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特開2024-25966亜酸化窒素分解用触媒及び亜酸化窒素分解用触媒の製造方法
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  • 特開-亜酸化窒素分解用触媒及び亜酸化窒素分解用触媒の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025966
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】亜酸化窒素分解用触媒及び亜酸化窒素分解用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/78 20060101AFI20240220BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240220BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20240220BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240220BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20240220BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
B01J23/78 A
B01J37/08 ZAB
B01J37/03 B
B01J37/02 101Z
B01J23/83 A
B01D53/86 222
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129368
(22)【出願日】2022-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】000226219
【氏名又は名称】日揮ユニバーサル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】辻 一誠
(72)【発明者】
【氏名】岡本 裕貴
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA07
4D148AB03
4D148BA08Y
4D148BA14X
4D148BA19X
4D148BA37X
4D148BA38X
4D148CA03
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC01A
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC06A
4G169BC06B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC51A
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CA03
4G169CA04
4G169CA10
4G169CA11
4G169CA13
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EA04Y
4G169EA06
4G169EA18
4G169EB18Y
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169EC24
4G169ED05
4G169ED06
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB09
4G169FB14
4G169FB30
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】低温活性に優れ、かつ還元剤を用いずに直接亜酸化窒素を分解することのできる、亜酸化窒素分解用触媒を提供すること。
【解決手段】ニッケル及びコバルトを含む複合酸化物を含む触媒基体と、触媒基体に担持され、アルカリ金属化合物を含む助触媒と、を備える、亜酸化窒素分解用触媒。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル及びコバルトを含む複合酸化物を含む触媒基体と、
