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▶ ゲンマブ エー/エスの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026114
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】ヒト化またはキメラCD3抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240220BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240220BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240220BHJP
   C07K 16/42 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240220BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240220BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240220BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240220BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240220BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
C12N15/63 Z
C07K16/42
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
C12Q1/04
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 U
A61P31/00
A61P35/00
A61P37/02
G01N33/53 Y
G01N33/531 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023196008
(22)【出願日】2023-11-17
(62)【分割の表示】P 2022042394の分割
【原出願日】2015-01-08
(31)【優先権主張番号】PA201400009
(32)【優先日】2014-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2014/050340
(32)【優先日】2014-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2014/064326
(32)【優先日】2014-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】507316398
【氏名又は名称】ジェンマブ エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ブリンク エドワード ノーバート ヴァン デン
(72)【発明者】
【氏名】ネイッセン ヨースト ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ラブリン アラン フランク
(72)【発明者】
【氏名】ミースターズ ジョイス
(72)【発明者】
【氏名】シュールマン ジャニーヌ
(72)【発明者】
【氏名】アルティンタス イシル
(72)【発明者】
【氏名】パレン ポール
(72)【発明者】
【氏名】ラーデメイカー リック
(57)【要約】      (修正有)
【課題】薬学的組成物、疾患の処置、診断用組成物等に有用な、CD3に結合するヒト化またはキメラ抗体を提供する。
【解決手段】特定の配列をそれぞれ有する重鎖可変(VH)領域CDR1、CDR2、およびCDR3と、特定の配列、配列GTN、および特定の配列をそれぞれ有する軽鎖可変(VL)領域CDR1、CDR2、およびCDR3とを含む結合領域を含む、ヒトCD3に結合するヒト化またはキメラ抗体を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:1、2、および3に示す配列をそれぞれ有する重鎖可変(VH)領域CDR1、CDR2
、およびCDR3と、
SEQ ID NO:4に示す配列、配列GTN、およびSEQ ID NO:5またはSEQ ID NO:60に示す配
列をそれぞれ有する軽鎖可変(VL)領域CDR1、CDR2、およびCDR3と
を含む結合領域を含む、ヒトCD3に結合するヒト化またはキメラ抗体。
【請求項2】
VH領域が、
(a)SEQ ID NO:6に示すVH配列、
(b)SEQ ID NO:8に示すVH配列、
(c)SEQ ID NO:7に示すVH配列、および
(d)SEQ ID NO:9に示すVH配列
からなる群より選択されるVH配列に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくと
も95%、少なくとも97%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、請求項
1記載の抗体。
【請求項3】
VL領域が、
(a)SEQ ID NO:10に示すVL配列、
(b)SEQ ID NO:11に示すVL配列、および
(c)SEQ ID NO:12に示すVL配列
からなる群より選択されるVL配列に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくと
も95%、少なくとも97%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する、前記請
求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項4】
VH領域が、
(a)SEQ ID NO:6に示すVH配列、
(b)SEQ ID NO:8に示すVH配列、
(c)SEQ ID NO:7に示すVH配列、および
(d)SEQ ID NO:9に示すVH配列
からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項5】
VL領域が、
(a)SEQ ID NO:10に示すVL配列、
(b)SEQ ID NO:11に示すVL配列、および
(c)SEQ ID NO:12に示すVL配列
からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項6】
VH領域およびVL領域が、
(a)SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列、
(b)SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列、
(c)SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列、
(d)SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:11に示すVL配列、
(e)SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:12に示すVL配列、
(f)SEQ ID NO:7に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列、
(g)SEQ ID NO:7に示すVH配列およびSEQ ID NO:11に示すVL配列、
(h)SEQ ID NO:7に示すVH配列およびSEQ ID NO:12に示すVL配列、
(i)SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:11に示すVL配列、
(j)SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:12に示すVL配列、
(k)SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:11に示すVL配列、ならびに
(l)SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:12に示すVL配列
からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項7】
結合領域が、
(a)SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列、
(b)SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列、ならびに
(c)SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列
からなる群より選択されるVH配列およびVL配列を含む、前記請求項のいずれか一項記載の
抗体。
【請求項8】
ヒト化抗体である、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項9】
キメラ抗体である、請求項1記載の抗体。
【請求項10】
全長抗体である、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項11】
第1および第2免疫グロブリン重鎖を含むFc領域を含む、前記請求項のいずれか一項記載
の抗体。
【請求項12】
第1および第2重鎖が、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4からなる群より選択されるアイソ
タイプのものである、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項13】
抗体へのC1qの結合が野生型抗体と比較して少なくとも70%、少なくとも80%、少なく
とも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または100%低減するように修飾されたFc
領域を含み、
C1q結合がELISAによって決定される、
前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項14】
野生型抗体と比較して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも
80%、少なくとも90%、少なくとも99%、または100%低減したFc媒介T細胞増殖を前記抗
体が媒介するように修飾されたFc領域を含み、
該T細胞増殖が末梢血単核球(PBMC)に基づく機能アッセイにおいて測定される、
前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項15】
野生型抗体と比較した場合に前記抗体がFc媒介CD69発現を少なくとも50%、少なくとも
60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも99%、または100
%低減させるように修飾されたFc領域を含み、
Fc媒介CD69発現がPBMCに基づく機能アッセイにおいて決定される、
前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項16】
第1および第2免疫グロブリン重鎖を含み、
該第1および該第2免疫グロブリン重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、D265、N297、およびP331に対応する位置にある1つまたは複数のアミノ酸
が、それぞれL、L、D、N、およびPではない、
前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項17】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に対応する位
置のアミノ酸がDではない、請求項16記載の抗体。
【請求項18】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置N297に対応する位
置のアミノ酸がNではない、請求項16記載の抗体。
【請求項19】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234およびL235に
対応する位置のアミノ酸がそれぞれLおよびLではない、請求項16記載の抗体。
【請求項20】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234およびL235に
対応する位置のアミノ酸が、それぞれFおよびEであるか、またはAおよびAである、請求項
16および19のいずれか一項記載の抗体。
【請求項21】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234およびL235に
対応する位置のアミノ酸がそれぞれFおよびEである、請求項20記載の抗体。
【請求項22】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、少なくともヒトIgG1重鎖中の位置L234お
よびL235に対応する位置のアミノ酸がそれぞれAおよびAである、請求項20記載の抗体。
【請求項23】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およ
びD265に対応する位置のアミノ酸がそれぞれL、L、およびDではない、請求項1~16のいず
れか一項記載の抗体。
【請求項24】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およ
びD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであるか、またはA、A、お
よびAである、請求項23記載の抗体。
【請求項25】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およ
びD265に対応する位置のアミノ酸がそれぞれF、E、およびAである、請求項24記載の抗体
【請求項26】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およ
びD265に対応する位置のアミノ酸がそれぞれA、A、およびAである、請求項24記載の抗体
【請求項27】
第1および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、D265
、N297、およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、A、Q、およびSである
、請求項16記載の抗体。
【請求項28】
軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置T41に対応する位置のアミノ酸
がTではない、前記請求項のいずれか一項記載の抗体。
【請求項29】
SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置T41に対応する位置のアミノ酸がKである、請求項28
記載の抗体。
【請求項30】
SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10に対応する位置のアミノ酸がFではなく、かつ、
SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置T41、K55、およびL97に対応するアミノ酸の位置の1つ
または複数がそれぞれT、K、およびLではない、請求項1~28のいずれか一項記載の抗体。
【請求項31】
SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10、T41、K55、およびL97に対応する位置のアミノ
酸がそれぞれF、T、K、およびLではない、請求項30記載の抗体。
【請求項32】
SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10、T41、K55、およびL97に対応する位置のアミノ
酸がそれぞれL、K、N、およびHである、請求項31記載の抗体。
【請求項33】
位置R23およびA35に対応する位置のアミノ酸がそれぞれRおよびAではない、請求項1~2
8のいずれか一項記載の抗体。
【請求項34】
位置R23およびA35に対応する位置のアミノ酸がそれぞれAおよびPである、請求項33記載
の抗体。
【請求項35】
SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10、R23、A35、R47、D71、A82、D83、S86、I87、
およびF89に対応する位置のアミノ酸がそれぞれF、R、A、R、D、A、D、S、I、およびFで
はない、請求項33記載の抗体。
【請求項36】
SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10、R23、A35、R47、D71、A82、D83、S86、I87、
およびF89に対応する位置のアミノ酸がそれぞれL、A、P、T、G、P、E、A、E、およびYで
ある、請求項35記載の抗体。
【請求項37】
(i)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10に対応する位置のアミノ酸がFではないか
、または
(ii)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置K55に対応する位置のアミノ酸がKではないか
、または
(iii)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10に対応する位置のアミノ酸がFではなく
、かつ、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置K55に対応する位置のアミノ酸がKではない、
請求項1~36のいずれか一項記載の抗体。
【請求項38】
(i)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10に対応する位置のアミノ酸がLであるか、
または
(ii)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置K55に対応する位置のアミノ酸がNであるか、
または
(iii)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10に対応する位置のアミノ酸がLであり、
かつ、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置K55に対応する位置のアミノ酸がNである、
請求項37記載の抗体。
【請求項39】
定常重鎖(HC)および定常軽鎖(LC)を含み、
SEQ ID NO:15のヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置がそれぞ
れF、E、およびAであり、かつ
SEQ ID NO:15のヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置がLであり、かつ、
(i)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10、T41、K55、およびL97に対応する位置が
それぞれL、K、N、およびHであるか、または
(ii)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置T41に対応する位置がKである、
請求項1~38のいずれか一項記載の抗体。
【請求項40】
請求項1~39のいずれか一項記載の抗体の第1結合領域と、該第1抗原結合領域とは異な
るターゲットに結合する第2結合領域とを含む、二重特異性抗体。
【請求項41】
第1および第2重鎖を含む、請求項40記載の二重特異性抗体。
【請求項42】
(a)二重特異性抗体が、請求項13~15のいずれか一項に従って修飾されたFc領域を含
むか、または
(b)第1および第2重鎖の少なくとも一方が、請求項16~39のいずれか一項に記載する
ように修飾された1つまたは複数のアミノ酸を含む、
請求項41記載の二重特異性抗体。
【請求項43】
第1および第2重鎖のそれぞれが、少なくともヒンジ領域、CH2およびCH3領域を含み、
該第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のT366、L368、K370、D399、F405、Y407、およびK
409からなる群より選択される位置に対応する位置のアミノ酸の少なくとも1つが置換され
ており、
該第2重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のT366、L368、K370、D399、F405、Y407、およびK
409からなる群より選択される位置に対応する位置のアミノ酸の少なくとも1つが置換され
ており、
該第1および該第2重鎖が同じ位置では置換されていない、
請求項40~42のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項44】
ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸が第1重鎖ではLであり、かつヒトIgG1
重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸が第2重鎖ではRであるか、またはその逆である、
請求項43記載の二重特異性抗体。
【請求項45】
第1結合領域が請求項1~7のいずれか一項に従い、第2結合領域が該第1結合領域とは異
なるターゲットに結合する、請求項40~44のいずれか一項記載の二重特異性抗体。
【請求項46】
第2結合領域がヒトHER2またはヒトCD20に結合する、請求項45記載の二重特異性抗体。
【請求項47】
第2結合領域がヒトCD20に結合する、請求項46記載の二重特異性抗体。
【請求項48】
ヒトCD20に結合する第2結合領域が、
(i)SEQ ID NO:34のVH CDR1領域、SEQ ID NO:35のVH CDR2領域、SEQ ID NO:36のVH CD
R3領域、SEQ ID NO:37のVL CDR1領域、DASのVL CDR2領域、およびSEQ ID NO:38のVL CDR3
領域、
(ii)SEQ ID NO:41のVH CDR1領域、SEQ ID NO:42のVH CDR2領域、SEQ ID NO:43のVH C
DR3領域、SEQ ID NO:44のVL CDR1領域、DASのVL CDR2領域、およびSEQ ID NO:45のVL CDR
3領域、
(iii)SEQ ID NO:48のVH CDR1領域、SEQ ID NO:49のVH CDR2領域、SEQ ID NO:50のVH
CDR3領域、SEQ ID NO:51のVL CDR1領域、DASのVL CDR2領域、およびSEQ ID NO:52のVL CD
R3領域、または
(iv)SEQ ID NO:55のVH CDR1領域、SEQ ID NO:56のVH CDR2領域、SEQ ID NO:57のVH C
DR3領域、SEQ ID NO:58のVL CDR1領域、DASのVL CDR2領域、およびSEQ ID NO:59のVL CDR
3領域
を含む、請求項47記載の二重特異性抗体。
【請求項49】
ヒトCD20に結合する第2結合領域が、
(i)SEQ ID NO:29に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少
なくとも97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVH配列、および、
SEQ ID NO:30に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも
97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVL配列、
(ii)SEQ ID NO:39に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少
なくとも97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVH配列、および、
SEQ ID NO:40に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも
97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVL配列、
(iii)SEQ ID NO:46に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、
少なくとも97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVH配列、および
、SEQ ID NO:47に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくと
も97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVL配列、または
(iv)SEQ ID NO:53に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少
なくとも97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVH配列、および、
SEQ ID NO:54に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも
97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVL配列
を含む、請求項47または48記載の二重特異性抗体。
【請求項50】
ヒトCD20に結合する第2結合領域が、
(i)SEQ ID NO:29のVH配列およびSEQ ID NO:30のVL配列、
(ii)SEQ ID NO:39のVH配列およびSEQ ID NO:40のVL配列、
(iii)SEQ ID NO:46のVH配列およびSEQ ID NO:47のVL配列、または
(iv)SEQ ID NO:53のVH配列およびSEQ ID NO:54のVL配列
を含む、請求項49記載の二重特異性抗体。
【請求項51】
表1に示す1つまたは複数のアミノ酸配列をコードする、核酸コンストラクト。
【請求項52】
(i)請求項1~50のいずれか一項記載のヒト化抗体もしくはキメラ抗体の重鎖配列をコ
ードする核酸配列、
(ii)請求項1~50のいずれか一項記載のヒト化抗体もしくはキメラ抗体の軽鎖配列を
コードする核酸配列、または
(iii)(i)と(ii)の両方
を含む発現ベクター。
【請求項53】
請求項52記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項54】
組換え真核宿主細胞、組換え原核宿主細胞、または組換え微生物宿主細胞である、請求
項53記載の宿主細胞。
【請求項55】
請求項1~39のいずれか一項記載の抗体または請求項40~50のいずれか一項記載の二重
特異性抗体を含む、組成物。
【請求項56】
請求項1~39のいずれか一項記載の抗体または請求項40~50のいずれか一項記載の二重
特異性抗体と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項57】
医薬として使用するための、請求項1~39のいずれか一項記載の抗体、請求項40~50の
いずれか一項記載の二重特異性抗体、請求項55記載の組成物、または請求項56記載の薬学
的組成物。
【請求項58】
疾患の処置に使用するための、請求項1~39のいずれか一項記載の抗体、請求項40~50
のいずれか一項記載の二重特異性抗体、請求項55記載の組成物、または請求項56記載の薬
学的組成物。
【請求項59】
請求項1~39のいずれか一項記載の抗体、請求項40~50のいずれか一項記載の二重特異
性抗体、請求項55記載の組成物、または請求項56記載の薬学的組成物を、それを必要とす
る対象に投与する工程を含む、疾患の処置方法。
【請求項60】
疾患が、がん、感染性疾患、または自己免疫疾患である、請求項57~59のいずれか一項
記載の使用または方法。
【請求項61】
対象に、請求項1~39のいずれか一項記載の抗体、請求項40~50のいずれか一項記載の
二重特異性抗体、請求項55記載の組成物、または請求項56記載の薬学的組成物を投与する
工程を含み、
任意で該抗体または該二重特異性抗体が検出可能な作用物質で標識される、
CD3発現細胞の関与または蓄積を特徴とする疾患を診断する方法。
【請求項62】
(a)請求項53~54のいずれか一項記載の宿主細胞を培養する工程、および
(b)培養培地から抗体を精製する工程
を含む、請求項1~39のいずれか一項記載の抗体または請求項40~50のいずれか一項記載
の二重特異性抗体を生産するための方法。
【請求項63】
請求項1~39のいずれか一項記載の抗体または請求項40~50のいずれか一項記載の二重
特異性抗体を含む、診断用組成物。
【請求項64】
(a)試料を、請求項1~39のいずれか一項記載の抗体または請求項40~50のいずれか一
項記載の二重特異性抗体と、該抗体または二重特異性抗体とCD3との複合体の形成が可能
な条件下で接触させる工程、および
(b)複合体が形成されたかどうかを解析する工程
を含む、試料中のCD3抗原の存在またはCD3を発現する細胞の存在を検出するための方法。
【請求項65】
(i)請求項1~39のいずれか一項記載の抗体または請求項40~50のいずれか一項記載の
二重特異性抗体、および
(ii)キットの使用説明書
を含む、試料中のCD3抗原の存在またはCD3を発現する細胞の存在を検出するためのキット
【請求項66】
請求項1~39のいずれか一項記載の抗体に結合する抗イディオタイプ抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ヒトCD3に結合するヒト化またはキメラ抗体、該ヒト化またはキメラ抗体を
含む組成物、および疾患の処置における該ヒト化またはキメラ抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
分化抗原群(Cluster of Differentiation)3(CD3)は古くから知られており、それゆ
えに多くの局面において関心の対象となってきた。具体的には、CD3に対して生じた抗体
またはCD3を一成分とするT細胞受容体複合体に対して生じた抗体が、知られている。5つ
のヒト化OKT3エフェクター機能変異体抗体のインビトロキャラクタリゼーションが、記述
されている[1]。
【0003】
抗CD3モノクローナル抗体hOKT3ガンマ1(Ala-Ala)による処置は、継続的な免疫抑制薬
の投与がない状態で、1型糖尿病の発症後に少なくとも2年間は、Cペプチド応答および臨
床パラメータの改良をもたらす[2]。
【0004】
標的抗体療法を改良するための有望なアプローチは、抗原を発現するがん細胞に、細胞
傷害性細胞を特異的に送達することによる方法である。腫瘍細胞を効率よく死滅させるた
めにT細胞を使用するというこのコンセプトは、既に記述されている[3]。しかし、初期
の臨床研究はむしろ期待外れで、その理由は主として、二重特異性抗体の低い効力、重篤
な有害作用(サイトカインストーム)および免疫原性にあった[4]。二重特異性抗体の
設計と応用が進歩したことにより、サイトカインストームという最初の障壁は部分的に克
服され、臨床有効性が改良されて用量制限毒性はなくなっている[5]。
【0005】
例えば、一方のアームで腫瘍細胞上の抗原を標的とし、他方のアームで例えばT細胞上
のCD3を標的とする一定の二重特異性抗体は、Fc領域によるFc受容体結合を与える。結合
すると、T細胞と、腫瘍細胞と、抗体Fc領域に結合するエフェクター細胞との複合体が形
成されて、それが腫瘍細胞の死滅につながる[4]。カツマキソマブは、マウスIgG2a/ラ
ットIgG2bヘテロ二量体からなり、腹腔内適用後にがん関連腹水の処置について成功を収
めている[6]。しかし、マウス/ラットハイブリッドは免疫原性であり[7]、ヒトにお
ける長期静脈内処置には応用することができない。カツマキソマブに起因する高頻度の処
置に関連する有害イベントには、カツマキソマブのFc領域のエフェクター機能に関係する
サイトカイン放出関連症状(すなわち発熱、悪心、嘔吐、悪寒、頻脈および低血圧)[8
]~[9]が含まれていた。別の抗体が、HER2発現量が低い細胞株において細胞傷害を誘
発するエルツマキソマブ(HER2×CD3)である。エルツマキソマブは、転移乳がんに関し
て第II相臨床開発中である[10]~[11]。
【0006】
カニクイザルおよび/またはアカゲザルのCD3に交差反応するCD3抗体が記述されている
が[12]~[13]、そのような交差反応性抗体にはさらなる改良が必要である。
【発明の概要】
【0007】
ヒト化またはキメラCD3抗体を提供することが、本発明の目的である。したがって一局
面において、本発明は、ヒトCD3に結合するヒト化またはキメラ抗体であって、SEQ ID NO
:1、2、および3に示す配列をそれぞれ有する重鎖可変(VH)領域CDR1、CDR2、およびCDR
3と、SEQ ID NO:4に示す配列、配列GTN、およびSEQ ID NO:5またはSEQ ID NO:60に示す
配列をそれぞれ有する軽鎖可変(VL)領域CDR1、CDR2、およびCDR3とを含む結合領域を含
む抗体に関する。
【0008】
一局面において、本発明は、ヒトCD3に結合するヒト化またはキメラ抗体であって、SEQ
ID NO:1、2、および3に示す配列をそれぞれ有する重鎖可変(VH)領域CDR1、CDR2、お
よびCDR3と、SEQ ID NO:4に示す配列、配列GTN、およびSEQ ID NO:5に示す配列をそれ
ぞれ有する軽鎖可変(VL)領域CDR1、CDR2、およびCDR3とを含む結合領域を含む抗体に関
する。
【0009】
別の局面において、本発明は、本発明の抗体の第1結合領域と、該第1抗原結合領域とは
異なるターゲットに結合する第2結合領域とを含む、二重特異性抗体に関する。
【0010】
別の局面において、本発明は、本発明の1つまたは複数のアミノ酸配列をコードする核
酸コンストラクトに関する。
【0011】
別の局面において、本発明は、(i)本発明のヒト化またはキメラ抗体の重鎖配列をコ
ードする核酸配列、(ii)本発明のヒト化またはキメラ抗体の軽鎖配列をコードする核酸
配列、または(iii)(i)と(ii)の両方を含む発現ベクターに関する。
【0012】
別の局面において、本発明は、本発明の発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0013】
別の局面において、本発明は、本発明の抗体または二重特異性抗体を含む組成物に関す
る。
【0014】
別の局面において、本発明は、本発明の抗体または二重特異性抗体と薬学的に許容され
る担体とを含む薬学的組成物に関する。
【0015】
別の局面において、本発明は、医薬として使用するための、本発明の抗体もしくは二重
特異的抗体、組成物、または薬学的組成物に関する。
【0016】
別の局面において、本発明は、疾患の処置に使用するための、本発明の抗体もしくは二
重特異的抗体、組成物、または薬学的組成物に関する。
【0017】
別の局面において、本発明は、疾患の処置を必要とする対象に本発明の抗体もしくは二
重特異的抗体、組成物、または薬学的組成物を投与する工程を含む、疾患の処置方法に関
する。
【0018】
一局面において、本発明は、CD3発現細胞の関与または蓄積を特徴とする疾患を診断す
る方法に関し、本方法は、検出可能な作用物質で標識されていてもよい本発明のヒト化ま
たはキメラ抗体、本発明の組成物、または本発明の薬学的組成物を対象に投与する工程を
含む。
【0019】
別の局面において、本発明は、本発明の抗体または二重特異性抗体を生産するための方
法に関し、本方法は、a)本発明の宿主細胞を培養する工程、およびb)培養培地から前記
抗体を精製する工程を含む。
【0020】
別の局面において、本発明は、本発明の抗体または二重特異性抗体を含む診断用組成物
に関する。
【0021】
別の局面において、本発明は、試料中のCD3抗原の存在またはCD3を発現する細胞の存在
を検出するための方法に関し、本方法は、a)前記試料を本発明の抗体または二重特異性
抗体と、前記抗体または二重特異性抗体とCD3との複合体の形成が可能な条件下で接触さ
せる工程、およびb)複合体が形成されたかどうかを解析する工程を含む。
【0022】
別の局面において、本発明は、i)本発明の抗体または二重特異性抗体と、ii)キット
の使用説明書とを含む、試料中のCD3抗原の存在またはCD3を発現する細胞の存在を検出す
るためのキットに関する。
【0023】
別の局面において、本発明は、本発明の抗体に結合する抗イディオタイプ抗体に関する
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ヒトT細胞株Jurkatに対する(図1A)IgG1-huCD3の単一特異性抗体変異体および(図1B)二重特異性抗体変異体bsIgG1 huCD3×HER2の結合曲線を表す。表示のデータは、実施例2で述べるように、代表的な一実験の平均蛍光強度(MFI)である。表は、50%最大結合(half-maximal binding)(EC50)をもたらす抗体濃度(μg/mL)を表す。
図2】カニクイザルT細胞株HSC-Fに対する(図2A)IgG1-huCD3の単一特異性抗体変異体および(図2B)二重特異性抗体変異体bsIgG1 huCD3×HER2の結合曲線を表す。表示のデータは、実施例2で述べるように、代表的な一実験の平均蛍光強度(MFI)である。
図3】IgG1-huCD3抗体変異体によるT細胞活性化。PBMC培養におけるヒト(図3A)およびカニクイザル(図3B)由来のT細胞上でのCD69の発現を、実施例3で述べるようにFACS解析によって測定した。これらの実験は2回行った。1回の実験からの代表的結果を示す。
図4】IgG1-huCD3抗体変異体が誘発するT細胞増殖。ヒト(図4A)またはカニクイザル(図4B)PBMCを、IgG1-huCD3抗体変異体と共に3日間インキュベートした後、実施例4で述べるように細胞増殖ELISAによって、増殖を測定した。2回の独立した実験から代表的な結果を示す。
図5】非活性化LFLEDA変異を持つhuCD3抗体変異体によるヒト(図5A)およびカニクイザル(図5B)T細胞媒介性細胞傷害の誘発を、実施例5で説明するように決定した。二つ一組にして行った2回の独立した実験からの代表的結果を示す。
図6A】ヒトT細胞株Jurkatに対するIgG1-huCD3の非活性化単一特異性抗体変異体の結合曲線を表す。表示のデータは、実施例2で述べるように、代表的な一実験の平均蛍光強度(MFI)である。表は、50%最大結合(EC50)をもたらす抗体濃度(μg/mL)を表す。
図6B】ヒトT細胞株Jurkatに対するIgG1-huCD3の非活性化二重特異性抗体変異体bsIgG1-huCD3×HER2の結合曲線を表す。表示のデータは、実施例2で述べるように、代表的な一実験の平均蛍光強度(MFI)である。表は、50%最大結合(EC50)をもたらす抗体濃度(μg/mL)を表す。
図7A】カニクイザルT細胞株HSC-Fに対するIgG1-huCD3の非活性化単一特異性抗体変異体の結合曲線を示す。表示のデータは、実施例2で述べるように、代表的な一実験の平均蛍光強度(MFI)である。表は、50%最大結合(EC50)をもたらす抗体濃度(μg/mL)を表す。
図7B】カニクイザルT細胞株HSC-Fに対するIgG1-huCD3の非活性化二重特異性抗体変異体bsIgG1-huCD3×HER2の結合曲線を示す。表示のデータは、実施例2で述べるように、代表的な一実験の平均蛍光強度(MFI)である。表は、50%最大結合(EC50)をもたらす抗体濃度(μg/mL)を表す。
図8A】非活性化単一特異性IgG1-huCD3によるT細胞活性化。PBMC培養におけるヒト由来のT細胞上でのCD69の発現を、実施例3で述べるように、FACS解析によって測定した。これらの実験は2回行った。1回の実験からの代表的結果を示す。
図8B】非活性化単一特異性IgG1-huCD3によるT細胞活性化。PBMC培養におけるカニクイザル由来のT細胞上でのCD69の発現を、実施例3で述べるように、FACS解析によって測定した。これらの実験は2回行った。1回の実験からの代表的結果を示す。
図8C】非活性化二重特異性bsIgG1-huCD3×HER2抗体変異体によるT細胞活性化。PBMC培養におけるヒト由来のT細胞上でのCD69の発現を、実施例3で述べるように、FACS解析によって測定した。これらの実験は2回行った。1回の実験からの代表的結果を示す。
図8D】非活性化二重特異性bsIgG1-huCD3×HER2抗体変異体によるT細胞活性化。PBMC培養におけるカニクイザル由来のT細胞上でのCD69の発現を、実施例3で述べるように、FACS解析によって測定した。これらの実験は2回行った。1回の実験からの代表的結果を示す。
図9A】非活性化単一特異性IgG1-huCD3によって誘発されるT細胞増殖。T細胞増殖をヒトPBMCで測定した。これらのPBMCをさまざまな抗体変異体と共に3日間インキュベートした後、実施例4で述べるように細胞増殖ELISAによって増殖を測定した。2回の独立した実験からの代表的結果を示す。
図9B】非活性化単一特異性IgG1-huCD3によって誘発されるT細胞増殖。T細胞増殖をカニクイザルPBMCで測定した。これらのPBMCをさまざまな抗体変異体と共に3日間インキュベートした後、実施例4で述べるように細胞増殖ELISAによって増殖を測定した。2回の独立した実験からの代表的結果を示す。
図9C】非活性化二重特異性bsIgG1-huCD3×HER2抗体変異体によって誘発されるT細胞増殖。T細胞増殖をヒトPBMCで測定した。これらのPBMCをさまざまな抗体変異体と共に3日間インキュベートした後、実施例4で述べるように細胞増殖ELISAによって増殖を測定した。2回の独立した実験からの代表的結果を示す。
図9D】非活性化二重特異性bsIgG1-huCD3×HER2抗体変異体によって誘発されるT細胞増殖。T細胞増殖をカニクイザルPBMCで測定した。これらのPBMCをさまざまな抗体変異体と共に3日間インキュベートした後、実施例4で述べるように細胞増殖ELISAによって増殖を測定した。2回の独立した実験からの代表的結果を示す。
図10】非活性化LFLEDA変異を持つhuCD3抗体変異体によるヒト(図10A)およびカニクイザル(図10B)T細胞媒介性細胞傷害の誘発を、実施例5で説明するように決定した。二つ一組にして行った2回の独立した実験からの代表的結果を示す。
図11】IgG1-huCD3抗体変異体によるアカゲザルT細胞活性化。PBMC培養におけるアカゲザル由来のT細胞上でのCD69の発現を、実施例6で述べるように、FACS解析によって測定した。
図12】huCLB-T3/4抗体の非活性化変異体によるT細胞活性化。PBMCに対してIgG1-huCLB-T3/4変異体をタイトレーションした。PBMC培養におけるT細胞上でのCD69の発現を、実施例7で述べるように、FACS解析によって測定した。3回の実験の代表例を示す。
