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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026236
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】二重特異性EGFR/c-Met抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20240220BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240220BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240220BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240220BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023203256
(22)【出願日】2023-11-30
(62)【分割の表示】P 2022014503の分割
【原出願日】2013-11-21
(31)【優先権主張番号】61/728,912
(32)【優先日】2012-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/782,550
(32)【優先日】2013-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/809,541
(32)【優先日】2013-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/864,717
(32)【優先日】2013-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/892,797
(32)【優先日】2013-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】チウ,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ムアーズ,シェリ
(72)【発明者】
【氏名】ネイセン,ヨースト
(72)【発明者】
【氏名】パレン,パウル
(72)【発明者】
【氏名】スフールマン,ヤニーネ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】二重特異性上皮増殖因子受容体(EGFR)/肝細胞増殖因子受容体(c-Met)抗体を提供する。
【解決手段】単離されたEGFR/c-Met抗体であって、重鎖可変領域1(VH1)と軽鎖可変領域1(VL1)とが対合してEGFRと特異的に結合する第1の抗原結合部位を形成し、重鎖可変領域2(VH2)と軽鎖可変領域2(VL2)とが対合してc-Metと特異的に結合する第2の抗原結合部位を形成する、二重特異性抗体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された二重特異性上皮増殖因子受容体(EGFR)/肝細胞増殖因子受容体(c-
Met)抗体であって、
a)HC1定常ドメイン3(HC1 CH3)及びHC1可変領域1(VH1)を含む
第1の重鎖(HC1)と、
b)HC2定常ドメイン3(HC2 CH3)及びHC2可変領域2(VH2)を含む
第2の重鎖(HC2)と、
c)軽鎖可変領域(VL1)を含む第1の軽鎖(LC1)と、
d)軽鎖可変領域(VL2)を含む第2の軽鎖(LC2)と、
を含み、
前記VH1と前記VL1とが対合してEGFRと特異的に結合する第1の抗原結合部位
を形成し、前記VH2と前記VL2とが対合してc-Metと特異的に結合する第2の抗
原結合部位を形成し、前記HC1が前記HC1 CH3に少なくとも1個の置換を含み、
前記HC2が前記HC2 CH3に少なくとも1個の置換を含み、前記HC1 CH3内
の前記置換及び前記HC2 CH3内の前記置換が、残基の番号付けがEUインデックス
に基づいたものである場合に、異なるアミノ酸残基の位置で生じる、二重特異性抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重特異性EGFR/c-Met抗体、並びにその分子の製造方法及び使用
方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮増殖因子受容体(EGFR、ErbBl又はHER1)は、c-erbBl癌原遺
伝子によってコードされている170kDaのI型膜貫通糖タンパク質である。EGFR
は、HER2(ErbB2)、HER3(ErbB3)及びHER4(ErbB4)を含
む、受容体型チロシンキナーゼ(RTK)のヒト上皮増殖因子受容体(HER)ファミリ
ーのメンバーである。EGFRによるシグナル伝達は、リガンド結合に続く、他のErb
Bファミリーのメンバーによる受容体のコンフォメーション変化、ホモ二量体化、又はヘ
テロ二量体化、及び受容体のトランス自己リン酸化(Ferguson et al.,
Annu Rev Biophys,37:353~73,2008)によって開始され
、これはシグナルトランスダクションのカスケードが開始され、最終的に細胞の増殖及び
生存をはじめとする様々な細胞機能に影響を及ぼす。EGFRの発現又はキナーゼ活性の
増大は、広範なヒトの癌との関連が示されており、そのためEGFRは治療的介入の魅力
的な標的となっている(Mendelsohn et al.,Oncogene 19
:6550~6565,2000;Grunwald et al.,J Natl C
ancer Inst 95:851~67,2003;Mendelsohn et
al.,Semin Oncol 33:369~85,2006)。EGFR遺伝子の
コピー数及びタンパク質発現のいずれにおける増大も、非小細胞肺癌におけるEGFRチ
ロシンキナーゼ阻害剤であるIRESSA(商標)(ゲフィチニブ)に対する好ましい応
答と関連付けられている(Hirsch et al.,Ann Oncol 18:7
52~60,2007)。
【0003】
EGFR療法には、大腸直腸癌、膵臓癌、頭頸部癌、及び非小細胞肺癌(NSCLC)
の治療に承認されている小分子化合物及び抗EGFR抗体の両方が含まれる(Basel
ga and Arteaga,J Clin Oncol 23:2445~2459
(20005;Gill et al.,J Biol Chem,259:7755~
7760,1984;Goldstein et al.,Clin Cancer R
es,1:131 1~1318;1995;Prewett et al.,Clin
Cancer Res,4:2957~2966,1998)。
【0004】
抗EGFR療法の有効性は、腫瘍のタイプ及び腫瘍におけるEGFRの変異/増幅状態
に依存し得る。現在の療法の副作用には皮膚毒性が含まれ得る(De Roock et
al.,Lancet Oncol 11:753~762,2010;Linard
ou et al.,Nat Rev Clin Oncol,6:352~366,2
009;Li and Perez-Soler,Targ Oncol 4:107~
119,2009)。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、非小細胞肺癌(N
SCLC)に対する第2の選択療法として広く用いられているが、抵抗性経路のために1
2ヶ月以内に効果がなくなることが多い(Riely et al.,Clin Can
cer Res 12:839~44,2006)。
【0005】
c-Metは、膜貫通チロシンキナーゼ受容体をコードする。これは、特定の発癌性物
質による処置によって、構成的活性を示す融合タンパク質TPR-METがもたらされる
ことが見出された後、1984年に癌原遺伝子として初めて特定された(Cooper
et al.,Nature 311:29~33,1984)。c-Metのリガンド
である肝細胞増殖因子(HGF)によるc-Metの活性化は、増殖、運動性、侵襲、転
移、上皮間葉転換、血管新生/創傷治癒、及び組織再生をはじめとする過剰な細胞プロセ
スを刺激する(Christensen et al.,Cancer Lett 22
5:1~26,2005;Peters and Adjei,Nat Rev Cli
n Oncol 9:314~26,2012)。c-Metは、ジスルフィド結合によ
って結合された50kDaのαサブユニットと140kDaのβサブユニットにタンパク
質分解によって切断される1本鎖タンパク質として合成される(Ma et al.,C
ancer and Metastasis Reviews,22:309~325,
2003)。c-Metは、RON及びSeaなどの他の膜受容体と構造的に似ている。
HGF:c-Met結合の正確な化学量論比は解明されていないが、一般的には、2個の
HGF分子が2個のc-Met分子と結合することが受容体の二量体化及びチロシン12
30、1234、及び1235における自己リン酸化につながると考えられている(St
amos et al.,The EMBO Journal 23:2325~233
5,2004)。遺伝子の増幅、変異、又は受容体過剰発現によって、リガンド独立性の
c-Metの自己リン酸化も生じ得る。
【0006】
c-Metは、胃癌、肺癌、結腸癌、乳癌、膀胱癌、頭頸部癌、卵巣癌、前立腺癌、甲
状腺癌、膵臓癌、及び中枢神経系(CNS)の癌など、多くのタイプの癌において増幅、
変異、又は過剰発現することが多い。キナーゼドメインに通常限局されるミスセンス変異
は、遺伝性乳頭状腎細胞癌(PRCC)において、また散発性PRCCの13%において
一般的に見られる(Schmidt et al.,Oncogene 18:2343
~2350,1999)。c-Metのセマフォリン又は細胞膜近傍ドメインに限局され
るc-Met変異は、胃癌、頭頸部癌、肝臓癌、卵巣癌、NSCLC及び甲状腺癌でしば
しば見られる(Ma et al.,Cancer and Metastasis R
eviews,22:309~325,2003;Sakakura et al.,C
hromosomes and Cancer,1999.24:299~305)。c
-Metの増幅が、脳腫瘍、結腸直腸癌、胃癌、及び肺癌において検出されており、これ
らは疾患の進行と相関していることが多い(Ma et al.,Cancer and
Metastasis Reviews,22:309~325,2003)。非小細
胞肺癌(NSCLC)及び胃癌のそれぞれ最大で4%及び20%がc-Metの増幅を示
している(Sakakura et al.,Chromosomes and Can
cer,1999.24:299~305:Sierra and Tsao,Ther
apeutic Advances in Medical Oncology,3:S
21~35,2011)。肺癌では遺伝子増幅が見られない場合であってもc-Metの
過剰発現がしばしば認められる(Ichimura et al.,Jpn J Can
cer Res,87:1063~9,1996)。更に、臨床試料では、肺腺癌のほぼ
半分で、いずれも腫瘍増殖速度の亢進、転移及び予後不良との相関が示されている高レベ
ルのc-Met及びHGFを示した(Sierra and Tsao,Therape
utic Advances in Medical Oncology,3:S21~
35,2011;Siegfried et al.,Ann Thorac Surg
66:1915~8,1998)。
【0007】
EGFRチロシンキナーゼ受容体阻害剤に対して抵抗性となる全腫瘍の約60%で、c
-Metの発現の増大、c-Metの増幅、又はc-Metの唯一知られるリガンドであ
るHGFの増大(Turke et al.,Cancer Cell,17:77~8
8,2010)が認められ、c-Metを介したEGFRの補償的経路の存在を示唆して
いる。c-Metの増幅は、EGFRキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブに対して抵抗性
となり、かつHer3経路を介して高い生存率を示した、培養細胞中で最初に確認された
(Engelman et al.,Science,316:1039~43,200
7)。このことは、未処置の患者62人ではc-Metの増幅を示した患者がわずか2人
であったのに対して、エルロチニブ又はゲフィチニブに対する耐性を獲得した43人の患
者のうち9人がc-Metの増幅を示す臨床サンプルで更に確認された。これら9人の処
置患者のうち4人は、EGFR活性化変異であるT790Mも獲得しており、同時に存在
する抵抗性経路を示す(Beat et al.,Proc Natl Acad Sc
i U S A,104:20932~7,2007)。
【0008】
癌におけるEGFR及びc-Metの個々の役割についてはよく確立されており、これ
らの標的を併用療法において魅力的なものとしている。いずれの受容体も、同じ生存経路
及び抗アポトーシス経路(ERK及びAKT)を介してシグナル伝達するものであり、し
たがって、このペアの組み合わせを阻害することで補償的経路が活性化される可能性を制
限することが可能であり、これにより全体の有効性が向上する。EGFR及びc-Met
を標的とする併用療法は、Tarceva(登録商標)(エルロチニブ)とNSCLCに
対する抗c-Met一価抗体との組み合わせ(Spigel et al.,2011
ASCO Annual Meeting Proceedings 2011,Jou
rnal of Clinical Oncology:Chicago,IL.p.7
505)、及びTarceva(エルロチニブ)とc-Metの小分子阻害剤であるAR
Q-197との組み合わせ(Adjei et al.,Oncologist,16:
788~99,2011)を用いて臨床試験が行われている。併用療法又は二重特異性抗
EGFR/c-Met分子については、例えば、国際特許公開第WO2008/1277
10号、同第WO2009/111691号、同第WO2009/126834号、同第
WO2010/039248号、同第WO2010/115551号、及び米国特許出願
公開第US2009/0042906号に開示されている。
【0009】
治療を目的とする、EGFR及び/又はc-Metシグナル伝達経路に拮抗する現在の
小分子及び大分子の治療アプローチは、小分子阻害剤において見られる場合がある特異性
の欠如の可能性、標的外活性の可能性、及び用量制限毒性のために最適とはいえない。一
般的な一重特異性二価抗体は、膜結合受容体のクラスタリング及び下流シグナル伝達経路
の望ましくない活性化につながり得る。完全長の重鎖(ハーフアーム)を有する一価抗体
は、製造プロセスを著しく複雑でコストが嵩むものとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、治療及び診断の両方を目的とした更なる一重特異性及び二重特異性EGF
R及び/又はc-Met阻害剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、単離された二重特異性上皮増殖因子受容体(EGFR)/肝細
胞増殖因子受容体(c-Met)抗体であって、
HC1定常ドメイン3(HC1 CH3)及びHC1可変領域1(VH1)を含む第1
の重鎖(HC1)と、
HC2定常ドメイン3(HC2 CH3)及びHC2可変領域2(VH2)を含む第2
の重鎖(HC2)と、
軽鎖可変領域(VL1)を含む第1の軽鎖(LC1)と、
軽鎖可変領域(VL2)を含む第2の軽鎖(LC2)と、を含み、前記VH1と前記V
L1とが対合してEGFRと特異的に結合する第1の抗原結合部位を形成し、前記VH2
とVL2とが対合してc-Metと特異的に結合する第2の抗原結合部位を形成し、前記
HC1が前記HC1 CH3に少なくとも1個の置換を含み、前記HC2が前記HC2
CH3に少なくとも1個の置換を含み、前記HC1 CH3内の前記置換及び前記HC2
CH3内の前記置換が、残基の番号付けがEUインデックスに基づいたものである場合
に、異なるアミノ酸残基の位置で生じる、二重特異性抗体である。
【0012】
他の実施形態において、本発明は、二重特異性EGFR/c-Met抗体を提供し、そ
の場合、抗体は、NCI-H292、NCI-H1975又はSKMES-1細胞株にお
ける細胞外シグナル調節キナーゼ1及び2(ERK1/2)のリン酸化を阻害し、そのI
50値は、重鎖3(HC3)及び軽鎖3(LC3)を含むコントロール一価EGFR抗体
と重鎖4(HC4)及び軽鎖4(LC4)を含むコントロール一価c-Met抗体との混
合物によるNCI-H292、NCI-H1975又はSKMES-1細胞株におけるE
RK1/2のリン酸化阻害のIC50値と比較した場合に、少なくとも約10倍低い、少な
くとも約20倍低い、少なくとも約30倍低い、少なくとも約40倍低い、少なくとも約
50倍低い、又は少なくとも約60倍低いIC50値であり、ただし、HC3とHC1、L
C3とLC1、HC4とHC2、及びLC4とLC2はそれぞれ同一のアミノ酸配列を有
し、ERK1/2のリン酸化は、抗ホスホERK1/2抗体を捕捉抗体とし、電気化学発
光化合物と接合された非リン酸化及びリン酸化ERK1/2と結合する抗体を検出抗体と
して使用したサンドイッチイムノアッセイを用いて全細胞ライセート中で測定される。
【0013】
他の実施形態において、本発明は、二重特異性EGFR/c-Met抗体を提供し、そ
の場合、抗体は、NCI-H1975細胞株におけるタンパク質キナーゼB(AKT)の
Ser473におけるリン酸化を阻害し、そのIC50値は、HC3及びLC3を含むコン
トロール一価EGFR抗体とHC4及びLC4を含むコントロール一価c-Met抗体と
の混合物によるNCI-H1975細胞株におけるAKTのSer473におけるリン酸
化の阻害のIC50値と比較した場合に、少なくとも約70倍低いIC50値であり、ただし
、HC3とHC1、LC3とLC1、HC4とHC2、LC4とLC2はそれぞれ同一の
アミノ酸配列を有し、AKTのSer473におけるリン酸化は、非リン酸化及びリン酸
化AKTと結合する抗体を捕捉抗体とし、電気化学発光化合物と接合された抗ホスホAK
T Ser473抗体を検出抗体として使用するサンドイッチイムノアッセイを用いて全
細胞ライセート中で測定される。
【0014】
他の実施形態において、本発明は、配列番号73のEGFRとEGFR残基K489、
I491、K467及びS492で結合し、c-Metと残基PEFRDSYPIKYV
HAF(配列番号238)及びFAQSKPDSAEPMDRSA(配列番号239)で
結合する二重特異性EGFR/c-Met抗体を提供する。
【0015】
他の実施形態において、本発明は、NCI-H292又はNCI-H1975細胞の増
殖を、NCI-H292又はNCI-H1975細胞が低付着条件で増殖された場合のセ
ツキシマブによるNCI-H292又はNCI-H1975細胞の増殖の阻害のIC50
と比較した場合に、少なくとも約300倍低い、少なくとも約400倍低い、少なくとも
約500倍低い、少なくとも約600倍低い、少なくとも約700倍低い、又は少なくと
も約800倍低いIC50値で阻害する二重特異性EGFR/c-Met抗体を提供する。
【0016】
他の実施形態において、本発明は、二重特異性抗体及びセツキシマブが20mg/kg
の用量で投与された場合に、SCID BeigeマウスにおけるHGF発現SKMES
-1細胞腫瘍の増殖を、セツキシマブと比較して36日目に少なくとも500倍低いT/
