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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025904
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】パワーアンプ
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/34 20060101AFI20240220BHJP
   H03F 3/68 20060101ALI20240220BHJP
   H03F 3/21 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H03F1/34
H03F3/68
H03F3/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129265
(22)【出願日】2022-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野呂 正夫
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA02
5J500AA41
5J500AC22
5J500AF12
5J500AF17
5J500AH02
5J500AH09
5J500AH25
5J500AH32
5J500AH33
5J500AK01
5J500AK03
5J500AK62
5J500AM01
5J500AM02
5J500AM08
5J500AM13
5J500AS05
5J500AT03
5J500ND02
5J500NG06
5J500NM02
5J500NN05
5J500NN14
5J500WU07
5J500WU09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】コストを抑えて歪特性などの諸特性を改善する可聴帯域の入力信号を増幅するパワーアンプを提供する。
【解決手段】パワーアンプ1aは、入力信号を増幅して出力Ot1から第1信号として出力するアンプ11と、アンプ11からの第1信号を増幅して出力Ot2から第2信号として出力するアンプ12と、アンプ12からの第2信号を増幅して第3信号として出力Ot3から出力するアンプ13と、出力Ot1と混合ノードMxdとの間に接続されたコンデンサーCと、出力Ot2と混合ノードMxdとの間に接続された抵抗R1と、出力Ot3と混合ノードMxdとの間に接続されたインダクターL1と、混合ノードMxdと負荷の抵抗Rとの間に接続されたインダクターL2と、混合ノードMxdの混合信号をアンプ11の入力に負帰還する回路と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を増幅して第1出力から第1信号として出力する第1アンプと、
前記第1信号を増幅して第2出力から第2信号として出力する第2アンプと、
前記第2信号を増幅して第3出力から第3信号として出力する第3アンプと、
前記第1出力と混合ノードとの間に接続されたコンデンサーと、
前記第2出力と前記混合ノードとの間に接続された第1抵抗と、
前記第3出力と前記混合ノードとの間に接続された第1インダクターと、
前記混合ノードと負荷との間に接続された第2インダクターと、
前記混合ノードの混合信号を前記第1アンプの入力に負帰還する帰還回路と、
を有するパワーアンプ。
【請求項2】
前記第1抵抗を通過した第2信号と前記第1インダクターを通過した第3信号との第1クロスオーバー周波数が、前記第2インダクターのインダクタンスと前記負荷の抵抗値とで定まるロールオフ周波数よりも高くなるように、前記第1抵抗の抵抗値と前記第1インダクターのインダクタンスとが定められている
請求項1に記載のパワーアンプ。
【請求項3】
前記コンデンサーを通過した第1信号と前記第1抵抗を通過した第2信号との第2クロスオーバー周波数が、前記第1クロスオーバー周波数よりも高くなるように、前記コンデンサーの容量値と前記第1抵抗の抵抗値とが定められている
請求項2に記載のパワーアンプ。
【請求項4】
前記第2アンプおよび前記第3アンプは、それぞれエミッタフォロワまたはソースフォロワである
請求項1に記載のパワーアンプ。
【請求項5】
前記帰還回路による、可聴帯域における前記入力信号に対する出力信号の閉ループゲイン が1以上の固定値である
