(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025902
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の電極用バインダー
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240220BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240220BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240220BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129260
(22)【出願日】2022-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼御堂 成剛
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA11
5H050EA23
5H050FA02
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン電池の内部抵抗の低減が可能な、リチウムイオン電池の電極用バインダーの提供。
【解決手段】リチウムイオン電池の電極用バインダーは、コアと、該コアの外側に位置するシェル層を含むコアシェル粒子を含む。前記コアはゴムから構成され、前記シェル層は、ガラス転移温度が60℃以上であるシェル形成重合体から構成される。前記シェル形成重合体は、メタクリル酸アルキルエステル単位、及び、芳香族ビニル化合物単位を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の電極用バインダーであって
コアと、該コアの外側に位置するシェル層を含むコアシェル粒子を含み、
前記コアはゴムから構成され、
前記シェル層は、ガラス転移温度が60℃以上であるシェル形成重合体から構成される、電極用バインダー。
【請求項2】
前記シェル形成重合体は、非架橋の重合体である、請求項1に記載の電極用バインダー。
【請求項3】
前記シェル形成重合体は、メタクリル酸アルキルエステル単位、及び、芳香族ビニル化合物単位を含む、請求項1又は2に記載の電極用バインダー。
【請求項4】
前記シェル形成重合体中の前記芳香族ビニル化合物単位の含有割合が30~95重量%である、請求項3に記載の電極用バインダー。
【請求項5】
前記シェル形成重合体は、カルボキシル基含有ビニル系単量体単位、及び/又は、(ポリ)アルキレングリコール鎖含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む、請求項1又は2に記載の電極用バインダー。
【請求項6】
前記ゴムは、脂肪族共役ジエン化合物単位、及び、芳香族ビニル化合物単位を含む、請求項1又は2に記載の電極用バインダー。
【請求項7】
前記ゴムは、ガラス転移温度が-30℃~15℃である、請求項1又は2に記載の電極用バインダー。
【請求項8】
前記コアシェル粒子全体に対する前記コアの割合は、50~95重量%である、請求項1又は2に記載の電極用バインダー。
【請求項9】
前記コアシェル粒子は、体積平均粒子径が120nm以上である、請求項1又は2に記載の電極用バインダー。
【請求項10】
前記電極用バインダーは、前記コアシェル粒子のラテックスである、請求項1又は2に記載の電極用バインダー。
【請求項11】
電極活物質、増粘剤、及び、請求項1又は2に記載の電極用バインダーを含むスラリーを調製する工程、及び
前記スラリーを集電体に塗布し、乾燥させる工程を含む、リチウムイオン電池の電極の製造方法。
【請求項12】
集電体と、該集電体の上に形成された電極活物質層とを含む、リチウムイオン電池の電極であって、
前記電極活物質層が、電極活物質、増粘剤、及び、請求項1又は2に記載の電極用バインダーを含む、リチウムイオン電池の電極。
【請求項13】
請求項12に記載の電極を含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の電極用バインダー、リチウムイオン電池の電極及びその製造方法、並びに、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、軽量でありながら、エネルギー密度が高く、繰り返し充放電が可能という特性があり、パソコンやスマートフォンの電源、電気自動車やハイブリッド車の動力源などの幅広い用途に使用されている。
【0003】
リチウムイオン電池の負極では、金属箔などの集電体の上に、グラファイトなどの電極活物質と、スチレン/ブタジエンゴム(SBR)などのバインダーとからなる電極活物質層が形成されている。電極活物質層は、通常、電極活物質とバインダーと溶媒とを混合して調製したスラリーを、集電体に塗工し、乾燥させことで製造される。
【0004】
このような電極活物質層で使用されるバインダーは、電極活物質同士の結着性(接着性)、及び、電極活物質と集電体との結着性を維持する機能が求められる。このバインダーを改良することで、結着性を担保しつつ、二次電池の特性を向上させるための検討が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1では、ブタジエンなどの脂肪族共役ジエン単量体単位と、カルボン酸基含有単量体単位又は(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを特定割合で含む粒子状重合体を、二次電池電極用のバインダーとして使用することが記載されている。
【0006】
特許文献2では、コア部が、脂肪族共役ジエン単量体及び芳香族ビニル単量体単位を含む重合体から構成され、シェル部が、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を40重量%以上含む重合体から構成される、コアシェル構造を有する粒子状重合体が、二次電池電極用のバインダーとして記載されている。この文献では、シェル部を構成する重合体のガラス転移温度は20℃以下であることが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/141791号
【特許文献2】国際公開第2017/056466号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウムイオン電池では、高い作動電圧を保てるよう、内部抵抗が低いことが望ましい。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、リチウムイオン電池の内部抵抗の低減が可能な、リチウムイオン電池の電極用バインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ゴムから構成されるコアと、特定の物性を示す重合体から構成されるシェル層とを有するコアシェル粒子を、リチウムイオン電池の電極用バインダーとして使用することで、前記目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち本発明は、リチウムイオン電池の電極用バインダーであって
コアと、該コアの外側に位置するシェル層を含むコアシェル粒子を含み、
前記コアはゴムから構成され、
前記シェル層は、ガラス転移温度が60℃以上であるシェル形成重合体から構成される、電極用バインダーに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リチウムイオン電池の内部抵抗の低減が可能な、リチウムイオン電池の電極用バインダーを提供することができる。
