(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025406
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】平滑処理方法
(51)【国際特許分類】
B24C 11/00 20060101AFI20240216BHJP
B24C 1/10 20060101ALI20240216BHJP
B24C 1/08 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B24C11/00 Z
B24C1/10 F
B24C1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128820
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】谷口 隼人
(72)【発明者】
【氏名】水野 宏紀
(57)【要約】
【課題】ワークの表面における平滑処理の不均一性を軽減可能な平滑処理方法を提供すること。
【解決手段】平滑処理方法Mは、ワークを回転機構の回転軸に取り付ける準備工程S1と、回転軸を軸心としてワークを回転させながら、ワークに直圧式のブラスト処理を施すブラスト処理工程S2と、を含み、ブラスト処理では、回転軸と直交する方向に噴射材が噴射され、噴射材は、弾性体から構成されるコア材と、コア材の表面に設けられた砥粒と、を含み、コア材の硬度は、砥粒の硬度よりも低い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを回転機構の回転軸に取り付ける工程と、
前記回転軸を軸心として前記ワークを回転させながら、前記ワークに直圧式のブラスト処理を施す工程と、
を含み、
前記ブラスト処理では、前記回転軸と直交する方向に噴射材が噴射され、
前記噴射材は、弾性体から構成されるコア材と、前記コア材の表面に設けられた砥粒と、を含み、
前記コア材の硬度は、前記砥粒の硬度よりも低い、平滑処理方法。
【請求項2】
前記ブラスト処理を施す工程において、前記噴射材の噴射圧力は、0.01MPa以上0.10MPa以下に設定される、請求項1に記載の平滑処理方法。
【請求項3】
前記ブラスト処理を施す工程において、前記噴射材の噴射距離は、50mm以上100mm以下に設定される、請求項1又は請求項2に記載の平滑処理方法。
【請求項4】
前記ブラスト処理を施す工程において、前記ワークの回転数は、毎分30回転以下に設定される、請求項1又は請求項2に記載の平滑処理方法。
【請求項5】
前記噴射材の前記砥粒の含有率は、15質量%以上26質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の平滑処理方法。
【請求項6】
前記噴射材は、125μm以上600μm以下の粒度分布を有する、請求項1又は請求項2に記載の平滑処理方法。
【請求項7】
前記ブラスト処理を施す工程において、前記回転軸を軸心とした第1回転方向に前記ワークを回転させる第1期間と、前記第1回転方向と反対回りの第2回転方向に前記ワークを回転させる第2期間と、が交互に繰り返される、請求項1又は請求項2に記載の平滑処理方法。
【請求項8】
前記ブラスト処理を施す工程の前に、前記ワークにピーニング処理を施す工程を更に含む、請求項1又は請求項2に記載の平滑処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、平滑処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラスト処理により、部品の表面を平滑化する技術が知られている。例えば、特許文献1には、硬質な微粒子からなる研磨粒子を転動体の表面に投射して表面全体に油溜まりを形成し、砥粒を含む弾性体からなる研磨粒子を転動体の表面に所定の角度で投射して油溜まりを維持したまま表面を平滑化する研磨方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の研磨方法では、油溜まりを維持したまま表面を平滑化するために、所定の角度で研磨粒子(噴射材)が投射される。この場合、噴射材が上記角度で表面に衝突するので、表面の位置によって削食量が変わり得る。したがって、表面を均一に加工できないおそれがある。
【0005】
本開示は、ワークの表面における平滑処理の不均一性を軽減可能な平滑処理方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る平滑処理方法は、ワークを回転機構の回転軸に取り付ける工程と、回転軸を軸心としてワークを回転させながら、ワークに直圧式のブラスト処理を施す工程と、を含む。ブラスト処理では、回転軸と直交する方向に噴射材が噴射される。噴射材は、弾性体から構成されるコア材と、コア材の表面に設けられた砥粒と、を含む。コア材の硬度は、砥粒の硬度よりも低い。
【発明の効果】
【0007】
本開示の各側面及び各実施形態によれば、ワークの表面における平滑処理の不均一性を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る平滑処理方法の工程図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される平滑処理方法に用いられる加工装置の一部を概略的に示す図である。
【
図3】
図3は、
図1に示されるブラスト処理工程において用いられる噴射材の一例を概略的に示す図である。
【
図4】
図4は、
図1に示されるブラスト処理工程を説明するための図である。
【
図5】
図5は、平滑化のメカニズムを説明するための図である。
【
図6】
図6の(a)は、噴射角度と最大高さとの関係を示す図である。
図6の(b)は、噴射角度と削食深さとの関係を示す図である。
【
図7】
図7の(a)は、噴射圧力と最大高さとの関係を示す図である。
図7の(b)は、噴射圧力と削食深さとの関係を示す図である。
【
図8】
図8の(a)は、噴射圧力が0.01MPaの場合の歯筋方向における削食量を示す図である。
