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特開2024-25905窒化ジルコニウム粉末、窒化ジルコニウム粉末の製造方法、黒色分散液、黒色ペースト、感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体
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  • 特開-窒化ジルコニウム粉末、窒化ジルコニウム粉末の製造方法、黒色分散液、黒色ペースト、感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体 図1
  • 特開-窒化ジルコニウム粉末、窒化ジルコニウム粉末の製造方法、黒色分散液、黒色ペースト、感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体 図2
  • 特開-窒化ジルコニウム粉末、窒化ジルコニウム粉末の製造方法、黒色分散液、黒色ペースト、感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体 図3
  • 特開-窒化ジルコニウム粉末、窒化ジルコニウム粉末の製造方法、黒色分散液、黒色ペースト、感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025905
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】窒化ジルコニウム粉末、窒化ジルコニウム粉末の製造方法、黒色分散液、黒色ペースト、感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/076 20060101AFI20240220BHJP
   C09C 1/00 20060101ALI20240220BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240220BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240220BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240220BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240220BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20240220BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C01B21/076 G
C09C1/00
C09D17/00
C09D201/00
C09D7/62
C09J201/00
C09J11/04
G03F7/004 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129266
(22)【出願日】2022-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】影山 謙介
(72)【発明者】
【氏名】田口 莉帆
【テーマコード(参考)】
2H225
4J037
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
2H225AN80P
2H225CA18
4J037AA08
4J037CA08
4J037CA12
4J037CA18
4J037DD07
4J037EE03
4J037EE43
4J037FF22
4J038EA011
4J038HA166
4J038HA316
4J038KA08
4J038MA09
4J038NA01
4J038NA19
4J038PB08
4J040HA136
4J040HA206
4J040JA05
4J040JB08
4J040KA42
4J040LA10
4J040NA17
(57)【要約】
【課題】可視光の遮蔽性に優れ、可視光以外の光の透過性が高く、かつ耐湿性が良好な窒化ジルコニウム粉末とその製造方法、並びに可視光の遮蔽性に優れ、可視光以外の光の透過性が高い黒色分散液、黒色ペーストおよび可視光の遮蔽性に優れ、可視光以外の光の透過性が高く、かつ耐湿性が良好な感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体を提供する。
【解決手段】窒化ジルコニウム粉末は、アルミニウム含有化合物および亜鉛含有化合物を含み、アルミニウムの含有率が0.5質量%以上10.0質量%の範囲内にあって、亜鉛の含有率が0.2質量%以上2.0質量%以下の範囲内にあり、BET法により測定されるBET比表面積が30m/g以上100m/g以下の範囲内にあって、L値が11.1以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム含有化合物および亜鉛含有化合物を含み、アルミニウムの含有率が0.5質量%以上10.0質量%の範囲内にあって、亜鉛の含有率が0.2質量%以上2.0質量%以下の範囲内にあり、
BET法により測定されるBET比表面積が30m/g以上100m/g以下の範囲内にあって、L値が11.1以下である窒化ジルコニウム粉末。
【請求項2】
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに粉末濃度50ppmとなるように分散させた分散液の光透過スペクトルにおいて、波長365nmの光透過率T365が25%以上であって、波長550nmの光透過率T550が8%以下であり、前記波長550nmの光透過率T550に対する前記波長365nmの光透過率T365の比T365/T550が4.0以上である請求項1に記載の窒化ジルコニウム粉末。
【請求項3】
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに粉末濃度50ppmとなるように分散させた分散液の光透過スペクトルにおいて、波長550nmの光透過率T550が8%以下であって、波長1200nmの光透過率T1200が35%以上であり、前記波長550nmの光透過率T550に対する前記波長1200nmの光透過率T1200の比T1200/T550が6.0以上である請求項1または2に記載の窒化ジルコニウム粉末。
【請求項4】
BET法により測定されるBET比表面積が30m/g以上100m/g以下の範囲内にある酸化ジルコニウム粉末と、前記酸化ジルコニウム粉末の表面に付着したアルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体とを含有し、アルミニウムの含有率が0.5質量%以上10.0質量%の範囲内にあって、亜鉛の含有率が0.2質量%以上2.0質量%以下の範囲内にある表面被覆酸化ジルコニウム粉末を用意する用意工程と、
前記表面被覆酸化ジルコニウム粉末と、前記表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対して2.0モル以上6.0モルの金属マグネシウム粉末と、前記表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対して0.3モル以上5.0モル以下の酸化マグネシウム粉末とを混合して、粉末混合物を調製する混合工程と、
前記粉末混合物を、窒素ガス雰囲気下で焼成する焼成工程と、を含む窒化ジルコニウム粉末の製造方法。
【請求項5】
前記用意工程が、水と、前記水に分散された酸化ジルコニウム粉末と、前記水に溶解されたアルミニウムおよび亜鉛とを含む酸化ジルコニウムスラリーにアルカリまたは酸を加えて、アルミニウムと亜鉛とを含む水酸化物を生成させて酸化ジルコニウム粉末の表面に付着させる工程を含む請求項4に記載の窒化ジルコニウム粉末の製造方法。
【請求項6】
前記用意工程が、BET法により測定されるBET比表面積が30m/g以上100m/g以下の範囲内にある酸化ジルコニウム粉末と、アルミニウム含有化合物前駆体粉末と、亜鉛含有化合物前駆体粉末とを混合して、前記アルミニウム含有化合物前駆体粉末と前記亜鉛含有化合物前駆体粉末とを前記酸化ジルコニウム粉末の表面に付着させる工程を含む請求項4に記載の窒化ジルコニウム粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の窒化ジルコニウム粉末と、溶媒またはモノマー化合物とを含む黒色分散液。
【請求項8】
請求項7に記載の黒色分散液と、有機高分子化合物とを含む黒色ペースト。
【請求項9】
請求項1または2に記載の窒化ジルコニウム粉末を含む感光性黒色膜形成用組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の窒化ジルコニウム粉末を含む紫外線硬化型黒色接着剤。
【請求項11】
請求項1または2に記載の窒化ジルコニウム粉末を含む黒色膜。
【請求項12】
