IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヒロン ニュートロン メディカル コープの特許一覧

<>
  • 特開-線量制御システム 図1
  • 特開-線量制御システム 図2
  • 特開-線量制御システム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025660
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】線量制御システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240216BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098934
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】111130177
(32)【優先日】2022-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
2.macOS
3.Linux
4.UNIX
(71)【出願人】
【識別番号】518296517
【氏名又は名称】禾榮科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HERON NEUTRON MEDICAL CORP.
【住所又は居所原語表記】No.66-2, Shengyi 5th Rd., Zhubei City, Hsinchu County, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 宗逸
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC07
4C082AG02
4C082AP20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】患者に適切な時間だけ照射するよう照射装置を制御すべく、線量率および照射時間を計算する線量制御システムを提供する。
【解決手段】患者の実際の血漿中薬剤濃度を得るように構成された処理装置を含む線量制御システムである。処理装置はさらに、実際の血漿中薬剤濃度および1組の補正係数に基づいて補正線量率分布データを計算するように構成されている。処理装置はさらに、補正線量率分布データおよび処方線量分布データに基づいて照射時間を計算するように構成されている。処理装置はさらに、補正線量率分布データおよび処方線量分布データに基づいて照射時間を計算するように構成されている。処理装置はさらに、その照射時間だけ患者に照射するよう照射装置を制御するように構成されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線量制御システムであって、
患者の実際の血漿中薬剤濃度を得るステップと、
前記実際の血漿中薬剤濃度および1組の補正係数に基づいて、補正線量率分布データを計算するステップと、
前記補正線量率分布データおよび処方線量分布データに基づいて照射時間を計算するステップと、
前記照射時間だけ前記患者に照射するよう照射装置を制御するステップと、
を実行するように構成された処理装置を含み、
前記1組の補正係数が、複数の参考血漿中薬剤濃度および前記参考血漿中薬剤濃度に対応する複数の参考線量率分布データに基づいて生成される、線量制御システム。
【請求項2】
前記1組の補正係数が、前記参考血漿中薬剤濃度のうちの1つ、前記参考線量率分布データのうちの1つ、および血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データを含む、請求項1に記載の線量制御システム。
【請求項3】
前記補正線量率分布データの計算に下式を用いる、請求項2に記載の線量制御システム。
【数1】
(式中、前記補正線量率分布データはDose_rate(Drugreal,r)で表され、前記実際の血漿中薬剤濃度はDrugrealで表され、空間的位置はrで表され、前記参考線量率分布データはDose_rate(Drugref,r)で表され、前記参考血漿中薬剤濃度はDrugrefで表され、前記血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データは[∂Dose_rate(Drug,r)]/∂Drugで表される。)
【請求項4】
前記処理装置がさらに、前記照射装置の実際のビーム強度を得るように構成されており、
前記1組の補正係数が、前記参考血漿中薬剤濃度および前記参考線量率分布データに対応する参考ビーム強度をさらに含む、請求項2に記載の線量制御システム。
【請求項5】
前記補正線量率分布データの計算に下式を用いる、請求項4に記載の線量制御システム。
【数2】
