(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025414
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】表面処理ナノセルロースマスターバッチおよびゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20240216BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240216BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20240216BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240216BHJP
C08K 5/541 20060101ALN20240216BHJP
【FI】
C08J3/22 CEQ
C08L1/02
C08L9/06
C08K3/013
C08K5/541
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128836
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】川添 真幸
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA08
4F070AA44
4F070AA63
4F070AB02
4F070AC23
4F070AC86
4F070AE01
4F070AE08
4F070AE14
4F070FA05
4F070FA17
4F070FB04
4F070FC03
4J002AB012
4J002AC081
4J002AE053
4J002CC064
4J002DA037
4J002DE137
4J002DE147
4J002DE237
4J002DG047
4J002DJ017
4J002DJ037
4J002DJ047
4J002DJ057
4J002EG016
4J002EV256
4J002EX036
4J002FD012
4J002FD017
4J002FD316
(57)【要約】
【課題】ゴム成分に対するナノセルロースの比率が高くなっても硬くなり難いナノセルロースマスターバッチを提供する。
【解決手段】スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含むゴム成分、オイル成分、およびナノセルロースと、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物ならびにホルムアルデヒド、界面活性剤および/またはシランカップリング剤、または無機フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1つと、を含有し、ナノセルロース1質量部に対して、ゴム成分が2質量部以上であり且つゴム成分とオイル成分との合計が5~20質量部である表面処理ナノセルロースマスターバッチとすることにより、上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含むゴム成分、オイル成分、およびナノセルロースと、
レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物ならびにホルムアルデヒド、界面活性剤および/またはシランカップリング剤、または無機フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1つと、を含有し、
前記ナノセルロース1質量部に対して、前記ゴム成分が2質量部以上であり且つ前記ゴム成分と前記オイル成分との合計が5~20質量部である、表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項2】
前記ナノセルロース1質量部に対して、前記レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を0.03~1.2質量部、ならびに前記ホルムアルデヒドを0.02~0.8質量部含む、請求項1に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項3】
前記ナノセルロース1質量部に対して、前記界面活性剤および/またはシランカップリング剤を0.01~0.5質量部含む、請求項1に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項4】
前記ナノセルロース1質量部に対して、前記無機フィラーを0.5~3質量部含む、請求項1に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項5】
前記ナノセルロース1質量部に対して、前記ゴム成分が10質量部以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項6】
前記オイル成分が植物性油脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチを用いて得られた、ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理ナノセルロースマスターバッチ、およびそれを用いて得られたゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどを構成するゴム組成物は、弾性率(伸び)、硬度(硬さ)などの特性が優れたものが求められている。そして、このような特性を向上させるために、ゴム組成物中にカーボンブラックやシリカなどの充填剤を配合する技術が知られている。
【0003】
