(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025534
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】ノイズ対策部材
(51)【国際特許分類】
H01F 17/06 20060101AFI20240216BHJP
H01F 27/02 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
H01F17/06 K
H01F27/02 N
H01F17/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129047
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100149249
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 晃志
(72)【発明者】
【氏名】石原 大資
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB01
5E070BA18
5E070BB01
5E070DA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コアケースに係合するための形状を有さない環状磁性体にも適用できるコアケースを用いたノイズ対策部材を提供する。
【解決手段】非環状に分割された複数の分割片1からなり、分割片1の分割面10同士を当接させて環状をなす環状磁性体と、分割片1を各々保持する複数のコアケース5を備え、ケーブルを挿通させて用いるノイズ対策部材100であって、環状磁性体の内周面11、外周面12及び軸方向の2つの端面13は、それぞれ平坦である。複数のコアケース5は、それぞれインナーケース3及びロック部44を有するアウターケース4を含み、インナーケース3はアウターケース4の内側に保持される。環状磁性体は、インナーケース3の内側に分割片1を保持し、かつ、インナーケース3をアウターケース4の内側に保持した状態で、アウターケース4同士を閉じたとき、複数の分割片1の分割面10同士が当接して環状をなす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非環状に分割された複数の分割片からなり、該分割片の分割面同士を当接させて環状をなす環状磁性体と、前記分割片を各々保持する複数のコアケースとを備え、ケーブルを挿通させて用いる、ノイズ対策部材であって、
前記環状磁性体の内周面、外周面及び軸方向の2つの端面は、それぞれ平坦であり、
前記複数のコアケースは、それぞれインナーケースとアウターケースとを含み、
前記インナーケースの内側に前記分割片が保持され、前記インナーケースは前記アウターケースの内側に保持され、
前記アウターケースは前記アウターケース同士を閉じた状態で固定するロック部を有し、
前記環状磁性体は、前記インナーケースの内側に前記分割片を保持し、かつ前記インナーケースを前記アウターケースの内側に保持した状態で、前記アウターケース同士を閉じたとき、前記複数の分割片の分割面同士が当接して環状をなす、ノイズ対策部材。
【請求項2】
前記環状磁性体は、積層された軟磁性金属薄帯を含む、請求項1に記載のノイズ対策部材。
【請求項3】
前記インナーケースは、前記分割片の前記2つの端面のどちらか一方を覆う端面部と、前記分割片の外周面を覆う外周部と、前記分割片の内周面を覆う内周部とを含む、請求項1又は2に記載のノイズ対策部材。
【請求項4】
前記インナーケースの外周部の内側に沿って弾性部材が設けられている、請求項3に記載のノイズ対策部材。
【請求項5】
前記インナーケースは、前記インナーケースの内側に前記分割片を保持し、かつ前記インナーケースを前記アウターケースに保持した状態で、前記アウターケース同士を閉じる時に前記アウターケースの周方向に沿って移動できるように、前記アウターケースに可動域をもたせて保持される、請求項1又は2に記載のノイズ対策部材。
【請求項6】
前記インナーケースは外周部に第一係止部を有し、前記アウターケースは該第一係止部の位置に対応した第一被係止部を有し、
前記インナーケースを前記アウターケースの内側に保持させたとき、前記第一係止部と前記第一被係止部とが係合する、請求項1又は2に記載のノイズ対策部材。
