IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社鴻池組の特許一覧 ▶ 中外炉工業株式会社の特許一覧

特開2024-26040有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置
<>
  • 特開-有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置 図1
  • 特開-有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置 図2
  • 特開-有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置 図3
  • 特開-有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置 図4
  • 特開-有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置 図5
  • 特開-有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026040
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20240220BHJP
   G01N 31/12 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
G01N31/00 Q
G01N31/00 V
G01N31/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117984
(22)【出願日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2022129144
(32)【優先日】2022-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(71)【出願人】
【識別番号】000211123
【氏名又は名称】中外炉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】大山 将
(72)【発明者】
【氏名】中島 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】松生 隆司
(72)【発明者】
【氏名】平尾 壽啓
(72)【発明者】
【氏名】神戸 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 久志
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 聡
(72)【発明者】
【氏名】大久保 朋哉
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA03
2G042BA04
2G042BA10
2G042BD02
2G042CA02
2G042CB03
2G042DA05
2G042EA02
2G042GA01
2G042GA05
(57)【要約】
【課題】難分解性の有機化合物等の有機化合物を、二酸化炭素排出量を増大させることなく、熱分解処理できるようにした有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置を提供すること。
【解決手段】有機化合物を含む流動体を、水素バーナー2の中心部を通って、水素及び酸素を、水素バーナー2の外周部を通って、分解炉1内に導入し、水素バーナー2の燃焼によって生成される過熱水蒸気雰囲気下で流動体に含まれる有機化合物を分解する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を含む流動体の処理方法であって、有機化合物を含む流動体を、水素バーナーを介して分解炉内に導入し、水素バーナーの燃焼によって生成される過熱水蒸気雰囲気下で流動体に含まれる有機化合物を分解することを特徴とする有機化合物を含む流動体の処理方法。
【請求項2】
前記有機化合物を含む流動体を、水素バーナーの中心部を通って、水素及び酸素を、水素バーナーの外周部を通って、分解炉内に導入するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の有機化合物を含む流動体の処理方法。
【請求項3】
前記有機化合物を含む流動体が、有機化合物を吸着した吸収剤と水を含むスラリー状の混合物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機化合物を含む流動体の処理方法。
【請求項4】
