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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025773
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】樹脂部品及び樹脂部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20240216BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131288
(22)【出願日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2022136354
(32)【優先日】2022-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592190970
【氏名又は名称】株式会社イクヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪井 淳
(72)【発明者】
【氏名】大出 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】関口 剛
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AA21
4F202AA28
4F202AA50
4F202AD05
4F202AD08
4F202AD09
4F202AH26
4F202CA11
4F202CB01
4F202CB12
4F202CB22
4F202CB26
4F202CB28
4F202CK06
4F202CQ01
4F206AA21
4F206AA28
4F206AA50
4F206AD05
4F206AD08
4F206AD09
4F206AH26
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB13
4F206JB22
4F206JB24
4F206JB28
4F206JL02
4F206JN12
4F206JQ81
4F206JQ90
4F206JW41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自動車内装部品において、高価なLEDや電気配線が不要であり、有機溶剤を使用する塗装や酸を使用するめっき等が不要であり、破材を多く発生させるフィルムを用いず、自然由来の樹脂材料を用いるため、環境負荷が小さい工程で加飾性の高い樹脂部品及び樹脂部品の製造方法を提供する。
【解決手段】透明樹脂材料に着色材料を添加した着色層2と着色材料を添加しない透明層1の2層構造もしくは3層構造を有し、層間にインクジェット印刷を行って加飾することを特徴とする。着色層においては、様々な着色材料によって多彩な色彩をあらわすことが可能である。インクジェット印刷を施す面には金型表面の加工により凹凸やしぼ、幾何学模様など様々な文様を表すことができ、インクジェット印刷との相乗効果で、多様な加飾効果を演出することが可能である。樹脂材料は自然由来、植物由来、またはリサイクル材を用いることで環境保全、CO2削減に貢献する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂からなる樹脂成形体である第1樹脂層と、
前記第1樹脂層の一方の面に設けられたインクジェット印刷層である第1インクジェット層と、
を有することを特徴とする樹脂部品。
【請求項2】
前記第1インクジェット層上に設けられて前記第1樹脂層とともに前記第1インクジェット層を挟む樹脂成形体である第2樹脂層をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂部品。
【請求項3】
前記第2樹脂層は原着成形樹脂からなることを特徴とする請求項2に記載の樹脂部品。
【請求項4】
前記第2樹脂層は透明樹脂からなることを特徴とする請求項2に記載の樹脂部品。
【請求項5】
前記第2樹脂層の前記第1樹脂層側の面と反対側の面に設けられたインクジェット印刷層である第2インクジェット層と、
前記第2インクジェット層上に形成されて前記第2樹脂層とともに前記第2インクジェット層を挟む透明な樹脂成形体である第3樹脂層と、
をさらに有することを特徴とする請求項4に記載の樹脂部品。
【請求項6】
前記第2樹脂層は、着色剤を含みかつ透明性を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の樹脂部品。
【請求項7】
前記第3樹脂層は着色剤を含むことを特徴とする請求項5に記載の樹脂部品。
【請求項8】
前記第1樹脂層の他方の面に設けられた透明樹脂からなる樹脂成形体である第4樹脂層をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂部品。
【請求項9】
射出成形による樹脂部品の製造方法であって、
1次成形用金型の1次成形用キャビティに溶融した1次樹脂材料を射出及び充填して1次成形層を形成する1次成形工程と、
前記1次成形層の一方の面にインクジェット印刷を施すことで第1インクジェット層を形成する印刷工程と、
可動型と固定型とを含み、前記可動型と前記固定型とが閉じた状態で、前記1次成形層を収容する第1キャビティ、前記第1キャビティと連通する第2キャビティ及び前記第2キャビティに連通するゲートを形成する2次成形用金型を用いて、前記第1インクジェット層が前記第2キャビティに向くように前記1次成形層を配置した後に前記第2キャビティに溶融した2次樹脂材料を前記ゲートから射出及び充填することによって、前記第1インクジェット層上に2次成形層を形成する2次成形工程と、
を含み、
前記1次樹脂材料及び前記2次樹脂材料の少なくとも一方は、透明樹脂材料であることを特徴とする樹脂部品の製造方法。
【請求項10】
前記ゲートは、前記2次成形層の層内方向において、前記2次樹脂材料の前記第2キャビティへの流れ方向に対して垂直な方向の幅が、前記第2キャビティの当該幅に対して50%以上100%以下であり、
前記2次成形層の層厚方向の前記ゲートの厚みが前記第2キャビティの当該厚みに対して66%以上100%以下であることを特徴とする請求項9に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項11】
前記ゲートは、前記2次成形層の層内方向において、前記2次樹脂材料の前記第2キャビティへの流れ方向に対して垂直な方向の幅が、前記第2キャビティの当該幅と同じであることを特徴とする請求項9に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項12】
前記ゲートの前記2次成形層の層厚方向の厚みは、前記第2キャビティの当該厚みと同じであることを特徴とする請求項9に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項13】
前記ゲートは、前記2次成形層の層内方向において、前記2次樹脂材料の前記第2キャビティへの流れ方向における長さが5mm以上であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1つに記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項14】
前記2次成形用金型は、前記可動型と前記固定型とが閉じた状態で、前記第2キャビティの前記ゲートに接する端部と反対側の端部において、外部に連通する空隙部であるガスベントを有することを特徴とする請求項9に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項15】
前記ガスベントは、前記2次成形層の層内方向において、前記2次樹脂材料の流れ方向に対して垂直な方向の幅が、前記第2キャビティの当該幅に対して10%以上100%以下であることを特徴とする請求項14に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項16】
前記ガスベントは、前記2次成形層の層厚方向の厚みが略0.02mmであることを特徴とする請求項14に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項17】
前記1次樹脂材料及び前記2次樹脂材料の少なくとも一方は、着色剤を含むことを特徴とする請求項9に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項18】
前記1次成形用金型は、前記2次成形用金型と前記可動型が共通であり、
前記1次成形工程が終了し、前記1次成形用金型の前記可動型を前記固定型から外した後、前記1次成形層を前記可動型に載置したまま前記印刷工程を実行することを特徴とする請求項9に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項19】
前記透明樹脂は、自然由来の透明樹脂又はリサイクルされた透明樹脂を含むことを特徴とする請求項1乃至5及び請求項7乃至8のいずれか1つに記載の樹脂部品。