図13】huCLB-T3/4抗体の非活性化変異体によるT細胞増殖。PBMCを抗体と共に3日間インキュベートした後、実施例8で述べるように、細胞増殖ELISAによって増殖を測定した。2回の独立した実験からの代表的結果を示す。
図14A】CD3抗体の非活性化抗体変異体が誘発するインビトロT細胞媒介性細胞傷害。抗体変異体(N297Q、LFLE、LFLENQ、LFLEDA、DANQ、LFLEDANQPS[図14A~G])によるT細胞媒介性細胞傷害の誘発を、実施例9で説明するように決定した。二つ一組にして行った2回の実験からの平均を示す。
図14B】CD3抗体の非活性化抗体変異体が誘発するインビトロT細胞媒介性細胞傷害。抗体変異体(N297Q、LFLE、LFLENQ、LFLEDA、DANQ、LFLEDANQPS[図14A~G])によるT細胞媒介性細胞傷害の誘発を、実施例9で説明するように決定した。二つ一組にして行った2回の実験からの平均を示す。
図14C】CD3抗体の非活性化抗体変異体が誘発するインビトロT細胞媒介性細胞傷害。抗体変異体(N297Q、LFLE、LFLENQ、LFLEDA、DANQ、LFLEDANQPS[図14A~G])によるT細胞媒介性細胞傷害の誘発を、実施例9で説明するように決定した。二つ一組にして行った2回の実験からの平均を示す。
図14D】CD3抗体の非活性化抗体変異体が誘発するインビトロT細胞媒介性細胞傷害。抗体変異体(N297Q、LFLE、LFLENQ、LFLEDA、DANQ、LFLEDANQPS[図14A~G])によるT細胞媒介性細胞傷害の誘発を、実施例9で説明するように決定した。二つ一組にして行った2回の実験からの平均を示す。
図14E】CD3抗体の非活性化抗体変異体が誘発するインビトロT細胞媒介性細胞傷害。抗体変異体(N297Q、LFLE、LFLENQ、LFLEDA、DANQ、LFLEDANQPS[図14A~G])によるT細胞媒介性細胞傷害の誘発を、実施例9で説明するように決定した。二つ一組にして行った2回の実験からの平均を示す。
図14F】CD3抗体の非活性化抗体変異体が誘発するインビトロT細胞媒介性細胞傷害。抗体変異体(N297Q、LFLE、LFLENQ、LFLEDA、DANQ、LFLEDANQPS[図14A~G])によるT細胞媒介性細胞傷害の誘発を、実施例9で説明するように決定した。二つ一組にして行った2回の実験からの平均を示す。
図14G】CD3抗体の非活性化抗体変異体が誘発するインビトロT細胞媒介性細胞傷害。抗体変異体(N297Q、LFLE、LFLENQ、LFLEDA、DANQ、LFLEDANQPS[図14A~G])によるT細胞媒介性細胞傷害の誘発を、実施例9で説明するように決定した。二つ一組にして行った2回の実験からの平均を示す。
図15】非活性化huCLB-T3/4変異体が誘発するインビトロT細胞媒介性細胞傷害。抗体変異体(LFLEDA LAL[図15A~C]によるT細胞媒介性細胞傷害の誘発を、実施例9で述べるように決定した。二つ一組にして行った1回の実験からの平均を示す。
図16A】非活性化huCLB-T3/4抗体変異体に対するC1q結合の評価。単一特異性IgG1 huCLB-T3/4(図16A~C)およびbsIgG1-huCLB-T3/4×HER2(図B~D)ならびにその非活性化抗体変異体に対するC1qの結合を、実施例10で述べるようにELISAによって評価した。グラフ中の結果はn=2の実験の代表例である。
図16B】非活性化huCLB-T3/4抗体変異体に対するC1q結合の評価。単一特異性IgG1 huCLB-T3/4(図16A~C)およびbsIgG1-huCLB-T3/4×HER2(図B~D)ならびにその非活性化抗体変異体に対するC1qの結合を、実施例10で述べるようにELISAによって評価した。グラフ中の結果はn=2の実験の代表例である。
図16C】非活性化huCLB-T3/4抗体変異体に対するC1q結合の評価。単一特異性IgG1 huCLB-T3/4(図16A~C)およびbsIgG1-huCLB-T3/4×HER2(図B~D)ならびにその非活性化抗体変異体に対するC1qの結合を、実施例10で述べるようにELISAによって評価した。グラフ中の結果はn=2の実験の代表例である。
図16D】非活性化huCLB-T3/4抗体変異体に対するC1q結合の評価。単一特異性IgG1 huCLB-T3/4(図16A~C)およびbsIgG1-huCLB-T3/4×HER2(図B~D)ならびにその非活性化抗体変異体に対するC1qの結合を、実施例10で述べるようにELISAによって評価した。グラフ中の結果はn=2の実験の代表例である。
図17】非活性化huCLB-T3/4抗体変異体の薬物動態(PK)解析を、実施例11で述べるように、野生型IgG1-huCLB-T3/4抗体のものと比較した。ヒトIgG1の血漿中濃度を時間に対してプロットした(図17A)。図11で述べるように計算した血漿クリアランス率(図17B)。水平の点線は、SCIDマウスにおけるヒトIgG1抗体の平均クリアランス率(10mL/日/kg)を表す。
図18】HLA型判定された(HLA-typed)健常ドナーにおける陽性T細胞応答の頻度。増殖アッセイとIL-2分泌アッセイの両方で≧1.9のSI指数を陽性応答とみなした。ヒト化A33を、臨床において高レベルの免疫原性を示し、EpiScreenアッセイにおいて常に20~30%のT細胞応答を誘発する臨床ベンチマーク対照抗体として使用した。PBMCの品質(融解後)をチェックするために、KLH応答を含めた。
図19】本発明のヒト化CD3抗体の重鎖(VH)および軽鎖(VL)可変領域の配列アラインメント。
図20】抗ヒトIgG固定化センサーを使ってOctet REDにより測定した、Expi293F上清におけるIgG1-huCD3-H1L1変異体の発現レベル。
図21】Jurkat細胞に対するIgG1-huCD3-H1L1-LFLEDAミュータントの結合。
図22】ヒトT細胞に対するCD3二重特異性抗体変異体の結合。丸はhuCD3-H1L1-LFLEDA変異体の結合を示し、三角はhuCD3-H1L1-LFLEDA-LK55N変異体の結合を示し、四角はCD3-hmAb286-LFLEDA変異体の結合を示す。
図23】CD3およびHER2アフィニティー変異体で処置したA431細胞(HER2低発現細胞)(図23A)およびAU565細胞(HER2高発現細胞)(図23B)に対するhuCD3×HER2抗体アフィニティー変異体の細胞傷害。
図24】腫瘍接種の7、14、21、および28日後(図24A)ならびに29日目(図24B)の、huCD3-H1L1×HER2-LFLEDAによるNOD-SCIDマウスにおける腫瘍サイズの低減。
図25】腫瘍接種の7、14、および21日後(図25A)ならびに21日目(図25B)の、huCD3-H1L1×CD20-LFLEDAによるNOD-SCIDマウスにおける腫瘍サイズの低減。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
一局面において、本発明は、ヒトCD3に結合するヒト化またはキメラ抗体であって、SEQ
ID NO:1、2、および3に示す配列をそれぞれ有する重鎖可変(VH)領域CDR1、CDR2、お
よびCDR3と、SEQ ID NO:4に示す配列、配列GTN、およびSEQ ID NO:5またはSEQ ID NO:
60に示す配列をそれぞれ有する軽鎖可変(VL)領域CDR1、CDR2、およびCDR3とを含む抗体
に関する。
【0026】
一態様において、本発明は、ヒトCD3に結合するヒト化またはキメラ抗体であって、SEQ
ID NO:1、2、および3に示す配列をそれぞれ有する重鎖可変(VH)領域CDR1、CDR2、お
よびCDR3と、SEQ ID NO:4に示す配列、配列GTN、およびSEQ ID NO:5に示す配列をそれ
ぞれ有する軽鎖可変(VL)領域CDR1、CDR2、およびCDR3とを含む結合領域を含む抗体に関
する。
【0027】
本明細書において使用する用語「抗体」は、免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子
のフラグメント、またはそのいずれかの誘導体であって、典型的な生理条件下に、かなり
の期間の半減期で、例えば少なくとも約30分、少なくとも約45分、少なくとも約1時間、
少なくとも約2時間、少なくとも約4時間、少なくとも約8時間、少なくとも約12時間、約2
4時間以上、約48時間以上、約3、4、5、6、7日以上などの期間の半減期で、または他の任
意の機能的に定義される期間(例えば、抗原への抗体結合に関連する生理的応答を誘発し
、促進し、強化し、かつ/または調整するのに十分な時間、および/または抗体がエフェク
ター活性を動員するのに十分な時間)の半減期で、抗原に特異的に結合する能力を有する
ものを指すものとする。抗原と相互作用する結合領域(本明細書では結合ドメインという
用語を使用する場合もあり、どちらの用語も同じ意味を有する)は、免疫グロブリン分子
の重鎖と軽鎖の両方の可変領域を含む。抗体(Ab)の定常領域は、宿主組織または宿主因
子、例えば免疫系のさまざまな細胞(例えばエフェクター細胞およびT細胞)ならびに補
体系の構成要素、例えば補体活性化の古典経路における最初の構成要素であるC1qなどへ
の免疫グロブリンの結合を媒介しうる。上に示したように、本明細書において使用する抗
体という用語は、別段の明言がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、抗原
に特異的に相互作用する(例えば結合する)能力を保っている抗体のフラグメントを包含
する。抗体の抗原結合機能は全長抗体のフラグメントによって発揮されうることが示され
ている。用語「抗体」に包含される結合性フラグメントの例として、(i)Fab'またはFab
フラグメント、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価フラグメント、またはWO20070
59782(Genmab A/S)に記載の一価抗体;(ii)F(ab')2フラグメント、ヒンジ領域のジ
スルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント;(iii
)VHドメインおよびCH1ドメインから本質的になるFdフラグメント;ならびに(iv)抗体の
単一アームのVLドメインおよびVHドメインから本質的になるFvフラグメントが挙げられる
。さらにまた、Fvフラグメントの2つのドメインVLおよびVHは、別個の遺伝子によってコ
ードされているが、組換え法を使用し、それらをVL領域とVH領域とがペアになって一価分
子を形成している単一のタンパク質鎖にすることを可能にする合成リンカーによって、そ
れらを接合してもよい(一本鎖抗体または一本鎖Fv(scFv)として公知である;例えばBir
d et al., Science 242, 423-426(1988)およびHuston et al., PNAS USA 85, 5879-588
3(1988)参照)。そのような一本鎖抗体は、別段の注記がある場合を除き、または文脈
上明確に示される場合を除き、抗体という用語に包含される。そのようなフラグメントは
一般に抗体の意味に含まれるが、それらは全体として、またそれぞれ個別に、本発明のユ
ニークな特徴であり、異なる生物学的性質および有用性を呈する。本発明との関連におい
てこれらの抗体フラグメントおよび他の有用な抗体フラグメントについては、本明細書に
おいてさらに議論する。別段の指定がある場合を除き、抗体という用語がポリクローナル
抗体、モノクローナル抗体(mAb)、キメラ抗体およびヒト化抗体、ならびに酵素切断、
ペプチド合成、および組換え技法などといった任意の公知の方法によって得られる抗原に
特異的に結合する能力を保っている抗体フラグメント(抗原結合性フラグメント)も包含
することを理解すべきである。作製される抗体は任意のアイソタイプであることができる
【0028】
本明細書において使用する用語「免疫グロブリン重鎖」、「免疫グロブリンの重鎖」ま
たは「重鎖」は、免疫グロブリンの鎖の一つを指すものとする。重鎖は、典型的には、重
鎖可変領域(本明細書ではVHと略記する)と、免疫グロブリンのアイソタイプを定義づけ
る重鎖定常領域(本明細書ではCHと略記する)とから構成される。重鎖定常領域は、典型
的には、3つのドメインCH1、CH2、およびCH3から構成される。重鎖定常領域はさらにヒン
ジ領域を含みうる。本明細書において使用する用語「免疫グロブリン」は、2対のポリペ
プチド鎖からなる構造的に関連する糖タンパク質の一クラスを指すものとし、1対は軽い
(L)低分子量鎖、1対は重い(H)鎖であって、4本全てがジスルフィド結合によって相互
に連結されうる。免疫グロブリンの構造は詳しく特徴づけられている(例えば[14]参照
)。免疫グロブリンの構造では、いわゆる「ヒンジ領域」にあるジスルフィド結合によっ
て2つの重鎖が相互に接続されている。重鎖と同じく各軽鎖も、典型的には、数個の領域
、すなわち軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略記する)と軽鎖定常領域(本明細書ではCL
と略記する)とから構成される。軽鎖定常領域は、典型的には、1つのドメインCLから構
成される。また、VH領域とVL領域は、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる超可変性領域
(すなわち配列および/または構造的に画定されるループの形態が超可変性でありうる超
可変領域)に、さらに細分することができ、それらの間には、フレームワーク領域(FR)
と呼ばれる保存度の高い領域が散在している。VHとVLは、それぞれ典型的には、3つのCDR
と4つのFRから構成され、それらがアミノ末端からカルボキシ末端に向かって次の順序で
配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4([15]参照)。CDR配列は、I
MGTが提供する方法を使用して決定することができる[16]~[17]。
【0029】
本明細書において使用する用語「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコー
ドされる免疫グロブリンクラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgE、また
はIgM)またはその任意のアロタイプ、例えばIgG1m(za)およびIgG1m(f)[SEQ ID NO
:15])を指す。したがって、一態様において抗体は、IgG1クラスまたはその任意のアロ
タイプの免疫グロブリン重鎖を含む。さらに、各重鎖アイソタイプを、カッパ(κ)軽鎖
またはラムダ(λ)軽鎖と組み合わせることができる。
【0030】
本明細書において使用する用語「キメラ抗体」は、可変領域が非ヒト種に由来し(例え
ば齧歯類に由来し)、定常領域がヒトなどの異なる種に由来する抗体を指す。キメラ抗体
は抗体工学によって作製することができる。「抗体工学」とは、さまざまな種類の抗体修
飾に広く使用される用語であり、当業者には周知のプロセスである。特にキメラ抗体は、
[18]に記載の標準的DNA技法を使って作製することができる。したがってキメラは遺伝
子的または酵素的に操作された組換え抗体でありうる。キメラ抗体の作製は当業者に知ら
れているので、本発明のキメラ抗体の作製は、本明細書に記載する方法以外の方法で行う
こともできる。治療用のキメラモノクローナル抗体は抗体免疫原性を低減するために開発
される。それらは、典型的には、関心対象の抗原に特異的な非ヒト(例えばマウス)可変
領域と、ヒト定常抗体重鎖および軽鎖ドメインとを含有しうる。キメラ抗体に関連して使
用する用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の
両方のCDRおよびフレームワーク領域を含む領域を指す。
【0031】
本明細書において使用する用語「ヒト化抗体」は、ヒト抗体定常ドメインと、ヒト可変
ドメインに対して高レベルの配列相同性を持つように修飾された非ヒト可変ドメインとを
含有する、遺伝子操作された非ヒト抗体を指す。これは、全体として抗原結合部位を形成
する6つの非ヒト抗体相補性決定領域(CDR)を相同ヒトアクセプターフレームワーク領域
(FR)上に移植することによって、達成することができる([19]~[20]参照)。親抗
体の結合アフィニティーおよび特異性を完全に再構成するには、親抗体(すなわち非ヒト
抗体)からのフレームワーク残基をヒトフレームワーク領域中に置換すること(復帰変異
)が必要かもしれない。構造相同性モデリングは、抗体の結合特性にとって重要なフレー
ムワーク領域中のアミノ酸残基を同定するのに役立ちうる。したがってヒト化抗体は、非
ヒトCDR配列、任意で非ヒトアミノ酸配列への1つまたは複数のアミノ酸復帰変異を含む主
としてヒトのフレームワーク領域、および完全にヒトの定常領域を含みうる。任意で、ア
フィニティーや生化学的特性などの好ましい特徴を持つヒト化抗体を得るために、必ずし
も復帰変異ではない追加のアミノ酸修飾を適用してもよい。
【0032】
本発明のいずれかの局面または態様によるヒト化またはキメラ抗体は、「ヒト化または
キメラCD3抗体」、「本発明のヒト化またはキメラ抗体」、「CD3抗体」、または「本発明
のCD3抗体」と呼ぶことができ、これらは全て、文脈上矛盾が生じる場合を除き、同じ意
味および目的を有する。
【0033】
非ヒト起源の抗体のアミノ酸配列はヒト起源の抗体とは異なるので、ヒト患者に投与し
た場合に非ヒト抗体は潜在的に免疫原性である。しかし、抗体が非ヒト起源であるにもか
かわらず、そのCDRセグメントはそのターゲット抗原に結合する抗体の能力を担っており
、ヒト化はその抗体の特異性および結合アフィニティーを維持することを目指している。
このように非ヒト治療用抗体のヒト化は、人間におけるその免疫原性を最小限に抑えると
同時に、そのヒト化抗体が非ヒト起源の抗体の特異性および結合アフィニティーを維持す
るように行われる。
【0034】
本明細書において使用する用語「結合領域」は、抗体の一領域であって、例えば細胞、
細菌またはビリオン上に存在するポリペプチドなどといった何らかの分子に結合する能力
を有する領域を指す。
【0035】
本明細書において使用する用語「結合」は、前もって決定された抗原またはターゲット
への抗体の結合を指し、その抗原またはターゲットへの結合は、例えば表面プラズモン共
鳴(SPR)技術により、BIAcore 3000計器において、抗原をリガンドとし、かつ抗体を分
析物として決定した場合に、典型的には、約10-6M以下、例えば10-7M以下、例えば約10-8
M以下、例えば約10-9M以下、約10-10M以下、または約10-11M以下のKDに相当するアフィニ
ティーで起こり、前もって決定された抗原でも近縁の抗原でもない非特異的抗原(例えば
BSA、カゼイン)に対する結合に関するそのアフィニティーの10分の1以下、例えば100分
の1以下、例えば1,000分の1以下、例えば10,000分の1以下、例えば100,000分の1以下のKD
に相当するアフィニティーで前もって決定された抗原に結合する。アフィニティーがどの
程度低いかはその抗体のKDに依存するので、抗体のKDが非常に低い場合(すなわち抗体が
高度に特異的である場合)、抗原に対するアフィニティーの低さは、非特異的抗原に対す
るアフィニティーと比較して、10,000分の1以下になりうる。本明細書において使用する
用語「KD」(M)は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指す。
【0036】
本明細書において使用する用語「ヒトCD3」は、T細胞補助受容体タンパク質複合体の一
部であって4つの異なる鎖から構成されているヒト分化抗原群3タンパク質を指す。CD3は
他の種にも見出されるので、本明細書において使用する用語「CD3」は、文脈上矛盾が生
じる場合を除き、ヒトCD3に限定されない。哺乳動物の場合、この複合体は、CD3γ(ガン
マ)鎖(ヒトCD3γ鎖Swissprot P09693またはカニクイザルCD3γ Swissprot Q95LI7)、C
D3δ(デルタ)鎖(ヒトCD3δ Swissprot P04234またはカニクイザルCD3δSwissprot Q95
LI8)、2つのCD3ε(イプシロン)鎖(ヒトCD3ε Swissprot P07766、またはカニクイザ
ルCD3ε Swissprot Q95LI5、またはアカゲザルCD3ε Swissprot G7NCB9)およびCD3ζ(
ゼータ)鎖(ヒトCD3ζ Swissprot P20963、カニクイザルCD3ζ Swissprot Q09TK0)を含
有している。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)として公知である分子と会合して、Tリ
ンパ球において活性化シグナルを生成する。TCR分子とCD3分子は共にTCR複合体を構成す
る。
【0037】
Swissprot番号として言及されるアミノ酸配列がタンパク質の翻訳後に除去されるシグ
ナルペプチドを含むことは、当業者には知られている。したがって、細胞表面上に存在す
るCD3などのタンパク質はシグナルペプチドを含まない。特に、表1に列挙するアミノ酸配
列は、そのようなシグナルペプチドを含有していない。表1に列挙するようなタンパク質
は「成熟タンパク質」と呼ぶことができる。したがってSEQ ID NO:14は、成熟ヒトCD3δ
(デルタ)のアミノ酸配列を表し、SEQ ID NO:13は成熟ヒトCD3ε(イプシロン)のアミ
ノ酸配列を表し、SEQ ID NO:21は成熟カニクイザルCD3εのアミノ酸配列を表し、SEQ ID
NO:22は成熟アカゲザルCD3εのアミノ酸配列を表す。このように本明細書において使用
する用語「成熟」は、シグナル配列またはリーダー配列を一切含まないタンパク質を指す
【0038】
シグナルペプチド配列の相同性、長さ、および切断部位位置が、タンパク質によってか
なり多様であることは周知である。シグナルペプチドは異なる方法で決定することができ
、例えば本発明のSEQ ID NO:13はSignalPアプリケーション(http ://www.cbs.dtu.dk/s
ervices/SignalP/で利用可能)に従って決定された。
【0039】
ある特定態様では、本発明のヒト化またはキメラ抗体が、CD3のイプシロン鎖、例えば
ヒトCD3のイプシロン鎖(SEQ ID NO:13)に結合する。さらに別の特定態様では、本ヒト
化またはキメラ抗体が、ヒトCD3ε(イプシロン)(SEQ ID NO:13)のN末端部分のアミ
ノ酸1~27内のエピトープに結合する。そのような特定態様において、抗体は、さらに、
他の非ヒト霊長類種、例えばカニクイザル(カニクイザルCD3イプシロンSEQ ID NO:21)
および/またはアカゲザル(アカゲザルCD3イプシロンSEQ ID NO:22)と交差反応しうる
【0040】
本明細書において使用する用語「交差反応する」は、本発明のヒト化またはキメラ抗体
などといった抗体の、異なる種のそのターゲットに結合する能力を指す。具体的には、本
明細書に記載する実施例で例示するヒト化CD3抗体は、ヒトCD3(実施例2)、カニクイザ
ルCD3(実施例2)およびアカゲザルCD3に結合する能力を有する。
【0041】
本明細書において定義づけるCDR配列を含み、さらにフレームワーク領域を含む本発明
の抗体は、CDR配列外の配列が相違しうるが、それでも元の抗体と比較して完全な結合能
力を保っている。したがって本発明は、本明細書に記載するいずれかの配列と一定の配列
同一性を有する可変領域のアミノ酸配列を含む抗体にも関係する。
【0042】
本発明との関連において使用する用語「配列同一性」は、2つの配列を最適に整列する
ために導入する必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮した、それらの配
列が共有する同一位置の数の関数としての2つの配列の間のパーセント同一性を指す(す
なわち%相同性=100×同一位置の数/位置の総数)。2つのヌクレオチド配列またはアミ
ノ酸配列の間のパーセント同一性は、例えばE. MeyersおよびW. Millerのアルゴリズム[
21]を使って決定することができる。加えて、2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性
は、NeedlemanおよびWunschのアルゴリズム[22]を使って決定することもできる。多重
アラインメントは、好ましくは、(例えばVector NTI Advance(登録商標)ソフトウェア
バージョン11.5(Invitrogen Inc.)で使用されている)Clustal Wアルゴリズム[23]を
使って行われる。
【0043】
したがって一態様において、VH領域は、
a)SEQ ID NO:6に示すVH配列;
b)SEQ ID NO:8に示すVH配列;
c)SEQ ID NO:7に示すVH配列;および
d)SEQ ID NO:9に示すVH配列
からなる群より選択されるVH配列に示す少なくとも1つのアミノ酸配列に対して、少なく
とも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一
性を有する。
【0044】
一特定態様において、VH領域は、
a)SEQ ID NO:6に示すVH配列;
b)SEQ ID NO:8に示すVH配列;
c)SEQ ID NO:7に示すVH配列;および
d)SEQ ID NO:9に示すVH配列
からなる群より選択されるVH配列に示す少なくとも1つのアミノ酸配列に対して、少なく
とも96%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0045】
一態様において、VL領域は、
a)SEQ ID NO:10に示すVL配列;
b)SEQ ID NO:11に示すVL配列;および
c)SEQ ID NO:12に示すVL配列
からなる群より選択されるVL配列に示す少なくとも1つのアミノ酸配列に対して、少なく
とも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一
性を有する。
【0046】
一特定態様において、VL領域は、
a)SEQ ID NO:10に示すVL配列;
b)SEQ ID NO:11に示すVL配列;および
c)SEQ ID NO:12に示すVL配列
からなる群より選択されるVL配列に示す少なくとも1つのアミノ酸配列に対して、少なく
とも95%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0047】
一態様において、VH領域は、
a)SEQ ID NO:6に示すVH配列;
b)SEQ ID NO:8に示すVH配列;
c)SEQ ID NO:7に示すVH配列;および
d)SEQ ID NO:9に示すVH配列
からなる群より選択される。
【0048】
一態様において、VL領域は
a)SEQ ID NO:10に示すVL配列;
b)SEQ ID NO:11に示すVL配列;および
c)SEQ ID NO:12に示すVL配列
からなる群より選択される。
【0049】
一態様では、VH配列またはVL配列のどちらか一方だけが、本明細書に開示する配列の一
つに対して100%同一であり、他方は、本明細書に開示する配列の一つに対して、少なく
とも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一
性という配列同一性を有する。
【0050】
一特定態様において、VH配列は、
a)SEQ ID NO:6に示すVH配列;
b)SEQ ID NO:7に示すVH配列;
c)SEQ ID NO:8に示すVH配列;および
d)SEQ ID NO:9に示すVH配列
からなる群より選択されるVH配列に示す少なくとも1つのアミノ酸配列に対して、少なく
とも97%のアミノ酸配列同一性を有し、VL配列は、
i)SEQ ID NO:10に示すVL配列;
ii)SEQ ID NO:11に示すVL配列;および
iii)SEQ ID NO:12に示すVL配列
からなる群より選択されるVL配列に示す少なくとも1つのアミノ酸配列に対して、少なく
とも95%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0051】
一態様において、VH配列およびVL配列は、以下に示す配列からなる群より選択される:
a)それぞれSEQ ID NO:6および10;それぞれSEQ ID NO:7および10;それぞれSEQ ID NO
:8および10;それぞれSEQ ID NO:9および10;それぞれSEQ ID NO:6および11;それぞれSE
Q ID NO:7および11;それぞれSEQ ID NO:8および11;それぞれSEQ ID NO:9および11;そ
れぞれSEQ ID NO:6および12;それぞれSEQ ID NO:7および12;それぞれSEQ ID NO:8およ
び12;ならびにそれぞれSEQ ID NO:9および12に示す配列に対して、少なくとも90%の同
一性を有するVH配列およびVL配列;
b)それぞれSEQ ID NO:6および10;それぞれSEQ ID NO:7および10;それぞれSEQ ID NO
:8および10;それぞれSEQ ID NO:9および10;それぞれSEQ ID NO:6および11;それぞれSE
Q ID NO:7および11;それぞれSEQ ID NO:8および11;それぞれSEQ ID NO:9および11;そ
れぞれSEQ ID NO:6および12;それぞれSEQ ID NO:7および12;それぞれSEQ ID NO:8およ
び12;ならびにそれぞれSEQ ID NO:9および12に示す配列に対して、少なくとも95%の同
一性を有するVH配列およびVL配列;
c)それぞれSEQ ID NO:6および10;それぞれSEQ ID NO:7および10;それぞれSEQ ID NO
:8および10;それぞれSEQ ID NO:9および10;それぞれSEQ ID NO:6および11;それぞれSE
Q ID NO:7および11;それぞれSEQ ID NO:8および11;それぞれSEQ ID NO:9および11;そ
れぞれSEQ ID NO:6および12;それぞれSEQ ID NO:7および12;それぞれSEQ ID NO:8およ
び12;ならびにそれぞれSEQ ID NO:9および12に示す配列に対して、少なくとも97%の同
一性を有するVH配列およびVL配列;
d)それぞれSEQ ID NO:6および10;それぞれSEQ ID NO:7および10;それぞれSEQ ID NO
:8および10;それぞれSEQ ID NO:9および10;それぞれSEQ ID NO:6および11;それぞれSE
Q ID NO:7および11;それぞれSEQ ID NO:8および11;それぞれSEQ ID NO:9および11;そ
れぞれSEQ ID NO:6および12;それぞれSEQ ID NO:7および12;それぞれSEQ ID NO:8およ
び12;ならびにそれぞれSEQ ID NO:9および12に示す配列に対して、少なくとも99%の同
一性を有するVH配列およびVL配列;
e)それぞれSEQ ID NO:6および10;それぞれSEQ ID NO:7および10;それぞれSEQ ID NO
:8および10;それぞれSEQ ID NO:9および10;それぞれSEQ ID NO:6および11;それぞれSE
Q ID NO:7および11;それぞれSEQ ID NO:8および11;それぞれSEQ ID NO:9および11;そ
れぞれSEQ ID NO:6および12;それぞれSEQ ID NO:7および12;それぞれSEQ ID NO:8およ
び12;ならびにそれぞれSEQ ID NO:9および12に示す配列に対して、少なくとも100%の同
一性を有するVH配列およびVL配列;
f)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
g)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
h)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
i)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
j)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
k)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
l)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
m)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
n)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
o)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
p)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
q)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
r)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
s)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
t)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
u)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
v)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
x)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
y)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
z)SEQ ID NO:6に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
aa)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
ab)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
ac)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
ad)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
ae)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
af)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
ag)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
ah)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
ai)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
aj)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
ak)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
al)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
am)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
an)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
ao)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
ap)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
aq)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
ar)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
as)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
at)SEQ ID NO:7に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
ba)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
bb)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
bc)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
bd)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
be)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
bf)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
bg)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
bh)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
bi)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
bj)SEQ ID NO:に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
bk)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
bl)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
bm)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
bn)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
bo)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
bp)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
bq)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
br)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
bs)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
bt)SEQ ID NO:8に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
ca)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
cb)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
cc)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
cd)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
ce)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
cf)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
cg)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
ch)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
ci)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
cj)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
ck)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列;
cl)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
cm)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
cn)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
co)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
cp)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVH配列およびSEQ
ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVL配列;
cq)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも90%の同一性を有するVL配列;
cr)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも95%の同一性を有するVL配列;
cs)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも97%の同一性を有するVL配列;
ならびに
ct)SEQ ID NO:9に示す配列に対して少なくとも100%の同一性を有するVH配列およびSE
Q ID NO:10、11、または12に示す配列に対して少なくとも99%の同一性を有するVL配列。
【0052】
一態様において、結合領域は、
a)SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列;
b)SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL;
c)SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列;
d)SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:11に示すVL配列;
e)SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:12に示すVL配列;
f)SEQ ID NO:7に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列;