前記有機化合物が、有機フッ素化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機化合物を含む流動体の処理方法。
【請求項5】
前記有機フッ素化合物が、PFAS類であることを特徴とする請求項4に記載の有機化合物を含む流動体の処理方法。
【請求項6】
水素バーナーを備えた分解炉からなる有機化合物を含む流動体の処理装置であって、前記水素バーナーが、有機化合物を含む流動体を分解炉内に導入する流路を備え、水素バーナーの燃焼によって生成される過熱水蒸気雰囲気下で流動体に含まれる有機化合物を分解するようにしたことを特徴とする有機化合物を含む流動体の処理装置。
【請求項7】
前記水素バーナーが、有機化合物を含む流動体を、水素バーナーの中心部を通って、水素及び酸素を、水素バーナーの外周部を通って、分解炉内に導入するようにしたことを特徴とする請求項6に記載の有機化合物を含む流動体の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物、特に、有機フッ素化合物等の難分解性の有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機フッ素化合物であるペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(本明細書において、「PFAS類」という場合がある。)による環境水等の汚染に注目が集まっている。特に、ペルフルオロオクタンスルホン酸(本明細書において、「PFOS」という場合がある。)及びペルフルオロオクタン酸(本明細書において、「PFOA」という場合がある。)は、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の付属書B及び付属書Aへの掲載を踏まえ、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」において第一種特定化学物質に指定されており、原則として、製造、輸入、使用が禁止されている。また、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(本明細書において、「PFHxS」という場合がある。)についても、2022年6月にPOPs条約の付属書Aへの追加掲載が決定され、2024年春以降に第一種特定化学物質に指定されることが見込まれている。
【0003】
しかしながら、これらPFAS類は、撥水性及び撥油性という特性を持ち、また、化学的及び熱安定性等に優れているため、撥水剤、コーティング剤、泡消火剤等に長年広く使用されてきたこともあり、環境省の調査でも、PFOS/PFOA及びPFHxSが河川水や地下水等から幅広く検出されている。そして、2020年には、水道水質基準の水質管理目標設定項目及び水質環境基準の要監視項目にPFOS/PFOAがそれぞれ追加され、目標値及び指針値(暫定)として50ng/L(PFOS及びPFOAの合算値)が設定された。また、PFHxSについても、2021年3月に水質環境基準の要調査項目、2021年4月に水道水質基準の要検討項目にそれぞれ追加された。
【0004】
PFOS/PFOA及びPFHxSは化学的に極めて安定性が高く、水溶性かつ不揮発性の物質であるため、環境中に放出された場合には水系に移行しやすく、難分解性のため長期的に環境に残留すると考えられている。
そして、PFOS/PFOA及びPFHxSが河川水や地下水等から幅広く検出されている状況から、河川水、湖沼水、地下水等の環境水(本明細書において、「環境水」という場合がある。)中に含まれるPFAS類を低コストで分解処理する手法の開発が要請されているが、有効な手法はないのが実情であった。
【0005】
具体的には、有機化合物の分解処理に促進酸化法が広く用いられているが、促進酸化法は、PFOS/PFOAのOHラジカルとの反応性が極めて低いことから、PFOS/PFOAの分解処理には適用できないとされており、実際に、PFOSを2~6ng/L、PFOAを40~58ng/L含有する地下水を用いて、促進酸化法(O+H、O+UV)を試みたが、PFOS/PFOAの有意な分解処理効果を確認できなかった。
【0006】
一方、促進酸化法以外の有機化合物の分解処理の手法として、吸着剤として活性炭を利用する物理化学的手法が提案されている(例えば、特許文献1~2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-146326号公報
