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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025365
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】形状測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
G01B11/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128745
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207778
【弁理士】
【氏名又は名称】阿形 直起
(72)【発明者】
【氏名】田辺 綾乃
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA51
2F065DD02
2F065DD06
2F065FF49
2F065JJ26
2F065LL04
2F065LL31
2F065LL36
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により、高速な非接触形状測定を可能とする形状測定装置を提供する。
【解決手段】形状測定装置は、所定の方向に沿った直線偏光を出射する光源部と、所定の方向に対して45度の角をなす遅相軸を有し、直線偏光が透過した位置に応じて異なる大きさのリタデーションを直線偏光に付与する透過型複屈折素子と、透過型複屈折素子から出射した光を、付与されたリタデーションの大きさに応じて異なる方向の直線偏光に変換する1/4波長板と、透過軸の方向が異なる複数の画素偏光子を有し、各画素の値が、画素偏光子の透過軸の方向と、前記透過型複屈折素子によって付与されたリタデーションの大きさとの関係に応じた値となる画像を生成する偏光イメージセンサと、画像に基づいて対象物の形状を算出する算出部と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に沿った直線偏光を出射する光源部と、
前記所定の方向に対して45度の角をなす遅相軸を有し、前記光源部から出射した前記直線偏光を透過させるとともに、前記直線偏光が透過した位置に応じて異なる大きさのリタデーションを前記直線偏光に付与する透過型複屈折素子と、
前記所定の方向と平行なまたは直交する遅相軸を有し、前記透過型複屈折素子から出射した光を、前記付与されたリタデーションの大きさに応じて異なる複数の方向の直線偏光を含む直線偏光パターンを有する光に変換する1/4波長板と、
複数の画素と、各画素に対応して配置され、透過軸の方向が異なる画素偏光子とを有し、前記1/4波長板から出射して対象物で反射された光を受光して、各画素の値が、前記画素偏光子を透過した光に応じた値となる画像を生成する偏光イメージセンサと、
前記画像に含まれる同じ方向の透過軸を有する前記画素偏光子が設けられた画素の値に基づいて、前記対象物で反射された光の強度分布を示す所定数のパターン画像を生成し、前記所定数のパターン画像に基づいて前記対象物の形状を算出する算出部と、
を有することを特徴とする形状測定装置。
【請求項2】
前記所定数のパターン画像は、前記直線偏光パターンに含まれる直線偏光のうち、前記画素偏光子の透過軸の方向と対応した直線偏光の強度分布に対応する、
請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項3】
前記偏光イメージセンサの前記画素偏光子は、相互に隣接する所定数の画素を含む画素グループごとに、当該画素グループに含まれる各画素に対応する透過軸の方向が等角度間隔となるように配置される、
請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項4】
前記透過型複屈折素子は、前記光源部から出射した直線偏光が透過した位置に対して線形に変化する大きさのリタデーションを付与する、
請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項5】
前記1/4波長板から出射した光を前記対象物に導き、かつ前記対象物で反射された光を前記偏光イメージセンサに導く無偏光ビームスプリッタをさらに有する、
請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項6】
前記対象物に対向する対物レンズと、