g)SEQ ID NO:7に示すVH配列およびSEQ ID NO:11に示すVL配列;
h)SEQ ID NO:7に示すVH配列およびSEQ ID NO:12に示すVL配列;
i)SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:11に示すVL配列;
j)SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:12に示すVL配列;
k)SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:11に示すVL配列;および
l)SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:12に示すVL配列
からなる群より選択されるVHおよびVLを含む。
【0053】
ある特定態様において、結合領域は、
a)SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列;
b)SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列;および
c)SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に示すVL配列
からなる群より選択されるVH配列およびVL配列を含む。
【0054】
本発明のヒト化抗体は、ヒト可変フレームワーク領域として使用するのに適度な相同性
を有する重鎖および軽鎖ヒト配列を同定するために、重鎖および軽鎖可変領域アミノ酸配
列をヒト生殖細胞系可変領域配列のデータベースと比較することによって、作製すること
ができる。一連のヒト化重鎖および軽鎖可変領域は、例えばマウスのCDRをフレームワー
ク領域(上述のように同定されるもの)に移植し、必要であれば、抗体結合効率の回復に
とって決定的に重要であるかもしれないと同定された残基をその特定マウス配列に復帰変
異させること(フレームワーク領域中のヒトアミノ酸残基の1つまたは複数をその特定位
置の非ヒトアミノ酸に戻すように変異させること)によって設計することができる。次に
、iTope(商標)およびTCED(商標)([24]、[25]、および[26])などのインシリ
コ技術の適用によって決定される、潜在的T細胞エピトープの出現率が最低である変異体
配列を選択することができる。
【0055】
さらに、本発明のヒト化抗体を「脱免疫化」(deimmunize)することもできる。本発明
のヒト化抗体のようなタンパク質配列内での、ヒトT細胞エピトープの存在は、それらが
ヘルパーT細胞を活性化する潜在能力を有することから、免疫原性リスクプロファイルを
増大させる可能性があるので、脱免疫化(deimmmunization)が望ましいかもしれない。
ヘルパーT細胞のそのような活性化は脱免疫化によって回避することができる。脱免疫化
は、抗体の結合アフィニティーを著しく低減することなくT細胞エピトープを除去するた
めに、ヒト化抗体のアミノ酸配列に変異を導入することによって行うことができる。
【0056】
したがって本発明の一態様では、(i)非ヒト全可変重鎖配列および/または全可変軽鎖
配列をヒト生殖細胞系配列のデータベースと比較する工程、(ii)非ヒト配列に対して最
も高い相同性を有するヒト生殖細胞系配列を選択することでヒト化配列を得る工程、(ii
i)必要であれば復帰変異によってヒト化配列を最適化する工程、および(iv)適切な発
現系において前記配列を発現させる工程を含む方法によって、ヒト化抗体を生産すること
ができる。
【0057】
したがって、本発明の全長抗体は、(i)非ヒト可変重鎖配列および可変軽鎖配列をヒ
ト生殖細胞系配列のデータベースと比較する工程、(ii)非ヒト配列に対して最も高い相
同性を有するヒト生殖細胞系配列を選択する工程、(iii)選択したヒト生殖細胞系中に
非ヒトCDRを移植することでヒト化配列を得る工程、(iv)必要であれば復帰変異によっ
てヒト化配列を最適化する工程、(v)定常重鎖および軽鎖配列を同定する工程、および
(vi)適切な発現系において完全重鎖配列および完全軽鎖配列を発現させる工程を含む方
法によって生産することができる。したがって本発明の全長抗体は、実施例1で述べるよ
うに生産することができる。CDR配列または全可変領域配列のいずれかから出発して全長
抗体を生産することは、当業者には知られている。したがって、本発明の全長抗体を作製
する方法は、当業者にはわかるであろう。
【0058】
本明細書において使用する用語「完全重鎖配列」は、可変重鎖配列と定常重鎖配列とか
らなる配列を指す。
【0059】
本明細書において使用する用語「完全軽鎖配列」は、可変軽鎖配列と定常軽鎖配列とか
らなる配列を指す。
【0060】
復帰変異は標準的DNA変異誘発法によって導入することができる。そのようなDNA変異誘
発の標準的技法は[18]に記載されている。あるいは、Quickchange(商標)Site-Direct
ed Mutagenesis Kit(Stratagene)などの市販のキットを使用するか、デノボDNA合成に
よって所望の復帰変異を導入することができる。
【0061】
したがって一態様では抗体がヒト化抗体である。
【0062】
キメラ抗体は、非ヒト(例えばマウス)抗体の定常領域配列の全てをヒト起源の定常領
域配列で置換することによって作製することができる。したがって、キメラ抗体には完全
に非ヒトの可変領域配列が維持される。したがって本発明のキメラ抗体は、適切な発現系
において非ヒト可変重鎖(SEQ ID NO:27)、非ヒト可変軽鎖配列(SEQ ID NO:28)、ヒ
ト定常重鎖配列およびヒト定常軽鎖配列を発現させ、それによって全長キメラ抗体を作製
する工程を含む方法によって生産することができる。代替的方法を使用することもできる
。キメラ抗体を生産するそのような方法は当業者に知られているので、本発明のキメラ抗
体の生産方法は当業者にはわかるであろう。
【0063】
したがって一態様では抗体がキメラ抗体である。
【0064】
一態様では、抗体が全長抗体である。本明細書において使用する用語「全長抗体」は、
当該アイソタイプの野生型抗体に通常見出されるものに対応する重鎖および軽鎖定常およ
び可変ドメインを全て含有する抗体(例えば親抗体または変異体抗体)を指す。
【0065】
一態様において、抗体は、第1および第2免疫グロブリン重鎖を含むFc領域を含む。
【0066】
本明細書において使用する用語「Fc領域」は、N末端からC末端に向かう方向に、少なく
ともヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域を含む領域を指す。Fc領域はヒンジ領域のN末端
側にCH1領域をさらに含みうる。
【0067】
本明細書において使用する用語「ヒンジ領域」は、免疫グロブリン重鎖のヒンジ領域を
指す。したがって、例えばヒトIgG1抗体のヒンジ領域は、Kabatに記載のEuナンバリング
でアミノ酸216~230に対応する。
【0068】
別段の明言がある場合を除き、または文脈上矛盾が生じる場合を除き、定常領域配列の
アミノ酸は、本明細書では、Euナンバリングインデックス(Eu-index of numbering)(
[27]に記載)に従ってナンバリングされ、これを「Kabatに記載のEuナンバリングで」
、「KabatのEuナンバリングで」、または「Euナンバリングシステムで」という。
【0069】
本明細書において使用する用語「CH1領域」または「CH1ドメイン」は、免疫グロブリン
重鎖のCH1領域を指す。したがって例えばヒトIgG1抗体のCH1領域は、Euナンバリングシス
テムでアミノ酸118~215に対応する。ただし、CH1領域は本明細書に記載する他のサブタ
イプのいずれであってもよい。
【0070】
本明細書において使用する用語「CH2領域」または「CH2ドメイン」は、免疫グロブリン
重鎖のCH2領域を指す。したがって例えばヒトIgG1抗体のCH2領域はEuナンバリングシステ
ムでアミノ酸231~340に対応する。ただし、CH2領域は本明細書に記載する他のサブタイ
プのいずれであってもよい。
【0071】
本明細書において使用する用語「CH3領域」または「CH3ドメイン」は、免疫グロブリン
重鎖のCH3領域を指す。したがって例えばヒトIgG1抗体のCH3領域はEuナンバリングシステ
ムでアミノ酸341~447に対応する。ただし、CH3領域は本明細書に記載する他のサブタイ
プのいずれであってもよい。
【0072】
一態様では、免疫グロブリン重鎖のアイソタイプが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4か
らなる群より選択される。免疫グロブリン重鎖は、IgG1m(f)(SEQ ID NO:15)など、
各免疫グロブリンクラス内の任意のアロタイプであることができる。したがって、一特定
態様では、免疫グロブリン重鎖のアイソタイプが、IgG1またはその任意のアロタイプ、例
えばIgG1m(f)(SEQ ID NO:15)である。
【0073】
T細胞受容体(TCR)の一部である抗原CD3を標的とする場合は、T細胞特異的な細胞死滅
機序が望ましい。他のエフェクター機能、例えば補体活性化は必要ではないだろうから、
エフェクター機能の低減が望ましい。C1q結合は補体カスケードにおける第1段階であるた
め、抗体の補体依存性細胞傷害(CDC)能の指標として役立つ。抗体に対するC1qの結合を
回避することができれば、補体カスケードの活性化も回避することができる。
【0074】
したがって一態様では、抗体が、該抗体へのC1qの結合が野生型抗体と比較して少なく
とも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なく
とも99%、または100%低減するように修飾されたFc領域を含み、ここではC1q結合がELIS
Aによって決定される。
【0075】
本明細書において使用する用語「修飾された」は、野生型Fc領域のアミノ酸配列とは同
一でないFc領域のアミノ酸配列を指す。すなわち、例えばC1qの結合部位、他のエフェク
ター分子の結合部位、またはFc受容体(FcR)に対する結合などを改変するために、野生
型Fc領域の特定位置にあるアミノ酸残基が置換され、欠失し、または挿入されている。ア
ミノ酸配列のそのような修飾は、1つまたは複数のアミノ酸を保存的アミノ酸で置換する
ことによって調製するか、1つまたは複数のアミノ酸を、野生型に存在するアミノ酸と物
理的および/または機能的に類似する代替アミノ酸で置換することによって調製すること
ができる。非保存的アミノ酸で置換することによって置換を調製することもできる。
【0076】
本発明に関して、アミノ酸は保存的アミノ酸または非保存的アミノ酸と記述することが
でき、したがってアミノ酸を相応に分類することができる。アミノ酸残基は、代替的な物
理的性質および機能的性質によって画定されるクラスに分類することもできる。したがっ
てアミノ酸のクラスは、以下の表の1つまたは両方に反映させることができる。
【0077】
保存的クラスのアミノ酸残基
アミノ酸残基の代替的な物理的および機能的分類
【0078】
本発明に関して、ヒト化またはキメラ抗体などの抗体における置換は、
元のアミノ酸-位置-置換アミノ酸
の形で示される。
【0079】
よく知られているアミノ酸の命名法を参照して、任意のアミノ酸残基を示すための記号
XaaおよびXを含む三文字記号または一文字記号を使用する。したがって「L234F」または
「Leu234Phe」という表記は、抗体がアミノ酸位置234に、フェニルアラニンによるロイシ
ンの置換を含むことを意味する。
【0080】
所与の位置におけるアミノ酸の他の任意のアミノ酸への置換は、
元のアミノ酸-位置、すなわち例えば「L234」
と言及される。
【0081】
元のアミノ酸および/または置換アミノ酸が2つ以上のアミノ酸を含みうるが、全てのア
ミノ酸を含むわけではない修飾については、それら2つ以上のアミノ酸を「,」または「/
」によって区切ることができる。例えば、位置234におけるフェニルアラニン、アルギニ
ン、リジンまたはトリプトファンによるロイシンの置換は、「Leu234Phe,Arg,Lys,Trp」
または「Leu234Phe/Arg/Lys/Trp」または「L234F,R,K,W」または「L234F/R/K/W」または
「L234→F,R,KまたはW」である。
【0082】
本発明についてはこのような指定を可換的に使用しうるが、それらは同じ意味と目的を
有する。
【0083】
さらにまた、「置換」という用語は、他の19種類の天然アミノ酸のいずれか一つへの、
または他のアミノ酸、例えば非天然アミノ酸への置換を包含する。例えば位置234におけ
るアミノ酸Lの置換には以下の置換のそれぞれが含まれる:234A、234C、234D、234E、234
F、234G、234H、234I、234K、234M、234N、234Q、234R、234S、234T、234V、234W、234P
、および234Y。なお、これは234Xという指定に等しく、ここではXが元のアミノ酸以外の
任意のアミノ酸を指定している。これらの置換は、L234A、L234Cなど、またはL234A,Cな
ど、またはL234A/C/などと指定することもできる。同じことが、本明細書において言及す
るありとあらゆる位置に、同様に当てはまり、そのような置換のいずれか一つが具体的に
本明細書に含まれる。
【0084】
本発明の抗体はアミノ酸残基の欠失も含みうる。そのような欠失は「del」で表され、
例えばL234delのような記述が含まれる。したがってそのような態様では、位置234のロイ
シンがアミノ酸配列から欠失している。
【0085】
「アミノ酸」および「アミノ酸残基」という用語は、本明細書では、可換的に使用され
うる。
【0086】
本明細書において使用する用語「C1q結合」は、抗体がその抗原に結合している時の、
該抗体へのC1qの結合を指す。本明細書において使用する用語「その抗原に結合している
」とは、インビボでもインビトロでも、抗体のその抗原への結合を指す。
【0087】
C1q結合についていう場合、本明細書において使用する用語「低減する」は、野生型抗
体へのC1q結合と比較した場合に、抗体へのC1qの結合を低減し、最小限にし、または完全
に阻害する本発明抗体の能力を指す。
【0088】
本発明の抗体の比較アッセイにおける使用に関して本明細書において使用する用語「野
生型抗体」は、不活性でない点以外は被験抗体と同一である抗体を指す。この文脈におい
て「不活性」という用語は、実施例10において決定されるC1qの結合が(すなわちC1q結合
をELISAによって決定した場合に)低減しているか存在しない、修飾Fc領域;実施例4にお
いて決定されるFc媒介T細胞増殖が(すなわちT細胞増殖を末梢血単核球(PBMC)に基づく
機能アッセイで測定した場合に)低減しているか存在しない、修飾Fc領域;および/または
実施例3において決定されるFc媒介CD69発現が(すなわちFc媒介CD69発現をPBMCに基づく
機能アッセイにおいて決定した場合に)低減しているか存在しない、修飾Fc領域を指す。
したがって野生型抗体は、免疫グロブリン重鎖中に天然のアミノ酸を含む。すなわち、例
えばC1q、Fc受容体などと相互作用する抗体の能力を改変または低減するかもしれないア
ミノ酸修飾を何も含まない抗体である。したがってそのような野生型抗体は、例えばC1q
に結合することができる活性化抗体のままであるだろう。野生型抗体および本発明の抗体
は、抗体を二重特異性抗体にするなどの目的で、エフェクター機能を誘発する抗体の能力
に影響を及ぼすアミノ酸修飾ではない他のアミノ酸修飾を含みうる。
【0089】
本明細書において使用する用語「ELISA」は、抗体と色の変化を使って物質を同定する
試験である酵素結合免疫吸着測定法(enzyme-linked immunosorbent assay)を指す。第1
の特異的抗体をプレート表面に取り付ける。そうすることにより、試料からのタンパク質
を加えて、該第1の特異的抗体への結合を調べる。試料からの抗体に結合する第2抗体を加
える。第2抗体は酵素に連結されており、最終工程では、酵素の基質を含有する物質が加
えられる。その後の反応により、検出可能なシグナル(最も一般的には基質の色の変化)
が生じる。ELISAの概念は当技術分野において周知であり、ELISAを実施するさまざまな方
法は、本発明の抗体を評価するための方法の一部であると考えられる。したがって、この
説明を限定と理解してはならない。というのも、実施例4に記載するように、さまざまな
形態のELISAを実施することができるからである。
【0090】
具体的に述べると、C1qに結合する本発明の抗体の能力は、(i)該抗体を96ウェルプレ
ートにコーティングする工程、(ii)3%血清を加える工程、(iii)抗ヒトC1q抗体を加
える工程、(iv)プレートを発色させる工程、および(v)OD405nmを測定する工程を含む
ELISAによって決定することができる。したがって一態様において、抗体は、該抗体へのC
1qの結合が野生型抗体と比較して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少
なくとも95%、少なくとも97%、または100%低減するように修飾されたFc領域を含み、
ここではC1q結合が、(i)該抗体を96ウェルプレートにコーティングする工程、(ii)3
%血清を加える工程、(iii)抗ヒトC1q抗体を加える工程、(iv)プレートを発色させる
工程、および(v)OD405nmを測定する工程を含むELISAによって決定される。したがって
特定態様では、C1qの結合が実施例10で述べるように評価される。
【0091】
本明細書において使用する用語「Fc受容体」または「FcR」は、一定の細胞の表面に見
出されるタンパク質を指す。FcRは抗体のFc領域に結合する。FcRには、それらが認識する
抗体のタイプに基づいて分類される数種類の異なるタイプが存在する。例えばFcγ(ガン
マ)受容体はIgGクラスの抗体に結合する。
【0092】
本明細書において使用する用語「Fcγ受容体」、「Fcガンマ受容体」または「FcγR」
は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFc受容体の一群を指し、オプソニン化(
被覆)微生物の貪食を誘発するのに最も重要なFc受容体である。このファミリーには、分
子構造が異なるために抗体アフィニティーが異なるいくつかのメンバー、FcγRI(CD64)
、FcγRIIa(CD32a)、FcγRIIb(CD32b)、FcγRIIIa(CD16a)、FcγRIIIb(CD16b)が
含まれる。
【0093】
Fcが媒介するエフェクター機能は、ヒト免疫グロブリンG(IgG)分子の生物学的活性の
一部を形成する。そのようなエフェクター機能の例としては、例えば、Fc領域へのさまざ
まなエフェクター分子の結合によって引き金が引かれる抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(
ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)が挙げられる。本発明に関して「Fc結合」、「F
c受容体結合」、「FcR結合」、および「FcRに対する抗体Fc領域の結合」は、Fc受容体(F
cR)またはエフェクター分子へのFc領域の結合を指す。用語「FcγR結合」および「FcγR
I結合」は、それぞれFcガンマ受容体およびFcガンマ受容体IへのFc領域の結合を指す。CD
3抗体がT細胞に結合すると、CD3抗体の野生型Fc領域は他の細胞上、例えば単球上に存在
するFcRに結合し、それが、T細胞の非特異的Fc媒介活性化につながる。T細胞のそのよう
な非特異的Fc媒介活性化は、望ましくないだろう。T細胞は、標的(またはターゲット特
異的)T細胞活性化によっても活性化されうる。そのような標的T細胞活性化は、がんなど
の、ある範囲の適応症の処置には、非常に望ましいであろう。本明細書において使用する
用語「標的T細胞活性化」は、腫瘍細胞上の腫瘍ターゲットなどといった特異的ターゲッ
トに結合する第1結合領域とCD3などのT細胞特異的ターゲットに結合する第2結合領域とを
含む二重特異性抗体を使用することによって、T細胞を腫瘍細胞などの特異的細胞に向か
わせることを指す。したがって、一方の結合領域がT細胞上に存在するCD3に結合し、かつ
他方の結合領域が例えば腫瘍細胞上のターゲット特異的抗原に結合する二重特異性抗体を
使用することによって、腫瘍細胞などの特異的細胞へのT細胞のターゲティングを容易に
することができる。非特異的Fc媒介T細胞活性化は依然として考えられるので、Fc媒介架
橋によるそのような望ましくない非特異的Fc媒介T細胞活性化は回避すべきであり、その
ような活性に関してFc領域を不活性にすることによって無効にすることができる。これに
より、該不活性Fc領域と存在するFc受容体の間の相互作用が防止される。本発明のヒト化
抗体は、いくつかの異なるアッセイにおいて試験したところ、不活性であることが判明し
た。すなわち実施例3~5を参照されたい。Fc領域中にアミノ酸修飾を有する別の被験CD3
抗体huCLB-T3/4も、異なるアッセイで試験したところ、不活性であることがわかった。す
なわち実施例7~10を参照されたい。実施例で述べるようにアミノ酸置換L234F、L235E、
およびD265Aを含む本発明のヒト化CD3抗体は、T細胞上の低レベルなCD69発現(実施例3)
、Fc媒介T細胞増殖の阻止(実施例4)、および二重特異性抗体の形態での非特異的ターゲ
ットの死滅なし(実施例5)を示した。このように、本発明のヒト化抗体は、野生型抗体
と比較して、いくつかのアッセイにおいて優れた結果を示す。
【0094】
本発明の抗体はFc領域中に修飾を含みうる。抗体がそのような修飾を含む場合、その抗
体は不活性抗体または非活性化抗体になりうる。本明細書において使用する用語「不活性
であること」、「不活性」または「非活性化」は、少なくともどのFcγ受容体にも結合す
ることができず、FcRのFc媒介架橋を誘発することができず、または個々の抗体の2つのFc
領域によるターゲット抗原のFcR媒介架橋を誘発することができず、あるいはC1qに結合す
ることができないFc領域を指す。ヒト化またはキメラCD3抗体のFc領域が不活性であるこ
とは、単一特異性フォーマットの抗体を使って試験すると好都合であるが、そうして同定
された不活性Fc領域は、二重特異性または他のヒト化もしくはキメラ多重特異性CD3抗体
に使用することができる。
【0095】
治療用抗体開発を目的として、Fcガンマ受容体およびC1qとの相互作用について抗体のF
c領域を非活性にするために、いくつかの変異体を構築することができる。そのような変
異体の例を本明細書に記載する。
【0096】
したがって一態様において、抗体は、該抗体が野生型抗体と比較して少なくとも50%、
少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも99%ま
たは100%低減したFc媒介T細胞増殖を媒介するように修飾されたFc領域を含み、ここでは
該T細胞増殖が末梢血単核球(PBMC)に基づく機能アッセイにおいて測定される。
【0097】
本明細書において使用する用語「低減する」は、抗体などの対照タンパク質と比較した
場合の活性または発現の低減を指す。特に、T細胞増殖に関する場合、「低減する」とい
う用語は、野生型抗体が結合したT細胞の増殖と比較した場合に、T細胞の増殖を低減し、
最小限に抑え、または完全に阻害する本発明の抗体の能力を指す。T細胞増殖を低減する
抗体の能力は、実施例4および実施例8で述べるように、PBMCに基づく機能アッセイによっ
て評価することができる。一態様では、アッセイがヒトPBMCで行われる。別の態様では、
アッセイがカニクイザルPBMCで行われる。さらに別の態様では、アッセイがアカゲザルPB
MCで行われる。本発明の抗体は交差反応性であるから、本明細書に記載するPBMCに基づく
アッセイは、使用する種のPBMCが抗体の交差反応性スペクトル内である限り、T細胞増殖
の低減を示すために、例えばヒト、カニクイザルまたはアカゲザルなど、任意の種のPBMC
を使って行うことができる。
【0098】
本明細書において使用する用語「末梢血単核球(PBMC)に基づく機能アッセイ」は、本
発明の抗体の機能的特徴、例えばT細胞増殖またはCD69発現に影響を及ぼす該抗体の能力
を評価するために使用されるアッセイであって、存在する唯一の細胞が末梢血単核球であ
るアッセイを指す。したがって一態様では、PBMCを1~1000ng/mLの範囲の抗体と共に5%
(vol/vol)CO2湿潤インキュベータ中、37℃で3日間インキュベートする工程、増殖細胞
のDNA中に組み込まれるBrdUなどの化学化合物を加える工程、5時間インキュベートする工
程、細胞をペレット化する工程、細胞を乾燥する工程、任意で細胞を4℃で保存する工程
、細胞をELISAプレートにコーティングする工程、抗BrdU-ペルオキシダーゼと共に室温で
90分間インキュベートする工程、1mg/mLの2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン
-6-スルホン酸)で約30分間発色させる工程、反応を停止するために100μLの2%シュウ酸
を加える工程、および適切なマイクロプレートリーダーにおいて405nmの吸光度を測定す
る工程を含む方法によって、T細胞増殖が測定される。
【0099】
本明細書において使用する用語「増殖」は、細胞分裂を背景とする細胞成長を指す。
【0100】
本明細書において使用する用語「BrdU」は、チミジンのホモログである5-ブロモ-2'-デ
オキシウリジンを指す。BrdUを、限られた期間(例えば4時間)、細胞培養に加えると、
それは増殖する細胞のDNA中に組み込まれることになる。細胞を固定した後、組み込まれ
たBrdUの検出は、抗BrdU-ペルオキシダーゼを用いるELISAにおいて行うことができる。そ
れゆえにBrdU組み込みは増殖の尺度になる。
【0101】
一態様において、抗体は、野生型抗体と比較した場合に該抗体がFc媒介CD69発現を、少
なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少
なくとも99%または100%低減するように修飾されたFc領域を含み、ここでは該Fc媒介CD6
9発現が、PBMCに基づく機能アッセイにおいて測定される。
【0102】
本明細書において使用する用語「低減する」は、抗体などの対照タンパク質と比較した
場合の活性または発現の低減を指す。特に、T細胞活性化マーカーCD69の発現レベルに関
する場合、「低減する」という用語は、抗体の結合領域がどちらもCD3に結合するとしてT
細胞に野生型抗体が結合した場合のCD69の発現レベルと比較して、CD69の発現レベルの低
減を指す。CD69の発現を低減する抗体の能力は、実施例3および実施例7で述べるように、
PBMCに基づく機能アッセイによって評価することができる。したがって一態様では、PBMC
を1~1000ng/mLの範囲の抗体と共に5%(vol/vol)CO2湿潤インキュベータ中、37℃で16
~24時間インキュベートする工程、細胞を洗浄する工程、4℃においてマウス抗ヒトCD28-
PE抗体およびマウス抗ヒトCD69-APC抗体で細胞を染色する工程、およびCD28陽性細胞上の
CD69発現をフローサイトメトリーで決定する工程を含む方法によって、CD69の発現が測定
される。
【0103】
本明細書において使用する用語「CD69」は、CD69遺伝子によってコードされるヒト膜貫
通C型レクチンタンパク質である分化抗原群69を指す。Tリンパ球およびナチュラルキラー
(NK)細胞の活性化は、インビボでもインビトロでも、CD69の発現を誘発する。増殖など
の細胞活性化イベントに関与するシグナル伝達受容体としてのCD69機能は、リンパ球、例
えばナチュラルキラー細胞や、血小板において、また特異的遺伝子の誘発において、シグ
ナル伝達受容体として機能する。
【0104】
本明細書において使用する用語「末梢血単核球(PBMC)に基づく機能アッセイ」は、本
発明の抗体の機能的特徴、例えばT細胞増殖またはCD69発現に影響を及ぼす該抗体の能力
を評価するために使用されるアッセイであって、存在する唯一の細胞が末梢血単核球であ
るアッセイを指す。実施例3、4、5および7で述べるPBMCに基づく機能アッセイは、CD69発
現を評価する場合には、(i)PBMCを抗体と共に5%(vol/vol)CO2湿潤インキュベータ中
、37℃で約16~24時間インキュベートする工程、(ii)細胞を洗浄する工程、(iii)4℃
においてマウス抗ヒトCD28-PE抗体およびマウス抗ヒトCD69-APC抗体で細胞を染色する工
程、および(iv)CD28陽性細胞上のCD69発現をフローサイトメトリーで決定する工程を含
む。したがって一態様において、CD69発現は、実施例3、4、5、または7で述べるように決
定することができる。
【0105】
このように、C1qおよびFcガンマ受容体との相互作用に主要な役割を果たすFc領域中の
アミノ酸を修飾することができる。修飾することができるアミノ酸位置の例としては、位
置L234、L235およびP331が挙げられる。それらの組み合わせ、例えばL234F/L235E/P331S
は、ヒトCD64、CD32A、CD16およびC1qへの結合の大幅な減少を引き起こすことができる。
【0106】
したがって一態様において、L234、L235およびP331に対応する少なくとも1つの位置に
あるアミノ酸は、それぞれA、AおよびSであることができる([1]、[28])。また、L2
34Fアミノ酸置換およびL235Eアミノ酸置換は、Fcガンマ受容体およびC1qとの相互作用が
阻止されたFc領域をもたらすことができる([29]~[30])。したがって一態様におい
て、L234およびL235に対応する位置のアミノ酸は、それぞれFおよびEであることができる
。D265Aアミノ酸置換は、全てのFcガンマ受容体への結合を減少させ、ADCCを防止するこ
とができる([31])。したがって一態様において、D265に対応する位置のアミノ酸はA
であることができる。C1qへの結合は、位置D270、K322、P329、およびP331を変異させる
ことによって阻止することができる。これらの位置をD270AまたはK322AまたはP329Aまた
はP331Aのいずれかに変異させることで、抗体をCDC活性欠損性にすることができる([32
])。したがって一態様において、D270、K322、P329およびP331に対応する少なくとも1
つの位置にあるアミノ酸は、それぞれA、A、A、およびAであることができる。
【0107】
Fc領域とFcガンマ受容体およびC1qとの相互作用を最小限に抑えるための代替的アプロ
ーチは、抗体のグリコシル化部位の除去によるアプローチである。位置N297を例えばQ、A
、およびEに変異させることにより、IgG-Fcガンマ受容体相互作用にとって決定的に重要
なグリコシル化部位が除去される。したがって一態様において、N297に対応する位置のア
ミノ酸は、G、Q、AまたはEであることができる([33])。Fc領域とFcガンマ受容体との
相互作用を最小限に抑えるための別の代替的アプローチは、以下の変異によって得ること
ができる:P238A、A327Q、P329AまたはE233P/L234V/L235A/G236del([31])。
【0108】
あるいは、ヒトIgG2およびIgG4サブクラスでは、C1qおよびFcガンマ受容体との相互作
用がもともと損なわれていると考えられるが、Fcγ受容体(Fcガンマ受容体)との相互作
用も報告されている([34]~[35])。どちらのアイソタイプでも、これらの残存相互
作用を阻止して、FcR結合に関連する不必要な副作用の低減をもたらす変異を作ることが
できる。IgG2の場合、それらにはL234AおよびG237Aが含まれ、IgG4の場合はL235Eが含ま
れる。したがって一態様において、ヒトIgG2重鎖中のL234およびG237に対応する位置のア
ミノ酸は、それぞれAおよびAであることができる。一態様において、ヒトIgG4重鎖中のL2
35に対応する位置のアミノ酸は、Eであることができる。
【0109】
IgG2抗体においてFcガンマ受容体およびC1qとの相互作用をさらに最小限に抑えるため
の他のアプローチとして、[36]および[37]に記載されているものが挙げられる。
【0110】
抗体のヒンジ領域も、Fcガンマ受容体および補体との相互作用に関して重要でありうる
([38]-[39])。したがってヒンジ領域における変異またはヒンジ領域の欠失は抗体
のエフェクター機能に影響を及ぼすことができる。
【0111】
本明細書において使用する用語「架橋」は、抗体Fc領域への結合を介した、FcR保持細
胞による、ターゲット抗原に結合している抗体Fabアーム(一価または二価)の間接的橋
かけを指す。したがって、ターゲット抗原保持細胞上にあるそのターゲット抗原に結合す
る抗体は、FcRを発現する別の細胞と架橋しうる。
【0112】
本明細書において使用する用語「非特異的死滅」は、T細胞または他のエフェクター細
胞の細胞傷害機能による細胞の死滅であって、該細胞の腫瘍ターゲット抗原非依存的な活
性化によるものを指す。したがって非特異的死滅とは、腫瘍ターゲット保持細胞を、例え
ばCDCを誘発することなどにより、腫瘍ターゲットに結合する抗体によって死滅させるの
ではなく、例えば細胞傷害性T細胞によって死滅させうることを意味する。
【0113】
Fc領域中の少なくとも5つの特異的アミノ酸位置の1つまたは複数を修飾することによっ
て、非活性化Fc領域を得ることができることを、本発明者らは示した(実施例3~5、7~1
0)。
【0114】
したがって一態様では、抗体が第1および第2免疫グロブリン重鎖を含み、該第1および
第2免疫グロブリン重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、D
265、N297、およびP331に対応する位置の1つまたは複数のアミノ酸は、それぞれL、L、D
、N、およびPではない。
【0115】
一態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、D2
65、N297、およびP331に対応する位置の1つまたは複数のアミノ酸が、それぞれL、L、D、
N、およびPではない。
【0116】
別の態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235およびD265に対応する位置の1つまたは複数のアミノ酸が、それぞれL、Lお
よびDではなく、ヒトIgG1重鎖中のN297およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞ
れNおよびPである。
【0117】
本明細書において使用する用語「位置~に対応するアミノ酸」とは、ヒトIgG1重鎖中の
アミノ酸位置番号を指す。別段の明言がある場合を除き、または文脈上矛盾が生じる場合
を除き、定常領域配列のアミノ酸は、本明細書では、Euナンバリングインデックス([27
]に記載)に従ってナンバリングされる。したがって、別の他の配列中のアミノ酸または
セグメント「に対応する」ある配列中のアミノ酸またはセグメントとは、例えばALIGN、C
lustalWその他の標準的配列アラインメントプログラムを、典型的にはデフォルト設定で
使用した場合に、前記他のアミノ酸またはセグメントと整列し、ヒトIgG1重鎖に対して少
なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の同一性を有す
るものである。配列または配列中のセグメントを整列させ、それによって本発明のアミノ
酸位置に対応する配列中の位置を決定する方法は、当技術分野において周知であると考え
られる。
【0118】
本発明においては、アミノ酸を上述のように定義することができる。
【0119】
重鎖中のアミノ酸に関して「アミノ酸が~ではない」という用語または類似の表現は、
そのアミノ酸が言及された特定アミノ酸を除く他の任意のアミノ酸であることを意味する
と理解すべきである。例えば、ヒトIgG1重鎖中のL234に対応する位置のアミノ酸がLでは
ないとは、そのアミノ酸が、L以外の他の天然アミノ酸または非天然アミノ酸のいずれか
でありうることを意味する。
【0120】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置D265に対応する位置のアミノ酸がDではない。
【0121】
一態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中のD265
に対応する位置のアミノ酸がDではなく、ヒトIgG1重鎖中の位置N297およびP331に対応す
る位置のアミノ酸がそれぞれNおよびPである。
【0122】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置D265に対応する位置のアミノ酸が疎水性アミノ酸または極性アミノ酸である。
【0123】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「疎水性」は、A、C、F、G、H、I
、L、M、R、T、V、W、およびYからなる群より選択されるアミノ酸残基を指す。したがっ
て一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置D265に対応する位置のアミノ酸が、A、C、F、G、H、I、L、M、R、T、V、WおよびYか
らなるアミノ酸の群から選択される。
【0124】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「極性」は、C、D、E、H、K、N、
Q、R、S、およびTからなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態
様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒト重鎖中の位置D265に
対応する位置のアミノ酸が、C、E、H、K、N、Q、R、S、およびTからなる群より選択され
る。
【0125】
別の態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中
の位置D265に対応する位置のアミノ酸が、脂肪族非荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸または
酸性アミノ酸である。
【0126】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「脂肪族非荷電」は、A、G、I、L
、およびVからなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では
、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に対
応する位置のアミノ酸が、A、G、I、L、およびVからなる群より選択される。
【0127】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「芳香族」は、F、T、およびWか
らなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では、前記第1重
鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に対応する位置
のアミノ酸が、F、T、およびWからなる群より選択される。
【0128】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「酸性」は、DおよびEからなる群
より選ばれる任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では、前記第1重鎖および第2
重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に対応する位置のアミノ酸が
、DおよびEからなる群より選択される。
【0129】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重
鎖中の位置D265に対応する位置のアミノ酸が、A、E、F、G、I、L、T、V、およびWからな
る群より選択される。
【0130】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に
対応する位置のアミノ酸が、Dではない。
【0131】
一態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のD265に対応する位置
のアミノ酸がDではなく、ヒトIgG1重鎖中の位置N297およびP331に対応する位置のアミノ
酸がそれぞれNおよびPである。
【0132】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に
対応する位置のアミノ酸が、疎水性アミノ酸または極性アミノ酸である。
【0133】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「疎水性」は、A、C、F、G、H、I
、L、M、R、T、V、W、およびYからなる群より選択されるアミノ酸残基を指す。したがっ
て一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に
対応する位置のアミノ酸が、A、C、F、G、H、I、L、M、R、T、V、WおよびYからなるアミ
ノ酸の群から選択される。
【0134】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「極性」は、C、D、E、H、K、N、
Q、R、S、およびTからなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態
様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒト重鎖中の位置D265に対応する位
置のアミノ酸が、C、E、H、K、N、Q、R、S、およびTからなる群より選択される。一態様
では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に対応する
位置のアミノ酸が、A、C、F、G、H、I、L、M、R、T、V、WおよびYからなるアミノ酸の群
から選択される。
【0135】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒト重鎖中の位置D265に対応
する位置のアミノ酸が、C、E、H、K、N、Q、R、S、およびTからなる群より選択される。
【0136】
別の態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265
に対応する位置のアミノ酸が、脂肪族非荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸または酸性アミノ
酸である。
【0137】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「脂肪族非荷電」は、A、G、I、L
、およびVからなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では
、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に対応する位置
のアミノ酸が、A、G、I、L、およびVからなる群より選択される。
【0138】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「芳香族」は、F、T、およびWか
らなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では、前記第1重
鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に対応する位置のアミノ酸
が、F、T、およびWからなる群より選択される。
【0139】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「酸性」は、DおよびEからなる群
より選ばれる任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では、前記第1重鎖および第2
重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に対応する位置のアミノ酸が、DおよびE
からなる群より選択される。
【0140】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置
D265に対応する位置のアミノ酸が、A、E、F、G、I、L、T、V、およびWからなる群より選
択される。
【0141】
さらなる態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重
鎖中の位置N297に対応する位置のアミノ酸が、Nではない。
【0142】
一態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中のN297
に対応する位置のアミノ酸がNではなく、ヒトIgG1重鎖中の位置P331に対応する位置のア
ミノ酸がPである。
【0143】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置N297に
対応する位置のアミノ酸が、Nではない。
【0144】
一態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のN297に対応する位置
のアミノ酸がNではなく、ヒトIgG1重鎖中の位置P331に対応する位置のアミノ酸がPである
【0145】
さらなる態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重
鎖中の位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれLおよびLではない。
【0146】
一態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中のL234
およびL235に対応する位置のアミノ酸がそれぞれLおよびLではなく、ヒトIgG1重鎖中の位
置N297およびP331に対応する位置のアミノ酸がそれぞれNおよびPである。
【0147】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置L234およびL235に対応するアミノ酸が、A、C、D、E、F、G、H、I、K、M、N、P、Q、R
、S、T、Y、Vからなる群より選択される。
【0148】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、疎水性アミノ酸または極性アミノ酸で
ある。
【0149】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「疎水性」は、A、C、F、G、H、I
、L、M、R、T、V、W、およびYからなる群より選択されるアミノ酸残基を指す。したがっ
て一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、C、F、G、H、I、M、R、
T、V、W、およびYからなる群より選択される。
【0150】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「極性」は、C、D、E、H、K、N、
Q、R、S、およびTからなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態
様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L2
34およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、C、D、E、H、K、N、Q、R、S、お
よびTからなるアミノ酸の群より選択される。
【0151】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重
鎖中の位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、C、D、E、F、G、
H、I、K、M、N、Q、R、S、T、V、W、およびYからなる群より選択される。
【0152】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234お
よびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれLおよびLではない。
【0153】
一態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のL234およびL235に対
応する位置のアミノ酸がそれぞれLおよびLではなく、ヒトIgG1重鎖中の位置N297およびP3
31に対応する位置のアミノ酸がそれぞれNおよびPである。
【0154】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のL234および
L235に対応する位置のアミノ酸が、疎水性アミノ酸または極性アミノ酸である。
【0155】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234お
よびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、C、F、G、H、I、M、R、T、V、W、
およびYからなる群より選択される。
【0156】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234お
よびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、C、D、E、H、K、N、Q、R、S、およびT
からなるアミノ酸の群より選択される。
【0157】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置
L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、C、D、E、F、G、H、I、K、M
、N、Q、R、S、T、V、W、およびYからなる群より選択される。
【0158】
別の態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中
の位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、脂肪族非荷電アミノ酸、芳香族アミ
ノ酸または酸性アミノ酸である。
【0159】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「脂肪族非荷電」は、A、G、I、L
、およびVからなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では
、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234およ
びL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、G、I、およびVからなる群より選択さ
れる。
【0160】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「芳香族」は、F、T、およびWか
らなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では、前記第1重
鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234およびL235に対
応する位置のアミノ酸が、それぞれ、F、T、およびWからなる群より選択される。
【0161】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「酸性」は、DおよびEからなる群
より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では、前記第1重鎖および
第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234およびL235に対応する位
置のアミノ酸が、それぞれ、DおよびEからなる群より選択される。
【0162】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、L234および
L235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、D、E、F、G、I、T、V、およびWからな
る群より選択される。
【0163】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、FおよびE、またはAおよびA
である。
【0164】
一態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中のL234
およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれFおよびE、またはAおよびAであり、か
つヒトIgG1重鎖中の位置N297およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、Nおよ
びPである。
【0165】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234お
よびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれFおよびE、またはAおよびAである。
【0166】
一態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のL234およびL235に対
応する位置のアミノ酸が、それぞれFおよびE、またはAおよびAであり、かつヒトIgG1重鎖
中の位置N297およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれNおよびPである。
【0167】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重
鎖中の位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれFおよびEである。
【0168】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234お
よびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれFおよびEである。
【0169】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、少なくともヒトIg
G1重鎖中の位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれAおよびAである。
【0170】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、少なくともヒトIgG1重鎖中の
位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれAおよびAである。
【0171】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれL、L、およびDでは
ない。
【0172】
一態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中のL234
、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれL、LおよびDではなく、ヒトI
gG1重鎖中の位置N297およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれNおよびPである
【0173】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置L234およびL235に対応するアミノ酸が、A、C、D、E、F、G、H、I、K、M、N、P、Q、R
、S、T、Y、V、およびWからなる群より選択され、かつ位置D265に対応するアミノ酸が、A
、C、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、Y、V、およびWからなる群より選択さ
れる。
【0174】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置L234、L235およびD265に対応する位置のアミノ酸が、疎水性アミノ酸または極性アミ
ノ酸である。
【0175】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「疎水性」は、A、C、F、G、H、I
、L、M、R、T、V、W、およびYからなる群より選択されるアミノ酸残基を指す。したがっ
て一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置D265に対応する位置のアミノ酸が、A、C、F、G、H、I、L、M、R、T、V、WおよびYか
らなるアミノ酸の群から選択され、かつヒトIgG1重鎖中の位置L234およびL235に対応する
位置のアミノ酸が、それぞれ、A、C、F、G、H、I、M、R、T、V、W、およびYからなる群よ
り選択される。
【0176】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「極性」は、C、D、E、H、K、N、
Q、R、S、およびTからなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態
様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L2
34およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、C、D、E、H、K、N、Q、R、S、お
よびTからなるアミノ酸の群より選択され、かつヒト重鎖中の位置D265に対応する位置の
アミノ酸が、C、E、H、K、N、Q、R、S、およびTからなる群より選択される。
【0177】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重
鎖中の位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、C、D、E、F、G、
H、I、K、M、N、Q、R、S、T、V、W、およびYからなる群より選択され、かつヒトIgG1重鎖
中の位置D265に対応する位置のアミノ酸が、A、C、E、F、G、H、I、K、L、M、N、Q、R、S
、T、V、W、およびYからなる群より選択される。
【0178】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のL234、L235
、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、疎水性アミノ酸または極性アミノ酸である。
【0179】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に
対応する位置のアミノ酸が、A、C、F、G、H、I、L、M、R、T、V、WおよびYからなるアミ
ノ酸の群から選択され、かつヒトIgG1重鎖中の位置L234およびL235に対応する位置のアミ
ノ酸が、それぞれ、A、C、F、G、H、I、M、R、T、V、W、およびYからなる群より選択され
る。
【0180】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234お
よびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、C、D、E、H、K、N、Q、R、S、およびT
からなるアミノ酸の群より選択され、かつヒト重鎖中の位置D265に対応する位置のアミノ
酸が、C、E、H、K、N、Q、R、S、およびTからなる群より選択される。
【0181】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置
L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、C、D、E、F、G、H、I、K、M
、N、Q、R、S、T、V、W、およびYからなる群より選択され、かつヒトIgG1重鎖中の位置D2
65に対応する位置のアミノ酸が、A、C、E、F、G、H、I、K、L、M、N、Q、R、S、T、V、W
、およびYからなる群より選択される。
【0182】
別の態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中
の位置L234、L235およびD265に対応する位置のアミノ酸が、脂肪族非荷電アミノ酸、芳香
族アミノ酸または酸性アミノ酸である。
【0183】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「脂肪族非荷電」は、A、G、I、L
、およびVからなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では
、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に対
応する位置のアミノ酸が、A、G、I、L、およびVからなる群より選択され、かつヒトIgG1
重鎖中の位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、G、I、およびV
からなる群より選択される。
【0184】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「芳香族」は、F、T、およびWか
らなる群より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では、前記第1重
鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235およびD26
5に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、F、T、およびWからなる群より選択される。
【0185】
アミノ酸残基に関して本明細書において使用する用語「酸性」は、DおよびEからなる群
より選択される任意のアミノ酸残基を指す。したがって一態様では、前記第1重鎖および
第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対
応する位置のアミノ酸が、それぞれ、DおよびEからなる群より選択される。
【0186】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重
鎖中の位置D265に対応する位置のアミノ酸が、A、E、F、G、I、L、T、V、およびWからな
る群より選択され、かつL234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、D、
E、F、G、I、T、V、およびWからなる群より選択される。
【0187】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、
L235およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれL、L、およびDではない。
【0188】
一態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のL234、L235、および
D265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれL、L、およびDではなく、かつヒトIgG1重鎖
中の位置N297およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれNおよびPである。
【0189】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のL234、L235
、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、脂肪族非荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸また
は酸性アミノ酸である。
【0190】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置D265に
対応する位置のアミノ酸が、A、G、I、L、およびVからなる群より選択され、かつヒトIgG
1重鎖中の位置L234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、G、I、および
Vからなる群より選択される。
【0191】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、
L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、DおよびEからなる群より選択
される。
【0192】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置
D265に対応する位置のアミノ酸が、A、E、F、G、I、L、T、V、およびWからなる群より選
択され、かつL234およびL235に対応する位置のアミノ酸が、それぞれ、A、D、E、F、G、I
、T、V、およびWからなる群より選択される。
【0193】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびA、ま
たはA、A、およびAである。
【0194】
一態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中のL234
、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびA、またはA、A
、およびAであり、かつヒトIgG1重鎖中の位置N297およびP331に対応する位置のアミノ酸
が、それぞれNおよびPである。
【0195】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、
L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびA、またはA、A、
およびAである。
【0196】
一態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のL234、L235、および
D265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびA、またはA、A、およびAであり
、かつヒトIgG1重鎖中の位置N297およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれNお
よびPである。
【0197】
ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重
鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、および
Aである。
【0198】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、
L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAである。
【0199】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の
位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれA、A、およびAであ
る。
【0200】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、
L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれA、A、およびAである。
【0201】
別の態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中
の位置L234、L235、D265、N297、およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E
、A、Q、およびSである。
【0202】
一態様では、前記第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、
L235、D265、N297、およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、A、Q、およ
びSである。
【0203】
ある特定態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:8に示すVH配列、SEQ ID NO:10
に示すVL配列を含み、かつ重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、
L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAである。
【0204】
別の態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:8に示すVH配列、SEQ ID NO:12に示
すVL配列を含み、かつ重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235
、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAである。
【0205】
別の態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:6に示すVH配列、SEQ ID NO:10に示
すVL配列を含み、かつ重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235
、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAである。
【0206】
別の態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:6に示すVH配列、SEQ ID NO:12に示
すVL配列を含み、かつ重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235
、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAである。
【0207】
別の態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:9に示すVH配列、SEQ ID NO:10に示
すVL配列を含み、かつ重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235
、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAである。
【0208】
別の態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:9に示すVH配列、SEQ ID NO:12に示
すVL配列を含み、かつ重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235
、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAである。
【0209】
一局面において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:31のヒトIgLC2/IgLC3定常ドメインラム
ダ軽鎖を含む。
【0210】
一局面において、本発明の抗体は、発現レベルおよび/または生産収率を増大させるよ
うに軽鎖(LC)および/または重鎖(HC)中で修飾されうる。一態様において、本発明の
抗体は、軽鎖(LC)中で修飾されうる。そのような修飾は、当技術分野において公知であ
り、例えば、Zheng, L., Goddard, J.-P., Baumann, U., & Reymond, J.-L. (2004). Exp
ression improvement and mechanistic study of the retro-Diels-Alderase catalytic
antibody 10F11 by site-directed mutagenesis. Journal of Molecular Biology, 341(3
), 807-14. doi:10.1016/j.jmb.2004.06.014に記載されている方法にしたがって行われう
る。
【0211】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の
位置T41に対応する位置のアミノ酸がTではない。
【0212】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の
位置T41に対応する位置のアミノ酸がH、I、K、L、Q、R、およびVから選択される。
【0213】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の
位置T41に対応する位置のアミノ酸がH、K、またはR、例えばKである。
【0214】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の
位置F10に対応する位置のアミノ酸がFではなく、かつ、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位
置T41、K55、およびL97に対応するアミノ酸の位置の1つまたは複数がそれぞれT、K、およ
びLではない。
【0215】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の
位置F10、T41、K55、およびL97に対応する位置のアミノ酸がそれぞれF、T、K、およびLで
はない。
【0216】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の
位置T41に対応する位置のアミノ酸がH、I、K、L、Q、R、またはVから選択され、例えばH
、K、およびR、例えばKから選択され、かつ、位置F10、T41、K55、およびL97に対応する
位置のアミノ酸がそれぞれL、K、N、およびHである。
【0217】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、位置R23およびA35に対応する位
置のアミノ酸がそれぞれRおよびAではない。
【0218】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、位置R23に対応する位置のアミ
ノ酸がA、G、H、K、Q、S、およびTから、例えばAおよびGから選択され、かつ、A35に対応
する位置のアミノ酸がI、L、M、P、V、G、F、およびWから、例えばI、L、M、P、およびV
から選択される。
【0219】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、位置R23に対応する位置のアミ
ノ酸がAまたはG、例えばAであり、位置A35に対応する位置のアミノ酸がPである。
【0220】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の
位置F10、R23、A35、R47、D71、A82、D83、S86、I87、およびF89に対応する位置のアミノ
酸がそれぞれF、R、A、R、D、A、D、S、I、およびFではない。
【0221】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の
位置R23に対応する位置のアミノ酸がA、G、H、K、Q、S、およびTから、例えばAおよびGか
ら選択され、A35に対応する位置のアミノ酸がI、L、M、P、V、G、F、およびWから、例え
ばI、L、M、Pから選択され、かつ、位置F10、R47、D71、A82、D83、S86、I87、およびF89
に対応する位置のアミノ酸がそれぞれL、T、G、P、E、A、E、およびYである。
【0222】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の
位置R23に対応する位置のアミノ酸がAまたはGであり、かつ、位置F10、A35、R47、D71、A
82、D83、S86、I87、およびF89に対応する位置のアミノ酸がそれぞれL、P、T、G、P、E、
A、E、およびYである。
【0223】
一局面において、本発明の抗体は、抗体のアフィニティーを増大するように軽鎖(LC)
中で修飾されうる。抗体アフィニティーの増大につながる修飾は、当技術分野において公
知である。
【0224】
一局面において、本発明の抗体は、抗体のアフィニティーを低減するように軽鎖(LC)
中で修飾されうる。これは、いくつかの設定において有利であって、効力の増大につなが
りうる。特に、CD3アームの低いアフィニティーは、循環中および腫瘍部位でのT細胞の運
動性に影響を及ぼし、したがってT細胞と腫瘍細胞とのより良好な関与につながりうる。M
olhOj et al, Molecular Immunology 44 (2007)を参照されたい。特に、これは、CD3抗体
が結合アームの1つとして使用される二重特異性フォーマットにおいて有用でありうる。
抗体アフィニティーの低減につながる修飾は、当技術分野において公知であり、例えば、
Webster et al. Int J Cancer Suppl. 1988;3:13-6を参照されたい。
【0225】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、
(i)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10に対応する位置のアミノ酸がFではないか
、または
(ii)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置K55に対応する位置のアミノ酸がKではないか
、または
(iii)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10に対応する位置のアミノ酸がFではなく
、かつ、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置K55に対応する位置のアミノ酸がKではない。
【0226】
一態様において、本発明の抗体は、定常軽鎖(LC)を含み、
(i)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10に対応する位置のアミノ酸がLであるか、
または
(ii)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置K55に対応する位置のアミノ酸がNであるか、
または
(iii)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10に対応する位置のアミノ酸がLであり、
かつ、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置K55に対応する位置のアミノ酸がNである。
【0227】
一態様において、本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の
位置F10、T41、K55、およびL97に対応する位置のアミノ酸がそれぞれF、T、K、およびLで
はない。そのような修飾は、発現レベルを増大するため、およびアフィニティーを低減す
るための両方に役立つ。
【0228】
本発明の抗体は、軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10、T41、K5
5、およびL97に対応する位置のアミノ酸がそれぞれL、K、N、およびHである。そのような
修飾は、発現レベルを増大するため、およびアフィニティーを低減するための両方に役立
つ。
【0229】
一態様において、本発明の抗体は、重鎖(HC)および軽鎖(LC)を含み、SEQ ID NO:15
のヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置がそれぞれF、E、および
Aであり、SEQ ID NO:15のヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置がLであり、かつ、(i)S
EQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置F10、T41、K55、およびL97に対応する位置がそれぞれL
、K、N、およびHであるか、または(ii)SEQ ID NO:10のラムダ軽鎖中の位置T41に対応す
る位置がKである。
【0230】
一態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:25の重鎖(HC)およびSEQ ID NO:32の軽
鎖(LC)を含む。
【0231】
一態様において、本発明の抗体は、SEQ ID NO:25の重鎖(HC)およびSEQ ID NO:33の軽
鎖(LC)を含む。
【0232】
一局面において、本発明は、少なくとも、本明細書に記載するいずれかの局面または態
様による抗体の第1結合領域と、第1結合領域とは異なる1つまたは複数のターゲットに結
合する1つまたは複数の結合領域とを含む多重特異性抗体に関する。そのような多重特異
性抗体は二重特異性抗体であることができる。
【0233】
したがって一局面において、本発明は、本明細書に記載するいずれかの局面または態様
による抗体の第1結合領域と、第1結合領域とは異なるターゲットに結合する第2結合領域
とを含む二重特異性抗体に関する。
【0234】
「多重特異性抗体」という用語は、少なくとも2つの異なる、例えば少なくとも3つの、
典型的にはオーバーラップしていない、エピトープに対する特異性を有する抗体を指す。
そのようなエピトープは同じターゲット上にあってもよいし異なるターゲット上にあって
もよい。エピトープが異なるターゲット上にある場合、そのようなターゲットは同じ細胞
または細胞タイプ上にあってもよいし異なる細胞または細胞タイプ上にあってもよい。
【0235】
「二重特異性抗体」という用語は、少なくとも2つの異なる、典型的にはオーバーラッ
プしていないエピトープに対する特異性を有する抗体を指す。そのようなエピトープは同
じターゲット上にあってもよいし異なるターゲット上にあってもよい。エピトープが異な
るターゲット上にある場合、そのようなターゲットは同じ細胞または細胞タイプ上にあっ
てもよいし異なる細胞または細胞タイプ上にあってもよい。
【0236】
一態様では、二重特異性抗体が第1重鎖および第2重鎖を含む。
【0237】
Fc領域の修飾に関係する態様および特異的アミノ酸置換に関係する態様は、本発明の任
意の二重特異性抗体の一部であると考えられる。したがって一態様では、第1重鎖および
第2重鎖の少なくとも一方が、本明細書に記載するいずれかの態様において定義するよう
に修飾された1つまたは複数のアミノ酸、例えば不活性Fc領域の提供に関して記載するも
のを含む。一態様では、該第1重鎖および第2重鎖の両方が、本明細書に記載するいずれか
の態様において定義するように修飾された1つまたは複数のアミノ酸、例えば不活性Fc領
域の提供に関して記載するものを含む。したがって二重特異性抗体は、本明細書に記載す
るいずれかの局面または態様にしたがって修飾されたFc領域を含むか、または該第1重鎖
および第2重鎖の少なくとも一方が、本明細書に記載するいずれかの局面または態様にお
いて定義するように修飾された1つまたは複数のアミノ酸を含む。
【0238】
したがって一態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ
ID NO:10に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、ここでFc領域は、ELISAによって決定
される該抗体へのC1qの結合が、野生型抗体と比較して少なくとも70%、少なくとも80%
、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または100%低減するように修飾
されている。
【0239】
一態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:12
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、ここでFc領域は、ELISAによって決定される該抗
体へのC1qの結合が、野生型抗体と比較して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくと
も90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または100%低減するように修飾されている
【0240】
一態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:10
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、ここでFc領域は、ELISAによって決定される該抗
体へのC1qの結合が、野生型抗体と比較して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくと
も90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または100%低減するように修飾されている
【0241】
