(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002604
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】電源装置及び電源装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101900
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 輝男
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴之
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730BB27
5H730BB57
5H730DD03
5H730DD04
5H730EE04
5H730FG05
5H730FG07
(57)【要約】
【課題】スイッチング素子の選択肢の制限を緩和する。
【解決手段】電源装置は、第1ブリッジ回路と、第1ブリッジ回路から出力される交流電圧が第1巻線に入力され、誘起された交流電圧を第2巻線から出力する、変圧器と、第2巻線から出力される交流電圧を直流電圧に変換して出力する、第2ブリッジ回路と、第1ブリッジ回路の複数のスイッチング素子に出力する複数の第1駆動パルスと、第2ブリッジ回路の複数のスイッチング素子に出力する複数の第2駆動パルスと、の間の絶対的な位相差を、出力指令値に応じて、±180°を中心として制御する、制御部と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ブリッジ回路と、
前記第1ブリッジ回路から出力される交流電圧が第1巻線に入力され、誘起された交流電圧を第2巻線から出力する、変圧器と、
前記第2巻線から出力される交流電圧を直流電圧に変換して出力する、第2ブリッジ回路と、
前記第1ブリッジ回路の複数のスイッチング素子に出力する複数の第1駆動パルスと、前記第2ブリッジ回路の複数のスイッチング素子に出力する複数の第2駆動パルスと、の間の絶対的な位相差を、出力指令値に応じて、±180°を中心として制御する、制御部と、
を含む、
ことを特徴とする、電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記位相差を、前記出力指令値に応じて、±180°を中心として±90°の範囲で制御する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記出力指令値に応じて、前記複数の第1駆動パルス及び前記複数の第2駆動パルスの周波数を制御する、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記出力指令値に応じて、前記位相差を単調増加させる、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の電源装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記出力指令値が基準値の場合に前記周波数を最大に制御し、前記出力指令値が前記基準値から離れるほど前記周波数を低くするように制御する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の電源装置。
【請求項6】
第1ブリッジ回路と、前記第1ブリッジ回路から出力される交流電圧が第1巻線に入力され、誘起された交流電圧を第2巻線から出力する、変圧器と、前記第2巻線から出力される交流電圧を直流電圧に変換して出力する、第2ブリッジ回路と、を含む電源装置の制御方法であって、
前記第1ブリッジ回路の複数のスイッチング素子に出力する複数の第1駆動パルスと前記第2ブリッジ回路の複数のスイッチング素子に出力する複数の第2駆動パルスとの間の絶対的な位相差を、出力指令値に応じて、±180°を中心として制御する、
ことを特徴とする、電源装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電源装置及び電源装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、絶縁型DAB(Dual Active Bridge)双方向コンバータが記載されている。DABコンバータは、デューティ比を0.5で一定にし且つスイッチング周波数を一定にし、1次側ブリッジ回路と2次側ブリッジ回路との間の位相差を制御することにより、出力電圧、出力電流又は出力電力を制御できる。
【0003】