前記1/4波長板と前記対物レンズとの間に配置され、前記透過型複屈折素子の複屈折層の像を所定の結像面に結像する結像レンズと、をさらに有し、
前記透過型複屈折素子は、前記結像面が前記対物レンズの焦点面とは異なる面となるように配置される、
請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項7】
前記透過型複屈折素子および前記1/4波長板を含み、前記光源部から出射した光を前記偏光イメージセンサに導く光学系と同軸であり、前記対象物を加工するための加工光を前記対象物に導く加工光学系をさらに有する、
請求項1に記載の形状測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物の三次元形状を測定する技術が知られている。特に、製品検査の分野においては、製品の品質に影響を及ぼさない非接触形状測定技術が用いられる。非接触形状測定技術は、製品にレーザ加工が施される場合に、加工と並行して形状を測定することができるという点において有用である。対象物の高さ方向の測定範囲に優れた非接触形状測定技術として、濃淡のパターンが異なる複数の光を投影した場合の対象物の画像をそれぞれ生成し、生成した画像に基づいて対象物の形状を算出するパターン投影法が知られている。
【0003】
非特許文献1には、反射型の空間光変調器と偏光イメージセンサとを用いて、濃淡のパターンが異なる四種類の光を投影した場合の対象物の画像を一度に生成する手法が記載されている。非特許文献1の手法によれば、投影する光を切り替えることなく複数の画像が生成されるため、測定が高速化される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yuuki Maeda, et al. (2020) Single shot 3D profilometry by polarization pattern projection. Applied Optics, vol. 59, No. 6, 1654-1659.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1の手法は反射型の空間光変調器を用いるため、光学系が大きくなり、既存の加工設備に対する導入が容易でないという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、簡易な構成により、高速な非接触形状測定を可能とする形状測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る形状測定装置は、所定の方向に沿った直線偏光を出射する光源部と、所定の方向に対して45度の角をなす遅相軸を有し、光源部から出射した直線偏光を透過させるとともに、直線偏光が透過した位置に応じて異なる大きさのリタデーションを直線偏光に付与する透過型複屈折素子と、所定の方向と平行なまたは直交する遅相軸を有し、透過型複屈折素子から出射した光を、付与されたリタデーションの大きさに応じて異なる複数の方向の直線偏光を含む直線偏光パターンを有する光に変換する1/4波長板と、複数の画素と、各画素に対応して配置され、透過軸の方向が異なる画素偏光子とを有し、1/4波長板から出射して対象物で反射された光を受光して、各画素の値が、画素偏光子を透過した光に応じた値となる画像を生成する偏光イメージセンサと、画像に含まれる同じ方向の透過軸を有する画素偏光子が設けられた画素の値に基づいて、対象物で反射された光の強度分布を示す所定数のパターン画像を生成し、所定数のパターン画像に基づいて前記対象物の形状を算出する算出部と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、所定数のパターン画像は、直線偏光パターンに含まれる直線偏光のうち、画素偏光子の透過軸の方向と対応した直線偏光の強度分布に対応することが好ましい。
【0009】
また、偏光イメージセンサの画素偏光子は、相互に隣接する所定数の画素を含む画素グループごとに、その画素グループに含まれる各画素に対応する透過軸の方向が等角度間隔となるように配置されることが好ましい。
【0010】
また、透過型複屈折素子は、光源部から出射した直線偏光が透過した位置に対して線形に変化する大きさのリタデーションを付与することが好ましい。
【0011】
また、形状測定装置は、1/4波長板から出射した光を対象物に導き、かつ対象物で反射された光を偏光イメージセンサに導く無偏光ビームスプリッタをさらに有することが好ましい。
【0012】
