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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025559
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】光応答性ポリアミド
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/44 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
C08G69/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129081
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】高田 健司
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 翔
(72)【発明者】
【氏名】イン コウエイ
(72)【発明者】
【氏名】金子 達雄
【テーマコード(参考)】
4J001
【Fターム(参考)】
4J001DA03
4J001DB03
4J001DC03
4J001DC14
4J001DC24
4J001EA12
4J001EE29A
4J001EE64A
4J001FA01
4J001FB01
4J001FC01
4J001FD01
4J001GA12
4J001GB02
4J001GC03
4J001GD06
4J001JA01
4J001JB50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光線の照射による変形性に優れている光応答性ポリアミド、および当該光応答性ポリアミドの原料として有用なアミド化合物を提供する。
【解決手段】式(Ia)で表わされる繰り返し単位および式(Ib)で表わされる繰り返し単位を有する光応答性ポリアミド。


【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(Ia):
【化1】
(式中、R1は置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基または置換基を有していてもよいアリーレン基を示す)
で表わされる繰り返し単位および式(Ib):
【化2】
(式中、R2は水素原子、水酸基、ハロゲン原子またはアルコキシ基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有する光応答性ポリアミド。
【請求項2】
式(II):
【化3】
(式中、R1は置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基または置換基を有していてもよいアリーレン基、R2は水素原子、水酸基、ハロゲン原子またはアルコキシ基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有する請求項1に記載の光応答性ポリアミド。
【請求項3】
式(III):
【化4】
(式中、R1は置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基または置換基を有していてもよいアリーレン基、R2は水素原子、水酸基、ハロゲン原子またはアルコキシ基を示す)
で表わされるアミド化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光応答性ポリアミドに関する。さらに詳しくは、本発明は、光線(紫外線)の照射による変形性、すなわち光応答性に優れていることから、例えば、光スイッチング材料などの用途に有用な光応答性ポリアミドおよび当該光応答性ポリアミドの原料として有用なアミド化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
刺激応答性を有するピロリドン環を主鎖にもつポリアミドとして、その原料モノマーに生物由来のイタコン酸が用いられているポリアミドが提案されている(例えば、特許文献1および非特許文献1-2参照)。当該ポリアミドは、紫外線の照射によりまたはアルカリ条件下に曝されることにより、親水化して分解したり、崩壊したりする性質を有することから、地球環境下で分解するプラスチックとして注目されている。
【0003】
近年、桂皮酸は、天然由来の化合物であることから、持続可能(サスティナブル)な原料として注目を集めている。桂皮酸は、その構造的特徴に起因して紫外線によってシス-トランス異性化と[2+2]環化付加を引き起こすことから、原料として桂皮酸が使用されている高分子化合物は、光(紫外線)応答性材料として用いられている(例えば、特許文献2および非特許文献3-5参照)。
【0004】
イタコン酸由来のポリアミドは、紫外線の照射によって親水化するが、その親水化の速度が低いことが技術的課題である。また、原料として桂皮酸が用いられている高分子化合物は、光線の照射による応答性がシス-トランス異性化および[2+2]環化付加のいずれに基づくのであるのかが明確ではないため、光応答性材料としての利用がほとんど進んでいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-074096号公報
【特許文献2】特開2020-186382号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kaneko T. et al. Macromolecules 2013, 46(10), 3719-3725
【非特許文献2】Adv. Sustainable Syst., 2022, 6(2), 2100052
【非特許文献3】Kaneko, T. et al., Nature Mater. 2006, 5, 966-970
【非特許文献4】Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 11143-11148
【非特許文献5】Takada, K. et al., ACS Appl. Polym. Interfaces 2021, 13(12), 14569-14576
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、原料として天然由来のイタコン酸および桂皮酸化合物を用いることができ、光線の照射による変形性に優れている光応答性ポリアミドおよび当該光応答性ポリアミドの原料として有用なアミド化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1) 式(Ia):
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R1は置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基または置換基を有していてもよいアリーレン基を示す)
で表わされる繰り返し単位および式(Ib):
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R2は水素原子、水酸基、ハロゲン原子またはアルコキシ基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有する光応答性ポリアミド、
【0013】
(2) 式(II):
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、R1は置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基または置換基を有していてもよいアリーレン基、R2は水素原子、水酸基、ハロゲン原子またはアルコキシ基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有する前記(1)に記載の光応答性ポリアミド、および
(3) 式(III):
【0016】
【化4】
【0017】
(式中、R1は置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基または置換基を有していてもよいアリーレン基、R2は水素原子、水酸基、ハロゲン原子またはアルコキシ基を示す)
で表わされるアミド化合物
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、原料として天然由来のイタコン酸および桂皮酸化合物を用いることができ、光線(紫外線)の照射による変形性に優れている光応答性ポリアミドおよび当該光応答性ポリアミドの原料として有用なアミド化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】調製例2で得られたアセチル基含有クマル酸の核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図2】調製例5で得られたアミド化合物の核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図3】実施例1で得られた光応答性ポリアミドAの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図4】実施例1で得られた光応答性ポリアミドAのゲル浸透クロマトグラフィ-のチャートである。