本発明の好適な態様によると、集電体と電極活物質層との結着性を改善することができる。また、該電極用バインダーを含むスラリーの、集電体への塗工性が良好で、表面の平滑性が高い電極活物質層を得ることができる。更に、リチウムイオン電池の充放電特性を良好なものにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態に係るリチウムイオン電池の電極用バインダー(以下、「電極用バインダー」ともいう)は、少なくともコアシェル粒子を含む。
前記コアシェル粒子は、コアシェル構造を有し、ゴムから構成されるコアと、該コア層の外側に位置するシェル層を含むものである。前記シェル層は、シェル形成重合体から構成される。
【0014】
このような構造のコアシェル粒子をリチウムイオン電池の電極用バインダーとして使用することで、リチウムイオン電池の内部抵抗を低減することができる。また、集電体と電極活物質層との結着性も改善することができる。
【0015】
(コア)
前記コアは、ゴムから構成されるゴム粒子である。ゴムの種類としては特に限定されないが、スラリー中でのコアシェル粒子の分散性やコアシェル粒子と増粘剤との相溶性を高めることができ、集電体と電極活物質層との結着性が向上し得るため、脂肪族共役ジエン化合物単位、及び、芳香族ビニル化合物単位を含むゴムであることが好ましい。当該ゴム粒子の製造方法は特に限定されないが、乳化重合によって合成されたものであることが好ましい。
【0016】
脂肪族共役ジエン化合物は、脂肪族系の化合物であって、炭素-炭素二重結合を2つ有し、これら二重結合が1つの単結合によって隔てられ、共役したジエン化合物を指す。脂肪族共役ジエン化合物の具体例としては、イソプレン、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。脂肪族共役ジエン化合物は1種類のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。このうち、1,3-ブタジエンが好ましい。
【0017】
前記芳香族ビニル化合物としては特に限定されず、例えば、スチレン、2-ビニルナフタレン等の無置換ビニル芳香族化合物類;α-メチルスチレン等の置換ビニル芳香族化合物類;3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等の環アルキル化ビニル芳香族化合物類;4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレン等の環アルコキシル化ビニル芳香族化合物類;2-クロロスチレン、3-クロロスチレン等の環ハロゲン化ビニル芳香族化合物類;4-アセトキシスチレン等の環エステル置換ビニル芳香族化合物類;4-ヒドロキシスチレン等の環ヒドロキシル化ビニル芳香族化合物類が挙げられる。中でも、置換又は非置換のスチレンが好ましく、スチレン及び/又はα-メチルスチレンがより好ましく、スチレンが特に好ましい。芳香族ビニル化合物は1種類のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記コアを構成するゴムの代表例は、スチレンブタジエンゴムである。スチレンブタジエンゴムとは、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体であり、スチレンゴム、又はSBRとも呼ばれている。
【0019】
前記コアを構成するゴムは、脂肪族共役ジエン化合物単位と芳香族ビニル化合物単位以外のビニル系単量体を含まないものであってよいし、また、そのような他のビニル系単量体単位を含むものであってもよい。そのような他のビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジルなどの(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル系単量体等が挙げられる。
しかし、前記コアを構成するゴムは、アクリル酸やメタクリル酸、イタコン酸などの、カルボキシル基を有するビニル系単量体単位を含まないことが好ましい。
【0020】
前記コアを構成するゴム全体に占める、脂肪族共役ジエン化合物単位と芳香族ビニル化合物単位の合計割合は、特に限定されないが、例えば、80~100重量%であってよい。90重量%以上であってもよいし、95重量%以上であってもよいし、98重量%以上であってもよいし、99重量%以上であってもよい。
【0021】
前記コアを構成するゴムは、その重合時に、ジビニルベンゼン、メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、1,3-ブチレンジメタクリレート等の多官能性単量体を使用したものであってもよい。
【0022】
さらに、前記コアを構成するゴムは、連鎖移動剤を使用せずに重合されたものであってもよいし、連鎖移動剤の存在下で重合されたものであってもよい。使用可能な連鎖移動剤としては特に限定されないが、例えば、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、t-デシルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類、2-エチルヘキシルチオグリコレートなどのアルキルエステルメルカプタン類等が挙げられる。
【0023】
前記コアを構成するゴムにおいて、脂肪族共役ジエン化合物:芳香族ビニル化合物の含有比は、特に限定されず、例えば、30:70~80:20の範囲内にあってよい。結着性の向上、内部抵抗の低減、充放電後の容量維持(サイクル特性)といった観点から、40:60~70:30であることが好ましく、45:55~65:35がより好ましく、50:50~60:40がさらに好ましい。
【0024】
前記ゴムが示すガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、例えば、-50℃~+25℃の範囲内にあってよい。結着性の向上、内部抵抗の低減、充放電後の容量維持(サイクル特性)といった観点から、-40℃~+20℃であることが好ましく、-30℃~+15℃がより好ましく、-20℃~+10℃がさらに好ましく、-15℃~0℃が特に好ましい。
【0025】
前記ゴムのガラス転移温度は、ゴム中の脂肪族共役ジエン化合物単位と芳香族ビニル化合物単位の比率や、該ゴム中に含まれ得る他の単量体の種類や比率を変更することによって制御できる。例えば、ゴム中の芳香族ビニル化合物の割合を高めることで、ゴムのガラス転移温度を高めることができる。
【0026】
前記ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0027】
前記コアシェル粒子中の前記コアの含有量は、特に限定されないが、結着性の向上、内部抵抗の低減、充放電後の容量維持(サイクル特性)といった観点から、50~95重量%であることが好ましく、60~90重量%がより好ましく、65~80重量%がさらに好ましい。
【0028】
(シェル層)
前記シェル層は、重合体粒子の表面側に位置する重合体層のことを指し、グラフト層ともいう。シェル層は、コアにグラフト結合していることが好ましい。しかし、前記シェル層を形成する重合体には、コアにグラフト結合していない重合体も包含される。
シェル層は、コアの表面を被覆するものであるが、コアの表面の全面を被覆するものに限られず、コアの表面の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0029】
前記シェル層を形成する重合体(以下、シェル形成重合体ともいう)は、ビニル系重合体であることが好ましい。前記シェル形成重合体を構成する単量体としてはビニル系単量体であれば特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系単量体、芳香族ビニル系単量体等が挙げられる。尚、本願では、「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルをまとめて指すための表記である。
【0030】