図8の(b)は、噴射圧力が0.05MPaの場合の歯筋方向における削食量を示す図である。
図8の(c)は、噴射圧力が0.10MPaの場合の歯筋方向における削食量を示す図である。
図8の(d)は、噴射圧力が0.20MPaの場合の歯筋方向における削食量を示す図である。
【
図9】
図9の(a)は、噴射距離と最大高さとの関係を示す図である。
図9の(b)は、噴射距離と削食深さとの関係を示す図である。
【
図10】
図10の(a)は、ワークの回転数と最大高さとの関係を示す図である。
図10の(b)は、ワークの回転数と削食深さとの関係を示す図である。
【
図11】
図11の(a)は、噴射材の砥粒含有率と最大高さとの関係を示す図である。
図11の(b)は、噴射材の砥粒含有率と削食深さとの関係を示す図である。
【
図12】
図12の(a)は、噴射材の粒度分布と最大高さとの関係を示す図である。
図12の(b)は、噴射材の粒度分布と削食深さとの関係を示す図である。
【
図13】
図13は、ピーニング処理が施されたワークの残留応力値及びピーニング処理後に平滑処理が施されたワークの残留応力値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の概要]
最初に、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0010】
(条項1) 本開示の一側面に係る平滑処理方法は、ワークを回転機構の回転軸に取り付ける工程と、回転軸を軸心としてワークを回転させながら、ワークに直圧式のブラスト処理を施す工程と、を含む。ブラスト処理では、回転軸と直交する方向に噴射材が噴射される。噴射材は、弾性体から構成されるコア材と、コア材の表面に設けられた砥粒と、を含む。コア材の硬度は、砥粒の硬度よりも低い。
【0011】
この平滑処理方法では、直圧式のブラスト処理がワークに施される。このため、噴射材がノズルから広がることなくワークに向かうので、ワークの表面のうちの噴射材が噴射される範囲において、噴射材の密度が略一定となる。ブラスト処理において、噴射材はワークが取り付けられる回転機構の回転軸と直交する方向に噴射されるので、噴射材が噴射されるノズル先端とワーク表面との距離が略一定となる。したがって、ワークの削食量の不均一性を軽減することができる。その結果、ワークの表面における平滑処理の不均一性を軽減することが可能となる。
【0012】
(条項2) 上記条項1に記載の平滑処理方法において、ブラスト処理を施す工程において、噴射材の噴射圧力は、0.01MPa以上0.10MPa以下に設定されてもよい。噴射材の噴射圧力が高くなるにつれて、削食量が増加するとともに、ワークの表面近傍の気流が乱れやすくなる。気流の乱れにより、ワークの表面の位置に応じて単位面積あたりの噴射材の噴射量が変動し得る。噴射材の噴射圧力が低すぎると、ワークの表面を十分に削ることができなくなる。これに対し、噴射材の噴射圧力が上記範囲内であれば、ワーク表面を過剰に削食することなく、ワークの表面近傍の気流の乱れを抑えることができる。したがって、ワークの表面における平滑処理の不均一性を更に軽減することが可能となる。
【0013】
(条項3) 上記条項1又は上記条項2に記載の平滑処理方法において、ブラスト処理を施す工程において、噴射材の噴射距離は、50mm以上100mm以下に設定されてもよい。噴射材の噴射距離が短くなるにつれて、削食量が増加する傾向がある。噴射材の噴射距離が長すぎると、ワークの表面を十分に削ることができなくなる。これに対し、噴射材の噴射距離が上記範囲内であれば、ワーク表面を過剰に削食することなく、ワークの表面粗さを低減することができる。
【0014】
(条項4) 上記条項1~上記条項3のいずれか一項に記載の平滑処理方法において、ブラスト処理を施す工程において、ワークの回転数は、毎分30回転以下に設定されてもよい。ワークの回転数が高くなると、噴射材とワークとの相対速度も高くなる。このため、ワーク表面にはより強い摩擦力が生じ、削食量が増加する傾向にある。これに対し、ワークの回転数が上記範囲内であれば、ワーク表面を過剰に削食することなく、ワークの表面粗さを低減することができる。
【0015】
(条項5) 上記条項1~上記条項4のいずれか一項に記載の平滑処理方法において、噴射材の砥粒の含有率は、15質量%以上26質量%以下であってもよい。噴射材の砥粒含有率が高くなるにつれて、砥粒がワーク表面に接触する回数が増加するので、削食量が増加する傾向がある。噴射材の砥粒含有率が低すぎると、ワークの表面を十分に削ることができなくなる。これに対し、噴射材の砥粒含有率が上記範囲内であれば、ワーク表面を過剰に削食することなく、ワークの表面粗さを低減することができる。
【0016】
(条項6) 上記条項1~上記条項5のいずれか一項に記載の平滑処理方法において、噴射材は、125μm以上600μm以下の粒度分布を有してもよい。噴射材の粒度が大きいと、ワークが複雑な形状を有する場合、噴射材がワーク表面の一部に届かない可能性が高まる。一方、噴射材の粒度が小さいと、ワークが複雑な形状を有していても、ワークの表面全体に噴射材が接触し得る。このため、噴射材の粒度が小さいほど、削食量が増加する傾向がある。これに対し、噴射材の粒度が上記範囲内であれば、ワーク表面を過剰に削食することなく、ワークの表面全体が加工される可能性を高めることができる。
【0017】
(条項7) 上記条項1~上記条項6のいずれか一項に記載の平滑処理方法において、ブラスト処理を施す工程において、回転軸を軸心とした第1回転方向にワークを回転させる第1期間と、第1回転方向と反対回りの第2回転方向にワークを回転させる第2期間と、が交互に繰り返されてもよい。噴射材がワーク表面を一方向にのみ滑る場合には、ワーク表面が均一に加工できない場合がある。これに対して、噴射材がワーク表面を一方向に滑るだけでなく、反対方向にも滑るので、ワークの表面における平滑処理の不均一性を更に軽減することが可能となる。
【0018】
