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特開2024-25635乗物用シート及びその表皮材の吊込方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025635
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】乗物用シート及びその表皮材の吊込方法
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20240216BHJP
   A47C 31/02 20060101ALI20240216BHJP
   B68G 7/052 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B60N2/58
A47C31/02 B
B68G7/052 A
A47C31/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023026981
(22)【出願日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】63/371,318
(32)【優先日】2022-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西本 直矢
(72)【発明者】
【氏名】八木 達成
(72)【発明者】
【氏名】松井 雄大
(72)【発明者】
【氏名】松尾 飛俊
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DE03
(57)【要約】
【課題】吊込部材の吊込溝の延在方向へのずれを抑制でき、位置調整が容易な吊込部を備える乗物用シートを提供する。
【解決手段】乗物用シートは、吊込溝8が凹設されたパッド5と、パッド5に張設された表皮材6と、吊込溝8の底部に埋設された基板12、及び吊込溝8内に位置する係止爪15が形成された係止片13含むクリップ9と、表皮材6に連結された表皮連結部16、及び表皮連結部16の側縁部に膨出するように設けられて、クリップ9の係止爪15に係止された膨出部17を含む吊込部材10と、表皮連結部16に縫製により固定され、係止片13に当接可能に延在方向を向く端面を備えた位置ずれ抑制部材とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座面に凹設された吊込溝を有するクッション体であるパッドと、
前記パッドの前記着座面上に張設された表皮材と、
前記吊込溝の底部に位置する前記パッドの部分に埋設された基板、及び前記基板から立設され、前記吊込溝内に位置する係止爪が形成された係止片を含むクリップと、
前記吊込溝の延在方向に延在する帯状をなし、一方の側縁部において前記表皮材に連結された表皮連結部、及び前記表皮連結部の他方の側縁部に前記吊込溝の幅方向に膨出するように設けられ、前記クリップの前記係止爪に係止された膨出部を含む吊込部材と、
前記表皮連結部に縫製により固定され、前記係止片に当接可能に前記延在方向を向く端面を備えた位置ずれ抑制部材と
を備える、乗物用シート。
【請求項2】
前記位置ずれ抑制部材が、前記吊込部材の長手方向端を前記吊込部材の本体上に折り重ねた部分により構成される請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記膨出部は、前記本体と前記位置ずれ抑制部材との間において分断されている、請求項2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記位置ずれ抑制部材は、前記吊込部材とは別体である、請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記位置ずれ抑制部材は、前記吊込部材と同一の素材をなす、請求項4に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記位置ずれ抑制部材は、前記膨出部を包囲するように前記幅方向の両側から前記吊込部材に重ねられ、前記端面を画定する開口を有するように構成された、請求項4に記載の乗物用シート。
【請求項7】
請求項1に記載の乗物用シートにおける前記表皮材の吊込方法であって、
前記表皮連結部に前記位置ずれ抑制部材を縫製により固定するステップと、