前記(メタ)アクリル系単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香環含有(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート;アルコキシ(メタ)アルキルアクリレート;(メタ)アクリロニトリル、置換(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリロアミド等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸アルキルエステルが特に好ましい。(メタ)アクリル系単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
前記芳香族ビニル化合物としては特に限定されず、例えば、スチレン、2-ビニルナフタレン等の無置換ビニル芳香族化合物類;α-メチルスチレン等の置換ビニル芳香族化合物類;3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等の環アルキル化ビニル芳香族化合物類;4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレン等の環アルコキシル化ビニル芳香族化合物類;2-クロロスチレン、3-クロロスチレン等の環ハロゲン化ビニル芳香族化合物類;4-アセトキシスチレン等の環エステル置換ビニル芳香族化合物類;4-ヒドロキシスチレン等の環ヒドロキシル化ビニル芳香族化合物類が挙げられる。中でも、置換又は非置換のスチレンが好ましく、スチレン及び/又はα-メチルスチレンがより好ましく、スチレンが特に好ましい。芳香族ビニル化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
前記シェル形成重合体のガラス転移温度を高め、リチウムイオン電池の内部抵抗を低減する観点から、前記シェル形成重合体は、少なくとも、メタクリル酸アルキルエステル単位、及び、芳香族ビニル化合物単位を含むことが好ましい。前記メタクリル酸アルキルエステル単位のアルキルの炭素数は特に限定されないが、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1又は2が特に好ましい。
【0033】
更に、耐電解液特性が良好で、リチウムイオン電池の充放電特性を向上させることができるため、前記シェル形成重合体全体のうち、芳香族ビニル化合物単位の割合は30~95重量%が好ましく、50~85重量%がより好ましく、60~75重量%がさらに好ましい。また、前記シェル形成重合体の重合反応を促進する観点、及び、スラリー中のコアシェル粒子の分散性や、集電体へのスラリーの塗工性の観点から、前記シェル形成重合体全体のうち、メタクリル酸アルキルエステル単位の割合は5~60重量%が好ましく、10~50重量%がより好ましく、15~40重量%がさらに好ましい。
【0034】
前記シェル形成重合体は、前述した(メタ)アクリル系単量体単位及び/又は芳香族ビニル系単量体単位に加えて、カルボキシル基含有ビニル系単量体単位、及び/又は、(ポリ)アルキレングリコール鎖含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含むことが好ましい。これによって、スラリー中でのコアシェル粒子の分散性やコアシェル粒子と増粘剤との相溶性を高めることができ、コアシェル粒子と増粘剤が高い均一性で混合され、集電体と電極活物質層との結着性や、集電体へのスラリーの塗工性を向上させることができる。同時に、リチウムイオン電池の内部抵抗を低減することができる。
中でも、内部抵抗低減の観点から、前記シェル形成重合体は、(ポリ)アルキレングリコール鎖含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含むことがより好ましい。
【0035】
前記カルボキシル基含有ビニル系単量体としては特に限定されず、アクリル酸やメタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸系単量体や、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸系単量体等が挙げられる。このうち、集電体への塗工性改善の観点から、不飽和モノカルボン酸系単量体が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0036】
集電体への塗工性改善の観点から、前記カルボキシル基含有ビニル系単量体単位は、前記シェル形成重合体全体において占める割合が5重量%以上となるように使用することが好ましい。より好ましくは7重量%以上である。
【0037】
前記シェル形成重合体中の前記カルボキシル基含有ビニル系単量体単位の割合の上限値は特に限定されないが、コアシェル粒子製造時の重合安定性の観点から、通常、40重量%以下であり得る。リチウムイオン電池の内部抵抗低減の観点から、前記含有割合は、30重量%以下であることが好ましく、25重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましく、15重量%以下が特に好ましく、10重量%以下が最も好ましい。また、9重量%以下であってもよい。
【0038】
前記「(ポリ)アルキレングリコール鎖」との表記は、重合度が1のアルキレングリコール鎖と、重合度が2以上のポリアルキレングリコール鎖の双方を包含するためのものである。即ち、「(ポリ)アルキレングリコール鎖」は、アルキレングリコール鎖であってもよいし、ポリアルキレングリコール鎖であってもよい。
【0039】
前記(ポリ)アルキレングリコール鎖は、1価の基であり、フリーの末端基を有する。当該末端基は特に限定されないが、水酸基であってもよいし、アルキル基やアリール基、アシル基等の置換基であってもよい。前記置換基の炭素数は、例えば、1~20程度であってよく、1~10程度が好ましく、1~6程度がより好ましい。
【0040】
前記(ポリ)アルキレングリコール鎖を構成するアルキレングリコール単位1個当たりの炭素数は特に限定されないが、1~6が好ましく、2~4がより好ましく、2~3が更に好ましい。炭素数が異なる複数種のアルキレングリコール単位が共存してもよい。
【0041】
前記(ポリ)アルキレングリコール鎖の具体例としては、(ポリ)エチレングリコール鎖、(ポリ)プロピレングリコール鎖、(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)プロピレングリコール鎖、(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)ブチレングリコール鎖、(ポリ)プロピレングリコール-(ポリ)ブチレングリコール鎖等が挙げられる。特に、(ポリ)エチレングリコール鎖が好ましい。
【0042】
前記(ポリ)アルキレングリコール鎖の重合度、即ち(ポリ)アルキレングリコール鎖1つ当たりのアルキレングリコール単位の数は特に限定されないが、例えば、1~30程度であってよく、1~20がより好ましく、1~15が更に好ましく、2~10が特に好ましい。前記(ポリ)アルキレングリコール鎖の末端基が水酸基である場合、前記重合度は、3以上が好ましく、4以上がより好ましい。また、前記(ポリ)アルキレングリコール鎖の末端基が前記置換基である場合は、6以上が好ましく、8以上がより好ましい。
【0043】
