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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002547
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】船外機および船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/28 20060101AFI20231228BHJP
   B63H 20/12 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B63H20/28 100
B63H20/12 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101797
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 公隆
(72)【発明者】
【氏名】若水 侑
(57)【要約】      (修正有)
【課題】冷却水流路形成のためのスペースを小さくして、船外機のレイアウト自由度の向上や、船外機の大きさおよび重さの低減を実現する。
【解決手段】船外機100は、エンジン120と、プロペラシャフト111と、プロペラシャフトに取り付けられたプロペラ112と、エンジンの回転をプロペラシャフトに伝達する伝達機構130と、エンジンの少なくとも一部を収容する上部収容体118uと、プロペラシャフトの少なくとも一部を収容する下部収容体118lと、上部収容体に対して下部収容体を転舵軸周りに回転させる転舵機構と、を備え、上部収容体には、上部冷却水流路CCuが形成され,下部収容体には、取水口WIを有する下部冷却水流路CClが形成され、上部冷却水流路と下部冷却水流路とは、転舵機構の舵角に応じて、両者の連通面積が変化するように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船外機であって、
エンジンと、
プロペラシャフトと、
前記プロペラシャフトに取り付けられたプロペラと、
前記エンジンの回転を前記プロペラシャフトに伝達する伝達機構と、
前記エンジンの少なくとも一部を収容する上部収容体と、
前記プロペラシャフトの少なくとも一部を収容する下部収容体と、
前記上部収容体に対して前記下部収容体を転舵軸周りに回転させる転舵機構と、
を備え、
前記上部収容体には、上部冷却水流路が形成されており、
前記下部収容体には、取水口を有する下部冷却水流路が形成されており、
前記上部冷却水流路と前記下部冷却水流路とは、前記転舵機構の舵角に応じて、両者の連通面積が変化するように構成されている、船外機。
【請求項2】
請求項1に記載の船外機であって、
前記上部冷却水流路と前記下部冷却水流路とは、前記舵角が第1の舵角値の場合に前記連通面積が第1の面積値となり、前記舵角が前記第1の舵角値より大きい第2の舵角値の場合に前記連通面積が前記第1の面積値より小さい第2の面積値となるように構成されている、船外機。
【請求項3】
請求項1に記載の船外機であって、
前記上部冷却水流路と前記下部冷却水流路との一方は、第1連通口を有し、
前記上部冷却水流路と前記下部冷却水流路との他方は、前記転舵軸まわりの周方向に沿って配置された複数の第2連通口であって、前記舵角に応じて、前記第1連通口と重なる面積の合計が変化する複数の第2連通口を有する、船外機。
【請求項4】
請求項3に記載の船外機であって、
前記複数の第2連通口は、開口面積が互いに異なる少なくとも2つの前記第2連通口を含む、船外機。
【請求項5】
請求項3に記載の船外機であって、
前記複数の第2連通口は、前記転舵軸まわりの周方向に沿って、不均等に配置されている、船外機。
【請求項6】
請求項3に記載の船外機であって、
前記第1連通口の開口面積は、前記複数の第2連通口の開口面積より大きい、船外機。
【請求項7】
船体と、
前記船体の後部に取り付けられた請求項1に記載の船外機と、
を備える、船舶。
【請求項8】
船外機であって、
エンジンと、
プロペラシャフトと、
前記プロペラシャフトに取り付けられたプロペラと、
前記エンジンの回転を前記プロペラシャフトに伝達する伝達機構と、
前記エンジンの少なくとも一部を収容する上部収容体と、
前記プロペラシャフトの少なくとも一部を収容する下部収容体と、
前記上部収容体に対して前記下部収容体を転舵軸周りに回転させる転舵機構と、
を備え、
前記上部収容体には、上部冷却水流路が形成されており、
前記下部収容体には、取水口を有する下部冷却水流路が形成されており、
前記上部冷却水流路と前記下部冷却水流路とは、前記転舵機構の舵角と前記エンジンの回転数との少なくとも一方に応じて、両者の連通面積が変化するように構成されている、船外機。
【請求項9】
請求項8に記載の船外機であって、
前記上部冷却水流路と前記下部冷却水流路とは、前記舵角が第1の舵角値の場合に前記連通面積が第1の面積値となり、前記舵角が前記第1の舵角値より大きい第2の舵角値の場合に前記連通面積が前記第1の面積値より小さい第2の面積値となるように構成されている、船外機。
【請求項10】
請求項8に記載の船外機であって、
前記上部冷却水流路と前記下部冷却水流路との一方は、第1連通口を有し、
前記上部冷却水流路と前記下部冷却水流路との他方は、前記転舵軸まわりの周方向に沿って配置された複数の第2連通口であって、前記舵角に応じて、前記第1連通口と重なる面積の合計が変化する複数の第2連通口を有する、船外機。
【請求項11】
請求項10に記載の船外機であって、
前記複数の第2連通口は、開口面積が互いに異なる少なくとも2つの前記第2連通口を含む、船外機。
【請求項12】
請求項10に記載の船外機であって、
前記複数の第2連通口は、前記転舵軸まわりの周方向に沿って、不均等に配置されている、船外機。
【請求項13】
請求項10に記載の船外機であって、
前記第1連通口の開口面積は、前記複数の第2連通口の開口面積より大きい、船外機。
【請求項14】
船体と、
前記船体の後部に取り付けられた請求項8に記載の船外機と、
を備える、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、船外機および船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶は、船体と、船体の後部に取り付けられた船外機とを備える。船外機は、船舶を推進させる推力を生み出す装置である。船外機は、エンジンと、プロペラシャフトと、プロペラシャフトに取り付けられたプロペラと、エンジンの回転をプロペラシャフトに伝達する伝達機構と、エンジンの少なくとも一部を収容する上部収容体と、プロペラシャフトの少なくとも一部を収容する下部収容体とを有する。
