(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025541
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】自動演奏ピアノ、自動演奏方法および自動演奏プログラム
(51)【国際特許分類】
G10F 1/02 20060101AFI20240216BHJP
G10H 1/053 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G10F1/02 Z
G10H1/053 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129057
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】石井 潤
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478EB40
(57)【要約】
【課題】演奏音の質を低下させることなく調整時間を短縮可能な自動演奏ピアノを提供することを課題とする。
【解決手段】自動演奏ピアノ100は、演奏情報MPに基づいて鍵1を駆動させることにより演奏を実行する自動演奏ピアノ100であって、演奏情報MPで指定される一の音の演奏指示を受けてから、一の音を鳴らすまでの動作遅延時間による発音タイミングのズレを調整する調整時間ATを設定する設定部11と、設定部11で設定される調整時間ATに応じて、演奏情報MPで指定された各音の強度を変換する変換部12とを備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏情報に基づいて鍵を駆動させることにより演奏を実行する自動演奏ピアノであって、
前記演奏情報で指定される一の音の演奏指示を受けてから、前記一の音を鳴らすまでの動作遅延時間による発音タイミングのズレを調整する調整時間を設定する設定部と、
前記設定部で設定される前記調整時間に応じて、前記演奏情報で指定された各音の強度を変換する変換部と、
を備える自動演奏ピアノ。
【請求項2】
前記変換部は、前記動作遅延時間が前記調整時間を超える強度の各音について、前記演奏情報で指定された強度よりも強度が大きくなるように各音の強度を変換する、請求項1に記載の自動演奏ピアノ。
【請求項3】
前記設定部は、前記動作遅延時間が前記調整時間を超えることを許容する場合に、前記調整時間に対する許容遅延時間を設定し、
前記変換部は、前記調整時間と前記許容遅延時間に応じて、前記演奏情報で指定された各音の強度を変換する、請求項1に記載の自動演奏ピアノ。
【請求項4】
前記変換部は、最も強度の小さい音の演奏指示を受けてから前記最も小さい音を鳴らすまでの前記動作遅延時間が、前記許容遅延時間を超えないように、前記演奏情報で指定された各音の強度を変換する、請求項3に記載の自動演奏ピアノ。
【請求項5】
音が鳴るまでの前記動作遅延時間が前記調整時間と一致する強度を発音遅延開始強度とし、音が鳴るまでの前記動作遅延時間が前記許容遅延時間と一致する強度を許容最弱強度とするとき、前記変換部は、最も小さい音の強度を前記許容最弱強度に押し上げ、押し上げられた前記許容最弱強度と前記発音遅延開始強度とを線形補間するように前記演奏情報で指定された各音の強度を変換する、請求項3に記載の自動演奏ピアノ。
【請求項6】
音が鳴るまでの前記動作遅延時間が前記許容遅延時間と一致する強度を許容最弱強度とするとき、前記変換部は、最も小さい音の強度を前記許容最弱強度に押し上げ、押し上げられた前記許容最弱強度と最高強度とを線形補間するように前記演奏情報で指定された各音の強度を変換する、請求項3に記載の自動演奏ピアノ。
【請求項7】
演奏情報に基づいて鍵を駆動させることにより演奏を実行する自動演奏方法であって、
前記演奏情報で指定される一の音の演奏指示を受けてから、前記一の音を鳴らすまでの動作遅延時間による発音タイミングのズレを調整する調整時間を設定することと、
設定される前記調整時間に応じて、前記演奏情報で指定された各音の強度を変換することと、
を含む自動演奏方法。
【請求項8】
コンピュータに自動演奏方法を実行させる自動演奏プログラムであって、
前記自動演奏方法は、
演奏情報に基づいて鍵を駆動させることにより演奏を実行する自動演奏方法であって、
前記演奏情報で指定される一の音の演奏指示を受けてから、前記一の音を鳴らすまでの動作遅延時間による発音タイミングのズレを調整する調整時間を設定することと、
設定される前記調整時間に応じて、前記演奏情報で指定された各音の強度を変換することと、
