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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000257
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】眼軸長測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098943
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山成 正宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 智樹
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA26
4C316AB02
4C316FA09
4C316FY01
(57)【要約】
【課題】TD-OCT方式を用いて、装置を大型化することなく深さ方向の広い範囲を計測可能な技術を提供する。
【解決手段】眼軸長測定装置は、光源と、測定光学系と、参照光学系と、第1受光素子と、演算部を備える。参照光学系は、インボリュート反射体と、集光レンズと、駆動部を備える。インボリュート反射体は、回転軸の周りに回転し、回転軸に沿ってみたときにインボリュート曲線を有する外周部を備えており、インボリュート曲線によって参照光の光路長を変更する。集光レンズは、光源からの光を集光してインボリュート反射体の外周部に照射する。駆動部は、インボリュート反射体を回転軸の周りに回転させる。インボリュート反射体は、インボリュート反射体が回転軸の周りに回転したときに、集光レンズの焦点とレイリー長との間に外周部のインボリュート曲線の全体が位置するように配置されている。レイリー長は、20.3mm以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を被検眼に照射すると共に、前記被検眼からの反射光を導く測定光学系と、
前記光源からの光を導いて参照光とする参照光学系と、
前記測定光学系により導かれた前記反射光と前記参照光学系により導かれた前記参照光とを合波した干渉光を受光する第1受光素子と、
前記第1受光素子で受光した前記干渉光を干渉信号に変換して、前記干渉信号から前記被検眼の眼軸長を測定する演算部と、を備えており、
前記参照光学系は、
回転軸の周りに回転可能とされると共に、前記光源からの光が照射される外周部を備えており、前記回転軸に沿ってみたときに前記外周部はインボリュート曲線を有しており、前記インボリュート曲線によって前記参照光の光路長を変更するインボリュート反射体と、
前記インボリュート反射体の前記光源側に配置されており、前記光源からの光を集光して前記インボリュート反射体の前記外周部に照射する集光レンズと、
前記インボリュート反射体を前記回転軸の周りに回転させる駆動部と、を備えており、
前記インボリュート反射体は、前記駆動部によって前記インボリュート反射体が前記回転軸の周りに回転したときに、前記集光レンズの焦点とレイリー長との間に前記外周部の前記インボリュート曲線の全体が位置するように配置されており、
前記レイリー長は、20.3mm以上である、眼軸長測定装置。
【請求項2】
前記参照光学系は、前記焦点レンズより前記光源側に配置され、前記焦点レンズにコリメート光を照射するコリメートレンズをさらに備えており、
前記光源から出射される光の波長と、前記集光レンズから前記集光レンズの焦点までの距離と、前記コリメートレンズから前記集光レンズに入射する光の直径と、の少なくとも1つが、前記レイリー長が20.3mm以上となるように調整可能に構成されている、請求項1に記載の眼軸長測定装置。
【請求項3】
前記参照光学系は、前記インボリュート反射体に取付けられ、前記インボリュート反射体と一体となって回転する重量バランサをさらに備えており、
前記回転軸に沿って前記インボリュート反射体及び前記重量バランサをみたときに、前記重量バランサを取付けた前記インボリュート反射体の重心が、前記インボリュート反射体の前記回転軸上に位置するように、前記重量バランサが前記インボリュート反射体に取付けられている、請求項1又は2に記載の眼軸長測定装置。
【請求項4】
前記参照光学系に配置され、前記インボリュート反射体からの反射光を前記参照光と第1分岐光とに分岐する光学素子と、
前記光学素子で分岐された前記第1反射光を受光する第2受光素子と、をさらに備えており、
前記演算部は、前記第2受光素子で受光した前記第1分岐光から、前記干渉信号のサンプリングの開始を規定するトリガー信号を生成する、請求項1に記載の眼軸長測定装置。
【請求項5】
前記光学素子は、前記光源からの光を前記インボリュート反射体に導く光路上であって、前記インボリュート反射体からの反射光を前記第1受光素子に導く光路上に配置されており、
前記光学素子は、前記光源からの光を前記インボリュート反射体に照射する照射光と第2分岐光とにさらに分岐するように構成されており、
前記光学素子で分岐された前記第2分岐光を受光する第3受光素子をさらに備えている、請求項4に記載の眼軸長測定装置。
【請求項6】
光源と、
前記光源からの光を被検眼に照射すると共に、前記被検眼からの反射光を導く測定光学系と、
前記光源からの光を導いて参照光とする参照光学系と、
前記測定光学系により導かれた前記反射光と前記参照光学系により導かれた前記参照光とを合波した干渉光を受光する受光素子と、
前記受光素子で受光した前記干渉光を干渉信号に変換して、前記干渉信号から前記被検眼の眼軸長を測定する演算部と、を備えており、
前記参照光学系は、
回転軸の周りに回転可能とされると共に、前記光源からの光が照射される外周部を備えており、前記回転軸に沿ってみたときに前記外周部はインボリュート曲線を有しており、前記インボリュート曲線によって前記参照光の光路長を変更するインボリュート反射体と、
前記インボリュート反射体に取付けられ、前記インボリュート反射体と一体となって回転する重量バランサと、を備えており、
前記回転軸に沿って前記インボリュート反射体及び前記重量バランサをみたときに、前記重量バランサを取付けた前記インボリュート反射体の重心が、前記インボリュート反射体の前記回転軸上に位置するように、前記重量バランサが前記インボリュート反射体に取付けられている、眼軸長測定装置。
【請求項7】
光源と、
前記光源からの光を被検眼に照射すると共に、前記被検眼からの反射光を導く測定光学系と、
前記光源からの光を導いて参照光とする参照光学系と、
前記測定光学系により導かれた前記反射光と前記参照光学系により導かれた前記参照光とを合波した干渉光を受光する第1受光素子と、
前記第1受光素子で受光した前記干渉光を干渉信号に変換して、前記干渉信号から前記被検眼の眼軸長を測定する演算部と、を備えており、
前記参照光学系は、
回転軸の周りに回転可能とされると共に、前記光源からの光が照射される外周部を備えており、前記回転軸に沿ってみたときに前記外周部はインボリュート曲線を有しており、前記インボリュート曲線によって前記参照光の光路長を変更するインボリュート反射体と、