(式中、前記補正線量率分布データはDose_rate(Beamreal,Drugreal,r)で表され、前記実際のビーム強度はBeamrealで表され、前記実際の血漿中薬剤濃度はDrugrealで表され、空間的位置はrで表され、前記参考線量率分布データはDose_rate(Beamref,Drugref,r)で表され、前記参考ビーム強度はBeamrefで表され、前記参考血漿中薬剤濃度はDrugrefで表され、前記血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データは[∂Dose_rate(Beamref,Drug,r)]/∂Drugで表される。)
【請求項6】
前記実際のビーム強度が、中性子測定装置を用いて得られる中性子束、または加速器により構成されたビーム測定装置を用いて得られるプロトン電流である、請求項4に記載の線量制御システム。
【請求項7】
前記処理装置がさらに、
血漿中の複数の実際の薬剤濃度に基づいて血漿中薬剤濃度の時間依存的関数を生成する、および複数の実際のビーム強度に基づいてビーム強度の時間依存的関数を生成するステップであって、前記実際の血漿中薬剤濃度および前記実際のビーム強度が、照射時における複数の時点において得られるものである、ステップと、
前記血漿中薬剤濃度の時間依存的関数、前記ビーム強度の時間依存的関数、および前記1組の補正係数に基づいて、線量率分布の時間依存的関数を計算するステップと、
前記線量率分布の時間依存的関数に基づいて蓄積線量分布の時間依存的関数を計算するステップと、
前記処方線量率分布データ、前記蓄積線量分布の時間依存的関数、および前記線量率分布の時間依存的関数に基づいて、残りの照射時間を計算するステップと、
前記残りの照射時間だけ前記患者に照射するよう前記照射装置を制御するステップと、
を実行するように構成されている、請求項2に記載の線量制御システム。
【請求項8】
前記線量率分布の時間依存的関数の計算に下式を用い、
【数3】
(式中、前記線量率分布の時間依存的関数はDose_rate(Beam(t),Drug(t),r)で表され、前記ビーム強度の時間依存的関数はBeam(t)で表され、前記血漿中薬剤濃度の時間依存的関数はDrug(t)で表され、空間的位置はrで表され、前記参考線量率分布データはDose_rate(Beamref,Drugref,r)で表され、前記参考ビーム強度はBeamrefで表され、前記参考血漿中薬剤濃度はDrugrefで表され、前記血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データは[∂Dose_rate(Beamref,Drug,r)]/∂Drugで表される。)
前記蓄積線量分布の時間依存的関数の計算には下式を用いる、
【数4】
(式中、前記蓄積線量分布の時間依存的関数はDose(t,r)で表され、前記線量率分布の時間依存的関数はDose_rate(Beam(t),Drug(t),r)で表される。)
請求項7に記載の線量制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2022年8月11日に出願された台湾特許出願第111130177号に基づく優先権を主張し、その全体が、参照によりここに組み込まれる。
【0002】
本開示は主に放射線腫瘍学の分野に関し、特に線量制御システムに関する。
【背景技術】
【0003】
現在、広く知られている放射線治療システム、例えばホウ素中性子捕捉療法(BNCT)システムは、患者の血漿中薬剤濃度を考慮せず、または患者の血漿中薬剤濃度を特定の理論値に仮定して、線量率(つまり、単位時間内に受ける線量)および照射時間を推定する。しかし、線量率は、患者の血漿中薬剤濃度による影響を受け得ること、および患者の実際の血漿中薬剤濃度は推定値と等しいとは限らないことから、既知のシステムは、不正確な線量率の推定のために、患者に投与される線量を過度に低くまたは高く推定してしまう傾向があり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の問題に鑑みて、患者に適切な時間だけ照射するよう照射装置を制御すべく、線量率および照射時間を計算する線量制御システムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は線量制御システムを提供する。線量制御システムは、(i)患者の実際の血漿中薬剤濃度を得るステップと、(ii)実際の血漿中薬剤濃度および1組の補正係数に基づいて、補正線量率分布データを計算するステップと、(iii)補正線量率分布データおよび処方線量分布データに基づいて照射時間を計算するステップと、(iv)その照射時間だけ患者に照射するよう照射装置を制御するステップと、を実行するように構成された処理装置を含む。1組の補正係数は、複数の参考血漿中薬剤濃度およびこれら参考血漿中薬剤濃度に対応する複数の参考線量率分布データに基づいて生成される。
【0006】
一実施形態において、1組の補正係数は、参考血漿中薬剤濃度のうちの1つ、参考線量率分布データのうちの1つ、および血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データを含む。
