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特開2024-25466毛球部組織単離台、毛球部組織単離セット、及び毛球部組織の単離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025466
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】毛球部組織単離台、毛球部組織単離セット、及び毛球部組織の単離方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20240216BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240216BHJP
   C12M 3/08 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C12M1/26
C12M1/00 A
C12M3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128936
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】脇田(添田) 麻由実
(72)【発明者】
【氏名】伊藤(三好) 真未
(72)【発明者】
【氏名】福村 健太
(72)【発明者】
【氏名】杉元 崇紀
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029HA10
(57)【要約】
【課題】毛球部組織単離台によって、毛球部の鞘カップの反転及び切除を平易化し、作業を効率化する。
【解決手段】
毛髪から切断された毛球部から毛球部毛根鞘細胞を単離する反転作業部を有する単離台1であって、反転作業部10は、毛球部の一部と接触する当接部13と、前記毛球部が前記当接部と接触した状態で、前記毛球部の一部に外力が加えられることで、前記毛球部におけるカップ状の毛球部毛根鞘細胞を反転させて、毛乳頭を前記毛球部毛根鞘細胞から露出させた際に、反転後の前記毛球部毛根鞘細胞が収容される第1の空間と、前記毛乳頭が収容される第2の空間を備え、前記第1の空間と、前記第2の空間は、所定の方向で隣接している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪から切断された毛球部から毛球部毛根鞘細胞を単離する反転作業部を有する単離台であって、
前記反転作業部は、
前記毛球部の一部と接触する当接部と、
前記毛球部が前記当接部と接触した状態で、前記毛球部の一部に外力が加えられることで、前記毛球部におけるカップ状の毛球部毛根鞘細胞を反転させて、毛乳頭を前記毛球部毛根鞘細胞から露出させた際に、反転後の前記毛球部毛根鞘細胞が収容される第1の空間と、前記毛乳頭が収容される第2の空間を備え、
前記第1の空間と、前記第2の空間は、所定の方向で隣接している
毛球部組織単離台。
【請求項2】
前記所定の方向は上下方向であって、前記第1の空間は前記第2の空間よりも上方に位置し、
反転前の前記毛球部は、前記第1の空間に収容され、
前記第1の空間の水平方向の断面積は、前記第2の空間よりも広く、
前記当接部は、前記第1の空間と前記第2の空間との境界の段差であり、
前記毛髪から切断された前記毛球部毛根鞘細胞の切断面が上側から前記段差と接触した状態で外力が加えられることで、前記毛球部の前記毛球部毛根鞘細胞を前記段差の近傍で、上下方向に反転させて、毛乳頭を毛球部毛根鞘細胞から下側へ露出させる
請求項1に記載の毛球部組織単離台。
【請求項3】
前記所定の方向は水平方向である長手方向であって、前記第1の空間と前記第2の空間は前記長手方向で隣接しており、
反転前の前記毛球部は、前記第1の空間に収容され、
前記第1の空間における、前記長手方向と直交する短手方向の長さは、前記第2の空間よりも広く、
前記当接部は、前記短手方向における、前記第1の空間と前記第2の空間との境界の段差であり、
前記毛髪から切断された前記毛球部毛根鞘細胞の切断面が前記長手方向の一端側から前記段差と接触した状態で外力が加えられることで、前記毛球部の前記毛球部毛根鞘細胞を前記段差の近傍で、前記長手方向に反転させることで、毛乳頭を毛球部毛根鞘細胞から前記長手方向の他端側へ露出させる
請求項1に記載の毛球部組織単離台。
【請求項4】
前記所定の方向は水平方向から傾斜した斜め方向であって、前記第1の空間と前記第2の空間は上面視で前記水平方向である長手方向で隣接し、かつ前記第1の空間の下面よりも前記第2の空間の下面の方が低い位置にあり、
反転前の前記毛球部は、前記第1の空間に収容され、
前記第1の空間における、前記長手方向と直交する短手方向の長さは、前記第2の空間よりも広く、
前記当接部は、前記短手方向における、前記第1の空間と前記第2の空間との境界の段差であり、
前記毛髪から切断された前記毛球部毛根鞘細胞の切断面が前記長手方向の一端側から前記段差と接触した状態で外力が加えられることで、前記毛球部の前記毛球部毛根鞘細胞を前記段差の近傍で、前記長手方向に反転させることで、毛乳頭を毛球部毛根鞘細胞から前記長手方向の他端側へ露出させる
請求項1に記載の毛球部組織単離台。
【請求項5】
前記毛球部の一部である前記毛球部毛根鞘細胞の丸底底面が、外側から押圧されることで外力が加えられる
請求項2、3又は4に記載の毛球部組織単離台。
【請求項6】
前記毛球部の一部である前記毛乳頭が、前記毛球部毛根鞘細胞の内側で、前記当接部に挟まれた開口部から直接引っ張られることで外力を加えられる
請求項2、3又は4に記載の毛球部組織単離台。
【請求項7】
前記所定の方向は上下方向であって、前記第1の空間は前記第2の空間よりも下方向に位置し、
反転前の前記毛球部は、前記第2の空間に収容され、