C値(%)で阻害する二重特異性EGFR/c-Met抗体を提供する。
【0017】
他の実施形態において、本発明は、二重特異性EGFR/c-Met抗体を提供し、そ
の場合HC1CH3は、K409R又はF405Lの置換を含み、HC2CH3は、K4
09R又はF405Lの置換を含み、ここで残基の番号付けは、EUインデックスに基づ
くものである。
【0018】
他の実施形態において、本発明は、特定の重鎖及び軽鎖のCDR、VH1、VL1、V
H2、VL2、HC1、LC1、HC2及びLC2配列を含む二重特異性EGFR/c-
Met抗体を提供する。
【0019】
本発明の別の実施形態は、本発明のHC1、HC2、LC1、又はLC2をコードする
単離された合成ポリヌクレオチドである。
【0020】
本発明の別の実施形態は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターである。
【0021】
本発明の別の実施形態は、本発明のベクターを含む宿主細胞である。
【0022】
本発明の別の実施形態は、単離された二重特異性EGFR/c-Met抗体を生成する
方法であって、
配列番号199の2本の重鎖及び配列番号200の2本の軽鎖を含む単離された一重特
異性二価抗EGFR抗体と、配列番号201の2本の重鎖及び配列番号202の2本の軽
鎖を含む単離された一重特異性二価抗c-Met抗体と、を約1:1のモル比の混合物と
して加え合わせることと、
前記混合物中に還元剤を導入することと、
前記混合物を約90分~約6時間インキュベートすることと、
前記還元剤を除去することと、
配列番号199の第1の重鎖及び配列番号201の第2の重鎖、並びに配列番号200
の第1の軽鎖及び配列番号202の第2の軽鎖を含む二重特異性EGFR/c-Met抗
体を精製することと、を含み、配列番号199の前記第1の重鎖が配列番号200の前記
第1の軽鎖と対合してEGFRと特異的に結合する第1の結合ドメインを形成し、配列番
号201の前記第2の重鎖が配列番号202の前記第2の軽鎖と対合してc-Metと特
異的に結合する第2の結合ドメインを形成する、方法である。
【0023】
本発明の別の実施形態は、本発明の二重特異性抗体と医薬的に許容される担体とを含む
医薬組成物である。
【0024】
本発明の別の実施形態は、癌を有する対象を治療する方法であって、治療上の有効量の
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体を、治療を要する患者に癌を治療するのに
充分な時間にわたって投与することを含む方法である。
【0025】
本発明の別の実施形態は、EGFR及び/又はc-Metを発現する細胞の成長又は増
殖を阻害する方法であって、細胞を本発明の二重特異性抗体と接触させることを含む方法
である。
【0026】
本発明の別の実施形態は、対象のEGFR及び/又はc-Met発現腫瘍又は癌細胞の
増殖又は転移を阻害する方法であって、前記対象に、有効量の本発明の二重特異性抗体を
投与して、EGFR及び/又はc-Met発現腫瘍又は癌細胞の増殖又は転移を阻害する
ことを含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A】EGFR結合FN3ドメインのアミノ酸のアラインメント。BC及びFGループは、配列番号18の残基22~28及び75~86を枠で囲んで示す。一部の変異体は、熱安定性を高めるL17A、N46K及びE86I置換を含む(残基の番号付けはテンコン(配列番号1)に基づく)。
図1B】EGFR結合FN3ドメインのアミノ酸のアラインメント。BC及びFGループは、配列番号18の残基22~28及び75~86を枠で囲んで示す。一部の変異体は、熱安定性を高めるL17A、N46K及びE86I置換を含む(残基の番号付けはテンコン(配列番号1)に基づく)。
図2】テンコン27の骨格(配列番号99)及びランダム化されたC-CD-F-FGの別の表面を有するTCL14ライブラリ(配列番号100)の配列アラインメント。ループ残基は、枠で囲んで示す。ループ及び鎖は配列の上に示される。
図3】c-Met結合FN3ドメインの配列アラインメントCループ及びCD鎖、並びにFループ及びFG鎖は枠で囲んで示してあり、残基29~43及び65~81にわたっている。
図4】一重特異性又は二重特異性FN3ドメイン含有分子で前処理し、HGFで刺激した、NCI-H292細胞におけるc-Metのリン酸化の阻害を示す。一重特異性c-Met結合FN3ドメイン(P114AR5P74-A5、図にA5として示される)の単独、又はEGFR結合FN3ドメインとの組合わせ(P54AR4-83v2、図に83v2として示される)と比較した場合に、二重特異性EGFR/c-Met分子(ECB1)の効能の有意な増大が認められた。
図5】一重特異性又は二重特異性FN3ドメイン含有分子で前処理した細胞におけるEGFR及びc-Metのリン酸化の阻害。高いレベルのEGFR、NCI-H292(図5A)及びH596(図5B)を発現している細胞株では、抗EGFR一重特異性及び二重特異性FN3ドメイン含有分子は、EGFRのリン酸化の減少に同様の効能がある。c-Metに対して低いレベルのEGFRを発現している細胞株であるNCI-H441(図5C)では、二重特異性EGFR/c-Met分子は、一重特異性EGFR結合FN3ドメイン単独と比較してEGFRリン酸化の阻害効能を向上させている。EGFRに対してc-Metのレベルが低い細胞株であるNCI-H292(図5D)及びH596(図5E)では、一重特異性c-Met結合FN3ドメイン単独と比較して、二重特異性EGFR/c-Met分子によってc-Metリン酸化の阻害効果は有意に増大している。この試験で使用した分子は、二重特異性ECB5(図で17-A3として示される)、一重特異性EGFR結合FN3ドメインP53A1R5-17(図で17として示される)、二重特異性EGFR/c-Met分子ECB3(図で83-H9として示される)、及び一重特異性c-Met結合FN3ドメインP114AR7P93-H9(図でH9として示される)であった。
図6】二重特異性EGFR/c-Met分子を6時間又は72時間投与したマウスから単離された腫瘍における薬物力学的シグナル伝達いずれの分子も6時間後及び72時間後にc-Met、EGFR、及びERKのリン酸化を有意に低減させたが、阻害の程度は、EGFR及び/又はc-Metに対するFN3ドメインの親和性に依存した。二重特異性分子は、高親和性(図の83はp54AR4-83v2である)又は中親和性(図の17v2はP53A1R5-17v2である)のEGFR結合FN3ドメインを、高親和性(図のA3はP114AR7P94-A3である)又は中親和性(図のA5はP114AR5P74-A5である)のc-Met結合FN3ドメインと連結することによって生成した。
図7】アルブミン結合ドメイン(ABD)と連結された親和性の異なる二重特異性EGFR/c-Met分子の血漿(上図)及び腫瘍(下図)への蓄積を、IP投与の6時間(左図)及び72時間後(右図)に示す。投与6時間後に、中親和性のEGFR結合FN3ドメイン(17v2)又は高親和性EGFR結合ドメイン(83v2)を有する二重特異性分子を投与したマウスにおいて腫瘍への蓄積は最大となった。二重特異性分子には、高親和性又は中親和性のEGFR又はc-Met結合FN3ドメインを、83v2-A5-ABD(ECB18;EGFR/c-Metに対して高/中)、83v2-A3-ABD(ECB38;高/高)、17v2-A5(ECB28;中/中)、17v2-A3-ABD(ECB39;中/高)で組み込んだ。図中、83v2はp54AR4-83v2を指し、17v2はp53A1R5-17v2を指し、A3はp114AR7P94-A3を指し、A5はp114AR5P74-A5を指す。
図8】H292-HGF腫瘍異種移植片をSCID Beigeマウスに移植した。腫瘍が約80mm3の平均体積に達した時点で、マウスに二重特異性EGFR/c-Met分子(25mg/kg)又はPBS溶媒を週3回投与した。いずれの二重特異性分子も腫瘍増殖を低下させ、腫瘍増殖阻害率(TGI)はc-Met及びEGFRに対する分子の親和性に依存した(高EGFR-高cMetは、p54AR4-83v2-p114AR7P94-A3(ECB38)を指し、高EGFR-中cMetは、p54AR4-83v2-p114AR5P74-A5(ECB18)を指し、中EGFR-高cMetは、p53A1R5-17v2-p114AR7P94-A3(ECB39)を指し、中EGFR-中cMetは、p53A1R5-17-p114AR5P74-A5(ECB28)を指す。)
図9】H292-HGF腫瘍異種移植片をSCID Beigeマウスに移植し、マウスを異なる治療薬で処置した。治療薬の抗腫瘍活性を示す(二重特異性EGFR/c-Met分子は、p54AR4-83v2-p114AR7P94-A3-ABD(ECB38)を指す。他の治療薬は、クリゾチニブ、エルロチニブ、セツキシマブ、及びクリゾチニブとエルロチニブの併用である。)
図10】SKMES-HGF腫瘍異種移植片をSCID Beigeマウスに移植し、マウスを異なる治療薬で処置した。治療薬の抗腫瘍活性を、経時的な腫瘍サイズ(mm3)の変化として示す。二重特異性EGFR/c-Met抗体EM1-mAbを、20mg/kg、5mg/kg、又は1mg/kgを週2回、腹腔内(i.p.)投与し、セツキシマブは20mg/kgを週2回腹腔内投与した。図の矢印は投与日を示す。抗体の後の数値は、投与した用量を示す。
図11】HCC827腫瘍異種移植片をヌードマウスに移植し、そのマウスを示した用量のエルロチニブ又はEM1-mAbで処置した。EM1-mAbは週2回、エルロチニブは1日1回、4週間にわたって投与した。図の矢印は投与日を示す。治療薬の抗腫瘍活性を、経時的な腫瘍サイズ(mm3)の変化として示す。
図12】SNU-5腫瘍異種移植片をCB17/SCIDマウスに移植し、そのマウスを10mg/kgのセツキシマブ、又は10mg/kg若しくは1mg/kgのEM1-mAbで処置した。抗体は週2回、4週間にわたって投与した。図の矢印は投与日を示す。治療薬の抗腫瘍活性を、経時的な腫瘍サイズ(mm3)の変化として示す。
図13】H1975-HGF腫瘍異種移植片をヌードマウスに移植し、そのマウスを10mg/kgのセツキシマブ、10mg/kgのEM1-mAb、50mg/kgのエルロチニブ、15mg/kgのアファチニブ、又は10mg/kgのEM1-mAbと15mg/kgのアファチニブの組合わせで処置した。抗体は週2回、小分子は1日1回、3週間にわたって投与した。図の矢印は投与日を示す。治療薬の抗腫瘍活性を、経時的な腫瘍サイズ(mm3)の変化として示す。
図14】HCC827-ER1腫瘍異種移植片をヌードマウスに移植し、そのマウスを10mg/kgのEM1-mAb、25mg/kgのエルロチニブ、又はこれらの組合わせで処置した。EM1-mAbは週2回、エルロチニブは1日1回、19日間にわたって投与した。図の矢印は投与日を示す。治療薬の抗腫瘍活性を、経時的な腫瘍サイズ(mm3)の変化として示す。
図15】20mg/kgのEM1-mAbの単回投与後のSCID Beigeマウスに移植されたH1975HGF腫瘍異種移植片から単離した腫瘍ライセート中の平均のEGFR及びc-Metレベル。受容体のレベルは、処置後の示された時間におけるPBSコントロールの%として示した。
図16】H1975-HGF腫瘍異種移植片をヌードマウスに移植し、そのマウスを10mg/kgのEM1-mAb、又はFc受容体の結合がなくエフェクター機能が欠如した10mg/kgのEM1-mAb変異体IgG2V234A/G237A/P238S/H268A/V309L/A330S/P331Sで処置した。抗体は週2回、示された日に投与した。治療薬の抗腫瘍活性を、経時的な腫瘍サイズ(mm3)の変化として示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書で使用するところの「フィブロネクチンIII型(FNIII)ドメイン(F
N3ドメイン)」なる用語は、フィブロネクチン、テネイシン、細胞内細胞骨格タンパク
質、サイトカイン受容体、及び原核細胞酵素を含む、タンパク質中に高頻度で見られるド
メインを指す(Bork and Doolittle,Proc Nat Acad
Sci USA 89:8990~8994,1992;Meinke et al.,
J Bacteriol 175:1910~1918,1993;Watanabe
et al.,J Biol Chem 265:15659~15665,1990)
。代表的なFN3ドメインは、ヒトテネイシンCに存在する15個の異なるFN3ドメイ
ン、ヒトフィブロネクチン(FN)に存在する15個の異なるFN3ドメイン、及び例え
ば米国特許出願公開第2010/0216708号に述べられる非天然合成FN3ドメイ
ンである。個々のFN3ドメインは、ドメイン番号及びタンパク質名によって、例えば、
テネイシンの第3FN3ドメイン(TN3)、又はフィブロネクチンの第10FN3ドメ
イン(FN10)と呼ばれる。
【0029】
本明細書で使用するところの「置換する」若しくは「置換された」又は「変異する」若
しくは「変異した」なる用語は、ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列における1以上
のアミノ酸又はヌクレオチドを変更、欠失、挿入することによってその配列の変異体を生
成することを指す。
【0030】
本明細書で使用するところの「ランダム化する」若しくは「ランダム化された」又は「
多様化された」若しくは「多様化する」なる用語は、ポリヌクレオチド又はポリペプチド
配列において少なくとも1つの置換、挿入、又は欠失を行うことを指す。
【0031】
本明細書で使用するところの「変異体」なる用語は、例えば、置換、挿入、又は欠失等
の1つ以上の修飾によって、基準ポリペプチド又は基準ポリヌクレオチドとは異なってい
る、ポリペプチド又はポリヌクレオチドを指す。
【0032】
本明細書で使用するところの「特異的に結合する」又は「特異的に結合している」なる
用語は、所定の抗原と、約1×10-6M以下、例えば約1×10-7M以下、約1×10-8
M以下、約1×10-9M以下、約1×10-10M以下、約1×10-11M以下、約1×10
-12M以下、又は約1×10-13M以下の解離定数(KD)で結合する、本発明のFN3ド
メイン、EGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異性薬剤、又は二重特異性E
GFR/c-Met抗体の能力を指す。一般的に、本発明のFN3ドメイン、EGFR及
びc-Metと特異的に結合する二重特異性薬剤、又は二重特異性EGFR/c-Met
抗体は、例えばProteon装置(BioRad)を使用して表面プラズモン共鳴によ
って測定される非特異的抗原(例えばBSA又はカゼイン)に対するそのKDよりも少な
くとも10倍小さいKDで所定の抗体(すなわち、EGFR又はc-Met)と結合する
。したがって、本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、E
GFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異性薬剤、又は二重特異性EGFR/c
-Met抗体は、各EGFR及びc-Metと、少なくとも約1×10-6M以下、例えば
約1×10-7M以下、約1×10-8M以下、約1×10-9M以下、約1×10-10M以下
、約1×10-11M以下、約1×10-12M以下、又は約1×10-13M以下の結合親和性
(KD)で特異的に結合する。しかしながら、所定の抗原と結合する本発明の二重特異性
EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR及びc-Metと特異的に結
合する二重特異性薬剤、又は二重特異性EGFR/c-Met抗体は、他の関連する抗原
、例えば他の種からの同じ所定の抗原(ホモログ)と交差反応性を有し得る。
【0033】
「ライブラリ」なる用語は、変異体の集合を指す。ライブラリは、ポリペプチド又はポ
リヌクレオチド変異体からなり得る。
【0034】
本明細書で使用するところの「安定性」なる用語は、例えば、EGFR又はc-Met
などの所定の抗原との結合などのその正常な機能活性の少なくとも1つを維持するように
生理学的条件下で折り畳み状態を維持する分子の能力を指す。
【0035】
本発明で使用するところの「上皮増殖因子受容体」又は「EGFR」とは、配列番号7
3及びGenBankアクセッション番号NP_005219に示されるアミノ酸配列並
びにその天然に存在する変異体を有するヒトEGFR(HER1又はErbB1としても
知られる(Ullrich et al.,Nature 309:418~425,1
984)を指す。このような変異体としては、よく知られたEGFRvIII及びその他
の別の方法でスプライスされた変異体(例えば、SwissProtアクセッション番号
P00533-1(野生型;配列番号73及びNP_005219と同じ)、P0053
3-2(F404L/L405S)、P00533-3(628~705:CTGPGL
EGCP...GEAPNQALLR→PGNESLKAML...SVIITASSC
H、及び706~1210を欠失)、P00533-4(C628S及び629~121
0を欠失)、変異体GlnQ98、R266、K521、I674、G962、及びP9
88(Livingston et al.,NIEHS-SNPs,environm
ental genome project,NIEHS ES15478)、T790
M、L858R/T790M、及びdel(E746、A750)で認識される)が挙げ
られる。
【0036】
本明細書で使用するところの「EGFRリガンド」には、EGF、TGFα、ヘパリン
結合EGF(HB-EGF)、アンフィレグリン(AR)、及びエピレグリン(EPI)
などの、EGFRのすべての(例えば生理学的な)リガンドが含まれる。
【0037】
本明細書で使用するところの「上皮増殖因子(EGF)」とは、配列番号74に示され
るアミノ酸配列を有する、53個のアミノ酸からなる周知のヒトEGFを指す。
【0038】
本明細書で使用するところの「肝細胞増殖因子受容体」又は「c-Met」とは、配列
番号101又はGenbankアクセッション番号NP_001120972に示される
アミノ酸配列を有するヒトc-Met及びその天然の変異体を指す。
【0039】
本明細書で使用するところの「肝細胞増殖因子」(HGF)とは、切断されることによ
ってジスルフィド結合によって連結されたα鎖とβ鎖の二量体を形成する、配列番号10
2に示されるアミノ酸配列を有する周知のヒトHGFを指す。
【0040】
本明細書で使用するところの「結合をブロックする」又は「結合を阻害する」とは、E
GFRに対するEGF、及び/又はc-Metに対するHGF、といったEGFRリガン
ドの結合をブロック又は阻害する、本発明のFN3ドメイン、二重特異性EGFR/c-
Met FN3ドメイン含有分子、EGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異
性薬剤、又は二重特異性EGFR/c-Met抗体の能力を互換可能に指し、これには部
分的な及び完全なブロッキング/阻害が含まれる。本発明のFN3ドメイン、二重特異性
EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR及びc-Metと特異的に結
合する二重特異性薬剤、又は二重特異性EGFR/c-Met抗体による、EGFRに対
するEGF、及び/又はc-Metに対するHGF、といったEGFRリガンドのブロッ
キング/阻害は、ブロッキング又は阻害なしに、EGFRリガンドのEGFRとの結合及