前記係止爪に前記膨出部を係止させるステップとを備える、方法。
【請求項8】
前記吊込部材の長手方向端を前記吊込部材の本体上に折り重ねることにより、前記位置ずれ抑制部材を設けるステップを更に備え、
前記固定するステップは、前記本体における前記表皮連結部に前記位置ずれ抑制部材の前記表皮連結部を縫製によって固定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記位置ずれ抑制部材を設けるステップは、前記膨出部を前記本体と前記位置ずれ抑制部材との間において分断することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記位置ずれ抑制部材は、前記吊込部材と別体である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記表皮連結部及び前記膨出部を含む素材を作成するステップと、
前記素材を切断して、前記吊込部材及び前記位置ずれ抑制部材を作成するステップと
を更に備え、
前記固定するステップは、前記吊込部材の前記表皮連結部に前記位置ずれ抑制部材の前記表皮連結部を縫製によって固定することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記位置ずれ抑制部材は、前記端面を画定する開口を有するとともに、可撓性を有し、
前記固定するステップは、前記位置ずれ抑制部材を、前記膨出部における前記係止爪に係止される部分が前記開口によって露出され、かつ前記膨出部を包囲させるように、前記吊込部材に前記幅方向の両側から重ね、前記表皮連結部に縫製によって固定することを含む請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊込部において表皮材がクリップに係止される乗物用シートと、表皮材の吊込方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物用シートには、シートクッション及びシートバックにおける着座面に、外観形状を維持するために線状に窪んだ吊込部が設けることがある。
【0003】
例えば特許文献1には、パッドの着座面に吊込溝が凹設されており、この吊込溝の底部でパッド固定されたクリップに、表皮材に取り付けられて吊込溝の延在方向に延在する吊込部材が固定されることにより、吊込部が形成された構造が記載されている。吊込部材は、表皮材に取り付けられた表皮連結部(吊り綿布)と、表皮連結部の下側縁に連結して吊込溝の幅方向に膨出した膨出部(サスペンダ)とを含み、膨出部がクリップに係止される。
【0004】
また、特許文献2には、上記と同様の吊込部に関して、表皮連結部(取付部)と、クリップに係止される膨出部とを含み吊込部材(引込部材)が記載されており、表皮連結部に設けられた穴部にクリップの先端が挿通されることにより、吊込部材が抜け止めされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-069417号公報
【特許文献2】特開2013-132328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の構造では、吊込部材が吊込溝の延在方向にずれて、乗物用シートの外環形状が崩れるおそれがあった。特許文献2に記載の構造では、クリップの先端が穴部に挿通されることにより、吊込部材は、吊込溝からの抜けが防止されるだけでなく、吊込溝の延在方向へのずれも防止される。しかし、クリップの先端と穴部との位置を正確に一致させる必要があり、施工誤差によってクリップの先端の位置が穴部からずれるおそれがあった。このため、クリップの先端が本来の位置から吊込溝の延在方向にずれた位置で穴部に挿通されることにより、又は、クリップの先端が、穴部に挿通しない状態で組付けられ、その後、本来の位置に対して穴部から離れる向きにずれることにより、乗物用シートの外環形状が崩れるおそれがあった。