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特開2024-25634試料の検査方法、婦人科癌及びその前癌病変の検査キット及び医薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025634
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】試料の検査方法、婦人科癌及びその前癌病変の検査キット及び医薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240216BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240216BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01N33/50 D
A61P35/00
A61K45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023025389
(22)【出願日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2022128403
(32)【優先日】2022-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】加藤 侑希
(72)【発明者】
【氏名】川名 敬
(72)【発明者】
【氏名】久保 亜紀子
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CA25
2G045DA02
4C084AA17
4C084NA05
4C084ZB261
(57)【要約】
【課題】婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上の有無の評価、婦人科癌患者の予後の評価、又は、婦人科癌の悪性度の評価に適用可能な、簡便かつ精度が高い試料の検査方法、前記検査方法に使用可能な検査キット、及び前記検査方法により検出された対象に投与される婦人科癌を治療又は予防するための医薬を提供する。
【解決手段】対象由来の試料中の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程(A)と、工程(A)で得られた遊離脂肪酸の濃度に基づいて、前記対象が婦人科癌を有する可能性を評価する工程(B)と、を含む、試料の検査方法を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサペンタエン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程(A1)と、
前記工程(A1)で得られた、前記遊離脂肪酸の前記試料中の濃度に基づいて、前記対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性を評価する工程(B1)と、を含み、
前記工程(B1)において、下記(i1)、(ii1)及び(iii1)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと評価する、試料の検査方法;
(i1)パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii1)バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い;
(iii1)オレイン酸に対するドコサペンタエン酸の濃度比が、所定の閾値と比較して、低い。
【請求項2】
婦人科癌を有する対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程(A2)と、
前記工程(A2)で得られた、前記遊離脂肪酸の前記試料中の濃度に基づいて、前記対象が予後不良となる可能性を評価する工程(B2)と、を含み、
前記工程(B2)において、下記(i2)及び(ii2)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が予後不良となる可能性が高いと評価する、試料の検査方法;
(i2)パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸及びパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii2)バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【請求項3】
婦人科癌を有する対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程(A3)と、
前記工程(A3)で得られた、前記遊離脂肪酸の前記試料中の濃度に基づいて、前記対象が有する婦人科癌が、悪性腫瘍であるか、あるいは、境界悪性腫瘍であるかを評価する工程(B3)と、を含み、
前記工程(B3)において、下記(i3)及び(ii3)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記婦人科癌は悪性腫瘍である可能性が高いと評価する、試料の検査方法;
(i3)パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸及びパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii3)バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【請求項4】
前記工程(B1)により婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと判定された前記対象が、婦人科癌及び婦人科癌前癌病変のいずれを有するかについて、前記工程(A1)で得られた、前記遊離脂肪酸の前記試料中の濃度に基づいて評価する工程(C1)を更に含み、
前記工程(C1)において、下記(Ci)に該当する場合に、前記対象が婦人科癌を有する可能性が高いと評価する、請求項1に記載の試料の検査方法;
(Ci)ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【請求項5】
前記婦人科癌が、卵巣癌、子宮体癌、及び子宮頸癌からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の試料の検査方法。
【請求項6】
前記婦人科癌が、Stage I又はStage IIの婦人科悪性腫瘍である、請求項1に記載の試料の検査方法。
【請求項7】
前記工程(A1)がパルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸及びステアリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程であり、
前記工程(B1)の(i1)における遊離脂肪酸がパルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸及びパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも1種であり、(ii1)における遊離脂肪酸がバクセン酸、アラキジン酸及びステアリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の試料の検査方法。
【請求項8】
前記試料が血液試料である、請求項1~4のいずれか一項に記載の試料の検査方法。
【請求項9】
パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサペンタエン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含み、
下記(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1つの目的に使用される、婦人科癌及びその前癌病変の検査キット;
(a)対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性の評価;
(b)婦人科癌を有する対象が予後不良となる可能性の評価;
(c)対象が有する婦人科癌が悪性腫瘍であるか、あるいは、境界悪性腫瘍であるかの評価;
(d)婦人科癌及び婦人科癌前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高い対象が、婦人科癌及び婦人科癌前癌病変のいずれを有するかの評価。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載の試料の検査方法に用いられる、請求項9に記載の婦人科癌の検査キット。
【請求項11】
請求項1に記載の検査方法により婦人科癌を有すると評価された対象に投与される、婦人科癌を治療又は予防するための医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の検査方法、婦人科癌及びその前癌病変の検査キット及び医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
卵巣癌は、腹腔内で発生する腫瘍であるため症状を呈しにくく、また、生体検査により病理学的に診断することができないため、早期発見が極めて困難である。また、子宮体癌および子宮頸癌等のその他の婦人科癌も、早期診断が可能な血清腫瘍マーカーは確立されておらず、現在では、不正出血等により偶然に発見される例が少なくない。
【0003】
卵巣癌腫瘍マーカーとして、例えば、CA125が知られている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、CA125の血中濃度は、早期卵巣癌、粘液性卵巣癌、卵巣明細胞癌では必ずしも高くないため、これらの癌は陽性判定されない場合がある。また、CA125の血中濃度は、良性疾患及び炎症性疾患においても高くなることがあるため、CA125の血中濃度による判定は偽陽性率が高い。そのため、CA125は、卵巣癌の腫瘍マーカーとしては不十分である。
【0004】
近年では、癌の診断手法として、末梢血液中の特定のエクソソーム又はマイクロRNAを検出する方法が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。しかしながら、生体試料からエクソソーム及びマイクロRNAを分析する際には、超遠心及びアフィニティー分離等の操作が必要である。そのため、これらを腫瘍マーカーとして用いる検査は煩雑であり、時間を要する。また、一定数の偽陽性が存在するという課題もあり、実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6538887号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yu Zhang et al., Emerging Functions and Clinical Applications of Exosomal ncRNAs in Ovarian Cancer. Front. Oncol., 05 November 2021, https://doi.org/10.3389/fonc.2021.765458
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来の癌のスクリーニング方法は、簡便さ、及び精度の点で課題がある。そのため、簡便な方法で、精度よく婦人科癌を早期に検出可能な方法が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上の有無の評価、婦人科癌患者の予後の評価、又は、婦人科癌の悪性度の評価に適用可能な、簡便かつ精度が高い試料の検査方法、前記検査方法に使用可能な検査キット、及び前記検査方法により検出された対象に投与される婦人科癌を治療又は予防するための医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサペンタエン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程(A1)と、
前記工程(A1)で得られた、前記遊離脂肪酸の前記試料中の濃度に基づいて、前記対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性を評価する工程(B1)と、を含み、
前記工程(B1)において、下記(i1)、(ii1)及び(iii1)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと評価する、試料の検査方法;
(i1)パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii1)バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い;
(iii1)オレイン酸に対するドコサペンタエン酸の濃度比が、所定の閾値と比較して、低い。
【0010】
[2]婦人科癌を有する対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程(A2)と、
前記工程(A2)で得られた、前記遊離脂肪酸の前記試料中の濃度に基づいて、前記対象が予後不良となる可能性を評価する工程(B2)と、を含み、
前記工程(B2)において、下記(i2)及び(ii2)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が予後不良となる可能性が高いと評価する、試料の検査方法;
(i2)パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸及びパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii2)バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0011】
[3]婦人科癌を有する対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程(A3)と、
前記工程(A3)で得られた、前記遊離脂肪酸の前記試料中の濃度に基づいて、前記対象が有する婦人科癌が、悪性腫瘍であるか、あるいは、境界悪性腫瘍であるかを評価する工程(B3)と、を含み、
前記工程(B3)において、下記(i3)及び(ii3)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記婦人科癌は悪性腫瘍である可能性が高いと評価する、試料の検査方法;
(i3)パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸及びパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii3)バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0012】
[4]前記工程(B1)により婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと判定された前記対象が、婦人科癌及び婦人科癌前癌病変のいずれを有するかについて、前記工程(A1)で得られた、前記遊離脂肪酸の前記試料中の濃度に基づいて評価する工程(C1)を更に含み、
前記工程(C1)において、下記(Ci)に該当する場合に、前記対象が婦人科癌を有する可能性が高いと評価する、[1]に記載の試料の検査方法;
(Ci)ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0013】
[5]前記婦人科癌が、卵巣癌、子宮体癌、及び子宮頸癌からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の試料の検査方法。
[6]前記婦人科癌が、StageI又はStageIIの婦人科悪性腫瘍である、[1]に記載の試料の検査方法。
[7]前記工程(A1)がパルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸及びステアリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程であり、
前記工程(B1)の(i1)における遊離脂肪酸がパルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸及びパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも1種であり、(ii1)における遊離脂肪酸がバクセン酸、アラキジン酸及びステアリン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、[6]に記載の試料の検査方法。
[8]前記試料が血液試料である、[1]~[4]のいずれかに記載の試料の検査方法。
【0014】
[9] パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサペンタエン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含み、
下記(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1つの目的に使用される、婦人科癌及びその前癌病変の検査キット;
(a)対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性の評価;
(b)婦人科癌を有する対象が予後不良となる可能性の評価;
(c)対象が有する婦人科癌が悪性腫瘍であるか、あるいは、境界悪性腫瘍であるかの評価;
(d)婦人科癌及び婦人科癌前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高い対象が、婦人科癌及び婦人科癌前癌病変のいずれを有するかの評価。
[10][1]~[4]のいずれかに記載の試料の検査方法に用いられる、[9]に記載の婦人科癌の検査キット。
【0015】
[11][1]に記載の検査方法により婦人科癌を有すると評価された対象に投与される、婦人科癌を治療又は予防するための医薬。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、婦人科癌の有無の評価、婦人科癌患者の予後の評価、又は、婦人科癌の悪性度の評価に適用可能な、簡便かつ精度が高い試料の検査方法、前記検査方法に使用可能な検査キット、及び前記検査方法により特定された対象に投与される婦人科癌を治療又は予防するための医薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】実験例1における、正常卵巣組織(Normal tissue)及び卵巣癌組織(OV tumor tissue)での脂肪酸代謝酵素の発現量の解析結果を、ヒートマップにより示した図である。
図1B】実験例1における、正常卵巣組織(NT)及び卵巣癌組織(Tu)でのFASN及びSCD1の発現量の解析結果を示すグラフである。
図1C】実験例1における、正常卵巣組織(NT)及び卵巣癌組織(Tu)でのELOVL1、ELOVL2、ELOVL3、ELOVL4、ELOVL5、ELOVL6及びFADS1の発現量の解析結果を示すグラフである。