特許文献2には、スイッチング素子がオフする時の電流を減少させて電力変換効率を向上させるために、スイッチング周波数を変化させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5027264号明細書
【特許文献2】特開2019-126228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DABコンバータの位相差制御では、ソフトスイッチングが出来ずにハードスイッチングになってしまう動作領域が存在する。従って、DABコンバータは、ハードスイッチングを許容できる回路設計が必要となる。そのため、スイッチング素子の選択肢に制限が生じ、また、設計も難化する。
【0006】
本開示は、スイッチング素子の選択肢の制限を緩和することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の電源装置は、
第1ブリッジ回路と、
前記第1ブリッジ回路から出力される交流電圧が第1巻線に入力され、誘起された交流電圧を第2巻線から出力する、変圧器と、
前記第2巻線から出力される交流電圧を直流電圧に変換して出力する、第2ブリッジ回路と、
前記第1ブリッジ回路の複数のスイッチング素子に出力する複数の第1駆動パルスと、前記第2ブリッジ回路の複数のスイッチング素子に出力する複数の第2駆動パルスと、の間の絶対的な位相差を、出力指令値に応じて、±180°を中心として制御する、制御部と、
を含む、
ことを特徴とする。
【0008】
前記電源装置において、
前記制御部は、
前記位相差を、前記出力指令値に応じて、±180°を中心として±90°の範囲で制御する、
ことを特徴とする。
【0009】
前記電源装置において、
前記制御部は、
前記出力指令値に応じて、前記複数の第1駆動パルス及び前記複数の第2駆動パルスの周波数を制御する、
ことを特徴とする。
【0010】
前記電源装置において、
前記制御部は、
前記出力指令値に応じて、前記位相差を単調増加させる、
ことを特徴とする。
【0011】
前記電源装置において、
前記制御部は、
前記出力指令値が基準値の場合に前記周波数を最大に制御し、前記出力指令値が前記基準値から離れるほど前記周波数を低くするように制御する、
ことを特徴とする。
【0012】
本開示の一態様の電源装置の制御方法は、
第1ブリッジ回路と、前記第1ブリッジ回路から出力される交流電圧が第1巻線に入力され、誘起された交流電圧を第2巻線から出力する、変圧器と、前記第2巻線から出力される交流電圧を直流電圧に変換して出力する、第2ブリッジ回路と、を含む電源装置の制御方法であって、
前記第1ブリッジ回路の複数のスイッチング素子に出力する複数の第1駆動パルスと前記第2ブリッジ回路の複数のスイッチング素子に出力する複数の第2駆動パルスとの間の絶対的な位相差を、出力指令値に応じて、±180°を中心として制御する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、スイッチング素子の選択肢の制限を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態の電源装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、DABのブリッジ回路間の位相差と出力電力との関係を示す図である。
【
図3】
図3は、DABのブリッジ回路間の位相差と還流電流との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態の電源装置の出力指令値と位相差との関係の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態の電源装置の出力指令値とスイッチング周波数との関係の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態の動作領域を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態の動作領域を示す図である。
【
図10】
図10は、実施形態の電源装置の出力指令値と出力電力との関係を示す図である。
【
図11】
図11は、比較例及び実施形態の回路シミュレーション結果を示す図である。
【
図12】
図12は、比較例及び実施形態の回路シミュレーション結果を示す図である。
【
図13】
図13は、比較例及び実施形態の回路シミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本開示に係る実施形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態により本開示が限定されるものではなく、また、以下の実施形態において、同一の部位には同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0016】
