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特開2024-25947金属からなる扁平粉の扁平面同士の間隙に、グラフェンの集まりを析出させ、該グラフェンの集まりの摩擦圧接によって、金属からなる扁平粉同士を接合させる方法
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  • 特開-金属からなる扁平粉の扁平面同士の間隙に、グラフェンの集まりを析出させ、該グラフェンの集まりの摩擦圧接によって、金属からなる扁平粉同士を接合させる方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025947
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】金属からなる扁平粉の扁平面同士の間隙に、グラフェンの集まりを析出させ、該グラフェンの集まりの摩擦圧接によって、金属からなる扁平粉同士を接合させる方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/19 20170101AFI20240220BHJP
   B22F 1/068 20220101ALI20240220BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240220BHJP
   B22F 7/00 20060101ALI20240220BHJP
   C10M 103/02 20060101ALI20240220BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20240220BHJP
   B22F 1/17 20220101ALN20240220BHJP
   B32B 9/00 20060101ALN20240220BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240220BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240220BHJP
   C10N 40/14 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
C01B32/19
B22F1/068
B22F3/00 A
B22F7/00 C
C10M103/02 Z
C01B32/194
B22F1/17
B32B9/00 A
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N40:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129339
(22)【出願日】2022-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4F100
4G146
4H104
4K018
【Fターム(参考)】
4F100AA37A
4F100BA01
4F100DE01A
4F100DE02A
4G146AA01
4G146AA16
4G146AB01
4G146AB05
4G146AC01B
4G146AC02B
4G146AD05
4G146AD17
4G146AD20
4G146AD22
4G146BA02
4G146BC18
4G146BC43
4G146CB02
4G146CB03
4G146CB19
4G146CB34
4H104AA04A
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA14
4H104QA12
4K018AB07
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA10
4K018BB01
4K018BC22
4K018BD10
4K018HA08
4K018JA40
4K018KA02
4K018KA33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】第一に、導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する被膜を形成する方法を見出す。第二に、先行出願より、摺動面の潤滑性が優れ、また、火花放電が発生せず、動作寿命が長い金属黒鉛質ブラシとすり板を形成する方法を見出す。
【解決手段】軟質金属からなるフレーク粉の扁平面同士の間隙を、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散したグラフェンの集まりで埋め尽くし、フレーク粉の扁平面を、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散したグラフェンの集まりで覆ったフレーク粉の集まりを作成する。フレーク粉の集まりを、深さが浅い容器に移し、アルコールを気化させた後に、フレーク粉の集まりを圧縮し、薄膜を作成する。金属黒鉛質ブラシないしはすり板の厚みの10倍の深さを持つ容器に、フレーク粉の集まりを移し、アルコールを気化させた後に、フレーク粉の集まりを圧縮し、金属黒鉛質ブラシないしはすり板を作成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる扁平粉の扁平面同士の間隙が、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで埋め尽くされるとともに、前記扁平粉の扁平面が、前記面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで覆われた該扁平粉の集まりを製造する製造方法は、
20℃における粘度が3-5mPa・秒である第一の特徴と、メタノールに溶解ないしは混和する第二の特徴を兼備する一定の量からなるアルコールに、該アルコールの重量の1/10より少ない重量の金属からなる扁平粉の集まりを混合して混合物を作成し、該混合物を容器に注入し、該容器に、0.3-0.5Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.3-0.5Gからなる上下方向の振動加速度を加える、これによって、前記扁平粉が扁平面を上にして前記アルコール中にランダムに並んだ該扁平粉の集まりからなる第一の混合物を前記容器内に作成する第一の工程と、
2枚の平行平板電極からなる電極板対の一方の平行平板電極を容器に配置させ、該一方の平行平板電極の表面に、前記扁平粉の重量の1/5より少ない重量からなる鱗片状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、さらに、前記容器に、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりの重量の100倍以上の重量のメタノールを注入し、前記一方の平行平板電極と前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを、前記メタノール中に浸漬させる、さらに、前記電極板対を構成する他方の平行平板電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記2枚の平行平板電極からなる電極板対を前記メタノール中に浸漬させる、この後、該電極板対の間隙に、前記鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させることができる大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該直流の電位差の大きさを前記電極板対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記電極板対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記電極板対の間隙を拡大し、さらに、該電極板対をメタノール中で傾斜させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の0.2-0.3Gからなる振動加速度を、各々の方向に順番に加え、前記グラフェンの集まりを、前記電極板対の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記容器から前記電極板対を取り出す、グラフェンの集まりがメタノール中に分散した懸濁液を作成する第二の工程と、
前記第一の混合物が入った容器に前記懸濁液を注入し、該容器に0.3-0.5Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.3-0.5Gからなる上下方向の振動加速度を加える、これによって、前記アルコールが前記メタノールで希釈された希釈液中に、前記扁平粉が扁平面を上にしてランダムに並んだ該扁平粉の集まりと、前記アルコールが前記メタノールで希釈された希釈液中に、前記グラフェンが面を上にしてランダムに並んだ該グラフェンの集まりとからなる第二の混合物を作成する第三の工程と、
前記第二の混合物が形成された容器をメタノールの沸点に昇温し、前記第二の混合物からメタノールを気化させる、これによって、前記扁平粉の扁平面同士の間隙が、前記面を上にしたグラフェンが前記アルコールに分散した該グラフェンの集まりで埋め尽くされるとともに、前記扁平粉の扁平面が、前記面を上にしたグラフェンが前記アルコールに分散した該グラフェンの集まりで覆われる第四の工程からなり、
前記した4つの工程における全ての処理を順番に連続して実施することで、金属からなる扁平粉の扁平面同士の間隙が、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで埋め尽くされるとともに、前記扁平粉の扁平面が、前記面を上にしたグラフェンが前記アルコールに分散した該グラフェンの集まりで覆われた該扁平粉の集まりを製造する製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した方法で製造した扁平粉の集まりを用いて、該扁平粉の扁平面同士が接合された薄膜を形成する方法は、
請求項1に記載した方法で製造した扁平粉の集まりの一部を、面積に対する深さの比率が1/100より小さい容器に移し、該容器に0.4-0.6Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.4-0.6Gからなる上下方向の振動加速度を加え、前記扁平粉の集まりを、前記容器の底面に該底面の形状として平面状に引き延ばし、さらに、該平面状に引き延ばされた前記扁平粉の集まりの表面全体を板材で覆う、
この後、前記容器を、請求項1に記載した2つの特徴を兼備するアルコールの沸点に昇温し、前記扁平粉の集まりから、前記アルコールを気化させる、
さらに、前記板材の表面全体を均等に圧縮し、前記アルコールが気化した前記扁平粉の集まりを均等に圧縮する、これによって、前記扁平粉の扁平面同士の間隙を埋め尽くした前記グラフェンの集まりが摩擦圧接するとともに、前記扁平粉の扁平面を覆った前記グラフェンの集まりが摩擦圧接し、該摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して、前記扁平粉の扁平面同士が接合され、該扁平面同士が接合した扁平粉の集まりからなる薄膜が、前記容器の底面に該底面の形状として形成される、
この後、前記容器の底面の複数個所に、0.4-0.6Gからなる上下方向の衝撃加速度を、同時にかつ断続的に繰り返し加え、該容器の底面に形成された前記薄膜を、該容器の底面から剥がし、該薄膜を取り出す、
上記した全ての処理を順番に連続して実施することで、扁平粉の扁平面同士が接合された薄膜が形成される、請求項1に記載した方法で製造した扁平粉の集まりを用いて、扁平粉の扁平面同士が接合された薄膜を形成する方法。
【請求項3】
請求項2に記載した薄膜が、導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する薄膜であり、該導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する薄膜を形成する方法は、請求項2に記載した扁平粉が、錫を除く軟質金属からなるフレーク粉であり、該軟質金属からなるフレーク粉を、請求項2に記載した扁平粉として用い、請求項2に記載した薄膜を形成する方法に従って、導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する薄膜を形成する方法。
【請求項4】
請求項1に記載した金属からなる扁平粉が、錫を除く軟質金属からなるフレーク粉であり、該錫を除く軟質金属からなるフレーク粉を、請求項1に記載した金属からなる扁平粉として用い、請求項1に記載した方法に従って軟質金属からなるフレーク粉の集まりを製造し、該軟質金属からなるフレーク粉の集まりを用いて、該フレーク粉の扁平面同士が、摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して接合された該フレーク粉の集まりからなる金属黒鉛質ブラシないしはすり板を製造する方法は、
請求項1に記載した金属からなる扁平粉として、錫を除く軟質金属からなるフレーク粉を用い、請求項1に記載した方法に従って軟質金属からなるフレーク粉の集まりを製造し、該フレーク粉の集まりの一部を、金属黒鉛質ブラシないしはすり板を収納する容器の形状を有し、前記金属黒鉛質ブラシないしは前記すり板の厚みの10倍からなる深さを有する容器に移す、
