IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和電工パッケージング株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-全固体電池用外包材 図1
  • 特開-全固体電池用外包材 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026062
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】全固体電池用外包材
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/105 20210101AFI20240220BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20240220BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20240220BHJP
   H01M 50/129 20210101ALI20240220BHJP
   H01M 50/133 20210101ALI20240220BHJP
   H01M 50/141 20210101ALI20240220BHJP
   H01G 9/08 20060101ALI20240220BHJP
   H01G 11/80 20130101ALI20240220BHJP
   H01G 2/10 20060101ALI20240220BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H01M50/105
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/129
H01M50/133
H01M50/141
H01G9/08 B
H01G11/80
H01G2/10 L
B32B15/08 F
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185437
(22)【出願日】2023-10-30
(62)【分割の表示】P 2019089599の分割
【原出願日】2019-05-10
(71)【出願人】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・パッケージング
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢史
(57)【要約】
【課題】ガスバリア性を向上できる帯電デバイス用外包材を提供する。
【解決手段】本発明は、内部に帯電デバイスが収容されるケーシング1を構成する帯電デバイス用外包材2を対象とする。本帯電デバイス用外包材2は、金属箔層20と、金属箔層20の外面側に積層された基材層21と、金属箔層20の内面側に積層されたシーラント層22と、シーラント層22の内面側に積層され、かつ外気成分の侵入を防止するためのガスバリア層4とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に全固体電池が収容されるケーシングを構成する全固体電池用外包材であって、
金属箔層と、
前記金属箔層の外面側に積層された基材層と、
前記金属箔層の内面側に積層されたシーラント層と、
前記シーラント層に積層され、かつ外気成分の侵入を防止するためのガスバリア層とを備え、
前記ガスバリア層は、前記シーラント層に樹脂系のフィルムが接着されることによって構成されていることを特徴とする全固体電池用外包材。
【請求項2】
前記樹脂系のフィルムは、塩化ビニリデン、塩化ビニリデン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体のうちいずれかの樹脂によって構成されている請求項1に記載の全固体電池用外包材。
【請求項3】
前記樹脂系のフィルムは、前記シーラント層に接着剤によって接着されている請求項1または2に記載の全固体電池用外包材。
【請求項4】
前記樹脂系のフィルムは、前記シーラント層の内面側に接着されている請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体電池用外包材。
【請求項5】
前記ガスバリア層は絶縁体によって構成されている請求項4に記載の全固体電池用外包材。
【請求項6】
前記ガスバリア層の厚みが0.001μm~2μmに設定されている請求項1~5のいずれか1項に記載の全固体電池用外包材。
【請求項7】
内部に全固体電池が収容される全固体電池用ケーシングであって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の外包材によって構成されていることを特徴とする全固体電池用ケーシング。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の外包材によって構成されたケーシングと、