図1D】実験例1における、正常卵巣組織(NT)及び卵巣癌組織(Tu)でのACACA及びFADS2の発現量の解析結果を示すグラフである。
【0018】
図2A】実験例2における、女性の健常者(Healthy donor)及び卵巣癌患者(OV ca patients)の血清中の遊離脂肪酸濃度の解析結果を、ヒートマップにより示した図である。
図2B】実験例2における、女性の健常者(HD)及び卵巣癌患者(OV)の血清中のパルミトレイン酸、パルミチン酸、γ-リノレン酸、ステアリドン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸及びステアリン酸の濃度の解析結果を示すグラフである。
図2C】実験例2における、女性の健常者(HD)及び卵巣癌患者(OV)の血清中のアラキジン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ドコサペンタエン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸の濃度の解析結果を示すグラフである。
図2D】実験例2における、卵巣癌患者の血清中の遊離脂肪酸濃度の解析結果を、ボルケーノプロットにより示した図である。図中、「OV ca」及び「healthy」は、卵巣癌患者及び女性の健常者をそれぞれ表す。
【0019】
図3A】実験例1における脂肪酸代謝酵素発現の変化と、実験例2における脂肪酸構成の変化の相関を表す図である。
図3B】実験例1における脂肪酸代謝酵素発現の変化と、実験例2における脂肪酸構成の変化の相関を表す図である。
図3C】実験例3における、卵巣腫瘍組織のSCD1遺伝子発現量と、卵巣癌患者血清中のSCD1活性に相当する脂肪酸比(生成脂肪酸/基質脂肪酸比(パルミトレイン酸/パルミチン酸比))の相関を示すグラフである。
図3D】実験例3における、卵巣腫瘍組織のSCD1遺伝子発現量と、卵巣癌患者血清中のSCD1活性に相当する脂肪酸比(生成脂肪酸/基質脂肪酸比(オレイン酸/ステアリン酸比))の相関を示すグラフである。
【0020】
図4A】実験例4における、女性の健常者と卵巣癌患者についての、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、パルミチン酸及びオレイン酸の血清中濃度によるROC解析結果を示す図である。
図4B】実験例4における、女性の健常者と卵巣癌患者についての、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸の血清中濃度によるROC解析結果を示す図である。
【0021】
図5A】実験例5における、女性の健常者についての、10種の遊離脂肪酸の血清中濃度が異常値であるか否かを、閾値に基づき判定した結果を示す図である。
図5B】実験例5における、卵巣悪性腫瘍患者についての、10種の遊離脂肪酸の血清中濃度が異常値であるか否かを、閾値に基づき判定した結果を示す図である。
図5C】実験例5における、女性の健常者と卵巣悪性腫瘍患者についての、FFAスコアによるROC解析結果を示す図である。
【0022】
図6A】実験例6における、女性の健常者(HD)、Stage I及びIIの卵巣癌患者、並びにStage III及びIVの卵巣癌患者での、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸の血清中濃度の解析結果を示す図である。
図6B】実験例6における、女性の健常者(HD)、Stage I及びIIの卵巣癌患者、並びにStage III及びIVの卵巣癌患者での、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸の血清中濃度の解析結果を示す図である。
【0023】
図7A】実験例7における、女性の健常者と、StageI又はStageIIの卵巣癌患者についての、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸の血清中濃度によるROC解析結果を示す図である。
図7B】実験例7における、女性の健常者と、StageI又はStageIIの卵巣癌患者についての、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸の血清中濃度によるROC解析結果を示す図である。
【0024】
図8A】実験例8における、女性の健常者についての、8種の遊離脂肪酸の血清中濃度が異常値であるか否かを、閾値に基づき判定した結果を示す図である。
図8B】実験例8における、卵巣癌患者についての、8種の遊離脂肪酸の血清中濃度が異常値であるか否かを、閾値に基づき判定した結果を示す図である。
図8C】実験例8における、女性の健常者(HD)と早期卵巣癌患者(StageI、II)についての、FFAスコアによるROC解析結果を示す図である。
図8D】実験例8における、早期卵巣癌患者(StageI、II)の、FFAスコア及びCA125の血中濃度の分布を示す図である。図中、「Clear cell」及び「Others」は、卵巣明細胞癌患者及び卵巣明細胞癌以外の組織型の卵巣癌患者をそれぞれ表す。
【0025】
図9】実験例9における、FFAスコア high群及びFFAスコア low群の無憎悪生存率(PFS)の推移を示す図である。
【0026】
図10A】実験例10における、卵巣境界悪性腫瘍患者についての、10種の遊離脂肪酸の血清中濃度が異常値であるか否かを、閾値に基づき判定した結果を示す図である。
図10B】実験例10における、卵巣境界悪性腫瘍患者及び卵巣癌患者(卵巣悪性腫瘍患者)についての、FFAスコアによるROC解析結果を示す図である。
【0027】
図11A】実験例11における、女性の健常者、子宮体癌患者、及び子宮頸癌患者の血清中の、パルミトレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸の濃度の解析結果を示すグラフである。
図11B】実験例11における、女性の健常者、子宮体癌患者、及び子宮頸癌患者の血清中の、バクセン酸、アラキジン酸及びステアリン酸の濃度の解析結果を示すグラフである。
【0028】
図12A】実験例12における、女性の健常者と、StageIあるいはStageII又はIIIの子宮頚癌患者についての、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸の血清中の遊離脂肪酸濃度の解析結果、ならびに血清中濃度によるROC解析結果を示す図である。
図12B】実験例12における、女性の健常者と、StageIあるいはStageII又はIIIの子宮頚癌患者についての、バクセン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサヘキサエン酸の血清中の遊離脂肪酸濃度の解析結果、ならびに血清中濃度によるROC解析結果を示す図である。
図12C】実験例12における、女性の健常者と、StageIあるいはStageII又はIIIの子宮頚癌患者についての、アドレン酸及びドコサペンタエン酸の血清中の遊離脂肪酸濃度の解析結果、ならびに血清中濃度によるROC解析結果を示す図である。
【0029】
図13A】実験例13における、女性の健常者と、StageIあるいはStageII又はIIIの子宮頚癌患者についての、血清中の濃度比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)の解析結果、ならびにROC解析結果を示す図である。
【0030】
図13B】実験例13における、女性の健常者と、StageIあるいはStageII又はIIIの子宮頚癌患者についての、濃度比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)、SCCマーカー及びCEAの血中濃度の分布を示す図である。
【0031】
図14A】実験例14における、女性の健常者と、子宮頚癌前癌病変患者についての、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸の血清中の遊離脂肪酸濃度の解析結果、ならびに血清中濃度によるROC解析結果を示す図である。
図14B】実験例14における、女性の健常者と、子宮頚癌前癌病変患者についての、アラキドン酸及びアラキジン酸の血清中の遊離脂肪酸濃度の解析結果、ならびに血清中濃度によるROC解析結果を示す図である。
【0032】
図15】実験例15における、子宮頸癌前癌病変(CIN)患者と、子宮頸癌患者についての、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸の血清中の遊離脂肪酸濃度の解析結果、ならびに血清中濃度によるROC解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[試料の検査方法(1)]
第1の態様に係る試料の検査方法は、対象が婦人科癌を有する可能性を評価するために用いることができる。前記検査方法は、下記の工程(A1)及び工程(B1)を含む。
工程(A1):対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサペンタエン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程
工程(B1):工程(A1)で得られた、遊離脂肪酸の試料中の濃度に基づいて、対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性を評価する工程
【0034】
検査に供される試料が由来する「対象」は、ヒトの女性である。本明細書において、婦人科癌とは、ヒトの男性は罹患せず、ヒトの女性が罹患し得る、癌を意味する。言い換えると、婦人科癌とは、女性に特異的な臓器(ヒトの男性は有さず、ヒトの女性が有する臓器)において、発生し得る癌を意味する。女性特異的な臓器としては、例えば、卵巣、子宮が挙げられる。
婦人科癌としては、例えば、卵巣癌、子宮体癌、子宮頸癌が挙げられる。本明細書において、「癌」という用語は、悪性腫瘍及び境界性悪性腫瘍を包含する。卵巣癌は、卵巣悪性腫瘍でもよく、卵巣境界悪性腫瘍でもよい。子宮体癌は、子宮体部悪性腫瘍でもよく、子宮体部境界悪性腫瘍でもよい。子宮頸癌は、子宮頸部悪性腫瘍でもよく、子宮頸部境界悪性腫瘍でもよい。本実施形態の検査方法により検出される婦人科癌は、好ましくは悪性腫瘍であり、より好ましくは卵巣悪性腫瘍、子宮体部悪性腫瘍、または子宮頸部悪性腫瘍である。以下、婦人科癌における悪性腫瘍を「婦人科悪性腫瘍」ともいう。婦人科癌における「境界悪性腫瘍」を「婦人科境界悪性腫瘍」ともいう。
【0035】
本実施形態の検査方法で検出対象となる婦人科癌のステージは特に限定されない。なお、本明細書において記載する癌のステージは、TNM分類による。本実施形態の検査方法では、早期の婦人科癌(例えば、Stage I、II)からステージの進んだ癌(例えば、Stage III、IV)まで幅広く検出することができる。検出対象の婦人科癌は、早期婦人科悪性腫瘍であってもよい。早期婦人科悪性腫瘍とは、Stage 0、Stage I又はStage IIの婦人科悪性腫瘍を意味する。早期婦人科悪性腫瘍は、Stage I又はStage IIの悪性腫瘍が好ましい。検出対象の早期婦人科悪性腫瘍としては、早期卵巣悪性腫瘍が好ましい。検出対象の婦人科癌は、Stage III、Stage IVの悪性腫瘍であってもよい。本実施形態の検査方法で検出対象となる婦人科癌は、Stage I以上の進行度を有する婦人科悪性腫瘍であってもよい。Stage I以上の進行度を有する婦人科悪性腫瘍は、Stage I、Stage II、Stage III、及びStage IVの婦人科悪性腫瘍を包含する。
【0036】
本明細書において、「前癌病変」という用語は、正常な組織に比べて、癌が発生しやすい状態に変化した組織を意味する。すなわち、「前癌病変」は癌に進展する可能性の高い組織である。「婦人科癌の前癌病変」は、「婦人科癌」に進展する可能性の高い組織を意味する。前癌病変は、上皮内腫瘍とも呼ばれる。
【0037】
(工程(A1))
工程(A1)では、対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサペンタエン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する。
以下、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサペンタエン酸及びアラキドン酸を、まとめて「A1群の遊離脂肪酸」ともいう。
【0038】
対象由来の試料としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、例えば、尿、血液、唾液、汗、組織片等の生体試料が挙げられ、血液が好ましい。血液試料としては、例えば、全血、血漿、血清等が挙げられる。
【0039】
試料中の遊離脂肪酸の濃度を測定する方法は、特に限定されない。例えば、当業者に公知の方法を用いて試料中の遊離脂肪酸の濃度を測定することができる。そのような方法としては、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析、ガスクロマトグラフィー等が挙げられる。
【0040】
工程(A1)において、測定対象の遊離脂肪酸の種類数は、A1群の遊離脂肪酸から選択される1種以上であればよく、2種以上であってもよいし、3種以上であってもよいし、4種以上であってもよいし、5種以上であってもよいし、6種以上であってもよいし、7種以上であってもよいし、8種以上であってもよいし、9種以上であってもよいし、10種以上であってもよいし、11種以上であってもよいし、12種以上であってもよいし、13種以上であってもよいし、14種以上であってもよいし、15種であってもよい。測定対象の遊離脂肪酸は、A1群の遊離脂肪酸の中から任意に選択できる。
【0041】
測定対象の遊離脂肪酸は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上(例えば、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、12種以上、13種以上、又は14種)であってもよい。
あるいは、測定対象の遊離脂肪酸は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上(例えば、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種)であってもよい。
あるいは、測定対象の遊離脂肪酸は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上(例えば、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種)であってもよい。
あるいは、測定対象の遊離脂肪酸は、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上(例えば、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種)であってもよい。
あるいは、測定対象の遊離脂肪酸は、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上(例えば、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種)であってもよい。
あるいは、測定対象の遊離脂肪酸は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上(例えば、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種)であってもよい。
あるいは、測定対象の遊離脂肪酸は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、アラキドン酸及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上(例えば、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、又は6種)であってもよい。
【0042】
検出対象が婦人科癌である場合、工程(A1)では、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、12種以上、13種以上、又は14種の遊離脂肪酸を測定することができる。検出対象が婦人科癌である場合、工程(A1)では、前記14種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0043】
検出対象であり得る婦人科癌が卵巣癌である場合、工程(A1)では、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種の遊離脂肪酸を測定することができる。婦人科癌が卵巣癌である場合、工程(A1)では、前記10種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0044】
早期婦人科悪性腫瘍(例えば、Stage I、II)の検出感度を高めるために、工程(A1)では、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種の遊離脂肪酸を測定することができる。早期婦人科悪性腫瘍を検出しようとする場合、工程(A1)では、前記8種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。早期婦人科悪性腫瘍としては、例えば、早期卵巣悪性腫瘍が挙げられる。
【0045】
検出対象であり得る婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、工程(A1)では、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種の遊離脂肪酸を測定することができる。婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、工程(A1)では、前記12種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0046】
検出対象であり得る婦人科癌が子宮体癌である場合、工程(A1)では、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種の遊離脂肪酸を測定することができる。婦人科癌が子宮体癌である場合、工程(A1)では、前記8種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0047】
検出対象であり得る婦人科癌が子宮頸癌である場合、工程(A1)では、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種の遊離脂肪酸を測定することができる。婦人科癌が子宮頸癌である場合、工程(A1)では、前記12種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0048】
婦人科癌前癌病変(例えば、子宮頸がん癌前癌病変)を含めて検出しようとする場合、工程(A1)では、評価に用いる遊離脂肪酸は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、アラキドン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、又は6種の遊離脂肪酸を測定することができる。
