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特開2024-25590土留用杭、土留壁構造体、及び、土留構造の構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025590
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】土留用杭、土留壁構造体、及び、土留構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/04 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
E02D17/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129137
(22)【出願日】2022-08-13
(71)【出願人】
【識別番号】502281921
【氏名又は名称】森田 善己
(74)【代理人】
【識別番号】100194984
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】森田 善己
(57)【要約】
【課題】簡易な構造であると共に施工が容易で、堅牢な土留壁を構成可能な土留用杭、土留壁構造体、及び、土留構造の構築方法を提供する。
【解決手段】土留壁構造体1は、土留壁を構成する壁材2と土留用杭3を備える。土留用杭3は、壁材2を支持可能な長尺棒状であり、設置状態における軸方向下端側から所定の長さで設けられて土中への埋設領域となる杭基部31、杭基部31の軸方向上方へ延設されて壁材2の縦方向縁部を係止可能な構造であり、杭基部31に近い所定長さの部分が土中への埋設領域となる壁材係止部32、及び、壁材係止部32と杭基部31の間且つ土中への埋設領域となる箇所に設けられて壁材2の下端角部近傍を支持可能な構造である壁材支持部33、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留壁を構成する壁材を支持可能な長尺棒状であり、
軸方向における一端側から所定の長さで設けられ、土中への埋設領域となる杭基部と、
該杭基部に対して軸方向反対方向に延設され、壁材の縦方向縁部を係止可能な構造であり、同杭基部に近い所定長さの部分が土中への埋設領域となる壁材係止部と、
該壁材係止部と前記杭基部の間且つ土中への埋設領域となる箇所に設けられ、壁材の下端角部近傍を支持可能な構造である壁材支持部と、
を備える
土留用杭。
【請求項2】
土留壁を構成する壁材を支持可能な長尺棒状であり、
軸方向における一端側から所定の長さで設けられ、土中への埋設領域となる杭基部と、
該杭基部に対して軸方向反対方向に延設され、壁材の縦方向縁部を係止可能な構造である壁材係止部と、
該壁材係止部と前記杭基部の間となる箇所に設けられ、壁材の下端角部近傍を支持可能な構造である壁材支持部と、
軸方向における土中への埋設領域となる箇所に配設されたパネル状部材であって、同部材の面が土留対象である土壁に対向する向きで固着され、前記杭基部及び前記壁材係止部の幅よりも幅広な態様、及び/又は、同杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である土圧抵抗用パネルと、
を備える
土留用杭。
【請求項3】
少なくとも前記壁材係止部がフランジ部分とウェブ部分を有する端面視略T字形であって、該フランジ部分で壁材の縦方向縁部を係止する構造である
請求項1又は2に記載の土留用杭。
【請求項4】
少なくとも前記壁材係止部が一対のフランジ部分とウェブ部分を有する端面視略H字形であって、該フランジ部分で壁材の縦方向縁部を係止する構造である
請求項1又は2に記載の土留用杭。
【請求項5】
前記土留用杭が、コンクリート二次製品である
請求項3に記載の土留用杭。
【請求項6】
前記土留用杭が、コンクリート二次製品である
請求項4に記載の土留用杭。
【請求項7】
前記土圧抵抗用パネルが、土圧抵抗用パネル固着部を介して固着される構造であり、
該土圧抵抗用パネル固着部が、端面視略クランク形状であって、クランク形状の略中間に位置する中間部分、該中間部分の先端に連設されたパネル当接部分、及び、前記中間部分の基端に連設された爪状の係止部分を有し、前記中間部分が前記フランジ部分の先端が当接可能に設けられていると共に、前記パネル当接部分が土圧抵抗用パネルに当接可能に設けられ、前記係止部分と前記同中間部分との間に形成された隅部に対して、前記ウェブ部分側における前記フランジ部分の角が嵌合した構造である
請求項3に記載の土留用杭。
【請求項8】
前記土圧抵抗用パネルが、土圧抵抗用パネル固着部を介して固着される構造であり、
該土圧抵抗用パネル固着部が、端面視略クランク形状であって、クランク形状の略中間に位置する中間部分、該中間部分の先端に連設されたパネル当接部分、及び、前記中間部分の基端に連設された爪状の係止部分を有し、前記中間部分が前記フランジ部分の先端が当接可能に設けられていると共に、前記パネル当接部分が土圧抵抗用パネルに当接可能に設けられ、前記係止部分と前記同中間部分との間に形成された隅部に対して、前記ウェブ部分側における前記フランジ部分の角が嵌合した構造である
請求項4に記載の土留用杭。
【請求項9】
土留壁を構成する壁材と、
該壁材を支持可能な長尺棒状であり、設置状態における軸方向下端側から所定の長さで設けられて土中への埋設領域となる杭基部、該杭基部の軸方向上方へ延設されて前記壁材の縦方向縁部を係止可能な構造であり、同杭基部に近い所定長さの部分が土中への埋設領域となる壁材係止部、及び、該壁材係止部と前記杭基部の間且つ土中への埋設領域となる箇所に設けられて前記壁材の下端角部近傍を支持可能な構造である壁材支持部、を有する土留用杭と、
を備える
土留壁構造体。
【請求項10】
土留壁を構成する壁材と、
該壁材を支持可能な長尺棒状であり、設置状態における軸方向下端側から所定の長さで設けられて土中への埋設領域となる杭基部、該杭基部の軸方向上方へ延設されて前記壁材の縦方向縁部を係止可能な構造である壁材係止部、該壁材係止部と前記杭基部の間となる箇所に設けられて前記壁材の下端角部近傍を支持可能な構造である壁材支持部、及び、軸方向における土中への埋設領域となる箇所に配設されたパネル状部材であって、同部材の面が土留対象である土壁に対向する向きで固着され、前記土留用杭の幅よりも少なくとも幅広な態様、及び/又は、同杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である土圧抵抗用パネル、を有する土留用杭と、
を備える
土留構造体。
【請求項11】
基準面及び該基準面から所定高さに立ち上がる土壁を有する盛土又は切土に対し、土留壁を構成する壁材と該壁材を支持可能な長さの土留用杭とを有する土留構造体を使用して行われ、
複数の前記土留用杭を、間隔を空けて配列すると共に、各土留用杭は、その軸方向下方に設けられた杭基部を前記土壁近傍となる前記基準面の土中に埋設する、第1工程と、
前記壁材を、前記土壁に対向させると共に、前記杭基部の軸方向上方へ延設された壁材係止部によって同壁材の縦方向縁部を係止させ、且つ、該壁材係止部と前記杭基部の間且つ土中へ埋設された箇所に設けられた壁材支持部によって同壁材の下端角部近傍を支持させる態様で、隣り合う設置後の前記土留用杭の間に配設する、第2工程と、
を備える
土留構造の構築方法。
【請求項12】
基準面及び該基準面から所定高さに立ち上がる土壁を有する盛土又は切土に対し、土留壁を構成する壁材と該壁材を支持可能な長さの土留用杭とを有する土留構造体を使用して行われ、
複数の前記土留用杭を、間隔を空けて配列すると共に、各土留用杭は、その軸方向下方に設けられた杭基部を前記土壁近傍となる前記基準面の土中に埋設し、且つ、同土留用杭の軸方向に設けたパネル状部材であって同部材の面が前記土壁に対向する向きで固着され、同土留用杭の幅よりも少なくとも幅広な態様、及び/又は、同杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様に設けられた土圧抵抗用パネルを前記土壁近傍となる前記基準面の土中に埋設する、第1工程と、
前記壁材を、前記土壁に対向させると共に、前記杭基部の軸方向上方へ延設された壁材係止部によって同壁材の縦方向縁部を係止させ、且つ、該壁材係止部と前記杭基部の間に設けられた壁材支持部によって同壁材の下端角部近傍を支持させる態様で、隣り合う設置後の前記土留用杭の間に配設する、第2工程と、
を備える
土留構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留用杭、土留壁構造体、及び、土留構造の構築方法に関する。詳しくは、簡易な構造であると共に施工が容易で、堅牢な土留壁を構成可能な土留用杭、土留壁構造体、及び、土留構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、切土や盛土を伴う宅地造成等の際に、法面や段差の崩壊を防止するために土留が設置されている。土留を行う部材には様々なものがあるが、例えば、非特許文献1記載のL型擁壁が挙げられる。非特許文献1記載のL型擁壁は、縦壁と底板によって構成され、縦壁の背面に加わる土圧に対して躯体自重と裏込め土砂重量で抵抗し、転倒と滑動が起きにくい構造となっており、基礎上に据え付けて埋め戻しをする施工で、工期の短縮化が図ることができるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】草竹コンクリート工業株式会社 コンクリート製品 宅地用L型擁壁 インターネット<URL:https://kusatake.co.jp/concrete/concrete_12.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非特許文献1記載のL型擁壁を使用する土留構造は、その設置工事に際して、根切量が多く、これに伴って埋め戻しを含む土工事等の工程が多いことから工期が長くなり、更にL型擁壁が相当な重量物であるため運搬や設置が大変であることを考慮すると、同土留構造は簡易な構造であるとは言い難く、施工が容易とも言い難い。
