(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025408
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】FMCWレーダ信号処理装置及びFMCWレーダ信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20240216BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S7/02 212
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128822
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】西山 拓真
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AB24
5J070AC03
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD06
5J070AH31
5J070AH35
5J070AH50
5J070AK22
(57)【要約】
【課題】本開示は、FMCWレーダ信号処理装置を実機に実装するにあたり、信号処理量及びデータメモリ量を削減するとともに、物標検出性能(信号対雑音比及び物標検出分解能)を向上させることを目的とする。
【解決手段】本開示は、第1次元方向及び第2次元方向において、フーリエ変換を実行したうえで、第1ビン方向及び第2ビン方向のうちの少なくともいずれか(第1ビン方向のみ等。)について、データを間引いて残りをメモリに保存する。すると、第1次元方向及び第2次元方向において、フーリエ変換結果は、信号積算効果が強いため、信号対雑音比が高くなり、物標検出帯域幅が広いため、物標検出分解能が高くなる。そして、第1ビン方向及び第2ビン方向のうちの少なくともいずれか(第1ビン方向のみ等。)について、データが間引かれても、信号対雑音比及び物標検出分解能は影響を受けない。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCW(Frequency Modulation-Continuous Wave)レーダを用いるFMCWレーダ信号処理装置であって、
複数のサンプル数だけサンプリングした送信信号と受信信号との間のビート信号を、複数のチャープ数及び複数のアンテナ数だけ算出するビート信号算出部と、
時間経過方向、チャープ回数方向及びアンテナ配列方向のうちの第1方向において、前記ビート信号算出部でのビート信号をフーリエ変換する第1フーリエ変換部と、
時間経過方向、チャープ回数方向及びアンテナ配列方向のうちの第2方向において、前記第1フーリエ変換部でのフーリエ変換位相をフーリエ変換する第2フーリエ変換部と、
時間経過方向、チャープ回数方向及びアンテナ配列方向のうちの第3方向において、前記第2フーリエ変換部でのフーリエ変換位相をフーリエ変換する第3フーリエ変換部と、
前記第1フーリエ変換部及び前記第2フーリエ変換部でのフーリエ変換結果のうちの少なくともいずれかについて、データを間引いて残りをメモリに保存するデータ間引き部と、
前記第1フーリエ変換部、前記第2フーリエ変換部及び前記第3フーリエ変換部でのフーリエ変換結果に基づいて、物標距離、物標速度及び物標角度を検出する物標検出部と、
を備えることを特徴とするFMCWレーダ信号処理装置。
【請求項2】
前記データ間引き部は、単数又は複数のチャープからなる各々のフレームにおいて、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法を周期的に切り替える
ことを特徴とする、請求項1に記載のFMCWレーダ信号処理装置。
【請求項3】
前記第1フーリエ変換部及び前記第2フーリエ変換部のうちの少なくともいずれかは、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法において、フーリエ変換強度のメインローブを形成するデータが間引かれず残るように、窓関数を適用してフーリエ変換する
ことを特徴とする、請求項2に記載のFMCWレーダ信号処理装置。
【請求項4】
前記第1フーリエ変換部は、時間経過方向及びアンテナ配列方向のうちの前記第1方向において、前記ビート信号算出部でのビート信号をフーリエ変換し、
前記第2フーリエ変換部は、時間経過方向及びアンテナ配列方向のうちの前記第2方向において、前記第1フーリエ変換部でのフーリエ変換位相をフーリエ変換する
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のFMCWレーダ信号処理装置。