(ポリ)アルキレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル酸エステルのうち、末端基が水酸基であるものの具体例としては、(メタ)アクリル酸(ポリ)エチレングリコール(日油製ブレンマーPE-90、PE-200、PE-350、AE-90U、AE-200、AE-400等)、(メタ)アクリル酸(ポリ)プロピレングリコール(日油製ブレンマーPP-500、PP-500D、PP-800、PP-1000、PP-2000D、AP-200、AP-400、AP-400D、AP-550、AP-800、AP-1000D等)、(メタ)アクリル酸(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)プロピレングリコール(日油製ブレンマー50PEP-300等)、(メタ)アクリル酸(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)ブチレングリコール(日油製ブレンマー55PET-800、50PEP-500D等)、(メタ)アクリル酸(ポリ)プロピレングリコール-(ポリ)ブチレングリコール(日油製ブレンマー10PPB-500B、10PPB-500BD等)等が挙げられる。
【0044】
また、末端基が前記置換基である(ポリ)アルキレングリコール鎖含有(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシ(ポリ)エチレングリコール(日油製ブレンマーPME-100、PME-200、PME-400、PME-1000、PME-2000、AME-400等;新中村化学工業(株)製NKエステルM-20G、M-40G、M-90G、M-130G、M-230G、M-450G、AM-30G、AM-90G、AM-130G、AM-230G等)、(メタ)アクリル酸メトキシ(ポリ)プロピレングリコール(新中村化学工業(株)製NKエステルM-30PG、AM-30PG等)、(メタ)アクリル酸ラウロキシ(ポリ)エチレングリコール(日油製ブレンマーPLE-1300等)、(メタ)アクリル酸ステアロキシ(ポリ)エチレングリコール(日油製ブレンマーPSE-1300等)、(メタ)アクリル酸オクチル(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)プロピレングリコール(日油製ブレンマー50POEP-800B等)、(メタ)アクリル酸フェノキシ(ポリ)エチレングリコール(新中村化学工業(株)製NKエステルPHE-1G、AMP-30GY等)、(メタ)アクリル酸フェノキシ(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)ブチレングリコール(日油製ブレンマー43PAEP-600B等)、(メタ)アクリル酸ノニルフェノキシ(ポリ)プロピレングリコール(日油製ブレンマーANP-300等)、(メタ)アクリル酸ノニルフェノキシ(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)プロピレングリコール(日油製ブレンマー75ANEP-600等)等が挙げられる。
これら単量体は1種のみを使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0045】
(ポリ)アルキレングリコール鎖含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、シェル形成重合体のガラス転移温度を高めることができるため、(ポリ)アルキレングリコール鎖含有メタクリル酸エステルが特に好ましい。
【0046】
前記(ポリ)アルキレングリコール鎖含有(メタ)アクリル酸エステル単位は、結着性向上や、内部抵抗低減の観点から、前記シェル形成重合体全体において占める割合が10~30重量%の範囲内にあるように使用することが好ましい。より好ましくは10~25重量%であり、さらに好ましくは10~20重量%であり、特に好ましくは10~15重量%である。
【0047】
前記シェル層は、スラリー中のコアシェル粒子の分散性や、集電体へのスラリーの塗工性の観点から、非架橋重合体から構成されることが好ましい。当該非架橋重合体とは、架橋構造を含まず、架橋性単量体由来の構造単位を含まない重合体のことを指し、ゴム弾性体(例えば、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリル系ゴム等)に該当しない重合体のことを指す。
【0048】
前記シェル形成重合体としては、ガラス転移温度(Tg)が60℃以上であるものを使用する。このように硬質のシェル形成重合体を使用することで、形成された電極活物質層中でコアシェル粒子の形状が保持されやすくなり、リチウムイオン電池の内部抵抗を低減することができる。前記ガラス転移温度は、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、100℃以上が特に好ましい。上限値は特に限定されないが、例えば、120℃以下であって良く、110℃以下が好ましい。
【0049】
前記シェル形成重合体のガラス転移温度は、該重合体を構成する単量体の種類や比率を変更することによって制御できる。例えば、前記シェル形成重合体を構成する単量体として、メタクリル系単量体、及び、芳香族ビニル系単量体を用いることで、該重合体のガラス転移温度を高めることが可能である。
【0050】
前記ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0051】
前記コアシェル粒子中の前記シェル層の含有量は、特に限定されないが、結着性の向上、内部抵抗の低減、充放電後の容量維持(サイクル特性)といった観点から、5~50重量%であることが好ましく、10~40重量%がより好ましく、20~35重量%がさらに好ましい。
【0052】
前記コアシェル粒子は、コアとシェル層のみからなるものであってもよいが、発明の効果を奏する限り、コアとシェル層の間に、中間層をさらに有するものであってもよい。中間層は、重合体から構成される層であり、コア層にグラフト結合していることが好ましい。このような中間層を有する場合、中間層が、コア層の表面の少なくとも一部を被覆し、シェル層は、中間層の表面の少なくとも一部を被覆することになる。
【0053】
(コアシェル粒子の体積平均粒子径)
前記コアシェル粒子の粒子径は、特に限定されず、例えば、体積平均粒子径が10~1000nm程度であってよい。しかし、スラリー中のコアシェル粒子の分散性や、コアシェル粒子と増粘剤との混合性、リチウムイオン電池の内部抵抗低減等の観点から、体積平均粒子径が120~500nmであることが好ましく、150~400nmがより好ましく、180~300nmがさらに好ましい。なお、コアシェル粒子の体積平均粒子径は、コアシェル粒子のラテックスの状態で、粒子径の測定装置を使用することによって測定される。コアシェル粒子の粒子径は、重合時に用いる重合開始剤、連鎖移動剤、酸化還元剤、乳化剤等の種類や量、重合温度、重合時間等によって制御することができる。
【0054】
(重合体粒子の製造方法)
前記重合体粒子の製造法としては、特に限定されないが、例えば、乳化重合、ミニエマルション重合、マイクロエマルション重合、無乳化剤(ソープフリー)乳化重合を用いることができる。
【0055】
乳化重合において用いることができる乳化剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを使用可能である。また、ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などの分散剤を併用してもよい。
【0056】
