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特開2024-26135複合金属構造体の選択的リン酸塩処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026135
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】複合金属構造体の選択的リン酸塩処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/12 20060101AFI20240220BHJP
   C23C 22/18 20060101ALI20240220BHJP
   C23C 22/20 20060101ALI20240220BHJP
   C23C 22/36 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C23C22/12
C23C22/18
C23C22/20
C23C22/36
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023197516
(22)【出願日】2023-11-21
(62)【分割の表示】P 2020566876の分割
【原出願日】2019-02-12
(31)【優先権主張番号】18157294.2
(32)【優先日】2018-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ダーレンブルク,オラーフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーツォレック,ハルディ
(72)【発明者】
【氏名】シュペヒト,イェルゲン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アルミニウム表面上のクリオライト析出の低減、並びにチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムによるリン酸塩処理浴の被毒を低減する。
【解決手段】アルミニウムと亜鉛と鉄を含む複合金属構造体の化学的前処理および選択的リン酸塩処理の方法であり、第1の工程で、鉄および亜鉛で作られた部分上に0.5~5g/mのコーティング質量を有する結晶性リン酸亜鉛層を形成し、第2の工程で、2.0~5.5の範囲のpHを有する水性酸性不動態化組成物の複合金属構造体への施与を含み、表面を覆う結晶性リン酸塩層を構成していないアルミニウム部分上に不動態層を形成し、少なくとも5mg/lであるが200mg/lを超えない遊離フッ化物含有量を含み、水溶性無機化合物の形態のホウ素がリン酸亜鉛処理組成物中に存在し、リン酸亜鉛処理組成物中の、KClが添加された遊離酸のポイント数が、0.6ポイントである方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムで作られた少なくとも一部分と、亜鉛で作られた少なくとも一部分と、任意の、鉄で作られたさらなる部分とを含む複合金属構造体の化学的前処理および選択的リン酸塩処理の方法であって、
(I) 第1の工程で、前記鉄で作られた部分および前記亜鉛で作られた部分上に0.5~5g/mの範囲のコーティング質量を有する、表面を覆う結晶性リン酸亜鉛層の形成をもたらすが、前記アルミニウム部分上に少なくとも0.5g/mのコーティング質量を有するリン酸亜鉛層を生成しない、水性リン酸亜鉛処理組成物を用いた前記複合金属構造体の処理、および次いで中間水すすぎ操作を行って、
(II) 第2の工程で、2.0~5.5の範囲のpHを有する水性酸性不動態化組成物の前記複合金属構造体への施与
を含み、前記酸性不動態化組成物が、前記亜鉛で作られた部分および前記鉄で作られた部分上で前記結晶性リン酸亜鉛の50%以下を除去するが、表面を覆う結晶性リン酸塩層を構成していない前記アルミニウム部分上に不動態層を形成し、
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物が、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンの、およびアルミニウムイオンの含有量を含み、
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物が、20~65℃の範囲の温度を有し、少なくとも5mg/lであるが200mg/lを超えない遊離フッ化物含有量を含み、
少なくとも0.04g/lであるが3.2g/l以下の、BFとして計算される水溶性無機化合物の形態のホウ素が前記リン酸亜鉛処理組成物中に存在し、および
前記リン酸亜鉛処理組成物中の、KClが添加された遊離酸のポイント数が少なくとも0.6ポイントである、方法。
【請求項2】
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物が、10~200mg/l、好ましくは20~150mg/l、さらに好ましくは20~120mg/l、特に好ましくは50~120mg/l、および非常に特に好ましくは70~120mg/lの範囲の遊離フッ化物含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物が、BFとして計算される水溶性無機化合物の形態のホウ素を、0.08~2.5g/l、さらに好ましくは0.08~2g/l、さらに好ましくは0.25~2g/l、特に好ましくは0.5~1.5g/l、および非常に特に好ましくは0.8~1.2g/lの範囲の濃度で有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物中のナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオン(ナトリウムとして計算する)の含有量が、1~4g/l、特に2~3g/lの範囲にあり、前記遊離フッ化物含有量が50~150mg/l、特に70~120mg/lの範囲にある、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物中のケイ素(SiFとして計算される)を含む無機化合物の含有量が、25mg/l未満、好ましくは15mg/l未満、より好ましくは5mg/l未満、および最も好ましくは1mg/l未満である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物が、0.6~3.0ポイント、好ましくは0.8~3.0ポイント、より好ましくは1.0~3.0ポイント、および最も好ましくは1.0~2.5ポイントの範囲のKClが添加された遊離酸のポイント数を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物について、無次元商
(A値×T)/(Ftot.×[B]×1000)
が、0.13~22.5、好ましくは0.2~15の範囲にある、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物が、以下のカチオンのうちの1種以上
- 0.3~2g/l、好ましくは0.5~1.5g/lのマンガン(II)、
- 0.3~2g/l、好ましくは0.8~1.2g/lのニッケル(II)、
- 0.001~0.2g/l、好ましくは0.005~0.1g/lの鉄(III)
をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(II)における不動態化組成物のpHが、2.5~5.5、より好ましくは3.0~5.5、および最も好ましくは3.5~5.5の範囲にある、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(II)における不動態化組成物が、Ti、Zrおよび/またはHfを錯化した形態で、好ましくは、20~500mg/l、さらに好ましくは50~300mg/l、およびより好ましくは50~150mg/l(Ti、Zrおよび/またはHfとして計算される)の範囲の濃度で、および任意のさらなる金属イオンを、水溶性化合物の形態で含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(II)における不動態化組成物が、少なくとも1種のオルガノシランおよび/または少なくとも1種のその加水分解生成物、および/または少なくとも1種のその縮合生成物を、好ましくは、5~200mg/l、さらに好ましくは10~100mg/l、および特に好ましくは20~80mg/l(Siとして計算される)の範囲の濃度でさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
アルミニウムで作られた部分を含む複合金属構造体における鋼、亜鉛めっき鋼および/または合金亜鉛めっき鋼表面の選択的リン酸塩処理のための、請求項1から8のいずれか一項に記載のリン酸亜鉛処理組成物であって、
KClが添加された遊離酸の少なくとも0.6ポイントのポイント数、および好ましくは2.5~3.5の範囲のpH、および
(a) Pとして計算して5~50g/lのリン酸イオン、
(b) 0.3~3g/lの亜鉛イオン、
(c) 少なくとも5mg/lであるが200mg/l以下の遊離フッ化物、および
(d) 少なくとも0.04g/lであるが3.2g/l以下のBFとして計算される水溶性無機化合物の形態のホウ素
