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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026217
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】ペプチド化合物およびその治療的用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20240220BHJP
   C07K 5/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C07K5/00
A61K38/08
A61P43/00 105
A61P29/00
A61P37/02
A61P27/02
A61P9/10
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201767
(22)【出願日】2023-11-29
(62)【分割の表示】P 2020573032の分割
【原出願日】2019-07-10
(31)【優先権主張番号】260555
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(71)【出願人】
【識別番号】520453412
【氏名又は名称】イミュニティ ファルマ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IMMUNITY PHARMA LTD.
【住所又は居所原語表記】28 Meron Street, Mevasseret Zion, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オヴァディア エラン
(72)【発明者】
【氏名】ベン-シモン アヴィ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】正常組織における細胞性および免疫性のストレス応答を、特異的、安全且つ効果的に弱め、ストレス関連変性疾患およびストレス誘導性炎症性疾患の重症度を低減することのできる、新規組成物を提供する。
【解決手段】長さが6アミノ酸以下であり、特定のアミノ酸配列を含み、マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる、単離したペプチド、並びに該ペプチドを活性成分として含み、生理学的に許容される担体をさらに含む、医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さが6アミノ酸以下であり、配列番号3、配列番号7または配列番号20に示したアミノ酸配列を含み、マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる、単離したペプチド。
【請求項2】
配列番号3、配列番号7または配列番号20に示したアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の単離したペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドがステープルペプチドである、請求項1または2に記載の単離したペプチド。
【請求項4】
アポトーシス関連疾患の治療用である、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離したペプチド。
【請求項5】
前記アポトーシス関連疾患が炎症性または変性疾患である、治療用の請求項4に記載の単離したペプチド。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載のペプチドを活性成分として含み、生理学的に許容される担体をさらに含む、医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2018年7月11日出願のイスラエル国特許出願第260555号の優先権を主張するものであり、この特許出願の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
配列表の記載
本願の出願と同時に提出された、2019年7月7日作成の8,069,120バイトのASCIIファイル「77809 Sequence Listing.txt」を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0003】
本発明は、その幾つかの実施形態において、炎症性疾患および自己免疫疾患を治療するための組成物およびそれを用いる方法に関する。
【背景技術】
【0004】
正常組織における細胞性および免疫性のストレス応答を、特異的、安全且つ効果的に弱め、ストレス関連変性疾患およびストレス誘導性炎症性疾患の重症度を低減することのできる、新規組成物に対する満たされぬ需要が存在する。
【0005】
ペプチドLPPLPYP(配列番号2、ストレシン-1(Stressin-1)およびIPL344としても知られている)は、様々な種類の細胞をアポトーシス促進性の圧力から保護し、Aktシグナル伝達システムを活性化する短い7アミノ酸のペプチドである。IPL344の構造はアダプタータンパク質の結合部位に類似している。その作用機序は、そのようなタンパク質を模倣し、場合によっては他の経路によって、Aktを介して細胞保護プロセスを活性化することを含むと思われる。
【0006】
国際公開第2006/021954号及び第2012/160563号には、炎症性疾患及び自己免疫疾患(ALS等)を治療するためのLPPLPYP(配列番号2)ペプチドの使用が開示されている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、長さが10アミノ酸以下の単離したペプチドであって、
式: X-X-X-X-X-X(配列番号17)で表されるアミノ酸配列を含み、
(i)Xがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、
(ii)Xがプロリン、あるいはそのアナログであり、
(iii)Xがアラニン、バリン、ロイシン、システイン、イソロイシン、メチオニン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群より選ばれるものであり、
(iv)Xがアラニン、バリン、セリン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群から選ばれるものであり、
(v)Xが任意のアミノ酸であり、
(vi)Xがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、且つ
(vii)マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる、単離したペプチドが提供される。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、長さが6アミノ酸以下の単離したペプチドであって、
式: X-X-X-X-X(配列番号1)で表されるアミノ酸配列を含み、
(i)Xがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、
(ii)Xがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、
(iii)Xがアラニン、バリン、ロイシン、システイン、イソロイシン、メチオニン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群より選ばれるものであり、
(iv)Xがアラニン、バリン、セリン、プロリン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群より選ばれるものであり、
(v)Xが任意のアミノ酸であり、且つ
(vi)マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる、単離したペプチドが提供される。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、長さが5アミノ酸の単離したペプチドであって、
式: X-X-X-X-X(配列番号5)で表されるアミノ酸配列からなり、
(i)XおよびX3が任意のアミノ酸であり、
(ii)Xがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、
(iii)Xがプロリンではなく、
(iv)マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる、単離したペプチドが提供される。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、長さが7アミノ酸の単離したペプチドであって、
式: X-X-X-X-X-X-X(配列番号6)で表されるアミノ酸配列からなり、
(i)X、XおよびXが任意のアミノ酸であり、
(ii)X、XおよびXがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、
(iii)Xがプロリンではなく、且つ
(iv)マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる、単離したペプチドが提供される。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、請求項1~27のいずれか一項に記載のペプチドを活性成分として含み、生理学的に許容される担体をさらに含む医薬組成物が提供される。
【0012】
本発明の実施態様によれば、前記プロリンの誘導体は、N-メチルプロリン、アルファ-メチルプロリンおよびα-アミノ酪酸からなる群より選ばれるものである。
【0013】
本発明の実施態様によれば、ペプチドは長さ6アミノ酸である。
【0014】
