(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025912
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】異常判定装置、コントローラ、異常判定方法、異常判定プログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20240220BHJP
G01R 31/34 20200101ALI20240220BHJP
【FI】
H02P29/024
G01R31/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129281
(22)【出願日】2022-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】久保 孝平
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正志
【テーマコード(参考)】
2G116
5H501
【Fターム(参考)】
2G116BA03
2G116BB01
5H501BB08
5H501CC05
5H501DD03
5H501HA08
5H501HA09
5H501HB07
5H501HB16
5H501JJ03
5H501KK07
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL35
5H501LL53
5H501MM01
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】誘導モータに好適な異常判定装置等を提供する。
【解決手段】交流が流されて回転磁界を発生させる一次側の一次コイル20U、20V、20Wと、回転磁界に応じた誘導電流と当該回転磁界の間の電磁力によって一次コイル20U、20V、20Wに対して回転する二次側の二次コイルを備える誘導モータ20の異常判定装置40は、一次コイル20U、20V、20Wに直流を流すことで、一次側の一次抵抗を測定する一次測定部41と、一次コイル20U、20V、20Wに交流を流すことで、一次抵抗に対応する二次側の二次抵抗を当該一次抵抗と併せて測定する二次測定部42と、一次測定部41による第1測定結果および二次測定部42による第2測定結果の差に基づいて、二次抵抗を演算する演算部43と、第1測定結果および演算部43による演算結果の比較に基づいて、異常を判定する異常判定部44と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流が流されて回転磁界を発生させる一次側の一次コイルと、前記回転磁界に応じた誘導電流と当該回転磁界の間の電磁力によって前記一次コイルに対して回転する二次側の二次コイルを備える誘導モータの異常判定装置であって、
前記一次コイルに直流を流すことで、前記一次側の一次回路要素を測定する一次測定部と、
前記一次コイルに交流を流すことで、前記一次回路要素に対応する前記二次側の二次回路要素を当該一次回路要素と併せて測定する二次測定部と、
前記一次測定部による第1測定結果および前記二次測定部による第2測定結果に基づいて異常を判定する異常判定部と、
を備える異常判定装置。
【請求項2】
前記第1測定結果および前記第2測定結果の差に基づいて、前記二次回路要素を演算する演算部を更に備え、
前記異常判定部は、前記第1測定結果および前記演算部による演算結果の比較に基づいて異常を判定する、
請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
前記誘導モータは、多相交流が流される多相の前記一次コイルと、多相の前記一次コイルに対して回転する多相の前記二次コイルを備える多相誘導モータであり、
前記一次測定部は、前記各相の一次コイルに直流を流すことで、前記一次側の各相の一次回路要素を測定し、
前記二次測定部は、前記各相の一次コイルに交流を流すことで、前記各一次回路要素に対応する前記二次側の各相の二次回路要素を当該各一次回路要素と併せて測定し、
前記一次測定部による各第1測定結果および前記二次測定部による各第2測定結果の差に基づいて、前記各二次回路要素を演算する演算部を更に備え、
前記異常判定部は、前記各第1測定結果の第1ばらつき量、および、前記演算部による各演算結果の第2ばらつき量、の少なくともいずれかに基づいて異常を判定する、
請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項4】
前記異常判定部は、前記第1ばらつき量および前記各演算結果の平均の比較、または、前記第2ばらつき量および前記各演算結果の平均の比較、に基づいて異常を判定する、請求項3に記載の異常判定装置。
【請求項5】
前記異常判定部は、前記第1ばらつき量および前記第2ばらつき量の比較に基づいて、異常を判定する、請求項3に記載の異常判定装置。
【請求項6】
前記一次回路要素は一次漏れインダクタンスであり、前記二次回路要素は二次漏れインダクタンスである、請求項1から5のいずれかに記載の異常判定装置。
【請求項7】