【0049】
(工程(B1))
工程(B1)では、工程(A1)で得られた、遊離脂肪酸の試料中の濃度に基づいて、対象が婦人科癌を有する可能性を評価する。
【0050】
工程(B1)では、下記(i1)及び(ii1)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと評価する。
【0051】
(i1)パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い。
(ii1)バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
(iii1)オレイン酸に対するドコサペンタエン酸の濃度比が、所定の閾値と比較して、低い。
【0052】
上記(i1)に記載される遊離脂肪酸(パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸及びアラキドン酸)を、まとめて「B(i1)群の遊離脂肪酸」ともいう。上記(ii1)に記載される遊離脂肪酸(バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸)を、まとめて「B(ii1)群の遊離脂肪酸」ともいう。
上記(i1)及び(ii1)における「所定の閾値」は、遊離脂肪酸毎に設定される値である。
工程(A1)で測定された遊離脂肪酸がB(i1)群の遊離脂肪酸である場合、当該遊離脂肪酸について設定される所定の閾値と比較して、工程(A1)で測定された当該遊離脂肪酸の濃度が高いと、対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと評価される。
工程(A1)で測定された遊離脂肪酸がB(ii1)群の遊離脂肪酸である場合、当該遊離脂肪酸について設定される所定の閾値と比較して、工程(A1)で測定された当該遊離脂肪酸の濃度が低いと、対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと評価される。
工程(A1)で測定された遊離脂肪酸が2種以上である場合、それらの遊離脂肪酸をB(i1)群の遊離脂肪酸及びB(ii1)群の遊離脂肪酸に分類し、各遊離脂肪酸について(i1)又は(ii1)に該当するかを確認する。測定された遊離脂肪酸の種類数に対して、(i1)又は(ii1)に該当する遊離脂肪酸の種類数の割合が高いほど、対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性がより高いと評価することができる。
【0053】
上記(i1)及び(ii1)における各遊離脂肪酸の濃度の所定の閾値は、女性の健常者に由来する複数の試料、ならびに、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する患者に由来する複数の試料から各遊離脂肪酸の濃度を取得し、それらの各遊離脂肪酸の濃度を統計処理して得られたカットオフ値であってもよい。
【0054】
特定の遊離脂肪酸の濃度の所定の閾値は、例えば、その特定遊離脂肪酸についての陽性尤度比が最大となるように設定してもよい。陽性尤度比が最大となる閾値は、例えば、ROC解析を行って設定することができる。例えば、任意の人数の婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する患者群、ならびに、女性の健常者群について、特定の遊離脂肪酸の血清濃度を測定し、それらの血清濃度を用いてROC解析を行うことができる。
【0055】
前記工程(A1)で用いた対象由来の試料が血清である場合、上記(i1)及び(ii1)における各遊離脂肪酸の濃度の閾値としては、例えば、次のようなものが挙げられるが、それらに限定されない。
【0056】
パルミトレイン酸の閾値としては、20μEQ/L以上40μEQ/L以下が好ましく、23μEQ/L以上35μEQ/L以下がより好ましく、25μEQ/L以上33μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣悪性腫瘍である場合、パルミトレイン酸の閾値の具体例としては、29.06μEQ/Lが挙げられる。早期卵巣悪性腫瘍を検出しようとする場合も、閾値の具体例としては前記と同様のものが挙げられる。婦人科癌が子宮頸癌である場合、パルミトレイン酸の閾値の具体例としては、29.12μEQ/Lが挙げられる。子宮頸癌前癌病変を含めて検出しようとする場合、パルミトレイン酸の閾値の具体例としては、36.63μEQ/Lが挙げられる。
【0057】
リノール酸の閾値としては、170μEQ/L以上200μEQ/L以下が好ましく、175μEQ/L以上190μEQ/L以下がより好ましく、180μEQ/L以上185μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣悪性腫瘍である場合、リノール酸の閾値の具体例としては、183.1μEQ/Lが挙げられる。早期卵巣悪性腫瘍を検出しようとする場合も、閾値の具体例としては前記と同様のものが挙げられる。婦人科癌が子宮頸癌である場合、リノール酸の閾値の具体例としては、84.63μEQ/Lが挙げられる。子宮頸癌前癌病変を含めて検出しようとする場合、リノール酸の閾値の具体例としては、83.34μEQ/Lが挙げられる。
【0058】
α-リノレン酸の閾値としては、20μEQ/L以上40μEQ/L以下が好ましく、23μEQ/L以上35μEQ/L以下がより好ましく、25μEQ/L以上33μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣悪性腫瘍である場合、α-リノレン酸の閾値の具体例としては、28.62μEQ/Lが挙げられる。早期卵巣悪性腫瘍を検出しようとする場合も、閾値の具体例としては前記と同様のものが挙げられる。婦人科癌が子宮頸癌である場合、α-リノレン酸の閾値の具体例としては、13.13μEQ/Lが挙げられる。子宮頸癌前癌病変を含めて検出しようとする場合、α-リノレン酸の閾値の具体例としては、8.334μEQ/Lが挙げられる。
【0059】
オレイン酸の閾値としては、300μEQ/L以上35μEQ/L以下が好ましく、310μEQ/L以上340μEQ/L以下がより好ましく、320μEQ/L以上330μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣悪性腫瘍である場合、オレイン酸の閾値の具体例としては、326.0μEQ/L以下が挙げられる。早期卵巣悪性腫瘍を検出しようとする場合も、閾値の具体例としては前記と同様のものが挙げられる。婦人科癌が子宮頸癌である場合、オレイン酸の閾値の具体例としては、251.5μEQ/Lが挙げられる。子宮頸癌前癌病変を含めて検出しようとする場合、オレイン酸の閾値の具体例としては、333.4μEQ/Lが挙げられる。
【0060】
バクセン酸の閾値としては、1.2μEQ/L以上2.4μEQ/L以下が好ましく、1.5μEQ/L以上2.2μEQ/L以下がより好ましく、1.8μEQ/L以上2.0μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣悪性腫瘍である場合、バクセン酸の閾値の具体例としては、1.926μEQ/Lが挙げられる。早期卵巣悪性腫瘍を検出しようとする場合、バクセン酸の閾値の具体例としては、1.930μEQ/Lが挙げられる。婦人科癌が子宮頸癌である場合、バクセン酸の閾値の具体例としては、5.69μEQ/Lが挙げられる。子宮頸癌前癌病変を含めて検出しようとする場合、アラキドン酸の閾値の具体例としては、6.655μEQ/Lが挙げられる。
【0061】
アラキジン酸の閾値としては、1.2μEQ/L以上2.4μEQ/L以下が好ましく、1.5μEQ/L以上2.2μEQ/L以下がより好ましく、1.8μEQ/L以上2.0μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣悪性腫瘍である場合、バクセン酸の閾値の具体例としては、1.924μEQ/Lが挙げられる。早期卵巣悪性腫瘍を検出しようとする場合、アラキジン酸の閾値の具体例としては、1.953μEQ/Lが挙げられる。婦人科癌が子宮頸癌である場合、アラキジン酸の閾値の具体例としては、1.875μEQ/Lが挙げられる。子宮頸癌前癌病変を含めて検出しようとする場合、アラキジン酸の閾値の具体例としては、1.781μEQ/Lが挙げられる。
【0062】
ドコサヘキサエン酸の閾値としては、1.3μEQ/L以上2.3μEQ/L以下が好ましく、1.5μEQ/L以上2.2μEQ/L以下がより好ましく、1.7μEQ/L以2.03μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣悪性腫瘍である場合、ドコサヘキサエン酸の閾値の具体例としては、1.847μEQ/Lが挙げられる。早期卵巣悪性腫瘍を検出しようとする場合も、閾値の具体例としては前記と同様のものが挙げられる。婦人科癌が子宮頸癌である場合、ドコサヘキサエン酸の閾値の具体例としては、2.670μEQ/Lが挙げられる。
【0063】
アドレン酸の閾値としては、0.55μEQ/L以上0.85μEQ/L以下が好ましく、0.60μEQ/L以上0.80μEQ/L以下がより好ましく、0.65μEQ/L以上0.75μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣悪性腫瘍である場合、アドレン酸の閾値の具体例としては、0.7085μEQ/Lが挙げられる。婦人科癌が子宮頸癌である場合、アドレン酸の閾値の具体例としては、0.6688μEQ/Lが挙げられる。
【0064】
ネルボン酸の閾値としては、0.06μEQ/L以上0.11μEQ/L以下が好ましく、0.07μEQ/L以上0.10μEQ/L以下がより好ましく、0.08μEQ/L以上0.09μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣悪性腫瘍である場合、ネルボン酸の閾値の具体例としては、0.0891μEQ/Lが挙げられる。
【0065】
リグノセリン酸の閾値としては、0.3μEQ/L以上0.8μEQ/L以下が好ましく、0.4μEQ/L以上0.7μEQ/L以下がより好ましく、0.5μEQ/L以上0.6μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣悪性腫瘍である場合、リグノセリン酸の閾値の具体例としては、0.5773μEQ/Lが挙げられる。早期卵巣悪性腫瘍を検出しようとする場合も、閾値の具体例としては前記と同様のものが挙げられる。
【0066】
ステアリン酸の濃度の閾値としては、200μEQ/L以上300μEQ/L以下が好ましく、220μEQ/L以上280μEQ/L以下がより好ましく、240μEQ/L以上260μEQ/L以下が更に好ましい。ステアリン酸は、例えば、婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、好適に評価に用いることができる。
【0067】
パルミチン酸の閾値としては、350μEQ/L以上600μEQ/L以下が好ましく、400μEQ/L以上550μEQ/L以下がより好ましく、430μEQ/L以上500μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が卵巣癌である場合、パルミチン酸の閾値の具体例としては、452.9EQ/Lが挙げられる。パルミチン酸は、例えば、婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、好適に評価に用いることができる。
【0068】
ジホモ-γ-リノレン酸の閾値としては、0.8μEQ/L以上1.0μEQ/L以下が好ましく、0.85μEQ/L以上0.95μEQ/L以下がより好ましく、0.90μEQ/L以上0.95μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が子宮頸癌である場合、ジホモ-γ-リノレン酸の閾値の具体例としては、0.9315μEQ/Lが挙げられる。
【0069】
ドコサペンタエン酸の閾値としては、0.6μEQ/L以上1.5μEQ/L以下が好ましく、0.65μEQ/L以上1.2μEQ/L以下がより好ましく、0.7μEQ/L以上1.0μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が子宮頸癌である場合、ドコサペンタエン酸の閾値の具体例としては、0.7814μEQ/Lが挙げられる。
【0070】
上記(iii1)における「所定の閾値」は、オレイン酸に対するドコサペンタエン酸の濃度比に設定される値である。
オレイン酸に対するドコサペンタエン酸の濃度比について設定される閾値と比較して、工程(A1)で測定された遊離脂肪酸濃度に基づき算出された、オレイン酸に対するドコサペンタエン酸の濃度比が低いと、対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと評価される。
【0071】
上記(iii1)における濃度比についての所定の閾値は、女性の健常者に由来する複数の試料、ならびに、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する患者に由来する複数の試料からその濃度比を算出し、それらの濃度比を統計処理して得られたカットオフ値であってもよい。
【0072】
上記(iii1)における濃度比についての所定の閾値は、例えば、その濃度比についての陽性尤度比が最大となるように設定してもよい。陽性尤度比が最大となる閾値は、例えば、ROC解析を行って設定することができる。例えば、任意の人数の婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する患者群、ならびに、女性の健常者群について、その濃度比を測定し、それらの濃度比を用いてROC解析を行うことができる。
【0073】
前記工程(A1)で用いた対象由来の試料が血清である場合、オレイン酸に対するドコサペンタエン酸の濃度比についての所定の閾値としては、例えば、0.004433が挙げられるが、これに限定されない。
【0074】
前記工程(B1)において、上記(iii1)に該当する場合、対象が子宮頸癌を有する可能性が高いと評価することが好ましい。この場合、検出し得る子宮頸癌としては、stge I以上の進行度を有する子宮頸癌であってもよい。
【0075】
婦人科癌が卵巣癌である場合、評価に用いる遊離脂肪酸は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸が好ましい。前記10種の遊離脂肪酸から評価に用いる遊離脂肪酸を選択することにより、卵巣癌の検出精度がより向上する。婦人科癌が卵巣癌である場合、例えば、工程(B1)において、以下のような評価を行ってもよい。
下記(i1)-1及び(ii1)-1からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が卵巣癌を有する可能性が高いと評価する;
(i1)-1 パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii1)-1バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、及びリグノセリン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0076】
早期婦人科悪性腫瘍(例えば、Stage I、II)の検出感度を高めるために、評価に用いる遊離脂肪酸は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸であってもよい。前記8種の遊離脂肪酸から評価に用いる遊離脂肪酸を選択することにより、早期婦人科悪性腫瘍(特に、Stage I又はIIの卵巣悪性腫瘍)の検出精度がより向上する。早期婦人科悪性腫瘍を検出しようとする場合、例えば、工程(B1)において、以下のような評価を行ってもよい。
下記(i1)-2及び(ii1)-2からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象がStage I以上の進行度を有する婦人科癌(例えば、卵巣悪性腫瘍)を有する可能性が高いと評価する;
(i1)-2 パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii1)-2 バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0077】
婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、評価に用いる遊離脂肪酸は、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸が好ましい。前記12種の遊離脂肪酸から評価に用いる遊離脂肪酸を選択することにより、子宮体癌又は子宮頸癌の検出精度がより向上する。婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、例えば、工程(B1)において、以下のような評価を行ってもよい。
下記(i1)-3及び(ii1)-3からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が卵巣癌を有する可能性が高いと評価する;
(i1)-3 パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii1)-3 バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0078】
婦人科癌が子宮体癌である場合、評価に用いる遊離脂肪酸は、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸が好ましい。前記8種の遊離脂肪酸から評価に用いる遊離脂肪酸を選択することにより、子宮体癌の検出精度がより向上する。婦人科癌が子宮体癌である場合、例えば、工程(B1)において、以下のような評価を行ってもよい。
下記(i1)-4及び(ii1)-4からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が卵巣癌を有する可能性が高いと評価する;
(i1)-4 パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii1)-4 バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸及びアドレン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0079】
婦人科癌が子宮頸癌である場合、評価に用いる遊離脂肪酸は、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸が好ましい。前記12種の遊離脂肪酸から評価に用いる遊離脂肪酸を選択することにより、子宮頸癌の検出精度がより向上する。婦人科癌が子宮頸癌である場合、例えば、工程(B1)において、以下のような評価を行ってもよい。
下記(i1)-5及び(ii1)-5からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が卵巣癌を有する可能性が高いと評価する;
