(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025776
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】指の屈伸抵抗測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240216BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
A61B5/11 230
G01L5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132017
(22)【出願日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2022128951
(32)【優先日】2022-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】友松 重樹
(72)【発明者】
【氏名】望月 仁志
(72)【発明者】
【氏名】杉山 崇史
(72)【発明者】
【氏名】楠木 達也
【テーマコード(参考)】
2F051
4C038
【Fターム(参考)】
2F051AA17
2F051AB09
2F051BA03
4C038VA05
4C038VB13
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】本発明は、指の屈伸抵抗測定装置の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係る指の屈伸抵抗測定装置は、ケースと、該ケースに軸回りに回転自在に支持された検出軸と、該検出軸に備えられた歪センサを備えたトルク検出器と、前記検出軸の一方の外方端に接続された指保持部と、前記検出軸の回動角を計測する角度検出器と、前記検出軸に接続された回動手段を備え、前記指保持部が、指の基節を設置可能な固定基台と、前記検出軸の軸回り方向に前記検出軸と同期回動し、前記固定基台に対し所定の角度回動自在に支持され、指先側を設置可能な指掛部を備え、前記回動手段が前記検出軸を介し前記指掛部を所定角度回動自在とする機能を有し、前記角度検出器が前記指掛部の回動角度を検出する機能を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、該ケースに軸回りに回転自在に支持された検出軸と、該検出軸に備えられた歪センサを備えたトルク検出器と、
前記検出軸の一方の外方端に接続された指保持部と、
前記検出軸の回動角を計測する角度検出器と、
前記検出軸に接続された回動手段を備え、
前記指保持部が、指の基節を設置可能な固定基台と、前記検出軸の軸回り方向に前記検出軸と同期回動し、前記固定基台に対し所定の角度回動自在に支持され、指先側を設置可能な指掛部を備え、
前記回動手段が前記検出軸を介し前記指掛部を所定角度繰り返し回動自在とする機能を有し、
前記角度検出器が前記指掛部の回動角度を検出する機能を有することを特徴とする指の屈伸抵抗測定装置。
【請求項2】
前記指掛部が指の末節と中節を載置可能な大きさに、前記固定基台が前記指の基節を設置可能な大きさに形成され、
前記指掛部の前記固定基台に対する前記所定の角度回動により、前記指保持部に設置した指に対し、前記指の近位指節関節を支点として前記指の中節と末節を前記指の基節に対し所定角度屈伸可能とすることを特徴とする請求項1に記載の指の屈伸抵抗測定装置。
【請求項3】
架台の中央部に前記ケースが取り付けられ、前記架台の一側に前記指保持部と前記角度検出器が取り付けられ、前記架台の他側に前記回動手段が取り付けられたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の指の屈伸抵抗測定装置。
【請求項4】
前記検出軸が樹脂からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の指の屈伸抵抗測定装置。
【請求項5】
前記検出軸の他方の外方端に継手部を介し指保持部と角度検出器が接続された請求項1または請求項2に記載の指の屈伸抵抗測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指の屈伸抵抗測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病の4大症状として、安静時振戦、筋強剛、無動・寡動、姿勢反射障害が挙げられる。パーキンソン病の重症度評価には、主に統一パーキンソン病評価スケール(UPDRS)が用いられており、妥当性と信頼性の高さから広く世界的なスケールとされている。
しかし、統一パーキンソン病評価スケールは、診断に時間を要する上に、医師の個人的な解釈や経験に大きく依存し、定性的で主観的な要素があるため、定量化と評価の統一化が望まれている。
【0003】
この背景から、パーキンソン病の度合いを定量化し、評価の統一を目的として、種々の検査装置が研究されている。
例えば、パーキンソン病患者の指の折り曲げ状態を手のひらに装着したサーボモータの回転軸の回転抵抗として検出する検査装置が、以下の非特許文献1に記載されている。