前記当接部は前記毛乳頭の端を毛球部毛根鞘細胞の外側から接触する当接突起であり、
前記第1の空間は、前記当接突起の周囲に設けられた側壁と前記当接突起の間で形成される空間であり、
前記第2の空間は、前記当接突起の上端よりも上方に位置する空間であり、
前記毛乳頭が前記毛球部毛根鞘細胞の外側から前記当接突起と上側から接触した状態で、前記毛髪から切断された前記毛球部毛根鞘細胞の切断面が外力によって押圧されることで、前記毛球部毛根鞘細胞を前記側壁に沿って反転させ、前記毛乳頭を毛球部毛根鞘細胞から上側へ露出させる
請求項1に記載の毛球部組織単離台。
【請求項8】
前記反転作業部が、複数設けられている、
請求項1に記載の毛球部組織単離台。
【請求項9】
当該毛球部組織単離台の上面に対して液体を貯蔵可能な凹部が形成され、
前記反転作業部は、前記凹部の底部に形成されている、
請求項1に記載の毛球部組織単離台。
【請求項10】
請求項7に記載の毛球部組織単離台と、
前記毛球部の前記毛球部毛根鞘細胞の切断面を押圧する押し込みリングを有し、
前記毛乳頭が前記毛球部毛根鞘細胞の外側から前記当接突起と接触した状態で、前記押し込みリングによって、前記毛球部毛根鞘細胞の前記切断面を押圧することで、前記毛球部毛根鞘細胞を前記側壁に沿って反転させる、
毛球部組織単離セット。
【請求項11】
単離台を用いた毛球部毛根鞘細胞の毛球部からの単離方法であって、
前記単離台は、前記毛球部のカップ状の毛球部毛根鞘細胞の一部と接触する当接部と、第1の空間と、第2の空間を備えており,
前記第1の空間に、毛髪から切断された毛球部を載置する工程と、
前記毛球部の前記毛球部毛根鞘細胞の毛髪から切断された切断面が前記当接部に接触した状態で、前記毛球部の一部に外力が加えられることで前記毛球部毛根鞘細胞を反転させて、前記第2の空間において、毛乳頭を前記毛球部毛根鞘細胞から露出させて前記第2の空間へ押し出す工程と、
前記第2の空間に位置する前記毛乳頭と、前記第1の空間に位置する前記毛球部毛根鞘細胞とを切り離す工程を有する、
毛球部組織の単離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、毛球部組織単離台、毛球部組織単離セット、及び毛球部組織の単離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の毛髪再生医療において、毛髪から単離した毛球部の組織である毛乳頭を培養して、培養した細胞を移植することが知られている(特許文献1)。あるいは、毛髪から単離した毛球部の組織である、毛球部毛根鞘細胞を培養して、培養した細胞を移植することも知られている(特許文献2)。
【0003】
ここで、毛髪から、毛乳頭または毛球部毛根鞘細胞を取り出すいずれの場合も、まず、生体の頭皮から毛髪の毛根周辺の組織を採取し、毛髪の毛球部を切断して取り出す(図1(a)→(b))。そして、取り出した毛球部(毛包球)HBのうち、外側のカップ状の毛球部毛根鞘細胞DSC、略して鞘カップを、例えば、ピンセット、針、カニューレを使用して反転させ、内側の毛乳頭DP(及び毛幹、毛母体)を、鞘カップDSCの外側に露出させる(図1(b)→(c))。そして、メス等によって切断することで、毛乳頭DPと、鞘カップDSCとを分離(単離)する(図1(c)→(d)、(e))。その後、単離された毛乳頭、あるいは毛球部毛根鞘細胞のいずれか又はいずれかの一部は、培養皿上で培養される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-528916号公報
【特許文献2】国際公開WO2019/235375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、鞘カップを反転させ、毛乳頭と毛球部毛根鞘細胞を分離する技術は、精密かつ難易度の高い手作業で一検体ずつ行われるため、以前から作業者間の技術差が課題として挙げられていた。詳しくは、鞘カップ反転の作業中にダメージを与えてしまった鞘カップの組織片を培養する場合、培養日数や培養によって得られる細胞収量が変化してしまい、毛根鞘細胞加工物の培養による製造が不安定になってしまっていた。
【0006】
また、毛球部は数100μm程度であって、ピンセット等による従来の鞘カップDSC反転は細かい作業で難度が高いため、作業者の技術の習得に長時間を要し、生産規模の拡大が難しかった。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、毛球部の鞘カップの反転及び切除を平易化し、作業を効率化することができる、毛球部組織単離台の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
毛髪から切断された毛球部から毛球部毛根鞘細胞を単離する反転作業部を有する単離台であって、
前記反転作業部は、
前記毛球部の一部と接触する当接部と、
前記毛球部が前記当接部と接触した状態で、前記毛球部の一部に外力が加えられることで、前記毛球部におけるカップ状の毛球部毛根鞘細胞を反転させて、毛乳頭を前記毛球部毛根鞘細胞から露出させた際に、反転後の前記毛球部毛根鞘細胞が収容される第1の空間と、前記毛乳頭が収容される第2の空間を備え、
前記第1の空間と、前記第2の空間は、所定の方向で隣接している
毛球部組織単離台、を提供する。
【発明の効果】
【0009】
上記の毛球部組織単離台によって、毛球部の鞘カップの反転及び切除を平易化し、作業を効率化する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来例に係る、毛髪から毛球部毛根鞘細胞および毛乳頭を分離する段階説明図。
図2】本開示の第1実施形態に係る、毛球部組織単離台に含まれる1つの反転作業部に、毛球部がセットされた状態を示す断面模式図。
