(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025553
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】全固体電池および全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240216BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240216BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240216BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240216BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20240216BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20240216BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240216BHJP
H01M 4/1315 20100101ALI20240216BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240216BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M4/46
H01M4/58
H01M4/1315
H01M4/134
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129071
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 由宇
(72)【発明者】
【氏名】西山 淳也
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK04
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL11
5H029AL12
5H029BJ12
5H029CJ03
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA10
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA10
5H050DA11
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】充放電時における界面抵抗の増加によるサイクル性能の低下を抑制した全固体電池を提供する。
【解決手段】正極活物質を含む正極層11と、負極活物質を含む負極層12と、正極層11および負極層12の間に形成された固体電解質を含む固体電解質層13と、を有し、コンバージョン反応により充放電を行う全固体電池10であって、下記式(1)で算出される正極層11の実膨張比率(Ep)と下記式(2)で算出される負極層12の実膨張比率(En)との差[(Ep)-(En)]の絶対値が10%以下である。
正極層の実膨張比率(Ep)=正極層の膨張率×正極層の厚み比率 ・・・(1)
負極層の実膨張比率(En)=負極層の膨張率×負極層の厚み比率 ・・・(2)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された固体電解質を含む固体電解質層と、を有し、コンバージョン反応により充放電を行う全固体電池であって、
下記式(1)で算出される前記正極層の実膨張比率(Ep)と下記式(2)で算出される前記負極層の実膨張比率(En)との差[(Ep)-(En)]の絶対値が10%以下である、全固体電池。
正極層の実膨張比率(Ep)=正極層の膨張率×正極層の厚み比率 ・・・(1)
負極層の実膨張比率(En)=負極層の膨張率×負極層の厚み比率 ・・・(2)
【請求項2】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記正極層および/または前記負極層の膨張率が10%以上である、全固体電池。
【請求項3】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記正極活物質が、CuCl2、FeF2およびSから選ばれる材料からなり、前記負極活物質が、Si、Li、MgおよびAlから選ばれる材料からなる、全固体電池。
【請求項4】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記正極層は、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、バインダーとを含有してなり、
