(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002608
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、およびこれを用いたプリプレグ、構造体
(51)【国際特許分類】
C08G 59/40 20060101AFI20231228BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C08G59/40
C08J5/24 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101907
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】渡部 直輝
【テーマコード(参考)】
4F072
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AD28
4F072AD31
4F072AE01
4F072AE02
4F072AF13
4F072AF14
4F072AF19
4F072AF25
4F072AG03
4F072AH02
4F072AJ22
4F072AL02
4F072AL11
4F072AL17
4J036AA01
4J036AC01
4J036AC18
4J036AD01
4J036AF01
4J036AF06
4J036DA05
4J036DA06
4J036DB05
4J036FA12
4J036JA08
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】軽量化と良好な機械的強度を従来よりも高水準で両立するエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、以下の式(1)で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物と、を含む。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2は各々独立して炭素数4~12の飽和炭化水素基を表す。X
1、X
2は各々独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表し、n、mは各々独立して0~2の整数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、以下の式(1)で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物と、を含む、エポキシ樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2は各々独立して炭素数4~12の飽和炭化水素基を表す。X
1、X
2は各々独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表し、n、mは各々独立して0~2の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ基数(EP)とフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP/OH)が、0.9以上1.5以下である、エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂の含有量が、当該樹脂組成物全量に対して、1質量%以上50質量%以下である、エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、多官能エポキシ樹脂を含む、エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物であって、
さらに硬化促進剤を含む、エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物であって、
当該フェノール化合物の融点が30~200℃である、エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物を基材に含浸させてなる、プリプレグ。
【請求項8】
請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物を備える、構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、およびこれを用いたプリプレグ、構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂は種々の硬化剤で硬化させることにより、機械特性、耐水性、耐薬品性、耐熱性、電気的性質などに優れた硬化物となり、構造物、接着剤、塗料、積層板、成形材料などの幅広い分野に利用されている。なかでも、エポキシ樹脂を多官能とすることで機械的強度を良好にできることが知られている。例えば、特許文献1には、機械特性等に優れたエポキシ樹脂組成物を得る点から、芳香環上に置換基を有していてもよいナフトール構造と、芳香環上の置換基として炭素原子数4~8のアルキル基を有するカテコール構造とが、置換基を有していてもよいメチレン基を介して結合してなることを特徴とする多官能フェノール樹脂をから得られた多官能エポキシ樹脂を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、エネルギー効率の観点から、輸送機械等の部品の金属代替による軽量化が盛んに行われている。エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂は、金属よりも軽量でありながらも機械的特性、耐熱性等に優れることから、金属代替部品として注目されている。
しかしながら、特許文献1に開示されるような従来の技術においては、機械的特性を良好にしつつも、エポキシ樹脂組成物自体を軽量化する点で十分ではなかった。