【請求項7】
前記インナーケースは前記軸方向の端面部に第二係止部を有し、前記アウターケースは該第二係止部の位置に対応した第二被係止部を有し、
前記インナーケースを前記アウターケースの内側に保持させたとき、前記第二係止部と前記第二被係止部とが係合する、請求項6に記載のノイズ対策部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ノイズ対策部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器に繋がるケーブルに伝播するノイズ電流を低減させるために、環状磁性体と該環状磁性体を保持するコアケースとを備えるノイズ対策部材が知られている。
【0003】
電線の外周面に対応した形状の凹部をそれぞれ有する一対の磁性体(分割片)と、磁性体を自身の内側に保持する一対の収納部(コアケース)とを備え、電線が各凹部によって保持されるように収納部同士を合体させる分割型のノイズ対策部材が知られている。
【0004】
特許文献1には、磁性体がコアケースから脱落しないよう、フェライトコアに溝を設け、コアケースには前記溝と係合する突起部を設けた分割型のノイズ対策部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナノ結晶合金を含む磁性体でコアを構成する場合など、特許文献1に記載されるようにコアに溝などの凹凸を設けてコアケースに係合させることが難しい場合がある。
【0007】
本開示は、コアケースに係合するための形状を有さない環状磁性体にも適用できるコアケースを用いたノイズ対策部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は以下の通りである。
【0009】
[1]
非環状に分割された複数の分割片からなり、該分割片の分割面同士を当接させて環状をなす環状磁性体と、前記分割片を各々保持する複数のコアケースとを備え、ケーブルを挿通させて用いる、ノイズ対策部材であって、
前記環状磁性体の内周面、外周面及び軸方向の2つの端面は、それぞれ平坦であり、
前記複数のコアケースは、それぞれインナーケースとアウターケースとを含み、
前記インナーケースの内側に前記分割片が保持され、前記インナーケースは前記アウターケースの内側に保持され、
前記アウターケースは前記アウターケース同士を閉じた状態で固定するロック部を有し、
前記環状磁性体は、前記インナーケースの内側に前記分割片を保持し、かつ前記インナーケースを前記アウターケースの内側に保持した状態で、前記アウターケース同士を閉じたとき、前記複数の分割片の分割面同士が当接して環状をなす、ノイズ対策部材。
【0010】
[2]
前記環状磁性体は、積層された軟磁性金属薄帯を含む、[1]に記載のノイズ対策部材。
【0011】
[3]
前記インナーケースは、前記分割片の前記2つの端面のどちらか一方を覆う端面部と、前記分割片の外周面を覆う外周部と、前記分割片の内周面を覆う内周部とを含む、[1]又は[2]に記載のノイズ対策部材。
【0012】
[4]
前記インナーケースの外周部の内側に沿って弾性部材が設けられている、[1]~[3]の何れか1項に記載のノイズ対策部材。
【0013】
[5]
前記インナーケースは、前記インナーケースの内側に前記分割片を保持し、かつ前記インナーケースを前記アウターケースに保持した状態で、前記アウターケース同士を閉じる時に前記アウターケースの周方向に沿って移動できるように、前記アウターケースに可動域をもたせて保持される、[1]~[4]の何れか1項に記載のノイズ対策部材。
【0014】
[6]
前記インナーケースは外周部に第一係止部を有し、前記アウターケースは該第一係止部の位置に対応した第一被係止部を有し、
前記インナーケースを前記アウターケースの内側に保持させたとき、前記第一係止部と前記第一被係止部とが係合する、[1]~[5]の何れか1項に記載のノイズ対策部材。
【0015】
[7]
前記インナーケースは前記軸方向の端面部に第二係止部を有し、前記アウターケースは該第二係止部の位置に対応した第二被係止部を有し、
