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特開2024-25993電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025993
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/075 20060101AFI20240220BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H01J37/075
H01J37/22 502Z
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129405
(22)【出願日】2022-08-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】516040121
【氏名又は名称】株式会社Photo electron Soul
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】西谷智博
(72)【発明者】
【氏名】荒川裕太
(72)【発明者】
【氏名】安福大輔
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101AA04
5C101AA05
5C101AA22
5C101DD05
5C101DD30
5C101EE53
5C101FF02
5C101FF25
5C101GG03
5C101GG04
5C101GG05
5C101GG06
5C101GG07
5C101GG08
5C101HH11
5C101HH38
5C101HH62
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電子線適用装置自体が階調範囲を有効に使用した検出データを出力するための検出データの作成方法を提供する。
【解決手段】第1検出データ出力工程は、第1電子ビーム照射工程と、検出信号を生成する第1検出工程と、第1光量調整工程と、前記工程を繰り返す工程と、第1出力工程と、を含む。第2検出データ出力工程は、第1ヒストグラム演算工程と、演算したヒストグラムに基づき、前記光源を第2光源強度範囲に設定及び/又は検出器に入る放出物の放出量を第2の値に設定する、第2検出条件設定工程と、設定した第2検出条件に基づく第2電子ビーム照射工程と、検出信号を生成する第2検出工程と、第2光量調整工程と、前記工程を繰り返す工程と、第2出力工程と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線適用装置における検出データの作成方法であって、
電子線適用装置は、
光源と、
前記光源からの受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
電子ビームを照射した照射対象から放出された放出物の放出量を検出する検出器と、
制御部と、
を含み、
前記検出データの作成方法は、少なくとも2回の検出データ出力工程を含み、
第1検出データ出力工程は、
第1光源強度範囲に設定した前記光源からの受光に応じて形成した電子ビームを、前記照射対象の照射領域に照射する第1電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域の各々の照射スポットから放出された放出物の放出量を前記検出器で検出し、検出信号を生成する第1検出工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が予め設定した第1の値となるように、前記光源から前記フォトカソードに到達する光量を第1光源強度範囲内で調整する第1光量調整工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が予め設定した第1の値が得られるまで、前記第1電子ビーム照射工程と、前記第1検出工程と、前記第1光量調整工程とを繰り返す工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が第1の値となった光量調整データを、前記照射領域の第1検出データとして出力する第1出力工程と、
を含み、
第2検出データ出力工程は、
前記照射領域の画像を合成する際の階調値の数または前記照射領域の合成画像における階調値の数および前記第1光源強度範囲に基づき、第1光源強度範囲の各々の光源強度に対して階調範囲内の階調値を割り当て、または、各々の階調値に対して第1光源範囲内の光源強度を割り当てることで光源強度と階調値を関連付けた階調値-光源強度相関値を設定し、前記第1検出データから各々の階調値-光源強度相関値を有する照射スポットの出現頻度を演算する第1ヒストグラム演算工程と、
階調範囲を有効に使えるようにするため、演算したヒストグラムに基づき、前記光源を第2光源強度範囲に設定及び/又は前記検出器に入る放出物の放出量を第2の値に設定する、第2検出条件設定工程と、
設定した第2検出条件に基づき、前記光源からの受光に応じて形成した電子ビームを、前記照射対象の照射領域に照射する第2電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域の各々の照射スポットから放出された放出物の放出量のデータを前記検出器で検出し、検出信号を生成する第2検出工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第2検出条件の値となるように、前記光源から前記フォトカソードに到達する光量を前記第2検出条件の範囲内で調整する第2光量調整工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第2検出条件の値が得られるまで、前記第2電子ビーム照射工程と、前記第2検出工程と、前記第2光量調整工程とを繰り返す工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第2検出条件の値となった光量調整データを、前記照射領域の第2検出データとして出力する第2出力工程と、
を含む、
検出データの作成方法。
【請求項2】
前記第2検出データが、前記照射領域の検出データとして使用される、
請求項1に記載の検出データの作成方法。
【請求項3】
前記第2検出データ出力工程の後に、n-2回の検出データ出力工程を含み、
前記nは3または4以上の整数であり、
第n検出データ出力工程は、
前記階調値の数および第n-1検出条件で設定した光源強度範囲に基づき、光源強度範囲の各々の光源強度に対して階調範囲内の階調値を割り当て、または、各々の階調値に対して光源範囲内の光源強度を割り当てることで光源強度と階調値を関連付けた階調値-光源強度相関値を設定し、前記第n-1検出データから各々の階調値-光源強度相関値を有する照射スポットの出現頻度を演算する第n-1ヒストグラム演算工程と、
階調範囲を有効に使えるようにするため、演算したヒストグラムに基づき、前記光源を第n光源強度範囲に設定及び/又は前記検出器に入る放出物の放出量を第nの値に設定する、第n検出条件設定工程と、
設定した第n検出条件に基づき、前記光源からの受光に応じて形成した電子ビームを、前記照射対象の照射領域に照射する第n電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域の各々の照射スポットから放出された放出物の放出量のデータを前記検出器で検出し、検出信号を生成する第n検出工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第n検出条件の値となるように、前記光源から前記フォトカソードに到達する光量を前記第n検出条件の範囲内で調整する第n光量調整工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第n検出条件の値が得られるまで、前記第n電子ビーム照射工程と、前記第n検出工程と、前記第n光量調整工程とを繰り返す工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第n検出条件の値となった光量調整データを、前記照射領域の第n検出データとして出力する第n出力工程と、
を含み、
nが4以上の整数の場合、前記第n検出データ出力工程は、nが3から順番にn-2回実施される、
請求項1に記載の検出データの作成方法。
【請求項4】
n番目に出力された検出データが、前記照射領域の検出データとして使用される、
請求項3に記載の検出データの作成方法。
【請求項5】
前記第2光源強度範囲の設定が、
(1)階調値0に相当する光源強度データを有する照射スポットの出現頻度が0の場合、前記第2光源強度範囲の最大値を前記第1光源強度範囲の最大値より小さく設定、
(2)最大階調値に相当する光源強度データを有する照射スポットの出現頻度が0の場合、前記第2光源強度範囲の最小値を前記第1光源強度範囲の最小値より大きく設定、
(3)階調値0に相当する光源強度データを有する照射スポットの出現頻度が0より大きい場合、前記第2光源強度範囲の最大値を前記第1光源強度範囲の最大値より大きく設定、
(4)最大階調値に相当する光源強度データを有する照射スポットの出現頻度が0より大きい場合、前記第2光源強度範囲の最小値を前記第1光源強度範囲の最小値より小さく設定、
からなる群から選択する何れか一つを含む、
請求項1に記載の検出データ作成方法。
【請求項6】
前記第2の値の設定が、
(5)照射スポットの出現頻度のピークの位置を階調値0側に移動する場合は、前記検出器に入る放出物の放出量を前記第1の値より大きく設定、または、
(6)照射スポットの出現頻度のピークの位置を最大階調値側に移動する場合は、前記検出器に入る放出物の放出量を前記第1の値より小さく設定、
を含む、請求項1に記載の検出データ作成方法。
【請求項7】
前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、
オージェ電子分光装置、
カソードルミネッセンス装置、
X線分析装置、
透過電子顕微鏡、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である、
請求項1~6の何れか一項に記載の検出データの作成方法。