前記インボリュート反射体からの反射光の一部を分岐する分岐手段と、
前記分岐手段で分岐された前記インボリュート反射体からの反射光の一部を受光する第2受光素子と、を備えており、
前記演算部は、前記第2受光素子で受光した光から、前記干渉信号のサンプリングの開始を規定するトリガー信号を生成する、眼軸長測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、眼軸長測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光干渉を用いて被検眼の眼軸長を測定する眼軸長測定装置が開発されている。従来の眼軸長測定装置としては、波長掃引型の光源を用いたフーリエドメイン方式(いわゆる、SS-OCT方式)のものがよく知られている。しかしながら、波長掃引型の光源は高価なため、コスト低減のためにタイムドメイン方式(いわゆるTD-OCT方式)による眼軸長測定装置が求められている。
【0003】
TD-OCT方式の眼軸長測定装置では、参照光学系に可変ディレイラインを用いることによって、被検眼の深さ方向の信号を検出する。しかしながら、通常の可変ディレイラインでは、深さ方向の測定範囲は数mm程度であるため、被検眼の深さ方向全体を測定することができない。このため、眼軸長を測定するためには、深さ方向のより広い範囲を測定可能な可変ディレイラインが必要となる。例えば、特許文献1には、深さ方向の広い範囲を計測可能なTD-OCT方式の測定装置が開示されている。特許文献1の可変ディレイラインでは、回転台の上に複数のプリズムを配置している。これにより、深さ方向の広い範囲を測定可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-310899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術を用いると、TD-OCT方式の測定装置において、深さ方向の広い範囲を測定可能となる。しかしながら、特許文献1の可変ディレイラインでは、回転台を等速回転するため、光学的遅延が時間に対して非線形になる。眼軸長を測定するためには、被検眼の深さ方向全体である数十mmの範囲を測定する必要がある。測定精度を向上するためには、光学的遅延が線形に近い領域のみを使用する必要があり、かつ数十mmの範囲を測定するためには、回転半径を大きくする必要がある。このため、可変ディレイラインが大型化するという問題があった。
【0006】
本明細書は、TD-OCT方式を用いて、装置を大型化することなく深さ方向の広い範囲を計測可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示する技術の第1の態様では、眼軸長測定装置は、光源と、光源からの光を被検眼に照射すると共に、被検眼からの反射光を導く測定光学系と、光源からの光を導いて参照光とする参照光学系と、測定光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた参照光とを合波した干渉光を受光する第1受光素子と、第1受光素子で受光した干渉光を干渉信号に変換して、干渉信号から被検眼の眼軸長を測定する演算部と、を備えている。参照光学系は、インボリュート反射体と、集光レンズと、駆動部と、を備えている。インボリュート反射体は、回転軸の周りに回転可能とされると共に、光源からの光が照射される外周部を備えており、回転軸に沿ってみたときに外周部はインボリュート曲線を有しており、インボリュート曲線によって参照光の光路長を変更する。集光レンズは、インボリュート反射体の光源側に配置されており、光源からの光を集光してインボリュート反射体の外周部に照射する。駆動部は、インボリュート反射体を回転軸の周りに回転させる。インボリュート反射体は、駆動部によってインボリュート反射体が回転軸の周りに回転したときに、集光レンズの焦点とレイリー長との間に外周部のインボリュート曲線の全体が位置するように配置されている。レイリー長は、20.3mm以上である。
【0008】
上記の眼軸長測定装置では、インボリュート反射体を用いることによって、参照光学系の光路長を広い範囲で変化させることができる。また、インボリュート反射体のインボリュート曲線が、参照光の光軸上において集光レンズの焦点から見て長短両方向にレイリー長だけ離れた2点間の領域内に配置され、レイリー長を20.3mm以上にすることによって、被検眼の深さ方向全体を測定することができる。このため、参照光学系の光路長を変化させる可変ディレイライン(すなわち、インボリュート反射体)を大型化することなく、被検眼の眼軸長を測定できる。このようにして、コストを低減した小型の眼軸長測定装置を実現できる。
【0009】
また、本明細書に開示する技術の他の態様では、眼軸長測定装置は、光源と、光源からの光を被検眼に照射すると共に、被検眼からの反射光を導く測定光学系と、光源からの光を導いて参照光とする参照光学系と、測定光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた参照光とを合波した干渉光を受光する受光素子と、受光素子で受光した干渉光を干渉信号に変換して、干渉信号から被検眼の眼軸長を測定する演算部と、を備えている。参照光学系は、インボリュート反射体と、重量バランサと、を備えている。インボリュート反射体は、回転軸の周りに回転可能とされると共に、光源からの光が照射される外周部を備えており、回転軸に沿ってみたときに外周部はインボリュート曲線を有しており、インボリュート曲線によって参照光の光路長を変更する。重量バランサは、インボリュート反射体に取付けられ、インボリュート反射体と一体となって回転する。回転軸に沿ってインボリュート反射体及び重量バランサをみたときに、重量バランサを取付けたインボリュート反射体の重心がインボリュート反射体の回転軸上に位置するように、重量バランサがインボリュート反射体に取付けられている。
【0010】
上記の眼軸長測定装置では、インボリュート反射体を用いることによって、参照光学系の光路長を広い範囲で変化させることができる。一方で、例えばインボリュート反射体が1つのインボリュート曲線のみを備え、かつ重量バランサを備えない場合、インボリュート反射体はその回転軸に対して回転対称性のない構造を持つ。このようなインボリュート反射体を回転させると、重量バランスの不均衡によってインボリュート反射体が振動するおそれがある。また、インボリュート反射体がインボリュート反射体の重心の周りに回転するように回転軸を設置すれば、インボリュート反射体はバランス良く回転する。しかしながら、インボリュート反射体の回転軸の位置をインボリュート反射体の中心からずらすと、インボリュート曲線により調整される参照光の光路長が、所望の範囲にならないことがある。上記の眼軸長測定装置では、インボリュート反射体に重量バランサを取り付けることによって、インボリュート反射体の回転軸上に、インボリュート反射体の重心を移すことができる。このため、インボリュート反射体をバランス良く回転させることができる。なお、インボリュート反射体は、インボリュート反射体の重心をその回転軸上に配置するだけでなく、インボリュート反射体の重心をインボリュート反射体の回転軸及びインボリュート反射体へ入射する光の光軸中心線が成す平面上に配置してもよい。これにより、最適な重量バランスを取ることができる。ただし、インボリュート反射体の重心は、インボリュート反射体の回転軸上のどこかにあればよく、実用上は十分である場合が多い。