さらに、ゴム組成物中にセルロースの極細繊維であるナノセルロースを充填剤として配合する技術も開発されている。例えば、特許文献1には、カチオン性基を有する化学変性ミクロフィブリルセルロースをゴム組成物中に分散して含有させることによって、加工性に優れ、剛性、破断特性、および低燃費性にバランスよく優れるゴム組成物を提供できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ナノセルロースを含むマスターバッチ(ナノセルロースマスターバッチ)においては、ゴム成分に対するナノセルロースの比率が高くなると、このナノセルロースを概ね均質に分散させても、得られるナノセルロースマスターバッチが硬くなりすぎてゴム組成物などに加工し難いものとなってしまう場合があるという課題がある。
【0006】
そこで本発明は、ゴム成分に対するナノセルロースの比率が高くなっても硬くなり難いナノセルロースマスターバッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含むゴム成分、オイル成分、およびナノセルロースと、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物ならびにホルムアルデヒド、界面活性剤および/またはシランカップリング剤、または無機フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1つと、を含有し、ナノセルロース1質量部に対して、ゴム成分が2質量部以上であり且つゴム成分とオイル成分との合計が5~20質量部である表面処理ナノセルロースマスターバッチが、ゴム成分に対するナノセルロースの比率が高くなっても硬くなり難いことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の<1>~<7>である。
<1>スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含むゴム成分、オイル成分、およびナノセルロースと、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物ならびにホルムアルデヒド、界面活性剤および/またはシランカップリング剤、または無機フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1つと、を含有し、前記ナノセルロース1質量部に対して、前記ゴム成分が2質量部以上であり且つ前記ゴム成分と前記オイル成分との合計が5~20質量部である、表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
<2>前記ナノセルロース1質量部に対して、前記レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を0.03~1.2質量部、ならびに前記ホルムアルデヒドを0.02~0.8質量部含む、<1>に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
<3>前記ナノセルロース1質量部に対して、前記界面活性剤および/またはシランカップリング剤を0.01~0.5質量部含む、<1>または<2>に記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
<4>前記ナノセルロース1質量部に対して、前記無機フィラーを0.5~3質量部含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
<5>前記ナノセルロース1質量部に対して、前記ゴム成分が10質量部以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
<6>前記オイル成分が植物性油脂を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチ。
<7><1>~<6>のいずれか1つに記載の表面処理ナノセルロースマスターバッチを用いて得られた、ゴム組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゴム成分に対するナノセルロースの比率が高くなっても硬くなり難いナノセルロースマスターバッチを得ることができる。そして、このナノセルロースマスターバッチを用いることにより、引張応力および伸びがいずれも優れたゴム組成物を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含むゴム成分、オイル成分、およびナノセルロースと、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物ならびにホルムアルデヒド、界面活性剤および/またはシランカップリング剤、または無機フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1つと、を含有し、ナノセルロース1質量部に対して、ゴム成分が2質量部以上であり且つゴム成分とオイル成分との合計が5~20質量部である表面処理ナノセルロースマスターバッチ、およびこの表面処理ナノセルロースマスターバッチを用いて得られたゴム組成物である。以下においては、これらを「本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチ」、および「本発明のゴム組成物」ともいう。
【0011】
なお、本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、特段の断りがない限り、「~」の前に記載される数値を下限値、および「~」の後に記載される数値を上限値とする数値範囲を意味する。
【0012】
[ゴム成分]
まず、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチに配合されるゴム成分としては、ジエン系ゴムやブチル系ゴムなどのゴム工業において用いられる一般的なゴム成分を使用することができる。そして、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチには、ゴム成分が水中にコロイド状に分散した水分散体であるゴムラテックスを原料として使用するのが好ましい。そして、このゴム成分は、後述するナノセルロースの分散性などを高めるために、少なくとも、両親媒性のジエン系ゴム成分であるスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含む。さらに、このVP以外のジエン系ゴムを含んでいてもよく、特に、このゴム成分がジエン系ゴムからなる(VPを含むジエン系ゴムからなる、つまりジエン系ゴム以外のゴム成分を含まない)構成であるのがより好ましい。