【請求項8】
請求項1~6の何れか一項に記載の検出データの作成方法で得られた検出データから、前記照射対象の照射領域の画像を合成する画像合成工程と、
を含む、電子線適用装置における照射対象の画像合成方法。
【請求項9】
請求項1~6の何れか一項に記載の各工程を電子線適用装置の制御部に実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項8に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項11】
光源と、
前記光源からの受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
電子ビームを照射した照射対象から放出された放出量のデータを検出する検出器と、
制御部と、
を含む、電子線適用装置であって、
前記制御部には、請求項9に記載のプログラムが格納されている、
電子線適用装置。
【請求項12】
前記制御部が、
前記検出データから、前記照射対象の照射領域の画像を合成する画像合成工程、
を実行するように制御する、請求項11に記載の電子線適用装置。
【請求項13】
前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、
オージェ電子分光装置、
カソードルミネッセンス装置、
X線分析装置、
透過電子顕微鏡、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である、
請求項11に記載の電子線適用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料を撮影する手段として走査電子顕微鏡(SEM)、検査装置等の電子線適用装置が知られている。SEMは、試料表面の微細構造を数nmレベルで観察できることから、多くの研究機関で用いられている。SEMを用いた撮像は、明るく且つコントラストが高い画像を得るため、様々な調整方法が知られている。例えば、プローブ電流を大きくすることで試料から放出される二次電子の量を増やし画像を明るくする方法、SEMの操作盤上の明るさ・コントラストの調整ボタンを調整することで、画像の明るさ・コントラストを調整する方法、等が知られている。
【0003】
半導体ウェーハの集積回路パターン像等を取得する検査装置に関しては、画像検出の高感度化と共に、画像検出の高速化の要請がある。当該要望を解決するため、特許文献1には、参照検査装置の照射領域から放出された二次電子を検出する検出手段について、投影倍率等に応じて検出感度を調整することが記載されている。
【0004】
ところで、検出手段の検出感度の調整は、例えば、電子ビームを照射することで照射領域から放出された二次電子の検出結果を参照しながらマニュアル等で実施している。したがって、例えば、照射領域の全体画像の撮影や、照射領域の一部を拡大して撮影する等の調整をする場合、検出感度のダイナミックレンジが大きい検出器が必要との問題がある。
【0005】
上記問題を解決するため、特許文献2には、(1)フォトカソードは受光する励起光の光量を調整することで、放出する電子ビームの強度(電子量)を簡単に調整できること、(2)照射領域から放出された放出量の検出信号の信号強度を予め設定した値となるようにフォトカソードに到達する光量を調整し、(3)検出信号の信号強度が予め設定した値となった時の光量調整データは、照射領域の試料状態を反映したデータとなることから、光量調整データを照射領域の検出データとして使用できること、(4)したがって、検出器の検出感度のダイナミックレンジが小さくても、照射領域の検出データが得られること、が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-242943号公報
【特許文献2】特許第6968481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、SEM等で得られた画像は、トーンカーブ等の画像補正機能を用いることで、明るくする、または、暗くする等の補正が可能である。しかしながら、画像補正機能は、あくまでも得られた画像を補正する機能である。電子線適用装置から得られた検出データが、当該データに基づき合成した画像の階調範囲(明るさの濃淡の段階を表す階調値の数)を有効に使用していないデータの場合、画像補正機能を用いたとしても、階調範囲を有効に使用していない画像を補正することになる。そのため、電子線適用装置自体が、階調範囲を有効に使用した検出データを出力できることが望ましい。しかしながら、電子線適用装置自体が、階調範囲を有効に使用した検出データを出力する方法(装置)は知られていない。
【0008】
本出願は上記問題点を解決するためになされたものである。本発明者らが鋭意研究を行ったところ、(1)特許文献2に記載の方法で得られた検出データは、照射領域の画像を合成した際に、画像の階調範囲を有効に使用していない場合があること、(2)照射領域の画像を合成する際の階調値の数または照射領域の合成画像における階調値の数および第1光源強度範囲に基づき、第1光源強度範囲の各々の光源強度に対して階調範囲内の階調値を割り当て、または、各々の階調値に対して第1光源強度範囲内の光源強度を割り当てることで光源強度と階調値を関連付けた階調値-光源強度相関値を設定し、特許文献2に記載の方法で得られた検出データから各々の階調値-光源強度相関値を有する照射スポットの出現頻度を演算し、(3)演算したヒストグラムに基づき、光源の強度範囲を調整及び/又は検出器に入る放出物の放出量を調整することで、電子線適用装置自体が、画像を合成した際の階調範囲を有効に使用した検出データを出力できること、を新たに見出した。
【0009】
本出願における開示は、電子線適用装置における階調範囲を有効に使用した検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願は、以下に示す、電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置に関する。
【0011】
[1]電子線適用装置における検出データの作成方法であって、
電子線適用装置は、
光源と、
前記光源からの受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
電子ビームを照射した照射対象から放出された放出物の放出量を検出する検出器と、
制御部と、
を含み、
前記検出データの作成方法は、少なくとも2回の検出データ出力工程を含み、
第1検出データ出力工程は、
第1光源強度範囲に設定した前記光源からの受光に応じて形成した電子ビームを、前記照射対象の照射領域に照射する第1電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域の各々の照射スポットから放出された放出物の放出量を前記検出器で検出し、検出信号を生成する第1検出工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が予め設定した第1の値となるように、前記光源から前記フォトカソードに到達する光量を第1光源強度範囲内で調整する第1光量調整工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が予め設定した第1の値が得られるまで、前記第1電子ビーム照射工程と、前記第1検出工程と、前記第1光量調整工程とを繰り返す工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が第1の値となった光量調整データを、前記照射領域の第1検出データとして出力する第1出力工程と、
を含み、
第2検出データ出力工程は、
前記照射領域の画像を合成する際の階調値の数または前記照射領域の合成画像における階調値の数および前記第1光源強度範囲に基づき、第1光源強度範囲の各々の光源強度に対して階調範囲内の階調値を割り当て、または、各々の階調値に対して第1光源範囲内の光源強度を割り当てることで光源強度と階調値を関連付けた階調値-光源強度相関値を設定し、前記第1検出データから各々の階調値-光源強度相関値を有する照射スポットの出現頻度を演算する第1ヒストグラム演算工程と、
階調範囲を有効に使えるようにするため、演算したヒストグラムに基づき、前記光源を第2光源強度範囲に設定及び/又は前記検出器に入る放出物の放出量を第2の値に設定する、第2検出条件設定工程と、
設定した第2検出条件に基づき、前記光源からの受光に応じて形成した電子ビームを、前記照射対象の照射領域に照射する第2電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域の各々の照射スポットから放出された放出物の放出量のデータを前記検出器で検出し、検出信号を生成する第2検出工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第2検出条件の値となるように、前記光源から前記フォトカソードに到達する光量を前記第2検出条件の範囲内で調整する第2光量調整工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第2検出条件の値が得られるまで、前記第2電子ビーム照射工程と、前記第2検出工程と、前記第2光量調整工程とを繰り返す工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第2検出条件の値となった光量調整データを、前記照射領域の第2検出データとして出力する第2出力工程と、
を含む、
検出データの作成方法。
[2]前記第2検出データが、前記照射領域の検出データとして使用される、
上記[1]に記載の検出データの作成方法。
[3]前記第2検出データ出力工程の後に、n-2回の検出データ出力工程を含み、
前記nは3または4以上の整数であり、
第n検出データ出力工程は、
前記階調値の数および第n-1検出条件で設定した光源強度範囲に基づき、光源強度範囲の各々の光源強度に対して階調範囲内の階調値を割り当て、または、各々の階調値に対して光源強度範囲内の光源強度を割り当てることで光源強度と階調値を関連付けた階調値-光源強度相関値を設定し、前記第n-1検出データから各々の階調値-光源強度相関値を有する照射スポットの出現頻度を演算する第n-1ヒストグラム演算工程と、