【0011】
また、本明細書に開示する技術の他の態様では、眼軸長測定装置は、光源と、光源からの光を被検眼に照射すると共に、被検眼からの反射光を導く測定光学系と、光源からの光を導いて参照光とする参照光学系と、測定光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた参照光とを合波した干渉光を受光する第1受光素子と、第1受光素子で受光した干渉光を干渉信号に変換して、干渉信号から被検眼の眼軸長を測定する演算部と、を備えている。参照光学系は、インボリュート反射体と、分岐手段と、第2受光素子と、を備えている。インボリュート反射体は、回転軸の周りに回転可能とされると共に、光源からの光が照射される外周部を備えており、回転軸に沿ってみたときに外周部はインボリュート曲線を有しており、インボリュート曲線によって参照光の光路長を変更する。分岐手段は、インボリュート反射体からの反射光の一部を分岐する。第2受光素子は、分岐手段で分岐されたインボリュート反射体からの反射光の一部を受光する。演算部は、第2受光素子で受光した光から、干渉信号のサンプリングの開始を規定するトリガー信号を生成する。
【0012】
上記の眼軸長測定装置では、インボリュート反射体を用いることによって、参照光学系の光路長を広い範囲で変化させることができる。また、インボリュート反射体からの反射光は、インボリュート曲線に沿って光路長が変化する。例えば、徐々に光路長が大きくなり、光路長が最大になった後に光路長が最小となる。このように光路長が最大から最小に切り替わる部分では、反射面が非連続であるため、反射光量が局所的に急峻に低下する。このような反射光量の局所的な変化を利用することで、トリガー信号を容易に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1に係る眼軸長測定装置の光学系の概略構成を示す図。
図2】インボリュート反射体を示す図。
図3】実施例1に係る眼軸長測定装置の制御系を示すブロック図。
図4】実施例1に係る眼軸長測定装置の光学系の他の一例の概略構成を示す図。
図5】インボリュート反射体とインボリュート反射体に集光した光を照射するレンズを示す図。
図6】インボリュート反射体に集光した光を照射するレンズから照射される光の焦点付近を示す模式図。
図7】インボリュート反射体と、インボリュート反射体に集光した光を照射するレンズと、当該レンズに平行光を照射するコリメートレンズを示す図。
図8】インボリュート反射体と重量バランサを示す斜視図。
図9】インボリュート反射体と重量バランサの他の一例を示す図。
図10】深さ方向に分解された干渉信号の模式図。
図11】実施例2に係る眼軸長測定装置の光学系の概略構成を示す図。
図12】実施例2に係る眼軸長測定装置の光学系の他の一例の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0015】
本明細書に開示する技術の第2の態様では、上記の第1の態様において、参照光学系は、焦点レンズより光源側に配置され、焦点レンズにコリメート光を照射するコリメートレンズをさらに備えていてもよい。光源から出射される光の波長と、集光レンズから集光レンズの焦点までの距離と、コリメートレンズから集光レンズに入射する光の直径と、の少なくとも1つが、レイリー長が20.3mm以上となるように調整可能に構成されていてもよい。このような構成によると、レイリー長が20.3mm以上となるように、適切に調整することができる。
【0016】
本明細書に開示する技術の第3の態様では、上記の第1又は第2の態様において、参照光学系は、インボリュート反射体に取付けられ、インボリュート反射体と一体となって回転する重量バランサをさらに備えていてもよい。回転軸に沿ってインボリュート反射体及び重量バランサをみたときに、重量バランサを取付けたインボリュート反射体の重心がインボリュート反射体の回転軸上に位置するように、重量バランサがインボリュート反射体に取付けられていてもよい。
【0017】
本明細書に開示する技術の第4の態様では、上記の第1の態様において、眼軸長測定装置は、参照光学系に配置され、インボリュート反射体からの反射光の一部を分岐する光学素子と、光学素子で分岐されたインボリュート反射体からの反射光の一部を受光する第2受光素子と、をさらに備えていてもよい。演算部は、第2受光素子で受光した光から、干渉信号のサンプリングの開始を規定するトリガー信号を生成してもよい。
【0018】
本明細書に開示する技術の第5の態様では、上記の第4の態様において、光学素子は、光源からの光をインボリュート反射体に導く光路上であって、インボリュート反射体からの反射光を第1受光素子に導く光路上に配置されていてもよい。光学素子は、光源からの光をインボリュート反射体に照射する照射光と第2分岐光とにさらに分岐するように構成されていてもよい。眼軸長測定装置は、光学素子で分岐された第2分岐光を受光する第3受光素子をさらに備えていてもよい。このような構成によると、第3受光素子を備えることによって、光源の出力を監視することができる。また、第2受光素子に光を分岐するための光学素子を用いて、光源からの光の一部である第2分岐光を第3受光素子に受光させるため、装置内に設置する光学部材を増加させることなく、光源の出力を監視する構成を追加することができる。
【実施例0019】
(実施例1)
図面を参照して、実施例に係る眼軸長測定装置1について説明する。図1に示すように、眼軸長測定装置1は、被検眼100から反射される反射光と参照光とを干渉させる干渉光学系10と、被検眼100に対して干渉光学系10を所定の位置関係にアライメントするためのアライメント光学系(図示省略)と、信号処理部50を有している。アライメント光学系は、公知の光断層画像撮影装置に用いられているものを用いることができるため、その詳細な説明は省略する。
【0020】
干渉光学系10は、光源12と、光源12の光を被検眼100に照射すると共にその反射光を生成する測定光学系16と、光源12の光から参照光を生成する参照光学系20と、測定光学系16により導かれた反射光と参照光学系20により導かれた参照光とを合波した干渉光を受光する受光素子40を備えている。
【0021】
光源12は、広帯域光源であり、本実施例では、スーパールミネッセントダイオード(SLD)である。本実施例の眼軸長測定装置1は、タイムドメイン方式(いわゆる、TD-OCT方式)を用いる。光源12は、平行光を出射する。