請求項1または2に記載の窒化ジルコニウム粉末を含む黒色成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ジルコニウム粉末、窒化ジルコニウム粉末の製造方法、黒色分散液、黒色ペースト、感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性の黒色顔料は、感光性樹脂に分散されて黒色感光性組成物に調製され、この組成物を基板に塗布してフォトレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィー法でフォトレジスト膜に露光してパターニング膜を形成することで、液晶ディスプレイのカラーフィルター等の画像形成素子のブラックマトリックス、イメージセンサー、カメラモジュール、センサー内部の遮光膜等に用いられる。また、黒色顔料を感光性樹脂に分散することにより調製される黒色感光性組成物は、黒色の感光性接着剤、塗膜形成材、成型物形成材として液晶パネルのシール材、額縁材、表面着色フィルム、各種デバイス内部を着色、ないしは遮蔽する目的で使用するカバーレイフィルム、遮光フィルム、調色フィルム、アンダーフィル材、ソルダーレジスト、黒色接着剤、樹脂成型物を黒色化する各種表示装置の筐体、車載機器、民生用電子機器の筐体等幅広い用途に使用される。
【0003】
従来、アルミナにより被覆され、体積抵抗率が1×10Ω・cm以上であり、アルミナによる被覆量が窒化ジルコニウム100質量%に対して1.5質量%~9質量%であり、等電点が5.7以上である窒化ジルコニウム粉末が開示されている(特許文献1(請求項1、段落[0006])参照。)。特許文献1には、この窒化ジルコニウム粉末がアクリル樹脂等との相溶性を向上でき、またガスバリア性と相まって耐湿性も向上できることが記載されている。
【0004】
一方、ZrNと、AlおよびTiのうち少なくとも1つとが複合化されたことを特徴とする複合粒子が開示されている(特許文献2(請求項1、段落[0007])参照。)。特許文献2には、この複合粒子が可視光領域において透過率がより低い、すなわち、可視光領域において遮光性がより高い光学特性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-158377号公報
【特許文献2】国際公開第2019/124100号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
感光性樹脂組成物の黒色顔料として用いられる窒化ジルコニウム粉末は、可視光の遮蔽性に優れ、可視光以外の光の透過性が高いことが好ましい。しかしながら、特許文献1に記載されたアルミナにより被覆された窒化ジルコニウム粉末も、特許文献2に記載されたZrNと、Alとが複合化された粒子も、黒色顔料として黒色パターニングを形成するときに、依然として、可視光の透過率が低くなく、即ち、可視光線の遮蔽性が十分に高くない課題があった。また、窒化ジルコニウム粉末は長期間にわたって変質しないことが好ましい。しかしながら、窒化ジルコニウム粉末は水分と反応しやすく、さらになる耐湿性の改善が望まれている。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、可視光の遮蔽性に優れ、可視光以外の光の透過性が高く、かつ耐湿性が良好な窒化ジルコニウム粉末とその製造方法、並びに可視光の遮蔽性に優れ、可視光以外の光の透過性が高い黒色分散液、黒色ペーストおよび可視光の遮蔽性に優れ、可視光以外の光の透過性が高く、かつ耐湿性が良好な感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の態様1の窒化ジルコニウム粉末は、アルミニウム含有化合物および亜鉛含有化合物を含み、アルミニウムの含有率が0.5質量%以上10.0質量%の範囲内にあって、亜鉛の含有率が0.2質量%以上2.0質量%以下の範囲内にあり、BET法により測定されるBET比表面積が30m/g以上100m/g以下の範囲内にあって、L値が11.1以下である構成とされている。
【0009】
本発明の態様1の窒化ジルコニウム粉末によれば、アルミニウムの含有率が0.5質量%以上10.0質量%の範囲内にあって、亜鉛の含有率が0.2質量%以上2.0質量%以下の範囲内にあるので、可視光の遮光性に優れ、かつ耐湿性が良好となる。また、BET法により測定されるBET比表面積が30m/g以上100m/g以下の範囲内にあって、L値が11.1以下であるので、紫外光および赤外光の透過率が向上する。
【0010】
本発明の態様2は、態様1の窒化ジルコニウム粉末において、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに粉末濃度50ppmとなるように分散させた分散液の光透過スペクトルにおいて、波長365nmの光透過率T365が25%以上であって、波長550nmの光透過率T550が8%以下であり、前記波長550nmの光透過率T550に対する前記波長365nmの光透過率T365の比T365/T550が4.0以上である構成とされている。
本発明の態様2の窒化ジルコニウム粉末によれば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに粉末濃度50ppmとなるように分散させた分散液の光透過スペクトルにおいて、波長365nmの光透過率T365が25%以上であって、波長550nmの光透過率T550が8%以下であり、前記波長550nmの光透過率T550に対する前記波長365nmの光透過率T365の比T365/T550が4.0以上であるので、可視光の遮光性が高く、紫外光の透過性が高い。
【0011】
本発明の態様3は、態様1または態様2の窒化ジルコニウム粉末において、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに粉末濃度50ppmとなるように分散させた分散液の光透過スペクトルにおいて、波長550nmの光透過率T550が8%以下であって、波長1200nmの光透過率T1200が35%以上であり、前記波長550nmの光透過率T550に対する前記波長1200nmの光透過率T1200の比T1200/T550が6.0以上である構成とされている。
本発明の態様3の窒化ジルコニウム粉末によれば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに粉末濃度50ppmとなるように分散させた分散液の光透過スペクトルにおいて、波長550nmの光透過率T550が8%以下であって、波長1200nmの光透過率T1200が35%以上であり、前記波長550nmの光透過率T550に対する前記波長1200nmの光透過率T1200の比T1200/T550が6.0以上であるので、可視光の遮光性が高く、赤外光の透過性が高い。
【0012】
本発明の態様4の窒化ジルコニウム粉末の製造方法は、BET法により測定されるBET比表面積が30m/g以上100m/g以下の範囲内にある酸化ジルコニウム粉末と、前記酸化ジルコニウム粉末の表面に付着したアルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体とを含有し、アルミニウムの含有率が0.5質量%以上10.0質量%の範囲内にあって、亜鉛の含有率が0.2質量%以上2.0質量%以下の範囲内にある表面被覆酸化ジルコニウム粉末を用意する用意工程と、前記表面被覆酸化ジルコニウム粉末と、前記表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対して2.0モル以上6.0モルの金属マグネシウム粉末と、前記表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対して0.3モル以上5.0モル以下の酸化マグネシウム粉末とを混合して、粉末混合物を調製する混合工程と、前記粉末混合物を、窒素ガス雰囲気下で焼成する焼成工程と、を含む構成とされている。
【0013】
本発明の窒化ジルコニウム粉末の製造方法によれば、窒化ジルコニウム源として、用意工程で用意された表面に付着したアルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体とを含有する表面被覆酸化ジルコニウム粉末を用いるので、焼成工程での焼成によって、表面にアルミニウム含有化合物および亜鉛含有化合物が付着し、アルミニウムの含有率が0.5質量%以上10.0質量%の範囲内にある窒化ジルコニウム粉末を生成させることができる。また、焼成工程での焼成によって生成する窒化ジルコニウム粉末は、表面にアルミニウム含有化合物および亜鉛含有化合物が付着しているので、焼成工程において焼結しにくく、BET比表面積が30m/g以上100m/g以下の範囲内にあって、L値が11.1以下である窒化ジルコニウム粉末を生成させることができる。よって、本発明の窒化ジルコニウム粉末の製造方法によれば、上述の窒化ジルコニウム粉末を効率よく製造することができる。
【0014】
本発明の態様5は、態様4の窒化ジルコニウム粉末の製造方法において、前記用意工程が、水と、前記水に分散された酸化ジルコニウム粉末と、前記水に溶解されたアルミニウムおよび亜鉛とを含む酸化ジルコニウムスラリーにアルカリまたは酸を加えて、アルミニウムと亜鉛とを含む水酸化物を生成させて酸化ジルコニウム粉末の表面に付着させる工程を含む構成とされている。