図5】実施例2で得られた光応答性ポリアミドBの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図6】実施例2で得られた光応答性ポリアミドBのゲル浸透クロマトグラフィ-のチャートである。
図7】実施例3で得られた光応答性ポリアミドCの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図8】実施例3で得られた光応答性ポリアミドCのゲル浸透クロマトグラフィ-のチャートである。
図9】実施例1で得られた光応答性ポリアミドAの熱重量分析の結果を示すグラフである。
図10】実施例2で得られた光応答性ポリアミドBの熱重量分析の結果を示すグラフである。
図11】実施例3で得られた光応答性ポリアミドCの熱重量分析の結果を示すグラフである。
図12】実施例2で得られた光応答性ポリアミドBからなるフィルムにフーリエ変換赤外分光スペクトルのチャートである。
図13】実施例2で得られた光応答性ポリアミドBからなるフィルムに紫外線を照射した後のフーリエ変換赤外分光スペクトルのチャートである。
図14】実施例1で得られた光応答性ポリアミドAからなるフィルムに紫外線を照射する前のフィルムの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルおよび紫外線(UV)を2時間、3時間または4時間照射した後のフィルムの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図15】実施例1で得られた光応答性ポリアミドAからなるフィルムに紫外線を照射する前のフィルムの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルおよび紫外線48時間または123時間照射した後のフィルムの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを示すグラフである。
図16】(A)は実施例2で得られた光応答性ポリアミドBからなるフィラメントの図面代用写真、(B)は実施例2で得られた光応答性ポリアミドBからなるフィラメントに紫外線を照射した後の当該フィルムの図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)光応答性ポリアミド
本発明の光応答性ポリアミドは、前記したように、式(Ia):
【0021】
【化5】
【0022】
(式中、R1は置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基または置換基を有していてもよいアリーレン基を示す)
で表わされる繰り返し単位および式(Ib):
【0023】
【化6】
【0024】
(式中、R2は水素原子、水酸基、ハロゲン原子またはアルコキシ基を示す)
で表わされる繰り返し単位を有する。
【0025】
本発明の光応答性ポリアミドは、式(Ia)で表わされる繰り返し単位および式(Ib)で表わされる繰り返し単位を有することから、光線(紫外線)の照射による変形性に優れている。
【0026】
式(Ia)で表わされる繰り返し単位において、R1は、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロアルキレン基または置換基を有していてもよいアリーレン基である。R1の種類を変更することにより、本発明の光応答性ポリアミドの光線(紫外線)の照射による変形性を適宜調整することができる。前記置換基は、本発明の目的を阻害しない範囲内で用いることができる。前記置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1~4のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、シアノ基、ニトリル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。置換基のなかでは、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基およびハロゲン原子が好ましい。
【0027】
前記アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、2-エチルヘキシレン基、デシレン基、ドデシレン基などの炭素数が2~12のアルキレン基などが挙げられる。
【0028】
前記シクロアルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロへキシレン基などの炭素数3~8のシクロアルキレン基などが挙げられる。
【0029】
前記アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基などの炭素数6~12のアリーレン基などが挙げられる。
【0030】
1のなかでは、アルキレン基、シクロアルキレン基およびアリーレン基が好ましく、アルキレン基がより好ましく、炭素数が1~12のアルキレン基がさらに好ましく、炭素数が2~12のアルキレン基がさらに一層好ましい。当該アルキレン基の鎖長を変更することにより、本発明の光応答性ポリアミドの光線(紫外線)の照射による変形性を容易に調整することができる。
【0031】
式(Ib)で表わされる繰り返し単位において、R2は、水素原子、水酸基、ハロゲン原子またはアルコキシ基である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらのハロゲン原子のなかでは、フッ素原子および塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1~4のアルコキシ基などが挙げられる。R2のなかでは、水素原子が好ましい。
【0032】
式(Ib)で表わされる繰り返し単位において、-O-基は、ベンゼン環に結合している-C(=O)CH=CH-基に対し、o位、m位およびp位のうちいずれの位置であってもよいが、p位に存在することが好ましい。
【0033】
本発明の光応答性ポリアミドにおいては、式(Ia)で表わされる繰返し単位および式(Ib)で表わされる繰返し単位は、ランダムに存在していてもよく、交互に存在していてもよく、あるいはブロック状に存在していてもよい。
【0034】
式(Ia)で表わされる繰返し単位と式(Ib)で表わされる繰返し単位とのモル比〔式(Ia)で表わされる繰返し単位/式(Ib)で表わされる繰返し単位〕は、光線(紫外線)の照射による変形性を光応答性ポリアミドに付与する観点から、好ましくは10/90~90/10、より好ましくは15/85~85/15、さらに好ましくは20/80~80/20である。
【0035】
本発明の光応答性ポリアミドの重量平均分子量は、特に限定されないが、光線(紫外線)の照射による変形性を光応答性ポリアミドに付与する観点から、3000~800000であることが好ましく、5000~100000であることがより好ましく、7000~50000であることがさらに好ましい。なお、光応答性ポリアミドの重量平均分子量は、以下の実施例に記載の方法に基づいて測定したときの値である。
【0036】
本発明の光応答性ポリアミドは、例えば、以下の方法に基づいて容易に調製することができるが、本発明は、かかる方法のみによって限定されるものではない。
【0037】
1.光応答性ポリアミドの調製方法A
(1)イタコン酸ジアミン塩の調製
イタコン酸と式(IV):
2N-R1-N2H (IV)
(式中、R1は前記と同じ)
で表わされるジアミンとを反応させることにより、イタコン酸ジアミン塩を得ることができる。
【0038】
イタコン酸とジアミンとの反応は、脱水反応であることから、化学量論的にジカルボン酸1モルに対してイタコン酸1モルが反応することになる。イタコン酸1モルあたりのジアミンの量は、通常、0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0039】
イタコン酸は、例えば、扶桑化学工業(株)、磐田化学工業(株)、カーギル社などから商業的に容易に入手することができる。イタコン酸は、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)などの菌を用いて生産したものであってもよく、原料として石油を使用して合成されたものであってもよい。これらのなかでは、アスペルギルス・テレウスなどの菌を用いて生産されたイタコン酸は、天然由来のものであることから、原料として石油を使用して合成されたイタコン酸と対比して地球環境に優しいという利点を有することから好ましい。
【0040】