前記ケーシング内に収容された全固体電池とを備えることを特徴とするバッテリー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スマートフォン等のモバイル電子機器に使用される電池やコンデンサ、自動車や発電機等の蓄電用に使用される電池やコンデンサ等の蓄電デバイスの外包材として用いられる蓄電デバイス用外包材およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電池やコンデンサ(キャパシタ)等の蓄電デバイスは例えば、スマートフォン、タブレット、ビデオカメラ、ノートパソコン等のモバイル電子機器、ハイブリッド自動車、電気自動車の給電用の電池の他、風力発電機、太陽光発電機、夜間電気蓄電機等の蓄電機として用いられる。
【0003】
蓄電デバイスとして用いられるリチウムイオン2次電池や、電気二重層キャパシタ(ウルトラキャパシタ、スーパーキャパシタ)のケーシング(外包材)としては一般に、金属缶等が用いられていたが、近年、小型化、形状の自由度の向上を図るために、蓄電デバイス用外包材として、ラミネート材(積層体)を用いる技術が提案されている。
【0004】
従来、多く用いられている液体電解質を使用したリチウムイオン2次電池等では、外包材の腐食劣化等により液漏れやデントライトの発生によりセパレータが破壊されて、短絡による発火等が発生するおそれがあるため、耐腐食性や液漏れの観点から外包材の研究開発が進められている。例えば液体電解質の電池の場合、電解液に対するケーシングの腐食性を向上させるために、ケーシングを構成する外包材の内面側に、耐食性が高い材料が用いられる。
【0005】
その一方、固体電解質の2次電池(全固体電池)は、液漏れやデントライトの発生がなく、発火要因が少ないため、安全性の面等から大いに注目されている。さらに全固体電池は、電解質が固体であるため、外包材の内面側に使用される材料は、さほど高い耐食性が要求されることもない。
【0006】
ところが、全固体電池は、ケーシングの内部に電解液等の液体が存在しないため、電極活物質や固体電解質そのものが液体によって保護されない状態となる。換言すると、固体電解質や電極活物質は、大気中の酸素や湿気(水分)等の外気成分が侵入すると、その酸素や水分等による悪影響を受けやすいため、酸素や水分等の侵入を確実に防止することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5463902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況下にあって例えば、特許文献1には、酸素や水分等の侵入を防止するために、電池用外包材のガスバリア性を向上させる技術が提案されている。しかしながら、蓄電デバイス用外包材の技術分野特に、全固体電池用外包材の技術分野においては、ガスバリア性の向上が可及的に求められているのが現状であり、より一層、ガスバリア性の向上が切望されている。
【0009】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ガスバリア性を向上させることができる蓄電デバイス用外包材およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0011】
[1]内部に蓄電デバイスが収容されるケーシングを構成する蓄電デバイス用外包材であって、
金属箔層と、
前記金属箔層の外面側に積層された基材層と、
前記金属箔層の内面側に積層されたシーラント層と、
前記シーラント層の内面側に積層され、かつ外気成分の侵入を防止するためのガスバリア層とを備えたことを特徴とする蓄電デバイス用外包材。
【0012】
[2]前記ガスバリア層は絶縁体によって構成されている前項1に記載の蓄電デバイス用外包材。
【0013】
[3]前記ガスバリア層は、アルミニウム、シリコン、マグネシウムおよびこれらの合金の中から選択された1種または2種以上の無機酸化物を含む前項1または2に記載の蓄電デバイス用外包材。
【0014】
[4]前記ガスバリア層の厚みが0.001μm~2μmに設定されている前項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外包材。
【0015】
[5]前記ガスバリア層が蒸着膜によって構成されている前項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外包材。
【0016】
[6]前記シーラント層の周縁部の内面側に微細凹凸部が形成されている前項1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外包材。
【0017】
[7]内部に蓄電デバイスが収容される蓄電デバイス用ケーシングであって、
前項1~6のいずれか1項に記載の外包材によって構成されていることを特徴とする蓄電デバイス用ケーシング。
【0018】
[8]前記外包材の周縁部における前記シーラント層同士が前記ガスバリア層を介して接合一体化されるとともに、
前記外包材の周縁部における接合部に、前記ガスバリア層に含まれる無機酸化物のフィラー粒子が含有されている請求項7に記載の蓄電デバイス用ケーシング。
【0019】
[9]前項1~6のいずれか1項に記載の外包材によって構成されたケーシングと、
前記ケーシング内に収容された電池とを備えることを特徴とするバッテリー装置。
【0020】
