(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026086
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】細胞ベースの治療法を用いて癌および感染性疾患を処置する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20240220BHJP
C12N 15/57 20060101ALN20240220BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
C12N5/0783
C12N15/57
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023193094
(22)【出願日】2023-11-13
(62)【分割の表示】P 2021189852の分割
【原出願日】2017-04-05
(31)【優先権主張番号】62/319,957
(32)【優先日】2016-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504391260
【氏名又は名称】エモリー ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ウォーラー,エドムント
(72)【発明者】
【氏名】モリス,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ピーターセン,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジエン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】パンジャーニ,リーマ
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジンシャ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】血管作動性腸管ペプチド(VIP)シグナル伝達を中断し、かつ/またはホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3キナーゼ)阻害剤のシグナル伝達を阻害することにより、T細胞の老化を反転させる組成物および方法、ならびに癌および慢性ウイルス感染の管理における使用を提供する。
【解決手段】インビトロ細胞培養物組成物において、精製されたT細胞およびVIP受容体アンタゴニストならびにビーズまたは固体表面上に任意選択により固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体を含むことを特徴とするインビトロ細胞培養物組成物とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロ細胞培養物組成物において、精製されたT細胞およびVIP受容体アンタゴニストならびにビーズまたは固体表面上に任意選択により固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体を含むことを特徴とするインビトロ細胞培養物組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、前記T細胞の15%超は、CD28に対して陰性であることを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物において、前記VIP受容体アンタゴニストは、KPRRPYTDNYTRLRKQMAVKKYLNSILN)(配列番号1)を含むことを特徴とする組成物。
【請求項4】
インビトロ細胞培養物組成物において、精製されたT細胞およびVIP分解酵素ならびにビーズまたは固体表面上に任意選択により固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体を含むことを特徴とするインビトロ細胞培養物組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の組成物において、前記T細胞の15%超は、CD28に対して陰性であることを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の組成物において、前記VIP分解酵素は、mllklkekasltlavgtlpfpsqfnfvppgrmcrvagwgrtgvlkpgsdtlqevklrlmdpqacshfrdfdhnlqlcvgnprktksafkgdsggpllcagvaqgivsygrsdakppavftrishyrpwinqilqan(配列番号2)を含むことを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項4に記載の組成物において、前記VIP分解酵素は、(配列番号3)
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項8】
インビトロ細胞培養物組成物において、精製されたT細胞およびホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ阻害剤ならびにビーズまたは固体表面上に任意選択により固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体を含むことを特徴とするインビトロ細胞培養物組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物において、前記T細胞の15%超は、CD28に対して陰性であることを特徴とする組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物において、前記ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ阻害剤は、イデラリシブから選択されることを特徴とする組成物。
【請求項11】
方法において、請求項1乃至10の何れか1項に記載のインビトロ細胞培養物を用いて、CD28に対して陰性であるT細胞を増殖させ、複製T細胞を提供することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記複製T細胞は、複製前のレベルと比較してCD28の増加した発現を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記T細胞を増殖させる前、その間、またはその後、前記T細胞は、キメラ抗原受容体をコードする核酸を有するベクターと混合され、前記キメラ抗原受容体は、前記細胞が前記細胞の表面上に前記キメラ抗原受容体を発現する条件下において、癌標的配列、膜貫通ドメイン、T細胞共刺激分子ドメイン、およびT細胞抗原受容体ドメインのシグナル伝達成分を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
癌または慢性感染症を処置する方法において、単離されたT細胞を提供する対象からT細胞を精製することと、前記単離されたT細胞を、PI3キナーゼ阻害剤、VIP受容体アンタゴニスト、VIP分解酵素、またはそれらの組み合わせと組み合わせて、ビーズまたは固体表面上に任意選択により固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体と混合することと、前記T細胞が複製するような条件下において、複製前のレベルと比較してCD28の増加した発現を有する複製T細胞を提供することと、前記複製T細胞の有効量を、それを必要とする対象に投与することとを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記複製T細胞は、前記細胞の表面上にキメラ抗原受容体を発現することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項14に記載の方法において、前記複製T細胞の投与前、投与中、または投与後にPI3キナーゼ阻害剤、VIP受容体アンタゴニスト、VIP分解酵素、またはそれらの組み合わせを投与することをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