さらに、該容器に0.4-0.6Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.4-0.6Gからなる上下方向の振動加速度を加え、前記フレーク粉の集まりを、前記容器に該容器の形状として形成する、
この後、前記フレーク粉の集まりの表面全体を板材で覆い、さらに、前記容器を請求項1に記載した2つの特徴を兼備するアルコールの沸点に昇温し、前記フレーク粉の集まりから、前記アルコールを気化させる、
さらに、前記板材の表面全体を均等に圧縮し、前記アルコールが気化したフレーク粉の集まりを均等に圧縮する、これによって、前記フレーク粉の扁平面同士の間隙を埋め尽くしたグラフェンの集まりが摩擦圧接するとともに、前記フレーク粉の扁平面を覆ったグラフェンの集まりが摩擦圧接し、該摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して、前記フレーク粉の扁平面同士が接合され、該扁平面同士が接合した前記フレーク粉の集まりからなる成形体が、前記容器に該容器の形状として形成される、
この後、前記容器の底面の複数個所に、0.4-0.5Gからなる上下方向の衝撃加速度を、同時にかつ断続的に繰り返し加え、該容器に形成された前記成形体を、該容器の底面から剥がし、該成形体を取り出す、
さらに、該成形体を、底面にばね材が進入する一つまたは複数の貫通孔を有し、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の厚みの1/4より浅い深さを有する容器に収納する、
上記した全ての処理を順番に連続して実施することで、請求項1に記載した金属からなる扁平粉として、軟質金属からなるフレーク粉を用い、請求項1に記載した方法に従って軟質金属からなるフレーク粉の集まりを製造し、該フレーク粉の集まりを用いて、金属黒鉛質ブラシないしはすり板を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属からなる扁平粉の扁平面同士の間隙に、面を上にしたグラフェンの集まりを析出させ、また、金属からなる扁平粉の扁平面を、面を上にしたグラフェンの集まりで覆う。この後、扁平粉の集まりを圧縮し、グラフェンの集まりを、扁平粉の扁平面に摩擦圧接させるとともに、グラフェン同士が摩擦圧接し、該摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して、扁平粉の扁平面同士が接合され、扁平面同士が接合された金属からなる扁平粉の集まりを形成する。
つまり、グラフェンの厚みが0.332nmと極めて薄く、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が極めて大きい。また、金属からなる扁平粉も、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が大きい。いっぽう、黒鉛粒子から製造したグラフェンの多くが、扁平粉の大きさより小さい。従って、金属からなる扁平粉を、扁平面同士で接合するに当たり、扁平粉同士を直接摩擦圧接するより、扁平粉の扁平面同士の間隙に、面を上にしてグラフェンの集まりを析出させ、また、扁平粉の扁平面を、面を上にしたグラフェンの集まりで覆い、この後、扁平粉の集まりを圧縮し、グラフェンの集まりの摩擦圧接を介して、扁平粉の扁平面同士を接合する方が容易である。
いっぽう、摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して、金属からなる扁平粉の扁平面同士が接合した扁平粉の集まりは、扁平粉の扁平面とグラフェンとが互いに積層した構造で構成されるため、扁平粉とグラフェンとの性質を兼備する。これによって、導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する薄膜や、金属黒鉛質ブラシ、すり板として用いることができる。
【背景技術】
【0002】
グラフェン同士が接合した該グラフェンの集まりは、グラフェンに近い性質を持つ。また、金属からなる扁平粉を、扁平面同士で接合した該扁平粉の集まりは、金属の性質を持つ。つまり、グラフェンの厚みが0.332nmと極めて薄いため、グラフェンの厚み方向の熱伝導率は小さく、面方向に熱が優先して伝わる。また、グラフェンの厚み方向の導電率は小さく、面方向に電子が優先して伝わる。このように、グラフェンの厚みが極めて薄いため、グラフェンの性質は異方性を持つ。従って、金属からなる扁平粉の扁平面同士を、グラフェンの集まりで接合すれば、接合した扁平粉の集まりは、扁平粉の扁平面とグラフェンとが積層する構造になるため、扁平粉の性質とグラフェンの性質とを兼備する。いっぽう、グラフェンの厚みが0.332nmと極めて薄く、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が極めて大きい。また、金属からなる扁平粉も、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が大きい。このため、グラフェン同士が接合する際には、面を上にしてグラフェン同士が接合する。また、扁平粉同士が接合する際にも、扁平面を上にして扁平粉同士が接合する。従って、扁平粉の扁平面同士が、グラフェンの集まりで接合する際に、扁平粉の扁平面とグラフェンとが互いに積層した構造を取る。
いっぽう、扁平粉の扁平面同士を接合するグラフェンは、様々な優れた性質を持つ。
熱伝導率が1880W/mKで、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍に相当する。体積固有抵抗率は1.3μΩcmで、金属の中で最も体積固有抵抗率が小さい銀の体積固有抵抗率である1.6μΩcmよりさらに小さい。融点が3000℃を超える単結晶材料で、耐熱温度が3000℃を超える。破断強度が42N/mであり、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材である。酸およびアルカリと反応しないない極めて安定した物質である。
さらに、グラフェン同士が接合したグラフェンの集まりは、グラフェンの異方性によって、例えば、グラフェン同士が重なり合ったグラフェンの面の方向に、熱が優先して伝わり、また、電子が優先して移動する。このため、面を上にしてグラフェン同士が摩擦圧接したグラフェンの集まりの熱伝導率はグラフェンの熱伝導率に近く、導電率はグラフェンの導電率に近い。つまり、グラフェン同士が接合したグラフェンの集まりは、グラフェンが平面状に並んで接合するため、グラフェンの集まりは、グラフェンの面方向に、熱が優先して伝わり、また、電子が優先して移動する。このため、グラフェンの集まりは、優れた熱伝導性と電気導電性を兼備する。また、金属からなる扁平粉は、金属の熱伝導性と電気導電性を兼備する。
従って、グラフェンの導電性によって、グラフェンの集まりは、グラフェンの体積固有抵抗率に応じて、電磁波をシールドする性質を持つ。このため、金属からなる扁平粉同士を、グラフェンの集まりを介して接合させた扁平粉の集まりは、電磁波を遮蔽するシールド膜として、また、帯電を防止する膜として作用する。また、グラフェンが優れた熱伝導率を持ち、金属からなる扁平粉も優れた熱伝導率を持つため、金属からなる扁平粉同士を、グラフェンの集まりを介して接合させた扁平粉の集まりは、放熱膜として作用する。さらに、グラフェン同士を接合したグラフェンの集まりの表面は、グラフェンの厚みに相当する0.332nmに過ぎない平坦度であるため、完全な平面に近い。また、軟質金属からなるフレーク粉の表面の摩擦係数は、0.20-0.25と小さい。このため、軟質金属なからなるフレーク粉同士を、グラフェンの集まりを介して接合させたフレーク粉の集まりは、フレーク粉の扁平面とグラフェンとが互いに積層した構造を形成するため、表面は常に潤滑性に優れた摺動面として作用する。このため、金属黒鉛質ブラシやすり板として用いることができる。さらに、グラフェンが耐食性と耐熱性とに優れ、金属からなる扁平粉は耐熱性に優れているため、扁平粉同士を、グラフェンの集まりを介して接合させた扁平粉の集まりは、耐熱性の膜として作用する。これらの扁平粉同士を、グラフェンの集まりを介して接合させた扁平粉の集まりからなる膜の面積は、例えば、面積が1m×1mを超える場合もある。
ところで、扁平粉の扁平面同士を接合し、より面積が広い扁平粉の集まりを形成するに当たり、扁平粉の扁平面同士を直接摩擦圧接させる場合は、扁平粉の扁平面同士が重なり合った面の比率に応じて、接合した扁平粉の集まりの接合強度が変わる。従って、扁平粉の扁平面同士が重なり合った面の比率が高まるように、扁平粉の扁平面同士を重ね合わせることが必要になる。しかし、扁平粉の大きさにバラツキがある場合は、扁平粉の扁平面同士が重なり合った面の比率を高めることが困難になる。
これに対し、黒鉛粒子から製造した安価なグラフェンは、多くのグラフェンが、扁平粉より小さい。また、グラフェンは殆ど質量を持たない。このため、扁平粉の扁平面同士の間隙と扁平面とに、グラフェンの集まりを析出させ、扁平粉の扁平面同士の間隙をグラフェンの集まりで埋め尽くし、また、扁平粉の扁平面をグラフェンの集まりで覆い、この後、扁平粉の集まりを圧縮すると、グラフェンの集まりが扁平粉の扁平面に摩擦圧接し、また、グラフェン同士が摩擦圧接し、扁平粉の扁平面同士の間隙は、摩擦圧接したグラフェンの集まりで埋め尽くされ、扁平面は摩擦圧接したグラフェンの集まりで覆われる。この結果、摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して、扁平粉の扁平面同士が接合される。従って、扁平粉の扁平面同士が重なり合った面の比率の如何に関わらず、摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して、扁平粉の扁平面同士が接合する。これによって、扁平粉の集まりは、一定の機械的強度を持つ。本発明はこうした考えに基づく。
【0003】
前記したように、本発明の金属の扁平粉同士をグラフェンの集まりで接合した扁平粉の集まりは、導電性膜として作用する。ここで、従来の導電性被膜の課題について説明する。
電気回路の配線の形成、セラミックコンデンサの内部電極の形成、太陽電池セルの電極形成、電磁波シールド膜や帯電防止膜の形成などに用いられる導電性被膜は、多くの場合は、導電性ペーストによって形成している。この導電性ペーストは、樹脂系バインダと溶媒からなるビヒクル中に導電性フィラーを分散させた流動性組成物である。なお、スクリーン印刷で導電性ペーストを印刷すると、導電性フィラーが液状物質を介して被印刷物に映され、樹脂系バインダと溶媒からなる液状物質が導電性フィラーを運ぶ役割を担うため、液状物質をビヒクルと呼ぶ。
導電性ペーストは、樹脂の硬化を介して導電性フィラー同士が接合され、導電性フィラーによる導通が確保される樹脂硬化型と、焼成によって有機成分を揮発し、導電性フィラー同士を焼結して導通が確保される焼成型に二分される。
樹脂硬化型導電性ペーストの多くは、金属粉末からなる導電性フィラーと、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂からなる有機バインダを含んだペースト状の組成物であり、熱を加えることによって、熱硬化型樹脂が導電フィラーとともに硬化収縮し、樹脂を介して導電フィラー同士が圧着されて互いに接触状態となり、導通性がもたらされる。この樹脂硬化型導電性ペーストは、200℃程度の比較的低い温度領域で処理されるため、熱ダメージが少なく、プリント配線基板や熱に弱い樹脂基板などの用途に使用されている。
いっぽう、焼成型導電性ペーストの多くは、金属粉末からなる導電フィラーとガラスフリットとを有機ビヒクル中に分散させたペースト状の組成物であり、900℃程度までの高温領域で焼成し、有機ビヒクルを揮発させ、次にガラスフリットを融解させ、さらに金属粉末同士が焼結することによって導通性がもたらされる。この際、ガラスフリットは、金属粉末からなる導電膜を基板に接合させる作用を有し、有機ビヒクルは、金属粉末およびガラスフリットを印刷可能にするための液状媒体として作用する。焼成型導電性ペーストは焼成温度が高いため、プリント配線基板や樹脂材料には使用できないが、焼結して金属が一体化することから低抵抗化を実現することができ、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極などに使用されている。
【0004】
このような導電性ペーストは、導電性フィラーとして金属粉末を用い、金属粉末を、ないしは、金属粉末とガラスフリットとを、樹脂系バインダと溶媒からなるビヒクル中に分散させた分散液で構成される。このため、導電性フィラーとして金属粉末を用いることと、この金属粉末を分散させることに起因する下記の課題を持っている。
第一の課題は、熱処理後に抵抗値が増大する。すなわち、樹脂硬化型導電性ペーストでは、絶縁性の熱硬化性樹脂が金属粉末同士の接触を妨げる。また、焼成型導電性ペーストでは、導電度が低いガラスフリットが金属粉末同士の焼結を妨げる。このため、加熱後における電気回路の配線、電極、電磁波シールド膜、帯電防止膜の電気抵抗の増大をもたらし、電気エネルギーが損失すると共に、発熱現象をもたらし、導電性被膜が熱劣化する。
第二の課題は、金属粉末の分散性である。つまり、金属粉末のビヒクル中への分散性が悪いと、熱処理後に金属粉末が偏在する。この結果、前記と同様に、加熱後における電気回路の配線、電極、電磁波シールド膜、帯電防止膜の電気抵抗の増大をもたらす。
第三の課題は、金属粉末を焼結する際に金属粉末が収縮する。つまり、金属粉末が収縮することで、積層セラミックスコンデンサの内部電極においては、電極と誘電体とのデラミネーション(層間剥離)や電極層にクラックが発生するなどの構造欠陥が起きる。
