(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025423
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】成形装置および成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/36 20060101AFI20240216BHJP
B29C 43/56 20060101ALI20240216BHJP
B29C 33/18 20060101ALI20240216BHJP
B29C 33/06 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B29C43/36
B29C43/56
B29C33/18
B29C33/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128852
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】520285880
【氏名又は名称】中部電力ミライズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 良
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 千春
【テーマコード(参考)】
4F202
4F204
【Fターム(参考)】
4F202AJ02
4F202AJ05
4F202AK03
4F202CA01
4F202CB01
4F202CN01
4F202CN24
4F202CN30
4F202CP06
4F202CR03
4F204AA03
4F204AA13
4F204AA21
4F204AA23
4F204AA24
4F204AA28
4F204AJ05
4F204AM28
4F204FA01
4F204FB01
4F204FN11
4F204FN15
4F204FQ15
(57)【要約】
【課題】ゴム製の型を用いた成形技術において成形不良の発生を抑制できる技術を提供する。
【解決手段】成形装置は、ゴム製の上型と下型とを有し、積層方向に重ね合わされた前記上型と前記下型との間の内部空間として、樹脂材料が充填されるキャビティと、真空引き用の流路とが形成される成形部と、前記上型と前記下型の外部からの電磁波の照射、または、前記上型と前記下型の外部からの加熱により、前記キャビティ内の前記樹脂材料を昇温させて溶融させる昇温部と、成形中に、前記流路と前記キャビティとを真空引きする真空ポンプと、成形中に、前記上型と前記下型の変形と前記キャビティの容積の変化とが抑制されるように、前記上型の上面と前記下型の下面とを押圧する状態で前記上型と前記下型とを締結する締結部材と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性を有する樹脂材料を溶融させて成形する成形装置であって、
成形時に、互いの相対位置が固定された状態で積層方向に重ね合わされるゴム製の上型と下型とを有し、前記積層方向に重ね合わされた前記上型と前記下型との間の内部空間として、前記樹脂材料が充填されるキャビティと、前記キャビティに連通している真空引き用の流路とが成される成形部と、
前記上型と前記下型の外部からの電磁波の照射、または、前記上型と前記下型の外部からの加熱により、前記キャビティ内の前記樹脂材料を昇温させて溶融させる昇温部と、
前記成形部の前記流路に接続され、成形中に、前記流路と前記キャビティとを真空引きする真空ポンプと、
前記上型および前記下型よりも熱変形しにくい部材によって構成され、成形中に、前記上型と前記下型の変形と前記キャビティの容積の変化とが抑制されるように、前記上型の上面と前記下型の下面とを押圧する状態で前記上型と前記下型とを締結する締結部材と、
を備える、成形装置。
【請求項2】
請求項1記載の成形装置であって、
前記締結部材は、
前記上型の上面全体に面接触する第1板状部材と、
前記下型の下面全体に面接触する第2板状部材と、
を含む、成形装置。
【請求項3】
請求項2記載の成形装置であって、
前記締結部材は、さらに、前記上型と前記下型の側方に配置され、前記第1板状部材と前記第2板状部材とを連結して締結する複数の棒状の連結部材を含む、成形装置。
【請求項4】
請求項2記載の成形装置であって、
前記締結部材は、さらに、前記上型と前記下型の側面に密着して覆う板状の側面被覆部材を含み、
前記昇温部は、前記上型と前記下型の外部から前記締結部材を通じて熱を付与することにより、前記キャビティ内の前記樹脂材料を加熱する、成形装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の成形装置であって、さらに、