式(IV)において、R1は、前記したように、アルキレン基、シクロアルキレン基またはアリーレン基であることが好ましく、アルキレン基であることがより好ましく、炭素数が1~12のアルキレン基であることがさらに好ましく、炭素数が2~12のアルキレン基であることがさらに一層好ましい。式(IV)で表わされるジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、ヘプタンジアミン、オクタンジアミン、ノナンジアミン、デカンジアミンおよびドデカンジアミンなどが挙げられる。これらのジアミンは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらのジアミンのなかでは、光線(紫外線)の照射による変形性を光応答性ポリアミドに付与する観点から、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、ノナンジアミンおよびデカンジアミンが好ましく、ヘキサンジアミンがより好ましい。
【0041】
イタコン酸とジアミンとの反応は、反応効率を高める観点から有機溶媒中で行なうことができる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの炭素数1~4の脂肪族アルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。前記有機溶媒の量は、イタコン酸とジアミンとを効率よく反応させることができる量であればよく、特に限定されないが、通常、イタコン酸とジアミンとの合計量(質量)の3~20倍程度の量であることが好ましく、5~15倍程度の量であることがより好ましい。
【0042】
イタコン酸とジアミンとを反応させる際の雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよく、空気であってもよい。イタコン酸とジアミンとの反応温度は、特に限定がなく、反応効率を高める観点から、5~60℃であることが好ましく、操作性を考慮して室温であることがより好ましい。イタコン酸とジアミンとの反応時間は、反応温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、1~8時間程度である。
【0043】
以上のようにしてイタコン酸とジアミンとを反応させることにより、イタコン酸ジアミン塩を含有する反応混合物を得ることができる。
【0044】
生成したイタコン酸ジアミン塩は、そのままの状態で用いてもよく、必要により、洗浄した後に用いてもよく、乾燥させた後に用いてもよい。
【0045】
(2)アセチル基含有桂皮酸化合物の調製
アセチル基含有桂皮酸化合物は、桂皮酸化合物とアセチル化剤とを反応させることによって調製することができる。
【0046】
桂皮酸化合物としては、例えば、式(V):
【0047】
【化7】
【0048】
(式中、R2は前記と同じ。R3は水素原子またはアルカリ金属原子を示す)
で表わされる桂皮酸化合物などが挙げられる。桂皮酸化合物の具体例としては、桂皮酸、桂皮酸ナトリウム、桂皮酸カリウムなどの桂皮酸アルカリ金属塩、ヒドロキシ桂皮酸であるクマル酸、クマル酸ナトリウム、クマル酸カリウムなどのクマル酸アルカリ金属塩などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。クマル酸は、そのフェニル基に存在する水酸基の位置によってo-クマル酸、m-クマル酸およびp-クマル酸が存在する。これらのクマル酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。桂皮酸およびクマル酸は、いずれも天然に存在するものであり、天然に存在する桂皮酸およびクマル酸は、原料として石油を使用して合成された桂皮酸およびクマル酸と対比して地球環境に優しいという利点を有することから好ましい。
【0049】
式(V)で表わされる桂皮酸化合物において、-OH基およびR2は、ベンゼン環に結合しているOR3-C(=O)CH=CH-基に対し、o位、m位およびp位のうちいずれの位置であってもよい。ベンゼン環に結合している-OH基の位置、R2およびR3を変更することにより、光応答性ポリアミドの光(紫外線)応答性を変化させることができる。
【0050】
アセチル化剤としては、例えば、無水酢酸、無水安息香酸、塩化アセチル、臭化アセチルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアセチル化剤のなかでは、無水酢酸および無水安息香酸が好ましく、無水酢酸がより好ましい。
【0051】
桂皮酸化合物とアセチル化剤とは化学量論的に等モルで反応することから、桂皮酸化合物1モルあたりのアセチル化剤量は、通常、0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0052】
桂皮酸化合物とアセチル化剤とを適量の塩基の存在下で反応させることができる。塩基としては、有機塩基および無機塩基が挙げられる。有機塩基としては、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ルチジンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。無機塩基としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの塩基は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
桂皮酸化合物とアセチル化剤とは、反応効率を高める観点から有機溶媒中で反応させることができる。有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。有機溶媒の量は、桂皮酸化合物とアセチル化剤とを効率よく反応させることができる量であればよく、特に限定されないが、通常、桂皮酸化合物とアセチル化剤との合計量(質量)の3~20倍程度の量であることが好ましく、5~15倍程度の量であることがより好ましい。
【0054】
桂皮酸化合物とアセチル化剤とを反応させる際の雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであってもよく、空気であってもよい。桂皮酸化合物とアセチル化剤との反応温度は、特に限定がなく、反応効率を高める観点から、30℃~還流温度であることが好ましい。桂皮酸化合物とアセチル化剤との反応時間は、反応温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、2.5~6時間程度である。
【0055】
以上のようにして桂皮酸化合物とアセチル化剤とを反応させることにより、アセチル基含有桂皮酸化合物を含有する反応混合物を得ることができる。
【0056】
アセチル基含有桂皮酸化合物は、反応混合物から溶媒を留去し、例えば、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒などを用いて再結晶することにより、精製することができる。
【0057】
(3)光応答性ポリアミドの調製
光応答性ポリアミドは、例えば、イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを溶融重縮合法により重合させることによって調製することができる。より具体的には、以下の方法に基づいて光応答性ポリアミドを調製することができる。
【0058】
まず、イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを混合する。イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを混合する際のイタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とのモル比〔イタコン酸ジアミン塩/アセチル基含有桂皮酸化合物〕は、光線(紫外線)の照射による変形性を光応答性ポリアミドに付与する観点から、好ましくは10/90~90/10、より好ましくは15/85~85/15、さらに好ましくは20/80~80/20である。
【0059】
イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを混合する際の温度は、特に限定されないが、操作性を向上させる観点から室温であることが好ましい。また、イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを混合する際の雰囲気は、空気中に含まれている酸素の影響を回避する観点から、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。
【0060】
つぎに、イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを混合することによって得られた混合物を加熱し、溶融させることにより、イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを縮重合させることができる。
【0061】
前記混合物の加熱温度は、イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを効率よく縮重合させる観点から、好ましくはアセチル基含有桂皮酸化合物の融点以上の温度、より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは200℃以上であり、アセチル基含有桂皮酸化合物の分解を抑制する観点から、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。
