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特開2024-25402小形軽量であって低音の再生性能と設計自由度が高いスピーカーシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025402
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】小形軽量であって低音の再生性能と設計自由度が高いスピーカーシステム
(51)【国際特許分類】
H04R 9/02 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
H04R9/02 102A
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128811
(22)【出願日】2022-08-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】392004015
【氏名又は名称】角元 純一
(72)【発明者】
【氏名】角元 純一
【テーマコード(参考)】
5D012
【Fターム(参考)】
5D012BB02
5D012BB03
5D012BB04
5D012CA09
5D012FA02
5D012GA01
(57)【要約】
【課題】
小形軽量スピーカーシステムの低音域再生範囲を広げることと、
低音再生特性の自在な調節を可能とする。
【解決手段】
半径方向に着磁した2個のリングマグネットを用いる。
必要に応じてU字断面のヨークを用いる。
リングマグネットとキャビネットを、弾性体を介して連結。
弾性体にプラスティックの円弧状の分割リングバネを用いる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型で軽量を必要条件とする携帯用または身体に装着するところの、完成品としての
スピーカーをモバイル用のスピーカーシステムとし、
明確な定義ができないモバイル用スピーカーシステムに関し、一般のスピーカーシステムではあるが、モバイル用途でなければ本案の応用は要を成さないことから、
本案のスピーカーシステムとはその応用先がモバイル用であるとし、
スピーカーシステムとは、
ボイスコイル、磁気回路、コーン、エッジ、キャビネットを主要部品とするところの電気信号を音響信号に変換する装置とし、
マグネットホルダーとは、
磁気回路の部品であるところのマグネットを支える構造体とし、
ボイスコイルとコーンは互いに固着されているものとし、
コーンはエッジを介し、キャビネットに連結されているものとし、
エッジはキャビネットを基準に、ボイスコイルを中心軸方向に可動させるものとし、
磁気回路は磁気ギャップを有し、磁気ギャップの磁束密度とボイスコイルを流れる電流によって、磁気回路とボイスコイルの双方に駆動力を発生するものとし、
マグネットホルダーとキャビネットは磁気回路スプリングを介して連結されているものとし、
磁気回路スプリングとは、
弾性体であって、キャビネットを基準に磁気回路を、ボイスコイルの中心軸方向に可動させるものとし、
キャビネットはスピーカーシステムが音響放射をすべく、キャビネット内部に内部空間を有するものとし、
内部空間とは、
音響放射面にエッジとコーンを有し、空間の内部には ボイスコイルと、磁気回路と、
マグネットホルダーと、磁器回路スプリングを有するものとし、
内部空間は外部空間との関係において、ロードホーンに相当するパイプで繋がっているものとし、
音響放射共振とは、
キャビネットを基準位置とするところの、
エッジとコーンとボイスコイルと内部空間 の セットが持つ属性 に依存する音響振動の共振とし、
音響放射共振周波数を F0 とし、
以下に記述の Fh と Fm で以て F0 より低い低音域の再生特性に特徴を持たせるものとし、
Fh とは、
ロードホーンが持つ属性の影響を受けるところの共振周波数とし、
Fm とは、
磁気回路スプリングとマグネットホルダーと磁気回路 のセットが持つ属性に依存するところの機械振動の共振周波数とし、
機械振動共振による磁気回路の振動が、ボイスコイルの磁束と交差する速度に影響を与える結果、ボイスコイルの振動が機械共振振動の影響を受けることを利用するものとし、
Fh に Fm を加えることにより、低音域でのスピーカーシステムの再生特性の
設計自由度が広がることを利用するものとし、
Fh と Fm は設計的に決定するものとし、
Fh と Fm の設計的な選択によって、目的とする低音再生特性を得るものとし、
磁気回路スプリングを有することで、キャビネットを基準として、
互いに異なる共振周波数を持つボイスコイルと磁気回路の双方を振動させることを第1の特徴とするスピーカーシステム。
【請求項2】
請求項1の、スピーカーシステムにおいて
磁気回路は、半径方向に着磁した2個のリングマグネットを有するものとし、
リングマグネットとは、
断面が四角形のドーナツ状であって、
リングの内径面から外径面へ または 外径面から内径面へ着磁方向を有するものとし、2個のリングマグネットは使用状態で同方向に着磁されているものとし、
2個のリングマグネットは同心軸上、同一平面上に配置され、
内側のリングと外側のリングの間の磁気ギャップにボイスコイルが挿入されものとし、
請求項1に記述のマグネットホルダーは2個のリングマグネットを保持するものとし、
2個のリングマグネットを有することを第2とし、
請求項1の第1に加えて、第2の特徴を有するスピーカーシステム。
【請求項3】
Uヨークとは、
U字の断面の回転体とし、
Uヨークは磁性体の素材からなるものとし、
UヨークのUの内部に、請求項2に記述の2個のリングマグネットが収まるとし、
Uヨークは外側のリングマグネットの外周から内側のリングマグネットの内周に至る磁路であるとし、
UヨークのU字の底面はボイスコイルの振動範囲を妨げない深さにあるとし、
Uヨークは、
2個のリングマグネットの漏洩磁束を軽減する役割と
リングマグネットの磁気ギャップの磁束密度を高める役割と
リングマグネットの容積を抑える役割と
を持つものとし、
上記3種類は与えられた条件を満足すべく按分されるものとし、
Uヨークは請求項1に記述のマグネットホルダーに装着されるか、
または、Uヨークがマグネットホルダーを兼ねるものとし、
Uヨークを有することを第3の特徴とし、
請求項1に記述の第1と請求項2に記述の第2に加えて第3の特徴を有するところの
スピーカーシステム。
【請求項4】
請求項1に記述の磁気回路スプリングに関し、
磁気回路スプリングが外周リングと内周リングを有し、
外周リングはキャビネット側の内周円に接し、
内周リングはマグネットホルダー側の外周円に接し、
外周リングの内側と内周リングの外側の間に中間リングを有するものとし、
中間のリングを複数の断片に分断し、分断された個々の中間リングを分割リングとし、
隣り合う分割リングは隙間を有するものとし、
それぞれの分割リングの一方は外周リングに結合され、他方は内周リングに結合されているものとし、
外周リングと内周リングは全ての分割リングを介して結合されているものとし、
外周リングと内周リングと全ての分割リングからなる一体構造の部品を分割リングバネとし、
分割リングバネの外周リングと内周リングの弾性特性が、
半径方向にスティフネスを大きく設計できることから、軸の半径方向のブレを小さくし、分割リングバネの厚みの調節によって中心軸方向にスティフネスの値を自在に設計できるだけでなく,線型度が高く、範囲が広い弾性特性を持つことから、
質量が比較的大きい磁気回路を中心軸ブレの心配なしに、機械共振周波数 Fm の自在な選択を可能にするところの
分割リングバネを請求項1の磁気回路スプリングとすることを第4とし、
請求項1の第1に加えて第4の特徴を有するスピーカーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リングマグネットの半径方向への着磁
異なる共振特性の組合せによる低音再生の最適化
モバイルスピーカーの特徴でもある機械振動の音質感覚の利用
ボイスコイルのインピーダンス特性の精密な測定方法
インピーダンス特性とコーンの振動との関係
半径方向に堅く中心軸方向に柔らかいバネ
デスクワークで設計試作検証ができる小形スピーカーの設計製作方法
設計試作検証改善のサイクルを短くして短期間にカットアンドトライの回数を稼ぐ方法
【背景技術】
【0002】
本案の開発過程における考察 その1.測定方法について。
小型軽量のスピーカーシステムの設計のための特性測定に関し、
構成する部品の属性と再生特性の相互関係の掌握は難しい。
振動測定はより直接的ではあるが、
測定対象 と スピーカーシステムとして機能を成す状態 との関係において、
思うように測定できない、もしくは、測定作業が面倒である。
SPLで測定しても、具体的な改善部分のシューティング方法が見え難い。
一方、直接的ではないが、ボイスコイルのインピーダンス特性は、
物理的な振動条件と対応していて、特性から振動モードの推定が容易であることから、
より客観的な状態を把握できる。
理想スピーカーではコーンの振幅特性が高音域に向かって -20dB/Decade の傾斜を持つことから、供試品の特性
図3 から、インピーダンスと振動振幅の関係に関連性が
あることを確認できる。
試作、測定、改善設計、そして試作、の繰り返しのサイクル数を上げることは完成度の
進行速度に決定的な影響を持つ。できる限りリアルタイムに近い方法が望ましい。
その点、インピーダンスの測定は極めて有効である。
【0003】
本案の開発過程における考察 その2.ボイスコイル巻線抵抗を相殺する測定について、音響放射と直接に関係するインピーダンスの測定は低音域で有効である。しかしながら、小形スピーカーの場合、動作状態にあるボイスコイルのインピーダンス特性は巻線の
抵抗と巻線のインダクタンスに支配されて、
肝心の、音響振動に対応するインピーダンス成分 は通常のインピーダンス特性からは
確認できない。
小形スピーカーの場合、商品価値として求められるのは低音再生の 強度と周波数範囲
であることから、ボイスコイルの直流抵抗成分を差し引くことで、
低音域特性に関し、かなり正確に、音響振動に対応するインピーダンス成分を測定することができる。結果、振動を測定すっる方法に比べ、測定時間を大幅に短縮できる。
さらに、どのような使用条件にあっても測定できる、という便利さもある。
以上の理由で、本案の検証と説明には、
ボイスコイルの直流抵抗を差し引いたインピーダンス特性の測定結果を用いる。
このことは、本案の本質ではないが、
本案に至る過程における、現状分析と改善と結果分析を説明する上で意味がある。
【0004】
本案の開発過程における考察 その3.供試品のインピーダンス特性について
図1は供試品のインピーダンス特性の説明図である。
横軸は周波数、縦軸はインピーダンス比である。
10 ohm Resistor は10オームの純抵抗、Total VCI はボイスコイルの巻線抵抗を含む総合インピーダンス特性である。
VCI は 2kHzより低い周波数帯では、ほぼ横ばいであるが、これは、供試品が小型であるために低音域のインピーダンス特性の主成分がボイスコイルの巻線抵抗であることによる。
VCI with no-Magnet は巻線の抵抗を相殺した後の、インピーダンス特性である。
100Hz以上の 20dB/Decade の傾斜はボイスコイルのインダクタンスによる。
100Hz以下 Measuring Error by Noise の範囲は測定系のノイズの影響である。
これらの特性はボイスコイルの巻線抵抗成分が相殺されていることから、
音響変換系のインピーダンスに近い特性である。音響変換系のインピーダンスを検証することで、変換系の設計や改良のシューティング精度が高まり作業効率が格段に高くなる。
【0005】
本案の開発過程における考察 その4.インピーダンスと振動の関係について
スピーカーが身体に装着される場合、本案のスピーカーシステムの身体への密着度によってインピーダンス特性は大きく変化する。
通常のインピーダンス特性ではその違いは見えない。
このことは、小型スピーカーの低音域における変換効率が著しく低いことによる。
図1の F0 Fm Fh は極大点であるが、それらの極大点の隣には極小点が現れる。
インピーダンス特性の谷の部分は、
ボイスコイルの磁気回路に対する振幅が小さくなる振動モードであり、
山の部分は、
谷とは逆にボイスコイルの磁気回路に対する振幅が大きくなる振動モードである。
即ち、モーターと同じで、電圧一定の条件で、
負荷が軽くなると電流が減少し、負荷が重くなると電流が増大する、ことによる。
Fm に関し、磁気回路とボイスコイルの動きが同相の場合、
ボイスコイルのインピーダンスが小さくなる理由は、
ボイスコイルの振動が磁気回路の振動に加算されることから、
ボイスコイルの負荷が大きくなることにある。
Fm に関し、逆に、磁気回路とボイスコイルの動きが逆相の場合、
ボイスコイルのインピーダンスが大きくなる理由は、
ボイスコイルの振動が磁気回路の振動分、減算されることから、
ボイスコイルの負荷が小さくなることにある。
このような共振の利用によって、共振点付近で出力音圧に手を加えることができる。
小形スピーカーシステムの場合、低音域ではエネルギー変換効率は極めて小さく音響放射インピーダンスはボイスコイルの巻線抵抗によって定電流駆動されている状態である。
従って、インピーダンスが大きくなる Fm 付近では、音響放射エネルギーが大きく増える方向に改善される。インピーダンス小さくなる Fm 付近では、ボイスコイルと
マグネットの振動が加算されているので、コーンの振動振幅は増える方向に改善される。そして、どの周波数に高効率の再生性能の特徴を設計するか、使われる条件に対応できるべくその選択の自由度が重要である。
例えば、
中低音を犠牲にして、超低音側に重点を置く。
超低音を犠牲にして、中音と中低音をまとめ、音質のバランスに重点を置く。
などの音質の選択である。
小形、軽量、低コスト、という必修条件下では、
