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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025573
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240216BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240216BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240216BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129102
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 俊介
(72)【発明者】
【氏名】土井 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 義隆
(72)【発明者】
【氏名】蕪木 智裕
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029HJ00
5H029HJ09
5H029HJ12
5H029HJ20
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA03
5H050FA04
5H050HA00
5H050HA09
5H050HA12
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】固体電解質層の損傷を防ぎ、かつ、固体電解質層の端部を回り込むようなリチウムデンドライトの成長を防ぐことができる全固体電池を提供する。
【解決手段】全固体電池1は、固体電解質層2と、正極層3と、負極構造層4とを備える。正極層3の外周端X1は、固体電解質層2における正極層3に接する側の面の外周端Aに揃っている。負極構造層4の外周端X2は、外周端Aよりも外側に位置している。固体電解質層2における負極構造層4に接する側の面の外周端Bは、外周端X2よりも外側に位置している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、
前記固体電解質層の一方の面上に、前記固体電解質層と接するように積層された正極層と、
前記固体電解質層の他方の面上に、前記固体電解質層と接するように積層された負極構造層と、
を有し、
前記正極層の外周端が外周端X1として定義され、
前記負極構造層の外周端が外周端X2として定義され、
前記固体電解質層における前記正極層に接する側の面の外周端が外周端Aとして定義され、
前記固体電解質層における前記負極構造層に接する側の面の外周端が外周端Bとして定義され、
積層方向に沿って見た場合に、前記外周端X1は前記外周端Aに揃っており、
積層方向に沿って見た場合に、前記外周端Aよりも前記外周端X2の方が外側に位置しており、
積層方向に沿って見た場合に、前記外周端X2よりも前記外周端Bの方が外側に位置している、
全固体電池。
【請求項2】
請求項1に記載された全固体電池であって、
前記固体電解質層は、
前記正極層に接するように設けられた第1固体電解質層と、
前記第1固体電解質層と前記負極構造層との間に設けられた第2固体電解質層とを有する、
全固体電池。
【請求項3】
請求項2に記載された全固体電池であって、
前記第1固体電解質層のヤング率は、前記第2固体電解質層のヤング率よりも大きい、
全固体電池。
【請求項4】
請求項2又は3に記載された全固体電池であって、
前記第2固体電解質層は、支持体と、前記第2固体電解質層用支持体に充填された固体電解質材料とを有する、
全固体電池。
【請求項5】
請求項2又は3に記載された全固体電池であって、
前記第2固体電解質層の空孔率は、前記第1固体電解質層の空孔率よりも小さい、
全固体電池。
【請求項6】
請求項2又は3に記載された全固体電池であって、
前記第2固体電解質層のイオン伝導度は、前記第1固体電解質層のイオン伝導度よりも小さい、
全固体電池。
【請求項7】
請求項2又は3に記載された全固体電池であって、
前記固体電解質層の端部には、前記第1固体電解質層の外周端と、前記第2固体電解質層の外周端とによって段差が形成されている、
全固体電池。
【請求項8】
請求項2又は3に記載された全固体電池であって、
前記固体電解質層は、更に、前記第2固体電解質層と前記負極構造層との間に設けられた第3固体電解質層を有する、
全固体電池。
【請求項9】
請求項8に記載された全固体電池であって、
前記第3固体電解質層は、第3固体電解質層用支持体と、前記第3固体電解質層用支持体に充填された固体電解質材料とを有する、