本発明の実施態様によれば、ペプチドはXのN末端に結合したアミノ酸を含み、前記アミノ酸が、アラニン、バリン、ロイシン、システイン、イソロイシン、メチオニン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群より選ばれるものである。
【0015】
本発明の実施態様によれば、前記XのN末端に結合したアミノ酸は、ロイシン、あるいはその誘導体またはアナログである。
【0016】
本発明の実施態様によれば、前記XのN末端に結合したアミノ酸がD-アミノ酸である。
【0017】
本発明の実施態様によれば、ペプチドは長さ7アミノ酸である。
【0018】
本発明の実施態様によれば、式中のXはアラニン、あるいはそのアナログまたは誘導体である。
【0019】
本発明の実施態様によれば、式中のXはチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群から選ばれるものである。
【0020】
本発明の実施態様によれば、Xはチロシンである。
【0021】
本発明の実施態様によれば、単離したペプチドは配列番号4に示したアミノ酸配列を含む。
【0022】
本発明の実施態様によれば、単離したペプチドは配列番号4に示したアミノ酸配列からなる。
【0023】
本発明の実施態様によれば、ペプチドは配列番号18に示したアミノ酸配列を含む。
【0024】
本発明の実施態様によれば、ペプチドは配列番号18に示したアミノ酸配列からなる。
【0025】
本発明の実施態様によれば、単離したペプチドは長さ5アミノ酸である。
【0026】
本発明の実施態様によれば、式中のXはアラニン、プロリン、アラニンの誘導体またはアナログ、およびプロリンの誘導体またはアナログからなる群より選ばれるものである。
【0027】
本発明の実施態様によれば、前記プロリンの誘導体またはアナログは、N-メチルプロリン、アルファ-メチルプロリンおよびα-アミノ酪酸からなる群より選ばれるものである。
【0028】
本発明の実施態様によれば、アミノ酸配列は配列番号3に示した配列を含む。
【0029】
本発明の実施態様によれば、単離したペプチドは配列番号3、配列番号7、または配列番号18に示したアミノ酸配列からなる。
【0030】
本発明の実施態様によれば、Xはロイシンである。
【0031】
本発明の実施態様によれば、Xおよび/またはXはD-アミノ酸である。
【0032】
本発明の実施態様によれば、ペプチドはステープルペプチドである。
【0033】
本発明の実施態様によれば、ペプチドは環状ペプチドである。
【0034】
本発明の実施態様によれば、配列の順番は逆転しており、且つすべてのアミノ酸はD型である。
【0035】
本発明の実施態様によれば、ペプチドは細胞浸透性部分(cell penetrating moiety)に結合している。
【0036】
本発明の実施態様によれば、細胞浸透性部分はペプチドのN末端に結合している。
【0037】
本発明の実施態様によれば、ペプチドは炎症性疾患または変性疾患の治療用である。
【0038】
本発明の実施態様によれば、アポトーシス関連疾患は炎症性疾患または変性疾患である。
【0039】
本発明の実施態様によれば、炎症性疾患は自己免疫疾患である。
【0040】
本発明の実施態様によれば、変性疾患は神経変性疾患である。
【0041】
本発明の実施態様によれば、アポトーシス関連疾患は加齢黄斑変性(AMD)、網膜色素変性、発作および心筋梗塞からなる群より選ばれるものである。
【0042】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術および/または科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様のまたは等価な方法および材料を、本発明の実施形態の実践または試験に使用することができるが、例示的な方法および/または材料を下記に記載する。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が優先する。加えて、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態について、添付の図面に参照し、例示のみを目的として本明細書に記載する。ここで図面に詳細に参照するが、示す細部は例示であり、本発明の実施形態の詳細な説明を目的とすることを強調する。同様に、図面と共に説明を見ることで、本発明の実施形態をどのように実践し得るかが当業者には明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、脾臓重量、脾臓細胞数、胸腺重量および胸腺細胞数に対する例示的ペプチドの効果を示すグラフである。スクリーニングに使用したペプチドは、PPLPY(配列番号3)、LPPLAYP(配列番号4)、PLPYP(配列番号9)、PPL(配列番号10)、PLP(配列番号11)、PYP(配列番号12)、LPGLPYP(配列番号13)、LPPLGYP(配列番号14)、LAPLPYP(配列番号15)、LPALPYP(配列番号16)である。
図2図2は、脾臓重量、脾臓細胞数、胸腺重量および胸腺細胞数に対する例示的ペプチドの効果を示すグラフである。スクリーニングに使用したペプチドは、LPPLPYP(配列番号2、対照)、PPLAYP(配列番号18)、LPPLPY(配列番号7)、LPPLAYP(配列番号4)、PPLPY-NH2(配列番号19)、PPLPY(配列番号3)である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、その幾つかの実施形態において、炎症性疾患および自己免疫疾患を治療するための組成物およびそれを用いる方法に関する。
【0046】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、必ずしもその用途が、以下の記載に示す、および/または図面および/または実施例で例示する、構成の詳細および要素の配置および/または方法に限定されるものではないことを理解するべきである。本発明は、他の実施形態が可能であり、また、さまざまな手段で実施または実行することが可能である。
【0047】
ペプチド結合は、ほぼ独占的に、ねじれ角オメガが180°であるトランス立体配座に見いだされ、一方、オメガ角が0°付近のシス立体配座には、非常に限られた量しか見られない。トランス/シス立体配座間のエネルギーバリアは約20[kcal/mol]であり、トランス異性体は~2.5[kcal/mol]エネルギー的に好ましい。20種の標準的なアミノ酸のうち、プロリンは特別な役割を担う。直前のアミノ酸残基とのプロリンペプチド結合(Xaa-Pro、Xaaは任意のアミノ酸)は、アミド基の水素を欠くため、このペプチド結合は水素結合ドナーとして機能することはできず、エネルギーバリアのみならず、エネルギーギャップが、それぞれ、~13および~0.5[kcal/mol]に顕著に減少され[2]、トランス/シス平衡がシス立体配座側にシフトされる。プロリンのトランス/シス異性体化過程に関連したオメガ角の大きな変化(0から180)は、分子内および分子間の相互作用によって調整され、ポリペプチド鎖の構造活性関係に劇的な影響を与える。よってプロリンの異性体化は、多くの生物学的プロセスの活性の制御において、重要な成分として出現する。これは、直前の残基によっては立体配座集団の30%超をシス立体配座が占めることのできる短いペプチドにおいて特に顕著である。
【0048】
多立体配座プロリン効果は、さらにペプチドのN末端から2番目の残基に位置するプロリン残基(末端から2つ目のプロリン)についても明確に知られている。末端から2つ目のプロリンを含有するペプチドからの第1のN末端残基の切断は、通常、ペプチドの立体配座の変化をもたらす58個のペプチドのデータセットにおいては、80%近くのペプチドがこの効果を示した[Glover, M.S., et al., 2014 J Am Soc Mass Spectrom. 26(3): p. 444-5]。
【0049】
IPL344およびストレシン-1としても知られる、多プロリンペプチドであるLPPLPYP(配列番号2)は、種々の細胞をアポトーシス促進性圧力から保護し、Aktシグナル伝達系を活性化する短い7アミノ酸のペプチドである。これは炎症性および自己免疫性の疾患の治療候補である。
【0050】
プロリンのデリケートな立体配座的特徴を考慮し、本願発明者らは、LPPLPYP(配列番号2)ペプチド中の4個のプロリン残基のすべてにおいて、トランスプロリン立体配座がそれらの機能性を独占するか否かについての調査を開始した。驚くべきことに、本願発明者らは、末端から2つ目のプロリンをアラニンに置換したペプチド(配列番号4)は、マウスにおいてデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を有意に低下させる(図1)ことを見出した。全く対照的に、末端から2つ目のプロリンのグリシンへの置換は、この活性を持たないペプチドをもたらした。
【0051】
さらに本発明を実用化するために検討した結果、本願発明者らは、配列番号2の第1および最後のアミノ酸の除去も、マウスにおいてデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を有意に低下させるペプチド(配列番号3に示した配列を有するもの)をもたらすことを見出した。
【0052】
本願発明者らは、配列番号3および4に基づく短いペプチドは、炎症性および自己免疫性の疾患に対して治療効果が約束されたものであると結論付けた。
【0053】
さらに本発明を実用化するために検討した結果、本願発明者らは、配列番号17に示す式に準拠したさらなるペプチド(配列番号18)が、マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量の低下に対して有意な改善をもたらすことを見出した(図2参照)。
【0054】
本願発明者らは、開示する一般式のいずれかに該当する例示的なペプチが、基礎ペプチド(配列番号2)と比べて、マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量の低下に対して有意な改善を示すことをさらに明らかにした。
