(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025855
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】鉄鋼材料の粗面化方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/352 20140101AFI20240220BHJP
C21D 1/09 20060101ALI20240220BHJP
C21D 1/10 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
B23K26/352
C21D1/09 A
C21D1/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129174
(22)【出願日】2022-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】横田 博紀
(72)【発明者】
【氏名】川井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】秋山 和輝
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168DA40
4E168DA42
4E168JA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、焼き入れ後の鉄鋼材料に対してレーザ光の照射による粗面化を行うことで、高硬度な粗面を形成することを目的とする。
【解決手段】焼き入れ可能な鉄鋼材料に対して焼き入れを行う工程、鉄鋼材料における焼き入れを行った領域に対してレーザ光の照射により粗面化を行う工程と、を有することを特徴とする鉄鋼材料の粗面化方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)焼き入れ可能な鉄鋼材料に対して焼き入れを行う工程と、
b)前記鉄鋼材料における前記焼き入れを行った領域に対してレーザ光の照射により粗面化を行う工程と、を有することを特徴とする鉄鋼材料の粗面化方法。
【請求項2】
前記工程bにおけるレーザ光の照射条件は、パワー密度が5.4×107~9.9×107W/cm2であり、作用時間が3.3×10-6~1.0×10-5sであることを特徴とする請求項1に記載の鉄鋼材料の粗面化方法。
【請求項3】
前記工程aにおいて、前記焼き入れはレーザ光の照射により行われることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄鋼材料の粗面化方法。
【請求項4】
前記工程aにおけるレーザ光の照射条件は、パワー密度が1.9×107~2.3×107W/cm2であり、作用時間が4.8×10-6~9.6×10-6sであることを特徴とする請求項3に記載の鉄鋼材料の粗面化方法。
【請求項5】
前記工程aおよび前記工程bにおけるレーザ光の照射に使用する装置は、同一の装置であることを特徴とする請求項3に記載の鉄鋼材料の粗面化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料に対して焼き入れおよびレーザ粗面化を行う鉄鋼材料の粗面化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の目的により、対象物に対して、硬度が高い粗面を形成する手法が求められている。例えば、特許文献1には、対象物の表面に対して、ブラスト処理を行うことにより所定表面粗さの凹凸下地を形成した後、焼き入れを行うことにより焼き入れ硬化層を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に係る発明のようにブラスト処理による凹凸下地の形成後に対象物に対して焼き入れを行う場合、焼き入れ時の熱影響により、凹凸下地の形状が変形してしまうという問題がある。
【0005】
この問題を解決する方法としては、焼き入れ時の対象物への熱影響を小さくすることにより、熱による凹凸形状の変形を抑制する方法が考えられるが、この場合には、対象物に対して十分な焼き入れを行うことができず、高硬度の粗面を形成することができない。
【0006】