【0062】
イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを縮重合させる際の雰囲気は、前記と同様に、空気中に含まれている酸素の影響を回避する観点から、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。前記混合物の加熱時間は、加熱温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、15~30時間程度である。
【0063】
なお、イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物との縮重合により、水が副生する。イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物との縮重合の効率を高める観点から、イタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを縮重合させているときに、副生した水を適宜、反応系内を減圧することによって除去することが好ましい。
【0064】
以上のようにしてイタコン酸ジアミン塩とアセチル基含有桂皮酸化合物とを縮重合させることにより、ポリアミド系オリゴマーを含有する反応混合物を得ることができる。
【0065】
ポリアミド系オリゴマーは、例えば、前記反応混合物をメタノールなどのアルコール中に溶解させ、得られたアルコール溶液を酢酸とエチルヘキサンとの混合溶媒などの混合溶媒中に滴下することにより、ポリアミド系オリゴマーを再沈殿させ、沈殿物からエバポレーターで溶媒を留去することにより、回収することができる。
【0066】
次に、前記で得られたポリアミド系オリゴマーを適量の触媒の存在下で溶融重縮合させる。触媒としては、例えば、酸化アンチモン、酸化バリウム、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸コバルト、コハク酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、ギ酸カドミウム、ジブチル錫ジオキシドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0067】
ポリアミド系オリゴマーの加熱温度は、光応答性ポリアミドを効率よく得る観点から、好ましくはポリアミド系オリゴマーの融点以上の温度、より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは200℃以上であり、ポリアミド系オリゴマーの分解を抑制する観点から、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。
【0068】
ポリアミド系オリゴマーを縮重合させる際の雰囲気は、前記と同様に空気中に含まれている酸素の影響を回避する観点から、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。前記混合物の加熱時間は、加熱温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、25~50時間程度である。
【0069】
なお、ポリアミド系オリゴマーの縮重合の際に水が副生する。ポリアミド系オリゴマーの縮重合の効率を高める観点から、ポリアミド系オリゴマーを縮重合させているときに、副生した水を適宜、反応系内を減圧することによって除去することが好ましい。
【0070】
以上のようにしてポリアミド系オリゴマーを縮重合させることにより、式(Ia)で表わされる繰り返し単位および式(Ib)で表わされる繰り返し単位を有する光応答性ポリアミドを含有する反応混合物を得ることができる。
【0071】
前記で得られた光応答性ポリアミドを含有する反応混合物は、そのままの状態で用いることができるが、必要により、精製した後に用いてもよい。
【0072】
本発明の光応答性ポリアミドは、本発明の目的が阻害されない範囲内で、第三のモノマーを反応系内に含有させることにより、式(Ia)で表わされる繰返し単位および式(Ib)で表わされる繰返し単位以外の繰返し単位が含まれていてもよい。
【0073】
2.光応答性ポリアミドの調製方法B
(1)N-アミノ基含有カルボキシピロリジン化合物の調製
N-アミノ基含有カルボキシピロリジン化合物は、例えば、前記イタコン酸ジアミン塩を室温下で水中に溶解させ、得られた水溶液を還流させ、当該水溶液に含まれている水を留去することにより、容易に調製することができる。
【0074】
(2)アセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物の調製
アセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物は、例えば、有機溶媒中で前記アセチル基含有桂皮酸化合物をハロゲン化剤と反応させることによって容易に得ることができる。
【0075】
ハロゲン化剤としては、例えば、塩化水素、塩化チオニル、塩化スルフリル、三塩化リン、五塩化リン、リン酸トリクロリド、塩化オキサリル、四塩化炭素-トリフェニルホスフィン、臭化水素、三臭化リン、五臭化リン、四臭化炭素-トリフェニルホスフィン、ヨウ化水素、ヨウ素-トリフェニルホスフィンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0076】
アセチル基含有桂皮酸化合物1モルあたりのハロゲン化剤の量は、特に限定されないが、通常、1~3モル程度であることが好ましい。
【0077】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの炭素数1~3の脂肪族アルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、フェノール、クレゾールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0078】
有機溶媒の量は、アセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物を効率よく得ることができる量であればよく、特に限定されないが、通常、アセチル基含有桂皮酸化合物の質量の3~20倍程度の量であることが好ましく、5~15倍程度の量であることがより好ましい。
【0079】
アセチル基含有桂皮酸化合物をハロゲン化させる際の雰囲気は、空気中に含まれている酸素による影響を受けないようにする観点から、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。また、アセチル基含有桂皮酸化合物をハロゲン化物させる際の雰囲気は、常圧であってもよく、必要により減圧または加圧であってもよい。
【0080】
アセチル基含有桂皮酸化合物をハロゲン化させる際の温度は、特に限定されないが、アセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物を効率よく調製する観点から、60℃~還流温度であることが好ましい。アセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化に要する時間は、アセチル基含有桂皮酸化合物をハロゲン化させる際の温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、1.5~5時間程度である。
【0081】
以上のようにしてアセチル基含有桂皮酸化合物をハロゲン化させることにより、アセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物を得ることができる。
【0082】
(3)アミド化合物の調製
アミド化合物は、前記N-アミノ基含有カルボキシピロリジン化合物と前記アセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物とを反応させることにより、容易に調製することができる。
【0083】
N-アミノ基含有カルボキシピロリジン化合物とアセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物との反応は、室温下にて有機溶媒中で行なうことができる。有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、トリフルオロ酢酸、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0084】
有機溶媒の量は、アミド化合物を効率よく得ることができる量であればよく、特に限定されないが、通常、N-アミノ基含有カルボキシピロリジン化合物とアセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物との合計量(容量)の1~10倍程度の量であることが好ましく、3~5倍程度の量であることがより好ましい。
【0085】
