(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025599
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】フラッシング方法
(51)【国際特許分類】
B08B 9/032 20060101AFI20240216BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20240216BHJP
B08B 9/22 20060101ALI20240216BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B08B9/032
B23Q11/00 K
B08B9/22
B08B3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022137322
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】303030357
【氏名又は名称】長岡石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088867
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 卓嗣
(72)【発明者】
【氏名】広川 明一
【テーマコード(参考)】
3B116
3B201
【Fターム(参考)】
3B116AA12
3B116AA33
3B116BA08
3B116BA22
3B116BB77
3B116BB87
3B116CD22
3B201AA12
3B201AA33
3B201BA08
3B201BA22
3B201BB77
3B201BB92
3B201BB94
3B201CB23
3B201CD22
(57)【要約】
【課題】 切削装置に使用される切削液は経年劣化したり腐敗するので定期的に交換する必要があり、その際切削液が投入されているタンクやパイプ内を清掃する必要があったが適切に清掃する方法は存在しなかった。
【解決手段】 本発明は前記タンク内に非イオン界面活性剤を含む洗浄剤を投入する工程と、前記タンク内に前記洗浄剤が投入された状態で、使用後の前記金属加工液と共に、前記ポンプを発動して当該洗浄剤および前記金属加工液を循環させ当該タンク及び前記パイプ内を洗浄する工程と、洗浄後の前記洗浄剤と前記金属加工液を前記タンクの外部に排出する工程と、前記タンク内に残留する被加工物の一部を除去する工程と、前記タンク内部の壁面を拭う工程と、未使用の金属加工液を前記タンク内に投入する工程と、からなるフラッシング方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属加工時に加工部分の潤滑や冷却をするために当該部分に供給される金属加工液と、当該金属加工液を収納するタンクと、タンクに収納された前記金属加工液を前記加工部分に輸送するポンプおよびパイプと、前記金属加工液を加工部分から前記タンクに還流させるパイプとを有する金属加工装置の、前記タンク内を洗浄するフラッシング方法であって、
前記タンク内に非イオン界面活性剤を含む洗浄剤を投入する洗浄剤投入工程と、
前記タンク内に前記洗浄剤が投入された状態で、使用後の前記金属加工液と共に、前記ポンプを発動して当該洗浄剤および前記金属加工液を循環させ当該タンク及び前記パイプ内を洗浄する洗浄工程と、
洗浄後の前記洗浄剤と前記金属加工液を前記タンクの外部に排出する排出工程と、
前記タンク内に残留する被加工物の一部を除去する除去工程と、
前記タンク内部の壁面を拭う拭取工程と、
未使用の金属加工液を前記タンク内に投入する金属加工液投入工程と、
からなるフラッシング方法。
【請求項2】
前記洗浄剤をタンク内に投入し、1日ないし7日間前記洗浄剤を循環させ、洗浄後の前記洗浄剤と前記金属加工液を前記タンクの外部に排出する請求項1記載のフラッシング方法。
【請求項3】
前記洗浄剤をタンク内に投入し循環させて、洗浄工程を実行中に1日ないし7日間前記金属加工装置を駆動させた後に、洗浄後の洗浄剤と金属加工液を排出する請求項1記載のフラッシング方法。
【請求項4】
前記洗浄剤のpHは5ないし7である請求項1記載のフラッシング方法。
【請求項5】
もっぱらアルミニウムの加工に使用される請求項1記載のフラッシング方法。