【特許文献2】特開2010-22961号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】環境省「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」、令和4年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、吸着剤として活性炭を利用する物理化学的手法において、有機化合物を吸着した活性炭は、燃焼バーナーを備えた焼却炉で焼却処理されるのが一般的であるが、PFOS/PFOA等のPFAS類を所要の分解率を確保しつつ安定して熱分解するためには、850℃以上、好ましくは、1000℃以上、さらに好ましくは、1100℃以上の温度で処理する必要があるといわれている。
そして、有機化合物を吸着した活性炭を焼却処理する燃焼バーナーを備えた焼却炉の温度を、PFOS/PFOA等のPFAS類を熱分解することができる温度にするためには、焼却炉の燃焼バーナーで多量の化石燃料を燃焼させる必要があることから、二酸化炭素排出量が増大することとなり、脱炭素化にそぐわないものであった。
【0010】
本発明は、難分解性の有機化合物等の有機化合物を、二酸化炭素排出量を増大させることなく、熱分解処理できるようにした有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の有機化合物を含む流動体の処理方法は、有機化合物を含む流動体の処理方法であって、有機化合物を含む流動体を、水素バーナーを介して分解炉内に導入し、水素バーナーの燃焼によって生成される過熱水蒸気雰囲気下で流動体に含まれる有機化合物を分解することを特徴とする。
【0012】
この場合において、前記有機化合物を含む流動体を、水素バーナーの中心部を通って、水素及び酸素を、水素バーナーの外周部を通って、分解炉内に導入するようにすることができる。
【0013】
また、前記有機化合物を含む流動体が、有機化合物を吸着した吸収剤と水を含むスラリー状の混合物からなることができる。
【0014】
また、前記有機化合物が、有機フッ素化合物であることができる。
【0015】
また、前記有機フッ素化合物が、PFAS類(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物を含む。)であることができる。
【0016】
また、本発明の有機化合物を含む流動体の処理装置は、水素バーナーを備えた分解炉からなる有機化合物を含む流動体の処理装置であって、前記水素バーナーが、有機化合物を含む流動体を分解炉内に導入する流路を備え、水素バーナーの燃焼によって生成される過熱水蒸気雰囲気下で流動体に含まれる有機化合物を分解するようにしたことを特徴とする。
【0017】
この場合において、前記水素バーナーが、有機化合物を含む流動体を、水素バーナーの中心部を通って、水素及び酸素を、水素バーナーの外周部を通って、分解炉内に導入するようにすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置によれば、有機化合物を含む流動体を、水素バーナーを介して分解炉内に導入し、水素バーナーの燃焼によって生成される過熱水蒸気雰囲気下で流動体に含まれる有機化合物を分解することにより、二酸化炭素排出量を増大させることなく、難分解性の有機化合物等の有機化合物を熱分解処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】有機フッ素化合物含有水の処理フロー(1段処理フロー)の一例を示す説明図である。
図2】有機フッ素化合物含有水の処理フロー(2段処理フロー)の一例を示す説明図である。
図3】水素バーナーを備えた分解炉の一例を示す説明図である。
図4】水素バーナーを備えた分解炉の点火からの経過時間と、加熱室内(炉内)温度との関係を示すグラフである。
図5】水素バーナーを備えた分解炉の燃焼酸素比(酸素/水素)と、加熱室内(炉内)水素/酸素濃度との関係を示すグラフである。
図6】PFOS等を吸着した粉末活性炭スラリーの処理フロー(実証試験)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に、有機フッ素化合物含有水の処理フロー(1段処理フロー)の一例を示す。
この処理フローは、PFOS/PFOA等を含有する環境水等の有機フッ素化合物含有水(処理対象水)を処理するためのもので、処理対象水は、原水槽、反応槽(1)、中継槽(1)、精密濾過(1)を経て、処理水(濾過水)として処理される。
【0022】
ここで、反応槽(1)には、吸収剤としての粉末活性炭溶解槽から水に溶解(分散)させた粉末活性炭を供給するようにして、粉末活性炭にPFOS/PFOA等の有機化合物を吸着させるようにする。
また、反応槽(1)には、吸収剤としての粉末活性炭のほか、反応槽(1)内のpHを調整するため、希硫酸等の酸を添加するようにしている。
【0023】
PFOS/PFOA等の有機化合物を吸着した活性炭は、精密濾過(1)において分離され、逆洗水(濃縮水)として沈降槽に送られ、濃縮されたスラリー状の混合物の状態で、中継槽(3)を介して、水素バーナーを備えた分解炉に供給される。
【0024】