なお、N-アミノ基含有カルボキシピロリジン化合物とアセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物との反応は、適量の塩基の存在下で行なうことが好ましい。塩基としては、有機塩基および無機塩基が挙げられる。有機塩基としては、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ルチジンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。無機塩基としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの塩基は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0086】
N-アミノ基含有カルボキシピロリジン化合物とアセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物とを反応させる際の雰囲気は、空気中に含まれている酸素による影響を受けないようにする観点から、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。また、N-アミノ基含有カルボキシピロリジン化合物とアセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物とを反応させる際の雰囲気は、常圧であってもよく、必要により減圧または加圧であってもよい。
【0087】
以上のようにしてN-アミノ基含有カルボキシピロリジン化合物とアセチル基含有桂皮酸化合物のハロゲン化物とを反応させることにより、アミド化合物を含有する反応混合物を得ることができる。前記で得られたアミド化合物は、例えば、酢酸エチルなどの抽出溶媒および水を反応混合物に添加し、有機層を抽出することにより、回収することができる。
【0088】
前記で得られたアミド化合物は、式(III):
【0089】
【化8】
【0090】
(式中、R1およびR2は前記と同じ)
で表わされる。式(III)で表わされるアミド化合物は、本発明の光応答性ポリアミドの原料として好適に用いることができる。
【0091】
(4)光応答性ポリアミドの調製
式(III)で表わされるアミド化合物を重合させることにより、式(II)で表わされる光応答性ポリアミドを得ることができる。
【0092】
式(III)で表わされるアミド化合物を重合させる方法としては、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合法のなかでは、不純物量が少ない光応答性ポリアミドを効率よく調製する観点から、塊状重合法が好ましい。塊状重合法によって光応答性ポリアミドを調製する場合、式(III)で表わされるアミド化合物を150~250℃程度の重合温度に加熱し、重合させることにより、光応答性ポリアミドを得ることができる。
【0093】
式(III)で表わされるアミド化合物を重合させる際の雰囲気は、空気中に含まれている酸素の影響を回避する観点から、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。前記アミド化合物の重合時間は、重合温度によって異なるので一概には決定することができないが、通常、5~20時間程度である。
【0094】
前記アミド化合物を重合させる際には、光応答性ポリアミドを効率よく調製する観点から、触媒を適量で用いることが好ましい。触媒としては、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。触媒のなかでは、リン酸二水素ナトリウムが好ましい。
【0095】
なお、前記アミド化合物の重合の際に水が副生する。前記アミド化合物の重合反応の効率を高める観点から、前記アミド化合物を重合させているときに、副生した水を適宜、反応系内を減圧することによって除去することが好ましい。
【0096】
以上のようにして前記アミド化合物を重合させることにより、光応答性ポリアミドを得ることができる。前記で得られた光応答性ポリアミドは、必要により、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドなどの溶媒に溶解させた後、アセトンなどのケトン化合物で沈殿させることによって精製してもよい。また、前記で得られた光応答性ポリアミドは、例えば、減圧乾燥などにより、乾燥させてもよい。
【0097】
以上のようにして得られる光応答性ポリアミドは、式(II):
【0098】
【化9】
【0099】
(式中、R1およびR2は前記と同じ)
で表わされる繰り返し単位を有する。式(II)で表わされる繰り返し単位を有する光応答性ポリアミドは、式(Ia)で表わされる繰返し単位と式(Ib)で表わされる繰返し単位とが結合している構造を有することから、式(Ia)で表わされる繰返し単位と式(Ib)で表わされる繰返し単位とのブロックコポリマーの構造を有する。
【0100】
なお、本発明の式(II)で表わされる繰返し単位を有する光応答性ポリアミドは、本発明の目的が阻害されない範囲内で、式(II)で表わされる繰返し単位以外の繰返し単位が含まれていてもよい。
【0101】
前記で得られた光応答性ポリアミドは、必要により、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドなどの溶媒に溶解させた後、アセトンなどのケトン化合物で沈殿させることによって精製してもよい。また、前記で得られた光応答性ポリアミドは、例えば、減圧乾燥などにより、乾燥させてもよい。
【0102】
本発明の光応答性ポリアミドには、必要により、その用途に応じて添加剤を適量で含有させてもよい。添加剤としては、例えば、顔料、染料などの着色剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、抗酸化剤、防錆剤、抗菌剤、可塑剤、防藻剤、防カビ剤、難燃剤、発泡剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。添加剤の量は、当該添加剤の種類によって異なるので一概には決定することができないことから、当該添加剤の種類に応じて適宜決定することが好ましい。
【0103】
3.光応答性ポリアミドの用途
本発明の光応答性ポリアミドは、紫外線の照射により変形する挙動を示す。光応答性ポリアミドが紫外線の照射により変形する挙動を示すときの紫外線の波長は、特に限定されないが、200~400nmであることが好ましい。本発明の光応答性ポリアミドは、当該紫外線の波長領域のなかで300~400nmの波長を有する紫外線に対し、優れた変形性を呈する。また、本発明の光応答性ポリアミドは、紫外線の照射によって変形させた後、波長が200~250nmである紫外線を照射することにより、元の形状に戻るという性質を有する。
【0104】
したがって、光応答性ポリアミドが変形する挙動を呈するときの波長と、変形した光応答性ポリアミドが元の形状に復元するときの波長とを利用し、波長が異なる紫外線を繰り返して照射することによって形状の変形と復元とを繰り返して行なうことができるので、本発明の光応答性ポリアミドは、例えば、光で稼働し、電気が不要の光可動性モータ、光駆動アクチュエータ、光信号で動かすことができる人工筋肉、光信号で動かすことができるソフトロボット、光で反応するスイッチなどの種々の用途に使用することが期待される。
【0105】
また、本発明の光応答性ポリアミドは、有機溶媒に溶解することから、当該光応答性ポリアミドを有機溶媒に溶解させることにより、紡糸原液を調製することができる。有機溶媒は、光応答性ポリアミドを溶解させることができるものであればよく、特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ギ酸、トリフルオロ酢酸、酢酸ジメチル、ジメチルスルホキシドなどが挙げられ、これらの有機溶媒のなかから光応答性ポリアミドを溶解させるのに適した有機溶媒を洗濯して用いることが好ましい。
【0106】
本発明の光応答性ポリアミドに対する有機溶媒の量は、当該有機溶媒の種類などによって異なるので一概には決定することができない。通常、紡糸原液が所定の温度で所望の粘度を有するように光応答性ポリアミドを有機溶媒に溶解させることが好ましい。
【0107】
前記で得られた紡糸原液を紡糸口金の細孔から押し出し、有機溶媒を揮散除去することにより、ポリアミド系繊維を製造することができる。
【0108】
また、本発明の光応答性ポリアミドは、熱可塑性を有することから、当該光応答性ポリアミドを加熱溶融させ、溶融紡糸装置を用いて紡糸口金の細孔から射出させることによって溶融紡糸し、ポリアミド系繊維を製造することができる。
【0109】
紡糸口金は、一般に、金と白金との合金、白金とイリジウムとの合金、白金とパラジウムとの合金などの合金で製造されている。紡糸口金の孔径は、目的とするポリアミド系繊維の繊度に応じて適宜決定されるが、通常、0.05~0.1mm程度である。紡糸口金に設けられる孔の数は、特に限定されないが、通常、1個~2万個程度である。
【0110】
ポリアミド系繊維は、単繊維(フィラメント)であってもよく、複数の孔から押し出された複数の単繊維を収束させて1つの束となった繊維であってもよい。
【0111】
以上のようにして得られるポリアミド系繊維には、必要により、水洗、乾燥、捲縮などの処理を施してもよい。
【0112】