前記積層方向に重ね合わされた前記上型と前記下型の境界を封止するように前記上型と前記下型の側面に接着される帯状部材を備える、成形装置。
【請求項6】
熱可塑性を有する樹脂材料を溶融させて成形する成形方法であって、
ゴム製の上型と下型とを積層方向に互いに重ね合わせて、前記上型と前記下型との間の内部空間として、キャビティと、前記キャビティに連通する真空引き用の流路と、を形成するとともに、前記キャビティを前記樹脂材料が充填された状態とする工程と、
前記上型および前記下型よりも熱変形しにくい部材によって構成された締結部材によって、成形中に前記上型と前記下型の変形と前記キャビティの容積の変化とが抑制されるように、前記上型の上面と前記下型の下面とを押圧する状態で、前記上型と前記下型とを締結する工程と、
真空ポンプによって、前記流路と前記キャビティとを真空引きした状態で、前記上型と前記下型の外部からの電磁波の照射、または、前記上型と前記下型の外部からの加熱により、前記上型と前記下型の相対位置を固定したまま、前記キャビティ内の前記樹脂材料を溶融さて成形する工程と、
を備える、成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、樹脂材料を溶融させて成形する成形装置および成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金型ではなくゴム製の型を用いて熱可塑性を有する樹脂材料を成形する種々の技術が提案されている。例えば、下記の特許文献1には、一対のゴム型部の間のキャビティに樹脂材料を配置し、一対のゴム型部を透過する光を照射することによって樹脂材料を溶融させて成形する、光成形と呼ばれる技術が開示されている。このように、金型ではなく、ゴム製の型を用いれば、型の制作を短期間で、かつ、安価におこなうことができ、成形品の製造効率を高めることができる。また、ゴム製の型を用いれば、少量多品種の成形品を効率よく、高い成形精度で作製することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、ゴム製の型を用いた成形の場合には、金型を用いた場合よりも、キャビティ内の樹脂材料の溶融状態の制御が容易ではなく、成形不良の発生を抑制するための様々な工夫が必要となる。例えば、上記の特許文献1の技術では、溶融した樹脂材料がキャビティ内に行きわたるように、樹脂材料を溶融させながら上型と下型とを接近させていき、キャビティの容積を低減させつつ成形を行っている。しかしながら、このように、成形中に上型と下型の相対位置を変化させる方法では、上型と下型の位置関係の制御によっては、成形品の寸法精度が低下する可能性がある。
【0005】
また、一般に、ゴム製の型は、金型よりも熱による変形を生じやすいため、ゴム型の変形による成形不良が発生する可能性もある。上記の特許文献1では、そうしたゴム型の熱変形については考慮されていない。
【0006】
このように、光成形に限らず、ゴム製の型を用いた成形技術については、その成形不良の発生を抑制することについて、依然として改良の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
[第1形態]第1形態は、熱可塑性を有する樹脂材料を溶融させて成形する成形装置として提供される。第1形態の成形装置は、成形時に、互いの相対位置が固定された状態で積層方向に重ね合わされるゴム製の上型と下型とを有し、前記積層方向に重ね合わされた前記上型と前記下型との間の内部空間として、前記樹脂材料が充填されるキャビティと、前記キャビティに連通している真空引き用の流路とが成される成形部と、前記上型と前記下型の外部からの電磁波の照射、または、前記上型と前記下型の外部からの加熱により、前記キャビティ内の前記樹脂材料を昇温させて溶融させる昇温部と、前記成形部の前記流路に接続され、成形中に、前記流路と前記キャビティとを真空引きする真空ポンプと、前記上型および前記下型よりも熱変形しにくい部材によって構成され、成形中に、前記上型と前記下型の変形と前記キャビティの容積の変化とが抑制されるように、前記上型の上面と前記下型の下面とを押圧する状態で前記上型と前記下型とを締結する締結部材と、を備える。
第1形態の成形装置によれば、締結部材による上型と下型の押圧によって、成形時の上型および下型の熱変形を抑制することができるため、上型と下型の間に隙間が生じることを抑制できる。よって、真空ポンプによる真空引きの不良が発生することを抑制でき、真空引きの不良に起因する成形不良の発生を抑制できる。さらに、締結部材によって成形中の上型および下型の熱変形によるキャビティの容積や形状の変化を抑制できるため、キャビティの変形による成形不良の発生を抑制できる。その他に、第1形態の成形装置によれば、上型と下型の相対位置を固定したまま成形することができるため、成形工程が容易であり、成形効率を高めることができる。