この場合、アルミニウムおよび亜鉛を水に溶解もしくは分散させるので、窒化ジルコニウム粉末の表面に均一にアルミニウムと亜鉛とを含む水酸化物を付着させることができる。このため、得られる窒化ジルコニウム粉末は、表面にアルミニウム含有化合物および亜鉛含有化合物が均一に付着するので、耐湿性がより向上する。
【0015】
本発明の態様6は、態様4の窒化ジルコニウム粉末の製造方法において、前記用意工程が、前記酸化ジルコニウム粉末と、アルミニウム含有化合物前駆体粉末と、亜鉛含有化合物前駆体粉末とを混合して、前記アルミニウム含有化合物前駆体粉末と前記亜鉛含有化合物前駆体粉末とを前記酸化ジルコニウム粉末の表面に付着させる工程を含む構成されている。
この場合、水を使用せずに、表面被覆酸化ジルコニウム粉末を得ることができる。このため、表面被覆酸化ジルコニウム粉末の製造コストが安価になる。
【0016】
本発明の態様7の黒色分散液は、態様1ないし態様3のいずれか一つの窒化ジルコニウム粉末と、溶媒またはモノマー化合物とを含む構成とされている。
本発明の黒色分散液によれば、態様1ないし態様3のいずれか一つの窒化ジルコニウム粉末を含むことにより、窒化ジルコニウムが紫外線を透過し、可視光線を遮蔽するとともに、赤外線を透過する特長がある。この結果、この黒色分散液は黒色パターニング膜形成用材料として好適に用いることができる。
【0017】
本発明の態様8の黒色ペーストは、態様7の黒色分散液と、有機高分子化合物とを含む構成とされている。
本発明の黒色ペーストによれば、態様7の黒色分散液を含むため、この黒色ペーストを用いて形成した黒色パターニング膜は紫外線透過率が高い。よって、光開始剤の使用量を減らしても高解像度のパターニング膜を形成することができる。また黒色ペーストは赤外線透過率が高いため、カラーフィルターを構成するブラックマトリックスをパターニングする際の位置合わせを、赤外線を用いることによって精度よく行うことができる。
【0018】
本発明の態様9の感光性黒色膜形成用組成物は、態様1ないし態様3のいずれか一つの窒化ジルコニウム粉末を含む構成とされている。
本発明の感光性黒色膜形成用組成物によれば、態様1ないし態様3のいずれか一つの窒化ジルコニウム粉末を含むため、この感光性黒色膜形成用組成物を用いて形成した膜は紫外線透過率が高い。よって、光開始剤の使用量を減らしても高解像度の黒色膜を形成することができる。また感光性黒色膜形成用組成物は赤外線透過率が高いため、感光性黒色膜形成用組成物をパターニングする際の位合わせを、赤外線を用いることによって精度よく行うことができる。
【0019】
本発明の態様10の紫外線硬化型黒色接着剤は、態様1ないし態様3のいずれか一つの窒化ジルコニウム粉末を含む構成とされている。
本発明の紫外線硬化型黒色接着剤は、態様1ないし態様3のいずれか一つの窒化ジルコニウム粉末を含むため、紫外線透過率が高い。よって、光開始剤の使用量を減らしても高い接着力を有する。また、本発明の紫外線硬化型黒色接着剤は赤外線透過率が高いため、紫外線硬化型黒色接着剤を塗布する際の位合わせを、赤外線を用いることによって精度よく行うことができる。
【0020】
本発明の態様11の黒色膜は、態様1ないし態様3のいずれか一つの窒化ジルコニウム粉末を含む構成とされている。
本発明の黒色膜は、態様1ないし態様3のいずれか一つの窒化ジルコニウム粉末を含むので、低い紫外線照射量で成膜できるとともに、赤外線を吸収しにくいため蓄熱性が低減され、赤外線を含む光の照射によって黒色膜自体の温度が高温になりにくいという利点を有する。
【0021】
本発明の態様12の黒色成形体は、態様1ないし態様3のいずれか一つの窒化ジルコニウム粉末を含む構成とされている。
本発明の黒色成形体は、態様1ないし態様3のいずれか一つの窒化ジルコニウム粉末を含むので、低い紫外線照射量で形成できるとともに、赤外線を吸収しにくいため蓄熱性が低減され、赤外線を含む光の照射によって黒色成形体自体の温度が高温になりにくいという利点を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、可視光の遮蔽性に優れ、可視光以外の光の透過性が高く、かつ耐湿性が良好な窒化ジルコニウム粉末とその製造方法、並びに可視光の遮蔽性に優れ、可視光以外の光の透過性が高い黒色分散液、黒色ペーストおよび可視光の遮蔽性に優れ、可視光以外の光の透過性が高く、かつ耐湿性が良好な感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る窒化ジルコニウム粉末に含まれる粒子の断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る窒化ジルコニウム粉末の製造方法のフロー図である。
図3】アルミニウム含有化合物前駆体として、水溶性アルミニウム塩を用い、亜鉛化合物前駆体として、水溶性亜鉛塩を用いる表面被覆酸化ジルコニウム粉末の製造方法のフロー図である。
図4】アルミニウム含有化合物前駆体として、水溶性アルミニウム化合物を用い、亜鉛化合物前駆体として、亜鉛、水溶性亜鉛化合物を用いる表面被覆酸化ジルコニウム粉末の製造方法のフロー図である。
図5】本発明例1および比較例1で得られた窒化ジルコニウム粉末を用いて調製した光透過率測定用の分散液の光透過スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
【0025】
[窒化ジルコニウム粉末]
図1は、本発明の一実施形態に係る窒化ジルコニウム粉末に含まれる粒子の断面図である。
図1に示すように、窒化ジルコニウム粒子10は、核粒子11と被覆部12とを含む。核粒子11は、窒化ジルコニウムからなる。被覆部12は、アルミニウム含有化合物または亜鉛含有化合物、アルミニウム含有化合物と亜鉛含有化合物とを含む混合物である。アルミニウム含有化合物は、例えば、アルミニウムの酸化物、窒化物、酸窒化物である。亜鉛含有化合物は、例えば、亜鉛の酸化物、窒化物、酸窒化物である。被覆部12に含まれるアルミニウム含有化合物は1種単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。また、被覆部12に含まれる亜鉛含有化合物は1種単独であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0026】
窒化ジルコニウム粉末のアルミニウムの含有率は、0.5質量%以上10.0質量%の範囲内とされている。アルミニウムの含有率は、窒化ジルコニウム粉末の全量を100質量%とした値である。アルミニウムの含有率が少なくなりすぎると、耐湿性が低下するおそれがある。アルミニウムの含有率が多くなりすぎると、可視光の透過率が高くなるおそれがある。アルミニウムの含有率は0.7質量%以上6.0質量%以下の範囲内にあることが好ましく、1.0質量%以上4.5質量%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0027】
窒化ジルコニウム粉末の亜鉛の含有率は、0.2質量%以上2.0質量%以下の範囲内とされている。亜鉛の含有率は、窒化ジルコニウム粉末の全量を100質量%とした値である。亜鉛の含有率が少なくなりすぎると、可視光の透過率が高くなるおそれがある。亜鉛の含有率が多くなりすぎると、可視光の透過率が高くなるおそれがある。亜鉛の含有率は0.3質量%以上1.4質量%以下の範囲内にあることが好ましく、0.4質量%以上1.0質量%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0028】
窒化ジルコニウム粉末の表面におけるアルミニウム含有化合物及び亜鉛含有化合物の付着の有無は走査型透過電子顕微鏡(STEM)及びエネルギー分散型X線分析法(EDS)を用いて確認する。具体的には、この有無の確認は、STEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Titan G2 ChemiSTEM)を用いて、倍率10000倍から200000倍のうち、粒子が1~5個確認できる倍率に設定し、加速電圧200kVの条件で粒子外観の観察により行う。更に、この有無の確認は、同じ視野において、EDS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Velox)を用いて、アルミニウム元素、亜鉛元素、ジルコニウム元素、酸素元素、窒素元素について元素マッピングを行い、アルミニウム系組成物と亜鉛系組成物と窒化ジルコニウムの判別により行う。簡易的には、粒子外観の観察時に、高角環状暗視野(HAADF:High-Angle Annular Dark Field)像におけるアルミニウム元素と亜鉛元素とジルコニウム元素のコントラスト差からも、アルミニウム含有化合物と亜鉛含有化合物と窒化ジルコニウムとを判別することが可能である。
【0029】
窒化ジルコニウム粉末のアルミニウムおよび亜鉛の含有率は、窒化ジルコニウム粉末を酸で溶解し、得られた溶液のアルミニウムおよび亜鉛の含有量を、誘導結合プラズマ発光分析装置により測定することによって得ることができる。
【0030】