前記で得られたポリアミド系繊維の繊度は、当該ポリアミド系繊維の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、当該ポリアミド系繊維の用途などに応じて適宜決定することが好ましい。ポリアミド系繊維の繊度の一例を挙げれば、例えば、1~30デシテックスが挙げられるが、本発明は、当該繊度によって限定されるものではない。ポリアミド系繊維の繊度は、紡糸口金の孔径を調節したり、ポリアミド系繊維を延伸させるときの延伸倍率を調節したりすることにより、容易に調整することができる。
【0113】
前記で得られたポリアミド系繊維は、機械的強度を高めるために必要により延伸させてもよい。ポリアミド系繊維の延伸は、通常、一軸延伸であるが、二軸延伸などの多軸延伸であってもよい。
【0114】
ポリアミド系繊維は、長繊維の状態で用いてもよく、所望の繊維長となるように切断して短繊維として用いてもよい。ポリアミド系繊維の繊維長は、当該ポリアミド系繊維の用途などによって異なることから、当該ポリアミド系繊維の用途などに応じて適宜決定することが好ましい。ポリアミド系繊維は、例えば、織布、不織布、編物などに用いることができる。
【0115】
前記編物は、前記ポリアミド系繊維を用い、メリヤス編機などを用いて製造することができる。編物を製造する際には、前記ポリアミド系繊維をそのままの状態で用いてもよく、例えば、前記ポリアミド系繊維とポリエステル繊維、アクリル繊維などの合成繊維、綿糸、毛糸、生糸などの繊維との混紡糸を用いてもよい。編物としては、例えば、平編み、ゴム編み、パール編みなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0116】
前記織布は、前記ポリアミド系繊維を経糸、緯糸、または経糸と緯糸の双方に用い、織機などを用いて製造することができる。織布は、経緯糸の一部または全部にポリアミド系繊維を含有する混紡糸が用いられた混紡織物であってもよく、経糸と緯糸との組成が相違し、経糸および/または緯糸にポリアミド系繊維が使用されている交織織物であってもよく、さらに本発明のポリアミド系繊維を含有し、繊維径が異なる経糸と緯糸とが用いられている高配織物であってもよい。織布が有する組織としては、例えば、平織り組織、斜文織り組織、綾織り組織、朱子織り組織、変化組織などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0117】
不織布は、前記ポリアミド系繊維を含有する繊維を用い、乾式法または湿式法によって製造することができる。不織布に用いられる繊維は、前記ポリアミド系繊維のみであってもよく、前記ポリアミド系繊維とポリエステル繊維、アクリル繊維などの合成繊維、綿糸、毛糸、生糸などの繊維との混紡糸であってもよい。乾式法としては、例えば、ケミカルポンド法、サーマルポンド法、ニードルパンチ法、エアレイド法などに代表される機械結合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。湿式法としては、例えば、水流交絡法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0118】
また、本発明の光応答性ポリアミドは、有機溶媒に溶解することから有機溶媒溶液として用いることができるので、当該光応答性ポリアミドの有機溶媒溶液を基材の表面上で流延させることにより、フィルムとして用いることができるほか、射出成形材料などの成形材料に好適に用いることができる。
【実施例0119】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の各実施例で得られた化合物の物性は、以下の方法に基づいて調べた。
【0120】
〔化合物の構造〕
化合物の構造は、核磁気共鳴(1H-NMR)およびフーリエ変換赤外分光(FT-IR)によって決定した。
【0121】
(1)核磁気共鳴(1H-NMR)
核磁気共鳴(1H-NMR)は、核磁気共鳴分光装置〔ブルカー(BRUKER)社製、商品名:AVANCE III HD NMR Spectrometer, 400MHz〕を用い、試料5mgをジメチルスルホキシド-d60.5mLに溶解させ、得られた溶液をガラス製試料管に入れ、25℃の温度で積算回数16回にて測定した。
【0122】
(2)フーリエ変換赤外分光(FT-IR)
フーリエ変換赤外分光(FT-IR)は、フーリエ変換赤外分光分析装置〔パーキン・エルマー(Perkin Elmer)社製、商品名:Spectrum 100、ATR法〕を用い、測定波数領域を400~4000cm-1とし、積算回数4回にて測定した。
【0123】
〔ポリマーの平均分子量〕
ポリマーの平均分子量(重量平均分子量および数平均分子量)は、ゲル浸透クロマトグラフィ-(GPC)によって測定した。より具体的には、装置として送液ポンプユニット〔日本分光(株)製、品番:PU-2080〕、カラムオーブン〔ジーエルサイエンス(株)製、品番:CO631A、設定温度:40℃〕、紫外可視検出器〔日本分光(株)製、品番:UV-2075〕、示差屈折計〔日本分光(株)製、品番:RI-2031〕およびカラム〔昭和電工(株)製、商品名:Shodex SB-806M HQ、2本〕を備えたGPC測定装置で測定した。なお、標準試料としてポリメチルメタクリレートスタンダード〔分子量(Mp):3070、7360、18500、68800、211000、569000または1050000)を用い、移動相として臭化リチウムの濃度が0.01mol/Lである臭化リチウムのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を用い、溶液の流速を1.0mL/minとした。
【0124】
〔ポリマーの熱的性質〕
【0125】
ポリマーの熱的性質は、熱重量分析(TGA)および示差走査熱量測定(DSC)によって決定した。
【0126】
(1)熱重量分析(TGA)
熱重量分析は、示差熱熱重量同時測定装置〔(株)日立ハイテクサイエンス製、品番:STA 7200〕を用い、サンプルの量を4~8mgとし、プラチナパンを用いてリファレンスをブランク(サンプルなし)として窒素ガス雰囲気(窒素ガスの流速:250mL/min)中で10℃/minの昇温速度で25℃から800℃までの温度範囲でサンプルを加熱することによって行ない、サンプルの質量が5%減少または10%減少したときの温度をそれぞれ5%重量損失温度(Td5)または10%重量損失温度(Td10)とした。
【0127】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
示差走査熱量測定は、示差走査熱量計(株)日立ハイテクサイエンス製、品番:X-DSC 7000T〕を用い、サンプルの量を3~5mgとし、アルミニウムパンを用いて窒素ガス雰囲気(窒素ガスの流速:40mL/min)中で10℃/minの昇温速度で-20℃から280℃までの温度範囲で昇温し、最高温度で5分間保持した後、最高温度から-20℃まで-10℃/minの降温速度で-20℃まで降温し、-20℃で5分間保持する一連の昇温および降温の操作を3回繰り返して行ない、当該操作を2回または3回行なったときのデータを使用した。
【0128】
調製例1(イタコン酸ヘキサメチレンジアミン塩の調製)
【0129】
【化10】
【0130】
大気中で室温(約25℃)下にてイタコン酸6.53g(50.19mmol)およびヘキサメチレンジアミン5.81g(50.08mmol)をそれぞれエタノール100mL中に溶解させた後、得られた各溶液同士を攪拌下で1時間混合した。得られた混合溶液に含まれている白色沈殿物を吸引濾過によって回収し、60℃の温度で減圧乾燥させることにより、イタコン酸ヘキサメチレンジアミン塩12.21gを白色固体として得た(収率:99%)。
【0131】
調製例2(アセチル基含有クマル酸の調製)
【0132】
【化11】
【0133】
桂皮酸化合物としてヒドロキシ桂皮酸であるm-クマル酸を用いた。大気中でm-クマル酸9.10g(55.43mmol)をトルエン150mL中に添加した後、攪拌下で無水酢酸6.29mLおよびピリジン1.48mLを当該トルエン中に添加し、得られた混合溶液の還流を3時間行なった。
【0134】
次に、エバポレーターで混合溶液に含まれている溶媒を留去し、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用いて室温下で再結晶することにより、アセチル基含有クマル酸11.11gを白色固体として得た(収率:97%)。
【0135】
前記で得られたアセチル基含有クマル酸の核磁気共鳴(1H-NMR)は、以下のとおりである。アセチル基含有クマル酸の核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを図1に示す。
【0136】
〔アセチル基含有クマル酸の核磁気共鳴(1H-NMR)〕
1H-NMR (400MHz, DMSO-d6) δ2.27(s, 3H, CH), 6.55(d, 1H, CH), 7.17(dd, 1H, ArH), 7.45(t, 1H, ArH), 7.50(st, 1H, ArH), 7.55(d, 1H, ArH), 7.59(d, 1H, OH), 12.5(brs, 1H, OH)
【0137】