全固体電池。
【請求項10】
請求項8に記載された全固体電池であって、
積層方向に沿って見た場合に、前記第1固体電解質層の外周端よりも、前記第2固体電解質層の外周端の方が外側に位置しており、前記第2固体電解質層の外周端よりも、前記第3固体電解質層の外周端の方が外側に位置している、
全固体電池。
【請求項11】
請求項8に記載された全固体電池であって、
前記第3固体電解質層のイオン伝導度よりも前記第2固体電解質層のイオン伝導度の方が大きく、
前記第2固体電解質層のイオン伝導度よりも前記第1固体電解質層のイオン伝導度の方が大きい、
全固体電池。
【請求項12】
請求項1又は2に記載された全固体電池であって、
前記負極構造層は、負極保護層を含む、
全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、電解質層を含めて固体の材料により構成される二次電池である。全固体電池では、固体電解質層を挟むように、正極と負極とが設けられる。全固体電池では、一般に、正極と負極との間でリチウムイオンが移動することにより、充放電が行われる。
【0003】
全固体電池においては、充放電に伴い、リチウムデンドライトが生じ、正極と負極とが短絡することがある。従って、リチウムデンドライトによる短絡を防止することが望まれる。
【0004】
上記に関連して、特許文献1には、二次電池のセパレータに用いられる複合構造体であって、固体電解質の緻密層と、固体電解質を含み接合界面を有することなく緻密層と一体で形成された多孔層と、を備えた複合構造体が記載されている。特許文献1の記載によれば、リチウム等の金属が析出する析出場を多孔層に確保し、短絡を防止する緻密層と一体的に形成することによって、イオン伝導性と短絡防止とを両立することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-77571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術によれば、固体電解質層を貫通するようなリチウムデンドライトの成長が防止され、正極と負極との間の短絡が防止される。しかしながら、リチウムデンドライトは、固体電解質層の端部を回り込むように成長する場合がある。
【0007】
本発明者らは、端部を回り込むようなリチウムデンドライトによる短絡を防ぐことを期待して、固体電解質層の外周端を、各電極層の外周端よりも外側に位置させることを検討した。このような構成を採用すれば、一方の電極層から固体電解質層の端部を回り込んで他方の電極層に至る経路が長くなるから、短絡の防止が期待できる。しかしながら、このような構成を採用すると、製造時に固体電解質層の損傷が問題となることが判った。すなわち、全固体電池の製造時には、電極層を固体電解質層に強固に接合させるために、通常、固体電解質層と電極層との積層体が高い圧力でプレスされる。この際、固体電解質層の端部が外側に突き出ていると、固体電解質層の端部に荷重が集中し、固体電解質層が損傷する場合がある。固体電解質層の損傷は、両電極間の短絡につながる。従って、プレス時における固体電解質層の損傷を防ぎつつ、固体電解質層の端部を回り込むようなリチウムデンドライトの成長を防ぐことは難しかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、固体電解質層の損傷を防ぎ、かつ、固体電解質層の端部を回り込むようなリチウムデンドライトの成長を防ぐことができる全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明に係る全固体電池は、固体電解質層と、固体電解質層の一方の面上に、固体電解質層と接するように積層された正極層と、固体電解質層の他方の面上に、固体電解質層と接するように積層された、負極構造層とを有している。正極層の外周端が外周端X1として定義される。負極構造層の外周端が外周端X2として定義される。固体電解質層における正極層に接する側の面の外周端が外周端Aとして定義される。固体電解質層における負極構造層に接する側の面の外周端が外周端Bとして定義される。積層方向に沿って見た場合に、外周端X1は外周端Aに揃っている。積層方向に沿って見た場合に、外周端Aよりも外周端X2の方が外側に位置している。積層方向に沿って見た場合に、外周端X2よりも外周端Bの方が外側に位置している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固体電解質層の損傷を防ぎ、かつ、固体電解質層の端部を回り込むようなリチウムデンドライトの成長を防ぐことができる全固体電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1の実施形態に係る全固体電池を示す概略断面図である。