【請求項5】
前記データ間引き部が、データの間引き率を高くするほど、前記物標検出部は、物標距離、物標速度及び物標角度のうちの少なくともいずれかの検出範囲を拡げる
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のFMCWレーダ信号処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載のFMCWレーダ信号処理装置が備える各処理部が実行する各処理ステップを、コンピュータに実行させるためのFMCWレーダ信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、FMCW(Frequency Modulation-Continuous Wave)レーダを用いるFMCWレーダ信号処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCWレーダを用いるFMCWレーダ信号処理技術が、特許文献1及び非特許文献1に開示されており、ミリ波帯等の高周波帯及びMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)等のアンテナ配列に適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ミリ波レーダの基礎1[距離・速度・角度検出について]、[online]、丸文株式会社、[令和4年6月16日検索]、<URL:https://www.marubun.co.jp/service/technicalsquare/a7ijkd000000dtyd.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術のFMCWレーダ信号処理装置の構成を
図1に示す。従来技術のFMCWレーダ信号処理プログラムの手順を
図2に示す。FMCWレーダ信号処理装置R1は、送信アンテナ1、受信アンテナ2-1~2-a、ミキサ3-1~3-a、発振器4、A/D(Analog/Digital)変換部5-1~5-a、データ間引き部6、距離解析部7-1~7-a、データ記憶部8、速度解析部9-1~9-a、データ記憶部10、角度解析部11、データ記憶部12及び物標検出部13を備える。
【0006】
従来技術では、FMCWレーダ信号処理装置R1を実機に実装するにあたり、信号処理量及びデータメモリ量を削減するために、第1の方法として、FMCWレーダの電波設定段階において、サンプル数、チャープ数又はアンテナ数を減らすことが一般的であるが、第2の方法として、A/D変換部5-1~5-aでのビート信号について、データを間引いて残りをメモリに保存することも考えられる。従来技術(
図1、2)の以下の説明では、本開示(
図3~11)の後述の説明と比較しやすいように、第1の方法ではなく第2の方法について説明するが、第1の方法であっても第2の方法と同様な課題が生じる。
【0007】
ミキサ3-1~3-a、発振器4及びA/D変換部5-1~5-aは、複数のサンプル数N
sだけサンプリングした送信信号と受信信号との間のビート信号を、複数のチャープ数N
c及び複数のアンテナ数N
aだけ算出する(
図2の左上欄)。
【0008】
データ間引き部6は、A/D変換部5-1~5-aでのビート信号について、データを間引いて残りをメモリに保存する(
図2の中上欄)。データ間引き部6での必要なメモリ量は、(N
s/2)×N
c×N
a×Dである(Dは、データ型に応じたデータ量。)。
【0009】
距離解析部7-1~7-aは、時間経過方向において、A/D変換部5-1~5-aでのビート信号をフーリエ変換する(
図2の左下欄)。距離解析部7-1~7-aでのフーリエ変換回数は、N
c×N
aである。データ記憶部8は、距離解析部7-1~7-aでのフーリエ変換結果を記憶する(
図2の左下欄)。データ記憶部8での必要なメモリ量は、(B
r/2)×N
c×N
a×Dである(B
rは、距離ビン方向の半分間引き前の全ビン数。)。
【0010】
速度解析部9-1~9-aは、チャープ回数方向において、距離解析部7-1~7-aでのフーリエ変換位相をフーリエ変換する(
図2の中下欄)。速度解析部9-1~9-aでのフーリエ変換回数は、(B
r/2)×N
aである。データ記憶部10は、速度解析部9-1~9-aでのフーリエ変換結果を記憶する(
図2の中下欄)。データ記憶部10での必要なメモリ量は、(B
r/2)×B
v×N
a×Dである(B
vは、速度ビン方向の全ビン数。)。
【0011】
角度解析部11は、アンテナ配列方向において、速度解析部9-1~9-aでのフーリエ変換位相をフーリエ変換する(
