(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025749
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】新規なコポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 220/28 20060101AFI20240216BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240216BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240216BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08F220/28
A61K45/00
A61P35/00
A61K47/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023130615
(22)【出願日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2022128534
(32)【優先日】2022-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金谷 良
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健一
(72)【発明者】
【氏名】千田 司
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】真貝 真梨那
(72)【発明者】
【氏名】三浦 誠司
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4J100
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA95
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC27
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4C076FF36
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4C084MA05
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4C084NA13
4C084ZB261
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4J100AL03Q
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4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100AL08R
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4J100BA02R
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4J100BA06R
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4J100BC43Q
4J100BC43R
4J100BC48Q
4J100BC49Q
4J100BC65Q
4J100CA05
4J100DA01
4J100EA05
4J100JA51
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、薬物の送達技術に利用可能な新規コポリマーを提供すること。より詳細には腫瘍を標的とした薬物送達キャリア用の新規コポリマーを提供する。
【解決手段】次の式(A)、(B)及び(C)で示される構造単位からなるコポリマー。
[式中、R
1、R
2及びR
3は同一又は異なって水素原子又はC
1-3アルキル基を示し、R
4及びR
5は所定の基を示し、X
1、X
2及びX
3は、酸素原子、硫黄原子又はN-R
7を示し、R
6は水素原子、脱離基又はリンカーを示し、R
7は水素原子又はC
1-3アルキル基を示し、mは1~100の整数を示し、nは0~3の整数を示す]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(A)、(B)及び(C)で示される構造単位を有するコポリマー。
【化1】
[式中、R
1、R
2及びR
3は同一又は異なって水素原子又はC
1-3アルキル基を示し、R
4はC
1-3アルキル基を示し、R
5は水素原子、C
1-18アルキル基、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有してもよいC
6-18アリール基又は置換基を有してもよい5~10員へテロアリール基を示し、X
1、X
2及びX
3は同一又は異なって酸素原子、硫黄原子又はN-R
7を示し、R
6は水素原子、脱離基又はリンカーを示し、R
7は水素原子又はC
1-3アルキル基を示し、mは1~100の整数を示し、nは0~3の整数を示す]
【請求項2】
次の一般式(1)~(3):
【化2】
[式中、R
1、R
2及びR
3は同一又は異なって水素原子又はC
1-3アルキル基を示し、R
4はC
1-3アルキル基を示し、R
5は水素原子、C
1-18アルキル基、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有してもよいC
6-18アリール基又は置換基を有してもよい5~10員へテロアリール基を示し、X
1、X
2及びX
3は同一又は異なって酸素原子、硫黄原子又はN-R
7を示し、R
6は水素原子、脱離基又はリンカーを示し、R
7は水素原子又はC
1-3アルキル基を示し、mは1~100の整数を示し、nは0~3の整数を示す]
で示される3種のモノマーの重合によって形成されるコポリマー。
【請求項3】
R1が水素原子である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項4】
R2が水素原子である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項5】
R3が水素原子である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項6】
R4がメチル基である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項7】
R5が置換基を有してもよいC6-18アリール基である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項8】
R5がフェニル基である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項9】
R6が水素原子である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項10】
R
6の脱離基が、次式(4):
【化3】
である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項11】
R
6のリンカーが、次式(5)~(7):
【化4】
である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項12】
X1が酸素原子である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項13】
X2が酸素原子である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項14】
X3が酸素原子である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項15】