び/又はHGFのc-Metとの結合と比較してEGFRシグナル伝達及び/又はc-M
etシグナル伝達の正常なレベルを部分的又は完全に低減させる。本発明のFN3ドメイ
ン、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR及びc-Me
tと特異的に結合する二重特異性薬剤、又は二重特異性EGFR/c-Met抗体は、阻
害率が、少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%
、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%
、96%、97%、98%、99%又は100%である場合に、EGFRに対するEGF
、及び/又はc-Metに対するHGF、といったEGFRリガンドの「結合をブロック
する」。結合の阻害は、例えば、FACSを用い、及び本明細書に述べる方法を用いて、
本発明のFN3ドメイン、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、
EGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異性薬剤、又は二重特異性EGFR/
c-Met抗体に曝露されたEGFR発現A431細胞でのビオチン化EGFの結合の阻
害を測定するか、あるいは周知の方法及び本明細書に述べられる方法を用いてc-Met
細胞外ドメインでのビオチン化HGFの結合の阻害を測定するなど、周知の方法を用いて
測定することができる。
【0041】
「EGFRシグナル伝達」なる用語は、EGFRの少なくとも1つのチロシン残基の自
己リン酸化につながる、EGFRへのEGFRリガンドの結合によって誘導されるシグナ
ルトランスダクションを指す。代表的なEGFRリガンドの1つにEGFがある。
【0042】
本明細書において使用するところの「EGFRシグナル伝達を無効にする」とは、EG
FなどのEGFRリガンドによって誘導されるEGFRシグナル伝達を少なくとも30%
、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%
、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%
、99%又は100%阻害する、本発明のFN3ドメイン、二重特異性EGFR/c-M
etFN3ドメイン含有分子、EGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異性薬
剤、又は二重特異性EGFR/c-Met抗体の能力を指す。
【0043】
「c-Metシグナル伝達」なる用語は、c-Metの少なくとも1つのチロシン残基
の自己リン酸化につながる、c-MetへのHGFの結合によって誘導されるシグナルト
ランスダクションのことを指す。通常、HGFの結合により、1230、1234、12
35又は1349位の少なくとも1つのチロシン残基が自己リン酸化される。
【0044】
本明細書において使用するところの「c-Metシグナル伝達を無効にする」とは、H
GFによって誘導されるc-Metシグナル伝達を少なくとも30%、35%、40%、
45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、
91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100
%阻害する、本発明のFN3ドメイン、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイ
ン含有分子、EGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異性薬剤、又は二重特異
性EGFR/c-Met抗体の能力を指す。
【0045】
本明細書で使用するところの「過剰発現する」、「過剰発現された」及び「過剰発現し
ている」とは、同じ組織型の正常細胞と比較して表面上のEGFR及び/又はc-Met
のレベルが測定可能なより高いレベルの癌又は悪性細胞のことを互換可能に指す。このよ
うな過剰発現は、遺伝子増幅によって、又は転写若しくは翻訳の増大によって引き起こさ
れ得る。EGFR及び/又はc-Metの発現及び過剰発現は、例えば、生細胞又は溶解
した細胞に対するELISA、免疫蛍光法、フローサイトメトリー、又はラジオイムノア
ッセイを用いた周知のアッセイを用いて測定することができる。これに代えるか、又はこ
れに加えて、EGFR及び/又はc-Metをコードする核酸のレベルを、例えば、蛍光
インサイチューハイブリダイゼーション、サザンブロッティング、又はPCR法を用いて
細胞内で測定することもできる。EGFR及び/又はc-Metは、細胞の表面上のEG
FR及び/又はc-Metのレベルが、正常細胞と比較して少なくとも1.5倍である場
合に過剰発現される。
【0046】
本明細書で使用するところの「テンコン」とは、配列番号1に示される配列を有し、米
国特許出願公開第US2010/0216708号に述べられる、合成フィブロネクチン
III型(FN3)ドメインを指す。
【0047】
本明細書で使用するところの「癌細胞」又は「腫瘍細胞」とは、新たな遺伝物質の取り
込みを必ずしもともなわない、自然の又は誘導された表現型変化を有するインビボ、エク
スビボ、及び組織内培養中の癌性、前癌性、又は形質転換細胞を指す。形質転換は、形質
転換ウイルスによる感染及び新たなゲノム核酸の組み込み、又は外因性核酸の取り込みに
よって生じ得るが、自然に又は発癌性物質への曝露後にも生じ得るものであり、これによ
り内因性の遺伝子を変異させるものである。形質転換/癌は、例えば、インビトロ、イン
ビボ、及びエクスビボの形態的変化、細胞の固定化、異常な増殖制御、病巣形成、増殖、
悪性病変、腫瘍特異的マーカーレベル、侵襲性、ヌードマウスなどの適当な動物宿主にお
ける腫瘍増殖又は抑制などによって実証される(Freshney,Culture o
f Animal Cells:A Manual of Basic Techniq
ue(3rd ed.1994))。
【0048】
「ベクター」なる用語は、生体系内で複製され得る、又はこうした系間を移動し得るポ
リヌクレオチドを意味する。ベクターポリヌクレオチドは一般的に、生体系内でこれらの
ポリヌクレオチドの複製又は維持を促進するように機能する複製起点、ポリアデニル化シ
グナル、又は選択マーカーなどの要素を含む。このような生体系の例としては、細胞、ウ
イルス、動物、植物、及びベクターを複製することができる生物学的要素を利用して再構
成された生物系を挙げることができる。ベクターを含むポリヌクレオチドは、DNA若し
くはRNA分子又はこれらのハイブリッドであってよい。
【0049】
「発現ベクター」なる用語は、生体系又は再構成された生体系において、その発現ベク
ター中に存在するポリヌクレオチド配列によってコードされたポリペプチドの翻訳を導く
ために使用することができるベクターを意味する。
【0050】
「ポリヌクレオチド」なる用語は、糖-リン酸骨格又は他の同等の共有結合化学構造に
より共有結合を介して連結されたヌクレオチド鎖を含む分子を意味する。二本鎖及び一本
鎖のDNA及びRNAが、ポリヌクレオチドの典型例である。
【0051】
「相補的DNA」又は「cDNA」とは、ゲノムDNA内に存在する介在イントロンが
除去された、連続したエクソンを有する天然の成熟mRNA種に見られる配列要素の構成
を共有する周知の合成ポリヌクレオチドを指す。開始メチオニンをコードするコドンは、
cDNA内に存在してもしなくてもよい。cDNAは、例えば逆転写により、又は合成遺
伝子のアセンブリによって合成することができる。
【0052】
本明細書で使用するところの「合成の」又は「非天然の」又は「人工の」とは、ポリヌ
クレオチド又はポリペプチド分子が天然に存在しないことを指す。
【0053】
「ポリペプチド」又は「タンパク質」なる用語は、ペプチド結合により連結されてポリ
ペプチドを生成する少なくとも2個のアミノ酸残基を含む分子を意味する。約50個未満
のアミノ酸からなる小さなポリペプチドは、「ペプチド」と呼ばれる場合がある。
【0054】
本明細書で使用するところの「二重特異性EGFR/c-Met分子」又は「二重特異
性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子」なる用語は、直接又はリンカーを介
して互いに共有結合により連結されたEGFR結合FN3ドメインと、別個のc-Met
結合FN3ドメインと、を含む分子のことを指す。代表的な二重特異性EGFR/c-M
et結合分子は、EGFRと特異的に結合する第1のFN3ドメインと、c-Metと特
異的に結合する第2のFN3ドメインと、を含む。
【0055】
本明細書で使用するところの「価」とは、分子内に、ある抗原に対する特異的な特定の
数の結合部位が存在することを指す。したがって、「一価の」、「二価の」、「四価の」
、及び「六価の」なる用語は、分子内に、ある抗原に対する特異的な1個、2個、4個、
及び6個の結合部位がそれぞれ存在することを指す。
【0056】
本明細書で使用するところの「混合物」とは、互いに共有結合によって連結されていな
い2以上のFN3ドメインの試料又は調製物のことを指す。混合物は、2以上の同じFN
3ドメインからなってもよいし、異なるFN3ドメインからなってもよい。本明細書で使
用するところの混合物とは、EGFRに対して一価であり、かつ/又はc-Metに対し
て一価である2以上の一価抗体の試料又は調製物も指す。
【0057】
本明細書で使用するところの「EGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異性
薬剤」なる用語は、EGFRと特異的に結合する第1のドメインと、c-Metと特異的
に結合する第2のドメインと、を含む分子を指す。EGFR及びc-Metと特異的に結
合する代表的な薬剤の1つに、二重特異性抗体がある。EGFR及びc-Metと特異的
に結合する別の例示的な二重特異性薬剤は、EGFR結合FN3ドメインと、別個のc-
Met結合FN3ドメインと、を含む分子である。EGFR及びc-Metと特異的に結
合する二重特異性薬剤は、1個のポリヌクレオチドで攻勢されてもよいし、1個を超える
ポリヌクレオチドで構成されてもよい。
【0058】
本明細書で使用するところの「二重特異性抗EGFR/c-Met抗体」又は「二重特
異性EGFR/c-Met抗体」なる用語は、EGFRと特異的に結合する第1のドメイ
ンと、c-Metと特異的に結合する第2のドメインと、を有する二重特異性抗体を指す
。EGFR及びc-Metと特異的に結合するドメインは、通常はVH/VLのペアであ
り、二重特異性抗EGFR/c-Met抗体は、EGFR及びc-Metとの結合に関し
て一価である。
【0059】
本明細書で使用するところの「抗体」なる用語は、広義の意味で用いられ、ポリクロー
ナル抗体、マウス、ヒト、ヒト適合化、ヒト化及びキメラモノクローナル抗体を含むモノ
クローナル抗体、抗体フラグメント、二重特異性抗体又は多重特異性抗体、二量体、四量
体又は多量体抗体、並びに一本鎖抗体を含む免疫グロブリン分子を含む。
【0060】
免疫グロブリンは、重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に基づいてIgA、IgD、I
gE、IgG及びIgMの5つの大きなクラスに分類することができる。IgA及びIg
Gは、IgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4のアイソタイプとし
て更に分類される。任意の脊椎動物種の抗体の軽鎖は、定常ドメインのアミノ酸配列に基
づいてカッパ(κ)及びラムダ(λ)の2つの明確に異なるタイプのうちの一方に分類す
ることができる。
【0061】
「抗体フラグメント」なる用語は、重鎖相補性決定領域(HCDR)1、2及び3、軽
鎖相補性決定領域(LCDR)1、2及び3、重鎖可変領域(VH)、又は軽鎖可変領域
(VL)などの重鎖及び/又は軽鎖の抗原結合部位を維持する免疫グロブリン分子の部分
のことを指す。抗体フラグメントとしては、Fabフラグメント;VL、VH、CL及び
CHIドメインからなる一価のフラグメント;F(ab)2フラグメント、ヒンジ領域に
おいてジスルフィド架橋によって連結された2個のFabフラグメントを含む二価のフラ
グメント;VH及びCHIドメインからなるFdフラグメント;抗体の1本のアームのV
L及びVHドメインからなるFvフラグメント;VHドメインからなるドメイン抗体(d
Ab)フラグメント(Ward et al(1989)Nature 341:544
~546)が挙げられる。VHドメイン及びVLドメインは、これらを操作して合成リン
カーを介して互いに連結することで様々な種類の一本鎖抗体の設計を形成することが可能
であり、その場合、VH/VLドメインが分子内で、又はVHドメインとVLドメインと
が別々の一本鎖の抗体コンストラクトによって発現される場合には分子間で組み合わさり
、一本鎖Fv(scFv)又はダイアボディのような一価の抗原結合部位を形成するもの
であり、これについては、例えば国際特許公開第WO1998/44001号、同第WO
1988/01649号、同第WO1994/13804号、及び同第WO1992/0
1047に述べられている。これらの抗体フラグメントは当業者に周知の技術を用いて得
られるものであり、こうしたフラグメントは、実用性に関して、完全長の抗体と同じ方法
でスクリーニングされる。
【0062】
「単離抗体」なる語句は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質上含まない抗体又
は抗体フラグメントのことを指す(例えば、EGFR及びc-Metと特異的に結合する
単離された二重特異性抗体は、ヒトEGFR及びc-Met以外の抗原と特異的に結合す
る抗体を実質上含まない。)。しかしながら、EGFR及びc-Metと特異的に結合す
る単離抗体は、ヒトEGFR及び/又はc-Met、例えばMacaca fascic
ularis(カニクイザル)のEGFR及び/又はc-Metのオーソログなどの他の
抗原との交差反応性を有し得る。更に、単離抗体は、他の細胞物質及び/又は化学物質を
実質上含まない場合もある。
【0063】
抗体可変領域は、3つの「抗原結合部位」が挟み込まれた「フレームワーク」領域から
なる。抗原結合部位は、異なる用語で定義されている。すなわち、(i)VH内の3個(
HCDR1、HCDR2、HCDR3)及びVL内の3個(LCDR1、LCDR2、L
CDR3)の相補性決定領域(CDR)は、配列の可変性に基づいたものであり(Wu
and Kabat(1970)J Exp Med 132:211~50,1970
;Kabat et al Sequences of Proteins of Im
munological Interest,5th Ed.Public Healt
h Service,National Institutes of Health,
Bethesda,Md.,1991)、(ii)VH内の3個(H1、H2、H3)及
びVL内の3個(L1、L2、L3)の「超可変領域」、「HVR」、又は「HV」は、
Chothia 及びLesk(Chothia and Lesk Mol Biol
196:901~17,1987)によって定義されるように、構造が高度に可変性の
抗体の可変ドメインの領域を指す。他の用語としては、「IMGT-CDR」(Lefr
anc et al.,Dev Comparat Immunol 27:55~77
,2003)及び「特異性決定残基の使用」(SDRU)(Almagro Mol R
ecognit 17:132~43,2004)がある。International
ImMunoGeneTics(IMGT)データベース(http://www_i
mgt_org)から、抗原結合部位の標準化番号付け及び定義が提供されている。CD
R、HV及びIMGTの表記間の対応については、Lefranc et al.,De
v Comparat Immunol 27:55~77,2003に述べられている
【0064】
本明細書で使用するところの「Chothia残基」とは、Al-Lazikani(
Al-Lazikani et al.,J Mol Biol 273:927~48
,1997)に従って番号付けされた抗体VL残基及びVH残基である。
【0065】
「フレームワーク」又は「フレームワーク配列」とは、抗原結合部位として定義されて
いる配列以外の可変領域の残りの配列である。抗原結合部位は上述のような様々な用語に
よって定義され得ることから、フレームワークの正確なアミノ酸配列は、抗原結合部位が
どのように定義されるかによって決まる。
【0066】
「ヒト化抗体」とは、抗原結合部位がヒト以外の種に由来し、かつ可変領域フレームワ
ークがヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体を指す。ヒト化抗体はフレームワーク領域
内に置換を含む可能性があることから、フレームワークは、発現されるヒト免疫グロブリ
ン又は生殖系列の遺伝子配列の正確なコピーではない可能性がある。
【0067】
「ヒト適合化」抗体又は「ヒトフレームワーク適合化(HFA)」抗体とは、米国特許
出願公開第US2009/0118127号に述べられる方法にしたがって適合されたヒ
ト化抗体を指す。ヒト適合化抗体は、最大のCDRとFRとの類似性、CDR1及びCD
R2ループ並びに軽鎖CDR3ループの一部分の長さ適合性及び配列類似性に基づいてア
クセプターとなるヒトフレームワークを選択することによってヒト化される。
【0068】
「ヒト抗体」とは、フレームワーク及び抗原結合部位の両方がヒト由来の配列に由来す
る重鎖及び軽鎖可変領域を有する抗体を指す。抗体が定常領域を含む場合、その定常領域
もヒト由来の配列に由来する。
【0069】
ヒト抗体は、抗体の可変領域がヒト生殖系列の免疫グロブリン又は再構成された免疫グ
ロブリン遺伝子を用いる系から得られたものである場合に、ヒト由来の配列に「由来する
」重鎖又は軽鎖可変領域を含む。こうした系としては、ファージ上にディスプレイされる
ヒト免疫グロブリン遺伝子ライブラリ、及び本明細書に述べられるようなヒト免疫グロブ
リン遺伝子座を有するマウスなどのトランスジェニック非ヒト動物が挙げられる。「ヒト
抗体」は、ヒト生殖系列又は再構成された免疫グロブリン配列と比較した場合に、例えば
、自然に発生する体細胞変異又はフレームワーク又は抗原結合部位での意図的な置換の導
入により、アミノ酸の差異を含み得る。一般的に、「ヒト抗体」は、アミノ酸配列が、ヒ
ト生殖系列又は再構成された免疫グロブリン遺伝子によってコードされたアミノ酸配列と
少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88
%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98
%、99%又は100%一致している。いくつかの場合では、「ヒト抗体」は、例えばK
nappik et al.,J Mol Biol 296:57~86,2000に
述べられるようなヒトフレームワーク配列分析により誘導されるコンセンサスフレームワ
ーク配列、又はShi et al.,J Mol Biol 397:385~96,
2010及び国際特許公開第WO2009/085462号に述べられるような、ファー
ジ上にディスプレイされるヒト免疫グロブリン遺伝子ライブラリに組み込まれた合成HC
DR3を含み得る。抗原結合部位がヒト以外の種に由来する抗体は、「ヒト抗体」の定義
には含まれない。
【0070】