(i1)-5 パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii1)-5 バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0080】
婦人科癌前癌病変(例えば、子宮頸がん癌前癌病変)を含めて検出しようとする場合、評価に用いる遊離脂肪酸は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、アラキドン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸が好ましい。検出対象が婦人科癌及びその前癌病変である場合、例えば、工程(B1)において、以下のような評価を行ってもよい。
下記(i1)-6及び(ii1)-6からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が婦人科癌前癌病変及び/又は婦人科癌を有する可能性が高いと評価する;
(i1)-6 パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii1)-6 アラキドン酸の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0081】
工程(B1)において、上記(i1)及び(ii1)からなる群より選択される一種以上に該当するかを判定する工程は、下記(i-1)及び(ii-1)において設定される各遊離脂肪酸のスコアの合計値(以下、「FFAスコア」という)が、所定の閾値より高い場合に、前記対象が婦人科癌を有する可能性が高いと判定する工程(以下、「工程(B1-1)」ともいう)であってもよい。
【0082】
(i-1)遊離脂肪酸がB(i1)群の遊離脂肪酸である場合、当該遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して高い場合に、その遊離脂肪酸のスコアとして「+1」と設定する。当該遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して低い場合に、その遊離脂肪酸のスコアとして「0」と設定する。
(ii-1)遊離脂肪酸がB(ii1)群の遊離脂肪酸である場合、当該遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して低い場合に、その遊離脂肪酸のスコアとして「+1」と設定する。当該遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して高い場合、その遊離脂肪酸のスコアとして「0」と設定する。
(i-1)及び(ii-1)において使用される各遊離脂肪酸についての所定の閾値としては、上記(i1)及び(ii1)における所定の閾値として挙げたものと同様のものが挙げられる。(i-1)及び(ii-1)により設定される各遊離脂肪酸のスコアの合計値を算出し、FFAスコアとする。
【0083】
FFAスコアについての所定の閾値は、女性の健常者に由来する複数の試料及び婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する患者に由来する複数の試料についてFFAスコアを算出し、それらのFFAスコアを統計処理して得られたカットオフ値であってもよい。
【0084】
FFAスコアについての所定の閾値は、例えば、そのFFAスコアについての陽性尤度比が最大となるように設定してもよい。陽性尤度比が最大となる閾値は、例えば、ROC解析を行って設定することができる。例えば、任意の人数の婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する患者群、ならびに、女性の健常者群について、特定の遊離脂肪酸の血清濃度を測定し、それらの血清濃度を用いてROC解析を行うことができる。
【0085】
FFAスコアについての所定の閾値は、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数にもよるが、例えば、1以上3以下が挙げられ、1超3未満が好ましく、1超2以下がより好ましく、1超2未満が更に好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数としては、例えば、上記A1群の遊離脂肪酸のうちの3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、12種以上、13種以上、14種以上、15種が挙げられる。
【0086】
婦人科癌が卵巣癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種であってもよい。婦人科癌が卵巣癌である場合、FFAスコアの算出には、前記10種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。前記10種の遊離脂肪酸を用いる場合、FFAスコアの所定の閾値としては、上記と同様のものが挙げられ、例えば、1超2未満(例えば、1.5)とすることができる。
【0087】
早期婦人科悪性腫瘍(例えば、Stage I、II)の検出感度を高めるために、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上であってもよい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種であってもよい。早期婦人科悪性腫瘍の検出感度の観点から、FFAスコアの算出には、前記8種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。前記8種の遊離脂肪酸を用いる場合、FFAスコアの所定の閾値としては、上記と同様のものが挙げられ、例えば、1超2未満(例えば、1.5)とすることができる。
【0088】
婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種であってもよい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数、FFAスコアの所定の閾値は、適宜、設定することができる。
【0089】
婦人科癌が子宮体癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種であってもよい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数、FFAスコアの所定の閾値は、適宜、設定することができる。
【0090】
婦人科癌が子宮頸癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種であってもよい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数、FFAスコアの所定の閾値は、適宜、設定することができる。
【0091】
第1の態様にかかる検査方法において、FFAスコアを用いる場合、工程(A1)及び工程(B1)の具体例としては、以下が挙げられる。
(例1)
工程(A1)では、対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる10種の遊離脂肪酸の濃度を測定する。
工程(B1)では、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる10種の遊離脂肪酸から算出されるFFAスコアが所定の閾値より高い場合に、前記対象が婦人科癌を有する可能性が高いと判定する。
上記の10種の遊離脂肪酸から算出されるFFAスコアの閾値としては、1以上3以下が好ましく、1.2以上2.5以下がより好ましく、1.3以上2以下が更に好ましく、1.3以上1.9以下が特に好ましい。
【0092】
(例2)
工程(A1)では、対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸及びリグノセリン酸からなる8種の遊離脂肪酸の濃度を測定する。
工程(B1)では、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸及びリグノセリン酸からなる8種の遊離脂肪酸から算出されるFFAスコアが所定の閾値より高い場合に、前記対象が婦人科癌を有する可能性が高いと判定する。
上記の8種の遊離脂肪酸のFFAスコアの閾値としては、0.5以上2.5以下が好ましく、1以上2以下がより好ましく、1.1以上1.9以下が更に好ましい。
【0093】
FFAスコアを用いることにより、より精度よく、対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性を評価することができる。FFAスコアを用いることにより、早期婦人科悪性腫瘍(例えば、早期卵巣悪性腫瘍)、婦人科明細胞悪性腫瘍(例えば、卵巣明細胞悪性腫瘍)、又は婦人科境界悪性腫瘍(例えば、卵巣境界悪性腫瘍)であっても、精度よく検出することができる。これらの腫瘍はCA125等の従来の腫瘍マーカーでは偽陰性の割合が多く感度が低かった。しかし、FFAスコアを用いることにより、これらの腫瘍も感度よく検出することができる。例えば、前記早期婦人科悪性腫瘍に関し、FFAスコアを用いることにより。Stage I又はStage IIの婦人科悪性腫瘍も感度よく検出することができる。
【0094】
工程(B1)において、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと評価された対象は、婦人科癌のうちのいずれかの癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高い。そのため、対象が有する婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上の種類を特定するために、コンピュータ断層撮影(CT)検査、磁気共鳴画像診断(MRI)、陽電子放出断層撮影(PET)検査、超音波検査等により、さらに検査してもよい。更に、確定診断のために、病理検査(細胞診検査、組織学的検査)を行ってもよい。
【0095】
第1の態様に係る試料の検査方法は、更に下記の工程(C1)を含んでもよい。
工程(C1):前記工程(B1)により婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと判定された前記対象が、婦人科癌及び婦人科癌前癌病変のいずれを有するかについて、前記工程(A1)で得られた、前記遊離脂肪酸の前記試料中の濃度に基づいて評価する
【0096】
工程(C1)における対象は、前記工程(B1)により、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高いと判定された対象である。
【0097】
(工程(C1))
工程(B1)では、工程(A1)で得られた、遊離脂肪酸の試料中の濃度に基づいて、対象が婦人科癌及び婦人科癌前癌病変のいずれを有するかを評価する。
【0098】
判定対象の婦人科癌は、子宮頸癌であることが好ましい。判定対象の婦人科癌前癌病変としては、子宮頸癌前癌病変であることが好ましい。
【0099】
工程(C1)では、下記(Ci)に該当する場合に、前記対象が婦人科癌を有する可能性が高いと評価する。
(Ci)ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0100】
以下、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸を、まとめて「C1群の遊離脂肪酸」ともいう。
【0101】
工程(C1)において、判定対象の遊離脂肪酸の種類数は、C1群の遊離脂肪酸から選択される1種以上であればよく、2種以上であってもよいし、3種以上であってもよいし、4種であってもよい。判定対象の遊離脂肪酸は、C1群の遊離脂肪酸の中から任意に選択できる。
【0102】
上記(Ci)における「所定の閾値」は、遊離脂肪酸毎に設定される値である。
上記(Ci)における各遊離脂肪酸の濃度の所定の閾値は、婦人科癌を有する患者に由来する複数の試料、及び、婦人科癌前癌病変を有する患者に由来する複数の試料から各遊離脂肪酸の濃度を取得し、それらの各遊離脂肪酸の濃度を統計処理して得られたカットオフ値であってもよい。
【0103】
特定の遊離脂肪酸の濃度の所定の閾値は、例えば、その特定遊離脂肪酸についての陽性尤度比が最大となるように設定してもよい。陽性尤度比が最大となる閾値は、例えば、ROC解析を行って設定することができる。例えば、任意の人数の婦人科癌を有する患者群、及び、婦人科癌前癌病変を有する患者群について、特定の遊離脂肪酸の血清濃度を測定し、それらの血清濃度を用いてROC解析を行うことができる。
【0104】
上記(Ci)における各遊離脂肪酸の濃度の閾値としては、例えば、次のようなものが挙げられるが、それらに限定されない。
【0105】
ジホモ-γ-リノレン酸の閾値としては、0.80μEQ/L以上1.20μEQ/L以下が好ましく、0.90μEQ/L以上1.10μEQ/L以下がより好ましく、0.95μEQ/L以上1.05μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が子宮頸癌であり、婦人科癌前癌病変が子宮頸癌前癌病変である場合、ジホモ-γ-リノレン酸の閾値の具体例としては、1.012μEQ/Lが挙げられる。
【0106】
ドコサヘキサエン酸の閾値としては、2.0μEQ/L以上5.0μEQ/L以下が好ましく、2.5μEQ/L以上4.5μEQ/L以下がより好ましく、3.0μEQ/L以上4.0μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が子宮頸癌であり、婦人科癌前癌病変が子宮頸癌前癌病変である場合、ドコサヘキサエン酸の閾値の具体例としては、3.507μEQ/Lが挙げられる。
【0107】
アドレン酸の閾値としては、0.15μEQ/L以上0.60μEQ/L以下が好ましく、0.20μEQ/L以上0.50μEQ/L以下がより好ましく、0.25μEQ/L以上0.40μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が子宮頸癌であり、婦人科癌前癌病変が子宮頸癌前癌病変である場合、ドコサヘキサエン酸の閾値の具体例としては、0.312μEQ/Lが挙げられる。
【0108】
ドコサペンタエン酸の閾値としては、0.40μEQ/L以上1.00μEQ/L以下が好ましく、0.50μEQ/L以上0.90μEQ/L以下がより好ましく、0.60μEQ/L以上0.80μEQ/L以下が更に好ましい。婦人科癌が子宮頸癌であり、婦人科癌前癌病変が子宮頸癌前癌病変である場合、ドコサペンタエン酸の閾値の具体例としては、0.7231μEQ/Lが挙げられる。
【0109】
工程(C1)は、FFAスコアを算出し、当該FFAスコアが、所定の閾値より高い場合に、対象が婦人科癌を有する可能性が高いと評価する工程であってもよい。FFAスコアは、上記第1の態様で説明した方法と同様の方法で算出される。すなわち、FFAスコアは、上記(i-1)及び(ii-1)と同様に設定される各遊離脂肪酸のスコアの合計値として算出される。
【0110】
FFAスコアについての所定の閾値は、婦人科癌患者に由来する複数の試料、及び、前癌病変を有する患者に由来する複数の試料についてFFAスコアを算出し、それらのFFAスコアを統計処理して得られたカットオフ値であってもよい。
【0111】
FFAスコアについての所定の閾値は、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数にもよるが、例えば、遊離脂肪酸の種類数をnとする場合、0.2n以上0.6n以下、0.3n以上0.6n以下、又は0.4n以上0.6n以下等が挙げられる。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数としては、例えば、上記A5群の遊離脂肪酸のうちの3種以上、4種が挙げられる。
【0112】
上記のような診断により、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有することが確認された対象については、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上の治療を行うことができる。一実施形態において、本発明は、(a1)第1の態様に係る試料の検査法により、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高い対象を特定する工程、(b1)前記対象が、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有することを確認する工程、及び(c1)婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有することが確認された前記対象に対し、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上の治療を行う工程、を含む、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上の治療方法を提供する。
前記工程(a1)では、上述のように第1の態様に係る試料の検査方法を実施して、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高い対象を特定する。
前記工程(b1)では、工程(a1)で特定された対象に対して、さらなる検査を実施することにより、当該対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有することを確認することができる。婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上の検査としては、例えば、上記の検査が挙げられる。
前記工程(c1)では、工程(b1)で婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有することが確認された対象に対して、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上の治療を実施することができる。婦人科癌の治療方法としては、特に限定されず、例えば、外科的治療、化学療法、及び放射線療法等が挙げられる。例えば、婦人科癌が早期婦人科癌(例えば、Stage I又はStage II)である場合、主な治療方法として、例えば、外科的治療を選択することができる。早期婦人科癌である場合、例えば、外科的治療等により、婦人科癌を完全に除去できれば、婦人科癌を完治させ得る。進行度が進んだ婦人科癌(例えば、Stage III又はStage IV)の場合、外科的治療、化学療法(抗癌剤の投与等)、及び放射線療法を組み合わせて治療を行ってもよい。例えば、外科的治療の前に化学療法及び/又は放射線療法を行い、腫瘍を退縮させてもよい。あるいは、外科的治療の後に、化学療法及び/又は放射線療法を行い、外科的治療後に残存する腫瘍を退縮させてもよい。化学療法に用いる抗癌剤としては、[医薬]の項で後述の抗癌剤が挙げられる。婦人科癌前癌病変の治療方法としては、例えば、子宮頸部円錐切除、子宮頸部レーザー蒸散術等の膣式手術を行ってもよい。
【0113】
以上説明した第1の態様に係る試料の検査方法によれば、対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性を、簡便に、高特異性かつ高感度で、判定することが可能である。