mが4~22の整数である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項16】
nが1である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項17】
構造単位(A)、(B)、(C)の比率が、(A)1質量部に対して、0.01~100質量部の(B)と、0.1~100質量部の(C)で構成されている請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項18】
モノマー(1)の1質量部に対して、0.01~100質量部のモノマー(2)と、0.1~100質量部のモノマー(3)を重合させてなる請求項2に記載のコポリマー。
【請求項19】
数平均分子量が、5000~150000である請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項20】
請求項1又は2に記載のコポリマーを含むsingle chain nanoparticle。
【請求項21】
請求項1又は2に記載のコポリマーを含む医薬組成物。
【請求項22】
請求項1又は2に記載のコポリマーに薬物が担持された医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物送達技術に利用可能な新規コポリマーに関する。より詳細には腫瘍を標的とした薬剤送達キャリア用のコポリマー、当該コポリマーに抗がん剤等の生理活性物質を担持させた医薬用組成物、当該組成物を含有する医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬物を疾患部位へ効率的かつ安全に送達する技術として、ドラッグデリバリーシステム(Drug delivery system,DDS)に関する研究が盛んにおこなわれている。その中でも、疾患部位の構造的な特性を利用して薬物集積の選択性を高める技術として、ナノ粒子を薬物送達キャリアとしたDDSの需要が高まっている。
【0003】
例えば固形がん組織においては、新生血管(腫瘍血管)の構造が正常血管と比較して未成熟であるため、血管内皮に数百nm程度の細胞間隙が生じており、物質の透過性が高い。この構造的特徴によりナノ粒子を含む高分子量体は、腫瘍血管を選択的に透過し固形がん組織に集積することが知られている。さらに、固形がん組織では高分子の排出に関与するリンパ系が機能不全を起こしているため、浸透したナノ粒子は組織内で持続的に滞留する(Enhanced permeability and retention effect,EPR効果)。一般的な低分子薬剤は血管細胞の膜透過により血管外に漏出するため、非選択的に組織に分布し、固形がん組織に集積しない。EPR効果の方法論によれば、ナノ粒子を利用した薬物送達は、組織への分布が血管内皮細胞間隙の透過性により支配されるため、薬物の分布に固形がんへの組織選択性の向上をもたらす。それ故にEPR効果は、固形がんを標的としたナノテクノロジー応用医薬品(ナノメディシン)の開発における有力な学術的根拠となっている。
【0004】
EPR効果における薬物の送達過程は血流を介しており、かつナノ粒子の血管外漏出プロセスは受動的であると考えられている。したがって、固形がんに対するナノ粒子の集積を最大化するためには、薬物送達キャリアとなるナノ粒子の構成成分に対して、長期の血中滞留に堪え得る分子デザインを付与することが重要である。それ故に薬物送達キャリアには、血液構成成分との非特異的相互作用、肝臓、脾臓、及び肺における細網内皮系(reticuloendothelial system,RES)による異物認識、腎臓における糸球体ろ過といった障壁を回避する能力が求められる。また、これらの障壁は、粒子径や生体適合性高分子による表面修飾といった粒子特性の最適化によって克服し得ることが知られている。例えば薬物送達キャリアの粒子径は、腎クリアランスの閾値である約6nmよりも大きく、RESによる認識を免れ得る200nmよりも小さいことが望ましい。
【0005】
また、薬物送達キャリアの粒子径は、疾患部位における組織浸透性にも影響を及ぼすことが知られている。例えば、同等の血中滞留性を示す粒子径30nm、50nm、70nm及び100nmの薬物内包ナノ粒子の制がん活性が比較検討されており、粒子径30nmの薬物内包ナノ粒子は疾患部位深部まで到達することから最も高い治療効果を示すことが明らかとなっている(非特許文献1)。したがって、固形がんを標的とした薬物送達キャリア用のナノ粒子の粒子径は、腎クリアランスを回避し得る範囲で可能な限り小径であることが望ましいと考えられる。
【0006】
薬物送達キャリア用のナノ粒子としてはリポソーム、エマルジョン、又はナノパーティクルなどのコロイド分散体を用いる方法、アルブミン等の生物由来原料を用いる方法、天然多糖類等の天然高分子を用いる方法、あるいは合成高分子を用いる方法が開発されている。中でも合成高分子は、構成成分となるモノマーと合成方法を適切に選択することで、粒子径が精密に制御されたナノ粒子を調製することが可能であるため、薬物送達キャリアの構成成分として汎用されている。
【0007】
例えば、親水性セグメントと疎水性セグメントからなる両親媒性ブロック共重合体の薬物送達キャリアとしての利用方法について開示されている。該ブロック共重合体は分子間の疎水性相互作用等を駆動力として水性媒体中で自発的に会合し、コア-シェル型ナノ粒子(高分子ミセル)を形成する。該高分子ミセルの疎水性セグメントには低分子薬剤を内包若しくは結合することが可能であり、得られた薬物内包高分子ミセルは高い血中安定性を示すとともに、EPR効果を介した固形がんへの選択的な集積により低分子薬剤の溶液投与と比較して高い制がん活性をもたらすことが知られている(特許文献1)。しかしながら高分子ミセルは、複数分子の会合体であることから、粒子径約30nm程度が調製可能な下限値であり、腎クリアランスの影響を回避し得る粒子径10nm付近での微細なサイズ制御は困難である。
【0008】
一方、合成高分子により形成されるナノ粒子のうち、1本鎖内の化学架橋、疎水性相互作用、イオン結合等を駆動力として粒子を形成するもの(以下、single chain nanoparticle(SCNP)と略記する)は、粒子径20nm以下の小径なナノ粒子を形成することが知られている(非特許文献2)。したがって、SCNPは薬物送達キャリアとしての有用性が期待されるものの、その粒子径を精密に制御する技術はこれまで見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】H. Cabral et al., Nat. Nanotechnol. 6 815-823(2011)
【非特許文献2】Jose A. Pomposo, Single-Chain Polymer Nanoparticles:Synthesis, Characterization, Simulations, and Applications(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、腫瘍を標的とした薬剤送達キャリア用のコポリマーを提供することを課題とする。より詳しくは薬物の血中滞留性及び/又は腫瘍集積性を向上するために利用可能な薬物送達キャリア用のコポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討する中で、アクリル酸誘導体の3元共重合体が水中にてSCNPを形成する特性を見出した。また、SCNPを20nm以下の10nm程度の微小なスケールにおける精密な粒子径制御が可能であるほか、腫瘍集積性が高い薬物送達キャリア用の新規ポリマーを創製することに成功した。更に、該ポリマーに抗がん剤を担持させ、大腸がん皮下移植モデルマウスに投与したところ、優れた抗腫瘍効果を確認した。
【0013】
本発明は、以下の発明に関する。
[1]次の式(A)、(B)及び(C)で示される構造単位を有するコポリマー。
【0014】
【0015】