非特許文献1に記載の検査装置は、中指の第2指節と第3指節を通した輪状ベルトをハーネス部材に連結して固定し、ハーネス部材に接続したリンクアームをサーボモータの回転軸に接続した構成を備える。
非特許文献1に記載の検査装置は、第3関節を支点とする中指の屈曲と伸展のサイクルと屈曲度あたりの力の量を測定することにより、患者の指の剛性を定量化することができる。
【0004】
また、以下の非特許文献2には、脳深部刺激治療法の効果を確認するために受動的な手首の屈曲運動を課す場合、様々な刺激パラメーターの基で知覚される剛性低下を定性的に測定するためのウエアラブルデバイスが開示されている。このデバイスは、繊維製のバンドにジャイロセンサーを組み込んで構成され、手首の反復動作に伴う手首の硬さの変化を評価する機能を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Thushara Perera et. al. 「A palm-worn device to quantify rigidity in Parkinson’s disease」、Journal of Neuroscience Methods、 https://doi.org/10.1016/j.jneumeth.2019.02.006、 https://www.elsevier.com/locate/jneumeth
【非特許文献2】Elodie Murias Lopes et. Al. 「iHandU: A Novel QuantitativeWrist Rigidity Evaluation Device for Deep Brain Stimulation Surgery」、Sensors 2020, 20, 331、 http://dx.doi.org/10.3390/s20020331、 http://www.mdpi.com/journal/sensors
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、パーキンソン病患者の重症度評価において種々の検査装置が考案されているものの、患者の重症度は統一パーキンソン病評価スケールに基づいて行われており、中でも筋強剛は医師の主観に基づく半定量的な評価しかなされていないのが実情である。
そのため、評価する医師によってはパーキンソン病の重症度にバラツキを生じるおそれがある。また、患者の病状によっては、診察結果に質的評価のバラツキを生じるおそれがある。
筋強剛の定量化は、パーキンソン病の投薬治療や脳深部刺激療法(DBS)の効果を確認し、治療方針を決定する上で有効に作用すると考えられる。
また、他の疾病でも指の屈伸時に抵抗の増加が見られることがあり、指の屈伸抵抗を定量的に精密測定することは、治療を行う上で判断基準の一助になると考えられる。
【0007】
従来から種々の研究により、関節の屈曲-伸展の動作に関し、遅い動作よりも速い動作の方がトルクに大きく影響すること、変位が大きいほど筋強剛の増加と関連していることがわかっている。ところが、従来の検査装置は、速い動作に伴うトルク変動や精密な変位を測定できるものではなかった。
【0008】
本願発明は、パーキンソン病患者の筋強剛を定量化することを1つの目的とし、関節を中心とする指の屈伸に伴う抵抗を高いトルク分解能と時間分解能で測定可能な指の屈伸抵抗測定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る指の屈伸抵抗測定装置は、ケースと、該ケースに軸回りに回転自在に支持された検出軸と、該検出軸に備えられた歪センサを備えたトルク検出器と、前記検出軸の一方の外方端に接続された指保持部と、前記検出軸の回動角を計測する角度検出器と、前記検出軸に接続された回動手段を備え、前記指保持部が、指の基節を設置可能な固定基台と、前記検出軸の軸回り方向に前記検出軸と同期回動し、前記固定基台に対し所定の角度回動自在に支持され、指先側を設置可能な指掛部を備え、前記回動手段が前記検出軸を介し前記指掛部を所定角度繰り返し回動自在とする機能を有し、前記角度検出器が前記指掛部の回動角度を検出する機能を有することを特徴とする。
【0010】
(2)本発明に係る(1)に記載の指の屈伸抵抗測定装置において、前記指掛部が指の末節と中節を載置可能な大きさに、前記固定基台が前記指の基節を設置可能な大きさに形成され、前記指掛部の前記固定基台に対する前記所定の角度の回動により、前記指保持部に設置した指に対し、前記指の近位指節関節を支点として前記指の中節と末節を前記指の基節に対し所定角度屈伸可能とすることが好ましい。
【0011】
(3)本発明に係る(1)または(2)に記載の指の屈伸抵抗測定装置において、架台の中央部に前記ケースが取り付けられ、前記架台の一側に前記指保持部と前記角度検出器が取り付けられ、前記架台の他側に前記回動手段が取り付けられた構成を採用できる。
【0012】
(4)本発明に係る(1)~(3)のいずれかに記載の指の屈伸抵抗測定装置において、前記検出軸が樹脂からなることが好ましい。
(5)本発明に係る(1)~(4)のいずれかに記載の指の屈伸抵抗測定装置において、前記検出軸の他方の外方端に継手部を介し指保持部と角度検出器が接続された構成を採用できる。
【発明の効果】