【0003】
また、船外機は、転舵軸周りに船外機を回転させる転舵機構を有する。転舵機構によってプロペラの向きが変わると、船体の向きを基準としたプロペラが発生する推力の向きが変わり、船舶の進行方向が変化する。一般に、船外機の転舵機構は、上部収容体と下部収容体とを一体として、転舵軸周りに回転させるように構成されている。
【0004】
従来、上部収容体に対して下部収容体を転舵軸周りに回転させる転舵機構を備える船外機の構成(以下、「下部のみ転舵構成」という。)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。下部のみ転舵構成では、転舵の際に、下部収容体のみが回転し、上部収容体は回転しない。そのため、転舵に伴い上部収容体が船舶における他の部分と干渉することがなく、最大舵角を大きく取ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第10800502号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
船外機には、エンジンを冷却する冷却水を流すための冷却水流路が形成されている。より詳細には、上部収容体には、上部冷却水流路が形成されており、下部収容体には、取水口を有する下部冷却水流路が形成されている。取水口からくみ上げられた冷却水は、下部冷却水流路および上部冷却水流路内を流れ、エンジンに供給される。
【0007】
上述した従来の下部のみ転舵構成では、舵角にかかわらず上部冷却水流路と下部冷却水流路との連通面積を一定とするため、転舵軸周りの全周にわたって両者を連通させるための環状の連通流路が設けられている。そのため、船外機において冷却水流路形成のためのスペースが大きくなり、船外機のレイアウト自由度が低下したり、船外機の大きさおよび重さが増加したりするという課題がある。
【0008】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される船外機は、エンジンと、プロペラシャフトと、前記プロペラシャフトに取り付けられたプロペラと、前記エンジンの回転を前記プロペラシャフトに伝達する伝達機構と、前記エンジンの少なくとも一部を収容する上部収容体と、前記プロペラシャフトの少なくとも一部を収容する下部収容体と、前記上部収容体に対して前記下部収容体を転舵軸周りに回転させる転舵機構とを備える。前記上部収容体には、上部冷却水流路が形成されている。前記下部収容体には、取水口を有する下部冷却水流路が形成されている。前記上部冷却水流路と前記下部冷却水流路とは、前記転舵機構の舵角に応じて、両者の連通面積が変化するように構成されている。
【0011】
本船外機では、エンジンを収容する上部収容体に対してプロペラシャフトを収容する下部収容体が回転(転舵)する構成であるため、上部収容体および下部収容体が一体となって船体に対して回転する構成と比較して、最大舵角を大きく取ることができる。また、本船外機では、上部冷却水流路と下部冷却水流路との連通面積が舵角に応じて変化するように構成されているため、上部冷却水流路と下部冷却水流路との一方に環状の連通流路を設けることによって舵角によらず両者の連通面積を一定とする構成と比較して、冷却水流路形成のためのスペースを小さくすることができ、船外機のレイアウト自由度の向上や、船外機の大きさおよび重さの低減を実現することができる。
【0012】
(2)本明細書に開示される他の船外機は、エンジンと、プロペラシャフトと、前記プロペラシャフトに取り付けられたプロペラと、前記エンジンの回転を前記プロペラシャフトに伝達する伝達機構と、前記エンジンの少なくとも一部を収容する上部収容体と、前記プロペラシャフトの少なくとも一部を収容する下部収容体と、前記上部収容体に対して前記下部収容体を転舵軸周りに回転させる転舵機構とを備える。前記上部収容体には、上部冷却水流路が形成されている。前記下部収容体には、取水口を有する下部冷却水流路が形成されている。前記上部冷却水流路と前記下部冷却水流路とは、前記転舵機構の舵角と前記エンジンの回転数との少なくとも一方に応じて、両者の連通面積が変化するように構成されている。
【0013】
本船外機では、エンジンを収容する上部収容体に対してプロペラシャフトを収容する下部収容体が回転(転舵)する構成であるため、上部収容体および下部収容体が一体となって船体に対して回転する構成と比較して、最大舵角を大きく取ることができる。また、本船外機では、上部冷却水流路と下部冷却水流路との連通面積が舵角とエンジンの回転数との少なくとも一方に応じて変化するように構成されているため、上部冷却水流路と下部冷却水流路との一方に環状の連通流路を設けることによって舵角やエンジンの回転数によらず両者の連通面積を一定とする構成と比較して、冷却水流路形成のためのスペースを小さくすることができ、船外機のレイアウト自由度の向上や、船外機の大きさおよび重さの低減を実現することができる。
【0014】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、船外機、船外機と船体とを備える船舶等の形態で実現することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本明細書に開示される船外機によれば、冷却水流路形成のためのスペースを小さくすることができ、船外機のレイアウト自由度の向上や、船外機の大きさおよび重さの低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態の船舶10の構成を概略的に示す斜視図
図2】船外機100の構成を概略的に示す側面図
図3】転舵機構170による転舵の様子を模式的に示す説明図
図4】船外機上部ユニットUUと船外機下部ユニットLUとの境界付近の構成を示す説明図
図5】船外機上部ユニットUUと船外機下部ユニットLUとの境界付近の構成を示す説明図
図6】船外機上部ユニットUUと船外機下部ユニットLUとの境界付近の構成を示す説明図
図7】船外機上部ユニットUUと船外機下部ユニットLUとの境界付近の構成を示す説明図
図8】舵角θ1に応じた下部排気連通孔184と上部排気連通孔194との位置関係を示す説明図
図9】舵角θ1に応じた下部排気連通孔184と上部排気連通孔194との位置関係を示す説明図
図10】本実施形態の船外機100におけるエンジン120の回転数および舵角θ1に応じた排気態様を示す説明図
図11】舵角θ1に応じた下部冷却水連通孔186と上部冷却水連通孔196との位置関係を示す説明図
図12】舵角θ1に応じた下部冷却水連通孔186と上部冷却水連通孔196との位置関係を示す説明図