トレードオフ関係の上限を広げること と トレードオフ関係にある複数のポイントを
自在に設計できる自由度が重要である。
ロードホーンを使う場合、
ロードホーンによる共振点より低い周波数帯域で、コーンによる音響放射とロードホーンからの音響放射が逆相となって相殺され、歪成分が残る。
従って、
再生信号処理側でその帯域を遮断することが望ましい。
従って、
ロードホーンによる共振 Fh を 磁気回路の共振 Fm より高い周波数帯域に設定すると、 Fm の帯域で好ましくない再生音質となる。
設計の自由度の観点からはどちらでもいいが、
実用的に Fh は Fm より低い周波数帯域に設定することが望ましい。
【0006】
本案の開発過程における考察 その5.設計の自由度を広げるに関して
設計の自由度を上げるために、
小型軽量でも大きなボイスコイルの駆動力
特に、軽量である磁気回路
の2項目が最重要である。加えて
全体に構造が簡素
プラスティック材料を使う構造体の3DCADによる設計と3Dプリンターによる試作
特にマグネットホルダーとそれを保持する磁気回路スプリングの試作と組換可能な構造
繰り返し改良作業
など、設計環境や改良のための頻繁な繰り返し作業ができる基本設計が重要である。
【0007】
本案の開発過程における考察 その6.マグネットに関して
スピーカーは誕生以来、長い歴史を持っている。
磁気回路とボイスコイルとコーンとキャビネットがあれば、簡単に作ることができる。
しかし音波は、
空間に放射するエネルギーであること、
低周波ではあるが広帯域であること、
から帯域内の振動現象と放射エネルギーの関係の詳細な掌握は容易ではない。
あるいは、
形状、大きさ、重量、に限界までの小形化が要求される場合、従来の経験の延長線上に
解を見出すことは簡単ではない。
特に磁気回路に関して、最小限の質量で必要な駆動力を得るには、
マグネットの形状と着磁方法が重要な課題である。
本案の供試品は、
図3に示すように、リングマグネットを使っている。
双方とも半径方向に着磁を施している。この着磁は一般のコンシューマ向けスピーカーの製造現場では用いられてない。
着磁前までのリングマグネットの製造までは簡単にできるが、着磁には高価な着磁治具が必要である。このことから、
一般のスピーカー製造工場では半径方向に着磁のリングマグネットが使える環境はない。特に、スピーカーの製造現場は極度に分業化されていて、ユニットの最終工程である組立工場では、磁気回路、振動、高効率設計、応用商品の信号処理との関係など、異なる分野の専門知識に精通していないことから、トレードオフ関係にある部品の属性の最適化という課題に対しベンダーに対するマネージメントが難しい。
小形軽量のスピーカーシステムの開発に際し、これらの障壁がある。
着磁装置には空芯状態での高い起磁力を得るための、しかし、簡単に改善できる簡素な
着磁構造と、の双方を満足する必要がある。
リングマフネットの半径方向の着磁装置は本案の本質ではないので説明を省略するが、
解に至る過程での最重要課題であることから、本案開発に先だって、
デスクワークでもって、リングマグネットの半径方向の着磁ができる装置の試作と、
リングマグネットのサイズに合わせて簡単に着磁治具を製作できる環境を整えた。
構造体を 3DCAD と 3Dプリンター を使ってデスクワークで試作できる環境は、
製造環境が貧弱な工業社会にあって、極めて有効な手法である、
そのような試作検証と整合する設計方法に関して、これは本案の本質ではないが、
本質に至る過程において極めて重要である。
【0008】
本案の開発過程における考察 その7.磁器回路スプリングに関して
磁気回路は質量が大きいので、磁気回路スプリングは軸ブレが小さく中心軸方向に自由度を自在に設計できるバネ構造が望ましい。ゴム成形品とか、布と樹脂の成形品では試作検証のサイクルが長すぎて用を成さない。この件に関してもデスクワークで試作検証ができるところの、3DCAD と 3Dプリンター で設計製作可能なバネ構造が求められる。本案の解に至る過程では この条件を満足するバネの構造も最重要課題である。
図4(c)に示すバネ構造は最適な方法の一つである。狭い隙間にかかわらず、半径方向に堅く、中心軸方向のスティフネスを厚みの変更によって、自在に選択できるところの
本案に必修のバネである。
軸ぶれが小さい要因について、
分割リングバネを構成する複数の中間リングのいずれかが、軸ぶれに対し、引っ張りの
ストレスを受ける。中間リングは円弧ではあるが線に近いので、引っ張りに対しては
スティフネスが極めて大きい。一方、中心軸方向のストレスに対しては通常のバネとして機能することから、高い線型度で広い範囲の振動に対応できる。
加えて、分割リングバネの厚みの調節で広範囲にバネのスティフネスを調節できる。
加えて、マグネットホルダーが回転方向に自在であることから、
バネの撓みに伴う回転方向の伸縮に対してもバネ両端に不要なストレスを発生させない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
実願 2015-3298
振動型スピーカーとその低音再生特性を補正する方法に関する。
振動型スピーカーは小形軽量のスピーカーユニットで低音再生範囲を広げるために強力な方法の一つであるが、強い共振特性を利用した低音再生効率の改善方法であることから広い再生帯域を得ることが難しい。信号処理によってこの弱点を補正する必要があるが、弱点に対し補正が過ぎると異常音を再生することになり、リニアリティの限界を超えないよう精密な補正を必要とする。
【0010】
特願 2018-178738
超低音の再生効率を上げるために、3種類の共振を組み合わせる。
3種類とは
第1に、音響放射に関する 本案 F0 相当 に加えて、
第2に、コーンを介したボイスコイルと磁気回路がフレームに装着された状態での
キャビネットとフレームを弾性体で結合させることによるスピーカーユニット全体の共振振動 に加えて
第3に、キャビネット内部の気密空間にさらに気密の空間を設け、その気密空間を振動させることによる。
小形高性能に向くが、モバイル用途ほどの小形軽量には向かない。
本案の本質であるところの、ボイスコイルと磁気回路が独立した振動系とは異なる。
【0011】
特願 2015-221089
請求項に記述の振動型スピーカーの構造に関する。
特願2010-251188 スピーカー装置
特願2011-514324 スピーカー装置
特開2010-097146 吸音構造群及び音響室
特開2010-097145 吸音構造群及び音響室
特開2010-031582 吸音構造群及び音響室
特開2007-336337 スピーカーシステムおよびスピーカーエンクロージャ
以上に記述されるスピーカーシステムの設計方法は低音再生性能の改善に関する。
【発明の概要】
【0012】
請求項で定義した用語と記号は明細書においても同様とする。
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
課題1。
モバイル用のスピーカーシステムとして、小型軽量しかも低音再生の強度と帯域を広げるに必要な、何度の高いトレードオフ関係にある複数のファクターに関し、
トレードオフの境界範囲を広げる手法が必要。
【0014】
課題2。
一義的な設計はもとより難しいことから、設計、試作、検証、改良 の一連のサイクルを短縮し、カットアンドトライの回数を増やすことで完成度を上げる。
そのための試作と組立と分解がしやすい構造。
【0015】
課題3。
通常、音響特性に関係するファクターと結果の関係に完全な独立要素は期待できない。
一つのファクターの変更が周辺の特性に影響を及ぼすことが一般的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
手段1
キャビネットを基準として、ボイスコイルと磁気回路がそれぞれ別々に振動するよう構成する。
【0017】
手段2
磁気回路を軽くして、磁気回路の機械的振動の共振周波数の選択範囲を広げる。
磁気回路にヨークを省いた2個のリングマグネットを使う。
さらに、必要な場合には、
駆動力とサイズと質量のトレードオフ境界領域を広げるために、最低限のヨークで2個のリングマグネットを連結し、充分ではないが、少なからず貢献できる磁路を構成する。
手段3
音響放射の共振周波数 F0 と 磁気回路の機械的共振周波数 Fm と
ロードホーンによる音響負荷の共振周波数 Fh の関係に関し、
Fh を超低音に設計し、F0 と Fh の中間に Fm を入れる。
【発明の効果】
【0018】
効果1
手段1によって、音響効果に影響する主要な共振点の数を増やすことができる。
共振点の数が増えると、その組み合わせによって、音質の特徴を顕著にできる。
【0019】
効果2。
手段2によって、磁気回路の軽量化を図り、小型軽量低音再生性能の境界領域を広げることができる。
【0020】
効果3。
手段3によって、Fh よりも低い周波数範囲の再生特性が著しく劣化するところの
かつ、低い周波数への設計が容易な Fh を最も低い周波数帯域に設けることで、
F0 との中間の帯域を広げる。Fh の高音域側の帯域に Fm を挿入することで、
Fh Fm F0 と繋ぐことができ、結果、低音再生帯域の選択自由度を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本案の一供試品を使ってのインピーダンス特性の説明図
【
図2】本案の磁気回路スプリングの弾性係数とインピーダンス特性の関係の説明図
【
図3】本案の供試品のインピーダンスとコーンの振動とSPLの特性の関連性の説明図
【
図4】本案の供試品の使い方によえるインピーダンス特性の違いの説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
主としてウェラブル用小形軽量スピーカーシステム。
【産業上の利用可能性】
【0023】
低音再生効率が高く、低音再生設計が容易な小型軽量スピーカーシステム
【実施例0024】
図1は、供試品のボイスコイルのインピーダンス特性である。通常のインピーダンス特性と、巻線の抵抗を相殺したインピーダンス特性の双方を示す。
横軸は周波数、縦軸は 10オームの純抵抗にM系列電流を流し、その両端電圧を -10dB とする比インピーダンスである。
【0025】
10ohm Resister は 10オーム純抵抗の両端電圧特性である。
Total VCI は供試品のボイスコイルの両端の電圧であって、10オーム を -10dB とするところの 比インピーダンス特性である。
供試品のボイスコイルの巻線抵抗が 10オーム であることから、2000Hz 以下では
横一直線の 10オーム である。2000Hz を超えると巻線のインダクタンスによって
右上がりとなる。
【0026】
Acoustic VCI with no-Magnet は磁気回路を外した状態での、ボイスコイルの巻線抵抗の電圧降下を相殺したインピーダンス特性である。100Hz 以上の 20dB/decade の
右上がりの特性は巻線のインダクタンスによるインピーダンスである。100Hz 以下の
Measuring Error by Noise の部分は測定系のノイズの影響による。
Acoustic VCI with F0 は音響放射共振 F0 だけの場合の特性である。Fm 付近の若干のインピーダンスの山は分割リングバネの振動停止が不完全であることによる。
Acoustic VCI with F0 & Fm は音響放射共振 F0 と 機械共振 Fm を持つ場合のインピーダンス特性例である。それぞれの山の右隣りに谷の特性を持つ。
【0027】
それぞれの山と谷はインダクタンスによる電圧降下との加減算になるので、位相関係を考慮して、ボイスコイルの振動と磁気回路の振動との相互関係を推定することができる。
供試品程度の小形スピーカーの場合 F0 に大幅な修正を加えることはできない。
そして、F0 は通常 300Hz から 4000Hz の付近にあることから、低音再生性能の
改善に際し F0 の利用は期待できない。現実的に 低音再生性能は Fh と Fm
で決定する。
【0028】
Fh は
図4(b)に示す ロードホーンの穴の直径変更で簡単に調節できるので、Fh
の修正は容易である。
Fm は
図4(c)に示す 分割リングバネの厚みの調節によって修正が容易である。
Fh の選択に関連しての留意点に関して、Fh から低い周波数帯で ロードホーンからの音波がコーンからの音波と逆位相関係にあって、音波の回折によって双方が相殺されることに配慮が必要である。超低音域で基本波が相殺されると、相殺されない非線型歪成分が、残ることで、音質の劣化が目立つ。
この点、スピーカーシステム全体の非線型歪の特性にも配慮して Fh を選択する。
一方、モバイル用途では耳に比較的近い位置でリスニングすることから、
ロードホーンからの音波の回折によって相殺される周波数帯を、例えばデスクトップ用途のものより低い周波数帯に設定できる。
特に、耳に近接する用途では、小形にもかかわらず、Fh を超低音域に設定できる。
【0029】
図2は供試品のインピーダンス特性である。
図5(c)に示す形状の、請求項4の分割リングバネを使って、その厚みを変えた場合の、インピーダンス特性の比較である。
Fm1 Fm2 Fm3 はそれぞれ 厚みが 1.5mm 2.1mm 3.0mm の場合の
分割リングバネを使っての特性の修正が簡単であることがを示す。
【0030】
図5(c)に示す形状の分割リングバネは 3DCAD と 3Dプリンター を使ってデスクワークで簡単に製作できることから、Fm を Fh との双方に関わるところの目的とする特性に追い込むこむ作業効率は極めて高い。
さらに Fm による最適特性への追い込み作業の際、
キャビネット側と外周リングの接合部、マグネットホルダー側と内周リングの結合部の
双方の構造を工夫することで、分割リングバネ交換作業を簡単にできる。
分割リングバネの交換作業を簡単にすることで、
ゴムの成形品や布と樹脂からなる成形品を使う方法に比べ比較にならないほど短期間で