図2図2は、参考例に係る全固体電池の一部を模式的に示す断面図である。
図3図3は、第2の実施形態に係る全固体電池を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る全固体電池1を示す概略断面図である。この全固体電池1は、正極と負極との間でリチウムイオンが移動することにより充放電が行われる二次電池である。
【0014】
全固体電池1は、固体電解質層2と、正極層3と、負極構造層4と、正極集電体5と、負極集電体6とを有している。これらは、積層方向に沿って積層されている。
【0015】
正極層3は、固体電解質層2の一方の面上(図では下面上)に、固体電解質層2と接するように積層されている。正極層3は、正極活物質を含有しており、電極として機能する。正極層3は、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムを吸蔵するように構成されている。
【0016】
負極構造層4は、固体電解質層2の他方の面上に、固体電解質層2に接するように積層されている。
【0017】
負極構造層4は、負極活物質を有し、充放電時に電池反応が進行する場となる電極(負極)そのものであってもよいが、負極そのものではなくてもよい。例えば、全固体電池においては、負極活物質を含有する負極層が、固体電解質層上に直接形成される場合がある。このような構成を有する全固体電池の場合、負極層そのものが、本実施形態における負極構造層4に該当する。
【0018】
一方で、全固体電池の中には、固体電解質層の負極側に固体電解質層に接するように形成される構造が、「負極保護層」である場合もある。負極保護層は、例えば「全析出型」の全固体電池において採用される構造である。「全析出型」の全固体電池とは、完全放電状態では負極側に負極活物質としてのリチウムが存在せず、充電により正極側から負極側にリチウムイオンが移動し、負極集電体上に金属リチウムが析出するように構成された電池である。このような電池において、充電時に析出する金属リチウムにより、固体電解質層が損傷する場合がある。そこで、固体電解質層の保護のため、固体電解質層上に負極保護層が設けられる場合がある。このような全固体電池では、析出する金属リチウムが負極として機能する。負極保護層は、負極層として機能する場合もあるが、負極層としては機能しない場合もある。このような全固体電池においては、固体電解質層上に直接形成される層が負極保護層であるので、負極保護層が本実施形態における負極構造層4に相当する。
【0019】
固体電解質層2は、正極と負極との間のセパレータとして機能するとともに、リチウムイオン伝導性を有する固体の層である。
【0020】
本実施形態において、固体電解質層2は、2層構造となっている。すなわち、固体電解質層2は、第1固体電解質層2-1と、第2固体電解質層2-2とを有している。第1固体電解質層2-1は、正極層3に接するように設けられている。第2固体電解質層2-2は、第1固体電解質層2-1と負極構造層4との間に設けられている。第2固体電解質層2-2は、負極構造層4に接している。
【0021】
ここで、本実施形態においては、積層方向に沿って見た場合の各層の外周端の位置が工夫されている。なお、説明の便宜上、正極層3の外周端が、外周端X1として定義される。負極構造層4の外周端が、外周端X2として定義される。固体電解質層2における正極層3に接する側の面の外周端が、外周端Aとして定義される。この外周端Aは、第1固体電解質層2-1の外周端であるともいえる。更に、固体電解質層2における負極構造層4に接する側の面の外周端が、外周端Bとして定義される。外周端Bは、第2固体電解質層2-2の外周端であるともいえる。
【0022】
図1に示されるように、積層方向に沿って見た場合に、外周端X1は外周端Aに揃っている。また、積層方向に沿って見た場合に、外周端Aよりも外周端X2の方が外側に位置している。更に、積層方向に沿って見た場合に、外周端X2よりも外周端Bの方が外側に位置している。このような構成により、固体電解質層の損傷を防ぎ、かつ、固体電解質層の端部を回り込むようなリチウムデンドライトの成長を防ぐことができる。以下、その理由を詳述する。
【0023】
まず、本実施形態によれば、外周端X1と外周端Aとが揃っている。すなわち、全固体電池1の端面において、正極層3と固体電解質層2との境界に段差が生じていない。これにより、プレス時における固体電解質層の損傷を防ぐことができる。より詳細な理由について、参考例を参照しつつ説明する。図2は、参考例に係る全固体電池の一部を模式的に示す断面図である。この参考例では、固体電解質層2の外周端A(正極層3に接する側の面の外周端)が、正極層3の外周端X1よりも外側に位置している。すなわち、外周端X1と外周端Aとが揃っておらず、固体電解質層2の端部が横方向(積層方向に垂直な方向)に突き出ている。このような構成において、全固体電池をロールプレス等によりプレスすると、固体電解質層2の端部に荷重が集中する。特に、固体電解質層2のヤング率は、一般的に正極層3のヤング率よりも小さく、両者のヤング率の差は大きい。このような構造の場合、固体電解質層2の端部が損傷しやすくなり、両電極が短絡してしまう場合がある。これに対して、本実施形態によれば、正極層3と固体電解質層2の境界に段差が生じていないから、固体電解質層2の損傷が防止され、両電極間の短絡が防止される。