前記インナーケースを前記アウターケースの内側に保持させたとき、前記第二係止部と前記第二被係止部とが係合する、[1]~[6]の何れか1項に記載のノイズ対策部材。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、コアケースに係合するための形状を有さない環状磁性体にも適用できるコアケースを用いたノイズ対策部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ノイズ対策部材の分割した片側(分割部分)の一例を分解した状態を示す図である。
【
図2】
図1に示す分割部分の取り付け前の状態を示す図である。
【
図3】
図1に示す分割部分によって形成したノイズ対策部材を示す図である。
【
図4】
図1に示す分割部分の可動域について中心軸に垂直な断面図により説明するための図である。
【
図5】ノイズ対策部材の他の一例を分解した状態を示す図である。
【
図6】
図5に示すノイズ対策部材の取り付け前の状態を示す図である。
【
図7】
図5に示すノイズ対策部材の取り付け後の状態を示す図である。
【
図8】ノイズ対策部材の他の一例を分解した状態を示す図である。
【
図9】
図8に示すノイズ対策部材の取り付け前の状態を示す図である。
【
図10】
図8に示すノイズ対策部材の取り付け後の状態を示す図である。
【
図11】弾性部材の一例について説明するための図であり、(a)は分割片の配置前の状態を示し、(b)は分割片の配置後の状態を示す。
【
図12】インナーケースのヒンジ部について説明するための図であり、(a)は分割片の配置前の状態を示し、(b)はヒンジ部を介してインナーケースを開いて分割片を配置した時の状態を示し、(c)は(b)の状態からヒンジ部を介してインナーケースを閉じた時の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
従来、電源ケーブルをアセンブリした後にノイズ対策部材を後付けすることは困難であった。そのため、一度電源ケーブルのコネクタ部などを分解してからノイズ対策部材を挿通させるか、コネクタ等が通れるよう、電気的に必要なサイズではなく物理的に挿通できるサイズのノイズ対策部材を選択するしかなかった。この問題をクリアするために、円環形状のフェライトコアを半円状に分割して電源ケーブルを直接挟み込むことが可能な分割型のフェライトコアが市販されている。分割型のフェライトコアは、ノイズ対策部材の取り付け性を向上し、また分割片同士の当接時の位置合わせのために、フェライトコアが複雑な形状をしている。また、分割したことにより、同サイズのフェライトコアに比べ、ノイズ吸収性能が落ちてしまう。
【0019】
本発明者らは、ノイズ吸収性能の低下を補うために、フェライトよりもよりノイズ吸収効果の高い磁性体として、ナノ結晶合金を含む磁性体(ナノ結晶合金コア)を用いることに想到した。しかしながら、ナノ結晶合金コアは、脆性のある軟磁性金属薄帯を積層した難切削材である。そのため、ナノ結晶合金コアを複雑な形状に成形することは困難であり、成形時の形状に制限がある。また、ナノ結晶合金の成形品の寸法公差はフェライトに比べ非常に大きい。さらに、積層した金属薄帯が断線すると、場合によっては断線した層すべてが機能消失する問題もあり、軟磁性金属薄帯を含む環状磁性体は、複雑形状とするための追加加工に適さない。さらに、分割片の分割面同士がずれると、大きな機能低下の原因となる。
【0020】
上述した特許文献1に記載されているように、フェライトコアであれば成形段階でコアケースの突起部と係合する形状にコアを焼結できる。これに対し、ナノ結晶合金コアは円型や四角型、楕円形など、単純な形状でないと製造が困難である。これらの理由から、ナノ結晶合金コアを用いて分割型のノイズ対策部材を提供することは困難であった。
【0021】
本発明者らは、独自に鋭意検討を重ねた。そして、コアケースをインナーケースとアウターケースとを含む二重構造とすることで、コアケースに係合するための形状を有さない環状磁性体を用いても、分割型のノイズ対策部材において分割片の分割面同士を精度よく当接させることができることに想到し、本開示を完成するに至った。
【0022】
以下に図面を参照して、本開示の一実施形態に係るノイズ対策部材について例示説明する。
【0023】
例えば
図1~