【0005】
そこで本発明者は、機械的特性を保持しつつも、軽量化を実現できる新たなエポキシ樹脂組成物の開発に着目した。その結果、エポキシ樹脂と特定のフルオレン骨格を有するフェノール化合物を用いることで、従来公知のフェノール系硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物によって得られる良好な機械的強度を保持しつつも、軽量化できることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下のエポキシ樹脂組成物、およびこれを用いたプリプレグ、構造体が提供される。
【0007】
[1] エポキシ樹脂と、以下の式(1)で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物と、を含む、エポキシ樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2は各々独立して炭素数4~12の飽和炭化水素基を表す。X
1、X
2は各々独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表し、n、mは各々独立して0~2の整数を表す。)
[2] [1]に記載のエポキシ樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ基数(EP)とフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP/OH)が、0.9以上1.5以下である、エポキシ樹脂組成物。
[3] [1]または[2]に記載のエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂の含有量が、当該樹脂組成物全量に対して、1質量%以上50質量%以下である、エポキシ樹脂組成物。
[4] [1]乃至[3]いずれか一つに記載のエポキシ樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂が、多官能エポキシ樹脂を含む、エポキシ樹脂組成物。
[5] [1]乃至[4]いずれか一つに記載のエポキシ樹脂組成物であって、
さらに硬化促進剤を含む、エポキシ樹脂組成物。
[6] [1]乃至[5]いずれか一つに記載のエポキシ樹脂組成物であって、
当該フェノール化合物の融点が30~200℃である、エポキシ樹脂組成物。
[7] [1]乃至[6]いずれか一つに記載のエポキシ樹脂組成物を基材に含浸させてなる、プリプレグ。
[8] [1]乃至[6]いずれか一つに記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物を備える、構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な機械的強度を保持しつつも、軽量化を実現できるエポキシ樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例のフェノール化合物(A)の
1H-NMR測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0012】
<エポキシ樹脂組成物>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物(以下「樹脂組成物」とも称する)は、エポキシ樹脂と、以下の式(1)で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物(以下「フェノール化合物(A)」とも称する)と、を含む。
【0013】
【化2】
(式(1)中、R
1、R
2は各々独立して炭素数4~12の飽和炭化水素基を表す。X
1、X
2は各々独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表し、n、mは各々独立して0~2の整数を表す。)
【0014】
本実施形態において、フェノール化合物(A)が式(1)で表されるフルオレン骨格を有することにより、本実施形態の樹脂組成物の硬化物の軽量化を実現しつつも、良好な強度を保持できる。かかる理由の詳細は明らかではないが、複数の芳香族基により剛直性・機械的強度を得つつも嵩高くなることで低比重としつつ、炭素数が比較的多い飽和炭化水素基により靭性を得つつも軽量化を図れると推測される。
【0015】
以下、本実施形態の樹脂組成物に含まれる成分について説明する。
【0016】
[フェノール化合物(A)]
フェノール化合物(A)は、上記式(1)で表されるフルオレン骨格を有する。
式(1)中、芳香族基としては、各々独立して、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセン基等が挙げられるが、なかでも、フェニル基、ビフェニル基であることが好ましい。すなわち、複数のフェニル基が単結合で共有結合したものが好適である。
【0017】
また、式(1)中、R1、R2は各々独立して炭素数4~12の飽和炭化水素基であり、好ましくは炭素数6~11の飽和炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素数8~10の飽和炭化水素基である。また、R1、R2の飽和炭化水素基は各々、直鎖または分岐のいずれかであり、軽量化しやすくする点からいずれも直鎖であることが好ましい。
【0018】
本実施形態のフェノール化合物(A)の融点は、好ましくは30~200℃であり、より好ましくは80~190℃であり、さらに好ましくは130~180℃である。
【0019】
次に、フェノール化合物(A)の製造方法について説明する。
フェノール化合物(A)は、フェノール類(p)と、フルオレン類(f)とを、塩基性触媒(b)の存在下で反応させることによって得られる。フェノール類(p)およびフルオレン類(f)は、いずれか一方の芳香環上にボロン酸が結合し、他の一方の芳香環にハロゲンが結合している。