前記触媒基体に担持され、アルカリ金属化合物を含む助触媒と、を備える、亜酸化窒素分解用触媒。
【請求項2】
前記複合酸化物がさらにセリウム及びジルコニウムの少なくともいずれかを含む、請求項1に記載の亜酸化窒素分解用触媒。
【請求項3】
前記複合酸化物におけるニッケル元素対コバルト元素の組成比Co/Niが、2~30である、請求項1又は2に記載の亜酸化窒素分解用触媒。
【請求項4】
前記複合酸化物におけるニッケル元素及びコバルト元素対セリウム元素及びジルコニウム元素の組成比(Ce+Zr)/(Ni+Co)が、0.01~0.4である、請求項2に記載の亜酸化窒素分解用触媒。
【請求項5】
前記助触媒がカリウム化合物及びセシウム化合物の少なくともいずれかを含む、請求項1又は2に記載の亜酸化窒素分解用触媒。
【請求項6】
共沈殿法によりニッケル化合物及びコバルト化合物を含む第一水溶液から前記ニッケル化合物及び前記コバルト化合物を含む前駆体を製造する前駆体製造工程と、
アルカリ金属化合物を含む第二水溶液を前記前駆体に接触させた後に、前記前駆体を焼成する触媒基体製造・助触媒担持工程と、を備える、亜酸化窒素分解用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記第一水溶液がセリウム化合物及びジルコニウム化合物の少なくともいずれかを更に含み、前記前駆体が前記セリウム化合物及び前記ジルコニウム化合物の少なくともいずれかを更に含む、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化窒素分解用触媒及び亜酸化窒素分解用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーン燃料として知られるアンモニア燃料は、その燃焼時に亜酸化窒素が発生する。アンモニア燃料の使用が拡大されてゆくにつれ、亜酸化窒素の処理技術が極めて重要となってくる。
【0003】
亜酸化窒素の処理技術(除去技術)としては、亜酸化窒素をアンモニアや水素等の還元性ガスと共にゼオライト系の触媒に接触させて還元分解する、接触還元法が知られている(例えば、特許文献1)。このような還元分解法をSCR(Selective Catalytic Reduction)という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02-068120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃費改善の試みによる技術進化に伴い、エンジンや工場からの排ガス温度は低下する傾向がある。そのため、低温活性に優れる触媒の開発が望まれている。
一方、還元剤を用いる接触還元法では、比較的低温で亜酸化窒素を処理できるものの、排ガス処理装置に還元剤を導入する機構が必要となるため、装置の構築が煩雑となる。そのため、還元剤を用いずに直接亜酸化窒素を分解することのできる、直接分解触媒へのニーズが高まっている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、低温活性に優れ、かつ還元剤を用いずに直接亜酸化窒素を分解することのできる、亜酸化窒素分解用触媒を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような亜酸化窒素分解用触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、ニッケル及びコバルトを含む複合酸化物を含む触媒基体と、触媒基体に担持され、アルカリ金属化合物を含む助触媒と、を備える、亜酸化窒素分解用触媒を提供する。
この亜酸化窒素分解用触媒は、低温活性に優れ、かつ還元剤を用いずに直接亜酸化窒素を分解することができる。ここで、低温活性に優れるとは、排ガス温度が450℃以下(例えば好ましくは200、250、又は350℃以上)の温度であっても、亜酸化窒素を良好に分解することができることを意味する。
【0008】
一態様において、複合酸化物がさらにセリウム及びジルコニウムの少なくともいずれかを含んでいてよい。これにより、亜酸化窒素分解用触媒の耐水性が向上する。