【0055】
本明細書では、用語「ペプチド」は、天然または合成アミノ酸のポリマーを意味し、本来の(native)ポリペプチド(例えば、分解産物、化学合成(synthetically synthesized)されたポリペプチドおよび/または組換えポリペプチド)と共に、ペプチド模倣体(典型的には、化学合成ペプチド)並びにポリペプチドアナログであるペプトイドおよびセミペプトイドなどの、例えば、ペプチドを、体内中でより安定にするか、または細胞に浸透しやすくするような修飾を有するものも包含する。
【0056】
本発明には、(ペプチド性骨格への化学的変更なしの、アミノ酸側鎖への修飾および/または化学的官能基の付加を有する)誘導体、および(ペプチド性骨格内の修飾および/または化学的官能基の付加、例えば、N末端またはC末端修飾、ペプチド結合修飾、「誘導体」とは定義されないアミノ酸修飾を有する)アナログ、他の分子種、例えば、金属イオン(例えば、銅、亜鉛、マンガン、マグネシウムなど)との複合体も含まれる。
【0057】
そのような修飾としては、N末端修飾、C末端修飾、ポリペプチド結合修飾、が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、さらには、CH2-NH、CH2-S、CH2-S=O、O=C-NH、CH2-O、CH2-CH2、S=C-NH、CH=CHまたはCF=CH、骨格修飾および残基修飾が含まれるが、これらに限定されるものではない。ペプチド模倣化合物を製造するための方法は、当業界で周知であり、例えば、Quantitative Drug Design, C.A. Ramsden Gd., Chapter 17.2, F. Choplin Pergamon Press (1992)に特定されている。この文献の記載は、ここに完全に記載されたのと同等に、本参照をもって本願に組み込まれたものとする。これに関するさらなる詳細は、本明細書に記載される。
【0058】
ポリペプチド内のポリペプチド結合(-CO-NH-)を、例えば、Nメチル化アミド結合(-N(CH3)-CO-)、エステル結合(-C(=O)-O-)、ケトメチレン結合(-CO-CH2-)、α-アザ結合(-NH-N(R)-CO-)(式中、Rは、任意のアルキル(例えば、メチル)である)、カルバ結合(-CH2-NH-)、ヒドロキシエチレン結合(-CH(OH)-CH2-)、チオアミド結合(-CS-NH-)、オレフィン二重結合(-CH=CH-)、レトロアミド結合(-NH-CO-)、ペプチド誘導体(-N(R)-CH2-CO-)(式中、Rは、炭素原子上に天然に存在する「通常の」側鎖である)に置換してもよい。
【0059】
これらの修飾は、ポリペプチド鎖に沿った結合のどこで生じてもよく、同時に複数(2~3個)の結合を生じてもよい。
【0060】
天然の芳香族アミノ酸であるTrp、TyrおよびPheを、フェニルグリシンのアナログ、TIC、ナフチルアラニン(naphthylelanine)(Nol)、Pheの環メチル化誘導体、Pheのハロゲン化誘導体またはO-メチル-Tyrなどの合成非天然芳香族アミノ酸に置換してもよい。
【0061】
プロリンは、誘導体であるN-メチルプロリン、アルファ-メチルプロリンおよびアナログであるα-アミノ酪酸等の合成非天然アミノ酸に置換してもよい。
【0062】
他の非天然アミノ酸は下記の表2にまとめた。
【0063】
上記に加えて、本発明のポリペプチドは、1つもしくは複数の修飾アミノ酸または1つもしくは複数の非アミノ酸モノマー(例えば、脂肪酸、複合糖質など)を含んでもよい。
【0064】
本願明細書および特許請求の範囲において、用語「アミノ酸」または「複数のアミノ酸」は、20種の天然に存在するアミノ酸(多くの場合、in vivoで翻訳後修飾を受けた、例えば、ヒドロキシプロリン、ホスホセリンおよびホスホトレオニン)、ならびに他の異常アミノ酸(これらに限定されるものではないが、2-アミノアジピン酸、ヒドロキシリシン、イソデスモシン、ノルバリン、ノルロイシンおよびオルニチンなど)を含むと理解されたい。さらに、用語「アミノ酸」は、D-アミノ酸とL-アミノ酸の両方(立体異性体)を含む。
【0065】
以下の表1および表2は、本発明のいくつかの態様と共に用いることができる、天然に存在するアミノ酸(表1)、および非在来性(non-conventional)または修飾されたアミノ酸(表2)を列挙する。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2-1】
【0068】
【表2-2】
【0069】
【表2-3】
【0070】
本発明のペプチドのアミノ酸は、保存的に、または非保存的に置換されていてもよい。
【0071】
本明細書に記載の「保存的置換」という用語は、ペプチドの本来(native)の配列に存在するアミノ酸を、天然または非天然アミノ酸模倣体または同様の立体特性を有するペプチド模倣体で置換することを意味する。置換されるべき本来のアミノ酸の側鎖が極性または疎水性である場合には、保存的置換は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、あるいは(置換されたアミノ酸の側鎖と同じ立体特性を有することに加えて)極性または疎水性であるペプチド模倣体部分との置換であるべきである。
【0072】
天然アミノ酸は一般に、その特性に従って分類されることから、本発明においては、立体的に類似した非荷電アミノ酸による荷電アミノ酸の置換は保存的置換であるとみなすことを考慮すると、天然アミノ酸による保存的置換を容易に決定することができる。
【0073】
非天然アミノ酸による保存的置換を行うために、当技術分野でよく知られているアミノ酸類似体(合成アミノ酸)を使用することも可能である。天然アミノ酸のペプチド模倣体は、当業者に公知の文献に十分に記述されている。
【0074】
保存的置換を起こす場合、置換するアミノ酸は、側鎖に元のアミノ酸と同じまたは類似の置換基を有さなければならない。
【0075】
本明細書で使用される「非保存的置換」という語句は、親配列に存在するアミノ酸が、異なる電気化学特性および/または立体特性を有する、他の天然アミノ酸または非天然アミノ酸によって置換されることを意味する。したがって、置換するアミノ酸の側鎖は、置換される本来のアミノ酸の側鎖よりも著しく大きく(または小さく)かつ/または置換されるアミノ酸と比べて著しく異なる電子特性を有する官能基を有し得る。このタイプの非保存的置換の例としては、アラニンのフェニルアラニンまたはシクロヘキシルメチルグリシンによる置換、グリシンのイソロイシンによる置換、またはアスパラギン酸の-NH-CH[(-CH-COOH]-CO-による置換が挙げられる。本発明の範囲内であるこれらの非保存的置換は、抗菌性を有するペプチドを依然として構成する置換である。
【0076】
上記のように、本発明のペプチドのNおよびC末端は、官能基によって保護され得る。適切な官能基は、Green and Wuts, "Protecting Groups in Organic Synthesis", John Wiley and Sons, Chapters 5 and 7, 1991に記述されており、本参照をもってその教示を本明細書に援用する。好ましい保護基は、例えば、化合物の親水性を低減し、化合物の親油性を高めることによって、それに結合した化合物の細胞内への輸送を促進する基である。
【0077】
これらの部分は、細胞内で加水分解または酵素によって、in vivoで切断される。ヒドロキシル保護基としては、エステル、カーボネートおよびカルバメート保護基が挙げられる。アミン保護基としては、N-末端保護基に関して上述したアルコキシおよびアリールオキシカルボニル基が挙げられる。カルボン酸保護基としては、C末端保護基に関して上述したの脂肪族、ベンジルおよびアリールエステルが挙げられる。一実施形態において、本発明のペプチドにおける1つまたは複数のグルタミン酸またはアスパラギン酸残基の側鎖のカルボン酸基は、好ましくはメチル、エチル、ベンジルまたは置換ベンジルエステルで保護される。
【0078】
N末端保護基の例としては、アシル基(-CO-R1)およびアルコキシカルボニルまたはアリールオキシカルボニル基(-CO-O-R1)(R1は、脂肪族、置換脂肪族、ベンジル、置換ベンジル、芳香族または置換芳香族基である)が挙げられる。アシル基の具体的な例としては、アセチル、(エチル)-CO-、n-プロピル-CO-、イソ-プロピル-CO-、n-ブチル-CO-、sec-ブチル-CO-、t-ブチル-CO-、ヘキシル、ラウロイル、パルミトイル、ミリストイル、ステアリル、オレオイルフェニル-CO-、置換フェニル-CO-、ベンジル-CO-および(置換ベンジル)-CO-が挙げられる。アルコキシカルボニルおよびアリールオキシカルボニル基の例としては、CH3-O-CO-、(エチル)-O-CO-、n-プロピル-O-CO-、イソ-プロピル-O-CO-、n-ブチル-O-CO-、sec-ブチル-O-CO-、t-ブチル-O-CO-、フェニル-O-CO-、置換フェニル-O-CO-およびベンジル-O-CO-、(置換ベンジル)-O-CO-、アダマンタン、ナフタレン、ミリストレイル、トルエン、ビフェニル、シンナモイル、ニトロベンゾイル、トルオイル、フロイル、ベンゾイル、シクロヘキサン、ノルボルナン、Z-カプロンが挙げられる。N-アシル化を促進するために、グリシン残基1~4個が分子のN末端に存在することができる。
【0079】
化合物のC末端のカルボキシル基は、例えばアミド(つまり、C末端のヒドロキシル基は、-NH、-NHRおよび-NRで置き換えられ)またはエステル(つまり、C末端のヒドロキシル基は、-ORで置き換えられる)によって保護することができる。RおよびRは独立して、脂肪族、置換脂肪族、ベンジル、置換ベンジル、アリールまたは置換アリール基である。さらに、RおよびRは窒素原子と一体となって、窒素、酸素または硫黄などの更なるヘテロ原子0~2個を有するC4~C8複素環式環を形成することができる。適切な複素環式環の例としては、ピペリジニル、ピロリジニル、モルホリノ、チオモルホリノまたはピペラジニルが挙げられる。C末端保護基の例としては、-NH、-NHCH、-N(CH、-NH(エチル)、-N(エチル)、-N(メチル)(エチル)、-NH(ベンジル)、-N(C1~C4アルキル)(ベンジル)、-NH(フェニル)、-N(C1~C4アルキル)(フェニル)、-OCH、-O-(エチル)、-O-(n-プロピル)、-O-(n-ブチル)、-O-(イソ-プロピル)、-O-(sec-ブチル)、-O-(t-ブチル)、-O-ベンジルおよび-O-フェニルが挙げられる。
