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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025562
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】調湿材および装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/28 20060101AFI20240216BHJP
   C07D 233/61 20060101ALI20240216BHJP
   C07D 231/12 20060101ALI20240216BHJP
   C07D 249/08 20060101ALI20240216BHJP
   B01D 53/26 20060101ALI20240216BHJP
   C07F 9/11 20060101ALI20240216BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B01D53/28
C07D233/61
C07D231/12 E
C07D249/08 527
B01D53/26 300
C07F9/11
C09K3/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129089
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】596049164
【氏名又は名称】公益財団法人豊田理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 僚
(72)【発明者】
【氏名】池上 周司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 達弥
【テーマコード(参考)】
4D052
4H050
【Fターム(参考)】
4D052AA08
4D052CF00
4D052HA09
4D052HA49
4D052HB01
4H050AA03
4H050AB80
(57)【要約】
【課題】 吸湿性に顕著に優れた調湿材および調湿材を含む装置を提供する。
【解決手段】 式(N1)で表されるカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する調湿材。式(N1)中、V、W、X、Y、および、Zは、それぞれ独立に窒素原子またはメチン基を表す。V、W、X、Y、および、Zのうち、1~3つは、窒素原子である。nは2~4の整数を示す。Lはn価の鎖中に1つ以上の酸素原子および/または硫黄原子が含まれていてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(N1)で表されるカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する調湿材。
【化1】
(式(N1)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。5員環を構成する窒素原子に置換するRN1~RN3の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。V、W、X、Y、および、Zは、それぞれ独立に窒素原子またはメチン基を表す。V、W、X、Y、および、Zのうち、1~3つは、窒素原子である。nは2~4の整数を示す。Lはn価の鎖中に1つ以上の酸素原子および/または硫黄原子が含まれていてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
【請求項2】
式(N1)において、Wが窒素原子である、請求項1に記載の調湿材。
【請求項3】
式(N1)において、V、W、X、Y、および、Zのうち、2つまたは3つが窒素原子である、請求項1に記載の調湿材。
【請求項4】
式(N1)において、Lはn価の鎖中に1つ以上の酸素原子および/または硫黄原子が含まれていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載の調湿材。
【請求項5】
式(N1)で表されるカチオンが、式(N1-1)で表されるカチオンを含む、請求項1に記載の調湿材。
【化2】
(式(N1-1)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。5員環を構成する窒素原子に置換するRN1~RN3の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。V、W、X、Y、および、Zは、それぞれ独立に窒素原子またはメチン基を表す。V、W、X、Y、および、Zのうち、1つ~3つは、窒素原子である。nは2~4の整数を示す。Lはn価の鎖中に1つ以上の酸素原子および/または硫黄原子が含まれていてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
【請求項6】
式(N1)で表されるカチオンが、式(N2)で表されるカチオンを含む、請求項1に記載の調湿材。
【化3】
(式(N2)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。5員環を構成する窒素原子に置換するRN1~RN3の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。X、Y、および、Zは、それぞれ独立に窒素原子またはメチン基を表す。X、Y、および、Zのうち、1つまたは2つは、窒素原子である。Lは鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。)
【請求項7】
式(N1)で表されるカチオンが、式(N1-2)で表されるカチオン、式(N1-3)で表されるカチオン、および式(N1-4)で表されるカチオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の調湿材。
【化4】
(式(N1-2)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN1およびRN3の少なくとも一方は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。Lは鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。)
【化5】
(式(N1-3)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN2は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。Lは鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。)
【化6】
(式(N1-4)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN1は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。Lは鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。)
【請求項8】
式(N1)で表されるカチオンが、式(N2-1)で表されるカチオン、式(N2-2)で表されるカチオン、および式(N2-3)で表されるカチオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の調湿材。
【化7】
(式(N2-1)中、RN23は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【化8】
(式(N2-2)中、RN22は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【化9】
(式(N2-3)中、RN21は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【請求項9】
前記リン酸エステルアニオンが式(N3)で表されるアニオンを含む、請求項1に記載の調湿材。
【化10】
(式(N3)中、R21は、水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。R22は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。)
【請求項10】
前記リン酸エステルアニオンが下記式(17)で表されるアニオンおよび/または(18)で表されるアニオンを含む、請求項1に記載の調湿材。
【化11】
【請求項11】
式(N1)で表されるカチオンが、式(N2-1)で表されるカチオン、式(N2-2)で表されるカチオン、および式(N2-3)で表されるカチオンからなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記リン酸エステルアニオンが下記式(17)で表されるアニオンおよび/または(18)で表されるアニオンを含む、請求項1に記載の調湿材。
【化12】
(式(N2-1)中、RN23は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【化13】
(式(N2-2)中、RN22は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【化14】
(式(N2-3)中、RN21は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【化15】
【請求項12】
前記式(N1)で表されるカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩の水溶液と接触する雰囲気の25℃での平衡水蒸気圧が100hPa以下であり、50℃での平衡水蒸気圧が50hPa以上である、請求項1に記載の調湿材。
【請求項13】
前記式(N1)で表されるカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩の水溶液と接触する雰囲気の50℃における平衡水蒸気圧と25℃における平衡水蒸気圧との差を示した値(ΔVP50-25)が40hPa以上である、請求項1に記載の調湿材。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の調湿材を含む装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、空調機や吸収冷凍機に用いられる調湿材、および、空調機や吸収冷凍機等の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デシカント式の空調機においては、空気中の水蒸気を吸収する特性をもつ液体状の調湿材が使用される。非特許文献1~2には、塩化リチウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、トリエチレングリコールを用いた液体状の調湿材が開示されている。特許文献1~4および非特許文献3~7には、イオン液体を用いた液体状の調湿材が開示され、上記イオン液体として、臭化物アニオンおよびテトラフルオロボレート、リン酸ジメチル陰イオン、メチル硫酸陰イオンと、イミダゾリウムカチオン、アルキルホスホニウムカチオン、第4級アンモニウムカチオン、コリニウムカチオンとの塩が開示されている。非特許文献8、9にはリン酸ジメチル陰イオンとコリニウムカチオン、ジカチオン性および環状第4級アンモニウムカチオンとの塩が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2014-505586号公報
【特許文献2】特開2017-221940号公報
【特許文献3】特開2017-154076号公報
【特許文献4】特開2016-052614号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】L. Mei, Y. I. Dai, A technical review on use of liquid-desiccant dehumidification for air-conditioning application, Renewable and Sustainable Energy Reviews, 2008,12,662-689.