上記乳化剤のうちアニオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ラウリン酸カリウム、ヤシ脂肪酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸カリウムジエタノールアミン塩、オレイン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、混合脂肪酸ソーダ石けん、半硬化牛脂脂肪酸ソーダ石けん、ヒマシ油カリ石けんなどの脂肪酸石鹸;ドデシル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸トリエタノールアミン、ドデシル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、2-エチルヘキシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム;ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのジアルキルスルホコハク酸ナトリウム;アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム;アルキルリン酸カリウム塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩;ポリカルボン酸型高分子アニオン;アシル(牛脂)メチルタウリン酸ナトリウム;アシル(ヤシ)メチルタウリン酸ナトリウム;ココイルイセチオン酸ナトリウム;α-スルホ脂肪酸エステルナトリウム塩;アミドエーテルスルホン酸ナトリウム;オレイルザルコシン;ラウロイルザルコシンナトリウム;ロジン酸石けんなど。
【0057】
上記乳化剤のうち非イオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルあるいはポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル類、ポリエチレングルコールモノラウレート、ポリエチレングルコールモノステアレート、ポリエチレングルコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマーなど。
【0058】
上記乳化剤のうちカチオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテート、テトラデシルアミンアセテートなどのアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩など。
【0059】
上記乳化剤のうち両性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、次の化合物が挙げられる:ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ジメチルラウリルベタインなどのアルキルベタイン;ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム;アミドベタイン;イミダゾリン;ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなど。
【0060】
これらの乳化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乳化剤のなかでは、得られるラテックスの流動性が良好になる観点から、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、又は、オキシエチレン構造を有する界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0061】
乳化重合法を採用する場合には、公知の重合開始剤、すなわち2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどを加熱分解型開始剤として用いることができる。
【0062】
また、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ヘキシルパーオキサイドなどの有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物といった過酸化物と、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤;硫酸鉄(II)などの遷移金属塩;エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤;及びピロリン酸ナトリウムなどのリン含有化合物からなる群より選択される少なくとも1種とを併用したレドックス型開始剤を使用することもできる。
【0063】
レドックス型開始剤を用いた場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができ、重合温度を広い範囲で設定できるようになり好ましい。中でもクメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物をレドックス型開始剤として用いることが好ましい。前記開始剤の使用量、レドックス型開始剤を用いる場合には前記還元剤、遷移金属塩、キレート剤、リン含有化合物などの使用量は公知の範囲で用いることができる。また、多官能性単量体を重合するに際しては、公知の連鎖移動剤を公知の範囲で用いることができる。追加的に界面活性剤を用いることができるが、これも公知の範囲である。
【0064】
乳化重合時に使用される溶媒としては、乳化重合を安定に進行させるものであればよく、例えば、水等を好適に使用することができる。
【0065】
乳化重合時の温度は、乳化剤が溶媒に均一に溶解すれば、特に限定されないが、例えば、40~75℃であり、好ましくは45~70℃、より好ましくは49~65℃である。
【0066】
乳化重合によって前記コアシェル粒子を製造した場合には、例えば、該コアシェル粒子のラテックスをスプレードライ乾燥することで、水に再分散が可能なパウダーを得て、これを電極用バインダーとして用いてもよい。
【0067】
本実施形態に係る電極用バインダーは、前記コアシェル粒子のラテックスの形態であってもよいし、前記コアシェル粒子の粉体状の形態であってもよい。スラリーへの分散性に優れているため、前記電極用バインダーは、前記コアシェル粒子のラテックスの形態であることが好ましい。
【0068】
<その他の成分>
本実施形態に係る電極用バインダーは、前記コアシェル粒子に加えて、導電助剤、補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の成分を含有してもよい。これらの成分は、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0069】
(水系スラリー)
本実施形態に係る電極用バインダーと、電極活物質と、増粘剤と、水系媒体を混合することにより、水系スラリーを調製することができる。該水系スラリーを集電体表面に塗布し、乾燥させることで、集電体の上に電極活物質層を形成することができる。
【0070】
<スラリー中のコアシェル粒子の配合量>
スラリー中の前記コアシェル粒子の配合量は、当業者が適宜設定することができるが、集電体へのスラリーの塗工性や集電体と電極活物質層との結着性を改善し、リチウムイオン電池の充放電特性を良好なものとしつつ、内部抵抗を低減するという観点から、電極活物質100重量部に対して0.1~5重量部であることが好ましく、0.3~3重量部がより好ましく、0.5~2重量部がさらに好ましい。
【0071】
<増粘剤>
増粘剤は、水系スラリー中の電極活物質の分散安定性を向上させ、スラリーの塗工性を改善し得る成分である。増粘剤としては水溶性高分子を使用することができ、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、これらの塩、ポリ(メタ)アクリルアミドなどを用いることができる。そして、ポリカルボン酸としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アルギン酸などが挙げられる。これら水溶性高分子としては、1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。このうち、セルロース系化合物が好ましく、カルボキシメチルセルロース又はその塩が特に好ましい。
【0072】
水系スラリー中の増粘剤の配合量は、適宜設定すればよいが、例えば、電極活物質100重量部に対して0.1~5重量部であることが好ましく、0.3~3重量部がより好ましく、0.5~3重量部がさらに好ましい。