Fm を目的の特性に追い込むことができる。
【0031】
加えて、ロードホーンに関しても、説明
図5(b)に示すように、背面キャップに設けてあることから、交換作業が簡単である。背面キャップと一体になったロードホーンも
3DCAD と 3Dプリンターで 簡単に修正可能である。
結果、
複数種類の Fm の分割リングバネと 複数種類の Fh のロードホーンとの
組合せによって、インピーダンス特性とリスニングによる音質との比較確認作業の
サイクルを著しく短縮できる。
【0032】
図3は、供試品のインピーダンスと振動振幅とSPLの特性相互間に関わる低音再生性能の説明図である。
VCI は ボイスコイルのインピーダンス特性、AMP は コーンの振動振幅特性、
SPL は スピーカーシステムの再生音圧特性である。
である。
理想的特性としては、 SPL は横一直線、AMP は -20dB/Decade、が望ましいが、
図3は、複雑な振動条件の重なりによって、現実的な特性となっているものの、
信号処理系でカバーできる程度には達している、と判断できる。
本案は、低音域の再生に関するので、供試品の中高音に関する説明を省略する。
一般的に、外径40mm 深さ18mm 質量18g 程度のスピーカーの SPL 特性は、
300Hz 付近から低音域へ向けて -20dB/Decade から -40dB/Decade の減衰特性を
持つ。
図中、Ideal AMP は振動振幅の理想特性である。
低音再生範囲を確保するには、AMP の特性はその範囲で -20dB/Decade を確保する必要がある。図中 AMP特性には凹凸はあるものの、50Hz から 300Hz の範囲で
-20dB/Decade の減衰特性を持っている。結果、その範囲の SPL特性は大雑把に平坦に
なっている。この範囲の特性は Fh と Fm の調節によって決定できる。
商品としての特性の選択はかならずしも理想ではなく、
重要なことは、商品企画のコンセプトに沿って特性を自在に調節できることである。
振動系で調整できない細かい補正は商品全体では信号処理系に委ねられる。
信号処理でムリなく補正できるレベルまで振動処理系で追い込むことが重要である。
【0033】
図4は、同じ供試品で、使い方によるインピーダンス特性の違いの説明図である。
Floating はスピーカーシステムを空中にぶら下げた場合の特性。
On the cloth はスピーカーシステムを厚み 約1cm の綿の上に置いた場合の特性
である。Floatingの場合の特性は
図3のそれと同じである。
供試品の背面にロードホーンの穴があって、この穴の空気流が綿によって制限されることから Fh の共振特性が抑制される。ロードホーンの外気側の出入り口をどこにどのように設けるかについては設計的に決定される。いずれにしても、使い方によって、インピーダンス特性は大きく影響を受ける。
【0034】
図5は、供試品の構造の説明図である。
501 は内側のリングマグネット、502 は外側のリングマグネットである。
501 と 502 の間に磁気ギャップを設ける。
この供試品はヨークを設けていないので、磁気ギャップの磁束密度は十分なヨークがある場合の 20% 程度にとどまる。しかし、漏えい磁束の範囲も広がることから、
ボイスコイルの可動範囲も含めてボイスコイルの巻き幅を選択することで、幾分の改善を図ることもできる。ヨークを省いての、低音再生性能の確保は小形軽量化にとって有効な方法の一つである。
【0035】
漏洩磁束の対策は商品として重要である。
方法としては、コーンの外側に 穴のあるキャップ設けることでも対処的に回避できる。実測値からではあるが、コーンから 3mm程度 あれば、漏えい磁束による問題はかなり改善できる。
漏洩磁束そのものを軽減させる方法については
図6で説明する。
【0036】
503はボイスコイル、504はコーン、505はエッジ、である。これらは一体化され、キャビネットに接着されている。小形軽量にするために、キャビネットがフレームの役割を持つ。
【0037】
506 は素材がプラスティックのマグネットホルダー、
507 は素材がプラスティック磁気回路スプリング、
5071、5072、5073 はそれぞれ、分割リングバネの
外周リング、内周リング、分割リング である。分割リングの一端は外周リングに、
他端は内周リングに結合されている。分割リングバネは、プラスティック成形で作り易い構造である。分割リングバネの軸方向の撓みは分割リングを介して外周リングと内周リングの間に回転撓みを生じさせる。
供試品は、キャビネットと磁器回路の中心軸の回転撓みがフリーになっていることから、この回転方向の撓みを吸収し、結果、分割リングに不要なストレスを生じさせない。
結果、磁器回路の振動による分割リングの劣化を抑える。
【0038】
508はキャビネット、509は背面キャップ、
510はロードホーンであって、背面キャップと一体である。
511はコーンの振動方向、512はマグネットホルダーの振動方向を示す。
図中 N S はリングマグネットの磁極を示す。NS 逆の着磁でもよい。
【0039】
キャビネットはボイスコイルの振動とマグネットの振動を支える。
しかし、キャビネットとボイスコイルとマグネットは
エッジと分割リングバネによって連結されているので、振動方向に自由度を持つことから、それぞれがどのような振動モードになるかについては、
スピーカーシステムが使われる状態に左右される。
キャビネットが身体に密着している場合はキャビネットを固定した状態の Fm 特性となるが、キャビネットが空間に浮いている状態ではマグネットの質量がキャビネットより大きいので、振動の基軸がマグネット側に偏る。結果、キャビネットが振動し、その振動がエッジを介してボイスコイルに伝わる。この場合の振動モードは複雑であるが、
前もって、実使用状態でのインピーダンス特性と再生音質の関係を掌握しておくことで、インピーダンス特性を確認しながら 最適な Fm に追い込むことができる。
いずれにしても、低音域の再生音質は Fh と Fm によって決定できるので、
同じ基本構造であっても、用途に対応して設計対応できる。
【0040】
図6は、磁器回路の構成例である。
図6(a)は本案供試品の、ヨークが無い、2個のリングマグネットの配置を示す。
6a1 は内周リング、6a2 は外周リング、である。供試品はネオジウムマグネットを使っている。ヨークが無く軽いが漏洩磁束が大きいのが欠点である。
図6(b)は本案説明の供試品ではないが、リングマグネットとU字ヨークと組み合わせた請求項4の磁気回路である。2個のリングマグネットをU字溝に組込んだ状態を示す。6b1 は内側のリングマグネット、6b2 は外側のリングマグネット、
6b3 はU字ヨークである。
図のU字ヨークは十分な断面積を持つヨークではないが、与えられた質量の範囲で、
マグネット量の軽減、漏えい磁束の軽減、磁気ギャップの磁束密度の強化、
の3条件を最適化するための選択肢の一つである。
6b4 と 6b5 は2個のリングマグネットの位置決めのためのスペーサーである。組み立て方法や、U字ヨークの形状によっては省くことができる。
U字ヨークの形状によっては、分割リングバネをU字ヨークに直結し、
マグネットホルダーとしての機能を兼用できる。
【0041】
図7は供試品の写真である。
(a)は全体、(b)は背面キャップ、(c)はキャビネットの内部、
(d)は磁器回路周り
である。
7a1 はコーンのバックラッシュ異常振動を防ぐ部品である。本案の本質とは無関係であるが、供試品のコーンが低音の振動振幅に耐えられず、バックラッシュをともなう振動を起こしたことから、低音再生の仕上げと評価の支障を除くために一時的に設けた補強格子である。
7a2 はコーンの振動振幅測定用の光を反射するためのラベルである。
7a3 は組立分解組立のサイクルを容易にするための部品固定用の紙テープである。
7b1 は背面キャップ、7b2 は背面キャップに設けたロードホーン、
7c1 はキャビネット、7c2 はボイスコイル、7c3 はコーンである。
7d1 は 分割リングバネ。外周リングと内周リングと分割リングからなる。
7d2 はマグネットホルダー。分割リングバネを介してキャビネットに連結される。
7d3 は内側リングマグネット、7d4 は外側リングマグネットである。
部品構成が簡素であるばかりでなく、低音再生特性に影響する部品の交換が極めて容易である。部品単位で発注できることから分業化が進んだ生産現場に適した構造である。
【0042】
供試品のスピーカーシステムの概略仕様
外直径 40 [mm]
高さ 18 [mm]
全質量 19 [g]
放射窓面積 8 [cm^2]
リングマグネット 10 [g/2個]/ネオジウムマグネット/半径方向に着磁
分割リングバネ厚み 1.8 [mm]
ロードホーン 4 [mm/直径] 11.5 [mm]/長さ
ボイスコイル駆動力 0.89 [N/A/10ohm]
ボイスコイルの可動範囲 +-2.7 [mm]
エッジの弾性係数 1 [mm/6gW]
分割リングバネ弾性係数 1 [mm/79gW]
内容物を含むキャビネット容積 17.2 [cm^3]
このサイズのスピーカーシステムのボイスコイルの駆動力は 2 [N/A] から 3 [N/A]
であることから、しかし駆動範囲が狭く、低音再生能力が低いので、本案供試品の性能はかなり満足できる水準にある、と判断できる。
【0043】
請求項1の本質は、
図3に示す Fm を設けること。そして Fm を自在に調節するところにある
Fm の調節は
図3のSPL特性が、300Hz以下 の範囲で、
できるかぎり広く、できるかぎり横ばいの特性を得るための方法にある。
F0 の修正には限界がある。
Fh は超低音域が望ましい。
Fm を調節することで、振動振幅特性を Ideal AMP の理想特製を中心に、商品の目的に沿った特性に仕上げる。そのためには Fm の自在な調節が必要である。
Fm の自在な調節は、磁器回路を 磁気回路スプリング を介してキャビネットに連結することで実現できる。
【0044】
請求項2の本質は、磁気回路をできる限りの大振幅で振動させ、なお、Fm を Fh と F0 の中間域で自在に修正できるところにある。
そのためには、磁気回路の質量が小さくなければならない。
半径方向に着磁したリングマグネットの使用は一つの解決方法である。
通常の方法でヨークを使うと磁路の容積が大きくなり質量が大幅に増える。
【0045】
請求項3の本質は、
不十分ではあるが、容積の小さいヨークと半径方向に着磁したリングマグネットを使うことにより、
ヨークがないの場合の課題の一つである漏洩磁束によるスピーカーシステムへの磁性体の吸着を軽減すること、
リングマグネット容積を減らしてコストダウンを図ること、
磁気ギャップの磁束密度を強化すること、
の3条件の間でトレードオフにより商品として全体を最適化するところにある。
【0046】
請求項4の本質について、
磁器回路をキャビネットに対し振動させるに関し、特性の良好な Fm を自在に調節できるところにある。
スティフネスの調整が簡単であること、
スティネスの線型度が高こと、
線型度の高い範囲が広いと、
狭いスペースに入ること、
組み立てしやすいこと、
3Dプリンターで試作できること
を満足する、プラスティック成形可能な分割リングバネは最良の解決方法の一つである。
【符号の説明】
【0047】
Voice Coil Impedance グラフがボイスコイルのインピーダンス特性
10ohm Resister 10オーム純抵抗の特性
Total VCI ボイスコイルの両端の比インピーダンス特性例
F0 コーンの音響放射共振周波数
Fh ロードホーンによる共振周波数
Fm 機械振動の共振周波数
Acoustic VCI with no-Magnet 巻線抵抗の電圧降下を相殺したインピーダンス特性例
Measuring Error by Noise 測定系のノイズの影響
Acoustic VCI with F0 F0 だけを持つ倍のインピーダンス特性例
Acoustic VCI with F0 & Fm F0 と Fm を持つ場合のインピーダンス特性例
【0048】
Fm1 Fm2 Fm3 分割リングバネが 1.5,2.1,3mm のインピーダンス特性
【0049】
{ Impedance & Vibration & SPL }/Floating/5cm 供試品を浮かした場合の
インピーダンス,振動振幅、SPL/5cm の特性例
VCI ボイスコイルのインピーダンス特性
AMP コーンの振動振幅特性
SPL スピーカーシステムのSPL特性
Ideal AMP 理想とする振動振幅特性
【0050】
{ Voiced Coil Impedance }/Using Condition 供試品の使用状態の違いによる特性
Floating 供試品を空中にぶら下げた場合のインピーダンス特性。
On the cloth は供試品を厚み 約1cm の綿の上に置いた場合のインピーダンス特性
【0051】
501 内側のリングマグネット
502 外側のリングマグネット
503 ボイスコイル
504 コーン
505 エッジ
506 マグネットホルダー
507 分割リングバネ または 磁気回路スプリング
5071、5072、5073 それぞれ 外周リング、内周リング、分割リング
508 キャビネット
509 背面キャップ
510 ロードホーン
511 コーンの振動方向
512 マグネットホルダーの振動方向
N、S リングマグネットの磁極
【0052】
6a1 内側のリングマグネット
6a2 外側のリングマグネット
6b1 内周リング
6b2 外周リング
6b3 U字ヨーク
6b4、6b5 スペーサー
【0053】
7a1 コーンのバックラッシュ異常振動を防ぐ供試品の応急対策部品
7a2 振動振幅測定用の光反射ラベル
7a3 組立分解組立のサイクルを容易にするための構成部品を固定する紙テープ
7b1 背面キャップ
7b2 ロードホーン
7c1 キャビネット
7c2 ボイスコイル
7c3 コーン
7d1 分割リングバネ
7d2 マグネットホルダー