を有し、
前記リン酸亜鉛処理組成物が、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンおよびアルミニウムイオンの含有量をさらに含む、リン酸亜鉛処理組成物。
【請求項13】
適した溶媒および/または分散媒で、好ましくは水で希釈し、および任意にpHを調整することによって請求項12に記載のリン酸亜鉛処理組成物を得ることができる、濃縮物。
【請求項14】
アルミニウムで作られた少なくとも一部分と、亜鉛で作られた少なくとも一部分と、任意の、鉄で作られたさらなる部分とを含み、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、複合金属構造体。
【請求項15】
請求項14に記載の複合金属構造体の、自動車用の供給者産業に、自動車製造の車体構造に、農業用機械構造に、造船に、建設部門または白物製品の製造における使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段階法における、アルミニウム、亜鉛および任意の鉄の金属表面を含む複合金属構造体の防食処理に関する。本発明の方法により、アルミニウム表面上に著しい量のリン酸亜鉛を堆積させることなく、複合金属構造体の亜鉛および鉄の表面を選択的にリン酸亜鉛処理することが可能となる。このようにして、アルミニウム表面は後続の方法工程で、例えば、腐食からの保護を提供する均質な薄い不動態層を生成する、従来の酸性のおよび任意のシラン含有不動態化組成物を用いた不動態化に、利用することができる。
【0002】
本発明の方法において、第1に、アルミニウム表面上のリン酸塩結晶クラスター(cluster)の形成、および第2に、亜鉛表面上の点(speck)の形成が防止される。しかしながら特に、複合金属構造体の表面上の、特にそのアルミニウム部分でのクリオライト(cryolite)の析出、および好ましくは、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムによるリン酸塩処理浴の被毒が、低減される。
【0003】
よって本発明はまた、点の形成を抑えるのに十分であるがリン酸亜鉛処理が複合金属構造体の亜鉛および鉄の表面に対する選択性を失う値を超えない量で、ホウ素の水溶性無機化合物を含む、リン酸亜鉛処理組成物にも関する。
【背景技術】
【0004】
本発明に特に関連する自動車製造の分野では、種々の金属材料がますます使用され、複合構造体に接合されている。車体構造では、多種多様な鋼が主としてその特定の材料特性に起因して依然として主に使用されているが、車体全体の質量を大幅に削減するために特に重要なアルミニウムなどの軽量金属の使用も増加している。この開発を考慮するため、目的は、車体保護のための新しい概念を開発すること、または未処理車体の防食処理のための既存の方法および組成物をさらに開発することである。
【0005】
従って、複雑な構成要素、例えばアルミニウムで作られた部分だけでなく、鋼および場合により亜鉛めっき鋼で作られた部分を含む自動車の車体の前処理の改善された方法が必要である。全体的な前処理の結果として、特にカソード電着コーティングの前に、生じるあらゆる金属表面上に、防食塗装基材として適している転化層または不働態化層が生成される。
【0006】
ドイツで公開された明細書DE19735314では2段階法が提案されており、この方法ではまず、アルミニウム表面も有するシャーシの鋼表面および亜鉛めっき鋼表面を選択的にリン酸塩処理し、続いて、シャーシのアルミニウム部分の防食処理のため、不動態化溶液を用いてシャーシを処理する。ここで開示されている教示によれば、選択的リン酸塩処理は、リン酸塩処理溶液の酸洗い作用を低下させることによって達成される。この目的のために、DE19735314では、遊離フッ化物の源が水溶性錯体フッ化物のみによって形成される、100ppm未満の、特に1~6gの濃度のヘキサフルオロシリケートの遊離フッ化物含有量を有するリン酸塩処理溶液が教示されている。
【0007】
従来技術では他の2段階前処理方法が開示されており、ここでも同様に、第1の工程で鋼表面および任意の亜鉛めっきおよび合金亜鉛めっき鋼表面に結晶性リン酸塩層を堆積させ、さらに後続の工程でアルミニウム表面を不動態化するという概念に従っている。これらの方法は、文献WO1999/012661およびWO2002/066702に開示されている。原則として、ここに開示されている方法は、第1の工程で鋼表面または亜鉛めっき鋼表面を選択的にリン酸塩処理し、第2の方法工程における後続の不動態化においてもリン酸塩処理を維持するが、アルミニウム表面にリン酸塩結晶が形成されないようにして行われる。鋼表面および亜鉛めっき鋼表面の選択的リン酸塩処理は、リン酸塩処理溶液中の遊離フッ化物イオンの割合を温度に依存して制限することによって可能であり、その遊離酸含有量は0~2.5ポイントの範囲内に設定される。
【0008】
国際出願WO2008/055726では、アルミニウム部分を含む複合構造体の鋼表面および亜鉛めっき鋼表面を選択的リン酸塩処理する少なくとも1段階の方法が開示されている。この公開された明細書では、ジルコニウム元素およびチタン元素の水溶性無機化合物を含むリン酸塩処理溶液が教示されており、この存在によって、アルミニウム表面のリン酸塩処理が防止できる。
【0009】
欧州出願EP2588646では、アルミニウム表面も有する金属構成要素における鋼および亜鉛めっき鋼の選択的リン酸塩処理の方法が開示されている。さらに、この方法により、アルミニウム表面上のリン酸塩結晶クラスターの形成、および亜鉛めっき鋼表面上の点形成が防止される。この目的のために、ケイ素を水溶性無機化合物の形態でリン酸亜鉛処理組成物に添加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】DE19735314
【特許文献2】WO1999/012661
【特許文献3】WO2002/066702
【特許文献4】WO2008/055726
【特許文献5】EP2588646
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この先行技術から進み、目的は、ハイブリッド組成物の金属構成要素、すなわちアルミニウム表面を有する複合金属構造体の防食処理における鋼および亜鉛めっき鋼の選択的リン酸塩処理をさらに開発し、選択性を制御する浴パラメータの特定の制御によりリン酸塩処理中のプロセス経済性の改善を達成するという効果を得ることである。複合金属構造体の防食処理の品質に関しては、これは、アルミニウム表面上のリン酸塩結晶クラスターの形成および亜鉛めっき鋼表面上の点の形成の回避だけでなく、金属構成要素の表面上の、特にアルミニウム表面上のクリオライト析出の低減、および好ましくはチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムによるリン酸塩処理浴の被毒の低減を含む。
【0012】
「リン酸塩結晶クラスター」とは、金属表面(ここではアルミニウム表面)上にリン酸塩結晶が個別におよび局所限定的に堆積することを意味すると、当業者に理解される。このような「結晶クラスター」は、後続の塗装プライマーに取り囲まれてコーティングの不均質を構成し、これが塗装した表面の均一な視覚的印象を歪ませ、塗装物に点損傷を引き起こす可能性がある。
【0013】
「点形成」とは、リン酸塩処理における現象であり、非晶質白リン酸亜鉛の、そうでなければ処理された亜鉛表面上または処理された亜鉛めっきまたは合金亜鉛めっき鋼表面上の結晶性リン酸塩層における局所堆積を意味すると、当業者に理解される。点形成は、基材の酸洗い率が局所的に上昇することによって引き起こされる。リン酸塩処理におけるこのような点の欠陥は、後続して施与される有機塗装系の付着性の腐食性損失の出発点となり得るので、実際には点の形成は大幅に回避するべきである。
【0014】
複合金属構造体の表面上の、特にアルミニウム部分上のクリオライト析出(固体のNaAlFおよび/またはKAlFの堆積)は、この表面に紙やすりのような性質をもたらす。これは、すぐ塗装される構造体の表面の下方まで続くので、望ましくない。結果として塗装の欠陥が発生し、これは、例えば当該領域を研摩することにより、多大なコストと不便さを費やすことでしか除去できない。これは無論、対応する労力およびより高いコストに関連する。
【0015】
クリオライト析出は、次の式により進行する:
3Na(aq)+Al3+(aq)+6F(aq)→NaAlF(s)↓または
リン酸塩処理組成物中のナトリウムイオンは、添加剤に、例えば特に、添加剤および/または促進剤に由来する。ここで、特に言及すべき添加剤は、フッ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムであり、特に言及すべき促進剤は、亜硝酸ナトリウムである。同じことが、カリウムイオンにも当てはまる。これらの添加剤は、状況および既存の浴パラメータに応じて浴に添加する。対照的にアルミニウムイオンは、リン酸塩処理浴組成物の酸性媒体中で酸洗いすることにより、複合金属構造体のアルミニウム部分から除去される。
【0016】
