(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002560
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】位相差フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231228BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18 CER
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101820
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠太
(72)【発明者】
【氏名】有賀 草平
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AB01
2H149AB23
2H149DA02
2H149DA12
2H149DA26
2H149DA27
2H149DB26
2H149FA02Y
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2H149FA58Y
2H149FD17
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2H149FD25
2H149FD47
4F071AA31
4F071AC07
4F071AC10
4F071AE04
4F071AE19
4F071AF53
4F071AG28
4F071AG34
4F071AH12
4F071AH16
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】薄型化された場合でも厚み方向レターデーションが大きい位相差フィルムを歩留まり高く製造できる、位相差フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】位相差フィルムの製造方法は、工程Saと工程Sbとを備える。工程Saでは、支持体上に樹脂溶液を塗布することにより塗膜を形成する。工程Sbでは、工程Saで得られた塗膜を、加熱装置を用いて加熱することにより、支持体上に樹脂膜を形成する。樹脂溶液に含まれる有機溶媒のうち、第1溶媒の沸点は70℃以上90℃以下であり、第2溶媒の沸点は120℃以上150℃以下である。第2溶媒の含有率は、3重量%以上30重量%以下である。工程Sbは、35℃以上80℃以下の温度で塗膜を加熱する第1加熱工程を含む。第1加熱工程において加熱雰囲気内に送入される空気中の水蒸気量は、10g/m3以上30g/m3以下である。工程Sbで得られる樹脂膜は、Cプレートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に樹脂溶液を塗布することにより塗膜を形成する工程Saと、
前記塗膜を、加熱装置を用いて加熱することにより、前記支持体上に樹脂膜を形成する工程Sbとを備え、
前記樹脂溶液は、2種以上の有機溶媒を含み、
前記有機溶媒のうち、重量基準で最も多く含まれる溶媒を第1溶媒とし、最も沸点が高い溶媒を第2溶媒としたとき、前記第1溶媒の沸点が70℃以上90℃以下であり、かつ前記第2溶媒の沸点が120℃以上150℃以下であり、
前記第2溶媒の含有率が、前記有機溶媒の全量に対して、3重量%以上30重量%以下であり、
前記工程Sbは、前記加熱装置の加熱雰囲気内に空気を送入しながら、35℃以上80℃以下の温度で前記塗膜を加熱する第1加熱工程を含み、
前記第1加熱工程において前記加熱雰囲気内に送入される前記空気中の水蒸気量が、10g/m3以上30g/m3以下であり、
前記樹脂膜が、Cプレートである、位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記工程Sbは、前記第1加熱工程後、前記第2溶媒の沸点よりも高い温度で前記塗膜を加熱する第2加熱工程を更に含む、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂溶液の固形分濃度が、8重量%以上25重量%以下である、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記工程Sbで得られた前記樹脂膜の厚みが、1.0μm以上8.0μm以下である、請求項3に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂溶液の固形分濃度、及び前記工程Sbで得られた前記樹脂膜の厚みから算出される前記塗膜の厚みが、10.0μm以上50.0μm以下である、請求項4に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記工程Sbで得られた前記樹脂膜の残存溶媒量が、0.5重量%以上5.0重量%以下である、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等のディスプレイには、コントラスト向上や視野角拡大等の光学補償を行う目的で、位相差フィルムが用いられる(例えば特許文献1参照)。位相差フィルムは、面内方向の屈折率(nx、ny)及び厚み方向の屈折率(nz)の大小関係により、分類される。位相差フィルムの具体例としては、ポジティブAプレート(例えばnx>ny=nzの関係を有するフィルム)、ネガティブAプレート(例えばnz=nx>nyの関係を有するフィルム)、ポジティブCプレート(例えばnx=ny<nzの関係を有するフィルム)、ネガティブCプレート(例えばnx=ny>nzの関係を有するフィルム)等が挙げられる。なお、本明細書において、「nx」は、光学層(位相差フィルム等)の面内における遅相軸方向の屈折率を表す。また、本明細書において、「ny」は、光学層(位相差フィルム等)の面内における上記遅相軸方向と直交する方向の屈折率を表す。また、本明細書において、「nz」は、光学層(位相差フィルム等)の厚み方向における屈折率を表す。