図3に示すように、本開示の一実施形態に係るノイズ対策部材100は、非環状に分割された複数(本実施形態では2つ)の分割片1からなり、該分割片1の分割面10同士を当接させて環状をなす環状磁性体と、分割片1を各々保持する複数(本実施形態では2つ)のコアケース5とを備え、ケーブルを挿通させて用いる、ノイズ対策部材100であって、環状磁性体の内周面11、外周面12及び軸方向の2つの端面13は、それぞれ平坦であり、前記複数(2つ)のコアケース5は、それぞれインナーケース3とアウターケース4とを含み、インナーケース3の内側に分割片1が保持され、インナーケース3はアウターケース4の内側に保持され、アウターケース4はアウターケース4同士を閉じた状態で固定するロック部44を有し、環状磁性体は、インナーケース3の内側に分割片1を保持し、かつインナーケース3をアウターケース4の内側に保持した状態で、アウターケース4同士を閉じたとき、前記複数(2つ)の分割片1の分割面10同士が当接して環状をなす、ノイズ対策部材100である。以下により具体的な構成について説明するが、本実施形態に係るノイズ対策部材100はそのような具体的な構成に限定されない。なお、本願において、「内側」とは環状磁性体に近づく側を意味し、「外側」とはその逆に、環状磁性体から遠ざかる側を意味する。また、本願において、「分割された」とは、分割された形状をなすことを意味し、切断などによって分割して形成されたものに限定する意図を有さない。
【0024】
図1に、ノイズ対策部材100の一例を分割した片側である分割部分100aを分解した状態を示す。ノイズ対策部材100は、非環状に分割された2つの分割片1からなる環状磁性体と、分割片1を各々収納する2つのコアケース5とを備える。2つの分割片1は互いに同一の形状でもよいし、互いに異なる形状でもよい。また、2つのコアケース5は互いに同一の形状でもよいし、互いに異なる形状でもよい。
【0025】
環状磁性体は、非環状に分割された2つの分割片1からなる。分割片1は、内周面11と、外周面12と、環状磁性体の中心軸O(
図4参照)に沿う方向である軸方向(中心軸方向ともいう)の2つの端面(環状磁性体の中心軸方向における上下面)13と、分割面10と、を有する。アウターケース4同士を閉じたとき、2つの分割片1の分割面10同士が当接して環状をなす。そして、2つの内周面11の径方向内側にケーブルを挿通する中空部6(
図4参照)が形成される。
【0026】
2つのコアケース5は、それぞれインナーケース3と、アウターケース4とを含む。
図1に示すように、インナーケース3は、環状磁性体の分割片1の2つの端面13のどちらか一方を覆う端面部33と、外周面12を覆う外周部32と、内周面11を覆う内周部31とを含む。内周部31、外周部32及び端面部33はそれぞれ、1つ以上の貫通穴を有してもよい。内周部31、外周部32、端面部33はそれぞれ分割片1の内周面11、外周面12、端面13を完全に覆わない構成となっていてもよい。また内周部31、外周部32、端面部33の面積は内周面11、外周面12、端面13の面積に合わせる必要はない。さらに、インナーケース3の外周部32の内側に沿って弾性部材2が設けられている。このように、インナーケース3が環状磁性体の分割片1の端面13のどちらか一方を覆う端面部33と、外周面12を覆う外周部32と、内周面11を覆う内周部31とを含むことで、軟磁性金属薄帯を含む分割片1であっても、分割片1に割れ又は欠けを生じることを防ぐことができる。
【0027】
なお、インナーケース3は分割片1の2つの端面13のどちらか一方を覆う端面部33を有する一方で、もう片方の端面13を覆う部材を有さないことが好ましい。インナーケース3がもう片方の端面13を覆う部材を有さないことで、軸方向からインナーケース3へと挿入することができる。軟磁性金属薄帯を含む分割片1はフェライトと比較すると強度が低く、インナーケース3に保持させる際、強度的に弱い方向、例えば分割片1が半円形状の場合、環状磁性体の中心軸Oから放射する方向への応力が加わると形状が維持できなくなるおそれがある。
【0028】
インナーケース3の外周部32の内側に沿って弾性部材2が設けられていることで、分割片1をインナーケース3の内側で弾性力により保持することができる。これにより、ノイズ対策部材100をケーブルに挿通させた際にインナーケース3の内側で分割片1が環状磁性体の径方向(中心軸Oに直交する方向)及び中心軸方向に移動することを防ぎ、分割片1の分割面10同士を好適に当接させることができる。弾性部材2は、弾性を有する部材であれば特に限定されないが、例えば弾性を有するウレタンフォーム、アクリルフォーム、樹脂バネ、金属バネ等であり得る。弾性部材2は、取り外し可能な粘着力を有していてもよい。弾性部材2が取り外し可能な粘着力を有していることで、分割片1をインナーケース3の内側により好適に保持することができる。また、樹脂バネは、インナーケース3と一体成型されていてもよい。弾性部材2は、一例においては、