前記一次測定部および前記二次測定部は、前記回転磁界を発生させるために前記一次コイルに交流を流すドライバ装置によって構成される、請求項1から5のいずれかに記載の異常判定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の異常判定装置およびドライバ装置を備え、当該ドライバ装置を制御するコントローラ。
【請求項9】
交流が流されて回転磁界を発生させる一次側の一次コイルと、前記回転磁界に応じた誘導電流と当該回転磁界の間の電磁力によって前記一次コイルに対して回転する二次側の二次コイルを備える誘導モータの異常判定方法であって、
前記一次コイルに直流を流すことで、前記一次側の一次回路要素を測定する一次測定ステップと、
前記一次コイルに交流を流すことで、前記一次回路要素に対応する前記二次側の二次回路要素を当該一次回路要素と併せて測定する二次測定ステップと、
前記一次測定ステップによる第1測定結果および前記二次測定ステップによる第2測定結果に基づいて異常を判定する異常判定ステップと、
を備える異常判定方法。
【請求項10】
交流が流されて回転磁界を発生させる一次側の一次コイルと、前記回転磁界に応じた誘導電流と当該回転磁界の間の電磁力によって前記一次コイルに対して回転する二次側の二次コイルを備える誘導モータの異常判定プログラムであって、
前記一次コイルに直流を流すことで、前記一次側の一次回路要素を測定する一次測定ステップと、
前記一次コイルに交流を流すことで、前記一次回路要素に対応する前記二次側の二次回路要素を当該一次回路要素と併せて測定する二次測定ステップと、
前記一次測定ステップによる第1測定結果および前記二次測定ステップによる第2測定結果に基づいて異常を判定する異常判定ステップと、
をコンピュータに実行させる異常判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導モータの異常判定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多相(例えば3相)の同期モータに好適な異常判定方法が開示されている。同期モータは、交流が流されて回転磁界を発生させる多相のコイルが設けられる固定子と、永久磁石が設けられて回転磁界によって固定子に対して回転する回転子を備える。特許文献1では、固定子において個別に測定された各相の抵抗等のアンバランスに基づいて、各相のコイルの断線等の異常が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1における同期モータ向けの技術は、誘導モータ等の他のタイプのモータにそのまま適用できるものではない。誘導モータでは、典型的には固定子側の一次側と典型的には回転子側の二次側に、それぞれ一次コイルと二次コイルが設けられる。各次のコイルに付随する抵抗や漏れインダクタンス等の回路要素も、誘導モータの異常判定に影響を及ぼす恐れがある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、誘導モータに好適な異常判定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の異常判定装置は、交流が流されて回転磁界を発生させる一次側の一次コイルと、回転磁界に応じた誘導電流と当該回転磁界の間の電磁力によって一次コイルに対して回転する二次側の二次コイルを備える誘導モータの異常判定装置であって、一次コイルに直流を流すことで、一次側の一次回路要素を測定する一次測定部と、一次コイルに交流を流すことで、一次回路要素に対応する二次側の二次回路要素を当該一次回路要素と併せて測定する二次測定部と、一次測定部による第1測定結果および二次測定部による第2測定結果に基づいて異常を判定する異常判定部と、を備える。
【0007】
この態様によれば、一次測定部によって直接的に測定される一次側の一次回路要素(第1測定結果)と、二次測定部によって一次回路要素と併せて測定される二次回路要素(第2測定結果)に基づいて、適切に誘導モータの異常を判定できる。
【0008】
本発明の別の態様は、異常判定方法である。この方法は、交流が流されて回転磁界を発生させる一次側の一次コイルと、回転磁界に応じた誘導電流と当該回転磁界の間の電磁力によって一次コイルに対して回転する二次側の二次コイルを備える誘導モータの異常判定方法であって、一次コイルに直流を流すことで、一次側の一次回路要素を測定する一次測定ステップと、一次コイルに交流を流すことで、一次回路要素に対応する二次側の二次回路要素を当該一次回路要素と併せて測定する二次測定ステップと、一次測定ステップによる第1測定結果および二次測定ステップによる第2測定結果に基づいて異常を判定する異常判定ステップと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、誘導モータに好適な異常判定装置等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】誘導モータに多相の交流を供給するドライバ装置を模式的に示す。
【