CA125をマーカーとして用いる診断は、早期卵巣悪性腫瘍、卵巣明細胞悪性腫瘍の検出感度が低い。第1の態様に係る検査方法は、対象が早期卵巣悪性腫瘍又は卵巣明細胞悪性腫瘍を有する場合であっても、高特異性かつ高感度で検出することが可能である。
【0114】
進行した婦人科癌は、治療を行っても、再発する可能性が高く、予後不良である場合が多い。一方、婦人科癌を、進行する前の早期段階で検出した場合、例えば、腫瘍を切除する等の治療により、婦人科癌を完治させることが可能である。あるいは、予後を改善することができる。第1の態様に係る試料の検査方法によれば、早期婦人科癌を検出することが可能となるため、治療により婦人科癌を完治する確率を高めることが可能となる。
【0115】
子宮頸癌は転移しているリスクがあるため、準広汎/広汎子宮全摘やリンパ節郭清といった、侵襲性の高い外科的治療もしくは放射線照射による治療などが行われる。そのため、罹患ピークである30-40代の若年者においては、妊孕能が絶たれる場合がある。一方、子宮頸癌前癌病変は、浸潤を伴わない上皮内に限局した腫瘍であることから、転移の可能性がない。そのため、子宮頸部円錐切除、子宮頸部レーザー蒸散術といった侵襲性の低い治療が行われ、妊孕性も温存される。従って、子宮頸癌前癌病変を検出することは、対象にとって大きなメリットとなる。
【0116】
工程(B1)は、前記(i1)及び(ii1)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高い対象に由来する試料を特定する工程であってもよい。
【0117】
工程(C1)は、前記(Ci)に該当する場合に、前記婦人科癌を有する可能性が高い対象に由来する試料を特定する工程であってもよい。
【0118】
[試料の検査方法(2)]
第2の態様に係る試料の検査方法は、婦人科癌を有する対象が、予後不良となる可能性を評価する方法である。前記検査方法は、工程(A2)及び工程(B2)を含む。
工程(A2):対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程
工程(B2):工程(A2)で得られた、遊離脂肪酸の試料中の濃度に基づいて、予後不良となる可能性を評価する工程
【0119】
第2の態様に係る試料の検査方法では、検査に供される試料が由来する対象は、婦人科癌を有する、ヒトの女性である。例えば、対象は、婦人科癌を有すると予め診断されたヒトの女性である。対象は、婦人科癌の治療の開始前でもよく、婦人科癌の治療中であってもよく、過去に婦人科癌の治療を受けていてもよい。あるいは、上記第1の態様に係る検査方法により、婦人科癌を有すると判定された対象であってもよい。
前記婦人科癌としては、第1の態様において上述した癌が挙げられる。前記婦人科癌としては、婦人科悪性腫瘍が好ましく、卵巣悪性腫瘍、子宮体部悪性腫瘍及び子宮頸部悪性腫瘍からなる群より選択される1種以上がより好ましく、卵巣悪性腫瘍が更に好ましい。
【0120】
パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸を、まとめて「A2群の遊離脂肪酸」ともいう。
【0121】
工程(A2)は、婦人科癌を有する対象由来の試料を用いること以外は、第1の態様における工程(A1)と同様に行うことができる。
【0122】
工程(A2)において、測定対象の遊離脂肪酸の種類数は、A2群の遊離脂肪酸から選択される1種以上であればよく、2種以上であってもよいし、3種以上であってもよいし、4種以上であってもよいし、5種以上であってもよいし、6種以上であってもよいし、7種以上であってもよいし、8種以上であってもよいし、9種以上であってもよいし、10種以上であってもよいし、11種以上であってもよいし、12種以上であってもよいし、13種以上であってもよいし、14種であってもよい。測定対象の遊離脂肪酸は、A2群の遊離脂肪酸の中から任意に選択できる。
【0123】
婦人科癌が卵巣癌である場合、工程(A2)では、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種の遊離脂肪酸を測定することができる。婦人科癌が卵巣癌である場合、工程(A2)では、前記10種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0124】
婦人科癌が早期婦人科悪性腫瘍(例えば、Stage I、II)である場合、工程(A2)では、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種の遊離脂肪酸を測定することができる。早期婦人科悪性腫瘍を検出しようとする場合、工程(A2)では、前記8種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。早期婦人科悪性腫瘍としては、例えば、早期卵巣悪性腫瘍が挙げられる。
【0125】
婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、工程(A2)では、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種の遊離脂肪酸を測定することができる。婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、工程(A2)では、前記12種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0126】
婦人科癌が子宮体癌である場合、工程(A2)では、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種の遊離脂肪酸を測定することができる。婦人科癌が子宮体癌である場合、工程(A2)では、前記8種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0127】
婦人科癌が子宮頸癌である場合、工程(A2)では、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種の遊離脂肪酸を測定することができる。検出対象が子宮頸癌である場合、工程(A2)では、前記12種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0128】
工程(B2)では、下記(i2)及び(ii2)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象が予後不良となる可能性が高いと評価する。
(i2)パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸及びパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii2)バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0129】
上記(i2)及び(ii2)における「所定の閾値」は、遊離脂肪酸毎に設定される値である。各遊離脂肪酸の濃度の所定の閾値は、予後良好であった婦人科患者に由来する複数の試料、及び、予後不良であった婦人科癌患者に由来する複数の試料から各遊離脂肪酸の濃度を取得し、それらの各遊離脂肪酸の濃度を統計処理して得られたカットオフ値であってもよい。
【0130】
工程(B2)は、FFAスコアを算出し、当該FFAスコアが、所定の閾値より高い場合に、対象が婦人科癌の予後不良となる可能性が高いと評価する工程であってもよい。FFAスコアは、上記第1の態様で説明した方法と同様の方法で算出される。すなわち、FFAスコアは、上記(i-1)及び(ii-1)と同様に設定される各遊離脂肪酸のスコアの合計値として算出される。
【0131】
工程(B2)において、上記(i-1)及び(ii-1)と同様に設定される所定の閾値は、上記のように取得されたものでもよく、第1の態様に係る検査方法と同じ閾値を使用してもよい。
FFAスコアについての所定の閾値は、予後良好であった婦人科癌患者に由来する複数の試料、及び、予後不良であった婦人科癌患者に由来する複数の試料についてFFAスコアを算出し、それらのFFAスコアを統計処理して得られたカットオフ値であってもよい。あるいは、婦人科癌患者に由来する複数の試料についてFFAスコアを算出し、それらのFFAスコアの中央値をFFAスコアの閾値として用いてもよい。
【0132】
FFAスコアについての所定の閾値は、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数にもよるが、例えば、遊離脂肪酸の種類数をnとする場合、0.4n以上0.8n以下、0.5n以上0.7n以下、又は0.5n以上0.6n以下等が挙げられる。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数としては、例えば、上記A2群の遊離脂肪酸のうちの3種以上、4種以上、5種以上、6以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種以上が挙げられる。「0.4n」は、0.4に種類数nを乗じた値を意味する。他の数値についても同様である。例えば、遊離脂肪酸の種類数が5種である場合、「0.4n以上0.8n以下」とは「2以上4以下」を意味する。
【0133】
婦人科癌が卵巣癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種であってもよい。婦人科癌が卵巣癌である場合、FFAスコアの算出には、前記10種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。
FFAスコアについての所定の閾値は、工程(B2)において上述した、FFAについての所定の閾値と同様のものが挙げられる。前記10種の遊離脂肪酸を用いる場合、FFAスコアの所定の閾値としては、例えば、4超6未満が挙げられる。
【0134】
婦人科癌が早期婦人科悪性腫瘍である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種であってもよい。早期婦人科悪性腫瘍を検出しようとする場合、FFAスコアの算出には、前記8種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。
FFAスコアについての所定の閾値は、工程(B2)において上述した、FFAについての所定の閾値と同様のものが挙げられる。前記8種の遊離脂肪酸を用いる場合、FFAスコアの所定の閾値としては、例えば、3超5未満が挙げられる。
【0135】
婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種であってもよい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数、FFAスコアの所定の閾値は、適宜、設定することができる。婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、FFAスコアの算出には、前記12種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。
FFAスコアについての所定の閾値は、工程(B2)において上述した、FFAについての所定の閾値と同様のものが挙げられる。
【0136】
婦人科癌が子宮体癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種であってもよい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数、FFAスコアの所定の閾値は、適宜、設定することができる。婦人科癌が子宮体癌である場合、FFAスコアの算出には、前記8種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。
FFAスコアについての所定の閾値は、工程(B2)において上述した、FFAについての所定の閾値と同様のものが挙げられる。
【0137】
婦人科癌が子宮頸癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種であってもよい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数、FFAスコアの所定の閾値は、適宜、設定することができる。婦人科癌が子宮頸癌である場合、FFAスコアの算出には、前記10種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。
FFAスコアについての所定の閾値は、工程(B2)において上述した、FFAについての所定の閾値と同様のものが挙げられる。
【0138】
第2の態様にかかる検査方法において、FFAスコアを用いる場合、工程(A2)及び工程(B2)の具体例としては、以下が挙げられる。
工程(A2)では、対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる10種の遊離脂肪酸の濃度を測定する。
工程(B2)では、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる10種の遊離脂肪酸のFFAスコアが所定の閾値より高い場合に、前記対象が予後不良となる可能性が高いと評価する。
FFAスコアについての所定の閾値は、予後良好であった婦人科癌患者に由来する10種の遊離脂肪酸、及び、予後不良であった婦人科癌患者に由来する10種の遊離脂肪酸についてFFAスコアを算出し、それらのFFAスコアを統計処理して得られたカットオフ値であってもよい。あるいは、婦人科癌患者に由来する複数の試料についてFFAスコアを算出し、それらのFFAスコアの中央値をFFAスコアの閾値として用いてもよい。
【0139】
以上説明した第2の態様に係る試料の検査方法によれば、対象が予後不良となるか否かを予測することが可能である。そのため、この検査結果を参照して、適切な治療計画を立てやすくなる。また、治療後の再発を予測しやすくなる。スコアが所定の閾値より高い場合に、前記対象が予後不良となる可能性が高いと評価する。
【0140】
例えば、予後不良となる可能性が高いと評価された対象に対しては、治療方法の変更等の措置を取ってもよい。一実施形態において、本発明は、(a2)第2の態様に係る試料の検査法により、予後不良となる可能性が高い対象を特定する工程、及び(b2)前記対象に対する婦人科癌の治療方法を変更する工程、を含む、婦人科癌の治療方法を提供する。
前記工程(a2)では、上述のように第2の態様に係る試料の検査方法を実施して、予後不良となる可能性が高い対象を特定する。
前記工程(b2)では、工程(a2)で特定された対象において、婦人科癌の治療方法を再検討し、婦人科癌の治療方法を変更することができる。工程(a2)で特定された対象は、それまでの治療を継続しても、予後不良となる可能性が高い。そのため、治療方法を再検討し、治療方法を変更することで予後を改善する可能性を探ることができる。治療方法の変更としては、例えば、抗癌剤の種類の変更等が挙げられる。
【0141】
工程(B2)は、前記(i2)及び(ii2)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、予後不良となる可能性が高い対象に由来する試料を特定する工程であってもよい。
【0142】
[試料の検査方法(3)]
第3の態様に係る試料の検査方法は、対象が有する婦人科癌が、婦人科悪性腫瘍であるか、あるいは、婦人科境界悪性腫瘍であるかを評価する方法である。前記検査方法は、工程(A3)及び工程(B3)を含む。
工程(A3):パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸の濃度を測定する工程
工程(B3):工程(A3)で得られた、前記遊離脂肪酸の前記試料中の濃度に基づいて、前記婦人科癌が、悪性腫瘍であるか、あるいは、境界悪性腫瘍であるかを評価する工程
【0143】
第3の態様に係る試料の検査方法では、検査に供される試料が由来する対象は、婦人科癌を有する、ヒトの女性である。対象が有する婦人科癌としては、第1の態様において上述したものが挙げられる。例えば、対象は、婦人科癌を有すると予め診断されたヒトの女性である。あるいは、上記第1の態様に係る検査方法により、婦人科癌を有すると判定された対象であってもよい。
【0144】
婦人科悪性腫瘍としては、卵巣悪性腫瘍、子宮体部悪性腫瘍及び子宮頸部悪性腫瘍からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、卵巣悪性腫瘍がより好ましい。婦人科境界悪性腫瘍としては、卵巣境界悪性腫瘍、子宮体部境界悪性腫瘍及び子宮頸部境界悪性腫瘍からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、卵巣境界悪性腫瘍が好ましい。
第3の態様に係る検査方法における評価は、例えば、対象が有する卵巣癌が、卵巣悪性腫瘍であるか、卵巣境界悪性腫瘍であるかを評価することであってもよい。対象が有する子宮体癌が、子宮体部悪性腫瘍であるか、子宮体部境界悪性腫瘍であるかを評価することであってもよい。対象が有する子宮頸癌が、子宮頸部悪性腫瘍であるか、子宮頸部境界悪性腫瘍であるかを評価することであってもよい。
【0145】
パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸を、まとめて「A3群の遊離脂肪酸」ともいう。
【0146】
工程(A3)は、婦人科癌を有する対象由来の試料を用いること以外は、第1の態様における工程(A1)と同様に行うことができる。
【0147】
工程(A3)において、測定対象の遊離脂肪酸の種類数は、A3群の遊離脂肪酸から選択される1種以上であればよく、2種以上であってもよいし、3種以上であってもよいし、4種以上であってもよいし、5種以上であってもよいし、6種以上であってもよいし、7種以上であってもよいし、8種以上であってもよいし、9種以上であってもよいし、10種以上であってもよいし、11種以上であってもよいし、12種以上であってもよいし、13種以上であってもよいし、14種であってもよい。測定対象の遊離脂肪酸は、A3群の遊離脂肪酸の中から任意に選択できる。
【0148】
婦人科癌が卵巣癌である場合、工程(A3)では、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種の遊離脂肪酸を測定することができる。婦人科癌が卵巣癌である場合、工程(A3)では、前記10種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0149】
婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、工程(A3)では、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種の遊離脂肪酸を測定することができる。婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、工程(A3)では、前記12種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0150】
婦人科癌が子宮体癌である場合、工程(A3)では、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種の遊離脂肪酸を測定することができる。婦人科癌が子宮体癌である場合、工程(A3)では、前記8種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0151】