一態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:12
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、ここでFc領域は、ELISAによって決定される該抗
体へのC1qの結合が、野生型抗体と比較して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくと
も90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または100%低減するように修飾されている
【0242】
一態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:10
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、ここでFc領域は、ELISAによって決定される該抗
体へのC1qの結合が、野生型抗体と比較して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくと
も90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または100%低減するように修飾されている
【0243】
一態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:12
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、ここでFc領域は、ELISAによって決定される該抗
体へのC1qの結合が、野生型抗体と比較して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくと
も90%、少なくとも95%、少なくとも97%、または100%低減するように修飾されている
【0244】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に
示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体が野生型抗体と比較して少なくとも5
0%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも9
9%、または100%低減したFc媒介T細胞増殖を媒介するように、Fc領域が修飾されており
、ここでは該T細胞増殖が末梢血単核球(PBMC)に基づく機能アッセイにおいて測定され
る。
【0245】
一つの態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:12
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体が野生型抗体と比較して少なくと
も50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくと
も99%、または100%低減したFc媒介T細胞増殖を媒介するように、Fc領域が修飾されてお
り、ここでは該T細胞増殖が末梢血単核球(PBMC)に基づく機能アッセイにおいて測定さ
れる。
【0246】
一つの態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:10
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体が野生型抗体と比較して少なくと
も50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくと
も99%、または100%低減したFc媒介T細胞増殖を媒介するように、Fc領域が修飾されてお
り、ここでは該T細胞増殖が末梢血単核球(PBMC)に基づく機能アッセイにおいて測定さ
れる。
【0247】
一つの態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:12
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体が野生型抗体と比較して少なくと
も50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくと
も99%、または100%低減したFc媒介T細胞増殖を媒介するように、Fc領域が修飾されてお
り、ここでは該T細胞増殖が末梢血単核球(PBMC)に基づく機能アッセイにおいて測定さ
れる。
【0248】
一つの態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:10
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体が野生型抗体と比較して少なくと
も50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくと
も99%、または100%低減したFc媒介T細胞増殖を媒介するように、Fc領域が修飾されてお
り、ここでは該T細胞増殖が末梢血単核球(PBMC)に基づく機能アッセイにおいて測定さ
れる。
【0249】
一つの態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:12に
示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体が野生型抗体と比較して少なくとも5
0%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも9
9%、または100%低減したFc媒介T細胞増殖を媒介するように、Fc領域が修飾されており
、ここでは該T細胞増殖が末梢血単核球(PBMC)に基づく機能アッセイにおいて測定され
る。
【0250】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:10に
示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体がFc媒介CD69発現を、野生型抗体と
比較して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくと
も90%、少なくとも99%、または100%低減するように、Fc領域が修飾されており、ここ
では該Fc媒介CD69発現が、PBMCに基づく機能アッセイにおいて決定される。
【0251】
一つの態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:12
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体がFc媒介CD69発現を、野生型抗体
と比較して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なく
とも90%、少なくとも99%、または100%低減するように、Fc領域が修飾されており、こ
こでは該Fc媒介CD69発現が、PBMCに基づく機能アッセイにおいて決定される。
【0252】
一つの態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:10
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体がFc媒介CD69発現を、野生型抗体
と比較して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なく
とも90%、少なくとも99%、または100%低減するように、Fc領域が修飾されており、こ
こでは該Fc媒介CD69発現が、PBMCに基づく機能アッセイにおいて決定される。
【0253】
一つの態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:12
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体がFc媒介CD69発現を、野生型抗体
と比較して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なく
とも90%、少なくとも99%、または100%低減するように、Fc領域が修飾されており、こ
こでは該Fc媒介CD69発現が、PBMCに基づく機能アッセイにおいて決定される。
【0254】
一つの態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:10
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体がFc媒介CD69発現を、野生型抗体
と比較して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なく
とも90%、少なくとも99%、または100%低減するように、Fc領域が修飾されており、こ
こでは該Fc媒介CD69発現が、PBMCに基づく機能アッセイにおいて決定される。
【0255】
一つの態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:12
に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ、該抗体がFc媒介CD69発現を、野生型抗体
と比較して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なく
とも90%、少なくとも99%、または100%低減するように、Fc領域が修飾されており、こ
こでは該Fc媒介CD69発現が、PBMCに基づく機能アッセイにおいて決定される。
【0256】
ある特定態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID N
O:10に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一
方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が
、それぞれF、E、およびAである。
【0257】
別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:8に示すVH配列およびSEQ ID NO:1
2に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方に
おいて、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、そ
れぞれF、E、およびAである。
【0258】
別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:1
0に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方に
おいて、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、そ
れぞれF、E、およびAである。
【0259】
別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:6に示すVH配列およびSEQ ID NO:1
2に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方に
おいて、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、そ
れぞれF、E、およびAである。
【0260】
別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:1
0に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方に
おいて、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、そ
れぞれF、E、およびAである。
【0261】
別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:9に示すVH配列およびSEQ ID NO:1
2に示すVL配列を含む第1結合領域を含み、かつ第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方に
おいて、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、そ
れぞれF、E、およびAである。
【0262】
本発明において使用することができる二重特異性抗体分子の例には、(i)異なる抗原
結合領域を含む2つのアームを有する単一抗体、(ii)例えば追加ペプチドリンカーによ
ってタンデムに連結された2つのscFvにより、2つの異なるエピトープに対する特異性を有
する一本鎖抗体、(iii)各軽鎖および重鎖が2つの可変ドメインを短いペプチド結合によ
ってタンデムに含有している二重可変ドメイン抗体(dual-variable domain antibody(D
VD-Ig(商標))([40])、(iv)化学的に連結された二重特異性(Fab')2フラグメン
ト、(v)ターゲット抗原のそれぞれに対して2つの結合部位を有する四価の二重特異性抗
体をもたらす2つの一本鎖ダイアボディ(diabody)の融合物である、TandAb(登録商標)
、(vi)多価分子をもたらすscFvとダイアボディとの組み合わせである、フレキシボディ
(flexibody)、(vii)プロテインキナーゼA中の「二量体化およびドッキングドメイン
」に基づくいわゆる「ドック・アンド・ロック(dock and lock)」分子(Dock-and-Lock
(登録商標))、Fabに応用した場合、これは、異なるFabフラグメントに連結された2つ
の同一Fabフラグメントからなる三価二重特異性結合タンパク質を与えることができる、
(viii)例えばヒトFabアームの両端に融合された2つのscFvを含む、いわゆるスコーピオ
ン(Scorpion)分子、および(ix)ダイアボディが含まれる。
【0263】
一態様では、本発明の二重特異性抗体がダイアボディ、クロスボディ(cross-body)、
または制御されたFabアーム交換(controlled Fab arm exchange)によって得られる二重
特異性抗体、例えば本発明において記載するもののようなDuoBody(登録商標)(例えば
[41]に記載されているもの)である。
【0264】
異なる種類の二重特異性抗体の例としては、(i)ヘテロ二量体化を強いるための相補
的CH3ドメインを有するIgG様分子、(ii)分子の両面がそれぞれ少なくとも2つの異なる
抗体のFabフラグメントまたはFabフラグメントの一部を含有している、組換えIgG様二重
ターゲティング分子、(iii)全長IgG抗体が追加のFabフラグメントまたはFabフラグメン
トの一部に融合されているIgG融合分子、(iv)一本鎖Fv分子または安定化ダイアボディ
が重鎖定常ドメイン、Fc領域またはその一部に融合されているFc融合分子、(v)異なるF
abフラグメントが一つに融合されるか、重鎖定常ドメイン、Fc領域またはその一部に融合
されている、Fab融合分子、および(vi)異なる一本鎖Fv分子、または異なるダイアボデ
ィもしくは異なる重鎖抗体(例えばドメイン抗体、Nanobodies(登録商標))が互いに融
合しているか、重鎖定常ドメイン、Fc領域またはその一部に融合された別のタンパク質ま
たは担体分子に融合している、ScFvおよびダイアボディに基づく抗体ならびに重鎖抗体(
例えばドメイン抗体、Nanobodies(登録商標))が挙げられるが、これらに限定されるわ
けではない。
【0265】
相補的CH3ドメイン分子を有するIgG様分子の例としては、Triomab(登録商標)(Trion
Pharma/Fresenius Biotech,[42])、ノブ・イントゥ・ホール(Knobs-into-Holes)(
Genentech,[43])、CrossMAb(Roche,[44])および静電マッチ(electrostatically-
matched)(Amgen,[45]~[46];Chugai,[47];Oncomed,[48])、LUZ-Y(Genentech
)、DIG-ボディおよびPIG-ボディ(Pharmabcine)、ストランド・エクスチェンジ・エン
ジニアード・ドメイン(Strand Exchange Engineered Domain)ボディ(SEEDbody)(EMD
Serono,[49])、Biclonic(Merus)、FcΔAdp(Regeneron,[50])、二重特異性IgG1
およびIgG2(Pfizer/Rinat,[51])、Azymetricスキャフォールド(Zymeworks/Merck,[
52])、mAb-Fv(Xencor,[53])、二価二重特異性抗体(Roche)およびDuoBody(登録
商標)分子(Genmab A/S,[41])が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0266】
組換えIgG様二重ターゲティング分子の例としては、デュアル・ターゲティング(Dual
Targeting)(DT)-Ig(GSK/Domantis)、ツー・イン・ワン(Two-in-one)抗体(Genent
ech)、架橋(Cross-linked)Mab(Karmanos Cancer Center)、mAb2(F-Star,[54])
、Zybodies(商標)(Zyngenia)、共通軽鎖(common light chain)によるアプローチ(
Crucell/Merus,[55])、κλBody(NovImmune)およびCovX-body(登録商標)(CovX/P
fizer)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0267】
IgG融合分子の例としては、Dual Variable Domain(DVD)-Ig(商標)(Abbott,[56]
)、デュアルドメイン・ダブルヘッド(Dual domain double head)抗体(Unilever;Sano
fi Aventis,[57])、IgG様二重特異性(ImClone/Eli Lilly)、Ts2Ab(MedImmune/AZ)
およびBsAb(Zymogenetics)、ハーキュリーズ(HERCULES)(Biogen Idec,[58])、sc
Fv融合物(Novartis)、scFv融合物(Changzhou Adam Biotech Inc.,[59])およびTvAb
(Roche,[59],[60])が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0268】
Fc融合分子の例としては、ScFv/Fc融合物(Academic Institution)、スコーピオン(S
CORPION)(Emergent BioSolutions/Trubion、Zymogenetics/BMS)、デュアル・アフィニ
ティー・リターゲティング・テクノロジー(Dual Affinity Retargeting Technology)(
Fc-DART(商標))(MacroGenics,[62],[63])およびDual(ScFv)2-Fab(National
Research Center for Antibody Medicine-China)が挙げられるが、それらに限定される
わけではない。
【0269】
Fab融合二重特異性抗体の例としては、F(ab)2(Medarex/AMGEN)、デュアル-アクシ
ョン(Dual-Action)またはBis-Fab(Genentech)、Dock-and-Lock(登録商標)(DNL)
(ImmunoMedics)、二価二重特異性(Bivalent Bispecific)(Biotecnol)およびFab-Fv
(UCB-Celltech)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0270】
ScFvに基づく抗体、ダイアボディに基づく抗体およびドメイン抗体の例としては、二重
特異性T細胞エンゲイジャー(Bispecific T cell Engager)(BiTE(登録商標))(Micr
omet)、タンデム・ダイアボディ(Tandem Diabody)(Tandab)(Affimed)、デュアル
・アフィニティー・リターゲティング・テクノロジー(Dual Affinity Retargeting Tech
nology)(DART(商標))(MacroGenics)、一本鎖ダイアボディ(Single-chain Diabod
y)(Academic)、TCR様抗体(AIT、ReceptorLogics)、ヒト血清アルブミンScFv融合物
(Merrimack)およびCOMBODY(Epigen Biotech)、二重ターゲティング(dual targeting
)ナノボディ(nanobodies(登録商標))(Ablynx)、二重ターゲティング重鎖単独ドメ
イン抗体(dual targeting heavy chain only domain antibody)が挙げられるが、それ
らに限定されるわけではない。
【0271】
さらに、本明細書に記載するアッセイ条件を満たす単一特異性抗体はいずれも二重特異
性抗体の基礎を形成しうると考えられる。すなわち、結合領域の一つがCD3に結合する二
重特異性抗体は、機能アッセイで試験され本明細書に明言する要件を満たす任意の単一特
異性CD3抗体に由来しうる。そのような二重特異性抗体は、参照により本明細書に組み入
れられる[41]に記載の方法によって得ることができる。
【0272】
したがって、ある特定態様では、前記第1重鎖および第2重鎖のそれぞれが、少なくとも
ヒンジ領域、CH2およびCH3領域を含み、該第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のT366、L36
8、K370、D399、F405、Y407、およびK409からなる群より選択される位置に対応する位置
のアミノ酸の少なくとも1つが置換されており、かつ該第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中のT3
66、L368、K370、D399、F405、Y407、およびK409からなる群より選択される位置に対応す
る位置のアミノ酸の少なくとも1つが置換されており、しかも該第1重鎖と該第2重鎖とは
同じ位置では置換されていない。この文脈において「置換されている」という用語は、特
定アミノ酸位置のアミノ酸が別の天然または非天然アミノ酸で置換されていることを指す
。したがって、ヒトIgG1重鎖中の位置に対応する位置の「置換」アミノ酸とは、その特定
位置にあるアミノ酸が、IgG1重鎖中の天然のアミノ酸とは異なることを意味する。
【0273】
一態様では、前記第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸
がKでもLでもMでもなく、任意で、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸がFで
あり、かつ前記第2重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のT366、L368、K370、D399、F405、お
よびY407からなる群より選択される位置に対応する位置のアミノ酸の少なくとも1つが置
換されている。
【0274】
一態様では、前記第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸
がKでもLでもMでもなく、かつ前記第2重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位
置のアミノ酸がFではなく、任意で、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸がK
である。
【0275】
一態様では、前記第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸
がFでもRでもGでもなく、前記第2重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のT366、L368、K370、D3
99、Y407、およびK409からなる群より選択される位置に対応する位置のアミノ酸が置換さ
れている。
【0276】
一態様では、前記第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸
がKでもLでもMでもなく、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸がFではない。
【0277】
さらに別の態様では、前記第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置の
アミノ酸がLであり、かつ前記第2重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置の
アミノ酸がRであるか、またはその逆である。
【0278】
したがって一態様では、第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のア
ミノ酸がRであり、かつ第2重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ
酸がLである。
【0279】
さらに別の態様では、本発明のヒト化またはキメラCD3抗体が、第1重鎖および第2重鎖
の少なくとも一方に、上記態様のいずれか一つに開示する不活性化置換、例えばL234F、L
235E、およびD265Aの1つまたは複数を含有し、かつ、F405に対応する位置のアミノ酸がF
ではない。一態様では、本発明のヒト化またはキメラCD3抗体が、第1重鎖および第2重鎖
の少なくとも一方に、上記態様のいずれか一つに開示する不活性化置換、例えばL234F、L
235E、およびD265Aの1つまたは複数と、K409位のさらに別の置換、例えばK409Rとを含有
する。特に、一態様では、本発明のヒト化またはキメラCD3抗体が、第1重鎖と第2重鎖の
両方に、上記態様のいずれか一つに開示する不活性化置換、例えばL234F、L235E、および
D265Aの1つまたは複数と、F405位の置換、例えばF405Lとを含有する。一態様では、本発
明のヒト化またはキメラCD3抗体が、第1重鎖と第2重鎖の両方に、上記態様のいずれか一
つに開示する不活性化置換、例えばL234F、L235E、およびD265Aの1つまたは複数と、K409
位のさらに別の置換、例えばK409Rとを含有する。そのような抗体は二重特異性抗体を作
製するために役立つ。
【0280】
したがって、さらに別の態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、
ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸がそれぞれF、E
、およびAであり、第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸が
Lであり、かつ第2重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸がRで
ある。
【0281】
一態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中のL234
、L235、D265、N297、およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、A、N、お
よびPであり、第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸がLで
あり、かつ第2重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸がRである
【0282】
ある代替態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中
の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAで
あり、第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸がRであり、か
つ第2重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸がLである。
【0283】
一態様では、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中のL234
、L235、D265、N297、およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、A、N、お
よびPであり、第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸がRで
あり、かつ第2重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸がLである
【0284】
別の態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、
およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり、第1重鎖におい
て、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第2重鎖において、
ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0285】
一態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のL234、L235、D265、
N297、およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、A、N、およびPであり、
第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第2
重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0286】
ある代替態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L2
35、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり、第1重鎖に
おいて、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸がRであり、かつ第2重鎖におい
て、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸がLである。
【0287】
一態様では、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中のL234、L235、D265、
N297、およびP331に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、A、N、およびPであり、
第1重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のK409に対応する位置のアミノ酸がRであり、かつ第2
重鎖において、ヒトIgG1重鎖中のF405に対応する位置のアミノ酸がLである。
【0288】
本明細書で述べるように、がん細胞または腫瘍細胞などの特異的ターゲット細胞へのT
細胞動員は、ターゲット細胞を死滅させる方法になる。本発明者らは、両方の重鎖に特異
的アミノ酸置換L234F、L235E、およびD265Aを含む二重特異性CD3×HER2抗体が、実施例5
で述べるように、AU565細胞の死滅を誘発できることを示した。T細胞が媒介する死滅は、
第1結合領域でCD3を標的としかつ第2結合領域で別のターゲットを標的とする二重特異性
抗体によって得ることができる。したがって一態様では、第1結合領域がヒト化またはキ
メラCD3抗体に関して本明細書に記載するいずれかの態様に従い、第2結合領域は第1結合
領域とは異なるターゲットに結合する。抗体が二重特異性抗体である場合、抗体の少なく
とも半分、すなわち抗体の重鎖と軽鎖の対の一つは、本明細書に記載するヒト化またはキ
メラ抗体であることを理解すべきである。したがって、二重特異性抗体の半分は、CD3に
結合する本発明のヒト化またはキメラ抗体であり、他方の半分は、第2のターゲットに結
合するヒト化体、キメラ体、完全非ヒト体または完全ヒト体でありうる。したがって一態
様では、抗体が、第1重鎖および第2重鎖、第1軽鎖および第2軽鎖を含み、該第1重鎖およ
び該第1軽鎖はヒト化体またはキメラ体であって、ジスルフィド架橋によって接続されて
第1結合領域を形成し、かつ該第2重鎖および第2軽鎖は完全ヒト体であって、ジスルフィ
ド架橋によって接続されて第2結合領域を形成し、ここで、該第1結合領域は本明細書に記
載するいずれかの局面または態様に従い、かつ該第2結合領域は異なるターゲットに結合
する。一態様では、抗体が、第1重鎖および第2重鎖、第1軽鎖および第2軽鎖を含み、該第
1重鎖および該第1軽鎖はヒト化体またはキメラ体であって、ジスルフィド架橋によって接
続されて第1結合領域を形成し、かつ該第2重鎖および第2軽鎖はヒト化体またはキメラ体
であって、ジスルフィド架橋によって接続されて第2結合領域を形成し、ここで、該第1結
合領域は本明細書に記載するいずれかの局面または態様に従い、かつ該第2結合領域は該
第1結合領域とは異なるCD3エピトープに結合する。
【0289】
したがって一態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列とSEQ ID NO:1
0に示すVL配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示す
VL配列とを含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、
ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF
、E、およびAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ
酸がLであり、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸が
Rである。
【0290】
一態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すVL
配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0291】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0292】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0293】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0294】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0295】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0296】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:8に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0297】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0298】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0299】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0300】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0301】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0302】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0303】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0304】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:6に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0305】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0306】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0307】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0308】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列とSEQ ID NO:10に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0309】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0310】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1
重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およ
びAであり、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであ
り、かつ第2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0311】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:19に示すVH配列とSEQ ID NO:20に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0312】
別の態様では、二重特異性抗体が、SEQ ID NO:9に示すVH配列とSEQ ID NO:12に示すV
L配列とを含む第1結合領域、SEQ ID NO:29に示すVH配列とSEQ ID NO:30に示すVL配列と
を含む第2結合領域を含み、第1重鎖および第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸が、それぞれF、E、およびAであり
、第1重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置F405に対応する位置のアミノ酸がLであり、かつ第
2重鎖では、ヒトIgG1重鎖中の位置K409に対応する位置のアミノ酸がRである。
【0313】
本明細書において使用する用語「ジスルフィド架橋」は、2つのシステイン残基の間の
共有結合を指す。すなわちこの相互作用はCys-Cys相互作用と呼ぶこともできる。
【0314】
本明細書において使用する用語「ターゲット」は、本発明の抗体の結合領域が結合する
分子を指す。抗体の結合に関連して使用する場合、この用語は、生成させた抗体が指向す
る任意の抗原を包含する。
【0315】
一特定態様では、第1重鎖および第1軽鎖がヒト化体またはキメラ体であって、ジスルフ
ィド架橋によって接続されて第1結合領域を形成し、第2重鎖および第2軽鎖が完全ヒト体
であって、ジスルフィド架橋によって接続されて第2結合領域を形成し、ここで、第1結合
領域は本明細書に記載するいずれかの局面または態様に従い、第2結合領域は異なるター
ゲットに結合し、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、ヒトIgG1重鎖中の位
置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸は、それぞれF、E、およびAである
【0316】
一特定態様では、第1重鎖および第1軽鎖がヒト化体またはキメラ体であって、ジスルフ
ィド架橋によって接続されて第1結合領域を形成し、第2重鎖および第2軽鎖が完全ヒト体
であって、ジスルフィド架橋によって接続されて第2結合領域を形成し、ここで、第1結合
領域は本明細書に記載するいずれかの局面または態様に従い、第2結合領域は第1結合領域
とは異なるCD3エピトープに結合し、第1重鎖および第2重鎖の少なくとも一方において、
ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸は、それぞれF
、E、およびAである。
【0317】
一特定態様では、第1重鎖および第1軽鎖がヒト化体またはキメラ体であって、ジスルフ
ィド架橋によって接続されて第1結合領域を形成し、第2重鎖および第2軽鎖が完全ヒト体
であって、ジスルフィド架橋によって接続されて第2結合領域を形成し、ここで、第1結合
領域は本明細書に記載するいずれかの局面または態様に従い、第2結合領域は異なるター
ゲットに結合し、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中の位置L234、L235、
およびD265に対応する位置のアミノ酸は、それぞれF、E、およびAである。
【0318】
一特定態様では、第1重鎖および第1軽鎖がヒト化体またはキメラ体であって、ジスルフ
ィド架橋によって接続されて第1結合領域を形成し、第2重鎖および第2軽鎖が完全ヒト体
であって、ジスルフィド架橋によって接続されて第2結合領域を形成し、ここで、第1結合
領域は本明細書に記載するいずれかの局面または態様に従い、第2結合領域は第1結合領域
とは異なるCD3エピトープに結合し、第1重鎖と第2重鎖の両方において、ヒトIgG1重鎖中
の位置L234、L235、およびD265に対応する位置のアミノ酸は、それぞれF、E、およびAで
ある。
【0319】
一局面において、本発明の二重特異性抗体は、ヒトHER2またはヒトCD20に結合する第2
結合領域を含む。
【0320】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、ヒトCD20に結合する第2結合領域を含む
【0321】
一態様において、第2結合領域は、オファツムマブ(2F2)、11B8、および7D8を含むWO2
004035607(Genmab A/S)に開示されている抗体;2C6を含むWO2005103081(Genmab A/S)
に開示されている抗体;AME-133;TRU-015;IMMU-106;オクレリズマブ(Gazyva(登録商
標));トシツモマブ(Bexxar(登録商標));ならびにリツキシマブ(Rituxan(登録