また別の方法としては、先に焼き入れを行い、焼き入れを行った領域に対してブラスト処理を行う方法も考えられる。しかし、焼き入れ後の硬い領域に対してブラスト処理を行ったとしても対象物の表面を十分に粗面化することができない。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼き入れ後の高硬度な鉄鋼材料に対して、レーザ粗面化を行うことで、高硬度な粗面を形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鉄鋼材料の粗面化方法は、次の工程aおよび工程bを行うことを特徴とする。
a)焼き入れ可能な鉄鋼材料に対して焼き入れを行う工程、
b)前記鉄鋼材料における前記焼き入れを行った領域に対してレーザ光の照射により粗面化を行う工程。
【0009】
本発明の鉄鋼材料の粗面化方法の好ましい条件としては、次の(1)~(4)が挙げられる。
(1)前記工程bにおけるレーザ光の照射条件は、パワー密度が5.4×107~9.9×107W/cm2であり、作用時間が3.3×10-6~1.0×10-5sである。
(2)前記工程aにおいて、前記焼き入れはレーザ光の照射により行われる。
(3)前記工程aにおけるレーザ光の照射条件は、パワー密度が1.9×107~2.3×107W/cm2であり、作用時間が4.8×10-6~9.6×10-6sである。
(4)前記工程aおよび前記工程bにおけるレーザ光の照射に使用する装置は、同一の装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉄鋼材料の表面に高硬度な粗面を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】レーザ焼き入れ後にレーザ粗面化を行った実施例1に係る鉄鋼材料の粗面を示す写真である。
【
図2】レーザ粗面化のみを行った比較例1に係る鉄鋼材料の粗面を示す写真である。
【
図3】レーザ粗面化後にレーザ焼き入れを行った比較例6に係る鉄鋼材料の粗面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る鉄鋼材料の粗面化方法の一実施形態について説明する。一実施形態に係る鉄鋼材料の粗面化方法は、例えば以下の工程aおよび工程bを含む。
【0013】
本実施形態において、工程aでは焼き入れ可能な鉄鋼材料に対して焼き入れを行う。続いて、工程bでは、工程aにおいて焼き入れを行った領域に対してレーザ光の照射により粗面化(以下、「レーザ粗面化」とも言う)を行う。本実施形態に係る鉄鋼材料の粗面化方法は、工程aおよび工程bの順に行うことを特徴とする。
【0014】
本実施形態に係る鉄鋼材料の粗面化方法によると、工程aでは鉄鋼材料の表面において焼き入れを行った領域を硬化させ、工程bでは焼き入れを行った領域に粗面を設ける。このように、焼き入れを行った領域にレーザ粗面化を行うことで高硬度な粗面を形成することができる。
【0015】
本明細書において「焼き入れ可能な鉄鋼材料」は、例えば機械構造用炭素鋼鋼材(SC材)、炭素工具鋼鋼材(SK材)、クロムモリブデン鋼鋼材(SCM材)、球状黒鉛鋳鉄品材(FCD材)、合金工具鋼鋼材(SKS材、SKD材、SKT材)、中空鋼鋼材(SKC材)、高速度工具鋼鋼材(SKH材)、高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ材)、ばね鋼鋼材(SUP材)、耐熱鋼材(SUH材)、およびステンレス鋼材(SUS材)などの一般的に焼き入れ可能であることが知られている鉄鋼材料を指す。例えば、焼き入れ可能な鉄鋼材料は、上述した鉄鋼材料などから1つ以上を選択することができるし、上述した鉄鋼材料以外についても、焼き入れ可能な鉄鋼材料として当業者に既知のものであれば適宜選択することができる。なお、SC材はJISG4051、SK材はJISG4401、SCM材はJISG4053、FCD材はJISG5502、SKS材、SKD材及びSKT材はJISG4404、SKH材はJISG4403、SUJ材はJISG4805、SUP材はJISG4801、SUH材はJISG4311、並びにSUS材はJISG4303等において規定されており、化学成分等を含む全ての特徴が本明細書に組み込まれる。また、焼き入れ可能な鉄鋼材料は、前処理が施されたものであってもよい。
【0016】