【0009】
一態様において、複合酸化物におけるニッケル元素対コバルト元素の組成比Co/Niが、2~30であってよい。
【0010】
一態様において、複合酸化物におけるニッケル元素及びコバルト元素対セリウム元素及びジルコニウム元素の組成比(Ce+Zr)/(Ni+Co)が、0.01~0.4であってよい。
【0011】
一態様において、助触媒がカリウム化合物及びセシウム化合物の少なくともいずれかを含んでよい。
【0012】
本発明の一側面は、共沈殿法によりニッケル化合物及びコバルト化合物を含む第一水溶液からニッケル化合物及びコバルト化合物を含む前駆体を製造する前駆体製造工程と、アルカリ金属化合物を含む第二水溶液を前駆体に接触させた後に、前駆体を焼成する触媒基体製造・助触媒担持工程と、を備える、亜酸化窒素分解用触媒の製造方法を提供する。
この製造方法は、低温活性に優れ、かつ還元剤を用いずに直接亜酸化窒素を分解することができる、亜酸化窒素分解用触媒を製造することができる。
【0013】
一態様において、第一水溶液がセリウム化合物及びジルコニウム化合物の少なくともいずれかを更に含み、前駆体がセリウム化合物及びジルコニウム化合物の少なくともいずれかを更に含んでよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低温活性に優れ、かつ還元剤を用いずに直接亜酸化窒素を分解することのできる、亜酸化窒素分解用触媒を提供することができる。また、本発明によれば、そのような亜酸化窒素分解用触媒の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、触媒性能の温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されない。
【0017】
<亜酸化窒素分解用触媒>
亜酸化窒素分解用触媒は、ニッケル及びコバルトを含む複合酸化物を含む触媒基体と、触媒基体に担持され、アルカリ金属化合物を含む助触媒と、を備える。この触媒は、低温活性に優れ、かつ還元剤を用いずに直接亜酸化窒素を分解することができる。
【0018】
(触媒基体)
ニッケル及びコバルトを含む複合酸化物は、NiCo2-xCoO(但し、0<x≦1)の組成式で表される。当該酸化物はCoとNiCoの固溶体(単一の結晶構造を維持した複合酸化物)と見なすことができ、(NiCo(Co1-xとしても表記できる。式中、xは亜酸化窒素の分解性能の観点から、0.1~0.9であることが好ましい。複合酸化物はニッケルコバルト複合酸化物ということができ、このような固溶体は、単独のCo(x=0)よりも優れた亜酸化窒素の分解性能を有することができる。
【0019】
複合酸化物はスピネル型の結晶構造を有しており、当該構造を維持したままニッケルとコバルトの割合を適宜に調整することができる。複合酸化物におけるニッケル元素対コバルト元素の組成比Co/Niは、亜酸化窒素の分解性能の観点から2以上とすることができ、30以下とすることができる。この観点から、組成比Co/Niは2~30とすることができ、2~15であってもよく、2~10であってもよく、2~5であってもよい。なお、組成比(元素比)とはモル比を意味する。
【0020】
複合酸化物は、ニッケル及びコバルトの他にセリウム及びジルコニウムの少なくともいずれかを含んでいてよい。これにより、触媒の耐水性を向上することができる。
【0021】
複合酸化物がセリウム又はジルコニウムを含む場合、それらはNi及びCoに置換して複合酸化物中に存在していてもよく、例えば高分散した酸化物として複合酸化物中に存在していてもよい。複合酸化物は、セリウム含有(又は置換)ニッケルコバルト複合酸化物や、ジルコニウム含有(又は置換)ニッケルコバルト複合酸化物と言うこともできる。
【0022】
複合酸化物におけるニッケル元素及びコバルト元素対セリウム元素及びジルコニウム元素の組成比(Ce+Zr)/(Ni+Co)は、耐水性の向上の観点から0.01以上とすることができ、一方過剰な添加による性能低下抑制の観点から0.4以下とすることができる。この観点から、組成比(Ce+Zr)/(Ni+Co)は0.01~0.4とすることができ、0.015~0.3であってもよく、0.02~0.2であってもよく、0.03~0.1であってもよい。