【0073】
<負極活物質>
負極で使用可能な電極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、これらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
炭素系負極活物質としては、例えば、炭素質材料、黒鉛質材料等が挙げられる。
炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
また、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛(グラファイト)が挙げられる。
【0074】
金属系負極活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物等が挙げられる。中でも、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン電池を高容量化することができる。
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
ケイ素を含む合金としては、例えば、ケイ素と、アルミニウムと、鉄などの遷移金属とを含み、さらにスズおよびイットリウム等の希土類元素を含む合金組成物が挙げられる。
SiOxは、SiOおよびSiO2の少なくとも一方と、Siとを含有する化合物であり、xは、通常、0.01以上2未満である。
Si含有材料と導電性カーボンとの複合化物としては、例えば、SiOと、ポリビニルアルコールなどのポリマーと、任意に炭素材料との粉砕混合物を、例えば有機物ガスおよび/または蒸気を含む雰囲気下で熱処理してなる化合物を挙げることができる。また、SiOの粒子に対して、有機物ガスなどを用いた化学的蒸着法によって表面をコーティングする方法、SiOの粒子と黒鉛または人造黒鉛をメカノケミカル法によって複合粒子化(造粒化)する方法などの公知の方法でも得ることができる。
【0075】
<正極活物質>
正極で使用可能な電極活物質としては、遷移金属を含有する化合物、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属との複合金属酸化物等が挙げられる。なお、遷移金属としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
ここで、遷移金属酸化物としては、例えばMnO、MnO2、V2O5、V6O13、TiO2、Cu2V2O3、非晶質V2O-P2O5、非晶質MoO3、非晶質V2O5、非晶質V6O13等が挙げられる。
遷移金属硫化物としては、TiS2、TiS3、非晶質MoS2、FeSなどが挙げられる。
リチウムと遷移金属との複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、LiMaO2とLi2MbO3との固溶体などが挙げられる。
スピネル型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)や、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)のMnの一部を他の遷移金属で置換した化合物などが挙げられる。
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)などが挙げられる。
【0076】
<導電助剤>
スラリーには、任意に、導電助剤を配合してもよい。導電助剤としては特に限定されず、公知の導電助剤を用いることができる。具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンブラック、グラファイト等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔等が挙げられる。
【0077】
<その他の重合体>
スラリーには、任意に、前述したコアシェル粒子や増粘剤以外の重合体を含んでもよい。そのような重合体としては、例えば、フッ素含有重合体、アクリロニトリル重合体等が挙げられる。
【0078】
スラリーの固形分濃度は特に限定されないが、例えば、10~80重量%程度であってよく、30~70重量%が好ましい。
【0079】
<スラリーの調製>
スラリーは、上述した各成分を、水系媒体中に分散させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と水系媒体とを混合することにより、スラリーを調製することができる。上記各成分と水系媒体との混合は、通常、室温~80℃の範囲で、10分~数時間行うことができる。
【0080】
水系媒体としては、通常は、水が使用され得るが、任意の化合物の水溶液や、少量の有機媒体と水との混合溶液などを使用してもよい。なお、スラリーに含まれる水には、電極用バインダーがコアシェル粒子のラテックスである場合の該ラテックスに含まれていた水や、増粘剤などに含まれていた水なども含まれ得る。
【0081】
(リチウムイオン電池用電極)
本実施形態に係るリチウムイオン電池用電極は、集電体と、該集電体の上に形成された電極活物質層とを含む。電極活物質層は、少なくとも、電極活物質と、増粘剤と、コアシェル粒子とを含む。本実施形態に係るリチウムイオン電池用電極は、集電体上に、上述した水系スラリーを塗布し、乾燥させることで得ることができる。
集電体としては公知の金属箔を使用してよく、例えば、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔、高導電性ステンレス鋼箔等が挙げられる。
【0082】
本実施形態に係るコアシェル粒子は、乾燥後の電極活物質層内において、粒子形状を維持する傾向が比較的強い。それによって、電極活物質同士の結着、又は、電極活物質と集電体との結着を、点接着にて実現でき、結果、バインダーの存在によってリチウムイオンの移動が阻害されにくくなるため、内部抵抗の低減を達成できるものと推測される。
【0083】
[塗布工程]
水系スラリーを集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず、公知の方法を使用でき、具体的には、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法等が挙げられる。この際、スラリーを集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極活物質層の厚みに応じて適宜設定できる。
【0084】
[乾燥工程]
集電体上のスラリー膜を乾燥する方法としては、特に限定されず、公知の方法を使用でき、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法等が挙げられる。
【0085】
乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極活物質層に加圧処理を施してもよい。これにより、電極活物質層と集電体との密着性を向上させると共に、電極活物質層の空隙率を低くすることができる。
【0086】
また、本実施形態に係るリチウムイオン電池用電極は、粉体成型法によって製造することもできる。粉体成型法では、まず、上述したスラリーを準備し、そのスラリーから複合粒子を調製し、その複合粒子を集電体上に供給し、所望によりロールプレスして成形することにより集電体上に電極活物質層を形成できる。
【0087】
本実施形態の好適な態様に係るリチウムイオン電池用電極は、リチウムイオン電池用の負極である。
【0088】
(リチウムイオン電池)
本実施形態に係るリチウムイオン電池は、正極、負極、電解液、及び、セパレータを備え、前記正極および負極の少なくとも一方(特に負極)に、本実施形態に係るリチウムイオン電池用電極を用いたものである。負極が本実施形態に係るリチウムイオン電池用電極である場合、正極は特に限定されず、公知の正極であってよい。