<実施形態>
実施形態では、単相DABコンバータを例として説明するが、本開示はこれに限定されない。本開示は、3相DABコンバータにも適用可能である。
【0017】
本開示では、ソフトスイッチングが出来ていることの指標として、スイッチング素子がオフからオンになる時に電流が負であり、且つ、スイッチング素子がオンからオフになる時に電流が正である、という指標を用いる。
【0018】
(構成)
図1は、実施形態の電源装置の構成を示す図である。電源装置1は、DAB(Dual Active Bridge)方式であり、双方向のDC-DCコンバータである。実施形態では、電源装置1は、電源2から出力されコンデンサ3で平滑化後の直流の電圧Vinの供給を受けて、直流の電圧Voutを負荷4に出力するものとする。
【0019】
電源装置1は、1次側の第1ブリッジ回路12と、リアクトル13と、トランス14と、2次側の第2ブリッジ回路15と、コンデンサ16と、制御部18と、を含む。
【0020】
第1ブリッジ回路12は、トランジスタTr1からTr4までを含む単相フルブリッジ回路である。
【0021】
なお、実施形態では、第1ブリッジ回路12は単相フルブリッジ回路としたが、本開示はこれに限定されない。第1ブリッジ回路12は、3個のアームを含む3相ブリッジ回路であっても良い。
【0022】
実施形態では、各トランジスタがMOSFETであることとしたが、本開示はこれに限定されない。各トランジスタは、シリコンパワーデバイス、GaNパワーデバイス、SiCパワーデバイス(例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))などでも良い。
【0023】
各トランジスタは、積極的に電流を流すことができる寄生ダイオード(ボディダイオード)を有する、又は、逆並列にダイオードが接続されている。寄生ダイオードとは、MOSFETのバックゲートとソース及びドレインとの間のpn接合である。
【0024】
各トランジスタが、本開示の「スイッチング素子」の一例に相当する。
【0025】
トランジスタTr1のソースは、トランジスタTr2のドレインに電気的に接続されている。トランジスタTr1のドレインは、トランジスタTr3のドレインに電気的に接続されている。トランジスタTr3のソースは、トランジスタTr4のドレインに電気的に接続されている。トランジスタTr2のソースは、トランジスタTr4のソースに電気的に接続されている。
【0026】
トランジスタTr1のドレイン及びトランジスタTr3のドレインは、第1ブリッジ回路12の一方の入力端子12aに電気的に接続されている。トランジスタTr2のソース及びトランジスタTr4のソースは、第1ブリッジ回路12の他方の入力端子12bに電気的に接続されている。
【0027】
入力端子12aは、コンデンサ3の一端(高電位側端)に電気的に接続されている。入力端子12bは、コンデンサ3の他端(低電位側端)に電気的に接続されている。
【0028】
入力端子12aと入力端子12bとの間には、電圧Vinが供給される。
【0029】
トランジスタTr1のソース及びトランジスタTr2のドレインは、第1ブリッジ回路12の一方の出力端子12cに電気的に接続されている。トランジスタTr3のソース及びトランジスタTr4のドレインは、第1ブリッジ回路12の他方の出力端子12dに電気的に接続されている。
【0030】
リアクトル13の一端は、出力端子12cに電気的に接続されている。なお、本開示では、リアクトル13を1次側に配置したが、これに限定されない。リアクトル13は、2次側に配置しても良いし、1次側及び2次側の両方に配置しても良い。
【0031】
トランス14は、第1巻線14aと、第2巻線14bと、コア14cと、を含む。第1巻線14a及び第2巻線14bは、コア14cに巻回されている。
【0032】
トランス14が、本開示の「変圧器」の一例に相当する。
【0033】
なお、実施形態では、トランス14は単相トランスとしたが、本開示はこれに限定されない。トランス14は、第1ブリッジ回路12及び第2ブリッジ回路15が3相ブリッジ回路である場合には、3相トランスとすると良い。
【0034】
第1巻線14aと第2巻線14bとの巻数比は、1:1が例示されるが、本開示はこれに限定されない。
【0035】
第1巻線14aの一端は、リアクトル13の他端に電気的に接続されている。第1巻線14aの他端は、出力端子12dに電気的に接続されている。
【0036】
第1ブリッジ回路12は、電圧Vin、又は、電圧-Vinを、出力端子12cと出力端子12dとの間に出力する。
【0037】