【請求項6】
前記金属加工装置が旋盤、フライス盤、ボール盤、研削盤又はマシニングセンターである請求項1記載のフラッシング方法。
【請求項7】
前記金属加工液は水溶性の切削液もしくは研削液である請求項1記載のフラッシング方法。
【請求項8】
前記金属加工液は水溶性のものである請求項1記載のフラッシング方法。
【請求項9】
前記洗浄剤には、非イオン界面活性剤であるグリセリン脂肪酸エステル(RCOOCH2CH(OH)CH2OH)、脂肪アルコールエトキシレート(RO(CH2CH2O)nH)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(RC6H4O(CH2CH2O)nH)、アルキルグリコシド(RC6H11O6)のいずれか1種類もしくは複数種類のものが含まれている請求項1記載のフラッシング方法。
【請求項10】
前記洗浄剤中の非イオン界面活性剤の量は、排出する前の使用済みの切削液の量に対し0.5%ないし2%である請求項1記載のフラッシング方法。
【請求項11】
前記洗浄剤中の非イオン界面活性剤の量は、水に対して0.5%ないし1%で、pHは5ないし7である請求項1記載のフラッシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤、フライス盤、ボール盤、研削盤、マシニングセンターなどの金属加工装置において、循環して使用される切削液や研削液などの金属加工液が汚損もしくは腐敗などにより劣化した場合に、当該金属加工液を交換する必要が生じる。その際前記金属加工液が収納されているタンクおよび前記金属加工液を前記タンクから加工部分に輸送するパイプや、当該加工部分からタンクに還流させるためのパイプの内部を洗浄するためのフラッシング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フラッシング方法としては種々の方法が採られているが、そこで使用されている洗浄剤はpHが7よりも大の9.5や12といった強い塩基性を呈するものが主であって、作業者に健康被害を与える虞があり、また洗浄剤を投入して加工を実行すると被加工物がアルミニウムや銅の場合は変色する虞があった。
またフラッシング方法を実行する工程はノウハウとして開示されず、各フラッシング業者がそれぞれ試行錯誤を繰り返し、なかなか理想的なフラッシング方法が実現できていなかった。
【0003】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1には、pHが8ないし11.5という塩基性ないし強塩基性のアミン化合物が開示されているが、このようにpHが8ないし11.5であると、前述のように作業者に健康被害を与える虞があり、また洗浄剤を投入して加工を実行すると被加工物がアルミニウムや銅の場合変色する虞があった。
またこの特許文献1にはフラッシング方法は開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、金属加工時に加工部分の潤滑や冷却をするために当該部分に供給される金属加工液と、当該金属加工液を収納するタンクと、タンクに収納された前記金属加工液を前記加工部分に輸送するポンプおよびパイプと、前記金属加工液を加工部分から前記タンクに還流させるパイプとを有する金属加工装置の、前記タンク内を洗浄するフラッシング方法であって、
前記タンク内に非イオン界面活性剤を含む洗浄剤を投入する洗浄剤投入工程と、前記タンク内に前記洗浄剤が投入された状態で、使用後の前記金属加工液と共に、前記ポンプを発動して当該洗浄剤および前記金属加工液を循環させ当該タンク及び前記パイプ内を洗浄する洗浄工程と、洗浄後の前記洗浄剤と前記金属加工液を前記タンクの外部に排出する排出工程と、前記タンク内に残留する被加工物の一部を除去する除去工程と、前記タンク内部の壁面を拭う拭取工程と、未使用の金属加工液を前記タンク内に投入する金属加工液投入工程と、を有することを特徴とするフラッシング方法である。
【0007】
本発明では、前記タンク内に非イオン界面活性剤を含む洗浄剤を投入する洗浄剤投入工程と、前記タンク内に前記洗浄剤が投入された状態で、使用後の前記金属加工液と共に、前記ポンプを発動して当該洗浄剤および前記金属加工液を循環させ当該タンク及び前記パイプ内を洗浄する洗浄工程と、洗浄後の前記洗浄剤と前記金属加工液を前記タンクの外部に排出する排出工程と、前記タンク内に残留する被加工物の一部を除去する除去工程と、前記タンク内部の壁面を拭う拭取工程とを有するので、前記非イオン界面活性剤の効果により、作業者への健康被害を最低限に抑え且つタンク内を効果的に洗浄できる。