【0020】
フェノール類(p)としては、フェノール;o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等のクレゾール類;o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール等のエチルフェノール類;イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール等のブチルフェノール類;p-tert-アミルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール類;フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類;p-フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体:1-ナフトール、2-ナフトール等の1価のフェノール類;およびレゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類等が挙げられ、これらのうち芳香環上にボロン酸が結合したもの、または、芳香環にハロゲンが結合したものが用いられる。また、フェノール類(p)は、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0021】
より具体的には、以下の式(a-1)~(a-3)に示される構造を有するものが挙げられる。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
フルオレン類(f)としては、炭素数4~12のアルキル置換フルオレン類が挙げられる。例えば、9,9-ジブチルフルオレン、9,9-ジペンチルフルオレン、9,9-ヘキシルフルオレン、9,9-ジヘプチルフルオレン、9,9-ジオクチルフルオレン、9,9-ジノニルフルオレン、9,9-ジデシルフルオレン、9,9-ジウンデシルフルオレン、9,9-ジドデシルフルオレン、およびこれらの誘導体が挙げられ、これらのうち芳香環上にボロン酸が結合したもの、または、芳香環にハロゲンが結合したものが用いられる。
【0026】
また、フルオレン類(f)にハロゲンが結合している具体例としては、以下の式(2)で示されるものが挙げられる。
【0027】
【化6】
(式(2)中、R
5、R
6は各々独立して炭素数4~12の飽和炭化水素基を表す。Y
1、Y
2は各々独立して臭素、ヨウ素、塩素、またはフッ素のいずれかのハロゲン原子を示す。)
【0028】
塩基性触媒(b)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;石灰等の酸化物;亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩;リン酸ナトリウム等のリン酸塩;アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン、ピリジン等のアミン類等が挙げられる。
【0029】
また、カップリング反応を進行させる触媒として、さらに、パラジウム触媒を用いてもよい。パラジウム触媒としては、たとえばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh3)4)や、パラジウム炭素等が挙げられる。
また、水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、二相間での反応を促進させる目的で、さらに、相間移動触媒を用いてもよい。相間移動触媒としては、たとえばテトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等が挙げられる。
【0030】
また、反応溶媒としては、水が一般的であるが、有機溶媒を使用してもよい。
有機溶媒としては、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類、芳香族類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。
アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。エーテル類の具体例としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン等の環状エーテルが挙げられる。ケトン類の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。芳香族類の具体例としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
これらは、単独で使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。なかでも、水と、アルコール類、エーテル類の混合溶媒であることが好ましい。
【0031】
フェノール類(p)とフルオレン類(f)は、モル比(p/f)で1.5~3となるように用いられることが好ましい。また、塩基性触媒(b)とフェノール類(p)は、モル比(b/p)で1.5~3となるように調製されることが好ましい。フェノール類(p)とフルオレン類(f)を、80~110℃、12~36時間反応させることで、式(1)で表されるフルオレン骨格を有するフェノール化合物(A)が得られる。
またこれらの工程は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0032】
[エポキシ樹脂]