VIP受容体アンタゴニストまたはホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ阻害剤と組み合わせた有効量の二重特異性抗体を、それを必要とする対象に投与することを含む、癌を処置する方法において、前記二重特異性抗体は、癌標的結合配列およびCD3結合配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記二重特異性抗体は、カツマキソマブまたはブリナツモマブであることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法において、複製T細胞の投与前、投与中、または投与後にPI3キナーゼ阻害剤、VIP受容体アンタゴニスト、VIP分解酵素、またはそれらの組み合わせを投与することをさらに含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年4月8日に出願された米国仮特許出願第62/319,957号明細書の利益を主張する。この出願の全体は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府が資金提供する研究についての声明
本発明は、国立衛生研究所によって授与されたRO1 HL116737-01AおよびRO1 CA188523の下、政府の支援を得てなされたものである。政府は、本発明に対する一定の権利を有する。
【0003】
特許庁電子出願システム(EFS-WEB)によってテキストファイルとして提出した資料の参照による組み込み
本出願に関する配列表は、紙のコピーの代わりにテキスト形式で提供され、参照により本明細書中に組み込まれる。配列表を含むテキストファイルの名称は、16094PCT_ST25.txtである。テキストファイルは、11KBであり、2017年4月5日に作成され、かつEFS-Web経由で電子的に提出されている。
【背景技術】
【0004】
細胞毒性T細胞は細胞を直接殺傷し、応答は抗原特異的である。腫瘍を破壊するために、細胞毒性細胞は、分裂する癌細胞を追い越すために十分な数で増殖しなければならない。しかしながら、T細胞は、抗原刺激に応答した増殖能が制限される場合、老化したものとみなされる。Filaci et al.は、エフェクターT細胞のサブセットであるCD8+CD28-T制御リンパ球がヒト癌におけるT細胞の増殖能および細胞毒性機能を阻害することを報告している。J Immunol,2007,179:4323-4334。Montes et al.は、腫瘍が老化T細胞を腫瘍免疫回避の潜在的な形態として誘導することを示している。Cancer Res,2008,68:870-879。老化T細胞は、CD27およびCD28の発現の喪失、増殖能の欠如ならびに老化関連分子の発現増加を特徴とする。Ramello et al.Cell Death and Disease,2014.5,e1507を参照されたい。したがって、T細胞の老化を反転させることによって癌を治療する改善された方法を同定する必要がある。
【0005】
T細胞の増殖について、免疫抑制された癌患者のT細胞免疫を増強するために実験的に用いられてきた、抗CD3および抗CD28で被覆された磁気ビーズ(抗CD3/CD28ビーズ)が報告されている。Porter et al.を参照されたい。ドナーリンパ球注入の第1相試験は、CD3/CD28共刺激によってエクスビボで増殖および活性化される。Blood,2006,107:1325-1331。
【0006】
Li et alは、血管作動性腸管ペプチドシグナル伝達と拮抗することによる同種移植における移植片対白血病の調節を報告している。Cancer Res,2016,76(23):6802-681。Li et al.PLoS One.2013,8(5):e63381;Li et al.,Blood.2013,121(12):2347-51,Li et al.,J Immunol.2011,187(2):1057-65;米国特許第9,458,217号明細書;および米国出願公開第2013/0302351号明細書も参照されたい。
【0007】
本明細書に引用される参考文献は、従来技術の承認ではない。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、血管作動性腸管ペプチド(VIP)シグナル伝達を中断し、かつ/またはホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3キナーゼ)阻害剤のシグナル伝達を阻害することにより、T細胞の老化を反転させる組成物および方法、ならびに癌および慢性ウイルス感染の管理における使用に関する。特定の実施形態において、本開示は、VIPがVIP受容体と相互作用することを防止する薬剤とインビトロでT細胞を混合することにより、および/またはPI3キナーゼ阻害剤の添加により、T細胞の老化を反転させる方法を企図する。特定の実施形態において、本開示は、PI3キナーゼ阻害剤、VIPおよびVIP受容体シグナル伝達を遮断する薬剤、VIP分解酵素、ならびにそれらの組み合わせと混合することによる老化T細胞の増殖を企図する。
【0009】
特定の実施形態において、本開示は、CD3および/またはCD28を結合する抗体と、PI3キナーゼ阻害剤、イデラリシブ、VIPのVIP受容体との相互作用を防止する薬剤(例えば、VIP受容体を通じたシグナル伝達を防止する)、VIP分解酵素、およびそれらの組み合わせとを組み合わせてT細胞をインビトロで曝露することにより、単離されたT細胞を刺激するかまたは老化T細胞を増殖させる方法を企図する。特定の実施形態において、本開示は、抗CD3抗体および抗CD28抗体、または結合剤(磁気ビーズなどの固体基材に任意選択により連結されたもの)の使用を企図する。
【0010】
特定の実施形態において、本開示は、、本明細書に開示されるインビトロ細胞培養を用いて、CD28および/またはCD27に対して陰性であるT細胞を増殖させ、複製前のレベルと比較してCD28および/またはCD27の増加した発現を有する複製T細胞を提供する方法を企図する。
【0011】
特定の実施形態において、本開示は、T細胞を増殖させる方法であって、T細胞を増殖させる前、その間、またはその後、T細胞は、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を有するベクターと混合され、キメラ抗原受容体は、細胞が細胞表面上にキメラ抗原受容体を発現する条件下において、癌標的配列、膜貫通ドメイン、T細胞共刺激分子ドメイン、およびT細胞抗原受容体ドメインのシグナル伝達成分を含む、方法を企図する。
【0012】
特定の実施形態において、本開示は、インビトロ細胞培養物組成物であって、最小必須培地およびT細胞ならびにVIP受容体アンタゴニスト、PI3キナーゼ阻害剤、VIP分解酵素、およびそれらの組み合わせを含み、ビーズなどの固体基材上に任意選択により固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体を任意選択によりさらに含むインビトロ細胞培養物組成物に関する。特定の実施形態において、T細胞は、骨髄細胞または血液細胞から精製される。
【0013】
特定の実施形態において、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ阻害剤は、イデラリシブ、ウォルトマンニン、デメトキシビリジン、ペリホシン、ブパルリシブ、デュベリシブ、コパンリシブ、およびアルペリシブから選択される。特定の実施形態において、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ阻害剤は、培養物中において、0.001、0.1、1、10、100nMを超えるか、または10nM~10μM、または10nM~500nM、または10nM~1μMの濃度のイデラリシブから選択される。
