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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025713
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】難燃性架橋脂肪族ポリケトン
(51)【国際特許分類】
   C08L 73/00 20060101AFI20240216BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20240216BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20240216BHJP
   C08K 3/016 20180101ALI20240216BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240216BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20240216BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240216BHJP
   C09K 21/04 20060101ALI20240216BHJP
   C09K 21/10 20060101ALI20240216BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08L73/00
C08K5/18
C08L101/02
C08K3/016
C08K3/013
C08J3/24 Z CEZ
C09K3/10 Z
C09K21/04
C09K21/10
C09K21/12
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023128609
(22)【出願日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】22190115
(32)【優先日】2022-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】510057615
【氏名又は名称】カール・フロイデンベルク・カー・ゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】ズッター,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルバッハ,ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ツルクシウス,キラ
【テーマコード(参考)】
4F070
4H017
4H028
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA41
4F070AA54
4F070AB24
4F070AC46
4F070AE01
4F070AE07
4F070AE08
4F070GA06
4F070GB02
4H017AA04
4H028AA07
4H028AA10
4H028AA12
4H028AA25
4H028AA35
4H028BA01
4J002AA072
4J002CJ001
4J002CL032
4J002DE077
4J002DE097
4J002DE127
4J002DE138
4J002DE147
4J002DE148
4J002DE187
4J002DE238
4J002DH047
4J002DH057
4J002DJ008
4J002DJ018
4J002DJ028
4J002DJ038
4J002DJ048
4J002DK007
4J002DK008
4J002EN036
4J002EN076
4J002EN096
4J002ER027
4J002ES006
4J002ET006
4J002EU007
4J002EU117
4J002EU187
4J002EU197
4J002EW047
4J002EW057
4J002EW067
4J002EW127
4J002EW137
4J002FD018
4J002FD137
4J002FD142
4J002FD146
4J002GG01
4J002GH00
4J002GJ02
4J002GK01
4J002GM05
4J002GQ00
4J002GQ01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低燃焼性または難燃性を示しつつ、機械的特性の向上、耐熱性の向上、クリープの低減および耐薬品性の向上を特徴とする架橋脂肪族ポリケトンを難燃剤と組み合わせて含有するポリマーマトリックスを含む成形物品を提供する。
【解決手段】成形物品は、脂肪族ポリケトンを架橋剤とし、特定の少なくとも1つのジアミン源で架橋させてイミン基を形成するポリマーマトリックスと、少なくとも1つの難燃剤(A)を含む。該成形物品の製造方法、ならびに自動車産業、海洋産業、航空宇宙産業、鉄道産業、産業機械およびロボット工学、サービスロボット、石油およびガス産業、エレクトロニクス産業、エネルギーの生成、伝送および分配、コンピュータ産業、事務機械、ラジオおよびテレビ設備、食品および飲料産業、安全技術、包装産業ならびに医療(ヘルスケア)産業における該成形物品の使用も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形物品であって、以下:
c)脂肪族ポリケトンを架橋剤としての少なくとも1つのジアミン源で架橋させてイミン基を形成するポリマーマトリックスであって、前記ジアミン源は、以下:
- 2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)および(III)
【化1】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、前記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、前記アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、前記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、前記アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
13、R14、R15、R16、R17およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、前記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、前記アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、前記アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、および前記化合物を組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
からなる群から選択されるものとする;
b)少なくとも1つの難燃剤(A)
を含む、成形物品。
【請求項2】
前記難燃剤(A)が、リン、マグネシウム、カルシウム、ホウ素、アルミニウム、アンチモン、スズ、亜鉛の無機化合物、有機リン化合物、赤リン、有機含窒素化合物、有機ハロゲン化合物およびそれらの混合物から選択される、請求項1記載の成形物品。
【請求項3】
前記難燃剤(A)が、Mg(OH)2、ホスフェート、ポリホスフェート、ホスファイト、ホスフィネート、ホスホナイト、リン酸エステルおよびホスホン酸エステル、ホスファゼンまたはそれらの混合物から選択される、請求項1または2記載の成形物品。
【請求項4】
前記成形物品が、請求項1から3までのいずれか1項に定義された難燃剤(A)を、前記ポリマーマトリックスの総重量を基準にして5~30重量%の量で含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の成形物品。
【請求項5】
前記成形物品が、少なくとも1つのフィラーおよび補強材ならびに/またはそれらとは異なる添加剤を含み、好ましくは、前記少なくとも1つのフィラーおよび補強材は、ガラス繊維、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、ガラス球、石英粉末、窒化ケイ素および窒化ホウ素、非晶質シリカ、アスベスト、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、カオリン、雲母、長石、タルクおよびそれらの混合物から選択される、請求項1から4までのいずれか1項記載の成形物品。
【請求項6】
前記架橋剤が、2つのアミノフェニル環が炭素環式部分を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物であり、前記2つのフェニル環のうちの一方が前記炭素環式部分に縮合しており、好ましくは、前記架橋剤は、4,4’ジアミノジフェニル化合物および/または非対称化合物である、請求項1から5までのいずれか1項記載の成形物品。
【請求項7】
前記架橋剤が、アミノ化ダイマー脂肪酸、アミノ化ダイマー脂肪酸を中に重合した形で含有するポリマー、およびそれらの混合物から選択される、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物であり、特に、化合物
【化2】
または前記化合物を重合形態で含有するオリゴマー/ポリマーである、請求項1から5までのいずれか1項記載の成形物品。
【請求項8】
成形物品の製造方法であって、前記方法は、
iv)請求項1または4に定義される、少なくとも1つの脂肪族ポリケトンと、少なくとも1つの架橋剤と、少なくとも1つの難燃剤とを含む混合物を提供するステップ、
v)ステップi)で得られた前記混合物から成形物品を製造するステップ、および/または
vi)前記成形物品を、前記脂肪族ポリケトンが架橋する温度で後硬化させるステップ
を含み、
前記架橋剤は、以下:
- 2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)および(III)
【化3】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、前記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、前記アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、前記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、前記アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
13、R14、R15、R16、R17およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、前記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、前記アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、前記アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、および前記化合物を組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
から選択される、方法。
【請求項9】
ステップi)において、前記少なくとも1つの脂肪族ポリケトン、前記少なくとも1つの架橋剤および前記少なくとも1つの難燃剤、任意にフィラーおよび補強剤、ならびに任意にそれらとは異なるさらなる添加剤を、溶融混合または乾式混合/ブレンドに供する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ステップi)において、前記少なくとも1つの脂肪族ポリケトン、前記少なくとも1つの架橋剤、および前記少なくとも1つの難燃剤、任意にフィラーおよび補強剤、ならびに任意にそれらとは異なるさらなる添加剤を、押出機に供給し、可塑化を行いながら混合し、任意に造粒し、特に、前記ステップi)の混合物が、添加された溶媒を含有していない、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ステップi)において、前記少なくとも1つの脂肪族ポリケトン、前記少なくとも1つの架橋剤、および前記少なくとも1つの難燃剤、任意にフィラーおよび補強剤、ならびに任意にそれらとは異なるさらなる添加剤を乾式混合し、特に、前記ステップi)の混合物が、添加された溶媒を含有していない、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記脂肪族ポリケトンが、DIN ISO 1130に準拠して測定された2cm3/10min~200cm3/10minの範囲の、240℃での溶融粘度を有する、請求項8から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記ステップiii)の温度が、少なくとも220℃である、請求項8から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記ステップiii)の混合物を、押出成形、ホットプレス成形、射出成形および/または3D印刷によって加工する、請求項8から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのポリケトンと、少なくとも1つの難燃剤と、以下:
- 2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)および(III)
【化4】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、前記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、前記アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、前記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、前記アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
13、R14、R15、R16、R17およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、前記アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、前記アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、前記アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、および前記化合物を組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
からなる群から選択される少なくとも1つの架橋剤とを含む、硬化性ポリマー組成物。
【請求項16】
自動車産業、海洋産業、航空宇宙産業、鉄道産業、産業機械およびロボット工学、サービスロボット、石油およびガス産業、エレクトロニクス産業、コンピュータ産業、事務機械、ラジオおよびテレビ設備、食品および飲料産業、安全技術、包装産業ならびに医療産業における、請求項1から7までのいずれか1項記載の成形物品の使用。
【請求項17】
請求項1から8までのいずれか1項記載の成形物品からなるまたはそれを含有する、シーリング物品、スラストワッシャ、バックアップリング、バルブ、コネクタ、絶縁体、スナップフック、軸受、ブッシング、フィルム、粉末、コーティング、繊維、シーリングおよびOリング、パイプおよびワイヤ、冷却管、ケーブル、シース、スリーブおよびジャケット、電気的または化学的用途のハウジング、バッテリハウジング。
【請求項18】
請求項1から7までのいずれか1項記載の難燃性成形物品、または請求項15記載の硬化性ポリマー組成物を提供するための、請求項1または4に定義された難燃剤(A)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋脂肪族ポリケトン(PK)を含有するポリマーマトリックスを難燃剤と組み合わせて含む成形物品、および該成形物品の製造方法に関する。さらに、本発明は、好ましくは自動車産業、海洋産業、航空宇宙産業、鉄道産業、産業機械およびロボット工学、サービスロボット、石油およびガス産業、エレクトロニクス産業、エネルギーの生成、伝送および分配、コンピュータ産業、事務機械、ラジオおよびテレビ設備、食品および飲料産業、安全技術、包装産業ならびに医療(ヘルスケア)産業から選択される広範な産業分野における成形物品の使用に関する。