本実施形態のエポキシ樹脂は、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。本実施形態において、エポキシ樹脂は、たとえばビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等に例示されるトリスフェノール型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。これらのうち、ビフェニル型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、およびテトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ならびにスチルベン型エポキシ樹脂は結晶性を有するものであることが好ましい。
本実施形態においては、成形性や耐熱性等を向上させる観点から、アラルキル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、またはトリスフェノール型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0033】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ基数(EP)とフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP/OH)は、0.9以上1.5以下であることが好ましく、1.0~1.3であることがより好ましい。
これにより、硬化物の機械的強度を効果的に向上できる。
【0034】
本実施形態の樹脂組成物は、さらに以下の成分を含んでもよい。
【0035】
[硬化促進剤]
本実施形態の樹脂組成物は、さらに硬化促進剤を含むことができる。
上記硬化促進剤としては、エポキシ樹脂とフェノール化合物(A)との架橋反応を促進させるものであればよく、一般の樹脂組成物に使用するものを用いることができる。
【0036】
本実施形態において、硬化促進剤は、たとえば有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等が例示されるアミジンや3級アミン、前記アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物から選択される1種類または2種類以上を含むことができる。これらの中でも、硬化性を向上させる観点からはリン原子含有化合物を含むことがより好ましい。また、成形性と硬化性のバランスを向上させる観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましい。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物で用いることができる有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
【0038】
硬化促進剤の含有量は、樹脂組成物全量に対して0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましく、0.5~2質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
[硬化剤]
本実施形態の樹脂組成物は、さらに、硬化剤を用いてもよい。硬化剤としては、上記フェノール化合物(A)を除くフェノール系硬化剤、アミン類、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物等を含む酸無水物等、ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテル等のポリメルカプタン化合物、イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネート等のイソシアネート化合物、カルボン酸含有ポリエステル樹脂等の有機酸類が挙げられる。
【0040】
フェノール系硬化剤は、具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂、ノボラック樹脂、トリスフェニルメタン型のフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格および/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格および/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。また、硬化性の点から、フェノール樹脂系硬化剤の水酸基当量は、例えば90g/eq以上250g/eq以下とすることが好適である。
【0041】
当該硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは1~40質量部であり、より好ましくは10~30質量部である。
【0042】
[強化繊維]
本実施形態の樹脂組成物は強化繊維を含んでもよい。本実施形態において、強化繊維は機械的強度や耐熱性を高めるために用いられる。
強化繊維としては、例えば、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、およびエチレンビニルアルコール繊維の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。なかでも、成形品の強度向上等に効果的である点から、炭素繊維、ガラス繊維が好ましい。
また、強化繊維は、表面処理が施されていてもよい。
【0043】
また、強化繊維の含有量は、用途に応じで適宜調整されるが、例えば、樹脂組成物全量に対して、好ましくは10~70質量%、より好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは30~65質量%である。強化繊維の含有量を上記下限値以上とすることにより、機械的強度、耐熱性を向上できる。一方、強化繊維の含有量を上記上限値以下とすることにより、軽量化を実現でき、また、成型加工性を良好に保持できる。
【0044】
[硬化助剤]
本実施形態の樹脂組成物は硬化助剤を含んでもよい。
