(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025366
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】車両用騒音低減装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240216BHJP
G10K 11/168 20060101ALI20240216BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/168
B60R13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128747
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000229069
【氏名又は名称】株式会社セキソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小美戸 樹宏
(72)【発明者】
【氏名】北原 専治
(72)【発明者】
【氏名】高尾 秀男
【テーマコード(参考)】
3D023
5D061
【Fターム(参考)】
3D023BA03
3D023BB12
3D023BB21
3D023BC01
3D023BD04
3D023BE03
5D061AA06
5D061AA23
5D061BB18
5D061BB37
(57)【要約】
【課題】 車両の走行に伴って生じる騒音を効率的に低減できる軽量な車両用騒音低減装置を提供する。
【解決手段】 車両用騒音低減装置1は、車両の所定の部位に設けられる。斜陽用騒音低減装置1は、所定方向に配列された複数の凹部を有する合成樹脂製の本体部と、前記複数の凹部の開口部を覆う不織布製の板状部と、を備える。前記凹部を構成する各壁部のうち、前記凹部の底部を構成する底壁部の壁厚が、他の壁部の壁厚と同一、又は前記底壁部の壁厚が他の壁部の壁厚より大きく、且つ前記底壁部の内側面が球面である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の所定の部位に設けられる車両用騒音低減装置であって、
所定方向に配列された複数の凹部を有する合成樹脂製の本体部と、
前記複数の凹部の開口部を覆う不織布製の板状部と、
を備え、
前記凹部を構成する各壁部のうち、前記凹部の底部を構成する底壁部の壁厚が、他の壁部の壁厚と同一、又は前記底壁部の壁厚が他の壁部の壁厚より大きく、且つ前記底壁部の内側面が球面である、車両用騒音低減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用騒音低減装置において、
前記本体部は一体的に形成されている、車両用騒音低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行時に発生した騒音に起因する車外騒音及び車内騒音を低減する車両用騒音低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両の走行時には、エンジン、トランスミッションなどの駆動装置から騒音が発生する。また、タイヤと路面との摩擦に起因する騒音(以下、「タイヤ騒音」と称呼する。)が発生する。例えば、車両の右側のタイヤから発生したタイヤ騒音は、車両の右方へ伝搬するだけでなく、車両本体の床下を通って、車両の左方へも伝播される。
【0003】
そこで、上記のような車外騒音及び車内騒音を低減するための装置(以下、「従来装置」と称呼する。)が提案されている(例えば、下記非特許文献1を参照。)。この従来装置は、周壁部及び底壁部によって囲まれた比較的な小さな空気室と、当該空気室の開口部を覆う不織布製の板状部とを備える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小美戸樹宏,北原専治,高尾秀男,篠田和夫,田中俊光 著 「仕切りを有する空気層セルを後置する吸音構造体の性能向上研究(第2報)」 2015年
【発明の概要】
【0005】
(発明が解決しようとする課題)
騒音低減装置を軽量化するために、空気室を構成する各壁部の壁厚をできるだけ小さくすることが好ましい。ただし、その場合、各壁部の剛性が低くなってしまい、音波(騒音)が板状部を通って空気室内へ進入すると、各壁部(とくに、底壁部)が振動して吸音性能が低下する虞がある。具体的には、所定の周波数帯の騒音を効率的に低減できなくなる虞がある。
【0006】
本発明は上記課題に対処するためになされたもので、その目的は、車両の走行に伴って生じる騒音を効率的に低減できる軽量な車両用騒音低減装置を提供することにある。
【0007】
(課題を解決するための手段)
上記目的を達成するために、本発明に係る車両用騒音低減装置は、車両の所定の部位に設けられ、所定方向に配列された複数の凹部を有する合成樹脂製の本体部と、前記複数の凹部の開口部を覆う不織布製の板状部と、を備える。