【0014】
特定の実施形態において、培養物は、C末端アミドを有する(配列番号1)KPRRPYTDNYTRLRKQMAVKKYLNSILNを含むVIPhybなどのVIP受容体アンタゴニストを含む。特定の実施形態において、培養物は、少なくとも0.001、0.01、0.1、0.5、1.0、2または3μMの濃度で添加されたVIPhybなどのVIP受容体アンタゴニストを含む。特定の実施形態において、培養物は、0.5~10μMまたは1~8μMの濃度のVIPhybなどのVIP受容体アンタゴニストを含む。
【0015】
特定の実施形態において、培養物は、VIPを加水分解する酵素を含む。特定の実施形態において、培養物は、ペプチダーゼ、セリンペプチダーゼ、トリプターゼ、キマーゼ、ヒトキマーゼ1(CMA1)、またはキモトリプシンセリンプロテアーゼなどのVIP分解酵素を含む。特定の実施形態において、培養物は、1mL当たり少なくとも少なくとも0.001、0.01、0.1または1μgのマスト細胞キマーゼなどのVIP分解酵素を有する。特定の実施形態において、本開示は、最小必須培地と、CD3、および/またはCD4、および/またはCD8を発現し、かつCD27および/またはCD28に対して陰性である単離された細胞と、PI3キナーゼ阻害剤、VIPおよびVIP受容体シグナル伝達を遮断する薬剤、ならびにそれらの組み合わせとを含むT細胞培養物を企図する。細胞は、ビーズ、磁気ビーズ、または蛍光結合剤の粒子などの固体支持体に付着した結合剤を使用して陰性または陽性選択によって単離され得る。
【0016】
特定の実施形態において、抗CD3抗体および抗CD28抗体は、ビーズ、磁気ビーズ、または固体表面上に固定化される。特定の実施形態において、培養物中の全細胞の5.0%超、または10%超、または15%超は、CD3、および/またはCD4、および/またはCD8を発現する。特定の実施形態において、全細胞の20%超、25%超または50%超は、CD3、および/またはCD4、および/またはCD8を発現する。特定の実施形態において、培養物中のT細胞の15%超、または20%超、または30%超は、CD28および/またはCD27に対して陰性である。特定の実施形態において、T細胞の20%超、25%超または50%超は、CD28および/またはCD27に対して陰性である。
【0017】
特定の実施形態において、精製されたT細胞は、血漿および赤血球が分離し、血漿および赤血球間の白血球の混合物中に精製されたT細胞を提供するような条件下において、血液を遠心分離することによって得られる。特定の実施形態において、精製されたT細胞は、骨髄吸引または骨髄生検によって得られる。
【0018】
特定の実施形態において、精製されたT細胞は、CD3と結合する蛍光マーカーを細胞と混合し、かつ蛍光活性化細胞選別によって細胞を精製することによって得られる。特定の実施形態において、精製されたT細胞は、CD3と結合する磁化マーカーを細胞と混合し、かつ磁気選別によって細胞を精製することによって得られる。特定の実施形態において、精製されたT細胞は、CD3、および/またはCD4、および/またはCD8と結合する蛍光マーカーを細胞と混合し、かつ蛍光活性化細胞選別によって細胞を精製することによって得られる。特定の実施形態において、精製されたT細胞は、CD3、および/またはCD4、および/またはCD8と結合する磁化マーカーを細胞と混合し、かつ磁気選別によって細胞を精製することによって得られる。
【0019】
特定の実施形態において、本開示は、抗CD3および抗CD28抗体を有し、かつ表面にカップリングされたVIP分解酵素を有するビーズなどの固体基材を企図する。特定の実施形態において、ビーズが培地中に配置され、およびビーズが細胞レベル下であるようにT細胞が培地の上で増殖されることが企図される。
【0020】
特定の実施形態において、VIP分解酵素は、ヒトCMA1受託番号GenBank:AAI03975.1:
を含む。特定の実施形態において、VIP分解酵素は、(配列番号3)
を有するヒト組換えエンケファリナーゼ(中性エンドペプチダーゼ、EC3.4.24.11)である。
【0021】
特定の実施形態において、本明細書に記載の細胞培養物および方法は、IL-12をさらに含む。特定の実施形態において、IL-12は、CD3およびCD28に対する抗体によってインビトロで刺激されたT細胞増殖に対するVIP受容体アンタゴニストの効果を増強することが意図される。
【0022】
特定の実施形態において、本開示は、対象の腫瘍における浸潤が見出され得る癌に対する天然の反応性を有する、T細胞の増殖またはT細胞における老化の拡大もしくは反転に関する。腫瘍は収集され得、これらの腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)は、本明細書に開示する方法を用いて増殖され得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1Aは、同種抗原によって刺激されたインビトロT細胞増殖を増大させたVIPhyb処置を示すデータを示す。示された濃度(0~10mmol/L)を達成するためにVIPおよび/またはVIPhybを毎日添加した、MLRで照射FVB脾細胞と3日間培養したルシフェラーゼB6脾臓T細胞の増殖である。
図1Bは、VIPhybの変異体濃度に関するデータを示す。
【
図2】
図2は、患者が老化T細胞を有する試料においてインビトロ培養物中で産生されたCD27+およびCD28+細胞の相対数に関するデータを示す。「Id」は、イデラリシブを指す。「VA」は、VIPhybを指す。「MC」は、ヒトマスト細胞キマーゼ(CMA1)を指す。
【
図3A】
図3Aは、増殖14日目の全CD3+集団におけるCD27およびCD28の発現に関するデータを示す。DLBCL患者のT細胞を、示された化合物と共にまたは示された化合物なしで、30U/mLのIL-2の存在下においてCD3/CD28ビーズと共に14日間増殖させた。
【
図3B】
図3Bは、示された化合物の存在下または非存在下における患者のT細胞の増殖曲線を示す。CD27+CD28+コンパートメントの保存ならびにDLBCL患者におけるイデラリシブおよびVIPhybを用いたT細胞増殖における全収量の増加である。
【
図4】
図4は、リンパ腫患者のT細胞におけるBcl-2の発現が、VIPhyb、イデラリシブ、またはその両方の組み合わせの添加によって増加したことを示すデータを示す。患者のT細胞増殖培養物由来のタンパク質溶解物を7日目および14日目に調製した。試料は、ニトロセルロース膜に転写する前にSDS-PAGEゲル上に流した。次いで、膜を生存促進性Bcl-2タンパク質についてプローブし、剥離し、次いでローディング対照としてアクチンを再プローブした。
【
図5】
図5Aは、腫瘍細胞注射後18日目の腫瘍体積に関するデータを示す。マウスに5×10
5のE.G7-OVA細胞を皮下注射し、触知可能な腫瘍が形成されるまで7日間増殖させた。この期間中、IL-2および示された化合物の存在下において、OT-1、OT-II、およびB6T細胞をCD3/CD28ビーズと共に3日間増殖させた。腫瘍増殖の7日目に、増殖したOT-I、OT-II、およびB6T細胞(2×10
6OT-1、1×10
6OT-IIおよび2×10
6B6細胞)の組み合わせまたは対照として2×10
6B6T細胞をマウスに静脈内注射した。次いで、(LxW2)/2で計算された腫瘍増殖についてマウスをモニターした。
図5Bは、時間に対するグループ間の増殖速度を示す腫瘍成長曲線を示す。イデラリシブ、VIPhybまたはその両方の組み合わせの存在下でのマウスのT細胞の増殖は、OVA発現リンパ腫モデルにおいてその治療効果を高める。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示をより詳細に説明する前に、本開示は、記載される特定の実施形態に限定されず、当然のことながら変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用する用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0025】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載された方法および材料と類似のまたは均等な任意の方法および材料も本開示の実施または試験において使用することができるが、好ましい方法および材料がここで説明される。