【請求項20】
前記自然由来の透明樹脂は、植物由来イソソルバイト主成分のバイオエンジニアリングプラスチック又はセルロース系樹脂を含むことを特徴とする請求項19に記載の樹脂部品。
【請求項21】
前記リサイクルされた透明樹脂は、ポリカーボネート樹脂又はポリメタクリレート樹脂であることを特徴とする請求項19に記載の樹脂部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部品及び樹脂部品の製造方法に関し、特に、自動車用樹脂部品及び自動車用樹脂部品の製造方法に関する。具体的には、例えば、本発明は、自動車用内装樹脂部品の構造とその製造方法に関し、特に、透明樹脂材料に着色材料を添加した着色層と透明層の2層構造もしくは3層構造を有する自動車用樹脂部品とその製造方法及び加飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今自動車用内装樹脂部品はCASE、電動化に伴い、室内環境の先進性、未来感を演出するために加飾面での付加価値性を向上させる傾向があり、黒色以外の着色剤を採用したものや、塗装、めっき(湿式、乾式)を施した部品や、フィルムを貼合した部品、LED照明を用いた光る部品のなどの採用が進んでいる。一方で環境対応の重要性が上がっており、有機溶剤や薬品を多用する塗装、めっきの廃止やCO2排出量の少ない原料、工法の採用が進んでおり、環境にやさしく、軽量で、CO2の排出量が少なく、リサイクルしやすく、簡潔な工程で加飾性の高い部品を製造する技術が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、LEDを用いた照明装置が開示されている。LEDは指向性が高く広範囲に均一の光を照射できない。そのため線状あるいは面状に光を照射する用途に使用する場合には多数のLEDを線状あるいは面状に配置するためコストの高い照明装置になる。これを解決するために棒状の導光体の長さ方向の端面に光源を接続し、導光体の一側面に、入射した光を別の側面方向に反射散乱する面を有するV字状の溝を複数個、導光体長さ方向に間隔をあけて 列状に配置してなる線状照明装置が特許文献1に開示されている。
【0004】
非特許文献1には、多層成形加飾の事例であり、1層目に透明樹脂、中間にフィルムを用い、樹脂層に凹凸やシボを施すことで加飾している樹脂部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-32759号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】多層成形加飾の特徴と事例(日本プラスチック工業連盟誌プラスチックス2022年5月号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
LED照明を用いた光る部品の採用が進んでいるが、高価であるために採用される車種が限られていること、電源からの配線が必要なこと、採用される部品と形状が限られていること、色彩は単色で模様を描くことはできないといった課題があった。
【0008】
また多層成形加飾については中間にフィルムを用いるため、フィルムの貼合工程が必要であり、フィルムの破材が大量に発生する点で環境負荷が高いこと、フィルムのロットが大きく同じ模様の部品を大量に生産しなければならず多様な顧客の要求に合わせる多品種少量の生産には向いていないこと、リサイクル材にフィルムが混入してしまい利用が困難であるといった課題があった。
【0009】
また、例えば、有機溶剤を使用する塗装や酸を使用するめっきによる加飾では、例えば化学物質の排出量や水資源の使用量が大きくなる点で、環境負荷が高いといえる。また、塗装による加飾は、塗料のロスが生じる点で、環境負荷が高いと言える。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、例えば、高価なLEDや電気配線が不要であり、有機溶剤を使用する塗装や酸を使用するめっき等が不要であり、破材を多く発生させるフィルムを用いず、自然由来の樹脂材料を用いるため、環境負荷が小さい工程で加飾性の高い樹脂部品及び樹脂部品の製造方法を提供することを目的としている。つまり、本発明は、低コストであり、環境負荷が小さくかつ加飾性の高い樹脂部品及び樹脂部品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の樹脂部品は、透明樹脂からなる樹脂成形体である第1樹脂層と、前記第1樹脂層の一方の面に設けられたインクジェット印刷層である第1インクジェット層と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の樹脂部品の製造方法は、射出成形による樹脂部品の製造方法であって、1次成形用金型の1次成形用キャビティに溶融した1次樹脂材料を射出及び充填して1次成形層を形成する1次成形工程と、前記1次成形層の一方の面にインクジェット印刷を施すことで第1インクジェット層を形成する印刷工程と、可動型と固定型とを含み、前記可動型と前記固定型とが閉じた状態で、前記1次成形層を収容する第1キャビティ、前記第1キャビティと連通する第2キャビティ及び前記第2キャビティに連通するゲートを形成する2次成形用金型を用いて、前記第1インクジェット層が前記第2キャビティに向くように前記1次成形層を配置した後に前記第2キャビティに溶融した2次樹脂材料を前記ゲートから射出及び充填することによって、前記第1インクジェット層上に2次成形層を形成する2次成形工程と、を含み、前記1次樹脂材料及び前記2次樹脂材料の少なくとも一方は、透明樹脂材料であることを特徴とする。
【0013】
1層目が自然由来の透明樹脂材料で成形した透明層、2層目が自然由来の透明樹脂材料に着色材料を添加した着色層、1層と2層の間にインクジェット印刷を施すことで環境負荷が小さく加飾性が高い自動車用樹脂部品を得ることができる。
2層目は着色剤の種類や添加量によって透明性が失われる場合と透明性を保持する場合がある。
インクジェット印刷は1層と2層の間だけでなく、2層目の裏側にインクジェット印刷を施すと印刷模様を1層、2層を通して見るため一層深みのある加飾性が得られる。
【0014】
また透明樹脂材料で成形した透明層、または透明樹脂材料に着色材料をわずかに添加し透明性を保持した着色透明層1層のみの構造で、裏面にインクジェット印刷を施すことで安価に加飾を行うことができる。
【0015】
また1層目が透明層、2層目が透明樹脂材料に透明性を保持したまま着色材料を添加した着色層、3層目が透明樹脂材料に着色材料を添加した着色層で、1層と2層の間、及び2層と3層の間にインクジェット印刷を施すことで異なる印刷模様が重なって見えるため高い加飾性が得られる。
【0016】
透明樹脂材料は自然由来、植物由来の透明樹脂、例えば三菱ケミカル製植物由来イソソルバイト主成分のバイオエンジニアリングプラスチックやセルロース系高機能バイオ素材、またはメカニカルリサイクルかケミカルリサイクルされたポリカーボネート樹脂(PC)やポリメタクリレート樹脂(PMMA)のいずれか一種を選択することができる。
【0017】
1層、2層、3層と言った複数層を形成するのに、逐次金型にインサートして成形するか、ダイスライドインジェクションやロータリスライドインジェクションなどの多色成形法のいずれか一種を選択することができる。
【0018】
インクジェット印刷は1層、2層及び3層が成形されたところでインクジェット印刷機で印刷するか、または射出成形機に設置された金型の近傍に、先端にインクジェット印刷ヘッドを有する多軸ロボットを設置して、金型が開くタイミングで金型内の成形品にロボットアームを介してインクジェット印刷するいずれか一種を選択することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は表面における透明樹脂層の存在、透明樹脂成形体への種々の着色、賦形及びインクジェット印刷による模様によって成形体を加飾することが特徴であり、高価なLED照明や大量に破材を発生させるフィルム無しで高い加飾性を発現できる効果がある。
【0020】
インクジェット印刷を施す面には金型表面の加工により凹凸やしぼ、流線模様、幾何学模様など様々な文様を表すことができ、インクジェット印刷による絵柄、模様、多彩な色彩との相乗効果で、多様な加飾効果を演出することが可能である。表面の透明層を設けることでインクジェット印刷層を保護し、透明層の厚さを制御することで様々な深みのある外観を創出することが可能となる。自動車の車室内には直接光だけでなく、拡散光や間接光があり、これらの入射する光を本発明の自動車用樹脂部品は受けて美しく反射する効果がある。
【0021】
使用する樹脂材料は自然由来、植物由来、またはリサイクル材を用いることで環境保全、CO2削減に貢献することができる。
すなわち地球環境にやさしく、リサイクルしやすく、簡潔な工程で加飾性の高い自動車部品を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例1に係る樹脂部品の構成を示す斜視図である。
図2図1の樹脂部品の断面図である。
図3】本発明の実施例2に係る樹脂部品の構成を示す断面図である。