また、形状測定装置は、対象物に対向する対物レンズと、1/4波長板と対物レンズとの間に配置され、透過型複屈折素子の複屈折層の像を所定の結像面に結像する結像レンズと、をさらに有し、透過型複屈折素子は、結像面が対物レンズの焦点面とは異なる面となるように配置されることが好ましい。
【0013】
また、形状測定装置は、透過型複屈折素子および1/4波長板を含み、光源部から出射した光を偏光イメージセンサに導く光学系と同軸であり、対象物を加工するための加工光を対象物に導く加工光学系をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る形状測定装置は、簡易な構成により、高速な非接触形状測定を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】形状測定装置1の構成を説明するための模式図である。
図2】透過型複屈折素子33の模式的な分解斜視図である。
図3】透過型複屈折素子33および1/4波長板34を透過した光の偏光状態を説明するための模式図である。
図4】1/4波長板34を透過した光の偏光状態を説明するための模式図である。
図5】偏光イメージセンサ4の構成を説明するための模式図である。
図6】(A)は透過型複屈折素子33と対象物Tとが結像関係にある場合の形状測定装置1の模式図であり、(B)は透過型複屈折素子33と対象物Tとが結像関係にない場合の形状測定装置1の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の様々な実施形態について説明する。本発明の技術的範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る形状測定装置1の構成を説明するための模式図である。形状測定装置1は、対象物Tにレーザ加工を施すとともに、レーザ加工と並行して対象物Tの形状を測定する。形状測定装置1は、測定用光源2、測定光学系3、偏光イメージセンサ4、算出装置5、加工用光源6および加工光学系7を有する。なお、算出装置5は、算出部の一例である。
【0018】
測定用光源2は、例えばInGaN系のLED(Light Emitting Diode)またはNd-YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ等の発光素子である。測定用光源2は、対象物Tの形状を測定するための測定光を照射する。
【0019】
測定光学系3は、測定用光源2から出射した光を対象物Tに導くとともに、対象物Tで反射された光を偏光イメージセンサ4に導く。測定光学系3は、コリメートレンズ31、偏光子32、透過型複屈折素子33、1/4波長板34、無偏光ビームスプリッタ35、凸レンズ36、ダイクロイックミラー37および対物レンズ38を有する。なお、以下の説明では、対象物Tの測定面がx方向およびy方向を含む平面に平行となりかつz方向と直交するようにx方向、y方向およびz方向を定める。
【0020】
コリメートレンズ31は、測定用光源2から出射した光を略平行光として偏光子32へ向けて出射する。
【0021】
偏光子32は、所定の方向に沿った透過軸を有し、測定用光源2から出射してコリメートレンズ31を透過した光のうち、透過軸の方向に沿った偏光面をもつ偏光成分のみを透過させる。すなわち、偏光子32は、測定用光源2から出射した光を、所定の方向に沿った直線偏光に変換して出射する。以下では、所定の方向は、y方向およびz方向を含む平面内において、y方向およびz方向に対してそれぞれ45度の角をなす方向(すなわち、y方向とz方向との中間の方向)であるものとする。なお、測定用光源2、コリメートレンズ31および偏光子32は、所定の方向に沿った直線偏光を出射する光源部の一例である。
【0022】
透過型複屈折素子33および1/4波長板34は、偏光子32から出射した光を透過させるとともに、透過した光を、その透過位置に応じて異なる方向の直線偏光に変換する空間光変調器として機能する。透過型複屈折素子33および1/4波長板34の構成および機能は、図2図4を用いて後述する。
【0023】
1/4波長板34から出射した光は、無偏光ビームスプリッタ35で反射されて、対象物Tの方向であるz方向に進行する。
【0024】
無偏光ビームスプリッタ35から出射した光は、凸レンズ36、ダイクロイックミラー37および対物レンズ38を透過して、対象物Tの測定面で反射される。対象物Tの測定面で反射された光は、再び対物レンズ38、ダイクロイックミラー37、凸レンズ36を透過して、無偏光ビームスプリッタ35に入射する。無偏光ビームスプリッタ35を透過した光は、偏光イメージセンサ4に入射する。