【0024】
なお、本実施形態において、外周端X1と外周端Aとが「揃っている」とは、プレス時の損傷が防止できる程度に外周端同士の位置が揃っていればよいことを意味しており、製造誤差等によるわずかなずれについては許容される。例えば、積層方向に沿って見た場合における外周端X1と外周端Aとの間のずれ幅が、第1固体電解質層2-1の幅(図1中、WA)の1%以下であれば、外周端X1と外周端Aとは実質的に揃っているといえる。
【0025】
本実施形態においては、更に、積層方向に沿って見た場合に、外周端Bが、外周端X2及び外周端X1(及び外周端A)よりも外側に位置している。このような構成によれば、負極側から固体電解質層2の端部を回り込んで正極側に至るまでの経路が長くなっているから、端部を回り込むようなリチウムデンドライトによる短絡が防止される。
【0026】
以上説明した理由により、本実施形態によれば、固体電解質層2の損傷を防ぎ、かつ、固体電解質層2の端部を回り込むようなリチウムデンドライトの成長を防ぐことができる。その結果、両電極間の短絡をより確実に防止できる。
【0027】
なお、上記に加えて、本実施形態によれば、以下のような効果も奏することができる。
【0028】
本実施形態においては、外周端X2が外周端X1よりも外側に位置している。仮に、外周端X2が外周端X1よりも内側に位置していると、充電時に、負極の端部にリチウムが集中的に析出することになり、リチウムの過剰な析出が起こりやすくなる。これに対して、外周端X2が外周端X1よりも外側に位置していれば、負極側の端部近傍においてリチウムが分散するから、リチウムの過剰な析出を防ぐことができる。これにより、過剰なリチウムの析出による電極間の短絡を防ぐことができる。
【0029】
また、本実施形態によれば、固体電解質層2が、2層構造となっている。2層構造を採用することにより、固体電解質層2を貫通するようなピンホールの発生を防ぐことができる。ピンホールが存在すると、ピンホールを介してリチウムデンドライトが成長しやすくなり、両電極間が短絡しやすくなる。ピンホールの発生を防ぐことにより、両電極間の短絡をより確実に防ぐことができる。
【0030】
なお、本実施形態における固体電解質層2は、第1固体電解質層2-1と第2固体電解質層2-2との間に物理的な界面が形成されるような態様で、2層構造になっていればよい。これにより、ピンホールの発生を防ぐことができる。第1固体電解質層2-1と第2固体電解質層2-2とは、同じ組成を有していてもよいし、異なる組成を有していてもよい。第1固体電解質層2-1と第2固体電解質層2-2との間の界面は、例えば、顕微鏡により観察することにより、確認することができる。
【0031】
なお、本実施形態においては、第1固体電解質層2-1の端部と、第2固体電解質層2-2の端部とによって、固体電解質層2の端面に段差が形成されている。このため、形状的な観点からは、プレス時に第2固体電解質層2-2の端部に荷重が集中することになる。しかしながら、固体電解質層2は通常、正極層3に比べて柔軟である(ヤング率が小さい)。そのため、図2に示したように、固体電解質層2と正極層3の界面に段差が生じている場合に比べると、本実施形態の方が損傷は起こりにくい。
【0032】
なお、外周端Bと外周端Aとの間の距離(積層方向に直交する方向(幅方向)における距離、図1中、ΔW)は、例えば、第1固体電解質層2-1の幅(図1中、WA)の2%以上であり、より好ましくは3~10%である。このような程度で外周端Bが外周端Aよりも外側に位置していることにより、リチウムデンドライトの回り込みを十分に防ぐことができる。また、プレス時に固体電解質層2の端部が損傷するリスクを十分に減らすことができる。
【0033】
好ましくは、第1固体電解質層2-1のヤング率は、第2固体電解質層2-2のヤング率よりも大きい。このような構成を採用することにより、プレス時における固体電解質層2の端部への機械的負荷が抑制され、固体電解質層2の損傷をより確実に防ぐことができる。
【0034】
例えば、第1固体電解質層2-1のヤング率及び第2固体電解質層2-2のヤング率は、それぞれ、10GPa以下である。そして、第1固体電解質層2-1のヤング率と第2固体電解質層2-2のヤング率との差は、例えば2GPa以下である。好ましくは、第1固体電解質層2-1のヤング率は、0.5~2GPaだけ、第2固体電解質層2-2のヤング率よりも、大きい。