図11に示す樹脂バネ20であり得る。インナーケース3の外周部32の内側に沿って弾性部材2(20)が設けられていることで、
図11に示すように、インナーケース3の内側に分割片1を収納したとき、弾性部材2がインナーケース3の内周部31に向かって分割片1に応力を付与する。該応力により、分割片1がインナーケース3の内周部31に向かって押し付けられる。これにより、インナーケース3の内側に分割片1を保持し、インナーケース3をアウターケース4の内側に保持した状態で、アウターケース4同士を閉じたとき、コアケース5の内部で2つの分割片1の分割面10同士を好適に当接させることができる。また、弾性部材2は、アウターケース4を閉じた時の応力を分散する役割も果たす。これにより、アウターケース4の取り付け時に生じる荷重で分割片1に過度の応力がかかることを防ぎ、分割片1が破損することを防ぐことができる。なお、分割片1をインナーケース3の内側に接着剤等で固定してもよい。
【0029】
弾性部材2が粘着力を有する場合は、
図12に示すように、インナーケース3に第二ヒンジ部8を設けて第二ヒンジ部8を軸として開閉可能としてもよい。インナーケース3に第二ヒンジ部8を設けて開閉可能とすることで、分割片1をインナーケース3に挿入し位置を合わせた状態で、粘着力を有する弾性部材2を分割片1に対して粘着させることができ、分割片1の取り付け性を向上させることができる。
【0030】
図1に示すように、インナーケース3は、外周部32及び内周部31のどちらか一方又は両方の端部が段差部36,37を有し、アウターケース4を閉じたときに、2つのインナーケース3の前記段差部36,37同士が互い違いに向き合うように形成されていてもよい。なお、
図1の例においては、インナーケース3は、外周部32の両方の端部に第一段差部36a,36bを、内周部31の両方の端部に第二段差部37a,37bをそれぞれ有する。
【0031】
インナーケース3の内周部31と分割片1との間には、保護材(緩衝材)を設けてもよい。保護材を設けることで、分割片1が弾性部材2により内周部31に押し付けられた際に破損することをより好適に防ぐことができる。
【0032】
インナーケース3は、アウターケース4の内側に保持される。アウターケース4は、上面部41、外周面部42及び底面部43を有する。外周面部42は、分割片1のインナーケース3の外周部32を覆う。底面部43は、アウターケース4の内側にインナーケース3を保持した状態で、インナーケース3の端面部33を覆う。上面部41は、アウターケース4の内側にインナーケース3を保持した状態で、インナーケース3の内側に保持された分割片1の端面13を覆う。
【0033】
また、アウターケース4は、
図5に示すように、2つのアウターケース4同士を開閉可能に連結する連結部7を有していてもよい。連結部7は、一例においては、ヒンジ部であり得る。連結部7をヒンジ部とすることで、該ヒンジ部を軸として2つのアウターケース4同士を開閉可能に連結することができる。
【0034】
2つのアウターケース4は、
図3に示すように、2つのアウターケース4同士を閉じた状態で固定するロック部44を有していてもよい。ロック部44の形状は特に限定されず、スナップフィット型、キャッチロック型、閂型などであり得る。
図3の例においては、一方のアウターケース4側にフック受部44aが設けられており、もう一方のアウターケース4側には、該フック受部44aに対応する位置に、該フック受部44aと係止可能なフック部44bが設けられている。該ロック部44により、ケーブルに取り付けられたノイズ対策部材100が外れることを防ぐことができる。
【0035】
図1に示すように、インナーケース3は、外周部32に第一係止部34(図示の例では2つの突起34a)を有し、アウターケース4は該第一係止部34の位置に対応した第一被係止部45(図示の例では2つの穴45a)を有していてもよい。第一係止部34及び第一被係止部45の形状及び個数は特に限定されない。
図1の例においては、第一係止部34は外周部32の高さ方向に沿って設けられた突起部である。なお、突起部は外周部32の外側に設けてもよい。また、