【0022】
測定光学系16は、ビームスプリッタ14と、レンズ18を備えている。光源12から出射された光(平行光)は、ビームスプリッタ14に照射される。ビームスプリッタ14に照射された光は、測定光と参照光に分岐する。ビームスプリッタ14を通過した測定光は、レンズ18で集光され、被検眼100に照射される。レンズ18は、レンズ18で集光した光の焦点位置が、被検眼100の内部に位置するように配置されている。すなわち、レンズ18としては、固定焦点を持つレンズが用いられる。被検眼100からの反射光(具体的には、被検眼100の角膜前面、角膜後面、水晶体前面、水晶体後面、網膜の内境界膜及び網膜色素上皮のそれぞれからの反射光)は、上記とは逆に、レンズ18を介してビームスプリッタ14へ導かれ、ビームスプリッタ14から受光素子40へ導かれる。
【0023】
参照光学系20は、ビームスプリッタ14と、ミラー22と、分散補正プリズム24と、ナイフエッジ26と、レンズ28と、インボリュート反射体30と、重量バランサ38(図8及び図9参照)を備えている。なお、重量バランサ38については、後に詳述する。ビームスプリッタ14で反射された参照光は、ミラー22で反射され、分散補正プリズム24に照射される。分散補正プリズム24を透過した参照光は、ナイフエッジ26に照射される。参照光の一部はナイフエッジ26によって遮蔽されるため、参照光の光量が調整される。ナイフエッジ26を通過した参照光は、レンズ28で集光され、インボリュート反射体30に照射される。
【0024】
図2に示すように、インボリュート反射体30は、板状であり、回転軸32の周りに回転するように構成されている。インボリュート反射体30の外周部34は、回転軸32に沿ってみたときにインボリュート曲線を有している。インボリュート曲線とは、曲線上の各点(例えば、C点)を通過する当該曲線の法線がエボリュート円36に接する曲線である。本実施例では、インボリュート反射体30は、1つのエボリュート円36に対する1つのインボリュート曲線を備えている。図2では、インボリュート曲線は、回転軸32を中心座標(0,0)とする半径aのエボリュート円36に接する曲線である。インボリュート曲線上の座標を(x,y)とし、回転軸32の周りに回転する回転角をθとすると、インボリュート曲線上の座標は、以下の数1で表す式で示される。
【0025】
【数1】
【0026】
インボリュート反射体30は、外周部34に参照光が照射されるように配置される。すなわち、インボリュート反射体30は、回転軸32が光軸と直交すると共に、外周部34が光軸上に位置するように配置される。インボリュート反射体30は、第2駆動装置54(図3参照)の駆動力によって回転軸32の周りに回転するように構成されている。インボリュート反射体30を回転軸32の周りに回転させながら、インボリュート反射体30の外周部34に参照光を照射することによって、レンズ28とインボリュート反射体30の間で参照光の光路長が往復で変化する。具体的に説明するために、外周部34上の位置のうち、回転軸32からの距離が最も短くなる位置を位置Aとして、回転軸32からの距離が最も長くなる位置を位置Bとする。インボリュート反射体30のインボリュート曲線に沿って参照光が照射されるようにインボリュート反射体30を回転させたとき(すなわち、図2のインボリュート反射体30を時計回りに回転させたとき)、参照光が位置Aからインボリュート曲線に沿って位置Bまで照射される間、参照光の光路長は徐々に長くなる。図2では、インボリュート反射体30に照射される参照光を矢印で示している。インボリュート反射体30を回転軸32の周りに時計回りに回転させると、インボリュート反射体30に参照光が照射される深さ方向の位置Cは、aθと表すことができる。インボリュート反射体30を一回転させると、θ=2πとなるため、インボリュート反射体30に参照光が照射される深さ方向の長さは、2aπだけ変化する。なお、上記ではインボリュート反射体30を時計回りに回転させる場合を例にして説明したが、インボリュート反射体30は、反時計回りに回転させてもよい。
【0027】
上述したように、本実施例のインボリュート反射体30は、1つのエボリュート円36に対する1つのインボリュート曲線を備えている。例えば、インボリュート反射体が、1つのエボリュート円36に対して複数のインボリュート曲線を備えている場合には、インボリュート反射体を一回転する間に複数回の深さ掃引が行われる一方で、インボリュート反射体に参照光が照射される深さ方向の長さ掃引レンジが小さくなる。このため、被検眼100の深さ方向の測定範囲を大きくするためには、エボリュート円36の直径を長くしたインボリュート反射体を用いる必要が生じる。本実施例では、インボリュート反射体30に設けられるインボリュート曲線が、1つのエボリュート円36に対して1つのみであることによって、1つのインボリュート曲線による参照光が照射される深さ方向の変化量(光路長差)を大きくすることができる。このため、インボリュート反射体30を大型化させることなく、被検眼100の深さ方向の測定範囲を大きくすることができる。
【0028】
図1に示すように、インボリュート反射体30からの反射光は、上記とは逆に、レンズ28、ナイフエッジ26、分散補正プリズム24及びミラー22を介してビームスプリッタ14に導かれ、ビームスプリッタ14から受光素子40に導かれる。
【0029】
受光素子40は、被検眼100からの反射光(測定光)とインボリュート反射体30からの反射光(参照光)とを合成した干渉光を検出する。受光素子40は、干渉光を受光すると、それに応じた電気的な干渉信号を信号処理部50に出力する。受光素子40としては、例えば、フォトダイオードを用いることができる。
【0030】
信号処理部50は、バンドパスフィルタ42と、エンベロープ検出器44と、対数アンプ46と、データ取得ボード48を備えている。信号処理部50で処理された干渉信号は、演算部58(図3参照)に入力される。
【0031】
受光素子40から出力される干渉信号は、搬送周波数を持った信号となる。搬送周波数をfcとし、インボリュート反射体30の回転によるインボリュート反射体30の反射面の深さ方向の位置の移動速度をvRとし、光源12から出射される光の中心波長をλ0とすると、搬送周波数fcは、以下の数2で表す式で示される。
【0032】
【数2】
【0033】
上記の数2で表す式の搬送周波数fcの包絡線は、深さ分解された被検眼100からの反射光強度を示す。受光素子40から出力される干渉信号のうち、搬送周波数fcの近傍の信号周波数成分のみが必要な信号であり、搬送周波数fcから離れた信号周波数成分は不要なノイズである。したがって、不要なノイズを除去するために適切にフィルタリングする必要がある。この目的のため、干渉信号はバンドパスフィルタ42において搬送周波数fcが透過周波数帯の中心となるようにフィルタリングされる。
【0034】