【0080】
本発明のペプチドは、例えば、ペプチドに結合された疎水性部分(種々の直鎖状、分岐状、環状、多環式または複素環式炭化水素および炭化水素誘導体)などの非アミノ酸部分、非ペプチド透過剤、種々の保護基(特に、化合物が直鎖状であり、分解を低減するために化合物の末端に結合されるもの)も含み得る。種々の生理学的特性を向上させるために、化合物中に存在する化学(非アミノ酸)基を含めてもよく、このような向上とは、分解またはクリアランスの低減、種々の細胞ポンプによる斥力の低減、免疫原性活性の向上、様々な投与形式の向上(腸等の様々なバリアの通過を可能にする種々の配列の結合など)、特異性の向上、親和性の向上、毒性の低減などである。
【0081】
他の非アミノ酸剤への、本発明のペプチドのアミノ酸配列成分の結合は、以下のいずれかでもよい:共有結合による結合、非共有結合的な錯化による結合(例えば、分解または切断されて、徐放することができる化合物が生成される、疎水性ポリマーとの錯体形成)、リポソームまたはミセル内にペプチドのアミノ酸部分を封入して本発明の最終的なペプチドが生成されるようにする結合。これら会合(association)は、他の成分(リポソーム、ミセル)内にアミノ酸配列を封入すること、またはポリマー内にアミノ酸配列を含浸(impregnation)することによって、本発明の最終ペプチドが生成されるようにすることでもよい。
【0082】
特定の実施態様によると、ペプチドは細胞浸透性部分に結合している。
【0083】
本明細書において「細胞浸透性部分」という用語は、結合したペプチドの細胞膜を介した移動を促進する部分(例えば脂質(パルミチン酸等))を意味する。特定の実施態様においては、細胞浸透性部分はペプチド部分ではない。部分はN末端またはC末端に結合することができる。
【0084】
本発明のペプチドは直鎖状であっても環状であってもよい(環化は安定性を向上させ得る)。環化は、当技術分野で公知の手段によって行うことができる。その化合物が主にアミノ酸で構成される場合、環化は、N~C末端、N末端~側鎖およびN末端~主鎖、C末端~側鎖、C末端~主鎖、側鎖~主鎖および側鎖~側鎖を経ての環化、ならびに主鎖~主鎖の環化であり得る。ペプチドの環化は、ペプチドに含まれる非アミノ酸有機部位によって行うこともできる。
【0085】
本願発明者らはステープルペプチドについてもさらに想定した。
【0086】
本明細書において「ステープルペプチド」という用語は、選択した数の標準または非標準アミノ酸を有し、炭素-炭素結合の形成を促進する反応に参加可能な少なくとも2種の部分をさらに有するペプチドを意味する。当該炭素-炭素結合は試薬と接触した際に少なくとも2つの部分の間に少なくとも1つの架橋を形成して、例えば、ペプチドの安定性を調整する。
【0087】
本明細書において「ステープリング」という用語は、炭素-炭素結合の形成を促進する反応に参加可能な少なくとも2種の部分をペプチドに導入することであり、当該炭素-炭素結合は試薬と接触した際に少なくとも2つの部分の間に少なくとも1つの架橋を形成する。ステープリングは二次構造、例えば、アルファらせん構造、に対して制約を与える。所望の二次構造含有量の収率を改善するために架橋の長さと幾何学を最適化することができる。与えられる制約は、例えば、二次構造の展開を防止したり、および/または二次構造の形状を補強したりすることができる。展開することが妨げられた二次構造は、例えば、より安定になる。
【0088】
本発明のペプチドは、標準固相技術などを用いることによって生化学的に合成することができる。これらの技術としては、独占的(exclusive)固相合成、部分固相合成法、フラグメント縮合、古典的な液相合成が挙げられる。固相ポリペプチド合成手順は当技術分野でよく知られており、さらにJohn Morrow Stewart and Janis Dillaha Young, Solid Phase Polypeptide Syntheses (2nd Ed., Pierce Chemical Company, 1984)に記述されている。
【0089】
大規模なペプチド合成はAndersson Biopolymers 2000;55(3):227-50に記述されている。
【0090】
合成ペプチドは、分取高性能液体クロマトグラフィーによって精製することができ[Creighton T. (1983) Proteins, structures and molecular principles. WH Freeman and Co. N.Y.]、その組成はアミノ酸シークエンシングによって確認することができる。
【0091】
組換え技術を用いて、本発明のペプチドを産生してもよい。組換え技術を用いて本発明のペプチドを産生するために、宿主細胞における本発明のポリペプチドの構成的、組織特異的、または誘導的な転写を指示するのに適したシス制御配列(例えば、プロモーター配列)の転写制御下にあるポリヌクレオチド配列を含む核酸発現ベクター内に、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドをライゲートする。
【0092】
宿主細胞において合成されることに加えて、本発明のペプチドは、in vitro発現系を用いて合成することもできる。これらの方法は当技術分野でよく知られており、その系の成分は市販されている。
【0093】
本明細書に記載のペプチドは、例えば、100μgのデキサメタゾン注射(IP)後に、マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる。
【0094】
別の実施態様においては、本明細書に記載のペプチドは、生来のアクティベータ、例えば、リポ多糖類(LPS)およびCpGオリゴヌクレオチド、に対するマクロファージ細胞による応答であるTNF-αの分泌およびIL-6の分泌の両方に干渉し、ブロックすることが可能である。
【0095】
上記に加えて、または上記の代わりに、本明細書に記載のペプチドは、真核細胞におけるアポトーシスを減少、防止または阻害可能である。本発明のペプチドがストレス応答を仲介する機構にかかわらず、そしていかなる論理や作用機構に拘束されることなく、ペプチドはp53に結合し、その結果、p53が損傷したDNAに結合するを防止することが可能になると仮定される。ペプチドは、L12細胞系(内因性p53活性を欠き、p53遺伝子または対照ベクターで安定的に形質転換されたもの)の高温に対する応答を阻害する能力の解析によって試験することができる。これらの細胞においては、高温に対してp53活性は、アポトーシスではなく、成長と細胞生存の阻害を誘導する(国際公開第2012/160563号に記載のとおり、その内容は本参照をもって本願に取り込まれたものとする)。
【0096】
アポトーシスの測定方法: アポトーシスは、細胞の能動的な遺伝子主導自己破壊プロセスであり、特徴的な形態学的および生化学的変化と関連する。死にゆく細胞における、膜結合アポトーシス小体への核および細胞質の濃縮と断片化は、アポトーシスの典型的な特徴である。アポトーシス性細胞死の別の特性は、特定のヌクレアーゼの活性化後の染色体DNAのオリゴヌクレオソーム断片への分解である。「アポトーシスの阻害」または「アポトーシス活性の阻害」は、未処理の対象(即ち、本発明のペプチドに暴露されていない細胞)に対する、アポトーシスを行う細胞数のいかなる減少をも意味する。好ましくは、減少は少なくとも25%であり、より好ましくは減少は少なくとも50%であり、最も好ましくは減少は少なくとも1倍である。
【0097】
フローサイトメトリーは、アポトーシスを測定するための多種にわたる可能性を提供する。種々の手法が確立され、そして実施されており、そのいくつかは細胞表面を染色し、いくつかは細胞内を染色する。
【0098】
初期の方法の1つは、アポトーシス性細胞が収縮し、より高い細胞内顆粒度を有するという知見に対して、DNA特異的蛍光色素(例:ヨウ化プロピジウム[PI]、臭化エチジウム[EtBr])で染色することである。致死的なヒットが誘導されると、直ちにDNAはその外形が変化し始める。アポトーシス性DNAは、断片化DNA(DNAラダーと呼ばれる短いバンドとしてアガロースゲル上で可視化されるもの)のみからなるのではなく、部分的に単一ヌクレオチドへと消化されるため、PIまたはEtBrといった蛍光色素が染色すべきDNAが減る(Nicoletti et al., 1991)。これは、FACScanTM(米国、Becton Dickinso社より)の蛍光色素検出チャネルにおけるサブG1ピークと呼ばれる左へのシフトとして典型的に観察される。
【0099】
別の方法は、DNA鎖切断部の末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)仲介末端標識(TUNEL)である。TUNEL法は、アポトーシス中の細胞におけるDNA鎖切断部を検出する。TdTは、二本鎖または単鎖のDNAの3’-OH末端へのデオキシリボヌクレオチド三リン酸の付加を触媒する酵素である。正常細胞とは異なり、アポトーシス性細胞の核はTdTの存在下で外因性ヌクレオチド(dUTP)-DIGを取り込む。蛍光色素の結合した抗DIG抗体断片は、アポトーシス性細胞の可視化を可能にする。アポトーシス性細胞の増加は、より多くのDNA断片と、その結果としてより明るい蛍光をもたらす。この方法の利点は、非常に高い特異性である(Gavrieli et al., 1992)。この方法の不利な点は、高価であることと、時間集約的であるために、少数からなるサンプルセットにしか使用することができないことである。したがって、大きなスクリーニングプログラムには適応不可能である。