(条項8) 上記条項1~上記条項7のいずれか一項に記載の平滑処理方法は、ブラスト処理を施す工程の前に、ワークにピーニング処理を施す工程を更に含んでもよい。ワークにピーニング処理が施されると、ワークには圧縮残留応力が付与される。この圧縮残留応力は、ワークの表面から所定の深さにおいて最大となる。したがって、ピーニング処理が施された後にブラスト処理が施されることによって、ワークの表面が削られ、高い圧縮残留応力が付与されている部分がワーク表面に露出する。したがって、加工後のワークの強度を高めることができる。
【0019】
[本開示の実施形態の例示]
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。なお、図面の説明において同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略される。各図には、XYZ座標系が示される場合がある。Y軸方向は、X軸方向及びZ軸方向と交差(ここでは、直交)する方向である。Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向と交差(ここでは、直交)する方向である。例えば、X軸方向及びY軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向である。本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。個別に記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0020】
図1~
図5を参照しながら、一実施形態に係る平滑処理方法を説明する。
図1は、一実施形態に係る平滑処理方法の工程図である。
図2は、
図1に示される平滑処理方法に用いられる加工装置の一部を概略的に示す図である。
図3は、
図1に示されるブラスト処理工程において用いられる噴射材の一例を概略的に示す図である。
図4は、
図1に示されるブラスト処理工程を説明するための図である。
図5は、平滑化のメカニズムを説明するための図である。
図1に示される平滑処理方法Mは、ワークWの表面を平滑化する方法である。ワークWは、例えば、複雑な形状を有する部品である。ワークWの例としては、摺動部品又は駆動部品が挙げられる。本実施形態では、ワークWの一例として、歯車が用いられる。
【0021】
図2に示されるように、平滑処理方法Mには、加工装置10が用いられる。加工装置10は、直圧式のブラスト加工装置である。加工装置10は、回転機構11と、ノズル12と、を含む。回転機構11は、回転軸11aに取り付けられたワークWを、回転軸11a(の中心軸線AX)を軸心として回転させる機構(装置)である。回転軸11aは、X軸方向に延びている。回転機構11は、回転軸11aをX軸方向に進退可能に構成されている。ノズル12は、回転軸11aに取り付けられたワークWの表面に向けて噴射材30を噴射する。ノズル12の先端には、噴射口12aが設けられている。噴射口12aは、回転軸11aの上方に位置し、回転軸11a(ワークW)と向かい合っている。噴射口12aの直径(ノズル径)は、例えば、10mmである。
【0022】
図3に示されるように、噴射材30は、コア材31と、砥粒32と、を含む。コア材31は、弾性体から構成されている。弾性体は、例えば、熱可塑性樹脂によって構成される。噴射材30の製造し易さの観点から、熱可塑性樹脂の例としては、ホットメルト樹脂が挙げられる。ホットメルト樹脂は、常温では固体(固相)であり、融点以上の温度で溶融して液体(液相)となる。液相のホットメルト樹脂を他の材料に接触させた状態でホットメルト樹脂を固相へと変化させることで、ホットメルト樹脂は他の材料に接合する。ホットメルト樹脂は、低い融点を有し、かつ、弾性を有するので、噴射材30を製造し易い。
【0023】
一例として、融点が60゜C以上かつ100゜C以下のホットメルト樹脂が用いられてもよい。融点が60゜Cより小さい場合にはブラスト処理時に液相となるおそれがある。融点が100゜Cを超える場合には砥粒32の固着工程にコストがかかるおそれがあるとともに、軟化点も高温となる傾向にあるので、ゴム弾性の制御が難しくなるおそれがある。軟化点とは、ホットメルト樹脂が軟化し始める温度である。80゜C以下の温度範囲でゴム弾性が温度に応じて変化するホットメルト樹脂が用いられてもよい。例えば、20゜C~50゜Cの温度範囲において1゜Cの温度変化に対してゴム硬度の変化が1.3(A)以上となるホットメルト樹脂が用いられてもよい。
【0024】
上述した条件を満たすホットメルト樹脂は、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリウレタン、低密度ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アイオノマー、又はポリビニルアルコールを主成分とする。エチレン酢酸ビニルを主成分とするホットメルト樹脂は、融点が60゜C~97゜Cの範囲であり、軟化点が69゜C以下(融点が60゜Cの場合には軟化点は40゜C以下)である。ポリウレタンを主成分とするホットメルト樹脂は、融点が90゜Cである。
【0025】
コア材31の形状は、球状、板状、柱状、錐状、又は多面体であってもよい。コア材31の粒子径(粒度)は、125μm~600μmの範囲であってもよく、150μm~500μmの範囲であってもよい。コア材31は、熱可塑性樹脂以外の樹脂及びその他の成分を含んでいてもよい。
【0026】
砥粒32は、ワークWよりも硬い素材を所定の範囲の粒子径に粉末化した粒子である。砥粒32の硬度は、コア材31の硬度よりも高い。砥粒32は、アルミナ、炭化珪素、酸化セリウム、タングステンカーバイド、ジルコニア、炭化ホウ素、又はダイヤモンドなどによって構成されてもよい。砥粒32の平均粒径(粒度)は、1μm~25μmの範囲であってもよい。
【0027】
砥粒32は、コア材31の表面に設けられている。熱によって溶融したコア材31のもととなる樹脂と砥粒32とが密着した状態で、冷却によって樹脂が固化することで、コア材31の表面に砥粒32が接着された噴射材30が得られる。砥粒32の一部がコア材31に埋没し、かつコア材31の表面から砥粒32の残部が露出するように、砥粒32はコア材31に固着されてもよい。砥粒32の全体がコア材31に埋没してもよい。