図2の右下欄)。角度解析部11でのフーリエ変換回数は、(B
r/2)×B
vである。データ記憶部12は、角度解析部11でのフーリエ変換結果を記憶する(
図2の右下欄)。データ記憶部12での必要なメモリ量は、(B
r/2)×B
v×B
a×Dである(B
aは、角度ビン方向の全ビン数。)。
【0012】
物標検出部13は、閾値検出を行なったうえで、距離ビン方向、速度ビン方向及び角度ビン方向の物標ビン値に基づいて、物標距離、物標速度及び物標角度を検出する(
図2の右下欄)。物標検出部13での物標検出回数は、(B
r/2)×B
v×B
aである。
【0013】
ここで、距離解析部7-1~7-aは、数1に基づいて、時間経過方向において、A/D変換部5-1~5-aでのビート信号f(t)のフーリエ変換F(f)を算出する。
【数1】
つまり、A/D変換部5-1~5-aでのビート信号f(t)のデータは、半分間引かれる。よって、ビート信号f(t)のフーリエ変換F(f)は、信号積算効果が弱いため、信号対雑音比が低くなり、物標検出帯域幅が狭いため、物標検出分解能が低くなる。
【0014】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、FMCWレーダ信号処理装置を実機に実装するにあたり、信号処理量及びデータメモリ量を削減するとともに、物標検出性能(信号対雑音比及び物標検出分解能)を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するにあたり、時間経過方向、チャープ回数方向及びアンテナ配列方向のうちのいずれかを、第1次元方向、第2次元方向及び第3次元方向と定義する。そして、距離ビン方向、速度ビン方向及び角度ビン方向のうちのいずれかを、第1ビン方向、第2ビン方向及び第3ビン方向と定義する。ここで、第1ビン方向、第2ビン方向及び第3ビン方向は、第1次元方向、第2次元方向及び第3次元方向の逆空間方向である。
【0016】
比較対象として従来技術では、第1次元方向及び第2次元方向のうちの少なくともいずれかについて、データを間引いて残りをメモリに保存したうえで、第1次元方向及び第2次元方向において、フーリエ変換を実行する。前記課題を解決するために、第1次元方向及び第2次元方向において、フーリエ変換を実行したうえで、第1ビン方向及び第2ビン方向のうちの少なくともいずれかについて、データを間引いて残りをメモリに保存する。
【0017】
すると、第1次元方向及び第2次元方向において、フーリエ変換結果は、信号積算効果が強いため、信号対雑音比が高くなり、物標検出帯域幅が広いため、物標検出分解能が高くなる。そして、第1ビン方向及び第2ビン方向のうちの少なくともいずれかについて、データが間引かれても、信号対雑音比及び物標検出分解能は影響を受けない。
【0018】
具体的には、本開示は、FMCWレーダを用いるFMCWレーダ信号処理装置であって、複数のサンプル数だけサンプリングした送信信号と受信信号との間のビート信号を、複数のチャープ数及び複数のアンテナ数だけ算出するビート信号算出部と、時間経過方向、チャープ回数方向及びアンテナ配列方向のうちの第1方向において、前記ビート信号算出部でのビート信号をフーリエ変換する第1フーリエ変換部と、時間経過方向、チャープ回数方向及びアンテナ配列方向のうちの第2方向において、前記第1フーリエ変換部でのフーリエ変換位相をフーリエ変換する第2フーリエ変換部と、時間経過方向、チャープ回数方向及びアンテナ配列方向のうちの第3方向において、前記第2フーリエ変換部でのフーリエ変換位相をフーリエ変換する第3フーリエ変換部と、前記第1フーリエ変換部及び前記第2フーリエ変換部でのフーリエ変換結果のうちの少なくともいずれかについて、データを間引いて残りをメモリに保存するデータ間引き部と、前記第1フーリエ変換部、前記第2フーリエ変換部及び前記第3フーリエ変換部でのフーリエ変換結果に基づいて、物標距離、物標速度及び物標角度を検出する物標検出部と、を備えることを特徴とするFMCWレーダ信号処理装置である。
【0019】
この構成によれば、FMCWレーダ信号処理装置を実機に実装するにあたり、フーリエ変換回数、物標検出回数及びデータメモリ量を削減するとともに、物標検出性能(信号対雑音比及び物標検出分解能)を向上させることができる。
【0020】
また、本開示は、前記データ間引き部は、単数又は複数のチャープからなる各々のフレームにおいて、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法を周期的に切り替えることを特徴とするFMCWレーダ信号処理装置である。
【0021】
