。よって、壁体14L,14Uを上下に重ねると通し孔1b4L,1b4U同士が互いに連通されて、膨出部1a4L,1a4Uを挟んで壁体14L,14Uを上下に貫く一対の縦孔を形成する。
【0042】
突出部1c4L,1c4Uは、壁体14L,14Uの左端の切欠部1f4L,1f4Uを除き、外側寄りに壁体14L,14Uの外面と面一となるように設けられて壁厚の1/3程度の厚さで左端から垂直に突出している。突出部1d4Uは、壁体14L,14Uの右端の切欠部1g4Uを除き、内側寄りに壁体14L,14Uの内面と面一となるように設けられて壁厚の1/3程度の厚さで右端から垂直に突出している。
【0043】
切欠部1f4Lは、下層壁WLの一部を形成する壁体14Lの左端の上方側の角を切り取る矩形の切欠となっている。切欠部1f4Uは、上層壁WUの一部を形成する壁体14Uの左端の下方側の角を切り取る矩形の切欠となっており、切欠部1f4Lと同じ幅で形成されている。よって、壁体14Lの上方に壁体14Uを積層すると、切欠部1f4L,1f4Uが互いに連通されて、積層された壁体14L,14Uの左端に1つの矩形の開口を形成する。
【0044】
また、下層壁WLの一部を形成する壁体14Lの膨出部1a4Lよりも右側の長さは、上層壁WUの一部を形成する壁体14Uの膨出部1a4Uよりも切欠部1g4Uの幅と突出部1d4Uとの合計長さ分だけ短くなっている。よって、壁体14Lの上方に壁体14Uを積層すると、壁体14Lの右端と切欠部1g4Uの右端とが面一となって、壁体14L,14Uの右端に下方が開放される1つの矩形の開口を形成する。
【0045】
壁体15L,15Uは、壁体11L,11Uと同じ高さおよび同じ壁厚を有したモルタル製の壁であって、外壁Wの周方向で中央部に室内側から見て外側となる一方側へ膨出する略半円形の膨出部1a5L,1a5Uを備えるとともに、平面視で膨出部1a5L,1a5Uの周方向の右側が直線状に形成されるとともに、膨出部1a5L,1a5Uの周方向の右側が壁体16L,16Uと同じ曲率で湾曲する円弧状に形成されている。
【0046】
また、下層壁WLの一部を形成する壁体15Lにおける膨出部1a4Lよりも左側の長さは、壁体15Lの上方に積層される壁体15Uの膨出部1a5Uよりも左側の長さよりも短い。また、上層壁WUの一部を形成する壁体15Uは、左端の下方側に矩形の切欠部1f5Uを備えている。下層壁WLの一部を形成する壁体15Lは、左端の下方側に矩形の切欠部1f2Uを備えている。
【0047】
さらに、壁体15L,15Uは、膨出部1a5L,1a5Uの周方向の両側に上下方向に貫通する通し孔1b5L,1b5Uと、周方向の右端に設けられて突出する突出部1d5L,1d5Uと、基端が膨出部1a5L,1a5Uを形成している壁の肉厚に対して挿入されて固定されるとともに先端が膨出部1a2L,1a2U内に突出する複数の鉄筋1e2L,1e2Uとを備えている。なお、壁体15Lの左端には、突出部がもうけられていないが、壁体15Uの左端には、突出部1c5Uが設けられている。
【0048】
膨出部1a5L,1a5Uは、平面視で円弧状であって外側に向けて膨出して室内側に後述する鉄骨柱3を収容する凹部を形成している。膨出部1a5L,1a5Uには、壁体11L,11Uと同様に、所定の位置に合計6本のL字状の鉄筋1e5L,1e5Uが膨出部1a5L,1a5Uの室内側へ向けて放射状に突出するように設置されている。また、壁体15Lの上方に壁体15Uを積層すると、膨出部1a5Lの上に膨出部1a5Uが正対して重なって壁体15L,15Uの室内側に一続きの凹部が形成される。鉄筋1e5L,1e5Uは、鉄筋1e1L,1e1Uと同様にL字状とされているが、前述したC形状とされてもよい。
【0049】
通し孔1b5L,1b5Uは、壁体15L,15Uを上下に貫いており、壁体15L,15Uに対して同じ位置に設けられている。よって、壁体5L,15Uを上下に重ねると通し孔1b5L,1b5U同士が互いに連通されて、膨出部1a5L,1a5Uを挟んで壁体15L,15Uを上下に貫く一対の縦孔を形成する。