図13】本実施形態の船外機100における舵角θ1に応じた冷却水流路連通面積Scを示す説明図
図14】変形例における舵角θ1に応じた下部冷却水連通孔186と上部冷却水連通孔196との位置関係を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.実施形態:
(船舶10の構成)
図1は、本実施形態の船舶10の構成を概略的に示す斜視図である。図1および後述する他の図面には、船舶10の位置を基準とした各方向を表す矢印を示している。より具体的には、各図には、前方(FRONT)、後方(REAR)、左方(LEFT)、右方(RIGHT)、上方(UPPER)および下方(LOWER)のそれぞれを表す矢印を示している。前後方向、左右方向および上下方向(鉛直方向)は、それぞれ互いに直交する方向である。
【0018】
船舶10は、船体200と、船外機100とを備える。
【0019】
(船体200の構成)
船体200は、船舶10において乗員が搭乗する部分である。船体200は、居住空間204を有する船体本体部202と、居住空間204に設置された操縦席240と、操縦席240付近に設置された操縦装置250とを有する。操縦装置250は、操船のための装置であり、例えば、ステアリングホイール252と、シフト・スロットルレバー254と、ジョイスティック255と、モニタ256と、入力装置258とを有する。また、船体200は、居住空間204の後端を区画する仕切壁220と、船体200の後端に位置するトランサム210とを有する。前後方向において、トランサム210と仕切壁220との間には空間206が存在している。
【0020】
(船外機100の構成)
図2は、船外機100の構成を概略的に示す側面図である。以下では、特に断りがない限り、基準姿勢の船外機100について説明する。基準姿勢は、後述するクランク軸124の回転軸線Acが上下方向に延伸し、かつ、プロペラシャフト111の回転軸線Apが前後方向に延伸する姿勢である。前後方向、左右方向および上下方向のそれぞれは、基準姿勢の船外機100に基づいて定められる。
【0021】
船外機100は、船舶10を推進させる推力を発生する装置である。船外機100は、船体200の後部のトランサム210に取り付けられている。船外機100は、船外機本体110と、懸架装置150と、転舵機構170とを有する。
【0022】
(船外機本体110の構成)
船外機本体110は、エンジン120と、プロペラシャフト111と、プロペラ112と、伝達機構130と、カウル114と、ケーシング116とを有する。
【0023】
カウル114は、船外機本体110の上部に配置された収容体である。カウル114は、カウル114の下部を構成する下部カウル114bと、カウル114の上部を構成する上部カウル114aとを有する。上部カウル114aは、下部カウル114bに対して、取り外し可能に取り付けられている。
【0024】
ケーシング116は、カウル114の下方に位置し、船外機本体110の下部に配置された収容体である。ケーシング116は、ケーシング116の下部を構成する下部ケーシング116bと、ケーシング116の上部を構成する上部ケーシング116aとを有する。
【0025】
以下の説明では、カウル114および上部ケーシング116aを、合わせて「上部収容体118u」ともいい、下部ケーシング116bを「下部収容体118l」ともいう。また、船外機本体110のうち、上部収容体118uと上部収容体118uに収容または一体化された各部品とを、合わせて「船外機上部ユニットUU」ともいい、船外機本体110のうち、下部収容体118lと下部収容体118lに収容または一体化された各部品とを、合わせて「船外機下部ユニットLU」ともいう。
【0026】
エンジン120は、動力を発生する原動機である。エンジン120は、例えば内燃機関により構成されている。エンジン120は、船外機本体110における比較的上方の位置に配置されており、エンジン120の少なくとも一部は、カウル114内に収容されている。エンジン120は、図示しないピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク軸124を有する。クランク軸124は、その回転軸線Acが上下方向に延伸する姿勢で配置されている。
【0027】
プロペラシャフト111は、棒状の部材である。プロペラシャフト111は、船外機本体110における比較的下方の位置に、前後方向に延伸する姿勢で配置されている。プロペラシャフト111の少なくとも一部は、下部ケーシング116b内に収容されている。より詳細には、プロペラシャフト111の前端部は、下部ケーシング116b内に収容されており、プロペラシャフト111の後端部は、下部ケーシング116bから後方に突出している。
【0028】
プロペラ112は、複数枚の羽を有する回転体である。プロペラ112は、プロペラシャフト111の後端部に取り付けられている。回転軸線Apまわりのプロペラシャフト111の回転に伴い、プロペラ112も回転する。プロペラ112は、回転することによって推力を発生する。
【0029】
伝達機構130は、エンジン120の回転をプロペラシャフト111に伝達する機構である。伝達機構130の少なくとも一部は、ケーシング116内に収容されている。伝達機構130は、ドライブ軸132と、シフト機構134とを有する。
【0030】
ドライブ軸132は、棒状の部材である。ドライブ軸132は、エンジン120のクランク軸124の下方に、上下方向に延伸する姿勢で配置されている。ドライブ軸132の上端部は、クランク軸124に連結されている。ドライブ軸132は、エンジン120の回転(クランク軸124の回転)に伴い回転する。
【0031】
シフト機構134は、ドライブ軸132の下端部に連結されると共に、プロペラシャフト111の前端部に連結されている。シフト機構134は、例えば、複数のギヤと、ギヤの噛み合いを切り換えるクラッチとを含み、エンジン120の回転に伴うドライブ軸132の回転を、回転方向を切り替え可能にプロペラシャフト111に伝達する。シフト機構134がドライブ軸132の回転を正転方向の回転としてプロペラシャフト111に伝達すると、プロペラシャフト111と共に正転方向に回転するプロペラ112が前進方向の推力を発生する。反対に、シフト機構134がドライブ軸132の回転を逆転方向の回転としてプロペラシャフト111に伝達すると、プロペラシャフト111と共に逆転方向に回転するプロペラ112が後進方向の推力を発生する。
【0032】
(懸架装置150の構成)
懸架装置150は、船外機本体110を船体200に懸架する装置である。懸架装置150は、左右一対のクランプブラケット152と、チルト軸160と、接続ブラケット156とを含む。