【0013】
回動手段が検出軸を介し指保持部の指掛部を固定基台に対し所定角度繰り返し回動させ、指掛部の回動角度を角度検出器が検出し、歪センサが前記検出軸のトルクを測定する。指掛部に指を掛けた状態で回動手段により指掛部を所定角度繰り返し回動させると、指掛部の繰り返し回動とともに指の関節も追従回動する。
指関節の屈伸抵抗が一定あるいはごく小さい値であるならば、角度検出器が検出する指掛部の回動角度と前記歪センサが検出する検出軸のトルクの関係は一定となるが、指関節の屈伸抵抗が一定ではなく、ある程度大きい場合、指掛部の回動角度とトルクの関係は一定とならない。
パーキンソン病などの疾病において、指関節の繰り返し曲げ伸ばしに伴う受動運動に対し関節の動きに抵抗を生じると、指掛部の繰り返し回動角度変化に対し、回動角度の変位速度と変位の大きさ、トルクとの関係が変化する。屈伸抵抗測定装置は、回動角度の変位速度と変位の大きさ、トルクとの関係をポテンショメータと歪センサにより正確に読み取ることができるので、定量的、かつ、測定者の主観に影響されない指の屈伸抵抗の測定ができる。
よって、パーキンソン病などの疾病により指の関節の動きに支障を生じている患者の筋強剛について、測定者の主観に影響されない定量的な測定が可能であり、測定者の主観に影響されない筋強剛評価を可能とする効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の屈伸抵抗測定装置を示す側面図。
【
図3】同屈伸抵抗測定装置に設けられるトルク検出器を示す断面図。
【
図4】同屈伸抵抗測定装置に設けられる固定基台と指掛部を示す平面図。
【
図5】同屈伸抵抗測定装置に設けられる固定基台と指掛部を示す側面図。
【
図6】同屈伸抵抗測定装置に適用される検定用部品を示す正面図。
【
図8】本発明に係る第2実施形態の屈伸抵抗測定装置を示す側面図。
【
図9】実施例で用いた屈伸抵抗測定装置において設定値と誤差の関係を示すグラフ。
【
図10】実施例で用いた屈伸抵抗測定装置において設定値と誤差の関係を示すグラフ。
【
図11】実施例において屈伸抵抗測定装置により測定したトルクと時間の関係を示すグラフ。
【
図12】実施例において屈伸抵抗測定装置により測定したトルクと角度の関係を示すグラフ。
【
図13】追加試験に用いた屈伸抵抗測定装置を示す平面図。
【
図14】健常者について、トルク-角度線図を求めた結果を示すグラフ。
【
図15】健常者の試験結果についてサーボモータの駆動トルクと図示平均トルクの関係を示すグラフ。
【
図16】パーキンソン患者1名に関し、トルク-角度線図を求めた結果を示すグラフ。
【
図17】健常者とパーキンソン患者についてサーボモータの駆動トルクと図示平均トルクの関係を対比して示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づき、本発明に係る第1実施形態の屈伸抵抗測定装置について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
図1、
図2に示す第1実施形態の屈伸抵抗測定装置Aは、トルク検出器1と指保持部2とポテンショメータ(角度検出器)3とサーボモータ(回動手段)4を架台5に取り付けて構成されている。
トルク検出器1は、
図3に示すように筒状のケース6の内部にベアリング7、7を介し支持された検出軸8を有する。検出軸8は、ケース6の中心軸に沿うように軸回りに回転自在に収容され、その一方の外方端8Aがケース6の一方の外側に突出され、他方の外方端8Bがケース6の他方の外側に突出されている。ベアリング7、7は
図3に示すように筒状のケース6の両端内部側に収容され、ケース6の中心軸位置に沿うように検出軸8を回転自在に支持している。ケース6の内部側において
図3に示す左右のベアリング7、7の間には、筒状のカラー部材9が収容され、ベアリング7、7はカラー部材9の両側に配置されている。
【0016】
ケース6において、一方の端面側に側板6Aがボルト10により固定され、他方の端面側に側板6Bがボルト11により固定されている。ボルト10、11はケース6の端面に形成されたねじ穴に螺合され、側板6Aあるいは側板6Bをケース6に固定している。一方のベアリング7は、カラー部材9と側板6Aに挟まれて位置決めされ、他方のベアリング7はカラー部材9と側板6Bに挟まれて位置決めされている。カラー部材9は、強度の高い樹脂材料などからなる。
検出軸8において一方の外方端8Aは側板6Aを貫通してケース6の外部に所定長さ突出され、他方の外方端8Bは側板6Bを貫通してケース6の外部に所定長さ突出されている。
検出軸8は樹脂製のロッドからなり、一例として、ポリアセタール(POM)製の円柱ロッドからなる。検出軸8は後述する歪ゲージ12のベースを構成する樹脂と類似する線膨張係数を有する樹脂から構成されていることが好ましい。
【0017】
検出軸8の長さ方向中央部外周面には、シート状の歪ゲージ(歪センサ)12が貼着されている。歪ゲージ12は、例えば、ポリイミドからなるベースの片面に抵抗素子としてのCu-Ni系合金箔の回路を積層した構造を有する。一例として、共和電業株式会社、商品名KEP-5-Cl-65を用いることができる。この歪ゲージ12は接着層を介し検出軸8の外周面に貼り付けられている。本実施形態では