単離されたヒト化抗体は合成されたものでもよい。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配
列に由来するものであるが、合成CDR及び/又は合成フレームワークを組み込んだファ
ージディスプレイのようなシステムを用いて生成してもよく、又は抗体の特性を向上させ
るためにインビトロ変異生成されてもよく、結果として、インビボではヒト抗体生殖系列
のレパートリーに自然に存在しない抗体が得られる。
【0071】
本明細書で使用するところの「組換え抗体」なる用語には、ヒト免疫グロブリン遺伝子
に関して遺伝子導入又は染色体導入された動物(例えばマウス)又はそれから調製された
ハイブリドーマ(以下に更に述べる)から単離される抗体、抗体を発現するように形質転
換された宿主細胞から単離される抗体、組換えコンビナトリアル抗体ライブラリから単離
される抗体、及びヒト免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライスすること
を伴う他の任意の手段によって調製、発現、生成、又は単離される抗体、あるいはFab
アーム交換を用いてインビトロで生成される抗体などの、組換え手段によって調製、発現
、生成、又は単離されるすべての抗体が含まれる。
【0072】
本明細書で使用するところの「モノクローナル抗体」なる用語は、単一の分子組成の抗
体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一の
結合特異性及び親和性を示すか、又は二重特異性モノクローナル抗体の場合では、2つの
異なるエピトープに対して二重の結合特異性を示す。
【0073】
本明細書で使用するところの「実質的に同一の」なる用語は、比較される2つの抗体可
変領域のアミノ酸配列が同一であるか又は「わずかな差異」しかないことを意味する。わ
ずかな差異とは、抗体の特性に悪影響を及ぼさない、抗体可変領域の配列の1、2、3、
4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15個のアミノ酸の置換
である。本明細書に開示される可変領域の配列と実質上同一のアミノ酸配列は、本発明の
範囲に含まれる。いくつかの実施形態では、配列同一性は、約90%、91%、92%、
93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上高くてもよい。
同一性(%)は、例えば、Vector NTIv.9.0.0(Invitrogen
、カリフォルニア州カールスバッド)のAlignXモジュールの初期設定を使用してペ
アで整列させることによって決定することができる。本発明のタンパク質配列を問い合わ
せ配列として使用することで、例えば、関連する配列を特定するために公開データベース
又は特許データベースでの検索を実行することができる。こうした検索を実行するために
使用される代表的なプログラムとしては、初期設定を使用する、XBLAST若しくはB
LASTPプログラム(http_//www_ncbi_nlm/nih_gov)、
又はGenomeQuest(商標)(GenomeQuest、マサチューセッツ州ウ
ェストボロー)スイートがある。
【0074】
本明細書で使用するところの「エピトープ」なる用語は、抗体が特異的に結合する抗原
の部分を意味する。エピトープは通常、アミノ酸又は多糖類側鎖などの部分の化学的に活
性な(極性、非極性又は疎水性など)表面集団からなり、特定の3次元構造特性及び特定
の電荷特性を有し得る。エピトープは、構造空間的単位を形成する連続的かつ/又は不連
続的なアミノ酸で構成され得る。不連続的なエピトープでは、抗原の直鎖配列の異なる部
分のアミノ酸は、タンパク質分子の折り畳みによって3次元空間において接近する。
【0075】
本明細書で使用するところの「併用して」なる用語は、2以上の治療薬を、対象に、混
合物中でともに、単独の薬剤として同時に、又は単独の薬剤として任意の順序で逐次投与
できることを意味する。
【0076】
本明細書の全体を通じて、抗体の定常領域のアミノ酸残基の番号付けは、特に断りがな
い限り、Kabat et al.,Sequences of Proteins o
f Immunological Interest,5th Ed.Public H
ealth Service,National Institutes of Hea
lth,Bethesda,MD.(1991)に述べられるEUインデックスに従って
行った。
【0077】
物質の組成
本発明は、EGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異性薬剤を提供する。本
発明は、本発明の二重特異性薬剤をコードするポリペプチド及びポリヌクレオチド、又は
その相補的な核酸、ベクター、宿主細胞、並びにそれらの製造方法及び使用方法を提供す
る。
【0078】
一重特異性及び二重特異性のEGFR及び/又はc-MetFN3ドメイン含有結合分

一重特異性EGFR FN3ドメイン含有結合性分子
本発明は、上皮増殖因子受容体(EGFR)に特異的に結合し上皮増殖因子(EGF)
のEGFRとの結合をブロックするフィブロネクチンIII型(FN3)ドメインを提供
するものであり、したがって、治療及び診断用途に広く用いられることができる。本発明
は、本発明のFN3ドメインをコードするポリヌクレオチド、又はその相補的な核酸、ベ
クター、宿主細胞、並びにそれらの製造方法及び使用方法を提供する。
【0079】
本発明のFN3ドメインは、高い親和性でEGFRと結合しEGFRシグナル伝達を阻
害するため、小分子のEGFR阻害剤と比較した場合に特異性及び低減された標的外毒性
(off-target toxicity)の点で、また、従来の抗体治療と比較した場合に向上した組織
浸透性の点で、利点をもたらし得る。
【0080】
本発明の一実施形態は、上皮増殖因子受容体(EGFR)と特異的に結合し上皮増殖因
子(EGF)のEGFRとの結合をブロックする、単離されたフィブロネクチンIII型
(FN3)ドメインである。
【0081】
本発明のFN3ドメインは、A431細胞を用い、本発明のFN3ドメインの存在下又
は非存在下でインキュベートしたA431細胞に600nMのストレプトアビジン-フィ
コエリトリンコンジュゲートを使用して、結合したビオチン化EGFからの蛍光の量を検
出する競合アッセイにおいて、約1×10-7M未満、約1×10-8M未満、約1×10-9
M未満、約1×10-10M未満、約1×10-11M未満、又は約1×10-12M未満のIC5
0値で、EGFRに対するEGFの結合をブロックすることができる。配列番号18~2
9、107~110、又は122~137のアミノ酸配列を有するEGFR結合FN3ド
メインなどの代表的なFN3ドメインは、約1×10-9M~約1×10-7MのIC50値で
、EGFRに対するEGFの結合をブロックすることができる。本発明のFN3ドメイン
は、同じアッセイ条件を用いた本発明のFN3ドメインの非存在下におけるEGFRに対
するEGFの結合と比較した場合に、EGFRに対するEGFの結合を少なくとも30%
、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%
、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%
、99%、又は100%ブロックすることができる。
【0082】
本発明のFN3ドメインは、同じアッセイ条件を用いた本発明のFN3ドメインの非存
在下におけるシグナル伝達のレベルと比較した場合に、EGFRシグナル伝達を、少なく
とも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75
%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97
%、98%、99%、又は100%阻害することができる。
【0083】
EGFRに対するEGFなどのリガンドの結合は、受容体の二量体化、自己リン酸化、
受容体の内部の細胞質チロシンキナーゼドメインの活性化、並びにDNA合成の調節(遺
伝子の活性化)及び細胞周期の進行又は細胞分裂に関与する複数のシグナルトランスダク
ション及びトランス活性化経路の開始を刺激する。EGFRシグナル伝達の阻害は、1以
上のEGFRの下流のシグナル伝達経路の阻害につながり得るため、EGFRを無効にす
ることは、細胞の増殖及び分化、血管新生、細胞運動性、並びに転移の阻害をはじめとす
る様々な作用を有し得る。
【0084】
EGFRシグナル伝達は、例えば、チロシンY1068、Y1148、及びY1173
のいずれかにおける受容体の自己リン酸化(Downward et al.,Natu
re 311:483~5,1984)、並びに/又は天然若しくは合成基質のリン酸化
を測定するなど、様々な周知の方法を用いて測定することができる。リン酸化は、ELI
SAアッセイ又はホスホチロシン特異的抗体を用いたウェスタンプロットなどの周知の方
法を用いて検出することができる。代表的なアッセイは、Panek et al.,J
Pharmacol Exp Thera 283:1433~44,1997及びB
atley et al.,Life Sci 62:143~50,1998、並びに
本明細書に述べられるアッセイに見ることができる。
【0085】
一実施形態では、本発明のFN3ドメインは、50ng/mLのヒトEGFを用いてA
431細胞で測定した場合に、EGFRの1173位のチロシン残基におけるEGF誘導
EGFRリン酸化を、約2.5×10-6M未満、例えば、約1×10-6M未満、約1×1
-7M未満、約1×10-8M未満、約1×10-9M未満、約1×10-10M未満、約1×
10-11M、又は約1×10-12M未満のIC50値で阻害する。
【0086】
一実施形態では、本発明のFN3ドメインは、50ng/mLのヒトEGFを用いてA
431細胞で測定した場合に、EGFRの1173位のチロシン残基におけるEGF誘導
EGFRリン酸化を、約1.8×10-8M~約2.5×10-6MのIC50値で阻害する。
このような代表的なFN3ドメインには、配列番号18~29、107~110、又は1
22~137のアミノ酸配列を有するものがある。
【0087】
一実施形態では、本発明のFN3ドメインは、当業者により実施されるところの表面プ
ラズモン共鳴又はKinexa法によって測定される解離定数(KD)が約1×10-8
未満、例えば約1×10-9M未満、約1×10-10M未満、約1×10-11M未満、約1×
10-12M、又は約1×10-13M未満でヒトEGFRと結合する。特定の実施形態では、
本発明のFN3ドメインは、約2×10-10~約1×10-8MのKDでヒトEGFRと結合
する。EGFRに対するFN3ドメインの親和性は、任意の適当な方法を用いて実験的に
測定することができる。(例えば、Berzofsky,et al.,「Antibo
dy-Antigen Interactions,」In Fundamental
Immunology,Paul,W.E.,Ed.,Raven Press:New
York,NY(1984);Kuby,Janis Immunology,W.H
.Freeman and Company:New York,NY(1992);及
び本明細書に述べられる方法を参照されたい。)測定される特定のFN3ドメイン-抗原
相互作用の親和性は、異なる条件(例えば浸透圧モル濃度、pH)下で測定される場合、
異なり得る。そのため、親和性及びその他の抗原結合パラメータ(例えば、KD、Kon
off)の測定は、好ましくは、タンパク質骨格及び抗原の標準化溶液、並びに本明細書
に述べられるバッファなどの標準化バッファを用いて行われる。
【0088】
EGFRと結合する本発明の代表的なFN3ドメインとしては、配列番号18~29、
107~110、又は122~137のFN3ドメインが挙げられる。
【0089】
一実施形態では、EGFRと特異的に結合するFN3ドメインは、配列番号27のアミ
ノ酸配列と少なくとも87%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0090】
一実施形態では、EGFRと特異的に結合するFN3ドメインは、
配列HNVYKDTNX9RGL(配列番号179)又は配列LGSYVFEHDVM
L(配列番号180)を含むFGループ(ただし、X9はM、又はIである)と、
配列X12345678(配列番号181)を含むBCループ(ただし、
1は、A、T、G又はDであり、
2は、A、D、Y又はWであり、
3は、P、D又はNであり、
4は、L又は存在せず、
5は、D、H、R、G、Y又はWであり、
6は、G、D又はAであり、
7は、A、F、G、H又はDであり、
8は、Y、F又はLである)と、を含む。
【0091】
EGFRと特異的に結合し、EGFRの自己リン酸化を阻害する本発明のFN3ドメイ
ンは、構造的要素として、配列HNVYKDTNX9RGL(配列番号179)、又は配
列LGSYVFEHDVML(配列番号180)を含むFGループ(ただし、X9は、M
、又はIである)を含み得る。このようなFN3ドメインは、アミノ酸8個又は9個の長
さで、かつ配列X12345678(配列番号181)によって定義されるBCル
ープを更に含んでよく、50ng/mLのヒトEGFを用いてA431細胞で測定した場
合に約2.5×10-6M未満のIC50値、又は約1.8×10-8M~約2.5×10-6
のIC50値でEGFRの自己リン酸化を阻害することができる。
【0092】
EGFRと特異的に結合し、EGFRの自己リン酸化を阻害する本発明のFN3ドメイ
ンは、更に、配列
LPAPKNLVVSEVTEDSLRLSWX12345678DSFLIQ
YQESEKVGEAINLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYTVSIYGV
HNVYKDTNX9RGLPLSAEFTT(配列番号182)、又は配列
LPAPKNLVVSEVTEDSLRLSWX12345678DSFLIQ
YQESEKVGEAINLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYTVSIYGV
LGSYVFEHDVMLPLSAEFTT(配列番号183)、
(ただし、
1は、A、T、G又はDであり、
2は、A、D、Y又はWであり、
3は、P、D又はNであり、
4は、L又は存在せず、
5は、D、H、R、G、Y又はWであり、
6は、G、D又はAであり、
7は、A、F、G、H又はDであり、
8は、Y、F又はLであり、
9は、M又はIである)を含む。
【0093】
周知の方法及び本明細書に述べられる方法を用いてEGFR結合FN3ドメインを生成
し、EGFRの自己リン酸化を阻害する能力について試験することができる。
【0094】
本発明の別の実施形態は、EGFRと特異的に結合する単離されたFN3ドメインであ
って、配列番号18~29、配列番号107~110、又は配列番号122~137に示
される配列を含むFN3ドメインである。
【0095】
いくつかの実施形態では、EGFR結合FN3ドメインは、例えば半減期延長分子の発
現及び/又は接合を促進するために、特定のFN3ドメインのN末端に連結された開始メ
チオニン(Met)又はC末端に連結されたシステイン(Cys)を含む。
【0096】
本発明の別の実施形態は、EGFRと特異的に結合してEGFRに対するEGFの結合
をブロックする単離されたフィブロネクチンIII型(FN3)ドメインであって、配列
番号1のテンコン配列に基づいて設計されたライブラリから単離されたFN3ドメインで
ある。
【0097】
一重特異性c-Met FN3ドメイン含有結合性分子
本発明は、肝細胞増殖因子受容体(c-Met)と特異的に結合し、c-Metに対す
る肝細胞増殖因子(HGF)の結合をブロックする、フィブロネクチンIII型(FN3
)ドメインを提供するものであり、したがって、治療及び診断用途で広く用いられ得る。
本発明は、本発明のFN3ドメインをコードするポリヌクレオチド、又はその相補的な核
酸、ベクター、宿主細胞、並びにそれらの製造方法及び使用方法を提供する。
【0098】
本発明のFN3ドメインは高い親和性でc-Metと結合しc-Metシグナル伝達を
阻害するため、小分子のc-Met阻害剤と比較した場合に特異性及び低減された標的外
毒性(off-target toxicity)の点で、また、従来の抗体治療と比較した場合に向上した
組織浸透性の点で、利点を与え得るものである。本発明のFN3ドメインは一価であり、
したがって他の二価の分子で生じ得る望ましくない受容体のクラスタリング及び活性化が
防止される。
【0099】
本発明の一実施形態は、肝細胞増殖因子受容体(c-Met)と特異的に結合し、c-
Metに対する肝細胞増殖因子(HGF)の結合をブロックする、単離されたフィブロネ
クチンIII型(FN3)ドメインである。
【0100】
本発明のFN3ドメインは、本発明のFN3ドメインの存在下でc-MetーFc融合
タンパク質に対するビオチン化HGFの結合の阻害を検出するアッセイにおいて、約1×
10-7M未満、約1×10-8M未満、約1×10-9M未満、約1×10-10M未満、約1
×10-11M未満、又は約1×10-12M未満のIC50値でc-Metに対するHGFの結
合をブロックすることができる。代表的なFN3ドメインは、約2×10-10M~約6×
10-8MのIC50値でc-Metに対するHGFの結合をブロックすることができる。本
発明のFN3ドメインは、同じアッセイ条件を用いた本発明のFN3ドメインの非存在下
におけるc-Metに対するHGFの結合と比較した場合に、c-Metに対するHGF
の結合を少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%
、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%
、96%、97%、98%、99%、又は100%ブロックすることができる。
【0101】
本発明のFN3ドメインは、同じアッセイ条件を用いた本発明のFN3ドメインの非存
在下におけるシグナル伝達のレベルと比較した場合に、c-Metシグナル伝達を、少な
くとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、7
5%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、9
7%、98%、99%、又は100%阻害することができる。
【0102】
c-Metに対するHGFの結合は、受容体の二量体化、自己リン酸化、受容体の内部
の細胞質チロシンキナーゼドメインの活性化、並びにDNA合成の調節(遺伝子の活性化
)及び細胞周期の進行又は細胞分裂に関与する複数のシグナルトランスダクション及びト
ランス活性化経路の開始を刺激する。c-Metシグナル伝達の阻害は、1以上のc-M
etの下流のシグナル伝達経路の阻害につながり得るため、c-Metを無効にすること
は、細胞の増殖及び分化、血管新生、細胞運動性、並びに転移の阻害をはじめとする様々
な作用を有し得る。
【0103】
c-Metシグナル伝達は、例えば、チロシン残基Y1230、Y1234、Y123
5、若しくはY1349のうちの少なくとも1つにおける受容体の自己リン酸化、及び/
又は天然若しくは合成基質のリン酸化を測定するなど、様々な周知の方法を用いて測定す
ることができる。リン酸化は、例えば、ELISAアッセイ又はウェスタンブロット中の
ホスホチロシンに対して特異的な抗体を使用して検出することができる。チロシンキナー
ゼ活性のアッセイは、例えば、Panek et al.,J Pharmacol E
xp Thera 283:1433~44,1997及びBatley et al.