リン酸塩処理浴中の遊離フッ化物(フッ化物イオン)の特定の最小量は、複合金属構造体の鉄表面および亜鉛表面上のリン酸亜鉛層に対して適切な堆積動態を保証するために必要である。それは、複合金属構造体のアルミニウム表面を同時に処理することにより、アルミニウムイオンがリン酸亜鉛処理組成物に特に入り(上記参照)、そしてこれが今度は、非錯体化形態で、複合構造体の鉄部分および亜鉛部分上に均一で均質なリン酸亜鉛層が形成されるのを妨害しまたは防止さえするからである。ここでの遊離フッ化物は、平衡反応において遊離フッ化物が放出されるフルオロ錯体からも生じる。
【0017】
しかし、遊離フッ化物含有量が高いほど(所与のナトリウム/カリウムおよびアルミニウム含有量に対して)、複合金属構造体の表面でのクリオライト析出がより顕著になる。
【0018】
チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムによるリン酸塩処理浴の被毒は、特に、クラストで覆われた複合金属構造体のための移送システムまたは構造体の予め不動態化されたアルミニウム部分により引き起こされる場合がある。
【0019】
移送システム上のクラスト(例えば、リン酸塩クラストまたは未焼成の塗装層)は、チタン、ジルコニウム、および/またはハフニウムを含む。後者の未焼成の塗装層は、複合金属構造体のリン酸塩処理(工程(I)参照)に続く、チタンを含む、ジルコニウムを含む、および/またはハフニウムを含む水溶性化合物を用いた不動態化(工程(II)参照)に由来し、その多孔性に起因してクラストに吸収される。移送システムは周期的に実行されるので、不動態化浴中でチタン、ジルコニウム、および/またはハフニウムと接触していたクラストは、リン酸塩処理浴で酸性リン酸塩処理組成物に再び暴露される。チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムは、その中に部分的に再溶解する。
【0020】
複合金属構造体のアルミニウム部分はしばしば、予め不動態化されている。つまり、アルミニウム部分にはその供給者によって、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムを含む不動態化層が既に施与され、提供されていることを意味する。
【0021】
両方の場合において、錯体が形成されるので、フッ化物含有リン酸塩処理浴でクラストからチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムが浸出し、または予め不働態化されることが起こる。それ故、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムがリン酸塩処理浴中に蓄積する。これによって複合金属構造体のアルミニウム部分上に、拭き取ることができ、非晶質リン酸亜鉛を含む黒色層の堆積がもたらされることがある。前記層は後に塗装に欠陥をもたらすことがあり、腐食からの保護を低減させることもある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記に記載したこの目的は、アルミニウムで作られた少なくとも一部分と、亜鉛で作られた少なくとも一部分と、任意の、鉄で作られたさらなる部分とを含む複合金属構造体の化学的前処理および選択的リン酸塩処理の本発明による方法によって達成され、この方法は、
(I) 第1の工程で、鉄および亜鉛で作られた部分上に0.5~5g/mの範囲のコーティング質量を有する、表面を覆う結晶性リン酸亜鉛層の形成をもたらすが、アルミニウム部分上に少なくとも0.5g/mのコーティング質量を有するリン酸亜鉛層を生成しない、水性リン酸亜鉛処理組成物を用いた複合金属構造体の処理、および次いで中間水すすぎ操作を行って、
(II) 第2の工程で、2.0~5.5の範囲のpHを有する水性酸性不動態化組成物の複合金属構造体への施与を含み、酸性不動態化組成物が、亜鉛および鉄で作られた部分上で結晶性リン酸亜鉛の50%以下を除去するが、表面を覆う結晶性リン酸塩層を構成していないアルミニウム部分上に不動態層を形成し、
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物が、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンの、およびアルミニウムイオンの含有量を含み、
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物が、20~65℃の範囲の温度を有し、少なくとも5mg/lであるが200mg/lを超えない遊離フッ化物含有量を含み、
少なくとも0.04g/lであるが3.2g/l以下の、BFとして計算される水溶性無機化合物の形態のホウ素がリン酸亜鉛処理組成物中に存在し、および
リン酸亜鉛処理組成物中の、KClが添加された遊離酸のポイント数が、少なくとも0.6ポイントである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義:
本発明の文脈における「複合金属構造体」とは、ハイブリッド組成物の金属構成要素、特にシャーシである。複合金属構造体は、亜鉛の表面、アルミニウムの表面、および任意の鉄の表面と同様に、他の金属の表面および/または非金属、特にプラスチックの表面を有してもよい。
【0024】
本発明によれば、材料「アルミニウム」は、その合金も意味すると理解される。同時に、本発明によれば、材料には亜鉛が含まれ、亜鉛合金、例えば亜鉛-マグネシウム合金、および亜鉛めっき鋼および合金亜鉛めっき鋼も含まれ、一方で鉄への言及には、鉄合金、特に鋼も含まれる。前述の材料の合金は、50質量%未満の無関係な原子の含有量を有する。
【0025】
本文脈において、「水性組成物」とは、溶媒または分散媒としての水を主たる程度、すなわち(存在する溶媒および分散媒全体に基づいて)50質量%を超える程度、好ましくは70質量%を超える程度、より好ましくは90質量%を超える程度まで含む溶液または分散液を意味すると理解される。よって水性組成物は、溶解した構成成分と同様に分散した構成成分も含んでよい。しかしながら、水性組成物は好ましくは溶液、すなわち分散した構成成分をほんの少量しか含まない、好ましくは分散した構成成分を全く含まないが、むしろ溶解した構成成分のみを含み、またはほぼ溶解した構成成分のみを含む、組成物である。
【0026】
本発明の文脈における「不動態層」とは、連続的な結晶性リン酸塩層を有しない不動態化、すなわち防食性の、無機または混合無機-有機薄膜コーティングである。このような不動態層は、例えば、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムの酸化物化合物(oxidic compounds)からなる。
【0027】
本発明によれば、「水溶性化合物」とは、1種の水溶性化合物または2種以上の水溶性化合物のどちらかを意味する。
【0028】
処理工程(I)でリン酸亜鉛層がアルミニウム部分上に形成されないという要件は、そこに連続的で封止された結晶層が形成されないことというように理解されるべきである。この条件は、少なくとも、アルミニウム部分に堆積したリン酸亜鉛の面積ベースの質量が0.5g/m未満のときに満たされる。アルミニウム部分は、本発明の文脈において、アルミニウムおよび/またはアルミニウムの合金から作られたシートおよび構成要素を意味すると理解される。
【0029】
対照的に、鋼、亜鉛めっき鋼および/または合金亜鉛めっき鋼の表面上に連続的な結晶性リン酸亜鉛層を形成することは、本発明の方法の絶対的に必要であり、かつ本発明の特徴である。この目的のために、好ましくは少なくとも1.0g/m、より好ましくは少なくとも2.0g/mであるが、好ましくは4.0g/m以下の面積ベースのコーティング質量を有するリン酸亜鉛層を、本発明による方法の工程(I)において複合金属構造体のこの表面に堆積させる。
【0030】
複合金属構造体のあらゆる表面に関して、リン酸亜鉛コーティングの質量は、複合金属構造体それぞれの個別の金属材料の試験シートについて重量測定法による質量差を利用して決定する。これは、工程(I)の直後に、鋼シートと、9質量%のEDTA、8.7質量%のNaOHおよび0.4質量%のトリエタノールアミンの水溶液とを、70℃の温度で5分間接触させることによって行われ、このようにして、これからリン酸亜鉛層を取り除く。同様に、亜鉛めっきまたは合金亜鉛めっき鋼シートのリン酸亜鉛コーティング質量を決定するために、工程(I)の直後に、対応する試験シートと、20g/lの(NHCrおよび27.5質量%のNHの水溶液とを、25℃の温度で4分間接触させ、このようにして、リン酸亜鉛層を取り除く。
【0031】
対照的に、アルミニウムシートは、工程(I)の直後に、65質量%のHNO水溶液と25℃の温度で15分間接触させ、対応してリン酸亜鉛成分を取り除く。このそれぞれの処理後の乾燥した金属シートの質量と、工程(I)の直前の同じ未処理の乾燥した金属シートの質量との差は、本発明によるリン酸亜鉛のコーティング質量に対応する。
【0032】
工程(II)で、鋼および亜鉛めっき鋼および/または合金亜鉛めっき鋼の表面上の結晶性リン酸亜鉛層の50%以下が溶解するという本発明の要件は、同様に、複合金属構造体それぞれの個別の金属材料の試験シートを使用して理解される。この目的のために、本発明の方法の工程(II)でリン酸塩処理した鋼または亜鉛めっきまたは合金亜鉛めっき鋼の試験シートは、脱イオン水を用いてすすぐ工程の後、圧縮空気で吹き付け乾燥してから秤量する。