【0050】
突出部1c5Uは、壁体15Uの左端の切欠部1f4Uを除き、外側寄りに設けられて壁厚の1/3程度の厚さで壁体15Uの左端から垂直に突出している。突出部1d5L,1d5Uは、壁体15L,15Uの右端の内側寄りに設けられて壁厚の1/3程度の厚さで壁体15L,15Uの右端から垂直に突出している。また、突出部1d5L,1d5Uは、平面視で壁体15L,15Uの膨出部1a5L,1a5Uの右側と同じ曲率で突出している。
【0051】
切欠部1f5Uは、上層壁WUの一部を形成する壁体15Uの左端の下方側の角を切り取る矩形の切欠となっている。また、下層壁WLの一部を形成する壁体15Lの膨出部1a5Lよりも左側の長さは、上層壁WUの一部を形成する壁体15Uの膨出部1a5Uよりも切欠部1f5Uの幅と突出部1c5Uとの合計長さ分だけ短くなっている。よって、壁体15Lの上方に壁体15Uを積層すると、壁体15Lの右端と切欠部1f5Uの左端とが面一となって、壁体15L,15Uの左端に下方が開放される1つの矩形の開口を形成する。
【0052】
なお、各壁体1における鉄筋1eは、壁体1に対して6本ずつ設けられているが、1つの壁体1に対する鉄筋1eの設置数は任意に変更できる。また、上層壁WUを形成する各壁体11U,12U,13U,14U,15U,16Uは、下層壁WLにおける対応する各壁体11L,12L,13L,14L,15L,16L上にクレーン等を利用して積み重ねられることになるので、クレーン側の吊り具による支持を可能とするために壁体11U,12U,13U,14U,15U,16Uに埋め込まれて壁外へ突出する鉄筋等を複数個所に設置しておくとよい。吊り下げに利用される鉄筋等は、外壁Wの完成後に切除すればよい。
【0053】
このように構成された各壁体1は、3Dプリンタによって造形されて制作される。3Dプリンタ100は、
図5に示すように、モルタルが投入されるホッパ101と、モルタルの射出が可能なノズル102と、ホッパ101とノズル102とを接続する配管103と、配管103の途中に設けられてホッパ101内のモルタルをノズル102へ搬送するポンプ104と、ノズル102を前後左右および上下へ駆動させる駆動装置105と、ノズル102の開閉、ポンプ104および駆動装置105を制御するコントローラ106とを備えている。
【0054】
ホッパ101内に投入されるモルタルは、3Dプリンタ100による造形に適するようにノズル102から射出されると自立し、速効性を有するのが好ましい。また、壁体1は、モルタルによって製作されているが、モルタル以外にも例えばセメントペーストやコンクリートといった種々のセメント系混合流体とされればよい。混合流体が高いチキソトロピー性を備えていると、3Dプリンタ100による良好な混合流体の射出と、射出後の混合流体の自立性を満足できる。よって、セメント系混合流体は、高チキソトロピー性を備えているとよい。
【0055】
セメント系混合流体にて速硬性を得るには、早強材、セメント硬化促進剤の添加、急結剤を使用すればよく、3Dプリンタ100から混合流体を吐出するまでの間、混合流体が所定の流動性を維持できるようにクエン酸、酒石酸、グルコン酸およびリンゴ酸等のオキシカルボン酸またはそれらの塩等といった凝結遅延剤をセメントを含む粉体に混合するとよい。
【0056】
また、セメント系混合流体を混合して製造する際に、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維やアラミド繊維等の合成樹脂繊維を針状に形成した短長繊維や、鋼繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、炭素繊維等の無機繊維を補強材としてセメントに混合してもよい。
【0057】
ノズル102は、詳しくは図示しないが、モルタルを射出する射出口と、射出口を開閉するシャッタ或いはバルブを備えており、コントローラ106によって開閉動作が制御される。配管103は、壁体1の造形中に駆動装置105によってノズル102が前後左右および上下に移動するので、ノズル102の可動域内での移動を許容するために少なくとも一部にフレキシブルな部分を備えている。なお、配管103は、全体がフレキシブルな配管であってもよい。