【0023】
複合酸化物がセリウムを含む場合、複合酸化物におけるニッケル元素及びコバルト元素対セリウム元素の組成比Ce/(Ni+Co)は、耐水性の向上の観点から0.01以上とすることができ、一方過剰な添加による性能低下抑制の観点から0.4以下とすることができる。この観点から、組成比Ce/(Ni+Co)は0.01~0.4とすることができ、0.015~0.3であってもよく、0.02~0.2であってもよく、0.03~0.1であってもよい。
【0024】
複合酸化物がジルコニウムを含む場合、複合酸化物におけるニッケル元素及びコバルト元素対ジルコニウム元素の組成比Zr/(Ni+Co)は、耐水性の向上の観点から0.01以上とすることができ、一方過剰な添加による性能低下抑制の観点から0.4以下とすることができる。この観点から、組成比Zr/(Ni+Co)は0.01~0.4とすることができ、0.015~0.3であってもよく、0.02~0.2であってもよく、0.03~0.1であってもよい。
【0025】
(助触媒)
触媒基体は、アルカリ金属化合物を含む助触媒を担持する。これにより、触媒の低温活性を向上することができる。
【0026】
アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムが挙げられ、亜酸化窒素の分解性能の観点からカリウム又はセシウムが好ましい。
【0027】
アルカリ金属の化合物としては、それらの酸化物、水酸化物、無機塩や有機塩(例えばシュウ酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩)、ハロゲン化物等が挙げられる。
【0028】
触媒基体へのアルカリ金属の担持量は、触媒基体を構成する複合酸化物及びアルカリ金属元素単体の全量に対するアルカリ金属元素単体の量として、亜酸化窒素の分解性能の観点から0.5質量%以上とすることができ、一方過剰添加による性能低下抑制の観点から20質量%以下とすることができる。この観点から、触媒基体へのアルカリ金属の担持量は0.5~20質量%とすることができ、1~15質量%であってもよく、2~12質量%であってもよい。
【0029】
触媒基体は、さらにセリウム化合物及びジルコニウム化合物の少なくともいずれかを含む助触媒を担持していてもよい。これにより、触媒の耐水性をより向上することができる。セリウム化合物又はジルコニウム化合物は、上述の酸化物等として助触媒に含まれる。
【0030】
触媒基体へのセリウムの担持量は、触媒基体を構成する複合酸化物及びセリウム元素単体の全量に対するセリウム元素単体の量として、亜酸化窒素の分解性能の観点から1質量%以上とすることができ、一方過剰添加による性能低下抑制の観点から35質量%以下とすることができる。この観点から、触媒基体へのセリウムの担持量は1~35質量%とすることができ、2~25質量%であってもよく、3~10質量%であってもよい。
【0031】
触媒基体へのジルコニウムの担持量は、触媒基体を構成する複合酸化物及びジルコニウム元素単体の全量に対するジルコニウム元素単体の量として、亜酸化窒素の分解性能の観点から1質量%以上とすることができ、一方過剰添加による性能低下抑制の観点から25質量%以下とすることができる。この観点から、触媒基体へのジルコニウムの担持量は1~25質量%とすることができ、2~15質量%であってもよく、3~10質量%であってもよい。
【0032】
亜酸化窒素分解用触媒は粉末の形態を有することができる。粉末状の触媒の平均粒子径D50は、1~500μmとすることができ、5~250μmであってもよく、10~100μmであってもよい。平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱法を用いた粒度分布測定により得ることができる。
【0033】
亜酸化窒素分解用触媒の、窒素ガス吸着法により測定されるBET比表面積は、亜酸化窒素の分解性能の観点から10m/g以上とすることができ、一方結晶性低下による性能低下の観点から200m/g以下とすることができる。この観点から、亜酸化窒素分解用触媒のBET比表面積は10~200m/gとすることができ、50~150m/gであってもよい。
【0034】