【0033】
次いで、同じ試験シートを、本発明の方法の工程(II)で酸性不動態化組成物と接触させ、次いで脱イオン水ですすぎ、圧縮空気を吹き付けて乾燥させ、次いで再び秤量する。次いで、同じ試験シートのリン酸亜鉛を、上記に記載した通り、9質量%のEDTA、8.7質量%のNaOHおよび0.4質量%のトリエタノールアミンの水溶液を用いて、または20g/lの(NHCrおよび27.5質量%のNHの水溶液を用いて完全に除去して、乾燥した試験シートの質量をもう一度測定する。すると、本発明の方法の工程(II)におけるリン酸塩層のパーセンテージ損失が、試験シートの質量差から決定される。
【0034】
本発明の方法の工程(I)における、ポイントで表すリン酸亜鉛処理組成物のKCl(FA、KCl)が添加された遊離酸は、以下のように決定される(W.Rausch「Die Phosphatierung von Metallen」」(金属のリン酸塩処理)、Eugen G.Leuze Verlag、第3版、2005年、第8.1章、第333~334頁を参照):
10mLのリン酸塩処理組成物を、適した容器、例えば300mLの三角フラスコにピペットで入れる。リン酸塩処理組成物が錯体フッ化物を含む場合、追加の塩化カリウム6~8gを試料に加える。次いで、pHメーターおよび電極を使用して、0.1 M NaOHで滴定を行い、pHを4.0にする。この滴定で消費される0.1 M NaOHの量(リン酸塩処理組成物10mlあたりのmlで表す)は、KCl(FA、KCl)が添加された遊離酸価を、ポイントで表す。
【0035】
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物は、好ましくは30~60℃、より好ましくは35~55℃の範囲の温度を有する。
【0036】
本発明の方法において、リン酸亜鉛処理組成物中の遊離フッ化物の濃度は、電位差測定法によって決定される。これは、リン酸亜鉛処理組成物の試料容量を採取し、フッ化物含有標準溶液によってpH緩衝なしで組み合わせ電極を較正した後、任意の所望の市販のフッ化物選択電位差測定組み合わせ電極の活性を決定して行われる。組み合わせ電極の較正および遊離フッ化物の測定は、両方とも20℃の温度で行う。
【0037】
遊離酸に依存する遊離フッ化物の限界濃度を超過すると、ただし如何なる場合も200mg/lの濃度を超過すると、アルミニウム表面のいたるところで、領域を覆う結晶性リン酸亜鉛層の堆積が引き起こされる。しかしながら、そのような層の形成は、リン酸亜鉛処理の基材に特有のコーティング特性に起因して望ましくなく、従って、本発明によるものではない。しかしながら、遊離フッ化物の特定の最小量は、複合金属構造体の鉄表面および亜鉛表面上のリン酸亜鉛層に対して適切な堆積動態を保証するために必要である。それは、複合金属構造体のアルミニウム表面を同時に処理することにより、アルミニウムカチオンがリン酸亜鉛処理組成物に特に入り、そしてこれが今度は、非錯体化形態で、リン酸亜鉛処理を阻害するからである。
【0038】
従ってリン酸亜鉛処理組成物は、少なくとも5mg/lであるが200mg/lを超えない、好ましくは少なくとも10mg/lであるが200mg/lを超えない、さらに好ましくは少なくとも20mg/lであるが175mg/lを超えない、さらに好ましくは少なくとも20mg/lであるが150mg/lを超えない、さらに好ましくは少なくとも20mg/lであるが135mg/lを超えない、さらに好ましくは少なくとも20mg/lであるが120mg/lを超えない、特に好ましくは少なくとも50mg/lであるが120mg/lを超えない、および非常に特に好ましくは少なくとも70mg/lであるが120mg/lを超えない、遊離フッ化物含有量を有する。
【0039】
リン酸亜鉛処理組成物の総フッ化物含有量(Ftot.)は、好ましくは0.01~0.3mol/l、より好ましくは0.02~0.2mol/lの範囲にある。
【0040】
総フッ化物含有量(Ftot.)は、総計でのフッ化物(F)の含有量であり、錯体結合フッ化物および単純フッ化物から構成される。錯体結合フッ化物は、SiおよびBに結合したフッ化物であるが、さらなる錯体でAlにも結合している。対照的に単純フッ化物は、錯体中の結合していないフッ化物であり、組み合わせ電極によって決定可能な遊離フッ化物、すなわち、結合していないフッ化物、およびHFとして結合したフッ化物から構成される。
【0041】
本発明の方法の工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物中のナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオン、アルミニウムイオンおよび遊離フッ化物の含有量が高いほど、複合金属構造体の表面上での、特にアルミニウム部分上でのクリオライトの析出が顕著になる。
【0042】
ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオン(ナトリウムとして計算する)の含有量が1~4g/l、特に2~3g/lの範囲にあり、遊離フッ化物含有量が50~150mg/l、特に70~120mg/lの範囲にある場合、アルミニウムイオンの存在下において、ホウ素が水溶性無機化合物の形態で、特にHBFなどのフルオロボレートの形態で存在することにより、クリオライトの析出を特に効果的に低減することが可能である。
【0043】
リン酸亜鉛処理組成物は、好ましくは、BFとして計算される水溶性無機化合物の形態のホウ素の濃度を、0.08~2.5g/l、さらに好ましくは0.08~2g/l、さらに好ましくは0.25~2g/l、特に好ましくは0.5~1.5g/l、および非常に特に好ましくは0.8~1.2g/lの範囲に有する。
【0044】
本発明による、ホウ素を含む水溶性無機化合物の添加はさらに、亜鉛表面での点形成を抑える。BFとして計算して3.2g/lの上限は、第1に方法の経済的実行可能性に起因し、第2にこのような高濃度のホウ素を含む水溶性無機化合物によってプロセスを制御することがより困難になるという事実に起因する。これは、アルミニウム表面上のリン酸塩結晶クラスターの形成は、遊離酸含有量を増加しても、ほんのわずかな程度しか抑えることができないからである。
【0045】
結晶クラスターは、塗装施与が完了すると、ポイントの上昇をもたらし、これにより、顧客の所望に応じて、例えば自動車のシャーシなどの複合金属構造体を視覚的に均質に塗装するために研摩する必要がある。
【0046】
驚くべきことに、アルミニウム表面上に結晶性リン酸亜鉛層およびリン酸亜鉛結晶クラスターが形成されるのを効果的に抑えるために、BFとして計算される水溶性無機化合物の形態のホウ素の濃度が、本発明の方法の成功に不可欠である重要なパラメータであることが見出された。2.0g/lの濃度を超えると、アルミニウム表面上に少なくとも個別のリン酸亜鉛結晶クラスターがすでに形成されている。
【0047】
この濃度をさらに超えると、本発明の方法におけるアルミニウム表面は、全領域にわたって結晶性リン酸亜鉛層で覆われる。防食前処理を成功させるには、両方のシナリオが回避されるべきである。従って、本発明の方法の工程(I)では、各場合ともBFとして計算される水溶性無機化合物の形態のホウ素が、3.2g/lの値、より好ましくは2.0g/lの値を超えない濃度のリン酸亜鉛処理組成物を使用する。
【0048】
しかしながら、各場合において、水溶性無機化合物の形態のホウ素の本発明による割合は、本発明により処理した亜鉛部分上での点形成の防止に十分である。本発明の方法において好ましいホウ素を含む水溶性無機化合物は、フルオロボレート、より好ましくはHBF、(NH)BF、LiBFおよび/またはNaBFである。水溶性フルオロボレートは、遊離フッ化物の源としてさらに適しており、従って、鋼および亜鉛めっきおよび/または合金亜鉛めっき鋼の表面のリン酸塩処理が依然として保証されるように、浴溶液に導入された三価アルミニウムカチオンを錯化する役目を果たす。
【0049】
本発明の方法の工程(I)でリン酸塩処理溶液中にフルオロボレートを使用する場合、無論、BFとして計算される水溶性無機化合物の形態のホウ素の濃度が、本発明の請求項1による3.2g/lの値を超えないことを常に確実にすべきである。
【0050】
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物は、ホウ素を含む水溶性無機化合物と同様に、ケイ素を含む水溶性無機化合物の特定の含有量も含むことが可能である。後者は、例えば、先行する方法工程から、または、アルミニウム部分のケイ素含有量が高い場合には、複合金属構造体から由来して、リン酸塩処理組成物に導入されていてもよい。
【0051】
しかしながら、本発明の文脈では、第一に、ケイ素を含む無機化合物の含有量は望ましくない。それは、このことが複合金属構造体の表面上、特にそのアルミニウム部分上でクリオライトの析出を増加させるからである。これは、以下のように説明できる:
複合金属構造体の表面における酸性酸洗い浸食の場合、プロトンは水素に還元されるという点で消費される。これによって、表面でpHが上昇する。今回本発明の文脈において、驚くべきことに、ヘキサフルオロシリケートなどのフルオロシリケートは、pHが上昇すると、フッ化物イオン(遊離フッ化物)を、テトラフルオロボレートなどの対応するフルオロボレートよりも著しく大幅に放出することが見出された。それ故、フルオロシリケートの場合、表面でフッ化物イオンの含有量がさらにより著しく増加し、ナトリウム/カリウムおよびアルミニウムイオンの適切な含有量がもたらされると、最終的には対応するクリオライトの析出の増加を引き起こす(質量作用の法則を参照)。