【0025】
偏光イメージセンサ4は、各画素の値が入射した光に応じた値となる画像を生成する。算出装置5は、偏光イメージセンサ4に通信可能に接続されたPC(Personal Computer)等の情報処理装置である。算出装置5は、半導体メモリ等の記憶部およびCPU(Central Processing Unit)等の処理回路を備え、処理回路が記憶部に記憶されたプログラムを実行する。算出装置5の処理回路は、偏光イメージセンサ4が生成した画像に応じて所定数のパターン画像を生成し、生成したパターン画像に基づいて対象物Tの形状を算出する。偏光イメージセンサ4が生成する画像、算出装置5が生成するパターン画像および対象物Tの形状の関係は、図5を用いて後述する。
【0026】
加工用光源6は、例えばフェムト秒レーザ、CWファイバレーザまたはCO2レーザ等の、レーザ加工用の加工光を照射する発光素子である。加工光は、測定用光源2から出射される測定光とは異なる波長帯の光である。
【0027】
加工光学系7は、コリメートレンズ71並びに測定光学系3と共通のダイクロイックミラー37および対物レンズ38を有する。
【0028】
コリメートレンズ71は、加工用光源6から出射した加工光を略平行光としてダイクロイックミラー37へ向けて出射する。コリメートレンズ71から出射した加工光は、ダイクロイックミラー37で、対象物Tの方向であるz方向に反射される。すなわち、ダイクロイックミラー37は、測定光を透過し、かつ加工光を反射する。ダイクロイックミラー37で反射された加工光は、対物レンズ38を透過して対象物Tに到達する。
【0029】
加工用光源6およびコリメートレンズ71は、加工光学系7の光軸が、ダイクロイックミラー37の後において測定光学系3の光軸と一致するように配置される。すなわち、加工光学系7は、測定光学系3と同軸である。これにより、形状測定装置1は、加工が施された位置の形状をリアルタイムに測定することを可能とする。
【0030】
対象物Tは、その測定面が対物レンズ38の焦点面と同一面となり、かつ測定面上の点の像が偏光イメージセンサ4の撮像面に結像するように配置される。すなわち、対象物Tの測定面と偏光イメージセンサ4の撮像面とは、結像関係にある。また、透過型複屈折素子33は、その複屈折層上の点の像が対象物Tの測定面(すなわち、対物レンズ38の焦点面)に結像するように配置される。すなわち、透過型複屈折素子33の複屈折層と対象物Tの測定面とは、結像関係にある。
【0031】
図2は透過型複屈折素子33の分解斜視図である。透過型複屈折素子33は、第1透明基板331、第2透明基板332、第1電極333、第2電極334、第1配向膜335、第2配向膜336、封止部材337および液晶層338を有する。なお、液晶層338は複屈折層の一例である。
【0032】
第1透明基板331および第2透明基板332は、透光性を有する平板であり、例えばガラス板である。第1透明基板331および第2透明基板332は、相互に対向して配置される。
【0033】
第1電極333および第2電極334は、透光性の導電膜であり、例えばITO(Indium Tin Oxide)膜である。第1電極333は、第1透明基板331の、第2透明基板332に対向する面に配置されたベタ電極である。第1電極333は、その電位がVとなるように、不図示の電源に不図示の透明性の配線を介して接続される。
【0034】
第2電極334は、第2透明基板332の、第1透明基板331に対向する面に配置される。第2電極334は、同一の短冊形状を有する複数(N個)の部分電極334-1~334-Nを有する。図2に示す例では、第2電極334は18個の部分電極を有しているが、部分電極の数は18個に限られない。また、図2に示す例では、部分電極334-1~334-Nの延伸方向はz方向である。部分電極334-1~334-Nは、相互に離間して、第2透明基板332の、第1透明基板331に対向する面にこの順に等間隔に配置される。隣接する部分電極同士は、同一の抵抗値を有する、不図示の電気抵抗を介して接続される。部分電極334-1および部分電極334-Nは、その電位がそれぞれV1およびV2となるように、不図示の電源に不図示の透明配線を介して接続される。これにより、液晶層338には、電圧|V-V1|から電圧|V-V2|の範囲の、y方向に線形に変化する大きさの電圧が印加される。
【0035】