例えば、第1ブリッジ回路12は、トランジスタTr1及びトランジスタTr4がオン状態、且つ、トランジスタTr2及びトランジスタTr3がオフ状態に制御されている場合、電圧Vinを、出力端子12cと出力端子12dとの間に出力する。
【0038】
また例えば、第1ブリッジ回路12は、トランジスタTr1及びトランジスタTr4がオフ状態、且つ、トランジスタTr2及びトランジスタTr3がオン状態に制御されている場合、電圧-Vinを、出力端子12cと出力端子12dとの間に出力する。
【0039】
第2ブリッジ回路15は、トランジスタTr5からTr8までを含む単相フルブリッジ回路である。
【0040】
なお、実施形態では、第2ブリッジ回路15は単相フルブリッジ回路としたが、本開示はこれに限定されない。第2ブリッジ回路15は、3個のアームを含む3相ブリッジ回路であっても良い。
【0041】
トランジスタTr5のソースは、トランジスタTr6のドレインに電気的に接続されている。トランジスタTr5のドレインは、トランジスタTr7のドレインに電気的に接続されている。トランジスタTr7のソースは、トランジスタTr8のドレインに電気的に接続されている。トランジスタTr6のソースは、トランジスタTr8のソースに電気的に接続されている。
【0042】
トランジスタTr5のソース及びトランジスタTr6のドレインは、第2ブリッジ回路15の一方の入力端子15aに電気的に接続されている。トランジスタTr7のソース及びトランジスタTr8のドレインは、第2ブリッジ回路15の他方の入力端子15bに電気的に接続されている。
【0043】
トランジスタTr5のドレイン及びトランジスタTr7のドレインは、第2ブリッジ回路15の一方の出力端子15cに電気的に接続されている。トランジスタTr6のソース及びトランジスタTr8のソースは、第2ブリッジ回路15の他方の出力端子15dに電気的に接続されている。
【0044】
入力端子15aは、第2巻線14bの一端に電気的に接続されている。入力端子15bは、第2巻線14bの他端に電気的に接続されている。
【0045】
出力端子15cは、コンデンサ16の一端(高電位側端)に電気的に接続されている。出力端子15dは、コンデンサ16の他端(低電位側端)に電気的に接続されている。
【0046】
コンデンサ16の電圧が、電圧Voutである。コンデンサ16の一端(高電位側端)は、負荷4の一端(高電位側端)に電気的に接続されている。コンデンサ16の他端(低電位側端)は、負荷4の他端(低電位側端)に電気的に接続されている。
【0047】
制御部18は、駆動パルスP1を第1ブリッジ回路12に出力し、駆動パルスP2を第2ブリッジ回路15に出力することにより、第1ブリッジ回路12及び第2ブリッジ回路15を制御する。
【0048】
制御部18は、駆動パルスP1と駆動パルスP2との間の位相差を制御することにより、第1ブリッジ回路12と第2ブリッジ回路15との間の位相差を制御する。
【0049】
制御部18は、トランジスタTr1からTr8までのスイッチング周波数を同一にし、且つ、デューティ比を0.5で一定に制御する。
【0050】
デューティ比は、制御の1周期に対するスイッチング素子のオン時間(又はオフ時間)の比率である。
【0051】
図2は、DABのブリッジ回路間の位相差と出力電力との関係を示す図である。
図2において、横軸は、位相差(deg)を表し、縦軸は、正規化した出力電力を表す。波形201は、位相差(deg)と、正規化した出力電力と、の関係を示す。
【0052】
図3は、DABのブリッジ回路間の位相差と還流電流との関係を示す図である。
図3において、横軸は、位相差(deg)を表し、縦軸は、正規化した還流電流を表す。波形202は、位相差(deg)と、正規化した還流電流と、の関係を示す。
【0053】
(比較例の制御)
図3の波形202で示すように、位相差-180°から-90°までの範囲、及び、+90°から+180°までの範囲では、負荷4への電力供給に寄与しない還流電流が多くなる。
【0054】
そこで、比較例は、デューティ比を0.5で一定にし且つスイッチング周波数を一定(例えば、50kHz)にする。そして、比較例は、
図2及び
図3に示すように、位相差0°を中心(無負荷時)として、出力指令値に応じて位相差-90°から+90°までの範囲(以下、「比較例の位相差範囲210」と称する。)で位相差制御する。
【0055】
図4は、比較例の動作領域を示す図である。
図4において、横軸は、位相差(deg)を表し、縦軸は、1次側電圧(電圧Vin)に対する2次側電圧(電圧Vout)の比を表す。
【0056】
なお、
図4において、電圧比が負の領域は、計算上のものである。実際の回路(
図1参照)へ負電圧を印加した場合、トランジスタの寄生ダイオードが導通してしまうので、電源装置1は動作を行うことができない。