バンドパスフィルタ42でフィルタリングされた干渉信号は、エンベロープ検出器44に出力される。エンベロープ検出器44は、干渉信号から搬送周波数fcを除去する。これにより、干渉信号中の包絡線の信号のみが抽出される。なお、エンベロープ検出器44の代わりに、復調器を用いてもよい。次いで、エンベロープ検出器44で処理された干渉信号(すなわち、包絡線の信号のみが抽出された干渉信号)は、対数アンプ46に出力される。対数アンプ46は、干渉信号を対数的に増幅する。対数アンプ46で増幅された干渉信号は、データ取得ボード48に出力される。データ取得ボード48は、干渉信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。データ取得ボード48で処理された干渉信号は、演算部58(図3参照)に出力される。
【0035】
また、受光素子40は、上述したようにバンドパスフィルタ42等を介して干渉信号をデータ取得ボード48に出力すると共に、バンドパスフィルタ42等を介することなく干渉信号をデータ取得ボード48に直接出力する。データ取得ボード48は、受光素子40から直接出力された信号のうち、上記搬送周波数fcよりも低い信号周波数成分を利用してトリガー信号を生成する。なお、データ取得ボード48は、トリガー信号に対してローパスフィルタを備えていてもよい。データ取得ボード48がローパスフィルタを備えることによって、受光素子40から直接出力された信号から干渉信号を除去し、参照光強度に対応したトリガー信号を生成することができる。ここで、トリガー信号は干渉信号のサンプリングの開始を規定する信号である。図2に示すインボリュート反射体30が回転するとき、その外周部34上の位置Aと位置Bの間の段差において参照光が受光素子40へ導かれる光量は瞬間的に減少する。この理由は、位置Aや位置Bにおける不連続な反射面の有限な工作精度によるものである。このような参照光の光量の瞬間的な減少をトリガー信号として利用することができる。
【0036】
また、本実施例の眼軸長測定装置1では、被検眼100に対して眼軸長測定装置1の位置を調整するための位置調整機構56(図3参照)と、その位置調整機構56を駆動する第1駆動装置52(図3参照)を備えている。第1駆動装置52が、検査者の操作部材の操作に応じて位置調整機構56を駆動することで、被検眼100に対する眼軸長測定装置1のxy方向(縦横方向)の位置とz方向(進退動する方向)の位置が調整される。
【0037】
次に、本実施例の眼軸長測定装置1の制御系の構成を説明する。図3に示すように、眼軸長測定装置1は演算部58によって制御される。演算部58は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータ(マイクロプロセッサ)によって構成されている。演算部58には、光源12と、第1駆動装置52と、第2駆動装置54と、データ取得ボード48が接続されている。演算部58は、光源12のオン/オフを制御し、第1駆動装置52を制御することで位置調整機構56を駆動し、第2駆動装置54を制御することでインボリュート反射体30を駆動する。また、演算部58は、データ取得ボード48から干渉信号を取得する。
【0038】
なお、本実施例では、干渉光学系10は光ファイバを備えていないが、図4に示すように、眼軸長測定装置2は、光ファイバを用いて干渉光学系110を構築してもよい。図4では、光ファイバは、シングルモードファイバ(SMF)である。
【0039】
干渉光学系110は、光源12と、測定光学系116と、参照光学系120と、受光素子40を備えている。なお、光源12は、図1の光源12と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0040】
測定光学系116は、ファイバカプラ114と、コリメートレンズ160と、レンズ18と、偏光コントローラ162を備えている。光源12から出射された光は、SMFを通ってファイバカプラ114に入力される。ファイバカプラ114に入力された光は、測定光と参照光に分波されて出力される。ファイバカプラ114から出力された測定光は、コリメートレンズ160に向かって出射される。コリメートレンズ160に出射された測定光は、平行光となり、レンズ18を介して被検眼100に照射される。被検眼100からの反射光は、上記とは逆に、レンズ18を介してコリメートレンズ160に導かれる。コリメートレンズ160に入力された反射光は、SMFを通り、ファイバカプラ114に入力される。偏光コントローラ162は、ファイバカプラ114とコリメートレンズ160との間に配置されるSMFに配置されている。具体的には、偏光コントローラ162は、SMFを複数のパドルに巻き付けることによって構成されている。偏光コントローラ162は、測定光の偏光状態を制御する。
【0041】
参照光学系120は、ファイバカプラ114と、コリメートレンズ166と、分散補正プリズム24と、ナイフエッジ26と、レンズ28と、インボリュート反射体30と、偏光コントローラ164を備えている。ファイバカプラ114から出力された参照光は、コリメートレンズ166に向かって出射される。コリメートレンズ166に出射された参照光は、平行光となり、分散補正プリズム24に照射される。そして、ナイフエッジ26及びレンズ28を介してインボリュート反射体30に照射される。なお、分散補正プリズム24、ナイフエッジ26、レンズ28及びインボリュート反射体30は、図1と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。インボリュート反射体30からの反射光は、上記とは逆に、レンズ28、ナイフエッジ26及び分散補正プリズム24を介してコリメートレンズ166に導かれる。コリメートレンズ166に入力された反射光は、SMFを通り、ファイバカプラ114に入力される。偏光コントローラ164は、ファイバカプラ114とコリメートレンズ166との間に配置されるSMFに配置されている。具体的には、偏光コントローラ164は、SMFを複数のパドルに巻き付けることによって構成されている。偏光コントローラ164は、参照光の偏光状態を制御する。
【0042】
ファイバカプラ114は、入力された被検眼100からの反射光とインボリュート反射体30からの反射光を合波して受光素子40に入力する。受光素子40は、入力された被検眼100からの反射光とインボリュート反射体30からの反射光とを合成した干渉光を生成し、それに応じた干渉信号を信号処理部50に出力する。なお、信号処理部50における干渉信号の処理については、図1と同様であるため、詳細な説明は省略する。図4に示すように、干渉光学系110が光ファイバを用いて構築されていると、光源12、測定光学系116、参照光学系120及びファイバカプラ114の光学調整を、それぞれ独立して行うことができる。
【0043】