【0089】
<電解液>
電解液としては、例えば、非水溶媒に支持電解質を溶解した非水電解液を使用できる。支持電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0090】
非水溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されない。非水溶媒の例を挙げると、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;などが挙げられる。なかでも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類が好ましい。非水溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で併用してもよい。
電解液には添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が挙げられる。
【0091】
また、上記以外の電解液として、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質;前記ポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質;LiI、Li3Nなどの無機固体電解質;などを用いてもよい。
【0092】
<セパレータ>
セパレータとしては特に限定されないが、絶縁材料であるポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜を使用できる。
【0093】
<リチウムイオン電池の製造方法>
本実施形態に係るリチウムイオン電池の具体的な製造方法としては、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。さらに、必要に応じてエキスパンドメタル;ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子;リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電を防止してもよい。リチウムイオン電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【0094】
以下の各項目では、本開示における好ましい態様を列挙するが、本発明は以下の項目に限定されるものではない。
[項目1]
リチウムイオン電池の電極用バインダーであって
コアと、該コアの外側に位置するシェル層を含むコアシェル粒子を含み、
前記コアはゴムから構成され、
前記シェル層は、ガラス転移温度が60℃以上であるシェル形成重合体から構成される、電極用バインダー。
[項目2]
前記シェル形成重合体は、非架橋の重合体である、項目1に記載の電極用バインダー。
[項目3]
前記シェル形成重合体は、メタクリル酸アルキルエステル単位、及び、芳香族ビニル化合物単位を含む、項目1又は2に記載の電極用バインダー。
[項目4]
前記シェル形成重合体中の前記芳香族ビニル化合物単位の含有割合が30~95重量%である、項目3に記載の電極用バインダー。
[項目5]
前記シェル形成重合体は、カルボキシル基含有ビニル系単量体単位、及び/又は、(ポリ)アルキレングリコール鎖含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む、項目1~4のいずれかに記載の電極用バインダー。
[項目6]
前記ゴムは、脂肪族共役ジエン化合物単位、及び、芳香族ビニル化合物単位を含む、項目1~5のいずれかに記載の電極用バインダー。
[項目7]
前記ゴムは、ガラス転移温度が-30℃~15℃である、項目1~6のいずれかに記載の電極用バインダー。
[項目8]
前記コアシェル粒子全体に対する前記コアの割合は、50~95重量%である、項目1~7のいずれかに記載の電極用バインダー。
[項目9]
前記コアシェル粒子は、体積平均粒子径が120nm以上である、項目1~8のいずれかに記載の電極用バインダー。
[項目10]
前記電極用バインダーは、前記コアシェル粒子のラテックスである、項目1~9のいずれかに記載の電極用バインダー。
[項目11]
電極活物質、増粘剤、及び、項目1~10のいずれかに記載の電極用バインダーを含むスラリーを調製する工程、及び
前記スラリーを集電体に塗布し、乾燥させる工程を含む、リチウムイオン電池の電極の製造方法。
[項目12]
集電体と、該集電体の上に形成された電極活物質層とを含む、リチウムイオン電池の電極であって、
前記電極活物質層が、電極活物質、増粘剤、及び、項目1~10のいずれかに記載の電極用バインダーを含む、リチウムイオン電池の電極。
[項目13]
項目12に記載の電極を含む、リチウムイオン電池。
【実施例0095】
以下に実施例を掲げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0096】
(実施例1)
(コア部の形成)
脱イオン水90gに、リン酸水素2ナトリウム10g(固形分10%)を投入し、更に、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.237g及びエチレンジアミンテトラ酢酸・2ナトリウム 0.395gを脱イオン水125.8gに溶解した溶液を追加し、-0.01MPaで15分間、脱酸を実施した。
ネオぺレックスG-15(花王社製:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、固形分15.0%)66.7g、ブタジエン11,000g、スチレン9,000g、t-ドデシルメルカプタン150gを100L耐圧オートクレーブに投入し、内温50℃に昇温した。
ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分5%)140.0g、パラメンタンハイドロパーオキサイド(固形分52%)7.7gを追加し、重合を開始した。
重合開始15時間目に、減圧下にて脱気して、重合に使用されずに残存したブタジエンを脱気除去することにより、重合を終了した。スチレン-ブタジエンゴム粒子を含むラテックス(固形分45.0%)を得た。
重合中、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)及びエチレンジアミンテトラ酢酸・2ナトリウムのそれぞれを、任意の量及び任意の時点で100L耐圧オートクレーブに添加した。
【0097】
(シェル層の形成)
得られたゴムラテックス(固形分45.0%)2333.3gを8L重合機に仕込み、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分5%)60.0gを追加した。スチレン300.0g(20部)、メチルメタクリレート112.5g(7.5部)、メタクリル酸37.5g(2.5部)及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分69%)3.3gの混合物を前記重合機に120分かけて追加した。
ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート、t-ブチルハイドロパーオキサイドを適宜添加し、80分後に重合終了し、転化率100%で、固形分濃度48.0%、体積平均粒子径200nmのコアシェル構造含有重合体粒子のラテックスを得た。
尚、体積平均粒子径は、前記ラテックスにおいて、マイクロトラック社製のナノ粒子径測定装置NANOTRAC WAVEを用いて測定した。
【0098】
(実施例2~9および比較例2)
表1の記載に沿って、コア部およびシェル層のモノマーの種類または使用量を変更した以外は、実施例1と同様にしてコアシェル構造含有重合体粒子のラテックスを得た。但し、実施例4及び5では、メタクリル酸に替えて、PEO-MMA:ポリオキシエチレンモノメタクリレート(重合度4.5)を使用した。