質量基準における含有比率を、正極活物質:導電助剤:バインダー:固体電解質=x:y:z:vで表したとき、これら含有比率(質量%)が、50≦x≦92.5、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45、2.5≦v≦45の範囲である、全固体電池。
【請求項5】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記負極層は、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、バインダーとを含有してなり、
質量基準における含有比率を、正極活物質:導電助剤:バインダー:固体電解質=x:y:z:vで表したとき、これら含有比率(質量%)が、50≦x≦92.5、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45、2.5≦v≦45の範囲である、全固体電池。
【請求項6】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記差[(Ep)-(En)]の絶対値が5%以下である、全固体電池。
【請求項7】
請求項1に記載の全固体電池において、
前記差[(Ep)-(En)]の絶対値が1%以下である、全固体電池。
【請求項8】
正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、固体電解質を含む固体電解質層と、を用意する工程と、
前記正極層と、前記負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置されるように前記固体電解質層と、を積層し、積層方向にプレスする工程と、
を有するコンバージョン反応により充放電を行う全固体電池を製造する方法であって、
下記式(1)で算出される前記正極層の実膨張比率(Ep)と下記式(2)で算出される前記負極層の実膨張比率(En)との差の絶対値が10%以下とする、全固体電池の製造方法。
正極層の実膨張比率(Ep)=正極層の膨張率×正極層の厚み比率 ・・・(1)
負極層の実膨張比率(En)=負極層の膨張率×負極層の厚み比率 ・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層を備えた全固体電池およびその製造方法に係り、特に、固体電解質層と電極層との界面において、充放電の繰り返しによる抵抗増加を抑制し得る全固体電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気を駆動源とする車両等に搭載される電源やパソコンおよび携帯端末等の電気製品等に搭載される電源として、リチウムイオン二次電池等の比較的高い出力と高い容量が実現できる二次電池が使用されている。この二次電池のなかでも、特に、リチウムイオン二次電池は、軽量で高エネルギー密度が得られ、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)等の車両の駆動用高出力電源として好ましく、今後ますます需要が拡大することが予想される。
【0003】
また、近年、二次電池の一形態として、液状の電解質(電解液)に代えて粉末状、ペレット形状、焼結により成形されたプレート形状等の固体電解質を使用する形態の電池、いわゆる全固体電池とも呼称される形態の二次電池が実用化に向けて、種々研究、開発されている。
【0004】
全固体電池は、液状の電解質(特に非水電解液)を使用しないため、非水電解液等の有機溶媒を取り扱う場合の煩雑な処理を行うことなく、正極層、負極層および固体電解質層からなる積層構造の積層電極体を容易に構築することができる。
【0005】
また、電解液を使用しないことから電極体の構造がシンプルとなり、電池の単位体積あたりの電池容量の向上にも寄与し得る。さらに、電解液を使用しないことから、安全性が高い。そのため、さらなる高容量が求められる車両の駆動用高出力電源として期待されている。
【0006】
そして、高容量化の方策として、例えば、特許文献1には、高いエネルギー密度と容量維持率とを実現するために好適な全固体電池用途の負極および負極材料(負極活物質)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、全固体電池の課題の一つとして、充放電を行った際の活物質の膨張収縮により、固体電解質層と正極層および/または負極層との界面に隙間や亀裂が生じるおそれがあることが知られている。特に、特許文献1に記載のように高いエネルギー密度を有する活物質は充放電時にコンバージョン反応により体積変化が生じ、その膨張収縮の割合が大きい。そのため、充放電を繰り返し行うと、正極層または負極層と固体電解質層との界面において界面接触性が低下し、界面抵抗が増加すると考えられる。このような界面抵抗の増加が生じると、充放電を行うごとに、全固体電池のサイクル特性が著しく下がってしまう。