【0005】
一方、杭と壁材から構成される伝統的な土留構造もあるが、同土留構造では、壁材の背面に加わる土圧に対して土中に埋設した杭の地下部分で抵抗するのみであるため、杭を深く埋設しないと転倒が起きるおそれがある。
【0006】
本発明は、以上の点を鑑みて創案されたものであり、簡易な構造であると共に施工が容易で、堅牢な土留壁を構成可能な土留用杭、土留壁構造体、及び、土留構造の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の土留用杭は、土留壁を構成する壁材を支持可能な長尺棒状であり、軸方向における一端側から所定の長さで設けられ、土中への埋設領域となる杭基部と、該杭基部に対して軸方向反対方向に延設され、壁材の縦方向縁部を係止可能な構造であり、同杭基部に近い所定長さの部分が土中への埋設領域となる壁材係止部と、該壁材係止部と前記杭基部の間且つ土中への埋設領域となる箇所に設けられ、壁材の下端角部近傍を支持可能な構造である壁材支持部と、を備える。
【0008】
ここで、長尺棒状である本発明の土留用杭は、前述の杭基部を所定の深さで土中へ埋設し、前述の壁材係止部で土留壁を構成する壁材(以下「壁材」という)の縦方向縁部を係止する態様で壁材を係止し、且つ、前述の壁材支持部で壁材の下端角部近傍を支持することにより、土留壁構造体を構成することができる。
【0009】
なお、通常、土留壁構造体を構成する際には、壁材係止のために少なくとも所定間隔を空けて2本以上の土留用杭を打ち込む(以下、当該作業を「打設」という)ことを要するが、壁材が他部材で係止されるような場合には1本のみの打設で済む場合もあり得る。
【0010】
ところで、一般的な構造の杭及び壁材で構成される土留壁においては、土留を行う壁材の部分に対して盛土側から非盛土側へ水平方向の土圧(換言すると、取り付けられた壁材背面に加わる土圧)が加わるため、壁材を支持する杭の転倒(ひいては土留壁の倒壊)を抑止すべく、杭における土中への埋設部分を長く(深く)とる必要がある。そして、土留壁を高くする場合には杭全体をより長く設定する必要があり、換言すると、埋設部分の長さを確保することで、鉛直荷重を受ける杭の埋設部分に対する土中土圧と杭周面抵抗力を増やす必要がある。
【0011】
一方、杭を打設する土壌(例えば礫質土、砂質土、粘性土等)の性質や含水率等の状態によっては、所定の長さの埋設部分をもってしても、杭の埋設部分に加わる土圧や周面摩擦力が十分に期待できない可能性もある。
【0012】
これに対し、本発明の土留用杭によれば、係止する壁材の下端を壁材支持部が支持し、この壁材支持部が前述した箇所に設けられていることで、係止された壁材の下部が土中へ埋設されることになる(この埋設部分を以下「壁埋入部分」という)。この壁埋入部分は、土中へ進入して深さ方向及び幅方向に張り出した態様となり、杭基部とも協働して周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させることができる。
【0013】
つまり、一般的な杭と比較して、杭基部を土中へ埋設する領域(土中への進入部分の長さ)が同じであっても、係止した壁材に盛土側からの土圧が加わった際に生じうる杭の転倒事故(およびこれに伴う土留壁構造体の倒壊事故)を抑止する効果が更に高まっている。
【0014】
更に、本発明の土留用杭によれば、壁材をその下部が土中に埋設され且つ埋設部分が土中において周面摩擦力及び土圧を増大させる態様で係止することから、一般的な構造の杭と比較して全長を短く設定することができる(短く設定しても、土留用杭の転倒を抑止することができる構造となっている)。
【0015】
更にまた、本発明の土留用杭によれば、壁材支持部によって壁材下端が支持されるので、土留壁構造体の構成後、壁材がその自重によって土中へ更に沈下することを抑止する(設計者又は施工者の想定を超えた沈下を抑止する)ことができる。
【0016】
本発明の土留用杭を用いて構成する土留壁構造体は、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、土留用杭と壁材からなる簡易な構造である。一方、本発明の土留用杭は、壁体と協働して土留用杭の転倒事故の抑止効果を高める構造であるため、壁体と杭が一体化した堅牢な土留壁を構成することができる。
【0017】
そして、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、本発明の土留用杭を用いて構成する土留壁構造体は、根切量が半分以下で済むことから土工事等の工程も少なく、施工が容易で、工期も短くて済む。また、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、本発明の土留用杭を用いて構成する土留壁構造体は、土留用杭や壁材個々の重量がL型擁壁よりも軽量であるため、運搬や設置の際の作業負担が少なくて済む。
【0018】
更にまた、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、本発明の土留用杭を用いて構成する土留壁構造体は、底板が不要であるため、土留壁から建物までの間に空けるべき距離が少なくて済み、また、定形のL型擁壁を直線的に配設して成るものではないため、曲線的な土留壁も形成可能で、土留壁の形状に関する設計の自由度が高い。
【0019】
本発明の土留用杭は、所望する高さの土留壁構造体を設けるための壁材を係止可能な所定長さを有すると共に所定断面積をもつ既製杭であり、所定の剛性を備える素材で形成されている。前述の長さとしては、例えば50cm~550cm程度であり、前述の素材としては、例えば鋼材、コンクリート或いは樹脂等が挙げられる。また、土留用杭は、その形状としては、断面視正円又は楕円の円柱や、断面視三角又は四角等の角柱、後述する端面視略T字形や端面視略H字形の柱体が挙げられるが、これに限定するものではなく、例えば、端面視略L字形等の柱体、丸パイプや角パイプであってもよい。
【0020】
上記の目的を達成するために、本発明の土留用杭は、土留壁を構成する壁材を支持可能な長尺棒状であり、軸方向における一端側から所定の長さで設けられ、土中への埋設領域となる杭基部と、該杭基部に対して軸方向反対方向に延設され、壁材の縦方向縁部を係止可能な構造である壁材係止部と、該壁材係止部と前記杭基部の間となる箇所に設けられ、壁材の下端角部近傍を支持可能な構造である壁材支持部と、軸方向における土中への埋設領域となる箇所に配設されたパネル状部材であって、同部材の面が土留対象である土壁に対向する向きで固着され、前記杭基部及び前記壁材係止部の幅よりも幅広な態様、及び/又は、同杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である土圧抵抗用パネルと、を備える。
【0021】
ここで、長尺棒状である本発明の土留用杭は、前述の杭基部を所定の深さで土中へ埋設し、前述の壁材係止部で壁材の縦方向縁部を係止する態様で壁材を係止し、且つ、前述の壁材支持部で壁材の下端角部近傍を支持することにより、土留壁構造体を構成することができる。なお、土留壁構造体を構成する際には、通常、2本以上の土留用杭が打設され、1本のみの打設で済む場合もあり得る。
【0022】
本発明の土留用杭は、前述した土圧抵抗用パネルを備えることによって、土圧抵抗用パネルが埋設された土中において、深さ方向及び幅方向の両方、或いは、深さ方向又は幅方向のいずれか一方に張り出した態様となり、杭基部とも協働して周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させることができる。
【0023】
なお、土圧抵抗用パネルは、後述するように杭基部に直接的に固着された態様であってもよいし、施工時において、土圧抵抗用パネルを杭基部や壁材係止部に沿うように埋入させ、埋入箇所の周辺をセメント等で固めて間接的に固着させた態様や、埋入箇所の周辺を埋め戻しの土等で締め固めることで間接的に固着させた態様であってもよい。また、土圧抵抗用パネルは、その形状やサイズを適宜設定可能で特に限定されず、一のみならず複数が取り付けられる態様であってもよい。
【0024】
つまり、一般的な杭と比較して、杭基部が土中へ埋設する領域(土中への進入部分の長さ)が同じであっても、係止した壁材に盛土側からの土圧が加わった際に生じうる土留用杭の転倒事故(およびこれに伴う土留壁構造体の倒壊事故)を抑止する効果が更に高まっている。
【0025】
更に、本発明の土留用杭によれば、土圧抵抗用パネルが土中において周面摩擦力及び土圧を増大させることから、一般的な構造の杭と比較して全長を短く設定することができる(短く設定しても、土留用杭の転倒を抑止することができる構造となっている)。
【0026】
更にまた、本発明の土留用杭によれば、壁材支持部によって壁材下端が支持されるので、土留壁構造体の構成後、壁材がその自重によって土中へ更に沈下することを抑止することができる。
【0027】
本発明の土留用杭を用いて構成する土留壁構造体は、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、土留用杭と壁材からなる簡易な構造である。一方、本発明の土留用杭は、土圧抵抗用パネルを以て土留用杭の転倒事故の抑止効果を高める構造であるため、壁体と杭が一体化した堅牢な土留壁を構成することができる。
【0028】
そして、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、本発明の土留用杭を用いて構成する土留壁構造体は、根切量が半分以下で済み、土工事等の工程が少ないため工期が短いことから、施工が容易である。また、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、本発明の土留用杭を用いて構成する土留壁構造体は、土留用杭や壁材個々の重量がL型擁壁よりも軽量であるため、運搬設置の負担が少なくて済む。