[10]前記電池が全固体電池によって構成されている前項9に記載のバッテリー装置。
【発明の効果】
【0021】
発明[1]の蓄電デバイス用外包材によれば、シーラント層の内面にガスバリア層を形成しているため、シーラント層を、他の外包材のシーラント層等に対し熱接着等により接合した際に、その接合部にガスバリア層が存在することになる。このためシーラント層の接合部から外気成分が侵入するのを防止でき、ガスバリア性を向上させることができる。
【0022】
発明[2]の蓄電デバイス用外包材によれば、蓄電デバイスと接触するガスバリア層が絶縁体によって構成されているため、蓄電デバイスの短絡を確実に防止することができる。
【0023】
発明[3]の蓄電デバイス用外包材によれば、ガスバリア層が無機酸化物を含んでいるため、特に悪影響を受けやすい酸素や水分の侵入を防止することができる。
【0024】
発明[4]の蓄電デバイス用外包材によれば、ガスバリア層の厚みを特定しているため、シーラント層を、他の外包材のシーラント層等に対し熱接着等により接合する際に、ガスバリア層の存在による悪影響を回避でき、熱接着処理を不具合なく行うことができる。
【0025】
発明[5]の蓄電デバイス用外包材によれば、ガスバリア層を蒸着膜によって形成しているため、所望の厚みのガスバリア層を確実に形成することができる。
【0026】
発明[6]の蓄電デバイス用外包材によれば、シーラント層の内面側に微細凹凸部が形成されているため、シーラント層を、他の外包材のシーラント層等に対し熱接着等により接合した際に接着強度を高めることができる。
【0027】
発明[7]の発明によれば、上記と同様の効果を奏する蓄電デバイス用ケーシングを提供することができる。
【0028】
発明[8]の蓄電デバイス用ケーシングによれば、外包材同士の接合部から外気成分が侵入するのをより一層確実に防止することができる。
【0029】
発明[9][10]の発明によれば、上記と同様の効果を奏するバッテリー装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1はこの発明の実施形態である蓄電デバイス用外包材を模式化して示す断面図である。
図2図2は実施形態の外包材を用いて作製された全固体電池用のケーシングを模式化して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1はこの発明の実施形態である蓄電デバイス用外包材1を模式化して示す断面図である。同図に示すように、本実施形態で用いられる外包材2は、ラミネートシート等の積層体によって構成されており、後述するように全固体電池が用いられたバッテリー装置(電池パック)のケーシングを構成するものである。
【0032】
この外包材2は、金属箔層20と、金属箔層20の外面側に外側接着剤層31を介して積層状に接着された基材層21と、金属箔層20の内面側に内側接着剤層32を介して積層状に接着されたシーラント層22と、シーラント層22の内面側に積層一体化されたガスバリア層4とを備えている。つまり本実施形態の外包材2は、基材層/外側接着剤層/金属箔層/内側接着剤層/シーラント層/ガスバリア層からなる積層体によって構成されている。
【0033】
なお本明細書および特許請求の範囲において、「箔」という用語は、フィルムも含む意味で用いられ、「フィルム」という用語は、シート、薄板も含む意味で用いられている。
【0034】
本実施形態において基材層21は、厚さが5μm~50μmの耐熱性樹脂等によって構成されている。この基材層21としては、延伸ポリアミドフィルム、延伸ポリエステルフィルム、延伸ポリオレフィンフィルムを用いることができ、特に耐熱性を考慮した場合、延伸芳香族系ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルケトン(PEEK)フィルムを好適に用いることができる。
【0035】
金属箔層20は、厚さが5μm~120μmに設定されており、表面(外面)側から酸素や水分の侵入をブロックする機能を有している。この金属箔層20としては、アルミニウム箔、SUS箔(ステンレス箔)、銅箔、ニッケル箔等を好適に用いることができる。なお本実施形態において、「アルミニウム」「銅」「ニッケル」という用語は、それらの合金も含む意味で用いられている。
【0036】
また金属箔層20にメッキ処理等を行うと、ピンホールが発生するリスクが少なくなり、より一層、酸素や水分の侵入をブロックする機能を向上させることができる。
【0037】
さらに金属箔層20にクロメート処理のような化成処理等を行うと、耐腐食性が一層向上するため、欠損等の不具合が発生するのをより確実に防止でき、また樹脂との接着性を向上させるといった耐久性を一段と向上させることができる。
【0038】
化成処理は、例えば、脱脂処理を行った金属箔の表面に、下記の1)~3)のうちいずれかの水溶液を塗工した後、乾燥することにより行うものである。
【0039】
1)リン酸と、クロム酸と、フッ化物の金属塩およびフッ化物の非金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液