窒化ジルコニウム粉末のBET法により測定されるBET比表面積は、30m/g以上100m/g以下の範囲内とされている。BET比表面積が小さくなりすぎると、粗大粒子の含有量が多くなり、紫外光の透過率および赤外光の透過率が低下するおそれがある。BET比表面積が大きくなりすぎると、微細粒子の含有量が多くなり、耐湿性が低下するおそれがある。BET比表面積は30m/g以上75m/g以下の範囲内にあることが好ましく、30m/g以上55m/g以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0031】
窒化ジルコニウム粉末のL値は11.1以下とされている。L値は、Lab色空間におけるL値を表す。L値は、窒化ジルコニウム粉末の粒度を指標する。L値が大きくなりすぎると、粗大粒子の含有量が多くなり、紫外光の透過率および赤外光の透過率が低下するおそれがある。L値は10.5未満であることが好ましい。
【0032】
さらに、窒化ジルコニウム粉末は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)に粉末濃度50ppmとなるように分散させた分散液の光透過スペクトルにおいて、波長365nmの光透過率T365が25%以上であって、波長550nmの光透過率T550が8%以下であり、波長550nmの光透過率T550に対する波長365nmの光透過率T365の比T365/T550が4.0以上であることが好ましい。分散液は、例えば、窒化ジルコニウム粉末を循環式横型ビーズミルに各別に入れ、アミン系分散剤を添加して、PGM-Ac溶媒中での分散処理を行い、得られた分散液をPGM-Acで希釈して粉末濃度を50ppmに調整することによって調製することができる。循環式横型ビーズミルの粉砕メディアとしては、例えばジルコニアビーズを用いることができる。分散液の光透過スペクトルは、分散液を光路長さ1cmのセルに入れて分光光度計を用いて測定することができる。波長365nmの光透過率T365は25%以上であることが好ましく、35%以下であってもよい。比T365/T550は4.0以上であることが好ましく、47.0以下であってもよい。尚、ここでの分散液の光透過スペクトルは、分散液中の窒化ジルコニウムが所定の分散状態で分散されたときの測定結果であってもよい。窒化ジルコニウムを所定の分散状態となるように分散させることによって、一定の条件で光透過スペクトルを測定することができるので、得られる光透過スペクトルの精度が向上する。窒化ジルコニウムの分散状態は、例えば動的光散乱法などによる粒度分布測定により判定してもよい。所定の分散状態としては、粒度分布測定によって測定された窒化ジルコニウムの平均粒子径が120nmを下回っている状態としてもよい。
【0033】
また、窒化ジルコニウム粉末は、PGM-Acに粉末濃度50ppmとなるように分散させた分散液の光透過スペクトルにおいて、波長550nmの光透過率T550が8%以下であって、波長1200nmの光透過率T1200が35%以上であり、波長550nmの光透過率T550に対する波長1200nmの光透過率T1200の比T1200/T550が6.0以上であることが好ましい。波長1200nmの光透過率T1200は35%以上であることが好ましく、45%以下であってもよい。比T1200/T550は6.0以上であることが好ましく、12.0以下であってもよい。
【0034】
以上のような構成された本実施形態の窒化ジルコニウム粉末によれば、アルミニウムおよび亜鉛の含有率が上記の範囲内にあるので、可視光の遮光性に優れ、かつ耐湿性が良好となる。また、BET比表面積が上記の範囲内にあって、L値が上記の値であるので、紫外光および赤外光の透過率が向上する。
【0035】
また、本実施形態の窒化ジルコニウム粉末において、PGM-Acに粉末濃度50ppmとなるように分散させた分散液の光透過スペクトルにおいて、波長365nmの光透過率T365が25%以上であって、波長550nmの光透過率T550が8%以下であり、波長550nmの光透過率T550に対する波長365nmの光透過率T365の比T365/T550が4.0以上である場合は、可視光の遮光性が高く、紫外光の透過性が高い。
【0036】
さらに、本実施形態の窒化ジルコニウム粉末において、PGM-Acに粉末濃度50ppmとなるように分散させた分散液の光透過スペクトルにおいて、波長550nmの光透過率T550が8%以下であって、波長1200nmの光透過率T1200が35%以上であり、波長550nmの光透過率T550に対する波長1200nmの光透過率T1200の比T1200/T550が6.0以上である場合は、可視光の遮光性が高く、赤外光の透過性が高い。
【0037】
[窒化ジルコニウム粉末の製造方法]
図2は、本発明の一実施形態に係る窒化ジルコニウム粉末の製造方法のフロー図である。
図2に示すように、窒化ジルコニウム粉末の製造方法は、用意工程S01と、混合工程S02と、焼成工程S03と、洗浄工程S04とを含む。
【0038】
(用意工程S01)
用意工程S01では、酸化ジルコニウム粉末と、酸化ジルコニウム粉末の表面に付着したアルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体とを含有する表面被覆酸化ジルコニウム粉末を用意する。酸化ジルコニウム粉末は、BET法により測定されるBET比表面積が30m/g以上100m/g以下の範囲内にある。表面被覆酸化ジルコニウム粉末のアルミニウムの含有率は、表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム含有率を100質量%とし、アルミニウムを酸化アルミニウムとしたときの値として0.5質量%以上0.19質量%の範囲内にある。表面被覆酸化ジルコニウム粉末の亜鉛の含有率は、表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム含有率を100質量%とし、亜鉛を酸化亜鉛としたときの値として2.5質量%以上10質量%以下の範囲内にある。
【0039】
酸化ジルコニウム粉末は、BET法により測定される比表面積が30m/g以上100m/g以下の範囲内にある。酸化ジルコニウム粉末としては、例えば、単斜晶系二酸化ジルコニウム、立方晶系二酸化ジルコニウム、イットリウム安定化二酸化ジルコニウム等の二酸化ジルコニウムの粉末を用いることができる。これらの酸化ジルコニウム粉末の中では、窒化ジルコニウム粉末の生成率が高くなる観点から、単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末が好ましい。酸化ジルコニウムには通常不可避不純物としてハフニウムが2質量%程度含有されるが、2質量%のレベルであれば生成物の光学特性に影響は及ぼさない。
【0040】
表面被覆酸化ジルコニウム粉末の製造方法としては、例えば、水を用いる湿式法、水を用いない乾式法とを用いることができる。
湿式法としては、水と、水に分散された酸化ジルコニウム粒子と、水に溶解されたアルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛化合物前駆体とを含む酸化ジルコニウムスラリーにアルカリまたは酸を加えて、アルミニウム含有化合物前駆体と亜鉛含有化合物前駆体とを含む難水溶性化合物を析出させ、その難水溶性化合物を酸化ジルコニウム粒子の表面に付着させる工程を含む方法を用いることができる。
【0041】
湿式法において、アルミニウム含有化合物前駆体としては、金属アルミニウム、水溶性アルミニウム塩、水溶性アルミニウム化合物を用いることができる。亜鉛含有化合物前駆体としては、金属亜鉛、水溶性亜鉛塩、水溶性亜鉛化合物を用いることができる。以下、アルミニウム含有化合物前駆体として、金属アルミニウム、水溶性アルミニウム塩を用い、亜鉛含有化合物前駆体として、水溶性亜鉛塩を用いる表面被覆酸化ジルコニウム粉末の製造方法を、被覆処理(A)と呼び、アルミニウム含有化合物前駆体として、水溶性アルミニウム化合物を用い、亜鉛含有化合物前駆体として、金属亜鉛、水溶性亜鉛化合物を用いる表面被覆酸化ジルコニウム粉末の製造方法を、被覆処理(B)と呼ぶ。
【0042】
図3は、被覆処理(A)のフロー図である。
図3に示す被覆処理(A)は、第1溶解工程S11、第2溶解工程S12、分散処理工程S13、混合工程S14、アルカリ添加工程S15、固液分離工程S16、乾燥工程S17を含む。
【0043】
第1溶解工程S11は、イオン交換水に、水溶性アルミニウム塩を加えて溶解させる工程である。水溶性アルミニウム塩としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、あらかじめ塩酸に溶解させた金属アルミニウムを用いることができる。第2溶解工程S12は、水溶性アルミニウム塩を溶解させたイオン交換水に、水溶性亜鉛塩を加えて溶解させる工程である。水溶性亜鉛塩としては、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、あらかじめ塩酸に溶解させた金属亜鉛を用いることができる。
第1溶解工程S11と第2溶解工程S12により、酸性のアルミニウム・亜鉛水溶液が得られる。なお、第1溶解工程と第2溶解工程とは順序を変えてもよいし、同時に行なってもよい。