この構成によれば、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法の間において、データを補完するため、物標の見逃しを防止することができる。
【0022】
また、本開示は、前記第1フーリエ変換部及び前記第2フーリエ変換部のうちの少なくともいずれかは、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法において、フーリエ変換強度のメインローブを形成するデータが間引かれず残るように、窓関数を適用してフーリエ変換することを特徴とするFMCWレーダ信号処理装置である。
【0023】
この構成によれば、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法において、フーリエ変換強度のメインローブを検出するため、物標の見逃しを防止することができる。
【0024】
また、本開示は、前記第1フーリエ変換部は、時間経過方向及びアンテナ配列方向のうちの前記第1方向において、前記ビート信号算出部でのビート信号をフーリエ変換し、前記第2フーリエ変換部は、時間経過方向及びアンテナ配列方向のうちの前記第2方向において、前記第1フーリエ変換部でのフーリエ変換位相をフーリエ変換することを特徴とするFMCWレーダ信号処理装置である。
【0025】
この構成によれば、時間経過方向又はアンテナ配列方向において、チャープ回数方向と比べて、先行してフーリエ変換するため、データメモリ量を削減することができる。
【0026】
また、本開示は、前記データ間引き部が、データの間引き率を高くするほど、前記物標検出部は、物標距離、物標速度及び物標角度のうちの少なくともいずれかの検出範囲を拡げることを特徴とするFMCWレーダ信号処理装置である。
【0027】
この構成によれば、データメモリ量を削減することに代えて、物標距離、物標速度及び物標角度のうちの少なくともいずれかの検出範囲を拡げることができる。
【0028】
また、本開示は、以上に記載のFMCWレーダ信号処理装置が備える各処理部が実行する各処理ステップを、コンピュータに実行させるためのFMCWレーダ信号処理プログラムである。
【0029】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0030】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0031】
このように、本開示は、FMCWレーダ信号処理装置を実機に実装するにあたり、信号処理量及びデータメモリ量を削減するとともに、物標検出性能(信号対雑音比及び物標検出分解能)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】従来技術のFMCWレーダ信号処理装置の構成を示す図である。
【
図2】従来技術のFMCWレーダ信号処理プログラムの手順を示す図である。
【
図3】第1実施形態のFMCWレーダ信号処理装置の構成を示す図である。
【
図4】第1実施形態のFMCWレーダ信号処理プログラムの手順を示す図である。
【
図5】第1実施形態のデータ間引き部の処理を示す図である。
【
図6】第1実施形態の距離解析部の処理を示す図である。
【
図7】第1実施形態の物標検出部の処理を示す図である。
【
図8】第2実施形態のFMCWレーダ信号処理装置の構成を示す図である。
【
図9】第2実施形態のFMCWレーダ信号処理プログラムの手順を示す図である。
【
図10】第2実施形態のデータ間引き部の処理を示す図である。
【
図11】第3実施形態のデータ間引き部の処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0034】
(第1実施形態のFMCWレーダ信号処理装置)
第1実施形態のFMCWレーダ信号処理装置の構成を
図3に示す。第1実施形態のFMCWレーダ信号処理プログラムの手順を
図4に示す。FMCWレーダ信号処理装置R2は、送信アンテナ21、受信アンテナ22-1~22-a、ミキサ23-1~23-a、発振器24、A/D変換部25-1~25-a、データ記憶部26、距離解析部27-1~27-a、データ間引き部28、速度解析部29-1~29-a、データ記憶部30、角度解析部31、データ記憶部32及び物標検出部33を備える。
【0035】
そして、FMCWレーダ信号処理装置R2を実機に実装するにあたり、信号処理量及びデータメモリ量を削減するために、時間経過方向及びチャープ回数方向において、フーリエ変換を実行したうえで、距離ビン方向及び速度ビン方向のうちの少なくともいずれか(時間経過方向のみ等。)について、データを間引いて残りをメモリに保存する。
【0036】
ミキサ23-1~23-a、発振器24及びA/D変換部25-1~25-aは、複数のサンプル数N