本実施形態において、工程aは任意の焼き入れ方法により行うことができる。例えば、レーザ光の照射による焼き入れ(以下、「レーザ焼き入れ」とも言う)でもよいし、高周波を利用した焼き入れ(以下、「高周波焼き入れ」とも言う)でもよい。
【0017】
本実施形態の工程aにおいてレーザ焼き入れを用いる場合、レーザ光を鉄鋼材料の表面に走査して焼き入れを行うことができる。レーザ光の照射条件は、主にパワー密度と作用時間により調節することができる。本明細書において「パワー密度」は、出力/スポット面積(レーザスポットの半径2×π)により算出される。また、本明細書において「作用時間」は、任意の点をレーザ光のスポットが通り過ぎるのに必要な時間として定義され、レーザスポットの直径/走査速度により算出される。レーザ焼入れにおける通常のレーザ光の照射条件では、パワー密度を8.3×106~2.7×107W/cm2および作用時間を4.8×10-6~3.8×10-5sとすることができるが、この範囲に限定されない。パワー密度が8.3×106W/cm2未満では、十分な焼き入れができずに高硬度の焼き入れ硬化層の形成が難しくなるおそれがあり、パワー密度が2.7×107W/cm2超では、過剰に結晶化が進む等によって靭性の低下や割れ等が生じるおそれがある。また、作用時間が4.8×10-6s未満でも、十分な焼き入れができずに高硬度の焼き入れ硬化層の形成が難しくなるおそれがあり、作用時間が3.8×10-5s超でも、過剰に結晶化が進む等によって靭性の低下や割れ等が生じるおそれがある。好ましくは、パワー密度が1.5×107~2.6×107W/cm2および作用時間が4.8×10-6~1.9×10-5sであり、より好ましくは、パワー密度が1.9×107~2.3×107W/cm2および作用時間が4.8×10-6~9.6×10-6sである。
【0018】
本実施形態の工程aにおいて高周波焼き入れを用いる場合、周知の一般的な方法を利用することができ、高硬度の焼き入れ硬化層を得ることができればその条件も特に限定されない。
【0019】
本実施形態の工程aでは鉄鋼材料の表面全体または鉄鋼材料の表面の一部に対して焼き入れを行うことができる。また、工程bの「焼き入れを行った領域」は、工程aの焼き入れを行った領域の少なくとも一部に対応する。
【0020】
本実施形態の工程aでは特に詳述していないが、焼き入れ後に鉄鋼材料を冷却する工程を含んでもよい。冷却は、例えば熱伝導による冷却、空気冷却、およびこれらの組み合わせなどを含む。また、冷却時間は適宜設定することができる。
【0021】
本実施形態の工程bのレーザ光による粗面化では、鉄鋼材料の表面にレーザ光を照射することにより、該表面に凹凸形状を形成する。凹凸形状は特に限定されず、凸一つあたりの断面形状は、半円形、半楕円形、三角形、四角形、その他多角形、不定形な幾何学形状などのあらゆる形状を取り得る。
【0022】
工程bは、レーザ光を鉄鋼材料の表面に照射することで行われる。レーザ光の照射条件は、主にパワー密度と作用時間により調節することができ、「パワー密度」および「作用時間」の定義は上述の通りである。工程bにおける通常のレーザ光の照射条件では、パワー密度を3.1×107~9.9×107W/cm2および作用時間を1.7×10-6~1.0×10-5sとすることができるが、この範囲に限定されない。パワー密度が3.1×107W/cm2未満では、鉄鋼材料の表面を十分に加工できず、粗面を形成することができないおそれがあり、パワー密度が9.9×107W/cm2超では、鉄鋼材料への入熱が大きくなり、歪み等が発生するおそれがある。また、作用時間が1.7×10-6s未満でも、鉄鋼材料の表面を十分加工することができず、粗面を形成することができないおそれがあり、作用時間が1.0×10-5s超でも、鉄鋼材料への入熱が大きくなり、歪み等が発生するおそれがある。好ましくは、パワー密度が5.4×107~9.9×107W/cm2および作用時間が3.3×10-6~1.0×10-5sである。
【0023】
本実施形態の粗面化方法により形成される鉄鋼材料の粗面化された硬化層は、例えば硬度と表面粗さにより特徴づけることができる。
【0024】