【0033】
左右一対のクランプブラケット152は、船体200の後方に、互いに左右方向に離隔した状態で配置されており、例えばボルトによって船体200のトランサム210に固定されている。各クランプブラケット152は、左右方向に延伸する貫通孔が形成された筒状の支持部152aを有する。
【0034】
チルト軸160は、棒状の部材である。チルト軸160は、クランプブラケット152の支持部152aの貫通孔内に回転可能に支持されている。チルト軸160の中心線であるチルト軸線Atは、船外機100のチルト動作における水平方向(左右方向)の軸線を構成する。
【0035】
接続ブラケット156は、一対のクランプブラケット152に挟まれるように配置されており、チルト軸線Atまわりに回転可能に、チルト軸160を介してクランプブラケット152の支持部152aに支持されている。接続ブラケット156は、船外機本体110に固定されている。接続ブラケット156は、例えば油圧シリンダ等のアクチュエータを含むチルト装置(不図示)により、クランプブラケット152に対してチルト軸線Atまわりに回転駆動される。
【0036】
接続ブラケット156がクランプブラケット152に対してチルト軸線Atまわりに回転すると、接続ブラケット156に固定された船外機本体110もチルト軸線Atまわりに回転する。これにより、船体200に対して船外機本体110を上下方向に回転させるチルト動作が実現される。船外機100のチルト動作により、プロペラ112が水中に位置するチルトダウン状態(船外機100が基準姿勢にある状態)からプロペラ112が水面より上側に位置するチルトアップ状態までの範囲で、船外機本体110のチルト軸線Atまわりの角度を変更することができる。なお、船外機本体110のチルト軸線Atまわりの角度を調整して船舶10の走行時の姿勢を調整するトリム動作も実行することができる。
【0037】
(転舵機構170の構成)
転舵機構170は、船外機100において転舵を実現するための機構である。図3は、転舵機構170による転舵の様子を模式的に示す説明図である。図3に示すように、転舵機構170は、船外機本体110のうち、船外機下部ユニットLUを転舵軸線As周りに回転させることによって転舵を実現するように構成されている。換言すれば、転舵機構170は、図2に示す上部収容体118u(カウル114および上部ケーシング116a)に対して、下部収容体118l(下部ケーシング116b)を転舵軸線As周りに回転させる機構である。本実施形態では、転舵軸線Asは、ドライブ軸132の中心軸である。
【0038】
図3のA欄には、船外機上部ユニットUUに対して船外機下部ユニットLUが転舵軸線As周りに回転されていない(すなわち、舵角θ1が0°である)状態を示している。この状態では、船外機下部ユニットLUに設けられたプロペラ112が発生する推力の向きが前向きとなるため、船首は前方に進む。
【0039】
図3のB欄には、船外機上部ユニットUUに対して船外機下部ユニットLUが転舵軸線As周りに反時計回りに舵角θ1だけ回転した右転舵の状態を示している。この状態では、プロペラ112が発生する推力の向きが左斜め前向きとなるため、船尾が左に押し出され、船首が右に曲がるように進む。
【0040】
図3のC欄には、船外機上部ユニットUUに対して船外機下部ユニットLUが転舵軸線As周りに時計回りに舵角θ1だけ回転した左転舵の状態を示している。この状態では、プロペラ112が発生する推力の向きが右斜め前向きとなるため、船尾が右に押し出され、船首が左に曲がるように進む。
【0041】
このように、転舵機構170によって船外機下部ユニットLUを転舵軸線As周りに回転させることにより、船体200の向きを基準としたプロペラ112が発生する推力の向きが変更され、船舶10の操舵が実現される。本実施形態では、転舵機構170による転舵の際に、船外機下部ユニットLUのみが転舵軸線As周りに回転し、船外機上部ユニットUUは回転しない。そのため、転舵に伴い船外機上部ユニットUUが船舶10における他の部分と干渉することがなく、最大舵角を大きく取ることができる。
【0042】
図4から図7は、船外機上部ユニットUUと船外機下部ユニットLUとの境界付近の構成を示す説明図である。図4には、該境界付近の断面構成を示しており、図5には、船外機下部ユニットLUを構成する下部収容体118lの一部である下部構成部材180の外観構成を示しており、図6には、船外機上部ユニットUUを構成する上部収容体118uの一部である上部構成部材190の外観構成を示しており、図7には、下部構成部材180と上部構成部材190との接続関係を示している。
【0043】
図4,5,7に示すように、下部構成部材180は、船外機下部ユニットLUの下部収容体118lの最上部を構成する部材である。下部構成部材180は、平板部181と、平板部181から上方に突出した略円筒状の筒状部182とを有する。筒状部182の上面は覆われており、該上面には、貫通孔183が形成されている。貫通孔183には、ドライブ軸132が挿通されている。下部構成部材180は、ドライブ軸132に対して、転舵軸線As周りに回転可能とされている。
【0044】
図4,6,7に示すように、上部構成部材190は、船外機上部ユニットUUの上部収容体118uの最下部を構成する部材である。上部構成部材190は、平板部191と、平板部191から上方に突出した略円筒状の筒状部192と、筒状部192に対して平板部191とは反対側(前方)に位置する箱状部193とを有する。
【0045】
上部構成部材190の筒状部192の中空部には、上下方向に延伸する貫通孔109が形成された略円筒状の回転部材108が収容されている。回転部材108の貫通孔109には、ドライブ軸132が挿通されている。回転部材108は、上部構成部材190およびドライブ軸132に対して、転舵軸線As周りに回転可能とされている。また、筒状部192の中空部における回転部材108の下方には、下部構成部材180の筒状部182の先端部が挿入されており、筒状部182は複数のボルトによって回転部材108に接合されている。そのため、下部構成部材180は、回転部材108と一体となって、上部構成部材190およびドライブ軸132に対して、転舵軸線As周りに回転可能となっている。また、転舵機構170は、例えば油圧シリンダ等のアクチュエータを有し、下部構成部材180を含む船外機下部ユニットLUを、上部構成部材190を含む船外機上部ユニットUUに対して回転駆動する。このような構成により、船外機下部ユニットLUを転舵軸線As周りに回転させる転舵機構170の機能が実現されている。
【0046】
(排気流路ECの構成)