婦人科癌が子宮頸癌である場合、工程(A3)では、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定対象としてもよい。前記遊離脂肪酸のうちの2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種の遊離脂肪酸を測定することができる。検出対象が子宮頸癌である場合、工程(A3)では、前記12種の遊離脂肪酸の濃度を測定することが好ましい。
【0152】
工程(B3)では、下記(i3)及び(ii3)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、前記対象の有する婦人科癌が、悪性腫瘍である可能性が高いと評価する。
(i3)パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸及びパルミチン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、高い;
(ii3)バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の遊離脂肪酸の前記試料中の濃度が、所定の閾値と比較して、低い。
【0153】
上記(i3)及び(ii3)における「所定の閾値」は、遊離脂肪酸毎に設定される値である。各遊離脂肪酸の濃度の所定の閾値は、婦人科悪性腫瘍を有する患者に由来する複数の試料、及び、婦人科境界悪性腫瘍を有する患者に由来する複数の試料から各遊離脂肪酸の濃度を取得し、それらの各遊離脂肪酸の濃度を統計処理して得られたカットオフ値であってもよい。
【0154】
工程(B3)は、FFAスコアを算出し、当該FFAスコアが、所定の閾値より高い場合に、対象の有する婦人科癌は悪性腫瘍である可能性が高いと評価する工程であってもよい。FFAスコアは、上記第1の態様で説明した方法と同様の方法で算出される。すなわち、FFAスコアは、上記(i-1)及び(ii-1)と同様に設定される各遊離脂肪酸のスコアの合計値として算出される。
【0155】
工程(B3)において、上記(i-1)及び(ii-1)と同様に設定される所定の閾値は、上記のように取得されたものでもよく、第1の態様に係る検査方法と同じ閾値を使用してもよい。
FFAスコアについての所定の閾値は、婦人科悪性腫瘍を有する患者に由来する複数の試料、及び、婦人科境界悪性腫瘍を有する患者に由来する複数の試料についてFFAスコアを算出し、それらのFFAスコアを統計処理して得られたカットオフ値であってもよい。
【0156】
FFAスコアについての所定の閾値は、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数にもよるが、例えば、遊離脂肪酸の種類数をnとする場合、0.2n以上0.6n以下、0.3n以上0.6n以下、又は0.4n以上0.6n以下等が挙げられる。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸の種類数としては、例えば、上記A3群の遊離脂肪酸のうちの3種以上、4種以上、5種以上、6以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種以上が挙げられる。
【0157】
婦人科癌が卵巣癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種であってもよい。婦人科癌が卵巣癌である場合、FFAスコアの算出には、前記10種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。前記10種の遊離脂肪酸を用いる場合、FFAスコアの所定の閾値としては、例えば、4超6未満が挙げられる。
【0158】
婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種であってもよい。婦人科癌が子宮体癌又は子宮頸癌である場合、FFAスコアの算出には、前記12種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。前記12種の遊離脂肪酸を用いる場合、FFAスコアの所定の閾値としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0159】
婦人科癌が子宮体癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種であってもよい。婦人科癌が子宮体癌である場合、FFAスコアの算出には、前記8種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。前記8種の遊離脂肪酸を用いる場合、FFAスコアの所定の閾値としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0160】
婦人科癌が子宮頸癌である場合、FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸としては、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上が好ましい。FFAスコアの算出に用いる遊離脂肪酸は、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種であってもよい。婦人科癌が子宮頸癌である場合、FFAスコアの算出には、前記12種の遊離脂肪酸を用いることが好ましい。前記12種の遊離脂肪酸を用いる場合、FFAスコアの所定の閾値としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0161】
第3の態様にかかる検査方法おいて、FFAスコアを用いる場合、工程(A3)及び工程(B3)の具体例としては、以下が挙げられる。
工程(A3)では、対象由来の試料における、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる10種の遊離脂肪酸の濃度を測定する。
工程(B3)では、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる10種の遊離脂肪酸のFFAスコアが所定の閾値より高い場合に、前記対象が有する婦人科癌は悪性腫瘍である可能性が高いと判定する。
この場合、合計スコアの閾値としては、4以上6以下が好ましく、4.5以上5以下がより好ましい。
【0162】
以上説明した第3の態様に係る試料の検査方法によれば、対象が有する婦人科癌が、婦人科悪性腫瘍であるか、あるいは、婦人科境界悪性腫瘍であるかを評価することが可能である。
境界悪性腫瘍は、悪性腫瘍と良性腫瘍との中間的な性質を有する腫瘍である。卵巣境界悪性腫瘍は、悪性腫瘍のように血行性、リンパ行性転移することがないため、悪性腫瘍ほど予後は悪くない。即ち、卵巣境界悪性腫瘍は、稀に腹腔内に病変が拡がることがあるものの、転移はないという臨床的特徴を有する。また、境界悪性腫瘍と悪性腫瘍では、一般に腫瘍の増殖スピードが異なる。悪性腫瘍は急速に増大し、播種、転移することから可及的速やかな手術療法が求められる。一方、境界悪性腫瘍は腫瘍増殖が緩徐であり、緊急的な手術の必要は乏しい。
上述のような特徴の違いから、治療前(診断時)に、境界悪性腫瘍か悪性腫瘍かを非侵襲的に血液検査によって識別することは、治療方針(手術までの待機時間、手術術式、手術侵襲度など)の決定に極めて有用である。
現在は、手術中の病理診断により、いずれの腫瘍であるかを識別しているが、第3の態様に係る試料の検査方法により、術前に非侵襲的に、対象の有する婦人科癌が、境界悪性腫瘍であるか、悪性腫瘍であるかを評価することができる。
【0163】
一実施形態において、本発明は、(a3)第3の態様に係る試料の検査法により、婦人科境界性悪性腫瘍を有する可能性が高い対象又は婦人科悪性腫瘍を有する可能性が高い対象を特定する工程、及び(b3)婦人科境界性悪性腫瘍を有する可能性が高い対象に対して婦人科境界性悪性腫瘍の治療を行い、婦人科悪性腫瘍を有する可能性が高い対象に対して婦人科悪性腫瘍の治療を行う工程、を含む、婦人科癌の治療方法を提供する。
前記工程(a3)では、上述のように第3の態様に係る試料の検査方法を実施して、婦人科境界性悪性腫瘍を有する可能性が高い対象又は婦人科悪性腫瘍を有する可能性が高い対象を特定する。
前記工程(b3)では、工程(a3)で特定された対象において、当該対象が婦人科境界悪性腫瘍を有する可能性が高い場合には、婦人科境界悪性腫瘍の治療を行う。婦人科境界悪性腫瘍の治療としては、外科的治療が挙げられ、腹腔内臓器(すなわち、子宮、卵巣、卵管及び大網)摘出が好ましく、腹腔内臓器のみの摘出が更に好ましい。
また、当該対象が婦人科悪性腫瘍を有する可能性が高い場合には、婦人科悪性腫瘍の治療を行う。婦人科悪性腫瘍の治療としては、外科的治療が挙げられ、腹腔内臓器の摘出、及びリンパ節郭清術が好ましい。
【0164】
工程(B3)は、前記(i3)及び(ii3)からなる群より選択される少なくとも1つに該当する場合に、婦人科癌が悪性腫瘍である可能性が高い対象に由来する試料を特定する工程であってもよい。
【0165】
[キット]
第4の態様に係る婦人科癌及びその前癌病変の検査キットは、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサペンタエン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含む。
本態様に係るキットは、下記(a)~(d)からなる群より選択される少なくとも1つの目的に使用される。
(a)対象が婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性の評価;
(b)婦人科癌を有する対象が予後不良となる可能性の評価;
(c)対象が有する婦人科癌が悪性腫瘍であるか、あるいは、境界悪性腫瘍であるかの評価;
(d)婦人科癌及び婦人科癌前癌病変からなる群より選択される一種以上を有する可能性が高い対象が、婦人科癌及び婦人科癌前癌病変のいずれを有するかの評価。
【0166】
上記(a)における対象は、ヒトの女性である。対象が有し得る婦人科癌としては、第1の態様において上述したものが挙げられる。対象が有し得る婦人科癌としては、婦人科悪性腫瘍が好ましい。婦人科悪性腫瘍としては、卵巣悪性腫瘍、子宮体部悪性腫瘍及び子宮頸部悪性腫瘍からなる群より選択される1種以上が好ましく、卵巣悪性腫瘍がより好ましい。婦人科境界悪性腫瘍としては、卵巣境界悪性腫瘍、子宮体部境界悪性腫瘍及び子宮頸部境界悪性腫瘍からなる群より選択される1種以上が好ましく、卵巣境界悪性腫瘍がより好ましい。
対象が有し得る婦人科癌前癌病変としては、第1の態様において上述したものが挙げられる。
【0167】
上記(b)における対象は、婦人科癌を有する、ヒトの女性である。前記婦人科癌としては、第1の態様において上述した癌が挙げられる。前記婦人科癌としては、婦人科悪性腫瘍が好ましく、卵巣悪性腫瘍、子宮体部悪性腫瘍及び子宮頸部悪性腫瘍からなる群より選択される1種以上がより好ましく、卵巣悪性腫瘍が更に好ましい。
【0168】
上記(c)における対象は、婦人科癌を有する、ヒトの女性である。前記婦人科癌としては、第1の態様において上述した癌が挙げられる。婦人科悪性腫瘍としては、卵巣悪性腫瘍、子宮体部悪性腫瘍及び子宮頸部悪性腫瘍からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、卵巣悪性腫瘍がより好ましい。婦人科境界悪性腫瘍としては、卵巣境界悪性腫瘍、子宮体部境界悪性腫瘍及び子宮頸部境界悪性腫瘍からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、卵巣境界悪性腫瘍が好ましい。
本態様に係るキットは、上記した第1~第3の態様に係る検査方法に好適に用いられる。
【0169】
遊離脂肪酸を測定するための試薬は、対象由来の試料中の遊離脂肪酸濃度の測定に用いられる試薬である。前記試薬は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサペンタエン酸及びアラキドン酸(A1群の遊離脂肪酸)のいずれか1種の遊離脂肪酸に特異的に結合する試薬であってもよい。例えば、遊離脂肪酸を測定するための試薬は、特定の遊離脂肪酸に特異的に結合する抗体、又はアプタマー等であってもよい。
【0170】
試料中の遊離脂肪酸を、ガスクロマトグラフィー質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析、ガスクロマトグラフィー等の分析機器を用いて測定する場合、遊離脂肪酸の濃度を測定するための試薬としては、上記のいずれかの遊離脂肪酸の標準試料が挙げられる。標準試料は、前記のような分析機器による遊離脂肪酸の測定において、検量線を作成するために用いられる。試料中の遊離脂肪酸の濃度は、標準試料により作成された検量線に基づいて、算出することができる。
遊離脂肪酸の標準試料は、上記遊離脂肪酸の精製品であってもよい。特定の遊離脂肪酸の標準試料における当該特定遊離脂肪酸の純度は、例えば、96質量%以上、97質量%以上、98質量%以上、又は99質量%以上である。
【0171】
本実施形態にかかる検査キットは、上記A1群の遊離脂肪酸のいずれか1種以上を測定するための試薬を含んでいればよく、上記A1群の遊離脂肪酸のいずれか2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、12種以上、13種以上、14種以上を測定するための試薬を含んでいてもよい。本実施形態にかかる検査キットが含み得る前記試薬の測定対象である脂肪酸は、A1群の遊離脂肪酸の中から任意に選択できる。あるいは、本実施形態にかかる検査キットは、上記A1群の遊離脂肪酸の15種全てを測定するための試薬を含んでいてもよい。
【0172】
本実施形態に係るキットが、婦人科癌の検査キットである場合、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、12種以上、14種以上、又は14種を測定するための試薬を含むことができる。
【0173】
本実施形態に係るキットが、卵巣癌の検査キットである場合、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種を測定するための試薬を含むことができる。
【0174】
本実施形態に係るキットが、早期婦人科癌(例えば、Stage I、Stage II)も検出対象とする場合、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種を測定するための試薬を含むことができる。
【0175】
本実施形態に係るキットが、子宮体癌又は子宮頸癌の検査キットである場合、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種を測定するための試薬を含むことができる。
【0176】
本実施形態に係るキットが、子宮体癌の検査キットである場合、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種を測定するための試薬を含むことができる。
【0177】
本実施形態に係るキットが、子宮頚癌の検査キットである場合、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種を測定するための試薬を含むことができる。
【0178】
本実施形態に係るキットが、上記(b)の評価に用いられる検査キットである場合、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、12種以上、13種以上、又は14種を測定するための試薬を含むことができる。
【0179】
本実施形態に係るキットが、卵巣癌を有する対象が予後不良となる可能性の評価検査キットである場合、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種を測定するための試薬を含むことができる。
【0180】
本実施形態に係るキットが、子宮体癌又は子宮頸癌を有する対象が予後不良となる可能性の評価検査キットである場合、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種を測定するための試薬を含むことができる。
【0181】
本実施形態に係るキットが、子宮体癌を有する対象が予後不良となる可能性の評価検査キットである場合、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種を測定するための試薬を含むことができる。
【0182】
本実施形態に係るキットが、子宮頸癌を有する対象が予後不良となる可能性の評価検査キットである場合、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種を測定するための試薬を含むことができる。
【0183】
本実施形態に係るキットが、上記(c)の評価に用いられる検査キットである場合、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、12種以上、13種以上、又は14種を測定するための試薬を含むことができる。
【0184】
本実施形態に係るキットが、対象が有する卵巣癌が悪性腫瘍であるか、あるいは、境界悪性腫瘍であるかの評価可能性の評価検査キットである場合、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、又は10種を測定するための試薬を含むことができる。
【0185】
本実施形態に係るキットが、対象が有する子宮体癌又は子宮頚癌が悪性腫瘍であるか、あるいは、境界悪性腫瘍であるかの評価可能性の評価検査キットである場合、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種を測定するための試薬を含むことができる。
【0186】
本実施形態に係るキットが、対象が有する子宮体癌が悪性腫瘍であるか、あるいは、境界悪性腫瘍であるかの評価可能性の評価検査キットである場合、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、及びアラキジン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、又は8種を測定するための試薬を含むことができる。
【0187】
本実施形態に係るキットが、対象が有する子宮頸癌が悪性腫瘍であるか、あるいは、境界悪性腫瘍であるかの評価可能性の評価検査キットである場合、パルミチン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、又は12種を測定するための試薬を含むことができる。
【0188】
本実施形態に係るキットが、上記(d)の評価に用いられる検査キットである場合、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される1種以上の遊離脂肪酸を測定するための試薬を含むことが好ましい。本実施形態にかかるキットは、前記遊離脂肪酸の2種以上、3種以上、又は4種を測定するための試薬を含むことができる。
【0189】