【0002】
<発明の背景>
熱塑性加工が可能なプラスチック(熱可塑性樹脂)は、その製造の生産性、その可逆的な成形性、そして多くの場合その高品質な技術的特性により広く使用されるようになり、現在では工業生産における標準的な製品となっている。熱可塑性樹脂は、本質的に直鎖状のポリマー鎖からなり、すなわち架橋されておらず、通常は分岐もほとんどまたは全く有していない。しかし、熱可塑性樹脂はその耐熱性に関して本質的な限界があるため、高分子材料のすべての用途に理想的に適しているわけではない。したがって、加工性や優れた機械的特性、高い耐薬品性といった利点を犠牲にすることなく、熱可塑性プラスチックの耐熱性を高めることが望まれる。耐熱性の点では、高分子が共有結合で連結された架橋ポリマー(熱硬化性樹脂)が有利である場合が多い。低温では、こうした架橋ポリマーは硬弾性状態にあり、これはガラス転移領域としても知られている。熱硬化性樹脂がこの範囲を超えて加熱されると、一般には直接的に熱分解域に入る。そのため、熱可塑性樹脂の長所と熱硬化性樹脂の長所とを併せ持つ新素材、つまり、コスト効率よく成形でき、成形後に高い耐熱性を示す素材の開発に大きな関心が寄せられている。この組み合わせは、エレクトロモビリティに使用されるプラスチックに特に有利であろう。現在多く使用されているリチウムイオンバッテリーは、いわゆる熱暴走事象のリスクが高いため、車両メーカーやバッテリーメーカーは、バッテリー周辺の設置スペースに難燃性プラスチックのみを使用せざるを得ない。しかし、コンポーネントの熱試験中に、難燃性熱可塑性樹脂は、難燃性を備えているため燃焼はしないものの、確実に軟化、溶融してコンポーネントの機能を失わせかねないため、一部の火災試験の過酷な条件に耐えられないことがしばしば明らかとなっている。この課題は、加工後に熱硬化性挙動を示す熱可塑性難燃材料が開発できれば解決可能となるであろう。
【0003】
脂肪族ポリケトン(PK)は、優れた機械的特性、特に高い衝撃強度と優れた耐媒体性とを有する熱可塑性樹脂である。脂肪族ポリケトン(PK)は、エチレン基またはプロピレン基にケト基(カルボニル基)が続く交互構造を有し、プロピレン基の割合は通常小さく、可変である。脂肪族ポリケトンは特に、非常に優れたレジリエンス、低温でも高い衝撃強度値、高い機械的疲労強度、低いクリープ変形傾向、ならびに良好な摺動および摩耗挙動を特徴とする。
【0004】
脂肪族ポリケトンは、一酸化炭素およびα-オレフィンから製造される直鎖構造のポリマーであり、ポリマー鎖中のモノマー単位の配置は、厳密に交互である。今日では、一酸化炭素およびエチレンのみを原料とする古典的なポリケトンコポリマーではなく、ポリケトンターポリマーがほぼ独占的に使用されている。これらのポリケトンターポリマーは、一酸化炭素、エチレン、そして好ましくは少量のプロピレンからなる。
【0005】
【化1】
【0006】
コポリマーではなくターポリマーが使用される理由は、ターポリマーの脆性が著しく低減されていることにある。一酸化炭素およびエチレンからなるポリケトン共重合体は、その厳密に交互に並んだポリマー鎖、および極めて低い欠陥率(モノマー単位100万個あたり1個の欠陥)、ならびに極性ケト基の多さにより、結晶性が高く、非常に硬いが非常に脆くもあるため、高分子材料としての応用可能性は非常に限られている。合成時にプロピレンを少量(約5%)添加することで、結晶性を破壊することができ、それにより、融点が255℃(一酸化炭素とエチレンとの共重合体)から220℃(ターポリマー)に下がり、脆いポリマーではなく極めて強靭なポリマーが得られる。脂肪族ポリケトンは、特に、高い衝撃強度、低クリープ、高い耐薬品性および良好なトライボロジー特性を特徴とする。しかし、PKは、耐熱性に関して本質的に所与の限界をも示し、これは、前述のとおり熱可塑性樹脂に典型的である。したがって、最高連続使用温度約80℃~100℃(ISO 75による熱変形温度HDT/A)でのPKの使用は、不利である。したがって、このポリマークラスの応用可能性は非常に限られている。
【0007】
国際公開第97/14743号は、補強材と難燃剤との混合物とブレンドされた非架橋ポリケトンに関する。
【0008】
PKの耐熱性および機械的安定性をさらに高めるために、ポリマー鎖を架橋させることが提案された。
【0009】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)をジアミンで化学架橋させる方法は、1980年代から知られている。
【0010】
アミンによるPKの架橋反応は、次のように説明できる:脂肪族ポリケトンのケト基がアミンと反応し、シッフ塩基を形成する。しかし、脂肪族ポリケトンは、高温でケト基が対応するエノール型に互変異性化した後に無秩序な追従反応を起こす傾向にあるため、これらの反応は架橋と競合することが多く、これにより、材料の秩序ある架橋がはるかにより困難となる。
【0011】
さらに、高温での揮発性ジアミンの取扱いは、使用者への多大な危険を伴い、環境への影響も大きい。したがって、上記のプロセスおよびそこで使用される試薬は、使用者や環境に対する危険性が生じないように設計されることが望ましいであろう。
【0012】
近年の刊行物には、この欠点を改善するために行われた試みが記載されている。
【0013】
国際公開第2020/030599号には、PAEK含有架橋成形物品の製造方法であって、架橋剤が、2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物である方法が記載されている。具体的には、架橋剤成分として、1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-5-アミン(=DAPI、CAS番号54628-89-6)、DAPIと1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-6-アミンとの異性体混合物、またはCAS番号68170-20-7との異性体混合物が用いられている。欠点の一つとして、架橋剤の製造コストが高いことが挙げられる。一方で、DAPIで架橋させたPAEKの物理化学的特性にも改善の余地がある。
【0014】
国際公開第2021156403号には、架橋脂肪族ポリケトン(PK)を含有するポリマーマトリックスを含む成形物品であって、架橋剤が、種々のジアミノ化合物、アミド基を含むオリゴマー/ポリマー、および飽和脂環式アミノ化合物から選択される成形物品が記載されている。
【0015】
しかし、いずれの先行技術文献にも、PKポリマーの防炎技術については提案されていない。
【0016】
韓国公開特許第20200038373号公報は、以下:一酸化炭素と少なくとも1つのオレフィン系不飽和炭化水素とからなるポリケトン60.0~85.0重量%;ポリアミド0.1~23.0重量%;ゴム0.1~5.0重量%;リン系難燃剤8.0~12.0重量%;酸化銅0.05~0.6重量%;およびシリコーン油0.1~1.0重量%を含有する、難燃性および耐熱性を有するポリケトン組成物に関する。
【0017】
韓国公開特許第20160059905号公報は、射出成形により製造された、ノートパソコンのエンドハウジング用のポリケトン系リン系難燃剤とナイロン6Iとを含むポリケトン組成物に関する。
【0018】
どちらの文献でも、ポリケトン組成物は、ポリケトンとポリアミドとのブレンドをベースとしている。実際に、これらのブレンドでは、ポリケトンとポリアミドとの架橋は、原則的に可能である。しかし、後硬化の時間が非常に長いため、実際には意味をなさない。
【0019】
したがって、低燃焼性または難燃性を示しつつ、機械的特性の向上、耐熱性の向上、クリープの低減および耐薬品性の向上を特徴とする架橋脂肪族ポリケトンを得ることが非常に望ましいであろう。
【0020】
したがって、本発明の目的は、最適化された難燃性を備え、その際、前述の特性が向上しているかまたは少なくとも損なわれていないPKを提供することである。
【0021】
驚くべきことに、本発明の基礎を成す課題は、ポリケトンを特定のジアミン源での架橋に供して難燃剤の存在下でイミン基を形成させる、方法、成形物品およびシーリング物品によって解決される。本方法では、少なくとも1つのポリケトンと、少なくとも1つの難燃剤と、少なくとも1つのジアミン源との可塑化混合物をまず成形プロセスに供して、成形物品を製造することができる。次いで、この成形物品を架橋に供することができる。好ましくは、選択された架橋化学作用に応じて、成形物品は、成形ステップ中に架橋されるか、またはその後に後硬化ステップで架橋される。
【0022】
本発明による成形物品および本発明による方法は、以下の利点を有する:
- 本発明により使用される架橋ポリケトンおよび本発明による成形物品は、難燃性を示す。
- 本発明により使用される難燃性架橋ポリケトンおよび本発明による成形物品は、耐熱性の向上、燃焼性の低下、および高温での剛性(モジュラス)の向上を示す。
- 本発明により使用される難燃性架橋ポリケトンおよび本発明による成形物品は、安定性の向上を示し、なおも十分な加工性を示す。
- 本発明により使用される難燃性架橋ポリケトンおよび本発明による成形物品は、難燃性の向上、および直火衝突下での寸法安定性の向上を示す。言い換えれば、火災発生時に、これらの材料は寸法が安定したままであり、燃えることはない。
- 本発明による方法は、低コストであることを特徴とする。本発明により使用されるジアミン源は、一般に調達コストの低い市販のベース材料である。
- ポリアミドは、低分子量ポリアミドおよびジアミンの供給源として作用することができる。反応条件に応じて、ポリアミドからいずれの架橋剤成分を形成するかを制御することができる。したがって、ポリアミドをジアミン源として使用することにより、PKを低沸点脂肪族ジアミンで架橋させることも可能となり、これは、プロセス工学/安全性/環境上の理由から、他の方法では実施できない。
- 本発明による方法は、2つの成分(好ましくは2つの粒状物)を搬送し混合するだけでよいため、実施が技術的に容易である。
- 本発明による成形品は、良好なトライボロジー特性、特に非常に良好な研磨挙動を有する。本発明による成形品は、アブレシブ摩耗条件下で使用される材料に適しており、例えば、攻撃的な研磨媒体用の搬送装置のシールや滑り軸受材として適している。
- 本発明による成形物品は、低膨潤性を示す。
- 古くから使用されている成分のため、ポリマーのREACHの認可は不要である。
- 本発明による方法は、持続可能性を有する。非架橋の残留材料は容易にリサイクル可能であり、廃棄が不要である。揮発性芳香族アミンのような環境および健康に有害な可能性のある物質は、本発明による方法において回避される。
- 本発明による硬化性ポリマー組成物および架橋成形物品は、耐薬品性に優れ、低いクリープ傾向を示す。
【0023】
<発明の概要>
本発明は、成形物品であって、以下:
a)脂肪族ポリケトンを架橋剤としての少なくとも1つのジアミン源で架橋させてイミン基を形成するポリマーマトリックスであって、ジアミン源は、以下:
- 2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)および(III)
【化2】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
13、R14、R15、R16、R17およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマー、
- 少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、および該化合物を組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
からなる群から選択されるものとする;
b)難燃剤(A)
を含む、成形物品に関する。
【0024】
本発明は特に、成形物品であって、以下:
b)脂肪族ポリケトンを架橋剤としての少なくとも1つのジアミン源で架橋させてイミン基を形成するポリマーマトリックスであって、ジアミン源は、以下:
- 2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)および(III)
【化3】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
13、R14、R15、R16、R17およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、および該化合物を組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
からなる群から選択されるものとする;
b)難燃剤(A)
を含む、成形物品に関する。
【0025】
本発明はまた、成形物品の製造方法であって、該方法は、
i)上記および下記に定義される、少なくとも1つの脂肪族ポリケトンと、少なくとも1つの架橋剤と、少なくとも1つの難燃剤とを含む混合物を提供するステップ、
ii)ステップi)で得られた混合物から成形物品を製造するステップ、および
iii)成形物品を、脂肪族ポリケトンが架橋する温度で熱処理するステップ
を含み、
架橋剤は、以下:
- 2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)および(III)
【化4】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
13、R14、R15、R16、R17およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマー、
- 少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、および該化合物を組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
から選択される、方法に関する。
【0026】
本発明はまた特に、成形物品の製造方法であって、該方法は、
i)上記および下記に定義される、少なくとも1つの脂肪族ポリケトンと、少なくとも1つの架橋剤と、少なくとも1つの難燃剤とを含む混合物を提供するステップ、
ii)ステップi)で得られた混合物から成形物品を製造するステップ、および/または
iii)成形物品を、脂肪族ポリケトンが架橋する温度で熱処理するステップ
を含み、
架橋剤は、以下:
- 2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)および(III)
【化5】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
13、R14、R15、R16、R17およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物から選択されるジアミン化合物、
少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、および該化合物を組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
から選択される、方法に関する。
【0027】
本発明はさらに、少なくとも1つのポリケトンと、少なくとも1つの難燃剤と、以下:
- 2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)および(III)
【化6】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
13、R14、R15、R16、R17およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマー、
- 少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、および該化合物を組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
からなる群から選択される少なくとも1つの架橋剤とを含む硬化性ポリマー組成物に関する。
【0028】
本発明はさらに特に、少なくとも1つのポリケトンと、少なくとも1つの難燃剤と、以下:
- 2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)および(III)
【化7】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