図4】本発明の実施例3に係る樹脂部品の構成を示す断面図である。
図5】本発明の実施例4に係る樹脂部品の構成を示す断面図である。
図6】本発明の実施例5に係る樹脂部品の構成を示す断面図である。
図7】実施例1に係る樹脂部品の製造方法に用いられる金型の内部形状の一例を示す図である。
図8】実施例1に係る樹脂部品の製造方法に用いられる金型の断面図である。
図9】実施例1に係る樹脂部品の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図10】実施例1に係る樹脂部品の製造方法に用いられる金型の内部形状の一例を示す図である。
図11】実施例1に係る樹脂部品の製造方法に用いられる金型の上面図である。
図12】実施例1に係る樹脂部品の製造方法に用いられる金型の断面図である。
図13】実施例1に係る樹脂部品の製造方法の他の一例を示すフローチャートである。
図14図13の製造方法の一次成形に用いられる金型の斜視図である。
図15図13の製造方法の一次成形に用いられる金型の断面図である。
図16図13の製造方法の印刷工程の説明図である。
図17図13の製造方法の一次成形に用いられる金型の断面図である。
図18】実施例3に係る樹脂部品の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明に係る構成する材料及び工法について詳細に説明する。
[透明樹脂材料]
射出成形用の透明樹脂材料としてはポリカーボネート(PC)やポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)が一般的であるが石油由来であるため、環境対応のためには自然由来、植物由来の樹脂が望ましい。例えば三菱ケミカル製のデュラビオは、植物由来のイソソルバイド(イソソルビド)が主原料の透明性を有する樹脂であり、本発明の材料として望ましい。また植物由来でなくてもメカニカルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたPCやPMMAは本発明の材料として望ましい。
【0024】
[インクジェット印刷]
インクジェット印刷技術は紙の印刷用として実績があるが多軸ロボットを用いることで自動車部品のような三次元の形状を有する部品でも印刷が可能である。用いるインクは自動車用途では耐光性、耐候性、耐熱性が要求されるため、硬化タイプであることが望ましい。
【0025】
[着色材]
一般的に樹脂用の着色剤としては鉱物系顔料が用いられるが光を乱反射させるため透明性を付与することは難しい。
透明性が付与できる着色剤としては有機系染料がある。例えば紀和化学製KPPLASTは自動車内装部品に要求される耐光性を保持しており本発明の材料として望ましい。
【0026】
「工法」
工法としては射出成形となる。
例えば図1の構成であれば、まず2層目の着色層を射出成形で成形し、その表面に意匠、模様をインクジェット印刷で印刷し、その後第1層の透明層を成形する。
また逆に第1層の透明層を成形し、その裏面に印刷し、印刷された面に第2層着色層を成形しても良い。それぞれの工程は逐次行っても良いし、二色成形で連続して行っても良い。
【0027】
「適用例及び効果」
本発明を具体的に実施する部位としては自動車用内装部品が中心になる。例えばインストルメントパネル、センタークラスター、グローブボックス、ドアインナーの一部で、加飾を目的としたパネル、ガーニッシュなどがそれにあたる。ニーズがあれば外装部品も対象になる。ラジエターグリル周辺のパネル類、ドアミラーハウジング、リアドアのパネル類などがそれにあたる。
【0028】
自動車の車室内は直接光だけでなく、拡散光や間接光が様々な方向から入射してくる。本発明の自動車用樹脂部品の各層の界面は平面だけでなく、凹凸やしぼ、流線模様、幾何学模様、立体模様など様々な賦形が可能であり、また各層の厚み制御が可能であり、加えてインクジェット印刷による絵柄、模様などの相乗効果で、様々な方向から入射する光を受けて美しく反射する効果がある。
【0029】
また透明樹脂を採用しているためLEDなどの光照明との相性も良く、本発明部品の裏側や端部に光源を設置することでさらに美しく輝かせることができる。
【0030】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施例について、詳細に説明する。なお、以下の説明及び添付図面においては、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符号を付している。
【実施例0031】
図1は、実施例1に係る樹脂部品10の構成を示す斜視図である。図1に示すように、樹脂部品10は、平板状であり、矩形の上面形状を有している。図1に示すように、樹脂部品10は、積層構造を有している。樹脂部品10は、最上層である第1樹脂層としての透明層1と、最下層である第2樹脂層としての原着層2と、透明層1と原着層2との間に設けられている第1インクジェット層としてのインクジェット層3とを有している。また、図1において、樹脂部品10短手方向をX方向、長手方向をY方向として示している。
【0032】
図2は、樹脂部品10を図1の2-2線に沿って切断した断面図である。第1樹脂層としての透明層1は、透明樹脂からなる樹脂成形体である。透明層1は、透明樹脂からなる板部材であるともいえる。図2において、透明層1の上面を1Tとし、下面を1Bとして示している。透明層1の上面1Tは、樹脂部品10が部品として取り付けられた際に最表面となる面であり、人の目によって視認される面である。本実施例において、透明層1は、無色透明である。透明層1は、例えば射出成形によって成形することができる。
【0033】
第1インクジェット層としてのインクジェット層3は、透明層1の一方の面である下面1Bに設けられたインクジェット印刷層である。図2において、インクジェット層3の上面を3Tとし、下面を3Bとして示している。
【0034】
インクジェット層3は、例えば透明層1の下面1Bにインクジェット印刷を施すことによって形成される。例えば、インクジェット層3は、単色の印刷又は単色若しくは多色の絵柄や模様等の印刷によって形成されている。当該印刷された色又は模様等は、透明層1を介して上面1T側から視認され得る。すなわち、樹脂部品10は、インクジェット層3によって加飾されている。言い換えれば、インクジェット層3は、樹脂部品10に意匠性を持たせる機能を有している。
【0035】
インクジェット層3を構成するインクジェット印刷用インクとして、例えば、上述したように、耐光性、耐候性及び耐熱性等の観点から、硬化型のインクを用いることが好ましい。インクジェット層3を構成するインクの種類はこれに限られず、例えば顔料インク等のインクジェットインクを用いてもよい。本実施例においては、硬化型のインクを用いた。
【0036】
第2樹脂層としての原着層2は、インクジェット層3の下面3Bに設けられている。原着層2は、原着成形樹脂からなる樹脂成形体である。原着層2は、原着成形樹脂からなる板部材であるともいえる。図2に示すように、原着層2は、第1樹脂層とともにインクジェット層3を挟んでいる。
【0037】
図2において、原着層2の上面を2Tとし、下面を2Bとして示している。原着層2の下面2Bは、樹脂部品10が部品として取り付けられる際に裏面となる面であり、取り付け面となる面である。
【0038】
また、本実施例において、原着層2は、不透明である。本実施例において、原着層2を構成する原着成形樹脂は、透明樹脂材料に着色剤が添加されて原料着色が施されることで透明性を失ったものである。着色剤として、例えば顔料を用いる。本実施例では、原着層2は、透明層1と同種の透明樹脂に顔料が添加されたものである。
【0039】
原着層2は、例えば射出成形によって形成される。原着層2は、例えば、透明層1上に、詳しく言えば透明層1に形成されたインクジェット層3上に、樹脂を流し込んで原着層2を射出成形することによって形成される。なお、透明層1と原着層2とは、デザイン上インクが付着してない部分等、透明層1の表面のインクジェット層3から露出している部分を介して接しており互いに接合している。
【0040】
なお、インクジェット層3は、インクジェット層3の下層である原着層2の上面2Tにインクジェット印刷を施すことによって形成されてもよい。
【0041】
上記した通り、環境負荷を考慮すると、本発明の透明樹脂として、自然由来の透明樹脂又はリサイクルされた透明樹脂を用いることが好ましい。自然由来の透明樹脂として、例えば、三菱ケミカル製の植物由来イソソルバイド(イソソルビド)主成分のバイオエンジニアリングプラスチックであるデュラビオ(登録商標)やセルロース系樹脂等が挙げられる。
【0042】
また、リサイクルされた透明樹脂のうち射出成形に適した樹脂として、ポリカーボネート樹脂(PC)又はポリメタクリレート樹脂(PMMA)が挙げられる。リサイクルの手法としては、粉砕・溶融・混練によって得られた樹脂素材(ペレット)を用いて成形を行うマテリアルリサイクル又は原料モノマーに戻して再び重合するケミカルリサイクルが挙げられる。
【0043】
本実施例では、透明樹脂として、上記の植物由来イソソルバイドを主成分とするデュラビオ(登録商標)を用いた。
【0044】