[式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって水素原子又はC1-3アルキル基を示し、R4はC1-3アルキル基を示し、R5は水素原子、C1-18アルキル基、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有してもよいC6-18アリール基又は置換基を有してもよい5~10員へテロアリール基を示し、X1、X2及びX3は同一又は異なって酸素原子、硫黄原子又はN-R7を示し、R6は水素原子、脱離基又はリンカーを示し、R7は水素原子又はC1-3アルキル基を示し、mは1~100の整数を示し、nは0~3の整数を示す]
[2]次の一般式(1)~(3):
【0016】
【0017】
[式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって水素原子又はC1-3アルキル基を示し、R4はC1-3アルキル基を示し、R5は水素原子、C1-18アルキル基、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有してもよいC6-18アリール基又は置換基を有してもよい5~10員へテロアリール基を示し、X1、X2及びX3は同一又は異なって酸素原子、硫黄原子又はN-R7を示し、R6は水素原子、脱離基又はリンカーを示し、R7は水素原子又はC1-3アルキル基を示し、mは1~100の整数を示し、nは0~3の整数を示す]
で示される3種のモノマーの重合によって形成されるコポリマー。
[3]R1が水素原子である前記[1]又は[2]に記載のコポリマー。
[4]R2が水素原子である前記[1]~[3]のいずれかに記載のコポリマー。
[5]R3が水素原子である前記[1]~[4]のいずれかに記載のコポリマー。
[6]R4がメチル基である前記[1]~[5]のいずれかに記載のコポリマー。
[7]R5が置換基を有してもよいC6-18アリール基である前記[1]~[6]のいずれかに記載のコポリマー。
[8]R5がフェニル基である前記[1]~[7]のいずれかに記載のコポリマー。
[9]R6が、水素原子である前記[1]~[8]のいずれかに記載のコポリマー。
[10]R6の脱離基が、次式(4):
【0018】
【0019】
である前記[1]~[8]のいずれかに記載のコポリマー。
[11]R6のリンカーが、次式(5)~(7):
【0020】
【0021】
から選ばれるものである前記[1]~[8]のいずれかに記載のコポリマー。
[12]X1が酸素原子である前記[1]~[11]のいずれかに記載のコポリマー。
[13]X2が酸素原子である前記[1]~[12]のいずれかに記載のコポリマー。
[14]X3が酸素原子である前記[1]~[13]のいずれかに記載のコポリマー。
[15]mが4~22の整数である前記[1]~[14]のいずれかに記載のコポリマー。
[16]nが1である前記[1]~[15]のいずれかに記載のコポリマー。
[17]構造単位(A)、(B)、(C)の比率が、(A)1質量部に対して、0.01~100質量部の(B)と、0.1~100質量部の(C)で構成されている前記[1]~[16]に記載のコポリマー。
[18]モノマー(1)の1質量部に対して、0.01~100質量部のモノマー(2)と、0.1~100質量部のモノマー(3)を重合させてなる前記[2]~[16]のいずれかに記載のコポリマー。
[19]数平均分子量が、5000~150000である前記[1]~[18]のいずれかに記載のコポリマー。
[20]前記[1]~[19]のいずれかに記載のコポリマーを含むsingle chain nanoparticle。
[21]前記[1]~[19]のいずれかに記載のコポリマーを含む医薬組成物。
[22]前記[1]~[19]のいずれかに記載のコポリマーに薬物が担持された医薬組成物。
【発明の効果】
【0022】
後記実施例から明らかなように、本発明のコポリマーの自己会合により得られたSCNPに抗がん剤を担持させたものは、マウス担癌モデルにおいて腫瘍増大抑制効果を示したことから、悪性腫瘍の治療剤として適用が可能である。本発明のコポリマーの自己会合により得られたSCNPに抗がん剤を担持させたものは、低用量で高い腫瘍増大抑制効果を有することから、薬理作用の増強と副作用の抑制との両立が可能な悪性腫瘍の治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は実施例1で得られたコポリマーについて、核磁気共鳴分光法(Nuclear magnetic resonance,NMR)を用いて測定した
1H―NMRスペクトルを示す図である。
【
図2】
図2は実施例1で得られたコポリマーについて、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography,GPC)により得られたクロマトグラムを示す図である。
【
図3】
図3はDACHPt内包前のコポリマー(実施例69)とDACHPt内包SCNP(実施例70)について、動的光散乱法(Dynamic light scattering,DLS)における粒子径測定結果(散乱強度分布)を示す図である。
【
図4】
図4はマウス大腸がん細胞株(C26)の背部皮下移植モデルマウスにオキサリプラチン溶液、又はDACHPt内包SCNP(実施例70)を隔日3回投与した時の、相対腫瘍体積の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において使用される用語は、特に言及する場合を除いて、当該分野で通常用いられる意味で使用される。以下に本発明についてさらに詳細に説明する。
本明細書において「ナノ粒子」とは、100nm以下の粒子径を示す構造体を指す。
【0025】
本明細書において「single chain nanoparticle (SCNP)」とは、1本鎖内の化学架橋、疎水性相互作用、イオン結合等を駆動力として形成されるナノ粒子を指す。20nm以下という、ナノ粒子の中でも比較的小さい粒子径を示すことが多い。
【0026】
本明細書において「開始剤」とは、アゾ化合物や過酸化物などの熱ラジカル重合の開始剤を意味する。
【0027】
本明細書において「連鎖移動剤」とは、ラジカル重合において連鎖移動反応を生じさせる化合物を指し、好ましくはチオカルボニル基を有する化合物である。
【0028】
本明細書において「C1-3アルキル基」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素数1~3のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0029】
本明細書において「C1-18アルキル基」とは、直鎖又は分岐鎖の炭素数1~18のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0030】
本明細書において「置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基」とは、炭素数3~8の環状アルキル基を意味し、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。置換基としては特に制限はないが、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、アルキル基が同一又は異なるジ炭素数1~6アルキルアミノ基、チオール基、炭素数1~6のアルキルチオ基、カルボキシル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基等が挙げられる。
【0031】
本明細書において、「置換基を有してもよいC6-18アリール基」とは、単環式又は縮環多環式の芳香族炭化水素基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、トリフェニレニル碁、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基等が挙げられる。置換基としては特に制限はないが、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、アルキル基が同一又は異なるジ炭素数1~6のアルキルアミノ基、チオール基、炭素数1~6のアルキルチオ基、カルボキシル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基等が挙げられる。