【0013】
なお、このジエン系ゴムとは、ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム成分であり、VP以外のものとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、合成イソプレンゴム(IR)などが示される。そして、このジエン系ゴムの重量平均分子量は、50000~3000000であることが好ましく、100000~2000000であることがより好ましい。さらに、上記したジエン系ゴムはいずれも、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基等で末端変性されているものや、エポキシ化されているものであってもよい。
ここで、本発明において「重量平均分子量」とは、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定したものを意味する。また、このGPC測定は、測定器としてカラム(Polymer Laboratories社製、MIXED-B)を使用し、40℃において行う。
【0014】
[ナノセルロース]
本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチは、前述したゴム成分とともにナノセルロースを含有する。ここで、本発明において「ナノセルロース」とは、セルロースミクロフィブリルからなる平均繊維径が1~1000nmの極細繊維を意味し、平均繊維長さが0.5~5μmであるアモルファスを含むセルロースナノファイバー(CNF)と、平均繊維長さが0.1~0.5μmである結晶性のセルロースナノクリスタル(CNC)とを包含するものである。
【0015】
そして、このナノセルロースの平均繊維径は前述したように1~1000nmであるが、1~200nmであるのが好ましい。また、このナノセルロースの平均アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)は好ましくは10~1000、より好ましくは50~500である。平均繊維径が上記範囲未満および/または平均アスペクト比が上記範囲を超えると、ナノセルロースの分散性が低下する可能性がある。また平均繊維径が上記範囲を超過および/または平均アスペクト比が上記範囲未満であるとナノセルロースの補強性能が低下する可能性がある。
【0016】
ここで、本発明においてナノセルロースの「平均繊維径」および「平均繊維長さ」とは、TEM観察またはSEM観察により、構成する繊維の大きさに応じて適宜倍率を設定して電子顕微鏡画像を得て、この画像中の少なくとも50本以上において測定したときの繊維径および繊維長さの平均値を意味する。そして、このようにして得られた平均繊維長さおよび平均繊維径から、平均アスペクト比を算出する。
【0017】
なお、このナノセルロースの原料となるセルロースは、木材由来または非木材(バクテリア、藻類、綿など)由来のいずれでもよく、特段限定されない。ナノセルロースの作製方法としては、例えば、原料となるセルロースに水を加え、ミキサー等により処理して、水中にセルロースを分散させたスラリーを調製し、これを高圧式や超音波式などの装置によって直接機械的なせん断力をかけて解繊する方法や、このスラリーに酸化処理やアルカリ処理、酸加水分解などの化学処理を施し、セルロースを変性して解繊しやすくしてから分散機などによって機械的なせん断力をかけて解繊する方法が例示される。このように化学処理を施してから解繊することにより、セルロースを低いエネルギーでより細かく均質に解繊することができ、化学変性ナノセルロース(化学修飾ナノセルロース)を容易に得ることができる。なお、化学処理としては、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(以下、「TEMPO」という)、4-アセトアミド-TEMPO、4-カルボキシ-TEMPO、4-アミノ-TEMPO、4-ヒドロキシ-TEMPO、4-フォスフォノオキシ-TEMPO、リン酸エステル、過ヨウ素酸、水酸化アルカリ金属および二硫化炭素などの化学処理剤による処理を挙げることができる。また、セルロースの機械的解繊を行ってから化学処理を行ってもよい。さらに、前述した化学処理に加えて、ゴム成分との親和性をより高めるために、解繊工程のあとにセルラーゼ処理、カルボキシメチル化、エステル化、カチオン性高分子による処理などを施すこともできる。
【0018】
本発明においては、後述する表面処理成分との親和性がより高まることなどから、アニオン形成性基(例えば、カルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基、スルホン基、硫酸基、およびチオラート基からなる群から選ばれる1種以上)を有する化学変性ナノセルロースを使用するのが好ましく、特に、カルボキシ基を有する化学変性ナノセルロースを使用するのがより好ましい。
【0019】
[オイル成分]
本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチは、前述したゴム成分およびナノセルロースとともにオイル成分を含有する。そして、このオイル成分とナノセルロースとを事前に混合して、オイル成分とナノセルロースとの乳化物としてから配合する。具体的には、オイル成分の液界面にナノセルロースの粒子が吸着されたピッカリングエマルジョンとしてからゴム成分を含む原料に配合する。これにより、マスターバッチ中においてこのピッカリングエマルジョンの状態が概ね維持され、ナノセルロースの凝集などが抑制されるため、ゴム成分に対するナノセルロースの比率(配合比率)が高くなっても得られる表面処理ナノセルロースマスターバッチが硬くなり難くなる。
【0020】