7d3 内側リングマグネット
7d4 外側リングマグネット
【手続補正書】
【提出日】2022-09-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リングマグネットの半径方向への着磁
異なる共振特性の組合せによる低音再生の最適化
モバイルスピーカーの特徴でもある機械振動の音質感覚の利用
ボイスコイルのインピーダンス特性の精密な測定方法
インピーダンス特性とコーンの振動との関係
半径方向に堅く中心軸方向に柔らかいバネ
デスクワークで設計試作検証ができる小形スピーカーの設計製作方法
設計試作検証改善のサイクルを短くして短期間にカットアンドトライの回数を稼ぐ方法
【背景技術】
【0002】
本案の開発過程における考察 その1.測定方法について。
小型軽量のスピーカーシステムの設計のための特性測定に関し、
構成する部品の属性と再生特性の相互関係の掌握は難しい。
振動測定はより直接的ではあるが、
測定対象 と スピーカーシステムとして機能を成す状態 との関係において、
思うように測定できない、もしくは、測定作業が面倒である。
SPLで測定しても、具体的な改善部分のシューティング方法が見え難い。
一方、直接的ではないが、ボイスコイルのインピーダンス特性は、
物理的な振動条件と対応していて、特性から振動モードの推定が容易であることから、
より客観的な状態を把握できる。
理想スピーカーではコーンの振幅特性が高音域に向かって -20dB/Decade の傾斜を持つことから、供試品の特性
図3 から、インピーダンスと振動振幅の関係に関連性が
あることを確認できる。
試作、測定、改善設計、そして試作、の繰り返しのサイクル数を上げることは完成度の
進行速度に決定的な影響を持つ。できる限りリアルタイムに近い方法が望ましい。
その点、インピーダンスの測定は極めて有効である。
【0003】
本案の開発過程における考察 その2.ボイスコイル巻線抵抗を相殺する測定について、
音響放射と直接に関係するインピーダンスの測定は低音域で有効である。しかしながら、
小形スピーカーの場合、動作状態にあるボイスコイルのインピーダンス特性は巻線の
抵抗と巻線のインダクタンスに支配されて、
肝心の、音響振動に対応するインピーダンス成分 は通常のインピーダンス特性からは
確認できない。
小形スピーカーの場合、商品価値として求められるのは低音再生の 強度と周波数範囲
であることから、ボイスコイルの直流抵抗成分を差し引くことで、
低音域特性に関し、かなり正確に、音響振動に対応するインピーダンス成分を測定することができる。結果、振動を測定する方法に比べ、測定時間を大幅に短縮できる。
さらに、どのような使用条件にあっても測定できる、という便利さもある。
以上の理由で、本案の検証と説明には、
ボイスコイルの直流抵抗を差し引いたインピーダンス特性の測定結果を用いる。
このことは、本案の本質ではないが、
本案に至る過程における、現状分析と改善と結果分析を説明する上で意味がある。
【0004】
本案の開発過程における考察 その3.供試品のインピーダンス特性について
図1は供試品のインピーダンス特性の説明図である。
横軸は周波数、縦軸はインピーダンス比である。
10 ohm Resistor は10オームの純抵抗、Total VCI はボイスコイルの巻線抵抗を含む総合インピーダンス特性である。
VCI は 2kHzより低い周波数帯では、ほぼ横ばいであるが、これは、供試品が小型であるために低音域のインピーダンス特性の主成分がボイスコイルの巻線抵抗であることによる。
VCI with no-Magnet は巻線の抵抗を相殺した後の、インピーダンス特性である。
100Hz以上の 20dB/Decade の傾斜はボイスコイルのインダクタンスによる。
100Hz以下 Measuring Error by Noise の範囲は測定系のノイズの影響である。
これらの特性はボイスコイルの巻線抵抗成分が相殺されていることから、
音響変換系のインピーダンスに近い特性である。音響変換系のインピーダンスを検証することで、変換系の設計や改良のシューティング精度が高まり作業効率が格段に高くなる。
【0005】
本案の開発過程における考察 その4.インピーダンスと振動の関係について
スピーカーが身体に装着される場合、本案のスピーカーシステムの身体への密着度によってインピーダンス特性は大きく変化する。
通常のインピーダンス特性ではその違いは見えない。
このことは、小型スピーカーの低音域における変換効率が著しく低いことによる。
図1の F0 Fm Fh は極大点であるが、それらの極大点の隣には極小点が現れる。
インピーダンス特性の谷の部分は、
ボイスコイルの磁気回路に対する振幅が小さくなる振動モードであり、
山の部分は、
谷とは逆にボイスコイルの磁気回路に対する振幅が大きくなる振動モードである。
即ち、モーターと同じで、電圧一定の条件で、
負荷が軽くなると電流が減少し、負荷が重くなると電流が増大する、ことによる。
Fm に関し、磁気回路とボイスコイルの動きが同相の場合、
ボイスコイルのインピーダンスが小さくなる理由は、
ボイスコイルの振動が磁気回路の振動に加算されることから、
ボイスコイルの負荷が大きくなることにある。
Fm に関し、逆に、磁気回路とボイスコイルの動きが逆相の場合、
ボイスコイルのインピーダンスが大きくなる理由は、
ボイスコイルの振動が磁気回路の振動分、減算されることから、
ボイスコイルの負荷が小さくなることにある。
このような共振の利用によって、共振点付近で出力音圧に手を加えることができる。
小形スピーカーシステムの場合、低音域ではエネルギー変換効率は極めて小さく音響放射インピーダンスはボイスコイルの巻線抵抗によって定電流駆動されている状態である。
従って、インピーダンスが大きくなる Fm 付近では、音響放射エネルギーが大きく増える方向に改善される。インピーダンス小さくなる Fm 付近では、ボイスコイルと
マグネットの振動が加算されているので、コーンの振動振幅は増える方向に改善される。
そして、どの周波数に高効率の再生性能の特徴を設計するか、使われる条件に対応できるべくその選択の自由度が重要である。
例えば、
中低音を犠牲にして、超低音側に重点を置く。
超低音を犠牲にして、中音と中低音をまとめ、音質のバランスに重点を置く。
などの音質の選択である。
小形、軽量、低コスト、という必修条件下では、
トレードオフ関係の上限を広げること と トレードオフ関係にある複数のポイントを
自在に設計できる自由度が重要である。
ロードホーンを使う場合、
ロードホーンによる共振点より低い周波数帯域で、コーンによる音響放射とロードホーンからの音響放射が逆相となって相殺され、歪成分が残る。
従って、
再生信号処理側でその帯域を遮断することが望ましい。
従って、
ロードホーンによる共振 Fh を 磁気回路の共振 Fm より高い周波数帯域に設定すると、 Fm の帯域で好ましくない再生音質となる。
設計の自由度の観点からはどちらでもいいが、
実用的に Fh は Fm より低い周波数帯域に設定することが望ましい。
【0006】
本案の開発過程における考察 その5.設計の自由度を広げるに関して
設計の自由度を上げるために、
小型軽量でも大きなボイスコイルの駆動力
特に、軽量である磁気回路
の2項目が最重要である。加えて
全体に構造が簡素
プラスティック材料を使う構造体の3DCADによる設計と3Dプリンターによる試作
特にマグネットホルダーとそれを保持する磁気回路スプリングの試作と組換可能な構造
繰り返し改良作業
など、設計環境や改良のための頻繁な繰り返し作業ができる基本設計が重要である。
【0007】
本案の開発過程における考察 その6.マグネットに関して
スピーカーは誕生以来、長い歴史を持っている。
磁気回路とボイスコイルとコーンとキャビネットがあれば、簡単に作ることができる。
しかし音波は、
空間に放射するエネルギーであること、
低周波ではあるが広帯域であること、
から帯域内の振動現象と放射エネルギーの関係の詳細な掌握は容易ではない。
あるいは、
形状、大きさ、重量、に限界までの小形化が要求される場合、従来の経験の延長線上に
解を見出すことは簡単ではない。
特に磁気回路に関して、最小限の質量で必要な駆動力を得るには、
マグネットの形状と着磁方法が重要な課題である。
本案の供試品は、
図3に示すように、リングマグネットを使っている。
双方とも半径方向に着磁を施している。この着磁は一般のコンシューマ向けスピーカーの製造現場では用いられてない。
着磁前までのリングマグネットの製造までは簡単にできるが、着磁には高価な着磁治具が必要である。このことから、
一般のスピーカー製造工場では半径方向に着磁のリングマグネットが使える環境はない。
特に、スピーカーの製造現場は極度に分業化されていて、ユニットの最終工程である組立工場では、磁気回路、振動、高効率設計、応用商品の信号処理との関係など、異なる分野の専門知識に精通していないことから、トレードオフ関係にある部品の属性の最適化という課題に対しベンダーに対するマネージメントが難しい。
小形軽量のスピーカーシステムの開発に際し、これらの障壁がある。
着磁装置には空芯状態での高い起磁力を得るための、しかし、簡単に改善できる簡素な
着磁構造と、の双方を満足する必要がある。
リングマフネットの半径方向の着磁装置は本案の本質ではないので説明を省略するが、
解に至る過程での最重要課題であることから、本案開発に先だって、
デスクワークでもって、リングマグネットの半径方向の着磁ができる装置の試作と、
リングマグネットのサイズに合わせて簡単に着磁治具を製作できる環境を整えた。
構造体を 3DCAD と 3Dプリンター を使ってデスクワークで試作できる環境は、
製造環境が貧弱な工業社会にあって、極めて有効な手法である、
そのような試作検証と整合する設計方法に関して、これは本案の本質ではないが、
本質に至る過程において極めて重要である。
【0008】
本案の開発過程における考察 その7.磁器回路スプリングに関して
磁気回路は質量が大きいので、磁気回路スプリングは軸ブレが小さく中心軸方向に自由度を自在に設計できるバネ構造が望ましい。ゴム成形品とか、布と樹脂の成形品では試作検証のサイクルが長すぎて用を成さない。この件に関してもデスクワークで試作検証ができるところの、3DCAD と 3Dプリンター で設計製作可能なバネ構造が求められる。本案の解に至る過程では この条件を満足するバネの構造も最重要課題である。
図4(c)に示すバネ構造は最適な方法の一つである。狭い隙間にかかわらず、半径方向に堅く、中心軸方向のスティフネスを厚みの変更によって、自在に選択できるところの
本案に必修のバネである。
軸ぶれが小さい要因について、
分割リングバネを構成する複数の中間リングのいずれかが、軸ぶれに対し、引っ張りの
ストレスを受ける。中間リングは円弧ではあるが線に近いので、引っ張りに対しては
スティフネスが極めて大きい。一方、中心軸方向のストレスに対しては通常のバネとして機能することから、高い線型度で広い範囲の振動に対応できる。
加えて、分割リングバネの厚みの調節で広範囲にバネのスティフネスを調節できる。
加えて、マグネットホルダーが回転方向に自在であることから、
バネの撓みに伴う回転方向の伸縮に対してもバネ両端に不要なストレスを発生させない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
実願 2015-3298
振動型スピーカーとその低音再生特性を補正する方法に関する。
振動型スピーカーは小形軽量のスピーカーユニットで低音再生範囲を広げるために強力な方法の一つであるが、強い共振特性を利用した低音再生効率の改善方法であることから広い再生帯域を得ることが難しい。信号処理によってこの弱点を補正する必要があるが、弱点に対し補正が過ぎると異常音を再生することになり、リニアリティの限界を超えないよう精密な補正を必要とする。
【0010】
特願 2018-178738
超低音の再生効率を上げるために、3種類の共振を組み合わせる。
3種類とは
第1に、音響放射に関する 本案 F0 相当 に加えて、
第2に、コーンを介したボイスコイルと磁気回路がフレームに装着された状態での
キャビネットとフレームを弾性体で結合させることによるスピーカーユニット全体の共振振動 に加えて
第3に、キャビネット内部の気密空間にさらに気密の空間を設け、その気密空間を振動させることによる。
小形高性能に向くが、モバイル用途ほどの小形軽量には向かない。
本案の本質であるところの、ボイスコイルと磁気回路が独立した振動系とは異なる。
【0011】
特願 2015-221089
請求項に記述の振動型スピーカーの構造に関する。
特願2010-251188 スピーカー装置
特願2011-514324 スピーカー装置
特開2010-097146 吸音構造群及び音響室
特開2010-097145 吸音構造群及び音響室
特開2010-031582 吸音構造群及び音響室
特開2007-336337 スピーカーシステムおよびスピーカーエンクロージャ
以上に記述されるスピーカーシステムの設計方法は低音再生性能の改善に関する。
【発明の概要】
【0012】
請求項で定義した用語と記号は明細書においても同様とする。
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
課題1。
モバイル用のスピーカーシステムとして、小型軽量しかも低音再生の強度と帯域を広げるに必要な、何度の高いトレードオフ関係にある複数のファクターに関し、
トレードオフの境界範囲を広げる手法が必要。
【0014】
課題2。
一義的な設計はもとより難しいことから、設計、試作、検証、改良 の一連のサイクルを短縮し、カットアンドトライの回数を増やすことで完成度を上げる。
そのための試作と組立と分解がしやすい構造。
【0015】
課題3。
通常、音響特性に関係するファクターと結果の関係に完全な独立要素は期待できない。
一つのファクターの変更が周辺の特性に影響を及ぼすことが一般的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