【0026】
本明細書に引用される全ての刊行物および特許は、それぞれの個々の刊行物または特許が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれ、引用される刊行物に関する方法および/または材料を開示および説明するように参照により本明細書に組み込まれる。任意の刊行物の引用は、出願日前の開示のものであり、本開示が、先の開示のためにそのような刊行物に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、提供された刊行物の公開日は、実際の公開日と異なる可能性があり、独立して確認する必要があることが考えられる。
【0027】
本開示を読むと当業者に明らかなように、本明細書に記載され図示された個々の実施形態は、本開示の範囲または趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態の何れかの特徴と容易に分離されるかまたは組み合わせ得る個別の構成要件および特徴をそれぞれ有する。任意の記載された方法は、記載された事象の順序または論理的に可能な任意の他の順序で実施することができる。
【0028】
本開示の実施形態は、特に明記しない限り、免疫学、医学、有機化学、生化学、分子生物学、薬理学、生理学などの技術を用い、これは、当業者の技術の範囲内である。このような技術は文献に十分に説明されている。
【0029】
本明細書に記載される場合、少なくとも1つのタンパク質に基づく表面バイオマーカーのレベルは、個体由来の生物学的試料中で測定される。タンパク質レベルは、生物学的試料中のバイオマーカーのレベルを特異的に決定することができる任意の利用可能な測定技術を用いて測定することができる。測定は、生物学的試料中のバイオマーカーのレベルが基準値を上回るまたは下回るかを示すことができる限り、定量的または定性的であり得る。
【0030】
いくつかのアッセイ形式は、試料の前処理なしで生物学的試料の試験を可能にするが、試験前に末梢血液生物学的液体試料が処理され得る。処理は、一般に、血液試料中の赤血球、白血球、および血小板などの細胞(有核および非核)の排除の形態をとり、血液由来の特定の凝固カスケードタンパク質などの特定のタンパク質の排除も含み得る。いくつかの例において、末梢生物学的液体試料は、EDTAを含む容器に収集される。
【0031】
測定値と基準値とを比較するプロセスは、対象のバイオマーカーの測定値および基準値のタイプに適した任意の簡便な方法で行うことができる。上述のように、測定は、定量的または定性的測定技術を使用して実施することができ、測定値と基準値とを比較する方法は、使用される測定技術によって異なり得る。例えば、定量的比色アッセイを用いてバイオマーカーレベルを測定する場合、着色反応生成物の強度を視覚的に比較することにより、または着色反応生成物の濃度測定もしくは分光測定からのデータ(例えば、測定装置から得られる数値データもしくは棒グラフなどのグラフデータ)を比較することにより、レベルが比較され得る。しかしながら、本開示の方法で使用される測定値は、最も一般的には定量値(例えば、1ミリリットルの試料当たりのバイオマーカーのナノグラムなどの濃度の定量的測定値または絶対量)であることが想定される。定性的測定と同様に、データ表示を検査することにより(例えば、棒グラフまたは折れ線グラフなどのグラフ表示を検査することにより)、数値データを検査することによって比較を行うことができる。
【0032】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含むことに留意する必要がある。本明細書および以下の特許請求の範囲では、反対の意図が明らかでない限り、以下の意味を有すると定義されるいくつかの用語が参照される。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「イデラリシブ」は、化合物(S)-2-(1-(9H-プリン-6-イルアミノ)プロピル)-5-フルオロ-3-フェニルキナゾリン-4(3H)-オンまたはその代替塩を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「CD28および/またはCD27に対して陰性であるT細胞」とは、健常な対象においてCD3表面抗原マーカーを発現する正常なT細胞と比較した場合、これらのマーカーの相対濃度の発現が低いかまたは発現を欠いているものを指す。
【0035】
「蛍光活性化細胞選別」または「FACS」という用語は、各細胞の蛍光特性、それぞれ印加された電荷、および静電場を通る移動による分離に基づき、典型的には一度に1つの細胞を選別する、細胞の混合物を2つ以上の領域に選別する方法を指す。典型的には、振動機構は、細胞の流れを個々の液滴に分裂させる。液滴形成の直前に、流体中の細胞は、細胞の蛍光を測定するための領域を通過する。帯電機構は、流れが液滴に分裂する点に構成される。蛍光強度測定に基づき、液滴が流れから分裂するのに従い液滴にそれぞれの電荷が課される。次いで、帯電した液滴は、液滴をそれらの相対電荷に基づいて領域に分ける静電偏向システムを通って移動する。いくつかのシステムでは、電荷が流れに直接印加され、分離する液滴は、流れと同じ符号の電荷を保持する。次いで、液滴が分裂した後、流れが中性に戻る。他のシステムでは、導管に電荷が供給され、液滴に反対電荷を誘導する。細胞は、典型的には、細胞を、蛍光分子との結合によって蛍光を発するマーカーに特異的に結合する抗体と混合することによって蛍光を発する。しかしながら、分子ビーコンの使用などにより、細胞蛍光を作製する他の方法も企図される。
【0036】
「最小必須培地」は、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リン酸塩、ならびに重炭酸塩、ビタミン、および必須アミノ酸の塩を含有する培地を指す。12の必須アミノ酸は、L-アルギニン;L-シスチン;L-グルタミン;L-ヒスチジン;L-イソロイシン;L-ロイシン;L-メチオニン;L-フェニルアラニン;L-スレオニン;L-トリプトファン;L-チロシン;L-バリンである。最小必須培地には、多くの場合に重炭酸塩またはグルタミンなどの成分が追加される。特定の実施形態において、本開示は、非必須アミノ酸:L-ala;L-asn;L-asp;L-glu;L-gly;L-proおよびL-serが追加された最小必須培地を企図する。特定の実施形態において、本開示は、ヌクレオシド(リボヌクレオシドおよび/またはデオキシリボヌクレオシド)が追加された最小必須培地を意図する。
【0037】
「組換え」という用語は、核酸分子に関して用いられる場合、分子生物学的技術によって一緒に連結された核酸のセグメントを含む核酸分子を指す。「組換え」という用語は、タンパク質またはポリペプチドに関して用いられる場合、組換え核酸分子を用いて発現されるタンパク質分子を指す。組換え核酸という用語は、相同染色体間の交配から生じる天然の組換え体とは区別される。本明細書で使用される組換え核酸は、通常、異なる生物由来である、非相同源由来の核酸の非天然の組である。
【0038】
「ベクター」または「発現ベクター」という用語は、所望のコード配列、および特定の宿主生物または発現系(例えば、細胞系もしくは無細胞系)において作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な適切な核酸配列を含む組換え核酸を指す。原核生物における発現に必要な核酸配列は、通常、プロモーター、オペレーター(任意選択による)、およびリボソーム結合部位を多くの場合に他の配列と一緒に含む。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー、ならびに終止およびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0039】