【非特許文献2】R. 0. Singh, V. K. Mishra, R. K. Das, Desiccant materials for air condition in applications: A review, lop Conference Series. Materials Science and Engineering, 404 (2018),012005.
【非特許文献3】L. E. Ficke, J. F. Brennecke, Interactions of Ionic Liquids and Water, J. Phy. Chem. B 114 (2010) 10496-10501.
【非特許文献4】L. Jing, Z. Danxing, F. Lihua, W. Xianghong, D. Li, Vapor Pressure Measurement of the Ternary Systems H20 + LiBr + [Dmim]Cl, H20 + LiBr + [Dmim]BF4, H20 + LiCl + [Dmim]Cl, and H20 + LiCl + [Dmim]BF4, J. Chem. Eng. Data 56 (2011) 97-101.
【非特許文献5】Y. Luo, S. Shao, H. Xu, C. Tian, Dehumidification performance of [EMIM]BF4, Appl. Thermal Eng. 31 (2011) 2722-2777.
【非特許文献6】Y. Luo, S. Shao, F. Qin, C. Tian, H. Yang, Investigation on feasibility of ionic liquids used in solar liquid desiccant air conditioning system, Solar Energy 86 (2012) 2718-2724.
【非特許文献7】Watanabe, H. ; Komura, T.; Matsumoto, R.; Ito, K.; Nakayama, H.; Nokami, T.; Itoh, T. Design of Ionic Liquids as Liquid Desiccant for an Air Conditioning System, Green Energy & Environment, 4 (2019), 139-145.
【非特許文献8】Maekawa, S.; Matsumoto, R.; Ito, K.; Nokami, T.; Li, J-X.; Nakayama, H.; Itoh, T.* Design of Quaternary Ammonium Type-Ionic Liquids as Desiccants for an Air-Conditioning System, Green Chemical Engineering, 1 (2020), 109-116.
【非特許文献9】Dicationic Type Quaternary Ammonium Salts as Candidates of Desiccants for an Air-Conditioning System, Itoh, T.; Hiramatsu, M.; Kamada, K.; Nokami, T.; Nakayama, H.; Yagi, K.; Yan, F.; Kim, H-J. ACS Sustainable Chem. Eng., 9 (2021), 14502-14514.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1~2に開示される塩化リチウム水溶液、塩化カルシウム水溶液は、安定して低湿度の空気を得ることができるという利点がある。しかしながら、一般に、これらハロゲン化物イオンのアルカリ金属の水溶液およびアルカリ土類金属の水溶液は、金属腐食性を有している。そのため、これらの物質を調湿材に適用した場合には、空調機や吸収冷凍機等の装置における調湿材が接する部分に、チタン等の耐食性の高い材料を用いなければならないという問題がある。
また、特許文献1~5および非特許文献4~5に開表される調湿材は、イミダゾリウムカチオンからなるイオン液体と構成アニオンとして、臭化物アニオンおよびテトラフルオロボレート陰イオンが用いられている。臭化物アニオンおよびテトラフルオロボレート陰イオンは、金属腐食性を有している点に加えて、取り扱いが難しいという問題もある。
特許文献1ではコリニウムカチオンと乳酸アニオンからなるイオン液体の吸湿性が高いことが報告されているが、乳酸アニオンは不安定で長期の使用に耐えない。非特許文献3ではイミダゾリウム塩イオン液体の吸湿性は主としてアニオンに依存することが報告されており、アセタートアニオンの吸水性が良いことも報告している。しかし、カチオンはイミダゾリウムカチオンしか検討されておらず、イミダゾリウムイオン液体の水溶液は銅などの金属腐食性が大きい(非特許文献7)。また、アセタートアニオンのイオン液体は不安定で長期の使用に耐えないことがわかっている(非特許文献7)。このような問題を解決するために、非特許文献7から9ではアニオンをジメチルリン酸やメチル硫酸に注目してイオン液体の選択が行われ、非特許文献7ではホスホニウムカチオンとジメチルリン酸アニオンの組み合わせからなるイオン液体が優れた吸湿性を示すことを明らかにしており、非特許文献8ではコリニウムカチオンとジメチルリン酸アニオンの組み合わせからなるイオン液体水溶液は吸湿性が大きく、金属腐食性が低いことを報告している。さらに非特許文献9では第4級アンモニウム=ジメチルリン酸塩、なかでもジカチオン性第4級アンモニウムが極めて高い吸湿性を示すことが報告されている。ジカチオン性第4級アンモニウム=リン酸ジメチルは従来報告されている調湿材をすべて凌駕する吸湿性を示すものの、ジカチオン性第4級アンモニウム=ジメチルリン酸塩の水溶液は粘性が比較的高いことがわかった(非特許文献9)。しかし、芳香族性カチオンからなるジカチオン塩やポリカチオン塩の報告はなく、その吸湿性能は未解明であった。
【0006】
特に、上述の通り、多数の調湿材が検討されているが、近年、さらに、良好な吸湿性(吸湿能、水蒸気交換能)を有する、新たな調湿材が求められている。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、吸湿性に顕著に優れた調湿材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもと、本発明者らが検討を行った結果、特定の構造を有するカチオンと、リン酸エステルアニオンから構成される塩を含む調湿材を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>式(N1)で表されるカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する調湿材。
【化1】
(式(N1)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。5員環を構成する窒素原子に置換するRN1~RN3の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。V、W、X、Y、および、Zは、それぞれ独立に窒素原子またはメチン基を表す。V、W、X、Y、および、Zのうち、1~3つは、窒素原子である。nは2~4の整数を示す。Lはn価の鎖中に1つ以上の酸素原子および/または硫黄原子が含まれていてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
<2>式(N1)において、Wが窒素原子である、<1>に記載の調湿材。
<3>式(N1)において、V、W、X、Y、および、Zのうち、2つまたは3つが窒素原子である、<1>または<2>に記載の調湿材。
<4>式(N1)において、Lはn価の鎖中に1つ以上の酸素原子および/または硫黄原子が含まれていてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の調湿材。
<5>式(N1)で表されるカチオンが、式(N1-1)で表されるカチオンを含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化2】
(式(N1-1)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。5員環を構成する窒素原子に置換するRN1~RN3の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。V、W、X、Y、および、Zは、それぞれ独立に窒素原子またはメチン基を表す。V、W、X、Y、および、Zのうち、1つ~3つは、窒素原子である。nは2~4の整数を示す。Lはn価の鎖中に1つ以上の酸素原子および/または硫黄原子が含まれていてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
<6>式(N1)で表されるカチオンが、式(N2)で表されるカチオンを含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化3】