【0003】
ポジティブAプレート及びネガティブCプレートを構成する樹脂材料としては、一般に正の固有複屈折を有するポリマーが用いられる。一方、ネガティブAプレート及びポジティブCプレートを構成する樹脂材料としては、一般に負の固有複屈折を有するポリマーが用いられる。なお、「正の固有複屈折を有するポリマー」とは、延伸等により配向させた場合に、その配向方向の屈折率が相対的に大きくなるポリマーを指す。また、「負の固有複屈折を有するポリマー」とは、延伸等により配向させた場合に、その配向方向の屈折率が相対的に小さくなるポリマーを指す。
【0004】
光学補償に用いられる位相差フィルムには、厚みや光学特性の均一性が要求される。そのため、位相差フィルムの製膜には、溶液製膜法が広く用いられている。溶液製膜法では、溶媒中にポリマーを溶解させた樹脂溶液(ドープ)を支持体上に塗布して塗膜を形成した後、加熱等により塗膜を乾燥させて、支持体上に樹脂膜が密着積層された積層体を形成する。
【0005】
溶液製膜法による製膜では、支持体上で塗膜が乾燥される際の体積収縮により応力が生じ、ポリマーの分子鎖が面内方向に配向する傾向がある。そのため、樹脂材料として、複屈折発現性の高いポリマーが用いられる場合は、乾燥時の収縮作用により、支持体上に形成された樹脂膜が大きな厚み方向複屈折を有する場合がある。この場合は、当該樹脂膜を、そのままポジティブCプレートやネガティブCプレートとして用いることができる。例えば、特許文献1には、高い複屈折発現性を有するポリマーを含む樹脂溶液を基材上に塗布し、乾燥させて得られた樹脂膜を、ネガティブCプレートとして使用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ディスプレイの高画質化が進むと共に、位相差フィルムに対する要求性能も高くなってきている。同時に、ディスプレイの軽量化や薄型化に対する要求も高まっており、従来よりも厚みの小さい(薄型化された)位相差フィルムが用いられるようになっている。そのため、複屈折が大きく、薄型化された場合でもレターデーション(例えば厚み方向レターデーション)が大きい位相差フィルムが求められている。
【0008】
特許文献1に記載の技術には、薄型化された場合でも厚み方向レターデーションが大きい位相差フィルムを、歩留まり高く製造することについて、改善の余地が残されている。
【0009】
上記課題に鑑み、本発明は、薄型化された場合でも厚み方向レターデーションが大きい位相差フィルムを歩留まり高く製造できる、位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<本発明の態様>
本発明には、以下の態様が含まれる。
【0011】
[1]支持体上に樹脂溶液を塗布することにより塗膜を形成する工程Saと、
前記塗膜を、加熱装置を用いて加熱することにより、前記支持体上に樹脂膜を形成する工程Sbとを備え、
前記樹脂溶液は、2種以上の有機溶媒を含み、
前記有機溶媒のうち、重量基準で最も多く含まれる溶媒を第1溶媒とし、最も沸点が高い溶媒を第2溶媒としたとき、前記第1溶媒の沸点が70℃以上90℃以下であり、かつ前記第2溶媒の沸点が120℃以上150℃以下であり、
前記第2溶媒の含有率が、前記有機溶媒の全量に対して、3重量%以上30重量%以下であり、
前記工程Sbは、前記加熱装置の加熱雰囲気内に空気を送入しながら、35℃以上80℃以下の温度で前記塗膜を加熱する第1加熱工程を含み、
前記第1加熱工程において前記加熱雰囲気内に送入される前記空気中の水蒸気量が、10g/m3以上30g/m3以下であり、
前記樹脂膜が、Cプレートである、位相差フィルムの製造方法。
【0012】
[2]前記工程Sbは、前記第1加熱工程後、前記第2溶媒の沸点よりも高い温度で前記塗膜を加熱する第2加熱工程を更に含む、前記[1]に記載の位相差フィルムの製造方法。
【0013】
[3]前記樹脂溶液の固形分濃度が、8重量%以上25重量%以下である、前記[1]又は[2]に記載の位相差フィルムの製造方法。
【0014】
[4]前記工程Sbで得られた前記樹脂膜の厚みが、1.0μm以上8.0μm以下である、前記[3]に記載の位相差フィルムの製造方法。
【0015】
[5]前記樹脂溶液の固形分濃度、及び前記工程Sbで得られた前記樹脂膜の厚みから算出される前記塗膜の厚みが、10.0μm以上50.0μm以下である、前記[4]に記載の位相差フィルムの製造方法。
【0016】
[6]前記工程Sbで得られた前記樹脂膜の残存溶媒量が、0.5重量%以上5.0重量%以下である、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、薄型化された場合でも厚み方向レターデーションが大きい位相差フィルムを歩留まり高く製造できる、位相差フィルムの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0019】
まず、本明細書中で使用される用語について説明する。「屈折率」は、温度23℃の雰囲気下における波長590nmの光に対する屈折率である。「厚み方向レターデーション(単位:nm)」は、温度23℃の雰囲気下において、測定波長590nmの条件で測定した値である。以下、厚み方向レターデーションを、単に「Rth」と記載することがある。Rthは、光学層(位相差フィルム等)の面内における遅相軸方向の屈折率nxと、光学層(位相差フィルム等)の厚み方向における屈折率nzと、光学層(位相差フィルム等)の厚みd(単位:nm)とから、式「Rth=(nx-nz)×d」で算出される。以下、(nx-nz)を、「厚み方向複屈折Δn」又は「Δn」と記載することがある。