2)リン酸と、アクリル系樹脂、キトサン誘導体樹脂およびフェノール系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、クロム酸およびクロム(III)塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液
3)リン酸と、アクリル系樹脂、キトサン誘導体樹脂およびフェノール系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂と、クロム酸およびクロム(III)塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、フッ化物の金属塩およびフッ化物の非金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、を含む混合物の水溶液
上記化成処理により金属箔の表面に形成される皮膜、すなわち下地層は、クロム付着量(片面当たり)を0.1mg/m~50mg/mとするのが好ましく、特に、2mg/m~20mg/mとするのが好ましい。
【0040】
金属箔層20に基材層21を貼り付けるための外側接着剤層31の接着剤としては、2液硬化型ウレタン系接着剤、オレフィン系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤等を好適に用いることができる。さらに耐熱性を考慮すると、無機系接着剤、エポキシ系接着剤を用いるのが良い。ただしエポキシ系接着剤は硬化温度範囲が高くなるおそれがある。
【0041】
シーラント層22は、厚さが15μm~120μmに設定されており、熱接着性(熱融着性)樹脂等のフィルムによって構成されている。このシーラント層22を構成する樹脂としては、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、オレフィン系重合体、これらの酸変性物およびアイオノマーからなる群等を用いることができ、特に耐熱性を考慮した場合、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)を好適に用いることができる。
【0042】
金属箔層20にシーラント層22を貼り付けるための内側接着剤層32の接着剤としては、上記外側接着剤層31と同種の接着剤を用いることができる。すなわち本実施形態においては、後述するようにケーシング内に全固体電池が収容されるため、液体電解質が存在せず、内側接着剤層32として、耐電解質性が求められないから、上記外側接着剤層31と同種の接着剤を用いることができる。
【0043】
ガスバリア層4としては、アルミニウム、シリコン、マグネシウムおよびこれらの合金の中から選択された1種または2種以上の無機酸化物を含む層を好適に用いることができる。
【0044】
なお本実施形態においては、固体電解質によるベアセルを絶縁性の樹脂でコーティングしたものをケーシング内に封入する場合には、ガスバリア層4として、絶縁性は絶対条件ではなくなるため、既述したようにアルミニウム等も支障なく採用することができる。
【0045】
本実施形態において、ガスバリア層4は、上記の無機酸化物を、シーラント層22を構成するフィルムに、ドライコーティングによって蒸着して塗膜した蒸着膜によって構成するのが好ましい。すなわちドライコーティングによって塗膜することによって、ガスバリア層4を、形成予定領域の全域にわたって形成でき、その形成予定領域にガスバリア層4が欠落する部分が発生するのを確実に防止でき、ガスバリア性を十分に向上させることができる。さらにガスバリア層4を全域に均一に薄く形成できるため、後述するように、シーランド層22をヒートシールする際に、ガスバリア層4の存在による悪影響を回避でき、熱接着処理を不具合なく行うことができる。
【0046】
ドライコーティングとしては、CVD法、PVD法(スパッタリング法、イオンビーム法等)等の周知の方法を採用することができる。
【0047】
ガスバリア層4の厚さは、0.001μm~2μmに設定するのが好ましい。
【0048】
なお本実施形態において、ガスバリア層4としては、上記の無機酸化物以外にも、金属アルコキシドを採用するようにしても良い。
【0049】
さらにガスバリア層4としては、樹脂系のものも使用することができる。例えば塩化ビニリデン(PVDC)、塩化ビニリデン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)等を採用することもできる。
【0050】
これらの樹脂系のフィルムは、シーラント層22上に接着剤等によって接着することにより、ガスバリア層4を形成することができる。
【0051】
またガスバリア層4は、ウェットコーティング例えば、グラビアコート、リバースコート、ダイコート等を用いて、シーラント層22上に積層することもできる。
【0052】
本実施形態において外包材2は上記の構成を有しており、図2に示すようにこの外包材2によって全固体電池10を被覆することによってバッテリー装置を作製するものである。すなわち矩形状に形成された2枚の外包材2,2が全固体電池(セル)10を介して上下に重ね合わされて、両外包材2,2における外周縁部のシーラント層22,22同士がガスバリア層4,4を介して熱接着(ヒートシール)によって気密状態(封止状態)に接合一体化されることにより、外包材2,2からなる袋状のケーシング1内に全固体電池10が収容されたバッテリー装置が製作される。