(式(N2)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。5員環を構成する窒素原子に置換するRN1~RN3の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。X、Y、および、Zは、それぞれ独立に窒素原子またはメチン基を表す。X、Y、および、Zのうち、1つまたは2つは、窒素原子である。Lは鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。)
<7>式(N1)で表されるカチオンが、式(N1-2)で表されるカチオン、式(N1-3)で表されるカチオン、および式(N1-4)で表されるカチオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化4】
(式(N1-2)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN1およびRN3の少なくとも一方は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。Lは鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。)
【化5】
(式(N1-3)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN2は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。Lは鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。)
【化6】
(式(N1-4)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN1は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。Lは鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。)
<8>式(N1)で表されるカチオンが、式(N2-1)で表されるカチオン、式(N2-2)で表されるカチオン、および式(N2-3)で表されるカチオンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化7】
(式(N2-1)中、RN23は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【化8】
(式(N2-2)中、RN22は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【化9】
(式(N2-3)中、RN21は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
<9>前記リン酸エステルアニオンが式(N3)で表されるアニオンを含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化10】
(式(N3)中、R21は、水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。R22は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数10以下のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6のアルキルチオ基、または炭素数10以下のポリ(アルキレンチオ)基である。)
<10>前記リン酸エステルアニオンが下記式(17)で表されるアニオンおよび/または(18)で表されるアニオンを含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化11】
<11>式(N1)で表されるカチオンが、式(N2-1)で表されるカチオン、式(N2-2)で表されるカチオン、および式(N2-3)で表されるカチオンからなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記リン酸エステルアニオンが下記式(17)で表されるアニオンおよび/または(18)で表されるアニオンを含む、<1>~<10>のいずれか1つに記載の調湿材。
【化12】
(式(N2-1)中、RN23は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【化13】
(式(N2-2)中、RN22は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【化14】
(式(N2-3)中、RN21は、炭素数1~10のアルキレン基である。Lは-(CH-であり、mは2~10の整数である。)
【化15】
<12>前記式(N1)で表されるカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩の水溶液と接触する雰囲気の25℃での平衡水蒸気圧が100hPa以下であり、50℃での平衡水蒸気圧が50hPa以上である、<1>~<11>のいずれか1つに記載の調湿材。
<13>前記式(N1)で表されるカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩の水溶液と接触する雰囲気の50℃における平衡水蒸気圧と25℃における平衡水蒸気圧との差を示した値(ΔVP50-25)が40hPa以上である、<1>~<12>のいずれか1つに記載の調湿材。
<14><1>~<13>のいずれか1つに記載の調湿材を含む装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、吸湿性が高い調湿材が提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0010】
本明細書において、カチオンが、[ ] n-Lで表される場合、環全体でカチオンを構成していてもよいし、窒素原子部位でカチオンを構成していてもよいことを意味する。また、式(N1-1)等は環全体でカチオンを構成していることを意味する。
【0011】
本実施形態の調湿材は、下記式(N1)で表されるカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩(以下、特定塩と記載する。)を含有することを特徴とする。
前記特定塩を用いることにより、良好な吸湿性(吸湿能、水蒸気交換能)を有する調湿材が得られる。
本発明者らの検討により、イオン液体は水溶液中においてミセル構造の集合体を形成しているであろうことがわかった。水分子はイオン液体を構成するカチオン、アニオンとの水素結合でこの集合体の空隙に捕捉されて入り込むためにイオン液体水溶液に水蒸気が吸収されると推察される。良好な吸湿性が得られた理由は、ジカチオン、トリカチオンまたはテトラカチオンとすることにより、ミセル集合体の構造が変化するため集合体間の空隙も変化し、水分子の捕捉力が向上したと考えられる。
【0012】
<式(N1)で表されるカチオン>
本発明の調湿材は、下記式(N1)で表されるカチオンとリン酸エステルアニオンとから構成される塩を含有する。
【化16】
(式(N1)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。5員環を構成する窒素原子に置換するRN1~RN3の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。V、W、X、Y、および、Zは、それぞれ独立に窒素原子またはメチン基を表す。V、W、X、Y、および、Zのうち、1~3つは、窒素原子である。nは2~4の整数を示す。Lはn価の鎖中に1つ以上の酸素原子および/または硫黄原子が含まれていてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。)
【0013】
式(N1)中、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、またはヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、水素原子、またはメチル基であることが好ましい。
N1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。5員環を構成する窒素原子に置換するRN1~RN3の少なくとも一つは、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、メチル基であることが好ましい。また、炭素数1~12のアルキル基に含まれてもよい酸素原子の数は0~8が好ましく、0~4がより好ましく、0~2がさらに好ましい。本実施形態においては、炭素数1~12のアルキル基に酸素原子は含まれていない方が好ましい。
N1、RN2、RN3、および、RN4は、性能を大きく悪化させるものでなければ、さらに置換基(例えば、ヒドロキシ基、スルファニル基(チオール基)等)を有していてもよい。あるいは、性能を大きく悪化させない範囲で、母核の炭素原子に上記置換基や特定アルキル基等を有していてもよい。しかしながら、本実施形態においては、置換基を有さない方が好ましい。