前記凹部を構成する各壁部のうち、前記凹部の底部を構成する底壁部の壁厚が、他の壁部の壁厚と同一、又は前記底壁部の壁厚が他の壁部の壁厚より大きく、且つ前記底壁部の内側面が球面である。
【0008】
本発明の一態様に係る車両用騒音低減装置において、前記本体部は一体的に形成されている。
【0009】
本発明の騒音低減装置における各凹部の底壁部の内側面を球面状に湾曲させることにより、当該内側面が平面状である場合に比べて、当該部位の剛性を高めることができる。これにより、凹部内に進入した騒音による底壁部の振動を抑制することができ、騒音低減性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用騒音低減装置及びアンダーカバーを上方から見た分解斜視図である。
【
図2】
図1の車両用騒音低減装置及びアンダーカバーを下方から見た分解斜視図である。
【
図3】
図1の車両用騒音低減装置及びアンダーカバーの底面図である。
【
図4】残響室法吸音率を測定したサンプルの断面形状を示す断面図である。
【
図5】残響室法吸音率の実測値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る車両用騒音低減装置1(1a,1b)について説明する。車両用騒音低減装置1は、車両の床下面に配置される種々の装置、部品を覆うフロアアンダーカバーの一部を構成している。フロアアンダーカバーは、例えば、車両の下面の右側前部、左側前部、右側後部及び左側後部をそれぞれ覆う第1カバー乃至第4カバーから構成されている。車両用騒音低減装置1が各カバーにそれぞれ設けられるが、各カバーに設けられる車両用騒音低減装置1の構成は同一であるので、第1カバー(以下、単に、「カバーUC1」と称呼する。)に設けられた車両用騒音低減装置1について説明し、他のカバーに関する説明を省略する。なお、車両用騒音低減装置1は、フロアアンダーカバーに限られず、車両の他の部位(例えば、エンジンルームの内側面)に配置されてもよい。
【0012】
図1乃至
図3に示したように、カバーUC1は、略板状を呈する。カバーUC1は、合成樹脂製である。カバーUC1は、射出成形体である。
【0013】
カバーUC1には、5個の開口部OPa及び1個の開口部OPbが設けられている。開口部OPa及び開口部OPbは矩形を呈する。各開口部の2つの辺が車幅方向に対して平行であり、他の2つの辺が車両前後方向に対して平行である。開口部OPbは、開口部OPaよりも大きい。なお、開口部OPa及び開口部OPbの配置位置及び個数は、車種ごとに最適化される。開口部OPa,OPbに、ハニカム状の格子Lが設けられている。
【0014】
開口部OPa,OPbに、車両用騒音低減装置1a,1bがそれぞれ取り付けられる。車両用騒音低減装置1aは、チャンバー11a(本体部)及び吸音板12aを備える。チャンバー11aは、略長方形の枠状を呈するフランジFと、当該フランジFの内側に配列された複数(6個(=2×3))の略直方体状(箱状)のセルC1a(凹部)を備える。
【0015】
フランジFの外形及び大きさは、開口部OP1aの外形及び大きさと同等である。
【0016】
セルC1aは、車幅方向及び車両前後方向に配列されている。複数のセルC1aは、真空成型法によって形成される。すなわち、合成樹脂製の板材の外周部(フランジFに相当する部位)を除く部位を加熱して軟化させておき、当該軟化させた部位を、複数の凹部を有する金型の上面に載置する。そして、前記金型の凹部内の空気を抜くことにより、当該板材の軟化させた部位を金型の内周面側へ引き寄せて密着させる。これにより、複数のセルC1aが一体的に形成される。
【0017】
チャンバー11aの平面視において、各セルC1aは、略正方形を呈する。すなわち、セルC1aは、前壁部W1、後壁部W2、右壁部W3、左壁部W4及び底壁部W5から構成されている。
【0018】
セルC1aの辺の長さ(車幅方向及び車両前後方向の寸法)は、例えば、50mmである。また、各セルC1aの高さ(深さ)は、例えば、23mmである。セルC1aを構成する前壁部W1、後壁部W2、右壁部W3、左壁部W4及び底壁部W5の壁厚は略一定であり、例えば、0.45mmである。なお、上記のように、チャンバー11aは、真空成型法により形成されるため、実際には、底壁部W5の壁厚に比べて、他の壁部の壁厚が若干小さい。また、
図4に示したように、底壁部W5は、球面状に湾曲している。当該球面の半径は、例えば、120mmである。
【0019】
吸音板12aは、不織布製である。吸音板12aは、開口部OPaより少し大きな矩形を呈している。吸音板12aの所定の部位(例えば角部(4箇所))が、チャンバー11aのフランジFに溶着されている。なお、チャンバー11aへの吸音板12aの固定方法は、上記形態に限られない。例えば、締結具を用いてチャンバー11aに吸音板12aを固定してもよい。吸音板12aの板厚は、例えば、7mmである。
【0020】