硬化助剤としては、樹脂組成物の分野で公知の硬化助剤を挙げることができる。例えば、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物;サリチル酸、安息香酸などの芳香族カルボン酸などを挙げることができる。
【0045】
[無機充填材]
本実施形態の樹脂組成物は、無機充填材を用いることができる。無機充填材により、樹脂組成物に機械的特性、寸法安定性などを付与することができる。
無機充填材としては、特に限定されないが、クレー、炭酸カルシウム、タルク、および水酸化アルミニウム等の中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。なかでも、樹脂組成物に要求される性能(機械的特性、電気的特性、難燃性、寸法安定性、耐水性等)を考慮すると、クレーを使用することがより好ましい。
なお、水酸化アルミニウムなど一部の無機充填材は難燃助剤としての効果も有する。
【0046】
上記無機充填材の含有量は、用途に応じて適宜調整されるが、例えば、樹脂組成物全体に対して1~10質量%であることが好ましく、2~5質量%であることがより好ましい。無機充填材の含有量を前記下限値以上とすることで良好な機械的特性、耐熱性を保持でき、また前記上限値以下とすることで樹脂組成物の加工性を良好にできる。
【0047】
[エラストマー]
本実施形態の樹脂組成物は、エラストマーを用いることができる。エラストマーにより、寸法安定性を保持し、成形品の靱性を高めることができる。
エラストマーとしては、アクリルニトリルブタジエンゴム、イソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム等が挙げられる。この中でもアクリルニトリリルブタジエンゴムが好ましい。
上記エラストマーの含有量は、用途に応じて適宜調整されるが、例えば、樹脂組成物全体に対して1~10質量%であることが好ましく、2~5質量%であることがより好ましい。エラストマーの含有量を前記下限値以上とすることで良好な機械的特性を保持でき、また前記上限値以下とすることで樹脂組成物の加工性を良好にできる。
【0048】
[その他成分]
本実施形態の樹脂組成物は、発明の効果を損なわない限り、上述した成分以外の他の成分を含むことができる。他の成分としては、例えば、上記を除く熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂、硬化剤、離型剤、顔料、難燃剤、密着向上剤、カップリング剤等の添加剤が挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物がこれら他の成分を含む場合、1種のみを含んでもよいし、2種以上を含んでもよい。
【0049】
上記の熱可塑性樹脂としては、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、ビスマレイミド樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂などが挙げられる。
【0050】
上記の離型剤としては、例えば、ステアリン酸などの脂肪酸、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛などの脂肪酸塩、脂肪酸アミド、ポリエチレンなどが挙げられる。
離型剤を用いる場合、その含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば0.1~10質量部、好ましくは0.1~5質量部である。
【0051】
上記の顔料として、例えば、カーボンブラックが挙げられる。その他、所望の色の成形品を得るため、各種の着色顔料なども使用可能である。
顔料を用いる場合、その含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば0.1~10質量部、好ましくは0.1~5質量部である。
【0052】
上記のカップリング剤としては、例えば、エポキシシランカップリング剤、カチオニックシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤等のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤およびシリコーンオイル型カップリング剤等が挙げられる。カップリング剤は一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。本実施形態においては、シランカップリング剤が好ましく用いられる。カップリング剤の使用により無機充填材と他成分の相溶性が向上し、樹脂組成物の機械的特性、耐熱性を向上できると考えられる。
【0053】
本実施形態の樹脂組成物は、溶剤(有機溶剤等)を含んでいてもよい。ただし、樹脂組成物としての流通や取扱いの容易性、作業環境におけるVOC発生抑制などの観点から、本実施形態の樹脂組成物は、溶剤(有機溶剤等)を実質的に含まないことが好ましい。
【0054】
[ガラス転移温度]
本実施形態の樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度は、80~180℃であることが好ましく、90~150℃であることがより好ましく、100~125℃であることがさらに好ましい。これにより、良好な成形性を保持しつつ、熱的特性を向上できる。
【0055】
[形態]
本実施形態の樹脂組成物は、特に限定されないが、23℃で、粉粒状、顆粒状、タブレット状またはシート状のいずれかであることが好ましい。
【0056】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製法方法は、特に限定されず、上記成分を公知の方法により混合することで得られる。例えば、上記成分を配合して均一に混合後、ロール、コニーダ、二軸押出し機等の混練装置単独またはロールと他の混合装置との組合せで加熱溶融混練した後、造粒または粉砕する方法が用いられる。
【0057】
<硬化物/成形品>