【0008】
(2)前記洗浄剤をタンク内に投入してから循環させ、1日ないし7日経過後に洗浄後の洗浄剤を排出することが望ましい。
洗浄剤をタンク内に投入してから、1日ないし7日が経過すると、汚損若しくは腐敗した金属加工液は前記タンクや前記パイプ内からより確実に除去される。
循環させる期間は金属加工液や金属加工装置の種類によって、また汚損の程度によって適宜選択する。
【0009】
(3)前記洗浄剤をタンク内に投入してから循環させ、1日ないし7日の間前記金属加工装置を駆動させた後に、洗浄後の洗浄剤を排出することが望ましい。
洗浄剤をタンク内に投入してから、1日ないし7日の間旋盤や研削盤など前記金属加工装置を駆動させて被加工物を加工すると、その間装置の稼働率は落ちず、より経済的である。
【0010】
(4)前記洗浄剤のpHは5ないし7であることが望ましい。
洗浄剤のpHは5ないし7であること即ち弱酸性ないし中性であると、作業者の人体に悪影響を及ぼす虞は少なく、またアルミニウムや銅を加工してもそれらを変色させる虞も少なくなる。
特に、前述のように、洗浄剤をタンク内に投入してから、1日ないし7日の間旋盤や研削盤などの金属加工装置を駆動させて被加工物を加工してもそれらを変色させる虞は少なくなる。
【0011】
(5)もっぱらアルミニウムの加工に使用されることが望ましい。
アルミニウムは弱塩基性でも変色したり腐食したりするので、前記洗浄剤のpHが5ないし7であることが特に望ましい。
【0012】
(6)前記金属加工装置は旋盤、フライス盤、ボール盤、研削盤又はマシニングセンターであることが望ましい。
本発明は特に切削装置および研削装置に適合するものである。
【0013】
(7)前記金属加工液は水溶性の切削液もしくは研削液であることが望ましい。
本発明は特に切削液や研削液に適合するものである。
【0014】
(8)前記金属加工液は水溶性のものであることが望ましい。
水溶性の金属加工液は腐敗しやすいので、特に本発明に適合しやすい。
【0015】
(9)前記洗浄剤には、非イオン界面活性剤であるグリセリン脂肪酸エステル(RCOOCH2CH(OH)CH2OH)、脂肪アルコールエトキシレート(RO(CH2CH2O)nH)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(RC6H4O(CH2CH2O)nH)、アルキルグリコシド(RC6H11O6)のいずれか1種類もしくは複数種類のものが含まれていることが望ましい。
【0016】
(10)前記洗浄剤中の非イオン界面活性剤の量は、排出する前の使用済みの切削液の量に対し0.5%ないし2%であることが望ましい。
非イオン界面活性剤の量が多すぎると各機構に悪影響を与える虞があり、コストもかかる。また少なすぎると洗浄が十分でなくなる虞がある。
【0017】
(11)前記洗浄剤中の非イオン界面活性剤の量は、水に対して0.5%ないし1%で、pHは5ないし7であることが望ましい。
pHが5ないし7であると人体に悪影響を及ぼす虞は少なく、金属加工装置を稼働させても被加工物にも悪影響を及ぼす虞も少ない。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るフラッシング方法を実施すると、実施の態様によっては作業者の人体に悪影響を及ぼす虞が少なく、またアルミニウムや銅を加工してもそれらを変色させる虞も少なく、更にタンク内などをより効果的に洗浄することができる。
更にまた洗浄剤をタンクに投入して数日間金属加工装置を稼働することができるので、当該装置の稼働率が低下することもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る洗浄剤の循環状態を示す模式図である。
【
図2】フラッシングの各工程の順序を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施の形態として、
図1に従い切削装置について説明する。
切削装置では、左右に摺動する被切削材1の上面に回転する回転刃のような切削工具2が接触して当該被切削材1の表面を切削加工するのであるが、切削時に摩擦熱が発生するので当該摩擦熱を除去するために切削部分に切削液3が放射される。