【0009】
[第2形態]上記第1形態の成形装置において、前記締結部材は、前記上型の上面全体に面接触する第1板状部材と、前記下型の下面全体に面接触する第2板状部材と、を含んでいてもよい。
第2形態の成形装置によれば、締結部材の第1板状部材および第2板状部材により、成形中の上型と下型に対して積層方向に一様に面圧を付与することができるため、成形中の上型と下型の熱変形をさらに抑制することができる。よって、上型および下型の熱変形による成形不良の発生をさらに抑制することができる。
【0010】
[第3形態]上記第2形態の成形装置において、前記締結部材は、さらに、前記上型と前記下型の側方に配置され、前記第1板状部材と前記第2板状部材とを連結して締結する複数の棒状の連結部材を含んでいてもよい。
第3形態の成形装置によれば、複数の連結部材の間から上型と下型の側面が露出した状態で第1板状部材と第2板状部材とで上型と下型とを積層方向に挟んで締結することができる。よって、成形時には、複数の連結部材の間の隙間から、樹脂材料を昇温させるための電磁波や熱を、上型および下型に付与することが容易にできる。
【0011】
[第4形態]上記第2形態または上記第3形態の成形装置において、さらに、前記上型と前記下型の側面に密着して覆う板状の側面被覆部材を含み、前記昇温部は、前記上型と前記下型の外部から前記締結部材を通じて熱を付与することにより、前記キャビティ内の前記樹脂材料を加熱してよい。
第4形態の成形装置によれば、側面被覆部材によって、上型および下型の熱変形を側面方向からも抑制することができる。よって、成形不良の発生をさらに抑制することができる。
【0012】
[第5形態]上記第1形態、第2形態、第3形態、および、第4形態のいずれかに記載の成形装置は、さらに、前記積層方向に重ね合わされた前記上型と前記下型の境界を封止するように前記上型と前記下型の側面に接着される帯状部材を備えてよい。
第5形態の成形装置によれば、帯状部材によって、成形中に上型と下型との境界に隙間が生じることを抑制することができ、そのような隙間の発生によって真空引きの不良が発生することを抑制することができる。
【0013】
[第6形態]第6形態は、熱可塑性を有する樹脂材料を溶融させて成形する成形方法として提供される。第6形態の成形方法は、ゴム製の上型と下型とを積層方向に互いに重ね合わせて、前記上型と前記下型との間の内部空間として、キャビティと前記キャビティに連通する真空引き用の流路とを形成するとともに、前記キャビティを前記樹脂材料が充填された状態とする工程と、前記上型および前記下型よりも熱変形しにくい部材によって構成された締結部材によって、成形中に前記上型と前記下型の変形と前記キャビティの容積の変化とが抑制されるように、前記上型の上面と前記下型の下面とを押圧する状態で、前記上型と前記下型とを締結する工程と、真空ポンプによって、前記流路と前記キャビティとを真空引きした状態で、前記上型と前記下型の外部からの電磁波の照射、または、前記上型と前記下型の外部からの加熱により、前記上型と前記下型の相対位置を固定したまま、前記キャビティ内の前記樹脂材料を溶融さて成形する工程と、を備える。
第6形態の成形方法によれば、締結部材による上型と下型の押圧によって、成形時の上型および下型の熱変形を抑制することができるため、上型と下型の間に隙間が生じることを抑制できる。よって、真空引きの不良が発生することを抑制でき、真空引きの不良に起因する成形不良の発生を抑制できる。さらに、締結部材によって成形中の上型および下型の熱変形によるキャビティの容積や形状の変化を抑制できるため、キャビティの変形による成形不良の発生を抑制できる。その他に、第6形態の成形方法によれば、上型と下型の相対位置を固定したまま成形することができるため、成形工程が容易であり、成形効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の成形装置の構成を示す概略図。
【
図5】成形の実行中における成形装置の様子を示す模式図。
【
図6】比較例の成形装置による成形工程を示す模式図。
【
図7】第2実施形態の成形装置の構成を示す概略図。
【
図8】第3実施形態の成形装置の構成を示す概略図。
【
図9】第4実施形態の成形装置の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.第1実施形態:
図1、
図2、および、