【0028】
噴射材30における砥粒32の含有率は、例えば、15質量%~26質量%である。噴射材30の粒度分布は、例えば、125μm~600μmである。
【0029】
図1に示されるように、平滑処理方法Mは、準備工程S1と、ブラスト処理工程S2と、を含む。以下、各工程を詳細に説明する。
【0030】
<準備工程S1>
まず、準備工程S1が行われる。準備工程S1は、ワークWを準備する工程である。準備工程S1では、ワークWが回転機構11の回転軸11aに取り付けられる。ワークW(歯車)の中心と回転軸11aの中心軸線AXとが一致するように、ワークWは回転軸11aに取り付けられる。
【0031】
<ブラスト処理工程S2>
続いて、ブラスト処理工程S2が行われる。ブラスト処理工程S2は、回転軸11a(の中心軸線AX)を軸心としてワークWを回転させながら、ワークWに直圧式のブラスト処理を施す工程である。ブラスト処理工程S2では、回転軸11aの中心軸線AXと直交する方向(Z軸方向)に噴射材30が噴射される。すなわち、ノズル12の噴射口12aの中心が回転軸11aの中心軸線AXの実質的に真上に位置し、噴射角度が実質的に90°である。噴射角度とは、回転軸11aの中心軸線AXとノズル12の中心軸線とが成す角度である。「実質的に真上」とは、真上とみなされ得る位置を意味し、例えば、回転軸11aの中心軸線AXから±5mm程度のずれは許容される。「実質的に90°」とは、90°とみなされ得る角度を意味し、例えば、90°±2°程度のずれは許容される。
【0032】
ブラスト処理は、所定の加工条件下で実施される。所望の削食量(削食深さ)が得られ、かつ、ワークWの表面粗さが低減されるように、各種加工パラメータが設定される。ここで、ワークWの表面の削食量(削食深さ)Dは、プレストンの法則に従う。つまり、削食量Dは、噴射圧力Pと、噴射材30の速度Vaと、ワークWの移動速度Vw(回転数)と、噴射時間Tと、プレストン係数kと、を用いて、式(1)で表される。式(1)に示されるように、削食量Dは、噴射圧力Pと、相対速度と、噴射時間Tと、に比例する。相対速度は、速度Vaと移動速度Vwとを加算することによって得られる。相対速度は、ワークWと噴射材30との摩擦力を示している。ワークWの回転数が高くなると相対速度も高くなる。速度Vaは、噴射材30がワークWに衝突する際の噴射材30の速度である。したがって、噴射距離が長くなると、噴射材30は空気抵抗の影響を受けるので、速度Vaは低下する。
【0033】
【0034】
例えば、噴射材30の噴射圧力は、0.01MPa~0.10MPaの範囲内に設定される。噴射材30の噴射距離は、50mm~100mmの範囲内に設定される。噴射材30の噴射距離とは、ノズル12の噴射口12aとワークWとの距離(本実施形態の場合は、ノズル12の噴射口12aとワークWである歯車の歯先先端との距離)である。ワークWの回転数(回転軸11aの回転数)は、毎分30回転(30rpm)以下に設定される。噴射材30の噴射時間は、加工の程度に応じて適宜調整される。
【0035】
図4に示されるように、ブラスト処理工程S2において、期間T1(第1期間)と期間T2(第2期間)とが交互に繰り返される。期間T1は、ワークWを回転方向C1(第1回転方向)に回転させるとともに方向D1に移動させながら、ワークWに噴射材30を噴射する期間である。期間T2は、ワークWを回転方向C2(第2回転方向)に回転させるとともに方向D2に移動させながら、ワークWに噴射材30を噴射する期間である。回転方向C1は、回転軸11a(の中心軸線AX)を軸心とした時計回りである。回転方向C2は、回転方向C1と反対回りであって、回転軸11a(の中心軸線AX)を軸心とした反時計回りである。方向D1は、回転軸11aが延びる方向(X軸方向)において、回転軸11aを駆動する駆動装置から離れる方向である。方向D2は、方向D1と反対方向である。
【0036】
ブラスト処理工程S2では、ワークWが回転軸11a(の中心軸線AX)を軸心として回転された状態で、噴射材30がノズル12からワークWに向かって実質的に90°で噴射される。
図5に示されるように、噴射材30は、気流Fに乗ってワークWに向かって噴射され、ワークWの表面に衝突する。このとき、コア材31がワークWの表面に沿って弾性変形し、砥粒32の周縁がワークWの表面の凸部に引っ掛かる。ワークWの表面近傍では、気流FがワークWの表面に遮られて分散するので、気流FはワークWの表面に沿って流れている。このため、噴射材30はワークWの表面に沿った気流Fに乗ってワークWの表面を滑るので、砥粒32がワークWの表面の凸部を削り取る。その後、コア材31が弾性力によってその形状を元に戻すことによって、噴射材30はワークWの表面から離間する。以上により、ワークWの表面が平滑化される。
【0037】
以上説明した平滑処理方法Mでは、直圧式のブラスト処理がワークWに施される。このため、噴射材30がノズル12から広がることなくワークWに向かうので、ワークWの表面のうちの噴射材30が噴射される範囲において、噴射材30の密度が略一定となる。ブラスト処理において、噴射材30はワークWが取り付けられる回転軸11aと直交する方向に噴射されるので、噴射材30が噴射されるノズル12の先端(噴射口12a)とワークWの表面との距離が略一定となる。したがって、ワークWの削食量の不均一性を軽減することができる。その結果、ワークWの表面における平滑処理の不均一性を軽減することが可能となる。
【0038】
式(1)に示されるように、噴射材30の噴射圧力が高くなるにつれて、削食量が増加する。さらに、噴射材30の噴射圧力が高くなると、ワークWの表面近傍の気流が乱れやすくなる。気流の乱れにより、ワークWの表面の位置に応じて単位面積あたりの噴射材30の噴射量が変動し得る。一方、噴射材30の噴射圧力が低すぎると、ワークWの表面を十分に削ることができなくなる。これに対し、ブラスト処理工程S2において、噴射材30の噴射圧力は、0.01MPa~0.10MPaに設定されている。このため、ワークWの表面を過剰に削食することなく、ワークWの表面近傍の気流の乱れを抑えることができる。したがって、ワークWの表面における平滑処理の不均一性を更に軽減することが可能となる。