第四の課題は、金属粉末同士の凝集である。また、金属粉末が微細になるほど凝集しやすい。金属粉末の凝集が起こると、ビヒクル中への金属粉末の分散性が悪化し、結果として、前記した導電性被膜の電気抵抗の増大をもたらす。
前記した4つの課題はいずれも、導電性フィラーとして金属粉末を用いることと、この金属粉末を分散させる分散媒体に起因するため、根本的な解決は難しい。
【0005】
前記したように、本発明の金属の扁平粉同士をグラフェンの集まりで接合した扁平粉の集まりは、潤滑性膜として作用する。ここで、従来の潤滑性被膜の課題について説明する。
機械の摺動部に相当する部位の摺動抵抗や摩擦抵抗を低減させるため、潤滑性被膜を形成する潤滑剤が幅広く用いられている。潤滑性被膜は、オイルやグリースを塗布することで被膜を形成する湿式潤滑皮膜と、固体潤滑皮膜を含有した樹脂塗料を焼付塗装によって被膜を形成する、あるいは、メッキ処理で固体の被膜を形成する、乾性潤滑被膜がある。いっぽう、潤滑性被膜に対する以下の要求に応えるため、乾性潤滑被膜が主流になっている。また、これら要求事項は、乾性潤滑被膜をさらに改良する課題でもある。
第一に、機械や機器の高速化、高精密化、長寿命化、軽量化、小型化、メンテナンスフリーに対応できること。
第二に、油潤滑が適用し難い高温、極低温、超真空、超高圧下などの極限環境に対応できること。
いっぽう、乾性潤滑被膜の形成は、次の3つの方法が一般的である。第一の方法は、有機ビヒクルに分散させた固体潤滑剤を、固体表面にコーティングまたはスプレーした後に乾燥させる。第二の方法は、スパッタリングによる方法で、例えば、真空中で二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を陰極とし、不活性ガスイオンの衝撃によって陰極から叩き出された二硫化モリブデンなどの微粒子を、固体表面に堆積被覆する。第三の方法法は、イオンプレーティングによる方法で、例えば、真空中においてメッキ材(金、銀などの軟質金属)をイオン化し、電場によって加速して固体表面に、軟質金属の皮膜を蒸着する。第二と第三の方法は、真空チャンバー内での処理であるため、潤滑性被膜を形成する部品の大きさ、形状、個数に制約があり、また、処理費用が高価になる。このため、スパッタリングやイオンプレーティングによる固有の特段な効果が、潤滑性被膜の性能に現れない限り、第一の方法によって潤滑性被膜の形成がなされている。
いっぽう、第一の方法では、有機ビヒクルの潤滑性が劣るため、有機ビヒクルの含有量に応じて、潤滑作用が低下する。さらに、有機ビヒクルの含有量が少ないと、固体潤滑剤の分散性が悪化し、潤滑剤の潤滑作用にばらつきが生じる。また、極低温や真空状態では、有機ビヒクルを潤滑剤として用いることができず、また、高温では、有機ビヒクルの寿命が短い。このように、本潤滑剤も汎用的な潤滑剤とは言えない。
【0006】
前記したように、本発明の金属の扁平粉同士をグラフェンの集まりで接合した扁平粉の集まりは、金属黒鉛質ブラシとすり板として用いることができる。ここで、金属黒鉛質ブラシとすり板に関わる従来の課題について説明する。
金属黒鉛質ブラシとすり板の大きな課題は、摺動面の摩耗によって、動作寿命が決まることである。つまり、金属黒鉛質ブラシとすり板の摩耗は、従来、摺動面における機械的摩耗であると考えられてきた。これに対し、本発明者は、以下に記載する先行出願特許において、金属黒鉛質ブラシとすり板の摩耗は、摺動面と相手の摺動面との間に微小な間隙が形成される際に、大きな電界が金属黒鉛質ブラシないしはすり板に作用し、この電界によって、金属黒鉛質ブラシとすり板を構成する黒鉛結晶の層間結合が破壊される電気的摩耗によるとの考えに基づく発明をなした。
特許文献1には、黒鉛粒子に銅錯体の溶液を付着させ、該黒鉛粒子を酸素含有雰囲気で熱処理し、前記銅錯体を熱分解し、黒鉛粒子の表面に銅粒子を形成させる。さらに、銅粒子を形成した黒鉛粒子を成形して成形体を形成し、成形体を還元雰囲気で焼成し、焼結体をモーター用の金属黒鉛質ブラシとして用いることが記載されている。従って、黒鉛粒子は導電性を持ち、成形体の表面に等電位面が形成される。このため、摺動面に微小な間隙が形成され、大きな電界が摺動面に作用しても、摺動面が等電位面であるため、電界の印加によって自由電子が移動するだけで、黒鉛結晶の層間結合が破壊される電気的摩耗は起こらない。
【0007】
特許文献2には、黒鉛粒子の表面に有機銅化合物を吸着させ、該有機銅化合物を熱分解し、黒鉛粒子の表面に多層構造からなる銅微粒子の集まりが結合し、該銅微粒子の集まりが結合した黒鉛粒子の集まりを圧縮成形し、すり板を製造する方法が記載されている。
特許文献2に記載されたすり板は、特許文献1と同様に、黒鉛粒子は導電性を持ち、成形体の表面に等電位面が形成される。このため、摺動面に微小な間隙が形成され、大きな電界が摺動面に作用しても、摺動面が等電位面であるため、電界の印加によって自由電子が移動するだけで、黒鉛結晶の層間結合が破壊される電気的摩耗は起こらない。
【0008】
特許文献3に、グラフェンの表面に金属のナノ粒子の集まりを析出させ、グラフェン同士を金属結合した金属のナノ粒子の集まりを介して結合させ、さらに、グラフェンの集まりにおける内部の空隙の全てを、金属結合した金属微粒子の集まりで埋める。これによって、グラフェンの集まりは機械的強度に優れ、また、衝撃力を受けた際にクラックが発生しない。また、グラフェンの集まりの表面が摺動摩擦を行うと、グラフェンが必ず摺動面に現れ、優れた潤滑作用を継続し、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の動作寿命が延びる。また、摺動摩擦の相手の摺動面に損傷を与えない。さらに、全てのグラフェンが、金属のナノ粒子で覆われるため、全てのグラフェンに等電位面が形成される。従って、摺動面に微小な間隙が形成され、大きな電界が摺動面に作用しても、摺動面が等電位面であるため、電界の印加によって自由電子が移動するだけで、黒鉛結晶の層間結合が破壊される電気的摩耗は起こらない。これによって、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の動作寿命がさらに延びる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開番号WO2007/138662
【特許文献2】特許6134465号
【特許文献3】特願2021-009923
【特許文献4】特許第6166860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記した導電性ペーストの5つの課題は、導電性被膜を形成する課題でもあり、導電性フィラーとして金属粉末を用いることと、この金属粉末をビヒクル中に分散させることによって起こる。従って、金属粉末をビヒクル中に分散させる限り、前記した課題を根本的に解決することはできない。従って、従来の導電性ペーストを用いず、全く新たな材料によって安価な導電性被膜を形成することで、上記の課題が解決される。このため、全く新たな考え方に基づく安価な導電性被膜を形成する技術が強く求められている。
さらに、工業製品の用途に応じて、様々な潤滑性被膜が形成されるが、汎用性のある潤滑性被膜は存在しない。一方、潤滑性被膜が次の3つの要件を兼備すれば、汎用性のある潤滑性被膜になる。第一に、油潤滑が適用できない高荷重や高温、極低温、超真空、超高圧下などの過酷な環境でも使用できる。第二に、潤滑性被膜の摩擦係数が小さく、摩耗速度が遅いため、潤滑性被膜の寿命が長い。また、潤滑性被膜と摺動摩擦する相手の摺動部材の摺動面の摩耗も少なくなる。第三に、潤滑性被膜を形成する摺動面の大きさ、形状、材質に係わらず、安価な潤滑性被膜が形成できる。
いっぽう、導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する被膜を形成する技術は、現在までのところ存在しない。本発明が解決しようとする課題は、上記の要件を兼備する安価な導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する被膜を形成する方法を実現することにある。
また、金属黒鉛質ブラシとすり板については、特許文献3に記載した方法よりさらに、摺動面の潤滑性が優れ、また、火花放電が発生せず、動作寿命が長い金属黒鉛質ブラシとすり板を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
金属からなる扁平粉の扁平面同士の間隙が、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで埋め尽くされるとともに、前記扁平粉の扁平面が、前記面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで覆われた該扁平粉の集まりを製造する製造方法は、
20℃における粘度が3-5mPa・秒である第一の特徴と、メタノールに溶解ないしは混和する第二の特徴を兼備する一定の量からなるアルコールに、該アルコールの重量の1/10より少ない重量の金属からなる扁平粉の集まりを混合して混合物を作成し、該混合物を容器に注入し、該容器に、0.3-0.5Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.3-0.5Gからなる上下方向の振動加速度を加える、これによって、前記扁平粉が扁平面を上にして前記アルコール中にランダムに並んだ該扁平粉の集まりからなる第一の混合物を前記容器内に作成する第一の工程と、
2枚の平行平板電極からなる電極板対の一方の平行平板電極を容器に配置させ、該一方の平行平板電極の表面に、前記扁平粉の重量の1/5より少ない重量からなる鱗片状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、さらに、前記容器に、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりの重量の100倍以上の重量のメタノールを注入し、前記一方の平行平板電極と前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを、前記メタノール中に浸漬させる、さらに、前記電極板対を構成する他方の平行平板電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記2枚の平行平板電極からなる電極板対を前記メタノール中に浸漬させる、この後、該電極板対の間隙に、前記鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させることができる大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該直流の電位差の大きさを前記電極板対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記電極板対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記電極板対の間隙を拡大し、さらに、該電極板対をメタノール中で傾斜させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の0.2-0.3Gからなる振動加速度を、各々の方向に順番に加え、前記グラフェンの集まりを、前記電極板対の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記容器から前記電極板対を取り出す、グラフェンの集まりがメタノール中に分散した懸濁液を作成する第二の工程と、
前記第一の混合物が入った容器に前記懸濁液を注入し、該容器に0.3-0.5Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.3-0.5Gからなる上下方向の振動加速度を加える、これによって、前記アルコールが前記メタノールで希釈された希釈液中に、前記扁平粉が扁平面を上にしてランダムに並んだ該扁平粉の集まりと、前記アルコールが前記メタノールで希釈された希釈液中に、前記グラフェンが面を上にしてランダムに並んだ該グラフェンの集まりとからなる第二の混合物を作成する第三の工程と、
前記第二の混合物が形成された容器をメタノールの沸点に昇温し、前記第二の混合物からメタノールを気化させる、これによって、前記扁平粉の扁平面同士の間隙が、前記面を上にしたグラフェンが前記アルコールに分散した該グラフェンの集まりで埋め尽くされるとともに、前記扁平粉の扁平面が、前記面を上にしたグラフェンが前記アルコールに分散した該グラフェンの集まりで覆われる第四の工程からなり、
前記した4つの工程における全ての処理を順番に連続して実施することで、金属からなる扁平粉の扁平面同士の間隙が、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで埋め尽くされるとともに、前記扁平粉の扁平面が、前記面を上にしたグラフェンが前記アルコールに分散した該グラフェンの集まりで覆われた該扁平粉の集まりを製造する製造方法である。
【0012】
つまり、本発明によれば、金属からなる扁平粉の扁平面同士の間隙が、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで埋め尽くされるとともに、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりが扁平粉の扁平面を覆う。こうした扁平粉の集まりは、導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する薄膜を形成する際の原料になり、また、動作寿命が長い金属黒鉛質ブラシとすり板を形成する際の原料になる。