【0052】
第2に、ケイ素を含む無機化合物の含有量も望ましくない。それは、驚くべきことに、ケイ素を水溶性無機化合物の形態で含む遊離フッ化物含有量を有するリン酸亜鉛浴組成物が、クラストで覆われた複合金属構造体のための移送システムおよび/または構造の予め不動態化されたアルミニウム部分から、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムのさらにより著しい浸出を生じさせることができ、よってホウ素を水溶性無機化合物の形態で含むものよりも、著しく大きなチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムによるリン酸塩処理浴の被毒をもたらす可能性があることが、今回見出されたからである。
【0053】
このことはやはり、すでにさらに上記で説明したように、複合金属構造体の表面でのpHの変化の結果、フッ化物がフッ化物錯体から放出されて、チタン、ジルコニウム、ハフニウムを錯体化することができるという点で説明できる。結果として、これらは溶解性のままであり、浴中に蓄積することができる。ヘキサフルオロシリケートなどのフルオロシリケートと比較すると、テトラフルオロボレートなどのフルオロボレートはフッ化物イオンを放出しにくく、このことはチタン、ジルコニウム、ハフニウムの錯体形成に利用できる遊離フッ化物がより少ないことを意味する。さらに、テトラフルオロボレートの場合、遊離フッ化物の濃度をより良好に制御することができる。
【0054】
第3に、ケイ素を含む無機化合物の含有量は望ましくない。特にHSiFなどのフルオロシリケートの場合、カリウムイオンの存在下で難溶性の析出物が形成されるからである。このような析出物の形成は、クリオライトの析出と同じくらい望ましくない。カリウムイオンはナトリウムイオンと比較して、浴パラメータ調整用の塩の、例えばリン酸塩、水酸化物、フッ化物などのカチオンとして、有利である。それはKAlFがNaAlFよりも溶解性が良好であるので、クリオライトの析出が少ないからである。リン酸亜鉛処理組成物中に存在し得るアンモニウムイオンもこの利点を有するが((NHAlFの良好な溶解性)、これは廃水中でカリウムイオンよりも環境への有害性が高い。難溶性のカリウム含有析出物の形成は、対応するホウ素含有化合物、特にHBFなどのフルオロボレートの場合は、検出されていない。
【0055】
従って、ケイ素(SiFとして計算される)を含む無機化合物の含有量は、好ましくは25mg/l未満、さらに好ましくは15mg/l未満、より好ましくは5mg/l未満、および最も好ましくは1mg/l未満である。
【0056】
工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物は、好ましくは、0.6~3.0ポイント、好ましくは0.8~3.0ポイント、より好ましくは1.0~3.0ポイント、および最も好ましくは1.0~2.5ポイントの範囲のKClが添加された遊離酸のポイント数を有する。遊離酸の好ましい範囲を遵守することにより、第1に、選択された金属表面上のリン酸塩層の適切な堆積動態が確実となり、第2に、スラッジ析出の回避のための、または本発明の方法の連続操作におけるスラッジの廃棄のための、リン酸塩処理浴の集中的な監視、または後処理を今度は必然的に伴う、金属イオンの不必要な酸洗い除去が防止される。
【0057】
さらに、本発明の方法の工程(I)におけるリン酸塩処理組成物中の総酸(TA)は、10~50、さらに好ましくは15~40、および特に好ましくは20~35ポイントの範囲にあるべきである。
【0058】
対照的に、フィッシャー総酸(FTA)は、10~30、さらに好ましくは12~25、およびより好ましくは15~20ポイントの範囲にあるべきであり、A値は0.04~0.20、さらに好ましくは0.05~0.15、および特に好ましくは0.06~0.12の範囲にあるべきである。
【0059】
驚くべきことに、複合金属構造体の表面でのクリオライトの析出と、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムによるリン酸塩処理浴の被毒との両方が、工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物の無次元商(dimensionless quotient)
(A値×T)/(Ftot.×[B]×1000)
(式中、「T」は温度/℃、「Ftot.」は総フッ化物含有量/(mol/l)、および「[B]」は元素ホウ素の濃度/(mol/l)を表す)が、0.13~22.5、好ましくは0.2~15、およびより好ましくは0.4~10の範囲にあるときに、特に効率的に低減できることが見出された。
【0060】
フィッシャー総酸(FTA)の決定のためにのみ必要である遊離酸(希釈)(FA(dil.))、フィッシャー総酸(FTA)、総酸(TA)およびA値は、以下のように決定される:
遊離酸(希釈酸)(FA(dil.))
(W.Rausch「Die Phosphatierung von Metallen」、Eugen G.Leuze Verlag、第3版、2005年、セクション8.1、第333~334頁参照)
遊離酸(希釈)の決定のため、10mlのリン酸塩処理組成物を、300mlの三角フラスコなどの適した容器にピペットを使って入れる。次いで、150mlの完全脱塩水を添加する。pH計及び電極を使用して、4.7のpHになるまで0.1M NaOHによる滴定を実施する。この滴定において消費された0.1M NaOHの、希釈したリン酸塩処理組成物10ml当たりのmlで表す量により、遊離酸(希釈)(FA(dil.))の値がポイントで得られる。
【0061】
フィッシャー総酸(TAF)
(W.Rausch「Die Phosphatierung von Metallen」、Eugen G.Leuze Verlag、第3版、2005年、セクション8.2、第334~336頁参照)
遊離酸(希釈)の測定に続き、希釈したリン酸塩処理組成物をシュウ酸カリウム溶液に添加した後、pH計及び電極を使用して、8.9のpHになるまで0.1M NaOHによって滴定する。この手順において、希釈したリン酸塩処理組成物10ml当たりのmlで表す0.1M NaOHの消費量により、フィッシャー総酸(TAF)がポイントで得られる。
【0062】
総酸(TA)
(W.Rausch「Die Phosphatierung von Metallen」、Eugen G.Leuze Verlag、第3版、2005年、セクション8.3、第336~338頁参照)
総酸(TA)は、存在する二価カチオン、及び遊離したリン酸及び結合したリン酸(後者はホスフェートである)の合計である。総酸は、pH計及び電極を使用して、0.1M NaOHの消費量によって測定される。この目的のために、10mlのリン酸塩処理組成物を、300mlの三角フラスコなどの適した容器にピペットを使って入れ、25mlの完全脱塩水によって希釈する。これに続いて、pH9になるように0.1M NaOHによる滴定を実施する。この手順の間の、希釈したリン酸塩処理組成物10ml当たりのmlで表す消費量が、総酸(TA)のポイント数に対応する。
【0063】
酸価(A値)
(W.Rausch「Die Phosphatierung von Metallen」、Eugen G.Leuze Verlag、第3版、2005年、セクション8.4、第338頁参照)
酸価(A値)と呼ばれるものは、KClが添加された遊離酸のフィッシャー総酸に対する比、すなわち(FA、KCl):FTAの比を表し、遊離酸(FA)の数値をフィッシャー総酸値(FTA)で除することによって得られる。
【0064】
工程(I)におけるリン酸塩処理組成物は、好ましくは2.5~3.5の範囲のpHを有する。
【0065】
アルミニウム表面だけでなく、鋼および亜鉛めっきおよび/または合金亜鉛めっき鋼の表面も有する金属構成要素の最適なリン酸塩処理の結果のため、元素のジルコニウム、チタンおよび/またはハフニウムに基づいて、総計で20ppm以下、好ましくは15ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、および最も好ましくは総計で1ppm以下のジルコニウム、チタンおよび/またはハフニウムの水溶性化合物を含む、および特に好ましくは如何なるジルコニウム、チタンおよび/またはハフニウムの水溶性化合物も含まない、本発明の方法の工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物が好ましい。
【0066】
それ故、特に本発明の方法の工程(I)におけるリン酸塩処理組成物へのジルコニウム、チタンおよび/またはハフニウムの水溶性化合物の添加は、完全に省略される。
【0067】
WO2008/055726から、リン酸塩処理段階におけるこれら元素の水溶性化合物の存在が同様に、アルミニウム表面上の結晶性リン酸塩層の形成を効果的に抑えられることが知られている。しかしながら、ジルコニウム、チタンおよび/またはハフニウムの水溶性化合物の存在下では、特に噴霧法によるリン酸塩処理組成物の施与の場合、アルミニウム部分における不均質で非晶質のジルコニウム、チタンおよび/またはハフニウムベースの化成皮膜が比較的頻繁にもたらされ、これによって後続の有機塗装の場合に「マッピング(mapping)」が発生することが見出された。