【0039】
噴射材30の噴射距離が短くなるにつれて、式(1)の速度Vaが高くなるので、削食量が増加する傾向がある。一方、噴射材30の噴射距離が長すぎると、ワークWの表面を十分に削ることができなくなる。これに対し、ブラスト処理工程S2において、噴射材30の噴射距離は、50mm~100mmに設定されている。したがって、ワークWの表面を過剰に削食することなく、ワークWの表面粗さを低減することができる。
【0040】
ワークWの回転数が高くなると、噴射材30とワークWとの相対速度も高くなる。このため、ワークWの表面にはより強い摩擦力が生じ、削食量が増加する傾向にある。これに対し、ブラスト処理工程S2において、ワークWの回転数は、毎分30回転以下に設定されている。したがって、ワークWの表面を過剰に削食することなく、ワークWの表面粗さを低減することができる。
【0041】
噴射材30の砥粒含有率が高くなるにつれて、砥粒32がワークWの表面に接触する回数が増加するので、削食量が増加する傾向がある。一方、噴射材30の砥粒含有率が低すぎると、ワークWの表面を十分に削ることができなくなる。これに対し、ブラスト処理工程S2において、噴射材30の砥粒含有率は、15質量%~26質量%に設定されている。したがって、ワークWの表面を過剰に削食することなく、ワークWの表面粗さを低減することができる。
【0042】
噴射材30の粒度が大きいと、ワークWが複雑な形状を有する場合には、噴射材30がワークWの表面の一部に届かない可能性が高まる。一方、噴射材30の粒度が小さいと、ワークWが複雑な形状を有していても、ワークWの表面全体に噴射材が接触し得る。このため、噴射材30の粒度が小さいほど、削食量が増加する傾向がある。これに対し、ブラスト処理工程S2において、125μm以上600μm以下の粒度分布を有する噴射材30が用いられる。したがって、ワークWの表面を過剰に削食することなく、ワークWの表面全体が加工される可能性を高めることができる。
【0043】
噴射材30がワークWの表面を一方向にのみ滑る場合には、ワークWの表面が均一に加工できない場合がある。これに対して、ブラスト処理工程S2において、回転方向C1にワークWを回転させる期間T1と、回転方向C2にワークWを回転させる期間T2と、が交互に繰り返される。したがって、噴射材30がワークWの表面を一方向に滑るだけでなく、反対方向にも滑るので、ワークWの表面における平滑処理の不均一性を更に軽減することが可能となる。
【0044】
なお、本開示に係る平滑処理方法は上記実施形態に限定されない。
【0045】
例えば、ブラスト処理工程S2において、期間T1と期間T2とのいずれか一方のみが行われてもよい。期間T1において、ワークWは方向D1に移動されなくてもよい。期間T2において、ワークWは方向D2に移動されなくてもよい。上述のように、各加工パラメータは、所望の削食量(削食深さ)が得られ、かつ、ワークWの表面粗さが低減されるように、適宜変更され得る。
【0046】
平滑処理方法Mは、ブラスト処理工程S2の前に、ワークWにピーニング処理を施す工程を更に含んでいてもよい。ワークWにピーニング処理が施されると、ワークWには圧縮残留応力が付与される。この圧縮残留応力は、ワークWの表面から所定の深さにおいて最大となる。したがって、ピーニング処理が施された後にブラスト処理が施されることによって、ワークWの表面が削られ、高い圧縮残留応力が付与されている部分がワークWの表面に露出する。したがって、加工後のワークWの強度を高めることができる。
【実施例0047】
以下、上記効果を説明すべく、実施例により本開示を更に詳しく説明する。本開示はこれらの実施例に限定されない。以下の実施例では、
図1に示される平滑処理方法Mが所定の加工条件の下で実施され、加工条件に含まれる各加工パラメータが平滑処理に及ぼす影響が評価された。以下の評価では、評価対象となるパラメータ以外は同一の加工条件に設定された。加工条件は、評価対象となるパラメータの影響が明確になるように適宜調整された。
【0048】
<噴射角度の評価>
以下の加工条件の下で、噴射角度が平滑処理に及ぼす影響が評価された。ワークとして、真空浸炭処理が施されたSCM材(クロムモリブデン鋼鋼材)からなる直径25mmの丸棒が用いられた。125μm~600μmの粒度分布及び20質量%の砥粒含有率を有する噴射材が用いられた。噴射材の砥粒として、新東工業株式会社製WA#2000が用いられた。直径10mmの噴射口を有するノズルが用いられた。噴射圧力は0.20MPaに設定され、噴射距離は25mmに設定され、ワークの回転数は毎分2回転に設定された。
【0049】
噴射角度が30°、45°、60°、及び90°に設定された場合の最大高さRz及び削食深さが測定された。噴射材の噴射開始から1分、2分、4分、及び10分が経過した時点(噴射時間)で測定が行われた。
図6の(a)及び
図6の(b)に測定結果が示される。
図6の(a)は、噴射角度と最大高さとの関係を示す図である。
図6の(b)は、噴射角度と削食深さとの関係を示す図である。
図6の(a)及び
図6の(b)の横軸は、ワークの単位面積あたりの噴射量(単位:g/cm
2)を示す。
図6の(a)の縦軸は、最大高さRz(単位:μm)を示す。
図6の(b)の縦軸は、削食深さ(単位:μm)を示す。なお、単位面積あたりの噴射量は、噴射時間に比例するので、噴射時間を表しているともいえる。
【0050】
図6の(a)に示されるように、噴射角度が45°及び60°の場合には、最大高さRzは、噴射開始から比較的早い時点で大きく低減し、その後一定値で安定した。噴射角度が30°の場合には、最大高さRzは、噴射開始から比較的早い時点で大きく低減したものの、その後、噴射時間が経過するとともに増加した。これは、噴射角度が小さいため、噴射材とワーク表面との間の摩擦力が大きくなりすぎて、ブラスト処理が過剰に施された状態(波打ち様の表面)となったことに起因すると考えられる。噴射角度が90°の場合には、最大高さRzの低減率は、他の噴射角度と比較して小さかったが、最大高さRzが安定する値は同等であった。なお、低減率とは、単位時間あたりの低減量を意味する。