【0057】
比較例では、
図4の領域301及び領域303は、ソフトスイッチング動作領域であるが、領域302、領域304、領域305及び領域306は、ハードスイッチング動作領域である。
【0058】
図5は、比較例の動作領域を示す図である。
図5は、
図4の中の領域310の拡大図である。
【0059】
(実施形態)
実施形態の制御部18は、還流電流(
図3参照)を利用してソフトスイッチング動作を実現することとした。つまり、制御部18は、出力指令値に応じて、±180°(絶対的な位相差)を中心(無負荷時)として位相差制御を行う。DABコンバータの制御の観点では、絶対的な位相差+180°と絶対的な位相差-180°とは、等価である。
【0060】
図2及び
図3を参照すると、制御部18は、出力指令値に応じて、±180°(絶対的な位相差)を中心(無負荷時)として、一例として+90°(絶対的な位相差)から-90°(絶対的な位相差)までの範囲(以下、「実施形態の位相差範囲211」と称する。)で位相差制御を行う。
【0061】
なお、制御部18は、後述するように位相差及びスイッチング周波数の2つの値で制御することとすると、+90°(絶対的な位相差)より小さい位相差範囲211a及び-90°(絶対的な位相差)より大きい位相差範囲211bを利用することも可能である。位相差範囲211a及び位相差範囲211bでは、出力電力が小さくなるというデメリットがあるものの、損失を小さくすることができるというメリットがある。例えば、
図2に示すように位相差範囲211から位相差範囲211bへ動作点が移動した場合は、電力的には低下傾向を示すが、
図3に示すように、循環電流も低下傾向を示す。具体的には、
図2で示すところの約-112.5°(位相差範囲211)と約-67.5°(位相差範囲211b)とでは周波数が同一であれば同等の出力になる。その時、
図3を参照すると、循環電流は明らかに約-67.5°の方が少なくなる(低損失になる)結果となる。周波数を変更した場合、変換電力は変化する(2倍の周波数で電力は半分になる)が、出力電力と循環電流との比率(
図2と
図3との比率)は変化しない。そのため、ハードスイッチング領域へ入ってしまわないように注意が必要であるが、損失低減のために、位相差範囲211bまで踏み込んでしまってもよい。
【0062】
実施形態の位相差範囲211では、比較例の位相差範囲210と比して、トランジスタがオフからオンになるとき負の向き、オンからオフになるとき正の向きの還流電流が多く流れる。制御部18は、上記の還流電流を利用することにより、上記した指標を満たすことができる。
【0063】
図6は、実施形態の電源装置の出力指令値と位相差との関係の一例を示す図である。
図6において、横軸は、正規化した出力指令値を表し、縦軸は、±180°(絶対的な位相差)に対する相対的な位相差(deg)を表す。
【0064】
制御部18は、波形501で示すように、出力指令値が-100から100まで増加するに従って、位相差を-90°(相対的な位相差。絶対的な位相差としては+90°)から、+90°(相対的な位相差。絶対的な位相差としては-90°)まで、単調増加させる。
【0065】
但し、このままでは、還流電流が必要以上に多くなり、損失が大きくなる。そこで、制御部18は、スイッチング周波数を制御することにより、上記の環流電流を調整(抑制)する。制御部18は、スイッチング周波数を高くすることにより、環流電流を抑制できる。
【0066】
図7は、実施形態の電源装置の出力指令値とスイッチング周波数との関係の一例を示す図である。
図7において、横軸は、正規化した出力指令値を表し、縦軸は、スイッチング周波数(kHz(キロヘルツ))を表す。
【0067】
制御部18は、波形511で示すように、出力指令値が0(無負荷時)の場合にスイッチング周波数を最大にし、出力指令値が0から離れるに従って、スイッチング周波数を低くする。本例では、制御部18は、出力指令値が0(無負荷時)の場合にスイッチング周波数を200kHzにし、出力指令値が±100の場合にスイッチング周波数を50kHzにする。
【0068】
図8は、実施形態の電源装置の動作領域を示す図である。
図8において、横軸は、±180°(絶対的な位相差)に対する相対的な位相差(deg)を表し、縦軸は、1次側電圧(電圧Vin)に対する2次側電圧(電圧Vout)の比を表す。
【0069】
なお、
図8において、電圧比が負の領域は、計算上のものである。実際の回路(
図1参照)へ負電圧を印加した場合、トランジスタの寄生ダイオードが導通してしまうので、電源装置1は動作を行うことができない。
【0070】
実施形態では、