このオイル成分としては、特に制限されるものではなく、ゴムマスターバッチに通常使用されるオイル成分(好ましくは常温(10~40℃)において液状のオイル成分)などが例示され、例えばアロマオイル、プロセスオイル、パラフィンワックス、ナフテンオイルなどが挙げられる。特に、本発明の効果をより発揮させ易くなることなどから、オイル成分として植物性油脂を含むオイル成分、例えばクラフトパルプを製造した時に副生成する黒液から分離される粗トール油などを使用するのが好ましいが、これに限定はされない。
【0021】
そして、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチでは、本発明の効果を発揮させるために、ナノセルロース1質量部に対してゴム成分が2質量部以上であり、且つナノセルロース1質量部に対してゴム成分とオイル成分との合計が5~20質量部となるようにする。なお、このゴム成分は、ナノセルロース1質量部に対して3質量部以上であるのがより好ましく、3質量部以上10質量部以下であるのがさらに好ましい。また、ゴム成分とオイル成分との合計は、ナノセルロース1質量部に対して6質量部以上であるのがより好ましく、7質量部以上18質量部以下であるのがさらに好ましい。さらには、限定されるものではないが、上記したピッカリングエマルジョンをより形成させ易いことなどから、ナノセルロース1質量部に対してオイル成分が4~15質量部、さらには5~12質量部であるとより好適である。
なお、ゴム成分がナノセルロース1質量部に対して2質量部未満であると、得られる表面処理ナノセルロースマスターバッチのコストが高くなり、さらに、ナノセルロースをゴム成分中に均質に分散できない可能性が高い。また、ゴム成分とオイル成分との合計がナノセルロース1質量部に対して5質量部未満あるいは20質量部超であると、この表面処理ナノセルロースマスターバッチを用いて得られるゴム組成物の伸びなどを十分に高めることができない可能性が高い。
【0022】
さらに、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチは、前述したゴム成分と、ナノセルロースおよびオイル成分(オイル成分とナノセルロースとの乳化物:ピッカリングエマルジョン)とともに、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物ならびにホルムアルデヒド、界面活性剤および/またはシランカップリング剤、または無機フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する。これにより、ピッカリングエマルジョンの表面にあるナノセルロースが、上記成分の少なくとも1つにより表面処理された状態となり、ゴム成分(特にゴム成分中に含まれるスチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体)との親和性が高まっている。つまり、上記成分は少なくとも一部がナノセルロースの表面処理成分となっている。
ここで、この「表面処理」とは、解繊されたナノセルロースの界面(表面)と上記成分の少なくとも1つとの水素結合などによる相互作用によって、このナノセルロースの界面の少なくとも一部に上記成分の少なくとも1つが近接して配置される処理であり、これによりナノセルロースの界面が補強されてナノレベルまで解繊された状態を保ち易くなり、且つナノセルロースのゴム成分中における分散性もより高まる。なお、本発明においては、この上記成分の少なくとも1つにより表面処理されたナノセルロースを単に「ナノセルロース」と称する場合もある。
【0023】
[RF樹脂ならびにホルムアルデヒド]
本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチには、ナノセルロースの表面処理成分として、レゾール型および/またはノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(RF樹脂)を用いることができる。つまり、含まれるピッカリングエマルジョンの表面にあるナノセルロースがRF樹脂により表面処理された表面処理ナノセルロースマスターバッチとすることができる。なお、このRF樹脂による表面処理では、RF樹脂とともにホルムアルデヒドが必要である。そして、RF樹脂およびホルムアルデヒドを含む混合液をそのままゴムラテックス等に添加して用いることができる。したがって、この場合、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチはRF樹脂とともにホルムアルデヒドを含有するものとなる。
【0024】
この「レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(RF樹脂)」とは、フェノール樹脂であるレゾルシンとホルムアルデヒドとを触媒下で縮合反応させることにより得られる縮合物(オリゴマー)であり、その重合度は5~15程度であるのが好ましい。また、このレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物には、未反応のレゾルシンおよび/またはホルムアルデヒドが含まれていてもよい。
【0025】
なお、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ触媒下においてレゾルシン/ホルムアルデヒドのモル比を1/1~3として縮合反応させることによって得られる、メチロール基を有する縮合物がレゾール型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(下記式(1)で表される縮合物(式中のnは重合度))であり、一方、シュウ酸などの酸触媒下においてレゾルシン/ホルムアルデヒドのモル比を1/0.8~0.9として縮合反応させることによって得られる、メチロール基を有さない縮合物がノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(下記式(2)で表される縮合物(式中のmは重合度))である。本発明においては、このレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物はレゾール型およびノボラック型のいずれであってもよいが、好ましい態様としてはノボラック型が挙げられる。
【0026】
【0027】
【0028】