【0051】
図6の(b)に示されるように、噴射角度が小さくなるにつれて、削食深さが増加した。これは、噴射角度が小さいほど噴射材のワーク表面に沿った向きの力が大きくなり、噴射材とワーク表面との間の摩擦力が大きくなることに起因すると考えられる。なお、各噴射角度において、最大高さRzが一定値に達した時点での単位面積あたりの噴射量(噴射密度)における削食深さが比較された。
【0052】
噴射角度が90°の場合には、ワーク表面を過剰に削食することなく、最大高さRz(表面粗さ)を低減できることが確認された。
【0053】
<噴射圧力の評価>
以下の加工条件の下で、噴射圧力が平滑処理に及ぼす影響が評価された。ワークとして、真空浸炭処理が施されたSCM415からなる直径150mmで歯筋方向の長さ30mmの平歯歯車が用いられた。125μm~600μmの粒度分布及び20質量%の砥粒含有率を有する噴射材が用いられた。噴射材の砥粒として、新東工業株式会社製WA#2000が用いられた。直径10mmの噴射口を有するノズルが用いられた。噴射角度は90°に設定され、噴射距離は50mmに設定され、ワークの回転数は毎分30回転に設定された。
【0054】
噴射圧力が0.01MPa、0.05MPa、0.10MPa、及び0.20MPaに設定された場合の最大高さRz及び削食深さが測定された。噴射材の噴射開始から1分、2分、4分、及び10分が経過した時点(噴射時間)で測定が行われた。
図7の(a)及び(b)、並びに
図8の(a)~(d)に測定結果が示される。
図7の(a)は、噴射圧力と最大高さとの関係を示す図である。
図7の(b)は、噴射圧力と削食深さとの関係を示す図である。
図8の(a)は、噴射圧力が0.01MPaの場合の歯筋方向における削食量を示す図である。
図8の(b)は、噴射圧力が0.05MPaの場合の歯筋方向における削食量を示す図である。
図8の(c)は、噴射圧力が0.10MPaの場合の歯筋方向における削食量を示す図である。
図8の(d)は、噴射圧力が0.20MPaの場合の歯筋方向における削食量を示す図である。
【0055】
図7の(a)及び
図7の(b)の横軸は、ワークの単位面積あたりの噴射量(単位:g/cm
2)を示す。
図7の(a)の縦軸は、最大高さRz(単位:μm)を示す。
図7の(b)の縦軸は、削食深さ(単位:μm)を示す。
図8の(a)~(d)の横軸は歯筋方向の測定長さ(単位:mm)を示し、
図8の(a)~(d)の縦軸は削食深さ(単位:mm)を示す。なお、各測定において原点(0,0)が任意に設定されたので、
図8の(a)~(d)の横軸及び縦軸の値にはばらつきがある。このため、削食深さの相対的な値が比較された。
【0056】
図7の(a)に示されるように、上述の各噴射圧力において、最大高さRzは、1.1~1.4μmで安定した。したがって、上記範囲内の噴射圧力は、最大高さRzに影響を及ぼさないことが分かった。最大高さRzは、砥粒の粒度に依存すると考えられるが、本評価では同等の粒度の砥粒が用いられたので、加工後の最大高さRzは略同じであったといえる。
【0057】
図7の(b)に示されるように、噴射圧力が高くなるにつれて、削食量が増加する傾向にあった。噴射圧力が高くなると、噴射エネルギーが高くなるので、削食量が増加すると考えられる。なお、各噴射圧力において、最大高さRzが一定値に達した時点での単位面積あたりの噴射量(噴射密度)における削食深さが比較された。さらに、
図8の(a)~(c)に示されるように、噴射圧力が0.01MPa、0.05MPa及び0.10MPaの場合には、ワークの歯筋方向において、削食深さが略均一であった。しかしながら、
図8の(d)に示されるように、噴射圧力が0.20MPaの場合には、ワークの歯筋方向において、削食深さに偏りが生じた。
【0058】
なお、各噴射圧力での最大削食深さから最小削食深さを減算した値の標準偏差σは、0.01MPaの噴射圧力では0.12、0.05MPaの噴射圧力では0.06、0.10MPaの噴射圧力では0.81、0.20MPaの噴射圧力では1.57であった。標準偏差σが1.00よりも大きいと、削食深さに偏りが生じているといえる。
【0059】
噴射圧力が高くなるにつれて、ワーク表面近傍の気流が乱れやすくなり、気流の乱れにより削食深さに偏りが生じたと考えられる。一方、測定結果には含まれていないが、噴射圧力が低すぎると、ワーク表面を十分に削ることができず、最大高さRzを十分に低減することができなくなると考えられる。
【0060】
噴射圧力が0.01MPa以上0.10MPa以下の範囲においては、ワーク表面を過剰に削食することなく、最大高さRz(表面粗さ)を略均一に低減できることが確認された。
【0061】
<噴射距離の評価>
以下の加工条件の下で、噴射距離が平滑処理に及ぼす影響が評価された。ワークとして、真空浸炭処理が施されたSCM415からなる直径150mmで歯筋方向の長さ30mmの平歯歯車が用いられた。125μm~600μmの粒度分布及び20質量%の砥粒含有率を有する噴射材が用いられた。噴射材の砥粒として、新東工業株式会社製WA#2000が用いられた。直径10mmの噴射口を有するノズルが用いられた。噴射角度は90°に設定され、噴射圧力は0.10MPaに設定され、ワークの回転数は毎分30回転に設定された。
【0062】
噴射距離が25mm、50mm、75mm、及び100mmに設定された場合の最大高さRz及び削食深さが測定された。噴射材の噴射開始から1分、2分、4分、及び10分が経過した時点(噴射時間)で測定が行われた。
図9の(a)及び
図9の(b)に測定結果が示される。
図9の(a)は、噴射距離と最大高さとの関係を示す図である。
図9の(b)は、噴射距離と削食深さとの関係を示す図である。
図9の(a)及び
図9の(b)の横軸は、ワークの単位面積あたりの噴射量(単位:g/cm
2)を示す。
図9の(a)の縦軸は、最大高さRz(単位:μm)を示す。
図9の(b)の縦軸は、削食深さ(単位:μm)を示す。
【0063】