分解炉に供給されたPFOS/PFOA等の有機化合物を吸着した活性炭は、分解炉において、水素バーナーの燃焼によって生成される過熱水蒸気雰囲気下で、燃焼するとともに、活性炭に吸着したPFOS/PFOA等の有機化合物は熱分解され、排ガスとして排出される。
【0025】
分解炉から排出された排ガスは、適宜スクラバー等の処理設備を介して、無害化処理される。
【0026】
図1に示す有機フッ素化合物含有水の処理フローは、1段処理フローの例を説明したが、図2に示す有機フッ素化合物含有水の処理フロー(2段処理フロー)のように、精密濾過(1)を経た処理水(1次濾過水)を、さらに、反応槽(2)、中継槽(2)、精密濾
過(2)を経て、処理水(濾過水)として処理するようにすることができる。
【0027】
ここで、反応槽(2)には、吸収剤としての粉末活性炭溶解槽から水に溶解(分散)させた粉末活性炭を供給するようにして、粉末活性炭にPFOS/PFOA等の有機化合物を吸着させるようにする。
また、反応槽(2)には、吸収剤としての粉末活性炭のほか、反応槽(2)内のpHを調整するため、希硫酸等の酸を添加するようにしている。
【0028】
PFOS/PFOA等の有機化合物を吸着した活性炭は、精密濾過(2)において分離され、逆洗水(濃縮水)として反応槽(1)に送られるようにする。このため、本実施例においては、反応槽(1)には、図1に示す、有機フッ素化合物含有水の処理フロー(1段処理フロー)のように、吸収剤としての粉末活性炭溶解槽から水に溶解(分散)させた粉末活性炭は供給していないが、必要に応じて、反応槽(1)にも、吸収剤としての粉末活性炭のほか、反応槽(1)内のpHを調整する希硫酸等の酸を添加するようにすることもできる。
【0029】
図2に示す有機フッ素化合物含有水の処理フロー(2段処理フロー)のその他の工程は、図1に示す有機フッ素化合物含有水の処理フロー(1段処理フロー)と同様である。
【0030】
次に、図3に、図1及び図2に示す有機フッ素化合物含有水の処理フローで用いる水素バーナーを備えた分解炉の一例を示す。
【0031】
この水素バーナー2を備えた分解炉1は、水素バーナー2が、有機化合物を含む流動体を分解炉1内に導入する流路21を備え、水素バーナー2の燃焼によって生成される過熱水蒸気雰囲気下で流動体に含まれる有機化合物を分解するようにしている。
【0032】
より具体的には、水素バーナー2は、管部材を同心に配置することで複数の流路を形成したものからなり、有機化合物を含む流動体が、水素バーナー2の中心部の流路21を通って、水素及び酸素が、水素バーナー2の外周部の流路22、23を通って、分解炉1内に導入されることで、有機化合物を含む流動体の周囲を水素及び酸素の層が覆うようにして、分解炉1内に放出されるようにしている。
そして、分解炉1内に放出された有機化合物を含む流動体の周囲で、水素と酸素が激しく反応(燃焼)し、その火炎の中を有機化合物を含む流動体が通過して、反応(燃焼)によって生成される過熱水蒸気中に放出されることで、高温の過熱水蒸気雰囲気下で流動体に含まれる有機化合物を確実に分解することができる。
【0033】
ここで、水素バーナー2の中心部の流路21は、有機化合物を含む流動体の供給部21a及び噴霧用の酸素の供給部21bを備えるようにしている。
また、水素バーナー2の外周部の流路22、23は、水素の供給部22a及び燃焼用の酸素の供給部23aを備えるようにしている。
【0034】
なお、水素バーナー2の中心部の流路21に備える有機化合物を含む流動体の供給部21a及び噴霧用の酸素の供給部21bは、処理対象である有機化合物を含む流動体に合わせて、供給部21a、21bから供給する物質を適宜選択して供給することができる。
また、本実施例においては、水素バーナー2に、管部材を同心に配置することで3つの流路を形成したものを用いたが、処理対象である有機化合物を含む流動体に合わせて、4つ又はそれ以上の流路を形成したものを用いることもでき、例えば、そのうちの1つの流路から水を供給することにより、過熱水蒸気量を変化させるようにすることができる。
【0035】
分解炉1は、必要とされる水素バーナー2の燃焼によって生成される過熱水蒸気雰囲気
を形成することができるように、円柱形状をした複数のユニット、本実施例においては、水素バーナー2を配置する入口側ユニット1A、中間ユニット1B、1C及び排ガスの排出口11を備える出口側ユニット1Dの4つのユニットを組み合わせて構成するようにし、必要に応じて、中間ユニット1B、1Cのユニット数を増減することができるようにしている。
ここで、分解炉1の内面は、キャスタブル耐火物12を施した耐火構造とし、特に、高温となる入口側ユニット1Aには、外周に水冷ジャケット13a、13bを施すようにする。
分解炉1には、水素バーナー2の燃焼状態や有機化合物の分解状態を監視し、制御するために、サンプリングポート14のほか、熱電対15a、圧力スイッチ15b、酸素センサ15cの各種センサを配置するようにする。