,Life Sci 62:143~50,1998に述べられており、また、本明細書
に述べられるアッセイである。
【0104】
一実施形態では、本発明のFN3ドメインは、100ng/mLの組換えヒトHGFを
用いてNCI-H441細胞で測定した場合に、c-Metの1349位の残基における
HGF誘導c-Metリン酸化を、約1×10-6M未満、約1×10-7M未満、約1×1
-8M未満、約1×10-9M未満、約1×10-10M未満、約1×10-11M、又は約1×
10-12M未満のIC50値で阻害する。
【0105】
一実施形態では、本発明のFN3ドメインは、100ng/mLの組換えヒトHGFを
用いてNCI-H441細胞で測定した場合に、c-MetチロシンY1349における
HGF誘導c-Metリン酸化を、約4×10-9M~約1×10-6MのIC50値で阻害す
る。
【0106】
一実施形態では、本発明のFN3ドメインは、当業者により実施されるところの表面プ
ラズモン共鳴又はKinexa法によって測定される解離定数(KD)が、約1×10-7
M、1×10-8M、1×10-9M、1×10-10M、1×10-11M、1×10-12M、1
×10-13M、1×10-14M、又は1×10-15M以下でヒトc-Metと結合する。い
くつかの実施形態では、本発明のFN3ドメインは、約3×10-10M~約5×10-8
のKDでヒトc-Metと結合する。c-Metに対するFN3ドメインの親和性は、任
意の適当な方法を用いて実験的に測定することができる。(例えば、Berzofsky
,et al.,「Antibody-Antigen Interactions,」
In Fundamental Immunology,Paul,W.E.,Ed.,
Raven Press:New York,NY(1984);Kuby,Janis
Immunology,W.H.Freeman and Company:New
York,NY(1992);及び本明細書に述べられる方法を参照されたい。)測定さ
れる特定のFN3ドメイン-抗原相互作用の親和性は、異なる条件(例えば浸透圧モル濃
度、pH)下で測定される場合、異なり得る。そのため、親和性及びその他の抗原結合パ
ラメータ(例えば、KD、Kon、Koff)の測定は、好ましくは、タンパク質骨格及び抗原
の標準化溶液、並びに本明細書に述べられるバッファなどの標準化バッファを用いて行わ
れる。
【0107】
c-Metと結合する本発明の代表的なFN3ドメインとしては、配列番号32~49
又は111~114のアミノ酸配列を有するFN3ドメインが挙げられる。
【0108】
一実施形態では、c-Metと特異的に結合するFN3ドメインは、配列番号41のア
ミノ酸配列と少なくとも83%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0109】
一実施形態では、c-Metと特異的に結合するFN3ドメインは、
配列DSFX10IRYX11EX12131415GX16(配列番号184)を含むC鎖及
びCDループ(ただし、
10は、W、F又はVであり、
11は、D、F又はLであり、
12は、V、F又はLであり、
13は、V、L又はTであり、
14は、V、R、G、L、T、又はSであり、
15は、G、S、A、T又はKであり、
16は、E又はDである)と、
配列TEYX17VX18IX1920VKGGX2122SX23(配列番号185)を含むF
鎖及びFGループ(ただし、
17は、Y、W、I、V、G又はAであり、
18は、N、T、Q又はGであり、
19は、L、M、N又はIであり、
20は、G又はSであり、
21は、S、L、G、Y、T、R、H又はKであり、
22は、I、V又はLであり、
23は、V、T、H、I、P、Y又はLである)と、を含む。
【0110】
c-Metと特異的に結合しc-Metの自己リン酸化を阻害する本発明のFN3ドメ
インは、配列
LPAPKNLVVSRVTEDSARLSWTAPDAAFDSFX10IRYX11
12131415GX16AIVLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYX17VX18
IX1920VKGGX2122SX23PLSAEFTT(配列番号186)
(ただし、
10は、W、F又はVであり、
11は、D、F又はLであり、
12は、V、F又はLであり、
13は、V、L又はTであり、
14は、V、R、G、L、T又はSであり、
15は、G、S、A、T又はKであり、
16は、E又はDであり、
17は、Y、W、I、V、G又はAであり、
18は、N、T、Q又はGであり、
19は、L、M、N又はIであり、
20は、G又はSであり、
21は、S、L、G、Y、T、R、H又はKであり、
22は、I、V又はLであり、
23は、V、T、H、I、P、Y又はLである)を更に含む。
【0111】
本発明の別の実施形態は、c-Metと特異的に結合する単離されたFN3ドメインで
あって、配列番号32~49、又は配列番号111~114に示される配列を含むFN3
ドメインである。
【0112】
本発明の別の実施形態は、c-Metと特異的に結合しc-Metに対するHGFの結
合をブロックする単離されたフィブロネクチンIII型(FN3)ドメインであって、配
列番号1のテンコン配列に基づいて設計されたライブラリから単離されたFN3ドメイン
である。
【0113】
テンコン配列に基づいたライブラリからのEGFR又はc-MetFN3ドメインの単

テンコン(配列番号1)は、ヒトテネイシンCの15個のFN3ドメインのコンセンサ
ス配列より設計された、天然には存在しないフィブロネクチンIII型(FN3)ドメイ
ンである(Jacobs et al.,Protein Engineering,D
esign,and Selection,25:107~117,2012;米国特許
出願公開第2010/0216708号)。テンコンの結晶構造は、FN3ドメインに特
徴的な7個のβ鎖を連結する6個の表面が露出したループを示し、これらのβ鎖は、A、
B、C、D、E、F及びGと呼ばれ、これらのループは、AB、BC、CD、DE、EF
、及びFGループと呼ばれている(Bork and Doolittle,Proc
Natl Acad Sci USA89:8990~8992,1992;米国特許第
6,673,901号)。これらのループ、又は各ループ内の選択された残基をランダム
化することによって、EGFR又はc-Metと結合する新規な分子を選択するために使
用することができるフィブロネクチンIII型(FN3)ドメインのライブラリを構築す
ることができる。表1に、テンコン(配列番号1)の各ループ及びβ鎖の位置及び配列を
示す。
【0114】
したがって、テンコン配列に基づいて設計されたライブラリは、以下に述べるライブラ
リTCL1又はTCL2のような、ランダム化されたFGループ、又はランダム化された
BC及びFGループを有し得る。テンコンのBCループは、アミノ酸7個の長さであり、
したがって、BCループにおいて多様化されテンコン配列に基づいて設計されたライブラ
リでは1、2、3、4、5、6又は7個のアミノ酸をランダム化することができる。テン
コンのFGループは、アミノ酸7個の長さであり、したがって、FGループにおいて多様
化されテンコン配列に基づいて設計されたライブラリでは1、2、3、4、5、6又は7
個のアミノ酸をランダム化することができる。ループの残基の挿入及び/又は欠失によっ
てテンコンライブラリ内のループにおける更なる多様性を実現することができる。例えば
、FG及び/又はBCループを、アミノ酸1~22個だけ延長でき、又はアミノ酸1~3
個だけ短縮することができる。テンコン内のFGループがアミノ酸7個の長さであるのに
対して、抗体重鎖内の対応するループは残基4~28個の範囲である。最大の多様性を与
えるために、抗体CDR3の残基4~28個の長さの範囲に対応するようにFGループの
配列及び長さを多様化することができる。例えば、FGループの長さを、更にアミノ酸1
、2、3、4又は5個だけループを延長することによって更に多様化することができる。
【0115】
テンコン配列に基づいて設計されたライブラリは、FN3ドメインの側面に形成され且
つ2個以上のβ鎖と少なくとも1個のループを含む、ランダム化された別表面を有しても
よい。このような別表面の1つは、C及びFβ鎖内のアミノ酸とCD及びFGループとに
よって形成される(C-CD-F-FG表面)。テンコンの別のC-CD-F-FG表面
に基づいたライブラリの設計が図1に示されており、このようなライブラリの詳細な生成
法については米国特許出願公開第US2013/0226834号に述べられている。
【0116】
テンコン配列に基づいて設計されたライブラリには、11、14、17、37、46、
73、又は86位の残基(残基の番号付けは配列番号1に対応している)に置換を有し、
高い熱安定性を示すテンコン変異体などの、テンコン変異体に基づいて設計されたライブ
ラリも含まれる。代表的なテンコン変異体は米国特許出願公開第2011/027462
3号に述べられており、配列番号1のテンコンと比較した場合に置換E11R、L17A
、N46V及びE86Iを有するテンコン27(配列番号99)を含む。
【0117】
【表1】
【0118】
テンコン及び他のFN3配列に基づいたライブラリは、ランダムな又は所定のアミノ酸
の組を用いて、選択された残基位置においてランダム化することができる。例えば、ラン
ダム置換を有するライブラリ中の変異体は、20種類の天然に存在するアミノ酸すべてを
コードするNNKコドンを用いて生成することができる。他の多様化スキームでは、DV
Kコドンを用いてアミノ酸Ala、Trp、Tyr、Lys、Thr、Asn、Lys、
Ser、Arg、Asp、Glu、Gly、及びCysをコードすることができる。ある
いは、NNSコドンを用いて20種類すべてのアミノ酸残基を生じさせ、同時に終止コド
ンの頻度を低減することができる。多様化しようとする位置に偏ったアミノ酸分布を有す
るFN3ドメインのライブラリは、例えば、Slonomics(登録商標)テクノロジ
ー(http:_//www_sloning_com)を用いて合成することができる
。このテクノロジーでは、数千の遺伝子合成プロセスに充分な普遍的な構成要素として機
能する予め調製された二本鎖トリプレットのライブラリを使用する。トリプレットのライ
ブラリは、任意の所望のDNA分子を構築するのに必要なすべての可能な配列の組合せを
表す。コドン指定は、周知のIUBコードによる。
【0119】
本発明のEGFR又はc-Metと特異的に結合するFN3ドメインは、各タンパク質
がそれをコードするDNAと安定的に関連付けられた、インビトロ翻訳後に形成されたタ
ンパク質ーDNA複合体のプールを生成するために、骨格タンパク質をコードするDNA
フラグメントをRepAをコードするDNAフラグメントにライゲーションするためのc
isディスプレイを用いてテンコンライブラリなどのFN3ライブラリを生成することに
よって(米国特許第7,842,476号、Odegrip et al.,Proc
Natl Acad Sci U S A 101,2806~2810,2004)、
また当該技術分野では既知の、及び実施例において述べられる任意の方法によってEGF
R及び/又はc-Metに対する特異的結合についてライブラリをアッセイすることによ
って、単離することができる。使用できる代表的な周知の方法としては、ELISA、サ
ンドイッチイムノアッセイ、並びに競合及び非競合アッセイがある(例えば、Ausub
el et al.,eds,1994,Current Protocols in
Molecular Biology,Vol.1,John Wiley & Son
s,Inc.,New Yorkを参照されたい)。EGFR又はc-Metと特異的に
結合する特定されたFN3ドメインは、本明細書に述べられる方法を用いて、EGFRに
対するEGFの結合、又はc-Metに対するHGFの結合など、EGFRリガンドをブ
ロックする能力について、また、EGFR及び/又はc-Metシグナル伝達を阻害する
能力について更に特性評価される。
【0120】
本発明のEGFR又はc-Metと特異的に結合するFN3ドメインは、任意のFN3
ドメインをテンプレートとして使用してライブラリを作製し、本明細書で提供される方法
を用いてこのライブラリをEGFR又はc-Metと特異的に結合する分子についてスク
リーニングすることで生成することができる。使用できる代表的なFN3ドメインとして
は、テネイシンCの3番目のFN3ドメイン(TN3)(配列番号75)、フィブコン(
配列番号76)、及びフィブロネクチンの10番目のFN3ドメイン(配列番号77)が
ある。インビトロでライブラリを発現又は翻訳するためには、標準的なクローニング及び
発現方法を使用してライブラリをベクターにクローニングするか、又はライブラリの二本
鎖cDNAカセットを合成する。例えば、リボソームディスプレイ(Hanes and
Pluckthun,Proc Natl Acad Sci USA,94,493
7~4942,1997)、mRNAディスプレイ(Roberts and Szos
tak,Proc Natl Acad Sci USA,94,12297~1230
2,1997)、又はその他の無細胞系(米国特許第5,643,768号)を利用する
ことができる。FN3ドメイン変異体のライブラリは、例えば任意の適当なバクテリオフ
ァージの表面に見られる融合タンパク質として発現させることができる。バクテリオファ
ージの表面に融合ポリペプチドを見せるための方法は周知のものである(米国特許出願公
開第2011/0118144号、国際特許公開第WO2009/085462号、米国
特許第6,969,108号、米国特許第6,172,197号、米国特許第5,223
,409号、米国特許第6,582,915号、米国特許第6,472,147号)。
【0121】
本発明のEGFR又はc-Metと特異的に結合するFN3ドメインを修飾することに
よって、熱安定性、並びに熱による折り畳み及び展開の可逆性を向上させるなど、特性を
向上させることができる。タンパク質及び酵素の見かけの熱安定性を高めるため、極めて
類似性のある熱安定性配列との比較に基づく合理的設計、ジスルフィド架橋の安定化設計
、αヘリックスの傾向を高める変異、塩橋の操作、タンパク質の表面電荷の改変、定方向
進化、及びコンセンサス配列の組成を含む、いくつかの方法が応用されている(Lehm
ann and Wyss,Curr Opin Biotechnol,12,371
~375,2001)。高い熱安定性は、発現されるタンパク質の収率を高め、溶解度又
は活性を高め、免疫原性を低減させ、製造におけるコールドチェーンの必要性を最小限と
することができる。テンコン(配列番号1)の熱安定性を高めるために置換することが可
能な残基としては、11、14、17、37、46、73、又は86位の残基があり、こ
れらは米国特許出願公開第2011/0274623号に述べられている。これらの残基
に対応した置換を、本発明のFN3ドメイン又は二重特異性FN3ドメイン含有分子に組
み入れることができる。
【0122】
本発明の別の実施形態は、配列番号18~29、107~110、122~137に示
される配列を含み、テンコン(配列番号1)の11、14、17、37、46、73、及
び86位に対応する1以上の残基位置に置換を更に含む、EGFRと特異的に結合しEG
FRに対するEGFの結合をブロックする単離されたFN3ドメインである。
【0123】
本発明の別の実施形態は、配列番号32~49、又は111~114に示される配列を
含み、テンコン(配列番号1)の11、14、17、37、46、73、及び86位に対
応する1以上の残基位置に置換を含む、c-Metと特異的に結合しc-Metに対する
HGFの結合をブロックする単離されたFN3ドメインである。
【0124】
代表的な置換としては、置換E11N、E14P、L17A、E37P、N46V、G
73Y 及びE86Iがある(番号付けは配列番号1に基づく)。
【0125】
特定の実施形態では、本発明のFN3ドメインは、テンコン(配列番号1)の置換L1
7A、N46V、及びE86Iに対応する置換を含む。
【0126】
EGFRと特異的に結合するFN3ドメイン(図1)は、テンコン(配列番号1)と比
較した場合に長いFGループを有している。したがって、テンコン(配列番号1)の残基
11、14、17、37、46、73、及び86に対応した残基は、配列番号24のFN
3ドメインを除いて図1A及び1Bに示されるEGFR FN3ドメインの残基11、1
4、17、37、46、73及び91であり、BCループ内への1個のアミノ酸の挿入に
より、対応する残基は残基11、14、17、38、74、及び92である。
【0127】
本発明の別の実施形態は、配列番号18~29、107~110、又は122~137
に示されるアミノ酸配列を含み、テンコン(配列番号1)の置換L17A、N46V、及
びE86Iに対応する置換を任意に有する、EGFRと特異的に結合しEGFRに対する
EGFの結合をブロックする単離されたFN3ドメインである。
【0128】
本発明の別の実施形態は、配列番号34~49、又は111~114に示されるアミノ
酸配列を含み、テンコン(配列番号1)の置換L17A、N46V、及びE86Iに対応
する置換を任意に有する、c-Metと特異的に結合しc-Metに対するHGFの結合
をブロックする単離されたFN3ドメインである。
【0129】
タンパク質の安定性及びタンパク質の不安定性の測定は、タンパク質の完全性と同じか
又は異なる側面として捉えることができる。タンパク質は、熱、紫外線又は電離放射線、
溶液中の場合には周囲の浸透圧モル濃度及びpHの変化、微細孔径濾過、紫外線放射、γ
線照射などの電離放射線、化学的又は熱的脱水、あるいはタンパク質構造の破壊を生じさ
せ得る他の任意の作用又は力による機械的剪断力によって生じる変性に対して感受性があ
る、つまり「不安定」である。分子の安定性は、標準的な方法を用いて決定することがで
きる。例えば、分子の安定性は、標準的な方法を用いて、分子の半分が展開される摂氏温
度(℃)である熱融解(Tm)温度を測定することによって決定することができる。一般
的には、TMが高いほど分子はより安定的している。熱以外に、化学環境もまた、タンパ
ク質が特有の三次元構造を維持する能力を変化させる。
【0130】
一実施形態では、本発明のEGFR又はc-Metと結合するFN3ドメインは、TM
の増大によって測定される改変前の同じドメインと比較して、少なくとも5%、10%、
15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、