図1の例においては、第一被係止部45は、上面部41の第一係止部34に対応する位置に設けられた穴部である。なお、第一被係止部45は貫通穴部に限らず凹部であってもよい。また、第一係止部34と第一被係止部45とは凹凸が逆であってもよい。つまり、アウターケース4に係止部を、インナーケース3に被係止部を設ける構成であってもよい。なお、インナーケース3に被係止部を設けず、分割片1もしくはインナーケース3にアウターケース4の係止部を直接引っかけて保持するような構成にしてもよい。突起部の形状は四角型に限られず、球型、丸型、スナップフィット型などであってもよい。インナーケース3をアウターケース4に収容したとき、第一係止部34が第一被係止部45に係止する。これにより、インナーケース3がアウターケース4から外れることを好適に防ぐことができる。また、インナーケース3の内周部31にも同様の係止部を設け、アウターケース4に該係止部の位置に対応した被係止部を設けてもよい。
【0036】
さらに、
図1に示すように、インナーケース3は端面部33に第二係止部35を有し、アウターケース4は該第二係止部35の位置に対応した第二被係止部46を有していてもよい。第二係止部35及び第二被係止部46の形状及び個数は特に限定されない。
図1の例においては、第二係止部35は端面部33の外側に設けられた突起部である。また、
図1の例においては、第二被係止部46は、第二係止部35に対応する位置に設けられた穴部(凹部)である。なお、該穴部は凹部に代えて貫通穴部で構成してもよい。第二係止部35及び第二被係止部46は凹凸が逆であってもよい。つまり、アウターケース4に係止部を、インナーケース3に被係止部を設ける構成であってもよい。なお、インナーケース3に被係止部を設けず、インナーケース3にアウターケース4の係止部を直接引っかけて保持するような構成にしてもよい。第二係止部35及び第二被係止部46により、インナーケース3がアウターケース4から外れることを好適に防ぐことができる。
【0037】
インナーケース3は、インナーケース3の内側に分割片1を保持し、かつインナーケース3をアウターケース4に保持した状態で、アウターケース4同士を閉じる時にアウターケース4の周方向(中心軸Oを周回する方向)に沿って移動できるように、アウターケース4に可動域をもたせて保持される。
図4に示すように、アウターケース4の外周面部42の内径と、インナーケース3の外周部32の外径とがほぼ一致する構成としてもよい。インナーケース3及びインナーケース3の内側で保持されている分割片1は、アウターケース4同士を閉じた状態でもアウターケース4の周方向に沿って回動し得る。上記可動域を有することで、アウターケース4を閉じるときに、分割片1同士が接触し始めると同時にインナーケース3がアウターケース4内で周方向に回動する。この回動により、インナーケース3に分割片1を組付けるときの組立誤差や、分割片1の製造誤差等を吸収することができ、分割片1同士の接触不良を軽減することができる。また、アウターケース4同士を組付ける時に、分割片1にかかる応力を、回動により分散することもできる。
【0038】
可動域の範囲は、分割片1の大きさに応じて、適宜調整し得る。
図1の例においては、第一被係止部45と第二被係止部46に対する第一係止部34と第二係止部35の全体としての周方向の遊び(係合時に相対的な移動を許容する寸法上の余裕)によって可動域が形成される。一例においては、可動域は、周方向において0°超20°以内とし得る。好ましくは1°超10°以内、より好ましくは2°超8°以内である。
【0039】
一方で、アウターケース4同士を閉じた状態で、インナーケース3及びインナーケース3の内側で保持されている分割片1(環状磁性体)は、環状磁性体の径方向及び中心軸方向には移動しないことが好ましい。該構成により、アウターケース4同士を閉じた状態で、分割片1の分割面10がずれることを好適に防ぐことができる。
【0040】
コアケース5の材料は特に限定されない。例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)や;シリコーン樹脂、シリコーン系エラストマー等を用いることができる。また、前記熱可塑性プラスチックに、グラスファイバー(GF)、カーボンファイバー(CF)、グラファイト(GP)等を含有させて強度や耐熱性を向上した材料を用いることもできる。また、インサート成形などにより、金属やセラミック材などと一体化させることもできる。環状磁性体の形状が例えば円型や四角型、楕円型の場合、インナーケース3及びアウターケース4はそれらの形状に沿った形状としてもよい。