図3】第1実施形態に係る毛球部組織単離台の複数の構成例の上面斜視透過図。
図4】本開示の単離台を用いた、毛球部における組織単離のフローチャート。
図5】第1実施形態の単離台を用いた、反転作業部上の鞘カップの第1の反転方法の説明図。
図6】第1実施形態の単離台を用いた、反転作業部上の鞘カップの第2の反転方法の説明図。
図7】第4実施形態の毛球部組織単離セットを用いた、反転作業部上の鞘カップの反転の説明図。
図8】本開示の毛球部組織単離台を用いた場合と、従来方法のピンセットを用いた場合の、鞘カップの反転時間を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。下記、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0012】
本開示は、毛球部組織単離台、毛球部組織単離セット、及び毛球部組織単離方法に関する。毛球部組織単離台は、切断等により毛髪から取り出された毛球部の毛球部毛根鞘細胞(鞘カップ)と毛乳頭とを単離するための単離台であって、毛髪再生方法の一工程において、単離作業を実行する際に使用される。
【0013】
<毛髪再生システム全体>
本開示の毛球部組織単離台は、毛髪再生方法の一工程において、毛球部の毛球部毛根鞘細胞と毛乳頭とを単離する際に使用される。毛髪再生システムでは、患者に対して直接施術を行う医療機関と、毛髪の組織の単離・培養を行う細胞加工培養センターの2拠点で実行される。
【0014】
毛髪再生方法では、まず医療機関において、患者自身から、毛髪を、毛包を含む頭皮組織として採取する。
【0015】
そして、採取した頭皮組織を、細胞加工培養センターへ輸送し、採取した毛髪から毛球部を切断し、さらに鞘カップDSCを反転して、鞘カップDSCである毛球部毛根鞘細胞を単離・培養する。そして培養して増殖させた細胞を、再び医療機関に輸送して、患者自身に移植することで、免疫拒絶反応や、感染症のリスクが少なく、毛髪の再生を実現する。
【0016】
本開示の単離台は、例えば細胞加工培養センターにおいて、採取した毛髪から切断された毛球部において、鞘カップDSCを反転して毛乳頭と毛球部毛根鞘細胞とを分離(単離)する際に使用される。
【0017】
<第1実施形態の構成>
図2図3を用いて、本開示の第1実施形態に係る毛球部組織単離台の構成について説明する。図2は、本開示の第1実施形態に係る毛球部組織単離台に含まれる反転作業部10に、毛球部HBがセットされた状態を示す断面模式図である。図3は、第1実施形態に係る毛球部組織単離台の複数の構成例の上面斜視透過図である。
【0018】
反転作業部10を有する毛球部組織単離台1は、毛髪から切断された、毛球部(Hair Bulb:HB)から、タマネギ状の毛乳頭(Dermal Papilla:DP)と、カップ状(杯状)の毛球部毛根鞘細胞(Dermal Sheath Cup cell:DSC)とを単離する単離台である。以降、毛球部組織単離台は、必要に応じて単離台と略して記載する。
【0019】
ここで、毛髪では、毛髪本体として、内側から順に、髄質(メデュラ)、皮質(コルテックス)、毛表皮(キューティクル)を有している。また、毛髪において、皮膚の下の部分に位置する毛根部では、毛髪本体の毛表皮の外側に、内毛根鞘、ハックスレー層、ヘレン氏層、Companion Layer、外毛根鞘が、基底膜に囲まれて設けられている。ここで、皮膚内の毛髪の外側の、内毛根鞘(鞘小皮)、ハックスレー層、ヘレン氏層、Companion Layer、外毛根鞘、及び基底膜をまとめて、鞘組織ともいう。そして、毛球部における、鞘組織は、カップ状の毛球部毛根鞘細胞(DSC)である。
【0020】
また、毛球部では、毛髪として皮膚から生えている際に最も下側に位置していた、毛髪の髄質の内側であって、タマネギ状の毛乳頭(毛包真皮乳頭)が設けられており、毛乳頭の下端側では毛細血管から血液が送られ、毛乳頭の先端側には毛母細胞が存在する。
【0021】
毛球部組織単離台1の、土台部20に対して凹部として形成される反転作業部10には、毛球部毛根鞘細胞DSC(以降、本開示において、鞘カップと呼ぶこともある)と、毛乳頭DPを含む、毛球部HBがセットされる。
【0022】
反転作業部10は、毛球部HBの鞘カップDSCの一部と接触する当接部13と、第1の空間(第1の収容空間)11と、第2の空間(第2の収容空間)12とを有している。
【0023】
本実施形態の反転作業部10では、毛球部HBの鞘カップDSCの毛髪から切断された切断面CSが当接部13に接触した状態で、外力が加えられることで毛球HBの鞘カップDSCを反転させて、第2の空間12において、毛乳頭DPを鞘カップDSCから下側へ露出させる。
【0024】
詳しくは、毛球部HBにおいて、鞘カップDSCの切断面CSが当接部13と接触した状態で、鞘カップDSCの毛乳頭DP近傍の丸底底面RBに対して、外側から押圧されることで外力が加えられる(図5参照)。あるいは、毛球部HBにおいて、鞘カップDSCの内側に位置する毛乳頭DPが直接引っ張られることで、外力が加えられる(図6参照)。いずれの方法で外力が加えられる場合でも、外力によって、毛球部HBの丸底底面RB及び毛乳頭DPの位置が移動し、鞘カップDSCの中心位置があまり変化せずに切断面CSの位置が移動するように、鞘カップDSCが第1の側壁14a、14bの内壁に沿って反転する(裏返しになる)ことで、毛乳頭DPを鞘カップDSCから露出させる。反転の詳細は図5図6とともに詳述する。
【0025】
なお、本実施形態における反転作業部10上で、毛球部HBに外力を加える、作業器具は、例えば、針、ピンセット等の長細い棒状のものであると好適である。
【0026】
第1実施形態の構成では、第1の空間11は、毛髪から切断された、反転前の毛球部HBが載置される空間であるとともに、鞘カップDSCの反転後、毛乳頭DPを鞘カップDSCから露出させた際に、鞘カップDSCを収容しうる空間である。