図3を参照して、第1実施形態の成形装置100Aの構成を説明する。
図1は、第1実施形態の成形装置100Aの構成を示す概略図である。
図2は、成形装置100Aが備える上型11の下面13を示す概略図であり、
図3は、下型15の上面17を示す概略図である。
【0016】
図1~
図3にはそれぞれ、互いに直交するX方向、Y方向、および、Z方向を示す矢印が図示されている。X方向およびY方向は、成形装置100Aに設置された姿勢での上型11の上面12および下型15の下面16に沿った方向に相当し、Z方向は、成形装置100Aの成形実行時に上型11と下型15とが重ね合わされる積層方向に相当する。
【0017】
図1では、成形部10および締結部材30については、X方向およびZ方向に平行で、キャビティ20を通る切断面における断面構成が図示されている。また、
図2および
図3には、成形装置100Aにおいて上型11および下型15が締結部材30によって締結されているときの締結部材30の配置領域を一点鎖線で図示してある。
【0018】
成形装置100Aは、熱可塑性を有する樹脂材料Mを溶融させて成形する。樹脂材料Mは、非晶性樹脂であってもよく、結晶性樹脂であってもよい。樹脂材料Mとしては、例えば、以下に例示するもののうちから採用されてもよい。なお、以下は、例示であり、樹脂材料Mは下記以外の樹脂によって構成されてもよい。
<非晶性樹脂>
アクリロニトリルスチレンアクリルゴム(ASA)、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS)、エービーエス樹脂(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート樹脂/ポリメタクリル酸メチル樹脂/アクリル樹脂(PMMA)等
<結晶性樹脂>
ポリアセタール(POM)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテフタレート(PET)、ポリブチレンテフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)等
【0019】
成形装置100Aは、ゴム製の上型11と下型15とを有する成形部10と、上型11と下型15を締結する締結部材30と、成形実行時に真空引きを実行する真空ポンプ50と、成形時に樹脂材料Mを昇温させて溶融させる昇温部60aと、を備える。
【0020】
成形部10が有する上型11および下型15は、例えば、透明または半透明のシリコーンゴムによって構成される。他の実施形態では、上型11および下型15は、シリコーンゴム以外の他のゴムによって構成されてもよい。
【0021】
第1実施形態では、上型11および下型15は矩形形状を有しており、成形時には、上型11の下面13と下型15の上面17とが互いに対向する状態で積層方向に重ね合わされる。なお、第1実施形態では、上型11と下型15とはX方向およびY方向の寸法が互いに一致しており、積層方向に重ね合わされた上型11と下型15とは、四角柱形状を構成する。
【0022】
積層方向に重ね合わされた上型11と下型15との間の内部空間として、成形品を模った空間であるキャビティ20と、真空引き用の流路21とが形成される。上型11の下面13と下型15の上面17とには、キャビティ20および流路21を形成するための凹凸構造が形成されている。第1実施形態では、下型15の上面17に、キャビティ20を構成する空間を含む凹部18が形成されており、上型11の下面13に、その凹部18に嵌合する凸部14が形成されている。キャビティ20は、下型15の凹部18の底面部と、上型11の凸部14の上面部との間の空間として形成される。
【0023】
図1に示すように、キャビティ20には、成形前に、ペレット状の樹脂材料Mが充填される。他の実施形態では、キャビティ20に充填される樹脂材料Mは、ペレット状でなくてもよく、粉体として構成されていてもよいし、様々な形状の粒子状に構成されていてもよい。
【0024】
第1実施形態では、真空引き用の流路21は、下型15の上面17に設けられた溝流路の上部開口が上型11の下面13によって閉塞されることにより形成されている。流路21は、キャビティ20に連通している。流路21は、例えば、
図3に示すように、キャビティ20を囲む第1流路22と、第1流路22とキャビティ20を構成する凹部18とを連通する第2流路23と、第1流路22と真空ポンプ50とを接続する第3流路24と、を含むように構成することができる。他の実施形態では、流路21は、第1流路22や第2流路24に相当する流路を有しておらず、キャビティ21と真空ポンプ50とを接続する流路のみが形成される構成としてもよい。なお、上型11の凸部14の外壁面と下型15の凹部18の内壁面との間には、流路21を通じての真空引きが可能なように微小な間隙が形成されている。