図9の(a)に示されるように、最大高さRzの低減率は、上述のすべての噴射距離において同等であった。最大高さRzが安定する値は、上述のすべての噴射距離において同等であった。したがって、上記範囲内の噴射距離は、最大高さRzの低減率及び最大高さRzに影響を及ぼさないことが分かった。測定結果には含まれていないが、噴射距離が長すぎると、ワーク表面を十分に削ることができず、最大高さRzを低減することができなくなると考えられる。
【0064】
図9の(b)に示されるように、噴射距離が長くなるにつれて削食深さが減少する傾向にあり、噴射距離が25mmの場合には、削食深さは過剰に大きかった。50mm以上の噴射距離では削食深さは同程度となった。なお、各噴射距離において、最大高さRzが一定値に達した時点での単位面積あたりの噴射量(噴射密度)における削食深さが比較された。噴射材の比重は小さいので空気抵抗の影響を受けやすい。このため、50mm以上の噴射距離では、空気抵抗によって噴射材の運動エネルギーが減衰し、削食深さが同等となったと考えられる。
【0065】
噴射距離が50mm以上100mm以下の範囲においては、ワーク表面を過剰に削食することなく、最大高さRz(表面粗さ)を低減できることが確認された。
【0066】
<ワークの回転数の評価>
以下の加工条件の下で、ワークの回転数が平滑処理に及ぼす影響が評価された。ワークとして、真空浸炭処理が施されたSCM415からなる直径150mmで歯筋方向の長さ30mmの平歯歯車が用いられた。125μm~600μmの粒度分布及び20質量%の砥粒含有率を有する噴射材が用いられた。噴射材の砥粒として、新東工業株式会社製WA#2000が用いられた。直径10mmの噴射口を有するノズルが用いられた。噴射角度は90°に設定され、噴射圧力は0.10MPaに設定され、噴射距離は25mmに設定された。
【0067】
ワークの回転数が2rpm、16rpm、及び30rpmに設定された場合の最大高さRzが測定された。噴射材の噴射開始から1分、2分、4分、及び10分が経過した時点(噴射時間)で測定が行われた。
図10の(a)及び
図10の(b)に測定結果が示される。
図10の(a)は、ワークの回転数と最大高さとの関係を示す図である。
図10の(b)は、ワークの回転数と削食深さとの関係を示す図である。
図10の(a)及び
図10の(b)の横軸は、ワークの単位面積あたりの噴射量(単位:g/cm
2)を示す。
図10の(a)の縦軸は、最大高さRz(単位:μm)を示す。
図10の(b)の縦軸は、削食深さ(単位:μm)を示す。
【0068】
図10の(a)に示されるように、ワークの回転数が高いほど、最大高さRzの低減率は、わずかに大きくなった。これは、ワークの回転数が高くなると、噴射材とワークとの相対速度が高くなるので、ワーク表面により強い摩擦力が発生することに起因すると考えられる。最大高さRzが安定する値は、上述のすべての回転数において同程度であった。
図10の(b)に示されるように、ワークの回転数が高いほど、削食深さが増加する傾向にあった。これも、相対速度による摩擦力の大きさに起因すると考えられる。なお、各回転数において、最大高さRzが一定値に達した時点での単位面積あたりの噴射量(噴射密度)における削食深さが比較された。
【0069】
ワークWの回転数が30rpm以下の範囲においては、ワーク表面を過剰に削食することなく、最大高さRz(表面粗さ)を低減できることが確認された。
【0070】
<噴射材の砥粒含有率の評価>
以下の加工条件の下で、噴射材の砥粒含有率が平滑処理に及ぼす影響が評価された。ワークとして、真空浸炭処理が施された直径40mm×長さ10mmのSCM材が用いられた。125μm~600μmの粒度分布を有する噴射材が用いられた。噴射材の砥粒として、新東工業株式会社製WA#2000が用いられた。直径6mmの噴射口を有するノズルが用いられた。噴射角度は45°に設定され、噴射圧力は0.20MPaに設定され、噴射距離は1mmに設定された。
【0071】
15質量%、17質量%、24質量%、25質量%、26質量%、29質量%、37質量%、及び39質量%の砥粒含有率の噴射材が用いられた場合の最大高さRz及び削食深さが測定された。噴射材の噴射開始から3分、6分、12分、及び30分が経過した時点(噴射時間)で測定が行われた。
図11の(a)及び
図11の(b)に測定結果が示される。
図11の(a)は、噴射材の砥粒含有率と最大高さとの関係を示す図である。
図11の(b)は、噴射材の砥粒含有率と削食深さとの関係を示す図である。
図11の(a)及び
図11の(b)の横軸は、ワークの単位面積あたりの噴射量(単位:g/cm
2)を示す。
図11の(a)の縦軸は、最大高さRz(単位:μm)を示す。
図11の(b)の縦軸は、削食深さ(単位:μm)を示す。
【0072】
図11の(a)に示されるように、最大高さRzの低減率は、上述のすべての砥粒含有率において同等であった。最大高さRzが安定する値は、上述のすべての砥粒含有率において同等であった。したがって、上記範囲内の砥粒含有率は、最大高さRzの低減率及び最大高さRzに影響を及ぼさないことが分かった。最大高さRzは、砥粒の粒度に依存すると考えられるが、本評価では同等の粒度の砥粒が用いられたので、加工後の最大高さRzは略同じであったといえる。一方、測定結果には含まれていないが、砥粒含有率が低すぎると、ワーク表面を十分に削ることができず、最大高さRzを十分に低減することができなくなると考えられる。
【0073】
図11の(b)に示されるように、砥粒含有率が大きくなるにつれて削食深さが増加する傾向があった。砥粒含有率が大きいほど、ワーク表面と砥粒との接触回数が増加するので、削食深さも増加すると考えられる。なお、各砥粒含有率において、最大高さRzが一定値に達した時点での単位面積あたりの噴射量(噴射密度)における削食深さが比較された。いずれの砥粒含有率においても最大高さRzが1.5程度で安定している。そのときの噴射密度は、400~500g/cm
2であるので、その噴射密度における削食深さを比較すると、15質量%、17質量%、24質量%、25質量%、及び26質量%の砥粒含有率の噴射材が用いられた場合には、削食深さが同程度であった。29質量%、37質量%、及び39質量%の砥粒含有率の噴射材が用いられた場合には、削食深さが過剰に大きかった。