V、W、X、Y、および、Zは、それぞれ独立に窒素原子またはメチン基を表す。V、W、X、Y、および、Zのうち、1~3つは窒素原子であり、2つまたは3つが窒素原子であることが好ましく、2つが窒素原子であることがより好ましい。また、Wは窒素原子であることが好ましい。Wが窒素原子であるとより吸湿性が向上する。
nは2~4の整数を示し、2であることが好ましい。
Lはn価の鎖中に1つ以上の酸素原子および/または硫黄原子が含まれていてもよい炭素数1~20の炭化水素基である。本実施形態においては、酸素原子および/または硫黄原子は有さない方が好ましい。前記炭素数1~20の炭化水素基は、炭素数1~20の直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~20の直鎖アルキレン基であることがより好ましい。また、前記炭素数1~20の炭化水素基の炭素数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が一層好ましく、5以下がより一層好ましい。
【0014】
式(N1)において、n個の含窒素環は同一であってもよいし、異なっていてもよい。好ましくは同一である。
本実施形態において、式(N1)で表されるカチオンは、式(N1-1)~式(N1-5)で表されることが好ましく、式(N1-1)~式(N1-4)で表されることがより好ましい。
【0015】
<式(N1-1)で表されるカチオン>
上記の式(N1)で表されるカチオンは、下記式(N1-1)で表されるカチオンを含むことが好ましい。
【化17】
式(N1-1)において、RN1、RN2、RN3、RN4、V、W、X、Y、Z、および、nは、前記式(N1)と同義である。
は、前記式(N1)のLと同義である。
【0016】
<式(N2)で表されるカチオン>
上記の式(N1)で表されるカチオンは、下記式(N2)で表されるカチオンを含むことが好ましい。
【化18】
式(N2)において、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、前記式(N1)と同義である。
X、Y、および、Zは、それぞれ独立に窒素原子またはメチン基を表す。X、Y、および、Zのうち、1つまたは2つは窒素原子であり、1つが窒素原子であることが好ましい。
は鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。本実施形態においては、酸素原子は有さない方が好ましい。前記炭素数1~20のアルキレン基の炭素数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が一層好ましく、5以下がより一層好ましい。
【0017】
<式(N1-2)、式(N1-3)、式(N1-4)で表されるカチオン>
式(N1)で表されるカチオンは、式(N1-2)で表されるカチオン、式(N1-3)で表されるカチオン、および式(N1-4)で表されるカチオンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、式(N1-4)を含むことがより好ましい。
【化19】
式(N1-2)において、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、水素原子、またはメチル基であることが好ましい。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN1およびRN3の少なくとも一方は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、メチル基であることが好ましい。
は鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。本実施形態においては、酸素原子は有さない方が好ましい。前記炭素数1~20のアルキレン基の炭素数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が一層好ましく、5以下がより一層好ましい。
【化20】
式(N1-3)において、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、水素原子、またはメチル基であることが好ましい。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN2は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、メチル基であることが好ましい。
は鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。炭素数1~20のアルキレン基の炭素数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が一層好ましく、5以下が一層好ましい。
【化21】
式(N1-4)において、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、水素原子、またはメチル基であることが好ましい。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN1は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、メチル基であることが好ましい。
は鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。前記炭素数1~20のアルキレン基の炭素数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が一層好ましく、5以下がより一層好ましい。
【0018】
<式(N1-5)で表されるカチオン>
式(N1)で表されるカチオンは、式(N1-5)で表されるカチオンを含むことが好ましい。
【化22】
式(N1-5)において、RN1、RN2、RN3、および、RN4は、それぞれ独立して、水素原子、または、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、水素原子、メチル基、または、ブチル基であることが好ましい。RN1、RN2、RN3、および、RN4は、互いに異なっていても同一であってもよい。RN2およびRN3の少なくとも一方は、ヒドロキシ基を有してもよく鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい炭素数1~12のアルキル基である。本実施形態においては、RN1およびRN4は、水素原子が好ましい。また、RN2はメチル基が好ましい。RN3は水素原子または炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
は鎖中に1つ以上の酸素原子が含まれていてもよい、炭素数1~20のアルキレン基である。本実施形態においては、酸素原子は有さない方が好ましい。前記炭素数1~20のアルキレン基の炭素数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が一層好ましく、5以下がより一層好ましい。
【0019】
<式(N2-1)、式(N2-2)、式(N2-3)で表されるカチオン>
式(N1)で表されるカチオンは、式(N2-1)で表されるカチオン、式(N2-2)で表されるカチオン、および式(N2-3)で表されるカチオンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、式(N2-3)がより好ましい。
【化23】
式(N2-1)において、RN23は、炭素数1~10のアルキレン基である。前記炭素数1~10のアルキレン基は、メチル基であることが好ましい。
は-(CH-であり、mは2~10の整数である。前記mは、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が一層好ましく、5以下がより一層好ましい。
【化24】
式(N2-2)中、RN22は、炭素数1~10のアルキレン基である。前記炭素数1~10のアルキレン基は、メチル基であることが好ましい。
は-(CH-であり、mは2~10の整数である。前記mは、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が一層好ましく、5以下がより一層好ましい。
【化25】
式(N2-3)において、RN21は、炭素数1~10のアルキレン基である。前記炭素数1~10のアルキレン基は、メチル基であることが好ましい。
は-(CH-であり、mは2~10の整数である。前記mは、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、6以下が一層好ましく、5以下がより一層好ましい。
【0020】
本実施形態で用いられるカチオンの分子量は、154~1000であることが好ましく、154~450であることがより好ましく、154~350であることがさらに好ましく、154~250であることが一層好ましい。
以下に本実施形態で用いられるカチオンの具体例(1)~(11)を示すが、本発明はこれらに限定されるものでは無いことは言うまでもない。