【0009】
本発明は、このような全固体電池に関する課題を解決するべく創出されたものであり、その目的は、充放電時における活物質の膨張によって固体電解質層と電極との接触面積の低減を防ぎ、それによって界面抵抗の増加によるサイクル性能の低下を抑制した全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施の形態によれば、正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、固体電解質を含む固体電解質層とを有する積層構造の全固体電池であって、サイクル性能の低下を抑制した全固体電池が提供される。
【0011】
すなわち、本実施の形態における全固体電池は、正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された固体電解質を含む固体電解質層と、を有し、コンバージョン反応により充放電を行う全固体電池であって、下記式(1)で算出される前記正極層の実膨張比率(Ep)と下記式(2)で算出される前記負極層の実膨張比率(En)との差[(Ep)-(En)]の絶対値が10%以下である。
【0012】
正極層の実膨張比率(Ep)=正極層の膨張率×正極層の厚み比率 ・・・(1)
負極層の実膨張比率(En)=負極層の膨張率×負極層の厚み比率 ・・・(2)
【0013】
本実施の形態における全固体電池の製造方法は、正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、固体電解質を含む固体電解質層と、を用意する工程と、前記正極層と、前記負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置されるように前記固体電解質層と、を積層し、積層方向にプレスする工程と、を有するコンバージョン反応により充放電を行う全固体電池を製造する方法であって、下記式(1)で算出される前記正極層の実膨張比率(Ep)と下記式(1)で算出される前記負極層の実膨張比率(En)との差の絶対値が10%以下とする、全固体電池の製造方法。
【0014】
正極層の実膨張比率(Ep)=正極層の膨張率×正極層の厚み比率 ・・・(1)
負極層の実膨張比率(En)=負極層の膨張率×負極層の厚み比率 ・・・(2)
【発明の効果】
【0015】
本願において開示される全固体電池および全固体電池の製造方法によれば、充放電を繰り返した際にも、界面抵抗の増加によるサイクル性能の低下を抑制した全固体電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施の形態の全固体電池の概略構成を示す断面図である。
【
図2A】
図1の全固体電池において、初期充電の後、充放電を行った際の挙動を説明するための概念図である。
【
図2B】
図1の全固体電池において、初期放電の後、充放電を行った際の挙動を説明するための概念図である。
【
図3】従来の全固体電池において、充放電を行った際の挙動を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<事前の検討事項>
まず、本発明者らは、全固体電池において、膨張率が大きい材料を用いた際の充放電におけるサイクル特性の劣化について検討した。検討にあたって、負極活物質として、充放電時における膨張収縮の度合いが比較的大きい負極活物質を、正極活物質として、充放電時における膨張収縮の度合いが比較的小さい正極活物質を、それぞれ採用し、そのサイクル特性について調べた。
【0018】
この事前検討において、サイクル特性が低下する原理については、その充放電を行った際の挙動を説明するための概念図を
図3に示した。以下、この
図3を参照しながら説明する。
【0019】
まず、正極層51、負極層52、その間に形成される固体電解質層53が積層され、さらに正極集電体54および負極集電体55を備えた全固体電池50を用意した(
図3(a))。ここで、負極層52は負極活物質としてSi(ケイ素)を含有し、正極層51には正極活物質としてLiCoO
2を含有するものとした。
【0020】
次いで、この全固体電池50に対し初期充電または初期放電を行う。以下では初期充電の場合を例に説明する。この初期充電において、負極層52は、含有するケイ素の膨張率が10%以上と大きいため積層方向に大きく膨張するが、正極層51はほぼ膨張を生じない材料であるため積層方向に膨張せず、固体電解質層53が圧縮される(
図3(b))。なお、ここで、膨張を実線の矢印、収縮を破線の矢印で示している。これは、以下で説明する
図2Aおよび
図2Bにおいても同様である。
【0021】