【0025】
締結部材30は、キャビティ20が形成されるように重ね合わされた上型11と下型15とを積層方向に締結する。締結部材30は、上型11および下型15を構成するゴム材料よりも熱変形しにくい部材によって構成されている。また、締結部材30は、上型11および下型15を構成するゴム材料よりも高い剛性を有する材料によって構成されていることが好ましい。第1実施形態では、締結部材30は、例えば、SUS等の金属によって構成される。
【0026】
締結部材30は、上型11の上面12全体に面接触する平坦な第1板状部材31と、下型15の下面16全体に面接触する平坦な第2板状部材32と、を有する。第1実施形態では、第1板状部材31と第2板状部材32とはそれぞれ、上型11の上面12および下型15の下面16から側方に延び出ている周縁部31e,32eを有している。
【0027】
締結部材30は、さらに、上型11と下型15の側方に配置され、第1板状部材31と第2板状部材32とを連結する複数の棒状の連結部材33を有する。各連結部材33は、上型11および下型15の周囲に所定の間隔をあけて配列されており、第1板状部材31と第2板状部材32の周縁部31e,32eに設けられた貫通孔に挿通されることにより、第1板状部材31と第2板状部材32とを連結している。第1実施形態では、第1板状部材31の上面から突出している各連結部材33の上端部には、図示しないねじ部が設けられており、そのねじ部にナット34が螺合している。また、各連結部材33の下端部は径が他の部位より大きくなっていることにより、第2板状部材32の下面側に係止されている。
【0028】
締結部材30は、重ね合わされた上型11と下型15とを第1板状部材31と第2板状部材32とによって積層方向に挟み込み、上型11と下型15の全体に積層方向の押圧力を付与する。第1実施形態では、締結部材30によって上型11と下型15とに付与される押圧力は、連結部材33におけるナット34の螺合位置によって調整することができる。
【0029】
真空ポンプ50は、上述した流路21の第3流路24に接続されている。真空ポンプ50は、成形中に、流路21とキャビティ20とを真空引きする。真空ポンプ50による真空度の調整により、成形中の上型11と下型15の型締力を調整することができる。流路21が真空引きされることにより、上型11と下型15の密着性が高められ、キャビティ20の密閉性が高められる。キャビティ20が真空引きされることにより、脱気されるとともに型締力が高められ、成形中のキャビティ20全体の昇温を促進させることができ、キャビティ20全体に溶融した樹脂材料Mを行きわたらせることができる。
【0030】
第1実施形態の昇温部60aは、電磁波発生部61を有している。電磁波発生部61は、上型11および下型15を透過し、キャビティ20内の樹脂材料Mを昇温させることができる波長の電磁波を発生させる。昇温部60aは、例えば、0.78~2.00μmの範囲内の赤外線領域の光の波長の電磁波を照射する。キャビティ20内の樹脂材料Mは、赤外線領域の電磁波により、自身が発熱するとともに、その熱が伝達されて昇温したキャビティ20の壁面の熱を受けて昇温して溶融される。
【0031】
第1実施形態では、昇温部60aは、締結部材30の連結部材33の間から露出している上型11と下型15の側面に向かってその電磁波を照射する。成形時には、昇温部60aが照射する電磁波が、キャビティ20に到達することにより、キャビティ20内の樹脂材料Mが昇温して溶融する。
【0032】
なお、他の実施形態では、昇温部60aは、赤外線領域の波長の電磁波の代わりに、マイクロ波を照射してもよい。この場合には、そのマイクロ波により上型11と下型15とを昇温させ、上型11と下型15から伝達される熱により、キャビティ20内の樹脂材料Mを昇温させて溶融させる。昇温部60aが照射する電磁波の波長は、上型11および下型15の材料の種類や、樹脂材料Mの種類に応じて適宜、定められればよい。
【0033】
図4は、成形装置100Aにおいて実行される成形工程の手順を示す工程フロー図である。
【0034】
工程P1では、キャビティ20が形成されるように、上型11と下型15とが積層方向に重ね合わされ、キャビティ20に、ペレット状の樹脂材料Mが充填される。第1実施形態では、下型15の凹部18に樹脂材料Mを配置した後に、凹部18を閉塞するように、上型11の凸部14を凹部18に押し込むことにより、樹脂材料Mがキャビティ20内に充填された状態にする。
【0035】