【0027】
第2の空間12は、反転前には何も載置されず、鞘カップDSCの反転後、毛乳頭DPを鞘カップDSCから露出させた後に、毛乳頭DPを収容しうる空間である。
【0028】
本実施形態では、図2図3に示すように、第1の空間11と、第2の空間12は、上下方向(所定の方向)で隣接しており、第1の空間11は第2の空間12よりも上方に位置している。
【0029】
図2では断面図を示しているが、本実施形態における反転作業部10の第1の空間11と第2の空間12の形状は、様々な形状であってもよい。図3は、毛球部組織単離台の反転作業部の複数の構成例の上面透過斜視図である。詳しくは、図3(a)は、第1の空間11と、第2の空間12が直方体状の中空体である構成例を示し、図3(b)は、第1の空間11Cと、第2の空間12Cが円柱の中空体である構成例を示し、図3(c)は、第1の空間11が直方体の中空体であって、第2の空間12Pが五角柱の中空体である構成例を示している。
【0030】
なお、図2の断面図は、図3(a)の構成のAA'断面図に相当している。図3(a)の単離台1の構成では、第1の空間11は、上面から凹んだ、4つの第1の側壁14a、14b、14c、14dに囲まれた空間であって、この第1の空間11の下面は、四角形の開口部が形成された仕切り面である段差面(当接部)13である。一方、第2の空間12は、段差面13の開口部の縁部から下方に延びる、4つの第2の側壁17a、17b、17c、17dに囲まれた空間であって、下面19は形成されていても、貫通していてもよい。
【0031】
図3(b)の単離台1Aの構成では、第1の空間11Cは、上面から凹んだ、周壁14Cの内周面で囲まれた筒状の空間であって、第1の空間11Cの下面は、円形の開口部が形成されたドーナッツ状の仕切り面である段差面(当接部)13Dである。一方、第2の空間12Cは、段差面13Dの円形の開口部の縁部から下方に延びる、周壁17Cに囲まれた筒状の中空空間であって、下面は形成されていても、貫通していてもよい。
【0032】
図3(c)の単離台1Bの構成では、第1の空間11は、上面から凹んだ、4つの第1の側壁14a、14b、14c、14dに囲まれた空間であって、この第1の空間11の下面は、五角形の開口部が形成された仕切り面である段差面(当接部)13Bである。一方、第2の空間12Pは、段差面13の開口部の縁部から下方に延びる、5つの第2の側壁17Pに囲まれた空間であって、下面は形成されていても、貫通していてもよい。
【0033】
なお、図3では、第1の空間及び第2の空間の形状例として、直方体、円柱、五角柱の中空体である例を示したが、空間の形状例として、立方体、楕円円柱形、あるいは三角柱や六角柱などの他の多角形柱や、側面視で上辺又は下辺が長い等脚台形形状になるような角錐台、円錐台、楕円錐台等であってもよい。なお、第1の空間又は第2の空間が、直方体、立方体又は多角柱や、角錐台である場合、側壁の内側面が湾曲していたり、屈曲したりしていてもよい。
【0034】
また、第1の空間と第2の空間はいずれの形状を組み合わせてもよいが、どのような構成を組み合わせる場合でも、第1の空間の水平方向の断面積は、第2の空間よりも広くなるように設定する(S11>S12)。これにより、第1の空間と、第2の空間との境界に位置する、第1の空間の下面として、穴あき下面が存在し、その孔あき下面が、段差となる。
【0035】
いずれの構成でも、本実施形態の反転作業部では、第1の空間11には、反転前の毛球部HB及び反転後の鞘カップDSCが収容される。そのため、第1の空間11の上下方向長さは、毛球部HBの毛髪から切断された切断面CSから、乳頭部側の丸底底面RBまでの長さ、即ち、切断後の毛球部HBの長さよりも長く設定されていると好適であるが、毛球部HBは変形するため、切断後の毛球部HBの長さと同等あるいは毛球部HBの長さよりも短い長さであってもよい。例えば、第1の空間11の側壁14a、14b、14c、14dの長さ(高さ)は、0.2~2.0mm(例えば1.0mm)である。
【0036】
一方、第1の空間11の対向する側壁(14a、14b)及び(14c、14d)の対向距離又は周壁14Cの断面直径の長さは、毛球部HBの幅よりも長くなる長さに設定されていると好適であるが、毛球部HBは変形するため、毛球部HBの幅と同等あるいは毛球部HBの幅よりも短い長さであってもよい。第1の空間11における対向する側壁の離間距離、詳しくは図3(a)の場合は、各側壁14a~14dの水平方向の辺の長さ、図3(b)の場合は周壁14Cの断面直径は、例えば0.3~0.8mm(例えば0.6mm)である。
【0037】
リング状の当接部13は側壁14a、14b、14c、14dの下端と連接して、側壁14a、14b、14c、14dの内側にせり出す段差である。反転作業の際には、開口部Oを取り囲む当接部13には、鞘カップDSCの切断面CSが突き当てられ、開口部Oの内側を、毛乳頭DPが通過する。
【0038】
例えば、図3(a)の構成では、当接部13の開口部と外縁部位に挟まれた領域であるリング幅の長さ、即ち当接部13の面の幅は、0.03~0.25mmであり、開口部Oの開口幅は、0.05~0.3mmである。上記断面積S11>S12の関係より、図3(a)の構成では、当接部13の幅と、開口部Oの開口幅のサイズの合計が、第1の側壁14a、14b、14c、14dの水平方向長さと等しくなる。
【0039】
開口部Oから連接して形成される、第2の空間12には、反転後の鞘カップDSCから飛び出した、毛乳頭DPが収容される。そのため、当接部13に形成された開口部Oの開口幅は、第2の空間12の側壁17a、17b、17c、17dの各離間距離となる。そのため、第2の側壁17a、17b、17c、17dの離間距離、即ち、第2の側壁の水平方向辺の長さは、第1の側壁14a、14b、14c、14dの離間距離よりも短く、例えば0.05~0.3mmである。