を含む、自動演奏プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動演奏機能を備えたピアノに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1で開示されているように、演奏情報に基づいて鍵を駆動させることにより演奏を実行する自動演奏ピアノがある。自動演奏ピアノにおいては、演奏情報に基づいてソレノイドが駆動することで、鍵の押鍵操作が行われる。そして、鍵の押鍵操作によりハンマが打弦動作を行い、演奏音が鳴る。
【0003】
また、離れた場所にある、ネットワークで接続された2台の自動演奏ピアノを利用して、セッション演奏を行うシステムが下記特許文献2において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4479554号公報
【特許文献2】特許第5338247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、自動演奏ピアノにおいては、演奏情報を入力してから機械的な動作を経て演奏音が鳴るため、動作遅延時間が発生する。そのため、自動演奏ピアノでは、演奏情報に基づく演奏指示を受けてから発音するまでの動作遅延時間を調整する調整時間が設定される。自動演奏システムを利用するユーザには、この調整時間を短くしたいという要望がある。例えば、ネットワークで接続された遠隔地の自動演奏ピアノを利用するシステムにおいては、調整時間を短くすることで、自動演奏ピアノの利用価値をより向上させることが期待される。
【0006】
上記特許文献1においては、演奏情報(MIDI)で指定される強度(ベロシティ)と、ソレノイドの駆動指示値とを対応付けたテーブルが楽器ごとに作成される。特許文献1においては、調整時間を短くしたいという最近の要求に応えることは困難である。
【0007】
本発明の目的は、演奏音の質を低下させることなく調整時間を短縮可能な自動演奏ピアノを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従う自動演奏ピアノは、演奏情報に基づいて鍵を駆動させることにより演奏を実行する自動演奏ピアノであって、演奏情報で指定される一の音の演奏指示を受けてから、一の音を鳴らすまでの動作遅延時間による発音タイミングのズレを調整する調整時間を設定する設定部と、設定部で設定される調整時間に応じて、演奏情報で指定された各音の強度を変換する変換部12とを備える。
【0009】
本発明の他の局面に従う自動演奏方法は、演奏情報に基づいて鍵を駆動させることにより演奏を実行する自動演奏方法であって、演奏情報で指定される一の音の演奏指示を受けてから、一の音を鳴らすまでの動作遅延時間による発音タイミングのズレを調整する調整時間を設定することと、設定される調整時間に応じて、演奏情報で指定された各音の強度を変換することとを含む。
【0010】
また、本発明は自動演奏プログラムにも向けられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、演奏音の質を低下させることなく調整時間を短縮可能な自動演奏ピアノを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る自動演奏ピアノの構成図である。
【
図2】自動演奏ピアノのシステムブロック図である。
【
図3】演奏情報のデータフォーマットを示す図である。
【
図4】強度-動作遅延時間テーブルの一例を示す図である。
【
図6】自動演奏ピアノが備えるコントローラの機能ブロック図である。
【
図7】強度変換を行わない場合の入力強度と出力強度の関係、および、入力強度と超過遅延時間の関係を示す図である。
【
図8】強度変換を行った場合の入力強度と出力強度の関係、および、入力強度と超過遅延時間の関係を示す図である。
【
図9】実施の形態に係る自動演奏方法を示すフローチャートである。
【
図10】強度変換を行った場合の入力強度と出力強度の関係、および、入力強度と超過遅延時間の関係の別の実施の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照してこの発明の実施の形態に係る自動演奏ピアノ、自動演奏方法および自動演奏プログラムについて説明する。
【0014】
{1.自動演奏の全体構成}
図1は、本実施の形態に係る自動演奏ピアノ100の構成図である。
図1は、自動演奏ピアノ100の機械的な発音機構(1つの鍵に対応する発音機構)の側面図(一部断面図)を示している。以下において、