本発明は、4つの工程からなる。
第一の工程は、扁平面を上にした扁平粉が、アルコール中にランダムに並んだ該扁平粉の集まりからなる第一の混合物を作成する工程である。
最初に、20℃における粘度が3-5mPa・秒である第一の特徴と、メタノールに溶解ないしは混和する第二の特徴を兼備するアルコールに、アルコールの重量の1/10よりより少ない重量の金属からなる扁平粉の集まりを混合して混合物を作成する。次に、混合物を容器に注入し、該容器に0.3-0.5Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.3-0.5Gからなる上下方向の振動加速度を加える。つまり、混合物に振動加速度を加えて、一定の粘度を持つアルコール中で扁平粉を移動させるため、扁平粉の重量をアルコールの重量の1/10より少なくし、扁平粉がアルコール中で移動し易くさせた。いっぽう、混合物に3方向の振動加速度を、各々の方向に順番に加えると、扁平粉がアルコールとともに、振動加速度の方向に移動するが、扁平粉のアスペクト比が大きいため、扁平面を上にしてアルコール中を移動するのが最も扁平粉に負荷が加わらない。このため、扁平粉は、扁平面を上にしてアルコール中を継続して移動する。混合物に3方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加えると、扁平粉の集まりは、面を上にしてアルコール中でランダムに並ぶ。最後に、上下方向の振動加速度を加え、面を上にした扁平粉の集まりを、アルコール中に確実に並ばせる。また、アルコールは、メタノールに比べ粘度が5-8倍と高いため、振動加速度の負荷の印加がなくなると、面を上にしてアルコール中にランダムに並んだ扁平粉とアルコールとの間に、アルコールの粘度に基づく吸着力が作用し、再度、混合物により大きな振動加速度を加えない限り、扁平粉の集まりは、面を上にしてアルコール中に並んだ状態を保つ。この結果、扁平粉が扁平面を上にしてアルコール中にランダムに並んだ扁平粉の集まりからなる第一の混合物が、容器内に作成される。なお、容器に加える振動加速度の大きさは、容器の大きさと混合物の量に応じて、0.3-0.5Gからなる振動加速度を加える。
第二の工程は、グラフェンの集まりがメタノール中に分散した懸濁液を作成する工程である。つまり、極めて簡単な以下の処理を連続して実施すると、黒鉛粒子を原料として、グラフェンの集まりがメタノールに分散した安価な懸濁液が製造される。なお、グラフェンは、金属の扁平粉の扁平面同士を接合させる手段である。このため、グラフェンの原料となる黒鉛粒子の重量を、金属の扁平粉の重量の1/5より少ない重量とした。
最初に、2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰められた鱗片状黒鉛粒子の集まりを、絶縁体であるメタノール中に浸漬させ、2枚の平行平板電極間に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加させる。2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰めた鱗片状黒鉛粒子の集まりを、メタノール中に浸漬させるため、メタノールの重量を鱗片状黒鉛粒子の100倍以上の重量とした。これによって、平面状に敷き詰められた黒鉛粒子の集まりが、メタノール中に浸漬する。この際に、電位差を2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生する。この電界は、前記した黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与える。これによって、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。つまり、π電子に作用するクーロン力が、π軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に与えられると、π電子はπ軌道の拘束から解放されて自由電子になる。この結果、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子が、π軌道上に存在しなくなり、黒鉛粒子の全てについて、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。この結果、2枚の平行平板電極の間隙に、基底面の集まり、すなわちグラフェンの集まりが瞬時に製造される。製造されたグラフェンは、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。なお、2枚の平行平板電極がメタノール中に浸漬しているため、2枚の平行平板電極の間隙に析出したグラフェンの集まりは飛散しない。以上に説明した黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造する方法は、本発明者による特許文献4に記載されている。
なお、絶縁体であるメタノール中に浸漬した2枚の平行平板電極間に、電位差を印加させると、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する。すなわち、メタノールは比抵抗が3MΩcm以上で、誘電率が33の絶縁体である。また、エタノールも誘電率が24からなる絶縁体である。なお、エタノールの電気導電率は7.5×10-6S/mで、鱗片状黒鉛粒子の電気伝導度が43.9S/mである。従って、エタノールは、導電体である鱗片状黒鉛粒子に比べ、電気導電度が1.7×10倍低い絶縁体である。
次に、グラフェンの集まりを、2枚の平行平板電極の間隙からメタノール中に移動させる。このため、2枚の平行平板電極の間隙を、メタノール中で拡大させ、さらに、メタノール中で傾斜させ、この後、メタノールが充填された容器に3方向の0.2-0.3Gからなる振動加速度を加える。これによって、グラフェンの集まりが、2枚の平行平板電極の間隙からメタノール中に移動する。この後、2枚の平行平板電極を容器から取り出す。この結果、容器内に、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液が製造される。
この懸濁液は、安価な工業用素材である黒鉛粒子の集まりを、2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰め、2枚の平行平板電極をメタノール中に浸漬させ、この後、2枚の平行平板電極の間隙に直流の電位差を加えるだけの極めて簡単な処理で、懸濁液が製造されるため、安価な懸濁液である。
第三の工程は、扁平面を上にした扁平粉が、液体中でランダムに並んだ該扁平粉の集まりと、面を上にしたグラフェンが、液体中でランダムに並んだグラフェンの集まりとからなる第二の混合物を作成する。このため、第一の工程で使用したアルコールは、メタノールに溶解ないしは混和する性質を持ち、アルコールのメタノール希釈液中に、扁平面を上にした扁平粉の集まりと、扁平面を上にしたグラフェンの集まりが、ランダムに並ぶ。
すなわち、第一の混合物が入った容器に、第二の工程で作成した懸濁液を注入し、この後、容器に0.3-0.5Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.3-0.5Gからなる上下方向の振動加速度を加える。
この際に、メタノール中に分散したグラフェンの集まりは、アルコールがメタノールで希釈されたアルコールの希釈液中に、面を上にしてランダムに並んだグラフェンの集まりになる。また、第一の工程で作成した扁平面を上にした扁平粉が、アルコール中にランダムに並んだ扁平粉の集まりも、アルコールがメタノールで希釈されたアルコールの希釈液中に、扁平面を上にした扁平粉が、アルコールの希釈液中にランダムに並んだ扁平粉の集まりになる。
つまり、グラフェンの厚みが僅かに0.322nmであり、アスペクト比は極めて大きく、また、質量を殆ど持たない。このため、アルコールのメタノール希釈液中に分散したグラフェンの集まりに3方向の振動加速度が加わると、グラフェンはアルコールのメタノール希釈液とともに振動方向に移動するが、面を上にしてアルコールのメタノール希釈液中を移動するのが、最もグラフェンに負荷が加わらない。このため、グラフェンは、面を上にしてアルコールの希釈液中を継続して移動する。3方向の振動加速度が繰り返し加わると、面を上にしたグラフェンの集まりが、アルコールのメタノール希釈液中にランダムに並ぶ。いっぽう、扁平粉は、厚みがサブミクロンで、大きさがミクロンサイズからなる。このため、扁平粉は、極めて軽く、また、アスペクト比が大きい。従って、アルコールのメタノール希釈液中に分散した扁平粉に、3方向の振動加速度が加わると、扁平粉はアルコールのメタノール希釈液とともに振動方向に移動するが、面を上にしてアルコールのメタノール希釈液中を移動するのが最も扁平粉に負荷が加わらない。このため、扁平粉は、扁平面を上にしてアルコールの希釈液中を継続して移動する。従って、扁平粉に3方向の振動加速度が繰り返し加わると、面を上にした扁平粉の集まりが、アルコールのメタノール希釈液中にランダムに並ぶ。さらに、黒鉛粒子から製造したグラフェンの大きさは、1-300μmからなるばらつきがある。このため、グラフェンが、面を上にしてアルコールの希釈液中を移動する際に、扁平面を上にしてランダムに並んだ扁平粉の間隙に、面を上にしたグラフェンの一部が入り込む。この結果、扁平面を上にした扁平粉が、アルコールの希釈液中でランダムに並んだ扁平粉の集まりと、扁平面を上にしたグラフェンが、アルコールの希釈液中でランダムに並んだグラフェンの集まりとが、互いにアルコールのメタノール希釈液を介してランダムに積層した第二の混合物が、容器内に作成される。最後に、上下方向の振動加速度を加え、扁平粉の集まりと、グラフェンの集まりを、アルコールのメタノール希釈液中で確実に面を上にして並ばせる。なお、容器に加える振動加速度の大きさは、容器の大きさと混合物の量に応じて、0.3-0.5Gからなる振動加速度を加える。
第四の工程は、第二の混合物が形成された容器をメタノールの沸点に昇温し、第二の混合物からメタノールを気化させる工程である。
これによって、扁平粉の扁平面同士の間隙が、面を上にしたグラフェンが、アルコールに分散した該グラフェンの集まりで埋め尽くされるとともに、扁平粉の扁平面が、面を上にしたグラフェンが、アルコールに分散した該グラフェンの集まりで覆われる。
上記した4つの工程における全ての処理を順番に連続して実施することで、金属からなる扁平粉の扁平面同士の間隙が、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで埋め尽くされるとともに、扁平粉の扁平面が、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで覆われ、こうした扁平粉の集まりが、容器内に形成される。なお、アルコールが20℃において3-5mPa・秒の粘度を持っている。このため、グラフェンの集まりは、アルコールの粘度に応じた吸着力で面を上にして互いに吸着する。従って、扁平粉の扁平面同士の間隙を埋め尽くしたグラフェンの集まりは、アルコールの粘度に応じた吸着力で、面を上にして扁平粉の扁平面同士の間隙に吸着する。さらに、扁平粉の扁平面を覆ったグラフェンの集まりは、面を上にして扁平粉の扁平面に吸着する。
【0013】
11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりを用いて、該扁平粉の扁平面同士が接合された薄膜を形成する方法は、
11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりの一部を、面積に対する深さの比率が1/100より小さい容器に移し、該容器に0.4-0.6Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を繰り返し加え、最後に0.4-0.6Gからなる上下方向の振動加速度を加え、前記扁平粉の集まりを、前記容器の底面に該底面の形状として平面状に引き延ばし、さらに、該平面状に引き延ばされた扁平粉の集まりの表面全体を板材で覆う、
この後、前記容器を、11段落に記載した2つの特徴を兼備するアルコールの沸点に昇温し、前記扁平粉の集まりから、前記アルコールを気化させる、
さらに、前記板材の表面全体を均等に圧縮し、前記アルコールが気化した扁平粉の集まりを均等に圧縮する、これによって、前記扁平粉の扁平面同士の間隙を埋め尽くした前記グラフェンの集まりが摩擦圧接するとともに、前記扁平粉の扁平面を覆った前記グラフェンの集まりが摩擦圧接し、該摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して、前記扁平粉の扁平面同士が接合され、該扁平面同士が接合した扁平粉の集まりからなる薄膜が、前記容器の底面に該底面の形状として形成される、
この後、前記容器の底面の複数個所に、0.4-0.6Gからなる上下方向の衝撃加速度を、同時にかつ断続的に繰り返し加え、該容器の底面に形成された前記薄膜を、該容器の底面から剥がし、該薄膜を取り出す、
上記した全ての処理を順番に連続して実施することで、扁平粉の扁平面同士が接合された薄膜が形成される、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりを用いて、扁平粉の扁平面同士が接合された薄膜を形成する方法。
【0014】