階調範囲を有効に使えるようにするため、演算したヒストグラムに基づき、前記光源を第n光源強度範囲に設定及び/又は前記検出器に入る放出物の放出量を第nの値に設定する、第n検出条件設定工程と、
設定した第n検出条件に基づき、前記光源からの受光に応じて形成した電子ビームを、前記照射対象の照射領域に照射する第n電子ビーム照射工程と、
前記電子ビームが照射された照射領域の各々の照射スポットから放出された放出物の放出量のデータを前記検出器で検出し、検出信号を生成する第n検出工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第n検出条件の値となるように、前記光源から前記フォトカソードに到達する光量を前記第n検出条件の範囲内で調整する第n光量調整工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第n検出条件の値が得られるまで、前記第n電子ビーム照射工程と、前記第n検出工程と、前記第n光量調整工程とを繰り返す工程と、
前記検出器に入る放出物の放出量が前記第n検出条件の値となった光量調整データを、前記照射領域の第n検出データとして出力する第n出力工程と、
を含み、
nが4以上の整数の場合、前記第n検出データ出力工程は、nが3から順番にn-2回実施される、
上記[1]に記載の検出データの作成方法。
[4]n番目に出力された検出データが、前記照射領域の検出データとして使用される、
上記[3]に記載の検出データの作成方法。
[5]前記第2光源強度範囲の設定が、
(1)階調値0に相当する光源強度データを有する照射スポットの出現頻度が0の場合、前記第2光源強度範囲の最大値を前記第1光源強度範囲の最大値より小さく設定、
(2)最大階調値に相当する光源強度データを有する照射スポットの出現頻度が0の場合、前記第2光源強度範囲の最小値を前記第1光源強度範囲の最小値より大きく設定、
(3)階調値0に相当する光源強度データを有する照射スポットの出現頻度が0より大きい場合、前記第2光源強度範囲の最大値を前記第1光源強度範囲の最大値より大きく設定、
(4)最大階調値に相当する光源強度データを有する照射スポットの出現頻度が0より大きい場合、前記第2光源強度範囲の最小値を前記第1光源強度範囲の最小値より小さく設定、
からなる群から選択する何れか一つを含む、
上記[1]に記載の検出データ作成方法。
[6]前記第2の値の設定が、
(5)照射スポットの出現頻度のピークの位置を階調値0側に移動する場合は、前記検出器に入る放出物の放出量を前記第1の値より大きく設定、または、
(6)照射スポットの出現頻度のピークの位置を最大階調値側に移動する場合は、前記検出器に入る放出物の放出量を前記第1の値より小さく設定、
を含む、上記[1]に記載の検出データ作成方法。
[7]前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、
オージェ電子分光装置、
カソードルミネッセンス装置、
X線分析装置、
透過電子顕微鏡、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である、
上記[1]~[6]の何れか一つに記載の検出データの作成方法。
[8]上記[1]~[6]の何れか一つに記載の検出データの作成方法で得られた検出データから、前記照射対象の照射領域の画像を合成する画像合成工程と、
を含む、電子線適用装置における照射対象の画像合成方法。
[9]上記[1]~[6]の何れか一つに記載の各工程を電子線適用装置の制御部に実行させるためのプログラム。
[10]
上記[8]に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
[11]光源と、
前記光源からの受光に応じて、放出可能な電子を生成するフォトカソードと、
前記フォトカソードとの間で電界を形成することができ、形成した電界により前記放出可能な電子を引き出し、電子ビームを形成するアノードと、
電子ビームを照射した照射対象から放出された放出量のデータを検出する検出器と、
制御部と、
を含む、電子線適用装置であって、
前記制御部には、上記[9]に記載のプログラムが格納されている、
電子線適用装置。
[12]前記制御部が、
前記検出データから、前記照射対象の照射領域の画像を合成する画像合成工程、
を実行するように制御する、上記[11]に記載の電子線適用装置。
[13]前記電子線適用装置が、
走査電子顕微鏡、
電子線検査装置、
オージェ電子分光装置、
カソードルミネッセンス装置、
X線分析装置、
透過電子顕微鏡、または、
走査型透過電子顕微鏡、
である、
上記[11]に記載の電子線適用装置。
【発明の効果】
【0012】
本出願で開示する電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置を用いることで、電子線適用装置自体が、階調範囲を有効に使用した検出データを出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る電子線適用装置1を模式的に示す図である。
図2A図2Aは、従来の電子線適用装置における検出感度の調整の概略を示す図である。
図2B図2Bは、従来の電子線適用装置における検出感度の調整の概略を示す図である。
図2C図2Cは、従来の電子線適用装置における検出感度の調整の概略を示す図である。
図2D図2Dは、従来の電子線適用装置における検出感度の調整の概略を示す図である。
図3A図3Aは、本出願で開示する検出データ作成方法の原理を説明するための図である。
図3B図3Bは、本出願で開示する検出データ作成方法の原理を説明するための図である。
図3C図3Cは、本出願で開示する検出データ作成方法の原理を説明するための図である。
図4図4は、検出データ作成方法のフローチャートである。
図5図5は、本出願で開示する検出データ作成方法の第1(第n)ヒストグラム演算工程で演算するヒストグラムの一例を示す図である。
図6A図6Aは、本出願で開示する検出データ作成方法の第2検出条件設定工程の概略を説明するための図である。
図6B図6Bは、本出願で開示する検出データ作成方法の第2検出条件設定工程の概略を説明するための図である。
図7A図7Aは、本出願で開示する検出データ作成方法の第2検出条件設定工程の概略を説明するための図である。
図7B図7Bは、本出願で開示する検出データ作成方法の第2検出条件設定工程の概略を説明するための図である。
図8図8は、本出願で開示する検出データ作成方法の第2検出条件設定工程の概略を説明するための図である。
図9図9は、本出願で開示する検出データ作成方法の第2検出条件設定工程の概略を説明するための図である。
図10図10は図面代用写真である。図10Aは、比較例2において検出器5から出力された検出信号に基づくSEM像を示す。図10Bは、比較例2において第1検出データに基づき合成した画像を示す。図10Cは、比較例2において第1検出データの光源強度を反転することで合成した画像(SEM相当画像)を示す。
図11図11は図面代用写真である。図11Aは、実施例2において検出器5から出力された検出信号に基づくSEM像を示す。図11Bは、実施例2において第1検出データに基づき合成した画像を示す。図11Cは、実施例2において第1検出データの光源強度を反転することで合成した画像(SEM相当画像)を示す。
図12図12は図面代用写真である。図12Aは、比較例3で撮影したSEM像を示す。図12Bは、比較例2のSEM相当画像を示す。図12Cは、実施例2のSEM相当画像を示す。
図13図13A図13B図13Cは、それぞれ、図12AのSEM像、図12Bおよび図12CのSEM相当画像における階調範囲0~255の各階調値に相当する画素の出現頻度を表すヒストグラムである。
図14図14は図面代用写真である。図14Aは、実施例3において検出器5から出力された検出信号に基づくSEM像を示す。図14Bは、実施例3において第1検出データに基づき合成した画像を示す。図14Cは、実施例3において第1検出データの光源強度を反転することで合成した画像(SEM相当画像)を示す。
図15図15は図面代用写真である。図15Aは、実施例4において検出器5から出力された検出信号に基づくSEM像を示す。図15Bは、実施例4において第1検出データに基づき合成した画像を示す。図15Cは、実施例3において第1検出データの光源強度を反転することで合成した画像(SEM相当画像)を示す。
図16図16は図面代用写真である。図16Aは、比較例2のSEM相当画像を示す。図16Bは、実施例3のSEM相当画像を示す。図16Cは、実施例4のSEM相当画像を示す。
図17図17A図17B図17Cは、それぞれ、図16A図16B図16CのSEM相当画像における階調範囲0~255の各階調値に相当する画素の出現頻度を表すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、電子線適用装置における検出データの作成方法(以下、「検出データ作成方法」と記載することがある。)および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置について詳しく説明する。なお、本明細書において、同種の機能を有する部材には、同一または類似の符号が付されている。そして、同一または類似の符号の付された部材について、繰り返しとなる説明が省略される場合がある。
【0015】
また、図面において示す各構成の位置、大きさ、範囲などは、理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、本出願における開示は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0016】
(電子線適用装置および検出データ作成方法の実施形態)
図1図9を参照して、電子線適用装置および検出データ作成方法の実施形態について説明する。図1は、実施形態に係る電子線適用装置1を模式的に示す図である。図2A乃至図2Dは従来の電子線適用装置における検出感度の調整の概略を示す図である。図3A乃至図3Cは、本出願で開示する検出データ作成方法を説明するための図である。図4は、検出データ作成方法のフローチャートである。図5は第1(第n)ヒストグラム演算工程で演算するヒストグラムの一例を示す図である。図6乃至図9は、第2検出条件設定工程の概略を説明するための図である。