図2および図4に示すように、船外機本体110には、エンジン120からの排気を排出するための排気流路ECが形成されている。より詳細には、船外機上部ユニットUUを構成する上部収容体118uには、エンジン120に連通した上部排気流路ECuが形成されている。上部排気流路ECuは、上部排気口EPuを有している。上部排気口EPuは、船舶10が水上にあるときに喫水線より上方となる位置に形成されている。また、船外機下部ユニットLUを構成する下部収容体118lには、下部排気流路EClが形成されている。下部排気流路EClは、下部排気口EPlを有している。下部排気口EPlは、船舶10が水上にあるときに喫水線より下方となる位置に形成されており、本実施形態では、プロペラ112の中心付近に設けられている。後述するように、上部排気流路ECuと下部排気流路EClとは、ある条件下において互いに連通する。
【0047】
エンジン120の回転数が比較的低い状態では、エンジン120からの排気の圧力が比較的低いため、排気は上部排気流路ECuを通って上部排気口EPuから空中に排出される。一方、エンジン120の回転数が比較的高い状態では、エンジン120からの排気の圧力が比較的高いため、排気は、上部排気流路ECuを通って上部排気口EPuから空中に排出されると共に、上部排気流路ECuと下部排気流路EClとが互いに連通している場合には、上部排気流路ECuから下部排気流路EClへと流れ、下部排気口EPlから水中に排出される。本明細書では、上部排気口EPuをアイドル排気口ともいい、上部排気口EPuから排気することをアイドル排気ともいい、下部排気口EPlをボス排気口ともいい、下部排気口EPlから排気することをボス排気ともいう。
【0048】
上部排気流路ECu上には、流路を開閉する切替弁102が設けられている。切替弁102が開状態のときには、エンジン120からの排気は、上部排気流路ECuにおける切替弁102の位置を通過して、下部排気流路ECl側にも進行可能となる。一方、切替弁102が閉状態のときには、エンジン120からの排気は、上部排気流路ECuにおける切替弁102の位置で止められ、下部排気流路ECl側への排気の流れが制限される。
【0049】
次に、図4から図7を参照して、排気流路ECにおける上部排気流路ECuと下部排気流路EClとの連通部の構成について説明する。
【0050】
図4,5,7に示すように、下部収容体118lの最上部を構成する下部構成部材180の平板部181には、上下方向に貫通する下部排気連通孔184が形成されている。下部排気連通孔184は、下部収容体118lに形成された下部排気流路EClにおける上端側の開口である。本実施形態では、上下方向視での下部排気連通孔184の概略形状は、転舵軸線Asまわりの周方向の一部に沿って所定の幅だけ延伸する略矩形である。
【0051】
図4,6,7に示すように、上部収容体118uの最下部を構成する上部構成部材190の平板部191には、上下方向に貫通する上部排気連通孔194が形成されている。上部排気連通孔194は、上部収容体118uに形成された上部排気流路ECuにおける下端側の開口である。本実施形態では、上下方向視での上部排気連通孔194の概略形状は、上記周方向に沿った幅が下部排気連通孔184よりも狭い略矩形である。下部排気連通孔184の面積は、上部排気連通孔194の面積より大きい。
【0052】
図8および図9は、舵角θ1に応じた下部排気連通孔184と上部排気連通孔194との位置関係を示す説明図である。図8のA欄には、舵角θ1が0°のときの下部排気連通孔184と上部排気連通孔194との位置関係(以下、単に「位置関係」という。)を示しており、図8のB欄には、舵角θ1が20°のときの位置関係を示しており、図9のC欄には、舵角θ1が30°のときの位置関係を示しており、図9のD欄には、舵角θ1が120°のときの位置関係を示している。なお、ここで言う舵角θ1は、右転舵における舵角を意味する。ただし、以下に説明する排気態様は、左転舵の際にも同様である。
【0053】
図8および図9に示すように、転舵により下部構成部材180が上部構成部材190に対して転舵軸線As周りに回転すると、下部排気連通孔184と上部排気連通孔194との位置関係が変化する。より詳細には、下部排気連通孔184が、転舵軸線As周りに相対回転する。これにより、下部排気連通孔184と上部排気連通孔194との連通面積、すなわち、下部排気流路EClと上部排気流路ECuとの連通面積(以下、「排気流路連通面積Se」という。)が変化する。
【0054】
図10は、本実施形態の船外機100におけるエンジン120の回転数および舵角θ1に応じた排気態様を示す説明図である。図10に示すように、舵角θ1が0°以上、20°以下の状態(図8のA,B欄参照)では、上下方向視で、上部構成部材190に形成された上部排気連通孔194の全体が、下部構成部材180に形成された下部排気連通孔184に重なる(包含される)。この状態では、上部収容体118uに形成された上部排気流路ECuと、下部収容体118lに形成された下部排気流路EClとが、互いに連通する連通状態となり、下部排気流路EClおよび下部排気口EPlを介した水中への排気(ボス排気)が可能となる。また、排気流路連通面積Seは最大値E0となる。
【0055】
舵角θ1が20°より大きく、かつ、57°程度以下の状態(図9のC欄参照)では、上下方向視で、上部構成部材190に形成された上部排気連通孔194の一部が、下部構成部材180に形成された下部排気連通孔184に重なり、上部排気連通孔194の残りの一部が、下部排気連通孔184に重ならない。また、舵角θ1が57°程度より大きい状態(図9のD欄参照)では、上下方向視で、上部構成部材190に形成された上部排気連通孔194の全体が、下部構成部材180に形成された下部排気連通孔184に重ならない。この状態では、上部収容体118uに形成された上部排気流路ECuの上部排気連通孔194少なくとも一部と、下部収容体118lに形成された下部排気流路EClの下部排気連通孔184の少なくとも一部とが、互いに連通しない非連通状態となり、下部排気流路EClおよび下部排気口EPlを介した水中への排気(ボス排気)が不可能となる。このとき、上部排気流路ECuから下部排気流路ECl側への排気の流れを制限するため、切替弁102が閉状態とされる。
【0056】
図10に示すように、本実施形態の船舶10では、エンジン120の回転数R1の最大値は、例えば6000rpmである。しかしながら、実際の操船の際には、舵角θ1が大きくなるほど、航行速度は低くなる傾向にあり、それに伴いエンジン120の回転数R1も低くなる傾向にある。そのため、実際の操船では、図10においてハッチングを付した領域(第1領域A1および第2領域A2)が使用される。
【0057】