sだけサンプリングした送信信号と受信信号との間のビート信号を、複数のチャープ数N
c及び複数のアンテナ数N
aだけ算出する(
図4の左上欄)。データ記憶部26は、A/D変換部25-1~25-aでのビート信号を記憶する(
図4の左上欄)。データ記憶部26での必要なメモリ量は、N
s×N
c×N
a×Dである(Dは、データ型に応じたデータ量。)。
【0037】
距離解析部27-1~27-aは、時間経過方向において、A/D変換部25-1~25-aでのビート信号をフーリエ変換する(
図4の中上欄)。距離解析部27-1~27-aでのフーリエ変換回数は、N
c×N
aである。
【0038】
データ間引き部28は、距離解析部27-1~27-aでのフーリエ変換位相について、データを間引いて残りをメモリに保存する(
図4の左下欄)。データ間引き部28での必要なメモリ量は、(B
r/2)×N
c×N
a×Dである(B
rは、距離ビン方向の半分間引き前の全ビン数。)。
【0039】
速度解析部29-1~29-aは、チャープ回数方向において、距離解析部27-1~27-aでのフーリエ変換位相をフーリエ変換する(
図4の中下欄)。速度解析部29-1~29-aでのフーリエ変換回数は、(B
r/2)×N
aである。データ記憶部30は、速度解析部29-1~29-aでのフーリエ変換結果を記憶する(
図4の中下欄)。データ記憶部30での必要なメモリ量は、(B
r/2)×B
v×N
a×Dである(B
vは、速度ビン方向の全ビン数。)。
【0040】
角度解析部31は、アンテナ配列方向において、速度解析部29-1~29-aでのフーリエ変換位相をフーリエ変換する(
図4の右下欄)。角度解析部31でのフーリエ変換回数は、(B
r/2)×B
vである。データ記憶部32は、角度解析部31でのフーリエ変換結果を記憶する(
図4の右下欄)。データ記憶部32での必要なメモリ量は、(B
r/2)×B
v×B
a×Dである(B
aは、角度ビン方向の全ビン数。)。
【0041】
物標検出部33は、閾値検出を行なったうえで、距離ビン方向、速度ビン方向及び角度ビン方向の物標ビン値に基づいて、物標距離、物標速度及び物標角度を検出する(
図4の右下欄)。物標検出部33での物標検出回数は、(B
r/2)×B
v×B
aである。
【0042】
ここで、距離解析部27-1~27-aは、数2に基づいて、時間経過方向において、A/D変換部25-1~25-aでのビート信号f(t)のフーリエ変換F(f)を算出する。
【数2】
つまり、A/D変換部25-1~25-aでのビート信号f(t)のデータは、間引かれない。よって、ビート信号f(t)のフーリエ変換F(f)は、信号積算効果が強いため、信号対雑音比が高くなり、物標検出帯域幅が広いため、物標検出分解能が高くなる。そして、ビート信号f(t)のフーリエ変換F(f)が間引かれても、信号対雑音比及び物標検出分解能は影響を受けない。
【0043】
このように、第1実施形態では、FMCWレーダ信号処理装置R2を実機に実装するにあたり、フーリエ変換回数、物標検出回数及びデータメモリ量を削減するとともに、物標検出性能(信号対雑音比及び物標検出分解能)を向上させることができる。
【0044】
第1実施形態のデータ間引き部の処理を
図5に示す。データ間引き部28は、単数又は複数のチャープからなる各々のフレームにおいて、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法を周期的に切り替える。具体的には、以下の処理を実行する。
【0045】
まず、データ間引き部28は、4受信アンテナ分の単数のチャープからなるフレームF1において、距離解析部27-1~27-aでの距離スペクトラムS1のデータのうち、奇数距離ビンデータを間引いて、偶数距離ビンデータE1をメモリに保存する。
【0046】
次に、データ間引き部28は、4受信アンテナ分の単数のチャープからなるフレームF2において、距離解析部27-1~27-aでの距離スペクトラムS2のデータのうち、偶数距離ビンデータを間引いて、奇数距離ビンデータО2をメモリに保存する。
【0047】
その後は、データ間引き部28は、4受信アンテナ分の単数のチャープからなるフレームにおいて、距離解析部27-1~27-aでの距離スペクトラムのデータのうち、奇数距離ビンデータを間引いて、偶数距離ビンデータをメモリに保存することと、偶数距離ビンデータを間引いて、奇数距離ビンデータをメモリに保存することと、を順に繰り返す。
【0048】
このように、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法の間において、データを補完するため、物標の見逃しを防止することができる。
【0049】