亜酸化窒素分解用触媒は、その他、円柱状、円筒状(ペレット状)、粒状(球状)、板状、ハニカム状等の形態であってもよい。これらは粉末状の触媒を打錠成型法、押出成型法等の一般的な成型方法により得られる。
【0035】
<亜酸化窒素分解用触媒の製造方法>
以下、製造方法の一例を示すが、所望の亜酸化窒素分解用触媒を得られるのであれば、これらの方法に限られない。
【0036】
(第一の製造方法)
亜酸化窒素分解用触媒の第一の製造方法は、共沈殿法によりニッケル化合物及びコバルト化合物を含む第一水溶液からニッケル化合物及びコバルト化合物を含む前駆体を製造する前駆体製造工程と、アルカリ金属化合物を含む第二水溶液を前駆体に接触させた後に、前駆体を焼成する触媒基体製造・助触媒担持工程と、を備える。
【0037】
(第二の製造方法)
亜酸化窒素分解用触媒の第二の製造方法は、共沈殿法によりニッケル化合物及びコバルト化合物を含む第一水溶液からニッケル及びコバルトを含む複合酸化物を含む触媒基体を製造する触媒基体製造工程と、アルカリ金属化合物を含む第二水溶液を触媒基体に接触させた後に、触媒基体を焼成する助触媒担持工程と、を備える。
【0038】
これらの製造方法は、低温活性に優れ、かつ還元剤を用いずに直接亜酸化窒素を分解することができる、亜酸化窒素分解用触媒を製造することができる。
なお、第一水溶液がセリウム化合物及びジルコニウム化合物の少なくともいずれかを更に含んでもよく、その場合複合酸化物がセリウム及びジルコニウムの少なくともいずれかを更に含んでよい。セリウム化合物及びジルコニウム化合物は、後述のとおり助触媒として触媒基体に担持させることもできるが、耐水性向上の観点からは、触媒基体製造時に触媒基体の製造原料として用いることが好ましい。
【0039】
(第一の製造方法:前駆体製造工程)
ニッケル化合物及びコバルト化合物としては、ニッケル及びコバルトの酸化物、水酸化物、無機塩や有機塩(例えばシュウ酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩)、ハロゲン化物等が挙げられる。ニッケル化合物及びコバルト化合物の他にセリウム化合物及びジルコニウム化合物を用いる場合も同様である。
【0040】
本工程では、各元素について複合酸化物が所望の組成比を有するように、原料となる各化合物の量を調整して水に混合する。得られた第一水溶液に対しアルカリ(例えば、アルカリ金属化合物)を添加し、溶液中のイオン濃度積を溶解度積よりも高くなる状態にすることで、各金属の難溶性の塩が同時に析出して沈殿する(共沈殿法)。得られた沈殿物を洗浄して乾燥させ、必要に応じ粉砕することで、前駆体(触媒基体前駆体)を得ることができる。この前駆体を焼成することで触媒基体が得られる。
【0041】
なお、第一水溶液に添加されるアルカリ金属化合物に含まれるアルカリ金属を残存させるようにして沈殿物を洗浄してもよい。ただし、反応残渣を除去して良質な前駆体及び複合酸化物を得る観点からは、沈殿物の洗浄を充分に行うことが好ましい。
【0042】
前駆体の製造方法は上記の共沈殿法に限定されない。その他の製造方法としては、逆沈殿法、均一沈殿法、錯体重合法、固相法等が挙げられる。
【0043】
(第一の製造方法:触媒基体製造・助触媒担持工程)
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、無機塩や有機塩(例えばシュウ酸塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩)、ハロゲン化物等が挙げられる。アルカリ金属化合物の他にセリウム化合物又はジルコニウム化合物を用いる場合も同様である。
【0044】
本工程では、触媒基体が所望量の助触媒を担持するように、原料となる各化合物の量を調整して水に混合する。得られた第二水溶液を前駆体に接触させ、必要に応じ前駆体を乾燥した後に焼成することで、触媒基体を製造しつつ触媒基体に助触媒を担持させることができる。これにより目的とする亜酸化窒素分解用触媒を得ることができる。
【0045】
セリウム化合物又はジルコニウム化合物を含む助触媒をさらに担持させる場合、これらを含む助触媒の担持はアルカリ金属化合物を含む助触媒の担持と同時であってよい。この場合、第二水溶液がさらにセリウム化合物又はジルコニウム化合物を含んでいてもよく、あるいはセリウム化合物又はジルコニウム化合物を含む第三水溶液を別途準備して、第二水溶液及び第三水溶液の順に前駆体に接触させてもよい。