【0040】
また、第2の側壁17a、17b、17c、17dの上下方向の長さは、0.2~30.0mm(例えば1.0mm)である。
【0041】
図3では、いずれの構成も、幅方向と奥行き方向の両方において、第2の空間は、第1の空間よりも短い構成を示しているが、少なくとも一方向において段差があれば、幅方向又は奥行方向のどちらか一方は、第1の空間と第2の空間で同じ長さであってもよい。
【0042】
(反転・単離作業)
次に、図4図6を用いて、本開示の毛球部毛根鞘細胞(鞘カップDSC)の単離作業について説明する。
【0043】
図4は、本開示の単離台1を用いた毛球部における組織単離のフローチャートである。図5は、第1実施形態の単離台1を用いた、反転作業部10上の毛球部毛根鞘細胞の第1の反転方法の説明図である。
【0044】
図4のステップS1で、まず、毛髪を切断して、毛球部HBを単離する。
【0045】
ステップS2で、反転作業部10の第1の空間11に、毛髪から切断された毛球部HBをセットする。この際、毛球部HBの切断面CSが開口部O側、丸底底面RBが開口端OE側を向くように載置する。
【0046】
ステップS3で、毛球部HBを押す又は挟んで引っ張る等することで、毛球部HBの鞘カップDSCの切断面CSを、反転作業部10の当接部13に接触させるように移動させる(図5(a)の位置)。なお、第1実施形態、第4実施形態では重力によって、切断面CSと当接部が接触するため、S3は不要であり、第2実施形態、第3実施形態、第5実施形態の場合は必要に応じて、ステップS3を実施する。
【0047】
ステップS4で、上記切断面CSの一部を単離台1の当接部13に接触させた状態で、毛球部HBの一部に力を加えることで、毛球部HBの鞘カップDSCを反転して(裏返して、めくり返して)、毛乳頭を鞘カップDSCから露出させる。即ち、外力により、内側の毛乳頭DPを、第1の空間11から第2の空間12へ動かす。
【0048】
(第1の反転方法)
反転方法の一例として、図5に示すように、ピンセット、針、カニューレなどによって、図中矢印で示す毛球部HBの丸底底面RBの外側から外力が加えられることで毛球部HBの鞘カップDSCを裏返す。
【0049】
詳しくは、図5(a)の状態で、毛球部HBの丸底底面RBの外側から矢印方向に外力がかかると、切断面CSが段差面である当接部13と接触した状態のまま、ある程度まで変形する(図5(a)→図5(b))。毛球部HBの鞘カップDSCは弾性のある組織のため、変形可能である。
【0050】
さらに、丸底底面RBに力がかかるように押し込んで、鞘カップDSCの変形の限界を超えると、鞘カップDSCが裏返り、切断面CSが当接部13から離間する(図5(b)→図5(c))。
【0051】
さらに押し込むと、鞘カップDSCが裏返った状態を維持したまま、毛乳頭の根元が、当接部13に形成された開口部Oの位置を超えて、第2の空間12に、毛乳頭が入り込む(図5(c)→図5(d))。
【0052】
このように、図5の反転方法では、毛球部HBの切断面CSが段差である当接部と接触した状態で、丸底底面RBの外側から押圧されることで、毛乳頭DP近傍に外力が加えられ、鞘カップDSCが側壁14a、14bの内側に沿って裏返る(反転させる)。鞘カップDSCの裏返りに伴い、毛乳頭DPが鞘カップDSCから露出して、さらに力がかかることで、第2の側壁17a、17bの間に毛乳頭DPを退避させる。
【0053】
図5に示すように鞘カップDSCの裏返し作業をする場合、丸底底面RBの位置がわかりやすく、さらに作業する手と他方の手でピンセットによって毛球部HBを挟んで押さえなくても、当接部と接触した毛球部は力がかかってもずれないため、簡単に、反転作業が実現できる。
【0054】
そして、図4のステップS5で、毛乳頭が鞘カップから露出した毛球部を、切断作業部(不図示)へ移動する。切断作業部は、例えば、培養皿と異なる作業台であってもよいし、培養皿であってもよい。また、切断作業部は、上述の反転作業部が形成された単離台内に設けられていてもよいし、他の台に設けられていてもよい。
【0055】
そして、図4のステップS6で、例えば、手術用の微細のメス等によって切断することで、毛乳頭DPと、鞘カップDSCとを切り離す。
【0056】
その後、ステップS7で、培養対象となる、鞘カップDSC又は毛乳頭DPのいずれかをそれぞれ培養皿に移行し、培養対象外となる部分を破棄して、毛球部の組織単離フローを終了する。
【0057】
なお、図示はしていないが、毛球部HBには、鞘カップDSCの内側であって、毛乳頭DPを取り囲むように、髄質や皮質等が存在し、鞘カップDSCを反転した際に、毛乳頭DPに付着して露出する。鞘カップDSCを培養する場合は、毛乳頭DPとともにこれらも破棄する。一方、毛乳頭DPを培養する場合は、少し力を掛けるだけで毛乳頭DPから簡単に外れるため、鞘カップDSCとともに、これらも破棄する。
【0058】
本発明の単離台の反転作業部を用いて、上記のように反転させることで、当接部と接触した毛球部は力がかかってもずれないため、より簡単に、反転作業が実現できる。なお、第1実施形態の反転台において第1の反転方法によって反転を行う場合は、第1の空間の上方から作業をするため、第2の空間の下面19は存在しても、存在しなくてもよい。
【0059】
(第2の反転方法)
上記図5では、毛球部の下端に相当する丸底底面RBを外側から押し込むことによって、鞘カップを反転させたが、毛乳頭を内側から引っ張ることによって、鞘カップを反転させてもよい。
【0060】
図6は、第1実施形態の単離台を用いた鞘カップDSC(毛球部毛根鞘細胞)の第2の反転方法の説明図である。なお、第1実施形態において、第2の反転方法を実行する場合は、第2の空間の下面は存在せず、反転作業部は、上下に貫通した構成である。