【0020】
「Cプレート」とは、厚み方向に屈折率異方性を有する位相差フィルムをいう。また、Cプレートのうち、Rthが負の値を示す位相差フィルムを「ポジティブCプレート」といい、Rthが正の値を示す位相差フィルムを「ネガティブCプレート」という。「Rthが大きい」とは、Rthの絶対値が大きいことを意味する。
【0021】
「固形分」とは、組成物中の不揮発成分(例えば、溶媒以外の成分)をいう。
【0022】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。本明細書に例示の成分や官能基等は、特記しない限り、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
<位相差フィルムの製造方法>
本実施形態に係る位相差フィルムの製造方法は、工程Saと工程Sbとを備える。工程Saでは、支持体上に樹脂溶液を塗布することにより塗膜(樹脂溶液からなる膜)を形成する。工程Sbでは、工程Saで得られた塗膜を、加熱装置を用いて加熱することにより、支持体上に樹脂膜(塗膜を加熱することにより乾燥させて得られる膜)を形成する。工程Saで使用される樹脂溶液は、2種以上の有機溶媒を含む。樹脂溶液に含まれる有機溶媒のうち、重量基準で最も多く含まれる溶媒を第1溶媒とし、最も沸点が高い溶媒を第2溶媒としたとき、第1溶媒の沸点が70℃以上90℃以下であり、かつ第2溶媒の沸点が120℃以上150℃以下である。第2溶媒の含有率は、有機溶媒の全量に対して、3重量%以上30重量%以下である。工程Sbは、加熱装置の加熱雰囲気内に空気を送入しながら、35℃以上80℃以下の温度で塗膜を加熱する第1加熱工程を含む。第1加熱工程において加熱雰囲気内に送入される空気中の水蒸気量は、10g/m3以上30g/m3以下である。工程Sbで得られる樹脂膜は、Cプレートである。
【0024】
以下、工程Saを「塗膜形成工程」と記載することがある。また、塗膜形成工程で支持体上に塗布する樹脂溶液を、「ドープ」と記載することがある。また、ドープに含まれる有機溶媒のうち重量基準で最も多く含まれる溶媒を、単に「第1溶媒」と記載することがある。また、ドープに含まれる有機溶媒のうち最も沸点が高い溶媒を、単に「第2溶媒」と記載することがある。また、有機溶媒の全量に対する第2溶媒の含有率を、単に「第2溶媒の含有率」と記載することがある。
【0025】
本実施形態に係る位相差フィルムの製造方法は、上述の構成を備えることにより、薄型化された場合でもRthが大きい位相差フィルムを歩留まり高く製造できる。その理由は、以下のように推測される。
【0026】
本実施形態では、第1加熱工程において加熱雰囲気内に送入される空気中の水蒸気量を10g/m3以上とすることにより、得られる樹脂膜において、静電気に起因する異物の付着(以下、単に「異物付着」と記載することがある)が抑制される。
【0027】
また、本発明者らの検討により、加熱工程において塗膜中の溶媒が気化する際の気化熱が大きい場合、得られる樹脂膜の表面温度が低下し、その結果、結露により樹脂膜に気泡が発生して樹脂膜が白化する場合があることが判明した。この樹脂膜の白化は、塗膜を加熱する際の雰囲気の湿度が高くなるほど、発生しやすくなる傾向がある。これに対し、本実施形態では、第1加熱工程において、沸点が比較的高い第2溶媒の含有率を3重量%以上とし、かつ塗膜の加熱温度を35℃以上80℃以下とすることにより、加熱の初期段階において揮発する溶媒の量を少なくし、気化熱を小さくすることができる。また、本実施形態では、第1加熱工程において、加熱雰囲気内に送入される空気中の水蒸気量を30g/m3以下とすることにより、結露の発生を抑制できる。よって、本実施形態では、加熱の初期段階の気化熱を小さくしつつ、結露の発生を抑制できるため、得られる樹脂膜の白化の発生を抑制できる。
【0028】
従って、本実施形態によれば、樹脂膜への異物付着を抑制しつつ、樹脂膜の白化の発生を抑制できるため、樹脂膜の外観不良の発生を抑制できる。このため、本実施形態によれば、樹脂膜(位相差フィルム)を歩留まり高く製造できる。
【0029】
また、本実施形態では、第1加熱工程において、沸点が比較的高い第2溶媒の含有率を30重量%以下とすることにより、第1加熱工程における塗膜の厚み変化を比較的大きくすることができる。加熱工程における塗膜の厚み変化が大きいと、得られる樹脂膜(位相差フィルム)の厚みが小さい場合でもRthが大きくなる傾向がある。よって、本実施形態によれば、薄型化された場合でもRthが大きい位相差フィルムを製造できる。
【0030】
本実施形態において、樹脂膜の白化の発生をより抑制するためには、第1溶媒の沸点が、73℃以上であることが好ましく、75℃以上であることがより好ましい。また、本実施形態において、第1加熱工程における塗膜の厚み変化を大きくすることによりRthがより大きい位相差フィルムを得るためには、第1溶媒の沸点が、85℃以下であることが好ましく、83℃以下であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態において、樹脂膜の白化の発生をより抑制するためには、第2溶媒の沸点が、125℃以上であることが好ましく、127℃以上であることがより好ましい。また、本実施形態において、第1加熱工程における塗膜の厚み変化を大きくすることによりRthがより大きい位相差フィルムを得るためには、第2溶媒の沸点が、145℃以下であることが好ましく、143℃以下であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態において、樹脂膜の白化の発生をより抑制するためには、第2溶媒の含有率が、4重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。