第1配向膜335および第2配向膜336は、透光性の薄膜であり、例えばポリイミドにより形成される。第1配向膜335および第2配向膜336は、第1電極333および第2電極334をそれぞれ覆うように配置される。第1配向膜335の第2配向膜336に対向する面、および第2配向膜336の第1配向膜335に対向する面には、多数の溝がそれぞれ形成される。溝の延伸方向は、所定の方向に対して45度の角をなす方向である。図2に示す例では、溝の延伸方向は、部分電極334-1~334-Nの延伸方向と直交するy方向である。
【0036】
封止部材337は、第1配向膜335および第2配向膜336の間に液晶層338を封止するように、第1透明基板331および第2透明基板332を接続する。封止部材337は、例えば樹脂または金属の接着剤である。
【0037】
液晶層338を構成する液晶は、ホモジニアス配向されたネマティック液晶であり、例えばシアノビフェニル系の液晶である。液晶層338に含まれる液晶分子は、第1配向膜335および第2配向膜336に形成された溝によって、分子長軸が溝の延伸方向となるように配向される。これにより、透過型複屈折素子33は、所定の方向に対して45度の角をなす遅相軸を有することとなる。図2に示す例では、透過型複屈折素子33はy方向の遅相軸を有する。液晶層338の厚さは、透過光に与えるリタデーションの大きさに応じて設定される。後述するように、液晶層338の厚さは、例えば、液晶分子がy方向に配向された状態で液晶層338を透過する光に付与されるリタデーションが720度以上となるように設定され、例えば10μmに設定される。
【0038】
図3は、透過型複屈折素子33および1/4波長板34を出射した光の偏光状態を説明するための模式図である。なお、図3はz方向から見た偏光子32、透過型複屈折素子33および1/4波長板34を模式的に示しているが、図3の偏光状態を示す矢印は、光の進行方向であるx方向から見た偏光状態を示す点に留意されたい。また、図3では、透過型複屈折素子33の第1配向膜335、第2配向膜336および封止部材337は省略されている。
【0039】
透過型複屈折素子33の部分電極334-1~334-Nは、上述したように、所定の範囲のy方向に線形に変化するそれぞれ異なる電位を有しており、液晶層338に、y方向に線形に変化する大きさの電圧を印加する。
【0040】
液晶層338に電圧が印加されると、液晶分子に分極が生じ、液晶分子は電界の方向であるx方向に配向する。電界が大きいほど分極による配向が生じやすくなるため、液晶分子の長軸方向は、小さい電圧が印加される部分電極334-1の位置で最もy方向に近く、大きい電圧が印加される部分電極334-Nで最もx方向に近くなる。
【0041】
液晶分子がy方向に配向されている場合、複屈折により、液晶層338を透過する光のy方向の偏光成分とz方向の偏光成分との間に位相差が生じる。すなわち、液晶層338を透過する光にリタデーションが付与される。他方で、液晶分子がx方向に配向されている場合、液晶層338を透過する光にリタデーションは付与されない。液晶層338を透過する光に付与されるリタデーションの大きさは、液晶分子の長軸方向がy方向からx方向に近くなるにつれて小さくなる。液晶分子の長軸方向は、液晶層338に印加されている電圧の大きさに応じて変化するから、液晶層338は、液晶層338を透過する光に、光が透過した位置に対して線形に変化する大きさのリタデーションを付与する。
【0042】
液晶層338を透過する光に付与されるリタデーションの大きさは、液晶分子の長軸方向がx方向に対してなす角の大きさによって変化する。例えば、部分電極334-Nの位置において液晶層338に印加される電圧は、その位置を透過する光のリタデーションが0度となるように設定される。また、部分電極334-1の位置において液晶層338に印加される電圧は、その位置を透過する光のリタデーションが720度(すなわち、2波長)となるように設定される。
【0043】
偏光子32から出射した直線偏光P1は、透過型複屈折素子33を透過する。直線偏光P1は、透過型複屈折素子33を透過した位置に応じて異なる、0度から720度までの大きさのリタデーションを付与されることにより、付与されたリタデーションの大きさに応じた楕円率を有する楕円偏光P2に変換される。なお、ここでいう楕円偏光には、円偏光および直線偏光が含まれる。透過型複屈折素子33の遅相軸は、直線偏光P1の偏光方向に対して45度の角をなすから、透過型複屈折素子33から出射した楕円偏光P2の楕円長軸の方向は、直線偏光P1の偏光方向に対して平行または垂直である。
【0044】