【0041】
コアケース5が分割型であることによって、ケーブルに対する着脱が容易となり、ケーブルを結線した状態でも、ノイズ対策部材100を後付け及び取り外しすることができる。よって、電子機器等を使用しながらでも、ノイズ対策部材100を着脱して、ノイズ減衰量を調節することができる。
【0042】
次いで、コアケース5に収納される環状磁性体の分割片1について説明する。環状磁性体は、全体形状が環状であり、積層された軟磁性金属薄帯を含む。環状磁性体は、非環状に分割された複数の分割片1からなる。
図1の例においては、全体形状が円環状の環状磁性体が中心軸方向に沿って半割され、分割片1とされている。2つの分割片1の分割面10同士を当接させて環状とし、環状磁性体によって区画される中空部6にケーブルを挿通して用いる。
【0043】
分割片1は、内周面11、外周面12及び2つの端面13のそれぞれが平坦であり、コアケース5に係合するための形状を有さない。しかしながら、本ノイズ対策部材100においては、コアケース5がインナーケース3とアウターケース4との二重構造であることで、このような分割片1をコアケース5内部で好適に保持することができる。よって、脆性の高い軟磁性金属薄帯を含む磁性体を用いても、分割型のノイズ対策部材100において分割片1の分割面10同士を精度よく当接させることができる。ここで、内周面11、外周面12及び2つの端面13のそれぞれが平坦であり、分割片1がコアケース5に係合するための形状を有さないとは、分割片1が、内周面11、外周面12及び2つの端面13のそれぞれにおいて、コアケース5に係合する凹凸構造を有さないことを意味する。なお、分割片1がコアケース5に係合するための形状を有さなければ、分割片1は軟磁性金属薄帯を含む磁性体に限らず、フェライトコアや圧粉コアなどにも適用できる。
【0044】
環状磁性体は、分割片1の全体形状が非環状であればどのように分割されていてもよい。一例においては、環状磁性体(分割片1)は、中心軸方向と径方向に平行な分割面10を有する。環状磁性体(分割片1)は、中心軸方向と径方向の少なくとも一方に対して傾斜した分割面10を有してもよい。
図1~12においては、分割面10が中心軸方向と径方向に平行であるストレート型の例を示している。また、分割片1の分割面10の形状は平面に限られない。
【0045】
軟磁性材料としては、例えば、Mn-Zn系フェライト、Ni-Zn系フェライト、及びNi-Zn-Cu系フェライト等のフェライト;Fe-Ni系合金(パーマロイ)、Fe-Si系合金(珪素鋼)等の軟磁性金属;Co基アモルファス合金、Fe基アモルファス合金等のアモルファス合金、Fe基ナノ結晶合金等の軟磁性金属を用いることができ、なかでもFe基ナノ結晶合金を用いることが好ましい。
【0046】
環状磁性体は、周囲に樹脂コーティングを有してもよいし、絶縁テープを巻かれていてもよい。環状磁性体の軟磁性金属薄帯の層間に樹脂又は無機物を含浸させてもよい。積層された軟磁性金属薄帯を含む環状磁性体は、例えば薄帯を円筒状に巻回して製造される。樹脂含浸により、環状磁性体の圧環強度を高めることができる。樹脂コーティング剤又は樹脂含浸剤としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、又はこれらの混合物が好ましい。
【0047】
環状磁性体の全体形状は環状であれば特に限定されない。環状磁性体は、
図1に示したような真円筒状(中心軸方向に垂直な断面の外形状が真円環状)の他、例えば、楕円筒状(中心軸方向に垂直な断面の形状が楕円環状)、四角筒状(中心軸方向に垂直な断面の形状が四角環状)、角丸四角筒状(中心軸方向に垂直な断面の形状が角丸四角環状)であり得る。分割片1の形状は、環状磁性体の全体形状、及び分割の態様によって決まる。例えば、環状磁性体の全体形状が真円筒状又は楕円筒状であり、かつ該環状磁性体を中心軸方向に沿って対称に半割した場合、分割片1の形状は、円弧型であり得る。環状磁性体の全体形状が角丸四角筒状であり、かつ該環状磁性体を中心軸方向に沿って対称に半割した場合、分割片1の形状は、環状磁性体の全体形状に応じて、コ字型、U字型、又は直線型であり得る。
【0048】