そして、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチにおけるRF樹脂およびホルムアルデヒドの含有量は、ナノセルロース1質量部に対して、RF樹脂が0.03~1.2質量部、好ましくは0.05~0.8質量部、より好ましくは0.06~0.6質量部、さらに好ましくは0.08~0.4質量部、ならびに、ホルムアルデヒドが0.02~0.8質量部、好ましくは0.03~0.5質量部、より好ましくは0.04~0.4質量部、さらに好ましくは0.05~0.3質量部となるように調整するのが好ましい。RF樹脂中に未反応のホルムアルデヒドが含まれる場合には、この未反応のホルムアルデヒド含有量もこの量に含める。これらが上記範囲外であると、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチを用いて得られた本発明のゴム組成物の力学特性を十分に高めにくい傾向がある。
【0029】
[界面活性剤、シランカップリング剤]
本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチには、ナノセルロースの表面処理成分として、界面活性剤および/またはシランカップリング剤を用いることもできる。つまり、含まれるピッカリングエマルジョンの表面にあるナノセルロースが界面活性剤および/またはシランカップリング剤により表面処理された表面処理ナノセルロースマスターバッチとすることができる。
【0030】
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、または両性イオン界面活性剤を例示することができる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン酢酸塩、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩などが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルエステルカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルリン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルケニルコハク酸塩などが挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、例えば、ジメチルアルキルベタイン、アルキルアミドベタインなどが挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、ナノセルロースとの親和性がより好ましいことなどから、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチには、界面活性剤としてカチオン性界面活性剤を用いるのが好適である。
【0031】
また、シランカップリング剤としては、加水分解性基および有機官能基を有するシラン化合物であれば特に限定されない。そして、この加水分解性基も限定されないが、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシ基、アルケニルオキシ基などが挙げられ、アルコキシ基がケイ素原子と結合したアルコキシシリル基であることがより好ましい。加水分解性基がアルコキシシリル基である場合、そのアルコキシ基の炭素数は1~16であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0032】
有機官能基も限定されないが、有機化合物と化学結合を形成し得る基であればよく、例えば、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリル基、アミノ基、スルフィド基(特に、ポリスルフィド基(-Sn-:nは2以上の整数))、メルカプト基、ブロックメルカプト基(保護メルカプト基)(例えば、オクタノイルチオ基)などが挙げられ、なかでも、スルフィド基(特に、ジスルフィド基、テトラスルフィド基)、メルカプト基、ブロックメルカプト基が好ましい。
【0033】
シランカップリング剤の具体例としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル-メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル-メタクリレート-モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0034】
そして、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチにおける界面活性剤および/またはシランカップリング剤の含有量は、ナノセルロース1質量部に対して、界面活性剤および/またはシランカップリング剤を0.01~0.5質量部含むことがより好ましく、0.05~0.3質量部含むことがさらに好ましい。界面活性剤とシランカップリング剤を併用する場合には、この合計量が上記範囲内であるのが好ましい。これが上記範囲外であると、同様に、本発明のゴム組成物の力学特性を十分に高めにくい傾向がある。
【0035】
[無機フィラー]
本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチには、ナノセルロースの表面処理成分として、無機フィラーを用いることもできる。つまり、含まれるピッカリングエマルジョンの表面にあるナノセルロースが無機フィラーにより表面処理された表面処理ナノセルロースマスターバッチとすることができる。無機フィラーとしては、シリカ、カーボンブラック、クレイ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸バリウム等を例示することができる。これらの無機フィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ここで、本発明において「シリカ」とは、二酸化ケイ素(SiO2)からなる、あるいは二酸化ケイ素を主成分とする(例えば80質量%以上、さらには90質量%以上含む)粒子物質を意味し、「カーボンブラック」とは、工業的に品質制御して製造された直径3~500nm程度の炭素微粒子を意味する。