【0068】
「マッピング」とは、金属構成要素の浸漬コーティングの当業者によって、浸漬塗装の焼成後の不均質な塗装層の厚さに起因する塗装コーティングの斑点のある視覚的印象を意味すると理解される。
【0069】
ジルコニウム、チタンおよび/またはハフニウムの濃度を低く維持するために、遊離フッ化物濃度またはフッ化物濃度全体を低減することが有利であることが見出された。その効果は、アルミニウム部分上の層形成が抑えられ、プロセスがより良好に制御できることである。
【0070】
チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムによるリン酸塩処理浴の被毒は、既に上記で記載したように、特に、クラストで覆われた複合金属構造体のための移送システムまたは構造体の予め不動態化されたアルミニウム部分によって引き起こされる場合がある。
【0071】
さらに説明したように、水溶性無機化合物の形態のリン酸亜鉛処理組成物のホウ素含有量によって、特にテトラフルオロボレートなどのフルオロボレートに特によって、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムによるリン酸塩処理浴の被毒を低減することが可能である。
【0072】
さらに、遊離フッ化物の含有量が高い場合、クラストからの浸出または予め不動態化されることは、酸性媒体中でより著しい程度で起こる。同時に、チタンおよび/またはジルコニウムは、高い遊離フッ化物含有量によって安定化される。その結果、チタンおよび/またはジルコニウムのフルオロ錯体が形成される。遊離フッ化物含有量を低下させると、チタンおよび/またはジルコニウムの溶解度が不安定になり、これは析出して、リン酸塩処理浴の被毒をもはや構成しなくなる。
【0073】
遊離フッ化物含有量を低下させると、アルミニウム部分上のリン酸亜鉛層の形成がまさに低減される。しかしながら、その後の不働態化によって(工程(II)を参照)これは問題ではない。対照的に、アルミニウム部分上のリン酸亜鉛が少ないことは、実施した腐食および塗装付着性試験で有益である。
【0074】
従ってリン酸亜鉛処理組成物は、少なくとも5mg/lであるが200mg/lを超えない、好ましくは少なくとも10mg/lであるが200mg/lを超えない、さらに好ましくは少なくとも20mg/lであるが175mg/lを超えない、さらに好ましくは少なくとも20mg/lであるが150mg/lを超えない、さらに好ましくは少なくとも20mg/lであるが135mg/lを超えない、さらに好ましくは少なくとも20mg/lであるが120mg/lを超えない、特に好ましくは少なくとも50mg/lであるが120mg/lを超えない、および非常に特に好ましくは少なくとも70mg/lであるが120mg/lを超えない、遊離フッ化物含有量を有する。
【0075】
本発明の方法の第1の好ましい実施形態では、複合金属構造体のための移送システムは、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムを含み、工程(I)のリン酸塩処理に続く工程(II)における、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムを含んだ水溶性化合物を有する複合金属構造体の不動態化に好ましくは由来するクラストを有する。移送システムは、工程(II)でチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムと接触させたクラストが、工程(I)の酸性リン酸塩処理組成物に再び曝されるように、好ましくは周期的に作動する。
【0076】
第2の好ましい実施形態では、複合金属構造体のアルミニウム部分は、予め不動態化されている、すなわち、それらは、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムを含む不動態化層をすでに備えている。
【0077】
第3の好ましい実施形態では、複合金属構造体のための移送システムは、チタンおよび/またはジルコニウムを含み、工程(I)のリン酸塩処理に続く工程(II)における、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムを含んだ水溶性化合物を有する複合金属構造体の不動態化に好ましくは由来するクラストを有する。移送システムは、好ましくは、工程(II)で生成されたクラストが、工程(I)の酸性リン酸塩処理組成物に再び曝されるように、周期的に作動する。さらに、複合金属構造体のアルミニウム部分は予め不動態化されている。すなわち、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムを含む不動態化層がすでに提供されている。
【0078】
本発明の方法の工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物は、好ましくは、少なくとも0.3g/l、より好ましくは少なくとも0.8g/lであるが、好ましくは3g/l以下の、より好ましくは2g/l以下の亜鉛イオンを含む。リン酸塩処理溶液中のリン酸イオンの含有量は、各場合ともPとして計算して、好ましくは5~50g/l、さらに好ましくは8~25g/l、およびより好ましくは10~20g/lの範囲にある。
【0079】
本発明の方法のリン酸亜鉛処理組成物は、前述の亜鉛イオンおよびリン酸イオンと同様に、以下の促進剤のうちの少なくとも1種をさらに含んでよい:
- 0.07~0.25g/lの亜硝酸塩(亜硝酸ナトリウムとして計算される)、
- 約0.1~2g/lのニトログアニジン、
- 8~51mg/lの過酸化水素。
【0080】
このような促進剤は、リン酸塩処理浴の成分として当技術分野でよく知られており、金属表面への酸の浸食によって形成された水素を直接酸化するという点で「水素捕捉剤(scavengers)」の機能を果たし、そうすることでそれ自体が還元される。均質な結晶性リン酸亜鉛層の形成は、金属表面でのガス状水素の形成を防止する促進剤によって著しく促進される。
【0081】
本発明の方法のリン酸亜鉛処理組成物は、前述の亜鉛イオンおよびリン酸イオンと同様に、以下のアニオンのうちの少なくとも1種をさらに含んでよい:
- 0~2g/lの硫酸塩、
- 0.01~500mg/l(ニッケルを含まないリン酸亜鉛処理組成物の場合)または0.01~20g/l(ニッケルを含有するリン酸亜鉛処理組成物の場合)の硝酸塩。
【0082】
ニッケル含有リン酸塩処理で慣例的な最大で5g/lの、好ましくは最大で3g/lの硝酸塩の割合は、鋼の表面および亜鉛めっきおよび合金亜鉛めっき鋼の表面で結晶性の均質な連続したリン酸塩層の形成を促進する。
【0083】
しかしながら、ニッケルを含まないリン酸塩処理の場合、硝酸塩による層形成反応の促進が重要である。そのようなニッケルを含まないリン酸塩処理は、より低いコーティング質量をもたらし、特に、結晶へのマンガンの取り込みを低減させる。しかしながら、リン酸塩コーティングはニッケル含有量がゼロであるので、低すぎるリン酸塩コーティングのマンガン含有量は、そのアルカリ耐性を犠牲にしている。
【0084】
アルカリ耐性は、今度は、後続のカソード電着コーティング中に重要な役割を果たす。この方法では、基材の表面で水の電気分解が起こり、水酸化物イオンが形成される。その結果、基材界面でpHが上昇する。これにより、まず第1に電着コーティングの凝集および堆積が可能になる。しかし上昇したpHは結晶性リン酸塩層を損傷する可能性もある。
【0085】
実験により、本発明の水性リン酸塩処理組成物を用いて製造した結晶性リン酸亜鉛層の腐食保護および塗装付着性は、以下のカチオンのうちの1種以上がさらに存在するときに改善されることが示された:
- 0.3~2g/l、好ましくは0.5~1.5g/lのマンガン(II)、
- 0.3~2g/l、好ましくは0.8~1.2g/lのニッケル(II)、
- 0.001~0.2g/l、好ましくは0.005~0.1g/lの鉄(III)。
【0086】
第1に、鉄(III)カチオンは、鋼上で、および亜鉛および亜鉛合金上で、腐食保護を改善する。第2に、鉄(III)カチオンは、対応するリン酸塩処理浴の安定性を改善する。鉄(III)カチオンの添加により、より容易にろ過することができるスラッジフロックが生成され、浴からクリオライトをより簡単に取り除くことができるようになる。
【0087】
トリカチオン性リン酸塩処理溶液として、亜鉛イオンだけでなくマンガンイオンおよびニッケルイオンを両方とも含む化成処理用の水性組成物は、リン酸塩処理の分野で当業者に知られており、本発明の文脈においてもよく適している。
【0088】
リン酸塩層に組み込まれている、またはリン酸塩層の結晶成長に好影響を少なくとも有する前述のカチオンと同様に、本発明の方法の工程(I)におけるリン酸塩処理溶液は、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンと同様に、任意に、遊離酸含有量を調整するためにリン酸塩処理溶液中に移行するアンモニウムイオンも含む。
【0089】