図8の領域322は、ソフトスイッチング動作領域であり、領域321、領域323、領域324、領域325及び領域326は、ハードスイッチング動作領域である。
【0071】
図9は、実施形態の電源装置の動作領域を示す図である。
図9は、
図8の中の領域330の拡大図である。
図9に示す範囲では、全部がソフトスイッチング動作領域(領域322)である。
【0072】
図9を
図5と比較すると、制御部18は、
図6及び
図7で示す位相差制御及びスイッチング周波数制御を行うことにより、比較例ではハードスイッチングであった領域(
図5の領域302、領域305参照)で、ソフトスイッチング動作を可能とすることができる。
【0073】
なお、
図8及び
図9では、横軸を位相差としている。しかし、実施形態では、電圧Voutは、位相差だけではなく、スイッチング周波数にも依存する。
図8及び
図9の横軸は、あくまでも、実施形態の位相差だけに着目した特性となる。
【0074】
また、
図2を参照すると、比較例の位相差範囲210では、位相差と出力電力との関係が正の相関(右肩上がり、
図2の-90°(絶対的な位相差)から+90°(絶対的な位相差)までの範囲参照)である。これに対して、実施形態の位相差範囲211では、位相差と出力電力との関係が負の相関(右肩下がり、
図2の+90°(絶対的な位相差)から-90°(絶対的な位相差)までの範囲参照)である。そのため、実施形態では、出力指令値と出力電力との関係が、負の相関(比較例と逆)になる。
【0075】
図10は、実施形態の電源装置の出力指令値と出力電力との関係を示す図である。
図10において、横軸は、正規化した出力指令値を表し、縦軸は、正規化した出力電力を表す。
【0076】
実施形態では、波形521で示すように、出力指令値が増加すると、出力電力が減少する。実施形態は、この特性のままで使用しても良い。或いは、例えば、出力指令値の符号が反転されて制御部18に入力されることとして、出力指令値と出力電力との関係が正の相関になるようにしても良い。
【0077】
(回路シミュレーション結果)
図11から
図13までは、比較例及び実施形態の回路シミュレーション結果を示す図である。
図11は、逆方向最大出力時(位相差=-90°(相対的な位相差))の回路シミュレーション結果を示す図である。
図12は、無出力時(無負荷時)(位相差=0°(相対的な位相差))の回路シミュレーション結果を示す図である。
図13は、順方向最大出力時(位相差=+90°(相対的な位相差))の回路シミュレーション結果を示す図である。
【0078】
図11から
図13までにおいて、第1行目は、電圧Vinと電圧Voutとの電圧比が1:2の場合(
図5及び
図9の動作点401、動作点404及び動作点407参照)の回路シミュレーション結果を示す。
【0079】
第2行目は、電圧Vinと電圧Voutとの電圧比が1:1の場合(
図5及び
図9の動作点402、動作点405及び動作点408参照)の回路シミュレーション結果を示す。
【0080】
第3行目は、電圧Vinと電圧Voutとの電圧比が2:1の場合(
図5及び
図9の動作点403、動作点406及び動作点409参照)の回路シミュレーション結果を示す。
【0081】
図11から
図13までの各欄において、1番目の波形は、第1ブリッジ回路12のトランジスタ(例えば、トランジスタTr1)のドレイン-ソース間の電圧を表す。ドレインーソース間の電圧がハイレベルの場合、トランジスタはオフである。ドレインーソース間の電圧がローレベルの場合、トランジスタはオンである。
【0082】
2番目の波形は、第1ブリッジ回路12のトランジスタ(例えば、トランジスタTr1)のドレイン-ソース間(寄生ダイオードを含む。)の電流を表す。
【0083】
3番目の波形は、第2ブリッジ回路15のトランジスタ(例えば、トランジスタTr5)のドレイン-ソース間の電圧を表す。ドレインーソース間の電圧がハイレベルの場合、トランジスタはオフである。ドレインーソース間の電圧がローレベルの場合、トランジスタはオンである。
【0084】
4番目の波形は、第2ブリッジ回路15のトランジスタ(例えば、トランジスタTr5)のドレイン-ソース間(寄生ダイオードを含む。)の電流を表す。
【0085】
図11を参照すると、欄601は、比較例の回路シミュレーション結果(
図5の動作点401参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0086】
欄602は、実施形態の回路シミュレーション結果(
図9の動作点401参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0087】
欄603は、比較例の回路シミュレーション結果(