【0007】
一実施形態において、補正線量率分布データの計算には下式<I>を用いる。
【0008】
【数1】
【0009】
式<I>中、補正線量率分布データはDose_rate(Drugreal,r)で表され、実際の血漿中薬剤濃度はDrugrealで表され、空間的位置はrで表され、参考線量率分布データはDose_rate(Drugref,r)で表され、参考血漿中薬剤濃度はDrugrefで表され、血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データは[∂Dose_rate(Drug,r)]/∂Drugで表される。
【0010】
一実施形態において、処理装置はさらに、照射装置の実際のビーム強度を得るように構成されている。1組の補正係数は、参考血漿中薬剤濃度に対応する参考ビーム強度、および参考線量率分布データをさらに含む。
【0011】
一実施形態において、補正線量率分布データの計算には下式<II>を用いる。
【0012】
【数2】
【0013】
式<II>中、補正線量率分布データはDose_rate(Beamreal,Drugreal,r)で表され、実際のビーム強度はBeamrealで表され、実際の血漿中薬剤濃度はDrugrealで表され、空間的位置はrで表され、参考線量率分布データはDose_rate(Beamref,Drugref,r)で表され、参考ビーム強度はBeamrefで表され、参考血漿中薬剤濃度はDrugrefで表され、血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データは[∂Dose_rate(Beamref,Drug,r)]/∂Drugで表される。
【0014】
一実施形態において、実際のビーム強度は、中性子測定装置を用いて得られる中性子束、または加速器により構成されたビーム測定装置を用いて得られるプロトン電流である。
【0015】
一実施形態において、処理装置はさらに、複数の実際の血漿中薬剤濃度に基づいて血漿中薬剤濃度の時間依存的関数を生成する、および複数の実際のビーム強度に基づいてビーム強度の時間依存的関数を生成するように構成されている。処理装置はさらに、血漿中薬剤濃度の時間依存的関数、ビーム強度の時間依存的関数、および1組の補正係数に基づいて、線量率分布の時間依存的関数を計算するように構成されている。処理装置はさらに、線量率分布の時間依存的関数に基づいて、蓄積線量分布の時間依存的関数を計算するように構成されている。処理装置はさらに、処方線量率分布データ、蓄積線量分布の時間依存的関数、および線量率分布の時間依存的関数に基づいて残りの照射時間を計算するように構成されている。処理装置はさらに、残りの照射時間だけ患者に照射すべく照射装置を制御するように構成されている。
【0016】
一実施形態において、線量率分布の時間依存的関数の計算には下式<III>を用いる。
【0017】
【数3】
【0018】
式<III>中、線量率分布の時間依存的関数はDose_rate(Beam(t),Drug(t),r)で表され、ビーム強度の時間依存的関数はBeam(t)で表され、血漿中薬剤濃度の時間依存的関数はDrug(t)で表され、空間的位置はrで表され、参考線量率分布データはDose_rate(Beamref,Drugref,r)で表され、参考ビーム強度はBeamrefで表され、参考血漿中薬剤濃度はDrugrefで表され、血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データは[∂Dose_rate(Beamref,Drug,r)]/∂Drugで表される。相応して、蓄積線量分布の時間依存的関数の計算には下式<IV>を用いる。
【0019】
【数4】
【0020】
式<IV>中、蓄積線量分布の時間依存的関数はDose(t,r)で表され、線量率分布の時間依存的関数はDose_rate(Beam(t),Drug(t),r)で表される。
【0021】
本開示により提供される線量制御システムでは、照射装置を制御して患者に適した時間だけ照射させるよう、線量率および照射時間を計算する。したがって、不正確な線量率の推定のために、患者に投与される線量を過度に低くまたは高く推定してしまうことが回避され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付の図面を参照しながら、以下の詳細な説明および例を読むことによって、本開示をよりよく理解することができる。加えて、本開示のフロー図において、各ブロックの実行の順序は変更することがある、および/またはブロックのうちのいくつかが変更される、除去される、もしくは結合されることがあるということが、理解されなければならない。
図1】本開示の実施形態による線量制御システムの処理装置の利用シナリオを説明する概略図である。
図2】本開示の一実施形態による、線量制御システムの処理装置によって実行される線量制御方法を説明するフロー図である。