図2】インバータが3相の交流を出力している時のUVW各相の出力端子の出力電圧波形を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、誘導モータ20に多相の交流を供給するドライバ装置10を模式的に示す。ドライバ装置10は、商用電源等から供給されるR相、S相、T相の3相の交流を整流して直流(脈流)に変換するコンバータ11と、コンバータ11で変換された直流を平滑して波形を整えるコンデンサ12と、コンデンサ12で平滑された直流を交流に変換するインバータ13を備える。
【0014】
コンバータ11は、商用電源等から供給される3相(R、S、T)の交流を一定の方向(
図1において下から上に向かう方向)に整流するダイオード111~116を備える。ダイオード111はR相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード112はR相の交流電圧が負の時に電流を流し、ダイオード113はS相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード114はS相の交流電圧が負の時に電流を流し、ダイオード115はT相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード116はT相の交流電圧が負の時に電流を流す。これらのブリッジ状に接続されたダイオード111~116によって、コンバータ11の出力端子間には、方向が一定で大きさが変動する脈流が現われる。コンデンサ12は、コンバータ11で得られた脈流を平滑した直流をインバータ13に供給する。
【0015】
コンバータ11およびコンデンサ12を経てインバータ13の高電位入力端子131と低電位入力端子132の間に入力される直流電圧を以下ではVDCと表す。高電位入力端子131が接続される高電位ラインの電圧をVdd、低電位入力端子132が接続される低電位ラインの電圧をVssとすれば、VDC=Vdd-Vssである。
【0016】
インバータ13は、直流の高電位Vddを供給する高電位ラインと直流の低電位Vssを供給する低電位ラインの間に並列に接続されるU相、V相、W相の3相のトランジスタ対のスイッチング動作によって3相の交流を出力する。換言すれば、インバータ13は、高電位入力端子131と低電位入力端子132の間で入力される直流電圧VDCに基づいて3相の交流を生成する。具体的には、直流電圧VDCに基づいてU相の交流を生成するU相インバータ13Uと、直流電圧VDCに基づいてV相の交流を生成するV相インバータ13Vと、直流電圧VDCに基づいてW相の交流を生成するW相インバータ13Wが並列に設けられる。各相のインバータ13U、13V、13Wの構成は共通であるため、以下では適宜インバータ13と総称してまとめて説明する。
【0017】
インバータ13は、高い直流電源電位Vddが入力される高電位入力端子131と、低い直流電源電位Vssが入力される低電位入力端子132と、高電位入力端子131が接続される高電位ラインと低電位入力端子132が接続される低電位ラインの間に設けられてVddとVssの間で変動する交流電圧を出力する出力端子133を備える。高電位ラインと出力端子133の間には高電位側トランジスタ134Hが接続され、低電位ラインと出力端子133の間には低電位側トランジスタ134Lが接続される。
【0018】
高電位側トランジスタ134Hは、その制御端子に接続される制御信号供給部としての高電位側ドライバ135Hから供給される制御信号(典型的にはパルス)に応じて、電流経路の導通状態が切り替わるスイッチング動作を行う。低電位側トランジスタ134Lは、その制御端子に接続される制御信号供給部としての低電位側ドライバ135Lから供給される制御信号に応じて、電流経路の導通状態が切り替わるスイッチング動作を行う。以下では、高電位側トランジスタ134Hおよび低電位側トランジスタ134Lを、適宜トランジスタ134またはトランジスタ対134と総称し、高電位側ドライバ135Hおよび低電位側ドライバ135Lを、適宜ドライバ135またはドライバ対135と総称する。また、以下の説明においては「高電位側」を意味する「H」および「低電位側」を意味する「L」を適宜省略するが、図面では必要に応じて「H」および「L」を符号の末尾に付す。
【0019】
トランジスタ134は、制御端子としてのゲート31と、高電位ライン側に接続される高電位端子としてのコレクタ32と、低電位ライン側に接続される低電位端子としてのエミッタ33を備える絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。なお、トランジスタ134は、制御端子としてのゲートと、高電位端子としてのドレインと、低電位端子としてのソースを備える電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)でもよいし、制御端子としてのベースと、高電位端子としてのコレクタと、低電位端子としてのエミッタを備えるバイポーラトランジスタでもよい。
【0020】
高電位側トランジスタ134Hにおいて、ゲート31Hは高電位側ドライバ135Hに接続され、コレクタ32Hは高電位入力端子131または高電位ラインに接続され、エミッタ33Hは出力端子133および低電位側トランジスタ134Lのコレクタ32Lに接続される。低電位側トランジスタ134Lにおいて、ゲート31Lは低電位側ドライバ135Lに接続され、コレクタ32Lは出力端子133および高電位側トランジスタ134Hのエミッタ33Hに接続され、エミッタ33Lは低電位入力端子132または低電位ラインに接続される。以上の構成において、高電位側トランジスタ134Hのエミッタ33Hと低電位側トランジスタ134Lのコレクタ32Lの接続点が出力端子133を形成する。