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、160~220℃、5~240分の条件で硬化させることにより、硬化物とすることができる。
本実施形態の樹脂組成物を用いた成形品としては、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を基材に含浸させてなるプリプレグ、および樹脂組成物の硬化物を備える構造体等が挙げられる。
【0058】
[比重]
本実施形態の樹脂組成物の硬化物(硬化条件:180℃、120分)の比重は、好ましくは1.00~1.20であり、より好ましくは1.05~1.15である。
樹脂組成物の硬化物の比重を、上記下限値以上とすることにより、良好な強度が得られ、耐熱性、寸法安定性を保持できる。一方、樹脂組成物の硬化物の比重を、上記上限値以下とすることにより、軽量化を実現できる。
【0059】
本実施形態の成形品は、公知の方法で得ることができるが、例えば、本実施形態の樹脂組成物を溶融またはエタノール等の溶媒に溶解させて液状とし、そこに強化繊維を浸漬し、本実施形態の樹脂組成物を強化繊維内に含浸させる。その後、乾燥し、所望の形状となるように加熱プレスすることで、樹脂を硬化させ、成形品とすることができる。成形条件としては成形品の厚みにもよるが、例えば、金型温度170~190℃、成形圧力0.01~1MPa、硬化時間2~10分間で成形することができる。その後、さらに、加熱して、追硬化してもよい。
【0060】
[用途]
硬化物および成形品の用途は特に限定されない。用途としては、例えば、自動車、航空機、鉄道車両、船舶、事務機器、汎用機械、家庭用電化製品、電機機器等の各種の構造部材などを挙げることができる。また、有機繊維、金属、ガラスなどさまざまな基材に含浸して用いられる含浸用途、バインダー用途に適用することもできる。もちろん、これら以外の用途も排除されない。
【0061】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0062】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0063】
(1)フェノール化合物(A)の合成
4-ヒドロキシフェニルボロン酸(東京化成工業社製)19.0g、2,7-ジブロモ-9,9-ジ-n-オクチルフルオレン(東京化成工業社製)25.3g、炭酸カリウム(東京化成工業社製)25.4g、テトラブチルアンモニウムクロライド(東京化成工業社製)2.5gに、水83.8g、テトラヒドロフラン155.0g、エタノール31.0gを加えて溶解させた。この溶液に、窒素雰囲気化でテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業社製)2.1gを加え、オイルバスで90℃に加熱し24時間反応させた。その後有機層を取り出して有機溶媒を除去し、得られた固体をシリカゲルカラム(溶媒:ジクロロメタン)で精製することで、以下の式(3)で表されるフェノール化合物(A)(融点160℃)を16.8g得た。
【0064】
【0065】
(2)分析・測定
得られたフェノール化合物(A)について、以下の条件で
1H-NMRを測定した。結果を
図1に示す。
<
1H-NMR測定条件>
装置:日本電子株式会社製 JNM-ECA400
溶媒:DMSO(ジメチルスルホキシド)-d6
パルス角度:45°
試料濃度:3wt%
積算回数:16回
【0066】
1H-NMR測定より、フェノール化合物(A)はフルオレン構造を有していることが確認された。なお、
図1中のa~dは、以下の式で表した構造に対応する。
【0067】
【0068】
(3)実施例および比較例
以下の原料成分を用いて、表1に示す組成(質量%)となるようにそれぞれ混合し、150℃の熱板上で30秒間混練した後取り出し、顆粒状に粉砕して各エポキシ樹脂組成物を得た。
[原料]
・エポキシ樹脂1:4-(2,3-エポキシプロパン-1-イルオキシ)-N,N-ビス(2,3-エポキシプロパン-1-イル)-2-メチルアニリン(EMA)、株式会社大阪ソーダ社製
・エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂、YL6677、三菱ケミカル社製
・フェノール化合物1:ビスフェノールF、DIC-BPF、融点90℃、DIC株式会社製
・フェノール化合物2:上記で合成した式(3)で表されるフェノール化合物(A)
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(TPP)、東京化成工業株式会社製
【0069】
(4)評価
得られた各エポキシ樹脂組成物成形品について、以下の評価・測定を行った。結果を表1に示す。
・比重:各エポキシ樹脂組成物を油圧プレス装置にて0.1MPa、200℃、5分間プレス硬化させ、次いで、得られた試験片を180℃、2時間の条件で後硬化させたのち、水中置換法より各成形材料の比重を求めた。
【0070】
・曲げ強度および曲げ弾性率:各エポキシ樹脂組成物を油圧プレス装置にて0.1MPa、200℃、5分間プレス硬化させ、幅10mm、厚み1mm、長さ100mmの試験片を作成した。次いで、得られた試験片を180℃、2時間の条件で後硬化させたのち、25℃における曲げ強度(MPa)と曲げ弾性率(GPa)を測定した。
【0071】
・破断エネルギー:上記曲げ試験時における応力(stress)と歪み(strein)との関係を、グラフ化した曲線(応力-歪曲線)を作成した。次に、歪みを変数とし、曲げ試験の開始点から破断点までの応力の積分値を算出した。
【0072】
・ガラス転移点:各エポキシ樹脂組成物を油圧プレス装置にて0.1MPa、200℃、5分間プレス硬化させ、幅4mm、厚み0.5mm、長さ50mmの試験片を作成し、次いで、得られた試験片を180℃、2時間の条件で後硬化させてサンプルとした。得られたサンプルを0-350℃、昇温速度10℃/分の条件で引張モードの熱機械解析を行い、位置変化量グラフの変曲点からガラス転移点を求めた。
【0073】