【0044】
分散処理工程S13は、酸化ジルコニウム粉末をイオン交換水に分散させる工程である。分散処理工程S13により、弱アルカリ性の酸化ジルコニウムスラリーが得られる。
【0045】
混合工程S14は、酸化ジルコニウムスラリーとアルミニウム・亜鉛水溶液とを混合する工程である。混合工程により、酸性のアルミニウム・亜鉛含有酸化ジルコニウムスラリーが得られる。
【0046】
アルカリ添加工程S15は、アルミニウム・亜鉛含有酸化ジルコニウムスラリーにアルカリを添加して、アルミニウム含有化合物前駆体と亜鉛含有化合物前駆体を含む難水溶性化合物を析出させて、酸化ジルコニウム粒子の表面に付着させる工程である。アルカリとしては、アンモニア水、水酸化ナトリウムを用いることができる。アルカリ添加後のスラリーのpHは、8.0以上8.7以下の範囲内にあることが好ましい。
【0047】
固液分離工程S16は、難水溶性化合物が付着した表面被覆酸化ジルコニウム粒子を分離回収する工程である。表面被覆酸化ジルコニウム粒子の分離回収方法は、特に制限はなく、ろ過、デカンテーション、遠心分離などの方法を用いることができる。回収した表面被覆酸化ジルコニウム粒子は、水洗してもよい。
【0048】
乾燥工程S17は、表面被覆酸化ジルコニウム粒子を乾燥して、表面被覆酸化ジルコニウム粉末を得る工程である。表面被覆酸化ジルコニウム粒子の乾燥方法は、特に制限はなく、加熱乾燥法、熱風乾燥法、真空乾燥法などの方法を用いることができる。
【0049】
図4は、被覆処理(B)のフロー図である。
図4に示す被覆処理(B)は、第1溶解工程S21、第2溶解工程S22、分散処理工程S23、混合工程S24、アルカリ添加工程S25、固液分離工程S26、乾燥工程S27を含む。
【0050】
第1溶解工程S21は、イオン交換水に、水溶性アルミニウム化合物を加えて溶解させる工程である。水溶性アルミニウム化合物としては、水酸化アルミニウム、アルミン酸塩(アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム)、あらかじめ水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた金属アルミニウムを用いることができる。第2溶解工程S22は、水溶性アルミニウム化合物を溶解させたイオン交換水に、亜鉛もしくは水溶性亜鉛化合物を加えて溶解させる工程である。水溶性亜鉛化合物としては、水酸化亜鉛、あらかじめ水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた金属亜鉛を用いることができる。
第1溶解工程と第2溶解工程により、弱アルカリ性のアルミニウム・亜鉛水溶液が得られる。なお、第1溶解工程と第2溶解工程とは順序を変えてもよいし、同時に行なってもよい。
【0051】
分散処理工程S23は、酸化ジルコニウム粉末をイオン交換水に分散させる工程である。分散処理工程S23は、被覆処理(A)の分散処理工程S13と同様である。
【0052】
混合工程S24は、酸化ジルコニウムスラリーとアルミニウム・亜鉛水溶液とを混合する工程である。混合工程により、弱アルカリ性のアルミニウム・亜鉛含有酸化ジルコニウムスラリーが得られる。
【0053】
アルカリ添加工程S15は、アルミニウム・亜鉛含有酸化ジルコニウムスラリーに塩酸を添加して、アルミニウム含有化合物前駆体と亜鉛化合物前駆体を含む難水溶性化合物を析出させて、酸化ジルコニウム粒子の表面に付着させる工程である。塩酸添加後のスラリーのpHは、8.0以上8.7以下の範囲内にあることが好ましい。
【0054】
固液分離工程S26は、難水溶性化合物が付着した表面被覆酸化ジルコニウム粒子を分離回収する工程であり、乾燥工程S27は、表面被覆酸化ジルコニウム粒子を乾燥して、表面被覆酸化ジルコニウム粉末を得る工程である。これらの工程は、被覆処理(A-1)の固液分離工程S16および乾燥工程S17と同様である。
【0055】
乾式法としては、酸化ジルコニウム粉末と、アルミニウム含有化合物前駆体粉末と、亜鉛含有化合物前駆体粉末とを混合して、アルミニウム含有化合物前駆体粉末と亜鉛含有化合物前駆体粉末とを酸化ジルコニウム粉末の表面に付着させる工程を含む方法を用いることができる。アルミニウム含有化合物前駆体粉末は、窒素ガス雰囲気での焼成によって、アルミニウムの酸化物、窒化物、酸窒化物を生成する化合物粉末を用いることができる。アルミニウム含有化合物前駆体粉末としては、例えば、金属アルミニウム粉末、塩化アルミニウム粉末、硝酸アルミニウム粉末、硫酸アルミニウム粉末、炭酸アルミニウム粉末、水酸化アルミニウム粉末、酸化アルミニウム粉末、アルミン酸塩粉末を用いることができる。亜鉛含有化合物前駆体粉末は、窒素ガス雰囲気での焼成によって、亜鉛の酸化物、窒化物、酸窒化物を生成する化合物粉末を用いることができる。亜鉛含有化合物前駆体粉末としては、例えば、金属亜鉛粉末、塩化亜鉛粉末、硝酸亜鉛粉末、硫酸亜鉛粉末、炭酸亜鉛粉末を用いることができる。アルミニウム含有化合物前駆体粉末及び亜鉛含有化合物前駆体粉末の粒径は、酸化ジルコニウム粉末より微細であってもよい。
【0056】
(混合工程S02)
混合工程S02では、用意工程S01で用意した表面被覆酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、酸化マグネシウム粉末とを混合して、粉末混合物を調製する。
【0057】
金属マグネシウム粉末は、焼成工程S03において、表面被覆酸化ジルコニウム粉末を還元しやすくして、窒化ジルコニウム粉末を生成しやすく効果がある。金属マグネシウム粉末は、粒径が小さすぎると、反応が急激に進行して操作上危険性が高くなるので、粒径が篩のメッシュパスで100μm以上1000μm以下の粒状のものが好ましく、特に200μm以上500μm以下の粒状のものが好ましい。ただし、金属マグネシウム粉末は、すべて上記粒径範囲内になくても、その80質量%以上、特に90質量%以上が上記範囲内にあればよい。
【0058】
表面被覆酸化ジルコニウム粉末に対する金属マグネシウム粉末の添加量の多寡は、酸化ジルコニウムへの還元力に影響を与える。金属マグネシウムの量が少なくなりすぎると、還元不足で目的とする窒化ジルコニウム粉末が得られにくくなり、多くなりすぎると、過剰な金属マグネシウムにより反応温度が急激に上昇し、粉末の粒成長を引き起こすおそれがあるとともに不経済となる。金属マグネシウム粉末の添加量は、表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対して2.0モル以上6.0モル以下の割合になる量である。金属マグネシウム粉末の添加量が少なくなりすぎると、表面被覆酸化ジルコニウム粉末に対する還元力が不足するおそれがある。金属マグネシウム粉末の添加量が多くなりすぎると、過剰な金属マグネシウム粉末の存在により反応温度が急激に上昇しやすくなり、粉末の粒成長を引き起こすおそれがあるとともに不経済となる。表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対する金属マグネシウム粉末の添加量は、2.0モル以上5.0モル以下の範囲内にあることが好ましい。
【0059】
酸化マグネシウム粉末は、焼成工程S03において、表面被覆酸化ジルコニウム粉末の還元反応により生成する窒化ジルコニウム粉末の焼結を防止するためのものである。酸化マグネシウム粉末の添加量は、表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対して0.3モル以上5.0モル以下の割合になる量であり、好ましくは0.5モル以上4.5モル以下の割合になる量である。酸化マグネシウム粉末は、窒化ジルコニウムの焼結を防止することができる量だけあればよく、過剰に使用すると、反応後の酸洗浄時に要する酸性溶液の使用量が増加するので、上記の範囲で使用するのが好ましい。
【0060】
(焼成工程S03)
焼成工程S03では、混合工程S02で得られた粉末混合物を、窒素ガス雰囲気下で焼成する。焼成工程S03にて、粉末混合物中の表面被覆酸化ジルコニウム粉末を窒素ガス雰囲気下で焼成してテルミット還元反応させることによって窒化ジルコニウム粉末が生成される。焼成温度は、例えば、700℃以上1100℃以下の範囲内にあり、好ましくは950℃以上1000℃以下の範囲内にある。焼成温度が700℃未満では、アルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体によるテルミット還元反応の促進作用を有効に利用できず、表面被覆酸化ジルコニウム粉末の還元反応が十分に生じない。また、温度を1100℃より高くしても、その効果は増加せず、熱エネルギーの無駄になるとともに粒子の焼結が進行するおそれがある。また、焼成時間は、焼成温度と同じ理由で、60分間以上180分間以下の範囲内にあり、好ましくは60分間以上120分間以下の範囲内にある。焼成時の雰囲気である窒素ガス雰囲気は、窒素ガスを主成分として含む雰囲気であればよく、窒素ガスと水素ガスの混合ガスの雰囲気、又は窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスの雰囲気としてもよい。
【0061】