【化26】
【化27】
【化28】
【0021】
<リン酸エステルアニオン>
本実施形態で用いるリン酸エステルアニオンは、特定のカチオンと塩が形成できる限り、その種類等特に定めるものではないが、中でも式(N3)で表されるリン酸エステルアニオンであることが好ましい。
このようなリン酸エステルアニオンを用いることにより、式(N1)で表されるカチオンと安定な塩を構成し、臭気の発生を効果的に抑制できる。なお、本発明においてリン酸エステルアニオンの語は、リン酸エステルのアニオンに加え、ホスホン酸(亜リン酸)エステルのアニオンあるいはホスフィン酸(次亜リン酸)エステルのアニオンも含む意味である。
【化29】
式(N3)中、R21は、水素原子、水酸基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のヒドロキシアルキル基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素数2~6(好ましくは2~3)のアルケニル基、炭素数10以下(好ましくは3~8)のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルチオ基、または、炭素数10以下(好ましくは3~8)のポリ(アルキレンチオ)基である。
22は、水素原子、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素数2~6(好ましくは2~3)のアルケニル基、炭素数10以下(好ましくは3~8)のポリ(アルキレンオキシ)基、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルチオ基、または、炭素数10以下(好ましくは3~8)のポリ(アルキレンチオ)基である。
21およびR22は中でも、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキル基、および、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルコキシ基であることがさらに好ましく、メトキシ基およびエトキシ基が一層好ましい。
【0022】
本実施形態で用いるリン酸エステルの分子量は、64~650であることが好ましい。
【0023】
以下に、本実施形態で用いられるリン酸エステルアニオンの具体例を示す。ただし、本実施形態におけるリン酸エステルアニオンがこれらに限定されるものではないことは言うまでもない。
【化30】
【化31】
【0024】
<特定塩>
特定塩の具体例は下記式(N4)で表され、さらに具体的には下記式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、および、(6)で表される塩であることが好ましい。
【0025】
【化32】
式(N4)中のRN1~RN4、V、W、X、Y、Z、n、および、Lは式(N1)と同義である。式(N4)中のR21およびR22は式(N3)と同義の基である。
【0026】
例えば、前記式(N2-1)~式(N2-3)で表されるカチオンとリン酸ジメチルアニオンとから構成される塩の典型的な例は下記に示した化学式(1)~(8)である。
【化33】
【化34】
【0027】
式(N1)からRN1~RN4のいずれか一つが省かれた構造のカチオンに、RN1~RN4のいずれかのアルコキシ基を持つトリアルキルリン酸エステルを作用させてオニウム化することにより、特定塩を合成できる。この合成プロセスは、容易に反応が進むため、極めて簡易に特定塩を合成できる。また、メタル交換反応やイオン交換樹脂を用いるアニオン交換を必要としないため、腐食の原因となるハロゲンの混入を抑制できる。
なお、特定塩は、常温で固体であってもよいし、液体(所謂、常温溶融塩(イオン液体))であってもよい。
【0028】
<調湿材>
調湿材は、1種の特定塩を含有するものであってもよいし、上記カチオンおよび上記アニオンの一方または両方が異なる2種以上の特定塩を含有するものであってもよい。
調湿材は、本実施形態の効果を阻害しない範囲内において、通常、調湿材に用いられるその他成分をさらに含有してもよい。
【0029】
調湿材は、水溶液であってもよい。この場合、特定塩は、上記カチオンおよび上記アニオンの状態で含有される。
本実施形態の調湿材は、例えば、デシカント式の空調機、吸収冷凍機に適用できる。なお、本実施形態の調湿材は、開放系および密閉系のいずれの態様でも使用可能であるが、開放系の態様で使用する場合、臭気が抑制されている観点から、特定塩を構成するアニオンが上記リン酸アニオンである調湿材が特に適している。
【0030】
また、別の実施形態では、前記塩は、イオン液体であることが好ましい。イオン液体とは、1気圧で100℃以下の融点を持つものを意味する。特に、本実施形態の調湿材は、少なくとも、0~5℃の範囲で液体であることが好ましい。
本実施形態の調湿材は、上記のとおり、水溶液であってもよく、水溶液であることが好ましい。この場合、先にも述べた通り、特定塩は、上記カチオンおよび上記アニオンの状態で含有される。水の量は、前記塩(イオン液体)と水の合計量に対し10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、水の量が95質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。
さらに、本実施形態の調湿材は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、通常、調湿材に用いられるその他成分をさらに含有してもよい。
【0031】
本実施形態の調湿材は、空調機や吸収冷凍機等の装置に用いることができる。このような装置の例としては、特開2006-142121号公報、特開2018-144029号公報、特開2020-030004号公報等の記載を参酌できる。特に、臭気の発生が抑制されるため、デシカント式の空調機等の開放系の用途に特に適している。
本実施形態の調湿材は、例えば、デシカント式の空調機、吸収冷凍機に好ましく適用できる。なお、本実施形態の調湿材は、開放系および密閉系のいずれの態様でも使用可能であるが、開放系の態様で使用する場合、臭気が抑制されている観点から、特定塩を構成するアニオンが上記リン酸エステルアニオンである調湿材が特に適している。
【0032】
上記構成によれば、吸湿率の高い調湿材が得られる。また、臭気の発生が抑制されるため、デシカント式の空調機等の開放系の用途に特に適している。
【実施例0033】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。また、以下に示す構造式中のEtはエチル基であり、Meはメチル基である。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
本実施例は、特に述べない限り、23℃、相対湿度40%の環境下で行った。
【0034】
<特定塩の合成>
実施例1:1,6-ジ(3-メチルイミダゾ-1-リウム)ヘキサン=ビス(リン酸ジメチル)(2)の合成
【化35】
【0035】
ジムロートコンデンサーと100mL円筒型滴下ロートを装着した500mL三口ナスフラスコに水素化ナトリウム(NaH)(8.14g、 ca.60% in Mineral oil、204mmol)をはかり取り、アルゴン置換したのち、室温で脱水ヘキサン(10mL)を加えて上澄みを取り除き(2回)、鉱物油成分を除いた。ついで、室温で脱水テトラヒドロフラン(THF)100mLを加えて懸濁液とし、これに0℃で1H-イミダゾール(10)(13.20g、194mmol)の脱水THF(50mL)溶液を1時間かけて滴下し、室温でさらに1時間攪拌した。この時、水素ガスが発生するため、発生した水素ガスを逃がしながら反応系内にナトリウム塩(11)を生成させた。この溶液中に1,6-ジブロモヘキサン(26.10g、107mmol)の脱水THF(50mL)溶液を室温で30分かけて滴下し、滴下終了後70℃で24時間撹拌した。室温まで放冷後に0℃で氷片1.0gを加えて5分撹拌し、ついで無水硫酸ナトリウムを加えて室温で30分撹拌したのち、固形物(硫酸ナトリウムと臭化ナトリウム)を濾過して除き、濾液をロータリーエバポレータで溶媒を除くと黄色油状物が得られた。これを減圧条件でClaisen蒸留し、副反応物や鉱物油を留去したところ褐色油状物が残った。これをメタノールに溶解し、活性炭1.5gを加えて室温で1時間攪拌後に活性炭を濾取し、濾液を減圧濃縮すると1,6-ジ(1H-イミダゾール-1-イル)ヘキサン(12)(bp 196℃/4.8hPa(Kugelrohr)、18.10g、83mmol)が収率78%で無色油状物として得られた。
1H NMR (80 MHz, CDCl3) δ1.30-1.48 (4H, m), 1.50-1.94 (4H, m), 3.88 (4H, t, J= 6.4 Hz), 6.98 (2H, d, J= 4.8 Hz), 7.17 (2H, d, J= 4.8 Hz), 7.54 (2H, s); 13C NMR (20 MHz, CDCl3) δ26.1, 31.0, 46.9, 119.0, 122.0, 129.4, 137.1 ppm.