【0032】
本明細書において、「置換基を有してもよい5~10員へテロアリール基」とは、環を構成する原子として炭素原子以外に窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる1~4個の複素原子を含む5~10員の単環芳香族複素環基又は縮合芳香族複素環基を意味する。単環芳香族複素環基としては、例えば、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、イミダゾリル基、ピラジル基、チアリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、1,3,4-チアジアゾリル基、1,2,3-トリアゾリル基、1,2,4-トリアゾリル基、テトラゾリル基等が挙げられる。縮合芳香族複素環基としては、例えば、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、キノキサリニル基、インドリル基、イソインドリル基、イソベンゾフラニル基、クロマニ
ル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、キノリル基、イソキノリニル基等が挙げられる。置換基としては特に制限はないが、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、アルキル基が同一又は異なるジ炭素数1~6のアルキルアミノ基、チオール基、炭素数1~6のアルキルチオ基、カルボキシル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基等が挙げられる。
【0033】
本明細書において、「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0034】
本発明のコポリマーにおいて、構造単位(A)は親水性を、構造単位(B)は疎水性を付与するユニットとしてそれぞれ機能する。また、構造単位(C)は有効成分(薬物、生理活性物質)とコポリマーが結合する足場として機能する。本発明のコポリマーは、この3種の構造単位を有することによって、水中でSCNPを形成する特性を有し、形成したSCNPが20nm以下の微小なスケールにおける精密な粒子径制御が可能になり、腫瘍集積性が高い薬物送達キャリアとして機能する。
【0035】
構造単位(A)中のR1は、水素原子又はC1-3アルキル基を示すが、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
X1は、酸素原子、硫黄原子又はN-R7を示すが、酸素原子、硫黄原子又はNHが好ましく、酸素原子がより好ましい。
mは1~100の整数を示すが、3~100の整数が好ましく、良好な親水性を付与する点から3~80が好ましく、4~60がより好ましく、4~40がさらに好ましく、4~22がよりさらに好ましい。
R4は、C1-3アルキル基を示し、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基であり、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0036】
構造単位(B)中のR2は、水素原子又はC1-3アルキル基を示すが、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
X2は、酸素原子、硫黄原子又はN-R7を示すが、酸素原子、硫黄原子又はNHが好ましく、酸素原子がより好ましい。
nは0~3の整数を示すが、1~3の整数が好ましく、1がより好ましい。
R5は、水素原子、C1-18アルキル基、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有してもよいC6-18アリール基又は置換基を有してもよい5~10員へテロアリール基を示すが、構造単位(B)に疎水性を付与する点から、C1-18アルキル基、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有してもよいC6-18アリール基又は置換基を有してもよい5~10員へテロアリール基が好ましく、C1-18アルキル基、置換基を有していてもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有していてもよいC6-18アリール基又は置換基を有していてもよい5~10員へテロアリール基がより好ましく、C1-18アルキル基、3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基又はC6-18アリール基がよりさらに好ましい。また一方で、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有してもよいC6-14アリール基又は置換基を有してもよい6~10員へテロアリール基も好ましい。ここで、置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基及び炭素数2~6のアルキニル基から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0037】
構造単位(C)中のR3は、水素原子又はC1-3アルキル基を示すが、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
X3は、酸素原子、硫黄原子又はN-R7を示すが、酸素原子、硫黄原子又はNHが好ましく、酸素原子がより好ましい。
R6は、水素原子、脱離基又はリンカーを示す。この脱離基は、構造単位(C)が薬物(生理活性物質)と結合するときに脱離し得る基であり、リンカーは、構造単位(C)が薬物(生理活性物質)と結合するときに架橋に使用できる基である。これら脱離基又はリンカーとしては、置換基を有していてもよいC1-18アルキル基、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、置換基を有していてもよいC7-19アラルキル基が好ましい。ここで、置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、アルキル基が同一又は異なるジ炭素数1~6のアルキルアミノ基、チオール基、炭素数1~6のアルキルチオ基、カルボキシル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基等が挙げられる。これらの基のうち、リンカーとしては、置換基として、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基などの官能基を有する基が好ましい。
R6の脱離基の好ましい具体例としては、次式(4):
【0038】
【0039】
R
6のリンカーの好ましい具体例としては、次式(5)~(7):
【化6】
【0040】
から選ばれる基が挙げられる。
【0041】
本発明のコポリマーは、式(A)、(B)及び(C)で示される構造単位を有するコポリマーである。当該コポリマーはランダムコポリマーであってもよいし、ブロックコポリマーであってもよいが、好ましくはランダムコポリマーである。一分子中における各構造単位の組成比率は、(A)を1質量部としたときに、(B)が0.01~100質量部であり、(C)が0.1~100質量部の比率が好ましく、(A)を1質量部としたときに、(B)が0.05~18質量部であり、(C)が0.1~20質量部の比率がより好ましく、(A)を1質量部としたときに、(B)が0.05~4質量部であり、(C)が0.1~16質量部の比率が特に好ましい。
【0042】