文脈で他に示唆されない限り、「血管作動性腸管ペプチド」および「VIP」という用語は、(配列番号12)HSDAVFTDNYTRLRKQMAVKKYLNSILNを指す。VIPは、免疫細胞の分化および活性化の複数のレベルで自然免疫および適応免疫の両方を調節する多機能性内在性ポリペプチドである。
【0040】
VIPは、ニューロン(中枢神経系および末梢神経系の両方における)、B細胞、T細胞およびアクセサリー細胞などの種々の細胞によって典型的に分泌される。VIPおよび密接に関連するニューロペプチドの下垂体アデニリルシクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)は、3つの既知の受容体、VPAC1、VPAC2およびPAC1に結合する。T細胞および樹状細胞(DC)は、VPAC1およびVPAC2を発現するが、PAC1を発現しないと考えられている。PAC1は、脳および下垂体および副腎のニューロンおよび内分泌細胞上で主に発現され、ほとんどの形態でPACAPに選択的に結合する。
【0041】
「VIPアンタゴニスト」または「VIP受容体アンタゴニスト」という用語は、VIPが免疫応答を変化させる能力を阻害または低下させる任意の分子を指す。VIP類似体、VIP断片、成長ホルモン放出因子類似体およびハイブリッドペプチドを含むVIP受容体アンタゴニストが知られている。多数のVIP受容体アンタゴニストが米国特許第5,565,424号明細書;米国特許第7,094,755号明細書;米国特許第6,828,304号明細書に開示されており、これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。VIP受容体アンタゴニストのいくつかの例には、[Ac-Tyr1,D-Phe2]GRF1-29、アミド、すなわち(配列番号4)YFDAIFTNSYRKVLGQLSARKLLQDIMSR(改変:Tyr-1=N末端Ac、Phe-2=D-Phe、Arg-29=C-末端アミド);VIP(6-28)、すなわち(配列番号5)FTDNYTRLRKQMAVKKYLNSILN(改変:Asn-23=C末端アミド);[D-p-Cl-Phe6,Leu17]-VIP、すなわち(配列番号6)HSDAVFTDNYTRLRKQLAVKKYLNSILN(改変:Phe-6=p-Cl-D-Phe、Asn=C末端アミド);VIPhybrid(配列番号1)KPRRPYTDNYTRLRKQMAVKKYLNSILNとしても知られているVIP-hyb、すなわちニューロテンシン(6-11)]とも呼ばれるN末端(配列番号7)KPRRPY、これに続くVIPのC末端22アミノ酸、すなわちVIP(7-28)とも呼ばれる(配列番号8)TDNYTRLRKQMAVKKYLNSILNからなるVIPおよびニューロテンシンのハイブリッドペプチド;N末端ステアリル、ノルロイシン17VIPhyb、すなわち(配列番号9)KPRRPYTDNYTRLRKQXAVKKYLNSILN(式中、Xは、ノルロイシンである);AcHis1[D-Phe(2),Lys(15),Arg(16),Leu(27)]-VIP(l-7)/GRF(8-27)、すなわち(配列番号10)HFDAVFTNSYRKVLKRLSARKLLQDIL、C末端アミド;および下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド、PACAP(6-38)C末端アミド、すなわち(配列番号11)TDSYSRYRKQMAVKKYLAAVLGKRYKQRVKNKが含まれる。可溶性、バイオアベイラビリティ、および/または生物学的分解などの改善された特性を提供するために、これらの分子の何れかを炭化水素またはポリエチレングリコール基で修飾し得ることが企図される。
【0042】
本明細書で使用される場合、「処置する」および「処置」という用語は、対象(例えば、患者)が治癒し、疾患が根絶される場合に限定されるものではない。むしろ、本開示の実施形態は、単に症状を軽減し、かつ/または疾患の進行を遅延させる処置も企図する。
【0043】
再発性リンパ腫を有する患者の免疫表現型
生理学的老化中および化学療法のラウンドの繰り返しまたは慢性炎症状態に曝された個体において、T細胞は、それらがアネルギー性であるかまたは抗原刺激に応答して増殖能が制限される老化の状態を生じる。老化T細胞の表現型は、共刺激受容体CD27およびCD28を欠くか、または高レベルのCD57マーカーを有するT細胞として記載されてきた。さらに、プログラム死リガンドの受容体であるPD1の発現は、アネルギー状態と関連づけられてきた。アネルギー性T細胞の存在は、患者がワクチンに応答する能力、または慢性ウイルス感染もしくは癌に対する防御的で耐久性のある免疫応答を賦与する能力において重要な補因子である。慢性感染症および癌を有する患者に有効な細胞ベースの免疫療法の可能性を提供するには、T細胞老化およびアネルギーを反転させる新規アプローチが必要である。
【0044】
再発性リンパ腫を有する患者の免疫表現型は、アネルギー表現型:CD3陽性、CD27陰性、CD28陰性を有するT細胞の過剰発現を有することを特徴とする。血管作動性腸管ポリペプチド受容体を介したシグナル伝達がT細胞老化および抗原特異的エネルギーに寄与したかどうかを調べた。VIPhybと呼ばれるVIP受容体に対するペプチドアンタゴニストの添加により、インビトロでT細胞増殖が増大し、T細胞増殖に対する天然VIPペプチドの阻害効果が軽減した。
【0045】
VIPhybアンタゴニストの添加により、長期にわたる再発性の癌を有する患者からのアネルギー性T細胞の増殖性欠損を反転できるかどうかが試験された。再発性リンパ腫を有する患者におけるT細胞の免疫表現型を評価した。共刺激受容体CD27およびCD28を欠く細胞の相対的な過剰発現があった。さらに、この観測点からのT細胞は、高レベルのCD57発現、PD1およびTim-3を有する。
【0046】
高速細胞選別を使用して、T細胞のサブセットが、再発性リンパ腫を有する患者および健常対照からのCD27およびCD28発現のレベルによって定義され、単離された。CD27およびCD28発現によって定義される4つの表現型のそれぞれを有するCD3陽性T細胞を選別し、抗CD3/抗CD28ビーズの存在下においてインビトロで培養した。健常ドナーからの全T細胞は、培養4日後にKi67増殖マーカーを100%発現したが、リンパ腫の処置後のアネルギー性T細胞を有する患者からの対応する全T細胞集団は、T細胞のわずか90%がKi67マーカーを発現した。
【0047】
これらの培養物に3μMのVIPhybを毎日添加した後、アネルギー性リンパ腫患者由来のKi67陽性T細胞の割合は100%に増加した。この患者からのCD27およびCD28発現に基づいて選別したT細胞のサブセットは、CD27陽性、CD28陽性(二重陽性)集団が抗CD3/CD28ビーズに応答して正常に増殖することを示した。対照的に、抗CD3/CD28ビーズと共にインキュベートした場合、CD27またはCD28または両方のマーカーの発現を欠くT細胞サブセットは、増殖応答を損なった。
【0048】
アンタゴニストVIPhybの添加により、CD27またはCD28の何れかを欠くサブセットにおけるT細胞増殖が増大した。これらの培養物へのIL12の添加は、CD28陰性であるがCD27陰性でないT細胞の増殖分画を増加させることに有意な影響を有した。抗CD3/抗CD28ビーズで培養したT細胞のフローサイトメトリー分析は、3μMのVIPhybを添加すると、VIPアンタゴニストが添加されていない対照培養物と比較してPD-1発現のレベルが低下することを示した。このデータは、VIPがT細胞の抗原特異的活性化中に誘発され、VIPシグナル伝達を遮断する戦略が、慢性炎症状態を有する個体または複数の化学療法のサイクルに曝露された個体からの老化T細胞間でT細胞増殖を増大させ、アネルギーを反転させ得ることを示す。
【0049】