第1実施形態の距離解析部の処理を
図6に示す。距離解析部27-1~27-aは(必要ならば、速度解析部29-1~29-aも)、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法において、フーリエ変換強度のメインローブを形成するデータが間引かれず残るように、窓関数を適用してフーリエ変換する。具体的には、以下の処理を実行する。
【0050】
まず、距離解析部27-1~27-aは、A/D変換部25-1~25-aでのビート信号について、ブラックマンウィンドウ等の窓関数を適用する。次に、距離解析部27-1~27-aは、窓関数を適用したビート信号について、フーリエ変換する。
【0051】
ここで、距離解析部27-1~27-aが、ブラックマンウィンドウ等の窓関数を適用したときには、距離解析部27-1~27-aでの距離スペクトラムのデータは、メインローブ幅が広くなるため、メインローブ信号数が多くなる。よって、データ間引き部28は、距離解析部27-1~27-aでの距離スペクトラムのデータのうち、奇数距離ビンデータを間引いたときと、偶数距離ビンデータを間引いたときと、の両方の場合において、メインローブを形成するデータを間引くことなく残すことができる。
【0052】
一方で、距離解析部27-1~27-aが、矩形窓に近い窓関数を適用したときには、距離解析部27-1~27-aでの距離スペクトラムのデータは、メインローブ幅が狭くなるため、メインローブ信号数が少なくなる。よって、データ間引き部28は、距離解析部27-1~27-aでの距離スペクトラムのデータのうち、奇数距離ビンデータを間引いたときと、偶数距離ビンデータを間引いたときと、の一方の場合において、メインローブを形成するデータを間引いてしまい残さないことがあり得る。
【0053】
このように、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法において、フーリエ変換強度のメインローブを検出するため、物標の見逃しを防止することができる。
【0054】
第1実施形態の物標検出部の処理を
図7に示す。物標検出部33は、時刻t=t
1、t
2、t
3、t
4、t
5の経過につれて、FMCWレーダ信号処理装置R2(X=0、Y=0)に対して、遠ざかる移動物標T1及び近づく移動物標T2を検出することができた。
【0055】
(第2実施形態のFMCWレーダ信号処理装置)
第2実施形態のFMCWレーダ信号処理装置の構成を
図8に示す。第2実施形態のFMCWレーダ信号処理プログラムの手順を
図9に示す。FMCWレーダ信号処理装置R3は、送信アンテナ41、受信アンテナ42-1~42-a、ミキサ43-1~43-a、発振器44、A/D変換部45-1~45-a、データ記憶部46、第1解析部47-1~47-a、データ間引き部48、第2解析部49-1~49-a、データ記憶部50、第3解析部51、データ記憶部52及び物標検出部53を備える。
【0056】
ここで、時間経過方向、チャープ回数方向及びアンテナ配列方向のうちのいずれかを、第1次元方向、第2次元方向及び第3次元方向と定義する。そして、距離ビン方向、速度ビン方向及び角度ビン方向のうちのいずれかを、第1ビン方向、第2ビン方向及び第3ビン方向と定義する。ここで、第1ビン方向、第2ビン方向及び第3ビン方向は、第1次元方向、第2次元方向及び第3次元方向の逆空間方向である。
【0057】
そして、FMCWレーダ信号処理装置R3を実機に実装するにあたり、信号処理量及びデータメモリ量を削減するために、第1次元方向及び第2次元方向において、フーリエ変換を実行したうえで、第1ビン方向及び第2ビン方向のうちの少なくともいずれか(第1ビン方向のみ等。)について、データを間引いて残りをメモリに保存する。
【0058】
ミキサ43-1~43-a、発振器44及びA/D変換部45-1~45-aは、複数のサンプル数だけサンプリングした送信信号と受信信号との間のビート信号を、複数のチャープ数及び複数のアンテナ数だけ算出する(
図9の左上欄)。複数のサンプル数、複数のチャープ数及び複数のアンテナ数のうちのいずれかを、N
1、N
2及びN
3と定義する。データ記憶部46は、A/D変換部45-1~45-aでのビート信号を記憶する(
図9の左上欄)。データ記憶部46での必要なメモリ量は、N
1×N
2×N
3×Dである(Dは、データ型に応じたデータ量。)。
【0059】
第1解析部47-1~47-aは、第1次元方向において、A/D変換部45-1~45-aでのビート信号をフーリエ変換する(
図9の中上欄)。第1解析部47-1~47-aでのフーリエ変換回数は、N
2×N
3である。
【0060】
