(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025392
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】車両用パワートレイン構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240216BHJP
F16H 57/032 20120101ALI20240216BHJP
F16H 57/031 20120101ALI20240216BHJP
【FI】
F16H57/04 Z
F16H57/032
F16H57/031
F16H57/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128784
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】永井 隆
(72)【発明者】
【氏名】木立 大介
(72)【発明者】
【氏名】遊間 康平
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AB21
3J063AC04
3J063BB16
3J063CD41
3J063XE03
(57)【要約】
【課題】パワートレインのケース内部に発生する結露を制御可能な車両用パワートレイン構造を提供す。
【解決手段】ケース12の内部にエンジンの駆動力を伝達する動力伝達機構が収容された車両用パワートレイン構造10において、前記ケース12の内外の空気と接触するように前記ケース12の壁部に設置され、該ケース12よりも熱伝導率の低い結露誘発部16を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースの内部にエンジンの駆動力を伝達する動力伝達機構が収容された車両用パワートレイン構造において、
前記ケースの内外の空気と接触するように前記ケースの壁部に設けられ、該ケースよりも熱伝導率の低い結露誘発部を備えたことを特徴とする車両用パワートレイン構造。
【請求項2】
前記結露誘発部は、前記ケースの上部壁に設けられことを特徴とする請求項1に記載の車両用パワートレイン構造。
【請求項3】
前記結露誘発部の鉛直方向下方に配置され、該結露誘発部に生じた結露水を捕集する捕集部材を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用パワートレイン構造。
【請求項4】
前記結露誘発部は、前記ケースに形成された貫通孔に嵌め込まれる筒状の嵌入部と、該嵌入部の端部に設けられた該嵌入部よりも大径のフランジ部と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用パワートレイン構造。
【請求項5】
前記結露誘発部は、前記ケースの内側の表面に凹凸を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用パワートレイン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、エンジンの駆動力を伝達するトランスミッションなどの車両用パワートレイン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されてエンジンの駆動力を伝達するトランスミッションなどのパワートレインは、ケース内に収容されており、ケース内には、トランスミッションなどの作動を制御するための作動油が循環している。このケースには、ケース内外の圧力差によって作動油がケース外へ漏れることを防止するために、空気の流通が可能な通気孔が形成されている。
【0003】
通気孔からケース内に湿気の多い空気が入り込んでいる状況で、例えば寒冷地など、パワートレインが冷却された状態でエンジンを始動すると、高温になったケース内部と低温の雰囲気温度に晒されたケース外部との温度差により、ケース内に結露が発生する。
【0004】
パワートレイン内に結露が生じると、ケース内の部品が結露水に触れて錆が生じたり、作動油内に結露水が入ってこれが攪拌されることによりエマルジョンが発生したりする等の問題が生じる。
【0005】
結露水による問題を解決する方法として、例えば特許文献1には、ブローバイガスの還元通路を有する内燃機関において、水分が多く含まれるブローバイガスが流れる通路に、水分捕集室を設けた構造が記載されている。水分捕集室には、常時冷却された金網が配置されており、ブローバイガスがこの金網を通過する際に、ブローバイガス中の水分が結露して捕集される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