【0035】
第1固体電解質層2-1及び第2固体電解質層2-2は、それぞれ、多孔質性であってもよい。すなわち、各固体電解質層(2-1、2-2)には、空孔が存在していてもよい。この場合において、第2固体電解質層2-2の空孔率は、第1固体電解質層2-1の空孔率よりも小さいことが好ましい。空孔率が小さい方が、固体電解質層内においてリチウムデンドライトが成長し難くなる。リチウムデンドライトは、通常、負極側から成長する。負極側に位置する第2固体電解質層2-2の空孔率が小さいことにより、固体電解質層2の負極側におけるリチウムデンドライトの成長が抑制される。その結果、固体電解質層2を貫通するようなリチウムデンドライトの成長がより確実に防止され、両電極間の短絡がより確実に防止される。
【0036】
好ましくは、第2固体電解質層2-2のイオン伝導度は、第1固体電解質層2-1のイオン伝導度よりも小さい。イオン伝導度が小さい方が、固体電解質層2内においてリチウムデンドライトが成長し難くなる。負極側に位置する第2固体電解質層2-2のイオン伝導度が小さいことにより、固体電解質層2における負極側近傍にリチウムデンドライトが生じ難くなる。その結果、固体電解質層2を貫通するようなリチウムデンドライトの成長をより確実に防ぐことができ、両電極間の短絡をより確実に防ぐことができる。
【0037】
続いて、各層の材質や物性等について、詳細に説明する。
【0038】
(正極層)
正極層3は、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる材料により形成されていればよい。正極層は、例えば、樹脂バインダーと、樹脂バインダー中に分散した正極活物質とを含む材料により形成される。正極活物質としては、例えば、リチウム金属複合酸化物などを用いることができる。リチウム金属複合酸化物としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、及びLi(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型化合物、LiMn、及びLiNi0.5Mn1.5等のスピネル型化合物、LiFePO、及びLiMnPO等のオリビン型化合物、並びに、LiFeSiO、及びLiMnSiO等のSi含有化合物等が挙げられる。また、LiTi12なども用いることができる。
【0039】
正極層3の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば10~500μm、好ましくは50~200μmである。
【0040】
正極層3のヤング率は、好ましくは固体電解質層2よりも大きい。正極層3のヤング率は、例えば10GPa超である。
【0041】
(負極構造層)
既述のように、負極構造層は、負極層として機能する層であってもよく、負極保護層であってもよい。なお、負極層であり、かつ、負極保護層として機能する層であってもよい。
【0042】
負極層は、充電時にリチウムを吸蔵し(あるいはリチウムを析出させ)、放電時にリチウムイオンを放出することができるように構成されていればよい。例えば、負極層は、樹脂バインダーと、樹脂バインダーに分散された負極活物質とを含む材料により、形成することができる。負極活物質としては、例えば、リチウム金属、ケイ素材料(シリコン)、スズ材料、ケイ素やスズを含む化合物(酸化物、窒化物、他の金属との合金)、および炭素材料(グラファイト等)を用いることができる。負極層の厚みは、例えば1~100μm、好ましくは5~80μmである。
【0043】
一方、負極保護層は、リチウム反応性材料を含む層により実現することができる。リチウム反応性材料としては、充電時にリチウムイオンを吸蔵放出可能な材料や、充電時にリチウムと合金化可能な金属が挙げられる。
【0044】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料としては、特に制限されないが、炭素材料が好ましい。炭素材料の具体例としては、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイト、ハードカーボン等が挙げられる。中でも、カーボンブラックが好ましく、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックおよびサーマルランプブラックからなる群から選択させる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0045】
リチウムと合金化可能な金属としては、例えば、In、Al、Si、Sn、Mg、Au、Ag、Znなどが挙げられる。中でも、In、Si、Sn、Agが好ましく、Agがより好ましい。