VIPペプチドは、2分未満の非常に短い半減期を有し、エンドペプチダーゼによって切断されるため、T細胞受容体を介して活性化されたT細胞近傍のVIP特異的ペプチダーゼの過剰発現は、T細胞の活性化および増殖を増大させると考えられており、免疫老化を反転させる可能性がある。
【0050】
治療的使用の方法
特定の実施形態において、本開示は、抗CD3抗体および抗腫瘍抗体ならびに組換えマスト細胞キマーゼの有効量を注入、移植または投与することによってT細胞老化を反転させるインビボでの方法を企図する。特定の実施形態において、組換えマスト細胞キマーゼは、抗CD3抗体および腫瘍関連抗原に対する抗体を投与されている対象/患者に投与または静脈内注入される。
【0051】
特定の実施形態において、本開示は、癌または慢性感染症を処置する方法であって、単離されたT細胞を提供する対象からT細胞を精製することと、単離されたT細胞を、PI3キナーゼ阻害剤、VIP受容体アンタゴニスト、VIP分解酵素、またはそれらの組み合わせと組み合わせて、ビーズまたは固体表面上に任意選択により固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体と混合することと、T細胞が複製するような条件下において、複製前のレベルと比較してCD28の増加した発現を有する複製T細胞を提供することと、複製T細胞の有効量を、それを必要とする対象に投与することとを含む方法を企図する。
【0052】
特定の実施形態において、本開示は、癌を処置する方法であって、単離されたT細胞を提供する対象からT細胞を精製することと、単離されたT細胞を、PI3キナーゼ阻害剤、VIP受容体アンタゴニスト、VIP分解酵素、またはそれらの組み合わせと組み合わせて、ビーズまたは固体表面上に任意選択により固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体と混合することと、T細胞が複製するような条件下において、複製前のレベルと比較してCD28の増加した発現を有する複製T細胞を提供することと、複製T細胞の有効量を、それを必要とする対象に投与することとを含む方法を企図する。特定の実施形態において、複製T細胞は、細胞の表面上にキメラ抗原受容体を発現する。特定の実施形態において、本方法は、複製T細胞の投与前、投与中、または投与後にPI3キナーゼ阻害剤、VIP受容体アンタゴニスト、VIP分解酵素、またはそれらの組み合わせを投与することをさらに含む。
【0053】
特定の実施形態において、本開示は、癌を処置する方法であって、単離されたT細胞を提供する対象からT細胞を精製することと、CD3および/またはCD28を結合する抗体と、PI3キナーゼ阻害剤、イデラリシブ、VIPのVIP受容体との相互作用を防止する薬剤(例えば、VIP受容体を通じたシグナル伝達を防止する)、VIP分解酵素、およびそれらの組み合わせとを組み合わせてT細胞をインビトロで曝露することにより、単離されたT細胞を培養し、CD28の増加した発現を有する増殖T細胞を提供することと、増殖T細胞の有効量を対象に投与することを含む方法を企図する。
【0054】
特定の実施形態において、本開示は、VIP受容体アンタゴニストおよび/またはホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ阻害剤と組み合わせた有効量の二重特異性抗体を、それを必要とする対象に投与することを含む、癌を処置する方法であって、二重特異性抗体は、癌標的結合配列およびCD3結合配列を含む、方法を企図する。特定の実施形態において、二重特異性抗体は、カツマキソマブまたはブリナツモマブである。
【0055】
特定の実施形態において、本開示は、二重特異性抗体または抗癌抗体または腫瘍関連抗原に対する抗体の組み合わせ、およびVIPhybなどのVIP受容体アンタゴニストの投与または非経口投与によって癌を処置する方法を企図する。特定の実施形態において、抗腫瘍特異的抗体は、CD19に指向される。特定の実施形態において、抗癌抗体は、CD123に指向される。特定の実施形態において、抗癌抗体は、HER2/neuに指向される。特定の実施形態において、抗癌抗体は、骨髄腫関連抗原であるBMCAに指向される。特定の実施形態において、抗癌抗体は、EGFRに指向される。特定の実施形態において、抗癌抗体は、PD-L1またはPD1に指向される。
【0056】
特定の実施形態において、本開示は、VIP受容体アンタゴニストまたはホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ阻害剤と組み合わせたキメラ抗原受容体を有する有効量の細胞を、それを必要とする対象に投与することを含む、癌を処置する方法であって、キメラ抗原受容体は、癌標的配列、膜貫通ドメイン、T細胞共刺激分子ドメイン、およびT細胞抗原受容体ドメインのシグナル伝達成分を含む、方法を企図する。
【0057】
特定の実施形態において、本開示は、T細胞の老化を反転させるインビボでの方法であって、遺伝子的にT細胞を改変してその表面にVIP分解酵素を発現させることを含む方法を企図する。特定の実施形態において、VIP分解酵素は、組換えヒトCMA1マスト細胞キマーゼである。特定の実施形態において、遺伝子改変T細胞は、癌細胞に標的化するキメラ抗原受容体も発現する。特定の実施形態において、遺伝子改変T細胞は、癌を有する対象に投与または注入される。
【0058】
特定の実施形態において、本開示は、癌を処置する方法であって、T細胞がCD3ならびに任意選択によりCD4および/またはCD8を発現する、T細胞受容体を発現する対象からのT細胞を精製し、単離されたT細胞を提供することと、単離されたT細胞を、細胞が増殖するような条件下において、本明細書に開示される細胞培養物と混合することと、有効量の増殖した細胞を対象に移植または投与することとを含む方法に関する。
【0059】
特定の実施形態において、本開示は、癌を処置する方法であって、キメラ抗原受容体を発現するように構成されたベクターを含むT細胞、例えば、キメラ抗原受容体をコードする核酸を有する組換えウイルスに感染させた細胞を、VIPhyb、VIP分解酵素、PI3阻害剤、またはそれらの組み合わせなどのVIP受容体アンタゴニストの投与と組み合わせて投与することを含む方法を企図する。
【0060】
特定の実施形態において、本開示は、癌を処置する方法であって、CD3、および/またはCD4、および/またはCD8を発現する対象由来の細胞を精製し、単離されたT細胞を提供することと、単離されたT細胞上のCD27および/またはCD28の発現を測定してCD27および/またはCD28の測定値を提供することと、CD27および/またはCD28の測定値を参照レベルと比較し、測定されたCD27レベルが正常値より低い場合および/またはCD28の測定レベルが正常値より低い場合、次いで有効量のVIP受容体アンタゴニスト、VIP分解酵素、PI3阻害剤、またはそれらの組み合わせを対象に投与することとを含む方法を企図する。
【0061】
特定の実施形態において、本開示は、、癌を処置する方法であって、CD3、および/またはCD4、および/またはCD8を発現する対象由来の細胞を精製し、単離されたT細胞を提供することと、単離されたT細胞上のCD27および/またはCD28の発現を測定してCD27および/またはCD28の測定値を提供することと、CD27の測定値が、複製T細胞を提供する正常値より低い場合および/またはCD28の測定値が、複製T細胞を提供する正常値より低い場合、次いで単離されたT細胞を、VIP受容体アンタゴニスト、VIP分解酵素、PI3阻害剤、またはそれらの組み合わせと、単離されたT細胞が複製するような条件下で混合することと、有効量の複製T細胞を、任意選択によりVIP受容体アンタゴニスト、VIP分解酵素、PI3阻害剤、またはそれらの組み合わせの対象への投与と組み合わせて対象に移植または投与することとを含む方法を企図する。
【0062】
特定の実施形態において、本開示は、CD3陽性であり、かつCD4およびCD8陰性である、ガンマデルタT細胞(γδT細胞)などのT細胞の増殖に関する。その表面に特有のT細胞受容体(TCR)を有するガンマデルタT細胞である。ほとんどのT細胞は、α(アルファ)およびβ(ベータ)TCR鎖と呼ばれる2つの糖タンパク質鎖から構成されるTCRを有するαβ(アルファベータ)T細胞である。対照的に、ガンマデルタ(γδ)T細胞は、1つのγ(ガンマ)鎖および1つのδ(デルタ)鎖から構成されるTCRを有する。