13、R14、R15、R16、R17およびR18は、互いに独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、および該化合物を組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
からなる群から選択される少なくとも1つの架橋剤とを含む硬化性ポリマー組成物に関する。
【0029】
本発明はさらに、自動車産業、海洋産業、航空宇宙産業、鉄道産業、産業機械およびロボット工学、サービスロボット、石油およびガス産業、エレクトロニクス産業、コンピュータ産業、事務機械、ラジオおよびテレビ設備、食品および飲料産業、安全技術、包装産業ならびに医療(ヘルスケア)産業における、上記および下記に定義される成形物品の使用に関する。
【0030】
本発明はさらに、上記および下記に定義される成形物品からなるまたはそれを含有するシーリング物品、スラストワッシャ、バックアップリング、バルブ、コネクタ、絶縁体、スナップフック、軸受、ブッシング、フィルム、粉末、コーティング、繊維、シーリングおよびOリング、パイプおよびワイヤ、冷却管、ケーブル、シース、スリーブおよびジャケット、電気的または化学的用途のハウジング、バッテリハウジングに関する。
【0031】
本発明はさらに、上記および下記に定義される難燃性成形物品または上記および下記に定義される難燃性ポリマー組成物を提供するための、上記および下記に定義される難燃剤(A)の使用に関する。
【0032】
<詳細な説明>
以下では、「架橋剤」および「ジアミン源」という用語は、同義で用いられる。
【0033】
以下では、硬化可能なポリマー組成物および硬化性ポリマー組成物という用語も同義で用いられる。
【0034】
本願の趣意において、「ブレンド」という用語は、2つ以上のポリマー成分を必須に含む組成物を表す。
【0035】
本願の趣意において、「コンパウンディング」という用語は、ポリマー成分と少なくとも1つの添加剤との混合物の形成を表す。ポリマー成分は、単一のポリマーであっても、ポリマーブレンドであっても、少なくとも1つの添加剤を含む成分であってもよい。
【0036】
<ポリケトン>
原則として、任意の脂肪族ポリケトンをポリマー成分として使用することができる。本発明によれば、脂肪族ポリケトン(PK)は、一酸化炭素およびα-オレフィンから製造される直鎖構造のポリマーであり、ポリマー鎖中のモノマー単位の配置は、好ましくは厳密に交互である。脂肪族ポリケトンは、芳香環およびエーテル基を含有していないという点で、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のようなポリアリールエーテルケトン(PAEK)とは異なる。本発明による好ましいPAEは、ポリケトンターポリマーである。これらのポリケトンターポリマーは、一酸化炭素、エチレン、そして好ましくは少量のプロピレンからなる。
【化8】
【0037】
本発明によれば、脂肪族ポリケトンは、交互のアルキレン単位およびケト基からなる直鎖状ポリマー鎖を有する。アルキレン単位は、好ましくはエチレン単位を主成分として含み、特に好ましくはエチレン単位を主成分として1-メチルエチレン単位と組み合わせて含む。脂肪族ポリケトンは、その平均分子量、ならびに反応物である一酸化炭素、エチレン、および製造に使用される他のアルケン、例えばプロピレンまたは1-もしくは2-ブチレンの比が異なっていてもよい。脂肪族ポリケトンはケト基を有し、このケト基を連結させることでイミン結合を形成することができる。本発明によれば、例えばその分子量または組成が異なる各種脂肪族ポリケトンの混合物を使用することもできる。しかし、単一のPKを使用することが好ましく、なぜならば、そうすることで、より高い結晶化度およびそれに伴う温度安定性を達成できるためである。
【0038】
好ましい一実施形態において、脂肪族ポリケトンは、60000g/モル~100000g/モルの範囲の平均分子量Mn(数平均)または132000g/モル~320000g/モルの範囲の平均分子量Mw(質量平均)を有する(GPC測定により測定)。脂肪族ポリケトンの多分散度は、好ましくは2.2~3.2である。脂肪族ポリケトンは、さらに好ましくは、10~14℃のガラス転移点、218~226℃の融点および/または170~182℃の再結晶温度(DSC、DIN EN ISO 11357-1~3、加熱速度20℃/minにより測定)を有する。本発明による架橋PKは、特に有利な特性、特に機械的および化学的特性の向上を示すことが見出された。
【0039】
好ましくは、脂肪族ポリケトン(PK)は、2cm3/10min~200cm3/10min、特に6cm3/10min~60cm3/10minの範囲の、240℃でのメルトフローインデックス(MFR)を有する。この測定は、DIN ISO 1133に準拠して行われ、材料を240℃で溶融させ、ダイに2.16kgの荷重をかけた後に流動性を測定する。特に適した脂肪族ポリケトンの一例は、Hyosung製M330Aである。メルトフローインデックスは、総じてポリマー鎖の分子量と相関する。本発明によれば、良好な熱塑性加工性と混和性との双方を達成することができ、高い安定性、特に高い剛性を有する均一な生成物を得ることができるため、このようなメルトフローインデックスが有利であることが見出された。
【0040】
適切なPKは市販されており、例えば、Hyosung Corporation Co, Ltd.製M230A(240℃、2.16kgでMFR=150g/10min)、M330A(240℃、2.16kgでMFR=60g/10min)、M340A(240℃、2.16kgでMFR=60g/10min)、M630A(240℃、2.16kgでMFR=6g/10min)およびM640A(240℃、2.16kgでMFR=6g/10min)、ならびにAKRO-PLASTIC GmbH製AKROTEK(登録商標)PK-VM(240℃、2.16kgでMFR=60g/10min)、AKROTEK(登録商標)PK-HM(240℃、2.16kgでMFR=6g/10min)およびAKROTEK(登録商標)PK-XM(240℃、2.16kgでMFR=2g/10min)である。
【0041】
上記のようなメルトフローインデックスを有するこのようなPKと、PKおよび架橋剤の総量を基準にして0.05重量%~15重量%、特に0.1重量%~5重量%の量の架橋剤とを使用することが特に好ましい。好ましい一実施形態において、使用される架橋剤の割合は、PKおよび架橋剤の総量を基準にして0.1~1.5重量%、特に0.3~1.0重量%である。出発材料のこのような比率および特性により、生成物の特に良好な加工性を達成することができる。特に、剛性は特に高く、高い弾性率を特徴とする。さらに、このようなPKは、混合の提供(=ステップi))時に架橋反応が急速に進行することなく、架橋剤との熱塑性混合がなおも可能な温度で加工することができる。その結果、可塑化コンパウンドが得られ、これを、成形物品を製造するために成形プロセスで非常に容易に使用することができる(=ステップii))。このようにして得られた成形品を、その後、後硬化(=ステップiii)に供することができ、この後硬化でPKを架橋させることにより最終的な材料特性が得られる。言い換えれば、反応の遅い芳香族架橋剤を使用する場合には、このようにして得られた成形品を後硬化(=ステップiii)に供することができ、この後硬化でPKを架橋させることにより最終的な材料特性が得られる。反応の速い脂肪族架橋剤の場合には、このようにして得られた成形品が、成形後にすでに架橋されている可能性がある。
【0042】
本発明によれば、成形物品は、好ましくはPKをベースとする成形物品である。ここで、「PKをベースとする」とは、PKが成形物品の必須の構造付与ポリマー成分であることを意味する。一実施形態において、PKが成形物品の唯一のポリマー成分であることが好ましい。さらなる一実施形態において、PKは、さらなるポリマー、特に熱可塑性ポリマーと混合した状態で存在する。好ましいさらなるポリマーとしては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ならびに他の熱可塑性エラストマー、ポリエステル、液晶ポリエステル(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリカーボネート(PC)が挙げられる。その際、PKとさらなるポリマー、特に熱可塑性のさらなるポリマーとの好ましい重量比は、1:1~100:1、好ましくは5:1~100:1、特に好ましくは10:1~100:1である。さらに、成形物品は、フィラー、例えば繊維および/または通常の添加剤、例えば加工助剤および/または機能性成分を含有してもよい。架橋PKは、存在する添加剤が均一に分散したマトリックスを形成する。
【0043】
<架橋剤>
好ましくは、少なくとも1つの架橋剤は、以下:
- 2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により一緒に連結されているジ(アミノフェニル)化合物、
- 式(I)、(II)および(III)の化合物から選択されるジアミン化合物、
- 少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマー、
- 少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、これらを組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびに
- それらの混合物
からなる群から選択されるジアミン源を、架橋剤の総重量を基準にして少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%、より特に少なくとも99重量%含有する。
【0044】
好ましい一実施形態において、少なくとも1つの架橋剤は、少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマー、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、これらを組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマー、ならびにそれらの混合物から選択されるジアミン源を、架橋剤の総重量を基準にして少なくとも80重量%、特に少なくとも90重量%、より特に少なくとも99重量%含有する。
【0045】
架橋剤の量は、所望の架橋度に応じて調整される。好ましくは、架橋剤の量は、脂肪族ポリケトンおよび架橋剤の総量を基準にして0.05重量%~15重量%、特に0.1重量%~5重量%である。好ましい一実施形態において、架橋剤の量は、0.1重量%~1.5重量%、特に0.3重量%~1.0重量%である。このような割合の架橋剤を使用した生成物の安定性が特に有利となり得ることが見出された。
【0046】
好ましい一実施形態において、架橋剤は、1013mbarで、少なくとも300℃、特に少なくとも350℃、特定の一実施形態では少なくとも400℃の沸点を有する。これは有利であり、なぜならば、そのような架橋剤は、必要とされる高い加工温度において比較的低い蒸気圧しか有しないためである。好ましくは、1013mbarにおける架橋剤の沸点は、300℃~500℃の範囲、特に350℃~500℃の範囲である。有利なことに、架橋剤の融点は、脂肪族ポリケトン(PK)の融点を下回る。この結果、加工性が良好となり、使用者への危険性が低くなる。
【0047】
好ましい一実施形態において、架橋剤として使用されるジアミン源は、少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマーである。
【0048】
オリゴマーとは、構造的に同一または類似の複数の単位(モノマー)から構成される分子である。比較的多数(50個超)のモノマーが存在する場合には、ポリマーという用語が用いられる。
【0049】
以下では、ポリアミドという用語は、少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマーと同義で用いられる。
【0050】
以下で、ポリアミドが架橋剤と称される場合、この用語には、本発明による方法での反応中に(例えば、PKのケト基と反応し得るアミノ基の形成を伴うアミド基の加水分解開裂から)形成される低分子量の生成物がPKを架橋し得る場合、該生成物も包含される。この点で、PKと架橋剤との混合物を提供するために使用されるポリアミドと、アミノ基およびそのジアミンモノマーを含有するオリゴマーとの双方が、架橋剤として作用し得る。
【0051】
以下では、ポリアミドという用語は、ホモポリアミドおよびコポリアミドを指すために用いられる。本発明の文脈において、ポリアミドは、文字PAの後に数字および文字が続く標準的な略語で表される場合がある。これらの略語のいくつかは、DIN EN ISO 1043-1に定義されている。H2N-(CH2z-COOH型のアミノカルボン酸または対応するラクタムから誘導されるポリアミドは、PAZと表され、ここで、Zは、モノマーの炭素原子数を表す。例えば、PA6は、ε-カプロラクタムまたはε-アミノカプロン酸から誘導されるポリマーを表す。H2N-(CH2)x-NH2およびHOOC-(CH2y-COOH型のジアミンおよびジカルボン酸から誘導されるポリアミドは、PAxyと表され、ここで、xは、ジアミンの炭素原子数であり、yは、ジカルボン酸の炭素原子数である。コポリアミドを表すには、各成分が、その量的比率の順にスラッシュで区切って列挙される。例えば、PA66/610は、ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸およびセバシン酸のコポリアミドである。本発明により使用される芳香族基または脂環式基を有するモノマーには、以下の文字の略語が使用される:T=テレフタル酸、I=イソフタル酸、MXDA=m-キシリレンジアミン、IPDA=イソホロンジアミン、PACM=4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、MACM=2,2’-ジメチル-4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)。
【0052】
ポリアミドは、その製造に使用されるモノマーによって説明することができる。ポリアミド形成性モノマーは、ポリアミド形成に適したモノマーである。
【0053】
好ましい一実施形態において、架橋剤は、少なくとも2つのアミド基を有するポリマーであり、該ポリマーは、以下
A)非置換または置換芳香族ジカルボン酸、および非置換または置換芳香族ジカルボン酸の誘導体、
B)非置換または置換芳香族ジアミン、
C)脂肪族または脂環式ジカルボン酸、
D)脂肪族または脂環式ジアミン、
E)モノカルボン酸、
F)モノアミン、
G)少なくとも三価のアミン、
H)ラクタム、
I)ω-アミノ酸、および
K)A)~I)とは異なりかつそれと共縮合可能である化合物、ならびにそれらの混合物
からなる群から選択されるポリアミド形成性モノマーを共重合形態で含む。
【0054】
本発明の好ましい一実施形態において、好ましくは融点が260℃以下のポリアミドが架橋剤として使用される。特に、脂肪族ポリアミドが使用される。ただし、この目的のために、少なくとも1つの成分A)またはB)および少なくとも1つの成分C)またはD)が存在しなければならない。ただし、特定の一実施形態では、少なくとも1つの成分A)および少なくとも1つの成分D)が存在しなければならない。
【0055】
芳香族ジカルボン酸A)は、好ましくは、各場合において非置換または置換フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはジフェニルジカルボン酸、ならびに先に挙げた芳香族ジカルボン酸の誘導体および混合物から選択される。置換芳香族ジカルボン酸A)は、好ましくは少なくとも1つのC1~C4アルキル基を有する。特に好ましくは、置換芳香族ジカルボン酸A)は、1つまたは2つのC1~C4アルキル基を有する。これらは好ましくは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチル、特に好ましくはメチル、エチルおよびn-ブチル、非常に好ましくはメチルおよびエチルから選択され、特に好ましくはメチルである。置換芳香族ジカルボン酸A)はまた、5-スルホイソフタル酸、その塩および誘導体のような、アミド化を妨げない官能基をさらに有してもよい。これらの中でも、5-スルホイソフタル酸ジメチルエステルのナトリウム塩が好ましい。好ましくは、芳香族ジカルボン酸A)は、非置換テレフタル酸、非置換イソフタル酸、非置換ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸および5-スルホイソフタル酸から選択される。特に好ましい芳香族ジカルボン酸A)は、テレフタル酸、イソフタル酸、またはテレフタル酸とイソフタル酸との混合物である。