【0046】
リチウム反応性材料は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用しても構わない。2種以上を併用する形態として、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料と、リチウムと合金化可能な金属とを併用することも好ましい。これにより、負極保護層の充分な強度やリチウムイオン伝導性を確保することができる。より詳細には、In、Si、Sn、Agからなるナノ粒子と、カーボンブラックとを併用することが好ましく、Agからなるナノ粒子と、カーボンブラックとを併用することがより好ましい。リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料と、リチウムと合金化可能な金属とを併用する場合のこれらの配合比(質量比)は、特に制限されないが、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料:リチウムと合金化可能な金属が好ましくは10:1~1:1であり、より好ましくは5:1~2:1である。
【0047】
負極保護層におけるリチウム反応性材料の含有量(2種以上の材料を併用する場合はそれらの含有量の合計を指す、以下同様)は、特に制限されないが、50~100質量%の範囲内であることが好ましく、70~100質量%の範囲内であることがより好ましく、85~99質量%の範囲内であることがさらに好ましく、90~100質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0048】
負極保護層は、リチウム反応性材料のみで自立膜を作製可能であれば、リチウム反応性材料のみからなるものであってもよいが、必要に応じてバインダーを含んでもよい。バインダーの種類は、特に制限されず、本技術分野で公知のものを適宜採用することができる。一例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0049】
負極保護層におけるバインダーの含有量は、特に制限されないが、1~15質量%の範囲内であることが好ましく、5~10質量%の範囲内であることがより好ましい。バインダーの含有量が1質量%以上であれば充分な強度を有する負極保護層を形成できる。バインダーの含有量が15質量%以下であれば、充分なリチウムイオン伝導性を有する負極保護層を形成できる。
【0050】
負極保護層の厚さは、特に制限されないが、1~50μmであることが好ましく、5~40μmであることがより好ましく、10~30μmであることがさらに好ましい。負極保護層の厚さが1μm以上であると、負極保護層が有する機能を充分に発揮できる。負極保護層の厚さが50μm以下であると、エネルギー密度の低下を抑制できる。
【0051】
(固体電解質層)
第1固体電解質層2-1及び第2固体電解質層2-2は、それぞれ、固体であり、二次電池における電解質層として機能するように構成されていればよい。例えば、各固体電解質層(2-1、2-2)は、硫化物固体電解質材料及び/又は酸化物固体電解質材料等の固体電解質材料を含む層により、実現することができる。
【0052】
好ましくは、各固体電解質層(2-1、2-2)は、硫化物固体電解質材料を含む。硫化物固体電解質材料としては、例えばLPS系(例えばアルジロダイト(LiPSCl))、およびLGPS系(例えばLi10GeP12)の材料が挙げられる。
【0053】
上述の固体電解質材料は、バインダーに分散されていてもよい。すなわち、各固体電解質層(2-1、2-2)は、バインダー樹脂と、当該バインダー樹脂に分散させられた固体電解質材料を含んでいてもよい。
【0054】
また、固体電解質材料は、支持体によって支持されていてもよい。すなわち、各固体電解質層(2-1、2-2)は、支持体と、その支持体に支持(充填)された固体電解質材料とを含む層により実現されてもよい。支持体としては、例えば、不織布などの多孔質基材を挙げることができる。例えば、多孔質基材に、固体電解質材料を含むスラリーを含浸させることにより、支持体に固体電解質材料が充填された固体電解質層を得ることができる。
【0055】
好ましい一態様においては、第2固体電解質層2-2が、第2固体電解質層用支持体と、第2固体電解質層用支持体に充填された固体電解質材料とを有する。このような構成を採用すれば、固体電解質層2のピンホールをより減らすことができる。また、負極構造層4と第2固体電解質層2-2との接触面積を増加させることができ、充放電時における抵抗を抑制することができる。なお、この態様において、第1固体電解質層2-1は、支持体を有していてもよく、支持体を欠いていてもよい。