図3に側面視するように平面視長方形状の歪ゲージ12が適用され、歪ゲージ12の長軸12aを検出軸8の中心線に対し45゜程度の傾斜角θで傾くように歪ゲージ12が貼り付けられている。
なお、歪ゲージ12には図示略の出力配線が接続され、この出力配線はケース6の外方に引き出されている。ケース6の周面の一部には、出力配線を引き出すための連通孔が形成され、この連通孔を閉じる蓋板が取り付けられているが、連通孔と蓋板の記載は
図1、
図2では略されている。
【0018】
トルク検出器1は、
図1、
図2に示すように平面視長方形状で水平配置される架台5の上面中央側に取付基台13を介し水平に固定されている。取付基台13は底面側に平面状の設置面を有し、上面側にケース6の底面を受ける湾曲支持面が形成された基台である。取付基台13の上面の4隅コーナー部分には図示略のねじ穴が形成され、4つのねじ穴に螺合された取付ボルト15とこれらの取付ボルト15に接続されてケース6の上面側に被着された支持具16、16によりケース6が架台5上に固定されている。
図1に示すように架台5の右端部側に支持基台17が固定され、この支持基台17に支持されたサーボモータ4の出力軸が継手部材18を介し検出軸8の外方端8Bに接続されている。この構成により、サーボモータ4の出力軸の回転動作に対応し、検出軸8を所定角度回転できるようになっている。
【0019】
図2に示すようにケース6は検出軸8を平面視長方形状の架台5の長さ方向(
図2の左右方向)に向け、検出軸8を架台5の幅方向中央に位置させるように架台5上に固定されている。検出軸8の一方の外方端8Aが
図1、
図2の左側に向けて配置されるので、外方端8Aより左側に以下に説明する指保持部2が設けられている。
【0020】
図1、
図2に示すように架台5の左端部側に支持基台20に支持された指保持部2が取り付けられている。
指保持部2は、支持基台20上に水平に設けられた固定基台20Aを有し、固定基台20A上にトルク検出器1に近い側とポテンショメータ3に近い側に離間して設けられた支柱部21、21を有する。支柱部21、21はそれらの側部に突出された支持片22、22を有する。これら支持片22、22により後述する第1の回動軸24、第2の回動軸25が支持され、第1の回動軸24が継手部材29を介し検出軸8の外方端8Aに接続されている。
支柱部21、21の間隔は、後述する筋強剛測定のためのトルク検出時、支柱部21、21の間に余裕を持って指を通すことができる程度の間隔(
図4参照)に形成されている。
【0021】
支柱部21、21の側部に架台5の幅方向に向いて突出された支持片22、22には、図示略の挿通孔が形成され、これら挿通孔に後述する第1の回動軸24あるいは第2の回動軸25が挿通されている。
支持片22、22に沿うように接続片27、27が設けられ、これら接続片27、27の先端側に指掛部28が一体化されている。トルク検出器1に近い側(
図4の右側)の接続片27には、第1の回動軸24が取り付けられ、この第1の回動軸24の端部が隣接する一方の支持片22の透孔を挿通するように設けられている。
ポテンショメータ3に近い側(
図4の左側)の接続片27には、第2の回動軸25が取り付けられ、この第2の回動軸25が隣接する他方の支持片22の透孔を貫通するように設けられている。本実施形態において指掛部28は平板状であり、後述する筋強剛測定のためのトルク検出時の初期状態において、指掛部28はほぼ水平位置となるように設けられ、後述するように指先を載置可能(設置可能)に設けられている。
【0022】
指掛部28の一方の接続片27を支持している第1の回動軸24は一方の支持片22により支持されているが、継手部材29を介し検出軸8の外方端8Aに接続されている。指掛部28の他方の接続片27を支持している第2の回動軸25は他方の支持片22により支持されている。このため、
図5に矢印で示す方向に指掛部28を上昇させるように指掛部28は回動自在に支持されている。また、指掛部28の回動角度に応じ、第1の回動軸24を所定角度軸回りに回動させることができ、第1の回動軸24の回動角度と同じ回動角度だけ検出軸8を軸回りに回動させることができる。即ち、指掛部28は検出軸8と同期回動し、所定角度回動自在に設けられている。
【0023】
支柱部21において支持片22が突出した部分には段部21aが形成されている。支持片22に沿うように接続片27が設けられているが、接続片27の基端側は先の段部21aに近接した位置に設けられている。接続片27は
図5に示すように側面視した場合、横長の略矩形状を呈するが、接続片27の基端側には半円弧部27aが形成され、この半円弧部27aが先の段部21aに近接されている。半円弧部27aに続く接続片27の上面側には平面部27bが形成され、下面側には平面部27cが形成されている。平面部27bと平面部27cは平行配置されている。
また、支柱部21、21の下部側には固定基台20Aの一部から接続片27、27の下方と指掛部28の下方側に延出するように形成された支持台26が形成されている。
【0024】
支持台26は
図5に示すように接続片27と指掛部28をほぼ水平に位置させた場合、接続片27の平面部27cと指掛部28の底面を受け、接続片27と指掛部28をほぼ水平に維持する。