手段1
キャビネットを基準として、ボイスコイルと磁気回路がそれぞれ別々に振動するよう構成する。
【0017】
手段2
磁気回路を軽くして、磁気回路の機械的振動の共振周波数の選択範囲を広げる。
磁気回路にヨークを省いた2個のリングマグネットを使う。
さらに、必要な場合には、
駆動力とサイズと質量のトレードオフ境界領域を広げるために、最低限のヨークで2個のリングマグネットを連結し、充分ではないが、少なからず貢献できる磁路を構成する。
手段3
音響放射の共振周波数 F0 と 磁気回路の機械的共振周波数 Fm と
ロードホーンによる音響負荷の共振周波数 Fh の関係に関し、
Fh を超低音に設計し、F0 と Fh の中間に Fm を入れる。
【発明の効果】
【0018】
効果1
手段1によって、音響効果に影響する主要な共振点の数を増やすことができる。
共振点の数が増えると、その組み合わせによって、音質の特徴を顕著にできる。
【0019】
効果2。
手段2によって、磁気回路の軽量化を図り、小型軽量低音再生性能の境界領域を広げることができる。
【0020】
効果3。
手段3によって、Fh よりも低い周波数範囲の再生特性が著しく劣化するところの
かつ、低い周波数への設計が容易な Fh を最も低い周波数帯域に設けることで、
F0 との中間の帯域を広げる。Fh の高音域側の帯域に Fm を挿入することで、
Fh Fm F0 と繋ぐことができ、結果、低音再生帯域の選択自由度を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本案の一供試品を使ってのインピーダンス特性の説明図
【
図2】本案の磁気回路スプリングの弾性係数とインピーダンス特性の関係の説明図
【
図3】本案の供試品のインピーダンスとコーンの振動とSPLの特性の関連性の説明図
【
図4】本案の供試品の使い方によえるインピーダンス特性の違いの説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
主としてウェラブル用小形軽量スピーカーシステム。
【産業上の利用可能性】
【0023】
低音再生効率が高く、低音再生設計が容易な小型軽量スピーカーシステム
【実施例0024】
図1は、供試品のボイスコイルのインピーダンス特性である。通常のインピーダンス特性と、巻線の抵抗を相殺したインピーダンス特性の双方を示す。
横軸は周波数、縦軸は 10オームの純抵抗にM系列電流を流し、その両端電圧を -10dB とする比インピーダンスである。
【0025】
10ohm Resister は 10オーム純抵抗の両端電圧特性である。
Total VCI は供試品のボイスコイルの両端の電圧であって、10オーム を -10dB とするところの 比インピーダンス特性である。
供試品のボイスコイルの巻線抵抗が 10オーム であることから、2000Hz 以下では
横一直線の 10オーム である。2000Hz を超えると巻線のインダクタンスによって
右上がりとなる。
【0026】
Acoustic VCI with no-Magnet は磁気回路を外した状態での、ボイスコイルの巻線抵抗の電圧降下を相殺したインピーダンス特性である。100Hz 以上の 20dB/decade の
右上がりの特性は巻線のインダクタンスによるインピーダンスである。100Hz 以下の
Measuring Error by Noise の部分は測定系のノイズの影響による。
Acoustic VCI with F0 は音響放射共振 F0 だけの場合の特性である。Fm 付近の若干のインピーダンスの山は分割リングバネの振動停止が不完全であることによる。
Acoustic VCI with F0 & Fm は音響放射共振 F0 と 機械共振 Fm を持つ場合のインピーダンス特性例である。それぞれの山の右隣りに谷の特性を持つ。
【0027】
それぞれの山と谷はインダクタンスによる電圧降下との加減算になるので、位相関係を考慮して、ボイスコイルの振動と磁気回路の振動との相互関係を推定することができる。
供試品程度の小形スピーカーの場合 F0 に大幅な修正を加えることはできない。
そして、F0 は通常 300Hz から 4000Hz の付近にあることから、低音再生性能の
改善に際し F0 の利用は期待できない。現実的に 低音再生性能は Fh と Fm
で決定する。
【0028】
Fh は
図4(b)に示す ロードホーンの穴の直径変更で簡単に調節できるので、Fh
の修正は容易である。
Fm は
図4(c)に示す 分割リングバネの厚みの調節によって修正が容易である。
Fh の選択に関連しての留意点に関して、Fh から低い周波数帯で ロードホーンからの音波がコーンからの音波と逆位相関係にあって、音波の回折によって双方が相殺されることに配慮が必要である。超低音域で基本波が相殺されると、相殺されない非線型歪成分が、残ることで、音質の劣化が目立つ。
この点、スピーカーシステム全体の非線型歪の特性にも配慮して Fh を選択する。
一方、モバイル用途では耳に比較的近い位置でリスニングすることから、
ロードホーンからの音波の回折によって相殺される周波数帯を、例えばデスクトップ用途のものより低い周波数帯に設定できる。
特に、耳に近接する用途では、小形にもかかわらず、Fh を超低音域に設定できる。
【0029】
図2は供試品のインピーダンス特性である。
図5(c)に示す形状の、請求項4の分割リングバネを使って、その厚みを変えた場合の、インピーダンス特性の比較である。
Fm1 Fm2 Fm3 はそれぞれ 厚みが 1.5mm 2.1mm 3.0mm の場合の
分割リングバネを使っての特性の修正が簡単であることがを示す。
【0030】
図5(c)に示す形状の分割リングバネは 3DCAD と 3Dプリンター を使ってデスクワークで簡単に製作できることから、Fm を Fh との双方に関わるところの目的とする特性に追い込むこむ作業効率は極めて高い。
さらに Fm による最適特性への追い込み作業の際、
キャビネット側と外周リングの接合部、マグネットホルダー側と内周リングの結合部の
双方の構造を工夫することで、分割リングバネ交換作業を簡単にできる。
分割リングバネの交換作業を簡単にすることで、
ゴムの成形品や布と樹脂からなる成形品を使う方法に比べ比較にならないほど短期間で
Fm を目的の特性に追い込むことができる。
【0031】
加えて、ロードホーンに関しても、説明
図5(b)に示すように、背面キャップに設けてあることから、交換作業が簡単である。背面キャップと一体になったロードホーンも
3DCAD と 3Dプリンターで 簡単に修正可能である。
結果、
複数種類の Fm の分割リングバネと 複数種類の Fh のロードホーンとの
組合せによって、インピーダンス特性とリスニングによる音質との比較確認作業の
サイクルを著しく短縮できる。
【0032】
図3は、供試品のインピーダンスと振動振幅とSPLの特性相互間に関わる低音再生性能の説明図である。
VCI は ボイスコイルのインピーダンス特性、AMP は コーンの振動振幅特性、
SPL は スピーカーシステムの再生音圧特性である。
である。
理想的特性としては、 SPL は横一直線、AMP は -20dB/Decade、が望ましいが、
図3は、複雑な振動条件の重なりによって、現実的な特性となっているものの、
信号処理系でカバーできる程度には達している、と判断できる。
本案は、低音域の再生に関するので、供試品の中高音に関する説明を省略する。
一般的に、外径40mm 深さ18mm 質量18g 程度のスピーカーの SPL 特性は、
300Hz 付近から低音域へ向けて -20dB/Decade から -40dB/Decade の減衰特性を
持つ。
図中、Ideal AMP は振動振幅の理想特性である。
低音再生範囲を確保するには、AMP の特性はその範囲で -20dB/Decade を確保する必要がある。図中 AMP特性には凹凸はあるものの、50Hz から 300Hz の範囲で
-20dB/Decade の減衰特性を持っている。結果、その範囲の SPL特性は大雑把に平坦になっている。この範囲の特性は Fh と Fm の調節によって決定できる。
商品としての特性の選択はかならずしも理想ではなく、
重要なことは、商品企画のコンセプトに沿って特性を自在に調節できることである。
振動系で調整できない細かい補正は商品全体では信号処理系に委ねられる。
信号処理でムリなく補正できるレベルまで振動処理系で追い込むことが重要である。
【0033】
図4は、同じ供試品で、使い方によるインピーダンス特性の違いの説明図である。
Floating はスピーカーシステムを空中にぶら下げた場合の特性。
On the cloth はスピーカーシステムを厚み 約1cm の綿の上に置いた場合の特性
である。Floatingの場合の特性は
図3のそれと同じである。
供試品の背面にロードホーンの穴があって、この穴の空気流が綿によって制限されることから Fh の共振特性が抑制される。ロードホーンの外気側の出入り口をどこにどのように設けるかについては設計的に決定される。いずれにしても、使い方によって、インピーダンス特性は大きく影響を受ける。
【0034】
図5は、供試品の構造の説明図である。
(a)(d)はリングマグネットの輪が見える方向からの着磁の状態を示す。
(b)(e)はスピーカーシステムの断面構造を示す
(c)は磁気回路スプリングの形状を示す
(f)はロードホーンを背面キャップに設けた複数の小さな穴とした場合の形状を示す。
501 は内側のリングマグネット、
502 は外側のリングマグネットである。
501 と 502 の間に磁気ギャップを設ける。
この供試品はヨークを設けていないので、磁気ギャップの磁束密度は十分なヨークがある場合の 20% 程度にとどまる。しかし、漏えい磁束の範囲も広がることから、
ボイスコイルの可動範囲も含めてボイスコイルの巻き幅を選択することで、幾分の改善を
図ることもできる。ヨークを省いての、低音再生性能の確保は小形軽量化にとって有効な方法の一つである。
【0035】
漏洩磁束の対策は商品として重要である。
方法としては、コーンの外側に 穴のあるキャップ設けることでも対処的に回避できる。実測値からではあるが、コーンから 3mm程度 あれば、漏えい磁束による問題はかなり改善できる。
漏洩磁束そのものを軽減させる方法については
図6で説明する。
【0036】
503 はボイスコイル、504 と 5004 はコーン、
505 はエッジ、である。これらは一体化され、キャビネットに接着されている。小形軽量にするために、キャビネットがフレームの役割を持つ。
【0037】
506 は素材がプラスティックのマグネットホルダー、
507 は素材がプラスティックの磁気回路スプリング、
5071、5072、5073 はそれぞれ、分割リングバネの
外周リング、内周リング、分割リング である。分割リングの一端は外周リングに、
他端は内周リングに結合されている。分割リングバネは、プラスティック成形で作り易い構造である。分割リングバネの軸方向の撓みは分割リングを介して外周リングと内周リングの間に回転撓みを生じさせる。
供試品は、キャビネットと磁器回路の中心軸の回転撓みがフリーになっていることから、
この回転方向の撓みを吸収し、結果、分割リングに不要なストレスを生じさせない。
結果、磁器回路の振動による分割リングの劣化を抑える。
【0038】
508はキャビネット、509は背面キャップ、
510 と 5011 はロードホーンであって、背面キャップと一体である。
511はコーンの振動方向、512はマグネットホルダーの振動方向を示す。
図中 N S はリングマグネットの磁極を示す。NS 逆の着磁でもよい。
【0039】
キャビネットはボイスコイルの振動とマグネットの振動を支える。
しかし、キャビネットとボイスコイルとマグネットは
エッジと分割リングバネによって連結されているので、振動方向に自由度を持つことから、それぞれがどのような振動モードになるかについては、
スピーカーシステムが使われる状態に左右される。
キャビネットが身体に密着している場合はキャビネットを固定した状態の Fm 特性となるが、キャビネットが空間に浮いている状態ではマグネットの質量がキャビネットより大きいので、振動の基軸がマグネット側に偏る。結果、キャビネットが振動し、その振動がエッジを介してボイスコイルに伝わる。この場合の振動モードは複雑であるが、
前もって、実使用状態でのインピーダンス特性と再生音質の関係を掌握しておくことで、
インピーダンス特性を確認しながら 最適な Fm に追い込むことができる。
いずれにしても、低音域の再生音質は Fh と Fm によって決定できるので、
同じ基本構造であっても、用途に対応して設計対応できる。
【0040】
図6は、磁器回路の構成例である。
図6(a)は本案供試品の、ヨークが無い、2個のリングマグネットの配置を示す。
6a1 は内周リング、6a2 は外周リング、である。供試品はネオジウムマグネットを使っている。ヨークが無く軽いが漏洩磁束が大きいのが欠点である。
図6(b)は本案説明の供試品ではないが、リングマグネットとU字ヨークと組み合わせた請求項4の磁気回路である。2個のリングマグネットをU字溝に組込んだ状態を示す。
6b1 は内側のリングマグネット、6b2 は外側のリングマグネット、
6b3 はU字ヨークである。
図のU字ヨークは十分な断面積を持つヨークではないが、与えられた質量の範囲で、
マグネット量の軽減、漏えい磁束の軽減、磁気ギャップの磁束密度の強化、
の3条件を最適化するための選択肢の一つである。
6b4 と 6b5 は2個のリングマグネットの位置決めのためのスペーサーである。
組み立て方法や、U字ヨークの形状によっては省くことができる。
U字ヨークの形状によっては、分割リングバネをU字ヨークに直結し、
マグネットホルダーとしての機能を兼用できる。
【0041】
図7は供試品の写真である。
(a)は全体、(b)は背面キャップ、(c)はキャビネットの内部、