【0033】
本実施形態において、第1加熱工程における塗膜の厚み変化を大きくすることによりRthがより大きい位相差フィルムを得るためには、第1加熱工程における塗膜の加熱温度が、37℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましい。また、本実施形態において、樹脂膜の白化の発生をより抑制するためには、第1加熱工程における塗膜の加熱温度が、75℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましく、65℃以下であることが更に好ましく、60℃以下であることが更により好ましい。
【0034】
本実施形態において、樹脂膜への異物付着をより抑制するためには、第1加熱工程において加熱雰囲気内に送入される空気中の水蒸気量が、13g/m3以上であることが好ましく、15g/m3以上であることがより好ましい。また、本実施形態において、樹脂膜の白化の発生をより抑制するためには、第1加熱工程において加熱雰囲気内に送入される空気中の水蒸気量が、27g/m3以下であることが好ましく、25g/m3以下であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態において、塗膜中の溶媒を速やかに除去することにより位相差フィルムの生産性を高めるためには、工程Sbが、第1加熱工程後、第2溶媒の沸点よりも高い温度で塗膜を加熱する第2加熱工程を更に含むことが好ましい。つまり、本実施形態において、塗膜中の溶媒を速やかに除去することにより位相差フィルムの生産性を高めるためには、工程Sbが、第1加熱工程と、第2加熱工程とを含むことが好ましい。
【0036】
次に、本実施形態に係る製造方法で得られる位相差フィルム(Cプレート)について説明する。
【0037】
[位相差フィルム(Cプレート)]
本実施形態に係る製造方法で得られる位相差フィルム(Cプレート)は、ポジティブCプレート(nx≒ny<nzの関係を有するフィルム)と、ネガティブCプレート(nx≒ny>nzの関係を有するフィルム)に分類される。なお、上記「≒」とは、両者が完全に同一である場合だけでなく、両者が実質的に同一である場合も包含する。例えば、(nx-ny)×d(ただし、nx、ny及びdは、前述のとおりである)が、0nm以上10nm以下(好ましくは0nm以上5nm以下)の場合も、「nx≒ny」に含まれる。
【0038】
本実施形態に係る製造方法によりポジティブCプレートを製造する場合、例えば、後述するドープに含まれる樹脂として負の固有複屈折を有するポリマーが用いられる。また、本実施形態に係る製造方法によりネガティブCプレートを製造する場合、例えば、後述するドープに含まれる樹脂として正の固有複屈折を有するポリマーが用いられる。本実施形態に係る製造方法によれば、塗膜の乾燥状態を制御することにより厚み方向複屈折を有するフィルムが得られるため、本実施形態に係る製造方法は、Cプレートの製造に適している。
【0039】
負の固有複屈折を有するポリマーとしては、例えば、分極異方性の大きい化学結合や官能基(具体的には、芳香族、カルボニル基等)が、ポリマーの側鎖に導入されているものが挙げられ、具体的には、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、マレイミド系樹脂、フマル酸エステル系樹脂等が挙げられる。
【0040】
正の固有複屈折を有するポリマーとしては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド等のポリスルフィド系樹脂、ポリイミド系樹脂、環状ポリオレフィン系(例えば、ポリノルボルネン系)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、セルロースエステル系樹脂等が挙げられる。
【0041】
Rthがより大きい位相差フィルムを得るためには、位相差フィルムの厚み方向複屈折Δnの絶対値が、0.005以上であることが好ましい。また、位相差フィルム(樹脂膜)の白化の発生をより抑制するためには、位相差フィルムの厚み方向複屈折Δnの絶対値が、0.010以下であることが好ましい。厚み方向複屈折Δnの絶対値を0.010以下にする場合は、後述する第1加熱工程における塗膜の厚み変化を過度に大きくする必要がないため、位相差フィルムが白化しにくい加熱条件(例えば、加熱の初期段階において、比較的低い温度で加熱する条件)を採用できる。厚み方向複屈折Δnは、例えば、後述するドープに含まれる樹脂の種類、及び後述する第1加熱工程の加熱条件のうちの少なくとも一方を変更することにより、調整できる。
【0042】
薄型化しつつRthがより大きい位相差フィルムを得るためには、位相差フィルムの厚みは、1.0μm以上8.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上8.0μm以下であることがより好ましい。
【0043】
次に、本実施形態に係る製造方法の一例が備える各工程について説明する。なお、以下で説明する各工程は、いずれもロールトゥロール方式により行うことができる。位相差フィルムの生産性を高める観点から、以下で説明する各工程は、いずれもロールトゥロール方式で行われることが好ましい。
【0044】
[工程Sa(塗膜形成工程)]
工程Sa(塗膜形成工程)では、支持体上にドープを塗布することにより塗膜(ドープからなる膜)を形成する。
【0045】
ドープは、位相差フィルムを形成するための樹脂の溶液であり、樹脂(ポリマー)及び2種以上の有機溶媒を含有する。ドープには、必要に応じて、レベリング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0046】