車両用騒音低減装置1aは、開口部OPaの上面(格子Lの上面)に載置される。開口部OPaの外周部には、複数の係止爪Nが設けられており、この係止爪Nに、吸音板12aの外周部が係止される。すなわち、各セルC1aの開口部が下方へ向けられている。なお、開口部OPaへの車両用騒音低減装置1aの固定方法は、上記形態に限られない。例えば、締結具を用いて開口部OPaの外周部に車両用騒音低減装置1aを固定してもよい。
【0021】
車両用騒音低減装置1bは、チャンバー11b及び吸音板12bを備える。チャンバー11b及び吸音板12bの構成は、チャンバー11a及び吸音板12aの構成と同一であり、単に、その大きさが異なるだけである。すなわち、チャンバー11aは、6個のセルC1aから構成されているのに対し、チャンバー11bは、25個のセルC1bから構成されている。セルC1bの形状及び大きさは、セルC1aの形状及び大きさと同一である。また、吸音板12aが開口部OPaと略同一の大きさであるのに対し、吸音板12bは、開口部OPbと略同一の大きさである。吸音板12bの板厚は、吸音板12aの板厚と同一である。
【0022】
(作用及び効果)
<実測結果>
つぎに、車両用騒音低減装置1の吸音性能を実測した。具体的には、車両用騒音低減装置1と同等のサンプルS1(
図4を参照。)を製造し、当該サンプルS1の残響室法吸音率を測定した。サンプルS1は、チャンバー11b及び吸音板12bよりも大きなチャンバー及び吸音板からなる。なお、サンプルS1のチャンバーを構成する各セルの形状及び大きさは、セルC1bと同一であるが、サンプルS1のチャンバーを構成するセルの数が、チャンバー11bを構成するセルC1bの数よりも多い。サンプルS1の吸音板の板厚は、吸音板12bの板厚と同一である。
【0023】
また、比較例として、下記のサンプルS2を製造し、サンプルS2の残響室法吸音率を測定した。サンプルS2のチャンバーは、サンプルS1のチャンバーのセルと同様のセルを備えているが、サンプルS1のセルの底面(内側面)が球面であるのに対し、サンプルS2のセルの底面が平面(水平面に対して平行)である。サンプルS2のその他の構成(外形寸法、セルの数など)は、サンプルS1の構成と同一である。
【0024】
上記構成のサンプルS1及びサンプルS2を所定の枠状のフレームFRの内側に固定した。
図4に示したように、サンプルS1及びサンプルS2の吸音板の面がフレームFRの開口端面に一致し、チャンバーがフレームFR内に位置するように配置されている。フレームFRの高さは、サンプルS1及びサンプルS2の高さより大きい。したがって、フレームFRを残響室内に載置した状態では、サンプルS1及びサンプルS2のチャンバーと残響室の床面との間に隙間が形成されている。
【0025】
図5に示したように、500Hz乃至2kHzの範囲において、サンプルS2に比べて、サンプルS1の残響室法吸音率が向上している。なお、同図において、目標の性能(下記の装置T1の性能)を破線で示している。装置T1は、吸音板を備えるとともに、チャンバーに替えて繊維材(吸音板よりも密度の低い材料)からなる吸音体を備える。
【0026】
上記のように、騒音低減装置1における各セルC1a,C1bの底壁部W5を球面状に湾曲させることにより、当該底壁部が平面状である場合に比べて、当該部位の剛性を高めることができる。これにより、セルC1a,C1b内に進入した騒音による底壁部W5の振動を抑制することができ、1kHz乃至2kHzにおける騒音低減性能(残響室法吸音率)を高めることができた。
【0027】
また、車両用騒音低減装置1a,1bは、カバーUC1に形成されたすべての開口部OPa,OPbのうちの一部の開口部に取り付けられ、他の開口部には取り付けられなくてもよい。これによれば、すべての開口部に車両用騒音低減装置1a,1bが設けられた場合に比べて騒音低減効果が多少劣る場合もあるが、車両の部品コストを削減できる。
【0028】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0029】
例えば、上記実施形態では、セルC1a,C1bの形状は略直方体であるが、セルC1a,C1bの形状はこれに限られない。例えば、セルC1a,C1bの断面(車両高さ方向に垂直な断面)が多角形を呈するように構成されていてもよい。また、底壁部W5が球面状でありさえすれば、他の壁部の形状は上記実施形態に限られない。例えば、セルC1a,C1bの前壁部W1、後壁部W2、右壁部W3、左壁部W4が湾曲していてもよい。
【0030】
また、上記実施形態では、チャンバー11a(複数のセルC1a)及びチャンバー11b(複数のセルC1b)は、真空成型法を用いて一体的に形成されているが、これに代えて、例えば、射出成型法を用いてチャンバー11a,11bをそれぞれ一体的に形成してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1(1a,1b)…車両用騒音低減装置、11a…チャンバー、11b…チャンバー、12a…吸音板、12b…吸音板、C1a…セル、C1b…セル、OPa…開口部、OPb…開口部、UC1…カバー