【0100】
初期アポトーシスにおける細胞膜の極性の喪失、および細胞膜の外側へのフォスファチジルセリン(PS)の提示量の増加は、さらに新規の方法をもたらした。アネキシンVは、PSに対して高親和性のカルシウム依存性リン脂質結合タンパク質である。アポトーシスの初期および中期には細胞膜の完全性は維持される。初期および中期のアポトーシス性細胞は、アネキシン-FITCの結合増加を示し、主としてPI-染色陰性である。後期アポトーシスステージおよび壊死細胞は、表面におけるPSの提示、ならびに膜の崩壊による細胞内核酸のPI染色によって、2重陽性となる。この方法も高価であり、手間がかかる。
【0101】
アポトーシスをin vivoおよびin vitroで測定するための他の方法が米国特許第6,726,895号および第6,723,567号に開示されている。
【0102】
したがって、本発明の第1の態様によると、長さが6アミノ酸以下の単離したペプチドであって、
式: X-X-X-X-X(配列番号1)で表されるアミノ酸配列を含み、
(i)Xがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、
(ii)Xがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、
(iii)Xがアラニン、バリン、ロイシン、システイン、イソロイシン、メチオニン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群より選ばれるものであり、
(iv)Xがアラニン、バリン、セリン、プロリン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群より選ばれるものであり、
(v)Xが任意のアミノ酸であり、且つ
(vi)マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる、単離したペプチドが提供される。
【0103】
本態様のペプチドは長さが5または6アミノ酸でもよい。
【0104】
とXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)シス立体配座となる、即ち、平衡がシス立体配座にシフトし、且つXとXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)トランス立体配座となる、即ち、平衡がトランス立体配座にシフトするようにアミノ酸を選択することが好ましい。
【0105】
ペプチド結合のシス/トランス立体配座を試験するための方法は当業界で知られており、例えば、NMRが挙げられる。
【0106】
一実施態様において、Xはアラニン、プロリン、アラニンの誘導体またはアナログ、およびプロリンの誘導体またはアナログからなる群より選ばれるものである。
【0107】
特定の実施態様によると、プロリンの誘導体またはアナログは、N-メチルプロリン、アルファ-メチルプロリンまたはα-アミノ酪酸である。
【0108】
一実施態様において、ペプチドは、配列番号3に示す配列(PPLPY)を含む。
【0109】
別の実施態様においては、ペプチドは、配列番号3に示す配列(PPLPY)からなる。
【0110】
別の実施態様においては、ペプチドは配列番号7に示す配列(LPPLPY)からなる。
【0111】
特定の実施態様においては、Xおよび/またはXはDアミノ酸、例えば、配列番号20に示すペプチド(d-LPPLPY)でもよい。
【0112】
本発明の別の態様によれば、長さが10アミノ酸以下の単離したペプチドであって、
式: X-X-X-X-X-X(配列番号17)で表されるアミノ酸配列を含み、
(i)Xがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、
(ii)Xがプロリン、あるいはそのアナログであり、
(iii)Xがアラニン、バリン、ロイシン、システイン、イソロイシン、メチオニン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群より選ばれるものであり、
(iv)Xがアラニン、バリン、セリン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群から選ばれるものであり、
(v)Xが任意のアミノ酸であり、
(vi)Xがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、且つ
(vii)マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる、単離したペプチドが提供される。
【0113】
とXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)シス立体配座となる、即ち、平衡がシス立体配座にシフトし、且つXとXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)トランス立体配座となる、即ち、平衡がトランス立体配座にシフトし、且つXとXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)シス立体配座となる、即ち、平衡がシス立体配座にシフトするようにアミノ酸を選択することが好ましい。
【0114】
一実施態様において、本発明の本態様におけるペプチドは長さが6アミノ酸である。
【0115】
このようなペプチドの一例が配列番号18(PPLAYP)である。
【0116】
プロリンの置換に用いることのできる好ましい非天然アミノ酸としては、N-メチルプロリン、アルファ-メチルプロリンおよびα-アミノ酪酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0117】
本願発明者らは、配列番号17のXのN末端に追加のアミノ酸を結合させることを考えた。
【0118】
追加のアミノ酸は、当該アミノ酸とXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)シス立体配座となる、即ち、平衡がシス立体配座にシフトするように選択することが好ましい。
【0119】
アミノ酸候補は、アラニン、バリン、ロイシン、システイン、イソロイシン、メチオニン、およびそれらの誘導体またはアナログであるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
特定の実施態様においては、XのN末端に結合した追加のアミノ酸はロイシン、あるいはその誘導体またはアナログである。
【0121】
さらなる実施態様においては、XのN末端に結合した追加のアミノ酸はD-アミノ酸である。
【0122】
よって本願発明者らは、7個のアミノ酸を有し、且つ配列番号17に示した式を含むペプチドを考えた。
【0123】
特定の実施態様によると、Xはアラニン、あるいはそのアナログまたは誘導体である。
【0124】
さらに別の実施態様において、Xはチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびそれらの誘導体またはアナログからなる群より選ばれる。
【0125】
として考えられるアミノ酸の一例はチロシンである。
【0126】
として考えられるアミノ酸の一例はロイシンである。
【0127】
本発明の本態様のペプチドは、配列番号4に示したアミノ酸配列(LPPLAYP)を含んでもよい。このようなペプチドは、7、8、9または10個のアミノ酸でもよい。
【0128】
本発明の本態様のペプチドは、配列番号4に示したアミノ酸配列からなるものでもよい。
【0129】
本発明の本態様のペプチドにおいて、Xおよび/またはXおよび/またはXはDアミノ酸でもよく、例えば、d-LPPLAYP(配列番号21)である。
【0130】
本明細書に記載の任意のペプチドについても、本発明はレトロ-インベルソペプチドを想定する。このようなペプチドはプロテアーゼ耐性であり、逆の順番のD-アミノ酸からなり、その結果、ペプチド骨格は変化しているが、側鎖の配置は変化しない。
【0131】
本発明のさらに別の態様によると、長さが5アミノ酸の単離したペプチドであって、
式: X-X-X-X-X(配列番号5)で表されるアミノ酸配列からなり、
(i)XおよびX3が任意のアミノ酸であり、
(ii)Xがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、
(iii)Xがプロリンではなく、
(iv)マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる、単離したペプチドが提供される。
【0132】
とXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)シス立体配座となる、即ち、平衡がシス立体配座にシフトし、且つXとXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)トランス立体配座となる、即ち、平衡がトランス立体配座にシフトするようにアミノ酸を選択することが好ましい。
【0133】
本発明のさらに別の態様によると、長さが7アミノ酸の単離したペプチドであって、
式: X-X-X-X-X-X-X(配列番号6)で表されるアミノ酸配列からなり、
(i)X、XおよびXが任意のアミノ酸であり、
(ii)X、XおよびXがプロリン、あるいはそのアナログまたは誘導体であり、
(iii)Xがプロリンではなく、且つ
(iv)マウスにおけるデキサメタゾン誘導性の脾臓および/または胸腺の重量減少量を低下させることができる、単離したペプチドが提供される。
【0134】
とXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)シス立体配座となる、即ち、平衡がシス立体配座にシフトし、且つXとXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)シス立体配座となる、即ち、平衡がシス立体配座にシフトし、且つXとXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)シス立体配座となる、即ち、平衡がシス立体配座にシフトし、且つXとXとの間のペプチド結合が、(期間の少なくとも50%、期間の少なくとも60%、期間の少なくとも70%、期間の少なくとも80%、または期間の90%にわたり)トランス立体配座となる、即ち、平衡がトランス立体配座にシフトするようにアミノ酸を選択することが好ましい。