【0017】
図1に示す電子線適用装置1の実施形態は、光源2と、フォトカソード3と、アノード4と、検出器5と、制御部6と、を少なくとも含んでいる。なお、図1には、電子線適用装置1が電子銃部分1aと相手側装置1b(電子線適用装置1から電子銃部分1aを除いた部分)に分けて形成した例が示されている。代替的に、電子線適用装置1は一体的に形成されてもよい。また、電子線適用装置1は、任意付加的に、フォトカソード3とアノード4との間に電界を発生させるための電源7、電子ビームBを照射対象S上で走査するための電子ビーム偏向装置8を設けてもよい。更に、図示は省略するが、電子線適用装置1の種類に応じた公知の構成部材を含んでもよい。
【0018】
光源2は、フォトカソード3に励起光Lを照射することで、電子ビームBを射出できるものであれば特に制限はない。光源2は、例えば、高出力(ワット級)、高周波数(数百MHz)、超短パルスレーザー光源、比較的安価なレーザーダイオード、LED等があげられる。照射する励起光Lは、パルス光、連続光のいずれでもよく、目的に応じて適宜調整すればよい。なお、図1に示す例では、光源2が、真空チャンバーCB外に配置され励起光Lが、フォトカソード3の第1面(アノード4側の面)側に照射されている。代替的に、光源2を真空チャンバーCB内に配置してもよい。また、励起光Lは、フォトカソード3の第2面(アノード4とは反対側の面)側に照射されてもよい。
【0019】
フォトカソード3は、光源2から照射される励起光Lの受光に応じて、放出可能な電子を生成する。フォトカソード3が励起光Lの受光に応じて放出可能な電子を生成する原理は公知である(例えば、特許第5808021号公報等を参照)。
【0020】
フォトカソード3は、石英ガラスやサファイアガラス等の基板と、基板の第1面(アノード4側の面)に接着したフォトカソード膜(図示は省略)で形成されている。フォトカソード膜を形成するためのフォトカソード材料は、励起光を照射することで放出可能な電子を生成できれば特に制限はなく、EA表面処理が必要な材料、EA表面処理が不要な材料等が挙げられる。EA表面処理が必要な材料としては、例えば、III-V族半導体材料、II-VI族半導体材料が挙げられる。具体的には、AlN、CeTe、GaN、1種類以上のアルカリ金属とSbの化合物、AlAs、GaP、GaAs、GaSb、InAs等およびそれらの混晶等が挙げられる。その他の例としては金属が挙げられ、具体的には、Mg、Cu、Nb、LaB、SeB、Ag等が挙げられる。前記フォトカソード材料をEA表面処理することでフォトカソード3を作製することができ、該フォトカソード3は、半導体のギャップエネルギーに応じた近紫外-赤外波長領域で励起光の選択が可能となるのみでなく、電子ビームの用途に応じた電子ビーム源性能(量子収量、耐久性、単色性、時間応答性、スピン偏極度)が半導体の材料や構造の選択により可能となる。
【0021】
また、EA表面処理が不要な材料としては、例えば、Cu、Mg、Sm、Tb、Y等の金属単体、或いは、合金、金属化合物、又は、ダイアモンド、WBaO、CsTe等が挙げられる。EA表面処理が不要であるフォトカソードは、公知の方法(例えば、特許第3537779号等を参照)で作製すればよい。特許第3537779号に記載の内容は参照によりその全体が本明細書に含まれる。
【0022】
なお、本明細書中における「フォトカソード」と「カソード」との記載に関し、電子ビームを射出するという意味で記載する場合には「フォトカソード」と記載し、「アノード」の対極との意味で記載する場合には「カソード」と記載することがあるが、符号に関しては、「フォトカソード」および「カソード」のいずれの場合でも3を用いる。
【0023】
アノード4は、カソード3と電界を形成できるものであれば特に制限はなく、電子銃の分野において一般的に用いられているアノード4を使用すればよい。カソード3とアノード4との間で電界を形成することで、励起光Lの照射によりフォトカソード3に生成した放出可能な電子を引き出し、電子ビームBを形成する。
【0024】
図1には、カソード3とアノード4との間に電界を形成するため、電源7をカソード3に接続した例が示されているが、カソード3とアノード4との間に電位差が生じれば電源7の配置に特に制限はない。
【0025】
検出器5は、電子ビームBを照射した照射対象Sから放出された放出物SBの放出量を検出する。放出物SBは、電子ビームBを照射することで照射対象Sから発せられる信号を意味し、例えば、二次電子、反射電子、特性X線、オージェ電子、カソードルミネセンス、透過電子等が挙げられる。検出器5は、これらの放出物SBの放出を検出できるものであれば特に制限はなく、公知の検出器・検出方法を用いればよい。
【0026】
次に、図2および図3を参照し、本出願で開示する検出データ作成方法(換言すると、制御部6の制御内容)で作成したデータが、照射領域Rの検出データとして使用できる理由について説明する。図2Aは照射対象Sをフォトカソード3側から見た図である。図2Aに示す電子線適用装置1は、照射対象Sの照射領域Rに対し、電子ビームBを偏向しながらライン状に照射する。図2Aの符号Pで表される〇は、照射対象Sに照射される各々の電子ビームを表す。なお、図2Aでは、各々の電子ビームPの一部のみ表示している。また、符号Pに示す各々の電子ビームが照射される照射領域を「照射スポットP」と記載することがある。照射領域Rに例えば回路C等の凹凸が形成され、照射する電子ビームBの強度が同じ場合、凹凸部分から放出される放出物SBの放出量は他の部分と異なる。つまり、照射スポットP単位で放出物SBの放出量を測定できる。したがって、図2Bに示すように、照射スポットP単位で照射対象Sから放出された放出物SBの放出量を時系列(X)に検出器5で検出すると、凹凸部分は検出器5に入る放出物の放出量の違いに基づき、検出信号の強度(Z)の差として検出できる(以下、この検出方法を採用した電子線適用装置を、「従来の電子線適用装置」と記載することがある。)。
【0027】
ところで、従来の電子線適用装置1では、照射領域Rのある部分の放出物SBの放出量の強度が検出器5の処理可能な信号の最大値(ダイナミックレンジの上限値、図2Bに示す例では縦軸の10。)を超えると、図2Bの黒色矢印に示すように、本来得られるはずのピークが検出できない場合がある。その場合、従来の電子線適用装置1では、本来得られるはずのピークが検出できるように、検出器5の検出感度を調整している。しかしながら、本来得られるはずのピークが検出できるように検出感度を調整する(下げる)と、図2Bの黒色矢印に示すピークは図2Cに示すように検出できるものの、白抜き矢印に示すピークは、検出強度が下がるという問題がある。
【0028】
そのため、従来の電子線適用装置1では、図2Dに示すように、図2Bに示すデータの中でダイナミックレンジの範囲内のデータはそのまま用い、図2Bでダイナミックレンンジを超えたデータ部分に関しては検出感度を下げた図2Cに示すデータを用いて合成する場合もある。しかしながら、その場合、例えば、図2Dに示す例では、矢印および白抜き矢印のピークはほぼ同じになり、実際の照射領域Rの状態を正確に反映していないという問題がある。
【0029】
一方、本出願で開示する検出データ作成方法では、図3Aに示すように、検出器5に入る放出物SBの放出量が予め設定した値となるように、光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整する。図3Aは、検出器5に入る放出物SBの放出量の予め設定した値が、照射領域Rの場所を問わず同一(換言すると、検出信号の強度Zが同一。図3Aに示す例では強度Zが5。)となる例を示している。照射領域Rに凹凸があるにもかかわらず検出信号の信号強度が同一になるということは、図3Bに示すように、照射領域Rの凹凸に応じて光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整していることになる。図2C図3Aおよび図3Bを参照しながらより具体的に説明する。例えば、図2Cの従来の電子線適用装置で検出信号の強度Zが1の照射スポットPから、図3Aに示す強度Zが5の検出信号を得るためには、照射スポットPに照射する電子ビームPを強く、換言すると、フォトカソード3に到達する光量を多くする必要がある。一方、図2Cの従来の電子線適用装置で検出信号の強度Zが9の照射スポットPから、図3Aに示す強度Zが5の検出信号を得るためには、照射スポットPに照射する電子ビームPを弱く、換言するとフォトカソード3に到達する光量を少なくする必要がある。つまり、図3Bに示す光源強度(Light intensity)データは、図2Cに示す検出信号の強度Zのデータと強弱を反転したデータとなる。したがって、図3Aに示す検出信号の信号強度が同じとなるように、フォトカソード3に到達する光量を調整した図3Bに示す光量調整データは、照射領域Rの試料状態を反映したデータとなる。そのため、光量調整データは、照射領域Rの検出データとして使用できる。なお、図2Aでは回路等の凹凸を例に説明をしたが、本出願で開示する検出データ作成方法は、元素組成差、元素の分布、形状、物性等、試料の状態に応じて放出物SBの放出量が変わるものであれば使用可能である。
【0030】
電子線適用装置1が、例えば、半導体回路等の検査を行う電子線検査装置の場合、検出データは上記のとおり照射領域Rの試料状態を反映したデータであることから、検出データに基づき半導体回路の欠陥の有無等を検査できる。また、電子線適用装置1が走査電子顕微鏡(SEM)の場合、検出データに基づき照射領域Rの画像を合成できる。なお、検出データは照射領域Rの試料状態を反映したデータであることから、画像合成の際には、照射領域Rの試料状態を正確に反映するように合成すればよいが、必要に応じて図2Dに示すように一部加工して合成してもよい。合成した画像が、検出データをどの様に反映した画像であるのか明らかであれば、画像の合成方法に特に制限はない。
【0031】
なお、図3Aは検出器5に入る放出物SBの放出量(検出信号の信号強度)の予め設定した値が照射領域Rの場所を問わず同一の例を示しているが、予め設定した値は同一でなくてもよい。例えば、図3Cのaおよびbに示すように、照射領域Rが明らかに異なる試料状態の領域を含む場合は、領域に応じた異なる値を予め設定した値としてもよい。