【0058】
ポンプ104は、詳しくは図示しないが、モータによって駆動されるとホッパ101内に投入されるモルタルを吸い込んでノズル102へ向けて吐出する。ポンプ104は、たとえば、スクリューポンプとされるが、吐出量が安定しているポンプの利用が好ましい。ポンプ104は、コントローラ106によって駆動が制御されており、壁体1の造形に当たり所定流量のモルタルをノズル102へ吐出する。
【0059】
駆動装置105は、詳しくは図示しないが、立方格子状のフレームと、ノズル102を保持する保持部と、フレームに取り付けられて保持部の前後、左右および上下への移動を案内するガイド装置と、保持部を前後方向、左右方向および上下方向へ駆動する3つのモータとを備えており、コントローラ106の指令によってノズル102を前後左右および上下へ移動させる。
【0060】
このように構成された3Dプリンタ100では、印刷しようとする壁体1の3次元形状をモデリングしたデータをコントローラ106に入力すると、コントローラ106は、壁体1の3次元形状を上下方向の薄い層に分割し、分割された各層の2次元データを得て、各層毎の印刷経路を求めて壁体1の印刷手順を作成する。そして、コントローラ106は、ポンプ104を駆動してノズル102へモルタルを供給し、得られた印刷手順通りに前記駆動装置105を駆動して、ノズル102を移動させつつ開閉制御してモルタルを射出する。3Dプリンタ100は、初めに、造形物の2次元データに対応した壁体1の最下層を型枠を用いること無く形成する。3Dプリンタ100は、最下層の印刷が完了すると、引き続き、その上に重ねられる層を前述と同じ手順で形成する。3Dプリンタ100による壁体1の造形が進み所定の層数の印刷が完了すると、3Dプリンタ100による印刷を停止して、完了した層の壁体1の膨出部1aの部分に2本の鉄筋1eのL字部分が埋め込まれるように載せて各鉄筋1eの先端が放射状に膨出部1a内に突出するように配置する。そして、3Dプリンタ100の印刷を再開して、それまで完了した層の上に、引き続き、その上に重ねられる層を前述と同じ手順で形成して所定の層数の印刷が完了すると、再度、3Dプリンタ100による印刷を停止して、完了した層の壁体1の膨出部1aの部分に鉄筋1eを放射状に乗せる。3Dプリンタ100は、前記した手順を繰り返して壁体1の製作に必要な全部の層を印刷する。このように全部の層の印刷が完了すると、壁体1の製作が完了して、鉄筋1eが膨出部1aに埋め込まれた壁体1が得られる。
【0061】
3Dプリンタ100は、前述したように、壁体1の3次元形状を上下方向の薄い層に分割し、分割した層毎に造形することにより壁体1を印刷するので、壁体1は完成後に単独で自立することができる。
【0062】
つづいて、完成した壁体1を用いて建築物Bを建築する手順について説明する。まず、地業工事が完了した地盤Gに壁体1で形成される外壁Wを載置する基礎Fを打設する。基礎Fは、図示はしないが、配筋された型枠内にコンクリートを打設して形成される。
図1に示すように、基礎Fは、外壁Wを支持するため少なくとも平面視で外壁Wの下面の当接が可能であって、各壁体1の膨出部1aで形成される凹部内に立設される鉄骨柱3を支持できる形状に形成されており、鉄骨柱3が立設される部分には図示はしないが鉄骨柱3の下端に設けたフランジ3aの連結を可能とするアンカーボルトが埋め込まれている。
【0063】
基礎Fの制作が完了した後、鉄骨柱3の基礎Fへの立設に先立って、3Dプリンタ100によって予め制作した壁体1を基礎F上に設置する。まず、基礎Fの上面の外壁Wが載置される部分にモルタルを敷き、その上から、
図6に示すように、下層壁W
Lの6個の壁体1
1L,1
2L,1
3L,1
4L,1
5L,1
6Lを周方向に並べて外壁Wにおける下層壁W
Lを組み立てる。壁体1