上述した説明では、透過型複屈折素子33は、光が透過した位置に応じて0度から720度のリタデーションを付与するものとしたが、このような例に限られない。透過型複屈折素子33は、少なくとも360度の幅を有する任意の範囲のリタデーションを付与してもよい。例えば、透過型複屈折素子33は、光が透過した位置に応じて180度から540度のリタデーションを付与してもよい。
【0045】
1/4波長板34は、所定の方向と平行なまたは直交する遅相軸を有する。1/4波長板34の遅相軸は、透過型複屈折素子33から出射した楕円偏光P2の楕円長軸に対して平行または垂直であるから、楕円偏光P2はその楕円率に応じて異なる方向の直線偏光P3に変換される。すなわち、1/4波長板34は、透過型複屈折素子33から出射した楕円偏光P2を、透過型複屈折素子33によって付与されたリタデーションの大きさに応じて異なる方向の直線偏光に変換する。図3に示す例では、透過型複屈折素子33によって付与されたリタデーションは0度から720度までの範囲にわたる。したがって、1/4波長板34から出射する直線偏光P3には、所定の方向に対して0度から360度までの任意の角をなす方向の直線偏光が含まれる。
【0046】
図4は、1/4波長板34を透過した光の偏光状態を説明するための模式図である。図4は、図3の直線偏光P3をx方向から見た模式図である。図4に示すように、直線偏光P3の方向、すなわち直線偏光P3が所定の方向に対してなす角の大きさは、y方向の位置に対して線形に変化する。また、直線偏光P3の方向、すなわち直線偏光P3が所定の方向に対してなす角の大きさは、z方向の位置に対しては変化しない。
【0047】
図5は、偏光イメージセンサ4の構成を説明するための模式図である。偏光イメージセンサ4は、対象物Tの測定面と結像関係にある撮像面に配置された複数の撮像素子41と、各画素の前面にそれぞれ配置される画素偏光子42と、撮像素子41からの出力に基づいて画像を生成する画像生成回路43とを有する。複数の撮像素子41は、複数の画素にそれぞれ対応する。撮像素子41は、対応して配置された画素偏光子42を透過した光の強度に応じた値を各画素の値として出力する。画素偏光子42は、相互に隣接する所定数の画素を含む画素グループごとに、その画素グループに含まれる各画素に対応する透過軸の方向が等角度間隔となるように配置される。
【0048】
図5に示す例では、画素グループGは、相互に隣接する四つ(2×2)の画素を含む。また、一つの画素グループGに含まれる四つの画素にそれぞれ対応するように、画素偏光子421、422、423、424が配置される。画素偏光子421~424の透過軸の方向は、y方向からx方向に向かう角を正の角として、y方向に対してそれぞれ0度、45度、90度、135度の角をなす方向である。すなわち、画素偏光子421~424は、透過軸の方向が45度間隔となるように配置される。
【0049】
撮像素子41によって出力される各画素の値は、画素偏光子421~424の透過軸の方向と、画素偏光子421~424に入射する直線偏光の方向との関係に応じた値となる。また、図4に示したように、1/4波長板34を透過した光は、透過型複屈折素子33によって付与されたリタデーションの大きさに応じて異なる方向の直線偏光を含む。対象物Tの測定面で反射されて偏光イメージセンサ4に入射する光も同様に、y方向の位置に対して線形に変化する直線偏光を含む直線偏光パターンを有する。したがって、偏光イメージセンサ4の各画素の値は、その直線偏光パターンに含まれる各直線偏光のうち、画素偏光子421~424の透過軸の方向を透過可能な方向の偏光成分量に応じた値となる。
【0050】
画像生成回路43は、撮像素子41によって出力された画素の値をそれぞれ取得して、画像データを生成する。
【0051】
算出装置5は、偏光イメージセンサ4が生成した画像を取得する。算出装置5は、同じ方向の透過軸を有する画素偏光子42に対応する画素の値を取り出して、対象物Tで反射された光の強度分布を示す所定数のパターン画像を生成する。算出装置5は、生成したパターン画像に基づいて対象物Tの形状を算出する。
【0052】
例えば、算出装置5は、非特許文献1に記載される公知の位相シフト法を用いて対象物Tの形状を算出する。すなわち、4つのパターン画像にそれぞれ対応する、画素偏光子421、422、423、424を透過した光の強度分布I0(x,y)、I45(x,y)、I90(x,y)、I135(x,y)は、それぞれ次の式で表される。
【数1】