最初に、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりの一部を、面積に対する深さの比率が1/100より小さい容器に移す。つまり、厚みが薄い薄膜を容器の底面に該底面の形状として形成するため、面積に対する深さの比率が1/100より小さい容器を用いた。扁平粉の集まりの一部を容器に移す際に、殆ど質量を持たないグラフェンの集まりは、アルコールの粘度に応じた吸着力で互いに吸着している。いっぽう、扁平粉の集まりを容器に移す際に、グラフェンに加わる負荷が小さい。このため、グラフェンの集まりが、アルコールの粘度に応じた吸着力で面を上にして互いに吸着している状態は変わらない。また、扁平粉の扁平面同士の間隙を埋め尽くしたグラフェンの集まりは、アルコールの粘度に応じた吸着力で、面を上にして扁平粉の扁平面に吸着している状態は変わらない。さらに、扁平粉の扁平面を覆ったグラフェンの集まりは、アルコールの粘度に応じた吸着力で、面を上にして扁平粉の扁平面に吸着している状態は変わらない。
次に、容器に0.4-0.6Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.4-0.6Gからなる上下方向の振動加速度を加える。この際、扁平粉の扁平面同士の間隙が狭く、また、グラフェンの集まりがアルコールの粘度に応じた吸着力で吸着しているため、間隙を埋め尽くしたグラフェンの集まりを伴って、扁平粉の扁平面が振動方向に、容器の底面を埋めるように継続して移動する。また、扁平粉の扁平面を覆ったグラフェンの集まりを伴って、扁平粉の扁平面が振動方向に、容器の底面を埋めるように継続して移動する。3方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加えると、扁平粉の集まりが平面状に引き延ばされ、容器の底面に該底面の形状として形成される。なお、容器に加える振動加速度の大きさは、容器の大きさと扁平粉の集まりの量に応じて、0.4-0.6Gからなる振動加速度を加える。
この後、平面状に引き延ばされた扁平粉の集まりの表面全体を板材で覆う。さらに、容器をアルコールの沸点に昇温し、扁平粉の集まりから、アルコールを気化させる。これによって、扁平粉の扁平面同士の間隙が、面を上にしたグラフェンの集まりで埋め尽くされ、扁平粉の扁平面が、面を上にしたグラフェンの集まりで覆われる。また、アルコールが気化する際に、扁平粉の集まりに含まれていた水分や有機物などの不純物が気化し、扁平粉の集まりは、真性なグラフェンと真性な扁平粉との集まりになる。
さらに、板材の表面全体を均等に圧縮し、扁平粉の集まりを均等に圧縮する。これによって、扁平粉の扁平面同士の間隙を埋め尽くした面を上にしたグラフェン同士が摩擦圧接するとともに、扁平粉の扁平面を覆った面を上にしたグラフェン同士が摩擦圧接し、摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して、扁平粉の扁平面同士が接合され、扁平面同士が接合した扁平粉の集まりからなる薄膜が、容器の底面に該底面の形状として形成される。なお、グラフェンと扁平粉の集まりには不純物がないため、グラフェンが扁平粉の扁平面に強固に接合し、また、グラフェン同士も強固に接合する。
この後、容器の底面の複数個所に、0.4-0.6Gからなる上下方向の衝撃加速度を、同時にかつ断続的に繰り返し加え、容器の底面に形成された薄膜を、容器の底面から剥がし、薄膜を取り出す。この結果、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりを用い、扁平粉の扁平面同士が接合された薄膜が、容器の底面の形状として形成される。なお、容器に加える上下方向の衝撃加速度の大きさは、容器の大きさに応じて、0.4-0.6Gからなる衝撃加速度を加える。
従って、薄膜の形状は、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりの一部を移した容器の形状になる。また、薄膜の厚みは、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりを容器に移した量によって決まる。このため、薄膜の形状と大きさと厚みの制約はない。
【0015】
13段落に記載した薄膜が、導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する薄膜であり、該導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する薄膜を形成する方法は、13段落に記載した扁平粉が、錫を除く軟質金属からなるフレーク粉であり、該錫を除く軟質金属からなるフレーク粉を、13段落に記載した扁平粉として用い、13段落に記載した薄膜を形成する方法に従って、導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する薄膜を形成する方法。
【0016】
軟質金属からなる扁平粉は、フレーク粉と呼ばれることが多いため、ここでは、フレーク粉として記載する。すなわち、軟質金属からなるフレーク粉は、アルミニウムを除く金、銀、銅、錫ないしは亜鉛などから軟質金属の粉体を、主にスタンプミルを用いて搗き砕くことで原料粉が扁平加工され、薄片状のフレーク粉が製造される。このフレーク粉は、表面が滑らかであるため、表面の摩擦係数は、0.20-0.25と小さい。このため、軟質金属からなるフレーク紛は、表面が潤滑性を持つとともに、軟質金属の材質に基づく導電性と熱伝導性を兼備する。さらに、粉体の厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が大きい。従って、扁平面同士を重ね合わせれば、少ない量のフレーク粉の集まりで、潤滑性と導電性と熱伝導性を兼備する薄膜が形成できる。なお、アルミニウムのフレーク粉は、アルミニウム微粒子の活性度が高いため、アトマイズ法で製造した微粒子を、湿式ボールミルで扁平処理する。
これらの軟質金属からなるフレーク紛は、ガラス、マイカ、アルミナ、シリカ、酸化鉄などの金属酸化物や、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛などの無機化合物や、鱗状黒鉛ないしは鱗片状黒鉛と呼ばれる黒鉛粒子からなる潤滑性を持つ扁平粉と比べると、耐熱性、耐寒性、耐荷重性、熱伝導性、導電性の5項目の性質が、いずれも他の材質に比べると相対的に優れる特徴を持つ。つまり、金属酸化物と無機化合物とからなる扁平粉の多くは、耐熱性に優れるが、電気的には絶縁性である。また、黒鉛粒子は、耐熱性、熱伝導性及び導電性が、軟質金属より劣る。
さらに、軟質金属は、金属間の相互溶解度が低い金属との組み合わせが可能になる。例えば、銅扁平粉の表面を、メッキによって銀をコーティングした銀コート銅扁平粉は、ないしは、銀扁平粉は、鉄、ニッケル、コバルトないしはクロムと、銀との相互溶解度がゼロに近いため、これらの金属からなる摺動部材と、銀コート銅扁平粉、ないしは、銀扁平粉からなる潤滑性被膜とは、摺動面における滑り特性がさらに優れ、被膜の摩耗量はさらに少なくなる。また、クロム、モリブデン、タングステンないしはニオブと、銅との相互溶解度が小さく、これらの金属からなる摺動部材と、銅扁平粉からなる潤滑性被膜とは、摺動面における滑り特性が優れ、被膜の摩耗量が少ない。
いっぽう、錫を除く金属フレーク粉の耐熱温度は、一般的に軟化点で決まり、最も低い電解銅であっても、軟化点が800℃と高い。また、錫を除く軟質金属は低温脆性を持たないので、極低温での使用が可能になる。従って、軟質金属からなるフレーク粉の集まりからなる被膜は、油潤滑が適用できない高温、極低温、超真空、超高圧下など、過酷な環境でも使用できる。さらに、耐荷重性は600MPaと高い。このため、摺動面に配置されたフレーク粉の集まりを圧縮する際に、軟質金属からなるフレーク紛の扁平面は圧縮応力に耐える。なお、軟質金属からなるフレーク紛は、表面が滑らかであるが、表面は平面ではなく、固有の表面粗さを持つ。
いっぽう、アルミニウムの溶融点は660℃である。これに対し、錫の融点が232℃で、-40℃付近からで低温脆性を起こす。このため、錫のフレーク紛は、耐熱性を兼備する薄膜を形成するフレーク粉として用いられない。
上記したフレーク紛の密度は、アルミニウムの密度が2.70g/cmと最も小さい。さらに、上記した軟質金属からなるフレーク紛は、高密度の放射線下でも薄膜として作用する。
以上に説明したように、錫を除く軟質金属からなるフレーク粉は、導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する薄膜を形成する際に用いる好適な扁平粉になる。従って、薄膜に求められる仕様に応じて軟質金属の材質を選択することで、本発明における薄膜は汎用性を持つ。
【0017】
以上に説明した方法で形成した薄膜は、フレーク粉の扁平面同士が、面を上にして摩擦圧着したグラフェンの集まりを介して接合されるため、次の作用効果をもたらす。
最初に、潤滑性被膜としての作用効果を説明する。
第一に、薄膜は、扁平面を上にしたフレーク粉の扁平面同士が、面を上にして摩擦圧着したグラフェンを介して接合されるため、薄膜は無機物で構成される。このため、無機物のみで構成される潤滑被膜は、従来の油潤滑によってもたらされる課題を持たない。つまり、耐熱性、耐寒性、耐荷重性に優れた無機物で、薄膜が構成されるため、油潤滑では使用できない過酷な環境でも、潤滑性被膜が使用できる。また、潤滑性被膜が固体のみで形成されるため、真空状態や高圧下でも使用できる。これによって、10段落に記載した第一の課題が解決される。
第二に、軟質金属からなるフレーク粉の扁平面の摩擦係数は小さい。また、グラフェン同士を接合したグラフェンの集まりの表面は、グラフェンの厚みに相当する0.332nmに過ぎない平坦度を有し、完全な平面に近い。いっぽう、薄膜は、扁平面を上にしたフレーク粉の扁平面同士が、面を上にして摩擦圧着したグラフェンを介して接合されるため、フレーク粉の扁平面とグラフェンとが互いに積層した構造からなる。このため、薄膜の表面に、フレーク粉の扁平面ないしはグラフェンが常時現れ、薄膜の表面は優れた潤滑作用を維持する。また、薄膜の表面のグラフェンないしはフレーク粉が剥ぎ落されても、グラフェンないしはフレーク粉の扁平面が表面に現れるため、薄膜の優れた潤滑作用が継続する。これによって、10段落に記載した第二の課題が解決される。
第三に、薄膜の表面は、フレーク粉の扁平面ないしはグラフェンによって構成されるため、薄膜は、摺動摩擦を開始する時点から、表面の摩擦係数が小さい。こうした摺動摩擦が継続するため、薄膜の摩耗速度は遅く、薄膜の寿命が長い。また、摺動摩擦する相手の摺動部材の摺動面の摩耗も少なくなる。さらに、薄膜を形成するフレーク粉の使用量が少なくて済む。また、真正なグラフェン同士が摩擦圧接するため、摩擦圧接したグラフェンは、容易に摺動面から剥がれない。これによって、10段落に記載した第二の課題が解決される。
第四に、薄膜の形状は、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりの一部を移した容器の形状になる。また、薄膜の厚みは、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりを容器に移した量によって決まる。このため、薄膜の形状と大きさと厚みの制約はない。これによって、10段落に記載した第三の課題が解決される。この結果、10段落に記載した潤滑性被膜に関わる3つの全ての課題が解決される。
第五に、薄膜は、軟質金属のフレーク粉とグラフェンとによって構成され、軟質金属のフレーク粉は汎用的な工業用材料で、グラフェンは汎用的な工業用素材である黒鉛粒子から製造されるため、安価な潤滑性被膜が形成できる。
以上に説明したように、本薄膜の形成方法に依れば、従来の潤滑性被膜では考えられない多くの作用効果をもたらす潤滑性被膜としての薄膜が形成できる。
【0018】
次に、導電性被膜としての作用効果を説明する。
第一に、導電性被膜としての薄膜は、導電性のフレーク粉とグラフェンで構成され、導電性フィラーの金属粉末と金属粉末を分散させるビヒクルを用いない。これによって、導電性被膜としての薄膜は、導電性ペースト課題である4段落に記載した第一から第四の課題が解決される。
第二に、導電性被膜としての薄膜は、フレーク粉とグラフェンとが積層した構造で構成され、グラフェンは黒鉛粒子から製造されるため、安価な導電性被膜が形成できる。また、扁平面同士が重なり合って導電性被膜を形成し、さらに、潤滑性被膜の機能も兼備しているため、薄膜の摩耗量が少なく、導電性被膜を形成するフレーク粉の使用量が少なくて済む。これによって、汎用性のある導電性被膜が形成できる。このため、10段落に記載した導電性被膜の課題が解決される。
第三に、導電性被膜としての薄膜は、軟質金属のフレーク粉とグラフェンによって構成され、グラフェンの体積固有抵抗率は、金属の中で最も体積固有抵抗率が小さい銀の体積固有抵抗率より小さいため、導電性被膜としての薄膜は、軟質金属の導電度に準ずる導電性を持ち、また、軟質金属の熱伝導度に準じた熱伝導性を持つ。
第四に、導電性被膜としての薄膜は、軟質金属の導電度に準ずる導電性を持つため、電磁波を遮蔽する薄膜として作用する。
第五に、導電性被膜としての薄膜は、軟質金属の導電度に準ずる導電性を持つため、帯電を防止する薄膜として作用する。
第六に、導電性被膜としての薄膜は、軟質金属の熱伝導度に準ずる熱伝導性を持つため、放熱薄膜として作用する。
第七に、導電性被膜としての薄膜は、撥水性や防汚性の被膜として作用する。つまり、フレーク粉の扁平面の摩擦係数が小さい平滑性を有し、グラフェン同士を接合したグラフェンの集まりの表面は、グラフェンの厚みに相当する0.332nmに過ぎない平坦度を有し、完全な平面に近い。このため、薄膜の表面は、撥水性や防汚性を持つ。