試料中の遊離脂肪酸を、ガスクロマトグラフィー質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析、ガスクロマトグラフィー等の分析機器を用いて測定する場合、本実施形態に係るキットは、内部標準物質を含んでもよい。内部標準物質は、対象由来の試料に添加して用いられる。対象由来の試料に添加された内部標準物質の添加量と、試料おける内部標準物質の測定値に対する遊離脂肪酸の測定値の比から、試料中の遊離脂肪酸の濃度を算出することができる。
内部標準物質は、対象由来の試料に含まれていない物質を用いることができる。例えば、ヒトの体内に存在しないことが知られている遊離脂肪酸を内部標準物質として用いることができる。内部標準物質は、対象由来の試料から遊離脂肪酸を抽出する際に用いる溶媒に対して、測定対象の遊離脂肪酸と同程度の抽出率を有するものが好ましい。そのような内部標準物質としては、例えば、マルガリン酸等が挙げられる。
【0190】
本実施形態にかかるキットを用いることにより、対象由来の試料における、上述の遊離脂肪酸の濃度を簡便に測定することが可能となる。これにより、第1~第3の態様に係る検査方法の評価結果を簡便に得ることが可能である。
【0191】
[医薬]
本態様にかかる医薬は、第1の態様にかかる検査方法により婦人科癌を有すると評価された対象に投与される、婦人科癌を治療又は予防するための医薬である。
【0192】
前記婦人科癌としては、第1の態様において上述した癌が挙げられる。前記婦人科癌はとしては、婦人科悪性腫瘍が好ましく、卵巣悪性腫瘍、子宮体部悪性腫瘍及び子宮頸部悪性腫瘍からなる群より選択される悪性腫瘍がより好ましく、卵巣悪性腫瘍が更に好ましい。
【0193】
本態様にかかる医薬は、婦人科癌に有効なものであれば、特に限定されない。婦人科癌用の医薬としては、例えば、婦人科癌の治療に用いられる公知の抗癌剤が挙げられる。そのような抗癌剤としては、例えば、カルボプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン、ドキシル、トポテカン、ゲムシタビン、エトポシド、トラベクテディン、アブラキサン、タモキシフェン、イホスファミド、5-FU、ドキソルビシン等が挙げられる。あるいは、本実施形態にかかる医薬は、抗体医薬であってもよく、例えば、公知の抗体医薬が挙げられる。抗体医薬が含有し得る抗体としては、ベバシズマブ等の抗VEGF抗体等が挙げられる。
【0194】
本態様にかかる医薬は、製剤化のために一般的に利用される種々の物質、例えば、賦形剤、安定化剤、その他の医薬的に許容可能な成分、又は他の医薬活性成分等を含んでもよい。
【0195】
本態様にかかる医薬は、経口投与であってもよく、非経口投与であってもよい。本実施形態にかかる医薬は、投与経路に応じて、種々の製剤形態、例えば、固形製剤、液状製剤等をとり得る。例えば、内服用固形剤若しくは内服用液剤等の経口製剤、又は注射剤若しくは点滴剤等の非経口製剤とすることができる。非経口製剤に用いることができる担体としては、例えば、生理食塩水や、ブドウ糖又はD-ソルビトール等を含む等張液といった水性担体が挙げられる。
【0196】
本態様にかかる医薬の投与量は、対象の年齢、体重、適応される疾患、症状等によっても異なるが、例えば、1回の投与量として、体重あたり当り約0.1μgから1mg/kgとすることができる。投与間隔は、特に限定さないが、例えば、1日から数カ月に1回とすることができる。
【0197】
[他の態様]
一態様において、本開示は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサペンタエン酸及びアラキドン酸からなる群より選択される、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上の有無を評価するためのバイオマーカーを提供する。
一態様において、本開示は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される、婦人科癌患者の予後を予測するためのバイオマーカーを提供する。
一態様において、本開示は、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸、ステアリン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される、婦人科悪性腫瘍と婦人科境界悪性腫瘍を分類するためのバイオマーカーを提供する。
一態様において、本開示は、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸及びドコサペンタエン酸からなる群より選択される、婦人科癌及びその前癌病変を分類するためのバイオマーカーを提供する。
【実施例0198】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例において、卵巣癌、子宮体癌、子宮頸癌は、それぞれ、卵巣悪性腫瘍、子宮体部悪性腫瘍、子宮頸部悪性腫瘍を意味する。
【0199】
[実験例1]
(脂肪酸代謝酵素の発現解析)
正常卵巣組織及び卵巣癌組織における、脂肪酸代謝酵素の発現量を、RT-PCRにより解析した。
【0200】
正常卵巣組織9例は、婦人科悪性腫瘍の手術時に、治療目的(転移等の予防)で採取し、卵巣癌組織32例は、卵巣悪性腫瘍の手術時に採取した。各々の正常卵巣組織及び卵巣癌組織を、破砕機で粉砕後、RNeasy Kit(QIAGEN)を用いて、total RNAを抽出した。
【0201】
ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(TOYOBO社製)を用いてcDNA合成を行った。具体的には、まず、1μg相当のtotal RNAとRNase free distilled waterとを12μLとなるように混合し、65℃で5分間インキュベートし、RNAの変性を行った。続いて、氷上にて、4×DN Master Mix及びgDNA Removerを4μL添加し、37℃で5分間反応することで、ゲノムDNAの除去を行った。続いて、さらに、5×RT Master Mix II 4μLを混合し、逆転写反応(37℃ 15分、50℃ 5分、98℃ 5分)を行い、cDNAを合成した。
【0202】
上記で作製したcDNAをテンプレートとして、THUNDERBIRD Probe qPCR Mix(TOYOBO社製)を用いてreal-time PCRを行った。
real-time PCRは、2-ΔCtプロトコールにしたがって行った。すなわち、ターゲット遺伝子とglyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)のCt値の差をΔCt値とし、相対定量値は2-ΔCtで算出した。それぞれの測定はtriplicateで行った。
ターゲット遺伝子は、human acetyl-CoA carboxylase 1(ACACA)、fatty acid synthase(FASN)、stearoyl-CoA desaturase 1(SCD1)、fatty acid desaturase 1(FADS1)、FADS2、elongation of very long chain fatty acid 1(ELOVL1)、ELOVL2、ELOVL3、ELOVL4、ELOVL5、及びELOVL6であった。
【0203】
結果を図1A図1Dに示す。図1Aは、正常卵巣組織及び卵巣癌組織における遊離脂肪酸代謝酵素の発現量を、ヒートマップにより示した図である。ヒートマップは、MetaboAnalyst 5.0ソフトウェアを用いて作製した。
【0204】
図1B~Dは、正常卵巣組織及び卵巣癌組織における、各脂肪酸代謝酵素の発現量を示すグラフである。正常卵巣組織および卵巣癌組織の2群間の比較は、t検定によって行い、p<0.05を有意差ありとした。「*」、「**」、「***」、「****」は、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、及び、p<0.0001を示す。
【0205】
図1Bに示す結果より、FASN及びSCD1は、正常卵巣組織よりも卵巣癌組織において発現量が高いことが確認された。図1Cに示す結果より、ELOVL1、ELOVL2、ELOVL3、ELOVL4、ELOVL5、ELOVL6及びFADS1は、正常卵巣組織よりも卵巣癌組織において発現量が低いことが確認された。図1Dに示す結果より、ACACA及びFADS2は、正常卵巣組織と卵巣癌組織とで発現量が同程度であることが確認された。以上の結果より、正常卵巣組織と卵巣癌組織とでは、脂肪酸代謝酵素の発現量が異なることが確認された。
【0206】
[実験例2]
(卵巣癌患者血清中の遊離脂肪酸濃度)
女性の健常者及び卵巣癌患者の血清における、遊離脂肪酸の量をガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で解析した。
【0207】
27人の健常な成人女性および40人の卵巣癌患者(Stage I及びStage II患者29人、Stage III及びStage IV患者11人)から採血を行い、血清サンプルを得た。
【0208】
まず、血清中の遊離脂肪酸測定用の標準試料を用いて検量線を作成した。標準試料としては、Saturated and monosaturated Fatty acid LC-MS mixture(Cayman Chemical社製、#17942)、Polyunsaturated Fatty Acid LC-MS Mixture(Cayman Chemical社製、#17941)、サピエン酸(Cayman Chemical社製、#9001845)、バクセン酸(Cayman Chemical社製、#20023)、及び、内部標準物質としてマルガリン酸(Cayman Chemical社製、ナカライテスク)を用いた。
【0209】
まず、健常者血清及び卵巣癌患者血清20μLを、内部標準物質として100ngのマルガリン酸を含む300μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した。続いて、試料の全量を珪藻土カラム(商品名「SLE+400」、Biotage社)にアプライし、1.8mLのジクロロメタンで溶出した。
続いて、溶出物を窒素気流下で乾固し、得られた乾燥物を5μLのピリジンに溶解させた。これに30μLのBSTFA:TMCS(99:1,ThermoFisher TS-38831)を加えて混和し、OH基を全てトリメチルシリル化した。
【0210】
続いて、誘導体化された試料2μLをGC-MSにインジェクションし、分析、解析した。定量値は、内部標準物質とそれぞれの遊離脂肪酸のピーク面積比を、あらかじめ作成しておいた検量線と比較して求めた。
【0211】
GC-MSの分析条件は、以下の通りであった。キャピラリーカラムとして、RTx-5MS(長さ30メートル、内径0.25mm、膜厚0.25μm、Restek社製)を用いた。オーブン温度は、150℃で1分間保持し、20℃/分で250℃まで昇温し、5℃/分で280℃まで昇温し、280℃で3分間保持し、20℃/分で330℃まで昇温し、330℃で1分間保持した。キャリアガスとしてHeを用いた。線速度は、42.0cm/秒に設定した。イオン源温度、インターフェース温度、気化室温度は、それぞれ、200℃、280℃、250℃に設定した。
【0212】
測定対象の遊離脂肪酸は、パルミトレイン酸、パルミチン酸、γ-リノレン酸、ステアリドン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ドコサペンタエン酸、ネルボン酸、リグノセリン酸の18種であった。
【0213】
測定結果を図2A図2Dに示す。図2Aは、健常者血清および卵巣癌患者血清中の上記各種遊離脂肪酸量の平均値をヒートマップで示した図である。ヒートマップは、MetaboAnalyst 5.0ソフトウェアを用いて作製した。
【0214】
図2B図2Cは、健常者血清および卵巣癌患者血清中の各種遊離脂肪酸の個体別の数値を示すグラフである。2群間の比較は、t検定によって行い、p<0.05を有意差ありとした。「*」、「**」、「***」、「****」は、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、及び、p<0.0001を示す。
【0215】
図2Dは、各遊離脂肪酸の測定結果をボルケーノプロットで示した図である。図2D中、「Up」は、健常者血清よりも卵巣癌患者血清において、濃度が有意に高かった遊離脂肪酸である。「Down」は、健常者血清よりも卵巣癌患者血清において、濃度が有意に低かった遊離脂肪酸である。「non-sig」は、健常者血清と卵巣癌患者血清とで、濃度に有意な差が確認されなかった遊離脂肪酸である。横軸は、健常者血清における各遊離脂肪酸の濃度の平均値に対する、卵巣癌患者血清における各遊離脂肪酸の濃度の平均値の比を表す。縦軸は、健常者血清における各遊離脂肪酸の濃度と、卵巣癌患者血清における各遊離脂肪酸の濃度とが差がないとした場合のP値を表す。
【0216】
図2A~Cに示す結果から、パルミトレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸の濃度は、健常者血清よりも、卵巣癌患者血清において、高いことが確認された。反対に、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸の濃度は、健常者血清よりも、卵巣癌患者血清において、低いことが確認された。
【0217】
健常者血清と卵巣癌患者血清とで有意差があった遊離脂肪酸を表1にまとめた。表1中、濃度差の列における「高い」の記載は、その遊離脂肪酸が、健常者血清よりも卵巣癌患者血清において、濃度が有意に高かったことを意味する。表1中、濃度差の列における「低い」の記載は、その遊離脂肪酸が、健常者血清よりも卵巣癌患者血清において、濃度が有意に低かったことを意味する。
【0218】
【表1】
【0219】
[実験例3]
(脂肪酸代謝酵素発現量と遊離脂肪酸濃度の相関解析)
組織における脂肪酸代謝酵素の発現量と血清における遊離脂肪酸濃度の相関を解析した。
【0220】
図3A~3Bは、図1B~Dで示した組織における脂肪酸代謝酵素発現の変化と、図2B~Cで示した血清における遊離脂肪酸構成の変化の相関を表す図である。「HIGH」は、図1B~Dにおいて、正常卵巣組織よりも卵巣癌組織で発現が有意に高かった代謝酵素である。「LOW」は、図1B~Dにおいて、正常卵巣組織よりも卵巣癌組織で発現が有意に低かった代謝酵素である。「not significant」は、図1B~Dにおいて、正常卵巣組織と卵巣癌組織とで発現に有意な差が確認できなかった代謝酵素である。
【0221】
20名の卵巣癌患者から、卵巣癌組織と血清サンプルを同時期にペアで採取した。このペアサンプルにおける、SCD1の卵巣癌組織における発現量と、SCD1の基質である遊離脂肪酸、及び、SCD1の作用により生じる遊離脂肪酸の量比との相関関係を解析した。
【0222】
SCD1は、基質であるパルミチン酸に作用して、パルミトレイン酸を生成する。また、SCD1は、ステアリン酸に作用して、オレイン酸を生成する。
【0223】
図3Cは、卵巣癌組織における、SCD1遺伝子発現量と、卵巣癌患者血清中のSCD1活性に相当する遊離脂肪酸比(生成遊離脂肪酸/基質遊離脂肪酸比(パルミトレイン酸/パルミチン酸比))の相関を示すグラフである。図3Dは、卵巣癌組織における、SCD1遺伝子発現量と、卵巣癌患者血清中のSCD1活性に相当する遊離脂肪酸比(生成遊離脂肪酸/基質遊離脂肪酸比(オレイン酸/ステアリン酸比))の相関を示すグラフである。相関解析は、GraphPad Software version 9.0を用いて、Pearsonの相関検定によって行い、r値と、p値を算出した。
図3A~3Dに示す結果から、組織における脂肪酸代謝酵素の発現変化と、血清における遊離脂肪酸の濃度変化は連動していることが示された。
【0224】
[実験例4]
(遊離脂肪酸濃度によるROC解析 卵巣癌患者の検出)
実験例2において、女性の健常者と卵巣癌患者の血清中濃度で有意差が確認された11種類の遊離脂肪酸を指標として、Receiver operating characteristic解析(ROC解析)を行った。
【0225】
各遊離脂肪酸の濃度を用いて、健常者と卵巣癌患者においてROC解析を行った。図4Aに、パルミトレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸の濃度を用いたROC解析の結果を示す。図4Bに、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸の濃度を用いたROC解析の結果を示す。図4A~B中、AUC及びCIは、それぞれ、Area Under Curve、及びConfidence Intervalを意味する。
【0226】
これら11種類の内、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、ネルボン酸及びリグノセリン酸の10種の遊離脂肪酸の濃度に基づき、検査の対象が、健常者であるか、あるいは、卵巣癌患者であるかを区別し得ることが明らかになった。
【0227】
[実験例5]
(FFAスコアによるROC解析 卵巣癌患者の検出)
実験例4のROC解析の結果が良好であった10種の遊離脂肪酸について、実験例4におけるROC解析の陽性尤度比が最大となるように、閾値を設定した。各遊離脂肪酸の閾値は、パルミトレイン酸は29.06μEQ/L、オレイン酸は326.0μEQ/L、リノール酸は183.1μEQ/L、α-リノレン酸は28.62μEQ/L、バクセン酸は1.926μEQ/L、アラキジン酸は1.924μEQ/L、アドレン酸は0.7085μEQ/L、ドコサヘキサエン酸は1.847μEQ/L、リグノセリン酸は0.5773μEQ/L、ネルボン酸は0.0891μEQ/Lであった。
【0228】
実験例2で解析した被験者について、上記で設定した10種の各遊離脂肪酸の閾値に基づいて、各遊離脂肪酸の血清濃度が異常値であるか否かを判定した。健常者における結果を図5Aに示す。卵巣癌患者における結果を図5Bに示す。図5A~5B中、「1」はパルミトレイン酸、「2」はオレイン酸、「3」はリノール酸、「4」はα-リノレン酸、「5」はバクセン酸、「6」はアラキジン酸、「7」はアドレン酸、「8」はドコサヘキサエン酸、「9」はリグノセリン酸、「10」はネルボン酸を示す。「1」~「4」の遊離脂肪酸については、測定濃度が閾値より高い場合には、その濃度は異常値であると判定して黒丸で示し、測定濃度が閾値より低い場合には、その濃度は正常値であると判定して白丸で示した。「5」~「10」の遊離脂肪酸については、測定濃度が閾値より低い場合には、その濃度は異常値であると判定して黒丸で示し、測定濃度が閾値より高い場合には、その濃度は正常値であると判定して白丸で示した。
【0229】
図5A~5Bに示す判定結果から、各被験者における黒丸の個数を、各被験者のFFAスコアとして算出した。このFFAスコアを用いて、女性の健常者と卵巣癌患者について、ROC解析を行った。ROC解析の結果を図5Cに示す。ROC解析の結果、AUC値は、0.9963であった。CI値は、0.9880-1.000であった。p値は、P<0.0001であった。この結果から、このFFAスコアを用いることにより、高感度で卵巣癌患者を検出できることが確認された。
【0230】
[実験例6]
(早期卵巣癌患者血清中の遊離脂肪酸濃度)