図3】本開示の一実施形態による、パラメータが時間に伴ってどう変化するかを考慮した、線量制御システムの処理装置によって実行される線量制御方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の記載は本発明の実施形態を提示するものであって、本発明の基本的な趣旨を説明することが意図されているが、本発明を限定することは意図されていない。実際の発明の内容については、クレームの範囲を参照にしなければならない。
【0024】
以下の各実施形態において、同じ参照番号は、同一または類似する要素またはコンポーネントを表すものとする。
【0025】
クレームにおいて用いられる順序を示す用語、例えば「第1」、「第2」、「第3」等は、説明の便宜で用いられるに過ぎず、互いの何らかの優先順位関係を示すものではない。
【0026】
図1は、本開示の実施形態による線量制御システム101の利用シナリオ100を説明する概略図である。図1に示されるように、利用シナリオ100において、線量制御システム101は、治療計画システム102、血漿中薬剤濃度測定装置104、およびビーム強度測定装置105から提供されるデータを受け取ると共に、照射時間を計算し、患者にその照射時間だけ照射するよう照射装置103を制御することができる。線量制御システム101は、治療計画システム102、血漿中薬剤濃度測定装置104、およびビーム強度測定装置105の各々に有線または無線の方式で接続し、治療計画システム102、血漿中薬剤濃度測定装置104、およびビーム強度測定装置105の各々から提供されるデータを受け取ることができる。あるいは、治療計画システム102、血漿中薬剤濃度測定装置104、およびビーム強度測定装置105から提供されるデータは、人により手動で線量制御システムに入力されてもよい。線量制御システム101は、照射装置103に有線または無線の方式で接続し、コマンドまたは命令により必要な時間だけ照射するよう照射装置103を制御することができる。あるいは、線量制御システム101により算出された照射時間が表示装置(例えば、LCDディスプレイ、LEDディスプレイ、OLEDディスプレイ、またはプラズマディスプレイ)に表示されるようにすることで、人による手動での照射装置103の操作を可能とし、これにより患者にその照射時間だけ照射するよう照射装置103を制御することもできる。
【0027】
線量制御システムは、オペレーティングシステム(例えば、Windows、MacOS、Linux、UNIX…等)を実行するパーソナルコンピューター(例えば、ラップトップコンピューターもしくはノートブックコンピューター)またはサーバーコンピューターのようなコンピューターシステムであり得る。線量制御システム101は処理装置を含む。処理装置は、例えば中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、コントローラー、マイクロコントローラー、またはステートマシンのような、命令を実行するのに用いられる任意の装置であってよい。線量制御システム101は記憶装置をさらに含んでいてよい。記憶装置は、電気的に消去可能なプログラマブル読み出し専用メモリ(EEPROM)、フラッシュメモリー、または不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)を含む記憶装置であってよく、例えばハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)、または光ディスクである。
【0028】
治療計画システム102は、オペレーティングシステム(例えば、Windows,MacOS,Linux,UNIX…等)を実行するパーソナルコンピューター(例えば、ラップトップコンピューターもしくはノートブックコンピューター)またはサーバーコンピューターのようなコンピューターシステムであり得る。治療計画システム102は処理装置を含む。処理装置は、例えば中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、コントローラー、マイクロコントローラー、またはステートマシンのような、命令を実行するのに用いられる任意の装置であってよい。
【0029】
線量制御システム101および治療計画システム102は異なるシステムとして描かれているが、本開示はこれに限定されない。本開示のいくつかの実施形態において、線量制御システムおよび治療計画システム102は、同一のコンピューターシステムの異なるモジュールまたはユニットであってよい。
【0030】