以上、説明したように、実施例1に係る樹脂部品10は、透明樹脂からなる樹脂成形体である第1樹脂層と、第1樹脂層の一方の面に設けられたインクジェット印刷層である第1インクジェット層と、第1インクジェット層上に設けられて第1樹脂層とともに第1インクジェット層を挟む樹脂層である第2樹脂層と、を有する。
【0045】
上記のような構成により、樹脂部品10は、透明層1によってインクジェット層3が保護されている。例えば、自動車部品の場合、インクジェット印刷層を最表面にすると、耐摩耗性、耐スクラッチ性、耐候性、耐光性等の観点から、自動車部品としてのスペックを満たすことが困難である。
【0046】
本実施例によれば、例えば樹脂部品10が自動車部品である場合、インクジェット層3を保護する透明層1を構成する樹脂として、自動車部品のスペックを満たすプラスチックを用いることができる。それによって、樹脂部品10は、インクジェット印刷層を有して加飾性を維持しつつ、自動車部品のスペックを満たすことができる。
【0047】
また、樹脂部品10は、原着層2の下面2Bを取り付け面として、部品として取り付けられた際に、透明樹脂からなる透明層1を介して、インクジェット層3の絵柄、模様、又は色彩等が視認される。
【0048】
また、例えば、インクジェット層3にデザインや印刷の態様によってインクの無い領域があれば、原着層2の色が透明層1を介して視認される。それによって、さらなる視覚効果を得ることができる。
【0049】
また、樹脂部品10の使用時に自然光や照明光等の光が当たると、透明層1に入射した光が透明層1によって導光されたり反射されたりすることによって、美しい視覚効果が得られる。例えば、樹脂部品10が自動車の内装の樹脂部品として使用される場合、車室内の直接光だけでなく、拡散光や間接光が透明層1に入射し、透明層1による導光や反射によって、美しい視覚効果が得られる。例えば、透明層1の厚さを制御することで、様々な深みのある外観を創出することができる。例えば、透明層1の厚みが大きいほど、高い視覚効果が得られる。
【0050】
従って、本実施例によれば、例えばLED等の光源を用いなくとも光による視覚効果が得られる。さらに、樹脂部品10は、LEDと組みあわせてもよい。その場合、例えば多数のLED素子を配列する必要はなく、少ない素子数でも、例えば透明層1の側面から層内方向に光を入射させることで、透明層1の層内の広い領域に亘って光による加飾を行うことができる。
【0051】
このように、樹脂部品10は、インクジェット層3によって加飾されており、かつ、透明層1によってインクジェット層3が保護されていることに加えて、透明層1による視覚効果が得られる。
【0052】
なお、透明層1は、透明性を有していれば、着色されていてもよい。例えば、上述したような有機系染料が添加されて、透明性を保持しつつ着色されていてもよい。
【0053】
なお、上記したように、透明層1の厚みが大きいほど、高い視覚効果が得られる一方で、コストが高くなる。また、透明層1を含む樹脂部品10の厚みは、樹脂部品10の取り付け場所のスペース等によって制約を受ける場合もある。
【0054】
また、透明層1と原着層2とは、どちらの厚みが大きくてもよい。例えば、射出成形によって形成される場合、各層が、1mm以上の厚さを有していることが好ましく、2~3mm程度とすることがより好ましい。従って、透明層1の厚みは、視覚効果、コスト、樹脂部品10の全体の厚みや取り付け場所のスペース等を考慮して、適宜決定することができる。
【0055】
例えば、自動車内装部品のLEDを用いた加飾では、多数のLED素子を必要とするなど、LED自体のコストが高く、またそれに伴って電気配線が必要となる点で、コストが高くなる。本実施例によれば、LEDを用いなくとも光による十分な視覚効果が得られる。また、本実施例の樹脂部品にLEDを組み合わせた加飾では、より少ない素子でも光による視覚効果が得られるため、低コストでの加飾を実現することができる。
【0056】
また、例えば、有機溶剤を使用する塗装や酸を使用するめっきによる加飾では、例えば化学物質の排出量や水資源の使用量が大きくなる点で、環境負荷が高いといえる。また、加飾フィルムを用いる加飾は、フィルムの破材を多く発生させる点で環境負荷が高いといえる。また、塗装による加飾は、塗料のロスが生じる点で、環境負荷が高いと言える。
【0057】
本実施例によれば、上記のような環境負荷の高い加飾手段に代えて、インクジェット印刷層を樹脂部品の加飾に用いることができる。インクジェット印刷では、例えば塗装と比較してインクの消費量が少なく、上述したような化学薬品を必要とせず、フィルムの破材も生じないため、環境負荷を低減することができる。また、本実施例の樹脂材料として、自然由来の樹脂材料又はリサイクルされた樹脂材料を用いることで、化石燃料の使用量を低減するなど、さらに環境負荷を低くすることができる。
【0058】
従って、本実施例によれば、低コストであり、環境負荷が小さくかつ加飾性の高い樹脂部品及び自動車用樹脂部品を提供することができる。
【実施例0059】
図3を参照しつつ、実施例2に係る樹脂部品20の構成について説明する。図3は、樹脂部品20を図1の1-1線と同様の位置で切断した断面図である。樹脂部品20は、第2樹脂層としての原着層2の代わりに第2樹脂層としての着色透明層4を有している点で実施例1の樹脂部品10と異なり、その他の点については、実施例1の樹脂部品10と同様に平板状である等、樹脂部品10と同様に構成されている。
【0060】
着色透明層4は、透明樹脂からなり、着色剤を含みかつ透明性を有する樹脂成形体である。着色透明層4は、透明樹脂からなり、着色剤を含みかつ透明性を有する板部材であるともいえる。
【0061】
着色透明層4には、着色剤として、例えば染料が添加されており、透明性を保持しつつ着色されている。例えば、実施例1にて上述したような有機系染料が添加されている。
【0062】
着色透明層4は、透明性を有しているため、上述した透明層1と同様に、入射した光を導光することができ、導光された光が、インクジェット層3を裏から照明することで、樹脂部品20は、樹脂部品10とは異なる視覚効果を与えることができる。例えば、樹脂部品20にLEDを組み合わせて、着色透明層4に光を照射することで、インクジェット層3を裏から照明することで、樹脂部品10とは異なる視覚効果を与えることができる。なお、着色透明層4を無色透明としてもよい。
【実施例0063】
図4を参照しつつ、実施例3に係る樹脂部品30の構成について説明する。樹脂部品30は、実施例1の樹脂部品10と同様に平板状である。図4は、樹脂部品30を図1の1-1線と同様の位置で切断した断面図である。
【0064】
図4に示すように、樹脂部品30は、第1樹脂層としての着色透明層4と、着色透明層4の一方の面である下面4Bに形成された第1インクジェット層としてのインクジェット層3と、着色透明層4の他方の面である上面4T上に形成された第4樹脂層としての透明層1とから構成されている。
【0065】
実施例3において、透明層1の上面1Tは、樹脂部品30が部品として取り付けられた際に最表面となる面であり、人の目によって視認される面である。着色透明層4の下面4Bは、樹脂部品30が部品として取り付けられる際に裏面となる面であり、取り付け面となる面である。
【0066】
樹脂部品30は、インクジェット層3が形成された着色透明層4の下面4Bを取り付け面として取り付けられた状態で、インクジェット層3が着色透明層4及び透明層1によって保護される。また、当該取り付けられた状態で、樹脂部品30は、透明層1及び着色透明層4を介して、インクジェット層3の絵柄、模様、又は色彩等が視認される。さらに、透明層1及び着色透明層4による反射や導光等による視覚効果も得られる。例えば、透明層1と着色透明層4との界面が存在することで、透明層1又は着色透明層4のいずれか一層のみの場合とは異なった、光による視覚効果が得られる。
【0067】
実施例3において、透明層1は、無色透明であるが、透明性を維持していれば、透明層1にも着色剤を添加してもよい。また、実施例3において、着色透明層4を無色透明としてもよい。
【実施例0068】
図5を参照しつつ、実施例4に係る樹脂部品40の構成及び製造方法について説明する。樹脂部品40は、実施例1の樹脂部品10と同様に平板状である。図5は、樹脂部品40を図1の1-1線と同様の位置で切断した断面図である。
【0069】
図5に示すように、樹脂部品40は、第1樹脂層としての着色透明層4と、着色透明層4の一方の面である下面4Bに形成された第1インクジェット層としてのインクジェット層3とから構成されている。
【0070】
実施例4において、着色透明層4の上面4Tは、樹脂部品40が部品として取り付けられた際に最表面となる面であり、人の目によって視認される面である。着色透明層4の下面4Bは、樹脂部品40が部品として取り付けられる際に裏面となる面であり、取り付け面となる面である。
【0071】
樹脂部品40は、インクジェット層3が形成された着色透明層4の下面4Bを取り付け面として取り付けられた状態で、インクジェット層3が着色透明層4によって保護される。また、当該取り付けられた状態で、樹脂部品40は、着色透明層4を介して、インクジェット層3の絵柄、模様、又は色彩等が視認される。さらに、着色透明層4による反射や導光等による視覚効果も得られる。