請求項1に記載のパワーアンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばパワーアンプに関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ用のパワーアンプでは、周波数が20Hz~20kHzである可聴帯域の入力信号を増幅してスピーカーなどの負荷に出力する際に、低い歪み率で増幅することが要求される。このような低い歪み率で増幅する技術としては、例えば特許文献1に記載された技術が知られている。
特許文献1には、電圧増幅する増幅段と電流増幅する出力段とを備えるパワーアンプが開示され、このうち、出力段が複数段で構成される。この構成では、出力信号の歪みを打ち消すためにインピーダンス(Z1~Z4)が設けられる。詳細には、負荷との接続点は、インピーダンス(Z3)を介して増幅段の出力と、インピーダンス(Z1)を介して出力段の出力とに接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第9071201号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたパワーアンプでは、フィードフォワードによって歪み特性が改善されるので、回路素子に高い精度が要求される。このような高い精度の回路素子は一般に高価であり、コスト高を招く、という問題がある。
以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、可聴帯域の入力信号を増幅するパワーアンプにおいて歪特性などの諸特性を、コストを抑えて改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るパワーアンプは、入力信号を増幅して第1出力から第1信号として出力する第1アンプと、前記第1信号を増幅して第2出力から第2信号として出力する第2アンプと、前記第2信号を増幅して第3出力から第3信号として出力する第3アンプと、前記第1出力と混合ノードとの間に接続されたコンデンサーと、前記第2出力と前記混合ノードとの間に接続された第1抵抗と、前記第3出力と前記混合ノードとの間に接続された第1インダクターと、前記混合ノードと負荷との間に接続された第2インダクターと、前記混合ノードの混合信号を前記第1アンプの入力に負帰還する帰還回路と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係るパワーアンプの構成を示す回路図である。
図2】実施形態に係るパワーアンプの周波数-ゲイン特性を示す図である。
図3】パワーアンプの具体例を示す図である。
図4】パワーアンプの第1変形例を示す図である。
図5】パワーアンプの第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
オーディオ用のパワーアンプにおいて、可聴帯域の入力信号を増幅する際に歪率の低減する手段としては、負帰還が用いられる。一般に、開ループゲインは、高域において、周波数が高くなるにつれて減衰する。負帰還を安定して掛けるためには、その開ループゲインを、高域の位相が180度近くまで回転して発振する虞がある周波数より低い周波数で0dB未満となるように調整する必要がある。
【0008】
パワーアンプでは、最終段の出力素子で発生する歪が最も大きく、その歪みを減らすため、当該出力素子には多くの負帰還を掛ける必要がある。ただし、大電流を扱う最終段の出力素子は、小電流を扱う出力素子と比べて、応答性が劣り、負帰還が掛けられる周波数の上限が約1MHz程度に制限される。このため、最終段で大電流を扱うパワーアンプでは、最終段で小電流を扱い、約20MHzまでフィードバックが可能な小信号アンプや、集積回路で構成された高性能なオペアンプと比べると、歪率の点で不利である。
【0009】
一般に、パワーアンプの負荷であるスピーカーのインピーダンスは、4または8Ωである。パワーアンプの出力からスピーカーの入力までを結線するケーブルは浮遊容量を有する。ケーブルの容量に起因する発振を防止するために、パワーアンプの出力には、数μH程度のインダクター(コイル)が接続される。このため、パワーアンプにおける実際の負荷は、スピーカーとインダクターとであり、スピーカーのインピーダンスが4Ωであれば、(4Ω+数μH)と考えてよい。パワーアンプの負荷インピーダンスは、200kHz以上の周波数帯域では、インダクターの数μHが支配的で、周波数が高くなるにつれて上昇する。