ここで、ファイバカプラ114で合波される参照光と測定光の偏光状態が一致しているほど干渉信号強度は強くなる。SMFに加えて、例えば角膜等の一部の生体組織は複屈折を持ち、測定光学系116と参照光学系120はそれぞれ異なる複屈折を持つ。そのため、ファイバカプラ114で合波される参照光と測定光の偏光状態は一般に一致せず、干渉信号強度が減衰する原因となる。本実施例では、偏光コントローラ162及び164を用いて参照光の偏光状態と測定光の偏光状態が一致するように調整する。これにより、干渉信号強度を最大にすることができる。この調整は工場出荷時に行われる。なお、参照光の偏光状態と測定光の偏光状態の調整は、偏光コントローラ162及び164を電動化して被検眼100を測定するたびに行ってもよい。
【0044】
ここで、インボリュート反射体30について、さらに詳細に説明する。具体的には、インボリュート反射体30への光照射光学系についてと、インボリュート反射体30の重量バランスについて説明する。
【0045】
まず、インボリュート反射体30への光照射光学系について説明する。上述したように、インボリュート反射体30には、レンズ28で集光された光が照射される。インボリュート反射体30は、その反射面(外周部34)が光軸に対して僅かに傾いてしまうことがある。すると、インボリュート反射体30からの反射光が入射した方向と同じ方向へ戻らなくなるため、例えばインボリュート反射体30に平行光を入射した場合には、コリメートレンズ166を通してSMFへカップリングする光のロスが大きくなってしまう。本実施例では、レンズ28が集光レンズであることにより、インボリュート反射体30の反射面が傾いた場合であっても、インボリュート反射体30からの反射光がレンズ28を通過すると、光軸が横ずれするだけで光軸の向きは不変である。したがって、反射面の傾きによる戻り光のカップリングロスの変化は大きくない。一方で、インボリュート反射体30が回転して反射深さが変化し、反射位置が焦点から深さ方向にずれると、SMFの端面で戻り光はデフォーカスするため、カップリングロスが発生する。この影響を防ぐには、レンズ28として可変焦点レンズを用いる必要が生じる。しかし、可変焦点レンズは高価である上に、焦点距離を変化させるために一定の時間がかかるため、インボリュート反射体の回転速度に大きな制約が発生してしまう。そこで、レンズ28は固定焦点レンズとし、以下のようにインボリュート反射体30に照射する光の焦点深度を適切に設定する。これにより、レンズ28として固定焦点レンズを用いながら、インボリュート反射体30に光が照射される深さ方向の位置の全ての範囲について、インボリュート反射体30からの反射光をレンズ28に導くことができる。このため、SMFへのカップリングロスを最小限にすることができる。
【0046】
図5に示すように、レンズ28で集光された光は、インボリュート反射体30の外周部34又はその近傍に焦点を結ぶ。レンズ28で集光された光の焦点位置は、光の回析現象により幅(ビームウエスト)を有する。ここで、レンズ28で集光された光の焦点位置のビームウエストを2w0とする。図6は、レンズ28で集光された光の焦点付近を示す模式図である。レンズ28で集光された光の焦点位置のビームウエスト2w0は、典型的にはビーム中心の光強度に対して1/e2となる幅で定義される。このとき、光の焦点位置から、ビームウエストが2w0の1/2乗の2倍(2ルート2w0)となるまでの光軸方向の距離は、レイリー長zRと呼ばれる。図6に示すように、光の焦点位置を中心とする2zRの範囲ではビームウエストは十分に小さく、この範囲内全体を焦点として近似的に扱うことができる。このため、本実施例では、光の焦点位置を中心とする2zRの範囲内に、インボリュート反射体30を回転させたときのインボリュート反射体30の反射面(外周部34)のほぼ全てが収まるように、インボリュート反射体30の位置を設定する。これにより、回転するインボリュート反射体30からの反射光が安定した光量でSMFへカップリングされる。
【0047】
上記2zRは、以下の数3で表す式で示される。なお、λ0は、光源12から出射される光の中心波長を示す。
【0048】
【数3】
【0049】
典型的なヒトの眼軸長を確実に測定できるよう、2zRは一定以上の長さでなければならない。日本人の成人の眼軸長の分布を参照すると、日本人の成人の多くは22~25mmの眼軸長を有しており(Kumagai, K. et al. Birth Year-Dependent Increase in Axial Length of Japanese Adult. Am. J. Ophthalmol. 232, 98-108 (2021) )、統計的に眼軸長が30mmまで測定可能であれば、日本人の成人のほとんどの被検眼100の眼軸長を測定することができる。眼の屈折率を1.3549とすると、2zRが30×1.3549以上、すなわち、2zR≧40.6を満たせば、日本人の成人のほとんどの被検眼100の眼軸長が測定可能となる。また、眼軸長の分布は、人種のよる差がほとんどないことが知られている。このため、日本人の成人の眼軸長の分布に基づいて設定した2zR≧40.6という範囲は、日本人の成人に限らず、全ての人種に対して適用することができる。
【0050】
眼軸長を測定する際には、光源12から出射される光の中心波長λ0は、水の光吸収と視感度がいずれも小さい数値を用いるとよいことが知られている(山成正宏「OCT技術の基本を紐解こう」 視覚の科学 39, 37-44 (2018))。また、この条件を満たす波長帯としては、約780~950nm及び1000~1100nmが知られている。そこで、以下では、光源12から出射される光の中心波長λ0が850nmである場合を例にする。すると、上記の数3で表す式及び上記の2zR≧40.6という範囲から、ビームウエストが2w0≧148μmとなるように、参照光学系20、120を構築すればよいことがわかる。
【0051】
2zRを示す式については、上記の数3で表す式の他に、以下の数4で表す式も成り立つ。図7は、図4の眼軸長測定装置2のコリメートレンズ166からインボリュート反射体30までの間の光学系を示している。図面を見易くするために、コリメートレンズ166、レンズ28及びインボリュート反射体30のみを図示しており、その他の構成については図示を省略している。図7では、fは、レンズ28からレンズ28で集光された光の焦点位置までの距離を示し、dは、レンズ28に入射する平行光のビーム直径を示している。2zRは、以下の数4で表す式で示される。
【0052】
【数4】
【0053】
上述したように、2zR≧40.6、λ0=850nmとする。また、d=500μmとする。すると、上記の数4で表す式から、f≧48.4mmを満たせばよいことがわかる。したがって、レンズ28から焦点位置までの距離が48.4mmとなるように、レンズ28及びインボリュート反射体30を設置すれば、ほぼすべての被検眼100(ただし、下記の強度近視眼を除く)について眼軸長を測定することができる。
【0054】