【0032】
また、電子線適用装置1が走査電子顕微鏡の場合、照射領域Rがチャージアップすることを避けるため、特定の領域に照射する電子ビームの量を少なくしたい場合がある。後述する検出データ作成方法に記載のとおり、制御部6は、検出器5に入る放出物SBの放出量が予め設定した値となるまで、電子ビーム照射工程と、検出工程と、光量調整工程とを繰り返す。つまり、制御部6は、検出信号に基づき光量をフィードバック制御していることから、電子ビームBの照射位置、検出信号および光量の関係を常に記憶できる。したがって、特定の領域のみ検出器5に入る放出物SBの放出量が異なる(換言すると、検出信号強度が異なる)ようにしても、記憶した電子ビームBの照射位置、検出信号および光量の関係に基づき検出データを解析することで、照射領域Rの試料状態を反映したデータが得られる。
【0033】
上記実施形態は、電子線適用装置1として走査電子顕微鏡および電子線検査装置の例を用いて説明したが、電子線適用装置1は、二次電子、反射電子、特性X線、オージェ電子、カソードルミネセンス、透過電子を検出できるものであれば特に制限はない。走査電子顕微鏡および電子線検査装置以外の電子線適用装置1としては、例えば、オージェ電子分光装置、カソードルミネッセンス装置、X線分析装置、透過電子顕微鏡(TEM)、走査型透過電子顕微鏡(STEM)等が挙げられる。
【0034】
なお、図2Aには、照射対象Sの照射領域Rに、電子ビームBを偏向しながら照射する走査型の電子線適用装置の例が示されている。代替的に、光源2からフォトカソード3に照射される励起光Lの位置を走査してもよい。更に代替的に、フォトカソード3に複数の励起光が同時に照射されるようにしてもよい。励起光Lを走査、或いは、複数の励起光Lが同時に照射される場合でも、照射領域Rから放出された放出物SBの放出量が予め設定した値となるように、光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整することで、照射領域Rの試料状態を反映した光量調整データが得られる。
【0035】
次に、図4乃至図9を参照して、本出願で開示する検出データ作成方法および特許文献2に記載の検出データ作成方法との違いを詳しく説明する。本出願で開示する検出データ作成方法は、第1検出データ出力工程および第2検出データ出力工程の、少なくとも2回の検出データ出力工程を含む。
【0036】
第1検出データ出力工程は、第1電子ビーム照射工程(ST1a)と、第1検出工程(ST1b)と、第1光量調整工程(ST1c)と、第1出力工程(ST1d)と、を含む。
【0037】
第1電子ビーム照射工程(ST1a)は、第1光源強度範囲に設定した光源2からの受光に応じて形成した電子ビームBを、照射対象Sの照射領域Rに照射する。第1光源強度範囲は、光源2が取り得る強度範囲内であれば特に制限はない。後述するとおり、光源強度範囲を変更して第2検出データ出力工程を実施する場合があることを考慮すると、例えば、光源2が取り得る強度範囲を100%とした場合、光源2の強度範囲の下限値を0から5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%大きくし、光源2の強度の上限値を最大値から5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%小さくしてもよい。
【0038】
第1検出工程(ST1b)は、電子ビームBが照射された照射領域Sから放出された放出物SBの放出量を検出器5で検出し、第1検出信号を生成する。第1光量調整工程(ST1c)は、検出器5に入る放出物SBの放出量が予め設定した第1の値となるように、光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整する。第1の値は、検出器5に入る放出物SBの放出量が、検出器5のダイナミックレンジ内であれば特に制限はない。後述するとおり、検出器5に入る放出物SBの放出量を変更して第2検出データ出力工程を実施する場合があることを考慮すると、例えば、検出器5のダイナミックレンジを100%とした場合、ダイナミックレンジの中央値、或いは、中央値から5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%低感度側の値、或いは、中央値から5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%高感度側の値、等が挙げられる。なお、第1光量調整工程は、光源2からフォトカソード3に到達する光量を第1光源強度範囲内で調整できれば特に制限はない。例えば、光源2のパワーを直接制御することで光量を調整すればよい。また、光源2とフォトカソード3との間に液晶シャッター等の光量調整部材21を配置し、制御部6が光量調整部材21を制御することでフォトカソード3に到達する光量を調整してもよい。制御部6が光量調整部材21を制御する場合は、光量調整部材21の調整データが照射領域Rの試料状態を反映したデータとなる。
【0039】
第1電子ビーム照射工程(ST1a)と、第1検出工程(ST1b)と、第1光量調整工程(ST1c)は、検出器5に入る放出物SBの放出量が予め設定した第1の値が得られるまで繰り返せばよい。第1出力工程(ST1d)は、検出器5に入る放出物SBの放出量が予め設定した第1の値となった光量調整データを、照射領域Rの第1検出データとして出力する。
【0040】
第2検出データ出力工程は、第1ヒストグラム演算工程(ST2a)と、第2検出条件設定工程(ST2b)と、第2電子ビーム照射工程(ST2c)と、第2検出工程(ST2d)と、第2光量調整工程(ST2e)と、第2出力工程(ST2f)と、を含む。
【0041】
図5を参照し、第1ヒストグラム演算工程(ST2a)を説明する。図5は、照射領域R(照射スポットPの集合体)の画像を実際に合成する際の階調値の数が0~255の256個、第1光源強度範囲が0mW~450mWの例が示されている。第1ヒストグラム演算工程(ST2a)は、照射領域Rの画像を合成する際の階調値の数および第1光源強度範囲に基づき、第1光源強度範囲の各々の光源強度に対して階調範囲内の階調値を割り当て、または、各々の階調値に対して第1光源強度範囲内の光源強度を割り当てることで光源強度と階調値を関連付けた階調値-光源強度相関値を設定する。
【0042】
なお、本明細書において『「画像を合成する際の階調値」の「数」』とは、「画像を合成することを想定して使用者が設定した階調値」の「数」を意味する。つまり、本明細書において「画像を合成する際」と記載した場合、画像は実際には合成されない。一方、本明細書において、実際に画像を合成した場合は「合成画像」と記載する。
【0043】
なお、特許文献2に記載の第1検出データに基づき合成した合成画像における階調値を用いて、上記と同様の手順により光源強度と階調値を関連付けた階調値-光源強度相関値を設定し、ヒストグラムを演算してもよい。つまり、本明細書において「階調値-光源強度相関値」の「階調値」は、「画像を合成する際の階調値」と「合成画像における階調値」の両方を含む概念である。そして、ヒストグラムとして可視化した際には、「画像を合成する際の階調値」と「合成画像における階調値」は、横軸としては同じになる。したがって、ヒストグラムを表す図においては、「画像を合成する際の階調値」と「合成画像における階調値」の何れも“grayscale shade value of pixel”と記載する。また、ヒストグラムを表す図の縦軸については、横軸が「画像を合成する際の階調値」の場合は照射スポットPの出現頻度(Number of spot P)と記載し、横軸が「合成画像における階調値」の場合は画素の出現頻度(Number of pixels)と記載する。
【0044】
先ず、第1光源強度範囲の各々の光源強度に対して階調範囲内の階調値を割り当てることで、階調値-光源強度相関値を設定する例を説明する。上記のとおり、光源強度(Light intensity)データは、従来の電子線適用装置で得られる検出信号の強度Zのデータを反転したデータとなる。したがって、図5に示す例では、第1光源強度範囲の最大値である450mWの光源強度を、実際に画像を合成する際の階調値0(Black)と設定し、第1光源強度範囲の最小値である0mWの光源強度を、実際に画像を合成する際の階調値255(White)と設定し、第1光源強度範囲の各々の光源強度データに対して階調値を割り当てる。なお、本明細書において「各々の光源強度データに対して階調値を割り当てる」と記載した場合、割り当てられる階調値は整数でなくてもよい。例えば、図5に示す例では、450mWに対して階調値0;360mWに対して階調値51;270mWに対して階調値102;180mWに対して階調値153;90mWに対して階調値204;0mWに対して階調値255;が割り当てられる。図示は省略されているが、より細かく見ると、449mWに対して階調値0.57;448mWに対して階調値1.13;等、光源強度が1mW減少する毎に階調値0.566が加算されるように割り当てられる。また、本明細書において「各々の光源強度データに対して階調値を割り当てる」と記載した場合、光源強度データを区分する数は、階調値の数より多ければ特に制限はない。例えば、図5に示す例では、光源強度1mW毎に階調値を割り当てているが、光源強度0.5mW毎、あるいは、光源強度1.5mW毎に、階調値を割り当ててもよい。
【0045】
次に、各々の階調値に対して第1光源強度範囲内の光源強度を割り当てることで、階調値-光源強度相関値を設定する例を説明する。図5に示す例では、実際に画像を合成する際の階調値0(Black)に対して第1光源強度範囲の最大値である450mWを設定し、実際に画像を合成する際の階調値255(White)に対して第1光源強度範囲の最小値である0mWを設定し、階調値の各々に対して光源強度データを割り当てる。例えば、図5に示す例では、階調値0に対して450mW;階調値51に対して360mW;階調値102に対して270mW;階調値153に対して180mW;階調値204に対して90mW;階調値255に対して0mW;が割り当てられる。図示は省略されているが、より細かく見ると、階調値1に対して448.24mW;階調値2に対して446.47mW;等、階調値が1大きくなる毎に光源強度が1.765mW減少するように割り当てられる。