本開示の一実施形態において、治療計画システム102は、例えば血漿中薬剤濃度が20ppm、25ppm、30ppm…、等のときの線量率分布データのような、複数の血漿中薬剤濃度に対応する3次元(3D)線量率分布データ(つまり、3D空間中の各点の線量率)を提供するのに用いられる。これら線量率分布データは、臨床実験で測定されたものであってよい、または特定のアルゴリズムを用いて算出されたものであってよい。一実施形態において、線量率分布データは、体器官組織分布データ、薬剤吸収分布データ、材料組成パラメータデータ、体積均質化サイズ(volume homogenization size)、粒子計数サイズ(particle tally size)、ビームパラメータ、および血漿中薬剤濃度に基づいて、積均質化アルゴリズムおよびモンテカルロ粒子輸送アルゴリズムを用いて計算される。いくつかの実施形態において、治療計画システム102はさらに線量率分布データを1組の補正係数に変換し、これにより線量制御システム101が補正線量率分布および照射時間を計算できるようになる。他の実施形態では、治療計画システム102は、複数の血漿中薬剤濃度に対応する線量率分布データを線量制御システム101に提供し、これにより線量制御システム101がその後に線量率分布データを1組の補正係数に変換して、補正線量率分布および照射時間を計算できるようになる。
【0031】
照射装置103は、患者の腫瘍に中性子を放射する任意の中性子放射器であり得る。放射された中性子が患者の腫瘍に蓄積した薬剤(例えば、ホウ素-10)に吸収されると、次いで高いエネルギーを有する粒子(例えば、リチウム-7またはα粒子)が生成され、がん細胞が局所的に破壊されることとなる。
【0032】
血漿中薬剤濃度測定装置104は、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)装置、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)装置、または患者の血漿中の薬剤(例えば、ホウ素-10)の濃度を測定するのに用いることのできる任意の装置であってよい。
【0033】
ビーム強度測定装置105は、中性子測定装置、または加速器により構成されたビーム測定装置であってよい。ビーム強度測定装置105は、照射装置103のビーム強度を測定するのに用いられる。ビーム強度測定装置105が中性子測定装置である場合、測定されるビーム強度は中性子束となる。ビーム強度測定装置105が加速器により構成されたビーム測定装置である場合、測定されるビーム強度はプロトン電流となる。一実施形態において、中性子測定装置および加速器により構成されたビーム測定装置は、互いのバックアップビーム強度測定装置105となることができ、これにより一方の不正確な測定によって照射線量が過少または過多に推定されるのを回避することができる。
【0034】
図2は、本開示の一実施形態による、図1における線量制御システム101の処理装置によって実行される線量制御方法200を説明するフロー図である。図2に示されるように、方法200はステップ201~204を含む。
【0035】
方法200はステップ201から開始する。ステップ201において、患者の実際の血漿中薬剤濃度を得る。次いで、方法200はステップ202に進む。
【0036】
ステップ202において、実際の血漿中薬剤濃度および1組の補正係数に基づいて、補正線量率分布データを計算する。次いで、方法200はステップ203に進む。
【0037】
ステップ203において、補正線量率分布データおよび処方線量分布データに基づいて、照射時間を計算する。次いで、方法200はステップ204に進む。
【0038】
ステップ204において、上記照射時間だけ患者を照射するように照射装置を制御する。
【0039】
本開示の実施形態では、実際の血漿中薬剤濃度を、患者が放射線治療を受ける直前、または照射全プロセスにおける任意の時点で、測定装置(例えば、図1における薬剤濃度測定装置104)を用いて実際に測定することができる。
【0040】
本開示の一実施形態において、患者の実際の血漿中薬剤濃度は通常、治療計画システム102により提供される複数の血漿中薬剤濃度と完全に等しくはならないことから、治療計画システム102により提供される血漿中薬剤濃度、および対応する複数の線量率分布データは、参照用に過ぎない。よって、患者の実際の血漿中薬剤濃度に対応する線量率分布データは、治療計画システム102により提供される線量率分布データのうちの1つを直接適用するのではなく、1組の補正係数に基づいて計算される。1組の補正係数は、治療計画システム102により提供される複数の参考血漿中薬剤濃度、および対応する複数の参考線量率分布データに基づいて生成されるものである。いくつかの実施形態において、1組の補正係数は、治療計画システム102により、複数の参考血漿中薬剤濃度、および対応する複数の参考線量率分布データから変換されるものである。
【0041】
一実施形態において、1組の補正係数は、参考血漿中薬剤濃度のうちの1つおよびそれに対応する参考線量率分布データ、ならびに血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データ(つまり、3D空間中の各点における単位毎の血漿中薬剤濃度の変化に対応する線量率の変化)を含んでいてよい。
【0042】
したがって、補正線量率分布データの計算には下式<I>を用いることができる。
【0043】
【数5】
【0044】