【0056】
芳香族ジアミンB)は、好ましくは、ビス-(4-アミノフェニル)メタン、3-メチルベンジジン、2,2-ビス-(4-アミノフェニル)プロパン、1,1-ビス-(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,2-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノトルエン、m-キシリレンジアミン、N,N’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジアミン、ビス-(4-メチルアミノフェニル)メタン、2,2-ビス-(4-メチルアミノフェニル)プロパンまたはそれらの混合物から選択される。特に好ましい芳香族ジアミンは、m-キシリレンジアミンである。
【0057】
脂肪族または脂環式ジカルボン酸C)は、好ましくは、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、コハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン-1,11-ジカルボン酸、ドデカン-1,12-ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸またはイタコン酸、シス-およびトランス-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シス-およびトランス-シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シス-およびトランス-シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、シス-およびトランス-シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、シス-およびトランス-シクロペンタン-1,3-ジカルボン酸、ならびにそれらの混合物から選択される。
【0058】
脂肪族または脂環式ジアミンD)は、好ましくは、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、5-メチルノナンジアミン、ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン、3,3’-ジメチル-4,4’ジアミノジシクロヘキシルメタン、およびそれらの混合物から選択される。
【0059】
特に好ましくは、ジアミンD)は、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、5-アミノ-2,2,4-トリメチル-1-シクロペンタンメチルアミン、5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキサンメチルアミン(イソホロンジアミン)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、[3-(アミノメチル)-2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル]メタンアミン、アミノ化ダイマー脂肪酸、ならびにそれらの混合物から選択される。本発明の好ましい一実施形態において、水溶液は、ヘキサメチレンジアミン、ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン(PACM)、3,3’-ジメチル-4,4’ジアミノジシクロヘキシルメタン(MACM)、イソホロンジアミン(IPDA)およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つのジアミンD)を含有する。
【0060】
モノカルボン酸E)は、本発明により使用されるポリアミドオリゴマーの最終的なキャッピングに用いられる。原則として、ポリアミド縮合の反応条件下で利用可能なアミノ基の少なくとも一部と反応し得るすべてのモノカルボン酸が適している。適切なモノカルボン酸E)は、脂肪族モノカルボン酸、脂環式モノカルボン酸および芳香族モノカルボン酸である。これらには、酢酸、プロピオン酸、n-、イソまたはtert-酪酸、吉草酸、トリメチル酢酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバル酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、メチル安息香酸、1-ナフタレンカルボン酸、2-ナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、ダイズ、亜麻仁、トウゴマおよびヒマワリ由来の脂肪酸、アクリル酸、メタクリル酸、第三級飽和モノカルボン酸(例えば、Royal Dutch Shell plc製Versatic(登録商標)酸)、ならびにそれらの混合物が挙げられる。
【0061】
モノカルボン酸E)として不飽和カルボン酸またはその誘導体を使用する場合、市販の重合禁止剤を水溶液に添加することが有用である場合がある。特に好ましくは、モノカルボン酸E)は、酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびそれらの混合物から選択される。非常に特に好ましい一実施形態において、水溶液は、モノカルボン酸E)として酢酸のみを含有する。さらに非常に特に好ましい一実施形態において、水溶液は、モノカルボン酸E)としてプロピオン酸のみを含有する。さらに非常に特に好ましい一実施形態において、水溶液は、モノカルボン酸E)として安息香酸のみを含有する。
【0062】
モノアミンF)は、本発明により使用されるポリアミドオリゴマーの最終的なキャッピングに用いられる。原則として、ポリアミド縮合の反応条件下で利用可能なカルボキシル基の少なくとも一部と反応し得るすべてのモノアミンが適している。適切なモノアミンF)は、脂肪族モノアミン、脂環式モノアミンおよび芳香族モノアミンである。これらには、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミンおよびそれらの混合物が含まれる。
【0063】
適切な少なくとも三価のアミンG)は、N’-(6-アミノヘキシル)ヘキサン-1,6-ジアミン、N’-(12-アミノドデシル)ドデカン-1,12-ジアミン、N’-(6-アミノヘキシル)ドデカン-1,12-ジアミン、N’-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]ヘキサン-1,6-ジアミン、N’-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]ドデカン-1,12-ジアミン、N’-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキシル)メチル]ヘキサン-1,6-ジアミン、N’-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキシル)メチル]ドデカン-1,12-ジアミン、3-[[[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンアミン、3-[[(5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキシル)メチルアミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンアミン、3-(アミノメチル)-N-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]-3,5,5-トリメチルシクロヘキサンアミンから選択される。好ましくは、少なくとも三価のアミンG)は使用されない。
【0064】
適切なラクタムH)は、ε-カプロラクタム、2-ピペリドン(δ-バレロラクタム)、2-ピロリドン(γ-ブチロラクタム)、カプリルラクタム、エナントラクタム、ラウリルラクタムおよびそれらの混合物である。
【0065】
適切なω-アミノ酸I)は、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸およびそれらの混合物である。
【0066】
A)~I)とは異なりかつそれと共縮合可能である適切な化合物K)は、少なくとも三価のカルボン酸、ジアミノカルボン酸などである。適切な化合物K)はさらに、4-[(Z)-N-(6-アミノヘキシル)-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、3-[(Z)-N-(6-アミノヘキシル)-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、(6Z)-6-(6-アミノヘキシルイミノ)-6-ヒドロキシヘキサンカルボン酸、4-[(Z)-N-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキシル)メチル]-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、3-[(Z)-N-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキシル)メチル]-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、4-[(Z)-N-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、3-[(Z)-N-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]-C-ヒドロキシカルボンイミドイル]安息香酸、およびそれらの混合物である。
【0067】
本発明の別の好ましい実施形態において、ポリアミド、それらのコポリマーおよびそれらの混合物から選択される架橋剤が使用され、該架橋剤は、200℃~250℃の溶融範囲、好ましくは220℃~240℃の溶融範囲、特に220℃~230℃の溶融範囲を有する。
【0068】
別の好ましい実施形態において、少なくとも1つの架橋剤は、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、およびこれらが組み込まれたオリゴマー/ポリマーから選択される。適切な化合物は、300℃を超える沸点を有する化合物である。好ましい一実施形態において、これらの化合物は、ステップi)において液体として存在する。したがって、これらは、溶融混合の間に内部溶媒として機能することができる。好ましくは、飽和脂環式化合物は、アミノ化脂肪酸ダイマー(ダイマー脂肪酸)である。
【0069】
本明細書で使用する「脂肪酸ダイマー」という用語は、2つ以上の一価不飽和または多価不飽和脂肪酸の反応の二量化生成物を指す。このような脂肪酸ダイマーは、先行技術において周知であり、典型的には混合物として存在する。
【0070】
不飽和脂肪酸のオリゴマー化によって製造される混合物は、アミノ化ダイマー脂肪酸(アミノ化二量化脂肪酸またはダイマー酸としても知られている)と呼ばれる。不飽和C12~C22脂肪酸を出発原料として使用することができる。ダイマー脂肪酸の製造に使用されるC12~C22脂肪酸の二重結合の数および位置に応じて、ダイマー脂肪酸のアミノ基は、主に24~44個の炭素原子を有する炭化水素基により互いに連結されている。これらの炭化水素基は、分岐していなくても分岐していてもよく、二重結合、C6脂環式炭化水素基またはC6芳香族炭化水素基を有していてもよく、脂環式基および/または芳香族基は、縮合した形態で存在することもできる。好ましくは、ダイマー脂肪酸のアミノ基を結合する基は、芳香族炭化水素基を有しておらず、非常に好ましくは不飽和結合を有していない。C18脂肪酸のダイマー、すなわち36個のC原子を有する脂肪酸ダイマーが特に好ましい。これらは、例えば、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸ならびにそれらの混合物の二量化によって得ることができる。二量化の後に、必要に応じて水素化、次いでアミノ化が行われる。
【0071】
特定の一実施形態において、飽和脂環式化合物は、
【化9】
である。
【0072】
別の特定の実施形態において、飽和脂環式化合物は、
【化10】
である。
【0073】
特定の一実施形態は、少なくとも1つのアミノ化ダイマー脂肪酸を中に組み込んだ形で含むポリマーである。さらにより特定の一実施形態において、ポリマーは、化合物
【化11】
または
【化12】
を組み込んだ形で含有する。
【0074】
別の好ましい実施形態において、少なくとも1つの架橋剤は、少なくとも1つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマーと、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物とを含む混合物である。
【0075】
別の好ましい実施形態において、少なくとも1つの架橋剤は、少なくとも1つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマーと、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する少なくとも1つの飽和脂環式化合物を中に重合した形で含むオリゴマー/ポリマーとを含む混合物である。
【0076】
別の好ましい実施形態において、少なくとも1つの架橋剤は、式(I)、(II)および(III)
【化13】
[式中、
1、R2、R3およびR4は、独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
5、R6、R7、R8、R9、R10、R11およびR12は、独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
13、R14、R15、R16、R17およびR18は、独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物から選択されるジアミン化合物である。
【0077】
1~C4アルキル基の例は、特にメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、2-ブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチルである。
【0078】
1~C6アルキル基の例は、特に、先に述べたC1~C4アルキル基、ならびにn-ペンチル基およびn-ヘキシル基である。
【0079】
1~C4ハロアルキルは、好ましくは、先に述べたC1~C4アルキル基のうちの1つであって、好ましくは1、2、3、4または5個、好ましくは1、2または3個のハロゲン置換基を有するものを表す。これには、例えばトリフルオロメチルが含まれる。
【0080】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素、好ましくはフッ素、塩素および臭素を表す。
【0081】
非置換C6~C14アリールは、好ましくはフェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、ナフタセニル、より好ましくはフェニルまたはナフチルを表す。置換C6~C14アリールは、好ましくは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される基を、好ましくは1、2、3または4個以上有する。C1~C4アルキルで置換されたC6~C14アリールの例は、トリル、キシリル、メシチルである。
【0082】
1~C6アルキレンは、好ましくは-CH2-、-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-、-CH2-CH2-CH2-CH2-または-C(CH32-である。
【0083】
好ましい一実施形態において、少なくとも1つの架橋剤は、式(I)または(II)
[式中、
2、R3、R5、R6、R7、R8、R10およびR11は、水素であり、
1およびR4は、独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~C14アリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
9およびR12は、独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C6~Cアリールから選択され、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、非置換であるかまたはRaで置換されており、アリール基は、非置換であるかまたはRbで置換されており、