【0010】
パワーアンプで負帰還の帯域を1MHz付近から20MHz付近まで拡張すると想定する。当該20MHz付近の帯域では、負荷インピーダンスは、コイルのインダクタンスが支配的で、数十から数百Ωになる。また、入力信号には、そのような高い周波数の帯域成分がほとんど存在しない。このため、そのような高い周波数の帯域成分の最大出力電流は、可聴帯域の出力電流と比べて非常に小さくても、実用上問題にならない。
【0011】
このように、オーディオ用のパワーアンプでは、ラジオ周波数用のアンプなど他のパワーアンプと異なる事情がある。以下、このような事情を考慮して構成した、実施形態に係るパワーアンプについて図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係るパワーアンプ1aの構成を示す回路図である。
パワーアンプ1aは、回路30から出力される入力信号Ainを電力増幅し、出力信号を負荷の抵抗Rに供給する。パワーアンプ1aは、アンプ11、12、13、コンデンサーC、抵抗R1、R2、インダクターL1およびL2を有する。
本実施形態において、アンプ11、12および13は、それぞれ、信号を増幅する能力を備えたアンプ である。
【0013】
アンプ11は、その非反転入力(+)に供給される入力信号Ainと、その反転入力(-)に供給される混合ノードMxdからの帰還信号との差分電圧を増幅して第1信号として出力するオペアンプである。アンプ11の出力Ot1は、アンプ12の非反転入力(+)と、コンデンサーCにおける2つの端子のうち、一方の端子に接続される。コンデンサーCにおける他方の端子は、混合ノードMxdに接続される。このオペアンプは、ディスクリート回路、集積回路、または両者の混成で構成される。
【0014】
アンプ12は、その出力の100%の負帰還により、アンプ11からの第1信号を電流増幅して第2信号として出力する、電圧ゲインが「1」の電圧バッファである。アンプ12の出力Ot2は、アンプ13の非反転入力(+)と、抵抗R1における2つの端子のうち、一方の端子に接続される。抵抗R1における他方の端子は、混合ノードMxdに接続される。
【0015】
アンプ13は、その出力の100%の負帰還により、アンプ12からの第2信号を電流増幅して第3信号として出力する、電圧ゲインが「1」の電圧バッファである。アンプ13の出力Ot3は、抵抗R2における2つの端子のうち、一方の端子に接続される。抵抗R2における他方の端子は、インダクターL1における2つの端子のうち、一方の端子に接続される。インダクターL1における他方の端子は、混合ノードMxdとインダクターL2における2つの端子のうち、一方の端子に接続される。
なお、インダクターL1、抵抗R1、およびコンデンサーCは、混合ノードMxdにおける第1信号、第2信号、および第3信号の混合比を決めるクロスオーバー回路を構成し、インダクターL2は、抵抗Rまでのケーブルの浮遊容量に起因した発振防止用に設けられる。
【0016】
混合ノードMxdでは、コンデンサーCを通過したアンプ11からの第1信号と、抵抗R1を通過したアンプ12からの第2信号と、抵抗R2およびインダクターL1を通過したアンプ13からの第3信号とが前記混合比で混合されて、当該混合信号が、アンプ11の反転入力(-)およびインダクターL2に供給される。
換言すれば、混合信号は、インダクターL2を介して抵抗Rに供給されるとともに、アンプ11に負帰還される。すなわち、混合ノードMxdの混合信号がアンプ11の反転入力(-)に帰還されるまでに経路が、帰還回路である。
【0017】
本実施形態では、例えば、コンデンサーCは2.2μFであり、抵抗R1は45Ωであり、抵抗R2は0.11Ωであり、インダクターL1およびL2はそれぞれ5μHであり、抵抗Rは8Ωである。
【0018】
パワーアンプ1aにおいて、アンプ13は、大電流が扱えるよう設計された出力素子を含み、アンプ12はそれより小さい中電流が扱えるよう設計された出力素子を含み、アンプ11は、さらに小さい小電流が扱えるよう設計された出力素子を含む。このため、アンプ12は、アンプ13より高速に動作でき、アンプ11は、アンプ12およびアンプ13より高速に動作できる。
【0019】