セリウム化合物又はジルコニウム化合物を含む助触媒をさらに担持させる場合、これらを含む助触媒の担持はアルカリ金属化合物を含む助触媒の担持とは別(前又は後)であってもよい。この場合、セリウム化合物又はジルコニウム化合物を含む第三水溶液を別途準備することができる。なお、例えばセリウム化合物又はジルコニウム化合物を含む助触媒の担持を、アルカリ金属化合物を含む助触媒の担持前に行う場合、上記に準じて製造したセリウム化合物又はジルコニウム化合物を含む助触媒を担持した触媒基体に対し、第二水溶液を用いてアルカリ金属化合物を含む助触媒を担持させることになる。
【0046】
第二水溶液や場合により第三水溶液と、前駆体等とを接触させる方法としては、水溶液に前駆体等を含浸させる方法(含浸法)、水溶液を前駆体等に噴霧する方法(噴霧法)等が挙げられる。
【0047】
前駆体の焼成温度及び時間は適宜調整すればよいが、250~600℃にて1~3時間焼成することで、良質な触媒を得易い。なお、焼成温度を600℃以下とすることで、触媒の比表面積低下の抑制やNiO生成の抑制が図られ易い。
【0048】
(第二の製造方法:触媒基体製造工程)
本工程は上記前駆体製造工程に準じて実施することができる。
上記前駆体製造工程と同様にして得られた沈殿物を洗浄して乾燥させ、必要に応じ粉砕した後に焼成することで、複合酸化物を得ることができる。この複合酸化物が触媒基体であり、ニッケルコバルト複合酸化物としての基本的な触媒機能を有すると共に、助触媒の担体として用いることができる。
【0049】
沈殿物の焼成温度及び時間は適宜調整すればよいが、250~600℃にて1~3時間焼成することで、良質な複合酸化物を得易い。なお、焼成温度を600℃以下とすることで、触媒の比表面積低下の抑制やNiO生成の抑制が図られ易い。
【0050】
(助触媒担持工程)
本工程は上記触媒基体製造・助触媒担持工程に準じて実施することができる。
触媒基体製造・助触媒担持工程と同様にして得られた第二水溶液を触媒基体である複合酸化物に接触させ、必要に応じ触媒基体を乾燥した後に焼成することで、触媒基体に助触媒を担持させることができる。これにより目的とする亜酸化窒素分解用触媒を得ることができる。
セリウム化合物又はジルコニウム化合物を含む第三水溶液を準備する場合は、焼成前であって、第二水溶液を触媒基体に接触させる前又は後に、第三水溶液を触媒基体に接触させることができる。あるいは、いずれかの水溶液を触媒基体に接触させて焼成した後に、もう一方の水溶液を触媒基体に接触させて焼成することもできる。
【0051】
触媒基体の焼成温度及び時間は適宜調整すればよいが、250~600℃にて1~3時間焼成することで、良質な触媒を得易い。なお、焼成温度を600℃以下とすることで、触媒の比表面積低下の抑制やNiO生成の抑制が図られ易い。
【0052】
<本実施形態の概要>
本実施形態の概要を以下に示す。
[発明1]
ニッケル及びコバルトを含む複合酸化物を含む触媒基体と、
前記触媒基体に担持され、アルカリ金属化合物を含む助触媒と、を備える、亜酸化窒素分解用触媒。
[発明2]
前記複合酸化物がさらにセリウム及びジルコニウムの少なくともいずれかを含む、発明1に記載の亜酸化窒素分解用触媒。
[発明3]
前記複合酸化物におけるニッケル元素対コバルト元素の組成比Co/Niが、2~30である、発明1又は2に記載の亜酸化窒素分解用触媒。
[発明4]
前記複合酸化物におけるニッケル元素及びコバルト元素対セリウム元素及びジルコニウム元素の組成比(Ce+Zr)/(Ni+Co)が、0.01~0.4である、発明2に記載の亜酸化窒素分解用触媒。
[発明5]
前記助触媒がカリウム化合物及びセシウム化合物の少なくともいずれかを含む、発明1~4のいずれか一に記載の亜酸化窒素分解用触媒。
[発明6]
共沈殿法によりニッケル化合物及びコバルト化合物を含む第一水溶液から前記ニッケル化合物及び前記コバルト化合物を含む前駆体を製造する前駆体製造工程と、
アルカリ金属化合物を含む第二水溶液を前記前駆体に接触させた後に、前記前駆体を焼成する触媒基体製造・助触媒担持工程と、を備える、亜酸化窒素分解用触媒の製造方法。