前述した指掛部28の回動に従い、接続片27と指掛部28も上方に回動するが、接続片27と指掛部28が90゜を超えて回動しようとすると、接続片27の平面部27bが段部21aに接触する。接続片27と指掛部28はこれ以上、上方には回動できないので、段部21aは指掛部28の回動を阻止するストッパー機能を有する。これにより、指掛部28が90゜を若干超えて上方に回動しない構成であり、測定時に指の安全性を確保する機能を有する。
なお、指掛部28の上下回動角度はサーボモータ4により約90゜に設定されるが、指掛部28が水平位置となった場合に、支持台26との間には指掛部28の回動方向に沿って数゜程度、回動角に余裕分があることが望ましい。また、指掛部28が90゜起立位置となった場合に、平面部27bと段部21aとの間に、指掛部28の回動方向に沿って数゜程度、回動角に余裕分があることが望ましい。
例えば、指掛部28がサーボモータ4により正確に90゜上下回動するとして、指掛部28が垂直に起立した状態において平面部27bが段部21aに接触すると、これらの接触により測定トルクに余計な変動成分を生じる。また、指掛部28が水平となった状態において指掛部28が支持台に接触すると、これらの接触により測定トルクに余計な変動成分を生じる。
これらトルクの変動成分を防止するために、指掛部28が0゜~90゜回動できる構成よりも、指掛部28が-3゜~93゜程度回動できるように、指掛部28と支持台26の位置関係と平面部27bと段部21aの位置関係を調整し、水平状態と90゜起立状態における上述の接触を避ける構成とすることが望ましい。
【0025】
指掛部28の幅(
図4に示す指掛部28の左右方向の幅)と長さ(
図4に示す指掛部28の上下方向の長さ)は、
図4に例示するように余裕を持って指先を載せることができる程度の大きさに形成されている。
図4に示す指30において、以下、必要に応じ、指30の先端側の腹の部分を末節30Aと表記し、次の腹の部分を中節30Bと表記し、指30の付け根側の腹の部分を基節30Cと表記する。また、必要に応じ、末節30Aと中節30Bの間の関節を遠位指節関節(第1関節)30Dと表記し、中節30Bと基節30Cの間の関節を近位指節関節(第2関節)30Eと表記し、基節30Cの基端側の関節を中手指節関節(第3関節)30Fと表記しつつ以下に説明する。
【0026】
図4に示すように平面視した場合の指掛部28の長さと接続片27の長さは、指掛部28上に指の末節30Aと中節30B、即ち指先側を載せた場合、第2関節30Eが第1の回動軸24と第2の回動軸25の間の空間上に位置する長さに設定されている。また、
図4に示す指の設置状態において、第2関節30Eは、指掛部28と支柱部21、21の間の空間の上方に配置される。また、指掛部28に指先側を載せた場合、固定基台20Aは指の基節30C側を支持することができる。なお、
図4では略しているが、指掛部28に指先を載せた後、ベルトやバンド、テープなどの簡易拘束具を利用し、指掛部28に指先を縛り付けて両者を拘束する。簡易拘束具は、面ファスナー付きのベルトやバンド、サージカルテープなどを用いることができ、指先に対しきつくない程度の拘束力とすることが好ましい。簡易拘束具で指先を指掛部28に拘束することにより、
図5に示す矢印方向への指掛部28の回動とともに、指先が上方に約90゜折れ曲がることとなる。
なお、簡易拘束具を利用する場合、指先と指掛部28の間に発泡ポリエチレンや発泡ポリプロピレンなどの柔軟材を挟み込み、指先を保護しながら後述の測定を実施することが望ましい。
【0027】
図4に示す指の配置となるように、指先側(末節30Aと中節30B)を指掛部28の上に設置したまま、指掛部28を水平位置から所定角度(例えば90゜)上方に回動させると、指の第2関節30Eを支点として末節30Aと中節30Bを基節30Cに対し上方に所定角度(例えば90゜)折り曲げることができる。
上向きとなった指掛部28を所定角度(例えば90゜)下方に回動させて指掛部28を水平位置に戻すと、末節30Aと中節30Bを基節30Cに対し一直線状に戻し、指全体を水平状態に戻すことができる。これらにより、指先は指掛部28とともに所定角度繰り返し屈伸可能とされる。
なお、固定基台20Aと指掛部28との間であって、接続片27、27の間の部分には充分に大きな隙間を設けているので、この部分周りに指先の皮膚を挟み込みしない構成を採用している。
【0028】
指保持部2を支持している固定基台20Aの側部から、
図1、
図2に示すように左側に向いてL字状の支持フレーム33が延出され、この支持フレーム33にポテンショメータ3が支持されている。ポテンショメータ3の回転軸35には、指保持部2に設けられている第2の回動軸25が接続されている。
本実施形態では、
図1に示すようにトルク検出器1の右側(一側)にサーボモータ4が設けられ、トルク検出器1の左側(他側)にポテンショメータ3が設けられている。
【0029】
以上の構成では、サーボモータ4により検出軸8を軸回りに所定の角度回動させることができ、検出軸8の回動角度に応じ、指掛部28を所定角度下向きに繰り返し回動できるとともに、指掛部28の上下回動角をポテンショメータ3で読み取ることができる。即ち、ポテンショメータ3は指掛部28の回動角を読み取る機能を有する。