本実施形態では、エンジン120の回転数R1が所定の値(例えば2000rpm)以下、または、舵角θ1が所定の値(例えば25°)以上である場合に(すなわち、回転数R1および舵角θ1が図10の第1領域A1内に位置する場合に)、エンジン120からの排気を上部排気口EPuから空中に排出するアイドル排気が行われる。このとき、上部排気流路ECuから下部排気流路ECl側への排気の流れを制限するため、切替弁102が閉状態とされる。
【0058】
一方、エンジン120の回転数R1が所定の値(例えば2000rpm)より大きく、かつ、舵角θ1が所定の値(例えば25°)より小さい場合に(すなわち、回転数R1および舵角θ1が図10の第2領域A2内に位置する場合に)、エンジン120からの排気を上部排気口EPuから空中に排出するアイドル排気と共に、エンジン120からの排気を下部排気口EPlから水中に排出するボス排気が行われる。このとき、上部排気流路ECuから下部排気流路ECl側へ排気を流すため、切替弁102が開状態とされる。
【0059】
なお、舵角θ1に応じて(すなわち、エンジン120の回転数R1に応じて)、必要とされる排気面積は変化する。そのため、舵角θ1およびエンジン120の回転数R1がいずれの値であっても、その状態において必要とされる排気面積が確保されるように、排気流路ECの各部の面積が設定されている。例えば、排気流路連通面積Seの最大値E0は、最高回転数(例えば6000rpm)で駆動されるエンジン120からの排気を排出するのに十分な値に設定されている。
【0060】
(冷却水流路CCの構成)
図2および図4に示すように、船外機本体110には、エンジン120を冷却する冷却水を流すための冷却水流路CCが形成されている。より詳細には、船外機上部ユニットUUを構成する上部収容体118uには、エンジン120に連通した上部冷却水流路CCuが形成されている。また、船外機下部ユニットLUを構成する下部収容体118lには、下部冷却水流路CClが形成されている。下部冷却水流路CClは、取水口WIを有している。取水口WIは、船舶10が水上にあるときに喫水線より下方となる位置に形成されており、本実施形態では、下部ケーシング116bに形成されている。上部冷却水流路CCuと下部冷却水流路CClとは、互いに連通している。
【0061】
エンジン120を冷却するための冷却水は、ドライブ軸132の回転に伴い駆動される冷却水ポンプ(不図示)によって、取水口WIからくみ上げられる。くみ上げられた冷却水は、下部冷却水流路CClおよび上部冷却水流路CCu内を上方に向かって流れ、エンジン120に供給される。エンジン120の冷却に利用された後の冷却水は、図示しない排出用の冷却水流路を介して外部に排出される。なお、エンジン120の冷却に利用された後の冷却水が、エンジン120からの排気に混合されて外部に排出されてもよい。
【0062】
次に、図4から図7を参照して、冷却水流路CCにおける上部冷却水流路CCuと下部冷却水流路CClとの連通部の構成について説明する。
【0063】
図4,5,7に示すように、下部収容体118lの最上部を構成する下部構成部材180の筒状部182には、筒状部182の径方向に延伸する複数の下部冷却水連通孔186が形成されている。各下部冷却水連通孔186は、下部収容体118lに形成された下部冷却水流路CClにおける上端側の開口である。下部冷却水連通孔186は、特許請求の範囲における第2連通口の一例である。
【0064】
図4,6,7に示すように、上部収容体118uの最下部を構成する上部構成部材190の箱状部193には、水平方向に延伸する上部冷却水連通孔196が形成されている。上部冷却水連通孔196は、上部収容体118uに形成された上部冷却水流路CCuにおける下端側の開口である。上部冷却水連通孔196は、特許請求の範囲における第1連通口の一例である。
【0065】
下部冷却水流路CClと上部冷却水流路CCuとは、下部冷却水連通孔186および上部冷却水連通孔196を介して互いに連通している。転舵により下部構成部材180が上部構成部材190に対して転舵軸線As周りに回転すると、下部冷却水連通孔186と上部冷却水連通孔196との位置関係が変化する。これにより、下部冷却水連通孔186と上部冷却水連通孔196との連通面積、すなわち、下部冷却水流路CClと上部冷却水流路CCuとの連通面積(以下、「冷却水流路連通面積Sc」という。)が変化し、その結果、冷却水流路CCを介してエンジン120に供給される冷却水の量が変化する。
【0066】
図11および図12は、舵角θ1に応じた下部冷却水連通孔186と上部冷却水連通孔196との位置関係を示す説明図である。図11のA欄には、舵角θ1が0°のときの下部冷却水連通孔186と上部冷却水連通孔196との位置関係(以下、単に「位置関係」という。)を示しており、図11のB欄には、舵角θ1が15°のときの位置関係を示しており、図11のC欄には、舵角θ1が30°のときの位置関係を示しており、図11のD欄には、舵角θ1が45°のときの位置関係を示しており、図12のE欄には、舵角θ1が90°のときの位置関係を示しており、図12のF欄には、舵角θ1が120°のときの位置関係を示しており、図12のG欄には、舵角θ1が180°のときの位置関係を示しており、図12のH欄には、舵角θ1が210.5°のときの位置関係を示している。なお、ここで言う舵角θ1は、右転舵における舵角を意味する。また、図11および図12に示すように、本実施形態では、下部構成部材180に形成された複数の下部冷却水連通孔186は、開口面積が互いに異なる少なくとも2つの下部冷却水連通孔186を含む。また、複数の下部冷却水連通孔186は、転舵軸線Asまわりの周方向に沿って、不均等に配置されている。また、上部構成部材190に形成された上部冷却水連通孔196の開口面積は、下部冷却水連通孔186の開口面積より大きい。
【0067】
図11および図12に示すように、下部構成部材180には4つの下部冷却水連通孔186が形成されている。4つの下部冷却水連通孔186は、転舵軸線Asまわりの周方向に沿って配置されている。舵角θ1が0°の状態(図11のA欄参照)において、4つの下部冷却水連通孔186の内の1つ(以下、「第1下部冷却水連通孔186a」という。)は前方に開口し、他の1つ(以下、「第2下部冷却水連通孔186b」という。)は右方向に開口し、他の1つ(以下、「第3下部冷却水連通孔186c」という。)は後方に開口し、他の1つ(以下、「第4下部冷却水連通孔186d」という。)は左斜め後方に開口している。このように、本実施形態では、第1下部冷却水連通孔186aの位置を基準として、第2下部冷却水連通孔186bと第4下部冷却水連通孔186dとが、周方向に非対称に配置されている。また、第1下部冷却水連通孔186aの流路面積(延伸方向に直交する断面の面積)は、残りの3つの下部冷却水連通孔186の流路面積より大きい。