65%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%以上高い安定性を示す。
【0131】
化学変性も同様に、様々な方法によって測定することができる。化学変性剤としては、
グアニジン塩酸塩、チオシアン酸グアニジニウム、尿素、アセトン、有機溶媒(DMF、
ベンゼン、アセトニトリル)、塩類(硫酸アンモニウム、臭化リチウム、塩化リチウム、
臭化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム)、還元剤(例えばジチオスレイトー
ル、βメルカプトエタノール、ジニトロチオベンゼン、及び水素化物、例えば水素化ホウ
素ナトリウム)、非イオン性及びイオン性洗剤、酸(例えば塩酸(HCl)、酢酸(CH
3COOH)、ハロゲン化酢酸)、疎水性分子(例えばリン脂質)、及び標的変性剤が挙
げられる。変性の程度の定量化は、標的分子に結合する能力などの機能特性の喪失、又は
凝集する傾向、それまで溶媒が到達できなかった残基の露出、若しくはジスルフィド結合
の崩壊若しくは形成などの物理化学的特性に依存し得る。
【0132】
一実施形態では、EGFR又はc-Metと結合する本発明のFN3ドメインは、化学
的変性剤としてグアニジン塩酸塩を使用することによって測定し、操作前の同じ骨格と比
較して、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、
45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、
又は95%以上高い安定性を示す。増大した安定性は、周知の方法を用いて、増加する濃
度のグアニジン塩酸塩で処理した際に減少するトリプトファン蛍光の関数として測定する
ことができる。
【0133】
本発明のFN3ドメインは、単量体、二量体、若しくは多量体として、例えば標的分子
結合の価数、したがってアビディティを増大させるための手段として、又は2以上の異な
る標的分子に同時に結合する二重若しくは多重特異性骨格を生成するための手段として生
成することができる。二量体及び多量体は、例えばアミノ酸リンカー、例えばポリグリシ
ン、グリシン及びセリン、又はアラニン及びプロリンを含むリンカーを含めることにより
、一重特異性、二重特異性又は多重特異性タンパク質骨格を連結することによって生成す
ることができる。代表的なリンカーとしては、(GS)2、(配列番号78)、(GGG
GS)5(配列番号79)、(AP)2(配列番号80)、(AP)5(配列番号81)、
(AP)10(配列番号82)、(AP)20(配列番号83)及びA(EAAAK)5AA
A(配列番号84)リンカーが挙げられる。二量体及び多量体は、互いにN~C方向に連
結することができる。ポリペプチドを新規の連結融合ポリペプチドに結合するための天然
及び人工ペプチドリンカーの使用は、文献においてよく知られている(Hallewel
l et al.,J Biol Chem 264,5260~5268,1989;
Alfthan et al.,Protein Eng.8,725~731,199
5;Robinson & Sauer,Biochemistry 35,109~1
16,1996;米国特許第5,856,456号)。
【0134】
EGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異性薬剤
本発明のEGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異性薬剤は、小分子のEG
FR及び/又はc-Met阻害剤と比較した場合に、特異性及び低減された標的外毒性の
点で利点をもたらすことができる。本発明は、EGFR及びc-Metと特異的に結合す
る二重特異性薬剤が、EGFRと結合する一重特異性薬剤とc-Metと結合する一重特
異性薬剤との混合物と比較した場合に、大幅に向上した相乗的阻害作用をもたらすという
驚くべき発見に少なくとも一部基づいてなされたものである。これらの分子は、EGFR
及びc-Metに対して特異的親和性を有するように調節することで腫瘍への浸透性及び
保持性を最大化することができる。EGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異
性薬剤は、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))よりも効率的なEGFR及び/
又はc-Metのシグナル伝達経路阻害をもたらし、より効率的に腫瘍増殖を阻害するも
のである。
【0135】
EGFR及びc-Metと特異的に結合する二重特異性薬剤は、EGFR結合ドメイン
及びc-Met結合ドメインを含む任意のポリペプチド又は多量体ポリペプチドによって
形成されることができる。EGFR及びc-Met結合ドメインは、抗体の抗原結合部位
、抗体のVH/VLのペア、又はフィブロネクチンIII型(FN3)ドメイン、フィブ
ロネクチンIX型(FN9)ドメインに基づいたドメインなどの別のタイプの結合分子、
又はこれらの任意の組合わせであってよい。
【0136】
EGFR及びc-Met結合ポリペプチドは、既存の一重特異性EGFR及びc-Me
t結合ポリペプチドから誘導してもよく、又は新たに単離されたものでもよい。
【0137】
二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子
本発明の一実施形態は、第1のフィブロネクチンIII型(FN3)ドメイン及び第2
のFN3ドメインを含む単離された二重特異性FN3ドメイン含有分子であって、前記第
1のFN3ドメインは上皮増殖因子受容体(EGFR)と特異的に結合しEGFRに対す
る上皮増殖因子(EGF)の結合をブロックし、前記第2のFN3ドメインは肝細胞増殖
因子受容体(c-Met)と特異的に結合しc-Metに対する肝細胞増殖因子(HGF
)の結合をブロックする、単離された二重特異性FN3ドメイン含有分子である。
【0138】
本発明の二重特異性EGFR/c-MetFN3ドメイン含有分子は、本発明の任意の
EGFR結合FN3ドメインと任意のc-Met結合FN3ドメインとを直接的に、又は
リンカーを介して、共有結合により連結することによって生成することができる。したが
って、二重特異性分子の第1のFN3ドメインは、EGFR結合FN3ドメインについて
上記に述べた特性を有し得るものであり、二重特異性分子の第2のFN3ドメインは、c
-Met結合FN3ドメインについて上記に述べた特性を有し得るものである。
【0139】
一実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子の第1の
FN3ドメインは、EGFR残基チロシン1173におけるEGF誘導EGFRリン酸化
を、50ng/mLのヒトEGFを使用してA431細胞で測定した場合に約2.5×1
-6M未満のIC50値で阻害し、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有
分子の第2のFN3ドメインは、c-Met残基チロシン1349におけるHGF誘導c
-Metリン酸化を、100ng/mLのヒトHGFを使用してNCI-H441細胞で
測定した場合に約1.5×10-6M未満のIC50値で阻害する。
【0140】
別の実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子の第1
のFN3ドメインは、EGFR残基チロシン1173におけるEGF誘導EGFRリン酸
化を、50ng/mLのヒトEGFを使用してA431細胞で測定した場合に約1.8×
10-8M~約2.5×10-6MのIC50値で阻害し、二重特異性EGFR/c-Met
FN3ドメイン含有分子の第2のFN3ドメインは、c-Met残基チロシン1349に
おけるHGF誘導c-Metリン酸化を、100ng/mLのヒトHGFを使用してNC
I-H441細胞で測定した場合に約4×10-9M~約1.5×10-6MのIC50値で阻
害する。
【0141】
別の実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子の第1
のFN3ドメインは、約1×10-8M未満の解離定数(KD)でヒトEGFRを結合し、
二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子の第2のFN3ドメインは、
約5×10-8M未満のKDでヒトc-Metを結合する。
【0142】
EGFR及びc-Metの両方と結合する二重特異性分子では、第1のFN3ドメイン
は、約2×10-10~約1×10-8MのKDでヒトEGFRを結合し、第2のFN3ドメイ
ンは、約3×10-10~約5×10-8MのKDでヒトc-Metを結合する。
【0143】
EGFR及びc-Metに対する二重特異性EGFR/c-Met分子の親和性は、一
重特異性分子について上述したように決定することができる。
【0144】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met分子の第1のFN3ドメインは、A431細
胞を用い、第1のFN3ドメインの存在下又は非存在下でインキュベートしたA431細
胞に対して600nMのストレプトアビジン-フィコエリトリンコンジュゲートを使用し
て、結合したビオチン化EGFからの蛍光の量を検出するアッセイにおいて、EGFRに
対するEGFの結合を約1×10-9M~約1.5×10-7MのIC50値でブロックするこ
とができる。本発明の二重特異性EGFR/c-Met分子の第1のFN3ドメインは、
同じアッセイ条件を用いた第1のFN3ドメインの非存在下におけるEGFRに対するE
GFの結合と比較した場合に、EGFRに対するEGFの結合を少なくとも30%、35
%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85
%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99
%、又は100%ブロックすることができる。
【0145】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met分子の第2のFN3ドメインは、第2のFN
3ドメインの存在下でc-Met-Fc融合タンパク質に対するビオチン化HGFの結合
の阻害を検出するアッセイにおいて、約2×10-10M~約6×10-8MのIC50値でc
-Metに対するHGFの結合をブロックすることができる。二重特異性EGFR/c-
Met分子の第2のFN3ドメインは、同じアッセイ条件を用いた第2のFN3ドメイン
の非存在下におけるc-Metに対するHGFの結合と比較した場合に、c-Metに対
するHGFの結合を少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60
%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94
%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%ブロックすることができる
【0146】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met分子は、同じアッセイ条件をを用いた本発明
の二重特異性EGFR/c-Met分子の非存在下におけるシグナル伝達のレベルと比較
した場合に、EGFR及び/又はc-Metシグナル伝達を少なくとも30%、35%、
40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、
90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、
又は100%阻害することができる。
【0147】
EGFR及びc-Metシグナル伝達は、一重特異性分子について上記に述べた様々な
周知の方法を用いて測定することができる。
【0148】
EGFRと特異的に結合する第1のFN3ドメイン及びc-Metと特異的に結合する
第2のFN3ドメインを含む本発明の二重特異性EGFR/c-Met分子は、第1及び
第2のFN3ドメインの混合物により認められる相乗的阻害と比較して大幅に高いEGF
R及びc-Metシグナル伝達並びに腫瘍細胞増殖の相乗的阻害をもたらす。相乗的阻害
は、例えば、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子によるERKリ
ン酸化の阻害と、一方がEGFRと結合し他方がc-Metと結合する2種類の一重特異
性分子の混合物によるERKリン酸化の阻害と、を測定することによって評価することが
できる。本発明の二重特異性EGFR/c-Met分子は、2種類の一重特異性FN3ド
メインの混合物のIC50値と比較した場合に少なくとも約100倍小さい、例えば少なく
とも500、1000、5000又は10,000倍小さいIC50値でERKリン酸化を
阻害することができ、2種類の一重特異性FN3ドメインの混合物と比較して二重特異性
EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子の少なくとも100倍高い結合力を示す
ものである。代表的な二重特異性EGFR-c-Met FN3ドメイン含有分子は、約
5×10-9以下のIC50値でERKリン酸化を阻害することができる。ERKリン酸化は
、標準的な方法及び本明細書に述べられる方法を用いて測定することができる。
【0149】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子は、7.5ng/
mLのHGFを添加した10% FBSを含む培地によって誘導されるNCI-H292
細胞の増殖の、第1のFN3ドメインと第2のFN3との混合物による阻害のIC50値と
比較した場合に、少なくとも30倍低いIC50値でNCI-H292細胞の増殖を阻害す
ることができる。本発明の二重特異性分子は、第1のFN3ドメインと第2のFN3ドメ
インとの混合物による腫瘍細胞増殖の阻害のIC50値と比較した場合に約30、40、5
0、60、70、80、90、100、150、200、300、400、500、60
0、700、800、又は約1000倍低いIC50値で腫瘍細胞増殖を阻害することがで
きる。腫瘍細胞増殖の阻害は、標準的な方法及び本明細書に述べられる方法を用いて測定
することができる。
【0150】
本発明の別の実施形態は、第1のフィブロネクチンIII型(FN3)ドメイン及び第
2のFN3ドメインを含み、前記第1のFN3ドメインが上皮増殖因子受容体(EGFR
)と特異的に結合しEGFRに対する上皮増殖因子(EGF)の結合をブロックし、前記
第2のFN3ドメインが肝細胞増殖因子受容体(c-Met)と特異的に結合しc-Me
tに対する肝細胞増殖因子(HGF)の結合をブロックする二重特異性FN3ドメイン含
有分子であって、
前記第1のFN3ドメインが、
配列HNVYKDTNX9RGL(配列番号179)又は配列LGSYVFEHDVM
L(配列番号180)を含むFGループ(ただし、X9はM、又はIである)と、
配列X12345678(配列番号181)を含むBCループ(ただし、
1は、A、T、G又はDであり、
2は、A、D、Y又はWであり、
3は、P、D又はNであり、
4は、L又は存在せず、
5は、D、H、R、G、Y又はWであり、
6は、G、D又はAであり、
7は、A、F、G、H又はDであり、
8は、Y、F又はLである)と、を含み、
前記第2のFN3ドメインが、
配列DSFX10IRYX11EX12131415GX16(配列番号184)を含むC鎖及
びCDループ(ただし、
10は、W、F又はVであり、
11は、D、F又はLであり、
12は、V、F又はLであり、
13は、V、L又はTであり、
14は、V、R、G、L、T又はSであり、
15は、G、S、A、T又はKであり、
16は、E又はDである)と、
配列TEYX17VX18IX1920VKGGX2122SX23(配列番号185)を含むF
鎖及びFGループ(ただし、
17は、Y、W、I、V、G又はAであり、
18は、N、T、Q又はGであり、
19は、L、M、N又はIであり、
20は、G又はSであり、
21は、S、L、G、Y、T、R、H又はKであり、
22は、I、V又はLであり、
23は、V、T、H、I、P、Y又はLである)と、を含む、二重特異性FN3ドメイ
ン含有分子である。
【0151】
別の実施形態では、二重特異性分子は、配列:
LPAPKNLVVSEVTEDSLRLSWX12345678DSFLIQ
YQESEKVGEAINLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYTVSIYGV
HNVYKDTNX9RGLPLSAEFTT(配列番号182)、又は配列:
LPAPKNLVVSEVTEDSLRLSWX12345678DSFLIQ
YQESEKVGEAINLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYTVSIYGV
LGSYVFEHDVMLPLSAEFTT(配列番号183)
(ただし、配列番号182及び183中、
1は、A、T、G又はDであり、
2は、A、D、Y又はWであり、
3は、P、D又はNであり、
4は、L又は存在せず、
5は、D、H、R、G、Y又はWであり、
6は、G、D又はAであり、
7は、A、F、G、H又はDであり、
8は、Y、F又はLであり、
9は、M又はIである)を含む、EGFRと結合する第1のFN3ドメインを含む。
【0152】
別の実施形態では、二重特異性分子は、配列:
LPAPKNLVVSRVTEDSARLSWTAPDAAFDSFX10IRYX11
12131415GX16AIVLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYX17VX18
IX1920VKGGX2122SX23PLSAEFTT(配列番号186)
(ただし、
10は、W、F又はVであり、
11は、D、F又はLであり、
12は、V、F又はLであり、
13は、V、L又はTであり、
14は、V、R、G、L、T又はSであり、
15は、G、S、A、T又はKであり、
16は、E又はDであり、
17は、Y、W、I、V、G又はAであり、
18は、N、T、Q又はGであり、
19は、L、M、N又はIであり、
20は、G又はSであり、
21は、S、L、G、Y、T、R、H又はKであり、
22は、I、V又はLであり、
23は、V、T、H、I、P、Y、T又はLである)を含む、c-Metと結合する第