商標)/MabThera(登録商標))などの、完全長モノクローナルCD20抗体に由来しうる。
【0322】
一態様において、第2結合領域は、完全長モノクローナルCD20抗体に由来してもよく、
その抗体は、170位のアラニンまたは172位のプロリンのアミノ酸残基を含まないかまたは
必要としないが、163位のアスパラギンおよび166位のアスパラギンのアミノ酸残基を含む
かまたは必要とする、CD20上のエピトープに結合する。
【0323】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、ヒトCD20に結合する第2結合領域を含み
、その結合領域は、
(i)SEQ ID NO:34のVH CDR1領域、SEQ ID NO:35のVH CDR2領域、SEQ ID NO:36のVH CD
R3領域、SEQ ID NO:37のVL CDR1領域、DASのVL CDR2領域、およびSEQ ID NO:38のVL CDR3
領域、
(ii)SEQ ID NO:41のVH CDR1領域、SEQ ID NO:42のVH CDR2領域、SEQ ID NO:43のVH C
DR3領域、SEQ ID NO:44のVL CDR1領域、DASのVL CDR2領域、およびSEQ ID NO:45のVL CDR
3領域、
(iii)SEQ ID NO:48のVH CDR1領域、SEQ ID NO:49のVH CDR2領域、SEQ ID NO:50のVH
CDR3領域、SEQ ID NO:51のVL CDR1領域、DASのVL CDR2領域、およびSEQ ID NO:52のVL CD
R3領域、または
(iv)SEQ ID NO:55のVH CDR1領域、SEQ ID NO:56のVH CDR2領域、SEQ ID NO:57のVH C
DR3領域、SEQ ID NO:58のVL CDR1領域、DASのVL CDR2領域、およびSEQ ID NO:59のVL CDR
3領域
を含む。
【0324】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、ヒトCD20に結合する第2結合領域を含み
、その結合領域は、
(i)SEQ ID NO:29に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少
なくとも97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVH配列、および、
SEQ ID NO:30に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも
97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVL配列、
(ii)SEQ ID NO:39に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少
なくとも97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVH配列、および、
SEQ ID NO:40に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも
97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVL配列、
(iii)SEQ ID NO:46に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、
少なくとも97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVH配列、および
、SEQ ID NO:47に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくと
も97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVL配列、または
(iv)SEQ ID NO:53に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少
なくとも97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVH配列、および、
SEQ ID NO:54に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも
97%、もしくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するVL配列
を含む。
【0325】
一態様において、本発明の二重特異性抗体は、ヒトCD20に結合する第2結合領域を含み
、その第2結合領域は、
(i)SEQ ID NO:29のVH配列およびSEQ ID NO:30のVL配列、
(ii)SEQ ID NO:39のVH配列およびSEQ ID NO:40のVL配列、
(iii)SEQ ID NO:46のVH配列およびSEQ ID NO:47のVL配列、または
(iv)SEQ ID NO:53のVH配列およびSEQ ID NO:54のVL配列
を含む。
【0326】
核酸コンストラクト、発現ベクター、および宿主細胞
一局面において、本発明は、表1に示す1つまたは複数の配列をコードする核酸コンスト
ラクトに関する。したがって本発明は、SEQ ID NO:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11
、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、および26に示す配列のい
ずれか一つをコードする核酸コンストラクトに関する。
【0327】
さらに別の局面において、本発明は、本発明のヒト化またはキメラCD3抗体の配列をコ
ードする核酸コンストラクト、本発明の核酸コンストラクトを含む発現ベクター、前記発
現ベクターを含む宿主細胞、および適当な条件下で前記宿主細胞を培養することによって
抗体を生産する方法であって、それにより、抗体が生産され、任意で回収される方法に関
する。ヒト化CD3抗体は「huCD3」と表すこともできる。
【0328】
一態様において、本発明は、(i)本発明のヒト化またはキメラ抗体の重鎖配列をコー
ドする核酸配列、(ii)本発明のヒト化またはキメラ抗体の軽鎖配列をコードする核酸配
列、または(iii)(i)と(ii)の両方を含む発現ベクターを提供する。したがって、発
現ベクターは、本明細書に記載するいずれかの局面または態様による1つまたは複数の核
酸コンストラクトまたは核酸配列を含む。
【0329】
一態様において、本発明の発現ベクターは、SEQ ID NO:1、2、3、4、および5、ならび
に配列GTNからなる群より選択される重鎖および軽鎖CDR配列の1つまたは複数をコードす
る核酸配列を含む。
【0330】
一態様において、本発明は、SEQ ID NO:6、7、8、9、10、11、12、19、20、27、28、2
9、および30、またはそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される1つまたは複数
のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む発現ベクターを提供する。別の態様では、発
現ベクターが、SEQ ID NO:3に示すVH CDR3アミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。
別の態様では、発現ベクターが、SEQ ID NO:6、7、8、9、19、27、および29から選択さ
れるVHアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。別の態様では、発現ベクターが、SEQ
ID NO:10、11、12、20、28、および30から選択されるVLアミノ酸配列をコードする核酸
配列を含む。別の態様では、発現ベクターが、ヒト抗体軽鎖、ヒト抗体重鎖、またはその
両方の定常領域をコードする核酸配列を含む。別の態様において、本発明は、SEQ ID NO
:15、16、23、24、25、および26のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む発現ベクタ
ーを提供する。
【0331】
ある特定態様では、発現ベクターが、上記アミノ酸配列の1つまたは複数の変異体をコ
ードする核酸配列を含み、該変異体は、最大で25個のアミノ酸修飾、例えば最大で20個、
例えば最大で15、14、13、12、または11個のアミノ酸修飾、例えば10、9、8、7、6、5、4
、3、2、または1個のアミノ酸修飾、例えば欠失または挿入、好ましくは置換、例えば保
存的置換または非保存的置換を有するか、または該配列のいずれかに対して少なくとも80
%の同一性、例えば少なくとも85%の同一性または90%の同一性または95%の同一性、例
えば前述のアミノ酸配列のいずれかに対して96%の同一性または97%の同一性または98%
の同一性または99%の同一性を有する。本発明は、上述の核酸配列とは異なるが、遺伝コ
ードの多様性ゆえに、本発明の抗体と同じアミノ酸配列をコードする核酸配列にも関係す
る。例えば、核酸配列が変化しても本明細書に記載するいずれかのアミノ酸配列と同一の
アミノ酸配列をもたらしうる。遺伝コードに基づいてそのようなさらなる核酸配列を同定
する方法は、当業者には周知である。
【0332】
さらに別の態様では、発現ベクターが、抗体、例えばヒト抗体の、軽鎖、重鎖または軽
鎖と重鎖の両方の定常領域をコードする核酸配列をさらに含む。
【0333】
上述のような発現ベクターは、本発明の抗体の組換え生産に使用することができる。
【0334】
本発明に関して発現ベクターは、染色体ベクター、非染色体ベクター、および合成核酸
ベクター(発現制御要素の適切なセットを含む核酸配列)など、任意の適切なベクターで
あることができる。そのようなベクターの例として、SV40の誘導体、細菌プラスミド、フ
ァージDNA、バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミドとファージDNAとの組合せか
ら誘導されるベクター、およびウイルス核酸(RNAまたはDNA)ベクターが挙げられる。一
態様では、ヒト化またはキメラCD3抗体をコードする核酸が、裸のDNAまたはRNAベクター
、例えば線状発現要素(例えば[64]に記載されているもの)、圧縮された核酸ベクター
(例えば[65]および/または[66]に記載されているもの)、pBR322、pUC19/18、また
はpUC118/119などのプラスミドベクター、「midge」最小サイズ核酸ベクター(例えば[6
7]に記載されているもの)、またはCaP04 -沈降コンストラクトなどの沈降核酸ベクター
コンストラクト(例えば[68]、[69]、[70]、および[71]に記載されているもの)
に含まれる。そのような核酸ベクターとその使用法は当技術分野において周知である(例
えば[72]および[73]を参照されたい)。
【0335】
一態様では、ベクターが、細菌細胞におけるヒト化またはキメラCD3抗体の発現に適し
ている。そのようなベクターの例として、例えばBlueScript(Stratagene)、pINベクタ
ー([74])、pETベクター(Novagen、ウィスコンシン州マディソン)などの発現ベクタ
ーが挙げられる。
【0336】
これに加えてまたはこれに代えて、発現ベクターは酵母系における発現に適したベクタ
ーであってもよい。酵母系における発現に適した任意のベクターを使用することができる
。適切なベクターとしては、例えばアルファ因子、アルコールオキシダーゼおよびPGHな
どの、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターが挙げられる([75]および[76]
に総説がある)。
【0337】
核酸コンストラクトおよび/またはベクターは、新生ポリペプチド鎖などのポリペプチ
ドを細胞周辺腔にまたは細胞培養培地中にターゲティングすることができる分泌配列/局
在化配列をコードする核酸配列も含みうる。そのような配列は当技術分野において公知で
あり、これには、当技術分野において周知の分泌リーダーまたはシグナルペプチド、細胞
小器官ターゲティング配列(例えば核局在化配列、ER保持シグナル、ミトコンドリア輸送
配列、クロロプラスト輸送配列)、膜局在化/アンカー配列(例えば膜透過停止配列、GPI
アンカー配列)などが含まれる。
【0338】
本発明の発現ベクターでは、ヒト化またはキメラCD3抗体をコードする核酸が、任意の
適切なプロモーター、エンハンサー、および他の発現促進要素を含むか、またはそれらと
関連しうる。そのような要素の例としては、強力な発現プロモーター(例えばヒトCMV IE
プロモーター/エンハンサー、ならびにRSV、SV40、SL3-3、MMTV、およびHIV LTRプロモー
ター)、効果的なポリ(A)終結配列、大腸菌におけるプラスミド生産のための複製起点
、選択可能マーカーとしての抗生物質耐性遺伝子、および/または好都合なクローニング
部位(例えばポリリンカー)が挙げられる。核酸コンストラクトおよび/またはベクター
は、構成的プロモーターではなく、CMV IEなどの誘導性プロモーターも含みうる(これら
の用語が一定の条件下での遺伝子発現の程度の記述語であることは、当業者にはわかるで
あろう)。
【0339】
一態様では、ヒト化またはキメラCD3抗体をコードする発現ベクターを、ウイルスベク
ターによって宿主細胞または宿主動物に配置し、かつ/または送達することができる。
【0340】
そのような発現ベクターは、ヒト化またはキメラCD3抗体の組換え生産のために試用す
ることができる。
【0341】
一局面において、本発明は、本発明の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0342】
一局面において、本明細書に記載するいずれかの局面または態様のヒト化またはキメラ
CD3抗体は、抗体を生産する組換え真核宿主細胞、組換え原核宿主細胞、または組換え微
生物宿主細胞を利用して提供される。したがって本発明は、本明細書に定義するヒト化ま
たはキメラCD3抗体または免疫グロブリンを生産する組換え真核宿主細胞、組換え原核宿
主細胞、または組換え微生物宿主細胞を提供する。宿主細胞の例としては、酵母、細菌細
胞および哺乳動物細胞、例えばCHOまたはHEK-293細胞が挙げられる。例えば一態様では、
宿主細胞が、本明細書に記載するヒト化またはキメラCD3抗体の発現をコードする配列を
含む細胞ゲノムに安定に組み込まれた核酸配列を含む。別の態様では、宿主細胞が、本明
細書に記載のヒト化またはキメラCD3抗体の発現をコードする配列を含む非組込み型の核
酸配列、例えばプラスミド、コスミド、ファージミド、または線状発現要素を含む。
【0343】
本明細書において使用する用語「組換え宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)は、発
現ベクターまたは核酸コンストラクトもしくは核酸配列が導入されている細胞を指すもの
とする。このような用語は、その特定対象細胞を指すだけでなく、そのような細胞の子孫
も指すものとすることを理解すべきである。世代を重ねるにつれて変異または環境の影響
のいずれかによって一定の修飾が起こりうるので、そのような子孫は、実際には親細胞と
同一ではないかもしれないが、それでも本明細書において使用する用語「宿主細胞」の範
囲内に包含される。組換え宿主細胞としては、例えば、CHO細胞、HEK-293細胞、PER.C6、
NS0細胞、およびリンパ球細胞などの真核宿主細胞、大腸菌などの原核細胞、ならびに植
物細胞および真菌などの他の真核宿主が挙げられる。
【0344】
さらに別の局面において、本発明は、本発明のヒト化またはキメラCD3抗体を生産する
ための方法に関し、本方法は、
a)上述した本発明の宿主細胞を培養する工程、および
b)本発明の抗体を培養培地から回収しかつ/または精製する工程
を含む。
【0345】
さらに別の局面では、ヒト化またはキメラCD3抗体の配列をコードするヌクレオチド配
列が、治療用ポリペプチドなどの第2の部分をコードする。例示的な治療用ポリペプチド
は本明細書の他の項に記載する。一態様において、本発明は、ヒト化またはキメラCD3抗
体融合タンパク質を生産するための方法に関し、本方法は、
a)そのようなヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む宿主細胞を培養する工程、お
よび
b)ヒト化またはキメラCD3抗体融合タンパク質を培養培地から回収しかつ/または精製す
る工程
を含む。
【0346】
組成物
一局面において、本発明は、本明細書に記載するいずれかの局面および態様による抗体
または二重特異性抗体を含む組成物を提供する。
【0347】
一局面において、本発明は、本明細書に記載するいずれか一つの局面および態様に定義
する抗体または二重特異性抗体と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物を提供す
る。
【0348】
薬学的組成物は、従来の技法、例えば[77]に開示されている技法に従って、薬学的に
許容される担体または希釈剤ならびに他の任意の公知の佐剤および賦形剤を使って製剤化
することができる。
【0349】
薬学的に許容される担体または希釈剤ならびに他の任意の公知の佐剤および賦形剤は、
本発明のヒト化またはキメラ抗体および選ばれた投与様式に適しているべきである。薬学
的組成物の担体および他の構成要素の適性は、抗原結合に関して、選ばれた本発明の化合
物または薬学的組成物の所望の生物学的性質に対する有意な負の影響の欠如(例えば有意
でない影響(10%以下の相対的阻害、5%以下の相対的阻害など))に基づいて決定され
る。
【0350】
本発明の薬学的組成物は、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、洗浄剤(例えば非イオン性洗
浄剤、例えばTween-20またはTween-80)、安定剤(例えば糖またはタンパク質フリーアミ
ノ酸)、保存剤、組織固定剤、可溶化剤、および/または薬学的組成物に含めるのに適し
た他の材料も含みうる。
【0351】
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、患者に対する毒性を伴う
ことなく、特定の患者、組成物、および投与様式について所望の治療応答を達成するのに
有効な活性成分量が得られるように、変化させることができる。選択される投薬量レベル
は、種々の薬物動態因子、例えば使用される本発明の特定組成物またはそのアミドの活性
、投与経路、投与時間、使用されている特定化合物の排出速度、処置の継続時間、使用さ
れる特定組成物と併用される他の薬物、化合物および/または材料、処置される患者の年
齢、性別、体重、状態、全身の健康状態、および既往歴、その他、医学分野において周知
の因子に依存するであろう。
【0352】
薬学的組成物は、任意の適切な経路および様式で投与することができる。インビボおよ
びインビトロで本発明のヒト化またはキメラ抗体を投与する適切な経路は当技術分野にお
いて周知であり、当業者であれば選択することができる。
【0353】
一態様では、本発明の薬学的組成物が非経口投与される。
【0354】
本明細書において使用する表現「非経口投与」および「非経口投与される」は、経腸投
与および外用投与以外の、通常は注射による投与様式を意味し、これには、表皮、静脈内
、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱内、経気管、皮下
、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外および胸骨内注
射および注入が含まれる。
【0355】
一態様では、上記薬学的組成物が静脈内または皮下注射または注入によって投与される
【0356】
薬学的に許容される担体には、本発明のヒト化またはキメラ抗体と生理学的に適合する
、ありとあらゆる適切な溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張剤、
酸化防止剤および吸収遅延剤などが含まれる。
【0357】
本発明の薬学的組成物に使用することができる適切な水性および非水性の担体の例とし
て、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、エタノール、デキストロース、ポリオール(例えば
グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)およびそれらの適
切な混合物、植物油、例えばオリーブ油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、綿実油、およ
びゴマ油、カルボキシメチルセルロースコロイド溶液、トラガカントゴムおよび注射可能
な有機エステル、例えばオレイン酸エチル、および/またはさまざまな緩衝液が挙げられ
る。他の担体は薬学分野では周知である。
【0358】
薬学的に許容される担体としては、滅菌水性溶液または分散液および滅菌注射可能溶液
または分散液をその場で調製するための滅菌粉末が挙げられる。薬学的に活性な物質のた
めのそのような媒質および薬剤の使用は、当技術分野において公知である。従来の媒質ま
たは薬剤は、それらが活性化合物と不適合でない限り、本発明の薬学的組成物におけるそ
の使用が考えられる。「活性化合物」という場合、それは、本発明のヒト化またはキメラ
抗体も指すと考えられる。
【0359】
適正な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用によって、分散系の場合は
必要な粒度を維持することによって、および界面活性剤の使用によって、維持することが
できる。
【0360】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される酸化防止剤、例えば(1)水溶性酸化防
止剤、例えばアスコルビン酸、システイン塩酸塩、亜硫酸水素ナトリウム、メタ亜硫酸水
素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど、(2)油溶性酸化防止剤、例えばパルミチン酸ア
スコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT
)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロールなど、および(3)金属キレ
ート物質、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、
リン酸なども含みうる。
【0361】
本発明の薬学的組成物は、等張剤、例えば糖類、ポリアルコール、例えばマンニトール
、ソルビトール、グリセロール、または塩化ナトリウムも、組成物中に含みうる。
【0362】
本発明の薬学的組成物は、選んだ投与経路に適した1つまたは複数の佐剤、例えば薬学
的組成物の貯蔵寿命または有効性を強化しうる保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、保存剤
または緩衝剤も含有しうる。本発明のヒト化またはキメラ抗体は、例えばインプラント、
経皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達系を含む放出制御製剤など、化合物を迅速な
放出から保護する担体を使って調製することができる。そのような担体は、ゼラチン、モ
ノステアリン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、生分解性生体適合性ポリマー、
例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエ
ステル、およびポリ乳酸を単独で、もしくはワックスと共に、または当技術分野において
周知の他の材料を含みうる。そのような製剤を調製するための方法は一般に当業者には公
知である(例えば[78]参照)。
【0363】
一態様において、本発明のヒト化またはキメラ抗体は、インビボでの適正な分布が保証
されるように製剤化することができる。非経口投与用の薬学的に許容される担体としては
、滅菌水性溶液または分散液および滅菌注射可能溶液または分散液をその場で調製するた
めの滅菌粉末が挙げられる。薬学的に活性な物質のためのそのような媒質および薬剤の使
用は、当技術分野において公知である。従来の媒質または薬剤は、それらが活性化合物と
不適合でない限り、本発明の薬学的組成物におけるその使用が考えられる。他の活性化合
物または治療用化合物も組成物に組み込むことができる。
【0364】
注射用の薬学的組成物は,典型的には、滅菌状態にあり、かつ製造条件下および貯蔵条
件下で安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルション、リポソーム、
または高い薬物濃度に適した他の秩序構造として製剤化することができる。担体は、例え
ば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチ
レングリコールなど)およびそれらの適切な混合物、植物油、例えばオリーブ油、および
注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルを含有する、水性または非水性の溶媒
または分散媒であることができる。適正な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング
の使用によって、分散系の場合は必要な粒度を維持することによって、および界面活性剤
の使用によって、維持することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖類、ポリアルコ
ール、例えばグリセロール、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを組成
物中に含むことが好ましいであろう。注射可能な組成物の長時間吸収は、吸収を遅延させ
る作用物質、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを組成物に含めることによって、
生じさせることができる。滅菌注射可能溶液は、必要量の活性化合物を適当な溶媒に必要
に応じて上に列挙したような成分の1つまたは組み合わせと共に組み込み、次に滅菌精密
ろ過を行うことによって調製することができる。一般に、分散液は、基礎分散媒と必要な
他の成分、例えば上に列挙したものからの成分とを含有する滅菌媒体に、活性化合物を組
み込むことによって調製される。滅菌注射可能溶液を調製するための滅菌粉末の場合、調
製方法の例は、活性成分と所望する任意の追加成分との粉末を前もって滅菌ろ過したその
溶液から与える真空乾燥および冷凍乾燥(凍結乾燥)である。
【0365】
滅菌注射可能溶液は、必要な量の活性成分を必要に応じて上に列挙した成分の1つまた
は組み合わせと共に適当な溶媒に組み込み、次に滅菌精密ろ過を行うことによって調製す
ることができる。一般に、分散液は、基礎分散媒と必要な他の成分、例えば上に列挙した
ものからの成分とを含有する滅菌媒体に、活性化合物を組み込むことによって調製される
。滅菌注射可能溶液を調製するための滅菌粉末の場合、調製方法の例は、活性成分と所望
する任意の追加成分との粉末を前もって滅菌ろ過したその溶液から与える真空乾燥および
冷凍乾燥(凍結乾燥)である。
【0366】
治療的応用
別の局面において、本発明は、医薬として使用するための、本明細書に記載するいずれ
かの局面または態様に定義した本発明のヒト化もしくはキメラ抗体または薬学的組成物に
関する。
【0367】
別の局面において、本発明は、疾患の処置に使用するための、本明細書に記載するいず
れかの局面または態様に定義した本発明のヒト化もしくはキメラ抗体または薬学的組成物
に関する。
【0368】
本発明のヒト化もしくはキメラ抗体または薬学的組成物は、細胞傷害性T細胞のエフェ
クター機序が望ましい任意のがんの処置に使用することができる。例えばヒト化またはキ
メラ抗体は、がん、炎症性障害または自己免疫障害などの障害を処置しまたは防止するた
めに、インビトロまたはエクスビボで培養細胞に投与するか、例えばインビボでヒト対象
に投与することができる。本明細書において使用する用語「対象」は、典型的には、ヒト
化もしくはキメラ抗体または薬学的組成物に応答するヒトである。対象としては、例えば
、ターゲット機能を調整するか直接的または間接的に細胞の死滅につながることによって
矯正しまたは改善させることができる障害を有するヒト患者を挙げることができる。
【0369】
別の局面において、本発明は、T細胞の動員が処置または防止に寄与するがんなどの障
害を処置しまたは防止するための方法を提供し、本方法は、治療有効量の本発明のヒト化
もしくはキメラ抗体または薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む
。この方法では、典型的には、障害を処置しまたは防止するのに有効な量のヒト化または
キメラ抗体を対象に投与する。
【0370】
一特定局面では、本発明は、本明細書に記載のいずれかの局面および態様に定義する本
発明のヒト化もしくはキメラ抗体または薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与す
る工程を含む、がんの処置方法に関する。
【0371】
別の局面において、本発明は、本明細書に記載のいずれかの局面または態様に定義する
使用または方法に関し、、ヒト化またはキメラ抗体は、CD3と、がん特異的ターゲット、
またはがんにおいて過剰発現するかもしくはがんに関連するターゲット、例えばHER2、CD
19、EpCAM、EGFR、CD66e(またはCEA、CEACAM5)、CD33、EphA2またはMCSP(またはHMW-M
AA)との両方に特異的に結合する二重特異性抗体であり、疾患が、がん、例えば乳がん、
前立腺がん、非小細胞肺がん、膀胱がん、卵巣がん、胃がん、直腸結腸がん、食道がん、
および頭頸部の扁平上皮癌、子宮頸がん、膵がん、精巣がん、悪性黒色腫、軟組織がん(
例えば滑膜肉腫)、低悪性度型または高悪性度型のB細胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血
病または急性リンパ性白血病である。
【0372】
ヒト化またはキメラ抗体の有効な投薬量および投薬レジメンは、処置される疾患または
状態に依存し、当業者であれば決定することができる。
【0373】
当技術分野において通常の知識を有する医師は、必要な薬学的組成物の有効量を容易に
決定し処方することができる。例えば医師は、薬学的組成物に入れて使用されるヒト化ま
たはキメラ抗体の用量を、所望の治療効果を達成するのに必要な用量より低いレベルから
開始し、所望の効果が達成されるまで投薬量を漸増させることができる。一般に、本発明
の組成物の適切な用量は、特定投薬レジメンで治療効果を生じるのに効果的な最小用量で
あるヒト化またはキメラ抗体の量である。そのような有効用量は、一般に、上述の因子に
依存するであろう。
【0374】
例えば、治療的使用に関する「有効量」は、疾患の進行を安定化するその能力によって
測定することができる。がんを阻害する化合物の能力は、例えば、ヒト腫瘍における効力
を予測する動物モデル系で評価することができる。あるいは、組成物のこの性質は、ヒト
化またはキメラ抗体が持つ細胞成長を阻害する能力または細胞傷害性を誘発する能力を、
当業者に公知のインビトロアッセイで調べることによって評価することもできる。治療有
効量の治療用化合物、すなわち本発明の治療用ヒト化もしくはキメラ抗体または薬学的組
成物は、腫瘍サイズを減少させるか、または他の形で対象における症状を改善することが
できる。当業者は、対象のサイズ、対象の症状の重症度、および選択した特定組成物また
は投与経路などといった因子に基づいて、そのような量を決定することができるであろう
【0375】
本発明のヒト化またはキメラ抗体の治療有効量の例示的な非限定的範囲は、約0.001~3
0mg/kg、例えば約0.001~20mg/kg、例えば約0.001~10mg/kg、例えば約0.001~5mg/kg、
例えば約0.001~2mg/kg、例えば約0.001~1mg/kg、例えば約0.001、約0.01、約0.1、約1
、約5、約8、約10、約12、約15、約18mg/kgである。
【0376】
投与は、例えば静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下投与、例えばターゲット部位の近
傍への投与であることができる。
【0377】
上記の処置方法および使用における投薬レジメンは、最適な所望の応答(例えば治療応
答)を与えるように調節される。例えば、単回ボーラスを投与するか、時間をかけて数回
の分割投与を行うか、治療状況の要求に応じて用量を比例的に低減または増加させること
ができる。
【0378】
一態様では、治療中に、例えば所定の時点において、処置の効力をモニタリングする。
【0379】
所望であれば、薬学的組成物の有効1日用量を、1日のうちに適当な間隔で、任意で単位
剤形で、個別に投与される2、3、4、5、6またはそれ以上の部分用量に分けて投与しても
よい。別の態様では、望ましくない副作用をいずれも最小限に抑えるために、ヒト化もし
くはキメラ抗体または薬学的組成物が、長時間、例えば24時間以上にわたる、緩慢な持続
注入によって投与される。
【0380】
本発明のヒト化またはキメラ抗体を単独で投与することは可能であるが、ヒト化または
キメラ抗体は上述のような薬学的組成物として投与することが好ましい。
【0381】
本発明のヒト化またはキメラ抗体の有効用量は、週に1回、2週間に1回または3週間に1
回の投与期間を使って投与することもできる。投与期間は、例えば8週間、12週間、また
は臨床的進行が確立するまでに制限することができる。あるいは、本発明のヒト化または
キメラ抗体の有効用量を、2週間ごと、3週間ごと、4週間ごとに投与することもできる。
【0382】
一態様では、ヒト化またはキメラ抗体を、mg/m2で計算される1週間量で、注入によって
投与することができる。そのような投薬量は、例えば、次式に従い、上記のmg/kg投薬量
に基づくことができる:用量(mg/kg)×70:1.8。そのような投与を例えば1~8回、例え
ば3~5回、繰り返すことができる。投与は、2~24時間の期間、例えば2~12時間の期間に
わたる持続注入によって、行うことができる。一態様では、毒性副作用を低減するために
、ヒト化またはキメラ抗体を、長時間、例えば24時間以上にわたる、緩慢な持続注入によ
って投与することができる。
【0383】
一態様では、ヒト化またはキメラ抗体を、週に1回投与した場合に8回まで、例えば4~6
回にわたって、固定用量として計算された1週間量で投与することができる。そのような
レジメンは、必要に応じて、例えば6ヶ月後または12ヶ月後に、1回または複数回繰り返す
ことができる。そのような固定投薬量は、例えば、体重を70kgと見積もった上で、上記の
mg/kg投薬量に基づくことができる。投薬量は、投与後に血液中の本発明のヒト化または
キメラ抗体の量を、例えば生物学的試料を採取し、本発明のヒト化またはキメラ抗体の結
合領域を標的とする抗イディオタイプ抗体を使用して測定することによって、決定または
調節することができる。
【0384】
一態様では、維持療法で、例えば6ヶ月以上の期間にわたって週に1回、ヒト化またはキ
メラ抗体を投与することができる。
【0385】
がんを発症するリスクを低減し、がんの進行におけるある事象の発生の開始を遅延させ
、かつ/またはがんが寛解状態にある場合には、再発のリスクを低減するために、ヒト化
またはキメラ抗体を予防的に投与することもできる。
【0386】
非経口組成物は、投与が容易になり、投薬量が均一になるように、投薬単位形に製剤化
することができる。本明細書にいう投薬単位形とは、処置される対象への単位投薬量とし
て好適な物理的に離散した単位を指し、各単位は、所望の治療効果を生じるように計算さ
れた前もって決定された分量の活性化合物を必要な薬学的担体と共に含有する。本発明の
投薬単位形の仕様は、(a)活性化合物に特有の特徴、および達成しようとする具体的治
療効果、および(b)個体における感受性の処置のためにそのような活性化合物を配合す
る際の当技術分野において固有の制約によって規定されるか、またはそれらに直接依存す
る。
【0387】
がんを発症するリスクを低減し、がんの進行におけるある事象の発生の開始を遅延させ
、かつ/またはがんが寛解状態にある場合には、再発のリスクを低減するために、ヒト化
またはキメラ抗体を予防的に投与することもできる。他の生物学的因子によって存在する
ことがわかっている腫瘍の位置を特定することが困難な患者では、これがとりわけ有用に
なりうる。
【0388】
診断的応用
本発明のヒト化またはキメラ抗体は、本明細書に記載するヒト化またはキメラ抗体を含
む組成物を使って、診断目的にも使用することができる。したがって、本発明は、本明細
書に記載のヒト化またはキメラ抗体を使用する診断方法および診断用組成物を提供する。
そのような方法および組成物は、例えば疾患を検出しまたは同定することなど、純粋な診
断目的に使用することができるし、治療的処置の進展をモニタリングするため、疾患の進
行をモニタリングするため、処置後の状態を評価するため、疾患の再発をモニタリングす
るため、および疾患を発症するリスクを評価するためなどといった目的にも使用すること
ができる。
【0389】
一局面において、本発明は、CD3発現細胞の関与または蓄積を特徴とする疾患を診断す
る方法に関し、本方法は、本発明のヒト化またはキメラ抗体、本発明の組成物、または本
発明の薬学的組成物を対象に投与する工程を含み、任意で該ヒト化またはキメラ抗体は、
検出可能な作用物質で標識されている。
【0390】
一局面では、本発明のヒト化またはキメラ抗体が、例えば、前記ヒト化またはキメラ抗
体が結合する関心対象の特異的ターゲットを発現する細胞が疾患を示すかまたは病理発生
過程に関与する疾患の診断において、患者から採取した試料中のターゲットのレベルまた
はその細胞表面に関心対象のターゲットを発現する細胞のレベルを検出することによって
、エクスビボで使用される。これは、例えば被験試料を、任意で対照試料と共に、本発明
のヒト化またはキメラ抗体と、ターゲットへの抗体の結合が可能な条件下で接触させるこ
とによって達成することができる。次に、(例えばELISAを使って)複合体形成を検出す
ることができる。対照試料を試験試料と共に使用する場合は、ヒト化もしくはキメラ抗体
または抗体-ターゲット複合体のレベルが両方の試料で解析され、試験試料中の統計的に
有意に高いヒト化もしくはキメラ抗体または抗体-ターゲット複合体のレベルは、対照試
料と比較して高レベルに存在する試験試料中のターゲットを示す。
【0391】
本発明のヒト化またはキメラ抗体を使用することができる従来のイムノアッセイの例と
して、ELISA、RIA、FACSアッセイ、プラズモン共鳴アッセイ、クロマトグラフィーアッセ
イ、組織免疫組織化学、ウェスタンブロット、および/または免疫沈降が挙げられるが、
それらに限定されるわけではない。
【0392】
したがって一態様において、本発明は、CD3発現細胞の関与または蓄積を特徴とする疾
患を診断する方法に関し、本方法は、本明細書に記載するいずれかの局面または態様によ
る抗体、二重特異性抗体、組成物または薬学的組成物を対象に投与する工程を含み、任意
で抗体は検出可能なラベルで標識されている。
【0393】
一態様において、本発明は、試料中のターゲットまたはターゲットを発現する細胞の存
在を検出するための方法に関し、本方法は、
試料を、試料中のターゲットへのヒト化またはキメラ抗体の結合が可能な条件下で、本
発明のヒト化またはキメラ抗体と接触させる工程、および
複合体が形成されたかどうかを解析する工程
を含む。試料は、典型的には、生物学的試料である。
【0394】
一態様では、試料が、特異的ターゲットおよび/または前記ターゲットを発現する細胞
を含有することがわかっているまたはそれらを含有すると疑われる組織試料である。例え
ば、ターゲット発現のインサイチュー検出は、患者から組織学標本を取り出し、本発明の
ヒト化またはキメラ抗体をそのような標本に与えることによって、達成することができる
。ヒト化またはキメラ抗体は、標本にヒト化またはキメラ抗体を塗布するか重層すること
によって与えることができ、次にそれが適切な手段を使って検出される。次に、ターゲッ
トまたはターゲット発現細胞の存在だけでなく、被験組織におけるターゲットまたはター
ゲット発現細胞の分布も(例えばがん細胞の伝播の評価などに関連して)決定することが
可能である。本発明を使用することにより、多種多様な組織学的方法(例えば染色手法)
のいずれであっても、そのようなインサイチュー検出を達成するために改変しうることは
、当業者には容易に理解されるであろう。
【0395】
上記のアッセイでは、結合した抗体を検出することができるように、ヒト化またはキメ
ラ抗体を検出可能な物質で標識することができる。あるいは、結合した(一次)特異的ヒ
ト化またはキメラ抗体を、検出可能な物質で標識された抗体であって一次特異的ヒト化ま
たはキメラ抗体に結合するもので検出することもできる。さらにまた、上記のアッセイで
は、本明細書に記載するいずれかの局面または態様による抗体または二重特異性抗体を含
む診断用組成物を使用することができる。したがって一局面において、本発明は、本明細
書に記載するいずれかの局面または態様による抗体または二重特異性抗体を含む診断用組
成物に関する。
【0396】
試料中のターゲットのレベルは、検出可能な物質で標識されたターゲット標準物質と非
標識ターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体とを利用する競合イムノアッセイによって
推定することもできる。このタイプのアッセイでは、生物学的試料、標識ターゲット標準
物質およびターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体を合わせて、非標識ターゲット特異
的ヒト化またはキメラ抗体に結合した標識ターゲット標準物質の量を決定する。生物学的
試料中のターゲットの量は、ターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体に結合した標識タ
ーゲット標準物質の量に逆比例する。
【0397】
インビトロ診断技法において使用されるターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体、二
次抗体および/またはターゲット標準物質に適したラベルとしては、さまざまな酵素、補
欠分子族、蛍光物質、発光物質、および放射性物質が挙げられるが、それらに限定される
わけではない。適切な酵素の例としては、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホ
スファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼが挙げられ、
適切な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビ
オチンが挙げられ、適切な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、
フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレ
セイン、ダンシルクロライド、およびフィコエリトリンが挙げられる、発光物質の例とし
てはルミノールが挙げられ、適切な放射性物質の例としては125I、131I、35S、および3H
が挙げられる。
【0398】
一局面では、本発明のターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体が、腫瘍などのターゲ
ット発現組織のインビボイメージングに使用される。インビボ法の場合、例えば(Fab')
2、FabおよびFab'フラグメントなどの抗体フラグメントは、迅速な分布動態を持つので、
特に有利である。
【0399】
インビボイメージングは任意の適切な技法によって行うことができる。例えば、99Tc、
131I、111Inまたは他のガンマ線放出同位体で標識されたターゲット特異的ヒト化または
キメラ抗体(例えば抗体またはフラグメント)を使って、腫瘍などのターゲット発現組織
におけるターゲット特異的抗体の蓄積または分布を、ガンマシンチレーションカメラ(例
えばElscint Apex 409ECTデバイス)で、典型的には低エネルギー高分解能コリメーター
または低エネルギー万能コリメーターを使って、イメージングすることができる。あるい
は、89Zr、76Br、18Fまたは他の陽電子放出放射性核種による標識を使用し、陽電子放射
断層撮影法(PET)を使って、腫瘍におけるターゲット特異的ヒト化もしくはキメラ抗体
または抗体フラグメントの分布をイメージングすることもできる。このような技法を利用
して得られるイメージは、例えばがん/腫瘍細胞の存在に関するバイオマーカーとしてタ
ーゲットを使用する場合などに、患者、哺乳動物、または組織におけるターゲットの生体
内分布を評価するために使用することができる。この技法の変法としては、ガンマカメラ
技法よりイメージングを改良するための磁気共鳴イメージング(MRI)の使用を挙げるこ
とができる。従来のイムノシンチグラフィ法とその原理は、例えば[79]、[80]、およ
び[81]に記載されている。さらにまた、上記に加えて、または上記に代えて、そのよう
なイメージは、腫瘍を除去するための外科的技法の基礎としても役立ちうる。さらにまた
、そのようなインビボイメージング技法は、患者が腫瘍を有することは(他のバイオマー
カー、転移などの存在などによって)確認されるが、その腫瘍を伝統的な解析技法では同
定することができない状況において、腫瘍の同定および位置特定も可能にする。これらの
方法はいずれも本発明の特徴である。
【0400】
本発明が提供するインビボイメージングおよび他の診断方法は、ヒト患者(例えば以前
にがんと診断されたことがない患者、またはがんからの回復/寛解期にある患者)におけ
る微小転移の検出には特に有用である。
【0401】
一態様において、本発明は、本発明のターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体が、検
出を助長する放射線不透過性物質にコンジュゲートされ、そのコンジュゲートヒト化また
はキメラ抗体が血流への注射などによって宿主に投与され、宿主における標識ヒト化また
はキメラ抗体の存在および場所がアッセイされるインビボイメージング法を提供する。こ
の技法および本明細書に記載する他の診断方法によって、本発明は、ヒト患者またはヒト
患者から採取した生物学的試料における疾患関連細胞の存在についてスクリーニングし、
かつ/またはターゲット特異的ADC療法に先だってターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗
体の分布を評価するための方法を提供する。
【0402】
画像診断の場合は、放射性同位体をターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体に直接的
にまたは中間官能基を使って間接的に結合させることができる。有用な中間官能基として
、エチレンジアミン四酢酸およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる(例えば[82
]参照)。
【0403】
診断方法は、放射性同位体および放射線不透過性物質の他に、色素(例えばビオチン-
ストレプトアビジン複合体を使って)、造影剤、蛍光化合物または分子、および磁気共鳴
イメージング(MRI)用の増強剤(例えば常磁性イオン)にコンジュゲートされたターゲ
ット特異的抗体を使って行うこともできる(例えば、MRI技法およびMRI増強剤にコンジュ
ゲートされた抗体の調製について記述している[83]を参照されたい)。そのような診断
/検出剤は、MRIで使用される作用物質および蛍光化合物から選択することができる。ター
ゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体に放射性金属または常磁性イオンを負荷するには、
それを、長いテールを有する試薬と反応させ、そのテールに、イオンを結合するための複
数のキレート基を取り付ける必要があるかもしれない。そのようなテールは、ポリリジン
、多糖などのポリマー、または例えばこの目的に有用であることが公知であるポルフィリ
ン、ポリアミン、クラウンエーテル、ビスチオセミカルバゾン、ポリオキシムなどのキレ
ート基を結合させることができるペンダント基を有する他の誘導体化されたまたは誘導体
化可能な鎖であることができる。キレートは、標準的な化学を使って、ターゲット特異的
ヒト化またはキメラ抗体にカップリングすることができる。
【0404】
したがって本発明は、診断用ターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体であって、ター
ゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体が、造影剤(例えば磁気共鳴イメージング用、コン
ピュータ断層撮影用、または超音波コントラスト増強剤)、または例えばガンマ放出同位
体、ベータ放出同位体、アルファ放出同位体、オージェ電子放出同位体、もしくは陽電子
放出同位体でありうる放射性核種にコンジュゲートされているものを提供する。
【0405】
一局面において、本発明は、本発明の抗体または二重特異性抗体を含む診断用組成物に
関する。
【0406】
さらに別の局面において、本発明は、試料中のターゲット抗原またはターゲット抗原を
発現する細胞の存在を検出するためのキットであって、
本発明のターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体、および
そのキットの使用説明書
を含むキットに関する。
【0407】
したがって一局面において、本発明は、
a)試料を、抗体または二重特異性抗体とCD3の間の複合体の形成が可能な条件下で、本発
明の抗体または二重特異性抗体と接触させる工程、および
b)複合体が形成されたかどうかを解析する工程
を含む、試料中のCD3抗原またはCD3発現細胞の存在を検出するためのキットを提供する。
【0408】
一態様において、本発明は、ターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体を含む容器、お
よびターゲットに対するターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体の結合を検出するため
の1つまたは複数の試薬を含む、がんを診断するためのキットを提供する。試薬としては
、例えば蛍光タグ、酵素タグ、または他の検出可能タグを挙げることができる。試薬とし
て、二次もしくは三次抗体または酵素反応のための試薬を挙げることもでき、この場合、
その酵素反応は可視化することができる生成物を生じる。一態様において、本発明は、適
切な容器中の標識型または非標識型の1つまたは複数の本発明のターゲット特異的ヒト化
またはキメラ抗体、間接的アッセイのためのインキュベーション用試薬、およびラベルの
性質に依存して、そのようなアッセイにおける検出のための基質または誘導体化剤を含む
診断キットを提供する。対照試薬および使用説明書も含めることができる。
【0409】
組織試料または宿主におけるターゲットの存在を検出するために、標識ターゲット特異
的抗体などのターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体と共に使用するための診断キット
を供給することもできる。そのような診断キット、ならびに本明細書の他の項に記載する
治療的使用のためのキットでは、典型的には、ターゲット特異的ヒト化またはキメラ抗体
を、凍結乾燥形態で容器中に、単独で、またはターゲット細胞またはターゲットペプチド
に特異的な追加抗体と一緒に、提供することができる。典型的には、薬学的に許容される
担体(例えば不活性希釈剤)および/またはその構成要素、例えばトリス、リン酸塩、ま
たは炭酸塩緩衝液、安定剤、保存剤、殺生物剤、不活性タンパク質、例えば血清アルブミ
ンなど(典型的には混合用の別個の容器に入れて)や追加の試薬(やはり典型的には別個
の容器に入れて)も含まれる。一定のキットでは、ターゲット特異的ヒト化またはキメラ
抗体に結合する能力を有する二次抗体であって、典型的には別個の容器に入っているもの
も含まれる。第2抗体は、典型的にはラベルにコンジュゲートされ、本発明のターゲット
特異的ヒト化またはキメラ抗体と類似する方法で製剤化される。上記の、そして本明細書
の他の項に記載する方法を使用することにより、がん/腫瘍細胞のサブセットを定義づけ
、そのような細胞および関連腫瘍組織を特徴づけるために、ターゲット特異的ヒト化また
はキメラ抗体を使用することができる。
【0410】
抗イディオタイプ抗体
さらに別の局面において、本発明は、本明細書に記載する発明のヒト化またはキメラ抗
体に結合する抗イディオタイプ抗体に関する。
【0411】
抗イディオタイプ(Id)抗体は、一般に抗体の抗原結合部位に関連するユニークな決定
基を認識する抗体である。抗Id抗体は、CD3モノクローナル抗体の供給源と同じ種および
遺伝子型の動物を、抗Idを調製しようとしているモノクローナル抗体で免疫化することに
よって調製することができる。免疫化した動物は、典型的には、これらのイディオタイプ
決定基に応答する抗体(抗Id抗体)を生産することによって、免疫化抗体のイディオタイ
プ決定基を認識し、それに応答することができる。そのような抗体は、例えばUS4,699,88
0に記載されている。そのような抗体は本発明のさらなる特徴である。
【0412】
抗Id抗体は、さらに別の動物における免疫応答を誘発していわゆる抗抗Id抗体を生産す
るための「免疫原」としても使用することができる。抗抗Id抗体は、エピトープ的には、
抗Id抗体を誘導した元のモノクローナル抗体と同一でありうる。したがって、モノクロー
ナル抗体のイディオタイプ決定基に対する抗体を使用することにより、同一の特異性を持
つ抗体を発現する他のクローンを同定することが可能である。抗Id抗体を、任意の適切な
技法によって、例えば本発明のCD3特異的抗体に関して本明細書の他の項で述べるような
技法によって、変化させ(それによって抗Id抗体変異体を生産し)、かつ/または誘導体
化することができる。例えばモノクローナル抗Id抗体を、キーホールリンペットヘモシア
ニン(KLH)などの担体にカップリングし、それを使ってBALB/cマウスを免疫化すること
ができる。これらのマウスからの血清は、典型的には、元の/親CD3抗体と同一ではないと
しても類似する結合特性を有する抗抗Id抗体を含有するであろう。
【0413】
配列
【表1】
CDR領域には、IMGT定義に従って注釈をつけた。
【実施例0414】
実施例1:ヒト化CD3抗体および非活性化抗体変異体の作製
CD3抗体のヒト化
マウスCD3抗体(US8,236,308、本明細書ではIgG1-CD3と記す)のヒト化は、Antitope(
英国ケンブリッジ)により、彼らの改良版生殖細胞系ヒト化(CDR移植)技術(EP0629240
)を使って行われた。この技術を使って、4つの異なるVH鎖(SEQ ID NO:6、7、8、およ
び9)と3つの異なるVL鎖(SEQ ID NO:10、11、および12)が設計された。これら4つのVH
を3つのVL鎖と組み合わせることにより、12の異なる抗体を作製した。これらのヒト化変
異体を本明細書ではhuCD3と記す。したがって、本発明のVHとVLを含むヒト化変異体は、
例えばIgG1-huCD3-H1L1と記され、これは該特定変異体が、IgG1アイソタイプであり、ヒ
ト化CD3であって、「H1」と名付けられSEQ ID NO:6に定義するVHアミノ酸配列と、「L1
」と名付けられSEQ ID NO:10に定義するVLアミノ酸配列とを含むことを意味する。した
がって、例えばH1は可変重鎖領域VH1を指し、L1は可変軽鎖領域VL1を指すことになる。
【0415】
具体的に述べると、本明細書に記載する実施例では、変異体IgG1-huCD3-H1L1(SEQ ID
NO:6に示すVH1配列とSEQ ID NO:10に示すVL1配列とを含むヒト化CD3)、IgG1-huCD3-H1
L2(SEQ ID NO:6に示すVH1配列とSEQ ID NO:11に示すVL2配列とを含むヒト化CD3)、Ig
G1-huCD3-H1L3(SEQ ID NO:6に示すVH1配列とSEQ ID NO:12に示すVL3配列とを含むヒト
化CD3)、IgG1-huCD3-H3L3(SEQ ID NO:8に示すVH3配列とSEQ ID NO:12に示すVL3配列
とを含むヒト化CD3)、IgG1-huCD3-H4L1(SEQ ID NO:9に示すVH4配列とSEQ ID NO:10に
示すVL1配列とを含むヒト化CD3)、IgG1-huCD3-H3L1(SEQ ID NO:8に示すVH3配列とSEQ
ID NO:10に示すVL1配列とを含むヒト化CD3)、IgG1-huCD3-H3L3(SEQ ID NO:8に示すVH
3配列とSEQ ID NO:12に示すVL3配列とを含むヒト化CD3)、およびIgG1-huCD3-H4L3(SEQ
ID NO:9に示すVH4配列とSEQ ID NO:12に示すVL3配列とを含むヒト化CD3)を作製し、
試験した。
【0416】
いくつかの実施例では、huCLB-T3/4の重鎖および軽鎖可変領域配列(それぞれSEQ ID N
O:17および18)を含む抗体を対照抗体として(Labrijn et al., PNAS 2013, 110:5145-
50)、またFc領域における異なる非活性化変異の組合せを検証するために使用した(実施
例8~10参照)。huCBL-T3/4はヒト化型のマウスCD3抗体CLB-T3/4である(Parren et al.,
Res Immunol. 1991, 142(9)749-63)。両配列(SEQ ID NO:17および18)を適切なpcD
NA3.3(Invitrogen)発現ベクターにクローニングし、HEK293F細胞への同時トランスフェ
クションによって発現させた。その結果得られた対照抗体をIgG1-huCLB-T3/4と記す。
【0417】
いくつかの実施例では、CD20抗体7D8の重鎖および軽鎖可変領域配列(VH配列に対応す
るSEQ ID NO:29およびVL配列に対応するSEQ ID NO:30)を含む抗体を、陽性対照として
使用した。陽性対照との関連において使用する場合、これを「IgG1-CD20」と名付ける。
【0418】
これらのIgG1-CD3(すなわちキメラ親CD3抗体)、IgG1-huCD3およびIgG1-huCLB-T3/4抗
体を単一特異性フォーマットおよび二重特異性フォーマットで使用し、二重特異性抗体は
後述のように作製した。
【0419】
HER2抗体
一部の実施例では、HER2に対する抗体を使用した。このHER2特異的抗体(抗体169)のV
H配列およびVL配列(それぞれSEQ ID NO:19および20)は以前に記載されている(WO2012
/143524[Genmab];Labrijn et al., PNAS 2013, 110:5145-50)。この抗体は、単一特
異性フォーマットでも二重特異性フォーマットでも使用した。これを「IgG1-HER2」と名
付ける。
【0420】
b12抗体
一部の実施例では、gp120特異的抗体である抗体b12(Barbas, CF. J Mol Biol. 1993 A
pr 5;230(3)812-23)を陰性対照として使用した。これを「IgG1-b12」と名付ける。
【0421】
発現
抗体は、後述の非活性化変異を持つか、または非活性化変異を持たず、後述の方法によ
る二重特異性抗体の作製を可能にするCH3ドメイン中の変異を持つ、IgG1,κまたはIgG1,
λとして発現させた:IgG1-HER2-K409R、IgG1-b12-K409R、IgG1-CD3-F405L。293fectin(
米国Invitrogen)を基本的に製造者の説明どおりに使用することで、抗体の重鎖と軽鎖の
両方をコードするプラスミドDNA混合物を、Freestyle HEK293F細胞(米国Invitrogen)に
一過性にトランスフェクトした。
【0422】
抗体の精製
培養上清を0.2μmデッドエンドフィルタでろ過し、5mL MabSelect SuReカラム(GE Hea
lth Care)にローディングし、0.1Mクエン酸ナトリウム-NaOH(pH3)で溶出させた。溶出
物を2Mトリス-HCl(pH9)で直ちに中和し、12.6mM NaH2P04、140mM NaCl、pH7.4(B.Brau
n)に対して終夜透析した。あるいは精製に続いて、溶出物をHi Prep脱塩カラムにローデ
ィングし、抗体を12.6mM NaH2P04、140mM NaCl、pH7.4(B.Braun)緩衝液に交換した。透
析後または緩衝液交換後に、試料を0.2μmデッドエンドフィルタで滅菌ろ過した。純度を
SDS-PAGEで決定し、濃度を280nmの吸光度で測定した。精製抗体は2~8℃で保存した。
【0423】
二重特異性抗体の作製
二重特異性抗体は、DuoBody(登録商標)プラットフォーム技術、すなわちWO2011/1479
86およびLabrijnら(Labrijn et al., PNAS 2013, 110:5145-50;Gramer et al., MAbs 2
013, 5:962-973)に記載の2-MEA誘発Fabアーム交換を使って、インビトロで作製した。
この方法による二重特異性抗体の生産を可能にするために、CH3ドメイン中に単一の変異
、すなわち一方の親IgG1抗体ではF405L変異(すなわちIgG1-CD3抗体)、他方の親IgG1抗
体ではK409R変異(すなわちHER2またはb12抗体)を保因するIgG1分子を作製した。二重特
異性抗体を作製するために、これら2つの親抗体を、各抗体の最終濃度を0.5mg/mLにして
、25mMまたは75mMの2-メルカプトエチルアミン-HCl(2-MEA)と共に、総体積500μLのTE
中、31℃で5時間インキュベートした。還元反応は、25mLのPBSで平衡化したPD-10カラム
(GE-healthcare、製品番号17-0851-01)を使って還元剤2-MEAが除去された時に停止した
。脱塩に先だって、体積を2.5mLに調節するために、2mLのPBS(B.Braun、製品番号362314
0)を試料に加えた。溶出は3.5mLのPBSで行った。Amicon Ultra遠心ユニット(30kD MWCO
、Millipore、製品番号UFC803096)に試料を集め、3000×gで8分間の遠心によって濃縮し
た。体積を(必要ならば)PBSで500μLに調節し、0.2μmフィルタ(Millex-GV、製品番号
SLGV004SL)で試料を滅菌ろ過した。二重特異性産物は2~8℃で保存した。
【0424】
同じ二重特異性抗体を与える代替的一方法では、二重特異性抗体を作製するために、10
0μgの2つの親抗体を混合し、75mM 2-メルカプトエチルアミン-HCl(2-MEA)と共に、総
体積400μLのPBS(B.Braun、製品番号3623140)中、31℃で5時間インキュベートした。還
元反応は、Amicon Ultra 0.5ml遠心ユニット(10kD MWCO、Millipore、製品番号UFC50109
6)を使って13000×gで10分間の遠心により400μLのPBSで4回洗浄することで還元剤2-MEA
が除去された時に停止した。フィルタを裏返し、1000gで2分間遠心することによって、試
料を新しいチューブに集めた。体積を(必要ならば)PBSで200μLに調節した。最終濃度
を決定するために二重特異性産物の280nmの吸光度(A280)を測定した。HPLCカチオン交
換クロマトグラフィー(HPLC-CEX)(WO2013/060867に記載)を行って二重特異性産物の
量を決定した。試料を2~8℃で保存した。
【0425】
作製された二重特異性抗体を、以下の説明では「K409R IgG1バックボーン」および「F4
05L IgG1バックボーン」と記す。
【0426】
非活性化変異
Fc領域に1つまたは複数のアミノ酸置換を持つ抗体変異体をいくつか作製した。非活性
化Fc領域は、抗体が単球などの血液細胞上に存在するFc受容体と相互作用するのを防止し
、または抗体がC1qと相互作用して古典的補体経路を活性化するのを防止する。Fc領域に
アミノ酸置換の異なる組み合わせを含有する抗体変異体において、Fc活性の低減を調べた
。最大5個のアミノ酸置換を導入した。これには、変異N297Q、L234A、L235A、L234F、L23
5E、D265A、およびP331Sが含まれる。これら5つのアミノ酸位置の1つまたは複数における
置換を、K409Rおよび/またはF405L IgG1バックボーンに導入した。huCLB-T3/4抗体の以下
のFc領域変異体を作製した:N297Q(N297Q置換を指す。IgG1-huCLB-T3/4-N297Qと名付け
る)、LFLE(L234F/L235E置換を指す。IgG1-huCLB-T3/4-LFLEと名付ける)、LALA(L234A
/L235A置換を指す。IgG1-huCLB-T3/4-LALAと名付ける)、LFLENQ(L234F/L235E/N297Q置
換を指す。IgG1-huCLB-T3/4-LFLENQと名付ける)、LFLEDA(L234F/L235E/D265A置換を指
す。IgG1-huCLB-T3/4-LFLEDAと名付ける)、DA(D265A置換を指す。IgG1-huCLB-T3/4-DA
と名付ける)、DAPS(D265A/P331S置換を指す。IgG1-huCLB-T3/4-DAPSと名付ける)、DAN
Q(D265A/N297Q置換を指す。IgG1-huCLB-T3/4-DANQと名付ける)、LFLEPS(L234F/L235E/
P331S置換を指す。IgG1-huCLB-T3/4-LFLEPSと名付ける)およびLFLEDANQPS(L234F/L235E
/D265A/N297Q/P331S置換を指す。IgG1-huCLB-T3/4-LFLEDANQPSと名付ける)。
【0427】
具体的には、IgG1-huCD3抗体変異体において、変異L234F、L235EおよびD265Aを含みLFL
EDAと呼ばれる3つのアミノ酸置換の組み合わせを、K409RおよびF405L IgG1バックボーン
に導入することによって、非活性化Fc領域を持つ抗体を作製した。その結果得られた非活
性化抗体変異体は、接尾語「-LFLEDA」をつけて名付けられる。
【0428】
実施例2:CD3を発現するヒトおよびカニクイザルT細胞株に対するヒト化CD3抗体およびそ
の非活性化変異体の結合
Fc領域にLFLEDA変異を持つまたは持たないヒト化CD3(huCD3)抗体および二重特異性(
bs)IgG1-huCD3×HER2分子の精製変異体(実施例1参照)の、ヒトT細胞株Jurkat(クロー
ンE6-1、ATCC(登録商標)TIB-152(商標)、LGC Standards GmbH、ドイツ国ヴェーゼル
)またはカニクイザルT細胞株HSC-F(カタログ番号JCRB1164;ヒューマンサイエンス研究
資源バンク、日本国大阪)に対する結合を、FACS解析によって解析した。抗体変異体は、
非活性化変異LFLEDAに加えて、実施例1で述べたようにF405LまたはK409R変異を含有した
【0429】
細胞(1×105細胞/ウェル)を、ポリスチレン96ウェル丸底プレート(Greiner bio-one
650101)中で、抗体調製物の段階希釈液(3倍希釈で5~10,000ng/mLの範囲)と共に、10
0μLのPBS/0.1%BSA/0.02%アジド中、4℃で30分間インキュベートした。
【0430】
PBS/0.1%BSA/0.02%アジド中で2回洗浄した後、細胞を100μL中で二次抗体と共に4℃
で30分間インキュベートした。全ての実験に二次抗体として、PBS/0.1%BSA/0.02%アジ
ド中に1:100希釈したR-フィコエリトリン(PE)コンジュゲートヤギ抗ヒトIgG F(ab')
2(109-116-098、Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.、ペンシルベニア州ウエ
ストグローブ)を使用した。次に、細胞をPBS/0.1%BSA/0.02%アジドで2回洗浄し、150
μLのPBS/0.1%BSA/0.02%アジドに再懸濁し、FACS Cantoll(BD Biosciences)で解析し
た。GraphPad Prism V5.04ソフトウェア(GraphPad Software、米国カリフォルニア州サ
ンディエゴ)を使って非線形回帰(傾き可変のシグモイド用量応答)で結合曲線を解析し
た。
【0431】
図1Aは、野生型Fc領域を持つIgG1λ-huCD3変異体IgG1-huCD3-H1L1(それぞれSEQ ID NO
:6および10)、IgG1-huCD3-H1L2(それぞれSEQ ID NO:6および11)、IgG1-huCD3-H1L3
(それぞれSEQ ID NO:6および12)、IgG1-huCD3-H3L3(それぞれSEQ ID NO:8および12
)およびIgG1-huCD3-H4L1(それぞれSEQ ID NO:9および10)の、Jurkat細胞に対する結
合が、全ての変異体について観察されたこと、およびIgG1-CD3-LFLEDA(非活性化LFLEDA
変異を持つ実施例1に記載の親CD3抗体)および非活性化LFLEDA変異を持つIgG1-huCD3-H3L
1-LFLEDAの結合能力が、野生型Fc領域を持つhuCD3変異体と類似していたことを表してい
る。陽性対照として含めたIgG1-huCLB-T3/4の結合は、Jurkat細胞に対して、IgG1-huCD3
変異体と比較して強かった。陰性対照抗体IgG1-b12については結合が観察されなかった。
【0432】
図6Aは、非活性化LFLEDA変異を持つIgG1-CD3-LFLEDA(非活性化LFLEDA変異を持つ実施
例1に記載の親CD3抗体)、IgG1-huCD3-H3L1-LFLEDA、IgG1-huCD3-H3L3-LFLEDA、IgG1-3hu
CD3-H1L1-LFLEDA、IgG1-huCD3-H1L3-LFLEDA、IgG1-huCD3-H4L1-LFLEDA、およびIgG1-huCD
3-H4L3-LFLEDAの、Jurkat細胞への結合が、野生型Fc領域を持つhuCD3変異体の結合能力と
類似していることを表している。陽性対照として含めたIgG1-huCLB-T3/4の結合は、Jurka
t細胞に対して、低抗体濃度ではIgG1-huCD3変異体と比較して強かったが、高抗体濃度で
は類似していた。全体として、ヒト化CD3変異体は、IgG1-CD3抗体としてCD3に対する結合
能力を維持していた。陰性対照抗体IgG1-b12については結合が観察されなかった。
【0433】
図1Bは、二重特異性抗体変異体bsIgG1 CD3×HER2、bsIgG1 CD3×b12-LFLEDA、およびbs
IgG1 huCD3-H3L1×HER2-LFLEDAもJurkat細胞に結合することを表している。これらの二重
特異性抗体の最大結合値は、単一特異性抗体の最大結合値より高い。二重特異性抗体のEC
50濃度は、6~10倍高かった。ここでも、陰性対照抗体IgG1-b12については、結合が観察
されなかった。
【0434】
図6Bは、二重特異性非活性化Fc抗体変異体bsIgG1 huCD3-H3L1×HER2-LFLEDA、bsIgG1-h
uCD3-H3L3×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L1×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L3×HER2-
LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H4L1×HER2-LFLEDA、およびbsIgG1-huCD3-H4L3×HER2-LFLEDAもJu
rkat細胞に結合することを表している。これらの二重特異性抗体の最大結合値は、単一特
異性抗体の最大結合値より高い。二重特異性抗体のEC50濃度は4~10倍高かった。一価結
合は、より多くの抗体が細胞表面に蓄積することを可能にするので、結合値は二重特異性
抗体の方が高くなる。ここでも、陰性対照抗体IgG1-b12については、結合が観察されなか
った。
【0435】
図2Aは、野生型Fc領域を持つIgG1-huCD3変異体IgG1-huCD3-H1L1、IgG1-huCD3-H1L2、Ig
G1-huCD3-H1L3、IgG1-huCD3-H3L3、およびIgG1-huCD3-H4L1ならびにIgG1-CD3-LFLEDA、Ig
G1-huCD3-H3L1-LFLEDAの、カニクイザルT細胞株HSC-Fへの結合が、類似していたことを表
している。カニクイザルCD3と交差反応しない対照抗体huCLB-T3/4と、陰性対照抗体IgG1-
b12については、結合が観察されなかった。
【0436】
図7Aは、カニクイザルT細胞株HSC-Fに対するIgG1-huCD3変異体IgG1-CD3-LFLEDA、IgG1-
huCD3-H3L1-LFLEDA、IgG1-huCD3-H3L3-LFLEDA、IgG1-huCD3-H1L1-LFLEDA、IgG1-huCD3-H1
L3-LFLEDA、IgG1-huCD3-H4L1-LFLEDA、およびIgG1-huCD3-H4L3-LFLEDAの結合が類似して
いたことを表している。陰性対照抗体IgG1-b12については結合が観察されなかった。
【0437】
図2Bは、二重特異性抗体変異体bsIgG1 CD3×HER2およびbsIgG1 huCD3-H3L1-LFLEDAもHS
C-F細胞に結合することを表している。これらの二重特異性抗体の最大結合値は単一特異
性抗CD3変異体の最大結合値より高い。二重特異性抗体のEC50濃度は単一特異性抗CD3抗体
のEC50濃度より10~12倍高かった。ここでも陰性対照抗体IgG1-b12については結合が観察
されなかった。
【0438】
図7Bは、二重特異性非活性化Fc抗体変異体bsIgG1 huCD3-H3L1×HER2-LFLEDA、bsIgG1-h
uCD3-H3L3×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L1×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L3×HER2-
LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H4L1×HER2-LFLEDA、およびbsIgG1-huCD3-H4L3×HER2-LFLEDAも、
HSC-F細胞に結合することを表している。これらの二重特異性抗体の最大結合値は単一特
異性抗CD3変異体の最大結合値より高い。二重特異性抗体のEC50濃度は単一特異性抗huCD3
抗体のEC50濃度より3~6倍高かった。ここでも陰性対照抗体IgG1-b12については結合が観
察されなかった。
【0439】
実施例3:ヒト化CD3抗体変異体によるT細胞活性化
CD69発現はT細胞活性化の初期マーカーである。CD3抗体は、T細胞が発現するCD3の結合
と、抗体のFc領域(例えばIgG1 Fc領域)による免疫細胞が発現するFc受容体の結合とに
よって、T細胞と免疫細胞との架橋を媒介しうる。これはT細胞活性化およびCD69の誘導に
つながりうる。非活性化Fc領域(LFLEDA変異)を含有する抗体変異体はFc受容体に結合し
ない。それゆえに、非活性化CD3抗体はT細胞活性化およびCD69発現を誘発しないと予想さ
れた。というのも、非活性化Fc領域はFc受容体を発現する免疫細胞に結合せず、したがっ
てT細胞と免疫細胞とを架橋することができないからである。
【0440】
Fc領域中にLFLEDA変異を持つヒト化CD3(huCD3)変異体およびFc領域中にLFLEDA変異を
持たないヒト化CD3(huCD3)変異体と共にインキュベートした後のT細胞の初期活性化を
決定するために、T細胞上のCD69発現をFACS解析によって評価した。LFLEDA変異体は、非
活性化変異に加えて、実施例1で述べたF405L変異またはK409R変異を含有する。
【0441】
Leucosepチューブ(番号227290;Greiner Bio-one、オランダ国アルフェン・アーン・デ
ン・レイン)を使った密度勾配分離によって全血またはバフィーコートからPBMCを単離し
、PBSで洗浄し、培養培地に再懸濁した。
【0442】
huCD3抗体変異体、陰性対照(IgG1-b12)および陽性対照(IgE-huCD3および親IgG1-CD3
)の用量応答系列を培養培地に調製し(10倍希釈で0.1~1,000ng/mLの範囲)、ヒトまた
はカニクイザルPBMCが入っている96ウェル丸底プレートのウェルに加えた。16~24時間の
インキュベーション後に、細胞を遠心分離によってペレット化し、上清(サイトカインを
含有している)を収集し、-20℃で保存した。次に、細胞をPBS/0.1%BSA/0.02%アジドで
洗浄し、カニクイザルのCD28およびCD69と交差反応するマウス抗ヒトCD28-PE(854.222.0
10;Sanquin、オランダ国アムステルダム;T細胞マーカー)およびマウス抗ヒトCD69-APC抗
体(340560;BD Biosciences、ニュージャージー州フランクリンレイクス)を使って、4℃
で30分間染色した。PBS/0.1%BSA/0.02%アジドで2回洗浄することによって未結合の抗体
を除去した。細胞を150μL/ウェルに再懸濁し、CD28陽性細胞上のCD69発現をFACS Canto
II(BD Biosciences)で測定した。
【0443】
図3は、野生型IgG1 Fc領域を持つIgG1-CD3(実施例1に記載するもの)とヒト化IgG1-hu
CD3変異体とが、ヒト由来(図3A)およびカニクイザル由来(図3B)のT細胞において、類
似するレベルのCD69発現を誘発したことを表している。非活性化(LFLEDA)IgG1-CD3-LFL
EDAおよびIgG1-huCD3-H3L1変異体は、ヒトT細胞において低レベルのCD69発現を誘発した
。カニクイザルT細胞では非活性化IgG1-huCD3変異体によって誘発されるCD69の発現はな
かった。対照抗体IgG1-b12も、ヒトT細胞およびカニクイザルT細胞において、CD69の発現
を誘導しなかった。
【0444】
図8は、非活性化(LFLEDA)IgG1-huCD3-H3L1-LFLEDA、IgG1-huCD3-H3L3-LFLEDA、IgG1-
3huCD3-H1L1-LFLEDA、IgG1-huCD3-H1L3-LFLEDA、IgG1-huCD3-H4L1-LFLEDA、およびIgG1-h
uCD3-H4L3-LFLEDA変異体が、ヒトT細胞において、低レベルのCD69発現を誘発したことを
表している。図8Aおよび8Bは、カニクイザル由来のT細胞におけるCD69発現の誘発を表し
ている。観察された非活性化変異体によるわずかな活性化は、CD3抗体の二価結合によるC
D3分子の架橋のせいかもしれない。この説明は、抗体結合が一価になる最高濃度では活性
化が低減するという観察結果によって裏付けられる。対照抗体IgG1-b12も、ヒトT細胞お
よびカニクイザルT細胞においてCD69の発現を誘発しなかった。
【0445】
図8Cおよび8Dは、非活性化二重特異性抗体変異体bsIgG1-huCD3-H3L1×HER2-LFLEDA、bs
IgG1-huCD3-H3L3×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L1×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L3
×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H4L1×HER2-LFLEDA、およびbsIgG1-huCD3-H4L3×HER2-LFL
EDAが、ヒト(図8C)またはカニクイザル(図8D)由来のT細胞におけるCD69の発現を誘発
しないことを表している。ただし、さらに高い抗体濃度では、CD69発現の多少の誘発が観
察された。
【0446】
実施例4:ヒト化CD3抗体変異体によって誘発されるT細胞増殖
ヒトおよびカニクイザルT細胞の増殖に対するヒト化CD3(huCD3)抗体変異体(実施例1
に記載したもの)の効果を、Roche Applied Scienceの細胞増殖ELISAキット(Cell Proli
feration ELISA, BrdUキット、番号11647229001;Roche Applied Science、ドイツ国マン
ハイム)によって評価した。評価は製造者の説明書に従って行った。
【0447】
全血またはバフィーコートから単離したヒトまたはカニクイザルPBMCを、96ウェル培養
プレート中で、IgG1 huCD3抗体変異体の希釈系列(10倍希釈で0.1~1,000ng/mLの範囲)
と共にインキュベートした。IgE-CD3およびIgG1-huCLB-T3/4を陽性対照として含め、IgG1
-b12を陰性対照として含めた。抗体と共に3日間インキュベートした後、BrdU(Roche App
lied Science、ドイツ国マンハイム)を培地に加え、プレートを5時間インキュベートし
た。次に、細胞を遠心分離によってペレット化し、上清を収集し、-20℃で保存した。プ
レートを乾燥し、ELISAを行うまで4℃で保存した。
【0448】
DNAへのBrdUの取り込みは、製造者の説明書(Roche Applied Science)に従ってELISA
によって決定した。細胞をプレートに固定した後、ペルオキシダーゼとコンジュゲートさ
れた抗BrdU抗体と共に、プレートを室温で90分間インキュベートした。プレートをPBSTで
洗浄し、(キットと共に提供されるTMB溶液ではなく)ABTS緩衝液を使って、結合を検出
した。30分後にウェルに2%シュウ酸を加えることによって発色を停止した。次にEL808 E
LISAリーダーでOD405nmを測定した。
【0449】
図4は、PBMCを親IgG1-CD3および野生型IgG1 Fc領域を持つヒト化IgG1-huCD3変異体と共
にインキュベートすると、極めて低い抗体濃度でさえ、ヒトT細胞(図4A)およびカニク
イザルT細胞(図4B)の強い増殖が誘発されたことを表している。IgG1-huCD3抗体の非活
性化LFLEDA変異体と共にインキュベートしても、ヒトT細胞(図4Aおよび9A)およびカニ
クイザルT細胞(図4Bおよび9B)の増殖は誘発されなかった。したがって、IgG1-huCD3抗
体の非活性化変異体は、(実施例3に示すように)ヒトT細胞において低レベルのCD69発現
を誘発したが、これらの非活性化IgG1-huCD3変異体ではヒトT細胞の増殖は誘発されなか
った。
【0450】
図9Cおよび9Dは、非活性化二重特異性抗体変異体bsIgG1-huCD3-H3L1×HER2-LFLEDA、bs
IgG1-huCD3-H3L3×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L1×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L3
×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H4L1×HER2-LFLEDA、およびbsIgG1-huCD3-H4L3×HER2-LFL
EDAが、ヒト(図9C)およびカニクイザル(図9D)から単離されたT細胞の増殖を誘発しな
いことを表している。
【0451】
実施例5:ヒト化CD3抗体変異体によって誘発されるインビトロT細胞媒介性細胞傷害
腫瘍特異的T細胞性細胞傷害は、一方のアームでCD3に結合し、他方のアームでHER2など
の腫瘍特異的ターゲットに結合する二重特異性抗体によって媒介することができる。二重
特異性抗体がT細胞と腫瘍細胞の両方に同時に結合すれば、T細胞活性化と腫瘍細胞特異的
細胞傷害につながるであろう。この実施例では、HER2陽性腫瘍細胞に対するT細胞媒介性
細胞傷害を、CD3(ヒト化変異体)とHER2に対する二重特異性抗体を使って評価した。
【0452】
そこで、10%(vol/vol)熱失活CCS、1.5g/L炭酸水素ナトリウム(Lonza)、1mMピルビ
ン酸ナトリウム、4.5g/Lグルコース(Sigma)、50IU/mLペニシリン、および50μg/mLスト
レプトマイシンを補足したRPMI1640中で、AU565(ヒト乳癌)細胞を培養した。細胞株を5
%(vol/vol)CO2湿潤インキュベータ中で37℃に維持した。AU565細胞をほぼコンフルエ
ントまで培養した後、細胞をトリプシン処理し、培養培地中に再懸濁し、セルストレーナ
ーに通すことで、単細胞懸濁液を得た。96ウェル培養プレートの各ウェルに5×104細胞を
播種し、細胞を37℃、5%CO2で少なくとも3時間インキュベートすることで、プレートに
接着させた。
【0453】
ヒトまたはカニクイザルPBMCを全血またはバフィーコートから単離した。単離されたPB
MCをPBSで洗浄し、培養培地中に再懸濁し、96ウェルプレート中のAU565腫瘍細胞に1:1の
比で加えた。カニクイザルCD3と交差反応するマウス抗ヒトCD3-PerCP(BD、番号345766)
抗体(T細胞染色用)を使って、FACS解析により、PBMC中に存在するT細胞のパーセンテー
ジを測定した。使用したPBMC集団中のT細胞含量は典型的には50~60%であった。
【0454】
二重特異性抗体変異体bsIgG1 CD3×HER2-LFLEDA、bsIgG1 CD3×b12-LFLEDA、bsIgG1 hu
CD3-H3L1×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H3L3×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L1×HER2-L
FLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L3×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H4L1×HER2-LFLEDA、およびbsI
gG1-huCD3-H4L3×HER2-LFLEDAの希釈系列(0.001ng/mLから10,000ng/mLまでの範囲の最終