ここで、γ(x,y)およびφ(x,y)はそれぞれ正弦波像のコントラスト分布および透過型複屈折素子33によって付与されたリタデーションの分布である。I0(x,y)、I45(x,y)、I90(x,y)、I135(x,y)は生成されたパターン画像から算出され、φ(x,y)はy方向における位置に対して線形に変化するものとして既知であるから、コントラスト分布γ(x,y)は次の式に基づいて算出される。
【数2】
【0053】
また、理想的な平面における正弦波像のコントラストは、対象物Tの測定面の高さ(すなわち、z方向における位置)zを用いて第一種ベッセル関数で表される。第一種ベッセル関数はガウス関数で近似されるから、正弦波像のコントラストHは次の式で表される。
【数3】
ここで、z0はz方向においてコントラストHが最大となる位置である。コントラストHが最大となる位置は、透過型複屈折素子33の複屈折層上の点の像の結像位置である。上述したように、透過型複屈折素子33の複屈折層と、対象物Tの測定面と、偏光イメージセンサ4の撮像面とは結像関係にあるから、z0はz方向における対物レンズ38の焦点面の位置である。NおよびFはそれぞれ対象物Tの測定面における1mmあたりの正弦波の数および対物レンズ38のF値である。また、A、σおよびpは、第一種ベッセル関数をガウス関数で近似したときのパラメータである。A、σおよびpは、あらかじめ測定面のz方向における位置を異ならせてコントラストを算出し、最小二乗法等を用いたフィッティングを行うことにより算出される。以上より、位置(x,y)における対象物Tの測定面の高さz(x,y)、すなわち対象物Tの形状は、次の式で表される。
【数4】
【0054】
算出装置5は、算出された対象物Tの形状を他の装置に送信することにより出力する。
【0055】
なお、上述したように正弦波像のコントラストHは第一種ベッセル関数で表されるから、上述の式により算出可能なzの範囲、すなわち測定範囲は第一種ベッセル関数の最初の零点Mによって規制され、次の式で表される。
【数5】
例えば、Fが1.25、Nが6である場合、測定範囲はz0の前後0.25mmである。
【0056】
以上説明したように、形状測定装置1は、測定用光源2、コリメートレンズ31、偏光子32、透過型複屈折素子33、1/4波長板34、偏光イメージセンサ4および算出装置5を有する。測定用光源2、コリメートレンズ31および偏光子32は、所定の方向に沿った直線偏光を出射する。透過型複屈折素子33は、所定の方向に対して45度の角をなす遅相軸を有し、偏光子32から出射した直線偏光を透過させるとともに、直線偏光が透過した位置に応じて異なる大きさのリタデーションを直線偏光に付与する。1/4波長板34は、所定の方向と平行なまたは直交する遅相軸を有し、透過型複屈折素子33から出射した光を付与されたリタデーションの大きさに応じて異なる方向の直線偏光に変換する。偏光イメージセンサ4は、対象物Tで反射された光を受光して、各画素の値が画素偏光子42の透過軸の方向と、透過型複屈折素子33によって付与されたリタデーションの大きさとの関係に応じた値となる画像を生成する。算出装置5は、対象物Tで反射された光の強度分布を示す所定数のパターン画像を生成し、生成したパターン画像に基づいて対象物の形状を算出する。これにより、形状測定装置1は、簡易な構成により、高速な非接触形状測定を可能とする。
【0057】
すなわち、形状測定装置1は、位置に応じて異なる大きさのリタデーションを付与する透過型複屈折素子33および偏光イメージセンサ4を用いる。したがって、従来のパターン投影法のように濃淡のパターンが異なる光を順次投影する必要がなくなり、高速な非接触形状測定が可能となる。また、非特許文献1のように反射型の空間光変調器を用いた場合には、測定光を空間光変調器に導くためのビームスプリッタが必要となる。これに対して、形状測定装置1では透過型複屈折素子33を用いるため、追加のビームスプリッタを光学系に組み込む必要がなくなり、構成が簡易になる。
【0058】
また、形状測定装置1は、測定光学系3と同軸であり、対象物Tを加工するための加工光を対象物に導く加工光学系7を有する。これにより、形状測定装置1は、対象物Tの加工と並行して対象物Tの形状を測定することができる。
【0059】
上述した説明では、形状測定装置1は加工用光源6および加工光学系7を有するものとしたが、このような例に限られず、形状測定装置1は加工用光源6および加工光学系7を有しなくてもよい。この場合は、形状測定装置1は、対象物Tの加工と並行して対象物Tの形状を測定することはできないものの、高速な非接触形状測定を可能とする。
【0060】