【実施例0072】
図6を参照しつつ、実施例5に係る樹脂部品50の構成について説明する。樹脂部品50は、実施例1の樹脂部品10と同様に平板状である。図6は、樹脂部品50を図1の1-1線と同様の位置で切断した断面図である。樹脂部品50は、樹脂成形体が3層積層された3層構造であり、インクジェット印刷を各層間に二重に施したものである。
【0073】
樹脂部品50は、第1樹脂としての透明層1と、透明層1の一方の面である下面1Bに形成された第1のインクジェット層としてのインクジェット層3と、インクジェット層3の下面3Bに形成された第2樹脂層としての着色透明層4とを有している。
【0074】
さらに、樹脂部品50は、着色透明層4の透明層1側の面と反対側の面に設けられた第2インクジェット層としてのインクジェット層53と、インクジェット層53の下面53Bに形成されて着色透明層4とともにインクジェット層53を挟む透明な樹脂成形体である第3樹脂層としての着色透明層54とを有している。
【0075】
言い換えれば、第3樹脂層としての着色透明層54は、第2樹脂層の第1樹脂層側の面と反対側の面に設けられた第2インクジェット層上に形成されて第2樹脂層とともに第2インクジェット層を挟む透明な樹脂成形体である。
【0076】
インクジェット層3及びインクジェット層53は、実施例1のインクジェット層3と同様のインクジェット印刷層である。また、着色透明層4及び着色透明層54は、実施例2の着色透明層4と同様に構成されている。
【0077】
樹脂部品50は、例えば、着色透明層54側が裏面であり取り付け面となり、透明層1側が表面となる。例えば、樹脂部品50は、透明層1側から視認されて、インクジェット層3及びインクジェット層53の2つのインクジェット印刷層の重なりによって、奥行き感などの一層深みのある加飾性が得られる。
【0078】
なお、例えば、樹脂部品50において、着色透明層54を不透明な原着層2としてもよい。また、透明層1又は着色透明層4とインクジェット層3とをさらに積層して、樹脂層を4層以上含む構成としてもよい。
【0079】
[樹脂部品の製造方法]
図7図12を参照しつつ、実施例1に係る樹脂部品10を射出成型によって製造する方法の一例について説明する。以下、最初に1次成形工程によって原着層2を成形して金型から取り出し、原着層2の表面にインクジェット印刷を行い、その後インクジェット層3上に透明層1を2次成形工程によって形成することによって樹脂部品10を製造する方法について説明する。まず、1次成形に用いる金型の構成について説明する。
【0080】
図7は、1次成形用金型60が閉じた状態の内部形状を模式的に示す図である。言い換えれば、当該内部形状は、1次成形用金型60が閉じた際に形成される金型の内壁に囲まれた空隙部分の形状である。
【0081】
図7に示すように、1次成形用金型60は、閉じた状態で、1次成形層として樹脂部品10の原着層2を形成するための平板状の空隙部である1次成形用キャビティとしての1次成形キャビティ61を形成する。また、1次成形用金型60は、閉じた状態で、1次成形キャビティ61に溶融した樹脂が流入する入り口となる第1ゲート62と、第1ゲート62への溶融した樹脂の流路となるランナー63及び射出成形機からの溶融した樹脂の流路となるスプール64とを形成する。スプール64の末端であり金型の開口部である開口部64Aは、射出成形機のノズル(図示せず)に接続されている。
【0082】
図7において、1次成形キャビティ61の短手方向をX方向、長手方向をY、第1ゲート62から1次成形キャビティ61への樹脂の流れ方向をMD(Machine Direction)として示している。図7に示すように、第1ゲート62は、1次成形キャビティ61の短手方向(X方向)に沿って延びるいわゆるフィルムゲート又はサイドゲートである。第1ゲート62は、樹脂の流れ方向MDの長さ、すなわち1次成形キャビティ61の長手方向(Y方向)の長さが例えば1mm以下である。
【0083】
図8は、1次成形用金型60を図7中の8-8線に沿って切断した断面図である。図8に示すように、1次成形用金型60は、第1の固定型65と第1の可動型66とを含んで構成されている。
【0084】
第1の固定型65は、射出成形機に接続された固定側金型(以下、単に固定型とも称する)である。第1の可動型66は、第1の固定型65との接触面に対して少なくとも垂直な方向に移動可能な可動側金型(以下、単に可動型とも称する)である。
【0085】
第1の固定型65と第1の可動型66の各々には所定の領域に凹部が形成されており、第1の固定型65と第1の可動型66とが、パーティングライン67で接して閉じることで、上述した内部形状を有する空隙部(キャビティ)が形成される。具体的には、1次成形キャビティ61、第1ゲート62と、ランナー63及びスプール64が形成される。
【0086】
1次成形の際には、溶融した樹脂がスプール64の開口部64Aから流入し、ランナー63を通って、第1ゲート62から1次成形キャビティ61内に射出され、充填される。続いて、製造フローについて説明する。
【0087】
図9は、射出成形によって樹脂部品10を製造する方法の一例である製造方法M1を示すフローチャートである。まず、射出成形機に取り付けた1次成形用金型60を閉じて(ステップS11)、金型内に上述のような1次成形キャビティ61を形成する。
【0088】
次に、溶融した1次樹脂材料としての原着樹脂を第1ゲート62から射出して第1キャビティ内に充填する(ステップS12)。本実施例において、原着層2の材料である原着樹脂として、透明樹脂に顔料を添加したものを用いた。本実施例においては、植物由来のイソソルバイドが主原料の透明樹脂である三菱ケミカル製のデュラビオ(登録商標)を透明樹脂として用いた。ステップS12において、溶融した樹脂が開口部64Aから流入し、ランナー63を通って、第1ゲート62から1次成形キャビティ61内に射出され、充填される。
【0089】
その後、金型とともにキャビティ内の樹脂を冷却して固化させる(ステップS13)。ステップS13において、例えば、所定の金型温度で冷却させることで、キャビティ内の樹脂を固化させる。ステップS13において、1次成形キャビティ61内に充填されて固化したものが一次成形品となる。また、ステップS13において、一次成形品と一体的に、第1ゲート62、ランナー63、及びスプール64内の樹脂が固化した成形物が得られる。
【0090】
その後、第1の可動型66をパーティングライン67に垂直な方向に移動させて第1の固定型65から外すことで、1次成形用金型を開く(ステップS14)。ステップS11~ステップS14は、1次成形品として1次成形層(本実施例において、原着層2)を形成する1次成形工程である。
【0091】
その後、1次成形キャビティ61内に形成された1次成形品を第1の可動型66から取り出す(ステップS15)。ステップS15において、例えば、1次成形層に接続している第1ゲート62内の樹脂が固化した成形物(第1ゲート部とも称する)を1次成形層から切り離し(ゲートカットし)、1次成形層(すなわち原着層2)のみを取り出す。
【0092】
その後、取り出した1次成形品の一方の面にインクジェット印刷を施す(ステップS16、印刷工程)。ステップS16において、例えば、1次成形品を所定の位置に固定し、インクジェット印刷ヘッドによって1次成形品の表面上を1回以上走査することで、インクジェット印刷層を形成する。
【0093】
ステップS16の後、1次成形品を2次成形用の金型に配置する(ステップS17)。その後、当該2次成形用の金型を用いて、インクジェット層上への2次成形を行う。ここで、2次成形用の金型の構成について詳細に説明する。
【0094】
図10は、2次成形用金型70が閉じた状態の内部形状を模式的に示す図である。図10に示すように、2次成形用金型70は、閉じた状態で、1次成形層としての原着層2を収容可能な形状及び寸法を有する空隙部である第1キャビティ71を形成する。
【0095】
図10において、第1キャビティ71に原着層2が収容されている様子を示している。言い換えれば、第1キャビティ71は、1次成形層をインサートするためのインサート部である。
【0096】
また、2次成形用金型70は、閉じた状態で、第1キャビティ71上に、第1キャビティ71と連通する第2キャビティ73を形成する。第2キャビティ73は、2次成形層を形成するための空隙部である。図10に示すように、第2キャビティ73の短手方向をX方向、長手方向をYとする。
【0097】
また、2次成形用金型70は、閉じた状態で、第2キャビティ73に連通する第2ゲート75を形成する。さらに、2次成形用金型70は、閉じた状態で、第2キャビティ73の第2ゲート75に接する端部と反対側の端部において、外部に連通する空隙部であるガスベント77を有している。第2キャビティ73に溶融樹脂が充填される際に、第2キャビティ73内の気体がガスベント77から排出される。
【0098】
また、2次成形用金型70は、閉じた状態で、第2ランナー79及び第2スプール81を形成する。スプール81の末端であり金型の開口部である開口部81Aは、射出成形機のノズル(図示せず)に接続されている。
【0099】