ドープに含まれる有機溶媒のうち重量基準で最も多く含まれる第1溶媒としては、沸点が70℃以上90℃以下の有機溶媒である限り、特に限定されないが、例えば、メチルエチルケトン(沸点:79.6℃)、酢酸エチル(沸点:77.1℃)等が挙げられる。第1溶媒の含有率は、有機溶媒の全量に対して、例えば50重量%以上である。位相差フィルム(樹脂膜)の白化の発生をより抑制しつつ、Rthがより大きい位相差フィルムを得るためには、第1溶媒の含有率は、有機溶媒の全量に対して、50重量%以上97重量%以下であることが好ましく、60重量%以上97重量%以下であることがより好ましく、70重量%以上97重量%以下であることが更に好ましく、70重量%以上95重量%以下であることが更により好ましい。
【0047】
ドープに含まれる有機溶媒のうち最も沸点が高い第2溶媒としては、沸点が120℃以上150℃以下の有機溶媒である限り、特に限定されないが、例えば、シクロペンタノン(沸点:130.6℃)、アセチルアセトン(沸点:140.0℃)等が挙げられる。第2溶媒の含有率は、上述のように、3重量%以上30重量%以下である。
【0048】
ドープに含まれる有機溶媒は、上記第1溶媒及び第2溶媒のみであってもよい。また、ドープには、上記第1溶媒及び第2溶媒とは異なる有機溶媒(他の有機溶媒)が含まれていてもよい。他の有機溶媒としては、沸点が90℃超かつ120℃未満の有機溶媒が挙げられ、具体的には、メチルイソプロピルケトン(沸点:94℃)、ジエチルケトン(沸点:102℃)、メチルプロピルケトン(沸点:102℃)、メチルイソブチルケトン(沸点:116℃)等が挙げられる。
【0049】
位相差フィルム(樹脂膜)の白化の発生をより抑制しつつ、Rthがより大きい位相差フィルムを得るためには、ドープの固形分濃度は、8重量%以上25重量%以下であることが好ましく、10重量%以上25重量%以下であることがより好ましく、12重量%以上22重量%以下であることが更に好ましい。
【0050】
ドープを塗布する支持体としては、ガラス基板、金属基板、金属ドラム、金属ベルト、樹脂フィルム等が挙げられる。ロールトゥロール方式で位相差フィルムを製造する際は、支持体として、可撓性を有する樹脂フィルムを使用することが好ましい。
【0051】
支持体としての樹脂フィルムは、熱安定性及び機械的強度に優れることが好ましい。樹脂フィルムの構成材料としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー等が挙げられる。中でも、高い耐溶剤性を有することから、ポリエステルが好ましく用いられる。
【0052】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)や、これらのポリマーを構成するモノマー単位のグリコール成分及び/又はジカルボン酸成分の一部又は全部を他のモノマー成分に置換したポリエステル等が挙げられる。中でも、フィルムの機械強度を高める観点から、ポリマーを構成するモノマー単位のグリコール成分及び/又はジカルボン酸成分の一部又は全部を他のモノマー成分に置換したポリエステルの二軸延伸フィルムが好ましい。グリコール成分を置換したポリエステルとしては、PETのエチレングリコール成分やPBTの1,4-ブタンジオール成分等の直鎖状グリコール成分の一部を、1,2-シクロヘキサンジメタノール成分や1,4-シクロヘキサンジメタノール成分等に置換したグリコール変性ポリエステル等が挙げられる。ジカルボン酸成分を置換したポリエステルとしては、PETのテレフタル酸成分やPENの2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を、イソフタル酸成分、オルトフタル酸成分、2,5-ナフタレンジカルボン酸成分、1,4-ナフタレンジカルボン酸成分、1,5-ナフタレンジカルボン酸成分等に置換したジカルボン酸変性ポリエステル等が挙げられる。中でも、PETのテレフタル酸成分の一部をイソフタル酸成分で置換した、ポリエチレン-テレフタレート/イソフタレート共重合体が好ましい。
【0053】
支持体は、自己支持性と可撓性とを兼ね備えるものであれば、その厚みは特に限定されない。支持体の厚みは、一般的に20μm以上200μm以下であり、30μm以上150μm以下であることが好ましく、35μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0054】
支持体上へのドープの塗布方法は、特に限定されず、アプリケーターを用いた塗布方法や、ナイフロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、スプレーコート、マイヤーバーコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコート等の各種のコーティング法を採用できる。
【0055】
ドープを塗布することにより得られる塗膜の厚みは、例えば、ドープの固形分濃度、及び後述する樹脂膜の厚みから算出することができる。つまり、ドープの固形分濃度をC(単位:重量%)とし、樹脂膜の厚みをTdry(単位:μm)としたとき、塗膜の厚みTwet(単位:μm)は、式「Twet=100×Tdry/C」で算出される。以下、ドープの固形分濃度及び樹脂膜の厚みから算出される塗膜の厚みを、単に「塗膜の厚み」と記載する。
【0056】
位相差フィルム(樹脂膜)の白化の発生をより抑制しつつ、薄型の位相差フィルム(樹脂膜)を得るためには、塗膜の厚みが、10.0μm以上50.0μm以下であることが好ましく、15.0μm以上45.0μm以下であることがより好ましい。
【0057】
[工程Sb]