【0021】
各トランジスタ134は、各ドライバ135からゲート31に供給される制御信号に応じて導通状態が切り替わるコレクタ32とエミッタ33の間の電流経路またはチャネルと並列に形成される保護ダイオード要素としての保護ダイオード34を更に備える。保護ダイオード34は、トランジスタ134と別体のディスクリートな素子でもよいし、トランジスタ134を製造する半導体製造プロセスにおいてトランジスタ134と一体的またはモノリシックに形成されるものでもよい。保護ダイオード34は、低電位ライン側から高電位ライン側に向かう方向のみに電流を流すように設けられる。
【0022】
集積回路(IC:Integrated Circuit)として構成されるドライバ135は、トランジスタ134のゲート31にスイッチング動作のための制御信号を供給する制御信号供給部を構成する。具体的には、ドライバ135は、PWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)によってデューティ比が制御されたパルスを制御信号としてトランジスタ134のゲート31に印加する。トランジスタ134は、パルスの有無に応じてオン状態とオフ状態の間でスイッチング動作を行う。具体的には、パルスがゲート31に印加されている間はトランジスタ134がオン状態となり、コレクタ32とエミッタ33の間のチャネルが導通状態となる。また、パルスがゲート31に印加されていない間はトランジスタ134がオフ状態となり、コレクタ32とエミッタ33の間のチャネルが非導通状態となる。
【0023】
図2は、インバータ13が3相の交流を出力している時のUVW各相の出力端子133U、133V、133Wの出力電圧波形V
U、V
V、V
Wを、UVW各相の高電位側ドライバ135Hおよび低電位側ドライバ135Lがトランジスタ対134のゲート31に印加する制御信号(パルス)と共に模式的に示す。各出力端子133U、133V、133Wは、高電位V
ddと低電位V
ssの間で変動する正弦波状の交流電圧V
U、V
V、V
Wを出力する。3相交流では各相の交流電圧波形V
U、V
V、V
Wの位相が120度または2/3πずつ異なる。以下の説明では、高電位V
ddと低電位V
ssの平均値を0と置く。
【0024】
各出力端子133U、133V、133Wが正の電圧を出力している期間では、高電位側ドライバ135Hが高電位側トランジスタ134Hのゲート31Hに、0と1の間でデューティ比が段階的に変わるパルスを印加する一方、低電位側ドライバ135Lは低電位側トランジスタ134Lのゲート31Lにパルスを印加しない(デューティ比が0)。高電位側ドライバ135Hが高電位側トランジスタ134Hのゲート31Hにデューティ比が1のパルスを印加する時、高電位側トランジスタ134Hのチャネルが高電位ラインと略完全に導通するため、出力端子133にはVddと略等しい高電圧が現れる。
【0025】
各出力端子133U、133V、133Wが負の電圧を出力している期間では、低電位側ドライバ135Lが低電位側トランジスタ134Lのゲート31Lに、0と1の間でデューティ比が段階的に変わるパルスを印加する一方、高電位側ドライバ135Hは高電位側トランジスタ134Hのゲート31Hにパルスを印加しない(デューティ比が0)。低電位側ドライバ135Lが低電位側トランジスタ134Lのゲート31Lにデューティ比が1のパルスを印加する時、低電位側トランジスタ134Lのチャネルが低電位ラインと略完全に導通するため、出力端子133にはVssと略等しい低電圧が現れる。
【0026】
以上のように、インバータ13が3相の交流を出力している通常動作時は、UVW各相のインバータ13U、13V、13Wにおいて、高電位側トランジスタ134Hおよび低電位側トランジスタ134Lの一方のみにデューティ比が段階的に変わるパルスが印加され、高電位側トランジスタ134Hおよび低電位側トランジスタ134Lの他方にはパルスが印加されない(デューティ比が0)。
【0027】
なお、後述するように、誘導モータ20の一次回路要素の測定時には、ドライバ装置10の構成要素としてのインバータ13が、通常動作時(
図2)における3相の交流の代わりに直流を出力する。この際、各インバータ13において、高電位側トランジスタ134Hおよび低電位側トランジスタ134Lの一方のみに一定の制御信号(デューティ比が1で一定のパルスともいえる)が印加され、他方には制御信号が印加されない(デューティ比が0)。高電位側トランジスタ134Hのみに一定の制御信号が印加されている場合の出力端子133には正の直流電圧V
ddが現れ、低電位側トランジスタ134Lのみに一定の制御信号が印加されている場合の出力端子133には負の直流電圧V
ssが現れる。
【0028】