図5の動作点402参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0088】
欄604は、実施形態の回路シミュレーション結果(
図9の動作点402参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0089】
欄605は、比較例の回路シミュレーション結果(
図5の動作点403参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0090】
欄606は、実施形態の回路シミュレーション結果(
図9の動作点403参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0091】
図12を参照すると、欄611は、比較例の回路シミュレーション結果(
図5の動作点404参照)を示す。この場合、第1ブリッジ回路12のトランジスタは上記した指標を満たしていないので(1番目及び2番目の波形参照)、ハードスイッチング動作である。
【0092】
欄612は、実施形態の回路シミュレーション結果(
図9の動作点404参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0093】
欄613は、比較例の回路シミュレーション結果(
図5の動作点405参照)を示す。この場合、第1ブリッジ回路12のトランジスタは上記した指標を満たしていないので(1番目及び2番目の波形参照)、ハードスイッチング動作である。第2ブリッジ回路15のトランジスタも上記した指標を満たしていないので(3番目及び4番目の波形参照)、ハードスイッチング動作である。
【0094】
欄614は、実施形態の回路シミュレーション結果(
図9の動作点405参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0095】
欄615は、比較例の回路シミュレーション結果(
図5の動作点406参照)を示す。この場合、第2ブリッジ回路15のトランジスタは上記した指標を満たしていないので(3番目及び4番目の波形参照)、ハードスイッチング動作である。
【0096】
欄616は、実施形態の回路シミュレーション結果(
図9の動作点406参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0097】
図13を参照すると、欄621は、比較例の回路シミュレーション結果(
図5の動作点407参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0098】
欄622は、実施形態の回路シミュレーション結果(
図9の動作点407参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0099】
欄623は、比較例の回路シミュレーション結果(
図5の動作点408参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0100】
欄624は、実施形態の回路シミュレーション結果(
図9の動作点408参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0101】
欄625は、比較例の回路シミュレーション結果(
図5の動作点409参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0102】
欄626は、実施形態の回路シミュレーション結果(
図9の動作点409参照)を示す。この場合、上記した指標を満たしているので、ソフトスイッチング動作である。
【0103】
図11から
図13までに示すように、実施形態は、動作点401から動作点409までの全部でソフトスイッチング動作が可能であることが確認できた。
【0104】
(まとめ)
実施形態の電源装置1は、比較例と比べて、ソフトスイッチング動作が可能な領域を拡げることができる。これにより、電源装置1は、スイッチング素子の選択肢の増加、スイッチング損失の低減、サージノイズ抑制、安全動作領域改善による素子のストレス低減などが可能となる。また、電源装置1は、結果的に設計の容易化、低コスト化、電力変換効率の向上、小型化等の性能向上も見込める。
【0105】
以上、本開示の実施形態を説明したが、これら実施形態の内容により本開示が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0106】
1 電源装置
2 電源
3、16 コンデンサ
4 負荷
12 第1ブリッジ回路
13 リアクトル
14 トランス
15 第2ブリッジ回路
18 制御部
Tr1、Tr2、Tr3、Tr4、Tr5、Tr6、Tr7、Tr8 トランジスタ