式<I>中、補正線量率分布データはDose_rate(Drugreal,r)で表され、実際の血漿中薬剤濃度はDrugrealで表され、空間的位置はrで表され(rは3D空間座標系における座標を表し得る)、参考線量率分布データはDose_rate(Drugref,r)で表され、参考血漿中薬剤濃度はDrugrefで表され、血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データは[∂Dose_rate(Drug,r)]/∂Drugで表される。
【0045】
式<I>に対応して、ステップ204における照射時間の計算には下式<V>を用いることができる。
【0046】
【数6】
【0047】
式<V>中、照射時間はTfで表され、式<I>を用いて算出された補正線量率分布データはDose_rate(Drugreal,r)で表され、処方線量分布(つまり、3D空間中の各点における処方線量)データはPrescription_dose(r)で表され、min()は、全てのr値(つまり、全ての位置)に対応する[Prescription_dose(r)]/[Dose_rate(Drugreal,r)]のうち最小のものを表す。このようであると、患者のどの位置に対してもオーバードーズが回避され得る。
【0048】
別の実施形態では、線量率はビーム強度によっても影響され得るということを考慮して、1組の補正係数は、上述した参考血漿中薬剤濃度のうちの1つ、参考血漿中薬剤濃度のうちの1つに対応する参考線量率分布データ、および血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データの他、参考血漿中薬剤濃度および参考線量率分布データに対応する参考ビーム強度をさらに含んでいてよい。
【0049】
したがって、補正線量率分布データの計算には下式<II>を用いることができる。
【0050】
【数7】
【0051】
式<II>中、補正線量率分布データはDose_rate(Beamreal,Drugreal,r)で表され、実際のビーム強度はBeamrealで表され、実際の血漿中薬剤濃度はDrugrealで表され、空間的位置はrで表され、参考線量率分布データはDose_rate(Beamref,Drugref,r)で表され、参考ビーム強度はBeamrefで表され、参考血漿中薬剤濃度はDrugrefで表され、血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データは[∂Dose_rate(Beamref,Drug,r)]/∂Drugで表される。
【0052】
式<II>に対応して、ステップ204における照射時間の計算には下式<VI>を用いることができる。
【0053】
【数8】
【0054】
式<VI>中、照射時間はTfで表され、式<II>を用いて算出された補正線量率分布データは
【0055】
【数9】
【0056】
で表され、処方線量分布(つまり、3D空間中の各点における処方線量)データはPrescription_dose(r)で表され、min()は、全てのr値(つまり、全ての位置)に対応する[Prescription_dose(r)]/[Dose_rate(Beamreal,Drugreal,r)]のうち最小のものを表す。このようであると、患者のどの位置に対してもオーバードーズが回避される。
【0057】
いくつかの実施形態では、照射時において、患者の血漿中薬剤濃度は経時的に次第に減少または増加するのが通常であると考えられるため、最初に(例えば、患者が放射線治療を受ける直前に)測定された血漿中薬剤濃度は、照射時における実際の血漿中薬剤濃度と等しいとは限らず、かつ線量率ももはや一定ではない。故に、残りの照射時間をより正確かつ即時に推定するために、実際の血漿中薬剤濃度の経時的な変化を考慮に入れて、線量率分布の時間依存的関数(つまり、時間と線量率分布との対応関係)を計算する必要がある。
【0058】
図3は、図1における線量制御システムの処理装置により実行される線量制御方法300を説明するフロー図である。図3に示されるように、方法300はステップ301~305を含む。
【0059】
方法300はステップ301から始まる。ステップ301において、照射時における複数の時点で得られた実際の血漿中薬剤濃度に基づいて、血漿中薬剤濃度の時間依存的関数(つまり、時間と血漿中薬剤濃度との対応関係)を生成し、かつ照射時における複数の時点で得られた実際のビーム強度に基づいて、ビーム強度の時間依存的関数(つまり、時間とビーム強度との対応関係)を生成する。次いで、方法300はステップ302に進む。
【0060】
ステップ302において、血漿中薬剤濃度の時間依存的関数、ビーム強度の時間依存的関数、および1組の補正係数に基づいて、線量率分布の時間依存的関数(つまり、時間と線量率分布との対応関係)を計算する。次いで、方法300はステップ303に進む。
【0061】
ステップ303において、線量率分布の時間依存的関数に基づいて、蓄積線量分布の時間依存的関数(つまり、時間と3D空間中の各点における蓄積線量との対応関係)を計算する。次いで、方法300はステップ304に進む。