【0046】
図5に示す例では、横軸は第1光源強度範囲内の光源強度と階調値を関連付けた階調値-光源強度相関値となっている。したがって、照射スポットP毎の光源強度データに基づき、照射スポットPの出現頻度を演算することで、図5に示すように、実際に画像を合成することなく、第1検出データから画像を合成する際の各階調値に相当する照射スポットPの出現頻度を演算することができる。
【0047】
また、後述する「電子線適用装置における照射対象の画像合成方法の実施形態」に記載のとおり、照射スポットPの光源強度とSEM像とは関連付けられている。したがって、「合成画像における階調値」に基づき画素の出現頻度を演算することは、図5に示す照射スポットPの出現頻度と実質的に同じことを意味する。
【0048】
図5に示す例では、第1検出データから照射領域Rの画像を実際に合成する場合、階調値が小さい(Black)側と、階調値が大きい(White)側が使用されていないことを意味している。なお、「画像を合成する際の階調値」を用いて照射スポットPの出現頻度を演算した場合は、第1検出データから直接ヒストグラム演算工程を実施できることから、ヒストグラム演算工程を迅速に実施できる。一方、第1検出データに基づき画像を合成し、合成画像における階調値を用いて画素のヒストグラムを演算した場合は、合成画像を使用者が確認した上でヒストグラム演算工程を実施できる。また、図5に示す例では、階調値0が第1光源強度範囲の最大値450mW、階調値の最大値255が第1光源強度の最小値である0mWとなるように設定しているが、当該例に限定されるものではない。例えば、階調値0が第1光源強度範囲の最大値側の値(例えば440mW)、階調値の最大値255が第1光源強度の最小値側の値(例えば10mW)等、本出願で開示する技術思想の範囲内であれば、第1光源強度範囲の両端の数値と階調値の両端の数値が多少ずれていても問題はない。
【0049】
図5は、第1ヒストグラム演算工程の概略を説明するための図である。第1ヒストグラム演算工程(ST2a)において、図5に示すような作業者が視認できるグラフの作成は必須ではないが、電子線適用装置1の使用者が視認できるように、図5に示すような可視化したヒストグラムグラフを作成してもよい。代替的に、光量調整データに基づき画像を合成した際に階調範囲のどの部分が有効に使用されていないかという情報(図5に示す例では、光源強度約0~90mWおよび約380mW~450mW、階調値0~約40および約205~255等の情報。)のみを提供し、提供された情報に基づき第2検出条件設定工程を実施してもよい。また、図5は、階調範囲が256個の階調値の例を示しているが、階調範囲に含まれる階調値の数は256個に限定されない。階調値の数は、当該技術分野で一般的な数を用いればよく、例えば、128個、512個、1024個、2048個、4096個等であってもよい。
【0050】
第2検出条件設定工程(ST2b)は、検出データから画像を合成する場合に階調範囲を有効に使えるようにするため、演算したヒストグラムに基づき、光源2を第2光源強度範囲に設定、及び/又は、検出器5に入る放出物SBの放出量を第2の値に設定する。
【0051】
先ず、図6A図6B図7Aおよび図7Bを参照し、光源2を第1光源強度範囲から第2光源強度範囲に設定する例について説明する。なお、図6A図6B図7Aおよび図7Bに示す例では、検出器5に入る放出物SBの放出量は第1の値から変更されない。図6Aに示す例では、第1光源強度範囲が光源2の取り得る最大の強度範囲、例えば、0mW~450mWと仮定する。そして、照射スポットPの光源強度データ450mWに相当する階調値を0、照射スポットPの光源強度データ0mWに相当する階調値を最大階調値255に設定している。第1光源強度範囲内で光源強度を調整することで得られたヒストグラムをH1と規定する。図6Aに示す例では、ヒストグラムH1は、低階調値側(例えば、階調値0~約40)および高階調値側(例えば、205~255)が使用されていない。したがって、図6Aに示す例では、第2光源強度範囲を以下の(1)または(2)に記載のように設定すればよい。
(1)階調値0(Black)に相当する光源強度データを有する照射スポットPの出現頻度が0の場合、第2光源強度範囲の最大値を第1光源強度範囲の最大値より小さく設定する。例えば、図6Aに示す例では、階調値0~約40(つまり、第1光源強度範囲の大きい側)が有効に使用されていない。そのため、第2光源強度範囲の最大値を、例えば、380mWに設定する。
(2)最大階調値(255)に相当する光源強度データを有する照射スポットPの出現頻度が0の場合、第2光源強度範囲の最小値を第1光源強度範囲の最小値より大きく設定する。例えば、図6Aに示す例では、階調値約205~255(つまり、第1光源強度範囲の小さい側)が有効に使用されていない。そのため、第2光源強度範囲の最小値を、例えば、90mWに設定する。
【0052】
そして、上記第1ヒストグラム演算工程に基づき設定した第2光源強度範囲(例えば、90mW~380mW)で第2検出データ出力工程を実施する。第1検出データ出力工程を実施した第1光源強度範囲から第2光源強度範囲に変更した上で第2検出データ出力工程を実施することは、特許文献2に記載されていない新規の工程である。
【0053】
第2検出データ出力工程を実施後は、任意付加的に、第2ヒストグラム演算工程を実施してもよい。第2ヒストグラム演算工程は、階調値の数および第2検出条件で設定した光源強度範囲に基づき、光源強度範囲の各々の光源強度に対して階調範囲内の階調値を割り当て、または、各々の階調値に対して光源強度範囲内の光源強度を割り当てることで光源強度と階調値を関連付けた階調値-光源強度相関値を設定し、第2検出データから階調値-光源強度相関値を有する照射スポットPの出現頻度を演算すればよい。第2ヒストグラム演算工程は、第2検出条件で設定した光源強度範囲を用いること以外は、第1ヒストグラム演算工程と手順は同じである。図6Bに、第2光源強度範囲の最大値である380mWを階調値0に設定し、第2光源強度範囲の最小値である90mWに最大階調値255を設定したヒストグラムH2の例を示す。なお、図6Bに示すヒストグラムH2は、第1光源強度範囲を第2光源強度範囲に変更することで計算により得られたグラフではない。図6Bに示すヒストグラムH2は、第2検出条件として第2光源強度範囲を設定した上で、第2電子ビーム照射工程(ST2c)と、第2検出工程(ST2d)と、第2光量調整工程(ST2e)と、第2出力工程(ST2f)により得られた第2検出データに基づいて演算する必要がある。
【0054】
図7Aおよび図7Bは、図6Aおよび図6Bに示す例と逆の設定をする例を示している。図7Aに示す例では、第1光源強度範囲が光源2の取り得る最大の強度範囲(例えば、0mW~450mWと仮定)より小さな範囲(例えば、150mW~300mW)で設定されたと仮定する。そして、照射スポットPの光源強度データ300mWに相当する階調値を0、照射スポットPの光源強度データ150mWに相当する階調値を最大階調値255に設定している。第1光源強度範囲内で光源強度を調整することで得られたヒストグラムをH1と規定する。図7Aに示す例では、ヒストグラムH1は、階調値0および最大階調値に相当する光源強度データを有する照射スポットPの出現頻度が0より大きいことから、所謂白飛び、黒つぶれの状態にある。したがって、図7Aに示す例では、第2光源強度範囲を以下の(3)または(4)に記載のように設定すればよい。
(3)階調値0(Black)に相当する光源強度データを有する照射スポットPの出現頻度が0より大きい場合、第2光源強度範囲の最大値を第1光源強度範囲の最大値より大きく設定する。例えば、第1光源強度範囲の最大値が300mWの場合、第2光源強度範囲の最大値を300mWより大きく(図7Bに示す例では380mW)することで、図7BのH2に示すように、黒つぶれ状態が解消できる。
(4)最大階調値(255)に相当する光源強度データを有する照射スポットPの出現頻度が0より大きい場合、第2光源強度範囲の最小値を第1光源強度範囲の最小値より小さく設定する。例えば、第1光源強度範囲の最小値が150mWの場合、第2光源強度範囲の最小値を150mWより小さく(図7Bに示す例では90mW)することで、図7BのH2に示すように、白飛び状態が解消できる。図7Aおよび図7Bに示す例においても、任意付加的に、第2ヒストグラム演算工程を実施してもよい。
【0055】
上記(1)~(4)に記載の設定は、第1光源強度範囲の設定値および演算したヒストグラムに基づき、何れか一つを含むように設定すればよい。
【0056】
次に、図8および図9を参照し、検出器5に入る放出物SBの放出量を第1の値から第2の値に設定する例について説明する。なお、図8および図9に示す例では、光源2の強度は第1光源強度範囲(図8および図9に示す例では150mW~450mW)から変更されない。そして、照射スポットPの光源強度データ450mWに相当する階調値を0、照射スポットPの光源強度データ150mWに相当する階調値を最大階調値255に設定している。図8に示す例では、第1光源強度範囲内で検出器5に入る放出物SBの放出量が第1の値となるように調整することで得られたヒストグラムをH3と規定する。図8に示す例では、ヒストグラムH3は、低階調値側が使用されていない一方で、高階調値側は所謂白飛び状態になっている。したがって、図8に示す例では、
(5)検出器5に入る放出物SBの放出量を第1の値より大きく設定することで、H4に示すように照射スポットPの出現頻度のピークの位置を階調値0側に移動している。
図8に示す例では、検出器5に入る放出物SBの放出量を大きくすることで、低階調値側を有効に使用できるとともに、白飛び状態であった部分もより詳しく照射スポットPの出現頻度をカウントできる。
【0057】
検出器5に入る放出物SBの放出量を第1の値より大きくすることで、ヒストグラムH3がH4の方向にシフトする理由は、以下のとおりである。
(a)照射領域Rの画像を合成する際の階調値の数および第1光源強度範囲に基づき、各々の光源データに対して設定した階調範囲の各々の階調値は、図8に示す例では変更しない。
(b)同一の照射スポットPについてみた場合、検出器5に入る放出物SBの放出量が第1の値より大きくなるということは、同一の照射スポットPに照射する電子ビームが強くなる、換言すると、同一の照射スポットPから得られる光源強度データが大きくなる。