【0036】
特に、無機フィラーとしてシリカ(ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、コロイダルシリカ等)を用いると、ゴム成分中におけるナノセルロース(ピッカリングエマルジョン)の分散性をより高め易く、本発明のゴム組成物の力学特性をより向上させ易いという観点から好適である。さらに、このシリカのCTAB比表面積は110~200m2/gであるのがより好ましく、150~180m2/gであるのがさらに好ましい。
なお、シリカのCTAB比表面積は「ISO5794/1」に従って測定した値である。
【0037】
そして、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチにおける無機フィラーの含有量は、ナノセルロース1質量部に対して、無機フィラーを0.5~3質量部含むことがより好ましく、0.8~2質量部含むことがさらに好ましい。複数の無機フィラーを併用する場合には、その合計量が上記範囲内であるのが好ましい。これが上記範囲外であると、同様に、本発明のゴム組成物の力学特性を十分に高めにくい傾向がある。
【0038】
以上のような成分を本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチに用いることにより、ピッカリングエマルジョンに含まれるナノセルロースの表面処理をすることができる。なお、これら成分は併用しても構わないが、表面処理されたナノセルロースをより得易くなるという観点から、上記した表面処理成分のうちいずれか1つを用いた構成とするのがより好適である。
【0039】
<本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチの製造方法>
本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチの製造方法の一例を説明すると、まずナノセルロースとオイル成分(液状となっているオイル成分)とを混合して乳化し、オイル成分の液界面にナノセルロースの粒子が吸着されたピッカリングエマルジョンを得る。例えば、0.1~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%の濃度のナノセルロース分散液に、オイル成分を、ナノセルロース1質量部に対して所定量(例えば5~12質量部)含むように混合分散させてよく撹拌し、オイル成分の液界面にナノセルロースの粒子が吸着されたピッカリングエマルジョンを含む分散液を得ることができる。さらに、この分散液に、RF樹脂ならびにホルムアルデヒド、界面活性剤および/またはシランカップリング剤、または無機フィラーからなる群から選ばれる少なくとも1つを所定量含むように分散させて、これらのいずれか1以上によりナノセルロースが表面処理されたピッカリングエマルジョンの分散液を得ることができる。そして、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含むゴムラテックスに、ナノセルロースとゴム成分との質量比、ならびにナノセルロースとゴム成分およびオイル成分の合計との質量比が所定の範囲内となるように上記分散液を添加し、必要であればさらに添加剤等を配合し、固形分濃度が60質量%以下であるスラリー状態の原料分散液を取得する。この分散方法は、特に限定されず、機械的方法などで行えばよい。
【0040】
なお、この原料分散液の固形分濃度は60質量%以下であるのが好ましく、2~50質量%であるのがより好ましく、5~50質量%であるのがさらに好ましい。この固形分濃度が60質量%を超えると、原料分散液の安定性が低下する可能性がある。
【0041】
そして、この得られた原料分散液を攪拌しながら凝固剤を添加して高分子成分を凝固させ、ろ過などにより凝固物と水分とを概ね分離し、必要に応じて凝固物を洗浄して凝固剤の除去を行い、さらに必要に応じて凝固物の乾燥処理(例えば50~100℃の条件下で0.5~30時間乾燥する処理)などを行って、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチを得る。
ここで、凝固剤としては、無機塩(塩化ナトリウム、塩化カリウムなど)、不飽和脂肪酸金属塩(アクリル酸金属塩、メタクリル酸金属塩など)などを使用することができる。
【0042】
なお、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチの製造においては、前述したように、所定の成分により表面処理されたナノセルロースのピッカリングエマルジョンを含む分散液(ナノセルロースの固形分率として0.1~10質量%程度)をゴムラテックス等に混合して原料分散液としてもよく、あるいは、この分散水からピッカリングエマルジョン等を含む固形分を分離してゴムラテックス等に混合してもよいが、工程が簡易となることから、上記した分散液をゴムラテックス等に混合して原料分散液とするのがより好適である。
【0043】
このようにして得られる本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチは、含まれるナノセルロースがオイル成分と乳化されてピッカリングエマルジョンとなっており、さらにこのピッカリングエマルジョンに含まれるナノセルロースが所定の成分により表面処理されているため、ナノセルロースの分散性が高度に維持されるだけでなく、ゴム成分に対するナノセルロースの比率が高くなってもマスターバッチが硬くなり難いことが特徴である。したがって、ナノセルロースの含有量が高く、且つゴム組成物等に加工し易い表面処理ナノセルロースマスターバッチを得ることもできる。そして、これから得られる本発明のゴム組成物は、引張応力および伸びが優れることも特徴である。
【0044】
[ゴム組成物]