1L,1
2L,1
3L,1
4L,1
5L,1
6Lは単独で自立するので、基礎F上に載置した後は何ら支持しなくても自立して6個の壁体1で下層壁W
Lが形成される(外壁形成工程)。なお、本実施の形態のように、外壁Wが下層壁W
Lと上層壁W
Uとで構成されている場合、鉄骨柱設置工程に先んじて行われる外壁形成工程は、壁体Wのうち下層壁W
Lのみを組み立てる工程とされてもよい。
【0064】
隣り合う下層壁WLにおける壁体1,1同士は、所定の隙間を空けて周方向に並べて設置され、隣接する壁体1の突出部1cと突出部1dは、室内側から見て内側と外側で互い違いになるように設けられているので、互いに干渉することなく、壁体1を貫く方向で突出部1cと突出部1dとが対向する。よって、隣り合う壁体1,1同士の間には、それぞれ、平面視でクランク状の隙間が形成される。
【0065】
隣り合う壁体1,1の間のクランク状の隙間には、
図1に示すように、ロックウール8が充填されており、一方の壁体1の端部と他方の壁体1の突出部1cとの間および一方の壁体1の突出部1dと他方の壁体1の端部との間は、コーキング材5を充填してシールされる。このように隣り合う壁体1,1の間の隙間には、柔軟性を有するロックウール8とコーキング材5とでなる充填物が充填されているので、地震動によって建築物Bが振動した際に隣り合う壁体1,1同士が独立に振動することが許容されるため、壁体1で形成される外壁Wのひび割れや破損を抑制できる。なお、充填物としてロックウール8に代えてグラスウールを使用してもよいし、他にもゴム等の弾性を備えた材を充填物としてもよい。
【0066】
なお、壁体12Lと壁体13Lとが隣り合うと、切欠部1g2Lと切欠部1f3Lとが互いに連通されて両者の間に矩形の開口部が形成され、壁体12Lと壁体13Lとの間では、壁体12Lの突出部1d2Lと壁体13Lの突出部1c3Lとの間のクランク状の隙間のみにロックウール8とコーキング材5とでなる充填物が充填される。また、壁体13Lと壁体14Lとが隣り合うと、切欠部1g3Lと切欠部1f4Lとが互いに連通されて両者の間に矩形の開口部が形成され、壁体13Lと壁体14Lとの間では壁体13Lの突出部1d3Lと壁体14Lの突出部1c4Lとの間のクランク状の隙間のみにロックウール8とコーキング材5とでなる充填物が充填される。壁体14Lの膨出部1a4Lよりも右側部分の長さは壁体14Uの膨出部1a4Uよりも右側部分の長さよりも短く、壁体15Lの膨出部1a5Lの左側の長さは壁体15Uの膨出部1a5Uよりも右側の長さよりも短いため、壁体14Lと壁体15Lとが隣り合うと、壁体14Lの右端と壁体15Lの左端とが大きく離間して開口を形成するので、壁体14Lの右端と壁体15Lの左端との間には充填物が充填されない。
【0067】
このように、6個の壁体1
1L,1
2L,1
3L,1
4L,1
5L,1
6Lを基礎F上に設置して下層壁W
Lの組立を完了した後、
図7に示すように、各壁体1の6箇所の膨出部1aで室内側に形成される凹部内にそれぞれ配置される6本の鉄骨柱3を基礎F上に立設する(鉄骨柱設置工程)。具体的には、各鉄骨柱3は、下端にフランジ3aを備えており、各壁体1の6箇所の膨出部1aにおける凹部内に基礎Fに埋め込まれたアンカーボルトにフランジ3aを連結して基礎Fに固定されて立設される。
【0068】
このようにして下層壁W
Lの室内側に6本の鉄骨柱3を立設した後、
図8に示すように、外壁Wにおける下層壁W
Lを型枠として利用して、下層壁W
L内の地盤Gにコンクリートを打設してコンクリート床2を形成する(コンクリート床形成工程)。なお、本実施の形態では、壁体1
4Lの右端と壁体1
5Lの左端との間に開口を設けているので、壁体1
4Lの右端と壁体1
5Lの左端との間からコンクリートが逃げないように堰を設けておけばよい。なお、壁体1
4Lの右端の下方と壁体1
5Lの左端の下方とを延長して開口の下方に型枠として利用可能な壁を形成する場合、前記した堰の設置は不要である。
【0069】