工程(I)と工程(II)との間の水すすぎ操作は必須である。それは、そうでなければリン酸塩処理組成物中に存在するリン酸イオンおよび金属カチオンが不動態化浴に同伴されるからである。これは、制御が困難な浴パラメータの変化、および難溶性リン酸塩としてのチタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムの析出をもたらす。
【0090】
水すすぎ操作は、1回の水すすぎか、または総計で少なくとも2回の水すすぎでよい。
【0091】
各水すすぎは、完全な脱塩水または水道水を用いて行ってよい。各場合とも、少なくとも1種の界面活性剤が存在してもよい。
【0092】
工程(I)のリン酸塩処理浴の成分で富化されたすすぎ水を後処理した後、リン酸塩処理浴内へ成分を選択的に再循環させてよい。
【0093】
複合金属構造体は、工程(I)において処理し、およびすすぎ、工程(II)において溶液の浸漬または噴霧施与により酸性不動態化組成物と接触させる。
【0094】
方法の工程(II)では、本発明により、複合金属構造体を酸性不動態化組成物と接触させることによって、アルミニウム表面上に不動態化層が形成され、不動態化組成物との接触中に、鋼表面または亜鉛めっきおよび/または合金亜鉛めっき鋼表面上のリン酸亜鉛層は、50%以下程度まで、好ましくは20%以下程度まで、より好ましくは10%以下程度まで溶解する。本発明の文脈において、アルミニウムの不動態層は、連続的な結晶性リン酸塩層を形成しない無機または混合無機-有機薄膜コーティングを不動態化させていると考えられる。
【0095】
酸性不動態化組成物の2.0~5.5、好ましくは2.5~5.5、より好ましくは3.0~5.5、および最も好ましくは3.5~5.5の範囲にあるpHは、鋼表面または亜鉛めっきおよび/または合金亜鉛めっき鋼の表面上のリン酸亜鉛層の50%以下が溶解することを本質的に確実にするが、対応する複合金属構造体のアルミニウム表面の不動態層は、クロムを含まない酸性不動態化組成物によって典型的には生成される。
【0096】
不動態化組成物は、Mo、Cu、Ag、Au、Ti、Zr、Hf、Pd、Sn、Sb、Li、VおよびCeの金属イオンの水溶性化合物から選択される少なくとも1種の水溶性化合物を含む。水溶性化合物はそれぞれ、以下の好ましい、特に好ましい、および非常に特に好ましい範囲(それぞれ対応する金属として計算される)の濃度で存在する:
【表1】
【0097】
水溶性化合物中に存在する金属イオンは、対応する金属カチオン(例えば、モリブデンまたはスズ)を含む塩の形態で、好ましくは少なくとも2つの酸化段階で、より具体的にはオキシヒドロキシド、水酸化物、スピネルまたは欠陥スピネルの形態で、または処理される表面の元素の形態(例えば銅、銀、金またはパラジウムなど)で、堆積する。
【0098】
第1の好ましい実施形態において、不動態化組成物は、モリブデンイオンおよび任意のさらなる金属イオンを、それぞれ水溶性化合物の形態で含む。それらは、好ましくはモリブデート、さらに好ましくはアンモニウムヘプタモリブデート、および特に好ましくはアンモニウムヘプタモリブデート×7HOの形態で、不動態化組成物に添加する。モリブデンイオンも、ナトリウムモリブデートの形態で添加してよい。
【0099】
あるいは、モリブデンイオンは、例えば、塩化モリブデンなどのモリブデンカチオンを含む少なくとも1種の塩の形態で不動態化組成物に添加し、次いで適した酸化剤、例えば上記で先に記載した促進剤によって、モリブデートに酸化してもよい。このような場合、不動態化組成物自体が対応する酸化剤を含む。
【0100】
さらに好ましくは、不動態化組成物は、銅イオン、スズイオンまたはジルコニウムイオンと組み合わせたモリブデンイオンを含む。
【0101】
特に好ましくは、不動態化組成物は、ジルコニウムイオンと組み合わせたモリブデンイオンを含み、ポリマーまたはコポリマー、より具体的には、ポリアミン、ポリエチレンアミン、ポリアニリン、ポリイミン、ポリエチレンイミン、ポリチオフェンおよびポリピリロール、およびこれらの混合物、およびこれらのコポリマー、およびポリアクリル酸のポリマー種からなる群から選択されるポリマーまたはコポリマーも任意に含む。
【0102】
ここで、モリブデンイオンの含有量は、好ましくは20~225mg/l、より好ましくは50~225mg/l、および非常に好ましくは100~225mg/l(Moとして計算される)の範囲にあり、およびジルコニウムイオンの含有量は、好ましくは50~300mg/lの範囲、より好ましくは50~150mg/l(Zrとして計算される)の範囲にある。
【0103】
第2の好ましい実施形態において、不動態化組成物は、銅イオン、特に銅(II)イオン、および任意の他の金属イオンを、それぞれ水溶性化合物の形態で含む。好ましくは、その場合の不動態化組成物は、100~500mg/l、より好ましくは150~225mg/lの範囲の銅イオンの含有量を含む。
【0104】
特に好ましい実施形態では、不動態化組成物は、Ti、Zrおよび/またはHfを錯化した形態で、好ましくは、20~500mg/l、さらに好ましくは50~300mg/l、およびより好ましくは50~150mg/l(Ti、Zrおよび/またはHfとして計算される)の範囲の濃度で、および任意のさらなる金属イオンを、水溶性化合物の形態で含む。当該の錯体は好ましくは、フルオロ錯体であり、より好ましくはヘキサフルオロ錯体である。さらに、不動体化組成物は、好ましくは10~500mg/l、さらに好ましくは15~100mg/l、および特に好ましくは15~50mg/lの遊離フッ化物を含む。
【0105】
第1の非常に特に好ましい実施形態では、不動態化組成物は、錯化した形態の、特にフルオロ錯体としてのTi、Zrおよび/またはHfと同様に、モリブデン、銅、特に銅(II)、銀、金、パラジウム、スズおよびアンチモン、およびリチウムの金属イオン、好ましくはモリブデンおよび銅、特に銅(II)の金属イオンの水溶性化合物から選択される、さらなる少なくとも1種の水溶性化合物を含む。水溶性化合物はそれぞれ、以下の好ましい範囲の濃度で存在する(それぞれ対応する金属として計算される):
【表2】
【0106】
第2の非常に特に好ましい実施形態では、不動態化組成物は、錯化した形態の、特にフルオロ錯体としてのTi、Zrおよび/またはHfと同様に、さらなる少なくとも1種のオルガノシランおよび/または少なくとも1種のその加水分解生成物、すなわちオルガノシラノール、および/または少なくとも1種のその縮合生成物、すなわちオルガノシロキサン/ポリオルガノシロキサンを、好ましくは5~200mg/l、さらに好ましくは10~100mg/l、および特に好ましくは20~80mg/l(Siとして計算される)の範囲の濃度で含む。
【0107】
少なくとも1種のオルガノシランは、好ましくは少なくとも1個のアミノ基を有する。アミノプロピルシラノールおよび/または2-アミノエチル-3-アミノプロピルシラノールに加水分解することができるもの、および/またはビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンであるものが特に好ましい。
【0108】
第3の非常に特に好ましい実施形態では、不動態化組成物は、錯化した形態の、特にフルオロ錯体としてのTi、Zrおよび/またはHfと同様に、モリブデン、銅、特に銅(II)、銀、金、パラジウム、スズおよびアンチモン、およびリチウムの金属イオン、好ましくはモリブデンおよび銅、特に銅(II)の金属イオンの水溶性化合物から選択される、さらなる少なくとも1種の水溶性化合物、および少なくとも1種のオルガノシランおよび/または少なくとも1種のその加水分解生成物、すなわちオルガノシラノール、および/または少なくとも1種のその縮合生成物、すなわちオルガノシロキサン/ポリオルガノシロキサンを、好ましくは5~200mg/l、さらに好ましくは10~100mg/l、および特に好ましくは20~80mg/l(Siとして計算される)の範囲の濃度で含む。水溶性化合物はそれぞれ、以下の好ましい範囲の濃度で存在する(それぞれ対応する金属として計算される):
【表3】
【0109】
金属材料から組み立てられ、少なくともある程度までアルミニウム表面も有する複合金属構造体の防食処理のための本発明の方法は、金属表面の洗浄および活性化の後、まず表面と工程(I)におけるリン酸亜鉛処理組成物とを、例えば噴霧法または浸漬法によって20~65℃の範囲の温度で施与様式に適合した期間、接触させることによって実施する。実験により、従来の浸漬リン酸塩処理法における亜鉛めっきおよび/または合金亜鉛めっき鋼の表面の点形成が特に顕著であることが示された。よって本発明の方法の工程(I)におけるリン酸塩処理は、特に、浸漬法の原理により稼働しているリン酸塩処理施設に対して適している。それは、本発明の方法において点形成が抑えられるからである。
【0110】
工程(I)でリン酸亜鉛処理組成物で処理する前に、複合金属構造体をまず洗浄し、特に脱脂することが有利である。この目的のために、酸性、中性、アルカリ性または強アルカリ性の洗浄組成物を使用することが特に可能であるが、任意にさらに酸性または中性の酸洗い組成物を使用することも可能である。
【0111】
ここでアルカリ性または強アルカリ性の洗浄組成物は、特に有利であることが見出された。
【0112】