本発明のコポリマーの重合度は特に限定されないが、数平均分子量として、5000~150000が好ましく、8000~150000がより好ましい。
【0043】
本発明のコポリマーにおいて、前記のように、一般式(1)で示されるモノマーは親水性を、一般式(2)で示されるモノマーは疎水性を付与するユニットとして機能する。また、一般式(3)で示されるモノマーは薬物とコポリマーが結合する足場として機能する。一般式(2)で示される疎水性ユニットとして機能するモノマーとしては、例えば次式:
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
で示されるモノマーを例示することができる。
【0048】
一般式(1)中、R1は、水素原子又はC1-3アルキル基を示すが、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピ基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0049】
一般式(2)中、R2は、水素原子又はC1-3アルキル基を示すが、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0050】
一般式(3)中、R3は、水素原子又はC1-3アルキル基を示すが、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0051】
一般式(1)中、R4はC1-3アルキル基を示し、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基であり、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0052】
一般式(1)中、X1は酸素原子、硫黄原子又はN-R7を示すが、酸素原子、硫黄原子又はNHが好ましく、酸素原子がより好ましい。
【0053】
一般式(1)中、mは1~100の整数を示すが、良好な親水性を付与する点から3~80が好ましく、4~60がより好ましく、4~40がさらに好ましく、4~22がよりさらに好ましい。
【0054】
一般式(2)中、R5は、水素原子、C1-18アルキル基、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有してもよいC6-18アリール基又は置換基を有してもよい5~10員へテロアリール基を示すが、構造単位(B)に疎水性を付与する点から、C1-18アルキル基、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有してもよいC6-18アリール基又は置換基を有してもよい5~10員へテロアリール基が好ましく、C1-18アルキル基、置換基を有していてもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有していてもよいC6-18アリール基又は置換基を有していてもよい5~10員へテロアリール基がより好ましく、C1-18アルキル基、3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基又はC6-18アリール基がさらに好ましい。また一方で、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、アダマンチル基、置換基を有してもよいC6-14アリール基又は置換基を有してもよい6~10員へテロアリール基も好ましい。ここで、置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基及び炭素数2~6のアルキニル基から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0055】
一般式(2)中、X2は、酸素原子、硫黄原子又はN-R7を示すが、酸素原子、硫黄原子又はNHが好ましく、酸素原子がより好ましい。
【0056】
一般式(2)中、nは0~3の整数を示すが、1~3が好ましく、1がより好ましい。
【0057】
一般式(3)中、R6は、水素原子、脱離基又はリンカーを示す。これら脱離基又はリンカーとしては、置換基を有していてもよいC1-18アルキル基、置換基を有してもよい3~8員シクロアルキル基、置換基を有していてもよいC7-19アラルキル基が好ましい。ここで、置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基、アミノ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、アルキル基が同一又は異なるジ炭素数1~6のアルキルアミノ基、チオール基、炭素数1~6のアルキルチオ基、カルボキシル基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、カルバモイル基等が挙げられる。これらの基のうち、リンカーとしては、置換基として、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基などの官能基を有する基が好ましい。
R6の脱離基の好ましい具体例としては、次式(4):
【0058】
【0059】
R
6のリンカーの好ましい具体例としては、次式(5)~(7):
【化11】
【0060】
から選ばれる基が挙げられる。
【0061】
一般式(3)中、X3は、酸素原子、硫黄原子又はN-R7を示すが、酸素原子、硫黄原子又はNHが好ましく、酸素原子がより好ましい。
【0062】
本発明のコポリマーは、一般式(1)~(3)で示される3種のモノマーが共重合することによって、形成される。共重合はランダム共重合でもブロック共重合でもよいが、ランダム共重合することによって形成されるものが好ましい。3種のモノマーの配合比は、モノマー(1)の質量部を1としたときに、0.01~100質量部のモノマー(2)と、0.1~100質量部のモノマー(3)を重合するのが好ましく、0.05~18質量部のモノマー(2)と、0.1~20質量部のモノマー(3)を重合するのがより好ましく、0.05~4質量部のモノマー(2)と、0.1~16質量部のモノマー(3)を重合するのが特に好ましい。
【0063】
また、各種溶媒類が配位した「溶媒和物」も本発明のコポリマーに包含される。本明細書において「溶媒和物」としては、例えば水和物やエタノール和物等が挙げられる。溶媒は本発明のコポリマーに対し、任意の数で配位していてもよい。
【0064】
本明細書において「医薬組成物」とは、疾患の診断、予防又は治療に使用できる有効成分(薬物、生理活性物質)が本発明のコポリマーに静電的相互作用、水素結合、疎水的相互作用又は共有結合といった作用等により担持されているものを意味する。担持の形態としては、コポリマーがナノ粒子を形成している場合、薬物が粒子表面に存している形態や薬物がナノ粒子内に内包されている形態、またはこれらの組合せ形態が挙げられる。
【0065】
本発明のコポリマーは種々の公知の方法により製造することができる。製造方法は特に制限されるものではないが、例えば以下に記載する基本的な高分子の合成方法に従い、製造することができる。
【0066】
【0067】
[式中、R'は水素原子又はC1-3アルキル基を示し、R"は前記R4、R5又はR6で示される基を示す]
【0068】