工程Sbでは、工程Saで得られた塗膜を、加熱装置を用いて加熱することにより、支持体上に樹脂膜(塗膜を加熱することにより乾燥させて得られる膜)を形成する。工程Sbでは、塗膜中の有機溶媒を除去することにより樹脂膜が形成されるが、有機溶媒の一部が樹脂膜に残存していてもよい。また、工程Sbは、加熱装置の加熱雰囲気内に空気を送入しながら、35℃以上80℃以下の温度で塗膜を加熱する第1加熱工程を含む。
【0058】
また、上述したように、工程Sbは、第1加熱工程後、第2溶媒の沸点よりも高い温度で塗膜を加熱する第2加熱工程を更に含むことが好ましい。第1加熱工程及び第2加熱工程において、塗膜を加熱する温度(加熱温度)は、いずれも一定である必要はなく、段階的に昇温又は降温するような温度プロファイルを有していてもよい。
【0059】
本実施形態に係る製造方法が第2加熱工程を備える場合、第1加熱工程後かつ第2加熱工程前に、第1加熱工程の加熱温度(一定でない場合は最高温度)と第2加熱工程の加熱温度(一定でない場合は最高温度)との間の温度で加熱する中間加熱工程を実施してもよい。なお、本実施形態に係る製造方法は、第1加熱工程の前に、塗膜を加熱する工程を備えない。
【0060】
(第1加熱工程)
第1加熱工程では、加熱装置の加熱雰囲気内に空気を送入しながら、35℃以上80℃以下の温度で塗膜を加熱する。また、第1加熱工程において、加熱雰囲気内に送入される空気中の水蒸気量は、10g/m3以上30g/m3以下である。なお、「空気中の水蒸気量」は、Tetensの式に従って空気の温度から飽和水蒸気圧を求めた後、得られた飽和水蒸気圧、空気の温度及び空気の相対湿度から算出される。
【0061】
第1加熱工程で使用される加熱装置としては、加熱雰囲気内に空気を送入しながら加熱できる装置である限り、特に限定されないが、例えば送風式オーブンを使用することができる。
【0062】
位相差フィルム(樹脂膜)の白化の発生をより抑制しつつ、Rthがより大きい位相差フィルムを得るためには、加熱雰囲気内に送入される空気の量は、100L/分以上10000L/分以下であることが好ましく、500L/分以上5000L/分以下であることがより好ましい。
【0063】
位相差フィルム(樹脂膜)の白化の発生をより抑制しつつ、Rthがより大きい位相差フィルムを得るためには、加熱雰囲気内に送入される空気の温度は、0℃以上35℃以下であることが好ましく、10℃以上35℃以下であることがより好ましい。
【0064】
位相差フィルム(樹脂膜)の白化の発生をより抑制しつつ、Rthがより大きい位相差フィルムを得るためには、第1加熱工程の塗膜の加熱時間(加熱温度が一定でない場合は最高温度で保持する時間)は、10秒以上120秒以下であることが好ましく、30秒以上90秒以下であることがより好ましい。
【0065】
(第2加熱工程)
第2加熱工程では、第2溶媒の沸点よりも高い温度で塗膜(第1加熱工程後の塗膜)を加熱する。位相差フィルム(樹脂膜)の白化の発生をより抑制しつつ、位相差フィルムの生産性を高めるためには、第2加熱工程の加熱温度は、第2溶媒の沸点+5℃以上かつ第2溶媒の沸点+30℃以下であることが好ましく、第2溶媒の沸点+10℃以上かつ第2溶媒の沸点+20℃以下であることがより好ましい。
【0066】
位相差フィルム(樹脂膜)の白化の発生をより抑制しつつ、位相差フィルムの生産性を高めるためには、第2加熱工程の塗膜の加熱時間(加熱温度が一定でない場合は最高温度で保持する時間)は、60秒以上300秒以下であることが好ましく、120秒以上240秒以下であることがより好ましい。
【0067】
第2加熱工程で使用される加熱装置としては、特に限定されないが、例えば送風式オーブン、真空オーブン、イナートオーブン、赤外線ヒーター等が挙げられる。位相差フィルムの生産性を高めるためには、第2加熱工程で使用される加熱装置としては、送風式オーブンが好ましい。
【0068】
第2加熱工程では、第1加熱工程と同様に、加熱装置の加熱雰囲気内に空気を送入しながら塗膜を加熱してもよい。この場合、加熱雰囲気内に送入される空気中の水蒸気量、加熱雰囲気内に送入される空気の量、及び加熱雰囲気内に送入される空気の温度は、例えば、第1加熱工程と同じ条件に設定することができる。
【0069】
(工程Sbにより得られる樹脂膜)
工程Sb(例えば、第1加熱工程及び第2加熱工程)により、支持体上に樹脂膜が密着積層された積層体が得られる。工程Sbの加熱(乾燥)時に塗膜中のポリマーの分子配向が生じるため、工程Sbにより得られる樹脂膜は、そのまま位相差フィルム(Cプレート)として用いることができる。
【0070】
薄型化しつつRthがより大きい位相差フィルムを得るためには、工程Sbにより得られる樹脂膜の厚みは、1.0μm以上8.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上8.0μm以下であることがより好ましい。樹脂膜の厚みは、例えば、ドープの固形分濃度、及び塗膜の加熱条件(加熱温度、加熱時間等)のうちの少なくとも一方を変更することにより、調整できる。特に、ドープの固形分濃度を8重量%以上25重量%以下に調整すると、樹脂膜の厚みを1.0μm以上8.0μm以下に容易に調整できる。樹脂膜の厚みの測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。
【0071】
位相差フィルム(樹脂膜)の白化の発生をより抑制しつつ、Rthがより大きい位相差フィルムを得るためには、工程Sbにより得られる樹脂膜の残存溶媒量は、0.5重量%以上5.0重量%以下であることが好ましく、0.6重量%以上4.8重量%以下であることがより好ましい。残存溶媒量の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。
【0072】
[好ましい製造条件]
樹脂膜の白化の発生及び樹脂膜への異物付着をより抑制しつつ、Rthが更に大きい位相差フィルムを得るためには、本実施形態に係る位相差フィルムの製造方法は、下記条件1を満たすことが好ましく、下記条件2を満たすことがより好ましく、下記条件3を満たすことが更に好ましい。