【0029】
更にまた、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、本発明の土留用杭を用いて構成する土留壁構造体は、底板が不要であるため、土留壁から建物までの間に空けるべき距離が少なくて済み、また、定形のL型擁壁を直線的に配設して成るものではないため、曲線的な土留壁も形成可能で、土留壁の形状に関する設計の自由度が高い。
【0030】
前述した表現「前記杭基部及び前記壁材係止部の幅よりも幅広な態様、及び/又は、同杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である」とは、「杭基部及び壁材係止部の幅よりも幅広な態様、及び、杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である」場合と、「杭基部及び壁材係止部の幅よりも幅広な態様、又は、杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である」場合の、いずれも含む意味で使用している。
【0031】
本発明の土留用杭は、所望する高さの土留壁構造体を設けるための壁材を係止可能な所定長さを有すると共に所定断面積をもつ既製杭であり、所定の剛性を備える素材で形成されている。なお、長さ、素材、形状については前述の通りであるため、説明を省略する。
【0032】
また、前述した土留用杭は、少なくとも前記壁材係止部がフランジ部分とウェブ部分を有する端面視略T字形であって、該フランジ部分で壁材の縦方向縁部を係止する構造であってもよい。この場合、土留用杭を、フランジ部分が非盛土側に向き、ウェブ部分が盛土側に向くように打設し、打設後の土留用杭に対して壁材を取り付けることで、土留壁構造体を構成する。
【0033】
本態様の土留用杭によれば、フランジ部分によって壁材の縦方向縁部が係止され、また、ウェブ部分が仕切りとなって係止された壁材が左右方向へ過剰にずれることがなくなる。そして、本態様の土留用杭によれば、壁材を土留用杭に取り付ける手順が容易であるので、作業者の熟練度を問わず、作業効率が更に向上する。
【0034】
なお、本態様の土留用杭は、前述の通り、所定の剛性を備える素材で形成されていればよく、例えば、後述するようにコンクリート二次製品である場合や、T形鋼に壁材支持部を設けたものであってもよい。
【0035】
また、前述した土留用杭は、少なくとも前記壁材係止部が一対のフランジ部分とウェブ部分を有する端面視略H字形であって、該フランジ部分で壁材の縦方向縁部を係止する構造であってもよい。この場合、土留用杭を、一方のフランジ部分が非盛土側に向き、他方のフランジ部分が盛土側に向くように打設し、打設後の土留用杭に対して壁材を取り付けることで、土留壁構造体を構成する。
【0036】
本態様の土留用杭によれば、非盛土側に向けたフランジ部分によって壁材の縦方向縁部が係止され、また、ウェブ部分が仕切りとなって係止された壁材が左右方向へ過剰にずれることがなくなる。そして、本態様の土留用杭によれば、壁材を土留用杭に取り付ける手順が容易であるので、作業者の熟練度を問わず、作業効率が更に向上する。
【0037】
加えて、本態様の土留用杭によれば、直線的な形状以外の土留壁構造体を選択することもできる。詳しくは、土留用杭が端面視略H字形であることにより、ウェブ部分とその両側に突出したフランジ部分により形成される受け部分内において壁材の縦方向縁部が遊動可能なものとなっている。
【0038】
これにより、各々の受け部分が正対するか又は概ね対向するように2本の土留用杭を設置すると、受け部の広さに応じた所定範囲で、水平方向における角度を付けて壁材を取り付けることができる。そして、このような態様で土留用杭及び壁材を配列していくことで、土留用杭及び壁材の大きな加工を伴うことなく、曲線的な形状の土留壁構造体を施工することができる。
【0039】
なお、本態様の土留用杭は、前述の通り、所定の剛性を備える素材で形成されていればよく、例えば、後述するようにコンクリート二次製品である場合や、H形鋼に壁材支持部を設けたものであってもよい。
【0040】
また、前述の土留用杭は、コンクリート二次製品であってもよい。この場合、基本的に作業現場での加工が不要であって、速やかに作業に取りかかることができるので、作業効率が更に向上している。そして、本態様の土留用杭は、鋼材である土留用杭と比較して、耐腐食性が向上しており、また、軽量であることから運搬性が良く、更にまた、一般的に安価であって調達コスト低減が期待できる。
【0041】
また、前述した壁材係止部が端面視略T字形又は端面視略H字形である土留用杭は、土圧抵抗用パネルが、土圧抵抗用パネル固着部を介して固着される構造であり、土圧抵抗用パネル固着部が、端面視略クランク形状であって、クランク形状の略中間に位置する中間部分、中間部分の先端に連設されたパネル当接部分、及び、中間部分の基端に連設された爪状の係止部分を有し、中間部分がフランジ部分の先端が当接可能に設けられていると共に、パネル当接部分が土圧抵抗用パネルに当接可能に設けられ、係止部分と中間部分との間に形成された隅部に対して、ウェブ部分側におけるフランジ部分の角が嵌合した構造であってもよい。
【0042】
前述したパネル当接部分は、これを介して、土圧抵抗用パネルを壁材係止部のフランジ部分と平行となる態様で分離しないように(溶接、接着等の方法で)固着することができる。当該態様で取り付けられた土圧抵抗用パネルは、土中において十分な周面摩擦力及び土圧を増大させることができる。
【0043】
前述した中間部分は、壁材係止部のフランジ部分先端を受ける(当接させる)ことができ、これにより土圧抵抗用パネルが土留用杭の軸方向に対して水平方向にずれる(換言すると、土留用杭の軸方向に対して左右方向にずれる)ことを抑止することができる。
【0044】
前述した係止部分は、これを有することで中間部分との間に隅部が形成され、この隅部にウェブ部分側の角(換言すると、フランジ部分の裏側の角)が嵌合する。そして、係止部分は、爪状であることにより、フランジ部分の裏側に(換言すると、フランジ部分の裏側の角)係合する。
【0045】
本態様の土留用杭によれば、前述した各部分の作用によって、土圧抵抗用パネルが直接的に固着されて分離にくい構造となっている。そして、本態様の土留用杭によれば、分離した土圧抵抗用パネルを杭基部等に沿うように埋入させて間接的に固着させる施工方法と比較して、工程が減ることによって作業性が更に向上し、工期短縮も期待することができる。
【0046】
上記の目的を達成するために、本発明の土留壁構造体は、土留壁を構成する壁材と、該壁材を支持可能な長尺棒状であり、設置状態における軸方向下端側から所定の長さで設けられて土中への埋設領域となる杭基部、該杭基部の軸方向上方へ延設されて前記壁材の縦方向縁部を係止可能な構造であり、同杭基部に近い所定長さの部分が土中への埋設領域となる壁材係止部、及び、該壁材係止部と前記杭基部の間且つ土中への埋設領域となる箇所に設けられて前記壁材の下端角部近傍を支持可能な構造である壁材支持部、を有する土留用杭と、を備える。
【0047】
ここで、本発明の土留壁構造体は、土留用杭の杭基部を所定の深さで土中へ埋設し、壁材係止部で壁材の縦方向縁部を係止する態様で壁材を係止し、且つ、壁材支持部で壁材の下端角部近傍を支持することにより、構成されたものである。
【0048】
壁材は、土留壁を構成する部材である。なお、壁材としては、コンクリート板が好適に使用されるが、これに限定するものではなく、例えば、他の石質材、金属板、合成樹脂板、木質板であってもよいし、あるいは、長軸方向が略水平となるように横設した丸形や角形の木材を積重して壁を構成する態様もあり得る。また、壁材は、一枚板であってもよいし、高さ方向に短辺な板を複数組み合わせる態様であってもよい。更にまた、壁材は、生じる土圧に基づき板厚を適宜変更することもできる。
【0049】
なお、壁材は、その係止のために少なくとも2本以上の土留用杭を所定間隔を空けて打設するが、壁材の一方を他部材で係止する場合には1本のみの打設で済む場合もあり得る。土留用杭は、所望する高さの土留壁構造体を設けるための壁材を係止可能な所定長さを有すると共に所定断面積をもつ既製杭であり、所定の剛性を備える素材で形成されている。
【0050】
本発明の土留壁構造体によれば、前述した箇所に設けた壁材支持部によって壁材の下端が支持されていることで壁材下部に壁埋入部分が生じ、土中において壁埋入部分が深さ方向及び幅方向に張り出した態様となることで、杭基部とも協働して周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させている。つまり、一般的な杭で構成した場合と比較して、杭基部を土中へ埋設する領域(土中への進入部分の長さ)が同じであっても、壁材に盛土側からの土圧が加わった際に生じうる土留用杭の転倒事故(およびこれに伴う土留壁構造体の倒壊事故)を抑止する効果が更に高まっている。
【0051】
更に、本発明の土留壁構造体によれば、壁材をその下部が土中に埋設され且つ埋設部分が土中において周面摩擦力及び土圧を増大させる態様で係止することから、一般的な構造の杭と比較して、土留用杭の全長を短く設定することができる(短く設定しても、土留用杭の転倒を抑止することができる構造となっている)。更にまた、本発明の土留壁構造体によれば、土留用杭の壁材支持部によって壁材下端を支持しているので、土留壁構造体の構成後、壁材がその自重によって土中へ更に沈下することを抑止することができる。
【0052】