図1の右側を自動演奏ピアノ100の前側、
図1の左側を自動演奏ピアノ100の後側として説明する。
【0015】
図1に示すように、自動演奏ピアノ100は、鍵1、鍵1の運動をハンマ2に伝達するアクション機構3、ハンマ2の打弦運動により打弦される弦4、鍵1を駆動するためのソレノイド5、および、弦4の振動を止めるためのダンパ6を備える。これらの構成要素は、ピアノの複数の鍵(例えば88鍵)の各々に対応して設けられる。
【0016】
自動演奏ピアノ100は、ソレノイド5を駆動させることによる自動演奏機能を有しているが、通常のアコースティックピアノと同様、演奏者が鍵1を押鍵することにより演奏可能である。次に説明する非押鍵時および押鍵時の機械的動作は、自動演奏時および演奏者による演奏時で同様の動作である。鍵1は、非押鍵時には、
図1において実線で示すレスト位置(ストローク量0mmの位置)にある。鍵1は、押鍵操作(
図1において鍵1の右側を押し下げる操作)に応じて、レスト位置からエンド位置まで押し下げられる。
図1において、鍵1のエンド位置を2点鎖線で示す。鍵1が押下されると、アクション機構3の動作により、ハンマ2が打弦位置2E(
図1において点線で示す位置)まで回転運動すると共に、ダンパ6が弦4から上に離れて弦4が解放される。ハンマ2が解放された弦4を叩くことで、押鍵操作された鍵1に対応する楽音が発音される。なお、バックチェック7は打弦時の反動によるハンマ2の暴れを防止するための部材である。
【0017】
次に、自動演奏時に特有の動作について説明する。ソレノイド5は、対応する鍵1の後端下部に設けられており、コントローラ10から供給される制御信号に基づき駆動される。ソレノイド5の駆動に応じて、プランジャ部分が軸方向(上方向)に突出することで、対応する鍵1の後端部を押し上げる。プランジャによる押し上げ動作によって、鍵1は押鍵操作される。これにより、上述と同様な動作によってハンマ2による打弦が行われる。なお、
図1の例では、ソレノイド5には、プランジャの動作速度を検出する速度センサが備えられており、センサの出力がコントローラ10に対するフィードバック信号として帰還入力されている。
【0018】
{2.システムの構成}
図2は、
図1に示す自動演奏ピアノ100が備えるコントローラ10を含むコンピュータシステムの構成を示すブロック図である。
図2に示すように自動演奏ピアノ100は、CPU20、ROM21、RAM22、記憶装置23、操作部24、音源部25およびサウンドシステム26を備える。これら各装置がシステムバス29を介して接続される。また、システムバス29には、PWM発生器(図示省略)を介してソレノイド5が接続される。
【0019】
CPU20は、自動演奏ピアノ100の全体的な動作を制御する。ROM21には、CPU20が実行する制御プログラムや、各種のデータが記憶される。RAM22は、CPU20のワークエリアとして使用される。記憶装置23には、鍵盤制御プログラムP1、演奏情報MP、強度-動作遅延時間テーブルT1、強度変換テーブルT2、調整時間ATおよび許容遅延時間PDTが保存される。記憶装置23は、ハードディスク、半導体メモリなど、様々な記憶媒体で構成可能である。鍵盤制御プログラムP1は、自動演奏機能において発音タイミングのズレを調整する調整時間ATを設定する処理や、調整時間ATに応じて、演奏情報MPで指定された各音の強度を変換する処理などを実行する。各データMP,T1,T2,ATおよびPDTの内容については後述する。
【0020】
操作部24は、ユーザが、自動演奏に関する各種操作(開始、停止、曲選択など)を行うためのインタフェースである。音源部25およびサウンドシステム26は、弦4の振動によらず、演奏情報MPを直接再生するための機能部である。CPU20において生成されるソレノイド駆動用の制御信号は、PWM発生器(図示省略)を介してPWM信号に変換され、ソレノイド5に供給される。ソレノイド5の駆動量は、供給されるPWM信号のパルス幅に応じて制御される。
【0021】
{3.調整時間ATおよび許容遅延時間PDT}
自動演奏時、演奏情報MPに基づいてCPU20は、ソレノイド5に対して制御信号を供給する。制御信号に応じてソレノイド5が駆動すると、鍵1が押鍵操作され、アクション機構3が動作し、ハンマ2が弦4を叩く。これにより、演奏情報MPに基づく楽音が発音される。このように、CPU20から演奏情報MPに基づく演奏指示を受けてから、実際に音を鳴らすまでの間に、自動演奏ピアノ100において、各種機構の動作による動作遅延時間が生じる。そして、この動作遅延時間は、演奏情報MPで指定される各音の強度(ベロシティ)によって異なる。強度の強い音を鳴らすためには、ハンマ2が弦4を強く叩く必要があるため、ソレノイド5には、ソレノイド5を速く動作させるための制御信号が与えられる。これに対して、強度の弱い音を鳴らすためには、ソレノイド5には、ソレノイド5を遅く動作させるための制御信号が与えられる。したがって、強度の強い音に比べると強度の弱い音の動作遅延時間は長くなる。