分割面10は防錆剤又はフィルムシートなどによる保護膜などを有していてもよい。また、環状磁性体の分割面10の外周縁と連続した表面(内周面11、外周面12及び2つの端面13)は樹脂コーティング又はテープにより保護されていてもよい。分割面10の外周縁は面取り加工されていてもよい。
【0049】
以下、本開示の実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されない。
【実施例0050】
(実施例1)
図1~3を用いて、実施例1について説明する。円筒を中心軸方向と径方向に平行な分割面10によって二分割した形状の分割片1を用意した。また、環状磁性体の分割片1の端面13のどちらか一方を覆う端面部33と、外周面12を覆う外周部32と、内周面11を覆う内周部31とを含むインナーケース3を用意した。クッション性のあるウレタン素材などの両面テープ2で、インナーケース3に分割片1を保持した。アウターケース4にインナーケース3をそれぞれ挿入し、分割片1の分割面10が露出した状態を取り付け前の状態とする(
図2)。
図2に示す取り付け前の状態のノイズ対策部材の分割部分100aを二つ用意して、アウターケース4両端をスナップフィット型のロック部44を用いて固定した状態を閉状態(ロック)とする(
図3)。閉状態で、2つの分割片1の分割面10同士が当接して環状の磁性体となる。
【0051】
アウターケース4を閉状態にしたときにインナーケース3の内周部31が区画する中空部6が、ケーブルの挿通路になる。使用時には目的のケーブル類を挿通路内に収まるように前記ケーブル類を挟み込むようにケースを閉じて使用する。
【0052】
(実施例2)
図5~7を用いて、実施例2について説明する。円筒を中心軸方向と径方向に平行な分割面10によって二分割した形状の分割片1を用意した。また、環状磁性体の分割片1の端面13のどちらか一方を覆う端面部33と、外周面12を覆う外周部32と、内周面11を覆う内周部31とを含むインナーケース3を用意した。インナーケース3は、弾性を有するウレタン素材の両面テープ2を、外周部32の内側に有する。分割片1をインナーケース3の内側に保持したコアユニットを二つ用意した。上面部41、外周面部42及び底面部43を有し、2つのアウターケース4がヒンジ部7によって連結されているアウターケース4に、コアユニットを挿入し、分割面10が露出しアウターケース4が開いた状態を取り付け前の状態とする(
図6)。ヒンジ部7を軸にアウターケース4を二つ折りにし、アウターケース4両端をスナップフィット型のロック部44を用いて固定した状態を閉状態(ロック)とする(
図7)。閉状態で、2つの分割片1の分割面10同士が当接して環状の磁性体となる。
【0053】
(実施例3)
図8~
図11を用いて、実施例3について説明する。角丸四角筒を中心軸方向と径方向に平行な分割面10によって二分割した形状の分割片1を用意した。また、環状磁性体の分割片1の端面13のどちらか一方を覆う端面部33と、外周面12を覆う外周部32と、内周面11を覆う内周部31とを含むインナーケース3を用意した。インナーケース3は、弾性を有する樹脂材料からなり、分割片1を内周部31方向に押圧する樹脂バネ20を、外周部32の内側に有する。インナーケース3に分割片1を保持させると
図11のようになる。インナーケース3の内側に分割片1を保持したコアユニットを二つ用意した。上面部41、外周面部42及び底面部43を有し、2つのアウターケース4がヒンジ部7によって連結されているアウターケース4に、コアユニットを挿入した。分割面10が露出しアウターケース4が開いた状態を取り付け前の状態とする(
図9)。ヒンジ部7を軸としてアウターケース4を二つ折りにし、アウターケース4両端をスナップフィット型のロック部44を用いて固定した状態を閉状態(ロック)とする(
図10)。閉状態で、2つの分割片1の分割面10同士が当接して環状の磁性体となる。
本ノイズ対策部材は、自動車に備えられた電子部品、発電装置、電源装置、通信機器、及びOA/FA機器等のケーブルに装着され、これらの電子部品や電子機器内部で発生し、又は外部で発生してケーブル内を伝播するノイズを抑制するノイズ対策部材として特に有効である。また、本ノイズ対策部材の構成は、基板に実装されるインダクタや、カレントトランスなどにも適用することができ、ケーブルに装着する用途に限定されない。なお、分割片は2つ以上の複数個に分割された場合にも本ノイズ対策部材の構成を適用できる。