本実施形態において、鉄鋼材料の粗面化された硬化層の硬度は、例えばJISZ2244-1に準ずるビッカース硬さ試験によって評価できる。本実施形態で得られる鉄鋼材料の粗面化された硬化層は、ビッカース硬さにおいて350HV以上の高硬度を有する。本実施形態において、鉄鋼材料の粗面化された硬化層の硬度は、例えばビッカース硬さにおいて350~1000HV、好ましくは450HV以上、より好ましくは550HV以上とすることができる。粗面の硬度がビッカース硬さにおいて350HV未満では、硬度が十分ではないことが多い。また、ビッカース硬さの上限値を1000HVとしているがこれに限定されるものではない。
【0025】
本実施形態において、鉄鋼材料の粗面化された硬化層の表面粗さは、例えばJISB0601:2013において規定される算術平均粗さ(Ra)によって評価できる。本実施形態において得られた鉄鋼材料の粗面化された硬化層は、レーザ照射前の鉄鋼材料の硬度に関わらず、レーザ粗面化条件が同じであれば、略同一の表面粗さ(Ra)となる。例えば、焼き入れ工程aを行った後の鉄鋼材料に対してレーザ粗面化工程bを行ったときの鉄鋼材料の表面粗さ(Ra)が、焼き入れ前の鉄鋼材料に対して同一条件によるレーザ粗面化工程bのみを行った鉄鋼材料の表面粗さ(Ra)と比較して、±20%以内の表面粗さ(Ra)となる。これにより、狙い通りの表面粗さ(Ra)を形成するためのレーザ粗面化条件の選定が容易となる。
【0026】
本実施形態において、鉄鋼材料の粗面化方法において使用する装置として、各工程を実施可能な任意の装置を用いることができる。例えば、工程aおよび工程bでは、同一のレーザ装置を使用することができる。これにより、工程数が大きく削減され、大幅な時間短縮が可能となる。なお、レーザ装置は、市販されている装置を用いることができるし、自作した装置を用いることもできる。
【0027】
本実施形態において、工程aで用いる焼き入れ装置は、レーザ装置以外の焼き入れ装置であってもよく、例えば、高周波焼き入れ装置等を使用することができる。
【実施例0028】
以下に、本発明を適用した実施例およびその比較例について説明する。本実施例は、本発明について例示するものであり、発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
実施例1
鉄鋼材料としてS45Cを用意し、連続発振(CW)レーザ装置を用いてレーザ光によるレーザ焼き入れを行った。焼き入れ時のレーザ光の照射条件はパワー密度を2.1×107W/cm2、作用時間を6.4×10-6sとした。続いて、焼き入れを行った領域に対して、上記の装置と同一の連続発振(CW)レーザ装置を用いてレーザ光によるレーザ粗面化を行い、鉄鋼材料の粗面化を行った。粗面化時のレーザ光の照射条件はパワー密度を7.7×107W/cm2、作用時間を5.0×10-6sとした。
【0030】
実施例2
粗面化時のレーザ光の照射条件のパワー密度を5.4×107W/cm2としたこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0031】
実施例3
粗面化時のレーザ光の照射条件のパワー密度を3.1×107W/cm2としたこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0032】
実施例4
焼き入れ時のレーザ光の照射条件のパワー密度を1.5×107W/cm2としたこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0033】
実施例5
焼き入れ時のレーザ光の照射条件のパワー密度を1.5×107W/cm2とし、粗面化時のレーザ光の照射条件のパワー密度を5.4×107W/cm2としたこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0034】
実施例6
焼き入れ時のレーザ光の照射条件のパワー密度を1.5×107W/cm2とし、粗面化時のレーザ光の照射条件のパワー密度を3.1×107W/cm2としたこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0035】
実施例7
焼き入れ時のレーザ光の照射条件のパワー密度を8.3×106W/cm2としたこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0036】
実施例8
焼き入れ時のレーザ光の照射条件のパワー密度を8.3×106W/cm2とし、粗面化時のレーザ光の照射条件のパワー密度を5.4×107W/cm2としたこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0037】