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、吊込溝の延在方向への吊込部材のずれを抑制でき、位置調整が容易な吊込部を備える乗物用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明のある態様に係る乗物用シート(1)は、着座面に凹設された吊込溝(8)を有するクッション体であるパッド(5)と、前記パッドの前記着座面上に張設された表皮材(6)と、前記吊込溝の底部に位置する前記パッドの部分に埋設された基板(12)、及び前記基板から立設され、前記吊込溝内に位置する係止爪(15)が形成された係止片(13)を含むクリップ(9)と、前記吊込溝の延在方向に延在する帯状をなし、一方の側縁部において前記表皮材に連結された表皮連結部(16)、及び前記表皮連結部の他方の側縁部に前記吊込溝の幅方向に膨出するように設けられ、前記クリップの前記係止爪に係止された膨出部(17)を含む吊込部材(10,32,42,52,62)と、前記表皮連結部に縫製により固定され、前記係止片に当接可能に前記延在方向を向く端面(19,47)を備えた位置ずれ抑制部材(11,33,43)とを備える。
【0009】
この態様によれば、位置ずれ抑制部材の端面が係止片に当接することによって、延在方向への吊込部材のずれが抑制できる。また、位置ずれ抑制部材は、表皮連結部に縫製によって固定されるため、クリップに対する位置を容易に調整できる。
【0010】
上記の態様において、前記位置ずれ抑制部材(11)が、前記吊込部材(10)の長手方向端を前記吊込部材の本体(10a)上に折り重ねた部分により構成されても良い。
【0011】
この態様によれば、1つの部品が、吊込部材の本体を構成する部分と位置ずれ抑制部材を構成する部分とを含むため、部品点数の増加を抑制できる。
【0012】
上記の態様において、前記膨出部(17)は、前記本体(10a)と前記位置ずれ抑制部材(11)との間において分断されていると良い。
【0013】
この態様によれば、膨出部が分断されているため、位置ずれ抑制部材を吊込部材の本体上に折り重ねることが容易になる。
【0014】
上記の態様において、前記位置ずれ抑制部材(33,43)は、前記吊込部材(32,42)とは別体であっても良い。
【0015】
この態様によれば、簡易な構成で、吊込溝の延在方向への吊込部材の位置ずれを抑制でき、位置調整が容易な吊込部を構成することができる。また、吊込溝の延在方向の端部近傍に配置されたクリップだけでなく、中間部に配置されたクリップに対しても位置ずれ抑制部材を設けることができる。
【0016】
上記の態様において、前記位置ずれ抑制部材(33)は、前記吊込部材(32)と同一の素材をなしても良い。
【0017】
この態様によれば、位置ずれ抑制部材の素材が、吊込部材の素材と同一であるため、位置ずれ抑制部材の作成の手間が少ない。
【0018】
上記の態様において、前記位置ずれ抑制部材(43)は、前記膨出部(17)を包囲するように前記幅方向の両側から前記吊込部材(42)に重ねられ、前記端面(47)を画定する開口(46)を有するように構成されても良い。
【0019】
この態様によれば、簡易な構成で、延在方向における両方の向きへの位置ずれを抑制することができる。
【0020】
本発明のある態様は、上記の態様の乗物用シート(1)における前記表皮材(6)の吊込方法であって、前記表皮連結部(16)に前記位置ずれ抑制部材(11,33,43)を縫製により固定するステップと、前記係止爪(15)に前記膨出部(17)を係止させるステップとを備える。
【0021】
この態様によれば、延在方向への吊込部材のずれが、位置ずれ抑制部材によって抑制できるとともに、位置ずれ抑制部材は、表皮連結部に縫製によって固定されるため、クリップに対する位置を容易に調整できる。
【0022】
上記の態様において、前記吊込部材(10)の長手方向端を前記吊込部材の本体(10a)上に折り重ねることにより、前記位置ずれ抑制部材(11)を設けるステップを更に備え、前記固定するステップは、前記本体における前記表皮連結部(16)に前記位置ずれ抑制部材の前記表皮連結部(16)を縫製によって固定することを含む。
【0023】
この態様によれば、1つの部品が、吊込部材の本体を構成する部分と位置ずれ抑制部材を構成する部分とを含むため、部品点数の増加を抑制できる。
【0024】
上記の態様において、前記吊込部材を設けるステップは、前記膨出部を前記本体と前記位置ずれ抑制部材との間において分断することを含むと良い。
【0025】
この態様によれば、膨出部が分断されているため、位置ずれ抑制部材を吊込部材の本体上に折り重ねることが容易になる。
【0026】
上記の態様において、前記位置ずれ抑制部材(11)を設けるステップは、前記膨出部(17)を前記本体(10a)と前記位置ずれ抑制部材との間において分断することを含む。