[発明7]
前記第一水溶液がセリウム化合物及びジルコニウム化合物の少なくともいずれかを更に含み、前記前駆体が前記セリウム化合物及び前記ジルコニウム化合物の少なくともいずれかを更に含む、発明6に記載の製造方法。
【実施例0053】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1:K/Ni0.74Co2.26の作製)
硝酸ニッケル6水和物18.217g及び硝酸コバルト6水和物55.682gを水50gに添加して混合することで、原料水溶液を調製した。この原料水溶液に炭酸カリウム水溶液を滴下してニッケル及びコバルトの塩を沈殿させて(共沈殿法)、これら塩を含む前駆体(沈殿物)を得た。炭酸カリウム水溶液の滴下は、滴下後の原料水溶液のpHが9付近になるまで実施した。
その後暫く攪拌熟成した後、前駆体の洗浄濾過を4回繰り返した。得られた濾過ケーキを乾燥機内にて100℃で乾燥した後、粉砕機及びメノウ乳鉢で粉砕し、複合酸化物の前駆体粉末を得た。
次に、炭酸カリウム0.429gを水50gに添加して混合することで、炭酸カリウム水溶液を調製した。上記で得られた前駆体粉末を400℃焼成後の重量が6.40gとなるように量り取り、この水溶液に含浸させた。含浸後の前駆体粉末を乾燥機内にて100℃で乾燥した後、さらに電気炉内にて400℃で2時間焼成することで、触媒粉末として、カリウムを含む助触媒を担持したニッケル及びコバルトを含む複合酸化物(カリウム担持ニッケルコバルト複合酸化物)粉末を得た。
複合酸化物におけるCo/Niは3.1であった。触媒基体(複合酸化物)へのアルカリ金属の担持量は、複合酸化物及びカリウム元素単体の全量に対するカリウム元素単体の量として、3.5質量%であった。
【0055】
得られた粉末の結晶構造はXRDにより解析した。また、各元素の組成の情報はXRFを用いて分析した。以降の各例についても同様に解析及び分析を行った。
【0056】
(実施例2:Cs/Ni0.74Co2.26の作製)
炭酸セシウム1.077gを水50gに添加して混合することで、炭酸セシウム水溶液を調製した。この炭酸セシウム水溶液を炭酸カリウム水溶液に代えて用いたこと、前駆体粉末を400℃焼成後の重量が6.44gとなるように量り取ったこと以外は、実施例1と同様にして触媒粉末を得た。
触媒基体へのアルカリ金属の担持量は、複合酸化物及びセシウム元素単体の全量に対するセシウム元素単体の量として、12質量%であった。
【0057】
(実施例3:K/Ce0.11Ni0.71Co2.18の作製)
硝酸ニッケル6水和物18.217g、硝酸コバルト6水和物55.682g及び硝酸セリウム6水和物4.154gを水50gに添加して混合することで、原料水溶液を調製した。このこと以外は、実施例1と同様にして、複合酸化物の前駆体粉末を得た。
次に、炭酸カリウム0.233gを水50gに添加して混合することで、炭酸カリウム水溶液を調製した。上記で得られた前駆体粉末を400℃焼成後の重量が6.42gとなるように量り取り、この水溶液に含浸させた。このこと以外は、実施例1と同様にして、触媒粉末として、カリウムを含む助触媒を担持したニッケル、コバルト及びセリウムを含む複合酸化物(カリウム担持セリウム含有ニッケルコバルト複合酸化物)粉末を得た。
複合酸化物におけるCo/Niは3.1、Ce/(Ni+Co)は0.038であった。触媒基体へのアルカリ金属の担持量は、複合酸化物及びカリウム元素単体の全量に対するカリウム元素単体の量として、2.0質量%であった。
【0058】
(実施例4:K/Ce0.11Ni0.71Co2.18の作製)
炭酸カリウム0.428gを水50gに添加して混合することで、炭酸カリウム水溶液を調製した。炭酸カリウム水溶液としてこの水溶液を用いたこと、前駆体粉末を400℃焼成後の重量が6.64gとなるように量り取ったこと以外は、実施例3と同様にして触媒粉末を得た。
触媒基体へのアルカリ金属の担持量は、複合酸化物及びカリウム元素単体の全量に対するカリウム元素単体の量として、3.5質量%であった。
【0059】
(実施例5:K/Ce0.11Ni0.71Co2.18の作製)
炭酸カリウム0.538gを水50gに添加して混合することで、炭酸カリウム水溶液を調製した。炭酸カリウム水溶液としてこの水溶液を用いたこと以外は、実施例3と同様にして複合酸化物粉末を得た。