通常動作時のインバータ13によって生成された3相の交流は、回転動力を発生させる誘導モータ20に供給される。誘導モータ20は、U相、V相、W相の3相のコイル20U、20V、20Wを備える3相ブラシレスモータである。U相コイル20UにはU相インバータ13Uの出力端子133UからのU相電流が流れ、V相コイル20VにはV相インバータ13Vの出力端子133VからのV相電流が流れ、W相コイル20WにはW相インバータ13Wの出力端子133WからのW相電流が流れる。各相のインバータ13U、13V、13Wは、誘導モータ20のホール素子H1、H2、H3が検知した回転子の回転位置に基づき、互いに位相が異なる3相の交流を各相のコイル20U、20V、20Wに印加することで回転磁界を発生させる。この回転磁界によって回転する回転子から所望の回転動力が得られる。なお、誘導モータ20の相の数は3に限られず、任意の自然数でよい。
【0029】
回転子に永久磁石が用いられる同期モータと異なり、非同期モータまたは誘導モータ20の回転子(
図1では不図示)には単相または多相のコイルが用いられる。すなわち、誘導モータ20は、図示される一次側(固定子側)のコイル20U、20V、20Wに加えて、不図示の二次側(回転子側)のコイルを備える。
【0030】
図3は、誘導モータ20の等価回路を示す。図の左側が一次側の固定子21を表し、図の右側が二次側の回転子22を表す。固定子21は前述の3相の一次コイル20U、20V、20Wを備え、回転子22は一次コイル20U、20V、20Wに対応する3相の二次コイル20u、20v、20wを備える。図示される各パラメータはそれぞれ以下を表し、これらのうち数値が略一定のものは特にモータ定数と呼ばれる。
【0031】
V1:一次端子電圧
I1:一次電流
I1′:一次負荷電流
E1:一次誘導起電力
V2:二次端子電圧
I2:二次電流
E2:二次誘導起電力
【0032】
r1:一次抵抗
X1:一次漏れインダクタンスまたは一次リアクタンス
r2:二次抵抗
X2:二次漏れインダクタンスまたは二次リアクタンス
g0:励磁コンダクタンス
b0:励磁サセプタンス
【0033】
I0:励磁電流
Ig:鉄損電流
Ib:磁化電流
R0:等価出力抵抗
S:滑り
【0034】
誘導モータ20の一次側(固定子21側)の一次コイル20U、20V、20Wは、インバータ13またはドライバ装置10からの3相交流(一次電流I1または一次負荷電流I1′)が流されて回転磁界を発生させる。誘導モータ20の二次側(回転子22側)の二次コイル20u、20v、20wには、一次コイル20U、20V、20Wによる回転磁界に応じた誘導電流(二次電流I2)が流れる。そして、二次コイル20u、20v、20wの誘導電流I2が、一次コイル20U、20V、20Wによる回転磁界から電磁力を受けるため、回転子22(二次コイル20u、20v、20w)が固定子21(一次コイル20U、20V、20W)に対して回転する。
【0035】
図4は、本実施形態に係る誘導モータ20の異常判定装置40を模式的に示す。この例では、異常判定装置40がドライバ装置10の一部として図示されているが、異常判定装置40の機能ブロックの一部または全部は、以下で説明する異常判定装置40の作用および/または効果の少なくとも一部が実現される限り、ドライバ装置10外に設けられてもよい。同様に、
図4の例では、異常判定装置40およびドライバ装置10が、それらを制御するコントローラ1の一部として示されているが、異常判定装置40および/またはドライバ装置10の一部または全部がコントローラ1外に設けられてもよい。異常判定装置40は、一次測定部41と、二次測定部42と、演算部43と、異常判定部44を備える。これらの機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置等のプロセッサ、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現されてもよい。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。また、これらの機能ブロックは、ソフトウェアを利用しないハードウェアのみで実装されてもよい。
【0036】
一次測定部41は、UVW各相の一次コイル20U、20V、20Wに直流(DC)を流すことで、一次側(固定子21側)のUVW各相の一次回路要素を測定する。
図4では、一次回路要素として一次抵抗r
1が例示されている。但し、以下の一次抵抗r
1および二次抵抗r
2(
図4では不図示)に関する説明は、一次側および二次側の両方に存在する任意の回路要素(例えば、一次漏れインダクタンスX
1および二次漏れインダクタンスX
2)に当てはまる。
【0037】
一次抵抗r1は、U相一次コイル20Uに付随するU相一次抵抗r1Uと、V相一次コイル20Vに付随するV相一次抵抗r1Vと、W相一次コイル20Wに付随するW相一次抵抗r1Wを含む。また、ドライバ装置10とUVW各相の一次コイル20U、20V、20Wの間には、それぞれの配線による抵抗(配線抵抗)rLU、rLV、rLWが存在する。標準的なドライバ装置10および誘導モータ20では、UVW各相の一次抵抗r1U、r1V、r1Wが互いに略等しく(r1と表す)、UVW各相の配線抵抗rLU、rLV、rLWが互いに略等しい(rLと表す)。そこで、一次測定部41は、UV相間、VW相間、WU相間の少なくともいずれかに直流電圧VDCを印加することで、一次抵抗r1および配線抵抗rLの和を直接的に測定できる。