【0027】
この態様によれば、膨出部が分断されているため、位置ずれ抑制部材を吊込部材の本体上に折り重ねることが容易になる。
【0028】
上記の態様において、前記位置ずれ抑制部材(33,43)は、前記吊込部材(32,42)と別体であっても良い。
【0029】
この態様によれば、簡易な構成で、吊込溝の延在方向への吊込部材の位置ずれを抑制でき、位置調整が容易な吊込部を構成することができる。また、吊込溝の延在方向の端部近傍に配置されたクリップだけでなく、中間部に配置されたクリップに対しても位置ずれ抑制部材を設けることができる。
【0030】
上記の態様において、前記表皮連結部(16)及び前記膨出部(17)を含む素材を作成するステップと、前記素材を切断して、前記吊込部材(32)及び前記位置ずれ抑制部材(33)を作成するステップとを更に備え、前記固定するステップは、前記吊込部材の前記表皮連結部に前記位置ずれ抑制部材の前記表皮連結部を縫製によって固定することを含んでも良い。
【0031】
この態様によれば、位置ずれ抑制部材の素材が、吊込部材の素材と同一であるため、位置ずれ抑制部材の作成の手間が少ない。
【0032】
上記の態様において、前記位置ずれ抑制部材(43)は、前記端面(47)を画定する開口(46)を有するとともに、可撓性を有し、前記固定するステップは、前記位置ずれ抑制部材を、前記膨出部(17)における前記係止爪(15)に係止される部分が前記開口によって露出され、かつ前記膨出部を包囲させるように、前記吊込部材(42)に前記幅方向の両側から重ね、前記表皮連結部(16)に縫製によって固定することを含んでも良い。
【0033】
この態様によれば、簡易な構成で、延在方向における両方の向きへの位置ずれを抑制することができる。
【発明の効果】
【0034】
以上の態様によれば、吊込溝の延在方向への吊込部材のずれを抑制でき、位置調整が容易な吊込部を備える乗物用シートを提供することができる。
【0035】
位置ずれ抑制部材が、吊込部材の長手方向端を前記吊込部材の本体(10a)上に折り重ねた部分により構成される態様によれば、1つの部品が、吊込部材の本体を構成する部分と位置ずれ抑制部材を構成する部分とを含むため、部品点数の増加を抑制できる。
【0036】
この態様に於いて、前記膨出部(17)は、前記本体(10a)と前記位置ずれ抑制部材(11)との間において分断されている場合は、位置ずれ抑制部材を吊込部材の本体上に折り重ねることが容易になる。
【0037】
位置ずれ抑制部材が、吊込部材とは別体である態様によれば、簡易な構成で、吊込部材の位置ずれを抑制でき、位置調整が容易な吊込部を構成することができ、吊込溝の延在方向の端部近傍に配置されたクリップだけでなく、中間部に配置されたクリップに対しても位置ずれ抑制部材を設けることができる。
【0038】
この態様において、位置ずれ抑制部材が、吊込部材と同一の素材をなしている場合は、位置ずれ抑制部材の作成の手間が少ない。
【0039】
位置ずれ抑制部材が、吊込部材とは別体である態様において、位置ずれ抑制部材が、端面を画定する開口を有する場合には、簡易な構成で、延在方向における両方の向きへの位置ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】第1実施形態に係るシートの斜視図
図2】第1実施形態に係る吊込部の断面図(吊込溝の延在方向に直交する断面)
図3】第1実施形態に係る吊込部材及び位置ずれ抑制部材の斜視図
図4】第2実施形態に係る吊込部材及び位置ずれ抑制部材の斜視図
図5】第3実施形態に係る吊込部材及び位置ずれ抑制部材の斜視図
図6】第4実施形態に係る吊込部材及び位置ずれ抑制部材の斜視図
図7】第4実施形態に係る位置ずれ抑制部材の展開図
図8図6におけるVIII-VIII線に沿った断面図
図9】第4実施形態に係る吊込部の一部断面側面図
図10】第5実施形態に係る吊込部の一部断面(吊込溝の幅方向に直交する断面)側面図
図11】第6実施形態に係る吊込部の一部断面(吊込溝の幅方向に直交する断面)側面図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る車両用シート1(以下、「シート1」と記す)の斜視図である。シート1は、車体に支持されるシートクッション2と、シートクッション2に連結されたシートバック3と、シートバック3に連結されたヘッドレスト4とを備える。シートクッション2、シートバック3及びヘッドレスト4の各々は、発泡ウレタン等の発泡樹脂からなるパッド5(図2参照)と、パッド5の着座面を覆う表皮材6とを備える。シートクッション2及びシートバック3の着座面の表面には、表皮材6がパッド5内に吊り込まれることによって線状に凹んだ複数の吊込部7が縦方向及び横方向に形成されている。