本発明の土留壁構造体は、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、土留用杭と壁材からなる簡易な構造でありながら、壁体と協働して土留用杭の転倒事故の抑止効果を高められており、十分に堅牢な構造である。そして、本発明の土留壁構造体は、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、根切量が半分以下で済むことから土工事等の工程も少なく、施工が容易で、工期も短くて済む。また、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、本発明の土留壁構造体は、土留用杭や壁材個々の重量がL型擁壁よりも軽量であるため、運搬や設置の際の作業負担が少なくて済む。
【0053】
更にまた、本発明の土留壁構造体は、前述した土留用杭の利用によってL型擁壁のような底板が存在せず、この底板に起因して生じる土留壁と建物の間の距離が少なくて済み、また、定形のL型擁壁を直線的に配設して成るものではないため、曲線的な土留壁も形成可能で、土留壁の形状に関する設計の自由度が高い。
【0054】
上記の目的を達成するために、本発明の土留構造体は、土留壁を構成する壁材と、該壁材を支持可能な長尺棒状であり、設置状態における軸方向下端側から所定の長さで設けられて土中への埋設領域となる杭基部、該杭基部の軸方向上方へ延設されて前記壁材の縦方向縁部を係止可能な構造である壁材係止部、該壁材係止部と前記杭基部の間となる箇所に設けられて前記壁材の下端角部近傍を支持可能な構造である壁材支持部、及び、軸方向における土中への埋設領域となる箇所に配設されたパネル状部材であって、同部材の面が土留対象である土壁に対向する向きで固着され、前記土留用杭の幅よりも少なくとも幅広な態様、及び/又は、同杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である土圧抵抗用パネル、を有する土留用杭と、を備える。
【0055】
ここで、本発明の土留壁構造体は、土留用杭の杭基部を所定の深さで土中へ埋設し、壁材係止部で壁材の縦方向縁部を係止する態様で壁材を係止し、且つ、壁材支持部で壁材の下端角部近傍を支持することにより、構成されたものである。
【0056】
壁材は、土留壁を構成する部材である。壁材は、その係止のために少なくとも2本以上の土留用杭を所定間隔を空けて打設するが、1本のみの打設で済む場合もあり得る。土留用杭は、所望する高さの土留壁構造体を設けるための壁材を係止可能な所定長さを有すると共に所定断面積をもつ既製杭であり、所定の剛性を備える素材で形成されている。なお、壁材及び土留用杭の長さ、素材、形状等については前述の通りであり、説明を省略する。
【0057】
本発明の土留壁構造体は、土留用杭が前述した土圧抵抗用パネルを備えることによって、土圧抵抗用パネルが埋設された土中において、深さ方向及び幅方向の両方、或いは、深さ方向又は幅方向のいずれか一方に張り出した態様となり、杭基部とも協働して周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させている。なお、土圧抵抗用パネルは、前述した通り、杭基部に直接的又は間接的に固着された態様のいずれであってもよく、また、土圧抵抗用パネルは、その形状やサイズを適宜設定可能で特に限定されず、一のみならず複数が取り付けられる態様であってもよい。
【0058】
本発明の土留壁構造体によれば、土圧抵抗用パネルを備える土留用杭を使用したことにより、一般的な杭と比較して、杭基部が土中へ埋設する領域(土中への進入部分の長さ)が同じであっても、壁材に盛土側からの土圧が加わった際に生じうる杭の転倒事故(およびこれに伴う土留壁構造体の倒壊事故)を抑止する効果が更に高まっている。
【0059】
更に、前述の土留用杭は、土圧抵抗用パネルが土中において周面摩擦力及び土圧を増大させることから、一般的な構造の杭と比較して、土留用杭の全長を短く設定することができる(短く設定しても、土留用杭の転倒を抑止することができる構造となっている)。更にまた、本発明の土留壁構造体によれば、前述の土留用杭の壁材支持部によって壁材下端を支持しているので、土留壁構造体の構成後、壁材がその自重によって土中へ更に沈下することを抑止することができる。
【0060】
本発明の土留壁構造体は、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、土留用杭と壁材からなる簡易な構造でありながら、壁体と協働して土留用杭の転倒事故の抑止効果を高められており、十分に堅牢な構造である。そして、本発明の土留壁構造体は、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、根切量が半分以下で済むことから土工事等の工程も少なく、施工が容易で、工期も短くて済む。また、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、本発明の土留壁構造体は、土留用杭や壁材個々の重量がL型擁壁よりも軽量であるため、運搬や設置の際の作業負担が少なくて済む。
【0061】
更にまた、本発明の土留壁構造体は、前述した土留用杭の利用によってL型擁壁のような底板が存在せず、この底板に起因して生じる土留壁と建物の間の距離が少なくて済み、また、定形のL型擁壁を直線的に配設して成るものではないため、曲線的な土留壁も形成可能で、土留壁の形状に関する設計の自由度が高い。
【0062】
前述した表現「前記杭基部及び前記壁材係止部の幅よりも幅広な態様、及び/又は、同杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である」とは、「杭基部及び壁材係止部の幅よりも幅広な態様、及び、杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である」場合と、「杭基部及び壁材係止部の幅よりも幅広な態様、又は、杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である」場合の、いずれも含む意味で使用している。
【0063】
上記の目的を達成するために、本発明の土留構造の構築方法は、基準面及び該基準面から所定高さに立ち上がる土壁を有する盛土又は切土に対し、土留壁を構成する壁材と該壁材を支持可能な長さの土留用杭とを有する土留構造体を使用して行われ、複数の前記土留用杭を、間隔を空けて配列すると共に、各土留用杭は、その軸方向下方に設けられた杭基部を前記土壁近傍となる前記基準面の土中に埋設する、第1工程と、前記壁材を、前記土壁に対向させると共に、前記杭基部の軸方向上方へ延設された壁材係止部によって同壁材の縦方向縁部を係止させ、且つ、該壁材係止部と前記杭基部の間且つ土中へ埋設された箇所に設けられた壁材支持部によって同壁材の下端角部近傍を支持させる態様で、隣り合う設置後の前記土留用杭の間に配設する、第2工程と、を備える。
【0064】
第1工程によれば、複数の土留用杭を、その軸方向下方に設けられた杭基部を土壁近傍となる基準面の土中に埋設し、各々間隔を空けて配列することで、複数の土留用杭が設置される。また、第2工程によれば、壁材を土壁に対向させると共に、土留用杭の壁材係止部によって壁材の縦方向縁部を係止させ、且つ、壁材支持部によって壁材の下端角部近傍を支持させる態様で、隣り合う設置後の土留用杭の間に壁材が配設される。このように、本発明の土留構造の構築方法によれば、前述した第1工程及び第2工程を備えることにより、簡易な構造であると共に施工が容易で、壁体と杭が一体化した堅牢な土留構造を構成することができる。
【0065】
詳しくは、本発明の土留構造の構築方法によれば、前述した箇所に設けた壁材支持部によって壁材の下端が支持されていることで壁材下部に壁埋入部分が生じ、土中において壁埋入部分が深さ方向及び幅方向に張り出した態様となることで、杭基部とも協働して周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させている。つまり、一般的な杭で構成した場合と比較して、杭基部を土中へ埋設する領域(土中への進入部分の長さ)が同じであっても、壁材に盛土側からの土圧が加わった際に生じうる土留用杭の転倒事故(およびこれに伴う土留壁構造体の倒壊事故)を抑止する効果が更に高まっている。
【0066】
更に、本発明の土留構造の構築方法によれば、壁材をその下部が土中に埋設され且つ埋設部分が土中において周面摩擦力及び土圧を増大させる態様で係止することから、一般的な構造の杭と比較して、土留用杭の全長を短く設定することができる(短く設定しても、土留用杭の転倒を抑止することができる構造となっている)。更にまた、本発明の土留構造の構築方法によれば、土留用杭の壁材支持部によって壁材下端を支持しているので、土留構造の構築後、壁材がその自重によって土中へ更に沈下することが抑止される。
【0067】
本発明の土留構造の構築方法は、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、土留用杭と壁材からなる簡易な構造でありながら、壁体と協働して土留用杭の転倒事故の抑止効果を高められており、十分に堅牢な構造である。そして、本発明の土留構造の構築方法は、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、根切量が半分以下で済むことから土工事等の工程も少なく、施工が容易で、工期も短くて済む。また、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、本発明の土留構造の構築方法は、土留用杭や壁材個々の重量がL型擁壁よりも軽量であるため、運搬や設置の際の作業負担が少なくて済む。
【0068】
更にまた、本発明の土留構造の構築方法は、前述した土留用杭の利用によってL型擁壁のような底板が存在せず、この底板に起因して生じる土留壁と建物の間の距離が少なくて済み、また、定形のL型擁壁を直線的に配設して成るものではないため、曲線的な土留壁も形成可能で、土留壁の形状に関する設計の自由度が高い。
【0069】