(c)上記(a)に記載のとおり、階調範囲の各々の階調値に対して設定した光源強度データは変更しない。したがって、同一の照射スポットPから得られた光源強度データが大きくなれば、設定した光源強度データが大きい低階調値側(Black)側にヒストグラムはシフトする。
【0058】
図9は、図8に示す例と逆の設定をする例を示している。図9に示す例では、第1光源強度範囲(30mW~300mW)内で検出器5に入る放出物SBの放出量が第1の値となるように調整することで得られたヒストグラムをH3と規定する。図9に示す例では、ヒストグラムH3は、低階調値側が所謂黒つぶれ状態となっている一方で、高階調値側は使用されていない。したがって、図9に示す例では、
(6)検出器5に入る放出物SBの放出量を第1の値より小さく設定することで、H4に示すように照射スポットPの出現頻度のピークの位置を最大階調値側に移動している。
図9に示す例では、検出器5に入る放出物SBの放出量を小さくすることで、高階調値側を有効に使用できるとともに、黒つぶれ状態であった部分もより詳しく照射スポットPの出現頻度をカウントできる。なお、上記(5)または(6)に記載の第2の値は、演算したヒストグラムに応じて、第1の値からどの程度変更するのか決めればよい。
【0059】
なお、本明細書において、「検出器に入る放出物の放出量」の設定は、制御部6が行えばよい。制御部6に「検出器に入る放出物の放出量」を設定することで、制御部6は照射領域Rを照射する電子ビームBの強度、換言すると、光源2の強度を制御する。検出器5に入る放出物SBの放出量が第1の値から第2の値になったか否かは、検出器5から出力される検出信号を確認すればよい。
【0060】
第2検出条件設定工程(ST2b)は、上記(1)~(4)の何れかに記載の第2光源強度範囲の設定と、上記(5)または(6)に記載の第2の値の設定と、を組み合わせてもよい。なお、上記(1)~(6)に記載の第2検出条件の設定は、放出可能な電子の発生源としてフォトカソード3を用いた場合の特有の設定方法であるが、電子線適用装置が一般的に備える画像調整機能を任意付加的に組み合わせてもよい。
【0061】
第2電子ビーム照射工程(ST2c)は、設定した第2検出条件に基づき、光源2からの受光に応じて形成した電子ビームBを、照射対象Sの照射領域Rに照射する。第2検出条件が、第1光源強度範囲を変更していない場合は第1光源強度範囲内で電子ビームBを形成すればよい。第2検出条件が、第1光源強度範囲から第2光源強度範囲に変更されている場合は、第2光源強度範囲内で電子ビームBを形成すればよい。
【0062】
第2検出工程(ST2d)は、電子ビームBが照射された照射領域Sから放出された放出物SBの放出量を検出器5で検出し、検出信号を生成する。
【0063】
第2光量調整工程(ST2e)は、検出器5に入る放出物SBの放出量が第2検出条件の値となるように、光源2からフォトカソード3に到達する光量を第2検出条件の範囲内で調整する。第2検出条件として検出器5に入る放出物SBの放出量が第1の値から変更されていない場合は第1の値、第2の値に変更されている場合は第2の値となるように、光源2からフォトカソード3に到達する光量を調整する。なお、第2検出条件が、第1光源強度範囲を変更していない場合は第1光源強度範囲内で光量を調整し、第1光源強度範囲から第2光源強度範囲に変更されている場合は第2光源強度範囲内で光量を調整する。光量を調整する具体的方法は、第1光量調整工程(ST1c)と同じでよい。
【0064】
そして、第2電子ビーム照射工程(ST2c)と、第2検出工程(ST2d)と、第2光量調整工程(ST2e)は、検出器5に入る放出物SBの放出量が第2検出条件の値(第1の値または第2の値)が得られるまで繰り返し実施される。第2出力工程(ST2f)は、検出器5に入る放出物SBの放出量が第2検出条件の値となった光量調整データを、照射領域Rの第2検出データとして出力する。
【0065】
第2出力工程(ST2f)で出力されたデータは、第2検出条件に基づき得られたデータであることから、第1検出データより階調範囲をより有効に使用したデータと言える。したがって、第2検出データを照射領域Rの検出データとして使用できる。なお、第1検出データがほぼ階調範囲を有効に使用している場合もある。その場合、第2検出条件により得られた第2検出データを検証用のデータとして使用することもできる。例えば、第1検出データがほぼ階調範囲を有効に使用している場合、第2検出条件を第1光源強度範囲及び/又は第1の値からわずかに変更して設定することで得られた第2検出データと、第1検出データを比較すればよい。第1検出データが階調範囲を有効に使用していることが検証できれば、第1検出データを照射領域Rの検出データとして使用すればよい。検証作業を行う場合は、第2検出データ出力工程の後に、第2検出データを用いて第2ヒストグラム演算工程を実施すればよい。勿論、上記のとおり第2検出データは、第1検出データより階調範囲をより有効に使用したデータであることから、第2検出データを照射領域Rの検出データとしてそのまま使用する場合は、第2ヒストグラム演算工程は実施しなくてもよい。
【0066】
また、図示は省略するが、第2検出データ出力工程の後に、n-2回の検出データ出力工程を追加してもよい。nは3または4以上の整数である。図4に示す例では、第2検出データ出力工程において、第1検出データ出力工程から検出条件を変更することで、階調範囲を有効に使用したデータが得られる。しかしながら、第2検出データと比較して、更に階調範囲を有効に使用したデータが必要な場合、或いは、階調範囲を有効に使用したデータが得られるか否か検出条件を微調整しながら検証が求められる場合が想定される。第2検出データ出力工程の後に、n-2回の検出データ出力工程を追加することで、更に階調範囲を有効に使用したデータを得たり、そのようなデータが得られるのか検証ができる。nは3または4以上の整数であれば特に制限はなく、適宜設定すればよい。
【0067】
第n検出データ出力工程は、
階調値の数および第n-1検出条件で設定した光源強度範囲に基づき、光源強度範囲の各々の光源強度に対して階調範囲内の階調値を割り当て、または、各々の階調値に対して光源強度範囲内の光源強度を割り当てることで光源強度と階調値を関連付けた階調値-光源強度相関値を設定し、第n-1検出データから各々の階調値-光源強度相関値を有する照射スポットPの出現頻度を演算する第n-1ヒストグラム演算工程と、
階調範囲を有効に使えるようにするため、演算したヒストグラムに基づき、光源2を第n光源強度範囲に設定及び/又は検出器5に入る放出物SBの放出量を第nの値に設定する、第n検出条件設定工程と、
設定した第n検出条件に基づき、光源2からの受光に応じて形成した電子ビームBを、照射対象Sの照射領域Rに照射する第n電子ビーム照射工程と、
電子ビームが照射された照射領域Rの各々の照射スポットPから放出された放出物の放出量のデータを検出器5で検出し、検出信号を生成する第n検出工程と、
検出器5に入る放出物SBの放出量が第n検出条件の値となるように、光源2からフォトカソード3に到達する光量を第n検出条件の範囲内で調整する第n光量調整工程と、
検出器5に入る放出物SBの放出量が第n検出条件の値が得られるまで、第n電子ビーム照射工程と、第n検出工程と、第n光量調整工程とを繰り返す工程と、
検出器5に入る放出物SBの放出量が第n検出条件の値となった光量調整データを、照射領域Rの第n検出データとして出力する第n出力工程と、
を含み、
nが4以上の整数の場合、第n検出データ出力工程は、nが3から順番にn-2回実施される。
【0068】
第n検出データ出力工程は、図4の第2出力工程(ST2f)と「終了」との間に、n-2回実施される。第n検出データ出力工程が含む、「第n-1ヒストグラム演算工程」と、「第n検出条件設定工程」と、「第n電子ビーム照射工程」と、「第n検出工程」と、「第n光量調整工程」と、「繰り返す工程」と、「第n出力工程」は、それぞれ、「第2検出データ出力工程の第1ヒストグラム演算工程(ST2a)」と、「第2検出条件設定工程(ST2b)」と、「第2電子ビーム照射工程(ST2c)」と、「第2検出工程(ST2d)」と、「第2光量調整工程(ST2e)」と、「繰り返す工程」と、「第2出力工程(ST2f)」と実施内容は同じである。したがって、第n検出データ出力工程の詳しい記載は省略する。
【0069】
第n検出データ出力工程を実施する場合、第n検出データを照射領域Rの検出データとして使用できる。なお、第n検出データを検証用のデータとして使用した場合には、第1検出データ~第n-1検出データを、照射領域Rの検出データとして使用してもよい。
【0070】
本出願で開示する電子線適用装置および検出データ作成方法(以下においては、「電子線適用装置」と記載する。)は、以下の効果を奏する。
(1)本出願で開示する電子線適用装置は、検出データから画像を合成する際に、電子線適用装置自体が階調範囲を有効に使用した検出データを出力できる。したがって、照射領域Rの試料状態をより詳しく反映したデータを提供できる。
(2)検出データから画像を合成する際には、合成した画像のコントラストを向上させることができる。
【0071】
(電子線適用装置における照射対象の画像合成方法の実施形態)
次に、電子線適用装置における照射対象の画像合成方法の実施形態について説明する。画像合成方法は、検出データ作成方法の実施形態で得られた検出データから、照射対象Sの照射領域Rの画像を合成する画像合成工程と、を含む。
【0072】
一般的にSEM像は、照射スポットPから放出された放出物SBの放出量(例えば、二次電子の量)に応じて画像を合成する。つまり、放出量が少ない場所の画像は暗くなり、放出量が多い場所の画像は明るくなる。一方、実施形態に係る検出データ作成方法は、検出器5に入る放出物SBの放出量の値が一定となるように光源2の強度を調整していることから、照射スポットPから放出される放出物SBの放出量が少ない場所ほど光源強度は大きくなる。したがって、実施形態に係る検出データの作成方法で出力された照射領域の検出データ(第n検出データ)は、ヒストグラム演算工程において照射スポットPの出現頻度を演算する目的ではそのまま使用できるが、検出データをそのまま画像化した場合には一般的なSEM像の画像とは白黒が反転した画像となる。そのため、検出データを用いて一般的なSEM像と同様の画像を合成するためには、検出データの光源強度を反転するように画像を合成すればよい。