【0042】
図2は、第1実施形態に係る吊込部7を、吊込部7の延在方向に直交する断面において示す。図1及び図2に示すように、シート1の吊込部7は、着座面に凹設された吊込溝8を有するパッド5と、パッド5の着座面上に張設された表皮材6と、吊込溝8内に配置されるようにパッド5に固定されたクリップ9と、表皮材6に連結してクリップ9に係止される吊込部材10と、吊込部材10に結合された位置ずれ抑制部材11とを備える。
【0043】
パッド5は、発泡ウレタン等の発泡樹脂によって構成されるクッション体である。吊込溝8は、着座面に向かって開口しており、縦方向(シートクッション2においては前後方向、シートバック3においては上下方向)に延在するものと、横方向(左右方向)に延在するものとを含む。吊込溝8の深さは略一定であり、吊込溝8の底面は略平面上に延在する。以下、特に説明しない限り、「延在方向」という用語及び「幅方向」という用語は、吊込溝8の延在方向及び幅方向を指す。
【0044】
表皮材6は、シート1(図1参照)の着座面の表面を構成する皮革や布等を素材とする部材である。
【0045】
クリップ9は、吊込溝8の底部に位置するパッド5の部分に埋設された基板12と、基板12から立設された1対の係止片13とを含み、例えば、樹脂を素材とする射出成形品である。基板12は、概ね平板状を呈し、吊込溝8の底面と略平行に配置される。基板12は、その全体がパッド5に埋設されているが、幅方向の両端部においてパッド5に埋設され、幅方向の中央部において係止片13が設けられた面がパッド5から露出するように配置されても良い。1対の係止片13は、互いに幅方向に向かって対向しており、基板12における吊込溝8の内側面よりも幅方向の内方の部分から吊込溝8の開口に向かって立設された立設部14と、立設部14の先端から吊込溝8の底面に向かって傾斜するように幅方向の内方に延出するように形成された係止爪15とを含む。1対の係止爪15の先端は、互いに幅方向に離間している。係止片13は、1対の係止爪15の先端間の距離が拡がるように弾性変形可能である。すなわち、立設部14が、その先端が幅方向の外方に向かうように湾曲若しくは傾動する弾性変形可能であり、及び/又は、係止爪15が、その先端が立設部14に近づくように湾曲若しくは傾動する弾性変形可能である。
【0046】
吊込部材10は、吊込溝8内に配置され、その長手方向は吊込溝8の延在方向に一致する。吊込部材10は、吊込部材10の長手方向に沿って延在する帯状の表皮連結部16と、吊込部材10長手方向に沿って延在して表皮連結部16の側縁に連結した膨出部17とを含む。表皮連結部16は、不織布や織布等の縫製可能な素材によって形成される。表皮連結部16は、吊込溝8の開口側の側縁部において、縫製によって表皮材6に連結され、吊込溝8の底面側の側縁において膨出部17に連結する。膨出部17は、表皮連結部16に対して幅方向に膨出した形状を有し、係止爪15に係止される。従って、クリップ9は、1対の係止爪15の先端間の距離が、弾性変形前においては膨出部17の幅よりも狭く、弾性変形時には膨出部17の幅以上となることが可能なように構成される。膨出部17は、樹脂を素材とし、射出成形によって形成される。膨出部17は、金型のキャビティに表皮連結部16が装着された状態で射出成形されることにより、表皮連結部16に連結される。なお、吊込部材10は、表皮連結部16及び膨出部17が一体に成形された樹脂によって構成されても良い。
【0047】
図3は、吊込部材10及び位置ずれ抑制部材11を示す斜視図である。図2及び図3に示すように、位置ずれ抑制部材11は、吊込部材10の長手方向端を吊込部材10の本体10a(クリップ9に係合する部分を含み、略平面上に延在している部分)上に折り返した部分によって構成される。位置ずれ抑制部材11の膨出部17は、吊込部材10の本体10aの膨出部17に隣接するように配置される。位置ずれ抑制部材11の表皮連結部16が、吊込溝8の開口側の側縁部にて、縫製によって吊込部材10の本体10aの表皮連結部16に固定される。吊込部材10の長手方向端を位置ずれ抑制部材11として折り返し易いように、吊込部材10の膨出部17が設けられた側の側縁部には、吊込部材10の本体10aと位置ずれ抑制部材11との間に切欠部18が設けられていることが好ましい。切欠部18によって、膨出部17は、本体10a側と位置ずれ抑制部材11側とに分断されている。切欠部18に代えて、吊込部材10の膨出部17が設けられた側の側縁部を切断してスリット(図示せず)を設けることにより、膨出部17が、本体10a側と位置ずれ抑制部材11側とに分断されても良い。