上記の目的を達成するために、本発明の土留構造の構築方法は、基準面及び該基準面から所定高さに立ち上がる土壁を有する盛土又は切土に対し、土留壁を構成する壁材と該壁材を支持可能な長さの土留用杭とを有する土留構造体を使用して行われ、複数の前記土留用杭を、間隔を空けて配列すると共に、各土留用杭は、その軸方向下方に設けられた杭基部を前記土壁近傍となる前記基準面の土中に埋設し、且つ、同土留用杭の軸方向に設けたパネル状部材であって同部材の面が前記土壁に対向する向きで固着され、同土留用杭の幅よりも少なくとも幅広な態様、及び/又は、同杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様に設けられた土圧抵抗用パネルを前記土壁近傍となる前記基準面の土中に埋設する、第1工程と、前記壁材を、前記土壁に対向させると共に、前記杭基部の軸方向上方へ延設された壁材係止部によって同壁材の縦方向縁部を係止させ、且つ、該壁材係止部と前記杭基部の間に設けられた壁材支持部によって同壁材の下端角部近傍を支持させる態様で、隣り合う設置後の前記土留用杭の間に配設する、第2工程と、を備える。
【0070】
第1工程によれば、複数の土留用杭を、その軸方向下方に設けられた杭基部を土壁近傍となる基準面の土中に埋設し、各々間隔を空けて配列することで、複数の土留用杭が設置される。また、第2工程によれば、壁材を土壁に対向させると共に、土留用杭の壁材係止部によって壁材の縦方向縁部を係止させ、且つ、壁材支持部によって壁材の下端角部近傍を支持させる態様で、隣り合う設置後の土留用杭の間に壁材が配設される。このように、本発明の土留構造の構築方法によれば、前述した第1工程及び第2工程を備えることにより、簡易な構造であると共に施工が容易で、壁体と杭が一体化した堅牢な土留構造を構成することができる。
【0071】
詳しくは、本発明の土留構造の構築方法によれば、前述した箇所に設けた土圧抵抗用パネルが埋設されたことで、土中において、深さ方向及び幅方向の両方、或いは、深さ方向又は幅方向のいずれか一方に張り出した態様となり、杭基部とも協働して周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させている。つまり、一般的な杭で構成した場合と比較して、杭基部を土中へ埋設する領域(土中への進入部分の長さ)が同じであっても、壁材に盛土側からの土圧が加わった際に生じうる土留用杭の転倒事故(およびこれに伴う土留壁構造体の倒壊事故)を抑止する効果が更に高まっている。
【0072】
なお、土圧抵抗用パネルは、前述した通り、杭基部に直接的又は間接的に固着された態様のいずれであってもよく、また、土圧抵抗用パネルは、その形状やサイズを適宜設定可能で特に限定されず、一のみならず複数が取り付けられる態様であってもよい。また、前述した表現「前記杭基部及び前記壁材係止部の幅よりも幅広な態様、及び/又は、同杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である」とは、「杭基部及び壁材係止部の幅よりも幅広な態様、及び、杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である」場合と、「杭基部及び壁材係止部の幅よりも幅広な態様、又は、杭基部の先部よりも軸方向に長尺な態様である」場合の、いずれも含む意味で使用している。
【0073】
更に、本発明の土留構造の構築方法によれば、杭基部と土圧抵抗用パネルが土中に埋設されて周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させる態様であることから、一般的な構造の杭と比較して、土留用杭の全長を短く設定することができる(短く設定しても、土留用杭の転倒を抑止することができる構造となっている)。更にまた、本発明の土留構造の構築方法によれば、土留用杭の壁材支持部によって壁材下端を支持しているので、土留構造の構築後、壁材がその自重によって土中へ更に沈下することが抑止される。
【0074】
本発明の土留構造の構築方法は、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、土留用杭と壁材からなる簡易な構造でありながら、壁体と協働して土留用杭の転倒事故の抑止効果を高められており、十分に堅牢な構造である。そして、本発明の土留構造の構築方法は、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、根切量が半分以下で済むことから土工事等の工程も少なく、施工が容易で、工期も短くて済む。また、L型擁壁を使用した土留壁と比較して、本発明の土留構造の構築方法は、土留用杭や壁材個々の重量がL型擁壁よりも軽量であるため、運搬や設置の際の作業負担が少なくて済む。
【0075】
更にまた、本発明の土留構造の構築方法は、前述した土留用杭の利用によってL型擁壁のような底板が存在せず、この底板に起因して生じる土留壁と建物の間の距離が少なくて済み、また、定形のL型擁壁を直線的に配設して成るものではないため、曲線的な土留壁も形成可能で、土留壁の形状に関する設計の自由度が高い。
【発明の効果】
【0076】
本発明によれば、簡易な構造であると共に施工が容易で、堅牢な土留壁を構成可能な土留用杭、土留壁構造体、及び、土留構造の構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図1】本発明の第1実施形態に係る土留壁構造体であり、(a)は土留壁構造体を正面側から見た斜視説明図であり、(b)は土留壁構造体の埋設部分を含む断面図である。
図2図1に示す土留壁構造体の構成材であり、(a)は土留用杭を背面方向から示すと共に長手方向中間を省略した斜視図であり、(b)は壁材を背面方向から示すと共に長手方向中間を省略した斜視図である。
図3図1に示す土留壁構造体の一部を拡大しており、(a)は土留用杭と壁材の係合状態を上方向から示す拡大図であり、(b)は土留用杭と壁材下部の係合状態を背面方向から示す斜視拡大図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る土留壁構造体であり、(a)は土留壁構造体を上方向から示す模式図であり、(b)は(a)に示す土留壁構造体の構成材である土留用杭を背面方向から示すと共に長手方向中間を省略した斜視図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る土留壁構造体であり、(a)は土留壁構造体を正面側から見た斜視説明図であり、(b)は土留壁構造体の埋設部分を含む断面図である。
図6図5に示す土留壁構造体の構成材であり、(a)は土圧抵抗用パネルを設けた土留用杭の先部を正面方向から示す拡大図であり、(b)は(a)に示す土圧抵抗用パネルと土留用杭の係合状態を上面方向から示す拡大図である。
図7図5及び図6に示す土留用杭の変形例であり、(a)は土留用杭の変形例(変形例1)において土圧抵抗用パネルと土留用杭の係合状態を上方向から見た説明図であり、(b)は土留用杭の変形例(変形例1)を正面側から見た説明図であり、(c)は(b)を左側面側から見た説明図であり、(d)は土留用杭の変形例(変形例2)において土圧抵抗用パネルと土留用杭の係合状態を上方向から見た説明図である。
図8】土留壁構造体を構成する壁材の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
図1図8を参照して、本発明の実施の形態を更に詳細に説明する。なお、以下の説明は、〔第1実施形態〕、〔第2実施形態〕、〔第3実施形態〕、〔変形例1〕、〔変形例2〕、〔変形例3〕の順序により行う。図面各図における符号は、煩雑さを軽減し理解を容易にする範囲内で付しており、同一符号が付される複数の同等物についてはその一部にのみ符号を付す場合がある。なお、図1図8の一部の図面中に示す矢印に係る符号は説明上の方向を示し、符号Fは「前方向」を、Bは「後方向」を、Rは「(対象物の背面方向から見た)右方向」を、Lは「(対象物の背面方向から見た)左方向」を、Uは「上方向」を、Dは「下方向」を、それぞれ意味している。
【0079】
〔第1実施形態〕
図1図3を参照して、第1実施形態に係る土留壁構造体1及び土留壁構造体1(土留構造)の構築方法について説明する。土留壁構造体1は、基準面G1と盛土G2を区切り、基準面G1と盛土G2の間に所定高さで立ち上がる土壁を覆うように設置されており、土留壁を構成する壁材2と、壁材2を支持可能な長さの土留用杭3を備える。各部については以下詳述する。
【0080】
(壁材2)
壁材2は、コンクリート板(コンクリート二次製品)であり、前述の通り土留壁を構成する部材である。壁材2は、高さ方向に短辺な板を複数組み合わせてなる態様である(図1及び図2(b)参照)。
【0081】
(土留用杭3)
土留用杭3は、壁材2を支持する長尺棒状のコンクリート二次製品(既製杭)であり、杭基部31、壁材係止部32及び壁材支持部33を有する。
【0082】
杭基部31は、先部が角錐に形成された角柱状であり、設置状態において、土留用杭3の軸方向下端側から所定の長さで設けられて土中への埋設領域となる(図1及び図2(a)参照)。
【0083】
壁材係止部32は、杭基部31の軸方向上方へ延設されて壁材2の縦方向縁部を係止可能な構造であり、杭基部31に近い所定長さの部分が土中UGへの埋設領域となる(図1及び図2(a)参照)。本実施形態で、壁材係止部32は、フランジ部分321とウェブ部分322を有する端面視略T字形であって(図2(a)参照)、フランジ部分321で壁材2の縦方向縁部を係止する構造(前述の壁材2の縦方向縁部を係止可能な構造)である(図3参照)。
【0084】
壁材支持部33は、杭基部31と壁材係止部32の間、且つ、土中への埋設領域となる箇所に設けられて壁材2の下端角部近傍を支持可能な構造である(図3参照)。本実施形態で壁材支持部33は、壁材係止部32の下端(フランジ部分321とウェブ部分322の下端)に設けられた受け面(換言すると杭基部31の上面)である(図1図2(a)及び図3参照)。
【0085】