水性洗浄組成物は、少なくとも1種の界面活性剤と同様に、洗剤ビルダーおよび/または他の添加剤、例えば錯化剤を任意に含んでもよい。活性化洗剤を使用することも可能である。
【0113】
洗浄/酸洗い後に次いで、複合金属構造体を有利には水で少なくともすすぐ。その場合、水は、水溶性添加剤、例えば亜硝酸塩または界面活性剤などと任意に混合されていてもよい。
【0114】
工程(I)でリン酸亜鉛処理組成物を用いて複合金属構造体を処理する前に、活性化組成物で複合金属構造体を処理することが有利である。活性化組成物の目的は、亜鉛および鉄で作られた部分の表面上に種結晶として超微細なリン酸の粒子を多数堆積させることである。これらの結晶は、後続の方法工程で、リン酸塩処理組成物と接触している亜鉛および鉄でできた部分に、極めて多数の密に配置された微細なリン酸塩結晶を有する特に結晶性リン酸塩層、またはほぼ連続したリン酸塩層が、好ましくは間のすすぎなしで、形成されるのに役立つ。
【0115】
この場合に企図される活性化組成物は、特に、リン酸チタンまたはリン酸亜鉛をベースとする酸性またはアルカリ性組成物を含む。
【0116】
しかしながら、洗浄組成物中に活性化剤、特にリン酸チタンまたはリン酸亜鉛を添加すること、換言すれば、洗浄および活性化を一工程で実施することも有利である。
【0117】
工程(II)に続くさらなる工程では、複合金属構造体にプライマーコーティングを、好ましくは有機浸漬コーティング、特に電着コーティングを、好ましくは本発明により処理した構成要素を予めオーブン乾燥させることなく、提供してよい。プライマーコーティングの後に、パウダーコーティングまたはウェットコーティングであってよいトップコーティングを施与することが可能である。
【0118】
本発明はさらに、アルミニウムで作られた部分を含む複合金属構造体における鋼、亜鉛めっき鋼および/または合金亜鉛めっき鋼表面の選択的リン酸塩処理のためのリン酸亜鉛処理組成物に関し、そのリン酸亜鉛処理組成物が、KClが添加された遊離酸の少なくとも0.6ポイントのポイント数、および好ましくは2.5~3.5の範囲のpH、および
(a) Pとして計算して5~50g/lのリン酸イオン、
(b) 0.3~3g/lの亜鉛イオン、
(c) 少なくとも5mg/lであるが200mg/l以下の遊離フッ化物、および
(d) 少なくとも0.04g/lであるが3.2g/l以下のBFとして計算される水溶性無機化合物の形態のホウ素
を有し、
そのリン酸亜鉛処理組成物が、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンおよびアルミニウムイオンの含有量をさらに含む。
【0119】
好ましくは、遊離フッ化物含有量は、10~200mg/l、さらに好ましくは20~175mg/l、さらに好ましくは20~150mg/l、さらに好ましくは20~135mg/l、さらに好ましくは20~120mg/l、特に好ましくは50~120mg/l、および非常に特に好ましくは70~120mg/lの範囲にある。
【0120】
驚くべきことに、複合金属構造体の表面でのクリオライトの析出と、チタン、ジルコニウムおよび/またはハフニウムによるリン酸塩処理浴の被毒との両方が、リン酸亜鉛処理組成物の無次元商
(A値×T)/(Ftot.×[B]×1000)
(式中、「T」は温度/℃、「Ftot.」は総フッ化物含有量/(mol/l)、および「[B]」は元素ホウ素の濃度/(mol/l)を表す)が、0.13~22.5、好ましくは0.2~15、およびより好ましくは0.4~10の範囲にあるときに、特に効率的に低減できることが見出された。
【0121】
好ましい変形形態では、本発明のリン酸亜鉛処理組成物は、元素のジルコニウム、チタンおよび/またはハフニウムに基づいて、総計で20ppm以下、好ましくは15ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下、および最も好ましくは1ppm以下のジルコニウム、チタンおよび/またはハフニウムの水溶性化合物を含み、および特にジルコニウム、チタンおよび/またはハフニウムの水溶性化合物を含まない。
【0122】
本発明のリン酸亜鉛処理組成物のさらに有利な構成は、本発明の方法において上記で既に明確にされている。
【0123】
本発明はまた、適した溶媒および/または分散媒で、好ましくは水で希釈し、および任意にpHを調整することによって本発明のリン酸亜鉛処理組成物を得ることができる、濃縮物に関する。
【0124】
ここでの希釈倍数は、好ましくは2~100、好ましくは5~50である。
【0125】
最後に、本発明は、アルミニウムの少なくとも一部分と、亜鉛の少なくとも一部分と、任意の鉄のさらなる部分とを含み、本発明の方法によって得ることができる、腐食保護された複合金属構造体に関する。
【0126】
本発明の方法により腐食から保護された複合金属構造体は、対応して、自動車用の供給者産業に、自動車製造の車体構造に、農業用機械構造に、造船に、建設部門または白物製品の製造に、使用方法を見出す。
【0127】
本発明を、以下の非限定的な実施例および比較例によって説明する。
【実施例0128】
水性リン酸亜鉛処理溶液を作成した。そのそれぞれは、1.1ポイントのKClを添加した遊離酸のポイント数、19.5ポイントのフィッシャー総酸、0.056のA値、および2.5~3.5の範囲のpHを有していた。前記リン酸塩処理溶液はニッケルを含まず、それぞれがPとして計算して15g/lのリン酸イオン、0.8g/lの亜鉛イオン、1.0g/lのマンガンイオン、様々な量の遊離フッ化物(表1参照)、BFの形態のBFとして計算した1.0g/lのホウ素、および34mg/lの過酸化水素促進剤を含んでいた。リン酸塩処理溶液を45℃の温度にした。
【0129】
洗浄したアルミニウムの試験シート(AA6016)それぞれに、1種のリン酸塩処理溶液を均一に噴霧し、すすいで、Zrとして計算した150mg/lのHZrFを含む酸性の水性不動態化組成物に室温で30秒間浸漬した。シートは予めオーブン乾燥させずに電着コーティングを施し、最後にウェットコート(標準の自動車塗装構造)を施した。
【0130】
試験シートを、DIN EN ISO9227、2017-07による144時間のCASS試験、およびDIN EN3665、1997-08による1008時間の糸状試験に供した。腐食結果を下の表にまとめる(Ffree=遊離フッ化物含有量)。
【0131】
【表4】
【0132】
表1に示されるように、リン酸塩処理溶液中の遊離フッ化物含有量を低下させると、CASS試験および糸状試験の両方において、アルミニウムに対する腐食が明確に低減される。
【0133】
出願者は、顧客の操作中のリン酸亜鉛処理浴から2.2年の期間にわたり、多様な遊離フッ化物含有量で試料を採取し、遊離フッ化物(Ffree)およびジルコニウム(Zr)の含有量を決定した。この目的のため、フッ化物選択電位差測定組み合わせ電極を使用し、またはICP(誘導結合プラズマ)分析を行った。
【0134】
表2から明らかなように、遊離フッ化物含有量の減少(いくつかの場合に時間遅延があるが(10~26か月を参照))は、浴中のジルコニウム含有量の減少を伴った。逆に、遊離フッ化物含有量の増加(いくつかの場合に時間遅延があるが(4.5~14.5か月を参照))は、浴中のジルコニウム含有量の増加を伴った。よって遊離フッ化物含有量が低いと、ジルコニウムによる浴被毒が減少した。
【0135】
【表5】
【0136】
水性リン酸亜鉛処理溶液(ZPSNo.1~8)を作成した。そのそれぞれは、1.5ポイントのKClを添加した遊離酸のポイント数を有していた。前記リン酸塩処理溶液はニッケルを含まず、それぞれPとして計算した15g/lのリン酸イオン、0.8g/lの亜鉛イオン、1.0g/lのマンガンイオン、100mg/lの遊離フッ化物、および様々な量のナトリウムおよびカリウムイオン、およびテトラフルオロボレートまたはヘキサフルオロシリケートのどちらかを含んでいた。リン酸塩処理溶液を45℃の温度にし、ビーカー内で攪拌棒を用いて中程度の速度で攪拌した。ICP分析により、アルミニウム、ケイ素およびホウ素の溶解濃度を、開始時(0時間)および24時間後に決定した。溶解したアルミニウムの濃度が低下したとき、これはクリオライトの形態での析出に起因していた。対照的に、溶解したケイ素の濃度が低下した場合、これはKSiFの形態での析出に基づいていた。
【0137】
表3から明らかであるように、5.0g/lのナトリウムイオンの含有量により、溶解したアルミニウムの濃度の減少、すなわち、クリオライト(ZPS2および6)の析出が生じた。テトラフルオロボレート(ZPS2)の存在下におけるクリオライト析出は、ヘキサフルオロシリケート(ZPS6)の場合よりもやや顕著ではなかった。同じことが、2.5g/lのナトリウムイオン、および2.5g/lのカリウムイオンの含有量にも当てはまる(ZPS4とZPS8との比較)。対照的に、2.5g/lのナトリウムイオン(ZPS1および5)または5.0g/lのカリウムイオン(ZPS3および7)の含有量の場合、クリオライト析出はなかった。
【0138】
ヘキサフルオロシリケートの場合、カリウムイオンの存在下において、溶解したケイ素の濃度の減少、すなわちKSiF(ZPS7および8)の析出があった。テトラフルオロボレートの対応する析出の形成を検出することはできなかった。これに対応して、ここでは溶解したホウ素の濃度の減少はなかった(ZPS3および4)。
【0139】
【表6】
【外国語明細書】