強度近視眼は正常眼よりも眼軸長が長いため、上記の条件では眼軸長を測定できない場合がある。文献(例えば、Saka, N. et al. Long-term changes in axial length in adult eyes with pathologic myopia. Am. J. Ophthalmol. 150, 562-568.e1 (2010))によれば、ほとんどの強度近視眼の眼軸長についても測定可能とするためには、眼軸長の測定可能範囲を、例えば35mm以上とする必要がある。したがって、2zRが35×1.3549以上、すなわち、2zR≧47.4という条件を満たす必要がある。また、上記と同様に、λ0=850nm、d=500μmとする。すると、上記の数4で表す式から、f≧52.3mmを満たせばよいことがわかる。したがって、レンズ28から焦点位置までの距離が52.3mmとなるように、レンズ28及びインボリュート反射体30を設置すれば、被検眼100が強度近視眼であったとしても、ほぼすべての被検眼100の眼軸長を測定することができる。また、fは100mm以下となるように設定することができる。fが長すぎると、レンズ28とインボリュート反射体30の間の距離が長くなり、眼軸長測定装置1が大型化する。fを100mm以下にすることによって、ほぼすべての被検眼100の眼軸長を測定可能であると共に、眼軸長測定装置1が大型化することを抑制することができる。
【0055】
ここで、インボリュート反射体30の大きさの一例について説明する。インボリュート反射体30の大きさとしては、図2に示すインボリュート反射体30のエボリュート円36の半径aを8mmとする。この場合、インボリュート反射体30が一回転すると(すなわち、θが0から2πに変化すると)、インボリュート反射体30の反射面(外周部34)の長さの変化量(すなわち、深さ方向の変化量)は、2aπ=50.3mmとなる。上述したように、ほとんどの被検眼100は、眼軸長が30mm以下であり、被検眼100が強度近眼であった場合でも、眼軸長は35mm以下である。このため、エボリュート円36の半径aが8mm以上のインボリュート反射体30を用いれば、どのような被検眼100であっても、眼軸長を測定することができる。
【0056】
また、インボリュート反射体30の回転速度は特に限定されないが、一例としては100Hzとすることができる。この場合、インボリュート反射体30の反射面の深さ方向の位置の移動速度をvRは、5030mm/秒となる。上述したように、光源12から出射される光の中心波長λ0を850nmとすると、上記の数2で表す式から、搬送周波数fcは、11.8MHzとなる。
【0057】
次に、インボリュート反射体30の重量バランスについて説明する。図8に示すように、インボリュート反射体30には、重量バランサ38が取り付けられている。上述したように、本実施例のインボリュート反射体30は1つのエボリュート円36に対する1つのインボリュート曲線を備えている(図2参照)。また、インボリュート反射体30の回転軸32はエボリュート円36の中心と一致している。インボリュート反射体30を均一な材料を用いて均一な厚さで形成すると、インボリュート反射体30の重心と回転軸32の位置がずれる。このため、インボリュート反射体30のみを回転軸32の周りに回転させると、不要な振動が生じてしまう。重量バランサ38は、重量バランサ38を取り付けたインボリュート反射体30の重心が回転軸32上に位置するように、インボリュート反射体30に取り付けられている。なお、重量バランサ38を取り付けたインボリュート反射体30の重心が回転軸32上に位置すればよく、重量バランサ38の形状については特に限定されない。インボリュート反射体30に重量バランサ38を取り付けることによって、インボリュート反射体30を回転軸32の周りに回転させたときに、不要な振動が生じることを抑制することができる。
【0058】
また、図9は、インボリュート反射体30に取り付けられる重量バランサ138の他の一例を示している。図9に示すように、重量バランサ138は、インボリュート反射体30と同一の形状を有しており、また、インボリュート反射体30と同一の重量分布を有している。重量バランサ138は、その上面がインボリュート反射体30の下面に当接している。重量バランサ138は、インボリュート反射体30の回転軸32の周りに180度回転させた位置に取り付けられている。インボリュート反射体30に重量バランサ138を取り付けることによって、重量バランサ38を取り付けたインボリュート反射体30の重心を回転軸32上に位置させることができる。
【0059】
図10は、本実施例の眼軸長測定装置1、2を用いて取得した干渉信号(いわゆるAスキャン信号)の模式図である。上述したように参照光学系20、120にインボリュート反射体30を配置することによって、被検眼100の角膜前面、角膜後面、水晶体前面、水晶体後面、網膜の内境界膜及び網膜色素上皮のそれぞれの干渉信号を、深さ方向に分解して検出することができる。
【0060】
(実施例2)
上記の実施例1においてデータ取得ボード48は受光素子40から出力された干渉信号を用いてトリガー信号を生成したが、必ずしもこのような構成に限定されない。図11に示すように、データ取得ボード48は参照光学系220から分岐した光を用いてトリガー信号を生成してもよい。本実施例の眼軸長測定装置3は光ファイバを用いて干渉光学系110を構築している。このため、実施例1の図4に示す眼軸長測定装置2と異なる構成について説明する。
【0061】
眼軸長測定装置3は、干渉光学系210を備えている。干渉光学系210は、光源12と、測定光学系116と、参照光学系220と、バランス検出器240を備えている。なお、光源12は、図4の光源12と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0062】
光源12から出射された光は、SMFを通ってファイバカプラ268に入力される。ファイバカプラ268に入力された光は分波され、ファイバカプラ114と光アッテネータ270にそれぞれ出力される。光アッテネータ270に入力された光は、SMFを通ってバランス検出器240のポートAに入力される。このようにファイバカプラ268からバランス検出器240のポートAまでを伝搬する光の経路を経路1と呼ぶことにする。ファイバカプラ268と光アッテネータ270との間に配置されるSMFには、光路長差生成部272が設けられている。ここで、ファイバカプラ268で分岐されたあとインボリュート反射体30で反射され、後述するバランス検出器240のポートBまでを伝搬する光の経路を経路2と呼ぶことにする。経路1にある光路長差生成部272によって、経路1の光路長と経路2の光路長がほぼ一致するように経路1の光路長が調整される。理想的には、インボリュート反射体30が変調する光路長が中央値を取る場合の経路2の光路長と経路1の光路長が一致するように光路長差生成部272が調整されることが望ましい。上記の条件から外れるほど、バランス検出器240においてコモンモードノイズが低減される信号周波数帯が制限されることになる。実用上は、10cm程度のオーダーの誤差で経路1と経路2の光路長が一致していれば問題ない。
【0063】