しかしながら、ブローバイガスが流れる管路に比べて、空気中の水分量が低いトランスミッションなどのケース内においては、ケース内に生じる結露について十分な対策がとられていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、パワートレインのケース内部に発生する結露を制御可能な車両用パワートレイン構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態は、ケースの内部にエンジンの駆動力を伝達する動力伝達機構が収容された車両用パワートレイン構造において、前記ケースの内外の空気と接触するように前記ケースの壁部に設けられ、該ケースよりも熱伝導率の低い結露誘発部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用パワートレイン構造によれば、パワートレインのケース内部に発生する結露を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用パワートレイン構造を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2実施形態に係る車両用パワートレイン構造を示す模式的断面図である。
【
図3】
図3は、結露誘発部の他の実施例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、結露誘発部の他の実施例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す結露誘発部を構成する結露誘発部品の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用パワートレイン構造10を示す模式的断面図である。
図1に示す車両用パワートレイン構造10は、上ケース12Aと下ケース12Bを接合一体化したケース12を備えており、ケース12内を作動油11が循環する。
【0013】
本実施形態において、ケース12は、パワートレインの一例であるトランスミッションが収容されるトランスミッションケースである。トランスミッションは、例えば、車両に搭載される自動変速機の一種であるベルト式無断変速機(CVT(Continuously Variable Transmission))とすることができる。図示していないが、ケース12の内部には、駆動源であるエンジンの回転が伝達される駆動プーリと、該駆動プーリの回転が無段階に変速されて伝達される従動プーリと、駆動プーリと従動プーリの間に巻き掛けられた無端状の金属ベルトなどが収容されている。作動油11は、不図示の油圧制御装置によって油圧が制御された後、ベルト式無断変速機の駆動プーリと従動プーリの各可動シーブの背面側に形成された油室へと供給され、各可動シーブを駆動軸と従動軸に沿ってそれぞれ摺動させることによって、駆動プーリと従動プーリのベルト巻掛径を変化させる。
【0014】
図1に示すように、車両用パワートレイン構造10は、ケース12と、ケース12の壁部に設けられた結露誘発部16と、を備える。
図1では、ケース12の底部に作動油5が貯留された状態を示している。
【0015】
ケース12は、例えば、アルミニウム合金製とすることができる。本実施形態において、ケース12は、設置状態で車両上方に位置する上ケース12Aと、車両下方に位置する下ケース12Bとで構成されている。ケース12には、ケース12の内外の圧力差によって作動油11がケース12外へ漏れることを防止するために、空気の流通が可能な不図示の通気孔が形成されている。
【0016】
結露誘発部16は、ケース12の内外の空気と接触するようにケース12の壁部に設けられている。結露誘発部16は、ケース12における作動油5の貯留部よりも上方に位置するように、上ケース12Aに設けられており、本実施形態では、上ケース12Aにおいて、天井面を形成する上部壁に結露誘発部16を設けている。
【0017】
結露誘発部16は、ケース12よりも熱伝導率の低い材料で形成された結露誘発部品20で構成されている。結露誘発部品20の材料は、例えば、ナイロン樹脂などの樹脂材料とすることができる。この結露誘発部品20は、ケース12の壁部に形成された貫通孔14を密閉するように、この貫通孔14に嵌め込み設置されている。
【0018】
本実施形態では、ケース14に形成された円形の貫通孔14を密閉可能となるように、結露誘発部品20が円柱状に形成されている。なお、結露誘発部品20の形状は、円柱状に限られず、ケース12の貫通孔14の形状に合わせて適宜変更することができる。本実施形態では、設置状態で、結露誘発部品20の外表面(すなわち、結露誘発部16の外表面17)が、ケース12の外表面と面一となっており、結露誘発部品20の内表面(すなわち、結露誘発部16の内表面18)が、ケース12の内表面と面一となっている。
【0019】
上述したパワートレイン構造10を備えた車両用パワートレインにおいて、例えば寒冷地におけるエンジンの始動など、車両に搭載されたパワートレインが冷却された状態でエンジンを始動すると、エンジンによる発熱によりケース12の内部温度が上昇する。この際、低温の雰囲気温度に晒されたケース12の外表面との間に温度差が生じると、ケース12内に結露が発生する。本実施形態のパワートレイン構造10では、ケース12の壁部に、熱伝導率の低い結露誘発部16を設けているため、この結露誘発部16において、ケース内外の温度差が大きくなって結露が発生しやすくなる。これにより、結露誘発部16において、結露水を積極的に発生させて、パワートレイン内の空気の水分量を低くすることができる。