データ間引き部48は、第1解析部47-1~47-aでのフーリエ変換位相について、データを間引いて残りをメモリに保存する(
図9の左下欄)。データ間引き部48での必要なメモリ量は、(B
1/2)×N
2×N
3×Dである(B
1は、第1ビン方向の半分間引き前の全ビン数。)。
【0061】
第2解析部49-1~49-aは、第2次元方向において、第1解析部47-1~47-aでのフーリエ変換位相をフーリエ変換する(
図9の中下欄)。第2解析部49-1~49-aでのフーリエ変換回数は、(B
1/2)×N
3である。データ記憶部50は、第2解析部49-1~49-aでのフーリエ変換結果を記憶する(
図9の中下欄)。データ記憶部50での必要なメモリ量は、(B
1/2)×B
2×N
3×Dである(B
2は、第2ビン方向の全ビン数。)。
【0062】
第3解析部51は、第3次元方向において、第2解析部49-1~49-aでのフーリエ変換位相をフーリエ変換する(
図9の右下欄)。第3解析部51でのフーリエ変換回数は、(B
1/2)×B
2である。データ記憶部52は、第3解析部51でのフーリエ変換結果を記憶する(
図9の右下欄)。データ記憶部52での必要なメモリ量は、(B
1/2)×B
2×B
3×Dである(B
3は、第3ビン方向の全ビン数。)。
【0063】
物標検出部53は、閾値検出を行なったうえで、第1ビン方向、第2ビン方向及び第3ビン方向の物標ビン値に基づいて、物標距離、物標速度及び物標角度を検出する(
図9の右下欄)。物標検出部53での物標検出回数は、(B
1/2)×B
2×B
3である。
【0064】
ここで、第1解析部47-1~47-aは、数3に基づいて、第1次元方向において、A/D変換部45-1~45-aでのビート信号f(t)のフーリエ変換F(f)を算出する。
【数3】
つまり、A/D変換部45-1~45-aでのビート信号f(t)のデータは、間引かれない。よって、ビート信号f(t)のフーリエ変換F(f)は、信号積算効果が強いため、信号対雑音比が高くなり、物標検出帯域幅が広いため、物標検出分解能が高くなる。そして、ビート信号f(t)のフーリエ変換F(f)が間引かれても、信号対雑音比及び物標検出分解能は影響を受けない。
【0065】
このように、第2実施形態では、FMCWレーダ信号処理装置R3を実機に実装するにあたり、フーリエ変換回数、物標検出回数及びデータメモリ量を削減するとともに、物標検出性能(信号対雑音比及び物標検出分解能)を向上させることができる。
【0066】
第2実施形態のデータ間引き部の処理を
図10に示す。データ間引き部48は、単数又は複数のチャープからなる各々のフレームにおいて、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法を周期的に切り替える。具体的には、以下の処理を実行する。
【0067】
まず、データ間引き部48は、4受信アンテナ分の単数のチャープからなるフレームF1において、第1解析部47-1~47-aでの第1スペクトラムS3のデータのうち、奇数第1ビンデータを間引いて、偶数第1ビンデータE3をメモリに保存する。
【0068】
次に、データ間引き部48は、4受信アンテナ分の単数のチャープからなるフレームF2において、第1解析部47-1~47-aでの第1スペクトラムS4のデータのうち、偶数第1ビンデータを間引いて、奇数第1ビンデータО4をメモリに保存する。
【0069】
その後は、データ間引き部48は、4受信アンテナ分の単数のチャープからなるフレームにおいて、第1解析部47-1~47-aでの第1スペクトラムのデータのうち、奇数第1ビンデータを間引いて、偶数第1ビンデータをメモリに保存することと、偶数第1ビンデータを間引いて、奇数第1ビンデータをメモリに保存することと、を順に繰り返す。
【0070】
このように、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法の間において、データを補完するため、物標の見逃しを防止することができる。
【0071】
第2実施形態でも、第1実施形態の
図6とほぼ同様に、第1解析部47-1~47-aは(必要ならば、第2解析部49-1~49-aも)、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法において、フーリエ変換強度のメインローブを形成するデータが間引かれず残るように、窓関数を適用してフーリエ変換してもよい。
【0072】
このように、データを間引いて残りをメモリに保存する複数の方法において、フーリエ変換強度のメインローブを検出するため、物標の見逃しを防止することができる。
【0073】