充電が完了した後、放電を行うと、今度は負極層52が収縮し、圧縮されていた固体電解質層53が解放される(
図3(c))。このとき、負極層52は固体電解質層53から離れる方向に力が働くため、これら界面において、隙間や亀裂が生じて接触面積が低下しやすい。
【0022】
さらに、放電操作を行った後、充放電を繰り返すと、
図3(b)と
図3(c)の状態変化が繰り返し行われることとなり、負極層52の膨張収縮により、固体電解質層53の圧縮と解放が繰り返される。そのため、界面抵抗が増加しやすく、電池容量が低下し、全固体電池のサイクル特性が著しく劣化すると考えられる。
【0023】
実際に、上記した正極活物質を含有する正極層および負極活物質を含有する負極層により構成した全固体電池において、サイクル特性評価を行ったところ、充放電を50サイクル行ったとき、1サイクル目に対して容量維持率が30%程度にまで減少することを確認した。
【0024】
上記検討事項では、初期充電から開始することを説明したが、初期放電の場合でも、充放電の繰り返しにより同様の現象が生じ、やはりサイクル特性の劣化が生じやすいことが想定される。
【0025】
<実施の形態>
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一または関連の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0026】
[全固体電池]
本発明の一実施形態である全固体電池は、例えば、
図1に示したように、正極層11と、負極層12と、正極層11と負極層12の間に形成された固体電解質層13と、正極集電体14と、負極集電体15と、を有する全固体電池10が例示できる。
【0027】
なお、以下の説明では、ここで開示される技術の適用対象として全固体リチウムイオン二次電池を例にしているが、これに限られるものではない。ここで開示される全固体電池の種類としては、他の金属イオンを電荷担体とするもの、例えば、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、等を構成する全固体電池であってもよい。
【0028】
ここで、この全固体電池10は、コンバージョン反応により充放電を行う電池である。コンバージョン反応では、例えば、リチウムイオンが、活物質の層間に出入りするインターカレーション反応と異なり、活物質とリチウムイオン間で酸化還元反応を行い充放電が行われる。このとき、活物質はコンバージョン反応により膨張または収縮し、その体積変化量が大きい。
【0029】
本実施の形態では、正極活物質および/または負極活物質がコンバージョン反応を行う活物質であればよい。すなわち、正極活物質および負極活物質の少なくとも一方がコンバージョン反応する活物質であればよい。本実施の形態によれば、このようなコンバージョン反応する活物質を有している場合でも、その膨張または収縮によるサイクル性能の低下を十分に抑制し得る全固体電池とできる。
【0030】
(正極層)
本実施の形態で用いられる正極層11は、正極活物質を含有する正極層である。ここで、正極活物質は、正極側において電荷担体(例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)の吸蔵および放出に関与する物質をいう。
【0031】
この正極活物質としては、従来公知の正極活物質を用いることができ、例えば、CuCl2、FeF2、S、AgCl、FeCl3、NiCl2、CoCl2、FeCl2、Li2S、LiCl、LiF、AgF、Br2、LiBr、CoF3、CuF2、CuF、BiF3、CuCl2、NiF2、LiI、I2、CoF2、FeF3、MnF3、CrF3、CuS、Li2Se、Se、CuSe、Cu2O、CoS2、Cu2S、NiS、FeS2、Te、Li2Te、VF3、FeS、CoSe2、MnS2、MnCl2、Co3S4、FeSe、TiF3、MnS等のコンバージョン型の活物質が好ましい。なかでも、CuCl2、FeF2、Sが好ましい。
【0032】
ここで用いられる正極活物質は、粒子として含有され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、例えば0.5μm~20μm程度が好ましく、1μm~10μm程度がより好ましい。
【0033】
なお、正極層11には、正極活物質の他に固体電解質を含有させることもできる。さらに、従来のこの種の電池の正極層と同様に種々の任意成分を含ませることができる。この任意成分としては、例えば、導電助剤やバインダー等が挙げられる。
【0034】
ここで用いることができる固体電解質としては、種々の酸化物系固体電解質または硫化物系固体電解質が挙げられる。酸化物系固体電解質としては、NASICON構造、ガーネット型構造あるいはペロブスカイト型構造を有する種々の酸化物が好ましいものとして挙げられる。