【0020】
また、エンジン始動によりケース12内の空気が温められると、水分を多く含む空気がケース12内の上方に集まるが、本実施形態では、結露誘発部16をケース12の上部壁に設けているため、水分量の多い空気を結露誘発部16に積極的に接触させることができる。このように、本実施形態のパワートレイン構造10では、ケース12に結露誘発部16を設けることで、パワートレインの内部に発生する結露を制御することができる。その結果、ケース12内の他の部品に結露が生じて部品に錆が生じたり、ケース12内の作動油11に結露水が入ってエマルジョンが発生したりすることを抑制することができる。なお、結露誘発部16に付着した結露水は、その後のエンジン駆動によってパワートレインが温められることで気化する。
【0021】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を
図2に基づいて説明する。
図2は、第2実施形態に係る車両用パワートレイン構造10を示す模式的断面図であり、
図1に示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての詳細な説明は省略する。
【0022】
本実施形態のパワートレイン構造10は、結露誘発部16の鉛直方向下方に配置された捕集部材30を備えている。ここで、鉛直方向とは、本実施形態のパワートレイン構造10を搭載した車両を水平地面に設置した状態で水平地面に対して垂直な方向である。捕集部材30は、結露誘発部16に生じた結露水が落下した際に、これを捕集するものであり、本実施形態では、結露誘発部16から落下した水滴8を捕集可能となるように所定の深さを有する皿形状に形成されている。本実施形態において、捕集部材30は、ケース12の側壁からケース12内に突出する態様で取り付けられている。捕集部材30は、熱伝導率がケース12とほぼ等しい材料で形成されていることが好ましく、本実施形態では、ケース12と同じ金属材料で形成されている。
【0023】
捕集部材30を備えたパワートレイン構造10では、結露誘発部16の内表面18に結露が生じ、内表面18に付着した水滴8が落下した場合に、捕集部材30によって落下した水滴8を捕集することができる。これにより、結露誘発部16から落下した水滴8がケース12内の他の部品に付着したり、作動油11内に入ったりすることを抑制することができる。なお、捕集部材30内に捕集された水分は、エンジン駆動によってパワートレインの温度が上昇することにより蒸発する。
【0024】
図3は、結露誘発部16の他の実施例を示す断面図である。本実施例の結露誘発部16は、ケース12の内側の表面である内表面18に凹凸を有している。このように、結露誘発部16の内表面18に凹凸が形成されていることで、凸部18aにおいて結露誘発部16の肉厚を大きくして、ケース12内外の温度差が生じた際に結露誘発部16をより温まり難く、結露が発生しやすい構造とすることができる。また、結露が生じた際に、結露誘発部16の内表面18の凹部18a内に結露水を貯留させて、結露水の落下を抑制することができる。
【0025】
図4は、結露誘発部16の更に他の実施例を示す断面図であり、
図5は、
図4に示す
図4に示す結露誘発部16を構成する結露誘発部品20の斜視図である。
図4では、上ケース12と、これに取付けられた結露誘発部品20を示している。結露発生部品20は、筒状の嵌入部26と、フランジ部28と、を備えている。嵌入部26は、ケース12に形成された貫通孔14に嵌め込まれる部位である。フランジ部28は、嵌入部26の一方の端部に設けられ、嵌入部26よりも大径に形成されている。
【0026】
図4及び
図5に示す結露発生部品20では、フランジ部28を手で摘まんでケース12に形成された貫通孔14に嵌入部26を嵌め込むことにより、ケース12に結露発生部16を簡易に設置することができる。なお、
図4では、フランジ部28がケース12内に位置するように設置されており、フランジ部28の表面が結露誘発部16の内表面18を形成しているが、フランジ部28がケース12外に配置されるように取り付けてもよい。
【0027】
なお、図示していないが、結露誘発部品20の取付け作業を容易にするために、ケース12の貫通孔14の内周面と結露誘発部品20の嵌入部26の外周面とに螺子溝を形成し、貫通孔14に結露誘発部品20の嵌入部26を螺合することで、結露誘発部品20をケース12に装着する構造としてもよい。
【0028】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 車両用パワートレイン構造
11 作動油
12 ケース
12A 上ケース
12B 下ケース
14 貫通孔
16 結露誘発部
17 外表面
18 内表面
18a 凸部
18b 凹部
20 結露誘発部品
26 嵌入部
28 フランジ部
30 捕集部材