本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチを用いて、ゴム成分や、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、粘着剤、素練り促進剤、老化防止剤、可塑剤、硬化剤、加工助剤、加硫剤(例えば、硫黄など)、加硫促進剤、架橋剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を適量配合し、公知の方法で混合および混練して本発明のゴム組成物を得ることができる。つまり、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチを含む原料(原料混合物など)が加硫および成形された、本発明のゴム組成物を得ることができる。本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチと混合するゴム成分としては、前述した本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチに配合されるゴム成分と同じものを使用することができ、特にジエン系ゴムを用いるのがより好ましい。なお、加硫剤、加硫促進剤および架橋剤以外の添加剤については、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチを取得する際に、原料分散液に添加配合してもよい。
【0045】
このような本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチを用いて得られた本発明のゴム組成物は、ゴム成分中においてナノセルロースが概ね均質に分散してナノレベルにまで解繊された状態が保たれており、その引張応力および伸びがいずれも優れたものとなる。特に、タイヤ用ゴム組成物として好適に使用できる。そして、本発明の表面処理ナノセルロースマスターバッチは前述したようにナノセルロースの含有量が高くても硬くなり難いため、このような力学特性の高い本発明のゴム組成物を容易に製造することができる。
【0046】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例0047】
<表面処理ナノセルロースマスターバッチの作製および評価I>
下記表1に示す原料により表面処理ナノセルロースマスターバッチを作製した。
具体的には、ゴム成分としてラテックス(Nipol LATEX 2518FS(日本ゼオン社製);スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含むゴム成分:比較例4以外、あるいは、Nipol LATEX LX112(日本ゼオン社製);スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含まないゴム成分:比較例4)と、ナノセルロースとして酸化セルロースナノファイバー(CNF;日本製紙社製、Cellenpia)の水分散液(固形分1.0質量%)と、オイル成分としてTDAE(Treated Distillate Aromatic Extract)オイル(エキストラクト4号;シェルルブリカンツジャパン社製)と、ノボラック型レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物(RF樹脂(スミカノール(登録商標)700S)、住友化学工業社製)と、ホルムアルデヒド(関東化学社製)と、を固形分量として下記表1に示す質量比となるように混合分散して、固形分濃度が60質量%以下であるスラリー状態の各原料分散液を取得した。なお、ナノセルロースおよびオイル成分については、事前にこれらを混合して乳化させてから(ピッカリングエマルジョンとしてから)他の成分と混合した。また、ホルムアルデヒドはいずれも、固形分量としてRF樹脂と等量となるように使用した。
【0048】
そして、各原料分散液について、凝固剤として塩化ナトリウムを用いた塩析により攪拌を行いながら凝固を行い、さらにこの凝固物を回収して洗浄および乾燥を行い、表面処理ナノセルロースマスターバッチを取得した(実施例1~2、比較例1~7)。なお、洗浄は、ブフナー漏斗で減圧ろ過しながら蒸留水を凝固物表面に散布して塩化ナトリウムを洗い流す操作を5回繰り返した。また、乾燥は、洗浄された凝固物をバットに広げて70℃の恒温乾燥器に入れて24時間実施した。
【0049】
この実施例1~2、および比較例1~7の表面処理ナノセルロースマスターバッチについて、硬さの評価を行った。具体的には、得られた各表面処理ナノセルロースマスターバッチを60℃に温調されたバンバリーミキサーに投入して50rpmの回転数で撹拌し、ミキサーへの負荷が許容範囲内の硬さでスムーズに混合されるものを〇、ミキサーへの負荷が非常に大きく許容範囲外の硬さでミキサーの回転を阻害するものを×とした。この結果を、下記表1下段に示した。
【0050】
さらに、この得られた各表面処理ナノセルロースマスターバッチについて、ゴム成分(スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR):Nipol 1502、日本ゼオン社製)、酸化亜鉛(ZnO、正同化学工業社製)、ステアリン酸(日油社製)、加硫促進剤(大内新興化学工業社製,ノクセラーNS-P)、および硫黄(四国化成工業社製,ミュークロン OT-20)を添加し、ゴム成分100質量部に対するナノセルロースの質量割合が5phr(per hundred rubber)となるように調整して、オープンロールにて混連し、これを15cm×15cm×0.2cmの金型中において160℃15分間プレス加硫して、加硫ゴム試験片(ゴム組成物)を調製した。そして、この得られた加硫ゴム試験片を用いて、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、100%伸長時における引張応力(M100:MPa)、および切断時伸び(=切断時の伸び率:Eb)を室温(20℃)にて測定した。
【0051】
これらの結果も、下記表1下段に示した。なお、M100およびEbについては、いずれも、比較例1のデータを100とした場合における相対値(index%)として示した。
【0052】
【0053】