パワーアンプ1aでは、大電流を出力する低速なアンプ13と、中電力を出力する高速なアンプ12と、小電流を出力するより高速なアンプ11と、が並列に動作して、それらの出力する第3信号、第2信号、および第1信号が、クロスオーバー回路により帯域に応じてクロスオーバーして出力される。
【0020】
この構成では、高速なアンプ11の後段に、より低速なアンプ12および13が接続される。このうち、前段のアンプ12からの第2信号が、抵抗R1を介して混合ノードMxdに供給され、後段のアンプ13からの第3信号が、抵抗R2およびインダクターL1を介して混合ノードMxdに供給される。
【0021】
本実施形態において、コンデンサーC、抵抗R1およびインダクターL1の値は、次のように定められる。すなわち、抵抗R1を通過したアンプ12からの第2信号のレベルと、インダクターL1を通過したアンプ13からの第3信号のレベルとがクロスする周波数(第1クロスオーバー周波数)が、インダクターL2と負荷である抵抗Rとで定まるロールオフ周波数よりも高くなるように、抵抗R1とインダクターL1の値が定められる。インダクターL2により、第1クロスオーバー周波数において、抵抗Rを流れる負荷電流が、アンプ12の出力素子が扱える最大電流より小さくなる。
また、コンデンサーCを通過したアンプ11からの第1信号のレベルと、抵抗R1を通過したアンプ12からの第2信号のレベルとがクロスする周波数(第2クロスオーバー周波数)が、前記第1クロスオーバー周波数よりも高くなるように、当該コンデンサーCと抵抗R1の値が定められる。インダクターL2により、第2クロスオーバー周波数において、抵抗Rを流れる負荷電流が、アンプ11の出力素子が扱える最大電流より小さくなる。上述した3周波数の具体値として、例えば 、負荷が8Ωの場合のロールオフ周波数を約250kHz、第1クロスオーバー周波数を約1.4MHz、第2クロスオーバー周波数を約1.6MHzとしてもよい。
【0022】
図2は、実施形態に係るパワーアンプ1aにおける開ループゲインの周波数特性を例示する図である。なお、図2では、従来のパワーアンプにおける開ループゲインについても比較のために示される。従来のパワーアンプは、最終段の出力素子が、大電流を扱える低速な素子であり、負帰還を掛けたときに発振するのを防ぐため、高域に向けて6dB/octで減衰するゲインが0dBに達する周波数が約1MHz程度となるように、開ループゲインの周波数応答が制限されている。
【0023】
この図のように、実施形態に係るパワーアンプ1aでは、開ループゲインが0dBまで下がる周波数が約20MHz付近であり、図1のように閉ループゲインを0dBとした場合、約20MHz付近まで負帰還がかかる。同じ周波数で対比すると、パワーアンプ1aでは、従来と比較して、1kHz以上の帯域のフィードバック量が、約26dB増加する、すなわち約20倍になる。実施形態では、このように、高い帯域において満遍なく、従来よりも深い負帰還を掛けられ、負帰還が掛かる帯域の上限も拡大することから、可聴域における電力増幅において、出力波形の電圧歪をより小さくできる。
また、実施形態では、通常の負帰還によって歪み特性を改善するので、従来のフィードフォワードのように回路素子に高い精度が要求されない。このため、実施形態では、可聴帯域の入力信号を増幅するパワーアンプにおいて歪特性などの諸特性を、コストを抑えて改善できる。
【0024】
図1のパワーアンプ1aにおいて、入力信号Ainに対する混合信号の閉ループゲイン は、図2のように、約20MHz付近まで0dB(1倍)である。ただし、これはインダクターL2の手前の混合ノードMxdでの電圧ゲインであり、負荷の抵抗Rにかかる出力信号の電圧ゲインではない。ロールオフ周波数は、20Hz~20kHzの可聴帯域から十分に(50kHz以上)離れているので、可聴帯域について言えば、パワーアンプ1aの入力信号に対する出力信号の電圧ゲインは、その閉ループゲインと同じ値、つまり0dB(1倍)になる。
【0025】
図3は、実施形態に係るパワーアンプ1aの具体例に係るパワーアンプ1bの回路図である。
パワーアンプ1aにおける、電圧増幅率が「1」のバッファアンプ12および13は、その具体例に係るパワーアンプ1bでは、それぞれコンプリメンタリのバイポーラトランジスターを用いたエミッタフォロワで構成される。詳細には、パワーアンプ1bでは、アンプ12が、それぞれコレクタが正負の電源レールに接続されたnpnトランジスターQ2pおよびpnpトランジスターQ2nによるエミッタフォロワで構成され、アンプ13が、それぞれコレクタが正負の電源レールに接続されたnpnトランジスターQ3pおよびpnpトランジスターQ3nによるエミッタフォロワで構成される。