【0135】
本明細書に記載のペプチドは、ストレス関連応答に関連付けられる無数の疾患の治療に用いることができる。これらには、神経変性疾患(例:発作、パーキンソン氏病、およびアルツハイマー病)、心筋梗塞、放射能または化学療法薬への暴露、炎症性疾患、外傷(例:火傷および中枢神経系の損傷)、細胞老化、高熱症、脳卒中、低酸素症(例:虚血および発作)といった病的状態、並びに移植前の移植用組織および臓器の状態が含まれる。
【0136】
これらの病態には、少なくとも1種の体の正常な構成要素に対する個体の免疫状態によって特徴づけられる、自己免疫疾患も含まれる。こういった現象は特に以下の病理に見られるが、これらに限定されるものではない:SLE(全身性エリテマトーデス)、グージェロ-シェーグレン症候群(またはシェーグレン病)およびリウマチ性多発性関節炎に関連した感染症、さらにはサルコイドーシスおよび骨減少症、脊椎関節炎、強皮症、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、甲状腺機能亢進症、アディソン病、自己免疫性溶血性貧血、クローン病、グッドパスチャー症候群、グレーヴス病、橋本甲状腺炎、特発性歯髄出血、インスリン依存性糖尿病、筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、連鎖球菌感染後糸球体腎炎、乾癬および突発性不妊症、さらには移植片拒絶の際の即時または遅延現象および移植片対宿主病。特定の一態様において、本発明のペプチドは、多発性硬化症の治療に有用である。別の実施態様においては、本発明のペプチドは、虚血または心筋梗塞の治療に有用である。
【0137】
本発明において想定される他の疾患としては、アルツハイマー病、パーキンソン氏病、外傷後の2次変性、発作、CNS中毒、緑内障、黄斑変性、1型糖尿病、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、自己免疫性ブドウ膜炎、移植片対宿主病、移植片拒絶、関節炎、全身性炎症反応症候群(SIRS)、炎症性腸疾患(IBD)、成人呼吸促迫症候群(ARDS)、乾癬、アテローム動脈硬化症、心筋梗塞、放射能疾患、高熱症、低酸素症、劇症型肝炎、腎不全、不妊症や多くの他の疾患が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0138】
移植片拒絶の現象とは、意図的に患者に移植された外来要素(血液、脳髄液といった体液、細胞、組織、器官、抗体等)に対する個体の免疫状態である。
【0139】
本明細書で使用する「変性性の異常」、「変性疾患」および「変性病態」という用語は、不適切な細胞増殖または不適切な細胞死、または、場合によってはその両方、あるいは異常または未制御のアポトーシスによって特徴づけられる任意の異常、疾患または病態を意味する。これらの病態は、たとえ単細胞のレベルでは適切であり、制御されているものの、過剰なアポトーシスが臓器の機能不全または臓器不全に関連する病態も含まれる。
【0140】
一実施態様においてペプチドは、新生物疾患を有し、がんの治療のための化学療法および/または放射線療法を受けている対象において、非悪性組織または細胞の細胞死を防止するために有用である。
【0141】
本明細書で使用する「炎症性疾患」および「炎症状態」という用語は、過剰または未制御の炎症性応答が過剰な炎症症状、ホスト組織の破壊または組織機能の損失を招く任意の疾患または病態を意味する。
【0142】
一実施態様において、炎症性疾患または病態は自己免疫疾患である。
【0143】
別の実施態様においては、炎症性疾患または病態は、IL-6およびTNF-αから選ばれる少なくとも1種の炎症促進性サイトカインの産生と関連する病因を有する。
【0144】
別の実施態様においては、疾患または病態は、アルツハイマー病、パーキンソン氏病、外傷後の2次変性、発作、CNS中毒、緑内障、黄斑変性,心筋梗塞、放射能疾患、高熱症、低酸素症、劇症型肝炎、腎不全および不妊症からなる群より選ばれる。
【0145】
さらに別の実施態様においては、疾患は網膜色素変性および黄斑変性を含む。
【0146】
別の実施態様においては、疾患は発作または心筋梗塞を含む。
【0147】
本発明の幾つかの実施形態のペプチドは、生物にそれ自体で、またはペプチドを適切な担体又は賦形剤と混合した医薬組成物の一部として投与することもできる。
【0148】
本明細書で使用される「医薬組成物」とは、本明細書の記載した1種または複数種の活性材料と共に、生理学的に適切な担体や賦形剤等の他の化学成分を含む、製剤を意味する。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
【0149】
本明細書では、用語「活性材料」は、生物学的効果に関与し得るペプチドを指す。
【0150】
以下、互換的に使用することができる「生理学的に許容し得る担体」と「薬学的に許容し得る担体」という語句は、生物に対して大きな刺激を引き起こさず、投与された化合物の生物活性及び特性を無効にしない担体又は希釈剤を意味する。アジュバントはこれらの語句に含まれる。
【0151】
ペプチドまたはポリペプチドを活性材料として含む医薬組成物の調製は当業界でよく知られている。典型的には、このような組成物は、注射可能な(indictable)ように、液状の溶液または懸濁液として調製するが、しかし、注射前に懸濁または可溶化することのできる固体状に調製することもできる。製剤は乳液状でもよい。活性治療材料を薬学的に許容され且つ活性材料と互換性のある無機および/または有機の担体と混合する。担体は、組成物に適した一貫性または形状を担保するための、医薬組成物に添加されたときにある程度不活な物質を含む、薬学的に許容される賦形剤(ベヒクル)である。適切な担体は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセリン、エタノールまたはこれらの組み合わせである。さらに、所望により、組成物は活性材料の効果を増強する補助剤、例えば、湿潤剤または乳化剤並びにpH緩衝剤、を少量含んでもよい。
【0152】
本明細書に記載のペプチドの毒性および治療的有効性は、培養細胞または実験動物に対する標準的な薬学的手法によって、例えば、目的化合物のIC50(50%阻害をもたらす濃度)およびLD50(試験動物の50%に死をもたらす致死量)を求めることで、決定することができる。このような培養細胞アッセイおよび動物実験で得られるデータは、ヒトに用いる投与量の範囲を設計するために使用することができる。投与量は、使用する投与形態および用いる投与経路によって変化しうる。正確な処方、投与経路および投与量は、患者の状態を鑑みて個別の医師が選択することができる(例えば、Fingl et al., 1975参照)。
【0153】
本発明の投与用組成物に用いられる活性成分の量は、標的の兆候に対して特定の活性成分がその目的を達成するのに効果的な量である。組成物中の活性成分の量は、典型的には、薬学的、生物学的、治療的または化学的に有効な量である。しかし、組成物を投与単位形態として使用する場合には、より少ない量を使用することもできる。なぜならば、投与単位形態の場合、単一組成に複数の化合物または活性成分が含まれていたり、薬学的、生物学的、治療的または化学的に有効な量の分割量が含まれていたりするためである。そして、合計で、活性成分の有効量が含まれる累積単位によって、合計有効量を投与することができる。
【0154】
本発明のペプチドの治療有効量は、患者に投与された際に抗アポトーシス活性および/または抗炎症活性を発揮しうる量である。本発明のペプチドの抗アポトーシス活性を検出するためのアッセイとしては、ヨウ化プロピジウムおよび臭化エチジウム等の特異的蛍光色素によるDNAの染色、アネキシンVアッセイ、TUNELアッセイが挙げられるが、これらに限定されるものではない。このようなアッセイの非限定的な例の一部を下記実施例に示した。ペプチドの抗炎症活性を検出するためのアッセイも当業界で知られている。
【0155】
本発明のペプチドの適切な投与量は、患者の投与経路、年齢、体重、性別または状態によって異なり、最終的に医師によって決定されなければならないが、ヒト成人に対して適切な投与量は通常約0.2~2000mg/kg体重、好ましくは約2~200mg/kgの間である。
【0156】
本発明の医薬組成物は、1種または複数種の本発明の化合物と、1種または複数種の賦形剤または希釈剤を含む。一実施態様は、1種または複数種の化合物、あるいは当該化合物の溶媒和化合物または塩である。
【0157】
本明細書において「薬学的に許容される塩」とは、生存している生物にとって実質的に無毒の塩類である。典型的な薬学的に許容される塩としては、本発明の化合物と、薬学的に許容されるミネラルまたは有機酸との反応によって調製される塩類が挙げられる。これら塩類は、酸付加塩としても知られている。
【0158】
化合物および活性成分を含む組成物は、選択した生物系への活性成分の送達、および送達剤なしで活性成分を投与した場合と比べて増加または改善した活性成分のバイオアベイラビリティを達成するために有用である。一定期間により多くの活性成分を送達したり、活性成分の送達を期間内(より速いまたは遅い送達等)または一定期間にわたり(持続性送達等)行うことで、送達を改善することができる。
【0159】
このように、本発明にしたがって使用する医薬組成物は、薬学的に使用することができる製剤への有効成分の加工を助ける賦形剤および助剤を含む1種または複数種の生理学的に許容される担体を使用して、従来の手法で製剤化することができる。適切な処方は、選択される投与経路に依存する。
【0160】