土留壁構造体1は、土留用杭3を、フランジ部分321が基準面G1側(非盛土側)に向き、ウェブ部分322が盛土G2側に向くように打設し、打設後の土留用杭3に対して壁材2を取り付けることで、土留壁構造体1を構成する。
【0086】
(土留壁構造体1の構築方法)
本実施形態の土留壁構造体1の構築方法は、以下の第1工程及び第2工程から成る。
【0087】
<第1工程>
第1工程では、基準面G1及び基準面G1から所定高さに立ち上がる土壁を有する盛土の近傍に、複数の土留用杭3を打設する。各土留用杭3は、所定の間隔(壁材2よりもやや狭い幅)を空け、且つ、フランジ部分321を基準面G1側(非盛土側)に向け、ウェブ部分322が盛土G2側に向くように配列し、土壁近傍となる基準面G1の土中に杭基部31が埋設されるように各々を打設する。
【0088】
土留用杭3の杭基部31を土中へ埋設する作業にあたっては、壁材支持部33を押圧して圧入することができる。これにより、埋入前の長軸な状態で杭頭を打撃して圧入する場合と比較して、少ない衝撃で先部を圧入することができ、コンクリート製である土留用杭3に圧縮破壊や座屈が起きにくくなる。圧入に際しては、壁材支持部33を真上から押圧可能且つフランジ部分321とウェブ部分322の両方又はいずれか一方に沿う形状のアタッチメント(図示省略)を介して、油圧ショベル等の作業機で圧入を行うことができる。
【0089】
<第2工程>
第2工程では、壁材2を土壁に対向させて取り付ける。このとき、壁材2は、壁材2の縦方向縁部を、土留用杭3の壁材係止部32に嵌合させて係止させ(図1(b)、図3参照)、且つ、壁材2の下端角部近傍を壁材支持部33に載置して支持させる態様で、隣り合う設置後の土留用杭3の間に配設する(図1図3参照)。
【0090】
本実施形態では、壁材2は高さ方向に短辺な板を複数組み合わせてなる態様であり、最下部に位置する壁材2(最下部壁板21)の全部と、その上に積重する壁板(符号省略)の高さ方向略半分を土中に埋設し、壁埋入部分22が生じる(図1(b)参照)。
【0091】
本実施形態の土留用杭3によれば、フランジ部分321によって壁材2の縦方向縁部が係止され、また、ウェブ部分322が仕切りとなって係止された壁材3が左右方向へ過剰にずれることがなくなる(図3(a)参照)。そして、土留用杭3によれば、壁材2を土留用杭3に取り付ける手順が容易であるので、作業者の熟練度を問わず、作業効率が良い。
【0092】
なお、土留壁構造体1は、図1に示すように土壁に直接沿わせる態様のほか、傾斜地を開削して鉛直な土壁を形成して土壁に直接沿わせる態様や、傾斜地の斜面下又は斜面途中に土留壁構造体1を構築し、傾斜地上面と壁材2の空隙に土の充填及び締め固めを行う態様等であってもよい。また、充填する土にはセメントやモルタル等の硬化材を混合することが好ましいが、混合しない態様を除外するものではない。
【0093】
(作 用)
土留壁構造体1の作用について説明する。なお、土留壁構造体1及び構成部材について、非特許文献1記載のL型擁壁を使用した土留壁及びその構築方法との比較については、以下「L型擁壁の場合」という。
【0094】
土留壁構造体1は、土留用杭3の杭基部31を所定の深さで土中へ埋設し、壁材係止部32で壁材2の縦方向縁部を係止する態様で壁材2を係止し、且つ、壁材支持部33で壁材2(最下部壁板21)の下端角部近傍を支持することにより、構成されたものである(図1~3参照)。
【0095】
土留壁構造体1は、基本的に作業現場での加工が不要であって、速やかに作業に取りかかることができるので、L型擁壁の場合と比較して、作業効率が良い。そして、使用される土留用杭3は、鋼材である土留用杭と比較して、耐腐食性が向上しており、また、軽量であることから運搬性が良く、更にまた、一般的に安価であって調達コスト低減が期待できる。
【0096】
土留壁構造体1によれば、前述した箇所に設けた壁材支持部33によって壁材2の下端が支持されていることで壁材2下部に壁埋入部分22が生じ、土中において壁埋入部分22が深さ方向及び幅方向に張り出した態様となることで、杭基部31とも協働して周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させている(図1参照)。つまり、一般的な杭で構成した土留壁の場合と比較して、杭基部31を土中へ埋設する領域(土中への進入部分の長さ)が同じであっても、壁材2に盛土G2側からの土圧が加わった際に生じうる土留用杭3の転倒事故(およびこれに伴う土留壁構造体1の倒壊事故)を抑止する効果が更に高まっている。
【0097】
更に、土留壁構造体1は、壁材2下部の壁埋入部分22が土中において周面摩擦力及び土圧を増大させる態様で係止することから、一般的な構造の杭と比較して、土留用杭の全長を短く設定することもできる。更にまた、土留壁構造体1は、土留用杭3の壁材支持部33によって壁材2下端が支持されているので、土留壁構造体1の構成後、壁材2がその自重によって土中へ更に沈下することを抑止することができる。
【0098】
土留壁構造体1は、L型擁壁の場合と比較して、土留用杭3と壁材2からなる簡易な構造でありながら、壁体2と協働して土留用杭3の転倒事故の抑止効果を高められており、十分に堅牢な構造である。そして、土留壁構造体1は、L型擁壁の場合と比較して、根切量が半分以下で済むことから土工事等の工程も少なく、施工が容易で、工期も短くて済む。また、土留壁構造体1は、L型擁壁の場合と比較して、土留用杭3や壁材2個々の重量がL型擁壁よりも軽量であるため、運搬や設置の際の作業負担が少なくて済む。
【0099】
更にまた、土留用杭3を使用した土留壁構造体1は、L型擁壁のような底板が存在せず、この底板に起因して生じる土留壁と建物の間の距離が少なくて済み、また、定形のL型擁壁を直線的に配設して成るものではないため、曲線的な土留壁も形成可能で、土留壁の形状に関する設計の自由度が高い。
【0100】
土留壁構造体1は、一般的な既製品である壁材2を使用可能であり、土留用杭3も既製杭にすることにより、材料調達コスト及び作業コストの低減化、工期短縮が期待できる。なお、本実施形態では、壁材2は平板なコンクリート板を使用しているが、例えば、壁材の縦方向縁部にクランク形状部分又は切欠形状部分が形成されたもの(いわゆるソケットパネル)であって、壁材係止部32のフランジ部分321とウェブ部分322で形成される入り隅に係合可能なものを使用することもできる。
【0101】
本実施形態において、土留用杭3を土中へ埋設する作業として、前述の方法(壁材支持部33の押圧)が挙げられるが、これに限定するものではなく、例えば、所定深さと長さ及び幅で基準面G1を掘削し、掘削土の埋め戻し及び締め固めによる態様、他の公知手段であってもよい。また、掘削土を埋め戻すだけでは地盤が弱くなり杭への負担が大きいため、埋め戻す掘削土にはセメントやモルタル等の硬化材を混合する態様やいわゆる改良土を使用することが好ましいが、混合しない態様を除外するものではない。改良土等の使用により、杭への負担を小さくすることができる。
【0102】
〔第2実施形態〕
土留壁構造体1aは、図1~3に示した土留壁構造体1aの他の態様(第2実施形態)であり、図4を参照して説明する。
【0103】
土留壁構造体1aは、基準面G1と盛土G2を区切り、基準面G1と盛土G2の間に所定高さで立ち上がる土壁を覆うように設置されており、土留壁を構成する壁材2と、壁材2を支持可能な長さの土留用杭3aを備える。なお、壁材2は、第1実施形態の土留壁構造体1と同様であるため、構造及び作用効果の説明については省略する。また、土留壁構造体1aにおいて、土留壁構造体1と共通する構造及び作用効果の説明についても説明を省略する。
【0104】
(土留用杭3a)
土留用杭3aは、壁材2を支持する長尺棒状のコンクリート二次製品(既製杭)であり、杭基部31、壁材係止部32a及び壁材支持部33aを有する。なお、杭基部31は、第1実施形態の土留壁構造体1と同様であるため、構造及び作用効果の説明については省略する。
【0105】
壁材係止部32aは、杭基部31の軸方向上方へ延設されて壁材2の縦方向縁部を係止可能な構造であり、杭基部31に近い所定長さの部分が土中への埋設領域となる。本実施形態で、壁材係止部32aは、一対のフランジ部分321aとウェブ部分322を有する端面視略H字形であって、フランジ部分321aで壁材2の縦方向縁部を係止する構造(前述の壁材2の縦方向縁部を係止可能な構造)である(図4参照)。
【0106】
壁材支持部33aは、杭基部31と壁材係止部32aの間、且つ、土中への埋設領域となる箇所に設けられて壁材2の下端角部近傍を支持可能な構造である。本実施形態で壁材支持部33aは、壁材係止部32aの下端(フランジ部分321aとウェブ部分322aの下端)に設けられた受け面(換言すると杭基部31の上面)である(図4(b)参照)。
【0107】
土留壁構造体1は、土留用杭3aを、一方のフランジ部分321aが基準面G1側(非盛土側)に向き、他方のフランジ部分321aが盛土G2側に向くように打設し、打設後の土留用杭3aに対して壁材2を取り付けることで、土留壁構造体1aを構成する。
【0108】
(作 用)
土留壁構造体1aは、土留用杭3aの杭基部31を所定の深さで土中へ埋設し、壁材係止部32aで壁材2の縦方向縁部を係止する態様で壁材2を係止し、且つ、壁材支持部33aで壁材2(最下部壁板21)の下端角部近傍を支持することにより、構成されたものである。
【0109】
土留壁構造体1aにおける土留用杭3aは、各フランジ部分321a及びウェブ部分322aにより形成されたコ字形の内部空間(受け部分323a)内で壁材2の縦方向縁部を係止し、また、ウェブ部分322aが仕切りとなって係止された壁材2が左右方向へ過剰にずれることがなくなる。そして、土留用杭3aの使用により、壁材2を土留用杭3aに取り付ける手順が容易であるので、作業者の熟練度を問わず、作業効率が更に向上する。
【0110】