(d)は磁器回路周り
である。
7a1 はコーンのバックラッシュ異常振動を防ぐ部品である。本案の本質とは無関係であるが、供試品のコーンが低音の振動振幅に耐えられず、バックラッシュをともなう振動を起こしたことから、低音再生の仕上げと評価の支障を除くために一時的に設けた補強格子である。
7a2 はコーンの振動振幅測定用の光を反射するためのラベルである。
7a3 は組立分解組立のサイクルを容易にするための部品固定用の紙テープである。
7b1 は背面キャップ、7b2 は背面キャップに設けたロードホーン、
7c1 はキャビネット、7c2 はボイスコイル、7c3 はコーンである。
7d1 は 分割リングバネ。外周リングと内周リングと分割リングからなる。
7d2 はマグネットホルダー。分割リングバネを介してキャビネットに連結される。
7d3 は内側リングマグネット、7d4 は外側リングマグネットである。
部品構成が簡素であるばかりでなく、低音再生特性に影響する部品の交換が極めて容易である。部品単位で発注できることから分業化が進んだ生産現場に適した構造である。
【0042】
供試品のスピーカーシステムの概略仕様
外直径 40 [mm]
高さ 18 [mm]
全質量 19 [g]
放射窓面積 8 [cm^2]
リングマグネット 10 [g/2個]/ネオジウムマグネット/半径方向に着磁
分割リングバネ厚み 1.8 [mm]
ロードホーン 4 [mm/直径] 11.5 [mm]/長さ
ボイスコイル駆動力 0.89 [N/A/10ohm]
ボイスコイルの可動範囲 +-2.7 [mm]
エッジの弾性係数 1 [mm/6gW]
分割リングバネ弾性係数 1 [mm/79gW]
内容物を含むキャビネット容積 17.2 [cm^3]
このサイズのスピーカーシステムのボイスコイルの駆動力は 2 [N/A] から 3 [N/A] であることから、しかし駆動範囲が狭く、低音再生能力が低いので、本案供試品の性能はかなり満足できる水準にある、と判断できる。
【0043】
請求項1の本質は、
図3に示す Fm を設けること。そして Fm を自在に調節するところにある
Fm の調節は
図3のSPL特性が、300Hz以下 の範囲で、
できるかぎり広く、できるかぎり横ばいの特性を得るための方法にある。
F0 の修正には限界がある。
Fh は超低音域が望ましい。
Fm を調節することで、振動振幅特性を Ideal AMP の理想特製を中心に、商品の目的に沿った特性に仕上げる。そのためには Fm の自在な調節が必要である。
Fm の自在な調節は、磁器回路を 磁気回路スプリング を介してキャビネットに連結することで実現できる。
【0044】
請求項2の本質は、磁気回路をできる限りの大振幅で振動させ、なお、Fm を Fh と F0 の中間域で自在に修正できるところにある。
そのためには、磁気回路の質量が小さくなければならない。
半径方向に着磁したリングマグネットの使用は一つの解決方法である。
通常の方法でヨークを使うと磁路の容積が大きくなり質量が大幅に増える。
【0045】
請求項3の本質は、
不十分ではあるが、容積の小さいヨークと半径方向に着磁したリングマグネットを使うことにより、
ヨークがない場合の課題の一つである漏洩磁束によるスピーカーシステムへの磁性体の
吸着を軽減すること、
リングマグネット容積を減らしてコストダウンを図ること、
磁気ギャップの磁束密度を強化すること、
の3条件の間でトレードオフにより商品として全体を最適化するところにある。
【0046】
請求項4の本質について、
磁器回路をキャビネットに対し振動させるに関し、特性の良好な Fm を自在に調節できるところにある。
スティフネスの調整が簡単であること、
スティネスの線型度が高こと、
線型度の高い範囲が広いと、
狭いスペースに入ること、
組み立てしやすいこと、
3Dプリンターで試作できること
を満足する、プラスティック成形可能な分割リングバネは最良の解決方法の一つである。
【符号の説明】
【0047】
Voice Coil Impedance グラフがボイスコイルのインピーダンス特性
10ohm Resister 10オーム純抵抗の特性
Total VCI ボイスコイルの両端の比インピーダンス特性例
F0 コーンの音響放射共振周波数
Fh ロードホーンによる共振周波数
Fm 機械振動の共振周波数
Acoustic VCI with no-Magnet 巻線抵抗の電圧降下を相殺したインピーダンス特性例
Measuring Error by Noise 測定系のノイズの影響
Acoustic VCI with F0 F0 だけを持つ倍のインピーダンス特性例
Acoustic VCI with F0 & Fm F0 と Fm を持つ場合のインピーダンス特性例
【0048】
Fm1 Fm2 Fm3 分割リングバネが 1.5,2.1,3mm のインピーダンス特性
【0049】
{ Impedance & Vibration & SPL }/Floating/5cm 供試品を浮かした場合の
インピーダンス,振動振幅、SPL/5cm の特性例
VCI ボイスコイルのインピーダンス特性
AMP コーンの振動振幅特性
SPL スピーカーシステムのSPL特性
Ideal AMP 理想とする振動振幅特性
【0050】
{ Voiced Coil Impedance }/Using Condition 供試品の使用状態の違いによる特性
Floating 供試品を空中にぶら下げた場合のインピーダンス特性。
On the cloth は供試品を厚み 約1cm の綿の上に置いた場合のインピーダンス特性
【0051】
501 内側のリングマグネット
502 外側のリングマグネット
503 ボイスコイル
504 コーン
505 エッジ
506 マグネットホルダー
507 分割リングバネ または 磁気回路スプリング
5071、5072、5073 それぞれ 外周リング、内周リング、分割リング
508 キャビネット
509 背面キャップ
510、5010 ロードホーン
511 コーンの振動方向
512 マグネットホルダーの振動方向
N、S リングマグネットの磁極
【0052】
6a1 内側のリングマグネット
6a2 外側のリングマグネット
6b1 内周リング
6b2 外周リング
6b3 U字ヨーク
6b4、6b5 スペーサー
【0053】
7a1 コーンのバックラッシュ異常振動を防ぐ供試品の応急対策部品
7a2 振動振幅測定用の光反射ラベル
7a3 組立分解組立のサイクルを容易にするための構成部品を固定する紙テープ
7b1 背面キャップ
7b2 ロードホーン
7c1 キャビネット
7c2 ボイスコイル
7c3 コーン
7d1 分割リングバネ
7d2 マグネットホルダー
7d3 内側リングマグネット
7d4 外側リングマグネット
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正書】
【提出日】2022-11-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型で軽量を必要条件とする携帯用または身体に装着するところの、完成品としての
スピーカーをモバイル用のスピーカーシステムとし、
明確な定義ができないモバイル用スピーカーシステムに関し、一般のスピーカーシステムではあるが、モバイル用途でなければ本案の応用は要を成さないことから、
本案のスピーカーシステムとはその応用先がモバイル用であるとし、
スピーカーシステムとは、
ボイスコイル、磁気回路、コーン、エッジ、キャビネットを主要部品とするところの電気信号を音響信号に変換する装置とし、
マグネットホルダーとは、
磁気回路の部品であるところのマグネットを支える構造体とし、
ボイスコイルとコーンは互いに固着されているものとし、
コーンはエッジを介し、キャビネットに連結されているものとし、
エッジはキャビネットを基準に、ボイスコイルを中心軸方向に可動させるものとし、
磁気回路は磁気ギャップを有し、磁気ギャップの磁束密度とボイスコイルを流れる電流によって、磁気回路とボイスコイルの双方に駆動力を発生するものとし、
マグネットホルダーとキャビネットは磁気回路スプリングを介して連結されているものとし、
磁気回路スプリングとは、
弾性体であって、キャビネットを基準に磁気回路を、ボイスコイルの中心軸方向に可動させるものとし、
磁気回路スプリングは性能改善に必要な機能性部品であって、請求項1に必要不可欠ではないものとし、
キャビネットはスピーカーシステムが音響放射をすべく、キャビネット内部に内部空間を有するものとし、
内部空間とは、
音響放射面にエッジとコーンを有し、空間の内部には ボイスコイルと、磁気回路と、
マグネットホルダーと、磁気回路スプリングを有するものとし、
内部空間は外部空間との関係において、ロードホーンに相当するパイプで繋がっているものとし、
音響放射共振とは、
キャビネットを基準位置とするところの、
エッジとコーンとボイスコイルと内部空間 の セットが持つ属性 に依存する音響振動の共振とし、
音響放射共振周波数を F0 とし、
以下に記述の Fh と Fm で以て F0 より低い低音域の再生特性に特徴を持たせるものとし、
Fh とは、
ロードホーンが持つ属性の影響を受けるところの共振周波数とし、
Fm とは、
磁気回路スプリングとマグネットホルダーと磁気回路 のセットが持つ属性に依存するところの機械振動の共振周波数とし、
機械振動共振による磁気回路の振動が、ボイスコイルの磁束と交差する速度に影響を与える結果、ボイスコイルの振動が機械共振振動の影響を受けることを利用するものとし、
Fh に Fm を加えることにより、低音域でのスピーカーシステムの再生特性の
設計自由度が広がることを利用するものとし、
Fh と Fm は設計的に決定するものとし、
磁気回路は、半径方向に着磁した2個のリングマグネットを有するものとし、
リングマグネットとは、
断面が四角形のドーナツ状であって、
リングの内径面から外径面へ または 外径面から内径面へ着磁方向を有するものとし、
2個のリングマグネットは使用状態で同方向に着磁されているものとし、
2個のリングマグネットは同心軸上、同一平面上に配置され、
内側のリングと外側のリングの間の磁気ギャップにボイスコイルが挿入されものとし、
マグネットホルダーは2個のリングマグネットを保持するものとし、
2個のリングマグネットを有することを第1とし、
第1の特徴を有するスピーカーシステム。
【請求項2】
Uヨークとは、
U字の断面の回転体とし、
Uヨークは磁性体の素材からなるものとし、
UヨークのUの内部に、請求項1に記述の2個のリングマグネットが収まるとし、
Uヨークは外側のリングマグネットの外周から内側のリングマグネットの内周に至る磁路であるとし、
UヨークのU字の底面はボイスコイルの振動範囲を妨げない深さにあるとし、
Uヨークは、
2個のリングマグネットの漏洩磁束を軽減する役割と
リングマグネットの磁気ギャップの磁束密度を高める役割と
リングマグネットの容積を抑える役割と
を持つものとし、
上記3種類は与えられた条件を満足すべく按分されるものとし、
Uヨークは請求項1に記述のマグネットホルダーに装着されるか、
または、Uヨークがマグネットホルダーを兼ねるものとし、
Uヨークを有することを第2の特徴とし、
請求項1に記述の第1と第2の特徴を有するところの
スピーカーシステム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リングマグネットの半径方向への着磁
異なる共振特性の組合せによる低音再生の最適化
モバイルスピーカーの特徴でもある機械振動の音質感覚の利用
ボイスコイルのインピーダンス特性の精密な測定方法
インピーダンス特性とコーンの振動との関係
半径方向に堅く中心軸方向に柔らかいバネ
デスクワークで設計試作検証ができる小形スピーカーの設計製作方法
設計試作検証改善のサイクルを短くして短期間にカットアンドトライの回数を稼ぐ方法
【背景技術】
【0002】
本案の開発過程における考察 その1.測定方法について。
小型軽量のスピーカーシステムの設計のための特性測定に関し、
構成する部品の属性と再生特性の相互関係の掌握は難しい。
振動測定はより直接的ではあるが、
測定対象 と スピーカーシステムとして機能を成す状態 との関係において、
思うように測定できない、もしくは、測定作業が面倒である。
SPLで測定しても、具体的な改善部分のシューティング方法が見え難い。
一方、直接的ではないが、ボイスコイルのインピーダンス特性は、
物理的な振動条件と対応していて、特性から振動モードの推定が容易であることから、
より客観的な状態を把握できる。
理想スピーカーではコーンの振幅特性が高音域に向かって -20dB/Decade の傾斜を持つことから、供試品の特性
図3 から、インピーダンスと振動振幅の関係に関連性が
あることを確認できる。
試作、測定、改善設計、そして試作、の繰り返しのサイクル数を上げることは完成度の
進行速度に決定的な影響を持つ。できる限りリアルタイムに近い方法が望ましい。
その点、インピーダンスの測定は極めて有効である。
【0003】
本案の開発過程における考察 その2.ボイスコイル巻線抵抗を相殺する測定について、
音響放射と直接に関係するインピーダンスの測定は低音域で有効である。しかしながら、
小形スピーカーの場合、動作状態にあるボイスコイルのインピーダンス特性は巻線の
抵抗と巻線のインダクタンスに支配されて、
肝心の、音響振動に対応するインピーダンス成分 は通常のインピーダンス特性からは
確認できない。
小形スピーカーの場合、商品価値として求められるのは低音再生の 強度と周波数範囲
であることから、ボイスコイルの直流抵抗成分を差し引くことで、
低音域特性に関し、かなり正確に、音響振動に対応するインピーダンス成分を測定することができる。結果、振動を測定すっる方法に比べ、測定時間を大幅に短縮できる。
さらに、どのような使用条件にあっても測定できる、という便利さもある。
以上の理由で、本案の検証と説明には、