Xは、結合、酸素、硫黄、カルボニル、スルホニル、スルホキシド、C1~C6アルキレン、C2~C6アルケニレンおよびフェニレンから選択され、
aは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、カルボキシル、アミノ、C6~C12アリールから選択され、アリール基は、非置換であるかまたはRcで置換されており、
bは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択され、かつ
cは、ハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される]の化合物である。
【0084】
特に好ましい一実施形態において、少なくとも1つの架橋剤は、式(I.a)または(II.a)
【化14】
[式中、
1、R4、R9およびR12ならびにXは、以下:
【表1】
【表2】
の意味を有する]の化合物である。
【0085】
別の好ましい実施形態において、架橋剤は、式(III.a)および(III.b):
【化15】
の化合物から選択される。
【0086】
特定の一実施形態において、架橋剤は、(III.a1)および(III.b1):
【化16】
の化合物から選択される。
【0087】
さらなる好ましい一実施形態において、少なくとも1つの架橋剤は、2つのアミノフェニル環が炭素環式基を有する脂肪族基により互いに連結されたジ(アミノフェニル)化合物である。
【0088】
架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物は、一緒に連結された2つのアミノフェニル環を有する。したがって、この化合物は、第一級ジアミンである。これにより、本発明の一実施形態では、各フェニル環は、単一のアミノ基のみを有する。しかし、各フェニル環が独立して2つまたは3つのアミノ基を有することも考えられる。この化合物は低分子であり、ポリマーではない。アミノ基に加えて、フェニル環は、アルキル基やハロゲン基などのさらなる置換基を有していてもよい。2つのアミノフェニル環は、脂肪族基により連結されている。脂肪族基は、炭素および水素のみからなり、芳香族ではない。架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物は、好ましくは、2つのフェニル環以外に二重結合または三重結合を有しない。脂肪族基は、炭素環式基を有する。それにより、炭素環式基は、例えば4~7個の炭素原子、好ましくは5または6個の炭素原子を有し得る炭化水素環である。それにより、炭素環式基は、フェニル環の二重結合を含むことができる。好ましくは、炭素環式基は、単一の脂肪族炭化水素環のみを有する。好ましくは、脂肪族基は、合計5~15個の炭素原子、特に6~8個の炭素原子を有する。炭素環式基の間に脂肪族基があるため、2つのフェニル環は共役していない。
【0089】
本発明によれば、驚くべきことに、このようなジ(アミノフェニル)化合物で架橋されたPKが、特に有利な特性を示すことが見出された。特に、架橋PKは、熱安定性の向上および機械的安定性の向上を示す。
【0090】
好ましい一実施形態において、架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物は、2つのフェニル環のうちの一方のみが炭素環式基に縮合した縮合化合物である。アネレーション(縮合)とは、環状分子の環に別の環が付加することを指す。縮合した2つの環は、2つの炭素原子、したがってフェニル環のC-C二重結合を共有する。このような縮合型架橋剤の使用は、PK鎖間に特に剛直で規則的な結合を形成できるという利点を有し、これにより生成物の特に高い温度安定性および剛性を達成することが可能となる。
【0091】
架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物のアミノ基は、原則として、フェニル基の任意の位置、すなわち、2つのフェニル環の脂肪族結合に対してオルト位、メタ位またはパラ位に存在することができる。各フェニル基が単一のアミノ基のみを有する実施形態では、2つのアミノ基が可能な限り離れていることが好ましい。このことは、2つのアミノ基が、脂肪族化合物に対してパラ位に、ならびに/またはフェニル環の4位および4’位に結合している場合に達成することができる。したがって、好ましい一実施形態において、ジアミノジフェニル化合物は、4,4’ジアミノジフェニル化合物である。総じて、アミノ基の間隔をできるだけ離すことの利点は、架橋剤が同一のPKポリマー鎖と2つの結合を形成する望ましくない分子内反応の形成を低減することであろう。架橋剤とのこのような分子内反応によって、架橋効果を発揮することなくPKの結晶構造が破壊され、それにより生成物の安定性が低下するおそれがある。
【0092】
本発明の好ましい一実施形態において、架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物は、非対称化合物である。
【0093】
本発明の好ましい一実施形態において、架橋剤として(またはジアミン源として)使用されるジ(アミノフェニル)化合物は、一般式(IV)
【化17】
[式中、
19およびR20は、H、1~20個のC原子を有する、特に1~4個のC原子を有する置換または非置換アルキル、特にメチルまたはエチル、5~12個のC原子を有する置換または非置換アリール、FおよびClから独立して選択され、Zは、炭素環式基を有する脂肪族基である]の化合物である。この点で、各フェニル環は、互いに独立して選択される1、2または3個のR19またはR20基を有していてもよい。好ましくは、フェニル環は、R19および/またはR20基を1つのみを有する。特に好ましくは、基R19およびR20は、それぞれHである。追加の基R19およびR20を有しない架橋剤は、比較的容易に入手可能であり、より安定性の高い架橋PKに加工することができる。
【0094】
基Zは、2つの結合により各フェニル基に連結されていてもよいし、1つの結合により各フェニル基に連結されていてもよい。好ましくは、基Zは、2つの結合により1つのフェニル基に連結されており、1つの結合により第2のフェニル基に連結されている。
【0095】
本発明の別の好ましい実施形態において、架橋剤は、一般式(IV.a)
【化18】
[式中、
xは、基Zに対するR19で置換されたフェニル環の結合数に応じて、3または4であり、
yは、基Zに対するR20で置換されたフェニル環の結合数に応じて、3または4であり、
各場合において、R19は、水素、非置換または置換のまたは炭素原子数1~20のアルキル、非置換または置換のまたは炭素原子数5~14のアリール、FおよびClから独立して選択され、
20は、各場合において、水素、非置換または置換のまたは炭素原子数1~20のアルキル、非置換または置換のまたは炭素原子数5~14のアリール、FおよびClから独立して選択され、
Zは、炭素環式部分を有する脂肪族基であり、ここで、Zは、1つまたは2つの結合により2つの各フェニル環に連結されている]の化合物である。
【0096】
好ましくは、Zは、2つの結合によりR19置換フェニル環に結合されている。その場合、化合物(IV.a)において、xは3である。好ましくは、Zは、1つの結合により、R20で置換されたフェニル環に結合されている。その場合、化合物(IV.a)において、yは4を表す。特に、xは3を表し、yは4を表す。特に、Zは、フェニル環が結合する2つのフェニル環とインダン骨格を形成する。
【0097】
式(IV)および(IV.(a)の化合物において、1~20個のC原子を有するアルキルは、好ましくは、C1~C6アルキルに関する先に与えられた定義、およびさらにn-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、アラキニルおよびそれらの構造異性体を含む。特に好ましいのは、1~4個のC原子を有するアルキル、特にメチルまたはエチルである。
【0098】
1~20個のC原子を有する置換アルキルは、好ましくはハロゲン、ニトロ、シアノおよびC1~C4アルコキシから選択される置換基を、少なくとも1個(例えば、1、2、3または4個以上)有する。置換アルキルは、特に、好ましくは1、2、3、4または5個、好ましくは1、2または3個のハロゲン置換基を有するC1~C4ハロアルキルを表す。これには、例えばトリフルオロメチルが含まれる。
【0099】
式(IV)および(IV.a)の化合物において、5~14個のC原子を有する非置換アリールは、好ましくは、フェニル、ナフチル、アントラセニルおよびフェナントレニル、特にフェニルまたはナフチルを表す。5~12個のC原子を有する非置換アリールは、特にフェニルまたはナフチルを表す。5~14個のC原子を有する置換アリールまたは5~12個のC原子を有する置換アリールは、好ましくはハロゲン、ニトロ、シアノ、C1~C4アルキルおよびC1~C4ハロアルキルから選択される基を、好ましくは1、2、3または4個以上有する。5~14個のC原子を有する置換アリールまたは5~12個のC原子を有する置換アリールの例は、トリル、キシリル、メシチルである。
【0100】
式(IV.a)の化合物において、基R19は、好ましくは、水素、1~4個のC原子を有する置換または非置換アルキル、FおよびClから選択される。特に好ましくは、基R19は、水素および1~4個のC原子を有する非置換アルキルから選択される。
【0101】
式(IV.a)の化合物において、基R20は、好ましくは、水素、1~4個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル、FおよびClから選択される。特に好ましくは、基R20は、水素および1~4個の炭素原子を有する非置換アルキルから選択される。
【0102】
好ましくは、各フェニル環は、水素以外の基R19またはR20を、0、1または2個有する。特定の一実施形態において、R19およびR20はすべて水素である。R19およびR20がすべて水素である式(IV.a)の化合物は、比較的容易に入手可能であり、より安定性の高い架橋PKに加工することができる。
【0103】
好ましい一実施形態において、架橋剤は、一般式(V):
【化19】
[式中、
19およびR20は、H、1~20個のC原子を有する、特に1~4個のC原子を有する置換または非置換アルキル、特にメチルまたはエチル、5~12個のC原子を有する置換または非置換アリール、FおよびClから独立して選択され、
21は、2~3個のC環原子を有する炭素環式基であり、該C環原子は、1~4個のC原子を有する少なくとも1つのアルキル基、特にメチルまたはエチルで置換されていてもよい。特に好ましくは、基R19およびR20は、それぞれHである]の化合物である。よって、炭素環式基R21は、ペンチルまたはヘキシル基である。このような架橋剤には、架橋PKの温度安定性と機械的安定性との特に優れた組み合わせが得られるという利点がある。
【0104】
好ましい一実施形態において、架橋剤は、一般式(V.a):
【化20】
[式中、
21は、上記のとおりに選択される]の化合物である。このような架橋剤には、架橋PKの温度安定性と機械的安定性との特に優れた組み合わせが得られるという利点がある。
【0105】
好ましい一実施形態において、架橋剤は、式(V.a1):
【化21】
を有する。
【0106】
この化合物は、実施した実験において、架橋PKの温度安定性と機械的安定性との特に有利な組み合わせをもたらした。化学名は、1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-5-アミン(CAS番号54628-89-6)である。
【0107】
別の好ましい実施形態において、架橋剤は、式(V.b1):
【化22】
を有する。
【0108】
実施した実験において、この化合物も、架橋PKの温度安定性と機械的安定性との特に有利な組み合わせをもたらす。化学名は、1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-6-アミンである。
【0109】
別の好ましい実施形態において、架橋剤は、式(V.a1)の化合物と(V.b1)の化合物との混合物を有する。実施した実験において、この架橋剤も、架橋PKの温度安定性と機械的安定性との特に有利な組み合わせをもたらす。
【0110】
さらなる好ましい一実施形態において、架橋剤は、式(VII):
【化23】
を有する。
【0111】
実施した試験において、この架橋剤も、架橋PCの温度安定性と機械的安定性との特に有利な組み合わせをもたらす。化学名は、1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダンアミン(CAS番号68170-20-7)である。ここで、インダンの芳香環上のアミノ基は、すべての位置に存在する可能性がある。また、インダンの芳香環上のアミノ基が異なる位置に存在する1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダンアミンの混合物も含まれる。
【0112】
本発明によれば、可能な限り均一な材料特性を得るために、単一の特定の架橋剤を使用することが好ましい。しかし、2つ以上の架橋剤の混合物を使用することも可能である。
【0113】
<難燃剤(A)>
本発明によれば、成形物品および硬化可能なポリマー組成物は、少なくとも1つの難燃剤(A)を含有する。難燃性PKという用語は、PKが少なくとも1つの難燃剤(A)を含むことを意味する。難燃性成形物品という用語は、成形物品が少なくとも1つの難燃剤(A)を含むことを意味する。難燃性の硬化可能なポリマー組成物という用語は、ポリマー組成物が少なくとも1つの難燃剤(A)を含むことを意味する。
【0114】
難燃剤(A)は、有機化合物、無機化合物およびそれらの混合物から選択される。
【0115】
無機難燃剤A)は、好ましくは、リン、マグネシウム、カルシウム、ホウ素、アルミニウム、アンチモン、スズ、亜鉛の化合物およびそれらの混合物から選択される。適切であるが好ましくはないさらなる無機難燃剤A)は、赤リンである。水分との反応によるホスフィンガスの生成を避けるため、赤リンの化学修飾により材料を安定化させることができる。
【0116】
特定の無機難燃剤A)は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム(アルミニウム三水和物、ATHとも表記される)、ホウ酸カルシウム、カルシウム系水和鉱物、ホウ素、三酸化アンチモン、酸化スズ、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、三酸化モリブデン、赤リン、ポリリン酸アンモニウムおよびそれらの混合物から選択される。好ましくは、難燃剤A)は、水酸化マグネシウム、ホウ酸カルシウム、カルシウム系水和鉱物、ホウ素、三酸化アンチモン、酸化スズ、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、三酸化モリブデンおよびそれらの混合物から選択される。
【0117】
好ましい無機難燃剤は、金属水酸化物である。火災の際、金属水酸化物は水のみを放出するため、有毒または腐食性の排ガス生成物を形成しない。さらに、これらの水酸化物は、火災時に煙ガスの濃度を低下させることができる。
【0118】
好ましい一実施形態において、難燃剤A)は、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を含むかまたはこれからなる。特に、水酸化マグネシウムは、好ましくは1マイクロメートル未満の範囲のサブミクロンの粒径から6マイクロメートルまでの範囲の粒径を有する。特に好ましくは、粒径は、1~2マイクロメートルの範囲である。特に、水酸化マグネシウムは、大きな粒子表面積、好ましくは2~35m2/gの範囲の、特に好ましくは2~10m2/gの範囲のBET比表面積を有する。特定の一実施形態において、水酸化マグネシウム粒子は、種々の脂肪酸または脂肪酸の塩もしくはエステルなどの界面活性剤で被覆される。特に好ましい界面活性剤としては、ステアリン酸カルシウムおよびステアリン酸が挙げられる。
【0119】
有機難燃剤A)は、好ましくは、有機リン化合物、有機含窒化合物、有機ハロゲン化合物およびそれらの混合物から選択される。
【0120】