アルミニウム含有化合物前駆体中のアルミニウム及び亜鉛含有化合物前駆体中の亜鉛は、一旦マグネシウムにより還元され金属となり、下記の反応(1)及び(2)によりテルミット還元反応を促進する。このため、比較的低温で、テルミット還元反応が促進される。
ZrO+4/3Al+1/2N→ZrN+2/3Al (1)
4Zn+2ZrO+N→ZrN+4ZnO+1/2N (2)
【0062】
焼成工程S03で得られる窒化ジルコニウム粉末は、金属マグネシウムの酸化によって生じた酸化マグネシウムや生成物の焼結防止のために当初から含まれていた酸化マグネシウム(MgO)及び焼成により生成した窒化マグネシウム(Mg)を含む。洗浄工程S04では、これらのマグネシウム化合物を除去するため、窒化ジルコニウム粉末を塩酸水溶液で洗浄する。洗浄工程S04により、焼成工程S03で生成した酸化亜鉛や酸化アルミニウム、未反応の金属亜鉛や金属アルミニウムも部分的に溶解して、除去される。洗浄工程S04で用いる塩酸水溶液は、例えば、pHが0.5以上であって、液温が90℃以下であってもよい。塩酸のpHは、1.0以上3.0以下の範囲内にあることが好ましい。塩酸の酸性が強くなりすぎるあるいは液温が高すぎると、窒化ジルコニウム粉末中のジルコニウムまでが溶出してしまうおそれがある。洗浄工程S04後の窒化ジルコニウム粉末は、アンモニア水などでpHを5~6に調整してもよい。
【0063】
以上のような構成された本実施形態の窒化ジルコニウム粉末の製造方法によれば、窒化ジルコニウム源として、用意工程S01で用意された表面に付着したアルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体とを含有する表面被覆酸化ジルコニウム粉末を用いるので、焼成工程S03において、比較的低温での焼成によって、テルミット還元反応が促進される。このため、原料同士の焼結が起こりにくい。また、焼成工程S03での焼成によって生成する窒化ジルコニウム粉末は、表面にアルミニウム含有化合物および亜鉛含有化合物が付着しているので、焼成工程S03において生成した窒化ジルコニウム粉末同士の焼結も起こりにくい。よって、本実施形態の窒化ジルコニウム粉末の製造方法によれば、上述の窒化ジルコニウム粉末を効率よく製造することができる。
【0064】
本実施形態の窒化ジルコニウム粉末の製造方法において、用意工程S01が、水と、水に分散された酸化ジルコニウム粉末と、水に溶解されたアルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体とを含む酸化ジルコニウムスラリーにアルカリまたは酸を加えて、アルミニウム含有化合物前駆体と亜鉛含有化合物前駆体とを含む難水性化合物を生成させて酸化ジルコニウム粉末の表面に付着させる工程を含む場合、アルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体を水に溶解させるので、窒化ジルコニウム粉末の表面に均一にアルミニウムと亜鉛とを含む難水溶性化合物を付着させることができる。このため、得られる窒化ジルコニウム粉末は、表面にアルミニウム含有化合物および亜鉛含有化合物が均一に付着するので、耐湿性がより向上する。
【0065】
本実施形態の窒化ジルコニウム粉末の製造方法において、用意工程S01が、酸化ジルコニウム粉末と、アルミニウム含有化合物前駆体粉末と、亜鉛含有化合物前駆体粉末とを混合して、アルミニウム含有化合物前駆体粉末と亜鉛含有化合物前駆体粉末とを酸化ジルコニウム粉末の表面に付着させる工程を含む場合、水を使用せずに、表面被覆酸化ジルコニウム粉末を得ることができる。このため、表面被覆酸化ジルコニウム粉末の製造コストが安価になる。
【0066】
本実施形態の窒化ジルコニウム粉末は、黒色分散液、黒色ペースト、感光性黒色膜形成用組成物、紫外線硬化型黒色接着剤、黒色膜、黒色成形体として利用することができる。
【0067】
[黒色分散液]
黒色分散液は、上述の窒化ジルコニウム粉末と溶媒またはモノマー化合物とを含む。
溶媒としては、例えば、アルコール、ケトン、カルボン酸エステルを用いることができる。アルコールの例としては、イソプロパノール(IPA)が挙げられる。ケトンの例としては、メチルエチルケトン(MEK)が挙げられる。カルボン酸エステルの例としては、酢酸ブチル(BA)が挙げられる。
【0068】
モノマー化合物としては、例えば、アクリルモノマー、エポキシモノマーを用いることができる。アクリルモノマーは、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーである。(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基とメタアクリロイル基を含む。アクリルモノマーは、1つ分子中に(メタ)アクリル基を1つ有する単官能アクリルモノマーであってもよいし、1つの分子中に(メタ)アクリル基を2つ以上有する多官能アクリルモノマーであってもよい。
【0069】
単官能(メタ)アクリルモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソアミルアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0070】
二官能(メタ)アクリルモノマーの例としては、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1、9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0071】
多官能(メタ)アクリルモノマーの例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0072】
エポキシモノマーは、エポキシ基を有するものである。エポキシモノマーは、1つの分子中にエポキシ基を1つ有する単官能エポキシモノマーであってもよいし、1つの分子中にエポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシモノマーであってもよい。エポキシモノマーとしては、グリシジルエーテル、脂環式エポキシなどが挙げられる。
【0073】
このモノマー分散体である黒色分散液をアクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などのポリマー中に添加することにより、上記窒化ジルコニウム粉末を分散して含有する樹脂組成物が作製され、この樹脂組成物から樹脂成形体が形成される。また、上記モノマー分散体である黒色分散液は、更に金属酸化物粉末を含み、可塑剤を更に含有することができる。可塑剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸トリブチル、リン酸2-エチルヘキシル等のリン酸エステル系可塑剤、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル等のフタル酸エステル系可塑剤、オレイン酸ブチル、グリセリンモノオレイン酸エステル等の脂肪族-塩基性エステル系可塑剤、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシルなどの脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチラートなどの二価アルコールエステル系可塑剤;アセチルリシノール酸メチル、アセチルクエン酸トリブチルなどオキシ酸エステル系可塑剤等の従来公知の可塑剤が挙げられる。
【0074】
更に、モノマー分散体である黒色分散液に、更に別のモノマーを添加することができる。別のモノマーとしては、特に限定はなく、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系モノマー、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系モノマー、ウレタンアクリレート等のウレタン系モノマー、上記各種ポリオール類など、従来公知のモノマーが挙げられる。なお、モノマー分散体の粘度は、窒化ジルコニウム粉末の分散性を考慮して10mPa・s以上1000mPa・s以下の範囲内に設定されることが好ましい。モノマーへの分散は、次に述べる溶媒への分散と同様に、粉砕メディアを使用したミル方式を使用することも可能である。
【0075】
また、必須成分ではないが、より分散性を向上させるため高分子分散剤を使用することも可能である。高分子分散剤は分子量が数千~数万であることが有効である。また、顔料に吸着する高分子分散剤の官能基としては二級アミン、三級アミン、カルボン酸、リン酸、リン酸エステルなどが挙げられるが、特に三級アミン、カルボン酸が有効である。高分子分散剤の代わりに、シランカップリング剤を少量添加することも分散性向上に有効である。一方、遊星撹拌を施した後、三本ロールを数回通して黒色分散液を得ることも可能である。
【0076】
溶媒に分散した黒色分散液についても、モノマー化合物を分散した黒色分散液と同様に高分子分散剤の添加が有効である。高分子分散剤は、モノマー化合物を分散した黒色分散液と同様に分子量が数千から数万であることが有効であり、高分子分散剤の官能基としては三級アミン、カルボン酸が有効である。