【0036】
1,6-ジ(1H-イミダゾール-1-イル)ヘキサン(12)はイミダゾールよりも高沸点であるため、イミダゾールが未反応で残っているとイミダゾールが留去される際に蒸留管内で固化して詰まるために蒸溜精製が困難になった。この問題はイミダゾールに対してやや過剰に水素化ナトリウムとジブロモヘキサンを使用することで回避できることがわかった。
【0037】
ジムロートコンデンサーを装着した100mL二口フラスコに1,6-ジ(1H-イミダゾール-1-イル)ヘキサン(12)(4.05g、18.6mmol)をとり、室温でリン酸トリメチル(5.71 g、40.8mmol)を室温で加え、アルゴンガス雰囲気下125℃で24時間攪拌した。室温まで放冷後に脱イオン水(50mL)を加えて溶解し、水層をヘキサン(1回)、ジエチルエーテル(2回)洗浄し、水溶液に活性炭1.5gを加えて50℃で1時間攪拌した。活性炭を濾過して除いた水溶液を凍結乾燥、次いで真空ポンプで減圧(50℃、7.4hPa、5時間)し、淡黄色油状物として1,6-ジ(3-メチルイミダゾ-1-リウム)ヘキサン=ビス(リン酸ジメチル)(2)(以下、特定塩(2)と言うことがある)(9.23g、18.5mmol)を収率97%で得た。
1H NMR (80 MHz, D2O) δ1.21-1.40 (4H, m),1.68-1.93(4H, m), 3.49 (6H, s), 3.62 (6H, s), 3.87 (6H, s), 4.16 (4H, t, J= 7.2 Hz), 7.38-7.47 (4H, m), 8.68(2H, brs); 13C NMR (20 MHz, D2O) δ24.9, 29.1, 35.7, 49.4, 52.7, 53.0, 122.2, 123.6, 135.9 ppm; HRMS (ESI) C14H24N4 2+ 248.2002/124.1001;found 124.0966;HRMS(ESI)calcd for C2H6O4P125.000382;found 124.9995.
【0038】
1,3-ジブロモプロパンとイミダゾールを出発体に使用して、同様の方法で、1,3-ジ(3-メチルイミダゾ-1-リウム)プロパン=ビス(リン酸ジメチル)(1)(以下、特定塩(1)と言うことがある)を淡褐色油状物として得た。
1H NMR (80 MHz, D2O) δ2.36-2.72 (4H, m),3.50 (6H, s), 3.63 (6H, s), 3.93 (6H, s), 4.34(4H, t, J= 6.4 Hz), 7.45-7.58 (4H, m), 8.82(2H, brs);13C NMR (20 MHz, D2O) δ29.8, 35.9, 46.4, 52.7, 53.1, 122.2, 124.1, 136.3 ppm;HRMS (ESI) C11H18N4 2+;206.15322/103.07661,found 103.0752;HRMS(ESI)calcd for C2H6O4P125.000382;found 124.9995.
【0039】
実施例2:1,6-ジ(2-メチルピラゾ-1-リウム)ヘキサン=ビス(リン酸ジメチル)(4)の合成
【化36】
【0040】
ジムロートコンデンサーと100mL円筒型滴下ロートを装着した500mL三口ナスフラスコに水素化ナトリウム(NaH)(1.84g、 ca. 60% in Mineral oil、46mmol)をはかり取り、アルゴン置換したのち、室温で脱水ヘキサン(10mL)を加えて、上澄みを取り除く操作を2回行い、鉱物油成分を除いた。ついで、室温で脱水THF(20mL)を加えて懸濁液とし、これに0℃でピラゾール(10)(3.00g、44mmol)の脱水THF(30mL)溶液を1時間かけて滴下した。この時、水素ガスが発生するため、発生した水素ガスを逃がしながら反応させる必要がある。滴下後室温で1時間攪拌してナトリウム塩(14)を生成させた。ついで、1,6-ジブロモヘキサン(4.88g、20mmol)の脱水THF(20mL)溶液を30分かけて滴下し、滴下終了後70℃で24時間撹拌した。放冷後に氷片1.0gを加え、室温で5分撹拌し、ついで無水硫酸ナトリウムを加えて室温で30分撹拌したのち、固形物を濾過して除き、濾液をロータリーエバポレータで溶媒を除くと黄色油状物が得られた。これを減圧条件でKugelrohr蒸留し、1,6-ジ(1H-ピラゾール-1-イル)ヘキサン(12)(bp195℃/6.8hPa、4.22g、19.3mmol)を収率97%で無色油状物として得た。
1H NMR (80 MHz, CDCl3) δ1.27-1.62 (4H, m), 1.78-2.14 (4H, m), 4.20 (4H, t, J= 6.4 Hz), 6.33 (2H, d, J= 1.6 Hz), 7.44 (2H, d, J= 0.8 Hz), 7.60 (2H, d, J= 0.8 Hz); 13C NMR (20 MHz, CDCl3) δ26.2, 30.3, 52.0, 105.3, 129.0, 139.2 ppm.