【0056】
固体電解質層2全体の厚みは、特に限定されないが、例えば5~100μm、好ましくは20~60μmである。各固体電解質層(2-1及び2-2)の厚みは、例えば、1~70μm、好ましくは10~50μmである。
【0057】
(正極集電体及び負極集電体)
正極集電体5及び負極集電体6は、全固体電池1を外部の装置の電気的に接続するために設けられている。図示していないが、正極集電体5及び負極集電体6は、それぞれ、一端でタブに接続されており、タブを介して外部の装置に電気的に接続される。正極集電体5及び負極集電体6は、それぞれ、導電性の薄膜により形成される。正極集電体5としては、例えばアルミニウム箔などを用いることができる。負極集電体6としては、例えば、ステンレス薄膜、及び銅薄膜などを用いることができる。
【0058】
(製造方法)
本実施形態に係る全固体電池1の製造方法は、特に限定されない。以下に、製造方法の一例を説明する。
【0059】
[正極層の作製]
正極活物質、硫化物固体電解質、導電助剤、バインダー、及びキシレンを所定量秤量して混合し、スラリーを調製する。得られたスラリーを、カーボンコートAl箔(正極集電体5)に塗布し、乾燥させ、厚さが例えば100μmの正極層3を作製する。
【0060】
[固体電解質層の作製]
硫化物固体電解質、バインダー、及びキシレンを所定量混合してスラリーを調製する。調製したスラリーを、SUS箔上に塗工し、乾燥させ、厚さが例えば20μmの固体電解質層を作製する。
【0061】
[負極構造層の作製]
負極活物質(あるいは、負極保護層を形成する場合には、銀粒子及びカーボン粒子)、バインダー、及びNMP(N-メチルピロリドン)を所定量混合し、スラリーを調製する。調製したスラリーを、SUS箔(負極集電体)上に塗布し、乾燥させる。これにより、厚さが例えば10μmの負極構造層4を作製する。
【0062】
[正極/固体電解質層積層体の作製]
正極層3上に、固体電解質層を配置し、ロールプレスすることにより、固体電解質層を正極層3上に転写させる。これにより、第1固体電解質層2-1及び正極層3が形成された正極集電体が得られる。
【0063】
[負極/固体電解質層積層体の作製]
負極構造層4上に固体電解質層を配置し、ロールプレスすることにより、固体電解質層を負極構造層4上に転写させる。これにより、第2固体電解質層2-2及び負極構造層4が形成された負極集電体が得られる。
【0064】
[電極積層体の作製]
続いて、負極構造層などが形成された負極集電体と、正極層などが形成された正極集電体とを積層し、ロールプレスし、電極積層体を得る。その後、正極集電体に正極タブ(アルミニウムタブ)を、負極集電体に負極タブ(ニッケルタブ)をそれぞれ超音波溶接機により接合する。必要に応じて、電極積層体の両面に放熱部材を配置した後、外装材(アルミラミネートフィルム)に収容し、真空封止する。これにより、本実施形態に係る全固体電池1を得ることができる。
【0065】
以上、本実施形態に係る全固体電池1について説明した。なお、本実施形態では、固体電解質層2、正極層3、及び負極構造層4からなる発電要素が単一である場合について説明した。ただし、本実施形態にかかる全固体電池1は、複数の発電要素を含むものであってもよい。例えば、全固体電池1は、複数の正極集電体5及び複数の負極集電体6が交互になるように積層されており、隣り合う正極集電体5と負極集電体6との間に発電要素が配置された構成を有していてもよい。
【0066】
以下に、本実施形態に係る全固体電池1の構成と作用効果の関係について、代表的なものを要約する。
【0067】
本実施形態に係る全固体電池1は、固体電解質層2と、固体電解質層2の一方の面上に、固体電解質層2と接するように積層された正極層3と、固体電解質層2の他方の面上に、固体電解質層2と接するように積層された、負極構造層4とを有している。正極層3の外周端が外周端X1として定義される。負極構造層4の外周端が外周端X2として定義される。固体電解質層2における正極層3に接する側の面の外周端が外周端Aとして定義される。固体電解質層2における負極構造層4に接する側の面の外周端が外周端Bとして定義される。積層方向に沿って見た場合に、外周端X1は外周端Aに揃っている。積層方向に沿って見た場合に、外周端Aよりも外周端X2の方が外側に位置している。積層方向に沿って見た場合に、外周端X2よりも外周端Bの方が外側に位置している。このような構成によれば、外周端Aが外周端X1に揃っているから、プレス時に固体電解質層2の端部に荷重が集中せず、損傷が防止される。また、外周端Bが外周端X2及び外周端X1よりも外側に位置しているから、端部を回り込むようなリチウムデンドライトによる両電極間の短絡が防止される。更に、外周端X2が外周端X1よりも外側に位置しているから、負極端部にリチウムイオンが集中せず、リチウムの過剰な析出が防止される。