この結果から、VPを含むゴム成分と、オイル成分およびナノセルロースと、RF樹脂と、ホルムアルデヒドと、を含む表面処理ナノセルロースマスターバッチは硬くなりすぎず、且つここから得られるゴム組成物の引張応力および伸びがいずれも優れていることが示された(実施例1、2)。
【0054】
<表面処理ナノセルロースマスターバッチの作製および評価II>
下記表2に示す原料により表面処理ナノセルロースマスターバッチを作製した。
具体的には、ゴム成分としてラテックス(Nipol LATEX 2518FS(日本ゼオン社製);スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含むゴム成分:比較例11以外、あるいは、Nipol LATEX LX112(日本ゼオン社製);スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含まないゴム成分:比較例11)と、ナノセルロースとして酸化セルロースナノファイバー(CNF;日本製紙社製、Cellenpia)の水分散液(固形分1.0質量%)と、オイル成分としてTDAE(Treated Distillate Aromatic Extract)オイル(エキストラクト4号;シェルルブリカンツジャパン社製)と、カチオン性界面活性剤(ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド;東京化成工業社製)と、を固形分量として下記表2に示す質量比となるように混合分散して、固形分濃度が60質量%以下であるスラリー状態の各原料分散液を取得した。なお、ナノセルロースおよびオイル成分については、事前にこれらを混合して乳化させてから(ピッカリングエマルジョンとしてから)他の成分と混合した。
【0055】
そして、各原料分散液について、凝固剤として塩化ナトリウムを用いた塩析により攪拌を行いながら凝固を行い、さらにこの凝固物を回収して洗浄および乾燥を行い、表面処理ナノセルロースマスターバッチを取得した(実施例3~4、比較例8~14)。なお、洗浄は上記Iと同じ方法で実施した。
【0056】
この実施例3~4、および比較例8~14の表面処理ナノセルロースマスターバッチについて、上記Iと同じ方法により硬さの評価を行った。
この結果を、下記表2下段に示した。
【0057】
さらに、この得られた各表面処理ナノセルロースマスターバッチについて、これも上記Iと同じ方法により加硫ゴム試験片(ゴム組成物)を調製した。そして、この得られた加硫ゴム試験片を用いて、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、100%伸長時における引張応力(M100:MPa)、および切断時伸び(=切断時の伸び率:Eb)を室温(20℃)にて測定した。
【0058】
これらの結果も、下記表2下段に示した。なお、M100およびEbについては、いずれも、比較例8のデータを100とした場合における相対値(index%)として示した。
【0059】
【0060】
この結果から、VPを含むゴム成分と、オイル成分およびナノセルロースと、カチオン性界面活性剤と、を含む表面処理ナノセルロースマスターバッチは硬くなりすぎず、且つここから得られるゴム組成物の引張応力および伸びがいずれも優れていることが示された(実施例3、4)。
【0061】
<表面処理ナノセルロースマスターバッチの作製および評価III>
下記表3に示す原料により表面処理ナノセルロースマスターバッチを作製した。
具体的には、ゴム成分としてラテックス(Nipol LATEX 2518FS(日本ゼオン社製);スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含むゴム成分:比較例18以外、あるいは、Nipol LATEX LX112(日本ゼオン社製);スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体(VP)を含まないゴム成分:比較例18)と、ナノセルロースとして酸化セルロースナノファイバー(CNF;日本製紙社製、Cellenpia)の水分散液(固形分1.0質量%)と、オイル成分としてTDAE(Treated Distillate Aromatic Extract)オイル(エキストラクト4号(プロセスオイル);シェルルブリカンツジャパン社製)と、無機フィラーとしてシリカ(Zeosil 1165MP、CTAB吸着比表面積:159m2/g、ローディア社製)と、を固形分量として下記表3に示す質量比となるように混合分散して、固形分濃度が60質量%以下であるスラリー状態の各原料分散液を取得した。なお、ナノセルロースおよびオイル成分については、事前にこれらを混合して乳化させてから(ピッカリングエマルジョンとしてから)他の成分と混合した。
【0062】
そして、各原料分散液について、凝固剤として塩化ナトリウムを用いた塩析により攪拌を行いながら凝固を行い、さらにこの凝固物を回収して洗浄および乾燥を行い、表面処理ナノセルロースマスターバッチを取得した(実施例5~6、比較例15~21)。なお、洗浄は上記Iと同じ方法で実施した。
【0063】
この実施例5~6、および比較例15~21の表面処理ナノセルロースマスターバッチについて、上記Iと同じ方法により硬さの評価を行った。
この結果を、下記表3下段に示した。
【0064】
さらに、この得られた各表面処理ナノセルロースマスターバッチについて、これも上記Iと同じ方法により加硫ゴム試験片(ゴム組成物)を調製した。そして、この得られた加硫ゴム試験片を用いて、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、100%伸長時における引張応力(M100:MPa)、および切断時伸び(=切断時の伸び率:Eb)を室温(20℃)にて測定した。
【0065】
これらの結果も、下記表3下段に示した。なお、M100およびEbについては、いずれも、比較例15のデータを100とした場合における相対値(index%)として示した。
【0066】
【0067】
この結果から、VPを含むゴム成分と、オイル成分およびナノセルロースと、シリカと、を含む表面処理ナノセルロースマスターバッチは硬くなりすぎず、且つここから得られるゴム組成物の引張応力および伸びがいずれも優れていることが示された(実施例5、6)。