【0068】
また、本実施形態では、下部構成部材180の筒状部182の外周面に、4つの下部冷却水連通孔186を互いに連通するような溝状流路187が形成されている。ただし、溝状流路187は、第3下部冷却水連通孔186cと第4下部冷却水連通孔186dとの間には設けられていない。下部冷却水流路CClは、下部冷却水連通孔186を介して上部冷却水流路CCuに連通すると共に、溝状流路187を介しても上部冷却水流路CCuに連通する。
【0069】
図13は、本実施形態の船外機100における舵角θ1に応じた冷却水流路連通面積Scを示す説明図である。図13に示すように、舵角θ1が0°の状態(図11のA欄参照)では、第1下部冷却水連通孔186aの全体が上部冷却水連通孔196と連通し、冷却水流路連通面積Scは最大値C0となる。なお、冷却水流路連通面積Scの最大値C0は、最高回転数(例えば6000rpm)で駆動されるエンジン120を冷却するのに十分な量の冷却水を供給するために必要な冷却水流路連通面積Scである第1値C1より大きな値に設定されている。
【0070】
右転舵において舵角θ1が0°より大きく、かつ、42°程度以下の状態(図11のB,C欄参照)では、第1下部冷却水連通孔186aが上部冷却水連通孔196と連通するものの、その連通面積は舵角θ1の増加に伴い漸減する。本実施形態では、舵角θ1が15°程度より大きくなると、冷却水流路連通面積Scが上述した第1値C1を下回る。また、舵角θ1が42°程度になると、冷却水流路連通面積Scが、中程度の回転数(例えば3000rpm)で駆動されるエンジン120を冷却するのに十分な量の冷却水を供給するために必要な冷却水流路連通面積Scである第2値C2と等しくなる。
【0071】
右転舵において舵角θ1が42°程度より大きく、かつ、55°程度以下の状態(図11のD欄参照)では、いずれの下部冷却水連通孔186も上部冷却水連通孔196と連通しない。そのため、この状態では、下部冷却水流路CClは溝状流路187のみを介して上部冷却水流路CCuに連通し、冷却水流路連通面積Scは溝状流路187を介した連通面積に等しくなる。
【0072】
右転舵において舵角θ1が55°程度より大きく、かつ、110°程度以下の状態(図12のE欄参照)では、第2下部冷却水連通孔186bが上部冷却水連通孔196と連通する。より詳細には、第2下部冷却水連通孔186bと上部冷却水連通孔196との連通面積は、舵角θ1が55°程度より大きく、かつ、72°程度以下の範囲では舵角θ1の増加に伴い漸増し、舵角θ1が72°程度より大きく、かつ、107°程度以下の範囲では舵角θ1に関わらず一定であり、舵角θ1が107°程度より大きく、かつ、110°程度以下の範囲では舵角θ1の増加に伴い漸減する。
【0073】
右転舵において舵角θ1が110°程度より大きく、かつ、160°程度以下の状態(図12のF欄参照)では、いずれの下部冷却水連通孔186も上部冷却水連通孔196と連通しない。そのため、この状態では、下部冷却水流路CClは溝状流路187のみを介して上部冷却水流路CCuに連通し、冷却水流路連通面積Scは溝状流路187を介した連通面積に等しくなる。
【0074】
右転舵において舵角θ1が160°程度より大きく、かつ、210.5°未満の状態(図12のG欄参照)では、第3下部冷却水連通孔186cが上部冷却水連通孔196と連通する。より詳細には、第3下部冷却水連通孔186cと上部冷却水連通孔196との連通面積は、舵角θ1が160°程度より大きく、かつ、163°程度以下の範囲では舵角θ1の増加に伴い漸増する。そのため、この舵角範囲では、舵角θ1の増加に伴い、冷却水流路連通面積Scが漸増する。また、舵角θ1が163°程度より大きく、かつ、197°程度以下の範囲では、第3下部冷却水連通孔186cと上部冷却水連通孔196との連通面積は、舵角θ1に関わらず一定である。ただし、右転舵において舵角θ1が163°程度を超えると、下部構成部材180における溝状流路187が形成されていない部分(第3下部冷却水連通孔186cと第4下部冷却水連通孔186dの間の部分)が上部冷却水連通孔196に対向するようになる。そのため、舵角θ1が163°程度より大きく、かつ、197°程度以下の範囲では、舵角θ1の増加に伴い、冷却水流路連通面積Scが漸減する。また、舵角θ1が197°程度より大きく、かつ、210.5°未満の範囲では、第3下部冷却水連通孔186cと上部冷却水連通孔196との連通面積は、舵角θ1の増加に伴い漸減する。そのため、この舵角範囲では、舵角θ1の増加に伴い、冷却水流路連通面積Scが急勾配で(舵角θ1が163°程度より大きく、かつ、197°程度以下の場合より大きな勾配で)漸減する。本実施形態では、舵角θ1が177°程度より大きくなると、冷却水流路連通面積Scが上述した第2値C2を下回る。
【0075】
右転舵において舵角θ1が210.5°となると(図12のH欄参照)、いずれの下部冷却水連通孔186も上部冷却水連通孔196と連通しない。さらに、溝状流路187も上部冷却水連通孔196と連通しない。そのため、この状態では、冷却水流路連通面積Scはゼロとなる。
【0076】
このように、本実施形態の船外機100の冷却水流路CCは、概ね、舵角θ1が大きいほど冷却水流路連通面積Scが小さくなるように構成されている。換言すれば、上部冷却水流路CCuと下部冷却水流路CClとは、舵角θ1が第1の舵角値の場合に冷却水流路連通面積Scが第1の面積値となり、舵角θ1が上記第1の舵角値より大きい第2の舵角値の場合に冷却水流路連通面積Scが上記第1の面積値より小さい第2の面積値となるように構成されている。
【0077】
なお、図13に示すように、左転舵の場合にも、右転舵の場合と同様に、舵角θ1の変化に応じて冷却水流路連通面積Scが変化する。ただし、上述したように、第1下部冷却水連通孔186aの位置を基準として、第2下部冷却水連通孔186bと第4下部冷却水連通孔186dとが、周方向に非対称に配置されているため、左転舵における舵角θ1の変化に応じた冷却水流路連通面積Scの変化の態様は、右転舵における舵角θ1の変化に応じた冷却水流路連通面積Scの変化の態様と同一ではない。
【0078】
以上説明したように、本実施形態の船外機100では、上部収容体118uに、上部冷却水流路CCuが形成されており、下部収容体118lに、取水口WIを有する下部冷却水流路CClが形成されており、上部冷却水流路CCuと下部冷却水流路CClとは、転舵機構170の舵角θ1に応じて、両者の連通面積が変化するように構成されている。そのため、本実施形態の船外機100によれば、上部冷却水流路CCuと下部冷却水流路CClとの一方に環状の連通流路を設けることによって舵角θ1によらず両者の連通面積を一定とする構成と比較して、冷却水流路CCの形成のためのスペースを小さくすることができ、船外機100のレイアウト自由度の向上や、船外機100の大きさおよび重さの低減を実現することができる。