【0048】
着目している吊込部材10を受容している吊込溝8内において、最も位置ずれ抑制部材11の近くに配置されたクリップ9の係止片13は、位置ずれ抑制部材11よりも延在方向の中央側に位置し、位置ずれ抑制部材11の延在方向の中央側を向いた端面19は、その係止片13における延在方向の側面に当接可能である。端面19は、実際に係止片13の側面に当接していても良く、係止片13の側面との間に隙間があっても良い。隙間を設ける場合、端面19と係止片13の側面との間の距離は、吊込部材10の延在方向への位置ずれが許容される長さ以下である。位置ずれ抑制部材11の端面19は、表皮連結部16若しくは膨出部17、又はその両方にて係止片13の側面に当接可能である。
【0049】
吊込部7における表皮材6の吊込方法について説明する。
【0050】
作業員は、金型(図示せず)内にクリップ9を取り付け、金型内に発泡樹脂原料を注入して発泡硬化させることにより、クリップ9が埋設されたパッド5を形成しておく。
【0051】
作業員は、表皮材6に吊込部材10を縫製によって固定する(符号20は、縫製のための糸を示す)。位置ずれ抑制部材11は、吊込部材10の本体10aとともに、表皮材6に縫製によって固定される。なお、位置ずれ抑制部材11は、吊込部材10の本体10aの表皮材6への縫製による固定後に、表皮材6と吊込部材10の本体10aの表皮連結部16とが重なっている部分に縫製によって固定されても良く、吊込部材10の本体10aの表皮材6への縫製による固定後に、表皮材6には固定されずに吊込部材10の本体10aの表皮連結部16に縫製によって固定されても良く、先に、吊込部材10の本体10aの表皮連結部16に縫製によって固定しておき、その後、本体10aとともに表皮材6に縫製によって固定されても良い。
【0052】
次に、作業員は、吊込部材10を膨出部17から吊込溝8に挿入し、膨出部17をクリップ9の1対の係止爪15に押し付けることにより、1対の係止爪15の先端間の距離が拡がるようにクリップ9の係止片13を弾性変形させ、膨出部17を1対の係止爪15の先端間を通過させる。膨出部17が1対の係止爪15の先端間を通過した後、係止片13が元の形状に戻ることにより、膨出部17が係止爪15に係止される。
【0053】
図1図3を参照して、第1実施形態の作用効果について説明する。膨出部17が係止爪15に係止されることにより、吊込部材10の吊込溝8からの離脱が防止され、吊込部7が形成される。
【0054】
位置ずれ抑制部材11の端面19が、係止片13における延在方向の側面に当接することにより、吊込部材10が、端面19が向いている向きへの延在方向の位置ずれが抑制される。このため、吊込部材10の位置ずれに基づくシート1の外観の崩れが抑制できる。
【0055】
位置ずれ抑制部材11の吊込部材10の本体10aへの固定手段が縫製であるため、縫製の糸20を解いて、再縫製することができ、位置ずれ抑制部材11のクリップ9に対する位置の調整が容易である。また、位置ずれ抑制部材11の吊込部材10の本体10aへの固定を、吊込部材10の本体10aの表皮材6への固定の後に場合には、クリップ9に対する位置ずれ抑制部材11の位置を調整してから、位置ずれ抑制部材11を吊込部材10の本体10aに固定できるため、位置ずれ抑制部材11のクリップ9に対する位置の調整が容易である。また、位置ずれ抑制部材11の端面19が、クリップ9の係止片13の側面を越えて延在方向の中央寄りに位置する場合は、その越えた部分を切断することによっても、位置ずれ抑制部材11の位置を調整できる。
【0056】
次に、図4を参照して、本発明に係る第2実施形態を説明する。説明に当たって、第1の実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。なお、第3実施形態以降の説明においても、既に説明した実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。図4は、吊込部21における、吊込部材10及び位置ずれ抑制部材11を示す斜視図である。