【0062】
ステップ304において、処方線量率分布データ、蓄積線量分布の時間依存的関数、および線量率分布の時間依存的関数に基づいて、残りの照射時間を計算する。次いで、方法300はステップ305に進む。
【0063】
ステップ305において、残りの照射時間だけ患者に照射するよう照射装置を制御する。
【0064】
一実施形態において、線量率分布の時間依存的関数の計算には下式<III>を用いることができる。
【0065】
【数10】
【0066】
式<III>中、線量率分布の時間依存的関数はDose_rate(Beam(t),Drug(t),r)で表され、ビーム強度の時間依存的関数はBeam(t)で表され、血漿中薬剤濃度の時間依存的関数はDrug(t)で表され、空間的位置はrで表され、参考線量率分布データはDose_rate(Beamref,Drugref,r)で表され、参考ビーム強度はBeamrefで表され、参考血漿中薬剤濃度はDrugrefで表され、血漿中薬剤濃度に伴う線量率変化の分布データは[∂Dose_rate(Beamref,Drug,r)]/∂Drugで表され、tは照射時における任意の時点(例えば、照射開始からt秒目)を表し得る。
【0067】
式<III>に対応して、蓄積線量分布の時間依存的関数の計算には下式<IV>を用いることができる。
【0068】
【数11】
【0069】
式<IV>中、蓄積線量分布の時間依存的関数はDose(t,r)で表され、式<III>により算出された線量率分布の時間依存的関数はDose_rate(Beam(t),Drug(t),r)で表される。
【0070】
式<III>および式<IV>に対応して、残りの照射時間の計算には下式<VII>を用いることができる。
【0071】
【数12】
【0072】
式<VII>中、残りの照射時間はTremainで表され、式<III>により算出された線量率分布の時間依存的関数はDose_rate(Beam(t),Drug(t),r)で表され、処方線量分布(つまり、3D空間中の各点における処方線量)はPrescription_dose(r)で表され、min()は全てのr値(つまり、全ての位置)に対応する[Prescription_dose(r)-Dose(t,r)]/[Dose_rate(Beam(t),Drug(t),r)]のうち最小のものを表す。このようであると、患者のどの位置に対してもオーバードーズが回避される。
【0073】
さらなる実施形態において、蓄積線量分布の時間依存的関数および残りの照射時間Tremainに基づいて、治療の全過程(whole course of treatment)の予測される総線量Dose(r)を計算することができる。具体的には、現在の時点およびTremainを加えることにより、治療の全過程の予測される総照射時間Ttotalを得ることができる(例えば、現時点で患者がすでに20分照射されており、残りの照射時間が10分であるという場合、総照射時間は20+10=30分となる)。その後、Ttotalを式<IV>に代入する、即ち、
【0074】
【数13】
【0075】
を計算することで、治療の全過程の予測される総線量Dose(r)を得ることができる。
【0076】
上述した方法は、コンピューター実行可能な命令を用いて実行することができる。例えば、これら命令は、汎用コンピューター、専用コンピューター、または専用処理装置に特定の機能または1組の機能を実行させることのできる命令およびデータを含み得る。コンピュータリソースのうちのいくつかは、ネットワークを介してアクセスされるものであってよい。
【0077】
本開示により提供される線量制御システムは、患者に適切な時間だけ照射するよう照射装置を制御すべく、線量率および照射時間を計算するものである。したがって、不正確な線量率の推定のために、患者に投与される線量を過度に低くまたは高く推定してしまうことが回避され得る。
【0078】
上の段落は、多数の態様を用いて記載したものである。本明細書の開示が多数の方式で実行され得ることは明らかである。実施形態において開示された特定の構造または機能はいずれも代表的な状況に過ぎず、開示されたどの態様も独立に実施することができる、または2つ以上の態様を組み合わせて実施することができる、という点に当業者は留意すべきである。
【0079】
例の方式および好ましい実施形態により本発明を記載したが、本発明は開示された実施形態に限定されないということが理解されなければならない。むしろ、(当業者には明らかであるような)各種変更および類似の構成を包含するよう意図されている。故に、かかる変更および類似の構成がすべて含まれるように、添付のクレームの範囲に最も広い解釈を与えなければならない。
【符号の説明】
【0080】
100・・・利用シナリオ
101・・・線量制御システム
102・・・治療計画システム
103・・・照射装置
104・・・血漿中薬剤濃度測定装置
105・・・ビーム強度測定装置
200・・・方法
201~204・・・ステップ
300・・・方法
301~305・・・ステップ
図1
図2
図3