【0068】
好ましくは、固体電解質層2は、正極層3に接するように設けられた第1固体電解質層2-1と、第1固体電解質層2-1と負極構造層4との間に設けられた第2固体電解質層2-2とを有する。このような構成によれば、固体電解質層2が2層構造となっているから、固体電解質層2を貫通するようなピンホールの発生を抑制できる。これにより、ピンホールを介したリチウムデンドライトの成長を防止することができ、両電極間の短絡をより確実に防ぐことができる。
【0069】
より好ましくは、第1固体電解質層2-1のヤング率は、第2固体電解質層2-2のヤング率よりも大きい。このような構成を採用することにより、プレス時に、第1固体電解質層2-1と第2固体電解質層2-2との境界に加わる機械的負荷を抑制でき、固体電解質層2の損傷を防ぎやすくなる。
【0070】
好ましくは、第2固体電解質層2-2は、第2固体電解質層用支持体と、第2固体電解質層用支持体に充填された固体電解質材料とを有する。このような構成を採用すれば、固体電解質層2のピンホールをより減らすことができる。また、負極構造層4と第2固体電解質層2-2との接触面積を増加させることができ、充放電時における抵抗を減らすことができる。
【0071】
好ましくは、第2固体電解質層2-2の空孔率は、第1固体電解質層2-1の空孔率よりも小さい。このような構成によれば、固体電解質層2を貫通するようなリチウムデンドライトの成長がより確実に抑制される。その結果、両電極間の短絡をより確実に防ぐことができる。
【0072】
好ましくは、第2固体電解質層2-2のイオン伝導度は、第1固体電解質層2-1のイオン伝導度よりも小さい。このような構成によれば、固体電解質層2を貫通するようなリチウムデンドライトの成長が、より確実に防止される。これにより、両電極間の短絡をより確実に防ぐことができる。
【0073】
好ましくは、負極構造層4は、負極保護層を含む。負極保護層を設けることによって、負極側へのリチウムの析出形態を制御することができる。
【0074】
(第2の実施形態)
続いて、第2の実施形態について説明する。本実施形態においては、固体電解質層2が3層構造となっている。その他の点については、第1の実施形態と同様の構成を採用することができるので、詳細な説明は省略する。
【0075】
図3は、第2の実施形態に係る全固体電池1を示す概略断面図である。この全固体電池1においては、固体電解質層2が、第1固体電解質層2-1、第2固体電解質層2-2、及び第3固体電解質層2-3を有している。すなわち、第2固体電解質層2-2と負極構造層4との間に、第3固体電解質層2-3が追加されている。第3固体電解質層2-3は、負極構造層4に接している。
【0076】
積層方向に沿って見た場合に、第1固体電解質層2-1の外周端よりも、第2固体電解質層2-2の外周端の方が外側に位置している(図中、外周端A及び外周端C参照)。また、第2固体電解質層2-2の外周端よりも、第3固体電解質層2-3の外周端の方が外側に位置している(図中、外周端C及び外周端B参照)。
【0077】
本実施形態によれば、固体電解質層2の端部を回り込むようなリチウムデンドライトの成長が、より確実に抑制される。また、固体電解質層2を貫通するようなピンホールの発生が、より確実に防止される。よって、両電極間の短絡をより確実に防止することができる。
【0078】
好ましくは、第3固体電解質層2-3は、支持体(第3固体電解質層用支持体)と、この支持体に充填された固体電解質材料とを有する。支持体としては、例えば、不織布などの多孔質基材を挙げることができる。例えば、多孔質基材に、固体電解質材料を含むスラリーを含浸させることにより、支持体に固体電解質材料が充填された固体電解質層を得ることができる。このような構成を採用すれば、固体電解質層2のピンホールをより減らすことができる。また、負極構造層4と第3固体電解質層2-3との接触面積を増加させることができ、充放電時における抵抗を抑制することができる。
【0079】
好ましくは、第3固体電解質層2-3のイオン伝導度よりも、第2固体電解質層2-2のイオン伝導度の方が大きい。また、第2固体電解質層2-2のイオン伝導度よりも、第1固体電解質層2-1のイオン伝導度の方が大きい。言い換えれば、固体電解質層2におけるイオン伝導度は、負極に近い側程、小さくなっている。このような構成によれば、固体電解質層2を貫通するようなリチウムデンドライトの発生がより確実に抑制され、両電極間の短絡がより確実に防止される。
【符号の説明】
【0080】
1・・・全固体電池、2・・・固体電解質層、2-1・・・第1固体電解質層、
2-2・・・第2固体電解質層、2-3・・・第3固体電解質層、
3・・・正極層、4・・・負極構造層、5・・・正極集電体、6・・・負極集電体
図1
図2
図3