【0035】
例えば、一般式:LixAOy(ここでAは、B、C、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta、またはWであり、x及びyは正の実数である。)で表されるものを挙げることができる。具体例として、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4、等が挙げられる。あるいは、Li2O-B2O3-P2O5系、Li2O-SiO2系、Li2O-B2O3系、Li2O-B2O3-ZnO系、等のガラス若しくはガラスセラミックスも好ましいものとして挙げられる。
【0036】
特に、高いイオン伝導性を有するという観点から、硫化物系固体電解質の使用が好ましい。例えば、Li2S-SiS2系、Li2S-P2S3系、Li2S-P2S5系、Li2S-GeS2系、Li2S-B2S3系、Li3PO4-P2S5系、Li4SiO4-Li2S-SiS2系、等のガラス若しくはガラスセラミックスが挙げられる。
【0037】
また、より高いイオン伝導性を実現するという観点から、Li2Sとハロゲン化リチウム(例えばLiCl、LiBr、LiI)とから構成されるLi2Sベースの固溶体の利用が好ましい。好ましいものとして、LiBr-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、LiBr-LiI-Li2S-P2S5、等が挙げられる。
【0038】
使用される固体電解質は粒子状であり、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)としては、例えば0.1μm~10μmが好ましく、0.4μm~5μmがより好ましい。
【0039】
ここで用いることができる導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラックやその他(グラファイト、カーボンナノチューブ等)の炭素材料が好ましいものとして挙げられる。
【0040】
ここで用いることができるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーや、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダーを好ましいものとして挙げられる。
【0041】
正極活物質と、固体電解質と、導電助剤と、バインダーを含有させて正極層11を形成する場合、これらの質量基準における含有比率を、正極活物質:導電助剤:バインダー:固体電解質=x:y:z:vで表したとき、これら含有比率(質量%)を、50≦x≦92.5、2.5≦y≦45、2.5≦z≦45、2.5≦v≦45の範囲とすることが好ましい。さらに、これら比率は、65≦x≦92.5、2.5≦y≦20、2.5≦z≦15、2.5≦v≦20の範囲とすることがより好ましい。
【0042】
なお、正極層11の厚みは、後で説明する関係を満たすようにできれば、その厚みは、特に限定されない。この正極層11の厚みは、例えば、10μm~500μmの範囲とすることが好ましい。
【0043】
(負極層)
本実施の形態で用いられる負極層12は、負極活物質を含有する負極層である。ここで、負極活物質は、負極側において電荷担体(例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウムイオン)の吸蔵および放出に関与する物質をいう。
【0044】
この負極活物質としては、例えば、Si系、Li系、Sn系、Mg系、Al系等のコンバージョン型の活物質が挙げられる。なかでも、重量当たりまたは体積当たりのエネルギー密度高さの点で、Si系、Li系、Mg系、Al系の活物質が好ましい。
【0045】
Si系の負極活物質としては、Si、SiOa(ここで0.05<a<1.95)で表される酸化ケイ素、SiCb(0<b<1)で表される炭化ケイ素、SiNc(0<c<4/3)で表される窒化ケイ素、等が挙げられる。
【0046】
また、ケイ素系負極活物質のその他の例として、ケイ素とケイ素以外の元素とからなる合金材料が挙げられる。ケイ素以外の元素としては、例えば、C、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、Ti等が挙げられる。
【0047】
Sn系の負極活物質としては、例えば、スズ、スズ酸化物、スズ窒化物、スズ含有合金等、及びこれらの固溶体等が挙げられる。これらに含有されるスズ原子の一部が1種又は2種以上の元素で置換されていてもよい。
【0048】
酸化物としては、SnOd(0<d<2)で表される酸化スズ、二酸化スズ(SnO2)等が挙げられる。スズ含有合金としては、Ni-Sn合金、Mg-Sn合金、Fe-Sn合金、Cu-Sn合金、Ti-Sn合金等が挙げられる。スズ化合物としては、SnSiO3、Ni2Sn4、Mg2Sn等が挙げられる。