2のFN3ドメインを含む。
【0153】
代表的な二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子は、配列番号50
~72、106、118~121、又は138~167に示されるアミノ酸配列を含む。
【0154】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met分子は、EGFR自己リン酸化の阻害などの
それらの機能的特徴に関連した、配列HNVYKDTNX9RGL(配列番号179)又
は配列LGSYVFEHDVML(配列番号180)(ただしX9は、M又はIである)
を含む、EGFRと結合する第1のFN3ドメインのFGループのような特定の構造的特
徴を含む。
【0155】
一実施形態では、本発明の二重特異性EGFR/c-MetFN3ドメイン含有分子は

EGFR残基チロシン1173におけるEGF誘導EGFRリン酸化を、50ng/m
LのヒトEGFを用いてH292細胞で測定した場合に約8×10-7M未満のIC50値で
阻害するか、
c-Met残基チロシン1349におけるHGF誘導c-Metリン酸化を、100n
g/mLのヒトHGFを用いてNCI-H441細胞で測定した場合に約8.4×10-7
M未満のIC50値で阻害するか、
7.5ngのHGFを含む10% FBSにより誘導されるHGF誘導NCI-H29
2細胞増殖を約9.5×10-6M未満のIC50値で阻害するか、
約2.0×10-8M未満のKDでEGFRと結合するか、又は
約2.0×10-8M未満のKDでc-Metと結合する。
【0156】
別の実施形態では、本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分
子は、
EGFR残基チロシン1173におけるEGF誘導EGFRリン酸化を、50ng/m
LのヒトEGFを用いてH292細胞で測定した場合に約4.2×10-9M~8×10-7
MのIC50値で阻害するか、
c-Met残基チロシン1349におけるHGF誘導c-Metリン酸化を、100n
g/mLのヒトHGFを用いてNCI-H441細胞で測定した場合に約2.4×10-8
Mから約8.4×10-7MのIC50値で阻害するか、
7.5ngのHGFを含む10% FBSにより誘導されるHGF誘導NCI-H29
2細胞増殖を約2.3×10-8M~約9.5×10-6MのIC50値で阻害するか、
約2×10-10Mから約2×10-8MのKDでEGFRを結合するか、
約1×10-9M~約2.0×10-8MのKDでc-Metを結合する。
【0157】
一実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met分子は、配列:
LPAPKNLVVSEVTEDSLRLSWX12345678DSFLIQ
YQESEKVGEAINLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYTVSIYGV
HNVYKDTNX9RGLPLSAEFTT(配列番号182)を含むEGFR結合F
N3ドメイン(ただし、
1は、Dであり、
2は、Dであり、
3は、Pであり、
4は、存在せず、
5は、H又はWであり、
6は、Aであり、
7は、F
8は、Yであり、
9は、M又はIである)と、
配列:
LPAPKNLVVSRVTEDSARLSWTAPDAAFDSFX10IRYX11
12131415GX16AIVLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYX17VX18
IX1920VKGGX2122SX23PLSAEFTT(配列番号186)を含むc-Me
t結合FN3ドメイン
(ただし、
10は、Wであり、
11は、Fであり、
12は、Fであり、
13は、V又はLであり、
14は、G又はSであり、
15は、S又はKであり、
16は、E又はDであり、
17は、Vであり、
18は、Nであり、
19は、L又はMであり、
20は、G又はSであり、
21は、S又はKであり、
22は、Iであり、
23は、Pである)と、を含む。
【0158】
代表的な二重特異性EGFR/c-Met分子は、配列番号57、61、62、63、
64、65、66、67及び68に示される配列を有するものである。
【0159】
本発明の二重特異性分子は、上記に述べたテンコン(配列番号1)の11、14、17
、37、46、73及び86位に対応する第1のFN3ドメイン及び/又は第2のFN3
ドメインの1以上の残基位置に置換を、及び29位に置換を更に含み得る。代表的な置換
としては、置換E11N、E14P、L17A、E37P、N46V、G73Y、E86
I、及びD29Eがある(番号付けは配列番号1に基づく)。当業者であれば、以下に述
べられるような、側鎖において関連したアミノ酸のファミリー内のアミノ酸など、他のア
ミノ酸も置換に用いることができる点を認識するであろう。作製された変異体は、本明細
書に述べられる方法を用いて、安定性並びにEGFR及び/又はc-Metに対する結合
性について試験することができる。
【0160】
一実施形態では、二重特異性EGFR/c-MetFN3ドメイン含有分子は、EGF
Rと特異的に結合する第1のFN3ドメインと、c-Metと特異的に結合する第2のF
N3ドメインと、を含み、前記第1のFN3ドメインは配列:
LPAPKNLVVSX24VTX25DSX26RLSWDDPX27AFYX28SFLIQ
YQX29SEKVGEAIX30LTVPGSERSYDLTGLKPGTEYTVSIY
31VHNVYKDTNX32RGLPLSAX33FTT(配列番号187)(ただし、
24は、E、N又はRであり、
25は、E又はPであり、
26は、L又はAであり、
27は、H又はWであり、
28は、E又はDであり、
29は、E又はPであり、
30は、N又はVであり、
31は、G又はYであり、
32は、M又はIであり、
33は、E又はIである)を含み、
第2のFN3ドメインは配列:
LPAPKNLVVSX34VTX35DSX36RLSWTAPDAAFDSFWIRYF
37FX383940GX41AIX42LTVPGSERSYDLTGLKPGTEYVVN
IX4344VKGGX45ISPPLSAX46FTT(配列番号188)(ただし、
34は、E、N又はRであり、
35は、E又はPであり、
36は、L又はAであり、
37は、E又はPであり、
38は、V又はLであり、
39は、G又はSであり、
40は、S又はKであり、
41は、E又はDであり、
42は、N又はVであり、
43は、L又はMであり、
44は、G又はSであり、
45は、S又はKであり、
46は、E又はIである)を含む。
【0161】
他の実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子は、配
列番号27のアミノ酸配列と少なくとも87%、88%、89%、90%、91%、92
%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するア
ミノ酸配列を含む第1のFN3ドメインと、配列番号41のアミノ酸配列と少なくとも8
3%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、9
3%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するアミノ酸
配列を含む第2のFN3ドメインとを含む。
【0162】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子は、EGFR及び
c-Metに対して特異的親和性を有するように調節することで腫瘍への蓄積を最大化す
ることができる。
【0163】
本発明の別の実施形態は、第1のフィブロネクチンIII型(FN3)ドメイン及び第
2のFN3ドメインを含む分子を含み、前記第1のFN3ドメインは、上皮増殖因子受容
体(EGFR)と特異的に結合しEGFRに対する上皮増殖因子(EGF)の結合をブロ
ックし、前記第2のFN3ドメインは、肝細胞増殖因子受容体(c-Met)と特異的に
結合しc-Metに対する肝細胞増殖因子(HGF)の結合をブロックし、前記第1のF
N3ドメイン及び前記第2のFN3ドメインは、配列番号1のテンコン配列に基づいて設
計されたライブラリから単離される。
【0164】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子は、周知の方法を
用いて本発明のEGFR結合FN3ドメインとc-Met結合FN3ドメインとを共有結
合により連結することによって生成することができる。FN3ドメイン同士は、例えばポ
リグリシン、グリシン及びセリン、又はアラニン及びプロリンを含むリンカーなどのリン
カーを介して連結することができる。代表的なリンカーとしては、(GS)2、(配列番
号78)、(GGGGS)5(配列番号79)、(AP)2(配列番号80)、(AP)5
(配列番号81)、(AP)10(配列番号82)、(AP)20(配列番号83)、A(E
AAAK)5AAA(配列番号84)リンカーが挙げられる。ポリペプチドを新規の連結
融合ポリペプチドに結合するための天然及び人工ペプチドリンカーの使用は、文献におい
てよく知られている(Hallewell et al.,J Biol Chem 2
64,5260~5268,1989;Alfthan et al.,Protein
Eng.8,725~731,1995;Robinson & Sauer,Bio
chemistry 35,109~116,1996;米国特許第5,856,456
号)。本発明の二重特異性EGFR/c-Met分子は、第1のFN3ドメインのC末端
から第2のFN3ドメインのN末端へ、又は第2のFN3ドメインのC末端から第1のF
N3ドメインのN末端へと互いに連結することができる。任意のEGFR結合FN3ドメ
インをc-Met結合FN3ドメインと共有結合により連結することができる。代表的な
EGFR結合FN3ドメインとしては、配列番号18~29、107~110、及び12
2~137に示されるアミノ酸配列を有するドメインがあり、代表的なc~Met結合F
N3ドメインとしては、配列番号32~49、及び111~114に示されるアミノ酸配
列を有するドメインがある。二重特異性分子に連結されるEGFR結合FN3ドメインは
、それらのN末端に開始メチオニン(Met)を更に含んでもよい。
【0165】
本発明の範囲には、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子の変異
体が含まれる。例えば、得られる変異体が、親分子と比較した場合にEGFR及びc-M
etに対して同様の選択性及び効能を保持するかぎり、二重特異性EGFR/c-Met
FN3ドメイン含有分子に置換を行うことができる。代表的な改変としては、例えば、
親分子と同様の特性を有する変異体を生じる保存的置換がある。保存的置換とは、側鎖に
おいて関連したアミノ酸のファミリー内で起こる置換である。遺伝子にコードされている
アミノ酸は、(1)酸性アミノ酸(アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩)、(2)塩基性
アミノ酸(リシン、アルギニン、ヒスチジン)、(3)非極性アミノ酸(アラニン、バリ
ン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファ
ン)、及び(4)非荷電極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイ
ン、セリン、トレオニン、チロシン)の4つのファミリーに分類することができる。フェ
ニルアラニン、トリプトファン、及びチロシンは、併せて芳香族アミノ酸として分類され
る場合もある。あるいは、アミノ酸レパートリーは、(1)酸性アミノ酸(アスパラギン
酸塩、グルタミン酸塩)、(2)塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン、ヒスチジン)、
(3)脂肪族アミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン
、スレオニン)(セリンとスレオニンは、任意に脂肪族ヒドロキシルとして別に分類され
る)、(4)芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)、(5)
アミド(アスパラギン、グルタミン)、及び(6)硫黄含有アミノ酸(システイン及びメ
チオニン)として分類することができる(Stryer(ed.),Biochemis
try,2nd ed,WH Freeman and Co.,1981)。非保存的
置換を、異なるクラスのアミノ酸間でのアミノ酸残基の置換に関与する二重特異性EGF
R/c-Met FN3ドメイン含有分子に行って、二重特異性分子の特性を向上させる
ことができる。ポリペプチド又はそのフラグメントのアミノ酸配列の変化が機能的なホモ
ログを生じるか否かは、本明細書に述べられるアッセイを用いて、修飾されていないポリ
ペプチド又はフラグメントと同様の方法で修飾ポリペプチド又はフラグメントが応答を生
じる能力を評価することによって容易に判定することができる。1超の置換が生じたペプ
チド、ポリペプチド又はタンパク質を同じ方法で容易に試験することができる。
【0166】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子は、例えば標的分
子結合の価数、したがってアビディティを高めるための手段として、二量体又は多量体と
して生成することができる。多量体は、例えば周知の方法を用いてアミノ酸リンカーを組
み込むことによって1以上のEGFR結合FN3ドメインと1以上のc-Met結合FN
3ドメインとを連結して、EGFR又はc-Metのいずれかに対して少なくとも二重特
異性の少なくとも3個の個々のFN3ドメインを含む分子を形成することによって生成す
ることができる。
【0167】
本発明の別の実施形態は、第1のフィブロネクチンIII型(FN3)ドメイン及び第
2のFN3ドメインを含む分子を含み、前記第1のFN3ドメインが、上皮増殖因子受容
体(EGFR)と特異的に結合しEGFRに対する上皮増殖因子(EGF)の結合をブロ
ックし、前記第2のFN3ドメインが、肝細胞増殖因子受容体(c-Met)と特異的に
結合しc-Metに対する肝細胞増殖因子(HGF)の結合をブロックする、配列番号5
0~72、106、又は138~165に示されるアミノ酸配列を含む、二重特異性FN
3ドメインである。
【0168】
半減期延長部分
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子又は一重特異性E
GFR若しくはc-Met結合FN3ドメインは、例えば共有結合による相互作用を介し
て他のサブユニットを組み込んでもよい。本発明の一態様では、本発明の二重特異性EG
FR/c-Met FN3ドメイン含有分子は半減期延長部分を更に含む。代表的な半減
期延長部分には、アルブミン、アルブミン変異体、アルブミン結合タンパク質及び/又は
ドメイン、トランスフェリン、並びにこれらのフラグメント及び類似体、並びにFc領域
がある。代表的なアルブミン結合ドメインの1つを配列番号117に示す。
【0169】
抗体に似た特性、特にC1q結合、補体依存性細胞傷害性(CDC)、Fc受容体結合
、抗体依存性細胞媒介傷害(ADCC)、食作用、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容
体(BCR))のダウンレギュレーションといったFcエフェクター機能などのFc領域
と関連した特性を付与するため、抗体定常領域の全体又は一部を本発明の分子に結合する
ことが可能であり、これらの活性をあずかるFc内の残基を修飾することによって更に修
飾することができる(概論については、Strohl,Curr Opin Biote
chnol.20,685~691,2009を参照)。
【0170】
本発明の二重特異性分子には、所望の特性を得るために、PEG5000又はPEG2
0000などのポリエチレングリコール(PEG)分子、例えばラウリン酸塩、ミリスチ
ン酸塩、ステアリン酸塩、アラキジン酸塩、ベヘン酸塩、オレイン酸塩、アラキドン酸塩
、オクタン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、ドコサン二酸などの異なる鎖長
の脂肪酸及び脂肪酸エステル、ポリリシン、オクタン、炭水化物(デキストラン、セルロ
ース、オリゴ糖類又は多糖類)などの更なる部分を組み込むことができる。これらの部分
は、タンパク質骨格のコード配列との直接的融合体であり得、標準的なクローニング及び
発現技術によって生成することができる。あるいは、周知の化学的結合方法を用いて、組
み換えにより生成された本発明の分子にこうした部分を結合させることもできる。
【0171】
例えば、周知の方法を用いて、分子のC末端にシステイン残基を組み込み、このシステ
インにpegyl基を結合させるにより、本発明の二重特異性分子又は一重特異性分子に
pegyl部分を付加することができる。C末端にシステインを有する代表的な二重特異
性分子としては、配列番号170~178に示されるアミノ酸配列を有するものがある。
【0172】
更なる部分を組み込む本発明の一重特異性分子及び二重特異性分子は、複数の周知のア
ッセイによって機能性について比較することができる。例えば、Fcドメイン及び/又は
Fcドメイン変異体の組み込みにより変化した一重特異性及び/又は二重特異性分子の特
性は、FcγRI、FcγRII、FcγRIII、若しくはFcRn受容体などの可溶
形態の受容体を用いるか、又は例えばADCC若しくはCDCを測定する周知の細胞に基
づいたアッセイを用いるか、又はインビボモデルにおいて本発明の分子の薬物動態学的特
性を評価することによって、Fc受容体結合アッセイにおいてアッセイすることができる
【0173】
ポリヌクレオチド、ベクター、宿主細胞
本発明は、本発明のEGFR結合若しくはc-Met結合FN3ドメイン又は二重特異
性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子を、単離されたポリヌクレオチドとし
て、又は発現ベクターの一部として、又は直鎖状DNA配列の一部としてコードする核酸
を提供するものであり、インビトロ転写/翻訳で使用される直鎖状DNA配列、組成物又
はそれらの指向性変異誘発物質の原核細胞、真核細胞若しくは繊維状ファージ発現、分泌