第八に、潤滑性被膜としての薄膜の第一の作用効果と同様に、導電性被膜としての薄膜は耐熱性、耐寒性に優れ、真空状態や高圧下でも使用できる。
第九に、潤滑性被膜としての薄膜の第四の作用効果と同様に、薄膜の形状は、扁平粉の集まりの一部を移した容器の形状になる。また、薄膜の厚みは、扁平粉の集まりを容器に移した量によって決まる。このため、薄膜の形状と大きさと厚みの制約はない。
以上に説明したように、本薄膜の形成方法に依れば、従来の導電性被膜では考えられない多くの作用効果をもたらす導電性被膜としての薄膜が形成できる。
この結果、10段落に記載した導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する安価な被膜が実現できる。
【0019】
11段落に記載した金属からなる扁平粉が、錫を除く軟質金属からなるフレーク粉であり、該錫を除く軟質金属からなるフレーク粉を、11段落に記載した金属からなる扁平粉として用い、11段落に記載した方法に従ってフレーク粉の集まりを製造し、該フレーク粉の集まりを用いて、該フレーク粉の扁平面同士が、摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して接合された該フレーク粉の集まりからなる金属黒鉛質ブラシないしはすり板を製造する方法は、
11段落に記載した金属からなる扁平粉として、錫を除く軟質金属からなるフレーク粉を用い、11段落に記載した方法に従ってフレーク粉の集まりを製造し、該フレーク粉の集まりの一部を、金属黒鉛質ブラシないしはすり板を収納する容器の形状を有し、前記金属黒鉛質ブラシないしは前記すり板の厚みの10倍からなる深さを有する容器に移す、
さらに、該容器に0.4-0.6Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.3-0.5Gからなる上下方向の振動加速度を加え、前記フレーク粉の集まりを、前記容器に該容器の形状として形成する、
この後、前記フレーク粉の集まりの表面全体を板材で覆い、さらに、前記容器を11段落に記載した2つの特徴を兼備するアルコールの沸点に昇温し、前記フレーク粉の集まりから、前記アルコールを気化させる、
さらに、前記板材の表面全体を均等に圧縮し、前記アルコールが気化したフレーク粉の集まりを均等に圧縮する、これによって、前記フレーク粉の扁平面同士の間隙を埋め尽くしたグラフェンの集まりが摩擦圧接するとともに、前記フレーク粉の扁平面を覆ったグラフェンの集まりが摩擦圧接し、該摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して、前記フレーク粉の扁平面同士が接合され、該扁平面同士が接合したフレーク粉の集まりからなる成形体が、前記容器に該容器の形状として形成される、
この後、前記容器の底面の複数個所に、0.4-0.5Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時にかつ断続的に繰り返し加え、該容器に形成された前記成形体を、該容器の底面から剥がし、該成形体を取り出す、
さらに、該成形体を、底面にばね材が進入する一つまたは複数の貫通孔を有し、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の厚みの1/4より浅い深さを有する容器に収納する、
上記した全ての処理を順番に連続して実施することで、11段落に記載した金属からなる扁平粉として、軟質金属からなるフレーク粉を用い、11段落に記載した方法に従ってフレーク粉の集まりを製造し、該フレーク粉の集まりを用いて、金属黒鉛質ブラシないしはすり板を製造する方法。
【0020】
最初に、11段落に記載した金属からなる扁平粉として、錫を除く軟質金属からなるフレーク粉を用い、11段落に記載した方法に従って、フレーク粉の集まりを製造する。これによって、フレーク粉の扁平面同士の間隙が、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで埋め尽くされるとともに、フレーク粉の扁平面が、面を上にしたグラフェンがアルコールに分散した該グラフェンの集まりで覆われる。
次に、フレーク粉の集まりの一部を、金属黒鉛質ブラシないしはすり板を収納する形状を有し、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の厚みの10倍に相当する深さを有する容器に移す。つまり、フレーク粉の重量が、アルコールの重量の1/10より少なく、容器に移すフレーク粉の集まりは、アルコールが過多になっている。このため、金属黒鉛質ブラシないしはすり板を収納する形状を有し、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の厚みの10倍に相当する深さを有する容器に、フレーク粉の集まりを移し、過剰なアルコールを気化させた後に、フレーク粉の集まりを圧縮し、金属黒鉛質ブラシないしはすり板を容器内に作成する。
フレーク粉の集まりを容器に移す際に、殆ど質量を持たないグラフェンの集まりが、アルコールの粘度に応じた吸着力で互いに吸着している。このため、扁平粉の集まりを容器に移す際に、グラフェンに加わる負荷が小さいため、グラフェンの集まりが、面を上にして互いに吸着している状態は変わらない。従って、フレーク粉の扁平面同士の間隙を埋め尽くしたグラフェンの集まりは、アルコールの粘度に応じた吸着力で、面を上にして扁平粉の扁平面に吸着している状態は変わらない。また、扁平粉の扁平面を覆ったグラフェンの集まりも、アルコールの粘度に応じた吸着力で、面を上にして扁平粉の扁平面に吸着している状態は変わらない。
この後、容器に0.4-0.6Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.4-0.6Gからなる上下方向の振動加速度を加える。この際、フレーク粉の扁平面同士の間隙が狭く、また、グラフェンの集まりがアルコールの粘度に応じた吸着力で吸着しているため、間隙を埋め尽くしたグラフェンの集まりを伴って、フレーク粉の扁平面が振動方向に、容器の底面を埋めるように移動し、フレーク粉が容器の底面に拡がる。また、表面を覆ったグラフェンの集まりを伴って、フレーク粉の扁平面が振動方向に、容器の底面を埋めるように移動し、フレーク粉が容器の底面に拡がる。3方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加えることで、フレーク粉の集まりが、容器の形状に拡がる。なお、容器に加える振動加速度の大きさは、容器の大きさとフレーク粉の集まりの量に応じて、0.4-0.6Gの振動加速度を加える。
さらに、フレーク粉の集まりの表面全体を板材で覆い、さらに、容器をアルコールの沸点に昇温し、フレーク粉の集まりから、アルコールを気化させる。これによって、フレーク粉の扁平面同士の間隙が、面を上にしたグラフェンの集まりで埋め尽くされ、フレーク粉の扁平面が、面を上にしたグラフェンの集まりで覆われる。
この後、板材の表面全体を均等に圧縮し、フレーク粉の集まりを均等に圧縮する、これによって、フレーク粉の扁平面同士の間隙を埋め尽くしたグラフェンの集まりが摩擦圧接し、摩擦圧接したグラフェンが扁平面に摩擦圧接する。また、フレーク粉の扁平面を覆ったグラフェンの集まりが摩擦圧接し、摩擦圧接したグラフェンが扁平面に摩擦圧接する。これによって、摩擦圧接したグラフェンの集まりを介して、フレーク粉の扁平面同士が接合され、扁平面同士が接合したフレーク粉の集まりからなる成形体が、容器の形状として形成される。
さらに、容器の底面の複数個所に、0.4-0.5Gからなる上下方向の衝撃加速度を、同時にかつ断続的に繰り返し加え、容器に形成された成形体を、容器の底面から剥がし、成形体を取り出す。なお、容器に加える上下方向の振動加速度の大きさは、容器の大きさに応じて、0.4-0.5Gの振動加速度を加える。
最後に、成形体を、底面にばね材が進入する一つまたは複数の貫通孔を有し、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の厚みの1/4より浅い深さを有する容器に収納し、金属黒鉛質ブラシないしはすり板を製造する。
なお、金属黒鉛質ブラシ付きのモーターでは、金属黒鉛質ブラシが整流子と常時摺動することで、モーターに給電がなされる。このため、金属黒鉛質ブラシは、ばね材によって、整流子に常時押し付けられている。従って、金属黒鉛質ブラシを収納する容器は、ばね材が進入する一つまたは二つの貫通孔を容器の底面に有する。また、金属黒鉛質ブラシを収納する容器の深さは、金属黒鉛質ブラシの厚みの1/4より浅い。さらに、金属黒鉛質ブラシが収納された容器を、モーターのローターまたはステーターに固定する。
いっぽう、電車が走行するための電力は、トロリ線からパンタグラフに設けられたすり板を介して電車に供給される。従って、トロリ線とすり板とは常時摺動し、電車に給電がなされる。このため、すり板は、ばね材によってトロリ線に常時押し付けられている。いっぽう、パンタグラフは、1本または2本のトロリ線と常時接触しているため、パンタグラフは細長い形状を有する。このため、パンタグラフに設けられるばね材は、2個以上からなる。従って、すり板を容器に収納する際に、すり板を収納する容器は、ばね材が進入する複数の貫通孔を容器の底面に有する。また、すり板を収納する容器の深さは、すり板の厚みの1/4より浅い。容器内にすり板を収納し、すり板が収納された容器をパンタグラフに固定する。
【0021】
以上に説明した方法で製造した金属黒鉛質ブラシないしはすり板は、様々な作用効果をもたらす。
第一に、金属黒鉛質ブラシとすり板の摺動面に、等電位面が形成されるため、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の稼働時に、火花放電が起きない。このため、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の動作寿命が著しく延びるとともに、電気ノイズが発生しない。
つまり、金属黒鉛質ブラシないしはすり板は、導電性と潤滑性に優れたグラフェンと、優れた導電性と摩擦係数が小さい軟質金属からなるフレーク粉の扁平面とが積層した構造を形成する。従って、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の摺動面に、常時、グラフェンないしは軟質金属のフレーク粉の扁平面が現われる。このため、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の摺動面は、常時、等電位面が形成されている。従って、等電位面からなる摺動面を有する金属黒鉛質ブラシは、整流子との摺動摩擦で火花放電が発生せず、火花放電に伴う金属黒鉛質ブラシの電気的摩耗が発生せず、また、電気ノイズが発生しない。同様に、等電位面からなる摺動面を有するすり板は、トロリ線との摺動摩擦で火花放電が発生せず、火花放電に伴うすり板の電気的摩耗が発生せず、また、電気ノイズが発生しない。
なお、摺動面に等電位面が形成されることで、摺動摩擦の際に火花放電が発生せず、火花放電に伴う電気的摩耗が発生せず、電気ノイズが発生しない理由は22段落で説明する。
第二に、金属黒鉛質ブラシとすり板は、グラフェンと軟質金属からなるフレーク粉の扁平面とが、厚み方向に圧縮されて接合したため、厚み方向の圧縮強度が大きい。いっぽう、金属黒鉛質ブラシ付きのモーターでは、金属黒鉛質ブラシは、ばね材によって、整流子に常時押し付けられている。また、電車が走行するための電力は、トロリ線からパンタグラフに設けられたすり板を介して電車に供給されるため、すり板は、ばね材によってトロリ線に常時押し付けられている。従って、金属黒鉛質ブラシおよびすり板は、ばね材による圧縮応力が厚み方向に常時加わり、厚み方向と直行するせん断による応力がかかりにくい。このため、金属黒鉛質ブラシおよびすり板は、摺動摩擦時に破壊しにくい。さらに、グラフェンの破断強度が42N/mであり、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材であるため、金属黒鉛質ブラシとすり板の摺動面に現れたグラフェンは破断しない。
第三に、グラフェン同士が摩擦圧接したグラフェンの集まりの表面は、グラフェンの厚みに相当する0.332nmに過ぎない平坦度を有し、完全な平面に近い。また、軟質金属からなるフレーク粉の表面の摩擦係数は、0.20-0.25と小さい。従って、グラフェンと軟質金属からなるフレーク粉の扁平面とが、厚み方向に積層した構造からなる金属黒鉛質ブラシとすり板の摺動面に、常時、グラフェンないしは軟質金属からなるフレーク粉の扁平面が現れ、優れた潤滑作用を継続し、また、整流子またはトロリ線に損傷を加えず、金属黒鉛質ブラシと整流子との動作寿命が、また、すり板とトロリ線との動作寿命が著しく延びる。
第四に、グラフェンの厚みが0.322nmと極めて薄く、空隙を埋めてグラフェンが摩擦圧接するため、グラフェンと軟質金属からなるフレーク粉の扁平面とが積層した構造からなる金属黒鉛質ブラシとすり板は、内部に空隙を持たない。このため衝撃力に強い。このため、金属黒鉛質ブラシおよびすり板に、振動による衝撃力、あるいは、落下による衝撃力が加わっても、金属黒鉛質ブラシおよびすり板は破壊しない。
特許文献3に記載した金属黒鉛質ブラシおよびすり板では、摺動面に金属微粒子の集まりが形成されるのに対し、本発明では、摺動面が常時、グラフェンと軟質金属からなるフレーク粉の面で形成されるため、動作寿命がより長く、機械的強度が大きい、金属黒鉛質ブラシおよびすり板が実現でき、10段落に記載した課題が解決される。
【0022】
摺動面に等電位面が形成されると、摺動摩擦の際に火花放電が発生せず、火花放電に伴う電気的摩耗が発生せず、電気ノイズの発生がしない。