また、検出軸8に貼着されている歪ゲージ12は、指掛部28の回動時に指関節の曲げ伸ばし抵抗に起因する抵抗が発生し、検出軸8にトルクを生じた場合、このトルクを測定することができる。
【0030】
図3に示すトルク検出器1において、検出軸8に取り付ける歪ゲージ12として共和電業株式会社、商品名KEP-5-Cl-65を用いる場合、検出軸8を構成する材料について検討した。
前記歪ゲージ12のベース部分はポリイミドから構成されているので、ポリイミドに近い線膨張係数を有する樹脂としてポリアセタールが最適であると考えられる。
ポリアセタールの丸棒から検出軸を構成する場合、直径2.5mm以上太さがないと検出軸8として破損の危険性があると判断し、検出軸8の軸径を6~8mm程度に設定することが好ましい。
【0031】
図6、
図7は、
図1~
図5に示す構成の屈伸抵抗測定装置Aにおいて、初期調整を行う場合に用いる調整部品40を示す。この調整部品40は、円筒状の軸部41の一側に軸部41よりも外径の大きなプーリ部42を一体成形した部品である。プーリ部42の外周部には、周方向に90゜の間隔をあけて切欠部42a、42bが形成されている。
軸部41には取付孔41aが形成されており、この取付孔41aに先に説明した第2の回動軸25を嵌め込むことができる。
【0032】
屈伸抵抗測定装置Aを用いて指の屈伸抵抗を測定するに先立ち、ポテンショメータ3と第2の回動軸25の接続を解除し、第2の回動軸25を調整部品40の取付孔41aに嵌入し、プーリ部42に巻き付けた糸と、糸に接続したバネばかりを用いて初期調整を実施することができる。糸は引張強度が高い釣り糸を用いることができ、バネばかりは4kg程度まで計測可能なものを適用できる。初期調整の実施については、後に説明する。
【0033】
前記サーボモータ4を作動させる電源として、3~12V程度まで電圧可変式の電源を用いることが好ましい。また、サーボモータ4を駆動するために、必要なプログラムに従い、サーボモータ4の回転を制御可能な制御盤を用意し、プログラム設定に応じたサーボモータ4の出力軸回転制御ができるように構成する。
【0034】
図1~
図5に示す屈伸抵抗測定装置を組み付け、サーボモータ4に対し、その出力軸を繰り返し10回程度、所定角度繰り返し往復回動するように設定し、サーボモータ4による検出軸8の回動角度と、ポテンショメータ3が計測した検出軸8の回動角度との角度誤差を測定する。
ポリアセタールからなる直径8mm、長さ134mmの検出軸を用い、検出軸の中央部に貼り付ける歪ゲージとして平面視長方形状の共和電業株式会社、商品名KEP-5-Cl-65を用いた。歪ゲージを検出軸の中央部に検出軸の中心線に対する傾斜角度45゜で接着剤により貼り付けた。歪ゲージのベース部分はポリイミド製であり、抵抗素子はCu-Ni合金箔からなる。用いたサーボモータの主要諸元は、トルク4.8V印加時9.4kgf・cm、6V印加時11kgf・cm、速度4.8V印加時0.17s/60deg.、6V印加時0.14s/60deg.である。
【0035】
前記歪ゲージ12のベース部分はポリイミドから構成されているので、ポリイミドに近い線膨張係数を有する樹脂としてポリアセタールが最適であると考えた。
ポリアセタールの丸棒から検出軸を構成する場合、直径2.5mm以上太さがないと検出軸8として破損の危険性があると判断し、検出軸8の軸径を8mmに設定した。
【0036】
なお、検出軸8に関し、第1実施形態では
図3に示すポリアセタール製の1本ものの軸を用いたが、検出軸8の構成は
図3に示す構成に限らない。
図8は、ポリアセタール製の1本ものの軸50の両端部に継手部材51を介し、金属製の延長軸52を接合した複合タイプの検出軸53を設けた第2実施形態の屈伸抵抗測定装置用のトルク検出器1を示す。
屈伸抵抗測定装置Bにおいて、継手部材51を介し軸50と延長軸52を接合し、これらの軸方向の無駄な移動を抑制しつつ、軸50の周面に貼り付けた歪ゲージ(歪センサ)12により軸50に作用するトルクを計測できる。
第2実施形態の屈伸抵抗測定装置においてその他の構成は屈伸抵抗測定装置Aと同様であり、第2実施形態の屈伸抵抗測定装置は、第1実施形態の屈伸抵抗測定装置Aと同様に使用できる。
【0037】
次に、指の屈伸抵抗を測定する前に、屈伸抵抗測定装置Aのキャリブレーションを実施した。予めポテンショメータ3と第2の回動軸25との連結を解除しておき、第2の回動軸25に
図6、
図7に示す調整部品40を装着した。調整部品40のプーリ部42に糸を周回させ、切欠部42a、42bに糸を引っ掛け、バネばかりを用いて糸を介し、回転方向に力を付与できるように構成した。
調整部品40を用いて糸を介し第2の回動軸25に回転力を加えることにより、歪ゲージ12が計測するひずみと電圧の関係及び電圧とトルクの関係を調べるためのキャリブレーションを実施できる。
【0038】
キャリブレーションを実施した結果、
図1~
図5に示す構成の屈伸抵抗測定装置Aにおける換算係数(トルクと出力電圧の関係:キャリブレーションファクター)は0.45057kgf・cm/Vであることを確認できた。また、前述の制御盤に設けたデータロガーの入力電圧が20V、A/D分解能が16bitであるため、計算上、トルクの最小分解能を0.0001375kgf・cm(0.00001348N・m)という極めて小さい値まで測定可能であることがわかった。