【0063】
特定の実施形態において、本開示は、その表面にVIP分解酵素を発現するように遺伝子改変されたT細胞を企図する。特定の実施形態において、VIP分解酵素は、組換えヒトCMA1マスト細胞キマーゼである。特定の実施形態において、遺伝子改変T細胞は、癌細胞に標的化するキメラ抗原受容体も発現する。特定の実施形態において、遺伝子改変T細胞は、癌を有するヒト対象に投与または注入される。
【0064】
特定の実施形態において、本開示は、癌を処置する方法であって、VIP受容体アンタゴニスト、PI3キナーゼ阻害剤、VIP分解酵素、およびそれらの組み合わせと組み合わせて、有効量の二重特異性抗体を投与することを含む方法に関する。特定の実施形態において、二重特異性抗体は、カツマキソマブである。特定の実施形態において、対象は、悪性腹水症と診断される。特定の実施形態において、二重特異性抗体は、ブリナツモマブである。特定の実施形態において、癌は、白血病である。
【0065】
特定の実施形態において、本開示は、癌を処置する方法であって、本明細書で提供される方法を用いてT細胞を精製しかつ増殖させ、単離されたT細胞を提供することと、二重特異性抗体がCD3-T細胞受容体複合体に結合するような条件下において、単離されたT細胞を二重特異性抗体と混合することと、VIP受容体アンタゴニスト、PI3キナーゼ阻害剤、VIP分解酵素、およびそれらの組み合わせを、それを必要とする対象に投与することと組み合わせて、有効量の二重特異性抗体結合T細胞を対象に投与することとを含む方法を企図する。
【0066】
二重特異性抗体は2つの標的配列を含み、T細胞が癌細胞に結合し得るように、第1の配列は腫瘍関連抗原を標的とし、および第2の配列はCD3T細胞受容体複合体を標的とする。二重特異性抗体は、T細胞を癌細胞に連結する。Zhukovsky et al.Bispecific antibodies and CARs:generalized immunotherapeutics harnessing T cell redirection,Current Opinion in Immunology,2016,40:24-35を参照されたい。特定の実施形態において、本開示は、二重特異性抗体が腫瘍関連抗原、CD19エピトープ、CD123、HER2/neu、または骨髄腫関連抗原であるBMCAに指向されることを企図する。
【0067】
免疫細胞が癌細胞を殺傷する能力を向上させるために、T細胞を患者の血液から単離し、癌細胞の表面上に発現されたタンパク質を特異的に標的とするキメラ抗原受容体を発現し、免疫応答を刺激するように遺伝的に改変することができる。患者に戻すと、細胞は癌細胞を攻撃する。特定の実施形態において、本開示は、CD22および/またはCD19抗原を標的とするCART細胞の使用を企図する。CD19は、癌性B細胞上に発現されるタンパク質である。Brentjens et al.は、CD19に結合するように改変されたT細胞が、化学療法耐性急性リンパ芽球性白血病を有する成人において癌の寛解を誘導し得ることを報告している。Sci Transl Med,2013,5(177):177ra38。
【0068】
典型的な手順では、T細胞を精製し、血液または骨髄から単離する。例えば、T細胞は、身体から血液を回収し、1つ以上の血液成分(血漿、血小板または他の白血球など)を除去するプロセスであるアフェレーシスによって収集される。次いで、残りの血液は、体内に戻される。細胞は、CARタンパク質が細胞膜に存在するように産生されるような方法で細胞に感染する、レンチウイルスベクターなどの組換えベクターに曝露される。T細胞は、その表面上にキメラ抗原受容体(CAR)を産生するように遺伝子操作する実験室または製薬施設に送られ得る。単離された細胞を組換えベクターで感染させる前および/または後に、本明細書に開示される方法を用いて細胞の複製を誘導することができる。遺伝子改変T細胞は、十分な数になるまで実験室で細胞を増殖させることによって増殖させることができる。任意選択により、これらのCART細胞は凍結される。改変された細胞は、次いで患者に投与されて戻される。特定の実施形態において、本開示は、対象がCART細胞の注入を受ける前に、対象にVIP受容体アンタゴニスト、VIP分解酵素、および/またはIP3キナーゼ阻害剤を任意選択により1つ以上の化学療法薬と組み合わせて投与することを企図する。
【0069】
特定の実施形態において、本開示は、標的配列、膜貫通ドメイン、T細胞共刺激分子ドメイン、およびT細胞抗原受容体ドメインのシグナル伝達要素を含むキメラポリペプチドをコードする核酸を含む組換えベクターを含有する、本明細書に開示されるプロセスによって作製される細胞に関する。
【0070】
特定の実施形態において、キメラ抗原受容体における標的配列は、標的細胞(例えば、癌細胞)上の表面タンパク質に選択的に結合することができる任意の様々なポリペプチド配列を指す。他の標的配列は、抗体、一本鎖抗体、および抗体模倣物の可変結合領域であり得る。特定の実施形態において、標的化は、モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変断片(scFv)を介して達成される。標的配列は、典型的には、一般にCD8またはIgG4に由来するヒンジ/膜貫通領域によって細胞内ドメインに連結される。細胞内ドメインは、CD3ゼータの細胞質シグナル伝達ドメインに連結された4-1BBゼータおよび/またはCD28ゼータなどの共刺激ドメインを含有し得る。
【実施例0071】
VIPシグナル伝達は、同種抗原によって誘導されるT細胞増殖を調節する
同種免疫応答におけるVIPシグナル伝達の役割を調べるために、VIPおよび/またはアンタゴニストVIPhybペプチドを含有する一方向混合リンパ球反応(MLR)を行った。VIPの添加は、ルシフェラーゼT細胞の増殖を用量依存的に減少させる一方、VIPhybの添加は、T細胞の増殖を増加させた。VIPhybは、MLRにおけるVIPの抑制効果を反転させ、T細胞増殖を対照培養物よりも高いレベルに回復させた。
【0072】
CART製造のためのエクスビボT細胞増殖中の薬理学的遮断は、収率を増加させ、ナイーブおよびセントラルメモリーコンパートメントを保存する
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は、主に高齢患者集団に影響を及ぼす高悪性度のB細胞悪性腫瘍である。強い処置レジメンが利用可能であるにもかかわらず、DLBCL患者のサブセットには治療抵抗性が高いリンパ腫が存在する。これらの患者の疾患は、現在の処置レジメンの実質的に全てに対して抵抗性であるという事実から、CART療法は、効果的な救援の選択肢として非常に有望であるが、多くの患者は、エクスビボでのT細胞増殖の失敗のために臨床試験で処置を受けることができなかった。この失敗は、患者の年齢に加え、多数のラウンドの治療によって与えられるダメージに大きく起因する。さらに、データは、NHLを有する患者がナイーブT細胞に対するメモリー細胞の偏った比率を有し、細胞免疫療法が損なわれていることを示す。
【0073】
患者のT細胞増殖に成功する可能性を示す表面タンパク質の2つは、CD27およびCD28である。CD27およびCD28の両方を発現するT細胞は、最も増殖能が高いのに対し、両方の発現を欠くT細胞は、多くの場合に増殖せず、抗CD3/CD28の活性化および増殖中に死滅する。健常な個体は、豊富なCD27+CD28+(二重陽性)T細胞を有し、DLBCLを有する患者は、過剰なCD27-CD28-(二重陰性)T細胞を有する。リンパ腫患者における二重陰性集団のこの過剰表現は、CART製造中にT細胞が適切に増殖しないことをさらに説明するのに役立つ。CD27およびCD28の発現の欠如に加え、DLBCL患者のT細胞は、疲労および老化の徴候も示し、これらは、両方とも機能障害および増殖不能をもたらす。
【0074】