なお、工程P1において、上型11と下型15とが重ね合わされてキャビティ20が閉じられると、上型11と下型15とは互いの相対位置が固定された状態となる。この後、成形が完了するまで、上型11と下型15の相対位置はほぼ一定に保持される。このように、上型11と下型15の相対位置を固定したまま成形することができれば、上型11と下型15の相対位置を変化させながら成形を実行する構成よりも、成形工程が容易である。よって、成形品の成形効率が高められる。
【0036】
工程P2では、締結部材30によって上型11と下型15とを締結する。まず、工程P1において積層方向に重ね合わされた上型11と下型15とが、締結部材30の第1板状部材31と第2板状部材32とによって積層方向に挟まれる。続いて、連結部材33が、第1板状部材31の周縁部31eと第2板状部材32の周縁部32eとに設けられた貫通孔に挿通されて、第1板状部材31と第2板状部材32とが連結される。次に、各連結部材33の上端部にナット34が螺合されることにより、上型11と下型15とが、積層方向に押圧力が付与された状態で締結される。
【0037】
工程P3では、真空ポンプ50が、上型11と下型15との間に形成された流路21の第3流路24に接続され、真空ポンプ50により、流路21とキャビティ20の真空引きが開始される。この後、成形実行中には、樹脂材料Mの温度や溶融の状態に応じて、真空ポンプ50によって流路21およびキャビティ20内の圧力が、キャビティ20の容積が一定に保持されるように調整される。
【0038】
工程P4では、昇温部60aがキャビティ20内の樹脂材料Mを昇温させて溶融させることにより、キャビティ20内で成形品が成形される。上述したように、第1実施形態では、昇温部60aは、上型11と下型15の外部から電磁波を照射することにより、キャビティ20内の樹脂材料Mを昇温させて溶融させる。
【0039】
昇温部60aによる樹脂材料Mの昇温を所定の時間継続した後、樹脂材料Mが硬化するまで上型11と下型15は冷却される。その後、上型11から下型15が離されてキャビティ20が開かれ、成形品が離型される。
【0040】
図5および
図6を参照して、締結部材30を用いることによる効果を説明する。
図5は、上述した工程P4の成形の実行中における成形装置100Aの様子を示す模式図である。
図6は、比較例として、締結部材30によって上型11と下型15とを締結しないまま成形を実行した場合の様子を示す模式図である。
図5および
図6では、真空ポンプ50および昇温部60aの図示は便宜上、省略してある。
図5および
図6では、溶融した樹脂材料Mに網点のハッチングを付してある。
【0041】
図5に示すように、上型11および下型15が締結部材30によって締結されていると、締結部材30から受ける押圧力により、成形中に、上型11および下型15が変形することが抑制される。上型11および下型15の変形が抑制されれば、上型11と下型15の間に隙間が生じることが抑制されるため、流路21およびキャビティ20の気密性が保持され、真空ポンプ50による真空引きの不良が発生することが抑制される。よって、成形中の真空引きにより、キャビティ20内の型締力を適切に得ることができ、溶融した樹脂材料Mをキャビティ内の隅々まで行きわたらせることができる。よって、真空引きの不良により、キャビティ20内に溶融しないままの樹脂材料Mが残存する成形不良の発生を抑制することができる。また、締結部材30によって、成形中にキャビティ20の変形が抑制されるため、キャビティ20の変形による成形不良の発生が抑制される。
【0042】
一方、
図6に示すように、上型11および下型15が締結部材30によって締結されていないと、成形中の発熱により、上型11と下型15とが反るように熱変形する場合がある。上型11と下型15とが熱変形すると、上型11と下型15と間に隙間が生じ、流路21とキャビティ20の気密性が損なわれ、真空ポンプ50による真空引きの不良が発生する。真空引きの不良が発生すると、キャビティ20における型締力が不足して、キャビティ20全体に溶融した樹脂材料Mを行きわたらせることができなくなる可能性が高まる。また、上型11と下型15が熱変形すると、キャビティ20が変形し、キャビティ20内での樹脂材料Mの配置状態が変化し、一部に溶融できない樹脂材料Mが生じる可能性が高まる。また、キャビティ20の変形は、成形品の成形精度の低下を引き起こす。
【0043】
以上のように、第1実施形態の成形装置100Aおよび成形方法によれば、成形中に上型11と下型15を締結部材30によって締結することにより、上型11と下型15の熱変形を抑制でき、成形不良の発生を抑制できる。
【0044】