【0022】
そこで、自動演奏による発音のタイミングのズレを調整するための調整時間ATが設定される。例えば、調整時間ATが0.5sであれば、CPU20は、演奏情報MPに記録される各音のデータを入力してから、0.5s後に発音されるように制御信号の供給タイミングを調整する。あるいは、ネットワーク経由で演奏情報MPを受信する場合には、CPU20は、演奏情報MPに記録される各音のデータを受信してから0.5s後に発音されるように制御信号の供給タイミングを調整する。つまり、強度の弱い音は早めにソレノイド5に対して制御信号を供給し、強度の強い音は遅れてソレノイド5に対して制御信号を供給することで、各音の発音タイミングを調整する。調整時間ATは、ユーザにより設定され、記憶装置23に保存される。
【0023】
昨今、調整時間ATを短くしたいというユーザニーズがある。そこで、本実施の形態の鍵盤制御プログラムP1は、強度の弱い音に関して、強度を押し上げる変換を行うことで、調整時間ATを短縮することを実現する。本実施の形態の自動演奏ピアノ100においては、さらに、許容遅延時間PDTが設定される。許容遅延時間PDTは、調整時間ATを超えて発音することを許容する時間である。鍵盤制御プログラムP1は、調整時間ATよりも少し遅れた時間である許容遅延時間PDTに収まるように強度の弱い音に関して、強度を押し上げる変換を行う。これにより、調整時間ATを守るために、強度の非常に弱い音の変換量が大きくなることを回避することができる。つまり、強度の弱い音に関して、演奏音の質が低下することを回避しながら、調整時間ATを短縮することが可能となる。
【0024】
{4.テーブル}
図3は、演奏情報MPのデータフォーマットを示す図である。本実施の形態においては、演奏情報MPとして、SMF形式のデータが利用される。演奏情報MPには、時刻情報、強度(ベロシティ)、キーNoが記録されている。キーNoは、再生対象となる鍵1を特定するための情報であり、自動演奏ピアノ100が備える鍵1(例えば88鍵)のそれぞれに割り当てられた固有のNoである。強度は、打弦動作を実現するためのハンマ2の速度に対応する情報であり、発音すべき楽音の音量を示す。演奏情報MPには、これらキーNoと強度が、各時刻情報に対応して記録される。
【0025】
図4は、強度-動作遅延時間テーブルT1の一例を示す図である。強度-動作遅延時間テーブルT1には、強度(ベロシティ)と動作遅延時間の対応が記録される。上述したように、CPU20から演奏情報MPに基づく演奏指示を受けてから、実際に音を鳴らすまでの間の動作遅延時間は、演奏情報MPに記録された音の強度によって異なる。強度-動作遅延時間テーブルT1には、全ての強度に対応する動作遅延時間が記録される。
図4の例では、最低強度1から最高強度127までの動作遅延時間t1から動作遅延時間t127が記録されている。
【0026】
図5は、強度変換テーブルT2の一例を示す図である。強度変換テーブルT2は、演奏情報MPで指定される強度を変換するテーブルである。鍵盤制御プログラムP1は、強度変換テーブルT2に基づいて、強度の弱い音に関して、強度を押し上げる変換を行うことで、調整時間ATを短縮することを実現する。
図5の例では、最低強度1から最高強度127までの入力強度について、対応する出力強度が記録されている。例えば、
図5の例では、最低強度1の入力強度が、強度23に押し上げられることを示している。強度変換テーブルT2の生成方法については後述する。
【0027】
{5.コントローラの構成}
図6は、コントローラ10の構成を示す機能ブロック図である。
図6に示すように、コントローラ10は、設定部11、変換部12、鍵盤制御部13および測定部14を備える。これら設定部11、変換部12、鍵盤制御部13および測定部14は、鍵盤制御プログラムP1が、RAM22をワークエリアとして利用しつつ、CPU20上で実行されることにより実現される機能部である。言い換えると、設定部11、変換部12、鍵盤制御部13および測定部14は、CPU20が備える機能部である。
【0028】