実施例9
焼き入れ時のレーザ光の照射条件のパワー密度を8.3×106W/cm2とし、粗面化時のレーザ光の照射条件のパワー密度を3.1×107W/cm2としたこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0038】
実施例10
高周波焼き入れ装置を用いて高周波を利用した焼き入れを行ったこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0039】
実施例11
鉄鋼材料としてSUJ2を使用したこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0040】
実施例12
鉄鋼材料としてSKD61を使用したこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0041】
比較例1
焼き入れを行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0042】
比較例2
焼き入れを行わなかったこと、および粗面化時のレーザ光の照射条件のパワー密度を5.4×107W/cm2とした以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0043】
比較例3
焼き入れを行わなかったこと、および粗面化時のレーザ光の照射条件のパワー密度を3.1×107W/cm2とした以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0044】
比較例4
粗面化を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0045】
比較例5
ブラスト処理により粗面化を行ったこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0046】
比較例6
レーザ粗面化を行った後に焼き入れを行ったこと以外は実施例1と同様の方法により、鉄鋼材料の粗面化を行った。
【0047】
実施例1~12に係る方法および比較例1~6に係る方法により、それぞれ鉄鋼材料の焼き入れおよび粗面化を行った。各実施例および各比較例において得られた鉄鋼材料について、表面粗さ(Ra)とビッカース硬さの測定並びに評価を以下の通り行った。
【0048】
JISB0601に準じて測定試験を行い、鉄鋼材料の粗面の表面粗さ(Ra)を求めた。表面粗さの評価は、以下の指標に基づいて行った。なお、比較例1~4については評価を行っていない。
◎:比較例1~3のうち粗面化条件が同じものの表面粗さ(Ra)と比較して、表面粗さ(Ra)がその±10%の範囲内にあり、かつ、表面粗さ(Ra)が25μm以上である。
〇:比較例1~3のうち粗面化条件が同じものの表面粗さ(Ra)と比較して、表面粗さ(Ra)がその±10~20%の範囲内にあり、かつ、表面粗さ(Ra)が25μm以上である。
△:比較例1~3のうち粗面化条件が同じものの表面粗さ(Ra)と比較して、表面粗さ(Ra)がその±20%の範囲内であるが、表面粗さ(Ra)が25μm未満である。
×:比較例1~3のうち粗面化条件が同じものの表面粗さ(Ra)と比較して、表面粗さ(Ra)がその±20%の範囲外である。
なお、表面粗さ(Ra)が25μm以上であることを評価基準としているのは、焼き入れと粗面化の順序が逆である比較例6(粗面化後に焼き入れを行う比較例)の表面粗さ(Ra)19μmと比べて、30%以上大きな表面粗さであるためである。
【0049】
JISZ2244-1に準じて測定試験を行い、鉄鋼材料の粗面のビッカース硬さを求めた。ビッカース硬さの評価は、以下の指標に基づいて行った。
◎:550HV以上である。
〇:450HV以上、550HV未満である。
△:350HV以上、450HV未満である。
×:350HV未満である。
【0050】
表1は実施例1~12、比較例1~6に係る粗面化または焼き入れの結果をまとめた表である。
【0051】
【0052】
レーザ焼き入れ後にレーザ粗面化を行った実施例1に係る鉄鋼材料の粗面を撮影した写真を
図1に示し、レーザ粗面化のみを行った比較例1に係る鉄鋼材料の粗面を撮影した写真を
図2に示し、レーザ粗面化後にレーザ焼き入れを行った比較例6に係る鉄鋼材料の粗面を撮影した写真を
図3に示す。
【0053】