【0099】
(比較例1)
(重合体粒子の重合)
脱イオン水90gに、リン酸水素2ナトリウム10g(固形分10%)を投入し、更に、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.237g及びエチレンジアミンテトラ酢酸・2ナトリウム 0.395gを脱イオン水125.8gに溶解した溶液を追加し、-0.01MPaで15分間、脱酸を実施した。
ネオぺレックスG-15(花王社製:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、固形分15.0%)66.7g、ブタジエン9,350g、スチレン10,400g、メタクリル酸 250g、t-ドデシルメルカプタン150gを100L耐圧オートクレーブに投入し、内温50℃に昇温した。
ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分5%)140.0g、パラメンタンハイドロパーオキサイド(固形分52%)7.7gを追加し、重合を開始した。
重合開始15時間目に、減圧下にて脱気して、重合に使用されずに残存したブタジエンを脱気除去することにより、重合を終了した。メタクリル酸単位を含むスチレン-ブタジエンゴム粒子を含むラテックス(固形分45.0%)を得た。
重合中、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)及びエチレンジアミンテトラ酢酸・2ナトリウムのそれぞれを、任意の量及び任意の時点で100L耐圧オートクレーブに添加した。
【0100】
(負極用スラリーの作製)
攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)に増粘剤(商品名「CMC2200」、株式会社ダイセル製)1重量部(固形分換算)、負極活物質としてグラファイト100重量部(固形分換算)、水100重量部を投入し、2000rpmで5分間攪拌混合を行った。その後、各実施例又は比較例で合成した重合体粒子を1重量部(固形分換算)加え、さらに2000rpmで5分間攪拌混合を行ったあとに2200rpmで1分間脱泡混合し、固形分濃度50%の負極用スラリーを得た。
【0101】
(負極用電極の作製)
厚み17μmの銅箔よりなる集電体の表面に、前記負極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、80℃で6時間真空乾燥処理した。その後、負極活物質層の密度が6.0g/cm2となるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極を得た。
【0102】
(塗工性の評価)
乾燥後の負極活物質層の表面を目視で観察し、以下の基準に基づいて塗工性を判定した。
〇:負極活物質層の表面にスジ及び斑点がいずれも見られない。
△:負極活物質層の表面にスジは見られないが、斑点が見られる。
×:負極活物質層の表面にスジ及び斑点が見られる。
【0103】
(正極用スラリーの作製)
攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)にポリフッ化ビニリデン4重量部(固形分換算)、アセチレンブラック4重量部(固形分換算)、正極活物質としての体積平均粒子径15μmのLiCoO2を100重量部(固形分換算)、N-メチルピロリドン46重量部を投入し、2000rpmで10分間攪拌混合を行ったあとに2200rpmで1分間脱泡混合し、固形分濃度70%の正極用スラリーを得た。
【0104】
(正極用電極の作製)
厚み15μmのアルミ箔よりなる集電体の表面に、上記正極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、80℃で6時間真空乾燥処理した。その後、正極活物質層の密度が10.0mg/cm2となるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、集電体の表面に正極活物質層が形成されてなる正極を得た。
【0105】
(リチウムイオン電池の組み立て)
単層のポリプロピレン製セパレータ(幅65mm、長さ500mm、厚さ20μm;乾式法により製造;気孔率60%)を用意し、3cm×3cmの正方形に切り抜いた。また、電池の外装として、アルミ包材外装を用意した。
そして、露点が-80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、上述のようにして作製した正極を、2cm×2cmの正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミ包材外装に接するように配置した。次に、正極活物質層側の表面に、正方形のセパレータを配置した。更に、上述のようにして作製した負極を、2.2cm×2.2cmの正方形に切り出し、セパレータ上に、負極活物質層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。その後、電解液として濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒はエチレンカーボネート/メチルエチルカーボネート=3/7(体積比)の混合溶媒、添加剤としてビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)を添加)を充填した。更に、アルミ包材外装の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミ包材外装を閉口し、ラミネートセル型リチウムイオン二次電池を製造した。
【0106】
(負極の剥離試験)
上述のようにして作製した負極を長さ30mm、幅15mmの長方形に切り出して試験片とし、負極活物質層面を上にして負極活物質層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を垂直方向に引張り速度37.5mm/分で引張って剥がしたときの応力を測定した。測定を3回行い、その平均値を求めてこれをT字剥離ピール強度とした。
【0107】
(充放電時のサイクル特性)
上述のようにして作製したラミネートセル型リチウムイオン二次電池を、LiPF6溶液の充填後12時間静置し、0.2Cの定電流法によって、4.2Vに充電し、2.5Vまで放電する充放電の操作を25℃の環境下にて20サイクル行った。その時、1サイクル目の容量、すなわち初期放電容量X1、及び、20サイクル時の放電容量X20を測定した。サイクル特性として、充放電サイクル特性=X20/X1×100(%)で示す容量維持率を求めた。
【0108】
(充放電時の直流抵抗測定)
上述のようにして作製したラミネートセル型リチウムイオン二次電池を25℃の環境下にて0.2Cの電流で2.5時間充電し、充電深度を調整した(充電率(SOC)50%)。1時間休止し、1時間後の開放電圧(OCV)測定を行うと共に、休止中の電圧変化から直流抵抗(充電DCR)を算出した。また、放電DCRは、25℃の環境下にて0.1Cの電流で10時間充電した後に1時間休止し、0.1Cの電流で0.5時間放電し、充電深度を調整した(充電率(SOC)90%)。1時間休止し、1時間後の開放電圧(OCV)測定を行うと共に、休止中の電圧変化から直流抵抗(放電DCR)を算出した。
【0109】
以上で説明した評価の結果を表1に示す。
【0110】
【0111】
表1に示すように、ゴムから構成されるコアと、ガラス転移温度が60℃以上の重合体から構成されるシェル層とを含むコアシェル粒子を電極用バインダーとして使用した実施例1~9は、低い抵抗値を示した。
【0112】
一方、ゴムのみから構成され、シェル層を含まない重合体粒子を使用した比較例1は、各実施例と比較して、高い抵抗値を示した。
コアシェル構造を有するものの、シェル層を構成する重合体のガラス転移温度が60℃未満であるコアシェル粒子を使用した比較例2も、各実施例と比較して、高い抵抗値を示した。