このように壁体1を並べて外壁Wを形成すると、外壁Wはそれぞれ自立する壁体1によって構成されており、壁体1がモルタルで形成されており外壁Wを基礎Fと同じ取り扱いをしてもよいので、コンクリート床2を形成するための型枠として利用できる。また、型枠の設置をせずともコンクリート床2を形成でき、型枠の設置作業及び解体作業が不要となるので、工期を削減できる。
【0070】
コンクリート床2の打設が完了すると、完成している下層壁W
Lの各壁体1の通し孔1bに壁体接続用鉄筋6を差し込んでおき、通し孔1b内にモルタル7を充填するとともに、下層壁W
Lの上端にモルタルを敷く。壁体接続用鉄筋6は、下層の壁体1に上層の壁体1を積層した際に連通される通し孔1b,1bの全長に亘って挿通される長さを有している。そして、
図9に示すように、壁体1
1L,1
2L,1
3L,1
4L,1
5L,1
6Lの上方にそれぞれ対応する上層壁W
Uの壁体1
1U,1
2U,1
3U,1
4U,1
5U,1
6Uをクレーン等で吊り上げて積層していく。壁体接続用鉄筋6が上層の各壁体
1U,1
2U,1
3U,1
4U,1
5U,1
6Uの通し孔1b
1U,1b
2U,1b
3U,1b
4U,1b
5U,1b
6U内に壁体接続用鉄筋6が挿入されるように、上層の壁体1
1U,1
2U,1
3U,1
4U,1
5U,1
6Uをそれぞれ対応する下層の壁体1
1L,1
2L,1
3L,1
4L,1
5L,1
6Lの真上から位置合わせしつつ下降させて積層する。上層の壁体1
1U,1
2U,1
3U,1
4U,1
5U,1
6Uを下層の壁体1
1L,1
2L,1
3L,1
4L,1
5L,1
6Lへ積層したら、上層の壁体1
1U,1
2U,1
3U,1
4U,1
5U,1
6Uの通し孔1b
1U,1b
2U,1b
3U,1b
4U,1b
5U,1b
6Uにモルタル7を流し込んで充填する。
【0071】
また、上層の壁体1,1の端部同士の間には、突出部1c,1dの突合せによってクランク状の隙間が形成されるので、当該クランク状の隙間には、ロックウール8とコーキング材5とでなる充填物が充填される。
【0072】
このように下層壁WLの上方に上層壁WUが積層されて外壁Wが形成されると、下層壁WLの壁体1と上層壁WUの壁体1とが壁体接続用鉄筋6によって連結されるので、強固に上下の壁体1,1が連結される。
【0073】
そして、外壁Wの完成後に6本の鉄骨柱3の上端に鉄骨梁4を架け渡して鉄骨柱3と鉄骨梁4とで建築物Bの骨組に当たる構造体を形成し、構造体が完成した後に各壁体1の膨出部1aに埋め込まれた鉄筋1eを同じ膨出部1a内に配置される鉄骨柱3に溶接によって固定する(緊結工程)。すると、外壁Wを構成する各壁体1は、自身の膨出部1a内に配置された鉄骨柱3に緊結される。このように、外壁Wが建築物Bの構造体を成す鉄骨柱3に緊結されて一体化されて建築物Bは鉄骨造と同様の構造を備えるので、外壁Wの引張強度不足を鉄骨柱3で補って堅固な建築物Bを得ることができる。
【0074】
外壁Wと鉄骨柱3との緊結が終了した後は、図示はしないが、鉄骨梁4上に天井スラブを形成して、屋根の仕上げ工事を行う。なお、本実施の形態では、建築物Bは、一階層のみで構成されているが、二階層以上にする場合には、一階層目の外壁Wの組み立て方と同様の手順で、外壁Wの上方に上層階の外壁を成す壁体1を積層して、鉄骨柱3の上方にさらに鉄骨柱3と鉄骨梁4を組み上げて鉄骨柱3に壁体1を緊結するようにすればよい。また、建築物Bが複数階層を備えている場合、鉄骨柱設置工程に先んじて行われる外壁形成工程は、壁体Wのうち最下層のみ或いは最下層の外壁Wが下層壁WLと上層壁WUとで構成されている場合には下層壁WLのみを組み立てる工程とされてもよく、壁体Wのうち最下層のみ或いは最下層の外壁Wが下層壁WLと上層壁WUとで構成されている場合には下層壁WLのみを組み立てる工程を含む概念である。建築物Bが複数階層を備えている場合、本発明における鉄骨柱設置工程は、最下層における鉄骨柱3を設置する工程を指している。
【0075】