【0049】
Li系の負極活物質としては、Li、In-Li合金、Al-Li合金、Mg-Li合金、Zn-Li合金、Sn-Li合金、Sb-Li合金等が挙げられる。
【0050】
Mg系の負極活物質としては、Mg、Ni-Mg合金、Sn-Mg合金、Fe-Mg合金、Cu-Mg合金、Ti-Mg合金等が挙げられる。
【0051】
Al系の負極活物質としては、Al、Ni-Al合金、Sn-Al合金、Fe-Al合金、Cu-Al合金、Ti-Al合金等が挙げられる。
【0052】
ここで用いられる負極活物質は、粒子として含有され、そのレーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、例えば1μm~20μm程度が適当であり、2μm~10μm程度が特に好ましい。
【0053】
なお、負極層12には、負極活物質の他に固体電解質を含有させることもできる。さらに、従来のこの種の電池の負極層と同様に種々の任意成分を含ませることができる。この任意成分としては、導電助剤やバインダー等が挙げられる。
【0054】
この負極層12に含まれる固体電解質、導電助剤およびバインダーは、それぞれ、上述した正極層11に含まれる任意成分として説明した成分と同様のものを用いることができる。そのため、これら成分の詳細な説明は省略する。
【0055】
なお、負極層12の厚みは、後で説明する関係を満たすようにできれば、その厚みは、特に限定されない。この負極層12の厚みは、例えば、10μm~500μmの範囲とすることが好ましい。
【0056】
(固体電解質層)
本実施形態に用いられる固体電解質層13は、全固体電池に用いられる公知の固体電解質層で構成でき、従来と同様、種々の固体電解質を含むことができ、何ら限定されるものではない。
【0057】
この固体電解質層13は、
図1に示したように、正極層11と負極層12の間に形成され、正極層11および負極層12とそれぞれ接触してリチウムイオン等の電荷担体が移動できるように構成される。この固体電解質層13は、セパレーターとしての役割を果たし、リチウムイオンは透過しつつ、正極層11と負極層12との短絡を防止する。
【0058】
ここで、固体電解質層13を形成する材料としては、上記正極層11および負極層12で説明した固体電解質と同種のものを好適に用いることができる。そのため、この成分の詳細な説明は省略する。
【0059】
(正極集電体)
正極集電体14は、この種の電池の正極集電体として用いられるものを特に制限なく使用することができる。典型的には、良好な導電性を有する金属製の正極集電体が好ましく、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼、銅とそれぞれにカーボンコートされたアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼、銅(プライマーコート箔)等の金属材から構成される。特にステンレス(例えばステンレス箔)が好ましい。正極集電体14の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm~50μm程度が適当であり、8μm~30μm程度がより好ましい。
【0060】
(負極集電体)
負極集電体15は、この種の電池の負極集電体として用いられるものを特に制限なく使用することができる。典型的には、良好な導電性を有する金属製の負極集電体が好ましく、例えば、銅(例えば銅箔)や銅を主体とする合金を用いることができる。負極集電体15の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm~50μm程度が適当であり、8μm~30μm程度がより好ましい。
【0061】
(正極層と負極層の組合せ)
さらに、本実施の形態においては、上記説明した正極層11と負極層12とを所定の関係となるように組み合わせて構成することを特徴とする。
【0062】
まず、正極層11と負極層12における、活物質の理論膨張率、その活物質を含有する電極材料の膨張率、その電極材料を用いて形成した電極層の実膨張率について説明する。
【0063】
上記したように、膨張収縮は、充放電における、正極活物質および負極活物質の体積変化により生じるものであり、含有する正極活物質および負極活物質の種類、量および電極層の厚みに応じて決定される。
【0064】
〈活物質の理論膨張率〉
活物質の理論膨張率は、その種類によって固有のものである。正極活物質および負極活物質のいくつかについて、例えば、表1に示した。なお、本明細書では、25℃において、Li金属の体積変化量を100%としたときの理論膨張率(体積膨張率)で示している。
【0065】
【0066】
〈電極層の膨張率〉