【0061】
本反転方法では、単離台1の反転作業部10において、開口部Oの後端側からピンセット等を差し込んで、鞘カップDSの内側に位置する、毛乳頭DPをつかむ(図6(a))。
【0062】
そして、毛乳頭DPを引っ張る。鞘カップDSCは弾性変形可能な構造であるため、図6(a)の状態から矢印方向に外力がかかると、切断面CSが当接部13と接触した状態のまま、ある程度まで変形する(図6(a)→図6(b))。
【0063】
図6(b)の状態からさらに毛乳頭DPを引っ張ることで、鞘カップDSCが変形の限界を超えて裏返り、切断面CSが当接部13から離間する(図6(b)→図6(c))。
【0064】
このように、本反転方法では、毛乳頭が、開口部から直接引っ張られることで外力が加えられる、鞘カップDSCを第1の側壁14a、14bの内側面に沿って反転させる。これにより、単離対象となる毛乳頭を鞘カップDSCから露出させ、第2の側壁17a、17bの間に、反転後の毛乳頭DPを退避させる。
【0065】
その後は、毛乳頭が鞘カップから露出した毛球部を、切断用の作業部へ移動させた後、手術用の微細のメス等によって、毛乳頭DPを、鞘カップDSCから切り離す。
【0066】
本反転方法でも、当接部と接触した毛球部は力がかかってもずれないため、より簡単に、反転作業が実現できる。
【0067】
(変形例1)
上記では、図2に示したように、単離台の上面に直接形成された凹部として反転作業部を設ける構成を説明したが、単離台において、反転作業部の外側にさらに凹部を設けてもよい。この場合、本変形例に係る単離台は、単離台の土台部の上面に対して凹んだ凹部が形成されており、反転作業部は、凹部の底部に形成されている。
【0068】
本変形例における単離台の土台部は、凹部を取り囲むように、土台側壁と、底壁を有している、容器部である。土台部に形成される凹部は、液体が入れられることで、貯蔵可能なプール構造となっているため、毛球部が乾燥することなく、毛球部の反転、単離作業動作を実行することができる。
【0069】
なお、本変形例において、凹部の底部に第1実施形態の反転作業部10を設ける場合は、プール構造を成立させるために第2の空間の下面19が必要になるため、第1の反転方法で反転作業を実行すると好適である。
【0070】
(変形例2)
上記図2図3では、1つの単離台において、1つの反転作業部が設けられる構成を説明したが、本発明の単離台では、1つの単離台に対して複数の反転作業部が設けられていてもよい。
【0071】
この際、例えば、複数の反転作業部が、水平方向において、1列に並んでいてもよいし、千鳥状に配置されたり、斜めに配置されたり等、任意の位置に配置されていてもよい。
【0072】
また、単離台に複数の反転作業部を設ける場合、単離台の土台部の外壁の外形の上面視は、長方形や、角丸長方形、楕円形、正方形、円形など、様々な形状であってもよい。
【0073】
本変形例では、1つの単離台に複数の反転作業部を設けることで、複数の毛球部HBをセット後、隣接する複数の毛球部HBの反転を次々と実行できるため、1つあたりの反転作業のスピードを高め、作業効率を向上することができる。
【0074】
<第2実施形態>
上記、図2図3図5図6に示す第1実施形態では、第1の空間と第2の空間は、上下方向に並んでいたが、本発明の反転作業部において、第1の空間と第2の空間は、水平方向において横並びであってもよい。
【0075】
より詳しくは、本実施形態では、第1の空間と第2の空間は、水平方向である長手方向に隣接しており、第1の空間、第2の空間の上方は開口している。なお、本実施形態では、図2で示した構成を90度回転させた構成になり、この場合、第1の空間の開口端OE側に、第1の空間を規定する、当接部13と対向する側壁を設けてもよい。
【0076】
そして、第2実施形態の構成では、第1実施形態と同様に、第1の空間は、毛髪から切断された、反転前の毛球部HBが載置される空間であるとともに、鞘カップDSCの反転後、毛乳頭DPを鞘カップDSCから露出させた際に、鞘カップDSCを収容しうる空間である。第2の空間は、反転前には何も載置されず、鞘カップDSCの反転後、毛乳頭DPを鞘カップDSCから露出させた後に、毛乳頭DPを収容しうる空間である。
【0077】
本実施形態では、第1の空間の長手方向と直交する短手方向の長さは、第2の空間よりも広く、当接部は、短手方向における、第1の空間と第2の空間との境界の段差である。
【0078】
本実施形態では、毛髪から切断された毛球部毛根鞘細胞の切断面が長手方向の一端側から段差と接触した状態で外力が加えられることで、毛球部の鞘カップDSCを段差の近傍で、長手方向に反転させることで、毛乳頭を鞘カップDSCから長手方向の他端側へ露出させる。
【0079】
本実施形態の場合は、図5の示す反転方法で反転させる場合は、毛球部の一部である毛球部毛根鞘細胞の丸底底面が、外側である、長手方向の一端側(第1の空間側)から押圧されることで外力が加えられる。
【0080】
一方、図6に示す反転方法で反転させる場合は、長手方向の他端側(第2の空間側)から毛球部の一部である毛乳頭が、毛球部毛根鞘細胞の内側で、当接部に挟まれた開口部から直接引っ張られることで外力を加えられる。
【0081】
なお、本構成の場合は、水平方向に空間が並んでいるため、利き手に応じて、押しやすい向き、即ち、利き手側が外力を加える側になるように反転台をセットすると作業の効率の点で好ましい。
【0082】
(変形例)
上記第2実施形態においても、第1の空間と第2の空間が水平方向に並んだ反転作業部は、単離台の土台部の上面に対して凹んだ凹部の底部に形成されていてもよい。さらに、1つの単離台に対して、第1の空間と第2の空間が水平方向に並んだ第2実施形態の反転作業部が複数設けられていてもよい。