【0057】
第1実施形態においては、位置ずれ抑制部材11は、吊込部材10の長手方向における一方の端部にのみ設けられているが、第2実施形態の吊込部21、位置ずれ抑制部材11は、吊込部材10の長手方向における双方の端部に設けられている。このため、長手方向における一方の端部においては、位置ずれ抑制部材11の端面19が他方の端部とは反対向きにクリップ9の係止片13の側面に当接可能となる。従って、吊込部材10は、吊込溝8の延在方向の双方の向きに対して位置ずれが抑制される。その他の作用効果は、第1実施形態と同様である。
【0058】
図5を参照して、第3実施形態を説明する。図5は、吊込部31における、吊込部材32及び位置ずれ抑制部材33を示す斜視図である。第3実施形態に係る吊込部31は、吊込部材32と位置ずれ抑制部材33とが、互いに別体である点で第1実施形態と相違する。
【0059】
位置ずれ抑制部材33は、吊込部材32と同一の素材によって構成される。吊込部材32及び位置ずれ抑制部材33を作成するための素材は、第1実施形態で説明した吊込部材10(図3参照)の作成方法と同様の方法により作成される。従って、この素材は、表皮連結部16及び膨出部17を含む。この素材の長さは、吊込部材32及び位置ずれ抑制部材33の長手方向の長さの合計値よりも長くなるように設定される。吊込部材32及び位置ずれ抑制部材33は、この素材を延在方向に直交する面で切断することによって作成される。
【0060】
位置ずれ抑制部材33の素材が、吊込部材32の素材と同一であるため、位置ずれ抑制部材33の作成の手間が少ない。また、第3実施形態は、切欠部18(図3参照)に関することを除いて第1実施形態と同様の作用効果を有する。また、第2実施形態と同様に、位置ずれ抑制部材33が、吊込部材32における長手方向の一方の端部だけでなく、双方の端部に取り付けられても良い。また、位置ずれ抑制部材33は、延在方向の端部に設けられたクリップ9に当接する位置だけでなく、延在方向の中間部に設けられたクリップ9に当接する位置に設けても良い。図示する例では、位置ずれ抑制部材33は、1つのクリップ9に対して延在方向の片側にのみ設けられているが、その両側に設けられても良い。2つのクリップ9の間に配置された1つの位置ずれ抑制部材33が、その延在方向の両方の端面19において、それぞれ対応するクリップ9に当接可能であっても良い。
【0061】
図6図9を参照して、第4実施形態について説明する。図6は、吊込部41における、吊込部材42及び位置ずれ抑制部材43を示す斜視図であり、図7は、位置ずれ抑制部材43を示す展開図であり、図8は、吊込部材42のクリップ9への取付状況を示す断面図であり、図9は、吊込部材42のクリップ9への取付状況を示す一部断面側面図である。第4実施形態は、吊込部材42及び位置ずれ抑制部材43において第3実施形態と相違する。
【0062】
図9に示すように、吊込部材42は、第3実施形態の吊込部材32(図5参照)に対して、表皮連結部16及び膨出部17を有する点でと共通するが、吊込溝8の底面が屈曲する屈曲部8aにおいて切欠部44が設けられている点で相違する。切欠部44は、膨出部17の方から設けられており、膨出部17を分断し、表皮連結部16を凹状に切り欠いている。吊込部材42は、切欠部44よりも着座面側に設けられたプレート45を含む。プレート45は、表皮連結部16の片方の面に縫製によって固定される。延在方向におけるプレート45の両端部は、切欠部44における延在方向の両端部よりも、延在方向の外方に位置する。吊込溝8の底面が水平面に対して傾斜している部分においては、吊込溝8の深さ方向から見て、プレート45の端部が、延在方向における位置ずれ抑制部材43の端部に重なることが好ましい。プレート45の曲げ剛性は、表皮連結部16の曲げ剛性よりも高いことが好ましく、例えば、プレート45は、縫製可能な樹脂を素材とする。
【0063】
図6図9に示すように、位置ずれ抑制部材43は、可撓性を有するシート状の部材であり、厚さ方向に貫通する開口46を有する。位置ずれ抑制部材43を展開した状態において、開口46は矩形を呈し、位置ずれ抑制部材43の外形も開口46の辺と平行な辺を有する矩形を呈することが好ましい。位置ずれ抑制部材43は、所定の厚さを有し、開口46を画定する位置ずれ抑制部材43の内周部には端面47が形成されている。位置ずれ抑制部材43は、表皮連結部16よりも大きい厚さを有することが好ましく、例えば、フェルトを素材とする。