【0077】
本実施形態の黒色分散液によれば、上述の窒化ジルコニウム粉末を含むことにより、窒化ジルコニウムが紫外線を透過し、可視光線を遮蔽するとともに、赤外線を透過する特長がある。この結果、この黒色分散液は黒色パターニング膜形成用材料として好適に用いることができる。
【0078】
[黒色ペースト]
黒色ペーストは、上記の黒色分散と、有機高分子化合物とを含む。有機高分子化合物は、例えば、バインダとして作用するものであってもよい。有機高分子化合物としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂を持用いることができる。黒色ペーストは、必要に応じて各種添加剤を添加混合してもよい。黒色ペーストは感光性黒色膜形成材として遮光膜、接着剤として各種電子機器に用いられる。
【0079】
本実施形態の黒色ペーストによれば、上述の黒色分散液を含むため、この黒色ペーストを用いて形成した黒色パターニング膜は紫外線透過率が高い。よって、光開始剤の使用量を減らしても高解像度のパターニング膜を形成することができる。また黒色ペーストは赤外線透過率が高いため、カラーフィルターを構成するブラックマトリックスをパターニングする際の位置合わせを、赤外線を用いることによって精度よく行うことができる。
【0080】
[感光性黒色膜形成用組成物]
感光性黒色膜形成用組成物は、例えば、上述の窒化ジルコニウム粉末が黒色顔料として分散媒に分散され、更に黒色膜の基材となる樹脂が混合された組成物であってもよい。感光性黒色膜形成用組成物の分散媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)、メチルエチルケトン(MEK)、酢酸ブチル(BA)等が挙げられる。また、上記樹脂としては、感光性のアクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0081】
本実施形態の感光性黒色膜形成用組成物によれば、上述の窒化ジルコニウム粉末を含むため、この感光性黒色膜形成用組成物を用いて形成した膜は紫外線透過率が高い。よって、光開始剤の使用量を減らしても高解像度の黒色膜を形成することができる。また感光性黒色膜形成用組成物は赤外線透過率が高いため、感光性黒色膜形成用組成物をパターニングする際の位合わせを、赤外線を用いることによって精度よく行うことができる。
【0082】
[紫外線硬化型黒色接着剤]
本実施形態の紫外線硬化型黒色接着剤は、例えば、接着剤成分と、黒色顔料として接着剤成分に分散された上述の窒化ジルコニウム粉末とを含む組成物であってもよい。接着剤成分は、例えば、溶媒と、紫外線硬化型樹脂と、粘度調整剤とを含む。接着剤成分としては、紫外線硬化型接着剤として利用されている公知の組成物を用いることができる。紫外線硬化型黒色接着剤は各種電子機器に用いることができる。
【0083】
本実施形態の紫外線硬化型黒色接着剤は、上述の窒化ジルコニウム粉末を含むので紫外線透過率が高い。よって、光開始剤の使用量を減らしても高い接着力を有する。また、本実施形態の紫外線硬化型黒色接着剤は赤外線透過率が高いため、紫外線硬化型黒色接着剤を塗布する際の位合わせを、赤外線を用いることによって精度よく行うことができる。
【0084】
[黒色膜]
本実施形態の黒色膜は、例えば、膜を形成する樹脂成分と、上述の窒化ジルコニウム粉末とを含む組成物であってもよい。本実施形態の黒色膜は、所望のパターンに成形されたパターニング膜であってもよい。本実施形態の黒色膜は、上述の窒化ジルコニウム粉末を含むので、低い紫外線照射量で成膜できるとともに、赤外線を吸収しにくいため蓄熱性が低減され、赤外線を含む光の照射によって黒色膜自体の温度が高温になりにくいという利点を有する。
【0085】
上記窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として用いた、ブラックマトリックスに代表されるパターニング膜の形成方法について述べる。先ず、上記窒化ジルコニウム粉末を溶媒に分散させて黒色分散液を調製する。アミン系分散剤を用いることが好ましい。溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)、ジエチルケトン、酢酸ブチル等が例示される。この分散液に感光性のアクリル樹脂を、質量比で黒色顔料:樹脂=(10:90)~(80:20)となる割合で添加混合して黒色感光性組成物を調製する。次いでこの黒色感光性組成物を基板上に塗布した後、溶媒を蒸発させて、フォトレジスト膜を形成する。次にこのフォトレジスト膜にフォトマスクを介して所定のパターン形状に露光したのち、アルカリ現像液を用いて現像して、フォトレジスト膜の未露光部を溶解除去し、その後好ましくはポストベークを行うことにより、所定の黒色パターニング膜が形成される。
【0086】
上記基板としては、例えば、ガラス、シリコン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエステル、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等が挙げられる。また上記基板には、所望により、シランカップリング剤等による薬品処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、真空蒸着等の適宜の前処理を施しておくこともできる。黒色感光性組成物を基板に塗布する際には、回転塗布、流延塗布、ロール塗布等の適宜の塗布法を採用することができる。塗布厚さは、乾燥後の膜厚として、通常、0.1μm~10μm、好ましくは0.2μm~7.0μm、更に好ましくは0.5μm~6.0μmである。パターニング膜を形成する際に使用される放射線としては、本実施形態では、波長が250nm~365nmの範囲にある電磁波が好ましい。電磁波の積算光量は、好ましくは10J/m~10000J/mである。
【0087】
また上記アルカリ現像液としては、例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、コリン、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ-[4.3.0]-5-ノネン等の水溶液を用いることができる。上記アルカリ現像液には、例えばメタノール、エタノール等の水溶性有機溶媒や界面活性剤等を適量添加することもできる。なお、アルカリ現像後は、通常、水洗する。現像処理法としては、シャワー現像法、スプレー現像法、ディップ(浸漬)現像法、パドル(液盛り)現像法等を適用することができ、現像条件は、常温で5秒~300秒が好ましい。このようにして形成されたパターニング膜は、高精細の液晶、有機EL用ブラックマトリックス、イメージセンサー用遮光材、光学部材用遮光材、遮光フィルター、IRカットフィルター等に好適に用いられる。またこの黒色パターニング膜は、黒色フィルムを構成する要素として用いられる。具体的には、支持フィルムと、この支持フィルム上にこの黒色パターニング膜とを備えることにより黒色フィルムが得られる。
【0088】
[黒色成形体]
本実施形態の黒色成形体は、例えば、成形体を形成する樹脂成分と、樹脂成分に分散された上述の窒化ジルコニウム粉末とを含む組成物であってもよい。黒色成形体は、例えば、液晶ディスプレイや光学式センサー、レンズ等に用いられる。本実施形態の黒色成形体は、上述の窒化ジルコニウム粉末を含むので、低い紫外線照射量で形成できるとともに、赤外線を吸収しにくいため蓄熱性が低減され、赤外線を含む光の照射によって黒色成形体自体の温度が高温になりにくいという利点を有する。
【0089】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0090】
次に、本発明を実施例により詳しく説明する。
【0091】
[本発明例1]
表面被覆酸化ジルコニウムを被覆処理(A)により製造した。
BET比表面積が30m/gの酸化ジルコニウム(ZrO)粉末5gを、アンモニア水に投入し、分散して、濃度10質量%で、pH11.95の二酸化ジルコニウムスラリーを調製した。アルミニウム含有化合物前駆体として塩化アルミニウム0.66gと、亜鉛含有化合物前駆体として塩化亜鉛0.42gとを水500mLに溶解して、塩化アルミニウム-塩化亜鉛水溶液を調製した。
上記の二酸化ジルコニウムスラリーを撹拌しながら、そのスラリーに、上記の塩化アルミニウム-塩化亜鉛水溶液の全量を添加した。次いで、そのスラリーにアンモニア水を滴下してスラリーのpHを8.5に調整して、アルミニウムと亜鉛を水酸化物として析出させ、その水酸化物で被覆された表面被覆酸化ジルコニウムを生成させた。生成した表面被覆酸化ジルコニウムをろ過により回収し、水で洗浄した後、乾燥して5.2gの表面被覆酸化ジルコニウム粉末を得た。
【0092】