【0038】
例えば、一次測定部41がUV相間に直流電圧VDCを印加した際に測定された直流電流がIDCであった場合、「VDC=IDC(r1U+r1V+rLU+rLV)=2IDC(r1+rL)」が成り立つ。このため、一次抵抗r1および配線抵抗rLの和は、VDC/2IDCと表される。なお、この場合はUVW各相の配線抵抗rLU、rLV、rLWの相違を考慮する必要がないため、一次測定部41によって直接的に測定されるVDC/2IDC(=r1+rL)を、見かけ上の一次抵抗r1として扱える。
【0039】
一方、UVW各相の一次抵抗r1U、r1V、r1Wおよび/またはUVW各相の配線抵抗rLU、rLV、rLWが、不良、異常、公差等のために互いに異なりうる場合は、一次測定部41による一回の測定(例えばUV相間)だけでは、3相全ての一次抵抗r1U、r1V、r1Wおよび/または3相全ての配線抵抗rLU、rLV、rLWを十分な精度で測定できない可能性がある。そこで、一次測定部41は、UVW各相の可能な全ての組合せ(すなわち、UV相間、VW相間、WU相間)について、一次抵抗r1U、r1V、r1Wおよび/または配線抵抗rLU、rLV、rLWを測定するのが好ましい。
【0040】
具体的には、UV相間での測定において、印加された直流電圧VDCに対して直流電圧IDC1が測定された場合、「VDC=IDC1(r1U+r1V+rLU+rLV)」が成り立つ。このため、U相およびV相の一次抵抗および配線抵抗の和の平均である「(r1U+r1V+rLU+rLV)/2」が「VDC/2IDC1」と表される。同様に、VW相間での測定において印加された直流電圧VDCに対して直流電圧IDC2が測定された場合、V相およびW相の一次抵抗および配線抵抗の和の平均である「(r1V+r1W+rLV+rLW)/2」が「VDC/2IDC2」と表され、WU相間での測定において印加された直流電圧VDCに対して直流電圧IDC3が測定された場合、W相およびU相の一次抵抗および配線抵抗の和の平均である「(r1W+r1U+rLW+rLU)/2」が「VDC/2IDC3」と表される。
【0041】
異常判定部44は、このような複数回(3回)に亘る一次測定部41の第1測定結果(一次抵抗および配線抵抗の和)の第1ばらつき量に基づいて、誘導モータ20の異常を判定してもよい。例えば、UV相間の第1測定結果「VDC/2IDC1」が「80mΩ」であり、VW相間の第1測定結果「VDC/2IDC2」が「100mΩ」であり、WU相間の第1測定結果「VDC/2IDC3」が「120mΩ」であったとする。この場合、異常判定部44は、3回分の第1測定結果の第1ばらつき量の例として、これらの最大値と最小値の差、すなわち「120mΩ-80mΩ=40mΩ」を誘導モータ20の異常判定のために利用する。但し、第1ばらつき量や後述する第2ばらつき量を含むばらつきを表す量は、最大値と最小値の差に限らず標準偏差や分散等の任意の統計値でもよい。
【0042】
具体的には、異常判定部44は、第1ばらつき量「40mΩ」を、3回分の第1測定結果の平均値「(80mΩ+100mΩ+120mΩ)/3=100mΩ」と比較する。但し、第1ばらつき量や後述する第2ばらつき量を含むばらつきを表す量との比較量は、平均値に限らず中央値等の代表値でもよい。この例では、第1ばらつき量「40mΩ」が平均値「100mΩ」の「40%」であると異常判定部44によって評価される。これに対して異常判定部44は、例えば「30%」等の所定の閾値を適用し、評価値「40%」が閾値「30%」以上であることをもって、誘導モータ20に異常があると判定する。この場合、UVW各相の一次抵抗r1U、r1V、r1Wおよび/またはUVW各相の配線抵抗rLU、rLV、rLWに、実用上許容できないばらつき(異常)が存在する可能性が高い。このように一次側の抵抗に異常がある場合、誘導モータ20を正常に稼働できない可能性が高いため、点検等のために誘導モータ20を非常停止させてもよい。なお、閾値は「30%」に限定されない任意の値でよいが、例えば「20%」や「10%」でもよい。本技術分野における一般的な公差の下では評価値が「10%」未満に収まることが期待されるため、異常判定閾値は「10%」以上であるのが好ましい。
【0043】
二次測定部42は、UVW各相の一次コイル20U、20V、20Wに単相の交流(AC)を流すことで、UVW各相の一次回路要素に対応する二次側(回転子22側)のUVW各相の二次回路要素を当該各一次回路要素と併せて測定する。
図4の例では、一次測定部41によってUVW各相の一次抵抗r
1U、r
1V、r
1Wが測定されるため、それらに対応するUVW各相の二次抵抗r
2U、r
2V、r
2W(不図示)が二次測定部42によって測定される。
【0044】
二次測定部42は、一次測定部41と同様に、一次側(固定子21側)においてUVW各相の一次コイル20U、20V、20Wに直流または交流(単相および3相)を流すドライバ装置10によって構成される。このため、二次測定部42がUVW各相の一次コイル20U、20V、20Wに単相の交流を流してUVW各相の二次抵抗r2U、r2V、r2Wを測定する場合、UVW各相の一次抵抗r1U、r1V、r1WおよびUVW各相の配線抵抗rLU、rLV、rLWにも必然的に交流が流れる。従って、二次測定部42による第2測定結果には、二次抵抗、一次抵抗、配線抵抗の三種類のパラメータが寄与している。