条件1:第2溶媒の含有率が、有機溶媒の全量に対して、5重量%以上15重量%以下である。
条件2:上記条件1を満たし、かつ第1加熱工程において加熱雰囲気内に送入される空気中の水蒸気量が15g/m3以上25g/m3以下である。
条件3:上記条件2を満たし、かつ第1加熱工程における塗膜の加熱温度が40℃以上60℃以下である。
【0073】
以上、本実施形態に係る位相差フィルムの製造方法について説明したが、本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、上記実施形態には限定されない。例えば、本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、工程Sbの後、積層体から支持体をはく離する工程を更に備えてもよい。積層体から支持体をはく離することにより、はく離後の樹脂膜を位相差フィルムとして単独で使用できる。
【0074】
また、本発明に係る位相差フィルムの製造方法は、工程Sbで得られた樹脂膜を二軸延伸で延伸する工程を更に備えてもよい。二軸延伸の方法としては、延伸後のフィルムが厚み方向に屈折率異方性を有する限り、特に限定されないが、例えば、工程Sbで得られた樹脂膜を、同時二軸延伸で各方向にほぼ同じ延伸速度で延伸する方法、及び同時又は逐次二軸延伸で、各方向における延伸倍率、延伸速度等の延伸条件をそれぞれ適宜調整して、同等の配向状態に揃える方法が挙げられる。
【実施例0075】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0076】
<実施例1>
[ポリマーの合成]
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えたオートクレーブに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学社製「メトローズ60SH-50」)48重量部、蒸留水15601重量部、フマル酸ジイソプロピル8161重量部、アクリル酸3-エチル-3-オキセタニルメチル240重量部及び重合開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート45重量部を入れた。次いで、オートクレーブ内容物に対して窒素バブリングを1時間行った後、オートクレーブ内容物を、攪拌しながら温度49℃で24時間保持することにより、ラジカル懸濁重合を行なった。次いで、オートクレーブ内容物を室温まで冷却した後、生成したポリマー粒子を含む懸濁液を、遠心分離した。得られたポリマーを、蒸留水で2回及びメタノールで2回洗浄した後、減圧乾燥して、白色のフマル酸エステル系樹脂(負の固有複屈折を有するポリマー)を得た。
【0077】
[混合溶媒の調製]
ドープを調製するための有機溶媒として、第1溶媒及び第2溶媒を準備した。第1溶媒は、沸点79.6℃のメチルエチルケトン(以下、「MEK」と記載することがある)であった。第2溶媒は、沸点130.6℃のシクロペンタノン(以下、「CPN」と記載することがある)であった。第1溶媒と第2溶媒とを、重量比(第1溶媒:第2溶媒)が95:5となるように混合し、混合溶媒を調製した。
【0078】
[ドープの調製]
上記調製した混合溶媒に上記フマル酸エステル系樹脂を溶解させた後、得られた溶液に可塑剤(トリブチルトリメリテート)を添加し、固形分濃度14重量%のドープを得た。ドープ中の可塑剤の量は、フマル酸エステル系樹脂100重量部に対して、5重量部であった。なお、得られたドープの固形分濃度は、式「固形分濃度=100×(フマル酸エステル系樹脂の重量+可塑剤の重量)/ドープの全重量」に従い算出した。
【0079】
[塗膜形成工程]
支持体として、厚み75μmのポリエステルフィルム(ポリエチレン-テレフタレート/イソフタレート共重合体の二軸延伸フィルム)をA4サイズに切り出したフィルムを準備した。このフィルムの短辺を、ガラス板上に耐熱テープを用いて貼り合わせた。ガラス板に貼り合わせられたフィルム上に、アプリケーターを用いて上記ドープを塗布し、フィルム上に上記ドープからなる塗膜を形成した。
【0080】
[第1加熱工程及び第2加熱工程]
上記塗膜が形成されたフィルム(試料)を、ガラス板ごと温度40℃の送風式オーブン(エスペック社製「SPH-202」)を用いて60秒間加熱した(第1加熱工程)。次いで、第1加熱工程後の試料を、ガラス板ごと温度150℃の送風式オーブン(エスペック社製「SPH-202」)を用いて180秒間加熱した(第2加熱工程)。次いで、加熱後の試料をガラス板からはく離し、支持体上に樹脂膜(実施例1の位相差フィルム)が密着積層された積層体を得た。上記樹脂膜は、nx=ny<nzの屈折率異方性を有する位相差フィルム(ポジティブCプレート)であった。また、第1加熱工程及び第2加熱工程では、いずれも送風式オーブンの加熱雰囲気内に空気を送入しながら試料を加熱した。また、第1加熱工程及び第2加熱工程において、送入する空気の温度(送風式オーブンが設置された場所の雰囲気温度)、送入する空気中の水蒸気量、及び送入する空気の量(給気量)は、いずれも以下のとおりであった。
送入する空気の温度:25℃
送入する空気中の水蒸気量:15g/m3
送入する空気の量:1000L/分
【0081】
<実施例2~11及び比較例1~14>
第1溶媒の種類及び含有率、第2溶媒の種類及び含有率、ドープの固形分濃度、第1加熱工程の加熱温度、並びに第1加熱工程において送入する空気中の水蒸気量を、表1に記載のとおりとしたこと以外は、実施例1と同じ方法で、実施例2~11及び比較例1~14の位相差フィルムが密着積層された積層体をそれぞれ得た。実施例2~11及び比較例1~14の位相差フィルムは、いずれもnx=ny<nzの屈折率異方性を有する位相差フィルム(ポジティブCプレート)であった。