濃度)を培養培地中に調製し、プレートに加えた。IgG1-HER2-LFLEDAおよびIgG1-b12を対
照として含めた。LFLEDA抗体変異体は、非活性化変異に加えて、二重特異性フォーマット
で調製するためのF405L変異またはK409R変異を含有している(実施例1参照)。プレート
を37℃、5%CO2で3日間インキュベートした。100%腫瘍細胞死滅の基準として、細胞を1
μMスタウロスポリン(番号S6942-200、Sigma)と共にインキュベートした。プレートをP
BSで2回洗浄し、10%アラマーブルーを含有する150μLの培養培地を各ウェルに加えた。
プレートを37℃、5%CO2で4時間インキュベートした。590nmにおける吸光度を測定した(
Envision、Perkin Elmer、マサチューセッツ州ウォルサム)。
【0455】
二重特異性CD3×HER2-LFLEDA抗体変異体(bsIgG1-huCLB-T3/4×HER2-LFLEDAおよびbsIg
G1-CD3×HER2-LFLEDA)は、低濃度で、ヒトエフェクター細胞(図5A)またはカニクイザ
ルエフェクター細胞(図5B)を使ったAU565細胞の死滅を誘発した。カニクイザルCD3との
交差反応性を示さないCD3二重特異性対照抗体huCLB-T3/4×HER2-LFLEDAは、ヒトPBMCを使
用した場合にのみ、AU565細胞の死滅を誘発した(図5A)。したがって、カニクイザルエ
フェクター細胞をアッセイに使用した場合には、ターゲット細胞の死滅は観察されなかっ
た(図5B)。単一特異性IGG1-b12またはIgG1-HER2-LFLEDAまたはbsIgG1-CD3×b12-LFLEDA
抗体とのインキュベーションは、ターゲット細胞の非特異的死滅を誘発しなかった。
【0456】
二重特異性抗体変異体bsIgG1 huCD3-H3L1×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H3L3×HER2-LF
LEDA、bsIgG1-huCD3-H1L1×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L3×HER2-LFLEDA、bsIgG1-huC
D3-H4L1×HER2-LFLEDA、およびbsIgG1-huCD3-H4L3×HER2-LFLEDAは、ヒトエフェクター細
胞(図10A)またはカニクイザルエフェクター細胞(図10B)を使ったAU565細胞の死滅を
、低濃度で誘発した。単一特異性IgG1-b12またはIgG1-HER2-LFLEDA抗体とのインキュベー
ションは、非特異的ターゲット細胞死滅を誘導しなかった(図10AおよびB)。このように
非活性化Fc領域を含むヒト化CD3変異体は、非特異的ターゲット細胞死滅を誘発しない。
これは、標的T細胞活性化を保証し、よって非標的T細胞活性化を回避するために、非活性
化Fc領域を含む変異体を使用できることを示している。
【0457】
実施例6:ヒト化CD3抗体変異体によるアカゲザルT細胞の活性化
野生型IgG1 Fc領域を持つヒト化CD3(huCD3)抗体変異体と共にインキュベートした後
のT細胞の初期活性化を決定するために、アカゲザルT細胞上のCD69発現を評価した。アカ
ゲザルPBMCの単離と、フローサイトメトリーによるCD69発現の評価は、実施例3で述べた
ように行った。
【0458】
図11は、ヒト化CD3抗体変異体IgG1-huCD3-H1L1、IgG1-huCD3-H1L2、IgG1-huCD3-H1L3、
IgG1-huCD3-H3L3、およびIgG1-huCD3-H4L1が、アカゲザル由来のT細胞におけるCD69発現
を、IgG1-CD3(実施例1に記載したもの)と同じレベルまで誘発したことを表している。
陰性対照抗体IgG1-b12はアカゲザルT細胞におけるCD69の発現を誘発しなかった。したが
って本発明のhuCD3変異体は、アカゲザルCD3を使った実験に使用することができる。huCD
3変異体はアカゲザルCD3と交差反応する。
【0459】
実施例7:huCLB-T3/4の非活性化変異体によるT細胞活性化
Fc領域に変異を持つIgG1-huCLB-T3/4変異体(実施例1参照)と共にインキュベートした
後のT細胞の初期活性化を決定するために、T細胞上のCD69発現をFACS解析によって評価し
た。
【0460】
Leucosepチューブ(番号227290;Greiner Bio-one、オランダ国アルフェン・アーン・デ
ン・レイン)を使った密度勾配分離によって全血またはバフィーコートからPBMCを単離し
、PBSで洗浄し、培養培地に再懸濁した。
【0461】
IgG1-huCLB-T3/4変異体、陰性対照(IgG1-huCLB-T3/4-Fab)および陽性対照(IgE-huCL
B-T3/4)の用量応答系列を培養培地に調製し(3倍希釈で1~1,000ng/mLの範囲)、PBMCが
入っている96ウェル丸底プレートのウェルに加えた。16~24時間のインキュベーション後
に、細胞を遠心分離によってペレット化し、上清(サイトカインを含有している)を収集
し、-20℃で保存した。次に、細胞をPBS/0.1%BSA/0.02%アジドで洗浄し、マウス抗ヒト
CD28-PE(854.222.010;Sanquin、オランダ国アムステルダム;T細胞マーカー)およびマウ
ス抗ヒトCD69-APC抗体(340560;BD Biosciences、ニュージャージー州フランクリンレイ
クス)を使って、4℃で30分間染色した。PBS/0.1%BSA/0.02%アジドで2回洗浄すること
によって未結合の抗体を除去した。細胞を150μL/ウェルに再懸濁し、CD28陽性細胞上のC
D69発現をFACS Canto II(BD Biosciences)で測定した。
【0462】
図12Aは、IgE-huCLB-T3/4、IgG1-huCLB-T3/4、IgG1-huCLB-T3/4-DAおよびIgG1-huCLB-T
3/4-DAPSと共にインキュベートした細胞では、CD69発現量が高かったことを表している。
IgG1-huCLB-T3/4-N297Qと共にインキュベートすると、野生型IgG1-huCLB-T3/4と比較して
いくらか低い発現レベルのCD69が誘導され、IgG1-huCLB-T3/4-LFLEおよびIgG1-huCLB-T3/
4-LFLEPSと共にインキュベートした場合のCD69の誘導はさらに低かった。PBMCをIgG1-CD3
Fab、IgG1-huCLB-T3/4-LFLEDA、IgG1-huCLB-T3/4-LFLENQ、IgG1-huCLB-T3/4-DANQおよび
IgG1-huCLB-T3/4-LFLEDANQPS抗体と共にインキュベートしても、T細胞上でのCD69の発現
は一切誘発されなかった。
【0463】
図12Bは、IgE-huCLB-T3/4およびIgG1-huCLB-T3/4と共にインキュベートした細胞ではCD
69発現量が高かったことを表している。IgG1-huCLB-T3/4-LALAと共にインキュベートする
と、野生型IgG1-huCLB-T3/4と比較していくらか低い発現レベルのCD69が誘導され、IgG1-
huCLB-T3/4-LFLEDAおよびIgG1-b12(陰性対照)と共にインキュベートしても、T細胞上で
のCD69の発現は一切誘発されなかった。
【0464】
実施例8:huCLB-T3/4の非活性化変異体によるT細胞増殖
T細胞の増殖に対するhuCLB-T3/4変異体(実施例1に記載したもの)の効果を、Roche Ap
plied Scienceの細胞増殖ELISAキット(Cell Proliferation ELISA, BrdUキット、番号11
647229001;Roche Applied Science、ドイツ国マンハイム)によって評価した。評価は製
造者の説明書に従って行った。
【0465】
全血またはバフィーコートから単離したPBMCを、96ウェル培養プレート中で、IgG1-CD3
変異体の希釈系列(0.1~1,000ng/mLの範囲)と共にインキュベートした。IgE-CD3および
IgG1-CD3を陽性対照として含め、IgG1-b12(二重特異性抗体を作製するためのK409R変異
を持つもの)を陰性対照として含めた。抗体と共に3日間インキュベートした後、BrdU(R
oche Applied Science、ドイツ国マンハイム)を培地に加え、プレートを5時間インキュ
ベートした。次に、細胞を遠心分離によってペレット化し、上清を収集し、-20℃で保存
した。プレートを乾燥し、ELISAを行うまで4℃で保存した。
【0466】
DNAへのBrdUの取り込みは、製造者の説明書(Cell Proliferation ELISA, BrdUキット
、番号11647229001;Roche Applied Science)に従ってELISAによって決定した。細胞をプ
レートに固定した後、ペルオキシダーゼとコンジュゲートされた抗BrdU抗体と共に、プレ
ートを室温(RT)で90分間インキュベートした。プレートをPBSTで洗浄し、(キットと共
に提供されるTMB溶液ではなく)ABTS緩衝液を使って、結合を検出した。30分後にウェル
に2%シュウ酸を加えることによって発色を停止した。次にEL808 ELISAリーダーでOD405n
mを測定した。
【0467】
図13Aは、PBMCをIgG1-huCLB-T3/4、IgG1-huCLB-T3/4-DAおよびIgG1-huCLB-T3/4-DAPSと
共にインキュベートすると、極めて低い抗体濃度でさえ、強いT細胞増殖が誘発されたこ
とを表している。IgG1-huCLB-T3/4-N297Qとのインキュベーションは、IgE-huCLB-T3/4陽
性対照に匹敵する用量依存的増殖を誘発した。PBMCをIgG1-huCLB-T3/4-Fab、IgG1-b12-N2
97Q、IgG1-huCLB-T3/4-LFLE、IgG1-huCLB-T3/4-LFLEDA、IgG1-huCLB-T3/4-LFLENQ、IgG1-
huCLB-T3/4-LFLEPS、IgG1-huCLB-T3/4-DANQおよびIgG1-huCLB-T3/4-LFLEDANQPS抗体と共
にインキュベートしても、T細胞の増殖は誘発されなかった。
【0468】
図13Bは、PBMCをIgG1-huCLB-T3/4と共にインキュベートすると、極めて低い抗体濃度で
さえ、強いT細胞増殖が誘発されたことを表している。IgE-huCLB-T3/4(陽性対照)およ
びIgG1-huCLB-T3/4-LALAとのインキュベーションは、用量依存的増殖を誘発した。PBMCを
IgG1-huCLB-T3/4-LFLEDAと共にインキュベートしても、T細胞の増殖は誘発されなかった
【0469】
実施例7および8の結果に基づいて、活性化の程度が最も小さいと考えられるミュータン
トの部分集合を、さらなる解析に付した。
【0470】
実施例9:非活性化抗体変異体huCLB-T3/4によって誘発されるインビトロT細胞媒介性細胞
傷害
10%(vol/vol)熱失活CCS、1.5g/L炭酸水素ナトリウム(Lonza)、1mMピルビン酸ナト
リウム、4.5g/Lグルコース(Sigma)、50IU/mLペニシリン、および50μg/mLストレプトマ
イシンを補足したRPMI1640中でAU565(ヒト乳癌)細胞を培養した。細胞株を5%(vol/vo
l)CO2湿潤インキュベータ中で37℃に維持した。AU565細胞をほぼコンフルエントまで培
養した。細胞をトリプシン処理し、培養培地中に再懸濁し、セルストレーナーに通すこと
で、単細胞懸濁液を得た。96ウェル培養プレートの各ウェルに5×104細胞を播種し、細胞
を37℃、5%CO2で少なくとも3時間インキュベートすることで、プレートに接着させた。
【0471】
末梢血単核球(PBMC)を、健常ボランティアの血液から、Leucosep 30mLチューブを使
用し、製造者のプロトコール(Greiner Bio-one)に従って単離した。単離されたPBMCをP
BSで洗浄し、培養培地中に再懸濁し、96ウェルプレート中のAU565腫瘍細胞に1:1の比で
加えた。マウス抗ヒトCD3-PerCP(BD、番号345766)抗体(T細胞染色用)を使って、FACS
解析により、PBMC中に存在するT細胞のパーセンテージを測定した。使用したPBMC集団中
のT細胞含量は典型的には50~60%であった。
【0472】
異なるFc変異体、野生型、N297Q、LFLE、LALA、LFLENQ、LFLEDA、DANQ、およびLFLEDEN
QPSとして発現させたIgG1-b12、IgG1-huCLB-T3/4、IgG1-HER2、および二重特異性huCLB-T
3/4×b12およびhuCLB-T3/4×HER2抗体の希釈系列(0.004ng/mLから1000ng/mLまでの範囲
の最終濃度)を培養培地中に調製し、プレートに加えた。プレートを37℃、5%CO2で3日
間インキュベートした。100%腫瘍細胞死滅の基準として、細胞を1μMスタウロスポリン
(番号S6942-200、Sigma)と共にインキュベートした。インキュベーション後に、上清を
取り出し、-20℃で保存した。プレートをPBSで2回洗浄し、10%アラマーブルーを含有す
る150μLの培養培地を各ウェルに加えた。プレートを37℃、5%CO2で4時間インキュベー
トした。590nmにおける吸光度を測定した(Envision、Perkin Elmer、マサチューセッツ
州ウォルサム)。
【0473】
異なるドナーからのPBMCを使って2回の実験を行った。第1の実験では、Fc変異体N297Q
、LFLE、LFLENQ、LFLEDA、DANQ、およびLFLEDANQPSを試験した(図14A~G)。第2の実験
では、Fc変異体LFLEDAおよびLALAを試験した(図15A~C)。どちらの実験にも参照として
野生型Fcドメインを持つ抗体を含めた。野生型単一特異性IgG1-huCLB-T3/4または二重特
異性huCLB-T3/4×b12抗体とのインキュベーションは、ターゲット細胞の非特異的死滅を
誘発した(図14A~Gおよび15A~C)。単一特異性IgG1-huCLB-T3/4ならびにbsIgG1-huCLB-
T3/4×b12変異体N297Q(図14A~G)およびLALA(図15A~C)は依然として多少の非特異的
ターゲット細胞死滅を誘発したが、同じ実験で試験した野生型抗体と比べると、その程度
は低かった。非活性化変異を持つ試験した他のIgG1-huCLB-T3/4またはbsIgG1-huCLB-T3/4
×b12抗体のいずれでも、非特異的ターゲット細胞死滅は誘発されなかった(図14A~Gお
よび15A~C)。
【0474】
全ての二重特異性huCLB-T3/4×HER2抗体が、AU565細胞の用量依存的死滅を、非活性化
変異を持たない野生型二重特異性huCLB-T3/4×HER2抗体と比較して少なくとも匹敵する効
力で誘発した(図14A~Gおよび15A~C)。最大死滅は極めて低い濃度で起こった。
【0475】
単一特異性b12またはHER2抗体の野生型または非活性化変異体では、細胞傷害は誘発さ
れず(図14A~Gおよび15A~C)、それは予期したとおりであった。
【0476】
実施例10:huCLB-T3/4の非活性化抗体変異体に対するC1qの結合の評価
C1qとターゲット細胞に結合した抗体との相互作用は、補体活性化の古典経路における
第1段階である。野生型IgG1はC1qに対する相互作用部位を内包しているので、ELISAによ
るこれらの非活性化IgG1変異体に対するC1qの相互作用を評価した。
【0477】
IgG1-huCLB-T3/4、bsIgG1-huCLB-T3/4×HER2およびIgG1-CD20(陽性対照)ならびに上
記実施例1で述べたその非活性化抗体変異体の希釈系列(4倍希釈で7~30,000ng/mLの範囲
)を、96ウェルMicrolon ELISAプレート(ドイツ国グライナー)に、4℃で終夜コーティ
ングした。プレートを洗浄し、0.025%Tween 20および0.1%ゼラチンを補足したPBSでブ
ロッキングした。インキュベーション間に洗浄しながら、プレートを、3%プールヒト血
清(Sanquin、製品番号M0008)と共に37℃で1時間、100μL/ウェルのウサギ抗ヒトC1q(D
AKO、製品番号A0136、1/4,000)と共に室温で1時間、そして検出抗体としての100μL/ウ
ェルのブタ抗ウサギIgG-HRP(DAKO、P0399、1:10,000)と共に室温で1時間、逐次インキ
ュベートした。検出は、約30分間、1mg/mLの2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリ
ン-6-スルホン酸)(ABTS;Roche、ドイツ国マンハイム)を添加することによって行った
。100μLの2%シュウ酸を添加することによって反応を停止した。マイクロプレートリー
ダー(Biotek、バーモント州ウィヌースキ)で405nmにおける吸光度を測定した。対数変
換したデータをGraphPad Prismソフトウェアを使って傾き可変のシグモイド用量応答曲線
に当てはめることによって解析した。
【0478】
図16Aは、野生型IgG1 Fc領域を持つ抗体IgG1-CD20およびIgG1-huCLB-T3/4がC1q結合を
示したことを表している。評価した非活性化変異(N297Q、LFLE、LFLENQ、LFLEDA、DA、D
APS、DANQ、LFLEPS、LFLEDANQPS、LALA)を持つ抗体変異体ではいずれも、C1qの結合が検
出されなかった。
【0479】
図16Bは、野生型IgG1 Fc領域を持つ抗体bsIgG1-huCLB-T3/4×HER2がC1q結合を示したこ
とを表している。評価した非活性化変異(N297Q、LFLE、LFLENQ、LFLEDA、DA、DAPS、DAN
Q、LFLEPS、LFLEDANQPS、LALA)を持つ抗体変異体ではいずれも、C1qの結合が検出されな
かった。
【0480】
図16Cおよび図16Dは、野生型IgG1 Fc領域を持つ抗体IgG1-CD20、IgG1-huCLB-T3/4、お
よびbsIgG1-huCLB-T3/4×HER2がC1q結合を示したことを表している。非活性化変異(LFLE
DAおよびLALA)を持つ抗体変異体ではC1qの結合が検出されなかった。
【0481】
実施例11:非活性化抗体変異体の薬物動態(PK)解析
この研究ではマウスをCentral Laboratory Animal Facility(オランダ国ユトレヒト)
のバリアユニット(barrier unit)で飼育し、フィルタトップケージに入れて水および食
物を自由摂取させた。実験は全てユトレヒト大学動物倫理委員会の承認を受けた。1群あ
たり3匹のマウスを使って、7~10週齢のC.B-17SCIDマウス(C.B-17/Icr-Prkdc<Scid>/Icr
IcoCrl、Charles-River)に、100μgの野生型抗体(IgG1-huCLB-T3/4、IgG1-HER2、また
はbsIgG-huCLB-T3/4×HER2)またはその非活性化変異体(LALA、LFLEDA、LFLENQ、DANQま
たはLFLEDANQPS)を静脈内注射した。抗体投与の10分、4時間、1日、2日、7日、14日およ
び21日後に伏在静脈から50μLの血液試料を収集した。血液はヘパリン含有バイアル中に
収集し、10,000×gで5分間遠心分離した。抗体濃度を決定するまで、血漿を-20℃で保存
した。
【0482】
総hIgGサンドイッチELISAを使ってヒトIgG濃度を決定した。このアッセイのために、96
ウェルMicrolon ELISAプレート(Greiner、ドイツ)に2μg/mLの濃度でコーティングした
マウスmAb抗ヒトIgG-カッパクローンMH16(番号M1268、CLB Sanquin、オランダ)を捕捉
抗体として使用した。0.2%ウシ血清アルブミンを補足したPBSでプレートをブロッキング
した後、ELISA緩衝液(0.05%Tween 20および0.2%ウシ血清アルブミンを補足したPBS)
で連続希釈した試料を加え、プレート振とう器上、室温(RT)で1時間インキュベートし
た。次にプレートをヤギ抗ヒトIgG免疫グロブリン(番号109-035-098、Jackson、ペンシ
ルベニア州ウエストグレース)と共にインキュベートし、2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベ
ンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS;Roche、ドイツ国マンハイム)で発色させた。ウ
ェルに2%シュウ酸を加えることによって反応を30分後に停止した。マイクロプレートリ
ーダー(Biotek、バーモント州ウィヌースキ)で405nmにおける吸光度を測定した。
【0483】
血漿クリアランス率(mL/日/kg)は、以下の等式に従い、曲線下面積(AUC)に基づい
て計算した。
【0484】
データ解析はGraphpad prismソフトウェアを使って行った。
【0485】
図17Aは、野生型抗体と比べると抗体変異体N297Q、DANQ、LFLENQ、およびLFLEDANQPSの
方が血漿中ヒトIgG濃度が低く、より迅速なクリアランスが示唆されたことを表している
。抗体変異体LFLEDAおよびLALAについては血漿中のヒトIgG濃度が野生型抗体と類似して
いた。
【0486】
図17Bは、抗体変異体N297Q、DANQおよびLFLENQの血漿クリアランス率が野生型抗体のク
リアランス率より2~3倍高かったことを表している。抗体変異体LFLEDANQPSのクリアラン
ス率は野生型抗体のクリアランス率より3~5倍高かった。抗体変異体LFLEDAおよびLALAの
血漿クリアランス率は野生型抗体のクリアランス率と類似していた。
【0487】
実施例12:IgG1-LFLEDAバックボーンのインビトロ免疫原性評価
IgG1-LFLEDA-K409Rバックボーンの臨床的免疫原性の潜在力を決定するために、Antitop
eのEpiScreen(商標)プラットフォームをIgG1-HER2-LFLEDAに応用した。簡単に述べると
、欧州および北アメリカの母集団を代表する50人のHLA型判定した健常ドナーのコホート
から、PBMCを単離した。CD8+ T細胞枯渇後に、PBMC調製物を個別に凍結し保存した。次に
、融解したPBMCを培養し、IgG1-HER2-LFLEDA-K409Rまたは対照試料の一つ(IgG1-HER2ま
たはIgG1-HER2-LFLE-K409R)と共に5~8日間培養した。CD4+ T細胞応答を誘発する試料の
能力を、細胞増殖([3H]-チミジン取り込み)およびIL-2生産(ELISpotアッセイ)によ
って評価した。どちらのアッセイでも刺激指数(SI;シグナル/ベースラインシグナル)≧
1.9の応答を示したドナーを陽性とみなした。
【0488】
EpiScreen(商標)解析により、IgG1-HER2-LFLEDAの場合は4人のドナー(8%)が陽性C
D4+ T細胞応答を示し、これはIgG1-HER2およびIgG1-HER2-LFLEに関するそれぞれ4例(8%
)および3例(6%)の陽性応答に匹敵することがわかった(図18)。したがってIgG1-HER
2-LFLEDA-K409R(ならびにIgG1-HER2およびIgG1-HER2-LFLE-K409R)は、免疫原性に関し
て低い潜在力を示し、応答頻度は10%未満であった。陽性対照ヒト化A33(例えば[84]
)を臨床的ベンチマーク対照抗体として使用した。このヒト化A33は、臨床では高レベル
の免疫原性を示し、EpiScreenアッセイでは通例、20~30%のT細胞応答を誘発する。
【0489】
実施例13:ヒト化CD3抗体の生産を最適化するためのミュータントの作製
huCD3-L1ミュータントプラスミドの作製
一過性トランスフェクションアッセイにおけるIgG1-huCD3-H1L1の発現レベルを改良す
るために、いくつかのIgG1-huCD3-L1 LCミュータントを作製した。表2を参照されたい。
残基の選択は、生殖細胞系配列との比較、または、相同抗体の結晶構造と組み合わせたhu
CD3-L1中のまれな残基の存在のスクリーニングに基づいた。選択した配列を、GeneArt(L
ife Technologies、ドイツ国)で合成した。p33Lは、SEQ ID NO:31のヒトIgLC2/IgLC3ラ
ムダ軽鎖の定常ドメインをコードする。p33G1fは、SEQ ID NO:15のIgG1m(f)重鎖定常領域
をコードする。
【0490】
【表2】
【0491】
Expi293F細胞における一過性発現
単一抗体については、重鎖(HC)および軽鎖(LC)をコードするプラスミドを、ExpiFe
ctamine 293(Life technologies)を使ってFreestyle Expi293F細胞(Life technologie
s、米国)に一過性にトランスフェクトした。全部で1.5μgのHCをコードするプラスミド
および1.5μgのLCをコードするプラスミド(表2)を、150μL Opti-MEM(Gibco、米国)
中に希釈した。トランスフェクションミックスを調製するために、8μL ExpiFectamine
293を150μL Opti-MEM中に希釈して、5分間室温でインキュベートした。次に、DNA/Opti-
MEM溶液とExpiFectamine 293/Opti-MEM溶液とを混合し、20分間室温でインキュベートし
て、7.5×106 Expi293F細胞および50 U/mL Pen-Strepを含有する2.55 mL Expi293 Expres
sion Mediumに加えた。細胞を、37℃、8% CO2でインキュベートし、200 rpmで振とうし
た。発現を増強するために、トランスフェクションの21時間後に、15μLのエンハンサー
ミックス1と150μLのエンハンサーミックス2を加えた。細胞を4日間インキュベートし、
その後上清を採取した。上清を、3,000×gでスピンし、0.2μmフィルタを通してフィルタ
滅菌した。IgG発現レベルを、抗ヒトIgGセンサー(ForteBio、米国)を使ってOctet RED
(ForteBio、米国)で測定した。
【0492】
IgG濃度解析
列挙するすべてのミュータントについて、IgG発現レベルを、個別にまたは組み合わせ
で測定した。図20は、表2に列挙する発現させた抗体のパネルについて、上清中の測定し
たIgG発現レベルを示す。IgG1-huCD3-H1L1抗体は、72μg/mLまで発現した。IgG発現の4倍
の増加が、IgG1-huCD3-H1L1-LT41Kミュータントについて観察された(295μg/mL)。同様
の発現レベルが、他の変異の中で、T41K変異を含むIgG1-huCD3-H1L1-LLKNHミュータント
について観察された(311μg/mL)。これらのコンストラクトにおける他の変異は、個別
に試験した場合に(IgG1-huCD3-H1L1-LF10L、IgG1-huCD3-H1L1-LK55N、IgG1-huCD3-H1L1-
LL97H)、IgG1-huCD3-H1L1と比較して発現増強を示さなかった。
【0493】
発現を増強する変異の第2のセットは、R23AおよびA35Pの組み合わせについて観察され
た。R23AおよびA35Pを欠如するIgG1-huCD3-H1L1-LLTGPEAEYフォーマットは、増強された
発現を示さなかった(83μg/mL)が、追加のR23AおよびA35P変異を含有するIgG1-huCD3-H
1L1-LLAPTGPEAEYは、3倍の発現の増加を示した(237μg/mL)。個別には、R23AまたはA35
Pは、増強された発現レベルを示さなかった(それぞれ、56および81μg/mL)。
【0494】
実施例14:Jurkat細胞に対するhuCD3-H1L1-LFLEDA変異体の結合
Jurkat細胞に対するhuCD3-H1L1-LFLEDA変異体の見かけの結合アフィニティーを、試験
した。US2012038219に開示されているIgG1-CD3-hmAb286を、参照抗体として使用した。
【0495】
Jurkat細胞(DSMZ、ドイツ国ブラウンシュヴァイク)を37℃で融解し、30 mL PBS中で1
回洗浄して、300×g、4℃で10分間スピンした。細胞ペレットを、25 mLのPBS/0.1% BSA/
0.02% アジド中に、0.8×106細胞/mLの最終濃度で再懸濁した。この細胞懸濁液の100μL
(0.8×105細胞/ウェル)を、ポリスチレン96ウェル丸底プレート(Greiner Bio-one、オ
ランダ国アルフェン・アーン・デン・レイン)に移し、PBS/0.1% BSA/0.02%アジド中の
上清調製物の連続希釈液(3倍希釈で3~10,000 ng/mLの範囲)と共に、4℃で30分間イン
キュベートした。PBS/0.1% BSA/0.02%アジド中で3回洗浄した後、Jurkat細胞を、50μL
中で二次抗体と共に4℃で30分間インキュベートした。全ての実験に二次抗体として、PBS
/0.1% BSA/0.02%アジド中に1/200希釈したR-フィコエリトリン(PE)コンジュゲートヤ
ギ抗ヒトIgG F(ab')2(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.、ペンシルベニア
州ウエストグローブ)を使用した。次に、Jurkat細胞を、PBS/0.1% BSA/0.02%アジド中
で2回洗浄し、150μL PBS/0.1% BSA/0.02%アジド中に再懸濁して、FACS Cantoll(BD B
iosciences)で解析した。GraphPad Prism V5.04ソフトウェア(GraphPad Software、米
国カリフォルニア州サンディエゴ)を使って非線形回帰(傾き可変のシグモイド用量応答
)で結合曲線を解析した。
【0496】
図21は結合曲線を示し、表3はIgG1-huCD3-H1L1-LFLEDAミュータントのEC50値を示す。T
41K変異は、結合アフィニティーに対して影響を及ぼさなかったが、K55NおよびLKNHミュ
ータントは、野生型IgG1-huCD3-H1L1-LFLEDAと比較して5倍低い見かけのアフィニティー
を示した。参照抗体IgG1-CD3-hmAb286-LFLEDAのアフィニティーは、IgG1-huCD3-H1L1-LFL
EDAと比較してより低く、K55N変異を含有するIgG1-huCD3-H1L1-LFLEDA変異体と類似して
いた。
【0497】
【表3】
【0498】
実施例15:T細胞に対する二重特異性huCD3×HER2アフィニティー変異体の結合
Fc領域中にLFLEDA変異を有するかまたは有さない二重特異性(bs)IgG1-huCD3×HER2分
子の精製したアフィニティー変異体の、バフィーコート(ドナー番号:N001814268806、S
anquin、オランダ国アムステルダムより購入)から単離したヒトT細胞に対する結合を、F
ACS解析により解析した。T細胞は、StemSep(商標)Human T cell Enrichment Kit(Stem
Cell Technologies、カナダ国バンクーバー)により、提供者の説明書にしたがって単離
した。ハーセプチン-LbH1-変異を、Bostrom et al.(85, 86)の公開されたデータから同
定し、これは、HER2に対してハーセプチン(トラスツズマブ)と比較してより低いアフィ
ニティーを有していた。
【0499】
結合を評価するために、単離したT細胞(1×105細胞/ウェル)を、ポリスチレン96ウェ
ル丸底プレート(Greiner bio-one 650101)において、100μL PBS/0.1% BSA/0.02%ア
ジド中の抗体調製物の連続希釈液(5倍希釈で6.4~10,000 ng/mLの範囲)と共に、4℃で3
0分間インキュベートした。PBS/0.1% BSA/0.02%アジド中で2回洗浄した後、T細胞を、5
0μL中で二次抗体と共に4℃で30分間インキュベートした。全ての実験に二次抗体として
、PBS/0.1% BSA/0.02%アジド中に1/200希釈したR-フィコエリトリン(PE)コンジュゲ
ートヤギ抗ヒトIgG F(ab')2(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.、ペンシル
ベニア州ウエストグローブ)を使用した。次に、T細胞を、PBS/0.1% BSA/0.02%アジド
中で2回洗浄し、100μL PBS/0.1% BSA/0.02%アジド中に再懸濁して、FACS Cantoll(BD
Biosciences)で解析した。GraphPad Prism V5.04ソフトウェア(GraphPad Software、
米国カリフォルニア州サンディエゴ)を使って非線形回帰(傾き可変のシグモイド用量応
答)で結合曲線を解析した。
【0500】
結合曲線の結果を図22に示し、EC50値を表4に示す。見られうるように、CD3変異体のEC
50値間の最大の差は、2倍である。
【0501】
【表4】
【0502】
実施例16:huCD3抗体アフィニティー変異体によって誘発されるインビトロT細胞媒介性細
胞傷害
本実施例においては、HER2陽性腫瘍細胞に対するT細胞媒介性細胞傷害を、huCD3および
HER2に対して異なるアフィニティーを有する二重特異性抗体を使って評価した。二重特異
性抗体は、上記のように調製し、CD3アーム中にF405L変異を、HER2アーム中にK409R変異
を含有していた。異なるHER2発現レベルを有するA431およびAU565(ヒト乳癌)細胞を、
このアッセイにおいて使用した。HER2コピー数は、A431細胞は約20,000、AU565細胞は約1
,000,000である。AU565細胞を、10%(vol/vol)の鉄を含むウシ血清(Life Technologie
s、ドイツ国)、1.5 g/L炭酸水素ナトリウム(Lonza、ドイツ国)、1 mMピルビン酸ナト
リウム(Lonza、ドイツ国)、4.5 g/Lグルコース(Sigma)、50 IU/mLペニシリン、およ
び50μg/mLストレプトマイシン(Lonza、スイス国バーゼル)を補足した、HEPESおよびL-
グルタミンを含むRPMI 1640(Lonza、スイス国バーゼル)中で培養した。A431(ATCC、扁
平上皮癌)細胞を、10%(vol/vol)の鉄を含むウシ血清(Life Technologies、ドイツ国
)、50 IU/mLペニシリン、および50μg/mLストレプトマイシン(Lonza、スイス国バーゼ
ル)を補足した、HEPESおよびL-グルタミンを含むRPMI 1640(Lonza、スイス国バーゼル
)中で培養した。細胞株を、5%(vol/vol)CO2湿潤インキュベータ中で37℃に維持した
。AU565およびA431細胞をほぼコンフルエントまで培養した後、細胞をトリプシン処理し
、培養培地中に再懸濁し、セルストレーナーに通すことで、単細胞懸濁液を得た。AU565
およびA431細胞を、96ウェル培養プレートにそれぞれ3×104および1.6×104細胞/ウェル
で播種し、37℃、5%CO2で少なくとも3時間インキュベートすることで、プレートに接着
させた。
【0503】
ヒトT細胞を、実施例15で言及したようにバフィーコートから単離した。単離したT細胞
をPBSで洗浄し、培養培地(RPMI 1640、10%血清)中に再懸濁し、96ウェルプレート中の
AU565細胞に1:3の比で、またはA431細胞に1:10の比で加えた。
【0504】
二重特異性抗体変異体bsIgG1-huCD3/ハーセプチン-LFLEDA、bsIgG1-huCD3/ハーセプチ
ン-LbH1--LFLEDA、bsIgG1-huCD3-H1L1/HER2-LFLEDA、bisIgG1-huCD3-LK55N/ハーセプチン
-LbH1--LFLEDA、bsIgG1-huCD3-LK55N/HER2-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-hmAb286/ハーセプチン
-LFLEDA、bsIgG1-huCD3-hmAb286/ハーセプチン-LbH1--LFLEDA、bsIgG1-CD3-hmAb286/HER2
-LFLEDA、およびbsIgG1-huCD3-H1L1/b12-LFLEDAの希釈系列(0.1 ng/mLから10,000 ng/mL
までの範囲の最終濃度)を培養培地中に調製し、プレートに加えた。プレートを、37℃、
5%CO2で3日間インキュベートした。100%腫瘍細胞死滅の基準として、細胞と1μMスタウ
ロスポリン(Sigma)とのインキュベーションを使用した。プレートをPBSで2回洗浄し、1
0%アラマーブルー(Life Technologies、ドイツ国)を含有する150μLの培養培地を各ウ
ェルに加えた。プレートを、37℃、5%CO2で4時間インキュベートした。590 nmにおける
吸光度を測定した(Envision、Perkin Elmer、マサチューセッツ州ウォルサム)。
【0505】
図23は、CD3およびHER2アフィニティー変異体で処置したA431細胞(図23A)およびAU56
5細胞(図23B)の生存率を示す。より低いHER2アフィニティーは、高いCD3アフィニティ
ーおよび低いCD3アフィニティーとの組み合わせで、両方の細胞株においてより低い効力
をもたらす(両方のグラフ中で白抜きの記号として示す)。HER2に対して類似する高いア
フィニティーを有する二重特異性抗体(ハーセプチンおよびHER2)は、野生型huCD3-H1L1
、huCD3-LK55N、またはCD3-hmAb286のCD3アームとの組み合わせで、A431細胞に対して類
似する効力を示した。CD3アームにおけるアフィニティーの変動は、A431細胞に対する効
力に影響を及ぼさなかった。HER2に対して類似する高いアフィニティーを有する二重特異
性抗体(ハーセプチンおよびHER2)は、CD3-hmAb286 CD3アーム、huCD3-LK55Nアーム、お
よび野生型huCD3-H1L1アームとの組み合わせで、AU565細胞に対して類似する効力を示し
、CD3 hmAb286 CD3アームが、相対的により高い効力を示した。CD3アームについてのより
低い結合アフィニティーは、A431細胞と比較してより高いHER2発現を有するAU565細胞に
おいてより有益であった。
【0506】
実施例17:huCD3-H1L1×HER2-LFLEDAおよびhuCD3-H1L1×CD20-LFLEDAのNOD-SCIDマウスに
おけるインビボ腫瘍死滅効果
二重特異性CD3×HER2抗体であるbsIgG1-huCD3-H1L1×HER2-LFLEDAのインビボ抗腫瘍効
力を、皮下NCI-N87異種移植モデルにおいて評価した。このモデルにおいては、Brischwei
n et al., (Mol. Immunol. 43 (2006), 1129-1143)により記載されているモデルに似て、
ヒトT細胞の供給源としてヒトの非刺激のPBMCを腫瘍細胞と共接種した。これらの実験に
おいて、6~11週齢の雌のNOD-SCID(NOD.CB17-Prkdcscid/NcrCrl)マウスを使用した。健
常ドナー由来のヒトPBMCを、実施例15に記載したようにバフィーコートから単離した。0
日目に、PBMCおよびNCI-N87細胞の両方の5×106細胞を含有する混合物を、200μL中で各
マウスの右側腹部の皮下に接種した。注射の1時間以内に、マウスを7種の異なる処置群(
ドナーあたりn=4)に無作為に割り当てた。各群に、単一用量の(二重特異性)抗体を静
脈内(i.v.)注射した。処置群を表5に示す。腫瘍成長を、1500 mm3のエンドポイント腫
瘍体積まで、腫瘍が潰瘍形成を示すまで、または研究の終わりまで、カリパス(PLEXX)
を使って1週間に2回評価した。
【0507】
結果を図24に示す。図24Aから見られうるように、huCD3-H1L1×HER2-LFLEDAは、試験し
た3種の濃度の全てで腫瘍サイズを効率的に低減した。図24Bは、腫瘍接種の29日後の腫瘍
サイズを示す。腫瘍形成は、0.05 mg/kg、0.5 mg/kg、および5 mg/kgの用量のbsIgG1-huC
D3-H1L1×HER2-LFLEDAで処置したマウスにおいて、PBS対照群と比較して有意に阻害され
た(p<0.0001、テューキーの多重比較検定)が、0.005 mg/kgでの処置は、腫瘍形成に影
響を及ぼさなかった。5 mg/kgの対照抗体bsIgG1-huCD3-H1L1×b12-LFLEDAでの処置は、腫
瘍形成を阻害しなかったのに対して、bsIgG1-b12×HER2-LFLEDAでの処置は、PBS対照と比
較していくらかの腫瘍成長阻害を誘発するように見られたが、これは、一元配置分散分析
(One-Way Anova)、テューキーの多重比較検定によると有意ではなかった。
【0508】
【表5】
【0509】
二重特異性CD20×CD3抗体であるhuCD3-H1L1×CD20-LFLEDAのインビボ抗腫瘍効力を、皮
下Raji異種移植モデルにおいて評価した。このモデルにおいては、Brischwein et al., (
Mol. Immunol. 43 (2006), 1129-1143)により記載されているモデルに似て、ヒトT細胞の
供給源としてヒトの非刺激PBMCを腫瘍細胞と共接種した。6~11週齢の雌のNOD-SCID(NOD
.CB17-Prkdcscid/NcrCrl)マウスを使用した。健常ドナー由来のヒトPBMCを、バフィーコ
ートから単離し、洗浄して、PBS-0.1% BSAで再懸濁した。0日目に、PBMCおよびRaji細胞
の両方の5×106細胞を含有する混合物を、200μL中で各マウスの右側腹部の皮下に接種し
た。注射の1時間以内に、マウスを7群に選別し(ドナーあたりn=4)、各群に、単一用量
の(二重特異性)抗体を静脈内(i.v.)注射した。処置群を表6に示す。腫瘍成長を、150
0 mm3のエンドポイント腫瘍体積まで、腫瘍が潰瘍形成を示すまで、または研究の終わり
まで、カリパス(PLEXX)を使って1週間に2回評価した。
【0510】
結果を図25に示す。図25Aに見らることができるように、huCD3-H1L1×CD20-LFLEDAは、
huCD3-H1L1×CD20-LFLEDAの2種のより高い試験用量(0.5 mg/kgおよび0.05 mg/kg)で腫
瘍サイズを効率的に低減した。
【0511】
図25Bにおいては、群が無傷であった最後の日(21日目)の個々のマウスの腫瘍サイズ
を示す。腫瘍形成は、0.05 mg/kgおよび0.5 mg/kgの用量のhuCD3-H1L1×CD20-LFLEDAで処
置したマウスにおいて、PBS対照群と比較して有意に阻害された(一元配置分散分析、テ
ューキーの多重比較検定で評価した場合、p値は、それぞれp<0.05およびp<0.01であっ
た)。0.005 mg/kgでの処置は、腫瘍形成に影響を及ぼさなかった。0.5 mg/kgおよび0.05
の対照抗体b12×CD20(bsIgG1-b12×CD20-LFLEDA)での処置は、PBS対照と比較して腫瘍
形成を有意に阻害しなかった(一元配置分散分析、テューキーの多重比較検定)。
【0512】
【表6】
【0513】
参考文献一覧
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図14E
図14F
図14G
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【配列表】
2024026114000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-12-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。