そして、正極層11および負極層12の膨張率は、その正極層11中に含有される正極活物質の含有割合により算出される。同様に、負極層12の膨張率は、負極層12中に含有される負極活物質の含有割合により算出される。すなわち、ここで記載している、電極層の膨張率は、電極層を形成する材料(組成物)の膨張率と言うこともできる。
【0067】
ここで用いる電極層を形成する材料のうち、膨張収縮に寄与する材料は活物質である。そのため、正極層11および負極層12における、活物質の含有量によって、その電極層の膨張率を算出できる。また、その含有量を調整することによって、電極層の膨張率を調節することもできる。
【0068】
〈電極層の実膨張比率〉
そして、上記のように算出された正極層11の膨張率と負極層12の膨張率から、全固体電池10に実際に用いる厚みの正極層11および負極層12を形成する。このように使用する厚みを考慮し、正極層11および負極層12の実膨張比率を算出する。この実膨張比率は、正極層11と負極層12の厚みを比率(厚み比率)として用い、以下のように算出する。
【0069】
正極層11における実膨張比率は、上記した正極層11の膨張率と、正極層11の厚み比率から以下の式(1)により、負極層12における実膨張比率は、上記した負極層12の膨張率と、負極層12の厚み比率から以下の式(2)により、それぞれ求められる。なお、この実膨張比率は、全固体電池10の表面温度と内部温度とが同一温度となるような十分な時間経過を条件として、全固体電池10の表面が25℃のときに充放電をスタートしたときの膨張率により算出される。
【0070】
正極層の実膨張比率(Ep)=正極層の膨張率×正極層の厚み比率 ・・・(1)
負極層の実膨張比率(En)=負極層の膨張率×負極層の厚み比率 ・・・(2)
〈電極層の組合せ〉
そして、本実施の形態では、このようにして得られた正極層の実膨張比率(Ep)と負極層の実膨張比率(En)から、それらの差[(Ep)-(En)]の絶対値が10%以下となるような組合わせとして、正極層11および負極層12を形成し、全固体電池10とする。このような関係とするには、上記した電極層の材料で調整もできるが、実際に使用する電極厚みでも調整できる。材料は、電池容量や充放電特性に影響を与えるおそれもあるため、電極厚みで調整する方が現実的である。
【0071】
なお、上記の実膨張比率の差[(Ep)-(En)]の絶対値は、小さいほど好ましく、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
【0072】
より具体的には、以下、表2に示したように、電極材料、電極層を形成することが挙げられる。なお、この表2に記載の組合せは例示であり、これに限定されるものではない。
【0073】
【0074】
表2で、従来例として示したのは、インサーション反応により充放電を行う活物質を電極材料として用いたもので、このような活物質の理論膨張率は、表1に示したように比較的小さく、上記従来の課題として挙げたような不具合が生じにくい。
【0075】
これに対して、電極A~電極Cでは、コンバージョン反応により充放電を行う活物質を電極材料として用いたもので、このような活物質の理論膨張率は、表1に示したように比較的大きく、これら材料を用いて形成した電極層の膨張率も大きくなりやすい。上記表2に示したように、電極層の膨張率が10%を超えるような場合、特に、上記従来の課題で記載した不具合が生じやすくなるため、本実施の形態で示した構成とすることでサイクル特性の低下を効果的に抑制できる。
【0076】
そして、このような関係を満たすようにすることで、サイクル特性の低下を抑制できる原理について、
図2Aおよび
図2Bを参照して説明する。この
図2Aおよび
図2Bは、
図3と同様に、充放電を行った際の挙動を説明するための概念図である。
図2Aは初期充電を行う場合の例、
図2Bは初期放電を行う場合の例である。以下、それぞれについて説明する。
【0077】
まず、本実施の形態で説明した、正極層11、負極層12、その間に形成される固体電解質層13が積層され、さらに正極集電体14および負極集電体15を備えた全固体電池10を用意する(
図2A(a))。
【0078】
次いで、この全固体電池10に対し初期充電を行う。本実施の形態においては、理論膨張率が大きい活物質を含有させているため、この初期充電において、負極層12は積層方向に大きく膨張し、それと同時に正極層11は積層方向に大きく収縮する。このとき、本実施の形態では、上記説明したように、正極層11と負極層12とを、それらの実膨張比率が近くなるように形成している。そのため、正極層11と負極層12における変化量(膨張量および収縮量)が近いため、
図3で説明した全固体電池50と異なり、固体電解質層13は圧縮されない(
図2A(b))。
【0079】