また、第1実施形態の成形装置100Aおよび成形方法によれば、締結部材30の第1板状部材31と第2板状部材32によって、上型11の上面および下型15の下面の全体にわたって積層方向の押圧力を一様に付与することができる。よって、成形中の上型11と下型15の反りの発生をより効果的に抑制することができ、上型11と下型15の熱変形に起因する成形不良の発生をさらに抑制することができる。
【0045】
第1実施形態の成形装置100Aおよび成形方法によれば、締結部材30の第1板状部材31と第2板状部材32とは、互いに離間して配列されている複数の棒状の連結部材33によって連結されている。そのため、昇温部60aは、連結部材33の間から、キャビティ20内の樹脂材料Mを昇温させるための電磁波を上型11と下型15の側面から照射することが容易にできる。
【0046】
その他に、第1実施形態の成形装置100Aおよび成形方法によれば、例えば、上型11と下型15のX方向およびY方向の寸法が20cmを超えるような場合でも、成形中の上型11と下型15の熱変形をより効果的に抑制することができる。よって、そうした20cmを超える寸法の成形品を精度よく、効率的に成形することが可能である。
【0047】
また、第1実施形態の締結部材30は、上型11と下型15に対して、それらの外形形状やキャビティ20の形状が変更されるなどの設計変更がされたとしても、寸法が合う限り、転用することができる。締結部材30は、様々な成形部10に使いまわすことができるため、上型11と下型15の設計変更に伴う材料消費量の増加を抑制することができる。
【0048】
2.第2実施形態:
図7は、第2実施形態の成形装置100Bの構成を示す概略図である。第2実施形態の成形装置100Bは、第1実施形態の昇温部60aの代わりに、成形部10を外部から加熱する第2実施形態の昇温部60bを備えている点以外は、第1実施形態の成形装置100Aの構成とほぼ同じである。
【0049】
第2実施形態の昇温部60bは、加熱部62と送風機63とによって構成されている。加熱部62は、例えば、電熱ヒーターによって構成することができる。送風機63は、例えば、電動ファンによって構成され、加熱部62の後方から成形部10に向かって送風するように設置される。昇温部60bは、加熱部62によって加熱された熱風を、加熱対象である上型11および下型15に向けて送り出す。昇温部60bは、その熱風によって、上型11と下型15の外部からキャビティ20内の樹脂材料Mを加熱して溶融させる。
【0050】
第2実施形態では、昇温部60bは、加熱部62および送風機63によって、上型11と下型15の側方から加熱する。上型11と下型15の側方からの加熱であれば、連結部材33の間に間隙があるため、加熱部62の熱を効率よく上型11と下型15とに伝達することができる。
【0051】
なお、第2実施形態の昇温部60bは、
図7に図示されているように、第1板状部材31の上方や、第2板状部材32の下方に設けられた加熱部62および送風機63によって、第1板状部材31および第2板状部材32を通じて上型11と下型15を加熱し、キャビティ20内の樹脂材料Mを昇温させてもよい。
【0052】
なお、第1板状部材31の上方や第2板状部材32の下方の加熱部62および送風機63は省略されてもよい。また、昇温部60bは、送風機63を備えていなくてもよく、加熱部62のみによって構成されてもよい。ただし、送風機63を用いれば、上型11および下型15を、さらに効率よく加熱することができる。
【0053】
第2実施形態の昇温部60bによれば、加熱部62による加熱により、第1実施形態の昇温部60aと同様に、キャビティ20内の樹脂材料Mを溶融させて成形することができる。また、第2実施形態の成形装置100Bおよび成形方法によれば、第1実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
【0054】
3.第3実施形態:
図8は、第3実施形態の成形装置100Cの構成を示す概略図である。第3実施形態の成形装置100Cは、締結部材30に側面被覆部材35が追加されている点以外は、第2実施形態の成形装置100Bの構成とほぼ同じである。
【0055】
締結部材30の側面被覆部材35は、例えば、金属性の板状部材によって構成することができる。側面被覆部材35は、上型11と下型15の側面に密着し、当該側面を覆うように取り付けられる。第3実施形態では、上型11と下型15の4つの側面がそれぞれ、側面被覆部材35によって覆われる。第3実施形態では、昇温部60bは、締結部材30を構成する第1板状部材31、第2板状部材32、および、側面被覆部材35を通じて、上型11と下型15を加熱し、キャビティ20内の樹脂材料Mを昇温させる。
【0056】