医薬組成物は、経口、腹腔内、非経口、静脈内、筋肉内、皮下、経皮的、髄腔内、局所的、直腸的、口腔内、吸入、経鼻といった、従来の適切な経路で局所的にまたは全身的に投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0161】
注射に関しては、医薬組成物の有効成分は、水溶液中で、好ましくはハンクス液、リンゲル液、または生理食塩緩衝液などの生理学的に適合性の緩衝液中で製剤化され得る。経粘膜投与については、浸透すべきバリアに適した浸透剤(penetrant)が製剤化に使用される。このような浸透剤、例えばDMSOやポリエチレングリコールは、当業界で一般的に知られている。
【0162】
経口的に使用することができる医薬組成物としては、ゼラチンで作られた嵌め込み式カプセル(push-fit capsule)ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤から作られた密封軟カプセルが挙げられる。嵌め込み式カプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、任意の安定剤との混合物の状態で有効成分を含有してもよい。
【0163】
軟カプセルにおいて、有効成分は、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体中に溶解または懸濁され得る。さらに、安定剤を添加してもよい。経口投与用のすべての製剤は、選択される投与経路に適切な剤形であるべきである。
【0164】
上記の代わりに、本発明の化合物は、例えば、水性または油性の懸濁液、溶液、乳化液、シロップまたはエリキシルなどの経口液状製剤に導入することもできる。さらにこれら化合物を含む処方は、使用前に水または他の適切なベヒクルで構成する乾燥製品とした提供することもできる。このような液状製剤は、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、ブドウ糖/砂糖シロップ、ゼラチン、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲルおよび水添食用油脂等の懸濁剤、レシチン、モノオレイン酸ソルビタンまたはアカシア等の乳化剤、アーモンドオイル、ヤシ油、油状エステル類、プロピレングリコールおよびエチルアルコール等の(食用油を含む)非水性ベヒクル、ならびにメチルまたはプロピルp-ヒドロキシ安息香酸エステルおよびソルビン酸等の従来の添加剤を含んでもよい。
【0165】
吸入による投与については、本発明にしたがって使用されるペプチドは、適切な推進剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロ-テトラフルオロエタン、または二酸化炭素を使用して、加圧型パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレーの形で便利に送達される。加圧型エアロゾルの場合、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって、用量単位が決定されうる。吸入器または注入器で使用される、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、ペプチドと、ラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤との混合粉末を含有するように処方され得る。
【0166】
本発明の医薬組成物は、局所および病巣内への投与にも有用である。本明細書で使用する「局所」とは、「特定の表面積に関連する」、例えば、皮膚および粘膜、という意味であり、表面のある面積に投与する局所剤は、それが投与された面積にのみ作用する。ペプチド/ペプチドアナログの処方は、ゲル、軟膏、クリーム、乳液、経皮吸収パッチを含む徐放性処方として局所的に投与することができ、薬剤の局所的投与に適したリポソームおよび他の薬学的に許容される担体を含んでもよい。本明細書に記載の医薬組成物は、適切な固相またはゲル相の担体または賦形剤をさらに含んでもよい。このような担体または賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖類、でんぷん類、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコールなどのポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0167】
本発明の組成物は、所望により、活性成分を含む1種以上の単位剤形を含むことが可能なFDA承認キット等のパック又はディスペンサーデバイスとして提供することができる。パックは、例えば、ブリスターパック等の金属又はプラスチック箔を含むことができる。パック又はディスペンサーデバイスには投与用説明書を添付することができる。パック又はディスペンサーには、医薬品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって定められた形式の容器に関連する通知を添付することもでき、この通知は、組成物の形態やヒト又は動物への投与に関する機関による承認を反映している。このような通知は、例えば、処方薬に関して米国食品医薬品局によって承認された標識、又は承認された製品の添付文書に関するものとすることができる。上で更に詳述したように、適合性のある医薬担体で処方した本発明の調製物を含む組成物を調製し、適切な容器に入れ、示された病態の治療用に標識することもできる。
【0168】
本明細書で使用される「約」という用語は±10%を意味する。
【0169】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」およびその活用形は、「限定されるものではないが、含む(including but not limited to)」を意味する。
【0170】
「からなる」という用語は、「含み、限定される」ことを意味する。
【0171】
「から実質的になる」という用語は、組成物、方法または構造が追加の成分、工程および/または部分を含み得ることを意味する。但しこれは、追加の成分、工程および/または部分が、請求項に記載の組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特性を実質的に変更しない場合に限られる。
【0172】
本明細書において、単数形を表す「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を示さない限り、複数をも対象とする。例えば、「化合物(a compound)」または「少なくとも1種の化合物」には、複数の化合物が含まれ、それらの混合物をも含み得る。
【0173】
本願全体を通して、本発明のさまざまな実施形態は、範囲形式にて示され得る。範囲形式での記載は、単に利便性および簡潔さのためであり、本発明の範囲の柔軟性を欠く制限ではないことを理解されたい。したがって、範囲の記載は、可能な下位の範囲の全部、およびその範囲内の個々の数値を特異的に開示していると考えるべきである。例えば、1~6といった範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲のみならず、その範囲内の個々の数値、例えば1、2、3、4、5および6も具体的に開示するものとする。これは、範囲の大きさに関わらず適用される。
【0174】
本明細書において数値範囲を示す場合、それは常に示す範囲内の任意の引用数(分数または整数)を含むことを意図する。第1の指示数と第2の指示数「との間の範囲」という表現と、第1の指示数「から」第2の指示数「までの範囲」という表現は、本明細書で代替可能に使用され、第1の指示数および第2の指示数と、それらの間の分数および整数の全部を含むことを意図する。
【0175】
本明細書で使用する「方法」という用語は、所定の課題を達成するための様式、手段、技術および手順を意味し、化学、薬理学、生物学、生化学および医療の各分野の従事者に既知のもの、または既知の様式、手段、技術および手順から従事者が容易に開発できるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0176】
本明細書で使用される「治療する」という用語は、病態の進行の抑止、実質的な阻害、遅延または逆転、病態の臨床的または審美的な症状の実質的な寛解、あるいは病態の臨床的または審美的な症状の悪化の実質的な予防を含む。
【0177】
明確さのために別個の実施形態に関連して記載した本発明の所定の特徴はまた、1つの実施形態において、これら特徴を組み合わせて提供され得ることを理解されたい。逆に、簡潔さのために1つの実施形態に関連して記載した本発明の複数の特徴はまた、別々に、または任意の好適な部分的な組み合わせ、または適当な他の記載された実施形態に対しても提供され得る。さまざまな実施形態に関連して記載される所定の特徴は、その要素なしでは特定の実施形態が動作不能でない限り、その実施形態の必須要件であると捉えてはならない。
【0178】
上述したように、本明細書に記載され、特許請求の範囲に請求される本発明のさまざまな実施形態および態様は、以下の実施例によって実験的に支持されるものである。
【実施例0179】
ここで、上記の記載と共に本発明を限定することなく説明する以下の実施例に参照する。
【0180】