【0079】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0080】
上記実施形態の船舶10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、下部排気連通孔184を転舵軸線As周りの周方向の一部に沿って延伸する孔(長孔)とすることにより、舵角θ1に応じて下部排気連通孔184と上部排気連通孔194との連通面積、ひいては排気流路連通面積Seが変化する構成としているが、反対に、上部排気連通孔194を長孔とすることにより、舵角θ1に応じて下部排気連通孔184と上部排気連通孔194との連通面積、ひいては排気流路連通面積Seが変化する構成としてもよい。
【0081】
上記実施形態におけるエンジン120の回転数および舵角θ1に応じた排気態様(図10)は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、エンジン120の回転数R1が所定の値(例えば2000rpm)以下、または、舵角θ1が所定の値(例えば25°)以上である場合にアイドル排気が行われ、エンジン120の回転数R1が上記所定の値より大きく、かつ、舵角θ1が上記所定の値より小さい場合に、アイドル排気およびボス排気が行われる。これに対し、エンジン120の回転数R1により切り分け、エンジン120の回転数R1が所定の値以下である場合にアイドル排気が行われ、エンジン120の回転数R1が上記所定の値より大きい場合に、アイドル排気およびボス排気が行われるとしてもよい。あるいは、舵角θ1により切り分け、舵角θ1が所定の値以上である場合にアイドル排気が行われ、舵角θ1が上記所定の値より小さい場合に、アイドル排気およびボス排気が行われるとしてもよい。
【0082】
上記実施形態では、排気流路ECに切替弁102が設けられているが、切替弁102以外の他の切替機構が設けられていてもよい。また、切替弁102が省略されてもよい。また、上記実施形態では、下部排気口EPlがプロペラ112の中心付近に設けられているが、下部排気口EPlが他の位置(例えば、プロペラ112より上方の位置)に設けられてもよい。また、排気流路ECに、上部排気口EPuおよび下部排気口EPlに加えて、他の排気口(例えば、上下方向に沿って上部排気口EPuと下部排気口EPlとの間に位置する排気口)が設けられてもよい。
【0083】
上記実施形態では、下部構成部材180に形成された4つの下部冷却水連通孔186について、第1下部冷却水連通孔186aを基準として、一部の下部冷却水連通孔186が周方向に非対称に配置されているが、図14に示す変形例のように、第1下部冷却水連通孔186aを基準として、すべての下部冷却水連通孔186が周方向に対称に配置されていてもよい。なお、図14のA欄には、変形例において、舵角θ1が0°のときの下部冷却水連通孔186と上部冷却水連通孔196との位置関係(以下、単に「位置関係」という。)を示しており、図14のB欄には、右転舵の際の舵角θ1が90°のときの位置関係を示しており、図14のC欄には、舵角θ1が180°のときの位置関係を示している。
【0084】
上記実施形態では、下部収容体118lを構成する下部構成部材180に複数の下部冷却水連通孔186を設けることにより、舵角θ1に応じて冷却水流路連通面積Scが変化する構成としているが、反対に、上部収容体118uを構成する上部構成部材190に複数の上部冷却水連通孔196を設けることにより、舵角θ1に応じて冷却水流路連通面積Scが変化する構成としてもよい。
【0085】
上記実施形態における冷却水流路連通面積Scの態様(図13)は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、舵角θ1に応じて冷却水流路連通面積Scが変化する構成としているが、舵角θ1に代えて、あるいは、舵角θ1と共に、エンジン120の回転数R1に応じて冷却水流路連通面積Scが変化する構成としてもよい。このような構成は、例えば、冷却水ポンプとエンジン120との間に、エンジン120の回転数R1に応じて(例えば、エンジン120の回転数R1に相関する水圧に応じて)開閉する開閉機構(弁等)を設けることにより、実現することができる。
【0086】
上記実施形態では、転舵機構170の転舵軸線Asのドライブ軸132の中心軸であるが、転舵機構170の転舵軸線Asがドライブ軸132の中心軸とは別の軸であってもよい。また、上記実施形態では、船外機100は、船外機下部ユニットLUを転舵軸線As周りに回転させる転舵機構170を備えるが、船外機100が、そのような転舵機構170に加えて、船外機本体110の全体を第2の転舵軸線周りに回転させる第2の転舵機構を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0087】
10:船舶 100:船外機 102:切替弁 108:回転部材 109:貫通孔 110:船外機本体 111:プロペラシャフト 112:プロペラ 114:カウル 114a:上部カウル 114b:下部カウル 116:ケーシング 116a:上部ケーシング 116b:下部ケーシング 118l:下部収容体 118u:上部収容体 120:エンジン 124:クランク軸 130:伝達機構 132:ドライブ軸 134:シフト機構 150:懸架装置 152:クランプブラケット 152a:支持部 156:接続ブラケット 160:チルト軸 170:転舵機構 180:下部構成部材 181:平板部 182:筒状部 183:貫通孔 184:下部排気連通孔 186:下部冷却水連通孔 187:溝状流路 190:上部構成部材 191:平板部 192:筒状部 193:箱状部 194:上部排気連通孔 196:上部冷却水連通孔 200:船体 202:船体本体部 204:居住空間 206:空間 210:トランサム 220:仕切壁 240:操縦席 250:操縦装置 252:ステアリングホイール 254:シフト・スロットルレバー 255:ジョイスティック 256:モニタ 258:入力装置 Ac:回転軸線 Ap:回転軸線 As:転舵軸線 At:チルト軸線 CC:冷却水流路 CCl:下部冷却水流路 CCu:上部冷却水流路 EC:排気流路 ECl:下部排気流路 ECu:上部排気流路 EPl:下部排気口 EPu:上部排気口 LU:船外機下部ユニット UU:船外機上部ユニット WI:取水口
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