設定部11は、調整時間ATおよび許容遅延時間PDTの記憶装置23への保存を行う。設定部11は、ユーザによる操作部24を用いた設定操作に基づき、調整時間ATおよび許容遅延時間PDTを記録する。変換部12は、強度変換テーブルT2に基づいて、演奏情報MDに記録された各音の強度を変換する。鍵盤制御部13は、変換部12から受け取った変換後の演奏情報MDと強度-動作遅延時間テーブルT1とに基づいて、発音タイミングを調整しながら、ソレノイド5に対して制御信号を供給する。
【0029】
測定部14は、強度-動作遅延時間テーブルT1を生成するための測定処理を実行する。測定部14は、CPU20が演奏情報MDに含まれる一の音についての演奏指示を与えてから、ハンマ2が動作して、実際にその一の音が発音されるまでの時間を測定することで、強度-動作遅延時間テーブルT1を生成する。測定部14は、変換部12における変換処理をOFFした状態で、全ての強度について、発音までの動作遅延時間を測定する。例えば、測定部14による測定処理は、工場出荷前に行われる。あるいは、ユーザが、測定処理を任意のタイミングで実行してもよい。測定部14は、生成した強度-動作遅延時間テーブルT1を記憶装置23に保存する。
【0030】
鍵盤制御プログラムP1は、記憶装置23に保存されている場合を例として説明する。他の実施の形態として、鍵盤制御プログラムP1は、半導体メモリ、DVDなどの記憶媒体に保存されて提供されてもよい。CPU20は、デバイスインタフェースを介して記憶媒体にアクセスし、記憶媒体に保存された鍵盤制御プログラムP1を、記憶装置23またはROM21に保存するようにしてもよい。あるいは、CPU20は、デバイスインタフェースを介して記憶媒体にアクセスし、記憶媒体に保存された鍵盤制御プログラムP1を実行するようにしてもよい。あるいは、CPU20は、通信インタフェースを介してネットワーク上のサーバから鍵盤制御プログラムP1をダウンロードし、ダウンロードした鍵盤制御プログラムP1を、記憶装置23またはROM21に保存するようにしてもよい。
【0031】
{6.強度変換テーブルT2の生成方法}
次に、強度変換テーブルT2の生成方法について説明する。設定部11は、調整時間ATおよび許容遅延時間PDTに基づいて、
図5で示すような強度変換テーブルT2を生成する。
図7および
図8は、強度変換テーブルT2の生成方法を説明するための図である。
【0032】
図7および
図8において、横軸は、演奏情報MPの入力強度を示し、左縦軸は、演奏情報MPの出力強度、つまり、変換部12による変換後の強度を示す。また、右縦軸は、調整時間ATに対する超過遅延時間を示す。入力強度および出力強度は、最低強度1から最高強度127までの整数値としている。
図7は、変換部12による変換が行われなかった場合のグラフを示す。つまり、入力強度はそのまま出力強度として出力される。この場合、図の例では、入力強度が40を下回ると、動作遅延時間が調整時間ATを超える状態となっている。つまり、入力強度1から入力強度40の強度の弱い音においては、超過遅延時間が発生している。設定部11は、この関係性から、入力強度40を発音遅延開始強度として取得する。
【0033】
また、設定部11は、許容遅延時間PDTに基づいて、許容最弱強度を取得する。許容最弱強度とは、超過遅延時間が許容遅延時間PDTに収まる最も弱い強度である。
図7の例であれば、例えば、許容遅延時間PDTが0.05sであれば、許容最弱強度は、強度25付近である。そこで、設定部11は、
図8に示すようなグラフの強度変換テーブルT2を生成する。設定部11は、最も弱い強度である強度1を、許容最弱強度(図の例では25)に押し上げる。そして、発音遅延開始強度40から許容最弱強度25を線形補間することにより強度変換テーブルT2を生成する。これにより、変換後の超過遅延時間の曲線は
図8のようになり、最も弱い強度である強度1においても、超過遅延時間が許容遅延時間PDT(図の例では0.05s)に収まっている。
【0034】
{7.自動演奏方法}
次に、
図9のフローチャートを参照しながら、本実施の形態に係る自動演奏方法について説明する。自動演奏方法は、鍵盤制御プログラムP1がCPU20上で実行することにより実行される。
【0035】
(ステップS1)
ステップS1において、設定部11は、演奏情報MPで指定される一の音の演奏指示を受けてから、一の音を鳴らすまでの動作遅延時間による発音タイミングのズレを調整する調整時間ATを設定する。上述したように、調整時間ATは、ユーザ操作により設定される。例えば、ユーザは、調整時間ATとして、0.1s、0.2sなどの時間を設定する。また、設定部11は、許容遅延時間PDTを設定する。許容遅延時間PDTは、ユーザ操作により設定される。例えば、ユーザは、許容遅延時間PDTとして、0.1s、0.05sなどの時間を設定する。設定部11は、調整時間ATおよび許容遅延時間PDTを記憶装置23に保存する。