本実施の形態の建築物Bの建築にあたり、外壁Wを構成する壁体1が自立するため、壁体1を支える鉄骨柱3の基礎Fへの設置を待たず、壁体1を基礎F上に載置できる。つまり、本実施の形態の建築物Bでは、基礎Fへの鉄骨柱3の設置に先んじて、外壁Wを構成する壁体1を基礎F上に設置してから鉄骨柱3と壁体1とを緊結することで鉄骨造の建築物を実現できるので、壁体1の基礎Fへの設置に際して鉄骨柱3が邪魔になることがない。
【0076】
そして、本実施の形態では、外壁Wの組立が完了すると壁体12L,12U,13L,13Uに切欠部1f2L,1f2U,1f3L,1f3Uによって矩形の窓開口が形成され、壁体13L,13U,14L,14Uに切欠部1g3L,1g3U,1f4L,1f4Uによって矩形の窓開口が形成され、壁体14L,15Lの端部同士の間および壁体14U,15Uの切欠部1g4U,1f5Uによって矩形の出入り口が形成される。
【0077】
そして、建築物Bの屋根の仕上げが完了した後、前述の窓開口には図外の窓枠と、障子が設置されて窓が設置されて、出入り口には扉枠と扉が設置される。っ引き続き、建築物B内の内装工事が行われる。
【0078】
なお、前述したところでは、下層壁WLの設置後に鉄骨柱3を基礎Fに立設してコンクリート床2を打設しているが、鉄骨柱3が外壁Wの組立に邪魔になる場合には、1階層目の外壁Wを構成する壁体1の全部を組み立てた後に、鉄骨柱3を外壁W内に立設してコンクリート床2を打設してもよい。また、外壁Wと鉄骨柱3の緊結の工程は、コンクリート床2の打設前でもよいし、下層壁WLの壁体1と鉄骨柱3の緊結が終了後に上層壁WUの壁体1の積層を行って上層壁WUの鉄骨柱3への緊結を行ってもよい。また、外壁Wと鉄骨柱3との緊結は、外壁Wの壁体1に埋め込んだ鉄筋1eを鉄骨柱3へ溶接することによって行っているので、壁体1から突出する鉄筋1eを折り曲げるなどして鉄骨柱3と位置合わせできるため、壁体1の位置の多少のずれを許容でき、建築現場で柔軟な対応が可能となる。なお、鉄筋1eの利用の他にも、壁体1のアンカーボルトを埋め込んで、鉄骨柱3にアンカーボルトに連結可能なブラケットを設けてアンカーボルトによる緊結を採用してもよい。
【0079】
以上、本実施の形態の建築物Bは、3Dプリンタ100により射出されるセメント系混合流体によって造形されて自立可能な複数の壁体1で形成されて地盤Gに設置された基礎F上に載置される外壁Wと、外壁Wの内側に立設されて基礎Fに連結される複数の鉄骨柱3とを備え、壁体1は3Dプリンタ100による造形中に埋め込まれるとともに鉄骨柱3に緊結される複数の鉄筋1eを備えている。
【0080】
このように構成された建築物Bによれば、壁体1が3Dプリンタ100によって造形されて自立するので、基礎F上への鉄骨柱3の設置に先行して外壁Wを構成する壁体1を基礎F上に設置でき、壁体1に設置した鉄筋1eを利用して後から鉄骨柱3と緊結できる。このように、本実施の形態の建築物Bによれば、鉄骨柱3に邪魔されずに壁体1を基礎Fに設置できるから、複雑な形状の外壁Wの採用が可能となり、3Dプリンタ100によって製作した外壁Wを利用しても鉄骨造の建築物を実現できる。よって、本実施の形態の建築物Bによれば、3Dプリンタ100を利用して外壁Wを制作するメリットを享受でき安価かつ短時間で鉄骨造の建築物Bを建築することができる。また、本実施の形態の建築物Bによれば、外壁Wが建築物Bの構造体を成す鉄骨柱3に緊結されて一体化され、建築物Bは鉄骨造と同様の構造を備えるので、外壁Wの引張強度不足を鉄骨柱3で補って堅固になる。
【0081】
さらに、本実施の形態の建築物Bにおける壁体1は、外壁Wの外側へ向けて膨出して内側に鉄骨柱3を収容する膨出部1aを備え、鉄筋1eは、膨出部1aに埋め込まれて凹部内に突出している。このように構成された建築物Bによれば、膨出部1aの室内側の凹部に鉄骨柱3を収容でき、当該凹部内で鉄骨柱3と鉄筋1eとを緊結できるので、外壁Wで囲われる室内で鉄骨柱3や鉄筋1eが邪魔にならず、室内空間を広く確保できる。なお、壁体1は、膨出部1aを備えていることによって室内空間を広くできるが、膨出部1aを備えていなくともよい。