また、前述の計算結果から、最大トルクは4.5057kgf・cm(0.4419N・m)であり、この屈伸抵抗測定装置Aの測定レンジは、±0.4419N・m(±441.9mN・m)、トルクの最小分解能は0.00001348N・m(0.01mN・m)となることがわかった。これらの測定レンジ及び分解能は、指の筋強剛を測定する場合、極めて優れた値であると考えられる。
【0039】
本実施形態において筋強剛の測定に用いる筋強剛測定装置は、有効電気角340deg.に対し±1%を許容誤差と考え、±3.4deg.の範囲の誤差が望ましいと考えた。
図9は、サーボモータ4に電源から通電し、電源出力を制御盤で制御しつつ、有効電気角340deg.について10deg.ずつ測定し、有効電気角全体における誤差を測定した結果を示す。
その結果、
図9に示すように、設定値に対し誤差約3°以下の範囲で計測できることがわかり、この例では50~140゜の範囲で最も誤差を小さくできることがわかった。
この結果を基に、再度、50~140゜の範囲で誤差を再測定したところ、
図10に示す結果が得られた。
【0040】
図10に示す結果から、
図1~
図5に示す構成の屈伸抵抗測定装置Aにおいて、誤差を1%以下に抑制できることがわかった。
後述する指の屈伸抵抗測定を実施する場合、サーボモータ4による検出軸8の動作回動角度範囲として50~140゜の範囲(90゜範囲)を選択し、指の90゜折り曲げ時の屈伸抵抗測定を測定することとした。
【0041】
サーボモータ4の制御盤に0deg.から90deg.まで動く動作を10往復行うプログラムを書き込み、検出軸8に生じるトルクを測定した。サーボモータ4に対する供給電圧を6Vに設定し、指掛部28に指を載せることなくフリーな状態でトルクと時間の関係を測定した結果を
図11のグラフに示す。
また、指掛部28に対し、指先を触れた状態としたままとする負荷をかけ、負荷あり状態でトルクと時間の関係を測定した結果を
図11に合わせて示す。
【0042】
図11のグラフから、負荷無しの場合は、同じ波形が続いているように判断できる。無負荷時に検出軸8に作用したトルクは0.0098N・m(±9.8mN・m)以内に入っていた。このトルクであれば、筋強剛のない健常者とパーキンソン病患者の弱い筋強剛を高精度で判別できると推定できる。
前述したようにトルクの最小分解能は、0.0001375kgf・cm(0.00001348N・m)であるため、今回の測定は正確になされていると判断できる。
また、付加有りの状態においても、類似の波形を連続して得ることができ、実際に指を載せて指掛部28を上下に往復回動させた場合、検出軸8に生じるトルクを測定できることがわかる。
【0043】
次に、上述の試験条件により得られたトルクと角度の関係を
図12のグラフに示す。測定は、0deg.→90deg.→0deg.の順で繰り返し駆動するため、
図12のグラフは時計回りである。
今回の負荷を掛けた状態のグラフの波形は、模擬的な負荷の掛け方であるため、実際にパーキンソン病の患者が指保持部に指を掛けた場合にどのような波形が現れるかまではわからない。
しかし、指を掛けてない状態でトルクが±0.0098N・m以内であり、屈伸抵抗測定装置Aにおける最小分解能が測定結果より非常に小さいことから、十分に正確な精度でトルク測定ができると推定できる。
【0044】
このため、パーキンソン病の患者の指を指掛部28に載せてサーボモータ4により繰り返し指を90゜ずつ回動する試験を実施すると、指掛部28の繰り返し回動とともに指の関節も追従回動させることができる。
指関節の屈伸抵抗が一定か、ほとんどない状態であるならば、ポテンショメータ3が検出する指掛部28の回動角度と歪ゲージ12が検出する検出軸8のトルクの関係はある程度一定範囲内となるが、指関節の屈伸抵抗が一定でない場合、指掛部28の回動角度とトルクの関係は一定とはならず、大幅に変動することとなる。
【0045】
パーキンソン病などの疾病において、指関節の繰り返し曲げ伸ばしに伴う受動運動に対し関節の動きに抵抗を生じると、指掛部28の繰り返し回動角度変化に対し、回動角度の変位速度と変位の大きさ、トルクとの関係が変化する。
本発明に係る屈伸抵抗測定装置Aは、回動角度の変位速度と変位の大きさ、トルクとの関係をポテンショメータ3と歪ゲージ12により、上述した極めて高精度で正確に読み取ることができるので、定量的、かつ、測定者の主観に影響されない指の屈伸抵抗の測定ができる。
よって、パーキンソン病などの疾病により指の関節の動きに支障を生じている患者の筋強剛について、測定者の主観に影響されない定量的な測定が可能であり、測定者の主観に影響されない筋強剛評価を可能とする効果がある。
【0046】
ところで、屈伸抵抗測定装置Aは、同じ構成のものを2台用意し、患者の左右の指をそれぞれの屈伸抵抗測定装置Aの指掛部28に設置し、左右の指の屈伸抵抗の同時測定に供することができる。これにより、医師の診断に基づく従来技術では不可能であった左右の指の同時筋緊張測定を実現できる。
左右同時筋緊張の測定を含め屈伸抵抗測定装置Aでは、パーキンソン病の投薬治療や脳深部刺激治療法(DBS)の効果を確認すること、及び治療方針の決定にも有効に活用できる。