ハロゲン化有機難燃剤は、少量でも優れた難燃性を示すため非常に効率的であり、本明細書に記載する成形物品において良好に機能する。適切なハロゲン化有機難燃剤の例は、例えばDecaBDEのようなポリ臭化ジフェンチルエーテル(PBDE)、ポリ臭化ビフェニル(PBB)、臭素化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)、例えばヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)のような臭素化環式炭化水素、または例えばトリブロモフェノールのような臭素化フェノール誘導体である。多くのハロゲン化化学物質は、難分解性、生物蓄積性、毒性を示しかつ/または廃棄物処理にとってクリティカルであるため、それらの使用は、個々の事例では有利となる場合もあるが、本発明では総じて好ましくない。
【0121】
好ましくは、本発明による成形物品または硬化可能なポリマー組成物は、有機含リン難燃剤を含有する。本発明によれば、公知の大半の含リン難燃剤をPKに使用することができる。
【0122】
好ましい有機リン化合物は、ホスフェート、ポリホスフェート、ホスファイト、ホスフィネート、ホスホナイト、リン酸エステルおよびホスホン酸エステル、ジヒドロオキサホスホフェナントレン誘導体(DOPO)ならびにホスファゼンから選択される。
【0123】
本発明の趣意でのホスフェートとは、オルトリン酸(H3PO4)の塩およびエステルである。
【0124】
適切なホスフェートは、リン酸メラミン、アルキルホスフェート、アリールホスフェート、オリゴマーホスフェート、脂肪族ジホスフェート、ペンタエリスリトールホスフェート、ハロゲン含有ホスフェート、ポリリン酸アンモニウムおよびそれらの混合物から選択される。
【0125】
リン酸メラミンは、例えばオルトリン酸メラミン、オルトリン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミンまたはポリリン酸メラミンである。
【0126】
アルキルホスフェートは、例えばジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジプロピルトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェートまたはペンタエリスリトールホスフェートである。
【0127】
アリールホスフェートは、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、レゾルシノールおよびビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート)である。
【0128】
好ましいアルキルアリールホスフェートは、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェートである。
【0129】
オリゴマーホスフェートは、例えばオリゴマーエチルエチレンホスフェートである。
【0130】
ハロゲン含有ホスフェートは、例えば、トリス(2-クロロエチル)ホスフェート、トリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェート(TCPP)、トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)ホスフェートおよびトリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートである。
【0131】
本発明の趣意でのホスホネートとは、ホスホン酸(HP(O)(OH)2)およびそれから誘導される有機ホスホン酸(RPO(OH)2[ここで、Rは、アルキルまたはアリールから選択される])の塩およびエステルである。
【0132】
適切なホスホネートは、例えばジメチルメチルホスホネート(DMMP)、ジエチルエチルホスホネート、ジエチルプロピルホスホネート、およびSolvay製Amgard CUやTHOR GmbH製スピロビス(メチルホスホネート)などの環状ホスホネート、ビス(2-クロロエチル)-2-クロロエチルホスホネートなどのハロゲン含有ホスホネート、ならびにそれらの混合物である。
【0133】
ホスフィネートとは、ホスフィン酸(H2P(O)(OH))の塩およびエステルである。
【0134】
好ましい一実施形態において、難燃剤A)は、一般式(P1)および/または(P2)
【化24】
[式中、
30およびR31は、独立して、直鎖状または分岐状のC1~C8アルキルおよびアリールから選択され、
32は、直鎖状または分岐状のC1~C10-アルキレン、C6~C10-アリーレン、C1~C4-アルキル-C6~C10-アリーレンおよびC6~C10-アリール-C1~C4-アルキレンから選択され、
Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Li、Na、Kまたはプロトン化窒素塩基から選択され、
mは、2または3であり、nは、1または3であり、xは、1または2である]のホスフィン酸塩および/またはそのポリマーを含むかまたはそれからなる。
【0135】
特に、難燃剤A)は、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、n-プロピルメチルホスフィン酸、n-プロピルエチルホスフィン酸、ジ-n-プロピルホスフィン酸、ジイソプロピルホスフィン酸およびジフェニルホスフィン酸のカルシウム塩、アルミニウム塩および亜鉛塩から選択される。適切な市販品は、ジエチルホスフィン酸アルミニウム(DEPAL)およびジエチルホスフィン酸亜鉛である。ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛およびそれらの混合物は、特に好ましい難燃剤A)である。
【0136】
本発明の趣意でのホスファイトとは、亜リン酸(P(OH)3)のエステルおよび塩である。
【0137】
適切なホスファイトは、トリフェニルホスファイト、ジフェニルアルキルホスファイト、フェニルジアルキルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリルフェンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジイソデシルオキシペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリス-(tert-ブチルフェニル))ペンタエリスリトールジホスファイト、トリステアリルソルビトールトリホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)メチルホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスファイトおよびそれらの混合物から選択される。
【0138】
本発明の趣意での有機ポリホスフェートとは、共有する酸素原子により一緒に連結された四面体のPO4(ホスフェート)構造単位から形成される高分子オキシアニオンの塩またはエステルである。カチオンは、有機カチオンである。好ましい有機ポリホスフェートは、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミンアンモニウム、ピロリン酸メラミンアンモニウム、リン酸ジメラミンおよびピロリン酸ジメラミンである。これらの化合物は、以下でメラミン系難燃剤としても言及される。
【0139】
ホスホナイトは、式P(OR)2Rを有する有機リン化合物であり、ここで、Rは、アルキルまたはアリールから選択される。
【0140】
さらなる好ましい一実施形態において、難燃剤A)は、ジヒドロオキサホスホフェナントレン誘導体(DOPO)またはその誘導体を含むかまたはそれからなる。難燃剤として適切なDOPOおよびDOPO誘導体は、米国特許出願公開第2012/0095140号明細書に記載されている。DOPOは、6H-ジベンズ[c,e][1,2]オキサホスホリン-6オキシド(CAS登録番号35948-25-5]の略語である。
【0141】
含窒素難燃剤A)は、好ましくは、メラミン系難燃剤、グアニジン系難燃剤、立体障害アミン系難燃剤、イソシアヌレート系難燃剤、アラントイン、ベンゾグアナミン、グリコールウリル、シアヌル酸尿素およびそれらの混合物から選択される。
【0142】
メラミン系難燃剤A)は、好ましくは、メラミン、シアヌル酸メラミン、ホウ酸メラミン、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミンアンモニウム、ピロリン酸メラミンアンモニウム、リン酸ジメラミンおよびピロリン酸ジメラミン、メラミンフェニルホスホネート、メラミンの縮合生成物ならびにそれらの混合物から選択される。
【0143】
「シアヌル酸メラミン」という用語は、1,3,5-トリアジナン-2,4,6-トリオン-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミンの1:1錯体を示す。
【0144】
メラミンの好ましい縮合生成物は、メラム(M1)、メレム(M2)、メロン(M3)およびそれらの混合物である。
【化25】
【0145】
グアニジン系難燃剤A)は、好ましくはグアニジンフェニルホスホネートから選択される。グアニジンフェニルホスホネートおよびメラミンフェニルホスホネートは、例えば米国特許出願公開第2012/0108712号明細書に記載されている。好ましいのは、式(M4)および(M5)
【化26】
[式(M4)および(M5)中、
1~R5は、独立して、水素、C1~C4アルキル、ヒドロキシル、ヒドロキシ-C1~C4アルキルおよびC1~C4アルコキシから選択され、
xは、1または2であり、
式(M4)中、
6~R9は、水素、C1~C4アルキル、フェニル、フェニル-C1~C4アルキルから独立して選択され、フェニルは、非置換であるか、またはC1~C4アルキルおよびヒドロキシルから独立して選択される1、2もしくは3個の置換基で置換されている]の化合物である。
【0146】
適切なメラミンフェニルホスホネート塩は、米国特許4,061,605号明細書に記載されており、適切なグアニジンフェニルホスホネート塩は、米国特許第4,308,197号明細書に記載されている。
【0147】
好ましい立体障害アミン系難燃剤A)は、例えば米国特許第5,004,770号明細書、米国特許第5,204,473号明細書、米国特許第5,096,950号明細書、米国特許第5,300,544号明細書、米国特許第5,112,890号明細書、米国特許第5,124,378号明細書、米国特許第5,145,893号明細書、米国特許第5,216,156号明細書、米国特許第5,844,026号明細書、米国特許第6,117,995号明細書および米国特許第6,271,377号明細書に開示された立体障害N-アルコキシアミン(NOR HALS)である。立体障害アミン系難燃剤をベースとする難燃剤組成物は、例えば国際公開第2009/080554号および米国特許出願公開第2012/0108712号明細書に記載されている。
【0148】
イソシアヌレート系難燃剤A)は、好ましくはポリイソシアヌレート、イソシアヌル酸のエステルまたはイソシアヌレートから選択される。代表例は、ヒドロキシアルキルイソシアヌレート、例えばトリス-(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドロキシ-n-プロイル)イソシアヌレートまたはトリグリシジルイソシアヌレートである。
【0149】
さらなる適切な含窒素難燃剤A)は、アラントイン(=(2,5-ジオキソ-4-イミダゾリジニル)尿素)、ベンゾグアナミン、グリコールウリル(=テトラヒドロイミダゾ[4,5-d]イミダゾール-2,5-ジオン)およびシアヌル酸尿素である。
【0150】
前述の難燃剤A)を、成形物品の単一の難燃剤成分として使用することも、2つ以上の難燃剤の任意の組み合わせで使用することもできる。本発明の趣意において、2つ以上(例えば、3、4または5つ以上)の難燃剤A)の組み合わせは、難燃剤組成物とも表記される。難燃剤組成物に含まれる難燃剤は、すべて同一のクラスの難燃剤から選択することも、異なるクラスの難燃剤から選択することも可能である。
【0151】
特定の一実施形態は、少なくとも1つの難燃剤A)と少なくとも1つの相乗剤とを含む難燃剤組成物である。相乗剤は、難燃剤自体であってもよい。この場合、相乗効果とは、全体的な難燃効果が、単一成分の効果の総和よりも高いことを意味する。また、相乗剤は、難燃剤A)とは異なる少なくとも1つの成分であってもよい。この場合、相乗剤は、本発明による成形物品または硬化可能なポリマー組成物中の難燃剤A)の濃度を低減することを可能にし、かつ/または最終生成物の特性に対してさらなる有益な効果を有する。相乗剤は、例えば、ドリッピング防止剤として作用したり、例えばUL94試験における性能を向上させたり、火災時の炭化物形成を改善したり、煙濃度を低下させたりすることができる。
【0152】
好ましい一実施形態は、水酸化マグネシウムと無機相乗剤とを含有する難燃剤組成物である。無機相乗剤は、好ましくは、ホウ酸塩、特にホウ酸亜鉛、ケイ酸塩、およびアルミノケイ酸塩粘土鉱物、特にモンモリロナイトをベースとするナノコンポジットから選択される。
【0153】
さらなる好ましい一実施形態は、水酸化マグネシウムと、好ましくは含リン難燃剤、Sb23、ホウ酸亜鉛およびそれらの混合物から選択されるさらなる成分とを含有する難燃剤組成物である。
【0154】
さらなる好ましい一実施形態において、少なくとも1つの含リン難燃剤A)を、含リン難燃剤とは異なる少なくとも1つの相乗剤と組み合わせることができる。特定の一実施形態において、難燃剤(A)は、ホスフェート、ホスファイト、ホスフィネート、ホスホナイト、リン酸エステルおよびホスホン酸エステル、ホスファゼンから選択される含リン難燃剤から選択され、相乗剤は、メラミンから選択される。
【0155】
特に、ホスフェート、ホスファイト、ホスフィネート、ホスホナイト、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスファゼンから選択される含リン難燃剤。
【0156】
さらなる特定の一実施形態は、A1)アルキルホスホン酸またはアリールホスホン酸の少なくとも1つの塩と、A2)少なくとも1つの含窒素難燃剤とを含む難燃剤組成物A)である。好ましいのは、A1)アルキルホスホン酸またはアリールホスホン酸の少なくとも1つの塩と、A2)少なくとも1つのメラミンまたはその縮合生成物とを含む難燃剤組成物A)である。
【0157】
さらなる特定の一実施形態は、A)上記で定義された式(P1)および/またはP2)の少なくとも1つのホスフィン酸塩、例えばジメチルホスフィン酸アルミニウム、メチルエチルホスフィン酸アルミナおよびメチルプロピルホスフィン酸アルミニウムと、B)窒素化合物、例えばアラントイン(=(2,5-ジオキソ-4-イミダゾリジニル)尿素)、ベンゾグアナミン、グリコールウリル(=テトラヒドロイミダゾ[4,5-d]イミダゾール-2,5-ジオン)、シアヌル酸尿素、シアヌル酸メラミンおよびリン酸メラミンとを含む組成物である。また、A)上記式(II)のホスフィネート、例えばジエチルホスフィネートであって、ここで、Mは、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび/または亜鉛であるものとするホスフィネートと、B)メラミンの縮合または反応生成物、例えばポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラムおよびポリリン酸メレムとを含む相乗的な難燃剤の組み合わせも適切である。
【0158】
さらなる特定の一実施形態は、相乗剤としてスズ酸亜鉛(ZnSnO3およびZn2SnO4)およびヒドロキシスズ酸亜鉛(ZnSn(OH)6)から選択される亜鉛化合物を含む組成物である。特に、ヒドロキシスズ酸亜鉛は、良好な煙抑制特性を有する環境に優しい難燃剤であり、難燃剤自体としても作用する。
【0159】
好ましくは、難燃剤(A)はハロゲンを含まない。
【0160】
好ましくは、成形物品が、上記の難燃剤(A)を、ポリマーマトリックスの総重量を基準にして5~30重量%、特にポリマーマトリックスの総重量を基準にして7~15重量%の量で含む、前記請求項のいずれか1項記載の成形物品。
【0161】
<フィラーおよび補強材および添加剤>
硬化可能な/硬化性ポリマー組成物および成形部品は、任意に、フィラーおよび補強材ならびに/またはそれらとは異なる添加剤を含有してもよい。難燃性架橋PKは、フィラーおよび補強材および/または添加剤が均一に分散したマトリックスを形成する。
【0162】
「フィラーおよび補強材」という用語は、本発明の文脈において広義に解釈され、粒状フィラー、繊維状材料および任意の過渡的形態を含む。粒状フィラーは、粉塵状から粗粒状の粒子まで幅広い粒径を有し得る。フィラー材料は、有機フィラーおよび補強材であってもよいし、無機フィラーおよび補強材であってもよい。
【0163】