すなわち、導電性と潤滑性に優れたグラフェンと、優れた導電性と摩擦係数が小さい軟質金属からなるフレーク粉の扁平面とが互いに積層した構造によって、金属黒鉛質ブラシないしはすり板が形成される。従って、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の摺動面に、常時、グラフェンないしは軟質金属のフレーク粉の扁平面が現れている。このため、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の摺動面に、常時、等電位面が形成されている。これによって、摺動摩擦の際に摺動面に火花放電が発生せず、火花放電に依る摺動面の電気的摩耗が発生せず、また、電気ノイズが発生しない理由を説明する。
金属黒鉛質ブラシおよびすり板の摺動面は、完全に平坦な面ではなく、フレーク粉の厚さと平坦度とに基づき、数nmから数百nmからなる様々な凹凸または段差を有する。こうした凹凸または段差を摺動面に有する金属黒鉛質ブラシは、ばね材によって整流子と摺動し、金属黒鉛質ブラシの摺動面が整流子の摺動面に近づいた際に、両者の摺動面で微細な空隙を変化させながら、金属黒鉛質ブラシの摺動面は整流子の摺動面と摺動する。同様に、すり板もまたばね材によってトロリ線と摺動するため、両者の摺動面で微細な空隙を変化させながら、すり板の摺動面はトロリ線の摺動面に摺動する。こうした摺動摩擦を行いながら、金属黒鉛質ブラシと整流子との間に電圧が印加されて、電流が整流子から金属黒鉛質ブラシに流れる。また、トロリ線とすり板との間に電圧が印加されて、電流がトロリ線からすり板に流れる。
いっぽう、金属黒鉛質ブラシと整流子との間に電圧が印加されると、また、トロリ線とすり板の間に電圧が印加されると、両者の摺動面が形成する空隙にも電圧が印加される。空隙における隣り合う2つの等電位線は、空隙が狭いほど隣り合う2つの等電位線が形成する電位差は小さくなる。これによって電位差の勾配は増大する。さらに、空隙を形成する空気は、1気圧における比抵抗が1×1020Ωmの絶縁体である。このため、空隙で形成される電位差勾配は、空隙が狭くなるほど直線に近づく。従って、空隙が狭くなるほど、電位差勾配に相当する電界は増大し、この大きな電界が、金属黒鉛質ブラシまたはすり板に印加される。絶縁体である空気に対し、フレーク粉とグラフェンとは優れた導電体である。このため、フレーク粉とグラフェンとにおける隣り合う2つの等電位線が形成する電位差は、空隙における隣り合う2つの等電位線が形成する電位差に比べて極めて小さい。この結果、フレーク粉とグラフェンとに形成される電界の大きさは、空隙で形成される電界の大きさに比べると極めて小さい。こうして、両者の摺動面の微小な空隙で形成された大きな電界が、金属黒鉛質ブラシまたはすり板を構成するフレーク粉とグラフェンとに断続的に印加される。いっぽう、フレーク粉が導電性に優れた軟質金属であり、フレーク粉を構成する金属が自由電子を持ち、この自由電子に電界が加わると、自由電子は電界方向に自在に移動するため、フレーク粉の表面は等電位面となる。同様に、グラフェンも導電性に優れ、導電性の担い手は自由電子である。この自由電子に電界が加わると、自由電子は電界方向に自在に移動するため、グラフェンの表面は等電位面となる。
いっぽう、従来の金属黒鉛質ブラシは、黒鉛粒子と電解銅粉との混合物を圧縮成形する。金属黒鉛質ブラシを構成する黒鉛粒子は、導電体ではなく、グラフェンとは異なり、自由電子を持たないため、黒鉛粒子に電界が作用する。また、すり板は、炭素系材料からなる炭素基材、あるいは、炭素繊維と非繊維状炭素からなる複合材料の基材に金属ないしは合金を含浸させた材料を圧縮成形する。すり板を構成する炭素基材、あるいは、炭素繊維と非繊維状炭素からなる複合材料の基材は、金属材料とは異なり、自由電子を持たないため、炭素基材、あるいは、炭素繊維と非繊維状炭素からなる複合材料の基材に電界が作用する。なお、すり板を構成する炭素基材、あるいは、炭素繊維と非繊維状炭素からなる複合材料の基材は、黒鉛結晶からなる基材を含む。
ここで、前記した空隙で形成された電界Eが、金属黒鉛質ブラシまたはすり板に印加されると、フレーク粉およびグラフェンにおける自由電子は、クーロン力Fで電界方向に移動する。このクーロン力FはF=-e×Eで与えられる。ここで、Fはクーロン力のベクトルで、Eは電界ベクトル、eは電子の素電荷量(1.6×10-19クーロン)である。これに対し、自由電子を持たない黒鉛粒子、ないしは、炭素基材、あるいは、炭素繊維と非繊維状炭素からなる複合材料の基材に、電界Eが印加されると、黒鉛粒子、ないしは、炭素基材、あるいは、炭素繊維と非繊維状炭素からなる複合材料の基材を構成する電子に、電界によるクーロン力が作用する。
ここで、黒鉛粒子に、電界Eが印加された際の現象を説明する。黒鉛粒子における黒鉛結晶を形成する炭素原子は4つの価電子を持つ。このうちの3つの価電子は、基底面を形成するσ電子である。このσ電子は、基底面上で隣り合う3つの炭素原子が持つσ電子と互いに120度の角度をなして強固に共有結合し、六角形の強固な網目構造を2次元的に形成する。残り一つの価電子はπ電子であり、基底面に垂直な方向に伸びるπ軌道上に存在する。このπ電子は、基底面に垂直な上下方向で隣り合う炭素原子が持つπ電子と弱い結合力で結合し、この弱い結合力に基づいて基底面が層状に積層される。つまり基底面は、弱い結合力であるπ軌道の相互作用によって、互いに層状に結合されている。
こうした電子構造を持つ黒鉛粒子に電界が印加させると、全てのπ電子に電界によるクーロン力が作用する。π電子に作用するクーロン力が、π電子に作用しているπ軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、π電子はπ軌道上の拘束から解放される。この結果、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。これによって、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子がπ軌道上にいなくなるため、基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。すなわち、π電子がクーロン力Fによって基底面の層間距離bの距離を動く際に、π電子は仕事W(W=b・F)を行う。この仕事Wが、π電子に作用する1原子当たりのπ軌道の相互作用の大きさである35ミリエレクトロンボルト (エレクトロンボルトは電子が持つエネルギーの大きさを表す単位で、1エレクトロンボルトは1.62×10-19ジュールに相当する)を超えると、π電子はπ軌道の相互作用の拘束から解放されて自由電子になる。例えば、空隙dに12ボルトが印加され、空隙dが49nm以下であれば、隣り合う2つの炭素原子間距離bの距離をπ電子が移動する際の仕事は、π軌道の弱い結合力35meVを超える。この結果、π電子はπ軌道から離れて自由電子となる。π電子がπ軌道から離れて自由電子になると、基底面同士の結合が破壊される。
以上に説明したように、摺動面の空隙が狭くなるほど大きな電界が発生し、大きな電界によって黒鉛結晶の層間結合が破壊される。つまり、金属黒鉛質ブラシの摺動面が整流子の摺動面と接触する直前に、または、すり板の摺動面がトロリ線の摺動面と接触する直前に、両者の摺動面が形成する空隙が極めて微小になり、この際に大きな電界が発生し、この大きな電界が摺動面に印加することによって黒鉛結晶の層間結合が破壊される。黒鉛結晶が破壊される領域は、電界によるクーロン力が黒鉛結晶の層間結合力に相当するπ軌道の相互作用より大きな力となってπ電子に作用する領域になる。その直後、金属黒鉛質ブラシの摺動面が整流子と接触し、または、すり板の摺動面がトロリ線と接触し、黒鉛結晶が剪断応力を受け、既に層間結合が破壊された黒鉛結晶の領域が黒鉛結晶から脱落する。この黒鉛結晶の破壊摩耗が、断続的に摺動面で起こる。この黒鉛結晶における破壊摩耗は、電界という電気的負荷による摩耗であって、接触によって発生する剪断力による機械的摩耗ではない。
次に、摺動面における放電現象を説明する。前記したように、黒鉛結晶の層間結合が破壊されることで、黒鉛結晶の層間結合の担い手であったπ電子は、π起動から遊離して自由電子となる。自由電子となったπ電子は、電界方向に移動する。自由電子の移動速度は、電子が電位差によって得られるエネルギーと電子の運動エネルギーとが等しいため、電位差を12ボルトとしてπ電子の移動速度を求めると、2.054×10m/sになる。このため、自由電子となったπ電子は2.054×10m/sの速度をもって電界ベクトルの方向に移動する。この速度は、光速の1/13に相当する。こうして、黒鉛結晶の層間結合が破壊された領域に存在した莫大な数のπ電子が、微小な空隙で形成される最も大きな電界方向に集まって、2.054×10m/sの速度で一斉に空隙に移動する。空隙をπ電子が移動する際に、電子の集まりは空気分子を瞬間的に励起させ、運動エネルギーの全てを失う。この際、空気分子が激しく擦りあうため、空気分子の発熱によって発光現象を生み、また、空気分子の摩擦によって電気ノイズが発生する。この発光現象が摺動面で観察される火花放電である。空気分子は瞬間的に発熱し、また瞬時に冷却するため、放電現象は瞬時の現象として観察される。この火花放電と電気ノイズの発生とが、摺動面で断続的に起こる。火花放電は、自由電子となったπ電子の集まりが空隙に移動する際に起こる現象であるため、空隙の空気分子が励起されることで、整流子またはトロリ線の表面に打痕を形成させたとしても、火花放電が整流子またはすり板を直接攻撃しない。
これに対し、導電性と潤滑性に優れたグラフェンと、優れた導電性と摩擦係数が小さい軟質金属からなるフレーク粉の扁平面とが積層した構造で、金属黒鉛質ブラシないしはすり板が形成されると、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の摺動面に、常時、グラフェンないしは軟質金属のフレーク粉の扁平面が現れ、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の摺動面は、常時、等電位面が形成されている。このため、金属黒鉛質ブラシないしはすり板の摺動面は、常時、電界が作用しないため、電気的摩耗が起こらない。これによって、金属黒鉛質ブラシと整流子との摺動摩擦において、また、すり板とトロリ線との摺動摩擦において、火花放電と電気ノイズが発生しない。このため、金属黒鉛質ブラシとすり板の動作寿命が著しく延びる。また、他の電子機器に電気ノイズを与えない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】摩擦圧接したグラフェンの集まりと銅フレーク粉とが、交互に積層した構造からなる薄膜の側面の一部を拡大して模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施形態1
本実施形態は、20℃における粘度が3-5mPa・秒である第一の特徴と、メタノールに溶解ないしは混和する第二の特徴を兼備するアルコールの実施形態である。
このような2つの特徴を兼備するアルコールに、多くの種類のアルコールが存在する。
1-ブタノールは、20℃における粘度が3.0mPa・秒で、沸点が117℃で、メタノールに溶解ないしは混和する。
2-ブタノールは、20℃における粘度が3.9mPa・秒で、沸点が99℃で、メタノールに溶解ないしは混和する。
イソブチルアルコールは、20℃における粘度が4.0mPa・秒で、沸点が108℃で、メタノールに溶解ないしは混和する。
ターシャルブチルアルコールは、20℃における粘度が3.35mPa・秒で、沸点が83℃で、メタノールに溶解ないしは混和する。
2-メチルブタノールは、25℃における粘度が5.1mPa・秒で、沸点が128℃で、メタノールに溶解ないしは混和する。
3-メチル―1-ブタノールは、20℃における粘度が3.69mPa・秒で、沸点が131℃で、メタノールに溶解ないしは混和する。
2-メチル―2-ブタノールは、25℃における粘度が3.79mPa・秒で、沸点が103℃で、メタノールに溶解ないしは混和する。
1-ペンタノールは、20℃における粘度が3.3mPa・秒で、沸点が138℃で、メタノールに溶解ないしは混和する。
2-ペンタノールは、20℃における粘度が3.47mPa・秒で、沸点が119℃で、メタノールに溶解ないしは混和する。
これらのアルコールは沸点が低く、いずれも汎用的なアルコールである。
【0025】
実施例1
本実施例は、11段落に記載した方法に従って、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液を作成する。
最初に、3リットルのメタノールを、1.2m×1.2mの底面をもち、底が浅い容器に充填した。
次に、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する電極の有効面積が、1m×1mである平行平板電極を用意し、2枚の平行平板電極の間隙に黒鉛粒子を満遍なく敷き詰め、2枚の平行平板電極の間隙を100μmの間隙で重ね合わせ、この後、メタノール中に浸漬させる。なお、黒鉛粒子を粒径が25μmの球と仮定し、2枚の平行平板電極で作られる100μmの間隙に、黒鉛粒子を満遍なく敷き詰めた場合、6.4×10個の黒鉛粒子が存在する。この黒鉛粒子の集まりに、10.6キロボルト以上の直流電圧を印加すると、全ての黒鉛粒子の基底面の層間結合が同時に破壊される。この際、1.9×1013個のグラフェンの集まりが得られ、用いる黒鉛粒子の集まりは、僅かに1.18gである。