本反応は、モノマー(I)に連鎖移動剤(II)と開始剤を反応させて、ポリマー(III)を製造する工程を示す。本反応は無溶媒で行うか、又はメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、酢酸エチル等の溶媒中で行うことができ、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類を溶媒として用いることが好ましい。連鎖移動剤としては、2-(Dodecylthiocarbonothioylthio)-2-methylpropionic acid(DDMAT)、Cyanomethyl dodecyltrithiocarbonate(CDTTC)、2-Cyano-2-propyldodecyl trithiocarbonate(CPDTTC)、4-Cyano-4-[(dodecylsulfanyl-thiocarbonyl)sulfanyl]pentanoic acid(CDSPA)等を用いることができ、DDMATを用いることが好ましい。連鎖移動剤を用いて重合した場合、本発明のコポリマーは、連鎖移動剤の構造の一部又は全部が部分的に結合した構造をとる。コポリマーが連載移動剤の構造を含む場合、適当な方法により、その構造を除去してもよい。開始剤としては、2,2’-Azobis-isobutyronitrile(AIBN)、1,1’-Azobis(cyclohexanecarbonitrile)(ACHN)、2,2’-Azobis-2-methylbutyronitrile(AMBN)、2,2’-Azobis-2,4-dimethylvaleronitrile(ADVN)、Dimethyl 2,2’-azobis(2-methylpropionate)(MAIB)等のアゾ系重合開始剤を用いることができ、AIBN、ACHN又はMAIBを用いることが好ましい。反応温度は0~300℃、好ましくは0~150℃、より好ましくは1~100℃であり、反応時間は1分~48時間、好ましくは5分~24時間である。本反応において、構造の異なるモノマー(I)の共存下に反応を行うことで、ランダム共重合したコポリマーを製造することができる。
【0069】
製造した本発明のコポリマーは、高分子化学の分野において一般に知られているポリマーの単離、精製方法によって精製することができる。具体的には、例えば抽出、再結晶、硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムなどによる塩析、遠心分離、透析、限外濾過法、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法、向流分配などや、これらの組合せなどの処理操作が挙げられる。
【0070】
本発明のコポリマーは、種々の生理活性物質(薬物)を輸送するための担体として利用することができる。例えば、本発明のコポリマーに腫瘍治療薬を担持(内包)した医薬組成物は、後記する試験例において確認されたように、腫瘍の増殖を抑制することから、例えば大腸がん、十二指腸がん、胃がん、膵がん、肝がん、肺がん、子宮がん、卵巣がん等種々の癌疾患に対する予防及び/または治療剤として使用することができる。また、腫瘍集積能が高いことから、腫瘍の診断薬、造影剤として使用することができる。
【0071】
本発明のコポリマーを薬物輸送担体として使用するとき、その投与量及び投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症状の性質もしくは重篤度等を勘案して適宜選択すればよく、投与量や投与回数は限定されるべきものではないが、薬物を内包するポリマーを注射剤により静脈内注射する場合、成人一人(60kg)当たりに対し、例えば、1回の投与において0.12mg~12000000mgの量を投与することが好ましく、1.2mg~1200000mgの量を投与することがより好ましく、12~120000mgの量を投与することが特に好ましい。
【0072】
本発明の医薬組成物は、本発明のコポリマーと薬物を混合することにより製造することができる。好ましくは、本発明のコポリマーと薬物を混合して、single chain nanoparticleを製造するか、本発明のコポリマーのsingle chain nanoparticleを製造してから薬物を混合すればよい。single chain nanoparticleは、公知の方法により製造することができる。
本発明の医薬組成物において、薬物は、静電的相互作用、水素結合、疎水的相互作用又は共有結合といった作用等により、コポリマーに担持されていればよい。
【0073】
薬物としては、種々の癌疾患に用いるものとしては、抗癌剤が好ましく、癌細胞に作用して癌細胞の増殖を抑制する抗癌剤がより好ましく、例えば、代謝拮抗薬、アルキル化剤、アントラサイクリン、抗生物質、有糸分裂阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、プロテアソーム阻害剤、又は抗ホルモン剤等が挙げられる。
代謝拮抗薬として、例えば、アザチオプリン、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、フルダラビン、ペントスタチン、クラドリビン、5-フルオロウラシル(5FU)、フロクスウリジン(FUDR)、シトシンアラビノシド(シタラビン)、メトトレキセート、トリメトプリム、ピリメタミン、又はペメトレキセド等が挙げられる。アルキル化剤としては、例えば、シクロホスファミド、メクロレタミン、ウラムスチン、メルファラン、クロラムブシル、チオテパ/クロラムブシル、イホスファミド、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ブスルファン、ジブロモマンニトール、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、ミリプラチン、サトラプラチン、トリプラチンテトラニトレート、プロカルバジン、アルトレタミン、ダカルバジン、ミトゾロミド、トラベクテジン、又はテモゾロミド等が挙げられる。アントラサイクリンとしては、例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、バルルビシン、アクラルビシン、アムルビシン、ピラルビシン等が挙げられる。抗生物質としては、例えば、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ミトラマイシン、アントラマイシン、ストレプトゾトシン、グラミシジンD、スタウロスポリン、マイトマイシン類(例えば、マイトマイシンC)、デュオカルマイシン類(例えば、CC-1065)、又はカリケアマイシン類等が挙げられる。有糸分裂阻害剤としては、例えば、メイタンシノイド類(例えば、DM0、メルタンシン(別名DM1)、DM2、DM3、DM4、又はエムタンシン)、アウリスタチン(例えば、アウリスタチンE、アウリスタチンフェニルアラニンフェニレンジアミン(AFP)、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンD、及びモノメチルアウリスタチンF)、ドラスタチン類、クリプトフィシン類、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン)、タキサン類(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル)、又はコルヒチン類等が挙げられる。トポイソメラーゼ阻害剤としては、例えば、イリノテカン、トポテカン、ノギテカン、アムサクリン、エトポシド、テニポシド、ミザントロン、ミトキサントロン、SN-38、エキサテカン、デルクステカン等が挙げられる。プロテアソーム阻害剤としては、例えば、ペプチジルボロン酸、カルフィルゾミブ、ボルテゾミブ等を挙げることができる。抗ホルモン剤としては、例えば、フルベストラント、タモキシフェン、トレミフェン等を挙げることができる。これら薬物を本発明の医薬組成物に製する場合、1つ又は複数の薬物を組み合わせて用いることもでき、薬物はフリー体としてコポリマーに担持されていればよい。
【0074】
本発明の医薬組成物の投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与製剤、注射剤または経皮投与製剤などの非経口投与製剤で投与可能であるが、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射等の非経口投与が好ましく、動脈内注射及び静脈内注射がより好ましい。投与回数は限定されるべきものではないが、例えば、1週間平均当たり、1回~数回投与することが挙げられる。
【0075】