【0036】
次に、この水素バーナー2を備えた分解炉1の燃焼試験結果を、図4及び図5に示す。
図4及び図5を含む燃焼試験結果から、以下のことが分かった。
・低温から高温の広い温度範囲の過熱水蒸気処理が可能であり、特に、高温での過熱水蒸気処理が可能なため、PFOS/PFOA等のPFAS類を所要の分解率を確保しつつ安定して熱分解するために必要とされる1100℃以上の温度を安定して維持することができる。
・過熱水蒸気は、高い熱伝達特性及び熱量を有しているため、短時間で温度むらのない、均一な加熱処理を行うことができる。
・燃焼酸素比(酸素/水素)を変えることにより、加熱室内(炉内)水素/酸素濃度を変化させることができる。これにより、処理対象に合わせて、加熱室内(炉内)の雰囲気を、酸素リッチにも、水素リッチにも調整できる。ここで、本実施例においては、吸収剤として用いている活性炭を燃焼させるために、酸素リッチにすることが好ましい。
・水(噴霧水)の添加量を変えることが可能であり、これによって、過熱水蒸気量を変化させることができる。
【0037】
ところで、本実施例において、有機化合物を含む流動体として、PFOS/PFOA等の有機化合物を吸着した活性炭を濃縮されたスラリー状の混合物の状態で、有機化合物を含む流動体の供給部21aから、水素バーナー2の中心部の流路21に供給するようにしたが、本発明の処理対象は、有機化合物を含む流動体である限り、これに限定されず、例えば、以下のものも含まれる。
・有機化合物を含む液体(例えば、泡消火剤原液、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、有害物質を含む廃油。)、粉体(例えば、PFOS/PFOA含有廃棄物(粉砕して粉状にしたもの)、残留性有機汚染物質(POPs)含有廃農薬、高濃度ポリ塩化ビフェニル(PCB)含有製造時残渣、ダイオキシン類。)、気体(例えば、クロロフルオロカーボン(CFC)等のフロンガス、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)等の代替フロンガス。)
・有機化合物を吸着した吸着剤(粉末活性炭、粒状活性炭、イオン交換樹脂(多孔質構造の架橋高分子材料)、ゼオライト、金属有機構造体(多孔性結晶性材料)。)
・毒ガス成分(例えば、硫黄マスタード、ルイサイト、ジフェニルクロロアルシン、ジフェニルシアノアルシン。)
【0038】
次に、本発明の有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置について実証試験を行った結果を、以下説明する。
PFAS類を吸着した粉末活性炭の熱分解処理を想定した場合、例えば、非特許文献1において、高温の焼却処理(約1100℃以上を推奨)が想定され、分解効率として99.999%以上であること等が求められていることから、高温過熱水蒸気を用いた手法においても1100℃以上の温度域の達成を目標とした。
【0039】
[試験装置]
図3に示す、水素バーナー2を備えた分解炉1、より具体的には、図6に示す、水素バーナーを装着して所要の滞留時間を確保できる過熱水蒸気分解炉、高温の排ガスを急冷するスクラバー(クエンチャー)、炉内を負圧維持する吸引ファン(排風機)を備えた試験装置を製作した。
試験装置の主な仕様は、以下のとおりである。
・水素バーナー燃焼容量:35kW(約30000kcal/h(常用最大))
・水素・酸素供給量比:2:1(昇温時)~2:1.2程度(粉末活性炭スラリー等供給時)
・炉内寸法:φ400mm×L 1585mm
・炉内温度:最高温度1250℃(耐火物の耐熱温度)、技術的な最高温度は1600℃
・液体・スラリー供給量:2.5kg/h(常用)
・炉内圧力:0~-0.3kPa程度(負圧制御)
・燃焼ガスの滞留時間:2秒以上
・スクラバースプレー:4L/min×3個
なお、試験装置の特徴は、以下のとおりである。
・燃料燃焼由来のCOの排出がゼロである。
・排ガス急冷で過熱水蒸気は水(液体)になるため、排ガス量が極めて少量である。
・水素バーナーから液体、スラリーの供給(燃焼火炎中に直接供給)が可能である。
【0040】
[試験方法]
(1)PFOS等を吸着した粉末活性炭スラリーの作製
過去に使用されていた、PFOSを約2%含むとされる泡消火薬液を水道水に5000倍希釈となるように添加し、撹拌機を用いて数日間泡立たないように撹拌した。
次に、浄水・排水処理、有機物除去等の用途に汎用されている木質の粉末活性炭(WET品(湿潤状態))を固形分が10%となるように添加し、同様に数日間撹拌して泡消火薬液に含まれるPFOS等を粉末活性炭に吸着させた後、分解処理試験に供した。
【0041】
(2)分解処理条件