【0082】
また、本実施の形態の建築物Bでは、外壁Wが壁体1を上下に重ねて形成される部分を有し、壁体1は、上下方向に貫通する通し孔1bを有し、下層の壁体1の通し孔1bと、下層の壁体1の上方に積層された上層の壁体1の通し孔1bとが互いに上下に連通されており、通し孔1b,1b内に挿通される壁体接続用鉄筋6と、通し孔1b,1b内に充填されたモルタル7とを備えている。このように構成された建築物Bによれば、上方に壁体1を積層して連結することで外壁Wを高くできるとともに、3Dプリンタ100によって造形された壁体1同士を壁体接続用鉄筋6によって連結するので上下方向に積層される壁体1,1の引張強度を向上できる。なお、外壁Wを構成する壁体1は、上下に分割されて壁体接続用鉄筋6によって補強されると強度を向上できるが、下層の壁体1と上層の壁体1とが3Dプリンタ100で一体に制作されてもよい。よって、外壁Wは、水平方向に並べられる壁体1のみによって形成されてもよい。
【0083】
そして、本実施の形態の建築物Bは、外壁Wにおける水平方向で隣り合う壁体1間に壁体1,1同士の相対移動を許容するとともに壁体1,1間の隙間を埋めるロックウール(充填物)8およびコーキング材(充填物)5を備えている。このように構成された建築物Bによれば、地震動によって建築物Bが振動した際に隣り合う壁体1,1同士が独立に振動することが許容されるため、壁体1で形成される外壁Wのひび割れや破損を抑制できる。なお、壁体1,1間の隙間をモルタルで埋めて周方向に並べられる壁体1,1同士を固定的に連結してもよい。
【0084】
また、本実施の形態の建築方法は、3Dプリンタ100により射出されるセメント系混合流体によって造形されて自立可能であって複数の鉄筋1eを有する壁体1を地盤Gに設置された基礎F上に載置して外壁Wを形成する外壁形成工程と、外壁形成工程によって形成された外壁Wの内側に鉄骨柱3を基礎F上に立設する鉄骨柱設置工程と、鉄骨柱3に壁体1に予め埋め込まれた鉄筋1eを緊結する緊結工程とを含んでいる。
【0085】
このように構成された建築物Bの建築方法は、3Dプリンタ100によって造形されて自立する壁体1を基礎F上に載置した後に、基礎Fへ鉄骨柱3を立設させるので、鉄骨柱3に邪魔されずに壁体1を基礎Fに設置できるとともに、鉄骨柱3の設置に先行して基礎F上に載置した壁体1に設置した後、鉄筋1eを利用して鉄骨柱3と外壁Wとを緊結できる。このように、本実施の形態の建築方法によれば、鉄骨柱3に邪魔されずに壁体1を基礎Fに設置できるから、複雑な形状の外壁Wの採用が可能となり、3Dプリンタ100によって製作した外壁Wを利用しても鉄骨造の建築物を実現できる。よって、本実施の形態の建築物Bによれば、3Dプリンタ100を利用して外壁Wを制作するメリットを享受でき安価かつ短時間で鉄骨造の建築物Bを建築することができる。また、本実施の形態の建築物Bによれば、外壁Wが建築物Bの構造体を成す鉄骨柱3に緊結されて一体化され、建築物Bは鉄骨造と同様の構造を備えるので、外壁Wの引張強度不足を鉄骨柱3で補って堅固になる。
【0086】
また、本実施の形態の建築物Bは、3Dプリンタ100により射出されるセメント系混合流体によって造形されて自立可能な複数の壁体1で形成されて地盤Gに設置された基礎F上に載置される外壁Wと、外壁Wの内側の地盤上に外壁Wを型枠にして打設されるコンクリートで形成されるコンクリート床2とを備えている。このように構成された建築物Bによれば、自立する壁体1を並べて外壁Wを形成しており、セメント系混合流体が固化して壁体1が形成されるので外壁Wを基礎Fと同じ取り扱いをしてもよいので、外壁Wをコンクリート床2を形成するための型枠として利用できる。よって、本実施の形態の建築物Bによれば、型枠の設置をせずともコンクリート床2を形成でき、型枠の設置作業及び解体作業が不要となるので建築に係る人工の低減と工期の短縮が可能となる。
【0087】