投与経路に適した各種製剤は、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等の製剤添加物などを適宜選択し、常法により製造することができる。
【0076】
上記各種製剤に含まれうる製剤添加物は、医薬的に許容されるものであれば特に限定されるものではない。このような製剤添加物の例として、精製水、注射用水、注射用蒸留水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、各種製剤に応じて適宜選択し、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0077】
なお注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤又は乳濁剤として調製することもできる。注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。また、注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用水、注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。これらの実施例は例示のために提供されたものであり、本発明の実施形態を限定するものではない。
【0079】
[実施例1]poly[(benzyl acrylate)-co-(poly(ethylene glycol) methyl ether acrylate)-co-(1-ethoxyethyl acrylate)]の製造
(1)1-Ethoxyethyl acrylate(EEA)の合成
アルゴン雰囲気下にて、Ethyl vinyl ether (28.725mL)を秤取し、氷冷下にてPhosphoric acid (50mg)を加えた。その後、Acrylic acid (17.15mL)を加え、室温にて48時間攪拌した。Hydrotalcite (3g)を加えて、さらに2時間攪拌し、反応を停止した。セライトろ過後、エバポレーションにより、未反応のEthyl vinyl etherを除去した。重合禁止剤としてPhenothiazineを500ppmとなるように加え、水素化カルシウムと共に減圧蒸留することにより精製した(蒸留温度 28-32℃)。得られた1-Ethoxyethyl acrylateはガラスバイヤルに分取し、―30℃にて保管した。
13C NMR (400MHz,CDCl3),δ, ppm : 15.29 (-OCH2CH3), 21.16 (-COOCH(CH3)), 64.98 (-OCH2-), 96.73 (-COOCH(CH3)), 128.84 (CH2CH-), 131.43 (CH2CH-), 166.00 (-COO).
【0080】
(2)poly[(benzyl acrylate)-co-(poly(ethylene glycol) methyl ether acrylate)-co-(1-ethoxyethyl acrylate)]の合成
100mgの2-(Dodecylthiocarbonothioylthio)-2-methylpropionic acid (DDMAT)を秤取し、Toluene17.3mLに溶かしてDDMAT/Toluene stock solution(DDMAT濃度として5.78mg/mL)とした。同様に、22mgの2,2’-Azobis(2-methylpropionitrile)(AIBN)を秤取し,Toluene17.3mLに溶かしてAIBN/Toluene stock solution(AIBN濃度として1.27mg/mL)とした。別に、poly(ethylene glycol) methyl ether acrylate(mPEGA,エチレングリコールの繰り返し数の平均値(n)は9である。)1.296g、Benzyl acrylate(BnA)0.394g、1-Ethoxyethyl acrylate0.039g、DDMAT/Toluene stock solution 1.73mL及びAIBN/Toluene stock solution 1.73mLを加え、70℃の油浴にて重合を行った。90分経過後、重合を停止した後、反応溶液を再沈殿法またはメタノールに対し透析することでコポリマーを回収した。得られたコポリマーは基本的に粘稠体であるため、再沈殿法については、貧溶媒(ヘキサン/酢酸エチル=7/3[v/v])を加えた遠沈管に反応溶液を滴下し、遠心分離(2,000×g、5min)により回収する操作を3回繰り返し、最終的に真空乾燥を行ない、poly[(benzyl acrylate)-co-(poly(ethylene glycol) methyl ether acrylate)-co-(1-ethoxyethyl acrylate)]を1.223g得た。
得られたコポリマーについて、NMRを用いて測定した1H-NMRスペクトルより各モノマーの重合度、並びに数平均分子量(Mn,NMR)を解析した結果、mPEGA(n=9)の重合度は102、BnAの重合度は94、EEAの重合度は9であり、Mn,NMRは65,900であった。さらに、得られたコポリマーについて、GPCを用いて、分子量分散度(Mw/Mn)を測定した結果1.53であった。
【0081】
【0082】
[測定装置と条件等]
(1)
1H-NMR測定
装置 :JNM-ECX400(400 MHz)/日本電子
溶媒 :Dimethyl sulfoxide-d
6 containing 0.03% tetramethylsilane/関東化学
試料濃度 :20mg/mL
測定温度 :25℃
積算回数 :256回
結果 :
図1
(2)GPC測定
装置 :HPLC-Prominence system/島津製作所
検出器 :RID-10A Refractive index detector/島津製作所
カラム :TSKgel α-2500 column/東ソー
(カラムサイズ 7.8mm × 300mm,粒子径 7μm,
排除限界分子量 5 × 10
3)
TSKgel α-4000 column/東ソー
(カラムサイズ 7.8mm × 300mm,粒子径 10μm,
排除限界分子量 4 × 10
5)
TSKgel guardcolum/東ソー
移動相 :10mmol/Lの臭化リチウムを含有するN,N-dimethyformamide(DMF)
温度 :40℃
流速 :0.5mL/min
試料濃度 :6mg/mL
標準物質 :Poly(methyl methacrylate)standard ReadyCal set, M
p 800 - 2,200,000Da/SIGMA
結果 :
図2
【0083】
【0084】
[実施例2~68]
実施例1で用いたモノマー(mPEGA、BnA、EEA)の種類、仕込み量、反応温度、重合時間を適宜変更し、実施例1と同様の方法を用いることにより、下表に示す、組成比率や平均分子量の異なるポリマーを製造した。
【0085】
【0086】
【0087】
[実施例69]
poly[(benzyl acrylate)-co-(poly(ethylene glycol) methyl ether acrylate)-co-(acrylic acid)]の製造
実施例1で得たpoly[(benzyl acrylate)-co-(poly(ethylene glycol) methyl ether acrylate)-co-(1-ethoxyethyl acrylate)]を室温にて0.5N HClで処理することにより、ethoxyethyl基を脱離してカルボキシル基を有する3元共重合体1.176gを得た。得られた3元共重合体の水中におけるZ平均粒子径、並びに多分散指数を動的光散乱法(Dynamic light scattering,DLS)により測定した結果、8.5nm(多分散指数 0.14)であった。
【0088】
[測定装置と条件等]
(1)DLS測定
装置 :Zetasizer NanoZS/Malvern Instruments Ltd.