【0045】
一次測定部41と同様に、二次測定部42も、UVW各相の可能な全ての組合せ(すなわち、UV相間、VW相間、WU相間)について単相の交流(例えば正弦波)を印加し、二次抵抗r2U、r2V、r2W等を測定するのが好ましい。
【0046】
具体的には、UV相間での測定において、印加された正弦波等の交流電圧VACに対して流れた交流電流IAC1を測定することで、二次抵抗r2U、r2V、一次抵抗r1U、r1V、配線抵抗rLU、rLVの寄与を含むUV相間の第2測定結果が得られる。同様に、VW相間での測定において、印加された正弦波等の交流電圧VACに対して流れた交流電流IAC2を測定することで、二次抵抗r2V、r2W、一次抵抗r1V、r1W、配線抵抗rLV、rLWの寄与を含むVW相間の第2測定結果が得られ、WU相間での測定において、印加された正弦波等の交流電圧VACに対して流れた交流電流IAC3を測定することで、二次抵抗r2W、r2U、一次抵抗r1W、r1U、配線抵抗rLW、rLUの寄与を含むWU相間の第2測定結果が得られる。
【0047】
演算部43は、一次測定部41による第1測定結果および二次測定部42による第2測定結果の差に基づいて、二次回路要素を演算する。前述のように、一次測定部41の直流印加による第1測定結果には、UVW各相の一次抵抗r1U、r1V、r1WおよびUVW各相の配線抵抗rLU、rLV、rLWの寄与が含まれる。また、二次測定部42の単相交流印加による第2測定結果には、これらの寄与に加えてUVW各相の二次抵抗r2U、r2V、r2Wの寄与が含まれる。従って、第2測定結果に含まれるUVW各相の一次抵抗r1U、r1V、r1WおよびUVW各相の配線抵抗rLU、rLV、rLWの寄与を、第1測定結果に基づいて除くことでUVW各相の二次抵抗r2U、r2V、r2Wの寄与を抽出できる。このように、演算部43は、第1測定結果および第2測定結果に基づいて、UVW各相の二次抵抗r2U、r2V、r2Wを演算する。
【0048】
異常判定部44は、一次測定部41による第1測定結果および演算部43による演算結果の比較に基づいて、誘導モータ20の異常を判定してもよい。前述のように、一次測定部41による第1測定結果はUVW各相の一次抵抗r1U、r1V、r1W(ここではUVW各相の配線抵抗rLU、rLV、rLWの影響を無視する)を表し、演算部43による演算結果はUVW各相の二次抵抗r2U、r2V、r2Wを表す。従って、この場合の異常判定部44は、一次抵抗r1U、r1V、r1W(第1測定結果)と二次抵抗r2U、r2V、r2W(演算結果)の比較によって誘導モータ20の異常を判定する。
【0049】
例えば、異常判定部44は、一次抵抗r1U、r1V、r1W(第1測定結果)の第1ばらつき量および二次抵抗r2U、r2V、r2W(演算結果)の平均の比較に基づいて、誘導モータ20の異常を判定してもよい。前述の例と同様に、第1ばらつき量は「40mΩ」であったとする。これに対して二次抵抗r2U、r2V、r2Wの演算部43による演算結果が、それぞれ「40mΩ」「50mΩ」「60mΩ」であったとする。この場合の二次抵抗r2U、r2V、r2W(演算結果)の平均は「(40mΩ+50mΩ+60mΩ)/3=50mΩ」である。この例では、第1ばらつき量「40mΩ」が二次抵抗r2U、r2V、r2W(演算結果)の平均値「50mΩ」の「80%」であると異常判定部44によって評価される。
【0050】
これに対して異常判定部44は、例えば「30%」等の所定の閾値を適用し、評価値「80%」が閾値「30%」以上であることをもって、誘導モータ20に異常があると判定する。この場合、UVW各相の一次抵抗r1U、r1V、r1Wおよび/またはUVW各相の配線抵抗rLU、rLV、rLWに、実用上許容できないばらつき(異常)が存在する可能性が高い。このように一次側の抵抗に異常がある場合、誘導モータ20を正常に稼働できない可能性が高いため、点検等のために誘導モータ20を非常停止させてもよい。なお、閾値は「30%」に限定されない任意の値でよいが、例えば「20%」や「10%」でもよい。本技術分野における一般的な公差の下では評価値が「10%」未満に収まることが期待されるため、異常判定閾値は「10%」以上であるのが好ましい。
【0051】
以上の例では、互いに独立に設定されて理論的には相関のないはずの一次抵抗r1U、r1V、r1W(第1測定結果)と二次抵抗r2U、r2V、r2W(演算結果)が比較されている。しかし、前述のように、二次抵抗r2U、r2V、r2Wを得る過程では、二次測定部42によって一次抵抗r1U、r1V、r1W(および配線抵抗rLU、rLV、rLW)が併せて測定されるため、第1測定結果と演算結果の間には相関が残る。異常判定部44は、このように残存する相関を一次抵抗r1U、r1V、r1W(第1測定結果)と二次抵抗r2U、r2V、r2W(演算結果)の比較という形で検証して、誘導モータ20の異常を効果的に判定する。
【0052】