調製例3(N-アミノヘキサメチレン-2-カルボニル-4-カルボキシピロリジンの調製)
【0138】
【化12】
【0139】
調製例1で得られたヘキサメチレンイタコン酸ジアミン塩4.07g(16.52mmol)を純水10mL中に大気中で溶解させ、得られた水溶液を48時間還流させた後、当該水溶液に含まれている水をエバポレーターで留去することにより、N-アミノヘキサメチレン-2-カルボニル-4-カルボキシピロリジン4.05gを油状で得た(収率:99%)。
【0140】
調製例4(アセチル基含有クマル酸クロリドの調製)
【0141】
【化13】
【0142】
窒素ガス雰囲気中にて塩化チオニルの濃度が1.0mol/Lである塩化チオニルのジクロロメタン溶液50mL中に、調製例2で得られたアセチル基含有クマル酸3.40g(16.50mmol)を添加し、得られた混合溶液を3時間還流させることにより、反応混合物を得た。前記で得られた反応混合物に含まれている溶媒をエバポレーターで留去することにより、アセチル基含有クマル酸クロリド3.52gを油状で得た(収率:95%)。
【0143】
調製例5(アミド化合物の調製)
【0144】
【化14】
【0145】
窒素ガス雰囲気中にて調製例3で得られたN-アミノヘキサメチレン-2-カルボニル-4-カルボキシピロリジン3.42g(15.0mmol)および調製例4で得られたアセチル基含有クマル酸クロリド3.52g(15.67mmol)をそれぞれN,N-ジメチルアセトアミド25mLに溶解させ、得られた各溶液同士を混合し、得られた混合溶液にピリジン1.33mLを添加し、攪拌下で混合した。得られた反応生成物に酢酸エチルおよび純水を添加し、有機層を抽出することにより、アミド化合物5.43gを油状で得た(収率:87%)。
【0146】
前記で得られたアミド化合物の核磁気共鳴(1H-NMR)は、以下のとおりである。アミド化合物の核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを図2に示す。
【0147】
〔アミド化合物の核磁気共鳴(1H-NMR)〕
1H-NMR (400MHz, DMSO-d6) δ1.35-1.50 (br, 4H, -CH2CH2-), 3.10(s, 2H, COCH2), 3.20(m, 1H, HOOCCH-), 6.60(d, 1H, ArH), 6.08(d, 1H, ArH), 7.00-8.00(m, 4H, ArH), 8.05(t, 1H, NH), 12.5(brs, 1H, COOH)
【0148】
実施例1(光応答性ポリアミドAの調製)
【0149】
【化15】
【0150】
調製例1で得られたイタコン酸ヘキサメチレンジアミン塩5.17g(20.99mmol)、調製例2で得られたアセチル基含有クマル酸1.44g(6.98mmol)およびリン酸水素二ナトリウム65.5mgを窒素ガス雰囲気中で室温下にて混合し、得られた混合物を200℃で25.5時間溶融重縮合させた。このとき、重合反応の開始から19時間経過時に減圧を開始した。
【0151】
重合反応の終了後、前記で得られた生成物をメタノール中に溶解させ、得られたメタノール溶液を酢酸とエチルヘキサンとの混合溶媒〔酢酸/エチルヘキサンの容量比:9/1〕中に滴下することにより、ポリアミド系オリゴマーを含有する生成物を再沈殿させた。生成した沈殿物からエバポレーターで溶媒を留去することにより、ポリアミド系オリゴマーを回収した。
【0152】
次に、前記で得られたポリアミド系オリゴマー1.69gおよび酸化アンチモン(III)17.3mgを窒素ガス雰囲気中で混合し、得られた混合物を200℃で48時間溶融重縮合させた。このとき、重合反応の開始から13時間経過時に減圧を開始した。以上のようにして重合反応を行なうことにより、光応答性ポリアミドA1.28gを得た(収率:21%)。光応答性ポリアミドAの数平均分子量(Mn)は4.0×103であり、重量平均分子量(Mw)は7.1×103であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.8であった。
【0153】
光応答性ポリアミドAの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを図3に示す。また、光応答性ポリアミドAのゲル浸透クロマトグラフィ-のチャートを図4に示す。
【0154】
実施例2(光応答性ポリアミドBの調製)
【0155】
【化16】
【0156】
調製例1で得られたイタコン酸ヘキサメチレンジアミン塩4.00g(16.24mmol)、調製例2で得られたアセチル基含有クマル酸3.40g(16.49mmol)およびリン酸水素二ナトリウム73.7mgを窒素ガス雰囲気中で混合し、得られた混合物を200℃で25.5時間溶融重縮合させた。このとき、重合反応の開始から19時間経過時に減圧を開始した。
【0157】
重合反応の終了後、前記で得られた生成物をメタノール中に溶解させ、得られたメタノール溶液を酢酸とエチルヘキサンとの混合溶媒〔酢酸/エチルヘキサンの容量比:9/1〕中に滴下することにより、生成物を再沈殿させた。生成した沈殿物からエバポレーターで溶媒を留去することにより、ポリアミド系オリゴマーを得た。
【0158】
次に、前記で得られたポリアミド系オリゴマー770.1mgおよび酸化アンチモン(III)68.6mgを窒素ガス雰囲気中で混合し、得られた混合物を200℃で48時間溶融重縮合させた。このとき、重合反応の開始から13時間経過時に減圧を開始した。以上のようにして重合反応を行なうことにより、光応答性ポリアミドB168.8mgを得た(収率:21%)。光応答性ポリアミドBの数平均分子量(Mn)は5.4×103であり、重量平均分子量(Mw)は24.2×103であり、分子量分布(Mw/Mn)は4.5であった。
【0159】
前記で得られた光応答性ポリアミドBの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを図5に示す。また、光応答性ポリアミドBのゲル浸透クロマトグラフィ-のチャートを図6に示す。
【0160】
実施例3(光応答性ポリアミドCの調製)
【0161】
【化17】
【0162】
調製例1で得られたイタコン酸ヘキサメチレンジアミン塩2.83g(11.49mmol)、調製例2で得られたアセチル基含有クマル酸7.06g(34.23mmol)およびリン酸水素二ナトリウム96.1mgを窒素ガス雰囲気中で混合し、得られた混合物を200℃で25.5時間溶融重縮合させた。このとき、重合反応の開始から19時間経過時に減圧を開始した。重合反応の終了後、前記で得られた生成物を溶融状態でポリアミド系オリゴマーとして得た。
【0163】
次に、前記で得られたポリアミド系オリゴマー5.0gおよび酸化アンチモン(III)100.1mgを窒素ガス雰囲気中で混合し、得られた混合物を200℃で48時間溶融重縮合させた。このとき、重合反応の開始から13時間経過時に減圧を開始した。以上のようにして重合反応を行なうことにより、光応答性ポリアミドC4.81gを得た(収率:53%)。光応答性ポリアミドCの数平均分子量(Mn)は5.4×103であり、重量平均分子量(Mw)は28.8×103であり、分子量分布(Mw/Mn)は5.3であった。
【0164】
光応答性ポリアミドCの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを図7に示す。また、光応答性ポリアミドCのゲル浸透クロマトグラフィ-のチャートを図8に示す。
【0165】
実施例4(光応答性ポリアミドDの調製)
調製例5で得られたアミド化合物3.0g(113.14mmol)およびリン酸水素二ナトリウム30mgを窒素ガス雰囲気中で室温下にて混合し、得られた混合物を200℃で10時間溶融重縮合させた。このとき、重合反応の開始から8時間経過時に減圧を開始した。
【0166】
以上のようにしてアミド化合物の重合反応を行なうことにより、光応答性ポリアミドD1.63gを得た(収率:54%)。光応答性ポリアミドDの数平均分子量(Mn)は4.5×103であり、重量平均分子量(Mw)は20.2×103であり、分子量分布(Mw/Mn)は4.9であった。前記で得られた光応答性ポリアミドDは、室温下で1H-NMRに使用される溶媒に不溶であったが、光応答性ポリアミドA~Cと同等の光反応性を有することが確認された。
【0167】
〔光応答性ポリアミドの熱的性質〕
前記で得られた光応答性ポリアミドA~Cの熱重量分析(TGA)を行なった。光応答性ポリアミドA~Cの熱重量分析の結果をそれぞれ順に図9~11に示す。
【0168】
また、光応答性ポリアミドA~Dの5%重量損失温度(Td5)、10%重量損失温度(Td10)およびガラス転移温度(Tg)を調べた。その結果を表1に示す。
【0169】
【表1】
【0170】
表1に示された結果から、各実施例で得られた光応答性ポリアミドは、いずれも耐熱温度が340℃以上であることがわかる。
【0171】
〔紫外線照射による光応答性ポリアミドの構造変化〕
室温下で光応答性ポリアミドB235.8mgをN,N-ジメチルアセトアミド2.35mLに溶解させ、得られた溶液をシリンジフィルターで濾過した。回収した濾液を140℃で13時間加熱し、溶媒の一部を揮発させることにより、粘度が高められた光応答性ポリアミドBの溶液を得た。