加えて、土留用杭3aによれば、直線的な形状以外の土留壁構造体を選択することもできる。詳しくは、土留用杭3aは、端面視略H字形であることにより、ウェブ部分322aとその両側に突出したフランジ部分321aにより形成される受け部分323a内において、壁材2の縦方向縁部が遊動可能なものとなっている。
【0111】
これにより、各々の受け部分323aが正対するか又は概ね対向するように2本の土留用杭3aを設置すると、受け部分323aの広さに応じた所定範囲で、水平方向における角度を付けて壁材2を取り付けることができる。そして、このような態様で土留用杭3a及び壁材2を配列していくことで、土留用杭及び壁材の大きな加工を伴うことなく、図4(a)に示すような曲線的な形状の土留壁構造体1aを施工することができる。
【0112】
〔第3実施形態〕
図5~6を参照して、図4に示した土留壁構造体1aの他の態様(第3実施形態)である土留壁構造体1b及び土留壁構造体1b(土留構造)の構築方法について説明する。
【0113】
土留壁構造体1bは、基準面G1と盛土G2を区切り、基準面G1と盛土G2の間に所定高さで立ち上がる土壁を覆うように設置されており、土留壁を構成する壁材2と、壁材2を支持可能な長さの土留用杭3bを備える。なお、壁材2は、第1実施形態の土留壁構造体1と同様であるため、構造及び作用効果の説明については省略する。また、土留壁構造体1bにおいて、土留壁構造体1aと共通する構造及び作用効果の説明についても説明を省略する。
【0114】
(土留用杭3b)
土留用杭3bは、壁材2を支持する長尺棒状のコンクリート二次製品(既製杭)であり、杭基部31、壁材係止部32a、壁材支持部33a及び土圧抵抗用パネル34を有する。なお、杭基部31、壁材係止部32a及び壁材支持部33aは、第2実施形態の土留壁構造体1aと同様であるため、構造及び作用効果の説明については省略する。
【0115】
土圧抵抗用パネル34は、土留用杭3bの幅よりも幅広なコンクリート製のパネル状部材であって、軸方向において壁材支持部33aを間に挟んで壁材係止部32aと杭基部31に亘る箇所(前述した「軸方向における土中への埋設領域となる箇所」に相当)に配設されている。
【0116】
土圧抵抗用パネル34は、壁材2と略平行で、その背面側が土留対象である土壁に対向する向きで固着されている。本実施形態において土圧抵抗用パネル34は、土圧抵抗用パネル固着部35を介して壁材係止部32aに固着される構造である(図5(b)、図6参照)。
【0117】
土圧抵抗用パネル固着部35は、端面視略クランク形状であって、クランク形状の略中間に位置する中間部分351、中間部分351の先端に連設されたパネル当接部分352、及び、中間部分351の基端に連設された爪状の係止部分353を有する構造である。
【0118】
土圧抵抗用パネル固着部35は、中間部分351がフランジ部分321aの先端が当接するように取り付けられ、且つ、パネル当接部分352が土圧抵抗用パネル34の裏面に当接するように取り付けられている(図6(b)参照)。なお、本実施形態において、パネル当接部分352と土圧抵抗用パネル34は、これらが重なった箇所においてボルト及びナットの接合部材354を使用して固着しているが、これに限定するものではなく、例えば接着や溶接等の他の手段を除外するものではない。
【0119】
また、土圧抵抗用パネル固着部35は、係止部分353がフランジ部分321aの裏面に当接するように取り付けられ(図6(b)参照)、且つ、係止部分353と中間部分351との間に形成された隅部に対して、ウェブ部分322a側におけるフランジ部分321aの角が嵌合した構造である。
【0120】
土留壁構造体1bは、土留用杭3bを、土圧抵抗用パネル34を取り付けた側のフランジ部分321aが基準面G1側(非盛土側)に向くように打設し、打設後の土留用杭3bに対して壁材2を取り付けることで、土留壁構造体1bを構成する。
【0121】
本実施形態において土圧抵抗用パネル34は、端面視略H字形である土留用杭3bに取り付けられているが、これに限定するものではなく、例えば、端面視略T字形である土留用杭3に取り付けることもできる。
【0122】
(土留壁構造体1の構築方法)
本実施形態の土留壁構造体1bの構築方法は、以下の第1工程及び第2工程から成る。
【0123】
<第1工程>
第1工程では、基準面G1及び基準面G1から所定高さに立ち上がる土壁を有する盛土の近傍に、複数の土留用杭3bを打設する。各土留用杭3bは、所定の間隔(壁材2よりもやや狭い幅)を空け、且つ、土圧抵抗用パネル34の裏面が盛土G2側に向くように配列し、土壁近傍となる基準面G1の土中に杭基部31が埋設されるように各々を打設する。
【0124】
<第2工程>
第2工程では、壁材2を土壁に対向させて取り付ける。このとき、壁材2は、壁材2の縦方向縁部を、土留用杭3bにおける壁材係止部32aの受け部分323a内に嵌合させて係止させ(図5(b)参照)、且つ、壁材2の下端角部近傍を壁材支持部33aに載置して支持させる態様で、隣り合う設置後の土留用杭3bの間に配設する(図1図3参照)。
【0125】
(作 用)
土留壁構造体1bの作用について説明する。土留壁構造体1bは、土留用杭3bの杭基部31及び土圧抵抗用パネル34を所定の深さで土中へ埋設し、壁材係止部32aで壁材2の縦方向縁部を係止する態様で壁材2を係止し、且つ、壁材支持部33aで壁材2(最下部壁板21)の下端角部近傍を支持することにより、構成されたものである(図5参照)。また、本実施形態では、最下部に位置する壁材2(最下部壁板21)の全部を土中に埋設し、壁埋入部分22が生じる(図5(b)参照)。
【0126】
土留壁構造体1bは、土留用杭3bが土圧抵抗用パネル34を備えることによって、土圧抵抗用パネル34が埋設された土中において、深さ方向及び幅方向の両方、或いは、深さ方向又は幅方向のいずれか一方に張り出した態様となり、杭基部31とも協働して周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させている。加えて、本実施形態では、壁材2の壁埋入部分22が生じているので、壁埋入部分22も協働して周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させている(図5参照)。
【0127】
パネル当接部分352は、これを介して、土圧抵抗用パネル34をフランジ部分321aと平行となる態様で分離しないように固着することができる。当該態様で取り付けられた土圧抵抗用パネル4は、土中において十分な周面摩擦力及び土圧を増大させることができる。そして、中間部分351は、フランジ部分321a先端を受ける(当接させる)ことができ、これにより土圧抵抗用パネル34が土留用杭1bの軸方向に対して水平方向にずれる(換言すると、土留用杭1bの軸方向に対して左右方向にずれる)ことを抑止することができる。また、係止部分353は、これを有することで中間部分351との間に隅部が形成され、この隅部にフランジ部分321aの裏側の角が嵌合する。そして、係止部分353は、爪状であることにより、フランジ部分321aの裏側に係合する。
【0128】
土圧抵抗用パネル固着部35は、前述した各部分の作用によって、土圧抵抗用パネル34が直接的に固着されて分離にくい構造となっている。そして、土留用杭1bによれば、分離した土圧抵抗用パネルを杭基部等に沿うように埋入させて間接的に固着させる施工方法と比較して、工程が減ることによって作業性が更に向上し、工期短縮も期待することができる。
【0129】
つまり、一般的な杭で構成した土留壁の場合と比較して、杭基部31を土中へ埋設する領域(土中への進入部分の長さ)が同じであっても、壁材2に盛土G2側からの土圧が加わった際に生じうる土留用杭3bの転倒事故(およびこれに伴う土留壁構造体1bの倒壊事故)を抑止する効果が更に高まっている。更に、土留壁構造体1bは、前述の態様で埋設することから、一般的な構造の杭と比較して、土留用杭の全長を短く設定することもできる。また、土留壁構造体1bは、土留壁構造体1と同様、壁材支持部33bによって壁材2下端が支持されているので、土留壁構造体1bの構成後、壁材2がその自重によって土中へ更に沈下することを抑止することができる。
【0130】
土留壁構造体1bによれば、土圧抵抗用パネル34を備える土留用杭3bを使用したことにより、一般的な杭と比較して、杭基部31が土中へ埋設する領域(土中への進入部分の長さ)が同じであっても、壁材2に盛土G2側からの土圧が加わった際に生じうる杭の転倒事故(およびこれに伴う土留壁構造体1bの倒壊事故)を抑止する効果が更に高まっている。
【0131】
また、土留壁構造体1bは、基本的に作業現場での加工が不要であって、速やかに作業に取りかかることができるので、L型擁壁の場合と比較して、作業効率が良い。そして、使用される土留用杭3bは、鋼材である土留用杭と比較して、耐腐食性が向上しており、また、軽量であることから運搬性が良く、更にまた、一般的に安価であって調達コスト低減が期待できる。
【0132】
更に、土留用杭3bの使用によって、土留用杭3aと同様、受け部分323a内で壁材2の縦方向縁部を係止し、また、ウェブ部分322aが仕切りとなって係止された壁材2が左右方向へ過剰にずれることがなくなるので、壁材2を土留用杭3aに取り付ける手順が容易であり、作業者の熟練度を問わず、作業効率が更に向上する。加えて、土留用杭3bは、土留用杭3aと同様、曲線的な土留壁も形成可能で、土留壁の形状に関する設計の自由度が高い。
【0133】
更にまた、土留壁構造体1bは、土留壁構造体1と同様、土留用杭3bと壁材2からなる簡易な構造でありながら、壁体2と協働して土留用杭3bの転倒事故の抑止効果を高められており、十分に堅牢な構造である。また、土留壁構造体1bは、土留壁構造体1と同様、土工事等の工程も少なく、施工が容易で、工期も短くて済み、土留用杭3bや壁材2個々の重量がL型擁壁よりも軽量であるため、運搬や設置の際の作業負担が少なくて済む。
【0134】
そして、土留用杭3bを使用した土留壁構造体1bについても、土留壁と建物の間の距離が少なくて済み、また、曲線的な土留壁も形成可能で、土留壁の形状に関する設計の自由度が高い。また、土留壁構造体1bは、土留用杭3bも既製杭にすることにより、材料調達コスト及び作業コストの低減化、工期短縮が期待できる。