【0053】
ここで本実施形態において、外包材2,2同士を熱接着する前に予め、外包材2の外周縁部における接合面(内面)に、ローレット加工が施されており、その接合面に微細凹凸部が形成されている。このため外包材2,2の外周縁部間の熱接着性を向上させることができ、外包材2,2間の接着強度を十分に高めることができ、良好なシール性を得ることができる。
【0054】
また本実施形態において、ケーシング1内の全固体電池10は既述した通り、酸素や水分等の外気成分による悪影響を受けやすいため、外包材2,2の熱接着処理(ヒートシール処理)を、ヘリウムや乾燥窒素で置換された環境下で行うようにしている。このためケーシング1内に、酸素や水分の残留量を極力低減でき、酸素や水分による全固体電池10への悪影響を十分に回避でき、電力供給を安定した状態で行うことができ、良好な電池性能を得ることができる。
【0055】
特に本実施形態においては、外包材2,2の熱接着処理を、減圧下で行うようにしている。このため、ケーシング1内に残留する酸素や水分の量を一段と低減でき、良好な電池性能を確実に得ることができる。
【0056】
本実施形態のバッテリー装置において、ケーシング1における外包材2,2同士の接合部としてのシール部(熱接着部)5は、シーラント層22を構成する樹脂と、ガスバリア層4を構成する無機酸化物とが混在し、そのシール部5中に無機酸化物が、フィラー(隙間充填材)として細かく密に分散した状態に配置されている。このため外包材2,2間のシール部5からケーシング1内に侵入しようとする酸素や水分等の外気成分は、シール部5における無機酸化物の隙間を縫うように通過することになり、侵入経路が非常に長く複雑になり、その結果、外包材2,2間のシール部5から、酸素や水分等の外気成分がケーシング1内に侵入するのを確実に防止することができる。
【0057】
なお本実施形態のバッテリー装置においては、外包材2,2の外表面から外包材2内を通過してケーシング1内に侵入しようとする外気成分は、金属箔層20と、ガスバリア層4との2重の層でブロックされるため、外包材2,2の外表面から外気成分が侵入するのも確実に防止することができる。
【0058】
このように本実施形態のバッテリー装置によれば、ケーシング1内に酸素や水分等の外気成分が侵入するのを確実に防止できるため、安定した電力供給を長期間維持できて、信頼性が高い高品質のバッテリー装置を提供することができる。
【0059】
なお上記実施形態においては、ケーシング内に全固体電池が収容した場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、ケーシング内に、液体電解質を含むリチウムイオン2次電池のような、固体電池以外の電池を収容するようにしても良い。
【0060】
さらに上記実施形態においては、ケーシング内に、蓄電デバイスとして電池を収容したバッテリー装置(電池パック)を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明は、ケーシング内に、コンデンサ(キャパシタ)等の蓄電デバイスを収容した蓄電機にも適用することができる。
【0061】
また上記実施形態においては、2枚の外包材を用いてケーシングを製作する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、1枚の外包材を2つ折りに折り重ねて、重なり合った外包材のうち、折り返し部を除く外周縁部を熱接着して接合一体化することによって、ケーシングを製作するようにしても良い。さらに言うまでもなく、本発明においては3枚以上の外包材を用いて1つのケーシングを製作するようにしても良い。
【0062】
また上記実施形態においては、フィルムないしシート状の外包材を用いてケーシングを製作する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、外包材を所定の3次元形状に熱成形し、その3次元形状の外包材を用いてケーシングを製作するようにしても良い。
【実施例0063】
<実施例1>
外包材1を作製するに際し、金属箔層20として、厚さ35μmのJIS H4160で規定されたA8021-Oよりなるアルミニウム箔の両面にポリアクリル酸、三価クロム化合物、水およびアルコールからなる化成処理液を塗布し、180℃で乾燥を行って、クロム付着量が片面当り10mg/m2となるように化成処理を施したものを準備した。
【0064】
金属箔層20としての上記金属箔層部材の一方の面(外面)に、外側接着剤層31としての2μmの厚みで塗布した2液硬化型のポリエステル―ポリウレタン接着剤を介して、基材層22としての厚さ20μmの2軸延伸した6-ナイロンフィルムを接着した。
【0065】
続いて、シーラント層22としての厚さ30μmの無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムを他方の面(内面)に、シリコンモノオキサイドをエレクトロンビーム加熱することによりシリカ(酸化シリコン)の蒸着膜(厚さ0.1μm)を積層し、ガスバリア層4を形成した。
【0066】