この切削液3としては多様なものがあるが、いずれも潤滑性を高めたり(切削抵抗を減らす)、冷却したり、防錆に寄与したり、切屑などの付着を防ぐなどの機能を有するものである。
【0021】
切削中には、前記被切削材1と切削工具2の接点は非常に高温になり、このため、当該切削工具2への熱的ダメージが大きすぎると、切削工具(回転刃)2の切れ味や寿命に悪影響を及ぼし、また被切削材1そのものにも熱軟化等の影響を与える。
切削熱をいかにして放熱するかという課題に最も直接的にかかわってくるのが、この切削液3の選択である。被切削材1と切削工具2との潤滑性をあげることで、切削抵抗を減らし、熱の発生をなるべく抑制し、発生した熱に関しても冷却効果によって取り除き、かつ切削装置や切削工具2、フランジ等を錆びさせず、切屑の付着を防ぐ、こうした点が切削液の選択では重要になってくる。
【0022】
切削液3は切削液貯蔵タンク4に収納されており、当該切削液貯蔵タンク4内の切削液3は、図示せぬポンプによって供給パイプ5内に送出され切削部に放射される。前記切削部に放射され所定の機能を果たした切削液3は、図示せぬポンプによって帰還パイプ6を通過した後、フィルタ7によって切屑などが濾過され前記切削液貯蔵タンク4に帰還する。
【0023】
かように前記切削液3を循環させ切削作業を実行するわけであるが、長時間使用することにより切削液3が汚損し、腐敗して劣化するので、切削液3としての機能を十分果たさなくなる虞がある。
そこで、適宜使用済みの前記切削液3を前記切削液貯蔵タンク4から排出し、未使用の新たな切削液3を前記切削液貯蔵タンク4に投入するのであるが、新たな切削液3を投入する以前に前記切削液貯蔵タンク4、供給パイプ5および帰還パイプ6内を洗浄する必要があり、この洗浄をフラッシングという。
【0024】
次いで、
図2に従いフラッシングの各工程について説明する。
先ず、洗浄剤投入工程S1では使用済みの切削液(旧切削液)3が前記タンク4に収納されている状態で、洗浄剤を投入する。当該洗浄剤には、非イオン界面活性剤であるグリセリン脂肪酸エステル(RCOOCH
2CH(OH)CH
2OH)、脂肪アルコールエトキシレート(RO(CH
2CH
2O)
nH)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(RC
6H
4O(CH
2CH
2O)
nH)、アルキルグリコシド(RC
6H
11O
6)のいずれか1種類もしくは複数種類のものが含まれている。
【0025】
これらの洗浄剤の種類は、切削加工や研削加工の条件や被加工物の種類によって適宜個別に選択される。
また、前記洗浄剤の非イオン界面活性剤の濃度は水に対して0.5%ないし1%で、pHは5ないし7が適当であるが、これも切削加工や研削加工の条件や被加工物の種類によって適宜個別に選択される。
更に、前記洗浄剤の非イオン界面活性剤は、排出する前の使用済みの切削液3の量に対し0.5%ないし2%が添加される。
【0026】
而して、前記洗浄剤を前記タンク4に投入してから1日ないし7日間経過後、洗浄工程S2において、前記ポンプを発動して、前記洗浄剤と使用済みの切削液3の混合物を前記タンク4内からパイプ5、6の内部を循環させてそれらを洗浄する。
その後、旧切削液排出工程S3では、前記洗浄剤と使用済みの切削液3の混合物を、吸引ポンプなどを使用して外部の容器(例えばドラム缶)に排出する。
その後、除去工程S4では、前記フィルタ7に付着した切屑などを機械的に除去する。
【0027】
その後、拭取工程S5にて前記切削液貯蔵タンク4の内壁に付着している前記洗浄剤と使用済みの切削液3の混合物を、布やスポンジを用いて可及的に拭取る。
前記タンク4の内部が拭取られた後、新切削液投入工程S6で未使用の切削液3(新切削液)が当該タンク内に投入されてすべての工程が終了する。
なお、洗浄工程S2の実行中に、切削装置を駆動させ切削作業を行うことも可能である(S7)。
上記の実施の形態は一般的な切削装置について説明したが、旋盤、フライス盤、ボール盤、研削盤又はマシニングセンターなどにも応用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0028】
1 被切削材、2 切削工具、3 切削液、4 切削液貯蔵タンク、5 供給パイプ、6 帰還パイプ、7 フィルタ。