上述した説明では、透過型複屈折素子33の複屈折層と、対象物Tの測定面と、偏光イメージセンサ4の撮像面とが結像関係にあるものとしたが、このような例に限られない。透過型複屈折素子33の複屈折層と対象物Tの測定面とは結像関係になくてもよい。すなわち、透過型複屈折素子33は、その複屈折層の像が対象物Tの測定面または対物レンズ38の焦点面とは異なる面に結像するように配置されてもよい。
【0061】
図6(A)は透過型複屈折素子33の複屈折層と対象物Tの測定面とが結像関係にある場合の形状測定装置1の模式図であり、図6(B)は透過型複屈折素子33の複屈折層と対象物Tの測定面とが結像関係にない場合の形状測定装置1の模式図である。なお、図6(A)および(B)のいずれにおいても、対象物Tの測定面と偏光イメージセンサ4の撮像面との結像関係は維持されている。すなわち、対象物Tの測定面は対物レンズ38の焦点面に配置されている。
【0062】
図6(A)において、破線は透過型複屈折素子33の複屈折層上の点が結像するまでの光路および対象物Tの測定面上の点が結像するまでの光路を示す。図6(A)においては、透過型複屈折素子33の複屈折層の結像面と対物レンズ38の焦点面とは一致するため、両光路は一致する。この場合、偏光イメージセンサ4で測定されるコントラストHは、対象物Tの測定面が、対物レンズ38の焦点面にあるときに最大となる。
【0063】
対象物Tの測定面の位置においてコントラストHが最大となることにより、z方向の測定範囲を最も広くすることができる。一方、コントラストHが最大の位置では、対象物Tの測定面のz方向の変化に対するコントラストの変化量が小さいため、測定面の微小な凹凸に対する測定精度が低下する場合がある。また、対象物Tの測定面のz方向の変化が焦点面に対して正負の何れの変化であるのかがコントラストの値のみからは判定できない場合がある。
【0064】
図6(B)において、実線は透過型複屈折素子33の複屈折層上の点が結像するまでの光路を示し、破線は対物レンズ38の焦点面上の点が結像するまでの光路を示す。図6(B)においては、透過型複屈折素子33の複屈折層と対象物Tの測定面とが結像関係にある場合と比較して、透過型複屈折素子33が距離L1だけ測定用光源2から遠い位置に配置されている。したがって、透過型複屈折素子33の複屈折層上の点は、対物レンズ38の焦点面(即ち、対象物Tの測定面)よりも測定用光源2から遠い面に結像する。この場合、偏光イメージセンサ4は、透過型複屈折素子33の複屈折層上の点が結像する面ではないため、偏光イメージセンサ4で測定されるコントラストHは、対象物Tの測定面が対物レンズ38の焦点面にあるときに、最大にはならない。
【0065】
対象物Tの測定面の位置とコントラストHが最大となる位置z0とが異なることにより、対象物Tの測定面のz方向の変化に対するコントラストHの変化量が大きくなり、測定面の微小な凹凸に対する測定精度が向上する。好ましくは、対象物の測定面の位置は、対象物Tの測定面のz方向の変化に対するコントラストHの変化量が最大となる位置に配置される。これにより、測定面の微小な凹凸に対する測定精度がより向上する。上述したようにコントラストHはガウス関数で近似されるから、コントラストHの変化量が最大となる面のz方向における位置z1は、概ね次の式で表される。
【数6】
ここで、zfは対物レンズ38の焦点面のz方向における位置である。
【0066】
この場合、z1を含む所定の範囲において、対象物Tの測定面のz方向の変化に対するコントラストHの変化量が概ね線形となる。測定面のz方向の変化に対するコントラストHの変化量が概ね線形となることにより、対象物Tの形状の測定精度がより向上する。コントラストHの変化量が概ね線形となるzの範囲は、例えば次の式で表される。
【数7】
【0067】
また、z1を上述の式のように定めるための透過型複屈折素子33の配置位置L1は、次の式により定められる。
【数8】
ここで、f1およびfoはそれぞれ凸レンズ36の焦点距離および対物レンズ38の焦点距離である。
【0068】
当業者は、本発明の範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。例えば、上述した実施形態及び変形例は、本発明の範囲において、適宜に組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 形状測定装置
2 測定用光源
3 測定光学系
32 偏光子
33 透過型複屈折素子
34 1/4波長板
35 無偏光ビームスプリッタ
4 偏光イメージセンサ
5 算出装置
6 加工用光源
7 加工光学系
図1
図2
図3
図4
図5
図6