また、本実施の形態における壁体1は、3Dプリンタ100によって射出されるセメント系混合流体によって造形され、水平方向の途中に幅方向の一方側へ向けて膨出するとともに幅方向の他方側に凹部を形成する膨出部1aを備えている。このように壁体1が膨出部1aを備えることで、壁体1の壁厚が薄くても自立性が向上して安定して基礎F上に設置できるとともに、壁体1の形状の設計自由度が向上するので、外壁Wの形状の設計自由度も向上する。なお、前述したところでは、膨出部1aの壁体1に対する設置位置は、壁体1の水平方向で中央となっているが、これに限られず壁体1に対して任意に位置を変更できるとともに1つの壁体1に対して複数の膨出部1aを設けることもできる。
【0088】
さらに、本実施の形態における壁体1は、膨出部1aによって形成される凹部内に突出する複数の鉄筋1eを備えているので、凹部内に立設される鉄骨柱3に鉄筋1eを利用して緊結することで鉄骨造の建築物Bを実現できるとともに、鉄筋1eを折り曲げるなどして鉄骨柱3と位置合わせできるため、壁体1の位置の多少のずれを許容でき、建築現場で柔軟な対応が可能となる。
【0089】
また、本実施の形態の建築方法は、3Dプリンタ100により射出されるセメント系混合流体によって造形されて自立可能な複数の壁体1を地盤Gに設置された基礎F上に並べて設置して外壁Wを形成する外壁形成工程と、外壁形成工程によって形成された外壁Wを型枠として利用して外壁Wの内側にコンクリートを打設してコンクリート床2をするコンクリート床形成工程とを含んでいる。このように構成された建築方法によれば、自立する壁体1を並べて外壁Wを形成して、外壁Wをコンクリート床2を形成するための型枠として利用するので、型枠の設置をせずともコンクリート床2を形成でき、型枠の設置作業及び解体作業が不要となるので建築に係る人工の低減と工期の短縮が可能となる。
【0090】
さらに、本実施の形態の建築方法は、外壁形成工程によって形成された外壁Wの内側に鉄骨柱3を基礎F上に立設する鉄骨柱設置工程と、鉄骨柱3に壁体1に予め埋め込まれた鉄筋1eを緊結する緊結工程とを含んでいる。このように構成された建築方法によれば、外壁Wが建築物Bの構造体を成す鉄骨柱3に緊結されて一体化されて建築物Bが鉄骨造と同様の構造を備えるので、外壁Wの引張強度不足を鉄骨柱3で補って建築物Bを堅固にできる。
【0091】
なお、前述した建築物Bでは、外壁Wの内側の室内に部屋を仕切る壁体が設けられていないが、室内をいくつかの部屋に区切りたい場合には図示しない仕切壁を設置してもよく、構造上の強度確保のために室内にも鉄骨柱を立設して当該鉄骨柱を鉄骨梁で他の鉄骨柱3と連結して構造体を形成してもよい。また、仕切壁は、3Dプリンタ100で射出されるセメント系混合流体で制作されてもよく、基礎F上に配置されてコンクリート床2を形成するための型枠として利用されてもよい。
【0092】
なお、壁体1の形状は、3Dプリンタ100で制作されて自立できればよいので任意に設計変更でき、前述したように膨出部1aを備えていなくてもよいし、1つの壁体1に複数の膨出部1aを設けてもよい。
【0093】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
1,11L,12L,13L,14L,15L,16L,11U,12U,13U,1UL,15U,16U・・・壁体、1a1L,1a2L,1a3L,1a4L,1a5L,1a6L,1a1U,1a2U,1a3U,1aUL,1a5U,1a6U・・・膨出部、1b1L,1b2L,1b3L,1b4L,1b5L,1b6L,1b1U,1b2U,1b3U,1bUL,1b5U,1b6U・・・通し孔、1e1L,1e2L,1e3L,1e4L,1e5L,1e6L,1e1U,1e2U,1e3U,1eUL,1e5U,1e6U・・・鉄筋、2・・・コンクリート床、3・・・鉄骨柱、4・・・ロックウール(充填物)、5・・・コーキング材(充填物)、6・・・壁体接続用鉄筋、7・・・モルタル、100・・・3Dプリンタ、F・・・基礎、G・・・地盤、W・・・外壁