【0026】
図1におけるアンプ11からアンプ12への出力Ot2は、図3では、正側トランジスターQ2pのエミッタ出力Ot2pおよび負側トランジスターQ2nのエミッタ出力Ot2pに相当する。エミッタ出力Ot2pおよびOt2nの間には、抵抗R11およびR12が直列に接続される。そして、抵抗R11およびR12の接続点が混合ノードMxdに接続される。具体例の、抵抗R11およびR12は、図1における抵抗R1と等価である。
同様に、図1における出力Ot3は、図3では、正側トランジスターQ3pのエミッタ出力Ot3pおよび負側トランジスターQ3nのエミッタ出力Ot3nに相当する。エミッタ出力Ot3pおよびOt3nの間には、抵抗R21およびR22が直列に接続される。そして、抵抗R21およびR22の接続点がインダクターL1における一方の端子に接続される。具体例では、抵抗R21およびR22は、図1における抵抗R2と等価である。
【0027】
なお、具体例において、交流的にエミッタ出力Ot2pおよびOtp2nは出力同一の電圧源であり、単一の電圧源と見做せる。抵抗R11およびR12を91Ωとすることで、その単一の電圧源と混合ノードMxdの間に抵抗R1に相当する45.5Ωの抵抗が入る。同様に、交流的にエミッタ出力Ot3pとOt3nは出力同一の電圧源であり、抵抗R21およびR22を0.22Ωとし、インダクターL1を5mHとすることで、単一の電圧源と混合ノードMxdの間に、直列接続された、抵抗R2に相当する0.11オームの抵抗と5mHのインダクターとが入る。このように、図3のパワーアンプ1bは、図1のパワーアンプ1aと等価な具体例である。
【0028】
なお、図3の具体例では、アンプ12および13を、それぞれバイポーラトランジスターによるエミッタフォロワで構成したが、それぞれ電界効果トランジスターによるソースフォロワで構成してもよい。また、エミッタフォロワやソースフォロワには、それぞれダーリントン接続したトランジスターを用いてもよい。
【0029】
図4は、図1のパワーアンプ1aの第1変形例に係るパワーアンプ1cの回路図である。実施形態に係るパワーアンプ1aは、100%の負帰還を掛けた閉ループゲインが「1」(=0dB)の電圧バッファ であったが、第1変形例に係るパワーアンプ1cは、抵抗R3およびR4による100%未満の負帰還で所定のゲインを有する。詳細には、抵抗R3を、アンプ11の反転入力(-)とグランドとの間に接続し、抵抗R4を、アンプ11の反転入力(-)と混合ノードMxdとの間に接続することにより、パワーアンプ1cは、混合ノードMxdにおいて、(R3+R4)/R3の閉ループゲイン(電圧ゲイン)を有する。第1変形例では、デシベルスケールにおける各帯域の帰還量を図1の回路と同じに保つため、負帰還を掛ける前の開ループゲインが、全体域において、図2に示す開ループゲインに比べて、その電圧ゲイン(つまり、(R3+R4)/R3)分だけ高くなるよう、アンプ11が設計される。図1のアンプ11に対して、同等の周波数特性でよりゲインの高い素子を使用する、電圧増幅段の段数を増やす等の改良を加えることにより、図2の開ループゲイン(実施形態)を、その形状をあまり変えることなく、電圧ゲイン分だけ上にシフトできる。その結果、パワーアンプ1bの閉ループゲインの周波数応答は、図1のパワーアンプ1aとほぼ同じになる。例えば、第1変形例において、抵抗R3を1kΩ、抵抗R4を20kΩとすると、パワーアンプ1cの閉ループゲインは21(≒26dB)となる。なお、閉ループゲインが平らな帯域の上限は20MHzのままである。
【0030】
図5は、電圧ゲインを持つパワーアンプ1cをさらに変形した、第2変形例に係るパワーアンプ1dの回路図である。実施形態に係るパワーアンプ1aおよび1cでは アンプ12および13が電圧バッファであったが、図5のように、アンプ11の出力部に電圧バッファ11bを設けてアンプ11aおよび11bの構成とすることで、アンプ11の駆動力を増やしても良い。このうちアンプ11aは、高いゲインを有するオペアンプであり、電圧バッファ11bは、電圧増幅率が「1」である。