第3実施形態の成形装置100Cによれば、側面被覆部材35によって、上型11および下型15の熱変形をその側面方向からも抑制することができる。よって、上型11および下型15の熱変形による成形不良の発生を、より一層、抑制することができる。その他に、第3実施形態の成形装置100Cおよび成形方法によれば、第1実施形態および第2実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
【0057】
4.第4実施形態:
図9は、第4実施形態の成形装置100Dの構成を示す概略図である。第4実施形態の成形装置100Dは、帯状部材40が追加されている点以外は、第1実施形態の成形装置100Aの構成とほぼ同じである。
【0058】
帯状部材40は、例えば、テフロンテープによって構成される(「テフロン」は登録商標)。帯状部材40は、成形前に、積層方向に重ね合わされた上型11と下型15の境界を封止するように上型11と下型15の側面に巻かれて接着される。帯状部材40によって、上型11と下型15の相対位置の固定性が高められる。また、帯状部材40によって、成形中に上型11と下型15との境界に隙間が生じることが、さらに抑制される。よって、上型11と下型15の間の隙間の発生によって、真空引きの不良が発生することを、より一層、抑制することができ、成形不良の発生をさらに抑制することができる。その他に、第4実施形態の成形装置100Dおよび成形方法によれば、上記の各実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
【0059】
4.他の実施形態:
本開示の技術は、上記の実施形態において説明された構成に限定されることはない。上記の実施形態の構成は、例えば、以下のように改変することも可能である。以下に説明する、他の実施形態の構成は、上記の実施形態中で説明された構成と同様に、本開示の技術を実施するための一形態として位置づけられる。
【0060】
(1)他の実施形態1:
上型11および下型15の構成は、上記の各実施形態で説明した構成には限定されない。上型11および下型15は、矩形形状を有していなくともよく、様々な外形形状を有していてもよい。上型11および下型15のX方向およびY方向の寸法は一致していなくてもよい。上型11および下型15において、キャビティ20や流路21は、上型11の下面13の凹部と下型15の上面17の凹部とによって形成されてもよい。
【0061】
(2)他の実施形態2:
締結部材30の構成は、上記の各実施形態で説明した構成には限定されない。締結部材30は、例えば、第1板状部材31および第2板状部材32の代わりに、上型11の上面12と下型15の下面16とを、それぞれの側面で押圧するように配列された複数の棒状部材によって構成されていてもよい。締結部材30は、例えば、連結部材33の代わりに、ベルトによって、第1板状部材31と第2板状部材32とを締結し、上型11および下型15に積層方向の押圧力を付与するように構成されていてもよい。締結部材30は、例えば、連結部材33の代わりに、第3実施形態で説明した側面被覆部材35によって第1板状部材31と第2板状部材32とが連結されるように構成されていてもよい。
【0062】
(3)他の実施形態3:
上記第2実施形態および第3実施形態において、昇温部60bの加熱部62は、上型11と下型15、あるいは、締結部材30に直接的に接触して加熱する熱源体によって構成されてもよい。昇温部60bの加熱部62は、例えば、誘導加熱により、第1板状部材31や第2板状部材32、側面被覆部材35を昇温させることにより、上型11および下型15を加熱する構成であってもよい。昇温部60bは電気炉によって構成されてもよい。
【0063】
(4)他の実施形態4:
上記第4実施形態の帯状部材40は、第2実施形態の成形装置100Bや、第3実施形態の成形装置100Cに適用されてもよい。
【0064】
(5)他の実施形態5:
上記第3実施形態の成形装置100Cにおいて、側面被覆部材35を、電磁波を透過可能な部材で構成し、第1実施形態で説明した電磁波を照射する昇温部60aを適用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…成形部、11…上型、12…上面、13…下面、14…凸部、15…下型、16…下面、17…上面、18…凹部、20…キャビティ、21…流路、22…第1流路、23…第2流路、24…第3流路、30…締結部材、31…第1板状部材、31e…周縁部、32…第2板状部材、32e…周縁部、33…連結部材、34…ナット、35…側面被覆部材、40…帯状部材、50…真空ポンプ、60a,60b…昇温部、61…電磁波発生部、62…加熱部、63…送風機、100A,100B,100C,100D…成形装置、M…樹脂材料