得られた表面被覆酸化ジルコニウム粉末5.2gと、金属マグネシウム粉末3.9g(酸化ジルコニウム1モルに対する量として4.0モル)と、酸化マグネシウム粉末2.3g(酸化ジルコニウム1モルに対する量として1.4モル)とを混合した。金属マグネシウム粉末の量(3.9g)は、表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対する量として4.0モルである。酸化マグネシウム粉末の量(2.3g)表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対する量として1.4モルである。得られた粉末混合物を、反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下、1000℃の温度で3時間焼成した。得られた焼成物を、塩酸で洗浄して、焼成物中のマグネシウムを除去して、窒化ジルコニウム粉末を得た。
【0093】
[本発明例2~8、比較例1~6]
本発明例2~8および比較例2~6は、アルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体として、下記の表1に記載の物質を、下記の表1に記載の添加量で用いたこと以外は、本発明例1と同様にして表面被覆酸化ジルコニウム粉末を製造した。比較例1は、亜鉛含有化合物前駆体を加えなかったこと以外は、本発明例1と同様にして表面被覆酸化ジルコニウム粉末を製造した。表1には、アルミニウム含有化合物前駆体の添加量から算出した酸化ジルコニウム粉末100質量部に対する酸化アルミニウム換算添加量と、亜鉛含有化合物前駆体の添加量から算出した酸化ジルコニウム粉末100質量部に対する酸化亜鉛換算添加量を示した。次いで、得られた表面被覆酸化ジルコニウム粉末を用いたこと、表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対する金属マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末の量を下記の表2に記載の量としたこと以外は、本発明例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を製造した。
【0094】
[本発明例9~11、15]
表面被覆酸化ジルコニウムを乾式法により製造した。
BET比表面積が30m/gのZrO粉末5gに対して、アルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体として、下記の表1に記載の物質を、下記の表1に記載の添加量で加えて混合した。次いで、得られた混合物を窒素ガス雰囲気下で3時間焼成して表面被覆酸化ジルコニウムを得た。次いで、得られた表面被覆酸化ジルコニウム粉末を用いたこと、表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対する金属マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末の量を下記の表2に記載の量としたこと以外は、本発明例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を製造した。
【0095】
[本発明例12~14]
表面被覆酸化ジルコニウムを被覆処理(B)により製造した。
BET比表面積が30m/gZrO粉末5gを、アンモニア水に投入し、分散して、濃度10質量%で、pH11.95の二酸化ジルコニウムスラリーを調製した。上記の二酸化ジルコニウムスラリーを撹拌しながら、そのスラリーに、アルミニウム含有化合物前駆体および亜鉛含有化合物前駆体として、下記の表1に記載の物質を、下記の表1に記載の添加量で加えて混合した。次いで、スラリーに塩酸を滴下してスラリーのpHを8.5に調整して、アルミニウムと亜鉛を水酸化物として析出させ、その水酸化物で被覆された表面被覆酸化ジルコニウムを生成させた。生成した表面被覆酸化ジルコニウムをろ過により回収し、水で洗浄した後、乾燥して表面被覆酸化ジルコニウム粉末を得た。次いで、得られた表面被覆酸化ジルコニウム粉末を用いたこと、表面被覆酸化ジルコニウム粉末中の酸化ジルコニウム1モルに対する金属マグネシウム粉末と酸化マグネシウム粉末の量を下記の表2に記載の量としたこと以外は、本発明例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を製造した。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
[評価]
本発明例1~14及び比較例1~7で得られた窒化ジルコニウム粉末について、下記の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0099】
(BET比表面積)
比表面積測定装置(柴田科学株式会社製、SA-1100)を用いて、窒素吸着によるBET1点法により測定した。
【0100】
(アルミニウム含有率、亜鉛含有率)
窒化ジルコニウム粉末を酸で溶解した。得られた溶液のアルミニウムおよび亜鉛の含有量を、誘導結合プラズマ発光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS-7510)により測定し、アルミニウム含有率と亜鉛含有率を算出した。
【0101】
(L値)
窒化ジルコニウム粉末(黒色顔料)のL値(明度指数)は、日本電色工業社製の分光色差計(型式:SE7700、日本電色工業株式会社製)を用いて求めた。
【0102】
(光透過スペクトル)
窒化ジルコニウム粉末を循環式横型ビーズミル(メディア:ジルコニア)に各別に入れ、分子量9000のアミン系分散剤を添加して、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)溶媒中での分散処理を行った。得られた分散液をPGM-Acで希釈して粉末濃度を50ppmに調整して、光透過率測定用の分散液を調製した。この光透過率測定用の分散液をセルに入れ、各分散液の光透過率を分光光度計(株式会社日立ハイテクフィールディング製、UH-4150)を用い、波長300nmから1200nmの範囲で測定して光透過スペクトルを得た。水銀灯のi線の近傍の波長365nmにおける光透過率T365、波長550nmの光透過率T550および波長1200nmの光透過率T1200を光透過スペクトルから読み取った。読み取られた光透過率T365と光透過率T550と光透過率T1200よりT365/T550とT1200/T550を算出した。図5に、本発明例1および比較例1で得られた窒化ジルコニウム粉末を用いて調製した光透過率測定用の分散液の光透過スペクトルを示す。
【0103】
(耐湿性)
窒化ジルコニウム粉末に、アミン系分散剤を添加して、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM-Ac)溶媒中で分散処理を行って分散液を調製した。この分散液にアクリル樹脂を、質量比で窒化ジルコニウム粉末:樹脂=5:5となる割合で添加し混合して黒色組成物を調製した。この黒色組成物をガラス基板上にスピンコートし、250℃の温度に30分間保持することにより厚さ1μmの乾燥した塗膜を得た。これらの体積抵抗率をそれぞれ測定することにより、塗膜の耐湿性を評価した。
【0104】
塗膜の体積抵抗率は、この塗膜の作製直後(初期)と、温度80℃かつ湿度80%の雰囲気中に1000時間保持した後(加熱加湿後)にそれぞれ測定した。上記塗膜の初期及び加熱加湿後の体積抵抗率(Ω・cm)は、三菱化学アナリテック社製の抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック社製、ハイレスタ(商標名)、型番:MCP-HT450)を用いて測定した。加熱加湿後の体積抵抗率が5.0×1013Ω・cm以上の場合は耐湿性を『〇』と判定し、1.0×1012Ω・cm以上5.0×1013Ω・cm未満の場合は耐湿性を『△』と判定し、1.0×1012Ω・cm未満の場合は耐湿性を『×』と判定した。
【0105】
【表3】
【0106】
表3及び図5の結果から明らかなように、アルミニウム含有率、亜鉛含有率、BET比表面積、L値が本発明の範囲内にある本発明例1~15の窒化ジルコニウム粉末は、比T365/T550と比T1200/T550が高い値を示し、かつ耐湿性に優れることがわかる。これに対して、亜鉛を含まない窒化ジルコニウム粉末(比較例1)及び亜鉛含有率が本発明の範囲から外れる窒化ジルコニウム粉末(比較例2、3)、アルミニウム含有率が本発明の範囲を超える窒化ジルコニウム粉末(比較例5)、BET比表面積が本発明の範囲よりも小さい窒化ジルコニウム粉末(比較例6)は、比T365/T550と比T1200/T550が本発明例1~15の窒化ジルコニウム粉末と比較して小さくなった。また、アルミニウム含有率が本発明の範囲よりも低い窒化ジルコニウム粉末(比較例4)は、耐湿性が大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の窒化ジルコニウム粉末は、高精細の液晶、有機EL用ブラックマトリックス、マイクロディスプレイ用ブラックマトリックス、イメージセンサー用遮光材、光学部材用遮光材、遮光フィルター、IRカットフィルター、IRセンサー、太陽電池、液晶額縁材等に利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
10 窒化ジルコニウム粒子
11 核粒子
12 被覆部
図1
図2
図3
図4
図5