このため、電界が発生する電極の有効面積が1m×1mである平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子(例えば、伊藤黒鉛工業株式会社のXD100)の20gを重ねて敷き詰めた。この平行平板電極を、メタノールが充填された容器に浸漬し、さらに、もう一方の平行平板電極を前記の平行平板電極の上に重ね合わせ、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で離間させ、12キロボルトの直流電圧を電極間に加えた。次に、2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、さらに、2枚の平行平板電極をメタノール中で傾斜させ、0.2Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出した。
次に、作成した試料の一部を取り出し、メタノールを気化させた後に、電子顕微鏡を用いて、試料の観察と分析を行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。
試料の表面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料は、厚みが極めて薄い扁平な物質であることが確認できた。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理した結果、炭素原子のみが存在した。このため、試料は、グラフェンであることが確認できた。
これによって、2枚の平行平板電極の間隙に、鱗片状黒鉛粒子の集まりを敷き詰め、電極間に直流の電位差を与え、この電位差を2枚の平行平板電極対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生し、この電界によって、全ての黒鉛粒子に対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与えられ、この結果、黒鉛結晶の層間結合の全てが同時に破壊され、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンの集まりが製造できることが確認された。
【0026】
実施例2
本実施例は、11段落に記載した方法に従って、銅フレーク粉を2-メチルブタノールに混合させた第一の混合物を作成する。
使用する銅フレーク粉(福田金属箔粉工業株式会社の製品MS-800)の粒度分布は、+75μmが4%より多く、+45μmが25%より多く、-45μmが75%より少ない。フレーク粉としては比較的粒径が大きい。
2-メチルブタノールの1.5リットルを容器に注入に、さらに、銅フレーク粉の120gを混合し、容器に0.4Gからなる前後、左右、上下の振動加速度を5秒間ずつ各々の方向に順番に3回繰り返し加え、最後に、0.4Gからなる上下方向の振動加速度を5秒間加え、第一の混合物を作成した。
【0027】
実施例3
本実施例は、実施例2で作成した第一の混合物が入った容器に、実施例1で作成した懸濁液を混合し、容器に、0.5Gからなる前後、左右、上下の振動加速度を5秒間ずつ各々の方向に順番に3回繰り返し加え、最後に、0.5Gからなる上下方向の振動加速度を5秒間加え、第二の混合物を作成した。
この後、容器をメタノールの沸点に昇温し、第二の混合物からメタノールを気化させた。
【0028】
実施例4
本実施例は、実施例3で作成した試料の一部を用いて、薄膜の性能を評価するための試験品を、13段落に記載した方法に従って作成する。
10cm×1cm×1cm(深さ)の容積からなる容器に、実施例3で作成した試料の一部を移し、容器に、0.3Gからなる前後、左右、上下の3方向の振動加速度を、5秒間ずつ各々の方向に順番に3回繰り返し加え、最後に、0.3Gからなる上下方向の振動加速度を5秒間加えた。なお、作成する試験品が、薄膜の性能を評価するためであるため、大きさが10cm×1cmと小さい。このため、容器に加えた振動加速度は、0.3Gと相対的に小さい。
さらに、10cm×1cm×1.5cm(厚み)の板材を、試料の上に被せ、容器を2-メチルブタノールの沸点の128℃に昇温し、試料から2-メチルブタノールを気化させた。この後、板材の上に、10kgの重り5個を等間隔に置いた。
さらに、容器の底面の均等な距離の3個所に、上下方向の0.3Gからなる衝撃加速度を、同時に3回断続的に繰り返し加え、作成した試験品を容器の底から剥がした。こうした試験品を3枚作成した。
作成した試験品の側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した。相対的に厚みが厚い扁平粉が、極めて厚みが薄い物質が互いに重なり合って接合した物質を介して、互いに積層した構造を形成していた。特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理した結果、相対的に厚みが厚い扁平粉は、銅原子のみが存在したため、銅のフレーク粉である。また、極めて厚みが薄い物質が接合した物質は、炭素原子のみが存在したため、グラフェン同士が摩擦圧接したグラフェンの集まりである。図1に、試験品の側面の一部を拡大して模式的に示す。1は銅のフレーク粉であり、2は摩擦圧接したグラフェンの集まりである。摩擦圧接したグラフェンの集まりが5層を形成し、銅フレーク粉が4層を形成し、両者が交互に積層し、厚みが薄い薄膜を形成した。
次に、作成した試験品の性能を調べた。
最初に、表面の複数個所の表面抵抗を、表面抵抗計(シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST―4)によって測定した。表面抵抗値は、いずれも1×10Ω/□であったため、試料は導電性に優れた金属の表面抵抗と同等である。従って、作成した薄膜は、導電性に優れた金属並みの導電性を持つため、導電性薄膜としてのみならず、熱伝導性薄膜、電磁波シールド薄膜、帯電防止薄膜として用いることができる。
次に、3枚の試験品の複数の表面の摩擦係数を、測定装置(島津製作所の卓上形精密万能試験器オートグラフAGS-Xからなる摩擦係数測定装置)によって、静止摩擦係数と動摩擦係数を繰り返し測定した。静止摩擦係数が0.20±0.05で、動摩擦係数が0.15±0.03であった。いずれの摩擦係数も小さく、軟質金属のフレーク粉に近い摩擦係数を持った。従って、作成した試験品は、摩擦係数が小さい潤滑性薄膜としてのみならず、撥水性や防汚性の薄膜として用いることができる。
以上の結果から、実施例3の第二の混合物を用いて、13段落に記載した方法に従って薄膜を作成すると、導電性と熱伝導性と潤滑性と電磁波シールド性と耐熱性を兼備する薄膜が形成できることが分かった。
【0029】
実施例5
本実施例は、実施例3で作成した試料を用いて薄膜を作成する。
100cm×100cm×10cm(深さ)の容積からなる容器に、実施例3で作成した試料の一部を移し、容器に、0.5Gからなる前後、左右、上下の3方向の振動加速度を5秒間ずつ各々の方向に順番に5回繰り返し加え、最後に、0.5Gからなる上下方向の振動加速度を5秒間加えた。さらに、100cm×100cm×12cm(厚み)の板材を、試料の上に被せ、容器を2-メチルブタノールの沸点の128℃に昇温し、試料から2-メチルブタノールを気化させた。この後、板材の上に、15kgの重り9個を等間隔に置いた。
重りを取り除いた後に、容器の底面の均等な距離の5個所に、上下方向の0.5Gからなる衝撃加速度を、同時に3回断続的に繰り返し加え、作成した薄膜を容器の底から剥がした。
作成した薄膜の側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した。摩擦圧接したグラフェンの集まりが7層を形成し、銅フレーク粉が6層を形成し、両者が交互に積層し、厚みが薄い薄膜を形成した。
作成した薄膜の表面に、再度、15kgの重り9個を等間隔に置いたが、薄膜に変化はなかった。また、薄膜を1mの高さから5回繰り返して自然落下させたが、薄膜に変化が見られなかった。このため、薄膜は一定の機械的強度を持つ。
【0030】
実施例6
本実施例は、実施例3で作成した試料を用いて金属黒鉛質ブラシを作成する。
2cm×1cm×5cm(深さ)の容積からなる容器に、実施例3で作成した試料を注入し、容器に、0.4Gからなる前後、左右、上下の3方向の振動加速度を3秒間ずつ各々の方向に順番に5回繰り返し加え、最後に、0.4Gからなる上下方向の振動加速度を5秒間加えた。さらに、2cm×1cm×5cm(厚み)の板材を、試料の上に被せ、容器を2-メチルブタノールの沸点の128℃に昇温し、試料から2-メチルブタノールを気化させた。この後、板材の上に、10kgの重り3個を等間隔に置いた。
重りを取り除いた後に、容器の底面の均等な距離の3個所に、上下方向の0.4Gからなる衝撃加速度を、同時に3回断続的に繰り返し加え、作成した成形体を容器の底から剥がした。こうした成形体を3個作成した。
作成した成形体の側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した。摩擦圧接したグラフェンの集まりと、銅フレーク粉とが交互に積層し、0.5cmに近い厚みの成形体を形成した。
次に、複数の成形体の表面における表面抵抗を、実施例4で用いた表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は1×10Ω/□であったため、成形体は導電性に優れた金属の表面抵抗と同等である。
さらに、複数の成形体の表面の摩擦係数を、実施例4で用いた測定装置によって、静止摩擦係数と動摩擦係数を繰り返し測定した。静止摩擦係数が0.20±0.05で、動摩擦係数が0.15±0.03であった。いずれの摩擦係数も小さく、軟質金属のフレーク粉に近い摩擦係数を持った。従って、作成した成形体の表面は、摩擦係数が小さい摺動面として作用する。
次に、複数の成形体の表面と側面との各々に20kgの重りを順番に載せたが、成形体は破壊しなかった。このため、成形体は、圧縮応力とせん断応力に対し、一定の強度を持つ。
また、成形体を1mの高さから5回自然落下させたが、成形体は破断しなかった。このため、成形体は一定の衝撃強度を持つ。
以上の結果から、摩擦圧接したグラフェンの集まりと、銅フレーク粉とが交互に積層した構造からなる成形体は、導電性に優れ、摩擦係数が小さい表面を持ち、一定の強度を持つため、整流子と摺動摩擦する金属黒鉛質ブラシとして使用できる。
【0031】
実施例7
本実施例は、実施例3で作成した試料を用いてすり板を作成する。
30cm×1cm×5cm(深さ)の容積からなる容器に、実施例3で作成した試料を注入し、容器に、0.4Gからなる前後、左右、上下の3方向の振動加速度を3秒間ずつ各々の方向に順番に5回繰り返し加え、最後に、0.4Gからなる上下方向の振動加速度を5秒間加えた。さらに、30cm×1cm×6cm(厚み)の板材を、試料の上に被せ、容器を2-メチルブタノールの沸点の128℃に昇温し、試料から2-メチルブタノールを気化させた。この後、板材の上に、5kgの重り7個を等間隔に置いた。
重りを取り除いた後に、容器の底面の均等な距離の3個所に、上下方向の0.4Gからなる衝撃加速度を、同時に3回断続的に繰り返し加え、作成した成形体を容器の底から剥がした。こうした成形体を3個作成した。
作成した成形体の側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した。摩擦圧接したグラフェンの集まりと、銅フレーク粉とが交互に積層し、0.5cmに近い厚みの成形体を形成した。
次に、実施例6と同様に、複数の成形体の表面における表面抵抗を、表面抵抗計によって測定した。表面抵抗値は1×10Ω/□であったため、成形体は導電性に優れた金属の表面抵抗と同等である。
さらに、複数の成形体の表面の摩擦係数を、実施例4で用いた測定装置によって、静止摩擦係数と動摩擦係数を繰り返し測定した。静止摩擦係数が0.20±0.05で、動摩擦係数が0.15±0.03であった。いずれの摩擦係数も小さく、軟質金属のフレーク粉に近い摩擦係数を持った。従って、作成した成形体の表面は、摩擦係数が小さい摺動面として作用する。
次に、複数の成形体の表面と側面との各々に15kgの重り3個を等間隔に載せたが、成形体は破壊しなかった。このため、成形体は、圧縮応力とせん断応力に対し、一定の強度を持つ。
また、成形体を1mの高さから5回自然落下させたが、成形体は破断しなかった。このため、成形体は一定の衝撃強度を持つ。
以上の結果から、摩擦圧接したグラフェンの集まりと、銅フレーク粉とが交互に積層した構造からなる成形体は、導電性に優れ、摩擦係数が小さい表面を持ち、一定の強度を持つため、トロリ線と摺接摩擦するすり板として使用できる。
【0032】
実施例5で作成した薄膜は一例に過ぎない。つまり、薄膜の形状は、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりの一部を移した容器の形状になる。また、薄膜の厚みは、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりを容器に移した量によって決まる。このため、薄膜の形状と大きさと厚みの制約はない。
また、実施例6で作成した金属黒鉛質ブラシは一例に過ぎない。つまり、金属黒鉛質ブラシの形状は、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりの一部を移した容器の形状になる。さらに、実施例7で作成したすり板は一例に過ぎない。つまり、すり板の形状は、11段落に記載した方法で製造した扁平粉の集まりの一部を移した容器の形状になる。このため、金属黒鉛質ブラシとすり板との形状の制約はない。
【符号の説明】
【0033】
1 銅のフレーク粉 2 摩擦圧接したグラフェンの集まり
図1