一般に、本明細書で使用される命名法や本発明で利用される実験手順には、分子、生化学、微生物学及び組換えDNA技術が含まれる。そのような技術は文献で十分に説明されている。例えば、"Molecular Cloning: A laboratory Manual" Sambrook et al., (1989); "Current Protocols in Molecular Biology" Volumes I-III Ausubel, R. M., ed. (1994); Ausubel et al., "Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989); Perbal, "A Practical Guide to Molecular Cloning", John Wiley & Sons, New York (1988); Watson et al., "Recombinant DNA", Scientific American Books, New York; Birren et al. (eds) "Genome Analysis: A Laboratory Manual Series", Vols. 1-4, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998);米国特許第4,666,828号、第4,683,202号、第4,801,531号、第5,192,659号及び第5,272,057号に記載の方法、"Cell Biology: A Laboratory Handbook", Volumes I-III Cellis, J. E., ed. (1994); "Culture of Animal Cells - A Manual of Basic Technique" by Freshney, Wiley-Liss, N. Y. (1994), Third Edition; "Current Protocols in Immunology" Volumes I-III Coligan J. E., ed. (1994); Stites et al. (eds), "Basic and Clinical Immunology" (8th Edition), Appleton & Lange, Norwalk, CT (1994); Mishell and Shiigi (eds), "Selected Methods in Cellular Immunology", W. H. Freeman and Co., New York (1980)、利用可能なイムノアッセイは特許及び科学文献に広く記載されている(例えば、米国特許第3,791,932号、第3,839,153号、第3,850,752号、第3,850,578号、第3,853,987号、第3,867,517号、第3,879,262号、第3,901,654号、第3,935,074号、第3,984,533号、第3,996,345号、第4,034,074号、第4,098,876号、第4,879,219号、第5,011,771号及び第5,281,521号参照)、"Oligonucleotide Synthesis" Gait, M. J., ed. (1984); "Nucleic Acid Hybridization" Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1985); "Transcription and Translation" Hames, B. D., and Higgins S. J., Eds. (1984); "Animal Cell Culture" Freshney, R. I., ed. (1986); "Immobilized Cells and Enzymes" IRL Press, (1986); "A Practical Guide to Molecular Cloning" Perbal, B., (1984) and "Methods in Enzymology" Vol. 1-317, Academic Press; "PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications", Academic Press, San Diego, CA (1990); Marshak et al., "Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual" CSHL Press (1996)。これら文献の全てを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。他の一般的な参考文献はこの文書全体で提供される。そこに記載の手順は、当技術分野で周知であると考えられており、読者の便宜のために提供される。そこに含まれる全ての情報を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0181】
実施例1
デキサメタゾンは、免疫細胞およびリンパ性骨髄組織のアポトーシスを誘導する副腎皮質ステロイド剤である。候補ペプチドがリンパ球をアポトーシスから救助する能力について検討するためにBALB/cマウスを用いた。マウスに100μgのデキサメタゾンをIP注射した。デキサメタゾン処理マウスは、デキサメタゾン処理の直後および24時間後に、候補ペプチド(250または400μgペプチド/マウス)のIV注射を受けた。1回目の処置の48時間後にマウスを賭殺した。脾臓および胸腺の重量を測定し、両方の組織の全細胞数を求めた。
【0182】
スクリーニングに使用したペプチドは以下の通りである。
PPLPY - 配列番号3
LPPLAYP - 配列番号4
PLPYP - 配列番号9
PPL - 配列番号10
PLP - 配列番号11
PYP - 配列番号12
LPGLPYP - 配列番号13
LPPLGYP - 配列番号14
LAPLPYP - 配列番号15
LPALPYP - 配列番号16
【0183】
結果
デキサメタゾン誘導性の脾臓および胸腺の重量減少ならびに脾臓細胞数の減少は約50%であった。胸腺細胞数は、正常マウスと比べて、ほぼ80%減少した。2種のペプチドが、脾臓および胸腺の重量減少のみならず、細胞数減少に顕著な低下効果を示した-配列番号3および配列番号4(図1参照)。2種の治療用量間には違いはなかった(250または400μg/マウス)。
【0184】
実施例2
候補ペプチドがリンパ球をアポトーシスから救助する能力について検討するためにBALB/cマウスを用いた。マウスに100μgのデキサメタゾンをIP注射した。デキサメタゾン処理マウスは、デキサメタゾン処理の直後および24時間後に、候補ペプチド(200μgペプチド/マウス)のIV注射を受けた。1回目の処置の48時間後にマウスを賭殺した。脾臓および胸腺の重量を測定し、両方の組織の全細胞数を求めた。
【0185】
スクリーニングに使用したペプチドは以下の通りである。
LPPLPYP - 配列番号2(対照)
PPLAYP - 配列番号18
LPPLPY - 配列番号7
LPPLAYP - 配列番号4
PPLPY - 配列番号3
PPLPY-NH - 配列番号19
【0186】
結果
結果を図2に示した。試験したペプチドはそれぞれ、対照ペプチド(配列番号2)に対して改善を示した。
【0187】
本発明をその特定の実施形態との関連で説明したが、多数の代替、修正および変種が当業者には明らかであろう。したがって、そのような代替、修正および変種の全ては、添付の特許請求の範囲の趣旨および広い範囲内に含まれることを意図するものである。
【0188】
本明細書で言及した全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許および特許出願のそれぞれについて具体的且つ個別の参照により本明細書に組み込む場合と同程度に、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。加えて、本願におけるいかなる参考文献の引用または特定は、このような参考文献が本発明の先行技術として使用できることの容認として解釈されるべきではない。また、各節の表題が使用される範囲において、必ずしも限定として解釈されるべきではない。
【0189】
さらに本願の基礎出願の内容は、本参照をもってそのすべてが本願に取り込まれたものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0190】
配列番号1: ペプチドであって、1~2位のXはプロリンあるいはそのアナログまたは誘導体、3位のXアラニン、バリン、ロイシン、システイン、イソロイシン、メチオニン、あるいはそれらの誘導体またはアナログ、4位のXはアラニン、バリン、セリン、プロリンあるいはそれらの誘導体またはアナログ、5位のXは任意のアミノ酸でもよい
配列番号2: ストレシン-1のアミノ酸配列
配列番号3: 合成ペプチド
配列番号4: 合成ペプチド
配列番号5: 合成ペプチドであり、1位のXaaは任意の天然のアミノ酸でもよく、2位のX2はプロリンあるいはそのアナログまたは誘導体、3位のXaaは任意の天然のアミノ酸でもよく、4位のXはプロリンではなく、5位のXaaは任意の天然のアミノ酸でもよい
配列番号6: 合成ペプチドであり、1位のXaaは任意の天然のアミノ酸でもよく、2~3位のXはプロリンあるいはそのアナログまたは誘導体、4位のXはプロリンではなく、5~6位のXaaは任意の天然のアミノ酸でもよく、7位のXはプロリンあるいはそのアナログまたは誘導体
配列番号7: 合成ペプチド
配列番号8: 合成ペプチド
配列番号9: 合成ペプチド
配列番号10: 合成ペプチド
配列番号11: 合成ペプチド
配列番号12: 合成ペプチド
配列番号13: 合成ペプチド
配列番号14: 合成ペプチド
配列番号15: 合成ペプチド
配列番号16: 合成ペプチド
配列番号17: 合成ペプチドであり、1位のXはプロリンあるいはそのアナログまたは誘導体、2位のXはプロリンあるいはそのアナログ、3位のXはアラニン、バリン、ロイシン、システイン、イソロイシン、メチオニン、およびそれらの誘導体またはアナログのいずれか、4位のXはアラニン、バリン、セリン、およびそれらの誘導体またはアナログのいずれか、5位のXaaは任意の天然のアミノ酸でもよく、6位のXはプロリンあるいはそのアナログまたは誘導体
配列番号18: 合成ペプチド
配列番号19: 合成ペプチドであり、5位はアミド化されている
配列番号20: 合成ペプチドであり、1位はDアミノ酸でもよく、3位はDアミノ酸でもよい
配列番号21: 合成ペプチドであり、1位はDアミノ酸でもよく、3位はDアミノ酸でもよく、5位はDアミノ酸でもよい
図1
図2
【配列表】
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