図10中の矢印は、第2成形層形成時の第2の成形層の層内方向における樹脂の流れ方向MD(Machine Direction)を示している。本実施例において、樹脂の流れ方向MDは、第2成形層及び第2キャビティの長手方向すなわちY方向に沿った方向である。以下の説明において、第2ゲート75の、当該流れ方向MDに沿った方向における長さをゲート長さLGとする。また、ガスベント77の、流れ方向MDに沿った方向における長さ、すなわちY方向における長さをガスベント長さLVとする。
【0100】
図11は、2次成形用金型70の上面図である。2次成形用金型70は、固定側金型である第2の固定型83を含み、図11は、2次成形用金型70を第2の固定型83側から見た上面図である。図12中、図10に示した内部形状を破線で示している。
【0101】
図11に示すように、第2キャビティ73の、樹脂の流れ方向MDに垂直な方向の幅をDMとする。本実施例において、幅DMは第2キャビティ73の短手方向であるX方向に沿った幅である。本実施例において、幅DMを50mmとした。また、第2ゲート75の、樹脂の流れ方向MDに垂直な方向の幅をDGとする。第2ゲート75の幅DGは、第2キャビティ73の幅DMに対して、50%以上100%以下である。本実施例において、第2ゲート75の幅DGを、第2キャビティ73の幅DMに対して100%、すなわち第2キャビティ73の幅DMと同じである50mmとした。
【0102】
また、ガスベント77の、樹脂の流れ方向MDに垂直な方向の幅をDVとする。本実施例において、幅DMは第2キャビティ73の短手方向であるX方向に沿った幅である。ガスベント77の幅DVは、第2キャビティ73の幅DMに対して、10%以上100%以下である。本実施例において、ガスベント77の幅DVを、第2キャビティ73の幅DMに対して100%、すなわち第2キャビティ73の幅DMと同じである50mmとした。
【0103】
図12は、2次成形用金型70を図11の13-13線に沿って切断した断面である。図12に示すように、2次成形用金型70は、第2の固定型83と第2の可動型85とを含み、第2の固定型83及び第2の可動型85の各々には、図10に示した内部形状の各部に対応する凹部が形成されている。2次成形用金型70は、第2の固定型83と第2の可動型85とが、パーティングライン87で接して閉じることで、各キャビティを形成する。
【0104】
図12に示すように、第2の可動型85の上面には、1次成形層を収容可能な形状及び寸法を有する凹部が形成されている。また、第2の可動型85の上面には、ランナー79に対応する凹部が形成されている。
【0105】
一方、第2の固定型83の下面には、2次成形層を成形可能な形状及び寸法を有する凹部が形成されている。また、第2の固定型83の下面には、第2ゲート75、ガスベント77、及びスプール81に対応する凹部が形成されている。
【0106】
図12に示すように、2次成形用金型70が閉じた状態で、第1キャビティ71と、第1キャビティ71と連通する第2キャビティ73が形成される。また、第2キャビティ73に連通する第2ゲート75、第2キャビティ73の第2ゲート75に接する端部と反対側の端部において、外部に連通する空隙部であるガスベント77が形成される。また、第2ゲート75に連通するランナー79及びランナー79に連通するスプール81が形成される。
【0107】
図12中、第1キャビティ71に、インクジェット層3が形成された原着層2が、インクジェット層3が第2キャビティ73に向くようにインサートされている様子を示している。
【0108】
図12中、第1キャビティ71の層厚方向における厚みをHM1として示している。本実施例において、第1キャビティ71の厚みHM1を1.5mmとした。また、図12中、第2キャビティ73の層厚方向における厚みをHM2として示している。実施例において、第2キャビティ73の厚みHM1を2.0mmとした。
【0109】
本実施例において、2次成形による成形品の寸法、すなわち第2キャビティ73の寸法を考慮して、第2ゲート75の寸法を制御し、かつ、ガスベントを設けることで、インクジェット層上への2次成形を実現している。ここで、ゲート及びガスベントの寸法について説明する。
【0110】
[ゲートの寸法]
上述したように、樹脂の流れ方向に垂直な方向の第2ゲート75の幅DGは、第2キャビティ73の幅DMに対して100%に相当する50mmである(図11参照)。また、図12に示すように、また、第2キャビティ73の層厚方向における第2ゲート75の厚みをHGとする。第2ゲート75の当該厚みHGは、2次成形層の厚み、すなわち第2キャビティ73の厚みHM2に対して66%以上100%以下である。本実施例において、第2ゲート75の厚みHGを第2キャビティ73の厚みHM2に対して100%とした。
【0111】
また、樹脂の流れ方向に沿った方向の第2ゲート75の長さLGは、5mm以上である。本実施例において、第2ゲート75の長さLGを5mmとした。
【0112】
[ガスベントの寸法]
また、上述したように、樹脂の流れ方向に垂直な方向のガスベント77の幅DVは、第2キャビティ73の幅DMに対して100%に相当する50mmである(図11参照)。ガスベント77の幅DVは上記した例に限られず、例えば、第2キャビティ73の幅DMに対して10%以上とすることができる。例えば、ガスベント77の幅DVは第2キャビティ73の幅DMに対して20%~40%程度であってもよい。ガスベントは、第2キャビティ73のゲートと反対側の端部において、第2キャビティ73の幅DMのうちのガスが抜けにくい範囲、すなわち未着部分が生じやすい範囲に設けることが好ましい。例えば、第2キャビティ73の幅DMの中心付近でガスが抜けにくい場合は、ガスベント77を当該中心付近に設けることが好ましい。
【0113】
また、樹脂の流れ方向に沿った方向のガスベント77の長さLVは、ガスベントが外部に連通することができれば特に制限は無く、金型の構造等に応じて適宜設定することができる。本実施例においては、ガスベント77の長さLVを10mm以下とした。例えば、ガスベント77の長さLVは、0.5mm以上とすることが好ましい。
【0114】
また、図12に示すように、また、第2キャビティ73の層厚方向におけるガスベント77の厚みをHVとする。ガスベント77の厚みHVは、0.02mm程度であることが好ましい。例えば、ガスベント77の厚みHVが0.02mmを超えると、溶融した樹脂がガスベント77に流れ込み、バリが生じる可能性がある。
【0115】
ここで、再び図9を参照する。上述したように、ステップS17において、原着層2は、ステップS16において形成されたインクジェット層3が第2キャビティ73に向くように、第1キャビティ71内に配置される。
【0116】
その後、2次成形用金型70を閉じる(ステップS18)。上述したように、第2の固定型83と第2の可動型85とを閉じることで、原着層2が配置された第1キャビティ71上に、2次成形層を形成するための第2キャビティ73が形成される。また、第2キャビティ73に連通する第2ゲート75、第2キャビティ73の第2ゲート75に接する端部と反対側の端部において、外部に連通する空隙部であるガスベント77が形成される。また、ランナー79及びスプール81が形成される。
【0117】
その後、溶融した2次樹脂材料としての透明樹脂を第2ゲート75から射出して第2キャビティ73内に充填する(ステップS19)。本実施例において、透明層1の材料である透明樹脂を2次樹脂材料として用いた。本実施例においては、植物由来のイソソルバイドが主原料の透明樹脂である三菱ケミカル製のデュラビオ(登録商標)を透明樹脂として用いた。
【0118】
ステップS19において、溶融した樹脂が開口部81Aから流入し、スプール81及びランナー79を通って、第2ゲート75から第2キャビティ73内に射出され、充填される。
【0119】
その後、金型とともにキャビティ内の樹脂を冷却して固化させる(ステップS20)。ステップS20において、例えば、所定の金型温度、例えば室温より高い温度で、キャビティ内の樹脂を固化させる。ステップS20において、第2キャビティ73内に充填された樹脂が、固化して2次成形層となる。第2キャビティ73内に充填された樹脂は、インクジェット層3が形成された1次成形層に接着しつつ固化する。それによって、1次成形層と、インクジェット印刷層と、2次成形層とを含む成形物が2次成形品となる。
【0120】
また、ステップS20において、2次成形層と接続した第2ゲート75、第2ゲート75と接続したランナー79、ランナー79と接続したスプール81に充填された樹脂が固化した成形物が得られる。
【0121】
その後、可動型としての第2の可動型85をパーティングライン87に垂直な方向に移動させて固定型としての第2の固定型83から外すことで、2次成形用金型70を開く(ステップS21)。ステップS18~ステップS21は、第1インクジェット層としてのインクジェット層3上に2次成形層としての透明層1を形成する2次成形工程である。
【0122】
その後、第1キャビティ71及び第2キャビティ73内に形成された2次成形品を第2の可動型85から取り出す(ステップS22)。ステップS22において、例えば、2次成形層に接続している第2ゲート75内の樹脂が固化した成形物(第2ゲート部とも称する)を2次成形層から切り離し、1次成形層、インクジェット層3、及び2次成形層からなる2次成形品のみを取り出す。