【0074】
砥粒含有率が15質量%以上26質量%以下の範囲においては、ワーク表面を過剰に削食することなく、最大高さRz(表面粗さ)を低減できることが確認された。
【0075】
<噴射材の粒度分布の評価>
以下の加工条件の下で、噴射材の粒度分布が平滑処理に及ぼす影響が評価された。ワークとして、真空浸炭処理が施された直径40mm×長さ10mmのSCM材が用いられた。噴射材の砥粒として、新東工業株式会社製WA#2000が用いられた。直径6mmの噴射口を有するノズルが用いられた。噴射角度は45°に設定され、噴射圧力は0.20MPaに設定され、噴射距離は1mmに設定された。
【0076】
125μm~600μm、212μm~500μm、及び75μm~300μmの粒度分布を有する噴射材が用いられた場合の最大高さRz及び削食深さが測定された。噴射材の噴射開始から3分、6分、12分、及び30分が経過した時点(噴射時間)で測定が行われた。なお、125μm~600μmの粒度分布を有する噴射材の砥粒含有率は25質量%であり、212μm~500μmの粒度分布を有する噴射材の砥粒含有率は20質量%であり、75μm~300μmの粒度分布を有する噴射材の砥粒含有率は36質量%であった。
【0077】
図12の(a)及び
図12の(b)に測定結果が示される。
図12の(a)は、噴射材の粒度分布と最大高さとの関係を示す図である。
図12の(b)は、噴射材の粒度分布と削食深さとの関係を示す図である。
図12の(a)及び
図12の(b)の横軸は、ワークの単位面積あたりの噴射量(単位:g/cm
2)を示す。
図12の(a)の縦軸は、最大高さRz(単位:μm)を示す。
図12の(b)の縦軸は、削食深さ(単位:μm)を示す。
【0078】
図12の(a)に示されるように、最大高さRzの低減率は、上述のすべての粒度分布において同等であった。最大高さRzが安定する値は、上述のすべての粒度分布において同等であった。したがって、上述の噴射材の粒度分布は、最大高さRzの低減率及び最大高さRzに影響を及ぼさないことが分かった。
【0079】
図12の(b)に示されるように、噴射材の粒度分布によって、削食深さが変化した。なお、各粒度分布において、最大高さRzが一定値に達した時点での単位面積あたりの噴射量(噴射密度)における削食深さが比較された。75μm~300μmの粒度分布を有する噴射材が用いられた場合には、削食深さが過剰に大きかった。212μm~500μmの粒度分布を有する噴射材が用いられた場合には、削食深さは抑えられたものの、ワーク表面の一部が十分に加工されなかった。ワークが複雑な形状を有する場合、大きい粒度を有する噴射材はワーク表面の一部に届かない可能性が高まる。一方、ワークが複雑な形状を有していても、噴射材が小さい粒度を有する場合には、ワーク表面のうち噴射材が衝突(接触)する範囲(カバレージ)が上昇する。したがって、大きい粒度の噴射材よりも小さい粒度の噴射材の方が、ワーク表面に接触する確率は上がる。さらに、粒度が小さいほど、噴射材の表面積が増加するので、砥粒含有率も上昇する。これらのことから、噴射材の粒度が小さいほど、削食深さが増加すると考えられる。
【0080】
125μm以上600μm以下の粒度分布を有する噴射材が用いられた場合においては、ワーク表面を過剰に削食することなく、ワーク表面全体が加工される可能性を高めることができることが確認された。
【0081】
<ワークの残留応力値>
まず、以下の加工条件の下でピーニング処理が施されたワークが準備された。ワークとして、真空浸炭処理が施された直径40mm×長さ10mmのSCM材が用いられた。投射材として、新東工業株式会社製SBM210C(125μm~250μmの粒度を有する鋳鋼投射材)が用いられた。投射角度は90°に設定され、投射圧力は0.30MPaに設定され、投射距離は200mmに設定された。投射角度とは、ワークが取り付けられた回転軸の中心軸線と投射材が投射される方向とが成す角度である。投射距離とは、投射材が投射されるノズルの噴射口とワークとの距離である。投射量は、9kg/分に設定され、投射時間は12秒に設定された。ピーニング処理のカバレージは、300%であった。そして、ワーク表面からのいくつかの深さにおける残留応力値が測定された。
【0082】
ピーニング処理が施されたワークに、以下の加工条件の下で平滑処理が更に施された。125μm~600μmの粒度分布を有し、20質量%~24質量%の砥粒含有率の噴射材が用いられた。噴射材の砥粒として、新東工業株式会社製WA#2000が用いられた。直径6mmの噴射口を有するノズルが用いられた。噴射角度は45°に設定され、噴射圧力は0.20MPaに設定され、噴射距離は1mmに設定された。噴射時間が6分に設定された。
【0083】
図13に測定結果が示される。
図13は、ピーニング処理が施されたワークの残留応力値及びピーニング処理後に平滑処理が施されたワークの残留応力値を示す図である。
図13の横軸は、ワーク表面からの深さ(単位:μm)を示す。
図13の縦軸は、残留応力値(単位:MPa)を示す。正の残留応力値は引張残留応力の応力値を示し、負の残留応力値は圧縮残留応力の応力値を示す。なお、
図13に示される測定結果は、同一のワークを用いて測定したわけではない。したがって、ワークの相違及び測定誤差等の影響によって、ピーニング処理が施されたワークの残留応力値を示す曲線と、ピーニング処理後に平滑処理が施されたワークの残留応力値を示す曲線との形状が若干異なっている。
【0084】
図13に示されるように、ピーニング処理が施され、平滑処理が施されていないワークにおいては、ワークに圧縮残留応力が付与され、ワーク表面から20μm付近の深さで、圧縮残留応力値が最大となることが確認された。当該ワークに平滑処理が更に施されたことにより、ワーク表面が7~10μm程度の深さで削られた。このとき、圧縮残留応力値にほとんど影響を与えることなく、ワーク表面が削られた。その結果、高い圧縮残留応力が付与されている部分がワークの表面に露出することが確認された。