また、異常判定部44は、一次抵抗r1U、r1V、r1W(第1測定結果)の第1ばらつき量および二次抵抗r2U、r2V、r2W(演算結果)の第2ばらつき量の比較に基づいて、誘導モータ20の異常を判定してもよい。例えば、一次抵抗r1U、r1V、r1W(第1測定結果)の第1ばらつき量が「100mΩ」であったとする。これに対して二次抵抗r2U、r2V、r2Wの演算部43による演算結果の第2ばらつき量(例えば、最大値と最小値の差)が「40mΩ」であったとする。この例では、第2ばらつき量「40mΩ」が第1ばらつき量「100mΩ」の「40%」であると異常判定部44によって評価される。
【0053】
これに対して異常判定部44は、例えば「30%」等の所定の閾値を適用し、評価値「40%」が閾値「30%」以上であることをもって、誘導モータ20に異常があると判定する。この場合、UVW各相の一次抵抗r1U、r1V、r1W、UVW各相の配線抵抗rLU、rLV、rLW、UVW各相の二次抵抗r2U、r2V、r2W、の少なくともいずれかに、実用上許容できないばらつき(異常)が存在する可能性が高い。このように一次側および/または二次側の抵抗に異常がある場合、誘導モータ20を正常に稼働できない可能性が高いため、点検等のために誘導モータ20を非常停止させてもよい。なお、閾値は「30%」に限定されない任意の値でよいが、例えば「20%」や「10%」でもよい。本技術分野における一般的な公差の下では評価値が「10%」未満に収まることが期待されるため、異常判定閾値は「10%」以上であるのが好ましい。
【0054】
異常判定部44は、演算部43によるUVW各相の二次抵抗r2U、r2V、r2Wの演算結果の第2ばらつき量および平均の比較に基づいて、誘導モータ20の異常を判定してもよい。前述の例と同様に、二次抵抗r2U、r2V、r2Wの演算部43による演算結果が、それぞれ「40mΩ」「50mΩ」「60mΩ」であったとする。この場合の二次抵抗r2U、r2V、r2W(演算結果)の第2ばらつき量(最大値と最小値の差)は「20mΩ」であり、平均は「50mΩ」である。この例では、第2ばらつき量「20mΩ」が平均「50mΩ」の「40%」であると異常判定部44によって評価される。
【0055】
これに対して異常判定部44は、例えば「30%」等の所定の閾値を適用し、評価値「40%」が閾値「30%」以上であることをもって、誘導モータ20に異常があると判定する。この場合、UVW各相の二次抵抗r2U、r2V、r2Wに、実用上許容できないばらつき(異常)が存在する可能性が高い。このように二次抵抗r2U、r2V、r2Wに異常がある場合、誘導モータ20を通常動作させても所望のトルクが得られない可能性が高いため、点検等のために誘導モータ20を非常停止させてもよい。なお、閾値は「30%」に限定されない任意の値でよいが、例えば「20%」や「10%」でもよい。本技術分野における一般的な公差の下では評価値が「10%」未満に収まることが期待されるため、異常判定閾値は「10%」以上であるのが好ましい。
【0056】
以上の実施形態の一態様によれば、一次測定部41によって直接的に測定される一次側の一次回路要素(一次抵抗や一次漏れインダクタンス)と、一次測定部41による第1測定結果および二次測定部42による第2測定結果に基づいて演算部43によって演算される二次側の二次回路要素(二次抵抗や二次漏れインダクタンス)の両方を考慮することで、適切に誘導モータ20の異常を判定できる。
【0057】
また、以上の実施形態の一態様によれば、一次測定部41によって直接的に測定される一次側の各相の一次回路要素(一次抵抗や一次漏れインダクタンス)と、一次測定部41による各第1測定結果および二次測定部42による各第2測定結果に基づいて演算部43によって演算される二次側の各相の二次回路要素(二次抵抗や二次漏れインダクタンス)の、少なくともいずれかのばらつき量を考慮することで、適切に多相誘導モータ20の異常を判定できる。
【0058】
異常判定部44と、その異常判定ための基礎情報を測定および/または演算する一次測定部41、二次測定部42、演算部43が、ドライバ装置10によって構成されるため、異常判定のためにセンサ等を追加的に設けなくても誘導モータ20の異常を判定できる。
【0059】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0060】
以上の実施形態では、異常判定部44が誘導モータ20に異常があると判定した場合、点検等のために誘導モータ20が非常停止されたが、これに加えてまたは代えて、異常が判定または推定された段階またはフェーズ(例えば、一次抵抗測定時や二次抵抗測定時)が管理者等に通知されてもよいし、異常の原因と考えられる値(例えば、一次抵抗、二次抵抗、一次漏れインダクタンス、二次漏れインダクタンス)が管理者等に通知されてもよい。
【0061】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0062】
1 コントローラ、10 ドライバ装置、13 インバータ、20 誘導モータ、20U、20V、20W 一次コイル、20u、20v、20w 二次コイル、21 固定子、22 回転子、40 異常判定装置、41 一次測定部、42 二次測定部、43 演算部、44 異常判定部。