図3及び図6に示す試験装置において、事前に分解炉1内を約1250℃まで昇温した後、(1)で作製した固形分10%の粉末活性炭スラリーを2.5kg/hで約2時間定量供給した。処理中はスクラバー水のpHが9以上となるように24%工業用苛性ソーダを自動添加した。試験装置の運転データは連続的に記録し、収支計算の根拠とした。
【0042】
(3)分析・測定方法
試験中は吸引ファン前に設置したサンプリング孔より排ガスを採取し、PFAS類の分析に供した(採取方法等は非特許文献1に準じた。)。併せて、フッ化水素、フロン類(CF、CHF、CH、C)、排ガス連続分析計(O、CO、CO、NO、SO)による測定を実施した。また、粉末活性炭に吸着したPFAS類の含有量、スラリーろ液及びスクラバー水(処理前・後)のPFAS類の濃度を固相抽出-LC/MS/MS法で分析し、分解効率、分解除去効率の算出に用いた。
【0043】
[試験結果]
(1)分解処理試験データ
主な分解処理試験データを表1に示す。
粉末活性炭スラリー含水率は実測で91.5%(固形分8.5%)であったが、設定の含水率90%(固形分10%)を採用して分解効率等を評価した。スクラバー水量を処理前後で測定し、処理に伴い過熱水蒸気が凝縮して水量が増加することを確認した。なお、粉末活性炭スラリーを処理している時間帯の炉内温度は、1250~1290℃程度で、
常に1100℃以上を確保していた。
【0044】
【表1】
【0045】
(2)PFOS等の分解効率・分解除去効率
PFAS類の濃度はC4~C10のPFSAs(ペルフルオロスルホン酸類)、C4~C14のPFCAs(ペルフルオロカルボン酸類)を分析したが、泡消火薬液に主に含まれるPFOSと他に濃度が高かったPFOA、PFHxS、PFHxAの4物質の結果について表2に示す。
表2に示す試験結果から、粉末活性炭固形分当たりの含有量は、PFOS:7800μg/kg、PFOA:400μg/kg、PFHxS:3400μg/kg、PFHxA:380μg/kgであった。
スクラバー水(処理前・後)からは、それぞれ微量検出され、排ガスからは、PFOS:0.4ng/mN、PFOA:5.5ng/mN、PFHxA:1.4ng/mNが検出された。PFOS+PFOA:5.9ng/mNで、非特許文献1に示された管理目標参考値(排ガス:60ng/mN)を下回る結果であった。
非特許文献1に示された方法で分解効率及び分解除去効率を算出した結果を表3に示す。
表2に示す試験結果から、泡消火薬液に主に含まれているPFOSの分解効率及び分解除去効率は共に99.9999%以上であった。次いで濃度の高かったPFHxSの分解効率及び分解除去効率は99.999%以上及び99.9999%以上であった。PFOA、PFHxAの分解効率及び分解除去効率は共に99.99%以上であった。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
(3)その他の項目
排ガス中のフッ化水素濃度は0.6mg/mN、フロン類は不検出(検出下限:0.3volppm)であった。また、排ガス連続分析計では、O:67%程度、CO:15%程度、CO:11ppm程度、NO:210ppm程度、SO:8ppm程度の値であった。
ここで、COは粉末活性炭や泡消火薬液に含まれる有機物の燃焼由来であると考えられる。
【0049】
実証試験を行った結果、初期濃度によって分解効率及び分解除去効率の値は左右されるが、PFOSでは共に99.9999%以上が得られており、適切にPFAS類が分解処理されることを確認した。
【0050】
以上、本発明の有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置について、その実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の有機化合物を含む流動体の処理方法及び処理装置は、難分解性の有機化合物等の有機化合物を、二酸化炭素排出量を増大させることなく、熱分解処理できることから、河川水、湖沼水、地下水等の環境水中に含まれるPFOS/PFOA等のPFAS類をはじめとして、難分解性の有機化合物等の有機化合物を分解処理する用途に好適に用いるこ
とができる。
【符号の説明】
【0052】
1 分解炉
1A 入口側ユニット
1B 中間ユニット
1C 中間ユニット
1D 出口側ユニット
11 排ガスの排出口
12 キャスタブル耐火物
13a 水冷ジャケット
13b 水冷ジャケット
14 サンプリングポート
15a 熱電対
15b 圧力スイッチ
15c 酸素センサ
2 水素バーナー
21 中心部の流路
22 外周部の流路
23 外周部の流路
21a 有機化合物を含む流動体の供給部
21b 噴霧用の酸素の供給部
22a 水素の供給部
23a 燃焼用の酸素の供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6