続いて、上記基材層22付きの金属箔層20の他方の面(内面)に、ガスバリア層4付きのシーラント層22の一方の面(外面)を、内側接着剤層32としての2μmの厚みで塗布した2液硬化型のポリエステル―ポリウレタン接着剤を介して接着して、外包材用の積層体を作製した。
【0067】
次に上記外包材用の積層体に40℃で10日間ヒートエージング処理を行って、実施例1の外包材1を作製した。
【0068】
<実施例2>
シーラント層22の内面に積層されるガスバリア層4として、シリカ製の蒸着膜に代えて、厚さ2μmの塩化ビニリデン樹脂をコートしたコーティング層を積層した以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2の外包材1を作製した。
【0069】
<比較例>
ガスバリア層を備えていない点を除いて、上記実施例1と同様にして、比較例の外包材を作製した。
【0070】
<シール強度の評価>
実施例1の外包材から、幅15mm×長さ150mmの2枚(一対)の外包材サンプルを切り出し、これら一対の外包材サンプルを互いの内面同士(シーラント層同士)を、ガスバリア層を介して接触するように重ね合わせた状態で、テスター産業株式会社製のヒートシール装置(TP-701-A)を用いて、ヒートシール温度:200℃、シール圧:0.2MPa(ゲージ表示圧)、シール時間:2秒の条件にて片面加熱によりヒートシールを行って、実施例1のケーシングサンプルを作製した。
【0071】
次に、上記のように得られたケーシングサンプルに対し、JIS Z0238-1998に準拠して、島津アクセス社製ストログラフ(AGS-5kNX)を使用して、一対の外包材サンプルのシール部であるシーラント層部において、引張強度100mm/分で90度剥離させた時の剥離強度を測定し、これをシール強度(N/15mm幅)とした。その結果を表1に示す。
【0072】
実施例2および比較例の外包材においても、上記実施例1と同様にケーシングサンプルをそれぞれ作製して、同様にシール強度(N/15mm幅)をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1から判るように、実施例1,2および比較例のケーシングサンプルのいずれにおいても、十分なシール強度を確保しており、良好なシール性を備えていた。
【0075】
<ガスバリア性の評価>
実施例1の外包材を用いて、上記と同様の一対の外包材サンプルを重ね合わせて周囲4辺のうち、3辺をヒートシールによって封止して、1辺を開放したままの3方袋を2つ準備した。
【0076】
続いてドライ窒素で置換したグローブボックス内の環境下において、一方の3方袋内に酸素検知剤を収容して、開放された1辺(1方の口)を減圧下でヒートシールによって封止して、酸素評価用サンプルを準備するとともに、他方の3方袋内に塩化コバルト紙(水分検知剤)を収容して同様に1方の口を封止して、水分評価用サンプルを準備した。
【0077】
なお、酸素検知剤は、酸素濃度が少ない場合にピンクに多く変色し、酸素濃度が多い場合にブルーに多く変色するタイプのものである。また塩化コバルト紙(水分検知剤)は、水や湿気等の水分に触れて感知した場合にブルーからピンクに変色するものである。
【0078】
1.酸素侵入に対する評価
矩形状のアルミラミネート材を2枚重ね合わせて、周囲4辺のうち、3辺を封止した3方袋状の検査容器内に、上記酸素評価用サンプルを収容して、検査容器内を酸素ガスで置換した後、検査容器の1方の口を封止して密閉した。その状態で、30日間常温で静置し、その後、酸素評価用サンプルを取り出して、酸素検知剤の変色具合を目視で観察して、サンプル内に酸素が侵入したか否かの評価を行った。その結果を表2に示す。
【0079】
2.水分侵入に対する評価
上記水分評価用サンプルを、40℃、90RH(相対湿度)の環境下で60日間静置した。その後、水分評価剤の変色具合を目視で観察して、サンプル内に水分(湿気)が侵入したか否かの評価を行った。その結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
実施例2の外包材、比較例の外包材に対しても上記と同様に、酸素評価用サンプルおよび水分評価用サンプルをそれぞれ作製し、同様に、酸素および水分の侵入に対する評価を行った。その結果を表2に示す。
【0082】
表2から判るように、本発明に関連した実施例1,2のサンプルは、酸素や水分の侵入が認められず、酸素や水分に対し十分なガスバリア性を備えており、特に、酸素や水分による悪影響を受けやすい全固体電池用のケーシング(外包材)として好適に用いることができると考えられる。
【0083】
また比較例のサンプルは、水分の侵入は認められないものの、酸素の浸入が僅かに認められ、酸素に対するバリア性が、実施例1,2と比較して劣っていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
この発明の蓄電デバイス用外包材は、全固体電池等の電池を収容したバッテリー装置のケーシングの材料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
1:ケーシング
10:電池(蓄電デバイス)
2:外包材
20:金属箔層
21:基材層
22:シーラント層
4:ガスバリア層
5:シール部(接合部)
図1
図2