測定温度 :25℃
試料濃度 :10mg/mL
結果 :
図3
【0089】
【0090】
[実施例70]
(1,2-diaminocycrohexane)platinum(II)内包SCNPの製造方法
(1,2-diaminocycrohexane)platinum(II)(以下、DACHPtと略記する)のCl(H
2O)体(DACHPt・Cl・H
2O)65.28mgを精製水20mLに溶解し、70℃にて2時間撹拌した。この溶液5mLに対し、実施例69で得た3元共重合体287.4mgを添加し、50℃にて一晩撹拌した。撹拌終了後、反応溶液を、精製水を外液として透析精製し、DACHPt内包SCNPを5mL得た。精製後に得られたDACHPt内包SCNPのPt含量は誘導結合プラズマ発光分析(Inductively coupled plasma-atomic emission spectrometry,ICP-AES)により測定し、720μg/mL(DACHPtとして1.14mg/mL)であった。別途、DACHPt内包SCNP200μLを凍結乾燥し、固形分濃度を算出した後、Pt含量との比をとりポリマーあたりのPt結合量を算出した結果、3.4mol/molであった。また、得られたDACHPt内包SCNPのZ平均粒子径、並びに多分散指数を動的光散乱法(Dynamic light scattering,DLS)により測定した結果、8.7nm(多分散指数 0.14)であった。DACHPt内包前後のSCNPの粒子径を
図3に示す。SCNPの粒子径は、DACHPt内包前後でほとんど変動しなかった。結果を下表にまとめた。
【0091】
[測定装置と条件等]
(1)ICP-AES測定
装置 :シーケンシャル高周波プラズマ発光装置 ICPE-9000/島津製作所
前処理装置 :マイクロ波試料前処理装置 ETHOS EASY/マイルストーン ゼネラル
測定波長 :214nm
標準溶液 :白金標準液(Pt1000) ICP分析用/富士フィルム和光純薬
(2)DLS測定
装置 :Zetasizer NanoZS/Malvern Instruments Ltd.
測定温度 :25℃
試料濃度 :10mg/mL
結果 :
図3
【0092】
【0093】
[比較例1]
オキサリプラチン溶液の調製
エルプラット点滴静注液50mg((株)ヤクルト本社)1mLを5.9(w/v)%グルコース溶液5.58mLに添加し、オキサリプラチンとして760μg含有5(w/v)%グルコース溶液を調製した。
【0094】
[試験例]薬効試験
雌性ヌードマウス(BALB/c-nu nu/nu,7週齢;日本チャールス・リバー(株))にマウス大腸がん細胞株C26(American Type Culture Collection)を皮下移植した担癌モデルを薬効試験に用いた。
CO
2インキュベーター内で継代培養したマウス大腸がん細胞株C26を液体培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium - high glucose, Sigma-Aldrich)に懸濁し、一匹あたり細胞数として1×10
6/100μLとなるようにヌードマウスの背部皮下に注射した。その後約1週間ヌードマウスを飼育した後、腫瘍体積の平均値が約30mm
3に生育したところで薬剤の投与を開始した。DACHPt内包SCNP(実施例70のコポリマーを使用して調製したDACHPt内包SCNP)を尾静脈内投与し(隔日3回)、腫瘍体積から抗腫瘍効果を評価した(1群4~5匹)。比較としてオキサリプラチン溶液(比較例1)を用いて、同様に投与した。各製剤の投与量は、オキサリプラチン溶液については、投与可能な最高用量として8mg/kg(Pt換算で3.9mg/kg)、DACHPt内包SCNPについては、Pt換算で3mg/kgとした。
腫瘍体積の経時変化を
図4に示した。DACHPt内包SCNPの場合、投与14日後にT/C=0.4であった[T/C:薬物投与群(T)とControl群(C)の腫瘍体積の比]。オキサリプラチン溶液(比較例1)の場合、投与14日後にT/C=1.1であった。また、投与14日後においてDACHPt内包SCNPはControlに比較して有意に腫瘍の増大を抑制することを確認した(student’s t-test)。以上の結果は、DACHPt内包SCNPはオキサリプラチン溶液に比較して優れた抗腫瘍効果を有することを示している。