【0073】
(プログラムおよび記録媒体の実施形態)
上記電子線適用装置および検出データ作成方法の実施形態は、電子線適用装置1の制御部6の制御により実施することができる。したがって、制御部6には、図4に示す各工程(第n検出データ出力工程を含む)が実施できるように作成したプログラムがインストールされていればよい。また、プログラムは、読み取り可能な記録媒体に記録して提供してもよい。従来の電子線適用装置1の制御部6に本出願で開示するプログラムをインストールすることで、本出願で開示する新たな原理による照射領域Rの検出データ作成方法を実施できる。
【0074】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例0075】
[電子線適用装置1の作製]
<実施例1>
光源2には、レーザー光源(Toptica製iBeamSmart)を用いた。フォトカソード3は、Daiki SATO et al. 2016 Jpn. J. Appl. Phys. 55 05FH05に記載された公知の方法で、InGaNフォトカソードを作製した。フォトカソード表面のEA処理は、公知の方法により行った。作製した電子銃部分を、市販のSEMの電子銃部分と置き換えた。なお、市販SEMの仕様は、電子銃がコールド型電界放出電子源(CFE)を用いており、電子ビーム偏向装置8として偏向コイルを備えていた。電子ビームの加速電圧は最大で30kv、最大で100万倍での観察が可能である。電子線適用装置1の制御部6は、実施形態で説明した各工程が実施できるように、プログラムを作成・改良した。
【0076】
<比較例1>
制御部6のプログラムを改良しなかった以外は、実施例1と同様に電子線適用装置1を作成した。
【0077】
[検出データの作成方法および画像合成方法の実施]
<比較例2>
(第1検出データ出力工程)
実施例1で作製した電子線適用装置1を用いて、照射対象Sに電子ビームBを照射した。そして、検出器5で検出した検出器5に入る放出物SBの放出量が予め設定した値(照射領域Rの場所を問わず検出信号が同一となる値(第1の値))となるように、光源2の光量を調整した。検出器5に入る放出物SBの放出量が予め設定した第1の値となった光量調整データを、照射領域の第1検出データとして出力した。なお、実験条件は以下の通りである。
・加速電圧:0.8kV
・倍率:3000倍
・0mW~450mWで光源2の強度を変調
・検出信号目標値(第1の値):-1.58V
図10Aに、検出器5から出力された検出信号に基づくSEM像を示す。図10Bに、第1検出データに基づき合成した画像を示す。図10Cに、第1検出データの光源強度を反転することで合成した画像を示す(以下、「比較例2のSEM相当画像」と記載する。)。
【0078】
<実施例2>
(第2検出データ出力工程)
比較例2で演算したヒストグラムに基づき、光源2を100mW~300mWの範囲で変調した以外は、比較例2と同様の手順で光量調整データを得て、照射領域の第2検出データとして出力した。図11Aに、検出器5から出力された検出信号に基づくSEM像を示す。図11Bに、第2検出データに基づき合成した画像を示す。図11Cに、第2検出データの光源強度を反転することで合成した画像を示す(以下、「実施例2のSEM相当画像」と記載する。)。
【0079】
検出器5に入る放出物SBの放出量は第1の値となるように予め設定されていることから、検出器5から出力される検出信号は同じ値となる。したがって、図10Aおよび図11Aに示すとおり、検出器5から出力された検出信号に基づくSEM像は、モノトーンとなることを確認した。一方、図10Bおよび図10C、並びに、図11Bおよび図11Cに示すとおり、第1および第2検出データに基づき合成した画像と、第1および第2検出データの光源強度を反転した画像(SEM相当画像)とでは、白黒が反転した画像を合成できることを確認した。
【0080】
<比較例3>
比較例1で作製した電子線適用装置を用いて、従来の手順で照射対象SのSEM像を撮影した。なお、実験条件は以下の通りである。
・加速電圧:0.8kV
・倍率:3000倍
・プローブ電流:4pA(SEM像の取得の際の電流)
【0081】
図12Aに、比較例3で撮影したSEM像を示す。また、対比のため、図12Bに比較例2のSEM相当画像、図12Cに実施例2のSEM相当画像を示す。また、図13A図12AのSEM像における階調範囲0~255の各階調値に相当する画素の出現頻度、図13B図12BのSEM相当画像における階調範囲0~255の各階調値に相当する画素の出現頻度、図13C図12CのSEM相当画像における階調範囲0~255の各階調値に相当する画素の出現頻度を示す。
【0082】
図12から明らかなように、本出願で開示する検出データを用いることで、従来のSEM像と同様の画像を合成できること、および、特許文献2に記載の第1検出データのみでSEM相当画像を合成する場合と比較して階調範囲を有効に利用したコントラストの高いSEM相当画像が得られること、を確認した。
【0083】
また、図13Bおよび図13Cから明らかなように、第1光源強度範囲から第2光源強度範囲に変更した第2検出データを用いると、階調範囲を有効に使用したSEM相当画像を合成できること、換言すると、本出願で開示する検出データの作成方法により階調範囲を有効に使用した検出データを作成できることを確認した。
【0084】
更に、図10Bおよび図11Bから明らかなように、第1検出データおよび第2検出データに基づき合成した画像のコントラストが変化した。このことは、光源強度範囲を変化させることで、照射スポットPから得られる放出物の量が変化したことを意味する。したがって、本出願で開示する検出データの作成方法で得られた検出データは、実際に画像化することなくヒストグラム演算工程に使用できることを確認した。
【0085】
<実施例3>
(第2検出データ出力工程)
比較例2で演算したヒストグラムに基づき、検出信号目標値のみを「-1.58V」から「-0.65V」に変更した以外は、比較例2と同様の手順で光量調整データを得て、照射領域の第2検出データとして出力した。なお、検出信号目標とはSEMの操作盤上の数値を意味し、実施例3に記載の検出信号目標値は、本出願で開示する検出器5に入る放出物の放出量を第1の値(比較例2の値)より大きく設定することに相当する。図14Aに、検出器5から出力された検出信号に基づくSEM像を示す。図14Bに、第2検出データに基づき合成した画像を示す。図14Cに、第2検出データの光源強度を反転することで合成した画像を示す(以下、「実施例3のSEM相当画像」と記載する。)。
【0086】
<実施例4>
(第2検出データ出力工程)
比較例2で演算したヒストグラムに基づき、検出信号目標値を「-1.58V」から「-0.18V」に変更した以外は、比較例2と同様の手順で光量調整データを得て、照射領域の第2検出データとして出力した。図15Aに、検出器5から出力された検出信号に基づくSEM像を示す。図15Bに、第2検出データに基づき合成した画像を示す。図15Cに、第2検出データの光源強度を反転することで合成した画像を示す(以下、「実施例4のSEM相当画像」と記載する。)。
【0087】
また、対比のため、図16Aに比較例2のSEM相当画像、図16Bに実施例3のSEM相当画像、図16Cに実施例4のSEM相当画像を示す。また、図17A図16AのSEM相当画像における階調範囲0~255の各階調値に相当する画素の出現頻度、図17B図16BのSEM相当画像における階調範囲0~255の各階調値に相当する画素の出現頻度、図17C図16CのSEM相当画像における階調範囲0~255の各階調値に相当する画素の出現頻度を示す。
【0088】
図17に示すとおり、検出器5に入る放出物SBの放出量を比較例2→実施例3→実施例4の順に大きくなるように設定することで、階調範囲の画素の出現頻度のピークの位置を、比較例2の位置から実施例3→実施例4の順に階調値0側に移動できることを確認した。また、図16に示すとおり、検出器5に入る放出物SBの放出量を調整することで、SEM相当画像のブライトネスを調整できることを確認した。また、図14Bおよび図15Bからも同様に、本出願で開示する検出データの作成方法で得られた検出データは、実際に画像化することなくヒストグラム演算工程に使用できることを確認した。
【0089】
以上の結果より、第1検出データに基づき、各々の階調値-光源強度相関値を有する照射スポットPの出現頻度を演算し、演算したヒストグラムに基づき、光源2の光源強度範囲を変更、及び/又は、検出器5に入る放出物SBの放出量を変更することで、電子線適用装置自体が階調範囲を有効に使用した検出データを出力できることを確認した。したがって、作成した画像の補正処理等を行う場合でも、元の画像に含まれる階調範囲が広いことから、より適切に画像補正処理を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本出願で開示する電子線適用装置における検出データの作成方法および照射対象の画像合成方法、プログラム、記録媒体、並びに、電子線適用装置により、電子線適用装置自体が階調範囲を有効に使用した検出データを出力できる。したがって、電子顕微鏡や電子線検査装置等の試料状態の検査・撮影等を行う業者にとって有用である。
【符号の説明】
【0091】
1…電子線適用装置、1a…電子銃部分、1b…相手側装置、2…光源、21…光源調整部材、3…フォトカソード(カソード)、4…アノード、5…検出器、6…制御部、7…電源、8…電子ビーム偏向装置、B…電子ビーム、C…回路、CB…真空チャンバー、L…励起光、P…照射スポット、R…照射領域、S…照射対象、SB…放出物、ST1a…第1電子ビーム照射工程、ST1b…第1検出工程、ST1c…第1光量調整工程、ST1d…第1出力工程、ST2a…第1ヒストグラム演算工程、ST2b…第2検出条件設定工程、ST2c…第2電子ビーム照射工程、ST2d…第2検出工程、ST2e…第2光量調整工程、ST2f…第2出力工程
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17