なお、第2変形例における受動素子の値は、図4の第1変形例と同様であり、パワーアンプ1dは、上限の周波数帯域の20MHzまで、約26dBの電圧ゲインを有する。オペアンプであるアンプ11aは、アンプ11と同様に、ディスクリート回路、集積回路、または両者の混成で構成される。電圧バッファ11bは、アンプ12および13と同様に、コンプリメンタリのトランジスターによるエミッタフォロワないしソースフォロワで構成される。
【0031】
以上の記載から、例えば以下のように本発明の好適な態様が把握される。
【0032】
本開示のひとつの態様(態様1)に係るパワーアンプは、入力信号を増幅して第1出力から第1信号として出力する第1アンプと、前記第1信号を増幅して第2出力から第2信号として出力する第2アンプと、前記第2信号を増幅して第3出力から第3信号として出力する第3アンプと、前記第1出力と混合ノードとの間に接続されたコンデンサーと、前記第2出力と前記混合ノードとの間に接続された第1抵抗と、前記第3出力と前記混合ノードとの間に接続された第1インダクターと、前記混合ノードと負荷との間に接続された第2インダクターと、前記混合ノードの混合信号を前記第1アンプの入力に負帰還する帰還回路と、を有する。
【0033】
態様1によれば、可聴帯域を越える高い周波数で、従来のパワーアンプより多くの負帰還を安定して掛けられる、可聴帯域における歪特性等の諸特性を改善できる。比較的低速な第3アンプ経由の負帰還では取り切れない高速な歪を、より高速な第2アンプ経由の負帰還で減らし、さらに、その第2アンプでも取り切れないより高速な歪みを、さらに高速な第1アンプ経由の負帰還で減らしている。ここでは、フィードフォワードを用いておらず、回路部品に高い精度を必要としない。
なお、可聴帯域とは、ヒトが聴き取ることができる音の周波数帯域をいい、具体的には、20Hz~20kHzの周波数帯域をいう。第2インダクターは、もともとはパワーアンプの出力から負荷までのケーブルの浮遊容量に起因する発振の防止用であるが、これにより第1アンプや第2アンプの過電流による破壊が防止される。
【0034】
態様1の具体的な態様2は、前記第1抵抗を通過した第2信号と前記第1インダクターを通過した第3信号との第1クロスオーバー周波数が、前記第2インダクターのインダクタンスと前記負荷の抵抗値とで定まるロールオフ周波数よりも高くなるように、前記第1抵抗の抵抗値と前記第1インダクターのインダクタンスとが定められる。
態様2において、第1クロスオーバー周波数では、負荷抵抗より第2インダクターのインピーダンスが大きくなり、また、入力信号には、そのような高い周波数成分がほとんど存在しないので、負荷電流が第2アンプの扱える最大電流を超える可能性は極めて小さい。さらに、ロールオフ周波数と第1クロスオーバー周波数の間を十分にあけることで、確実に、負荷電流を第2アンプの扱える最大電流未満にできる。
【0035】
態様2の具体的な態様3は、前記コンデンサーを通過した第1信号と前記第1抵抗を通過した第2信号との第2クロスオーバー周波数が、前記第1クロスオーバー周波数よりも高くなるように、前記コンデンサーの容量値と前記第1抵抗の抵抗値とが定められる。
第2クロスオーバー周波数を第1クロスオーバー周波数より高くした態様3によれば、第2クロスオーバー周波数において、第1クロスオーバー周波数よりも負荷電流が更に小さくなり、第2アンプより扱える最大電流が小さい第1アンプでも、負荷電流がその最大電流を超える可能性は極めて小さい。
【0036】
態様1の別の具体的な態様4は、前記第2アンプおよび前記第3アンプは、それぞれエミッタフォロワまたはソースフォロワである。第2アンプおよび第3アンプの構成素子がバイポーラトランジスターであれば、エミッタフォロワが好適であり、構成素子が電界効果トランジスターであれば、ソースフォロワが好適である。
【0037】
態様1の別の具体的な態様5は、前記帰還回路による負帰還で、可聴帯域における当該パワーアンプの閉ループゲインが1以上の固定値になる。
態様5によれば、可聴帯域を超える帯域を含む高い周波数帯域でのより多くの負帰還により歪を減らすとともに、可聴帯域を含む全帯域における電圧ゲインを一定にできる。
【符号の説明】
【0038】
1a…パワーアンプ、11…アンプ(第1アンプ)、12…アンプ(第2アンプ)、13…アンプ(第3アンプ)、C…コンデンサー、R1…抵抗(第1抵抗)、L1…インダクター(第1インダクター)、L2…インダクター(第2インダクター)、12…アンプ(第2アンプ)、13…アンプ(第3アンプ)。
図1
図2
図3
図4
図5