ボイスコイルの直流抵抗を差し引いたインピーダンス特性の測定結果を用いる。
このことは、本案の本質ではないが、
本案に至る過程における、現状分析と改善と結果分析を説明する上で意味がある。
【0004】
本案の開発過程における考察 その3.供試品のインピーダンス特性について
図1は供試品のインピーダンス特性の説明図である。
横軸は周波数、縦軸はインピーダンス比である。
10 ohm Resistor は10オームの純抵抗、Total VCI はボイスコイルの巻線抵抗を含む総合インピーダンス特性である。
VCI は 2kHzより低い周波数帯では、ほぼ横ばいであるが、これは、供試品が小型であるために低音域のインピーダンス特性の主成分がボイスコイルの巻線抵抗であることによる。
VCI with no-Magnet は巻線の抵抗を相殺した後の、インピーダンス特性である。
100Hz以上の 20dB/Decade の傾斜はボイスコイルのインダクタンスによる。
100Hz以下 Measuring Error by Noise の範囲は測定系のノイズの影響である。
これらの特性はボイスコイルの巻線抵抗成分が相殺されていることから、
音響変換系のインピーダンスに近い特性である。音響変換系のインピーダンスを検証することで、変換系の設計や改良のシューティング精度が高まり作業効率が格段に高くなる。
【0005】
本案の開発過程における考察 その4.インピーダンスと振動の関係について
スピーカーが身体に装着される場合、本案のスピーカーシステムの身体への密着度によってインピーダンス特性は大きく変化する。
通常のインピーダンス特性ではその違いは見えない。
このことは、小型スピーカーの低音域における変換効率が著しく低いことによる。
図1の F0 Fm Fh は極大点であるが、それらの極大点の隣には極小点が現れる。
インピーダンス特性の谷の部分は、
ボイスコイルの磁気回路に対する振幅が小さくなる振動モードであり、
山の部分は、
谷とは逆にボイスコイルの磁気回路に対する振幅が大きくなる振動モードである。
即ち、モーターと同じで、電圧一定の条件で、
負荷が軽くなると電流が減少し、負荷が重くなると電流が増大する、ことによる。
Fm に関し、磁気回路とボイスコイルの動きが同相の場合、
ボイスコイルのインピーダンスが小さくなる理由は、
ボイスコイルの振動が磁気回路の振動に加算されることから、
ボイスコイルの負荷が大きくなることにある。
Fm に関し、逆に、磁気回路とボイスコイルの動きが逆相の場合、
ボイスコイルのインピーダンスが大きくなる理由は、
ボイスコイルの振動が磁気回路の振動分、減算されることから、
ボイスコイルの負荷が小さくなることにある。
このような共振の利用によって、共振点付近で出力音圧に手を加えることができる。
小形スピーカーシステムの場合、低音域ではエネルギー変換効率は極めて小さく音響放射インピーダンスはボイスコイルの巻線抵抗によって定電流駆動されている状態である。
従って、インピーダンスが大きくなる Fm 付近では、音響放射エネルギーが大きく増える方向に改善される。インピーダンス小さくなる Fm 付近では、ボイスコイルと
マグネットの振動が加算されているので、コーンの振動振幅は増える方向に改善される。
そして、どの周波数に高効率の再生性能の特徴を設計するか、使われる条件に対応できるべくその選択の自由度が重要である。
例えば、
中低音を犠牲にして、超低音側に重点を置く。
超低音を犠牲にして、中音と中低音をまとめ、音質のバランスに重点を置く。
などの音質の選択である。
小形、軽量、低コスト、という必修条件下では、
トレードオフ関係の上限を広げること と トレードオフ関係にある複数のポイントを
自在に設計できる自由度が重要である。
ロードホーンを使う場合、
ロードホーンによる共振点より低い周波数帯域で、コーンによる音響放射とロードホーンからの音響放射が逆相となって相殺され、歪成分が残る。
従って、
再生信号処理側でその帯域を遮断することが望ましい。
従って、
ロードホーンによる共振 Fh を 磁気回路の共振 Fm より高い周波数帯域に設定すると、 Fm の帯域で好ましくない再生音質となる。
設計の自由度の観点からはどちらでもいいが、
実用的に Fh は Fm より低い周波数帯域に設定することが望ましい。
【0006】
本案の開発過程における考察 その5.設計の自由度を広げるに関して
設計の自由度を上げるために、
小型軽量でも大きなボイスコイルの駆動力
特に、軽量である磁気回路
の2項目が最重要である。加えて
全体に構造が簡素
プラスティック材料を使う構造体の3DCADによる設計と3Dプリンターによる試作
特にマグネットホルダーとそれを保持する磁気回路スプリングの試作と組換可能な構造
繰り返し改良作業
など、設計環境や改良のための頻繁な繰り返し作業ができる基本設計が重要である。
【0007】
本案の開発過程における考察 その6.マグネットに関して
スピーカーは誕生以来、長い歴史を持っている。
磁気回路とボイスコイルとコーンとキャビネットがあれば、簡単に作ることができる。
しかし音波は、
空間に放射するエネルギーであること、
低周波ではあるが広帯域であること、
から帯域内の振動現象と放射エネルギーの関係の詳細な掌握は容易ではない。
あるいは、
形状、大きさ、重量、に限界までの小形化が要求される場合、従来の経験の延長線上に
解を見出すことは簡単ではない。
特に磁気回路に関して、最小限の質量で必要な駆動力を得るには、
マグネットの形状と着磁方法が重要な課題である。
本案の供試品は、
図3に示すように、リングマグネットを使っている。
双方とも半径方向に着磁を施している。この着磁は一般のコンシューマ向けスピーカーの製造現場では用いられてない。
着磁前までのリングマグネットの製造までは簡単にできるが、着磁には高価な着磁治具が必要である。このことから、
一般のスピーカー製造工場では半径方向に着磁のリングマグネットが使える環境はない。
特に、スピーカーの製造現場は極度に分業化されていて、ユニットの最終工程である組立工場では、磁気回路、振動、高効率設計、応用商品の信号処理との関係など、異なる分野の専門知識に精通していないことから、トレードオフ関係にある部品の属性の最適化という課題に対しベンダーに対するマネージメントが難しい。
小形軽量のスピーカーシステムの開発に際し、これらの障壁がある。
着磁装置には空芯状態での高い起磁力を得るための、しかし、簡単に改善できる簡素な
着磁構造と、の双方を満足する必要がある。
リングマフネットの半径方向の着磁装置は本案の本質ではないので説明を省略するが、
解に至る過程での最重要課題であることから、本案開発に先だって、
デスクワークでもって、リングマグネットの半径方向の着磁ができる装置の試作と、
リングマグネットのサイズに合わせて簡単に着磁治具を製作できる環境を整えた。
構造体を 3DCAD と 3Dプリンター を使ってデスクワークで試作できる環境は、
製造環境が貧弱な工業社会にあって、極めて有効な手法である、
そのような試作検証と整合する設計方法に関して、これは本案の本質ではないが、
本質に至る過程において極めて重要である。
【0008】
本案の開発過程における考察 その7.磁気回路スプリングに関して
磁気回路は質量が大きいので、磁気回路スプリングは軸ブレが小さく中心軸方向に自由度を自在に設計できるバネ構造が望ましい。ゴム成形品とか、布と樹脂の成形品では試作検証のサイクルが長すぎて用を成さない。この件に関してもデスクワークで試作検証ができるところの、3DCAD と 3Dプリンター で設計製作可能なバネ構造が求められる。本案の解に至る過程では この条件を満足するバネの構造も最重要課題である。
図4(c)に示すバネ構造は最適な方法の一つである。狭い隙間にかかわらず、半径方向に堅く、中心軸方向のスティフネスを厚みの変更によって、自在に選択できるところの
本案に必修のバネである。
軸ぶれが小さい要因について、
分割リングバネを構成する複数の中間リングのいずれかが、軸ぶれに対し、引っ張りの
ストレスを受ける。中間リングは円弧ではあるが線に近いので、引っ張りに対しては
スティフネスが極めて大きい。一方、中心軸方向のストレスに対しては通常のバネとして機能することから、高い線型度で広い範囲の振動に対応できる。
加えて、分割リングバネの厚みの調節で広範囲にバネのスティフネスを調節できる。
加えて、マグネットホルダーが回転方向に自在であることから、
バネの撓みに伴う回転方向の伸縮に対してもバネ両端に不要なストレスを発生させない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
実願 2015-3298
振動型スピーカーとその低音再生特性を補正する方法に関する。
振動型スピーカーは小形軽量のスピーカーユニットで低音再生範囲を広げるために強力な方法の一つであるが、強い共振特性を利用した低音再生効率の改善方法であることから広い再生帯域を得ることが難しい。信号処理によってこの弱点を補正する必要があるが、弱点に対し補正が過ぎると異常音を再生することになり、リニアリティの限界を超えないよう精密な補正を必要とする。
【0010】
特願 2018-178738
超低音の再生効率を上げるために、3種類の共振を組み合わせる。
3種類とは
第1に、音響放射に関する 本案 F0 相当 に加えて、
第2に、コーンを介したボイスコイルと磁気回路がフレームに装着された状態での
キャビネットとフレームを弾性体で結合させることによるスピーカーユニット全体の共振振動 に加えて
第3に、キャビネット内部の気密空間にさらに気密の空間を設け、その気密空間を振動させることによる。
小形高性能に向くが、モバイル用途ほどの小形軽量には向かない。
本案の本質であるところの、ボイスコイルと磁気回路が独立した振動系とは異なる。
【0011】
特願 2015-221089
請求項に記述の振動型スピーカーの構造に関する。
特願2010-251188 スピーカー装置
特願2011-514324 スピーカー装置
特開2010-097146 吸音構造群及び音響室
特開2010-097145 吸音構造群及び音響室
特開2010-031582 吸音構造群及び音響室
特開2007-336337 スピーカーシステムおよびスピーカーエンクロージャ
以上に記述されるスピーカーシステムの設計方法は低音再生性能の改善に関する。
【発明の概要】
【0012】
請求項で定義した用語と記号は明細書においても同様とする。
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
課題1。
モバイル用のスピーカーシステムとして、小型軽量しかも低音再生の強度と帯域を広げるに必要な、何度の高いトレードオフ関係にある複数のファクターに関し、
トレードオフの境界範囲を広げる手法が必要。
【0014】
課題2。
一義的な設計はもとより難しいことから、設計、試作、検証、改良 の一連のサイクルを短縮し、カットアンドトライの回数を増やすことで完成度を上げる。
そのための試作と組立と分解がしやすい構造。
【0015】
課題3。
通常、音響特性に関係するファクターと結果の関係に完全な独立要素は期待できない。
一つのファクターの変更が周辺の特性に影響を及ぼすことが一般的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
手段1
手段1は手段2を応用し、手段1だけでは達成できない性能とするための一つの条件であるが、本案の本質ではない。
キャビネットを基準として、ボイスコイルと磁気回路がそれぞれ別々に振動するよう構成する。
【0017】
手段2
手段2は本案の本質である。
磁気回路を軽くして、磁気回路の機械的振動の共振周波数の選択範囲を広げる。
磁気回路にヨークを省いた2個のリングマグネットを使う。
さらに、必要な場合には、
駆動力とサイズと質量のトレードオフ境界領域を広げるために、最低限のヨークで2個のリングマグネットを連結し、充分ではないが、少なからず貢献できる磁路を構成する。
手段3
手段3は手段2を応用し、手段3だけでは達成できない性能とするための一つの条件であるが、本案の本質ではない。
音響放射の共振周波数 F0 と 磁気回路の機械的共振周波数 Fm と
ロードホーンによる音響負荷の共振周波数 Fh の関係に関し、
Fh を超低音に設計し、F0 と Fh の中間に Fm を入れる。
【発明の効果】
【0018】
効果1
手段1によって、音響効果に影響する主要な共振点の数を増やすことができる。
共振点の数が増えると、その組み合わせによって、音質の特徴を顕著にできる。
【0019】
効果2。
手段2によって、磁気回路の軽量化を図り、小型軽量低音再生性能の境界領域を広げることができる。
【0020】
効果3。
手段3によって、Fh よりも低い周波数範囲の再生特性が著しく劣化するところの
かつ、低い周波数への設計が容易な Fh を最も低い周波数帯域に設けることで、
F0 との中間の帯域を広げる。Fh の高音域側の帯域に Fm を挿入することで、
Fh Fm F0 と繋ぐことができ、結果、低音再生帯域の選択自由度を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本案の一供試品を使ってのインピーダンス特性の説明図
【
図2】本案の磁気回路スプリングの弾性係数とインピーダンス特性の関係の説明図
【
図3】本案の供試品のインピーダンスとコーンの振動とSPLの特性の関連性の説明図
【
図4】本案の供試品の使い方によえるインピーダンス特性の違いの説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
主としてウェラブル用小形軽量スピーカーシステム。
【産業上の利用可能性】
【0023】
低音再生効率が高く、低音再生設計が容易な小型軽量スピーカーシステム
【実施例0024】
図1は、供試品のボイスコイルのインピーダンス特性である。通常のインピーダンス特性と、巻線の抵抗を相殺したインピーダンス特性の双方を示す。