【0082】
なお、実施例2~11及び比較例1~14において、使用したドープ中のフマル酸エステル系樹脂と可塑剤との重量比(フマル酸エステル系樹脂:可塑剤)は、いずれも100:5であった。また、比較例3及び4では、混合溶媒に含まれる有機溶媒のうち、含有率が高い方の溶媒を第1溶媒とし、含有率が低い方の溶媒を第2溶媒とした。また、表1において、「固形分濃度」、「加熱温度」及び「水蒸気量」は、それぞれ「ドープの固形分濃度」、「第1加熱工程の加熱温度」及び「第1加熱工程において送入する空気中の水蒸気量」を意味する。表1において、「含有率」は、有機溶媒全量に対する含有率である。表1において、「EtAc」は、酢酸エチル(沸点:77.1℃)である。表1において、「AcAc」は、アセチルアセトン(沸点:140.0℃)である。表1において、「-」は、第2溶媒を使用しなかったことを意味する。
【0083】
【0084】
<測定方法及び評価方法>
[厚み]
上記手順で得られた積層体(支持体と位相差フィルムとの積層体)を10cm四方に切り出した後、積層体から支持体をはく離した。次いで、はく離後の位相差フィルム上に1cm間隔で格子点(合計81点)を設けた後、各格子点における厚みをデジタルマイクロゲージにより測定した。そして、得られた81個の測定値の算術平均値を、位相差フィルム(樹脂膜)の厚みとした。また、得られた位相差フィルム(樹脂膜)の厚みとドープの固形分濃度とから、上述した算出式により塗膜の厚みを求めた。
【0085】
[残存溶媒量]
上記手順で得られた積層体(支持体と位相差フィルムとの積層体)を10cm四方に切り出した後、積層体から支持体をはく離した。次いで、はく離後の位相差フィルムの重量W0を測定した後、温度150℃のオーブンで位相差フィルムを30分加熱し、加熱後の位相差フィルムの重量W1を測定した。そして、残存溶媒量(単位:重量%)を、式「残存溶媒量=100×(W0-W1)/W0」に従って求めた。
【0086】
[Rth及びΔn]
上記手順で得られた積層体(支持体と位相差フィルムとの積層体)を5cm四方に切り出し、積層体の位相差フィルムを、アクリル系粘着剤を介してガラス板上に貼り合わせた後、支持体をはく離して、測定用試料を得た。この試料を用いて、偏光・位相差測定システム(Axometrics社製「AxoScan」)により、測定波長590nmで、正面レターデーション、及び遅相軸方向を回転中心として試料を40°傾斜した状態でのレターデーションを測定した。そして、これらの測定値、及び上記[厚み]の測定で得られた位相差フィルム(樹脂膜)の厚みから、Rth及びΔnを求めた。
【0087】
上記測定方法で得られたΔnの絶対値が0.005以上の場合、「薄型化された場合でも厚み方向レターデーションが大きい位相差フィルムが得られる製造方法である」と評価した。一方、上記測定方法で得られたΔnの絶対値が0.005未満の場合、「薄型化された場合でも厚み方向レターデーションが大きい位相差フィルムが得られる製造方法ではない」と評価した。
【0088】
[外観評価]
上記手順で得られた積層体(支持体と位相差フィルムとの積層体)の位相差フィルムを、目視で観察し、白化の有無、及び異物付着(詳しくは、静電気に起因する異物の付着)の有無を確認した。白化及び異物付着のいずれについても確認されなかった場合、「歩留まり高く製造できる製造方法である」と評価した。一方、白化及び異物付着のうちの少なくとも一方が確認された場合、「歩留まり高く製造できる製造方法ではない」と評価した。
【0089】
実施例1~11及び比較例1~14について、位相差フィルム(樹脂膜)の厚み、塗膜の厚み、残存溶媒量、Rth、Δn及び外観評価の結果を、表2に示す。なお、表2において、「Tdry」は、位相差フィルム(樹脂膜)の厚みを意味する。表2において、「Twet」は、塗膜(ドープからなる膜)の厚みを意味する。
【0090】
【0091】
実施例1~11の製造方法では、第1溶媒の沸点が70℃以上90℃以下であり、かつ第2溶媒の沸点が120℃以上150℃以下であった。実施例1~11の製造方法では、第2溶媒の含有率が、有機溶媒全量に対して、3重量%以上30重量%以下であった。実施例1~11の製造方法では、第1加熱工程の加熱温度が35℃以上80℃以下であった。実施例1~11の製造方法では、第1加熱工程において送入する空気中の水蒸気量が、10g/m3以上30g/m3以下であった。
【0092】
表2に示すように、実施例1~11では、Δnの絶対値が0.005以上であった。よって、実施例1~11の製造方法は、薄型化された場合でも厚み方向レターデーションが大きい位相差フィルムが得られる製造方法であった。また、表2に示すように、実施例1~11では、白化及び異物付着のいずれについても確認されなかった。よって、実施例1~11の製造方法は、歩留まり高く製造できる製造方法であった。
【0093】
比較例3及び4の製造方法では、第2溶媒の沸点が120℃未満であった。比較例1及び5の製造方法では、第2溶媒を使用せず、ドープ調製用溶媒として第1溶媒のみを使用した。比較例2及び6の製造方法では、第2溶媒の含有率が、有機溶媒全量に対して、3重量%未満であった。比較例1~3及び7~14の製造方法では、第1加熱工程において送入する空気中の水蒸気量が、10g/m3未満であった。
【0094】
表2に示すように、比較例1~14では、白化及び異物付着のうちの少なくとも一方が確認された。よって、比較例1~14の製造方法は、歩留まり高く製造できる製造方法ではなかった。
【0095】
以上の結果から、本発明によれば、薄型化された場合でも厚み方向レターデーションが大きい位相差フィルムを歩留まり高く製造できる、位相差フィルムの製造方法を提供できることが示された。