【0041】
ジムロートコンデンサーを装着した100mL二口フラスコに1,6-ジ(1H-ピラゾール-1-イル)ヘキサン(15)(3.44g、15.8mmol)をとり、室温でリン酸トリメチル(4.87g、34.8mmol)を室温で加え、アルゴン雰囲気下120℃で39時間攪拌した。室温まで放冷後、水(50mL)を加えて溶解したのち、ジエチルエーテルで3回洗浄し、得られた水溶液に活性炭1.0gを加えて50℃で1時間攪拌した。活性炭を濾取したのち、水溶液を凍結乾燥、次いで真空ポンプで減圧(50℃、7.5hPa、5時間)したところ1,6-ジ(2-メチルピラゾ-1-リウム)ヘキサン=ビス(リン酸ジメチル)(4)(以下、特定塩(4)と言うことがある)(7.27g、14.6mmol)が収率92%で白色粉末として得られた。
1H NMR (80 MHz, D2O) δ1.17-1.51 (4H, m),1.78-2.14(4H, m), 3.51 (6H, s), 3.64 (6H, s), 4.12 (6H, s), 4.45 (4H, t, J= 7.2 Hz), 6.78 (4H, d, J= 1.6 Hz), 8.13-8.22(4H, m); 13C NMR (20 MHz, D2O) δ24.9, 27.9, 49.8,52.7, 53.2, 107.3, 136.7, 138.0 ppm; HRMS (ESI) C14H24N4 2+ 248.2002/124.1001;found 124.0966;HRMS(ESI)calcd for C2H6O4P125.000382;found 124.9995.
【0042】
3-ジブロモプロパンとピラゾールを出発体に用いて、同様の方法で1,3-ジ(2-メチルピラゾ-1-リウム)プロパン=ビス(リン酸ジメチル)(3) (以下、特定塩(3)と言うことがある)を無色油状物として合成した。
1H NMR (80 MHz, D2O)δ2.42-2.80 (2H, m),3.52 (6H, s), 3.66 (6H, s), 4.16 (6H, s), 4.65 (4H, t, J= 8.0 Hz), 6.81 (2H, t, J=3.2 Hz), 8.26 (4H, t, J= 4 Hz);13C NMR (20 MHz, D2O) δ27.4, 36.8, 46.3, 53.0, 53.3, 107.9, 137.0, 138.8 ppm;HRMS (ESI) C11H18N4 2+;206.15322/ 103.07661,found 103.0751;HRMS(ESI)calcd for C2H6O4P125.000382;found 124.9995.
【0043】
実施例3:1,6-ジ(1,2,4-トリアゾ-1-リウム)ヘキサン=ビス(リン酸ジメチル)(6)の合成
【化37】
【0044】
ジムロートコンデンサーと100mL円筒形滴下ロートを装着した500mL三口ナスフラスコにナトリウムメトキシド(NaOMe)(10.50g、194mmol)をはかり取り、アルゴン置換したのち、脱水メタノール(85mL)を室温で加えて溶解した。これに0℃で1H-1,2,4-トリアゾール(16)(12.78g、185mmol)の脱水メタノール(50mL)溶液を1時間かけて滴下し、その後、室温で1時間攪拌した。ついで、1,6-ジブロモヘキサン(24.83g、102mmol)の脱水メタノール(50mL)溶液を30分かけて滴下し、滴下終了後70℃で24時間環流した。放冷後、ロータリーエバポレータでメタノール溶媒を除き、残渣に酢酸メチル50mLを加えると臭化ナトリウムが析出した。析出した臭化ナトリウムを濾別し、濾液をロータリーエバポレータ、ついで真空ポンプで減圧乾燥(50℃、5hPa)を行うと、1,6-ジ(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)ヘキサン(18)(19.13g、87mmol)が白色固体として定量的に得られた。
1H NMR (80 MHz, CDCl3) δ1.28-1.55 (4H, m), 1.61-2.11 (4H, m), 4.22 (4H, t, J= 6.4 Hz), 7.98 (2H, s), 8.12 (2H, s);13C NMR (20 MHz, CDCl3) δ25.7, 25.9, 49.5, 143.0, 152.0 ppm
【0045】
ジムロートコンデンサーを装着した500mL一口フラスコに1,6-ジ(1H-ピラゾール-1-イル)ヘキサン(18)(19.13g、86.8mmol)をとり、リン酸トリメチル(24.32g、174mmol)を室温で加え、アルゴンガス雰囲気下で120℃、24時間攪拌した。室温まで放冷後、水(100mL)を加えて溶解したのち、ジエチルエーテルで3回洗浄し、得られた水溶液に活性炭1.5gを加えて50℃で1時間攪拌した。活性炭を濾取したのち、水溶液を凍結乾燥し、次いで真空ポンプで減圧(50℃、3.5hPa、3時間)したところ1,6-ジ(1,2,4-トリアゾ-1-リウム)ヘキサン=ビス(リン酸ジメチル)(6)(以下、特定塩(6)と言うことがある)(43.0g、87.2mmol)が収率92%で褐色固溶体として得られた。
1H NMR (80 MHz, D2O) δ1.10-1.60 (4H, m),1.79-2.05(4H, m), 3.51 (6H, s), 3.64 (6H, s), 3.98(6H, s), 4.42 (4H, t, J= 7.2 Hz), 8.81 (4H, s), 9.75(4H, s);13C NMR (20 MHz, D2O) δ24.8, 27.9, 34.0, 52.3, 52.8, 53.1, 142.5, 145.5 ppm;HRMS (ESI) C12H22N6 2+ 250.19068/125.09534;found 125.1900;HRMS(ESI)calcd for C2H6O4P125.000382;found 124.9995.
【0046】
1,3-ジブロモプロパンと1H-1,2,4-トリアゾールを出発体に使用して、同様の方法で、1,3-ジ(1,2,4-トリアゾ-1-リウム)プロパン=ビス(リン酸ジメチル)(5)(以下、特定塩(5)と言うことがある)を暗褐色油状物として得た。
1H NMR (80 MHz, D2O)δ2.42-2.80 (2H, m),3.52 (6H, s), 3.66 (6H, s), 4.16 (6H, s), 4.65 (4H, t, J= 8.0 Hz), 6.81 (2H, t, J=3.2 Hz), 8.26 (4H, t, J= 4 Hz);13C NMR (20 MHz, D2O) δ27.4, 36.8, 46.3, 53.0, 53.3, 107.9, 137.0, 138.8 ppm;HRMS (ESI) C9H16N6 2+;208.1437/104.007185, found 104.0106;HRMS(ESI)calcd for C2H6O4P125.000382;found 124.9995.