横軸は周波数、縦軸は 10オームの純抵抗にM系列電流を流し、その両端電圧を -10dB とする比インピーダンスである。
【0025】
10ohm Resister は 10オーム純抵抗の両端電圧特性である。
Total VCI は供試品のボイスコイルの両端の電圧であって、10オーム を -10dB とするところの 比インピーダンス特性である。
供試品のボイスコイルの巻線抵抗が 10オーム であることから、2000Hz 以下では
横一直線の 10オーム である。2000Hz を超えると巻線のインダクタンスによって
右上がりとなる。
【0026】
Acoustic VCI with no-Magnet は磁気回路を外した状態での、ボイスコイルの巻線抵抗の電圧降下を相殺したインピーダンス特性である。100Hz 以上の 20dB/decade の
右上がりの特性は巻線のインダクタンスによるインピーダンスである。100Hz 以下の
Measuring Error by Noise の部分は測定系のノイズの影響による。
Acoustic VCI with F0 は音響放射共振 F0 だけの場合の特性である。Fm 付近の若干のインピーダンスの山は分割リングバネの振動停止が不完全であることによる。
Acoustic VCI with F0 & Fm は音響放射共振 F0 と 機械共振 Fm を持つ場合のインピーダンス特性例である。それぞれの山の右隣りに谷の特性を持つ。
【0027】
それぞれの山と谷はインダクタンスによる電圧降下との加減算になるので、位相関係を考慮して、ボイスコイルの振動と磁気回路の振動との相互関係を推定することができる。
供試品程度の小形スピーカーの場合 F0 に大幅な修正を加えることはできない。
そして、F0 は通常 300Hz から 4000Hz の付近にあることから、低音再生性能の
改善に際し F0 の利用は期待できない。現実的に 低音再生性能は Fh と Fm
で決定する。
【0028】
Fh は
図4(b)に示す ロードホーンの穴の直径変更で簡単に調節できるので、Fh
の修正は容易である。
Fm は
図4(c)に示す 分割リングバネの厚みの調節によって修正が容易である。
Fh の選択に関連しての留意点に関して、Fh から低い周波数帯で ロードホーンからの音波がコーンからの音波と逆位相関係にあって、音波の回折によって双方が相殺されることに配慮が必要である。超低音域で基本波が相殺されると、相殺されない非線型歪成分が、残ることで、音質の劣化が目立つ。
この点、スピーカーシステム全体の非線型歪の特性にも配慮して Fh を選択する。
一方、モバイル用途では耳に比較的近い位置でリスニングすることから、
ロードホーンからの音波の回折によって相殺される周波数帯を、例えばデスクトップ用途のものより低い周波数帯に設定できる。
特に、耳に近接する用途では、小形にもかかわらず、Fh を超低音域に設定できる。
【0029】
図2は供試品のインピーダンス特性である。
図5(c)に示す形状の、請求項4の分割リングバネを使って、その厚みを変えた場合の、インピーダンス特性の比較である。
Fm1 Fm2 Fm3 はそれぞれ 厚みが 1.5mm 2.1mm 3.0mm の場合の
分割リングバネを使っての特性の修正が簡単であることがを示す。
【0030】
図5(c)に示す形状の分割リングバネは 3DCAD と 3Dプリンター を使ってデスクワークで簡単に製作できることから、Fm を Fh との双方に関わるところの目的とする特性に追い込むこむ作業効率は極めて高い。
さらに Fm による最適特性への追い込み作業の際、
キャビネット側と外周リングの接合部、マグネットホルダー側と内周リングの結合部の
双方の構造を工夫することで、分割リングバネ交換作業を簡単にできる。
分割リングバネの交換作業を簡単にすることで、
ゴムの成形品や布と樹脂からなる成形品を使う方法に比べ比較にならないほど短期間で
Fm を目的の特性に追い込むことができる。
【0031】
加えて、ロードホーンに関しても、説明
図5(b)に示すように、背面キャップに設けてあることから、交換作業が簡単である。背面キャップと一体になったロードホーンも
3DCAD と 3Dプリンターで 簡単に修正可能である。
結果、
複数種類の Fm の分割リングバネと 複数種類の Fh のロードホーンとの
組合せによって、インピーダンス特性とリスニングによる音質との比較確認作業の
サイクルを著しく短縮できる。
【0032】
図3は、供試品のインピーダンスと振動振幅とSPLの特性相互間に関わる低音再生性能の説明図である。
VCI は ボイスコイルのインピーダンス特性、AMP は コーンの振動振幅特性、
SPL は スピーカーシステムの再生音圧特性である。
である。
理想的特性としては、 SPL は横一直線、AMP は -20dB/Decade、が望ましいが、
図3は、複雑な振動条件の重なりによって、現実的な特性となっているものの、
信号処理系でカバーできる程度には達している、と判断できる。
本案は、低音域の再生に関するので、供試品の中高音に関する説明を省略する。
一般的に、外径40mm 深さ18mm 質量18g 程度のスピーカーの SPL 特性は、
300Hz 付近から低音域へ向けて -20dB/Decade から -40dB/Decade の減衰特性を
持つ。
図中、Ideal AMP は振動振幅の理想特性である。
低音再生範囲を確保するには、AMP の特性はその範囲で -20dB/Decade を確保する必要がある。図中 AMP特性には凹凸はあるものの、50Hz から 300Hz の範囲で
-20dB/Decade の減衰特性を持っている。結果、その範囲の SPL特性は大雑把に平坦になっている。この範囲の特性は Fh と Fm の調節によって決定できる。
商品としての特性の選択はかならずしも理想ではなく、
重要なことは、商品企画のコンセプトに沿って特性を自在に調節できることである。
振動系で調整できない細かい補正は商品全体では信号処理系に委ねられる。
信号処理でムリなく補正できるレベルまで振動処理系で追い込むことが重要である。
【0033】
図4は、同じ供試品で、使い方によるインピーダンス特性の違いの説明図である。
Floating はスピーカーシステムを空中にぶら下げた場合の特性。
On the cloth はスピーカーシステムを厚み 約1cm の綿の上に置いた場合の特性
である。Floatingの場合の特性は
図3のそれと同じである。
供試品の背面にロードホーンの穴があって、この穴の空気流が綿によって制限されることから Fh の共振特性が抑制される。ロードホーンの外気側の出入り口をどこにどのように設けるかについては設計的に決定される。いずれにしても、使い方によって、インピーダンス特性は大きく影響を受ける。
【0034】
図5は、供試品の構造の説明図である。
501 は内側のリングマグネット、502 は外側のリングマグネットである。
501 と 502 の間に磁気ギャップを設ける。
この供試品はヨークを設けていないので、磁気ギャップの磁束密度は十分なヨークがある場合の 20% 程度にとどまる。しかし、漏えい磁束の範囲も広がることから、
ボイスコイルの可動範囲も含めてボイスコイルの巻き幅を選択することで、幾分の改善を
図ることもできる。ヨークを省いての、低音再生性能の確保は小形軽量化にとって有効な方法の一つである。
【0035】
漏洩磁束の対策は商品として重要である。
方法としては、コーンの外側に 穴のあるキャップ設けることでも対処的に回避できる。実測値からではあるが、コーンから 3mm程度 あれば、漏えい磁束による問題はかなり改善できる。
漏洩磁束そのものを軽減させる方法については
図6で説明する。
【0036】
503はボイスコイル、504はコーン、505はエッジ、である。これらは一体化され、キャビネットに接着されている。小形軽量にするために、キャビネットがフレームの役割を持つ。
【0037】
506 は素材がプラスティックのマグネットホルダー、
507 は素材がプラスティック磁気回路スプリング、
5071、5072、5073 はそれぞれ、分割リングバネの
外周リング、内周リング、分割リング である。分割リングの一端は外周リングに、
他端は内周リングに結合されている。分割リングバネは、プラスティック成形で作り易い構造である。分割リングバネの軸方向の撓みは分割リングを介して外周リングと内周リングの間に回転撓みを生じさせる。
供試品は、キャビネットと磁気回路の中心軸の回転撓みがフリーになっていることから、
この回転方向の撓みを吸収し、結果、分割リングに不要なストレスを生じさせない。
結果、磁気回路の振動による分割リングの劣化を抑える。
【0038】
508はキャビネット、509は背面キャップ、
510はロードホーンであって、背面キャップと一体である。
511はコーンの振動方向、512はマグネットホルダーの振動方向を示す。
図中 N S はリングマグネットの磁極を示す。NS 逆の着磁でもよい。
【0039】
キャビネットはボイスコイルの振動とマグネットの振動を支える。
しかし、キャビネットとボイスコイルとマグネットは
エッジと分割リングバネによって連結されているので、振動方向に自由度を持つことから、それぞれがどのような振動モードになるかについては、
スピーカーシステムが使われる状態に左右される。
キャビネットが身体に密着している場合はキャビネットを固定した状態の Fm 特性となるが、キャビネットが空間に浮いている状態ではマグネットの質量がキャビネットより大きいので、振動の基軸がマグネット側に偏る。結果、キャビネットが振動し、その振動がエッジを介してボイスコイルに伝わる。この場合の振動モードは複雑であるが、
前もって、実使用状態でのインピーダンス特性と再生音質の関係を掌握しておくことで、
インピーダンス特性を確認しながら 最適な Fm に追い込むことができる。
いずれにしても、低音域の再生音質は Fh と Fm によって決定できるので、
同じ基本構造であっても、用途に対応して設計対応できる。
【0040】
図6は、
磁気回路の構成例である。
図6(a)は本案供試品の、ヨークが無い、2個のリングマグネットの配置を示す。
6a1 は内周リング、6a2 は外周リング、である。供試品はネオジウムマグネットを使っている。ヨークが無く軽いが漏洩磁束が大きいのが欠点である。
図6(b)は本案説明の供試品ではないが、リングマグネットとU字ヨークと組み合わせた請求項4の磁気回路である。2個のリングマグネットをU字溝に組込んだ状態を示す。
6b1 は内側のリングマグネット、6b2 は外側のリングマグネット、
6b3 はU字ヨークである。
図のU字ヨークは十分な断面積を持つヨークではないが、与えられた質量の範囲で、
マグネット量の軽減、漏えい磁束の軽減、磁気ギャップの磁束密度の強化、
の3条件を最適化するための選択肢の一つである。
6b4 と 6b5 は2個のリングマグネットの位置決めのためのスペーサーである。
組み立て方法や、U字ヨークの形状によっては省くことができる。
U字ヨークの形状によっては、分割リングバネをU字ヨークに直結し、
マグネットホルダーとしての機能を兼用できる。
【0041】
図7は供試品の写真である。
(a)は全体、(b)は背面キャップ、(c)はキャビネットの内部、
(d)は
磁気回路周り
である。
7a1 はコーンのバックラッシュ異常振動を防ぐ部品である。本案の本質とは無関係であるが、供試品のコーンが低音の振動振幅に耐えられず、バックラッシュをともなう振動を起こしたことから、低音再生の仕上げと評価の支障を除くために一時的に設けた補強格子である。
7a2 はコーンの振動振幅測定用の光を反射するためのラベルである。
7a3 は組立分解組立のサイクルを容易にするための部品固定用の紙テープである。
7b1 は背面キャップ、7b2 は背面キャップに設けたロードホーン、
7c1 はキャビネット、7c2 はボイスコイル、7c3 はコーンである。
7d1 は 分割リングバネ。外周リングと内周リングと分割リングからなる。
7d2 はマグネットホルダー。分割リングバネを介してキャビネットに連結される。
7d3 は内側リングマグネット、7d4 は外側リングマグネットである。
部品構成が簡素であるばかりでなく、低音再生特性に影響する部品の交換が極めて容易である。部品単位で発注できることから分業化が進んだ生産現場に適した構造である。
【0042】
供試品のスピーカーシステムの概略仕様
外直径 40 [mm]
高さ 18 [mm]
全質量 19 [g]
放射窓面積 8 [cm^2]
リングマグネット 10 [g/2個]/ネオジウムマグネット/半径方向に着磁
分割リングバネ厚み 1.8 [mm]
ロードホーン 4 [mm/直径] 11.5 [mm]/長さ
ボイスコイル駆動力 0.89 [N/A/10ohm]
ボイスコイルの可動範囲 +-2.7 [mm]
エッジの弾性係数 1 [mm/6gW]
分割リングバネ弾性係数 1 [mm/79gW]
内容物を含むキャビネット容積 17.2 [cm^3]
このサイズのスピーカーシステムのボイスコイルの駆動力は 2 [N/A] から 3 [N/A] であることから、しかし駆動範囲が狭く、低音再生能力が低いので、本案供試品の性能はかなり満足できる水準にある、と判断できる。
【0043】
請求項1の本質は、磁気回路をできる限りの大振幅で振動させ、なお、Fm を Fh と F0 の中間域で自在に修正できるところにある。
そのためには、磁気回路の質量が小さくなければならない。
半径方向に着磁したリングマグネットの使用は一つの解決方法である。
通常の方法でヨークを使うと磁路の容積が大きくなり質量が大幅に増える。
【0044】
請求項2の本質は、
不十分ではあるが、容積の小さいヨークと半径方向に着磁したリングマグネットを使うことにより、
ヨークがない場合の課題の一つである漏洩磁束によるスピーカーシステムへの磁性体の
吸着を軽減すること、
リングマグネット容積を減らしてコストダウンを図ること、
磁気ギャップの磁束密度を強化すること、
の3条件の間でトレードオフにより商品として全体を最適化するところにある。