女性の健常者27名、Stage I又はStage IIの卵巣癌患者29名、ならびに、Stage III又はStage IVの卵巣癌患者11名について、実験例4においてROC解析の結果が良好であった10種類の遊離脂肪酸の血清中濃度を比較した。
【0231】
3群間の比較の結果を図6A及び図6Bに示す。図中、「HD」は、女性の健常者を意味する。3群間の比較は、one-way ANOVAおよびBonferroni’s multiple comparisons testsによって行い、p<0.05を有意差ありとした。「*」、「**」、「***」、及び、「****」は、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、及び、p<0.0001を示す。
【0232】
図6Aに示す結果から、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸の4種類の遊離脂肪酸の濃度は、健常者血清よりも、StageI又はStageIIの卵巣癌患者の血清において、有意に高いことが確認された。
図6Bに示す結果から、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸の4種類の遊離脂肪酸の濃度は、健常者血清よりも、StageI又はStageIIの卵巣癌患者の血清において、有意に低いことが確認された。
上記8種類の遊離脂肪酸の血清中濃度は、健常者と、StageI又はStageIIの卵巣癌患者とを区別する指標となり得ることが確認された。
なお、Stage III又はStage IVの卵巣患者では、α-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸の血清中濃度は、健常者との間で有意差が確認できなかった。
【0233】
[実験例7]
(遊離脂肪酸濃度によるROC解析 早期卵巣癌患者の検出)
実験例6において、女性の健常者とStageI又はStageIIの卵巣癌患者の血清中濃度で有意差が確認された8種類の遊離脂肪酸の血清中濃度を指標として、Receiver operating characteristic解析(ROC解析)を行った。
【0234】
各遊離脂肪酸の濃度を用いて、健常者とStageI又はStageIIの卵巣癌患者においてROC解析を行った。図7Aに、パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸の濃度を用いたROC解析の結果を示す。図7Bに、バクセン酸、アラキジン酸、ドコサヘキサエン酸、及びリグノセリン酸の濃度を用いたROC解析の結果を示す。図7A~B中、AUC及びCIは、それぞれ、Area Under Curve、及びConfidence Intervalを意味する。
【0235】
これら8種の遊離脂肪酸の濃度に基づき、検査の対象が、健常者であるか、あるいは、StageI又はStageIIの卵巣癌患者であるかを区別し得ることが明らかになった。
【0236】
[実験例8]
(FFAスコアによるROC解析 早期卵巣癌患者の検出)
実験例7でROC解析した8種の遊離脂肪酸について、実験例7におけるROC解析の陽性尤度比が最大となるように、閾値を設定した。各遊離脂肪酸の閾値は、パルミトレイン酸は29.06μEQ/L、オレイン酸は326.0μEQ/L、リノール酸は183.1μEQ/L、α-リノレン酸は28.62μEQ/L、バクセン酸は1.930μEQ/L、アラキジン酸は1.953μEQ/L、ドコサヘキサエン酸は1.847μEQ/L、リグノセリン酸は0.5773μEQ/Lであった。
【0237】
実験例6で解析した被験者について、上記で設定した8種の各遊離脂肪酸の閾値に基づいて、各遊離脂肪酸の血清濃度が異常値であるか否かを判定した。健常者における結果を図8Aに示す。Stage I又はStage IIの卵巣癌患者における結果を図8Bに示す。図8A~B中、「1」はパルミトレイン酸、「2」はオレイン酸、「3」はリノール酸、「4」はα-リノレン酸、「5」はバクセン酸、「6」はアラキジン酸、「7」はドコサヘキサエン酸、「8」はリグノセリン酸を示す。「1」~「4」の遊離脂肪酸については、測定濃度が閾値より高い場合には、その濃度は異常値であると判定して黒丸で示し、測定濃度が閾値より低い場合には、その濃度は正常値であると判定して白丸で示した。「5」~「8」の遊離脂肪酸については、測定濃度が閾値より低い場合には、その濃度は異常値であると判定して黒丸で示し、測定濃度が閾値より高い場合には、その濃度は正常値であると判定して白丸で示した。
【0238】
図8A~8Bに示す判定結果から、各被験者における黒丸の個数を、各被験者のFFAスコアとして算出した。このFFAスコアを用いて、女性の健常者、並びに、StageI及びStageIIの卵巣癌患者について、ROC解析を行った。結果を図8Cに示す。ROC解析の結果、AUC値は、0.9955であった。95% CI値は、0.9849-1.000であった。p値は、P<0.0001であった。この結果から、このFFAスコアを用いることにより、高感度で、StageI又はStageIIの卵巣癌患者を検出できることが確認された。
【0239】
図8CにおけるROC解析の陽性尤度比が最大となるように、FFAスコアの閾値を設定した。FFAスコアの閾値は1.5であった。
【0240】
上記のFFAスコアの閾値を用いて、Stage I又はIIの卵巣癌について、FFAスコアによる検出感度を、CA125の血中濃度による検出感度と比較した。図8Dに、Stage I又はStage IIの卵巣癌患者におけるFFAスコア(左図)、及びCA125の血中濃度(右図)を示す。図8D中、「×」は明細胞型の卵巣癌を示し、「●」は明細胞癌型以外の卵巣癌を示す。
【0241】
図8Dの解析結果より、FFAスコアの閾値を1.5とすると、StageI又はStageIIの卵巣癌患者の検出感度は100%であった。CA125の血中濃度の閾値を実臨床で用いられている35U/mLとすると、StageI又はStageIIの卵巣癌患者の検出感度は76%であった。これらの結果から、8種の遊離脂肪酸値から算出されるFFAスコアを用いることにより、CA125の血中濃度を用いて検査するよりも、高感度でStageI又はStageIIの卵巣癌患者を検出できることが確認された。さらに、FFAスコアは、CA125では検出の難しい組織型である明細胞型の卵巣癌も高感度に検出できることが確認された。
【0242】
[実験例9]
(卵巣癌患者の予後予測)
【0243】
実験例5で解析対象とした40名の卵巣癌患者について、実験例5で算出したFFAスコアから、これらの卵巣癌患者のFFAスコアの中央値を算出した。次に、前記40名の卵巣癌患者について、FFAスコアが前記中央値よりも高い患者を“FFAスコア high”の群に分別し、FFAスコアが前記中央値以下である患者を“FFAスコア low”の群に分別した。なお、実験例5でFFAスコアの算出に用いた血清サンプルは、治療開始前の採血によるものである。FFAスコア high群の患者及びFFAスコア low群の患者について、それぞれ予後を追跡し、各患者群における無憎悪生存率の推移を調べた。結果を図9に示す。図9中、X軸は治療開始からの日数であり、Y軸は無増悪生存率である。有意差検定には、Log-rank検定を用いた。
【0244】
FFAスコアを指標として、卵巣癌患者の治療予後を予測できることが確認された。
【0245】
[実験例10]
(FFAスコアによるROC解析 卵巣境界悪性腫瘍の検出)
卵巣境界悪性腫瘍患者7名から採血を行い、血清サンプルを得た。次いで、実験例2と同様の方法で、GC-MSにより各遊離脂肪酸の血清中濃度を測定した。測定対象の遊離脂肪酸は、実験例5で解析した10種の遊離脂肪酸とした。次いで、実験例5と同様の方法で、各卵巣境界悪性腫瘍患者のFFAスコアを算出した。
【0246】
。FFAスコアの算出に用いた各遊離脂肪酸の閾値は、実験例5において設定した閾値と同一とした。すなわち、パルミトレイン酸は29.06μEQ/L、オレイン酸は326.0μEQ/L、リノール酸は183.1μEQ/L、α-リノレン酸は28.62μEQ/L、バクセン酸は1.926μEQ/L、アラキジン酸は1.924μEQ/L、アドレン酸は0.7085μEQ/L、ドコサヘキサエン酸は1.847μEQ/L、リグノセリン酸は0.5773μEQ/L、ネルボン酸は0.0891μEQ/Lであった。
【0247】
図10Aは、境界悪性腫瘍患者について、上記の閾値に基づいて、各遊離脂肪酸の血清中濃度が異常値であるか否かを判定した結果を示す。
【0248】
図10Aの結果から算出された卵巣境界悪性腫瘍患者のFFAスコアと、図5Bの結果から算出された卵巣癌患者(卵巣悪性腫瘍患者)のFFAスコアとを用いて、ROC解析を行った。結果を図10Bに示す。ROC解析の結果、AUC値は、0.8946であった。95% CI値は、0.8003-1.000であった。p値は、P<0.0001であった。この結果から、FFAスコアを用いることにより、高感度で、卵巣境界悪性腫瘍患者と、卵巣癌患者(卵巣悪性腫瘍患者)とを区別できることが確認された。
【0249】
[実験例11]
(子宮体癌及び子宮頸癌についての解析)
27名の健常な成人女性、66名の子宮体癌患者及び45名の子宮頸癌患者から採血を行い、血清サンプルを得た。次いで、実験例2と同様の方法で、GC-MSにより各遊離脂肪酸の血清中濃度を測定した。
【0250】
測定結果を図11A~Bに示す。3群間の比較は、one-way ANOVAおよびBonferroni’s multiple comparisons testsによって行い、p<0.05を有意差ありとした。「**」及び、「****」は、それぞれ、p<0.01及び、p<0.0001を示す。
【0251】
パルミトレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、α-リノレン酸及びオレイン酸の濃度は、健常者血清よりも、子宮体癌及び子宮頸癌の患者血清において、高いことが確認された。バクセン酸、アラキジン酸及びステアリン酸の濃度は、健常者血清よりも、子宮体癌患者及び子宮頸癌患者の血清において、低いことが確認された。これらの結果から、これらの遊離脂肪酸の血清中濃度を指標として、検査の対象が、健常者であるか、あるいは、子宮体癌患者又は子宮頸癌患者であるかを区別し得ることが明らかになった。
【0252】
[実験例12]
(早期子宮頸癌患者血清中の遊離脂肪酸濃度)
27名の健常な成人女性、29名のStageI子宮頸癌患者、および、23名のStageII又はIII子宮頸癌患者から採血を行い、血清サンプルを得た。次いで、実験例2と同様の方法で、GC-MSにより各遊離脂肪酸の血清中濃度を測定した。
【0253】
測定結果を図12A~Cに示す。3群間の比較は、3群間の比較は、one-way ANOVAおよびBonferroni’s multiple comparisons testsによって行い、p<0.05を有意差ありとした。「*」、「**」、「***」、及び、「****」は、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、及び、p<0.0001を示す。
【0254】
パルミトレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、および、オレイン酸の濃度は、健常者血清よりも、StageI子宮頸癌患者あるいはStageII又はIII子宮頸癌患者の血清において、有意に高いことが確認された。一方、バクセン酸、アラキジン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、及び、ドコサペンタエン酸の濃度は、健常者血清よりも、StageI子宮頸癌患者あるいはStageII又はIII子宮頸癌患者の血清の血清において、有意に低いことが確認された。
これらの遊離脂肪酸の血清中濃度は、健常者と、StageI、StageII又はStageIIIの子宮頸癌患者とを区別する指標となり得ることが確認された。
【0255】
更に、各遊離脂肪酸の濃度の閾値を表2に示す値に設定し、ROC解析により、各遊離脂肪酸の濃度を用いて、健常者とStageI子宮頸癌患者においてROC解析を行った。結果を図12A~Cに示す。いずれの遊離脂肪酸もAUCが0.7以上であった。これらの遊離脂肪酸の血清中濃度を指標として、検査の対象が、健常者であるか、StageI子宮頸癌患者であるかを区別し得ることが明らかになった。
【0256】
【表2】
【0257】
[実験例13]
(早期子宮頸癌患者血清中の遊離脂肪酸濃度比の解析)
10種の遊離脂肪酸の濃度比を指標として、検査の対象が、健常者であるか、子宮頸癌患者であるかを区別し得るか否かを検証した。
【0258】
実験例12の血清サンプルについて、ドコサペンタエン酸とオレイン酸の比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)を算出した。算出結果を図13Aに示す。3群間の比較は、one-way ANOVAおよびBonferroni’s multiple comparisons testsによって行い、p<0.05を有意差ありとした。「*」、「**」、「***」、及び、「****」は、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、及び、p<0.0001を示す。
【0259】
比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)は、健常者血清よりも、StageI子宮頸癌患者あるいはStageII又はIII子宮頸癌患者の血清の血清において、優位に低いことが確認された。
比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)は、健常者と、StageI、StageII又はStageIIIの子宮頸癌患者とを区別する指標となり得ることが確認された。
【0260】
更に、比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)の閾値を表2に示す値に設定し、ROC解析により、比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)を用いて、健常者とStageI子宮頸癌患者においてROC解析を行った。結果を図13Aに示す。ROC解析結果は、AUC=0.981,P<0.0001であった。すなわち、ドコサペンタエン酸又はオレイン酸のいずれかひとつを指標とするよりも、比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)を指標とすることにより、より高い精度で、検査の対象が、健常者であるか、StageI子宮頸癌患者であるかを区別し得ることが確認された。
【0261】
次いで、実験例12で検査対象とした29名のStageI子宮頸癌患者について、比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)による検出感度を算出し、既存の診断マーカーによる検出癌度と比較した。結果を図13Bに示す。
【0262】
比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)の閾値を0.004433とすると、StageI子宮頸癌患者の検出感度は93.1%であった。SCCの血中濃度の閾値を実臨床で用いられている1.5ng/mLとすると、StageI子宮頸癌患者の検出感度は68.2%であった。CEAの血中濃度の閾値を実臨床で用いられている5.0ng/mLとすると、StageI子宮頸癌患者の検出感度は4.2%であった。
【0263】
これらの結果から、比(ドコサペンタエン酸/オレイン酸)を用いることにより、既存の診断マーカーであるSCC又はCEAの血中濃度を用いて検査するよりも、高感度でStageI子宮頸癌患者を検出できることが確認された。
【0264】
[実験例14]
(子宮頸癌前癌病変の患者についての解析)
27名の健常な成人女性、および、17名の子宮頸癌前癌病変(子宮頸部異形成:CIN)患者から採血を行い、血清サンプルを得た。次いで、実験例2と同様の方法で、GC-MSにより各遊離脂肪酸の血清中濃度を測定した。
【0265】
測定結果を図14A~Bに示す。3群間の比較は、one-way ANOVAおよびBonferroni’s multiple comparisons testsによって行い、p<0.05を有意差ありとした。「*」、「**」、「***」、及び、「****」は、それぞれ、p<0.05、p<0.01、p<0.001、及び、p<0.0001を示す。
【0266】
パルミトレイン酸、リノール酸、α―リノレン酸、オレイン酸、および、アラキドン酸の濃度は、健常者血清よりも、CIN患者の血清において、有意に高いことが確認された。一方、アラキジン酸の濃度は、健常者血清よりも、CIN患者の血清において、有意に低いことが確認された。
これらの遊離脂肪酸の血清中濃度は、健常者と、CIN患者とを区別する指標となり得ることが確認された。
【0267】
更に、各遊離脂肪酸の濃度の閾値を表3に示す値に設定し、ROC解析により、各遊離脂肪酸の濃度を用いて、健常者とCIN患者においてROC解析を行った。結果を図14A~Bに示す。いずれの遊離脂肪酸もAUCが0.7以上であった。これらの遊離脂肪酸の血清中濃度を指標として、検査の対象が、健常者であるか、CIN患者であるかを区別し得ることが明らかになった。
【0268】
【表3】
【0269】
[実験例15]
(CIN患者と子宮頸癌患者についての解析)
実験例14において採取した、17名のCIN患者の血清、及び、実験例12において採取した、52名の子宮頸癌患者の血清サンプルについて、検査の対象が、CIN患者であるか、子宮頸癌患者であるかを区別し得るか否かを検証した。
【0270】
解析結果を図15に示す。3群間の比較は、3群間の比較は、one-way ANOVAおよびBonferroni’s multiple comparisons testsによって行い、p<0.05を有意差ありとした。「***」、及び、「****」は、それぞれ、p<0.001、及び、p<0.0001を示す。
【0271】
ジホモーγ―リノレン酸、ドコサヘキサエン酸、アドレン酸、及び、ドコサペンタエン酸の濃度は、CIN患者の血清よりも、子宮頸癌患者の血清において、有意に低いことが確認された。
これらの遊離脂肪酸の血清中濃度は、CIN患者と、子宮頸癌患者とを区別する指標となり得ることが確認された。
【0272】
更に、各遊離脂肪酸の濃度の閾値を表4に示す値に設定し、ROC解析により、各遊離脂肪酸の濃度を用いて、CIN患者と子宮頸癌患者においてROC解析を行った。結果を図15に示す。いずれの遊離脂肪酸もAUCが0.7以上であった。これらの遊離脂肪酸の血清中濃度を指標として、検査の対象が、CIN患者であるか、子宮頸癌患者であるかを区別し得ることが明らかになった。
【0273】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0274】
本発明によれば、婦人科癌及びその前癌病変からなる群より選択される一種以上の検出、婦人科癌の予後の予測、及び、婦人科悪性腫瘍と婦人科境界悪性腫瘍とを分類するための、簡便かつ精度が高い検査方法、前記検査方法により婦人科癌を有すると判定された対象を治療するための医薬、ならびに、キットを提供することができる。本発明は、婦人科癌又はその前癌病変の早期診断に有用である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図14A
図14B
図15