【0047】
<吸湿試験、実施例4>
実施例1~3で合成した特定塩(1)~(6)1.00gを分注したシャーレを、湿度計(株式会社T&D製 照度・紫外線・温度・湿度データロガー TR-74Ui)と共にチャック付き内容量1110cmのポリ袋(旭化成ホームプロダクツ株式会社製 ジップロック(登録商標)、273mm×268mm)に入れて、ポリ袋を封止した。これを30℃の恒温槽に入れて静置し、ポリ袋内の湿度が平衡状態に達するまでのポリ袋内の湿度変化を測定し、モル吸湿率、モル吸湿速度、重量当たり吸収率(グラム吸収率)、および、重量当たり吸収速度(グラム吸湿速度)を算出した。その結果を表1に示す。
【0048】
上記ジカチオン塩(特定塩(1)~(6))、対応するモノカチオン塩(1-エチル-3-メチルイミダゾ-1-リウム=リン酸ジメチル(以下、特定塩(7)と言うことがある)、1-エチル-2-メチルピラゾ-1-リウム=リン酸ジメチル(以下、特定塩(8)と言うことがある)、2-エチル-4-メチル-1,2,4-トリアゾ-1-リウム=リン酸ジメチル(以下、特定塩(9)と言うことがある))、および、現在除湿剤に使用されている塩化カルシウムの吸湿性能比較
【表1】
【0049】
ジカチオン塩(特定塩(1)~(6))を用いた実施例4-1~実施例4-6は、対応するモノカチオン塩(特定塩(7)~(9))を用いた比較例4-1~4-3および現在使用されている表1に示した乾燥用塩化カルシウムを用いた比較例4-4と比較して、はるかに高い吸湿率を示した。また、今回合成した特定塩でもっとも吸湿性能が低い特定塩(2)は、比較例で吸湿性能が高い特定塩(7)と比較するとモルあたりで約1.8倍の吸湿性能を示した。特定塩(1)~(6)のモル当たり吸湿性は、(5)>(4)>(2)>(6)>(1)>(3)の順番であり、グラム当たり吸湿性は(5)>(4)>(2)>(1)>(3)>(6)の順になった。
【0050】
実施例1で合成した特定塩(1)は、比較例4-1で示した対応するモノカチオン塩(特定塩(7))と比較すると30倍以上のモル吸湿率を示した。さらに、実施例1で合成した特定塩(1)のスペーサー部の炭素鎖が長くなる特定塩(2)は、特定塩(7)の40倍以上のモル吸湿率を示した。すなわち、ジカチオン塩(特定塩(1)、(2))は、モノカチオン塩(特定塩(7)のカチオン部を倍にしたもの以上の吸湿率向上が発現したことになる。
【0051】
実施例2で合成した特定塩(3)、(4)は、比較例4-2で示した対応するモノカチオン塩(特定塩(8))と比較すると2倍程度のモル吸湿率を示した。すなわち、ジカチオン塩(特定塩(3)、(4))は、モノカチオン塩(特定塩(8))を倍にしたものに相当する吸湿効果が発現したことになる。
【0052】
実施例3で合成した特定塩(5)は、比較例4-3で示した対応するモノカチオン塩(特定塩(9))と比較すると4倍程度のモル吸湿率を示した。さらに、実施例3で合成した特定塩(5)のスペーサー部の炭素鎖が長くなる特定塩(6)は、特定塩(9)の3倍以上のモル吸湿率を示した。すなわち、ジカチオン塩(特定塩(5)、(6))は、モノカチオン塩(特定塩(9))のカチオン部を倍にした以上の吸湿率向上が発現したことになる。
【0053】
<平衡水蒸気圧測定、実施例5>
実施例1~3で合成した特定塩(1)~(6)の80質量%水溶液を調製し、25℃と50℃の平衡水蒸気圧と、50℃と25℃の平衡水蒸気圧差(ΔVP50-25)を表2に示す。また、現行の液式調湿空調機の調湿材として使用されている30質量%塩化リチウム水溶液の平衡水蒸気圧を比較例5として表2に示した。
【0054】
特定塩(1)~(6)の80質量%水溶液と、30質量%塩化リチウム水溶液の平衡水蒸気圧の温度依存性
【表2】
【0055】
表2の実施例5-1~実施例5-6で示したように、特定塩(1)~(6)の80質量%水溶液の平衡水蒸気圧は、表2の比較例5で示した30質量%塩化リチウム水溶液と同等あるいは幾分低いことがわかった。すなわち、特定塩(1)~(6)の80質量%水溶液の低温(25℃)における吸湿能力は、現行の液式調湿空調機の調湿材として使用されている30質量%塩化リチウム水溶液と同等あるいはそれ以上であることがわかった。
【0056】
液式デシカント空調機用の調湿材は接触させる外気との間で円滑に水蒸気を吸放出させることが必要であり、このためには低温で平衡水蒸気圧が低く、高温で平衡水蒸気圧が高いことが望ましい。かかる観点から、25℃での平衡水蒸気圧は100hPa以下であることが好ましく、70hPa以下であることがより好ましく、50hPa以下であることがさらに好ましく、35hPa以下であることが一層好ましく、30hPa以下であることがより一層好ましく、28hPa以下であることが特に好ましい。下限値は特にないが5hPa以上であることが実際的である。50℃での平衡水蒸気圧は50hPa以上であることが好ましく、80hPa以上であることがより好ましく、100hPa以上が特に好ましい。上限値は特にないが800hPa以下が実際的である。
50℃における平衡水蒸気圧と25℃における平衡水蒸気圧との差を示した値(ΔVP50-25)は、15hPa以上であることが好ましく、20hPa以上であることがより好ましく、30hPa以上であることがさらに好ましく、40hPa以上であることが一層好ましく、75hPa以上であることがより一層好ましく、100hPa以上であることが特に好ましい。上限は特にないが、ΔVP50-25は250hPa以下、さらには200hPa以下であることが実際的である。
【0057】
表2の実施例5-5と比較例5で示した結果から、特定塩(5)の80質量%水溶液のΔVP50-25は、30質量%の塩化リチウム水溶液と較べて大きく、調湿材として好ましい性能を示したことが分かる。一方、他の特定塩の水溶液のΔVP50-25は17hPaから37hPaと非常に小さく、液質調湿空調機用の調湿材としての機能は高くないが、気体と接触させることで強力に湿気を吸収する能力があることを示しており、天然ガスなどの乾燥材などへの用途が期待できる。