適切な無機補強材は、例えば、セラミックフィラー、例えば窒化アルミニウム、窒化ケイ素およびホウ素、または鉱物フィラー、例えばアスベスト、タルク、ウォラストナイト、マイクロバイト、ケイ酸塩、玄武岩、蛇紋岩、チョーク、焼成カオリン、雲母、バーミキュライト、イライト、スメクタイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、メタケイ酸複水酸化物、長石および石英粉末、非晶質シリカ、カオリン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸塩、二酸化チタン、酸化亜鉛、ガラス粒子、ナノスケールの層状ケイ酸塩、ナノスケールの酸化アルミニウム(Al23)、ナノスケールの二酸化チタン(TiO2)、層状ケイ酸塩、およびナノスケールの二酸化ケイ素(SiO2)、ならびにそれらの混合物である。フィラーは、表面処理することもできる。
【0164】
さらに、1つ以上の繊維状材料を使用してもよい。繊維状材料は、好ましくは、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維および玄武岩繊維のような既知の無機強化繊維;アラミド繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維およびポリエチレン繊維のような有機強化繊維;ならびに木質繊維、亜麻繊維、麻繊維、セルロース系繊維、綿毛繊維、ケナフおよびサイザル麻繊維のような天然繊維から選択される。
【0165】
適切なガラス繊維は、例えば、ガラス短繊維(SGF)、ガラス長繊維(LGF)、ガラス連続繊維、ガラス布地、マット、不織布、ロービング、ヤーン、カットまたは粉砕ガラス繊維、ガラスシルクロービングおよび粉砕ガラスシルクである。
【0166】
長さが5mm以下のガラス繊維は、典型的にはガラス短繊維と表記され、長さが5mmを超えるガラス繊維は、典型的にはガラス長繊維と表記される。
【0167】
適切なガラス繊維は、従来のガラス繊維、例えばE、S、C、AR、ECRである。
【0168】
ガラス繊維は、円形断面を有する実質的に円筒形であってもよいが、例えば楕円形または(丸みを帯びた)正方形のような他の断面形状も適している。好ましい一実施形態において、ガラス繊維は、実質的に円形の断面を有する。この場合、厚さは、平均直径と同一である。
【0169】
本発明で使用されるガラス繊維は、典型的には、3~50マイクロメートル、好ましくは5~30マイクロメートルの範囲の直径を有する。
【0170】
単一のガラスフィラメントを、総じて束ねることで繊維にし、繊維を、束ねてヤーン、ロープまたはロービングとしてもよいし、織ってマットとしてもよい。特定の一実施形態において、ガラス繊維は、ガラスロービングとも呼ばれるガラスマルチファイバーストランドに由来する。ガラスマルチファイバーストランドまたはロービングは、好ましくは、ストランド1つ当たり500~10000本のガラスフィラメントを含有する。適切なロービングの例は、例えばSE4220、SE4230もしくはSE4535と表記され、Binani 3B Fibre Glass companyから入手可能な、1200もしくは2400texとして入手可能なAdvantex製品、またはPPG Fibre Glassから入手可能なTUFRov 4575、TUFRov 4588である。
【0171】
本発明の成形用組成物を製造する際には、チョップドストランドの形態のフィラメント状ガラスを使用することが便利であり得る。
【0172】
好ましくは、フィラーは、押出成形プロセスでポリマーマトリックスに添加できるガラス短繊維、押出成形中または射出成形中にポリマーマトリックスに添加できるガラス長繊維である。
【0173】
好ましくは、フィラーおよび補強材は、存在する場合、成形物品の総重量を基準にして80重量%まで、特に0.1重量%~80重量%、殊に1重量%~50重量%の量で使用される。
【0174】
適切な添加剤は、カーボンブラック、酸化防止剤、増量剤、滑剤、光安定剤(紫外線安定剤、紫外線吸収剤または紫外線遮断剤)熱安定剤、スリップ剤および剥離剤、染料および顔料、架橋反応触媒、増粘剤、チキソトロピー剤、界面活性剤、粘度調整剤、核剤、可塑剤、帯電防止剤、離型剤、消泡剤、殺菌剤ならびにそれらの混合物から選択される。
【0175】
好ましくは、添加剤は、存在する場合、成形物品の総重量を基準にして20重量%まで、特に0.1重量%~20重量%、より殊に0.1重量%~18重量%の量で使用される。
【0176】
<方法>
本発明による方法は、ポリケトンのポリマー鎖が互いに共有結合で分子内結合する架橋反応に関する。
【0177】
ステップ(i)
ステップ(i)において、ポリケトンと架橋剤と難燃剤とを含有する混合物を提供する。ステップ(i)で提供される混合物は、従来のコンパウンディング法によって製造することができる。
【0178】
本発明による一実施形態において、ステップ(i)の混合物は、個々の成分、例えばPK、難燃剤(A)および架橋剤、ならびに任意にフィラー/補強材および添加剤を混合物に添加することによって得ることができる。
【0179】
本発明による第二の実施形態において、ステップ(i)の混合物は、1つ以上の成分のプレミックスを添加することによって得ることができ、例えば、PKと難燃剤(A)とのプレミックスを製造する。続くステップにおいて、このプレミックスと、架橋剤と、任意にフィラー/補強材および添加剤とを混合する。
【0180】
本発明による第三の実施形態において、ステップ(i)の混合物は、1つ以上の成分のプレミックスを添加することによって得ることができ、例えば、架橋剤と難燃剤(A)とのプレミックスを製造する。続くステップにおいて、このプレミックスと、PKと、任意にフィラー/補強材および添加剤とを混合する。
【0181】
本発明による第四の実施形態において、ステップ(i)の混合物は、1つ以上の成分のプレミックスを添加することによって得ることができ、例えば、PKと難燃剤(A)とフィラー/補強材および添加剤とのプレミックスを製造する。続くステップにおいて、このプレミックスと架橋剤とを混合する。
【0182】
ステップ(i)で得られた混合物に難燃剤を添加した後でPKと架橋剤との架橋反応が起こる限り、PK、架橋剤および難燃剤の各成分の添加順序は重要ではない。
【0183】
ステップ(i)において、好ましくは、少なくとも1つのポリケトンと少なくとも1つの難燃剤との混合物をプレミックスとして供給する。その後、難燃剤とポリケトンのプレミックスを、少なくとも1つの架橋剤と、そして任意にフィラーおよび補強剤と、そして任意に別の添加剤とブレンドする。
【0184】
ステップ(i)において、好ましくは、少なくとも1つのポリケトン、少なくとも1つの架橋剤、少なくとも1つの難燃剤、任意にフィラーおよび補強剤、ならびに任意にそれらとは異なる別の添加剤を、溶融混合(変形例1)または乾式混合()に供する。
【0185】
変形例1による溶融混合(溶融ブレンドとも表記される)では、ポリマーを、その溶融温度を上回る温度に加熱し、圧延、混練または押出成形によって集中的に混合する。この方法において、好ましくは、混合物が容易に加工可能となりかつコンパウンディングに適した粘度を有するように、ステップ(i)の温度を調整する。さらに、好ましくは、ポリケトンと架橋剤との有意な反応がまだ起こらないように、ステップ(i)の温度を調整する。さらに、PKと架橋剤との反応がすでに起こっている温度では、滞留時間を可能な限り短く抑えるべきである。反応するカルボニル基の反応性が隣接するフェニレン基の共鳴効果によって低下するPAEKとは対照的に、本発明により記載される架橋剤によるPKのアミノ架橋は、好ましくは、すでに溶融状態で開始する。本発明によれば、先行技術に記載の方法のように、アミン結合によるPKへの架橋剤の共有結合が早期に起こることは、必要ではない。このことは有利であり、なぜならば、本発明によれば、中間体の望ましくないさらなる反応と、その結果としての早すぎる架橋とを防止するために正確な制御が必要となるであろうそのような追加の反応ステップを省略できるためである。
【0186】
一実施形態において、ステップ(i)において、少なくとも1つのポリケトン、少なくとも1つの架橋剤、少なくとも1つの難燃剤、任意にフィラーおよび補強材、ならびに任意にそれらとは異なるさらなる添加剤を、押出機に供給し、可塑化を行いながら混合し、任意に造粒する。
【0187】
溶融混合中のステップ(i)の温度は、好ましくは220~260℃の範囲である。
【0188】
さらなる一実施形態(変形例2)において、ステップ(i)において、少なくとも1つのポリケトン、少なくとも1つの架橋剤、少なくとも1つの難燃剤、任意にフィラーおよび補強材、ならびに任意にそれらとは異なる別の添加剤を、乾式混合に供する。前述の成分は、既知のドライブレンド技術で混合することができる。ポリケトンと、少なくとも1つの架橋剤と、少なくとも1つの難燃剤と、任意にフィラーおよび補強材ならびに任意にそれらとは異なるさらなる添加剤とのドライブレンドが得られる。
【0189】
本願の趣意での「乾式混合」(変形例2)という用語は、ポリケトンの融点を下回る温度での、またはポリマーが複数の融点を有する場合にはポリケトンの最低融点を下回る温度での混合プロセスを表す。しかし、「乾式混合」には、各成分が液体形態で使用されることが包含される(しかし、前述のようにポリマー溶融物ではない)。
【0190】
乾式ブレンド中のステップ(i)の温度は、ポリケトンの軟化範囲を下回り、好ましくは0℃~100℃の範囲である。
【0191】
混合物の製造中、架橋剤およびポリマーの均一な分布を達成するために、撹拌または混練装置のような適切な手段によって集中的な混合が行われる。これは、安定性に関して均一な材料特性を得るために非常に重要である。一実施形態において、架橋剤は、ポリマー中に分散している。別の実施形態において、架橋剤を、少なくともポリマーの表面に分散させる。好ましくは、架橋性混合物を、製造後に、組成を変化させるさらなる中間ステップを経ることなくステップ(ii)でさらに加工する。
【0192】
混合中、中間生成物、例えば粒状物を得ることができる。これらの中間生成物は、80℃未満、好ましくは50℃未満、特に周囲温度以下の範囲の温度で長期間安定であり、例えば、一時的に貯蔵しかつ/または別の場所に輸送してさらに加工することができる。
【0193】
本発明の特に好ましい一実施形態において、混合物は、溶媒を含有しない。特に、混合物には外部溶媒が添加されない。本発明により、驚くべきことに、ポリケトンと架橋剤と難燃剤とフィラーまたは補強材との混合物を、溶媒を使用せずに緊密な混合が行われた状態で加工することができることが見出された。
【0194】
好ましくは、混合物を、液体または流動性(可塑化された)形態となる温度まで加熱する。この場合、均質な混合物を得るためには、本方法において有意な架橋が生じないような温度および滞留時間を選択することが好ましい。
【0195】
好ましい一実施形態において、ステップ(i)で混合物を製造するために、架橋剤をポリケトンに連続的に添加する。この場合、各成分は、液体の形態であってもよいし固体の形態であってもよい。このようにして、特に均一な混合物を得ることができる。架橋剤を、好ましくは、例えば撹拌、混練、圧延および/または押出成形などの緊密な混合が行われた状態で添加する。好ましい一実施形態において、架橋剤を、濃縮物の形態で供給する。これは、架橋剤をより良好に計量することができ、これにより混合物の均一性を向上させることができるという利点を有する。全体として、架橋剤が連続的に添加されると、特に均一な混合物を得ることができるため、特に規則的な架橋が達成される。これにより、不均一性の原因となりかねず、熱的または機械的応力下で生成物に損傷を与えるおそれがある架橋度の異なる領域の形成を防止することができる。このようにして、温度安定性および機械的安定性の面で特に優れた特性を達成することができる。
【0196】
ステップ(ii)
ステップ(ii)において、ステップ(i)で得られた混合物から成形物品を製造する。成形物品の製造のステップ(ii)は、混合物を、硬化した架橋状態で保持される三次元形状に成形するすべての手段を含む。好ましくは、成形物品を、熱可塑性樹脂に慣用されている成形プロセスにより製造する。この文脈において、成形物品の製造を、架橋前および/または架橋中に行うことが好ましい。この文脈において、ステップ(ii)で使用される混合物がすでに少量の架橋生成物を含んでいても、総じて重大な問題とはならない。特に好ましくは、成形はステップ(iii)の前に行われ、なぜならば、特にホットプレス成形、押出成形、射出成形および/または3D印刷によって、架橋前に混合物を有利なことに熱塑性的に加工および成形することができるためである。
【0197】
ステップ(i)において各成分の混合を乾式混合によって行う場合には、ステップ(ii)において乾式混合物を溶融させ、上述の成形ステップに供する。
【0198】
一実施形態において、ステップ(i)および(ii)は、別個に連続して進行する。
【0199】
好ましい一実施形態において、成形物品を、ステップ(ii)において熱塑性成形によって製造する。これは、コンパウンドが架橋されていないおよび/または少なくともさほど架橋されていない状態で溶融物から成形できることを意味し、なぜならば、そうでなければ熱塑性加工がもはや不可能となるためである。架橋部位が多すぎると、PK中間体は流動性を失い、容易に熱可塑成形できなくなる。コンパウンドを、成形前に短時間だけ高い加工温度に曝すべきである。したがって、熱塑性加工を、好ましくは装置内での混合物の滞留時間が可能な限り短くなるように行う。この文脈において、一実施形態において、架橋反応の主要な部分、したがって例えば、架橋の80%超、90%超または95%超が成形後、すなわちステップ(iii)でのみ起こるように加工を行うことが好ましい。また、別の実施形態において、架橋反応、したがって架橋の一部またはすべて、例えば好ましくは架橋の80%超、より好ましくは90%超、特に95%超、殊に99%超が成形時、すなわちステップ(ii)で起こることも好ましい。本実施形態は、架橋剤が少なくとも2つの第一級アミノ基を有する少なくとも1つの飽和脂環式化合物もしくは脂肪族化合物、および/またはこれらを組み込んだ形で含有するオリゴマー/ポリマーである場合に特に実施することができる。言い換えれば、架橋PKを有する成形物品が、すでにステップii)で得られる。
【0200】
好ましい一実施形態において、混合物を、ステップ(ii)において、押出成形、ホットプレス成形、射出成形および/または3D印刷によって加工し、それにより成形する。これらのプロセスは、熱可塑性ポリマー組成物の容易かつ効率的な加工に特に適している。「成形」とは、最初に付与された形状を、後に再び変化させることを意味する。代表的な成形プロセスには、曲げ加工、スタンピング加工、延伸加工、深絞り加工などがある。
【0201】
押出成形は、既知の方法に従って行うことができる。押出成形の際、固形ないし粘性のある硬化可能な塊状物が、圧力下で成形オリフィス(ダイ、ダイスまたは口金とも呼ばれる)から連続的に押し出される。これにより、押出物と呼ばれる、理論的には任意の長さの、開口部の断面を有する物体が製造される。好ましくは、押出成形は、少なくとも220℃、好ましくは220℃~265℃、特に230℃~250℃の温度で行われる。
【0202】
ホットプレス成形とは、予め加熱したキャビティに成形コンパウンドを導入するプロセスである。その後、圧力ピストンを用いてこのキャビティを閉じる。この圧力によって、成形コンパウンドは金型により規定された形状になる。好ましくは、ホットプレス成形は、少なくとも220℃、好ましくは220℃~265℃、特に230℃~250℃の温度で行われる。
【0203】
射出成形(しばしばインジェクション成形またはインジェクション成形法とも呼ばれる)とは、可塑加工で使用される成形方法である。本方法では、射出成形機でプラスチックを可塑化させ、射出成形具である金型に圧力下で射出する。金型内で、材料は冷却により固体状態に戻り、金型の開放後に成形部品として取り出される。金型のキャビティが、生成物の形状および表面構造を決定する。
【0204】
3D印刷では、例えば、熱溶解積層法(FDM)として知られる方法を、本発明の成形コンパウンドの成形に使用することができる。FDMは基本的に、プリントベッド(所望の物体をプリントする)、フィラメントスプール(プリント材料を供給する)およびプリントヘッド(エクストルーダとも呼ばれる)の3つのエレメントに基づいている。熱可塑成形コンパウンドからなるフィラメントを、プロセス中に巻き出してエクストルーダに供給し、そこで溶融させて、印刷版上に一層ずつ堆積させる。
【0205】
特に好ましくは、加工は、押出成形およびそれに続く射出成形により行われる。PKと架橋剤と難燃剤との混合物がまだ液状となっていない場合には、この混合物を、これらのプロセスで溶融させる。ステップ(ii)において、混合物を、好ましくは押出機、射出成形機またはホットプレスに導入し、高温、例えば220℃~250℃の範囲の温度で溶融させて所望の形状に成形する。