【0135】
本実施形態において土圧抵抗用パネル34は、端面視略H字形である土留用杭3bに取り付けられているが、これに限定するものではなく、例えば、端面視略T字形である土留用杭3に取り付けることもできる。
【0136】
〔変形例1〕
図7(a)~(c)を参照して、図6に示した土留用杭3bの他の態様(変形例1)である土留用杭3cについて説明する。土留用杭3cは、壁材2を支持する長尺なH形鋼(既製杭)を主部材とし、杭基部31c、壁材係止部32c及び土圧抵抗用パネル34を有する。なお、土圧抵抗用パネル34は、第3実施形態の土圧抵抗用パネル34と同様であるため、構造及び作用効果の説明については省略する。
【0137】
杭基部31cは、一対のフランジ部分とウェブ部分を有する端面視略H字形の柱状であり、設置状態において、土留用杭3cの軸方向下端側から所定の長さで設けられて土中への埋設領域となる(図7(c)参照)。
【0138】
壁材係止部32cは、杭基部31cの軸方向上方へ延設されて壁材2の縦方向縁部を係止可能な構造であり、杭基部31cに近い所定長さの部分が土中への埋設領域となる。本変形例で、壁材係止部32cは、一対のフランジ部分321cとウェブ部分322cを有する端面視略H字形の柱状であって、フランジ部分321cで壁材2の縦方向縁部を係止する構造である(図7(c)参照)。
【0139】
土留用杭3cは、一方のフランジ部分321aが基準面G1側(非盛土側)に向き、他方のフランジ部分321aが盛土G2側に向くように打設し、打設後の土留用杭3aに対して壁材(図示省略)を取り付けることで、土留壁構造体(図示省略)を構成する。
【0140】
土圧抵抗用パネル34は、壁材2と略平行で、その背面側が土留対象である土壁に対向する向きで固着されている。本実施形態において土圧抵抗用パネル34は、土圧抵抗用パネル固着部35cを介して壁材係止部32cに固着される構造である(図7(a)~(c)参照)。
【0141】
土圧抵抗用パネル固着部35cは、端面視略クランク形状であって、クランク形状の略中間に位置する中間部分351c、及び、中間部分351cの先端に連設されたパネル当接部分352c、及び、中間部分351cの基端近傍に設けられた爪状の係止部分353cを有する構造である。
【0142】
土圧抵抗用パネル固着部35cは、中間部分351cがフランジ部分321cの先端が当接するように取り付けられ、且つ、パネル当接部分352cが土圧抵抗用パネル34の裏面に当接するように取り付けられている(図7(a)~(c)参照)。本変形例において、パネル当接部分352cと土圧抵抗用パネル34は、これらが重なった箇所においてボルト及びナットの接合部材354を使用して固着している。
【0143】
また、土圧抵抗用パネル固着部35cは、係止部分353cがフランジ部分321cの裏面に緩く当接するように取り付けられ(図7(a)、(c)参照)、且つ、係止部分353cと中間部分351cとの間に形成された隅部に対して、ウェブ部分322c側におけるフランジ部分321cの角が嵌合した構造である。
【0144】
土圧抵抗用パネル固着部35cは、土留用杭3bの軸方向に2つ配置され、各々が土圧抵抗用パネル34上縁近傍と下縁近傍に配設されている。そして、土圧抵抗用パネル固着部35cは、ウェブ部分322cを挟んで左右に配置されている(即ち、合計4箇所に配置されている)(図7(b)、(c)参照)。なお、本変形例では、土圧抵抗用パネル固着部の数及び配置が前述の通りであるが、これに限定するものではなく、例えば、土圧抵抗用パネルの大きさや形状等の事情を考慮して増減した態様であってもよい。
【0145】
上下方向に位置する土圧抵抗用パネル固着部35cは、各々が連結部材355で連結されており、連結部材355は、中間部分351cの先端近傍に固着されている(図7(a)~(c)参照)。当該連結構造により、上下方向に位置する土圧抵抗用パネル固着部35cの間隔が保持される。そして、連結部材355は、その上端部分が壁材支持部に相当し、連結部材355の上端部分は、土中への埋設領域となる箇所に設けられて壁材2(最下部壁板21)の下端角部近傍を支持可能な受け部である。
【0146】
土留用杭3cは、土圧抵抗用パネル34を取り付けた側のフランジ部分321cが基準面G1側(非盛土側)に向くように打設し、打設後の土留用杭3cに対して壁材を取り付けることで、土留壁構造体を構成する。
【0147】
打設後の土留用杭3cに対する壁材(最下部壁板21)の取り付けにおいて、壁材(最下部壁板21)は、その下端が連結部材355の上端部分に載るように行う(図7(a)~(c)参照)。これにより、壁材(最下部壁板21)の重量によって、各土圧抵抗用パネル固着部35cがフランジ部分321cでガイドされるようにスライドして下降し、これに伴って図7(b)、(c)の矢印方向に土圧抵抗用パネル34も下降する(図7(b)、(c)参照)。
【0148】
本変形例における土圧抵抗用パネル34は、先端が端面視楔形であり、最下部壁板21の上に壁材(を構成する壁材)を次々積重するにつれ、その重量で土圧抵抗用パネル34が土中へ更に沈み込む。これにより、杭打機等の強い力で打設することなく、比較的弱い力で、土圧抵抗用パネル34を土中深い位置へ押し込むことができる。
【0149】
なお、杭基部31c及び壁材係止部32cの作用効果は、第2実施形態の土留壁構造体1aと同様であるため、説明を省略する。また、土圧抵抗用パネル34及び土圧抵抗用パネル固着部35cの作用効果は、第3実施形態の土留壁構造体1bと同様であるため、説明を省略する。
【0150】
〔変形例2〕
図7(d)に示す土留用杭3dは、図7(a)~(c)に示した土留用杭3cの他の態様(変形例2)である。土留用杭3dは、壁材2を支持する長尺なT形鋼(既製杭)を主部材とする点で、土留用杭3cと相違するが、その他の構造及び作用効果は土留用杭3及び土留用杭3cとほぼ同様であるため、構造及び作用効果の説明については省略する。
【0151】
〔変形例3〕
図8に示す壁材2(最下部壁板21e)は、第1実施形態、第2実施形態における壁材2(最下部壁板21)の他の態様(変形例3)を示している。なお、図示は省略するが、本変形例における壁材は、第3実施形態、変形例1、変形例2にも適用可能である。なお、図8に示す土留用杭3(3a)は、第1実施形態、第2実施形態のものと同様であるため、構造及び作用効果の説明を省略する。
【0152】
壁材2における最下部壁板21eは、最下部壁板21の下縁(図8で示す二点鎖線部分)よりも下方へ長く延伸して形成されており、延伸領域は、左右両縁部分が下方に向かって徐々に幅が狭くなり、二点鎖線部分以下の部分が正面視略台形に設けられている。また、最下部壁板21eは、その下縁が端面視(厚み方向に)先鋭となる楔形に設けられている。
【0153】
なお、本変形例では、延伸領域(二点鎖線部分以下の部分)の形状は正面視略台形であるが、これに限定するものではなく、例えば、下方に向かって徐々に幅が狭くなる正面視逆三角形や正面視略円弧形等であってもよいし、左右両縁部分が下方に向かって真っ直ぐに下った(幅が狭くならない)形状の正面視略長方形であってもよい。
【0154】
最下部壁板21eは、前述の延伸領域を有することにより、土中での面積が拡大し、土圧への抵抗力が更に向上する。加えて、最下部壁板21eは、下縁が楔形であることにより、最下部壁板21の上に壁材(を構成する壁材)を次々積重するにつれ、その重量で土圧最下部壁板21eが土中へ更に沈み込む。これにより、杭打機等の強い力で打設することなく、比較的弱い力で、最下部壁板21eを土中深い位置へ押し込むことができるので、作業性が更に向上している。
【0155】
なお、第3実施形態、変形例1、変形例2において、土圧抵抗用パネル34は、その背面側が土留対象である土壁に対向する向きで固着される態様であるが、これに限定するものではなく、その正面側が土留対象である土壁に対向する向きで固着された態様であっても良く、同様の作用効果(周面摩擦力及び土圧を受ける面積を増大させる)を奏する。
【0156】
なお、第2実施形態、第3実施形態、変形例1において、土留用杭の壁材係止部に係る受け部分は、左右方向に開口した端面視コ字形であるが、これに限定するものではなく、例えば、受け部分の形状が、左右方向に開口した端面視半円形である態様、左右方向に開口した端面視半長円形である態様、左右方向に開口し開口方向から内側に向かって徐々に幅が狭まる端面視略台形である態様等であってもよく、これら形状であることで、受け部分内において壁材2の縦方向縁部が遊動可能な範囲が拡大し、受け部分の形状に応じた所定範囲で、曲線的な形状の土留壁構造体を施工する際の自由度を高めることができる。
【0157】
本明細書および特許請求の範囲で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書および特許請求の範囲に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。また、第一、第二等の言葉は、等級や重要度を意味するものではなく、一つの要素を他の要素から区別するために使用したものである。
【符号の説明】
【0158】
1、1a、1b 土留壁構造体
2 壁材
21、21e 最下部壁板
22 壁埋入部分
3、3a、3b、3c、3d 土留用杭
31、31c 杭基部
32、32a、32c 壁材係止部
321、321a、321c フランジ部分
322、322a、322c ウェブ部分
323a 受け部分
33、33a 壁材支持部
34 土圧抵抗用パネル
35、35c 土圧抵抗用パネル固着部
351、351c 中間部分
352、352c パネル当接部分
353、353c 係止部分
354 接合部材
355 連結部材
G1 基準面
G2 盛土
UG 土中

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8