【0123】
なお、例えば、上記のような2次成形層と第2ゲート部とを切り離す際に、容易に切り離すために、2次成形層と第2ゲート部との境界にノッチを形成するように、金型を構成してもよい。
【0124】
以上のような方法により、1次成形層を1次成形の金型から取り出して、2次成形用の金型に逐次インサートして2次成形を行い、2次成形品として樹脂部品10を製造することができる。
【0125】
ここで、上記の2次成形工程のステップS19における樹脂の充填について説明する。上述のように、第2ゲート75は、樹脂の流れ方向に垂直な方向の幅DGが第2キャビティ73の当該幅DMに対して50~100%である。
【0126】
また、第2ゲート75は、第2キャビティ73の層厚方向における厚みHGが、第2キャビティ73の厚みHM2に対して66%以上100%以下であり、樹脂の流れ方向に沿った方向の長さLGが5mm以上である。本実施例において、ゲートのサイズは、幅DGが50mm、厚みHGが2mm、長さLGが5mmである。ゲートをこのようなサイズとしたことで、溶融樹脂がスムーズに第2キャビティ73に充填される。
【0127】
発明者らは、例えば、ゲートの長さLGが5mmより小さく、厚みが第2キャビティ73の厚みに対して66%より小さい場合、1次成形層上のインクジェット印刷層が崩れる場合があることを見出した。具体的には、インクジェット印刷によって形成された模様等の外観が、2次成形の溶融樹脂の流れに押し流されたように局所的に変化する場合があった。これは、溶融樹脂の温度の影響及び樹脂の流れの乱れによるものと考えられる。
【0128】
本実施例では、第2ゲート75の寸法を上記のように設定したことで、上記のようなインクジェット印刷層の崩れはなく、印刷工程の際に形成された外観を維持したまま、第2成形層を形成することができる。
【0129】
具体的には、第2ゲート75は、幅を第2キャビティ73と同じとすることに加えて、厚みを第2キャビティ73の厚みと同じ厚みまで大きく設定した。そのため、溶融樹脂が第2ゲート75から第2キャビティ73に流入する際に、断面形状及び断面積の差がないため、流れの乱れが生じ難くなったと考えられる。
【0130】
また、ゲートの長さLGは、従来は1mm以下又は数mm程度とすることが一般的であったところ、本実施例では、ゲートの長さLGを5mm以上と従来よりも長くした。それによって、第2キャビティ73に流入する際の溶融樹脂の温度が下がったことによって、インクジェットインクが軟化しにくくなったと考えられる。
【0131】
さらに、ゲートの長さLGを長くしたことによって、ランナーからゲートに入った直後に生じた流れの乱れが、第2キャビティ73に到達するまでに整流されたとも考えられる。
【0132】
上記のようなゲートの厚み及び長さの効果によって、溶融樹脂を充填する際に、インクジェットインクが軟化しにくくかつ崩れにくくなったものと考えられる。
【0133】
以上のことから、本発明において、第2ゲート75の幅及び厚みは成形品の幅及び厚みに近いほど好ましい。第2ゲート75の樹脂の流れ方向に垂直な方向の幅DG幅は、第2キャビティ73の当該幅DMに対して50~100%であることが好ましく、100%であることがより好ましい。第2キャビティ73の層厚方向における第2ゲート75の厚みHGは、第2キャビティ73の当該厚みHM2に対して66%以上100%以下であることが好ましく、100%であることがより好ましい。
【0134】
なお、ゲートは、成形後には不要となる箇所であり、切り取って除去する部分であるという観点から、なるべく小さく設計することが一般的である。本願では、スムーズに樹脂を充填してインクジェット層を保持するために、上記のようなあえて大きい寸法のゲートを有する金型を新たに設計して樹脂部品の製造に使用した。
【0135】
第2ゲート75の長さLGは、5mm以上であれば特に制限はないが、例えば、コストや生産性を考慮すると、約15mm程度までとすることが妥当であると考えられる。
【0136】
また、上述のように、2次成形用金型70は、ガスベント77を有している。1次成形層にインクジェット印刷層が形成されたものを用いて2次成形を行う場合について、発明者らは、金型にガスベントを設けていなければ、ゲートの反対側の端部付近に、2次成形層がインクジェット印刷層上に密着していない領域である未着部分が生じることを見出した。
【0137】
本実施例では、2次成形用金型70にガスベント77を設けたことによって、2次成形時に第2キャビティ73内の気体がスムーズに排出され、上記のような未着部分は発生せず、第2成形層がインクジェット印刷層を挟んで第1成形層上に全面に亘って密着性良く成形された2次成形品を製造することができる。
【0138】
なお、上述のように、ガスベント77は、樹脂の流れ方向に垂直な方向の幅DVが、第2キャビティ73の幅DMに対して10%~100%である。また、ガスベント77は、樹脂の流れ方向に沿った方向の長さLVが、10mm以下である。また、ガスベント77は、第2キャビティ73の層厚方向の厚みHVが0.1mm以下である。
【0139】
ガスベントの寸法は、樹脂が流れ出ない寸法でありかつキャビティ内のガスを効率よく排出できる寸法であることが好ましい。例えば、厚みを0.02mm程度とすることで、樹脂がガスベントまで流出することを防止することができる。
【0140】
なお、樹脂部品10は、透明層1を先に形成しても製造することができる。具体的には、樹脂部品10の透明層1を1次成形工程によって成形し、透明層1の下面1Bにインクジェット層3を形成する。その後、インクジェット層3が第2キャビティ73に向くように、透明層1を2次成形用金型70の第1キャビティ71にインサートし、インクジェット層3上に原着層2を2次成形工程によって形成することで樹脂部品10を製造してもよい。
【0141】
従って、上記の製造方法において、1次樹脂材料及び2次樹脂材料の少なくとも一方を透明樹脂材料とすることで、樹脂部品10を製造することができる。
【0142】
本実施例の製造方法によれば、インクジェット印刷層上に2次成形層を形成し、樹脂部品10を製造することができる。従って、本実施例の上記製造方法によれば、環境負荷が小さくかつ加飾性の高い樹脂部品及び自動車用樹脂部品の製造方法を提供することができる。
【0143】
[多色成形による製造方法]
図13図17を参照しつつ、本実施例の樹脂部品10の製造方法の他の一例について説明する。図13は、樹脂部品10の製造方法の他の一例である製造方法M2を示すフローチャートである。
【0144】
製造方法M2は、図9に示した製造方法M1と同様に、1次成形層を形成する1次成形工程、1次成形層の一方の面にインクジェット印刷層を形成する印刷工程、及びインクジェット印刷層上に2次成形層を形成する2次成形工程を含む。
【0145】
製造方法M2において、1次成形工程の後、可動型に一次成形層を載置したまま印刷工程を実行し、その後、同じ可動型に一次成形層を載置したまま2次成形工程を行う点において、製造方法M1と異なる。また、そのために1次成形用の可動型と、2次成形用の可動型と、が共通である点、すなわち二色成形又は多色成形の手法を用いる点で、製造方法M1と異なる。
【0146】
製造方法M2では、1次成形工程の後、当該共通の可動側金型を2次成形用の固定側金型と合う位置に移動させるために、多色成形用の射出成形機を用いる。例えば、スライド機構を設けた金型を用いるダイスライドインジェクションを行うか又は回転機構によって可動型を移動させるロータリー式の射出成型機を用いる。その他の点については、製造方法M1と同様に進行するため、説明の一部を省略する。
【0147】
図14及び図15を参照し、製造方法M2の1次成形工程で使用する金型の一例である1次成形用金型90の構成について説明する。1次成形用金型90は、1次成形用の固定側金型である固定側金型95と、可動型としての共通型96と、を含む。
【0148】
図14は、1次成形用金型90の固定側金型95と共通型96とが閉じた状態の内部形状を模式的に示す図である。1次成形用金型90は、図8に示した1次成形用金型60と同様の内部形状を有しており、1次成形層を形成するための1次成形キャビティ91、第3ゲート92、第3ランナー93、第3スプール94を有している。例えば、第3ゲート92は、例えば長さが2次成形用の金型のゲート(例えば5mm)よりも小さい。
【0149】
図15は、1次成形用金型90を図14の15-15線に沿って切断した断面図である。図15に示すように、1次成形用金型90は、固定側金型95と、共通型96と、が、パーティングライン97で接して閉じることで、各キャビティを形成する。
【0150】
製造方法M2において、まず、1次成形用金型90を閉じ(ステップS31)、溶融した1次成形樹脂を第3ゲート92から射出させて1次成形キャビティ91内に充填する(ステップS32)。その後、所定の金型温度で冷却して1次成形樹脂を固化させ(ステップS33)、共通型96を固定側金型95から外して1次成形用金型90を開く(ステップS34)。
【0151】
その後、共通型96の1次成形キャビティ91に1次成形品を載置したまま、1次成形品の共通型96から露出している面に、インクジェット印刷を施す(ステップS35)。