充電が完了した後、放電を行うと、今度は正極層11が膨張し、負極層12が収縮する。ここでも、正極層11と負極層12における変化量(膨張量および収縮量)が近いため、固体電解質層13は負極層12と接触面が引き離されるような力が働かない(
図2A(c))。
【0080】
初期放電を行う場合も、上記と同様に、まず、正極層11、負極層12、その間に形成される固体電解質層13が積層され、さらに正極集電体14および負極集電体15を備えた全固体電池10を用意する(
図2B(a))。
【0081】
次いで、この全固体電池10に対し初期放電を行う。本実施の形態においては、理論膨張率が大きい活物質を含有させているため、この初期放電において、正極層11は積層方向に大きく膨張し、それと同時に負極層12は積層方向に大きく収縮する。このとき、本実施の形態では、上記説明したように、正極層11と負極層12とを、それらの実膨張比率が近くなるように形成している。そのため、正極層11と負極層12における変化量(膨張量および収縮量)が近いため、
図3で説明した全固体電池50と異なり、固体電解質層13は圧縮されない(
図2B(b))。
【0082】
放電が完了した後、充電を行うと、今度は負極層12が膨張し、正極層11が収縮する。ここでも、正極層11と負極層12における変化量(膨張量および収縮量)が近いため、固体電解質層13は負極層12と接触面が引き離されるような力が働かない(
図2B(c))。
【0083】
したがって、本実施の形態における全固体電池10では、充放電を行ったときに、正極層11と固体電解質層13、負極層12と固体電解質層13のいずれの界面においても、大きなストレスを生じさせることなく、それら接触面積が低下して界面抵抗が増加するような事態を抑制できる。これによって、繰り返しの充放電によっても、サイクル特性の著しい劣化を回避し、特性の良好な全固体電池とできる。
【0084】
[全固体電池の製造方法]
本実施の形態の全固体電池の製造方法は、上記説明した構成の全固体電池とすることに特徴を有し、その製造方法は、従来公知の製造方法と同様の操作とできる。すなわち、本実施の形態における全固体電池は、正極層11と、負極層12と、固体電解質層13とをそれぞれ形成し、これらを積層して積層電極体を形成することにより製造できる。
【0085】
例えば、正極層11、負極層12、固体電解質層13それぞれの形成は、従来のこの種の電池と同様、上述した各種成分を含むペースト(スラリー)状組成物として調製し、正極集電体14または負極集電体15上に当該ペースト(スラリー)状組成物を塗布し、乾燥させ、適当な圧力(例えば5MPa~300MPa程度)でプレスすることにより、形成することができる。
【0086】
そして、正極層11と負極層12を、固体電解質層13を介して積層配置して積層電極体とし、次いで、この積層電極体を所定のプレス圧(例えば2~4トン/cm2)でプレスすることにより、積層電極体の機械的強度と各層における導電性(換言すればイオン伝導経路)を向上させる。そして、外部接続用の正極端子および負極端子(図示せず)を正極集電体14および負極集電体15にそれぞれ接続する。
【0087】
このとき、正極層の実膨張比率(Ep)と負極層の実膨張比率(En)から、それらの差[(Ep)-(En)]の絶対値が10%以内となるような組合わせとなるように構成する。
【0088】
このとき、得られた全固体電池を、初回充電処理、さらには初回放電処理を行い、所望によりさらに適当なエージング処理を施すことによって、使用可能な全固体電池(本実施形態では全固体リチウムイオン二次電池)10を製造することができる。
【0089】
本実施形態に係る全固体電池10は、従来のこの種の電池と同様、上記積層して得られた積層体の形状に対応する形状の外装体(図示せず)に収容される。外装体を構成する材質には特に制限はない。例えば、高い物理的強度、放熱性等の観点から、金属製(例えばアルミニウム製)の外装体を好ましく使用することができる。または、積載性や電池モジュール全体の重量が軽量になることから、ラミネートフィルムで構成されていてもよい。この場合の好ましい例として、2つの合成樹脂層の間に金属層を配置した三層構造を有するラミネートフィルムが挙げられる。
【0090】
また、ここで開示される全固体電池を車両の駆動用高出力電源として使用する場合は、複数の全固体電池が相互に接続されるように構成して電池モジュールとすればよい。
【0091】
以上、本発明について、実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれら実施の形態に限定して解釈されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0092】
10,50 全固体電池
11,51 正極層
12,52 負極層
13,53 固体電解質層
14,54 正極集電体
15,55 負極集電体