CART細胞製造中のDLBCL患者のT細胞増殖の問題に対処するため、特定の所望のT細胞集団の増殖を促進するために様々な技術を利用した。T細胞活性化中、PI3Kδ阻害剤イデラリシブを単独で、またはマスト細胞キマーゼもしくは血管作動性腸管ペプチド(VIPhyb)のアンタゴニストと組み合わせて含むことにより、得られる生存T細胞の数が増加し、ナイーブ細胞およびセントラルメモリー細胞の割合が増加する。ナイーブ細胞およびセントラルメモリー細胞は、養子細胞免疫療法について最も効果的なサブセットである。さらに、イデラリシブまたはVIPhybの何れかを含めると、CD27+CD28+細胞の発生頻度が増加し、CD27-CD28-細胞の発生頻度は減少する。マウスおよびヒトT細胞を用いたさらなる研究は、PI3Kδの遮断が増殖に対する阻害効果を有するが、最終分化の防止およびナイーブコンパートメントの保存はT細胞生存および収量を増強することを示した。このデータは、使用される培養条件が全患者のT細胞の数を増加させるだけでなく、養子T細胞免疫療法において最も有効なコンパートメントを保存することを示す。このように、CART製造中に本発明者らの方法を利用することにより、多くのDLBCL患者が以前に受けられなかった最後の治療法の開発が可能になる可能性がある。
【0075】
P13キナーゼ阻害剤およびVIPシグナル伝達遮断による老化T細胞の増殖
イデラリシブは、PI3キナーゼの阻害剤である。PI3キナーゼは、リンパ球活性化および分化の重要なシグナル伝達経路であり、AKTおよびmTOR1活性を調節する。イデラリシブは、慢性リンパ球性白血病および低悪性度B細胞悪性腫瘍を有する患者の治療についてFDAの承認を受けている。イデラリシブで治療された患者は、薬物治療が停止した後に抗癌応答を継続し、結腸炎および発疹を含む自己免疫様の徴候および症状を発症することが認められており、これは、イデラリシブが免疫系を調節し、Th1分極したT細胞を活性化または保存するという仮説を導く。
【0076】
イデラリシブ処置は、CLLを有する患者におけるT細胞活性化の増加をもたらす。活性化T細胞のイデラリシブへのエクスビボでの曝露は、その活性化およびインビトロでの増殖を増強する。インビトロで抗CD3/CD28ビーズと共に培養したT細胞に一定範囲の濃度のイデラリシブを添加することにより、T細胞の増殖および分化を測定した。
【0077】
CART細胞の製造を試みたときにインビトロで増殖しなかった老化T細胞を有するリンパ腫患者からのT細胞試料が使用された。単球は、抗CD3/CD28ビーズを含む培養物中のT細胞増殖を阻害することが知られているため、T細胞試料から単球を枯渇させた。一定範囲のイデラリシブ濃度の効果を単独で、および3μMのVIPペプチドアンタゴニスト(VIPhyb)または1μg/mlのマスト細胞キマーゼ(T細胞活性化、分化および増殖における内因性VIPを分解する酵素)と組み合わせて比較した。生存T細胞の数ならびにT細胞分化および活性化プロファイルは、CD27、CD28、または両方の共刺激受容体(CD27+CD28+)の何れかが存在する活性化された表現型に対する、共刺激受容体CD27およびCD28の両方が存在しない(CD27-CD28-)老化表現型を有するT細胞の相対数に焦点を当てて、10日間のインビトロでの培養中に測定された。
【0078】
10%のウシ胎仔血清、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、および50μMの2-メルカプトエタノールを添加した完全RPMI1640(完全培地)中において、凍結した患者アフェレーシス生成物またはフィコ―ル化した全血由来PBMCのアリコートを迅速に解凍し、一晩放置した。翌日、赤血球をフィコール勾配によってアフェレーシス生成物から除去した。次に、製造者の説明書に従って、EasySepヒトT細胞濃縮キットを用いてT細胞について白血球を濃縮した。96ウェル平底プレートの各ウェル中の200μLの完全培地に細胞を播種した。示された濃度で化合物を添加し、DMSO濃度を全ウェルについて0.1%に標準化した。抗CD3/CD28ビーズを1:1ビーズ:細胞比で添加した。刺激後7日目に各処置からの細胞を新しい培地に移した。次いで、新鮮な化合物およびビーズを添加し、細胞をさらに3日間培養した。初期刺激後10日目にビーズを除去し、細胞をフローサイトメトリー分析のために染色した。
【0079】
細胞をPBSで2回洗浄した。細胞はまた、固定可能な生存能染料を用いて染色された。次に、CD3、CD4、CD8、CD27、CD28、CD45RA、CD45RO、PD-1、およびCCR7に蛍光色素結合抗体を添加することにより、表面マーカーを染色した。増殖を評価するために、細胞の半分をKi67の発現について評価した。FoxP3細胞内染色キットを用いてKi67染色を行った。試料を流す直前にAccucheck計数ビーズを各チューブに加えた。試料をBD FACS Ariaで取得し、FlowJoソフトウェアを用いて分析を行った。生存細胞を分析に使用した。細胞の絶対数は、Accucheck計数ビーズの製造者によって提供された説明書に従って各集団について計算された。
【0080】
1μMまたは100nMの濃度でのT細胞培養物へのイデラリシブの添加は、薬物を添加しない対照培養物と比較して、CD27およびCD28を共発現するT細胞の割合を有意に増加させた。注目すべきことに、CD27およびCD28共刺激受容体の両方を欠く老化T細胞の分画は、薬物を添加しない対照培養物での55.2%から、10nMのイデラリシブでの培養物で16.1%、3μMのVIPhybでの培養物で35.7%、および1μg/mlのマスト細胞キマーゼでの培養物で37.4%に低下した。
【0081】
100nM濃度でのイデラリシブは、VIPhybまたはキマーゼと組み合わせた場合に共刺激受容体を発現するT細胞の割合を増強させることにおいて相乗的であり、薬物を添加しない対照培養物での3.5%に対し、100nMのイデレラジブとVIPhybとの組み合わせで21.5%のCD27+CD28+細胞の分画を有し、100nMのイデレリシブとキマーゼとの組み合わせで14.2%であった。
【0082】
イデラリシブ、VIPhyb、およびイデラリシブとキマーゼおよびVIPhybとの組み合わせに曝露することにより、10日間の培養におけるエフェクターメモリーT細胞(Tem)の数も増加した。培養物中の生存T細胞の総数は、薬物を添加しない対照培養物と比較して、イデラリシブおよびキマーゼまたはイデラリシブおよびVIPhybの組み合わせで有意に増加した。注目すべきことに、CD27+CD28+T細胞サブセットの総数は、100nMのイデレリシブ、1μMのイデラリシブ+1μg/mlのキマーゼ、または100nMのイデラリシブ+3μMのVIPhybを含む培養物において、薬物を含有しない対照培養物と比較して10倍超濃縮されており、10日間の培養物中のCD3+Temの総数は、1μMのイデレリシブ+キマーゼを含む培養物において、薬物を添加しない対照培養物と比較して10倍増加されていた。イデラリシブ単独、VIPhyb単独、キマーゼ単独、またはイデラリシブとVIPhybまたはキマーゼとの組み合わせを含有する培養物では、薬物を添加しない対照培養物と比較して、CD3+セントラルメモリーT細胞(Tcm)が5~10倍増加した。
【0083】
このデータは、抗CD3/CD28ビーズを用いた培養では増殖できず、臨床使用のために十分に製造されたCART細胞を産生しなかった老化T細胞が、イデラリシブ、VIPhybまたはマスト細胞キマーゼを単独薬剤としてまたは組み合わせて添加することで、インビトロで有意に増殖し得ることを示し、これらの結果は、CARTの製造中にこれらの薬剤を添加することを支持し、癌免疫療法および抗ウイルス免疫を増強するために老化T細胞を増殖させるためのインビトロでのその使用を支持する。
インビトロ細胞培養物組成物において、精製されたT細胞およびVIP受容体アンタゴニストならびにビーズまたは固体表面上に任意選択により固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体を含むことを特徴とするインビトロ細胞培養物組成物。