第2実施形態では、第1解析部47-1~47-aは、時間経過方向及びアンテナ配列方向のうちの第1次元方向において、A/D変換部45-1~45-aでのビート信号をフーリエ変換してもよい。そして、第2解析部49-1~49-aは、時間経過方向及びアンテナ配列方向のうちの第2次元方向において、第1解析部47-1~47-aでのフーリエ変換位相をフーリエ変換してもよい。
図10のように、時間経過方向又はアンテナ配列方向において、チャープ回数方向と比べて、先行してフーリエ変換が可能である。
【0074】
このように、時間経過方向又はアンテナ配列方向において、チャープ回数方向と比べて、先行してフーリエ変換するため、データメモリ量を削減することができる。
【0075】
(第3実施形態のFMCWレーダ信号処理装置)
第3実施形態のデータ間引き部の処理を
図11に示す。第3実施形態では、第2実施形態(第1実施形態の上位概念)に加えて、データ間引き部48が、データの間引き率を高くするほど、物標検出部53は、物標距離、物標速度及び物標角度のうちの少なくともいずれかの検出範囲を拡げる。具体的には、以下の処理を実行する。
【0076】
まず、データ間引き部48は、4受信アンテナ分の単数のチャープからなるフレームF1において、第1解析部47-1~47-aでの第1スペクトラムS5のデータのうち、奇数第1ビンデータを間引いて、偶数第1ビンデータE5をメモリに保存する。
【0077】
ここで、データ間引き部48は、データの間引き率を半分としている。よって、第1スペクトラムS5が、第1ビン方向の検出範囲を2倍としたときに、偶数第1ビンデータE5は、偶数第1ビンデータE3(
図10を参照)と比べて、必要なメモリ量を2倍とするものの、データ間引きを実行しない従来技術と比べて、必要なメモリ量を同等とする。
【0078】
次に、データ間引き部48は、4受信アンテナ分の単数のチャープからなるフレームF2において、第1解析部47-1~47-aでの第1スペクトラムS6のデータのうち、偶数第1ビンデータを間引いて、奇数第1ビンデータО6をメモリに保存する。
【0079】
ここで、データ間引き部48は、データの間引き率を半分としている。よって、第1スペクトラムS6が、第1ビン方向の検出範囲を2倍としたときに、奇数第1ビンデータО6は、奇数第1ビンデータО4(
図10を参照)と比べて、必要なメモリ量を2倍とするものの、データ間引きを実行しない従来技術と比べて、必要なメモリ量を同等とする。
【0080】
その後は、データ間引き部48は、4受信アンテナ分の単数のチャープからなるフレームにおいて、第1解析部47-1~47-aでの第1スペクトラムのデータのうち、奇数第1ビンデータを間引いて、偶数第1ビンデータをメモリに保存することと、偶数第1ビンデータを間引いて、奇数第1ビンデータをメモリに保存することと、を順に繰り返す。
【0081】
このように、データメモリ量を削減することに代えて、物標距離、物標速度及び物標角度のうちの少なくともいずれかの検出範囲を拡げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示のFMCWレーダ信号処理装置及びFMCWレーダ信号処理プログラムは、ミリ波帯等の高周波帯及びMIMO等のアンテナ配列に適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
R1:FMCWレーダ信号処理装置
1:送信アンテナ
2-1、2-a:受信アンテナ
3-1、3-a:ミキサ
4:発振器
5-1、5-a:A/D変換部
6:データ間引き部
7-1、7-a:距離解析部
8:データ記憶部
9-1、9-a:速度解析部
10:データ記憶部
11:角度解析部
12:データ記憶部
13:物標検出部
R2:FMCWレーダ信号処理装置
21:送信アンテナ
22-1、22-a:受信アンテナ
23-1、23-a:ミキサ
24:発振器
25-1、25-a:A/D変換部
26:データ記憶部
27-1、27-a:距離解析部
28:データ間引き部
29-1、29-a:速度解析部
30:データ記憶部
31:角度解析部
32:データ記憶部
33:物標検出部
R3:FMCWレーダ信号処理装置
41:送信アンテナ
42-1、42-a:受信アンテナ
43-1、43-a:ミキサ
44:発振器
45-1、45-a:A/D変換部
46:データ記憶部
47-1、47-a:第1解析部
48:データ間引き部
49-1、49-a:第2解析部
50:データ記憶部
51:第3解析部
52:データ記憶部
53:物標検出部
F1、F2:フレーム
S1、S2:距離スペクトラム
E1:偶数距離ビンデータ
O2:奇数距離ビンデータ
S3、S4:第1スペクトラム
E3:偶数第1ビンデータ
O4:奇数第1ビンデータ
S5、S6:第1スペクトラム
E5:偶数第1ビンデータ
O6:奇数第1ビンデータ
T1、T2:移動物標