本実施例に係る鉄鋼材料の粗面化方法における焼き入れ工程および/または粗面化工程の有無と順序による影響について評価する。
【0054】
表1の結果から、実施例1~12では高硬度な粗面を形成できていることが分かった。実際、
図1に示すように、焼き入れを行った領域に対して凹凸形状を形成できていることが分かった。また、実施例1~12は、焼き入れ前の鉄鋼材料に対して同一条件によるレーザ粗面化工程bのみを行った鉄鋼材料(比較例1~3のいずれか)の表面粗さ(Ra)と比較して、略同一の大きさの表面粗さ(Ra)の粗面を形成できることが分かった。なお、本実施例では厳密に評価を行っていることから一部の実施例において△評価を含むが、△評価でも概ね良好な結果である。
【0055】
一方、表1の結果から、比較例1~3のように鉄鋼材料に対して粗面化のみを行うと十分な硬度の粗面を形成できないこと、比較例4のように鉄鋼材料に対して焼き入れのみを行うと粗面を形成できないことが分かった。
【0056】
また、表1の結果から分かるように、比較例6のように鉄鋼材料に対して粗面化を行った後に焼き入れを行うと、同一条件によるレーザ粗面化工程bのみを行った鉄鋼材料(比較例1)の表面粗さ(Ra)と比較して、表面粗さ(Ra)が大きく低下しており、略同一の大きさの表面粗さ(Ra)の粗面を形成できていない事が分かった。この原因は粗面化により形成した凹凸の形状が、後の焼き入れによって変化してしまうことにあり、
図2~3を比較すると分かるように、粗面の凹凸形状が焼き入れによって大きく変化していることが分かる。
【0057】
本実施例に係る鉄鋼材料の粗面化方法における鉄鋼材料の適用範囲について評価する。
【0058】
表1の結果から、実施例1~10においてS45C、実施例11においてSUJ2、および実施例12においてSKD61の3種類の鉄鋼材料を使用し、いずれも高硬度な粗面を形成できていることが分かった。この結果から、本実施例に係る鉄鋼材料の粗面化方法は、鉄鋼材料の種類によって特に制限を受けないことが示された。
【0059】
本実施例に係る鉄鋼材料の粗面化方法の焼き入れ工程について評価する。
【0060】
表1の結果から、実施例1のレーザ焼き入れ、および実施例10の高周波焼き入れの両方において高硬度な粗面を形成できていることが分かった。この結果から、本実施例に係る鉄鋼材料の粗面化方法は、焼き入れ方法によって特に制限を受けないことが示された。
【0061】
本実施例に係る鉄鋼材料の粗面化方法の粗面化工程について評価する。
【0062】
表1の結果から、実施例1~12のレーザ粗面化では高硬度な粗面を形成できていたのに対して、比較例5のブラスト処理による粗面化では粗面を形成できていないことが分かった。これは、ブラスト処理では、高硬度の鉄鋼材料を十分加工することができなかったことが原因であると考えられる。この結果から、本実施例に係る鉄鋼材料の粗面化方法は、レーザ粗面化工程が必要であることが示された。
【0063】
本実施例に係る鉄鋼材料の粗面化方法における焼き入れ条件とレーザ粗面化条件について評価する。
【0064】
表1の実施例4~9の結果から、レーザ焼き入れにおいては、レーザ光の照射条件のパワー密度を8.3×106W/cm2以上、作用時間を6.4×10-6sとすることで最終的に高硬度の粗面を形成できることが分かった。また、好ましくはパワー密度を1.5×107W/cm2、より好ましくは2.1×107W/cm2とすることで、より高い硬度の粗面を形成できることが分かった。
【0065】
続いて、表1の実施例1~12の結果から、レーザ粗面化においては、レーザ光の照射条件のパワー密度を3.1×107W/cm2以上、作用時間を5.0×10-6sとすることで、焼き入れ前の鉄鋼材料に対して同一条件によるレーザ粗面化工程bのみを行った鉄鋼材料(比較例1~3のいずれか)の表面粗さ(Ra)と比較して、略同一の大きさの表面粗さ(Ra)の粗面を形成できることが分かった。また、好ましくはパワー密度を5.4×107W/cm2、より好ましくは7.7×107W/cm2とすることで、比較例1もしくは比較例2の表面粗さ(Ra)と比較してより近い大きさの表面粗さ(Ra)の粗面を形成できることが分かった。
本発明に係る鉄鋼材料の粗面化方法は、鉄鋼材料の表面に高硬度な粗面を形成できることから、鉄鋼、エネルギー、航空機、自動車等の産業分野において好適に幅広く利用することができる。