ファイバカプラ114に入力された光は、測定光と参照光に分波されて出力される。ファイバカプラ114から出力された測定光は、測定光学系116において被検眼100に照射され、その反射光が再びファイバカプラ114に入力される。なお、測定光学系116は、実施例1の図4に示す眼軸長測定装置2の測定光学系116と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0064】
参照光学系220は、ファイバカプラ114と、コリメートレンズ166と、ビームスプリッタ274と、分散補正プリズム24と、ナイフエッジ26と、レンズ28と、インボリュート反射体30と、偏光コントローラ164と、光検出器276、280を備えている。ファイバカプラ114から出力された参照光は、コリメートレンズ166に向かって出射され、コリメートレンズ166からビームスプリッタ274に出射される。ビームスプリッタ274で反射(分岐)された参照光(すなわち、インボリュート反射体30に照射される前の参照光)は、光検出器276に入力する。なお、本実施例ではビームスプリッタ274を用いて光を分岐しているが、このような構成に限定されない。光を分岐する光学素子であればビームスプリッタ274の代わりに用いることができ、例えば、溶融型ファイバカプラを用いてもよい。光検出器276は、入力した参照光を出力モニタ278に出力する。インボリュート反射体30に照射される前の参照光を出力モニタ278でモニタすることによって、光源12の出力パワーをモニタすることができる。
【0065】
コリメートレンズ166から出射されてビームスプリッタ274を透過した参照光は、分散補正プリズム24に照射される。そして、ナイフエッジ26及びレンズ28を通過してインボリュート反射体30に照射される。インボリュート反射体30からの反射光は、レンズ28、ナイフエッジ26及び分散補正プリズム24を通過して、再びビームスプリッタ274に照射される。なお、分散補正プリズム24、ナイフエッジ26、レンズ28及びインボリュート反射体30は、図1と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。また、偏光コントローラ164も、図1と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。ビームスプリッタ274を透過したインボリュート反射体30からの反射光は、コリメートレンズ166に照射され、SMFを通ってファイバカプラ114に入力される。
【0066】
ビームスプリッタ274で反射(分岐)したインボリュート反射体30からの反射光は、光検出器280に入力する。光検出器280は、入力したインボリュート反射体30からの反射光をデータ取得ボード48に出力する。データ取得ボード48は、光検出器280から出力されたインボリュート反射体30からの反射光を用いてトリガー信号を生成する。上記の実施例1では、データ取得ボード48は、受光素子40から出力された干渉信号を用いてトリガー信号を生成した。干渉信号には、インボリュート反射体30からの反射光だけでなく、被検眼100からの反射光も含まれている。本実施例では、インボリュート反射体30からの反射光のみを用いてトリガー信号を生成するため、より鋭敏なトリガー信号を生成することができる。また、上述したように、ビームスプリッタ274は、インボリュート反射体30に照射される前の参照光を光検出器276へと分岐すると共に、インボリュート反射体30からの反射光を光検出器280へと分岐する。参照光学系220に1つのビームスプリッタ274を配置することによって、光学部材を増加させることなく、光源12の出力パワーをモニタする構成と、トリガー信号生成用の光をデータ取得ボード48に出力する構成の両方を実現することできる。
【0067】
ファイバカプラ114は、入力された被検眼100からの反射光とインボリュート反射体30からの反射光を合波してバランス検出器240のポートBに入力する。バランス検出器240は、ポートBから入力された被検眼100からの反射光とインボリュート反射体30からの反射光とを合成した干渉光を生成し、それに応じた干渉信号を信号処理部50に出力する。なお、信号処理部50における干渉信号の処理については、図1と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、バランス検出器240は、ポートAから入力された光を用いて、光源12が有するコモンモードノイズをキャンセルする。これによって、被検眼100の角膜前面、角膜後面、水晶体前面、水晶体後面、網膜の内境界膜及び網膜色素上皮のそれぞれの干渉信号の信号対ノイズ比(SNR)を向上させることができる。
【0068】
なお、バランス検出器240のポートAへの入力経路は、図12に示すような経路であってもよい。図12に示すように、眼軸長測定装置4は、干渉光学系310を備えている。干渉光学系310は、光源12と、測定光学系116と、参照光学系220と、バランス検出器240を備えている。なお、光源12、測定光学系116及び参照光学系220は、上記の眼軸長測定装置3と同様の構成であるため、詳細な説明は省略する。
【0069】
光源12から出射された光は、SMFを通ってファイバカプラ368を介してファイバカプラ314に出力される。ファイバカプラ314に入力された光は、分波して、測定光学系116と参照光学系220にそれぞれ出力される。そして、測定光学系116による被検眼100からの反射光と、参照光学系220によるインボリュート反射体30からの反射光が、ファイバカプラ314に入力される。ファイバカプラ314は、入力された被検眼100からの反射光とインボリュート反射体30からの反射光を合波して、ファイバカプラ368とバランス検出器240のポートBにそれぞれ出力する。ファイバカプラ368は、入力された被検眼100からの反射光とインボリュート反射体30からの反射光を、バランス検出器240のポートAに出力する。なお、バランス検出器240のポートA及びポートBで受光した信号のバランスを取るために、バランス検出器240の各ポートのアンプのゲインを調整しても構わない。
【0070】
図11の構成と比較して図12の構成では、バランス検出器240の両方のポートがインボリュート反射体30からの反射光を受光する。この構成により、インボリュート反射体30からの反射光がSMFへ導かれるカップリング効率の時間変化に対してバランス検出器240の両方のポートの光パワーが追従する。そのため、図11の構成よりも図12の構成のほうがコモンモードノイズ低減の効果を高く得ることができる。
【0071】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0072】
1、2、3、4:眼軸長測定装置
10、110、210、310:干渉光学系
12:光源
16、116:測定光学系
20、120、220:参照光学系
28:レンズ
30:インボリュート反射体
32:回転軸
34:外周部
36:エボリュート円
38、138:重量バランサ
40:受光素子
50:信号処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12