【0083】
<第3実施形態>
上記、図2図3図5図6に示す第1実施形態では、第1の空間と第2の空間は、上下方向に並んでおり、第2実施形態では、第1の空間と第2の空間は、水平方向に並んでいたが、本発明の反転作業部において、第1の空間と第2の空間は、斜め方向に並んでいてもよい。
【0084】
より詳しくは、本実施形態では、第1の空間と第2の空間は水平方向である長手方向で隣接するとともに、第1の空間及び第2の空間の上方は開口しており、さらに第1の空間の下面よりも、第2の空間の下面が低い位置にあることで、第1の空間と第2の空間は斜め方向に並んでいる。
【0085】
例えば、第1の空間の下面は、第2の空間の方に向かって低くなるように傾斜している。例えば、同一面上の傾斜面において、上部に第1の空間が形成され、下部に第2の空間が形成されていてもよいし、第1の空間の下面と第2の空間の下面の傾斜が異なっていてもよい。あるいは、第1の空間の下面と第2の空間の下面はいずれの水平面であって、段差状に位置が第2の空間の下面が、第1の空間の下面よりも低い位置にあってもよい。
【0086】
本実施形態では、第1の空間、第2の空間の機能は、第2実施形態と同様である。本実施形態では、第1の空間の長手方向と直交する短手方向の長さは、第2の空間よりも広く、当接部は、短手方向における、第1の空間と第2の空間との境界の段差である。
【0087】
本実施形態では、毛髪から切断された毛球部毛根鞘細胞の切断面が長手方向の一端側から段差と接触した状態で外力が加えられることで、毛球部の鞘カップDSCを段差の近傍で、長手方向に反転させることで、毛乳頭を鞘カップDSCから長手方向の他端側へ露出させる。
【0088】
本実施形態の場合は、図5の示す反転方法で反転させる場合は、毛球部の一部である毛球部毛根鞘細胞の丸底底面が、外側であって、傾斜の高い側に位置する、長手方向の一端側(第1の空間側)から押圧されることで外力が加えられる。
【0089】
一方、図6に示す反転方法で反転させる場合は、長手方向の他端側(第2の空間側)から毛球部の一部である毛乳頭が、毛球部毛根鞘細胞の内側で、当接部に挟まれた開口部であって、傾斜の低い側から、直接引っ張られることで外力を加えられる。
【0090】
なお、本構成の場合は、第1の空間と第2の空間は、上面視で水平方向に並んで、かつ側面視で斜め方向に並んでいるため、利き手に応じて、押しやすい向き、即ち、利き手側が外力を加える側になるように反転台をセットすると作業の効率の点で好ましい。
【0091】
(変形例)
上記第3実施形態のように第1の空間と第2の空間が上面視で水平方向に並び、側面視で斜めに並んだ反転作業部においても、単離台の土台部の上面に対して凹んだ凹部の底部に形成されていてもよい。さらに、1つの単離台に対して、第1の空間と第2の空間が斜め方向に並んだ第3実施形態の反転作業部が複数設けられていてもよい。
【0092】
<第4実施形態>
上記第1~第3実施形態では、単離台の反転作業部において、当接部に毛球部HBの切断面CSを当接させて、ピンセット、針又はカニューレ等の市販の治具を用いて反転させる構成を説明したが、毛球部HBの切断面CSを、反転作業部内の構成要素とは異なる部材である専用の治具によって押し込んで、反転させる構成であってもよい。
【0093】
図7を用いて、第4実施形態における、毛球部組織単離セットについて説明する。図7は、第4実施形態の単離セットを用いた、反転作業部上の鞘カップDSCの反転の断面説明図である。
【0094】
図7に示すように、本実施形態における、毛球部組織単離セット5は、毛球部組織単離台3と、リング状治具4を有している。
【0095】
本実施形態では、単離台3には、第1実施形態とは異なる形状の、反転作業部40が形成されている。本実施形態において、反転作業部40は、当接端(当接部)43と、第1の空間(第1の収容空間)41と、第2の空間(第2の収容空間)42を有している。本実施形態において、第1の空間41と第2の空間42は、上下方向(所定方向)に隣接しており、第1の空間41は第2の空間42よりも下方向に位置している。
【0096】
本実施形態における反転作業部40における、第1の空間41は、反転後の鞘カップDSCが収容される空間である。また、反転作業部における第2の空間42は、反転前の毛球部HBがセットされ、さらに、反転後の毛乳頭DPが残される空間である。
【0097】
また、本実施形態の反転作業部40は、構造的には、一対の側壁46a、46bと、矢印形状を構成する中央直線部45と、矢印部44と、矢印状突起の根元となる根元壁47とを有している。
【0098】
図7は断面形状を示しているが、例えば、反転作業部を取り囲む側壁46a、46bは、図3(a)に示したように四方を取り囲む四角柱形状の筒状部であってもよいし、図3(b)に示したように円周状に取り囲む円筒形状であってもよいし、あるいは、他の多角柱筒形状であってもよい。また上下に起立する中央直線部45は、四角柱形状、円柱形状、あるいは他の多角柱形状であってもよい。また、断面視で三角形となる矢印部44は、四角錐形状、円錐形状、あるいは他の多角錐形状でありうる。
【0099】
本実施形態の当接端43は、毛球部HBの丸底底面RBの外側から、接触する突起の先端であり、矢印形状を構成する矢印部44の先端領域(上端領域)である。
【0100】
また、反転前の毛球部HBがセットされるとともに、反転後の毛乳頭DPが残される、第2の空間42は、当接突起である当接端43よりも上側の空間である。即ち、第2の空間42は、当接端43よりも上側であって、側壁46a、46bに囲まれた空間である。
【0101】
反転後の鞘カップDSCが収容される空間である第1の空間41は、当接端43よりも下側の空間である。詳しくは、当接端43よりも下側の空間であって、当接端43を含む矢印状突起の矢印部44と中央直線部45の周囲と、側壁46a、46bと、根元壁47によって囲まれる空間である。