【0064】
位置ずれ抑制部材43は、吊込部材32の膨出部17における係止爪15に係止される部分が開口46によって露出され、かつ膨出部17における開口46によって露出させた部分に隣接する部分を包囲するように、吊込部材32の膨出部17及び表皮連結部16に幅方向の両側(表皮連結部16の表裏方向)から重ね、表皮連結部16に縫製によって固定される。このため、位置ずれ抑制部材43における延在方向に互いに対向する端面47が、クリップ9の係止片13における延在方向の側面に対向し、延在方向への吊込部材32のわずかな変位によって、端面47が係止片13に当接する。なお、本来の位置において、端面47の一方又は双方が、係止片13に当接していても良い。
【0065】
切欠部44の作成作業、プレート45の吊込部材42への取り付け作業、及び、位置ずれ抑制部材43の吊込部材42への取り付け作業は、これらの位置調整を容易にするために、位置ずれ抑制部材43の表皮材6への取り付け後に行われる。なお、これらの作業は、作業性を向上させるために、位置ずれ抑制部材43の表皮材6への取り付け前に行っても良い。
【0066】
切欠部44を設けたことによって、吊込溝8の形状に合わせて吊込部材42を変形させることが容易になる。
【0067】
プレート45が、切欠部44によって膨出部17が分断されたことによる吊込部材42の曲げ剛性の低下を補うため、切欠部44を挟んで互いに対向する2つの膨出部17が互いに近づく方向にずれることが抑制される。
【0068】
位置ずれ抑制部材43の開口46を画定する端面47が、クリップ9の係止片13に当接可能であるため、延在方向への吊込部材42の位置ずれが抑制される。位置ずれ抑制部材43は、延在方向の端部に設けられたクリップ9にも、中間部に設けられたクリップ9にも適用できる。
【0069】
図10を参照して、第5実施形態について説明する。図10は、吊込部51の一部断面側面図である。第5実施形態は、第4実施形態における吊込部材42が切欠部44有する(図9参照)のに対して、切欠部44に代えてスリット53を有する点で、第4実施形態と相違する。
【0070】
スリット53は、屈曲部8aに対応する位置において、吊込部材52を膨出部17から切断することにより設けられる。スリット53は、膨出部17を分断し、表皮連結部16におけるプレート45と取り付けた部分の近傍に至る。第5実施形態は、第4実施形態と同様の作用効果を有する。
【0071】
図11を参照して、第6実施形態について説明する。図11は、吊込部61の一部断面側面図である。第6実施形態は、第4実施形態における吊込部材42の切欠部44が吊込溝8の底面側から設けられている(図9参照)のに対して、吊込部材62における切欠部63が表皮連結部16における表皮材6に連結される側縁部から設けられている点、及びプレート45(図9参照)が設けられていない点で、第4実施形態と相違する。
【0072】
切欠部63は、屈曲部8aに対応する位置において表皮連結部16における表皮材6に連結される側縁部から膨出部17に至るまで表皮連結部16を切り欠いている。切欠部63を設けたことによって、吊込溝8の形状に合わせて吊込部材52を変形させることが容易になる。第4実施形態と異なり、屈曲部8aに対応する位置に、表皮連結部16に比べて曲げ剛性の高い膨出部17が存在するため、膨出部17における切欠部63を挟んで互いに隣り合う2つのクリップ9に係合する部分が互いに近づく方向にずれることが抑制される。
【0073】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。本発明は、パッド及び表皮材を備えるシートであれば、車両用シートだけでなく、他の乗物用シートにも適用できる。
【符号の説明】
【0074】
1 :シート
5 :パッド
6 :表皮材
7,21,31,41,51,61:吊込部
8 :吊込溝
8a :屈曲部
9 :クリップ
10,32,42,52,62:吊込部材
10a :本体
11,33,43:位置ずれ抑制部材
12 :基板
13 :係止片
15 :係止爪
16 :表皮連結部
17 :膨出部
18 :切欠部
19,47:端面
46 :開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11