触媒基体へのアルカリ金属の担持量は、複合酸化物及びカリウム元素単体の全量に対するカリウム元素単体の量として、4.5質量%であった。
【0060】
(実施例6:K,Ce/Ni0.74Co2.26の作製)
硝酸セリウム6水和物1.28gを水50gに添加して混合することで、硝酸セリウム水溶液と、炭酸カリウム0.382gを水50gに添加して混合することで、炭酸カリウム水溶液と、を調製した。
実施例1と同様にして得られた前駆体粉末を400℃焼成後の重量が5.93gとなるように量り取り、硝酸セリウム水溶液に含浸させた。含浸後の前駆体粉末を乾燥機内にて100℃で乾燥した後、さらに電気炉内にて400℃で2時間焼成した。これにより、セリウムを担持したニッケル及びコバルトを含む複合酸化物(セリウム担持ニッケルコバルト複合酸化物)粉末を得た。
次に、得られた複合酸化物粉末を、炭酸カリウム水溶液に含浸させた。含浸後の複合酸化物粉末を乾燥機内にて100℃で乾燥した後、さらに電気炉内にて400℃で2時間焼成した。これにより、触媒粉末として、セリウム及びカリウムを担持したニッケル及びコバルトを含む複合酸化物(セリウム及びカリウム担持ニッケルコバルト複合酸化物)粉末を得た。
触媒基体へのアルカリ金属の担持量は、複合酸化物及びカリウム元素単体の全量に対するカリウム元素単体の量として、3.5質量%であった。触媒基体へのセリウムの担持量は、複合酸化物及びセリウム元素単体の全量に対するセリウム元素単体の量として、6.1質量%であった。
【0061】
(比較例1~4:ゼオライト系触媒の準備)
ゼオライト系触媒粉末として、Fe-β、Cu-β、Cu-MFI及びCu-SSZ-13を準備した。
【0062】
(比較例5:Coの準備)
触媒粉末として酸化コバルトを準備した。
【0063】
(比較例6:K/Coの作製)
炭酸カリウム水溶液に酸化コバルト粉末を含浸させた。このこと以外は、実施例1と同様にして、触媒粉末として酸化カリウムを担持した酸化コバルト粉末を得た。
【0064】
(比較例7~10:NiCo2-xCoOの準備)
各原料の量を調整し、触媒粉末として種々の組成を有するニッケルコバルト複合酸化物を準備した。
【0065】
<触媒性能評価1>
各例で得られた触媒粉末をプレス機で圧縮し、その後粉砕してから850~1400μmの範囲(14~20meshサイズの篩)で整粒し、粒状触媒を得た。縦型の常圧固定床流通式反応装置を用い、粒状触媒に表1の条件で反応ガスを流通させることで、粒状触媒の性能を評価した。結果を表2に示す。なお、この評価にて亜酸化窒素の分解が確認されるということは、触媒粉末が、還元剤を用いずに直接亜酸化窒素を分解することのできる直接分解触媒としての機能を有することを意味する。
なお表2中、SAはBET比表面積であり、窒素ガス吸着法により測定された値(単位:m/g)である。また、Dry条件はHO濃度が0vol%であることを、Wet条件はHO濃度が10vol%であることを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
表2より、比較例に比して実施例では、Dry条件における低温活性に優れることが理解される。また、比較例に比して一部の実施例(複合酸化物又は助触媒がさらにセリウムを含む例)では、Wet条件における低温活性にも優れることが理解される。
【0069】
<触媒性能評価2>
触媒性能評価1と同様にして得られた一部の粒状触媒について、触媒性能の温度依存性を評価した。反応装置内に流通させる反応ガスの条件は表3のとおりとした。評価結果を図1に示す。図1は、触媒性能の温度依存性を示す図であり、横軸が温度を、縦軸がNOの変換率を示す。
【0070】
【表3】
【0071】
図1より、比較例に比して実施例では、Dry条件における低温活性に優れることが理解される。また、比較例に比して一部の実施例(複合酸化物がさらにセリウムを含む例)では、Wet条件における低温活性にも優れることが理解される。
図中、グラフ#3は、Fe-β触媒を用いたNH-SCRでの利用を想定した試験結果である。これに対して、実施例であるグラフ#9は、Wet条件でありながらグラフ#3と同等以上の性能を示した。
図1