【0102】
本実施形態に係る、単離台3は、リング状治具4とともに使用される。リング状治具4は、例えば、ガラス、樹脂、金属等で構成されている。
【0103】
ここで、図7を参照して、本実施形態における、鞘カップDSCの反転方法について説明する。まず、本実施形態に係る単離台3に対して、毛球部HBは、図7(a)に示す向きでセットされる。そして、リング状治具4によって、毛球部HBの鞘カップDSCの切断面CSの押し込みが開始される。
【0104】
そして、図7(a)の状態から矢印方向に外力がかかると、まず、切断面CSがリング状治具4と接触した状態のまま、ある程度まで変形する(図7(a)→図7(b))。この際、鞘カップDSCの丸底底面RBの外側が当接端43によって押圧されているため、毛球部HBの丸底底面RB近傍の内部に位置する毛乳頭DPは、当接端43の近傍から位置が変化せず露出する。
【0105】
さらに、リング状治具4からさらに後端側に力がかかって、鞘カップDSCの変形の限界を超えると、鞘カップDSCが裏返り、切断面CSが、リング状治具4から離れて、後端側の方を向く(図7(b)→図7(c))。
【0106】
このように、本実施形態では、毛乳頭DPが鞘カップDSCの外側から突起状の当接端43と接触した状態で、リング状治具4によって、鞘カップDSCの切断面CSが押圧されることで、鞘カップDSCを側壁46a、46bの内側に沿って反転させる。本実施形態の反転作業部40では、当接端43と接触した毛球部HBは、外力がかかってもずれないため、反転作業を簡単に実現できる。
【0107】
(変形例)
上記第4実施形態において、上向きの矢印状突起を取り囲む反転作業部は、単離台の土台部の上面に対して凹んだ凹部の底部に形成されていてもよい。さらに、1つの単離台に対して、上向きの矢印状突起を取り囲む、第4実施形態の反転作業部が、複数設けられていてもよい。
【0108】
<第5実施形態>
上記、図7に示す第4実施形態では、上向きの矢印状突起を取り囲む反転作業部において、第1の空間41と第2の空間42は、上下方向に並んでいたが、本発明の毛球部組織単離台の矢印状突起を含む反転作業台において、第1の空間と第2の空間は、水平方向において横並びであってもよい。
【0109】
本実施形態では、反転作業部における、第1の空間は、反転後の鞘カップDSCが収容される空間である。一方、第2の空間は、反転前の毛球部HBがセットされ、さらに、反転後の毛乳頭DPが残される空間である。
【0110】
本実施形態では、第1の空間と第2の空間は水平方向であって長手方向に隣接している。当接部は毛乳頭の端を毛球部毛根鞘細胞の外側から接触する当接突起である。そして、第1の空間は、当接突起の周囲に設けられた側壁と当接突起の間で形成される空間であり、
第2の空間は、当接突起の先端よりも先端側の空間である。
【0111】
本実施形態では、毛乳頭が毛球部毛根鞘細胞の外側から当接突起と先端側から接触した状態で、毛髪から切断された鞘カップの切断面が外力によって押圧されることで、鞘カップを側壁に沿って反転させ、毛乳頭を先端側へ露出させる。
【0112】
なお、本構成の場合は、水平方向に空間が並んでいるため、利き手に応じて、押しやすい向き、即ち、利き手側が第2の空間側になるように反転台をセットすると作業の効率の点で好ましい。
【0113】
(変形例)
上記第5実施形態において、横向きの矢印状突起を取り囲む反転作業部は、単離台の土台部の上面に対して凹んだ凹部の底部に形成されていてもよい。さらに、1つの単離台に対して、横向きの矢印状突起を取り囲む、第5実施形態の反転作業部が、複数設けられていてもよい。
【0114】
いずれの構成でも、本開示の単離台を使用することで、鞘カップDSCの反転及び切断が簡単になるため、鞘カップDSC単離技術を平易化・標準化することが可能になり、さらに、技術取得の平易化による作業者の増員及び生産規模拡大が見込める。
【0115】
(実験例)
次に、本発明の単離台を用いた実験について説明する。
【0116】
図8は、本発明の単離台を用いた場合と、シャーレとピンセットを用いた従来方法の場合の、鞘カップDSC(毛球部毛根鞘細胞)の反転に要する作業時間を示す表である。
【0117】
この実験では、2名の作業者が、反転作業部上の1個の毛球部と、一般的なシャーレ上の1個の毛球部について、鞘カップの反転を行った時間を計測した。図8は、1個当たりの反転平均作業時間を示す。本実験を行った作業者は二人とも、鞘カップDSC反転作業の熟練者である。本実験では、図5の反転方法によって、鞘カップDSCを反転させた。
【0118】
本実験により、本発明の単離台の反転作業部を用いた場合の方が、一般的なシャーレとピンセットを用いた場合よりも、鞘カップDSCの反転時間が短くなったことがわかる。
【0119】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の実施形態の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0120】
1、3 毛球部組織単離台(単離台)
11、11C 第1の空間(第1の収容空間)
12、12C、12P 第2の空間(第2の収容空間)
13、13D、13B 当接部(当接面、段差面)
14a、14b、14c、14d 第1の側壁
17a、17b、17c、17d 第2の側壁
20 土台部
40 反転作業部
41 第1の空間(第1の収容空間)
42 第2の空間(第2の収容空間)
43 当接端(当接部)
DP 毛乳頭
DSC 毛球部毛根鞘細胞(鞘カップ)
HB 毛球部
CS 切断面
RB 丸底底面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8