【0206】
ステップ(iii)
部分的にまたは完全に架橋したポリケトンを有する成形物品がすでにステップii)で得られている上述の実施形態では、加熱ステップiii)を省略することができる。
【0207】
ステップ(iii)は、成形物品を、PKが架橋する温度で熱処理し、それにより架橋成形物品を得ることを含む。これにより、PKを架橋剤で分子間架橋させることができる。ポリアミドは加水分解され、ジアミン成分に分解される。架橋の際、PK鎖の2つのケト基と架橋剤の放出されたジアミンの2つのアミノ基との間に2つのイミン結合が形成される。イミン窒素は、水素原子を持たず有機分子に連結されているため、得られるイミンの形態の架橋は、シッフ塩基としても知られている。架橋は、可能な限り完全であるため、使用される架橋剤のアミノ基が可能な限り多くPKのカルボニル基と反応する。完全架橋の利点は、耐熱性の向上および剛性(弾性率)の向上である。しかし、部分的のみの架橋も「架橋」という用語に包含されるべきである。部分的のみの架橋は、PK鎖のすべてを網目構造に完全に組み込むのに十分な架橋剤が使用されていない場合に生じ得る。この場合、材料は通常、完全に架橋された材料よりも高い破断伸びを示す。イミン結合は、成形物品に高い安定性を付与する。本発明によれば、成形物品は、好ましくはPKをベースとする成形物品である。ここで、「PKをベースとする」とは、PKが成形物品の必須の構造付与ポリマー成分であることを意味する。一実施形態において、PKが成形物品の唯一のポリマー成分であることが好ましい。
【0208】
本発明により使用することができる架橋剤は、比較的高い融点および沸点を有するため、ステップ(iii)での温度を比較的高く設定することができる。このことは有利であり、それというのも、このような架橋反応は、総じて高温で有利であるためである。しかし、好ましくは、温度は、難燃性ポリケトンの溶融範囲を下回り、かつまだ完全には架橋していない成形物品の軟化点を下回る。
【0209】
驚くべきことに、本発明による系において、ポリマーおよび成形物品の溶融範囲を下回る温度ですでに架橋反応が生じることが見出された。総じて、架橋反応はポリマーおよび成形物品の溶融範囲を上回る温度で優先的に生じると考えられているため、このことは予想外であった。
【0210】
さらに、先行技術では、このような架橋反応は、比較的急速に、数分ないし数時間以内に生じると想定されている。これは、架橋剤の化学構造や後架橋温度に依存する。芳香族ジアミンが、数時間の範囲内でPKベース材料を架橋させるのに対して、脂肪族または脂環式ジアミンは、数分以内に終了するはるかに速い架橋反応を示す。本発明により、ステップ(iii)における成形物品の加熱が、架橋温度に応じて好ましくは少なくとも1時間、例えば1時間~2日の期間にわたって行われる場合、架橋PKは特に有利な特性を示し得ることが見出された。このような熱処理により、熱安定性、弾性率および引張強度が十分に向上することが見出された。
【0211】
特に、熱処理により、高温での試料の剛性が向上し得ることが判明した。ある一定時間の熱処理によって剛性が著しく向上し得るが、その後に飽和が起こる場合があるため、さらに熱により後処理しても、剛性が向上しないかまたはわずかにしか向上しないことが観察された。しかし、熱によるさらなる後処理は、通常、熱変形温度の改善を示す。熱変形温度は、熱による後処理をより長く行うことによっても上昇し得ることが見出された。
【0212】
好ましい一実施形態において、ステップ(ii)で得られた成形物品を、短期間の熱処理に供する。好ましくは、ステップ(iii)における成形物品の熱処理は、長くとも6時間、例えば5分間~6時間、より好ましくは0.5分間~5時間、特に1時間~4時間行われる。ここで有利なことは、並行して起こる脂肪族ポリケトンの自己架橋反応を低減できることである。
【0213】
しかしまた、成形物品をより長い期間、好ましくは少なくとも6時間、特に2日を上回る期間にわたるステップ(iii)の熱処理に供することも好都合となる場合がある。本発明のさらなる一実施形態において、熱処理は、2~10日間、特に2~6日間行われる。好ましくは、熱処理は、酸素の非存在下で行われる。
【0214】
好ましい一実施形態において、ステップ(iii)の熱処理は、少なくとも160℃、好ましくは少なくとも180℃の温度で行われる。好ましくは、ステップ(iii)の温度は、160℃~240℃、より好ましくは190℃~230℃、特に190℃~210℃である。このような温度では、効率的な三次元架橋が、例えば成形物品の望ましくない変形によって熱塑性的に製造された物品を損なうことなく、十分に迅速に進行することができる。
【0215】
架橋後、成形品を冷却してから、使用に供することもできるし、さらに加工することもできる。
【0216】
上述したように、ステップ(i)の混合物および成形物品の双方が、フィラーおよび補強材ならびに/または適切な場合にはそれらとは異なる添加剤を含有していてもよい。架橋PKは、難燃剤、フィラーおよび補強材および/または添加剤が均一に分散したマトリックスを形成する。このようなフィラー、補強材および/または添加剤は、上記で定義されている。
【0217】
特に、本発明の範囲内で記載される本発明による方法によって、成形物品を得ることができる。成形物品は、好ましくは、難燃性架橋PKについて本発明の文脈において記載された有利な特性を示す。本発明の文脈において、成形物品という用語は、規定された三次元形状を有する難燃性架橋PKから構成される生成物を指す。この文脈において、成形体は、規定された物体である必要はなく、例えばコーティングであってもよい。成形物品は、難燃性架橋PKからなってもよいし、難燃性架橋PKを、例えば複合材または積層体として含有してもよい。
【0218】
好ましい一実施形態において、本発明による成形物品を後硬化させる。第1の変形例では、本発明による成形物品を、5分間~6時間にわたって後硬化させる。第2の変形例では、本発明による成形物品を、6時間を超えて数日までの期間にわたって後硬化させる。各場合において異なる変形例によって、異なる有利な特性を達成することができる。
【0219】
好ましくは、成形物品を5分間~6時間にわたって後硬化させると、この成形物品は、難燃性未架橋PKから製造された成形物品と比較して有利な機械的特性の向上を示し、この機械的特性の向上は、引張弾性率の増加、降伏応力の増加および降伏点伸びの増加を特徴とする。好ましくは、5分間~6時間にわたって後硬化させた本発明による成形物品は、少なくとも1800MPa、特に少なくとも1900MPa、特に好ましくは少なくとも2000MPaの引張弾性率を有する。好ましくは、本発明による5分間~6時間にわたって後アニール処理した成形物品は、少なくとも65MPa、特に少なくとも68MPa、特に好ましくは少なくとも70MPaの降伏強度を有する。好ましくは、本発明による5分間~6時間にわたって後アニール処理した成形物品は、少なくとも20%、特に好ましくは少なくとも23%の降伏点伸びの改善を示す。
【0220】
好ましくは、成形物品を、6時間を超えて数日までの期間にわたって後硬化させると、この成形物品は、難燃性未架橋PKから製造された成形物品と比較して有利な剛性の向上を示し、この剛性の向上は、高い引張弾性率および引張強度の向上を特徴とする。しかし、架橋が強すぎると、降伏点伸びが著しく低下する。好ましくは、6時間を超えて数日までの期間にわたって後硬化させた成形物品は、少なくとも2000MPa、特に少なくとも2250MPa、特に好ましくは少なくとも2500MPaの引張弾性率を有する。特に、引張弾性率は、2000MPa~3000MPa、または2250MPa~3000MPaである。一方で、未架橋PCの引張弾性率は、1400MPa~1800MPaである。引張弾性率は、DIN EN ISO527-2に準拠して測定される。
【0221】
架橋度が高くなると材料の破断伸びが低下する可能性があるため、成形部品中のPKを完全に架橋させないことが望ましい場合がある。したがって、所望の用途を考慮して、例えば架橋剤の割合ならびに熱処理の種類および時間により架橋の程度を設定することが好ましい。
【0222】
架橋度は、好ましくは直接測定されるのではなく、成形物品が所望の特性を有するか否かが高温引張試験などの適切な試験方法によって調べられる。非常に高い温度では、動的弾性率を測定することができる。
【0223】
成形品は、特に高い機械的安定性、特に高い剛性が要求される技術分野で使用することができる。成形品は、自動車産業、海洋産業、航空宇宙産業、鉄道車両産業、産業機械およびロボット工学、石油およびガス産業、食品および包装産業、電気産業、エネルギー産業ならびにヘルスケア産業、安全産業および医療産業における用途に、特にシーリング物品、好ましくはシーリングおよびOリング、ブッシング、フィルム、粉末、コーティング、繊維、軸受、バックアップリング、バルブ、スラストワッシャ、カップリングエレメント、スナップフック、パイプまたは導管、冷却管、ケーブル、シース、スリーブおよびジャケット、カバー、ヒートシールド、ハウジング、エレクトロニクス用ハウジング、バッテリハウジングとして、またはそれらのコンポーネントとして、特に適している。成形品は、高い難燃性、耐薬品性および耐研磨性が要求される用途に特に適している。これは、石油およびガス生産、航空宇宙工学および化学工業における、ならびに安全関連部品の製造プロセス、およびエネルギー生産部門および自動車産業における用途に特に該当する。その他に考えられる用途としては、架橋が良好な絶縁特性をもたらすことから、エレクトロニクス分野のコネクタや絶縁体がある。
【0224】
本発明による方法、成形品およびシーリング物品は、本発明の基礎を成す課題を解決する。これらは、未架橋のPKと比較して、良好な加工性に加え、耐熱性の向上および機械的安定性の向上を示す。特に、成形物品は、特にガラス転移温度を上回る温度で高い剛性を示す。高い剛性は、高温でのクリープ挙動の低減を伴う。耐熱性の向上は、最高温度と連続使用温度との双方で明らかである。この文脈において、これらの生成物は、非常に優れた耐薬品性を示すとともに、材料が架橋により溶融することがなく、また燃焼物が滴り落ちることがないため、可燃性の低減を示す。
【0225】
さらに、本発明の成形物品は、熱塑性成形プロセスにより、容易かつ効率的に製造することができる。例えば、本発明の成形物品は、単純な押出成形によって製造することができる。さらに、使用される架橋剤は、比較的高い沸点を有し、揮発性がさほど高くないため、本方法は、環境に優しく、また使用者を危険に曝すことなく実施することができる。
【0226】
本発明を以下の実施例を参照して説明するが、本発明は、具体的に説明した実施形態に限定されるものではない。
【0227】
<実施例>
略語:
DAPI:1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-6-アミンおよびその異性体
T:温度
G’:貯蔵弾性率
G’’:損失弾性率
PA:ポリアミド
【図面の簡単な説明】
【0228】
図1】比較例であり、PK/PAドライブレンドのレオメーター曲線を示す図である。PK/PAドライブレンドを実施例1と同様に製造したが、DAPIの代わりに1重量%のPA(PA12、VESTAMID(登録商標)LX9008)を使用した。このドライブレンドは、射出成形で架橋せず、長時間の後加熱の後でも架橋しない。
図2】本発明による実施例であり、PK/芳香族架橋剤ドライブレンドのレオメーター曲線を示す図である。PK/芳香族架橋剤ドライブレンドを実施例1と同様に製造したが、1重量%のDAPIを使用した。架橋は射出成形中にのみ始まるため、このブレンドには後加熱プロセスが必要である。
図3】本発明による実施例であり、PK/脂肪族架橋剤ドライブレンドのレオメーター曲線を示す図である。PK/脂肪族架橋剤ドライブレンドを実施例2と同様に製造したが、1重量%のPriamine 1075を使用した。損失弾性率および貯蔵弾性率は、レオロジー測定の開始時にすでに交差している。
【0229】
結論:PAとPKとの架橋は、起こるとしても、モノマーの芳香族架橋剤やモノマーの脂肪族架橋剤に比べて非常に遅い。
【0230】
実施例1
二軸押出機を用いて、CAS番号68170-20-7のDAPI異性体混合物(式VIIの架橋剤)0.6重量%を、融点約220℃、メルトボリュームレート30cm3/10min(ISO 1133に準拠/230℃/10kg)の市販の難燃強化脂肪族PKコンパウンドRIAMAXX HR GF orange K 2-103(ドイツ、RIA-Polymers GmbHから市販)99.4重量%に混ぜ入れ、ポリマーストランドを切断して粒状物にする。
【0231】
これらの粒状物を、射出成形により寸法80mm×80mm×2mmおよび80mm×80mm×1mmの試験板とした。その後、これらの板を、真空オーブンでの2時間の熱による後硬化に供する。
【0232】
UL94V火炎試験において、この材料について0.75mmでV0の結果が得られる。
【0233】
プロパン/酸素火炎を板表面の酸化火炎ゾーン(温度:1200℃)に直接当てる火炎試験セットアップにおいて、10分間の試験期間で、この材料は燃焼せず、溶融もしなかった。
【0234】
実施例2
二軸押出機を用いて、ジアミン架橋剤Priamine 1075(アミノ化飽和脂環式脂肪酸ダイマー、Cargillから市販)0.6重量%を、融点約220℃、メルトボリュームレート30cm3/10min(ISO 1133に準拠/230℃/10kg)の市販の難燃強化脂肪族PKコンパウンドRIAMAXX(登録商標)HR GF orange K 2-103 99.4重量%に計量供給し、ポリマーストランドを切断して粒状物にする。
【0235】
これらの粒状物を、射出成形により寸法80mm×80mm×2mmおよび80mm×80mm×1mmの試験板とした。レオロジー試験により、Priamine 1075は、すでに射出成形中にPKベース材料を架橋しており、したがって後硬化ステップiii)は不要であることが判明した。
【0236】
UL94V火炎試験において、この材料について0.75mmでV0の結果が得られる。
【0237】
プロパン/酸素火炎を板表面の酸化火炎ゾーン(温度:1200℃)に直接当てる火炎試験セットアップにおいて、10分間の試験期間で、この材料は燃焼せず、溶融もしなかった。
【0238】
実施例3
LAB CM 6-12型Mixaco-Mixerを用いて、ジアミン架橋剤Priamine 1075(アミノ化飽和脂環式脂肪酸ダイマー、Cargillから市販)0.36重量%を、融点約220℃、メルトボリュームレート30cm3/10min(ISO 1133に準拠/230℃/10kg)の市販の難燃強化脂肪族PKコンパウンドRIAMAXX(登録商標)HR GF orange K 2-103 99.64重量%に計量供給する。
【0239】
次いで、この混合物を射出成形により寸法80mm×80mm×2mmおよび80mm×80mm×1mmの試験板とした。レオロジー試験により、Priamine 1075は、すでに射出成形中にPKベース材料を架橋しており、したがって後硬化ステップiii)は不要であることが判明した。
【0240】
UL94V火炎試験において、この材料について0.75mmでV0の結果が得られる。
【0241】
プロパン/酸素火炎を板表面の酸化火炎ゾーン(温度:1200℃)に直接当てる火炎試験セットアップにおいて、10分間の試験期間で、この材料は燃焼せず、溶融もしなかった。
【0242】
実施例4
Movacolor製MCliquid液体注入装置を用いて、ジアミン架橋剤Priamine 1075(アミノ化飽和脂環式脂肪酸ダイマー、Cargillから市販)0.36重量%を、融点約220℃、メルトボリュームレート30cm3/10min(ISO 1133に準拠/230℃/10kg)の市販の難燃強化脂肪族PKコンパウンドRIAMAXX(登録商標)HR GF orange K 2-103 99.64重量%に計量供給する。次いで、この混合物を射出成形機に直接投入して、寸法80mm×80mm×2mmおよび80mm×80mm×1mmの試験板を成形する。レオロジー試験により、Priamine 1075は、すでに射出成形中にPKベース材料を架橋しており、したがって後硬化ステップiii)は不要であることが判明した。
【0243】
UL94V火炎試験において、この材料について0.75mmでV0の結果が得られる。
【0244】
プロパン/酸素火炎を板表面の酸化火炎ゾーン(温度:1200℃)に直接当てる火炎試験セットアップにおいて、10分間の試験期間で、この材料は燃焼せず、溶融もしなかった。
図1
図2
図3
【外国語明細書】