【0152】
ステップS35において、例えば、インクジェット印刷ヘッドによって1次成形品の表面上を1回以上走査することで、インクジェット印刷層を形成する。ステップS35において、例えば、金型を射出成型機に取り付けた状態で、インクジェット印刷を行う。
【0153】
ステップS35において、例えば、アームの先端にインクジェット印刷ヘッドが取り付けられた多軸ロボットを用いて、ロボットアームの動きによって1次成形品の表面上をインクジェット印刷ヘッドで走査する。
【0154】
図16は、一次成形層の成形が終了して1次成形用金型90が開いた状態で、多軸ロボットを用いてインクジェット印刷を行う様子を模式的に示す図である。図16は、1次成形工程の後、ランナー93及びスプール94に充填された樹脂が固化した成形物であるランナー部及びスプール部を除去した状態を示している。図16に示すように、第3ゲート92に充填された樹脂が固化した成形物であるゲート部92Aは残されている。
【0155】
また、図16中、金型の近傍に設置された多軸ロボットのアーム101、アーム先端に設けられた固定部102、固定部102に取り付けられたインクジェット印刷ヘッド103を示している。例えば、金型が開くと、アーム101の動きによってインクジェット印刷ヘッド103が一次成形層である原着層2の金型から露出している表面上に移動する。
【0156】
その後、多軸ロボットのアーム101が矢印の走査Sに沿って移動すると同時に、インクジェット印刷ヘッド103からインクジェットインクが吐出されて、インクジェット層3が形成される。例えば、ロボットアームの動きを1次成形層の形状及び寸法の情報に基づいてコンピュータ制御することによって、インクジェット印刷ヘッド103の位置が調整される。
【0157】
なお、ランナー部とスプール部は、印刷後に除去しても良く、2次成形の際に金型を閉じるまでに除去されていればよい。
【0158】
ステップS35の後、インクジェット層3が形成された1次成形層を載置したまま、共通型96を、2次成形用の固定型に対向する位置まで移動させて、2次成形用の金型を閉じる(ステップS36)。
【0159】
ステップS36において、例えば、ダイスライドインジェクションによる場合は共通型96をスライドさせて2次成形用の固定型に対向する位置まで移動させる。また、ロータリー式の射出成形機を用いる場合には、ロータリーテーブルの片側に共通型96を取り付けておき、当該ロータリーテーブルを回転させて2次成形用の固定型に対向する位置まで移動させる。
【0160】
図17は、ステップS36において、2次成形用金型110が閉じた状態を示す断面図である。2次成形用金型110は、第2の固定型83と、共通型96とを組み合わせたものである。例えば図17に示すように、2次成形用金型110の固定型は、図12に示した2次成形用金型70の第2の固定型83と同じ金型である。
【0161】
図17に示すように、2次成形用金型70と同様に、第2キャビティ73、第2ゲート75及びガスベント77が形成される。つまり、図17に示す例においては、共通型96は、1次成形層である原着層2及びゲート部を残し、他の部分、すなわちランナー部及びスプール部を除去した状態で、図12に示した2次成形用金型70の第2の可動型85と同じ内部形状を有している。
【0162】
その後、2次成形工程を実行する。ステップS37~40は、図9のステップS19~22と同様に進行し、2次成形品が得られる。製造方法M2によれば、1次成形の後、一次成形層を離型せずに、インクジェット印刷層の形成及び2次成形層の形成ができるため、樹脂部品10の製造を効率良く行うことができる。
【0163】
図17に示す例において、第2ゲート75及びガスベント77の寸法は、上述した製造方法M1の場合と同じである。従って、製造方法M1の場合と同様に、溶融した2次成形樹脂が第2キャビティ73に流入して充填される際に、インクジェット印刷層の外観が変化することなく、インクジェット印刷層上に、2次成形層を形成することができる。
【0164】
なお、多色成形による樹脂部品10の製造方法において、上記した金型の形状は一例であり、上記した例に限られない。
【0165】
実施例2に係る樹脂部品20(図3参照)は、樹脂部品10と同様に、製造方法M1又は多色成形を用いる製造方法M2によって製造することができる。例えば、着色透明層4を1次成形層として、着色透明層4の上面4T上にインクジェット層3を形成し、その後、2次成形層として透明層1をインクジェット層3上に形成してもよい。または、逆順に、透明層1を1次成形層として、透明層1の下面1Bにインクジェット層3を形成し、その後、2次成形層として着色透明層4をインクジェット層3上に形成してもよい。
【0166】
図18は、実施例3に係る樹脂部品30(図4参照)の製造方法の一例である製造方法M3を示すフローチャートである。製造方法M3は、例えば製造方法M1の1次成形工程によって形成された1次成形品(1次成形層)を用いて行う。製造方法M3は、1次成形層上に、インクジェット印刷層を形成することなく2次成形層を形成する点で、上述した製造方法M1と異なる。
【0167】
製造方法M3のステップS51において、インクジェット印刷層が形成されていない1次成形層を2次成形用の金型に配置する。その後、ステップS52~56において、図9のS18~22と同様に2次成形を行う。その後、2次成形品の一方の面にインクジェット印刷を行う(ステップS57)ことで、樹脂部品30を得る。
【0168】
樹脂部品30の製造において、例えば、1次成形層として着色透明層4を形成し、着色透明層4上に、2次成形層として透明層1を形成してもよく、その逆でもよい。その後、2次成形品の一方の面である着色透明層4上にインクジェット印刷を行う。
【0169】
なお、樹脂部品30は、1次成形層上に、インクジェット印刷層を形成後、1次成形層インクジェット印刷層が形成された面と反対側の面上に、2次成形層を形成してもよい。なお、この方法では、インクジェット印刷層が2次成形時に金型と接触するため、インクジェット印刷層が2次成形の際の金型の温度の影響を受ける可能性がある。従って、インクジェット印刷層を最後に形成することが好ましい。
【0170】
また、実施例4に係る樹脂部品40(図5参照)は、図9に示した製造方法M1の、ステップS11~ステップS16を実行することによって、製造することができる。具体的には、1次成形層の一方の面にインクジェット印刷を行うことで製造できる。樹脂部品40は、1回のみの射出成形とインクジェット印刷によって製造することができるので、例えば上述した2色成形や1次成形層を金型にインサートしての2次成形を行う必要もない。従って、樹脂部品40は、より低コストで製造することができる。
【0171】
実施例5に係る樹脂部品50は、例えば、上述した製造方法M1又は製造方法M2において、2次成形工程の終了後、さらに、2次成形品の一方の面にインクジェット印刷層を形成し、インクジェット印刷層上にさらに別の金型を用いて3層目の成形体を成形することによって製造することができる。
【0172】
なお、例えば、着色透明層4の両面にインクジェット印刷を施して、インクジェット層3及び53を形成後、透明層1及び着色透明層54を形成してもよい。なお、この方法では、透明層1の成形時又は着色透明層54の成形時にインクジェット印刷層が金型と接触するため、インクジェット印刷層が射出成形の際の金型の温度の影響を受ける可能性がある。従って、インクジェット印刷層の形成と、インクジェット印刷層上への透明樹脂の成形を交互に行うことが好ましい。
【0173】
上述した実施例における構成は例示に過ぎず、用途等に応じて適宜変更可能である。
【0174】
例えば、上記の実施例において、樹脂部品が矩形の平板状である例について説明したが、これに限られない。例えば、樹脂部品がインストルメントパネル等の自動車用内装部品である場合、凹凸を有する板状の部材となる。樹脂部品が凹凸を有する形状であっても、例えばXYZ方向やXYZ+θ方向を軸に移動可能なインクジェット印刷ヘッドを用いることで、凹凸に追従してインクジェット印刷を行うことができる。
【0175】
上記の実施例では、1次成形及び2次成形に同種の樹脂を用いる例について説明したが、これに限られない。1次成形と2次成形とで、異なる種類の樹脂を成形してもよい。例えば、密着性の観点から、同種の樹脂で2次成形を行うことが好ましいが、異なる種類の樹脂であっても、密着性の良い組み合わせがあれば、これを用いても良い。
【0176】
例えば、1次成形の樹脂材をポリカーボネート(PC)とし、その上にインクジェット印刷層を形成し、その上にポリメタクリレート樹脂(PMMA)層を2次成形によって形成してもよい。それによって、例えば、PMMAの硬く傷がつきにくい性質と、ポリカーボネートの衝撃に強い性質を併せ持つ樹脂部品とすることができる。
【符号の説明】
【0177】
1 透明層
2 着色層
3 インクジェット印刷層
4 透明性を保持した着色層
10、20、30、40、50 樹脂部品
60、90 1次成形用金型
70、110 2次成形用金型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18