【0036】
(ステップS2)
ステップS2において、変換部12は、設定部11で設定される調整時間ATに応じて、演奏情報MPで指定された各音の強度を変換する。つまり、変換部12は、演奏情報MPで指定された各音の強度を強度変換テーブルT2に基づいて変換する。強度変換テーブルT2は、調整時間ATおよび許容遅延時間PDTに基づいて生成されているので、演奏情報MPで指定された各音の中で比較的強度の強い音は調整時間ATに合わせて発音される。これに対して、演奏情報MPで指定された各音の中で強度の弱い音は、超過遅延時間が発生しない場合は、調整時間ATに合わせて発音される。超過遅延時間が発生する音については、許容遅延時間PDTの範囲内で調整時間ATより少し遅れて発音される。
【0037】
{8.実施の形態の特徴と効果}
以上説明したように、本実施の形態に係る自動演奏ピアノ100は、演奏情報MPに基づいて鍵1を駆動させることにより演奏を実行する自動演奏ピアノ100であって、演奏情報MPで指定される一の音の演奏指示を受けてから、一の音を鳴らすまでの動作遅延時間による発音タイミングのズレを調整する調整時間ATを設定する設定部11と、設定部11で設定される調整時間ATに応じて、演奏情報MPで指定された各音の強度を変換する変換部12とを備える。
【0038】
この実施の形態の自動演奏ピアノ100は、設定された調整時間ATに応じて、演奏情報MPで指定された音の強度を変換することができる。例えば、調整時間ATが短く設定された場合には、それに応じて、小さい音量の音を押し上げるなどの変換が行われる。この実施の形態によれば、演奏音の質を低下させることなく調整時間ATを短縮可能な自動演奏ピアノ100を提供することができる。
【0039】
実施の形態の自動演奏ピアノ100において、変換部12は、動作遅延時間が調整時間ATを超える強度の各音について、演奏情報MPで指定された強度よりも強度が大きくなるように各音の強度を変換してもよい。
【0040】
この実施の形態によれば、強度の弱い音についても調整時間ATに合わせて発音されることができる。
【0041】
実施の形態の自動演奏ピアノ100において、設定部11は、動作遅延時間が調整時間ATを超えることを許容する場合に、調整時間ATに対する許容遅延時間PDTを設定し、変換部12は、調整時間ATと許容遅延時間PDTに応じて、演奏情報MPで指定された各音の強度を変換してもよい。
【0042】
この実施の形態によれば、設定された調整時間ATおよび許容遅延時間PDTに応じて、演奏情報MPで指定された音の強度を変換することができる。調整時間ATに対して遅れて発音することを許容するので、強度の弱い音に対して過度な変換が行われることを防止し、調整時間ATを短縮させながら、演奏音の質を向上させることができる。
【0043】
{9.その他の実施の形態}
上記実施の形態においては、調整時間ATおよび許容遅延時間PDTを設定するようにしたが、許容遅延時間PDTは設定しなくてもよい。この場合、設定部11は、調整時間ATに基づいて強度変換テーブルT2を生成する。この強度変換テーブルT2により、強度の弱い音の強度が押し上げられ、全ての強度の音が調整時間ATに収まるように変換される。これによっても、調整時間ATの短縮を図ることが可能である。
【0044】
上記実施の形態においては、
図8で示したように、変換部12は、最も小さい音の強度を許容最弱強度に押し上げ、押し上げられた許容最弱強度と発音遅延開始強度とを線形補間するように演奏情報MPで指定された各音の強度を変換した。別の実施の形態として、
図10に示すように、変換部12は、最も小さい音の強度を許容最弱強度に押し上げ、押し上げられた許容最弱強度と最高強度とを線形補間するように演奏情報MPで指定された各音の強度を変換してもよい。
図8および
図10で示した例では、線形補間による変換を行ったが、曲線によって補間するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…鍵、2…ハンマ、3…アクション機構、4…弦、5…ソレノイド、6…ダンパ、10…コントローラ、11…設定部、12…変換部、13…鍵盤制御部、14…測定部、23…記憶装置、AT…調整時間、PDT…許容遅延時間、T1…強度-動作遅延時間テーブル、T2…強度変換テーブル、P1…鍵盤制御プログラム