また、他の疾病でも指の屈伸時に抵抗の増加が見られることがあり、指の屈伸抵抗増加を屈伸抵抗測定装置Aにより定量的に測定できるようになり、治療を行う上での判断基準の一助になると考えられる。
【0047】
ところで、先に説明した実施形態においては、角度検出器としてポテンショメータ3を利用したが、角度検出器としてロータリーエンコーダーなど、他の角度検出器を用いても良い。また、回動手段としてサーボモータを用いたが、ステッピングモータと角度検出装置の組み合わせ構造の回動手段あるいはリニアアクチュエータとラック&ピニオンの組合せからなる回動手段を用いても良い。
【0048】
「追加試験」
図1~
図5に基づき、先に説明した屈曲抵抗測定装置Aを
図13に示すように2台左右に並列配置した測定装置を用いて追加試験を実施した。この試験装置は、アルミフレームのレールF上に左右に移動自在に2台の屈曲抵抗測定装置Aを取り付け、左右の指保持部2の間隔を調整できる構成としている。
追加試験は、健常者4名とパーキンソン病患者1名の参加により実施した。追加試験に参加したパーキンソン病患者は、パーキンソン病統一スケール(UPDRS)の基、医師判断による「2」の判定患者である。これは、筋強剛は誘発的な手技を用いなくとも出現するが、他動的に全可動域を容易に動かすことができる程度の軽度の筋強剛と規定される。
【0049】
図14は健常者4名のうちの1名について、人差し指を先に説明したように(
図4に示すように)指保持部2にベルトにより緩く縛り付け、角度とトルクの関係を測定した結果を示す。サーボモータの電圧を3.0V、4.5V、6.0Vの3通りに変更することにより、駆動トルクを変更したが、いずれの条件においても、類似の結果が得られた。
そこで、角度ごとのトルク変化から平均トルクを求めて評価した。角度-トルク線図において台形近似を行い、囲まれた面積(10サイクル分)を求めた後、1サイクルあたりの平均の面積を求め、移動角度である90deg.で割ったものを図示平均トルクと定義した。これは、0~90~0deg.を1サイクル駆動される間に、常に一定のトルクがかかっていると考えた時の平均トルクである。サーボモータの駆動トルクと図示平均トルクの関係を
図15に示す。
図15に示す測定結果から、駆動トルクが大きくなると図示平均トルクの平均値、ばらつき、ともに大きくなることがわかった。また、ばらつきは3.0Vのときに10mN・mであり、トルクの変化が小さい健常者であっても、そのトルクの差を測定できていることがわかった。
【0050】
次に、パーキンソン病患者1名の協力の基、測定を行った。測定したところ、左手のデータは第二関節を中心に90deg.回っておらず、手が押されるように動いており、正確なデータを得ることができなかった。しかし、右手のデータは正確に測定できていたため、このデータを基に評価を行った。測定結果として、トルク-角度線図を
図16に示す。
図14と比較すると、サーボモータの駆動トルクが大きい条件では、健常者よりも大きなトルクがかかっているように見られた。
図17に健常者の図示平均トルクとパーキンソン患者の図示平均トルクの比較を示す。
3.0Vの条件では、健常者のグループとほとんど差がなかったが、4.5V、6.0Vの条件においては、健常者の図示平均トルクよりもパーキンソン病患者の図示平均トルクが大きく、健常者のデータのばらつきの範囲から大きく外れていることがわかった。
この結果から、駆動トルクが大きい場合には、筋強剛のない健常者と軽度の筋強剛の パーキンソン病患者との間には明確な図示平均トルクの差が存在し、本発明装置はその差を定量的に評価できることがわかった。
【0051】
図13に示す装置を用いて追加試験したところ、以下の知見を得ることができた。
(1)
図13に示す装置により、左右の指をサーボモータにより繰り返し90deg.程度屈曲伸展することができた。左右の動作タイミングと駆動トルクを変更することができる。被験者の体格に応じ左右の指保持部の間隔を調節できる。指の屈伸時の角度とトルクを測定できた。
(2)この筋強剛測定装置は、駆動トルクをフルスケール±450mN・m、測定精度1mN・m程度で測定できた。
(3)駆動トルクを変更した実験結果から、駆動トルクが大きくなると健常者のトルクの平均値や図示平均トルクのばらつきが大きくなることがわかった。
(4)健常者とパーキンソン病患者の図示平均トルクの比較を実施することができ、駆動トルクが大きい場合、両者間には明確な図示平均トルクの差があることがわかった。このことから、本発明装置は、軽度の筋強剛のパーキンソン病患者でも、健常者との違いを明確に判別できることがわかった。
【符号の説明】
【0052】
A…屈伸抵抗測定装置、1…トルク検出器、2…指保持部、3…ポテンショメータ(角度検出器)、4…サーボモータ(回動手段)、5…架台、6…ケース、8…検出軸、8A…外方端、8B…外方端、12…歪ゲージ(歪センサ)、20A…固定基台、22…支持片、24…第1の回動軸、25…第2の回動軸、27…接続片、28…指掛部、30A…末節、30B…中節、30C…基節、30D…遠位指節関節(第1関節)、30E…近位指節関節(第2関節)、30F…中手指節関節(第3関節)。