【0172】
前記で得られた光応答性ポリアミドBの溶液を表面が平滑なガラス板上に滴下させ、100℃で30時間加熱し、次いで室温で9時間減圧乾燥させることにより、フィルムを作製した。このことから、前記で得られた光応答性ポリアミドは、フィルムの形成性に優れていることが確認された。また、前記で得られた光応答性ポリアミドからなるフィルムにセロハン粘着テープを貼付し、ガラス板から剥離しようとしたが、ガラス板から容易に剥離させることができず、剥離させる前に当該フィルムが破壊されたことから、当該フィルムは、ガラス板に対する密着性に優れていることが確認された。
【0173】
次に、前記で得られたフィルムのフーリエ変換赤外分光スペクトルを調べた。その結果を図12に示す。また、前記で得られたフィルムにキセノン光源〔朝日分光(株)製、品番:MAX-303〕を使用し、紫外線(波長:350nm、紫外線強度:26.00mW/cm2)で紫外線を48時間照射した後のフーリエ変換赤外分光スペクトルを調べた。その結果を図13に示す。
【0174】
図12および図13に示された結果から、フィルムに紫外線を照射する前後で700cm-1にみられるシス体に由来の吸収が微増していることがわかる。このことから、紫外線照射によって光応答性ポリアミドの構造が変化することが確認された。
【0175】
つぎに、光応答性ポリアミドBの溶液と同様にして調製した光応答性ポリアミドAの溶液を用い、前記と同様にして製造したフィルムにキセノン光源〔朝日分光(株)製、品番:MAX-303〕を使用し、紫外線(UV)(波長:350nm、紫外線強度:26.00mW/cm2)で紫外線を照射する前のフィルムの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトル、当該当該紫外線(UV)を2時間照射した後のフィルムの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトル、当該紫外線(UV)を3時間照射した後のフィルムの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトル、および当該紫外線(UV)を4時間照射した後のフィルムの核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルを調べた。その結果を図14に示す。
【0176】
図14に示された結果から、フィルムに紫外線を照射することにより、核磁気共鳴(1H-NMR)スペクトルが6ppmよりも小さい箇所でダブルピークが現れたことから、紫外線照射によって光応答性ポリアミド中の桂皮酸に基づく単位がシス異性化を引き起こしていることがわかる。この結果は、図12および図13に示される結果とよく一致している。
【0177】
つぎに、前記によって得られた光変形後の光応答性ポリアミドAからなるフィルムに対して短波長領域の紫外線(波長:250nm、紫外線強度:5.00mW/cm2)を照射する前のフィルムの赤外(IR)スペクトル、当該短波長紫外線(UV)を48時間照射した後のフィルムの赤外(IR)スペクトル、および当該短波長紫外線(UV)を123時間照射した後のフィルムの赤外(IR)スペクトルを調べた。その結果を図15に示す。
【0178】
図15に示された結果から、光変形後の光応答性ポリアミドAからなるフィルムに短波長の紫外線を照射することにより、光応答性ポリアミドA中の桂皮酸に基づく単位のトランス体およびシス体に由来する吸収が微増していることがわかる。このことから短波長の紫外線を照射することによって光応答性ポリアミドの桂皮酸に基づく単位が異性化し、当該光応答性ポリアミドが可逆的な光応答性を有することが示唆される。
【0179】
〔光応答性ポリアミドの光変形性〕
室温下で光応答性ポリアミドA、光応答性ポリアミドB、光応答性ポリアミドCまたは光応答性ポリアミドDをそれぞれ235.8mg秤量し、各光応答性ポリアミドをそれぞれN,N-ジメチルアセトアミド2.35mLに溶解させ、得られた溶液をシリンジフィルターで濾過した。回収した濾液を140℃で13時間加熱し、溶媒の一部を揮発させることにより、粘度が高められた各光応答性ポリアミドの溶液を得た。
【0180】
前記で得られた各光応答性ポリアミドの溶液を用いて直径が約0.5mmであり、長さが1cmであるフィラメントを作製し、当該フィラメントを室温(約25℃)中で十分に乾燥させた。
【0181】
前記で得られた光応答性ポリアミドBからなるフィラメントの一端をピンセットで挟んだときの当該フィラメントの図面代用写真を図16の(A)に示す。つぎに、一端がピンセットで挟まれている当該フィラメントにキセノン光源〔朝日分光(株)製、品番:MAX-303〕を使用し、紫外線(波長:350nm、紫外線強度:26.00mW/cm2)で紫外線を3秒間照射した。紫外線照射後のフィラメントの図面代用写真を図16の(B)に示す。図16に示された結果から、当該フィラメントは、ピンセットにへばりつくように紫外線を照射した側に折れ曲がることが確認された。また、光応答性ポリアミドBからなるフィラメントの代わりに、応答性ポリアミドA、光応答性ポリアミドCまたは光応答性ポリアミドDからなるフィラメントを用いて前記と同様にして紫外線を照射したところ、各フィラメントは、応答性ポリアミドBからなるフィラメントと同様に、ピンセットにへばりつくように紫外線を照射した側に折れ曲がることが確認された。このことから、光応答性ポリアミドは、紫外線を短時間照射することにより、劇的に変形する性質を有することがわかる。
【0182】
このように光応答性ポリアミドが紫外線の照射によって変形するのは、紫外線の照射により、光応答性ポリアミドが有するピロリドン環が開環し、桂皮酸に由来の繰り返し単位が異性化することに基づくと考えられる。また、本発明者らは、光応答性ポリアミドの光(紫外線)応答性の機構(メカニズム)についても時間分解赤外分光法によって解明しており、ピロリドン環と桂皮酸に由来の繰り返し単位の光反応性の評価が可能となった。このことから、当該時間分解赤外分光法によるスペクトルを解析することにより、光(紫外線)照射による変形性の厳密な評価をすることができることがわかる。
【0183】
次に、前記で紫外線を照射することによって変形した各フィラメントにキセノン光源〔朝日分光(株)製、品番:MAX-303〕を使用し、波長が254nm以上の紫外線を遮断するフィルターを介して紫外線(波長:250nm、紫外線強度:1.50mW/cm2)を5秒間照射したところ、当該フィラメントは、紫外線照射前の形状に復元された。このことから、各光応答性ポリアミドは、波長が異なる紫外線の照射により、変形前の元の形状に復元する性質を有することがわかる。
【0184】
次に、前記で得られた各フィラメントにキセノン光源〔朝日分光(株)製、品番:MAX-303〕を使用し、紫外線(波長:350nm、紫外線強度:26.00mW/cm2)で紫外線を5秒間照射し、当該フィラメントに波長が254nm以上の紫外線を遮断するフィルターを介して紫外線(波長:250nm、紫外線強度:1.50mW/cm2)を5秒間照射する一連の操作を10回繰り返したところ、いずれのフィラメントでも、変形と元の形状への復元とが繰り返して行なわれることが確認された。このことから、各光応答性ポリアミドは、波長が異なる紫外線を繰り返して照射したとき、形状の変形と復元とを繰り返して行なうことができることがわかる。
【0185】
〔光応答性ポリアミドの溶解性〕
各光応答性ポリアミド3~5mgに各種溶媒1mLを添加し、室温(約20℃)で静置し、光応答性ポリアミドの添加の開始から1時間経過した時点で光応答性ポリアミドが溶媒に溶解しているかどうかを調べた。その結果を表2に示す。
【0186】
(光応答性ポリアミドの溶解性の評価基準)
+:光応答性ポリアミドが完全に溶解している。
-:光応答性ポリアミドの少なくとも一部が溶解せずに残存している。
【0187】
【表2】
【0188】
表2に示された結果から、各実施例で得られた光応答性ポリアミドA~Dは、いずれも、種々の有機溶媒に対する溶解性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明の光応答性ポリアミドは、紫外線の照射により変形する挙動を示すことから光変形性を有し、変形する挙動を呈するときの波長と異なる光線(紫外線)を照射することにより元の形状に復元するという性質を有しており、波長が異なる紫外線を繰り返して照射したときに形状の変形と復元とを繰り返して行なうことができることから、例えば、光で稼働し、電気が不要の光可動性モータ、光駆動アクチュエータ、光信号で動かすことができる人工筋肉、光信号で動かすことができるソフトロボット、光で反応するスイッチなどの種々の用途に使用することが期待される。
【0190】
本発明の光応答性ポリアミドは、なかでも、太陽光線を分光することによって当該光応答性ポリアミドを変形させる光線と当該光応答性ポリアミドを復元させる光線とを取り出し、これらの光線を利用して当該光応答性ポリアミドの形状の変形と復元を利用して電気が不要のモータなどに使用することが期待される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16