及び/若しくはディスプレイと適合するベクターが含まれる。本明細書では、特定の代表
的なポリヌクレオチドを開示するが、遺伝コードの縮重又は所与の発現系におけるコドン
選択性を考慮すれば、本発明のEGFR結合若しくはc-Met結合FN3ドメイン又は
二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子をコードする他のポリヌクレ
オチドもまた、本発明の範囲に含まれるものである。
【0174】
本発明の一実施形態は、配列番号18~29、107~110、又は122~137の
アミノ酸配列を有する、EGFRと特異的に結合するFN3ドメインをコードする単離さ
れたポリヌクレオチドである。
【0175】
本発明の一実施形態は、配列番号97~98又は168~169のポリヌクレオチド配
列を含む、単離されたポリヌクレオチドである。
【0176】
本発明の一実施形態は、配列番号32~49、又は111~114に示される配列のア
ミノ酸配列を有する、c-Metと特異的に結合するFN3ドメインをコードする単離さ
れたポリヌクレオチドである。
【0177】
本発明の一実施形態は、配列番号50~72、106、118~121、又は138~
165のアミノ酸配列を有する、二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有
分子をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0178】
本発明の一実施形態は、配列番号115~116、又は166~167のポリヌクレオ
チド配列を含む、単離されたポリヌクレオチドである。
【0179】
本発明のポリヌクレオチドは、自動ポリヌクレオチド合成装置での固相ポリヌクレオチ
ド合成などの化学合成により生成され得、完全な一本鎖又は二本鎖分子として構築するこ
とができる。あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、PCRの後に通常のクローニング
を行うなどの他の方法によって生成することができる。特定の既知の配列のポリヌクレオ
チドを生成する又は得るための方法は、当該技術分野では周知である。
【0180】
本発明のポリヌクレオチドは、プロモーター又はエンハンサー配列、イントロン、ポリ
アデニル化シグナル、RepA結合を促進するcis配列など、少なくとも1つの非コー
ド配列を含み得る。ポリヌクレオチド配列はまた、タンパク質の精製又は検出を促進する
ための、例えばヒスチジンタグ若しくはHAタグなどのマーカー又はタグ配列、シグナル
配列、RepA、Fc、又はpIX若しくはpIIIなどのバクテリオファージコートタ
ンパク質などの融合タンパク質パートナーをコードする更なるアミノ酸をコードする更な
る配列を含んでもよい。
【0181】
本発明の別の実施形態は、少なくとも1つの本発明のポリヌクレオチドを含むベクター
である。こうしたベクターは、プラスミドベクター、ウイルスベクター、バキュロウイル
ス発現ベクター、トランスポゾンに基づいたベクター、又は任意の手段によって特定の生
物若しくは遺伝子的バックグラウンドに本発明のポリヌクレオチドを導入するのに適した
他の任意のベクターであってよい。こうしたベクターは、かかるベクターによってコード
されているポリペプチドの発現を制御、調節、誘導、又は許容することができる核酸配列
要素を含む発現ベクターであり得る。このような要素は、転写エンハンサー結合部位、R
NAポリメラーゼ開始部位、リボソーム結合部位、及び所与の発現系におけるコードされ
たポリペプチドの発現を促進する他の部位を含み得る。このような発現系は、当該技術分
野では周知の細胞に基づく系であっても無細胞系であってもよい。
【0182】
本発明の別の実施形態は、本発明のベクターを含む宿主細胞である。本発明の一重特異
性EGFR結合若しくはc-Met結合FN3ドメイン又は二重特異性EGFR/c-M
etFN3ドメイン含有分子は、当該技術分野では周知であるように、細胞株、混合細胞
株、不死化細胞、又は不死化細胞のクローン化集団によって任意に生成させることもでき
る。例えば、Ausubel,et al.,ed.,Current Protoco
ls in Molecular Biology,John Wiley & Son
s,Inc.,NY,NY(1987~2001);Sambrook,et al.,
Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd
Edition,Cold Spring Harbor,NY(1989);Har
low and Lane,Antibodies,a Laboratory Man
ual,Cold Spring Harbor,NY(1989);Colligan
,et al.,eds.,Current Protocols in Immuno
logy,John Wiley & Sons,Inc.,NY(1994~2001
);Colligan et al.,Current Protocols in P
rotein Science,John Wiley & Sons,NY,NY,(
1997~2001)を参照されたい。発現用に選択される宿主細胞は、哺乳類由来であ
ってもよく、あるいはCOS-1、COS-7、HEK293、BHK21、CHO、B
SC-1、He G2、SP2/0、HeLa、骨髄腫、リンパ腫、酵母、昆虫若しくは
植物細胞、又はこれらの任意の誘導細胞、不死化若しくは形質転換細胞から選択してもよ
い。あるいは、宿主細胞は、ポリペプチドをグリコシル化することができない種又は生物
、例えば、BL21、BL21(DE3)、BL21-GOLD(DE3)、XL1-B
lue、JM109、HMS174、HMS174(DE3)、及び天然若しくは操作さ
れた大腸菌属、クレブシエラ属、又はシュードモナス属の菌株などの原核細胞又は生物か
ら選択することもできる。
【0183】
本発明の別の実施形態は、本発明のEGFR若しくはc-Metに特異的に結合する単
離されたFN3ドメイン、又は本発明の単離された二重特異性EGFR/c-Met F
N3ドメイン含有分子を生成するための方法であって、本発明の単離された宿主細胞を、
EGFR若しくはc-Metに特異的に結合する単離されたFN3ドメイン、又は単離さ
れた二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子が発現される条件下で培
養することと、前記ドメイン又は分子を精製することと、を含む方法である。
【0184】
本発明のEGFR若しくはc-Metに特異的に結合するFN3ドメイン、又は単離さ
れた二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子は、例えば、タンパク質
A精製、硫酸アンモニウム又はエタノール沈殿、酸抽出、アニオン又はカチオン交換クロ
マトグラフィー、リン酸セルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフ
ィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー及
びレクチンクロマトグラフィー、あるいは高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)な
どの周知の方法によって組換え細胞培養から精製することができる。
【0185】
二重特異性EGFR/c-Met抗体
二重特異性EGFR/c-Met抗体は新たに生成するか、又は既存の一重特異性の抗
EGFR抗体及び抗c-Met抗体を操作することができる。
【0186】
二重特異性分子を操作するために使用することができる代表的な抗EGFR抗体として
は、例えば、パニツムマブ(ABX-EGF)、ニモツズマブ、ネシツムマブ、マツズマ
ブ、及び例えば、米国特許第7,595,378号、米国特許第7,247,301号、
米国特許出願公開第2011/0256142号、米国特許第5,891,996号、米
国特許第5,212,290号、米国特許第5,558,864号、又は米国特許第7,
589,180に述べられるものがある。例えば、配列番号189又は191に示される
アミノ酸配列を有する抗体VHドメイン及び配列番号190又は192に示されるアミノ
酸配列を有する抗体VLドメインを使用することができる。
【0187】
二重特異性分子を操作するために使用することが可能な代表的な抗c-Met抗体とし
ては、例えば、リロツムマブ、オナルツズマブ、フィクラツズマブ、及び例えば国際特許
公開第WO2011/110642号、米国特許出願公開第2004/0166544号
、国際特許公開第WO2005/016382号、又は国際特許公開第WO2006/0
15371号に述べられるものがある。例えば、配列番号193又は195に示されるア
ミノ酸配列を有する抗体VHドメイン及び配列番号194又は196に示されるアミノ酸
配列を有する抗体VLドメインを使用することができる。米国一般名(USAN)により
識別される抗体の重鎖及び軽鎖アミノ酸配列が、http://_www_ama-as
sn_orgにおいて米国医学会より、又はCAS登録番号によって利用可能である。
【0188】
一重特異性EGFR及びc-Met結合可変ドメインは、例えば、ヒト免疫グロブリン
、あるいはFab、1本鎖抗体(scFV)又は合されない若しくは対合された抗体可変
領域などのその一部をファージに発現させるように操作したファージディスプレイライブ
ラリから新たに選択し(Knappik et al.,J Mol Biol 296
:57~86,2000;Krebs et al.,J Immunol Meth
254:67~84,2001;Vaughan et al.,Nature Bio
technology 14:309~314,1996;Sheets et al.
,PITAS(USA)95:6157~6162,1998;Hoogenboom
and Winter,J Mol Biol 227:381,1991;Marks
et al.,J Mol Biol 222:581,1991)、続いて、操作に
より二重特異性フォーマットとすることができる。一重特異性EGFR及びc-Met結
合可変ドメインは、Shi et al(2010)J.Mol.Biol.397:3
85~96及び国際特許公開第WO09/085462号に述べられるように、例えば抗
体の重鎖及び軽鎖可変領域をバクテリオファージpIXコートタンパク質との融合タンパ
ク質として発現するファージディスプレイライブラリから単離することができる。この抗
体ライブラリを、ヒトEGFR又はc-Metの細胞外ドメインとの結合についてスクリ
ーニングし、得られた陽性クローンを更に特性評価し、クローンライセートからFabを
単離する。ヒト抗体を単離するためのこのようなファージディスプレイ法は、当該技術分
野では確立されたものである。例えば、米国特許第5,223,409号、米国特許第5
,403,484号、米国特許第5,571,698号、米国特許第5,427,908
号、米国特許第5号、580,717号、米国特許第5,969,108号、米国特許第
6,172,197号、米国特許第5,885,793号、米国特許第6,521,40
4号、米国特許第6,544,731号、米国特許第6,555,313号、米国特許第
6,582,915号、及び米国特許第6,593,081号を参照されたい。得られた
EGFR又はc-Metと結合する新たな可変領域は、本明細書に述べられる方法を用い
て操作して二重特異性フォーマットとする。
【0189】
二重特異性抗体フォーマット
本発明の抗体は2以上の抗原結合部位を有し、二重特異的である。本発明の二重特異性
抗体には、完全長の抗体構造を有する抗体が含まれる。
【0190】
本明細書で使用するところの「完全長の抗体」とは、2本の完全長の抗体重鎖と2本の
完全長の抗体軽鎖とを有する抗体を指す。完全長の抗体重鎖(HC)は、周知の重鎖の可
変及び定常ドメインVH、CH1、CH2、及びCH3で構成される。完全長の抗体軽鎖
(LC)は、周知の軽鎖の可変及び定常ドメインVL及びCLで構成される。完全長の抗
体は、一方又は両方の重鎖にC末端リシン(K)を欠いていてもよい。
【0191】
用語「Fabアーム」又は「半分子」とは、抗原と特異的に結合する重鎖/軽鎖の1つ
のペアを指す。
【0192】
本明細書の完全長の二重特異性抗体は、無細胞環境中インビトロで、又は同時発現を用
いて、異なる特異性を有する2個の抗体半分子のヘテロ二量体の形成に有利な条件とする
ために、各半分子の重鎖CH3の界面に置換を導入することにより2個の一重特異性二価
抗体の間でFabアーム交換(又は半分子交換)を行うことで生成することができる。F
abアーム交換反応は、CH3ドメインのジスルフィド結合異性化反応及び解離/会合の
結果として生じる。親一重特異性抗体のヒンジ領域内の重鎖ジスルフィド結合が還元され
る。一方の親一重特異性抗体の生じた遊離システインは、第2の親一重特異性抗体分子の
システイン残基と重鎖間ジスルフィド結合を形成し、同時に親抗体のCH3ドメインが解
離/会合によって放出され再形成される。FabアームのCH3ドメインを、ホモ二量体
化よりもヘテロ二量体化に有利となるように操作することができる。得られる生成物は、
それぞれが異なるエピトープ、すなわちEGFR上のエピトープ及びc-Met上のエピ
トープを結合する2つのFabアーム又は半分子を有する二重特異性抗体である。
【0193】
本明細書で使用するところの「ホモ二量体化」とは、同一のCH3アミノ酸配列を有す
る2本の重鎖の相互作用を指す。本明細書で使用するところの「ホモ二量体」とは、同一
のCH3アミノ酸配列を有する2本の重鎖を有する抗体を指す。
【0194】
本明細書で使用するところの「ヘテロ二量体化」とは、非同一のCH3アミノ酸配列を
有する2本の重鎖の相互作用を指す。本明細書で使用するところの「ヘテロ二量体」とは
、非同一のCH3アミノ酸配列を有する2本の重鎖を有する抗体を指す。
【0195】
「ノブ・イン・ホール」法(例えば国際特許公開第WO 2006/028936号を
参照)を用いて完全長の二重特異性抗体を生成することができる。簡単に述べると、ヒト
IgGのCH3ドメインの界面を形成する選択されたアミノ酸を、CH3ドメインの相互
作用に影響を及ぼしてヘテロ二量体の形成を促進する位置で変異させることができる。小
さい側鎖(ホール(穴))を有するアミノ酸を、第1の抗原と特異的に結合する抗体の重
鎖に導入し、大きい側鎖(ノブ(突起))を有するアミノ酸を、第2の抗原と特異的に結
合する抗体の重鎖に導入する。これら2種類の抗体を同時発現させると、「ホール」を有
する重鎖と「ノブ」を有する重鎖とが選択的に相互作用する結果、ヘテロ二量体が形成さ
れる。「ノブ」及び「ホール」を形成する代表的なCH3の置換のペアとしては(第1の
重鎖の第1のCH3ドメイン内の修飾位置/第2の重鎖の第2のCH3ドメイン内の修飾
位置として表した場合)、T366Y/F405A、T366W/F405W、F405
W/Y407A、T394W/Y407T、T394S/Y407A、T366W/T3
94S、F405W/T394S及びT366W/T366S_L368A_Y407V
がある。
【0196】
米国特許出願公開第2010/0015133号、米国特許出願公開第2009/01
82127号、米国特許出願公開第2010/028637号、又は米国特許出願公開第
2011/0123532号に述べられるように、一方のCH3表面の正電荷を有する残
基及び第2のCH3表面の負電荷を有する残基を置換することにより静電的相互作用を利
用して重鎖のヘテロ二量体化を促進するなどの他の手法を使用することができる。他の手
法では、ヘテロ二量体化を以下の置換によって促進することができる(第1の重鎖の第1
のCH3ドメイン内の修飾位置/第2の重鎖の第2のCH3ドメイン内の修飾位置として
表した場合)。すなわち、L351Y_F405A_Y407V/T394W、T366
I_K392M_T394W/F405A_Y407V、T366L_K392M_T3
94W/F405A_Y407V、L351Y_Y407A/T366A_K409F、
L351Y_Y407A/T366V_K409F、Y407A/T366A_K409
F、又はT350V_L351Y_F405A_Y407V/T350V_T366L_
K392L_T394W(米国特許出願公開第2012/0149876号又は米国特許
出願公開第2013/0195849号に述べられる)。
【0197】
上記に述べた方法以外に、本発明の二重特異性抗体は、国際特許公開第WO2011/
131746号に述べられる方法にしたがって、2種類の一重特異性ホモ二量体抗体のC
H3領域に非対称な変異を導入し、ジスルフィド結合異性化が生じるように還元的条件下
で2種類の親一重特異性ホモ二量体抗体から二重特異性ヘテロ二量体抗体を形成すること
により、無細胞環境中、インビトロで生成することができる。これらの方法では、第1の
一重特異性二価抗体(例えば抗c-Met抗体)及び第2の一重特異性二価抗体(例えば
抗EGFR抗体)を、ヘテロ二量体の安定性を高めるCHドメインの特定の置換を有する
ように操作する。その場合、これらの抗体を、ヒンジ領域のシステインがジスルフィド結
合異性化されるのに充分な還元的条件下で一緒にインキュベートすることにより、Fab
アーム交換によって二重特異性抗体を生成する。インキュベーションの条件は、非還元的
条件に最適に戻すことができる。使用することが可能な代表的な還元剤としては、2-メ
ルカプトエチルアミン(2-MEA)、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリスリ
トール(DTE)、グルタチオン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCE
P)、L-システイン及びβ-メルカプトエタノールがあり、好ましくは、2-メルカプ
トエチルアミン、ジチオスレイトール及びトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンか
らなる群から選択される還元剤である。例えば、少なくとも25mMの2-MEAの存在
下又は少なくとも0.5mMのジチオスレイトールの存在下、pH 5~8、例えばpH
7.0又はpH 7.4で、最低でも20℃の温度で少なくとも90分間のインキュベ
ーションを用いることができる。
【0198】
二重特異性EGFR/c-Met抗体
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、小分子のEGFR及び/又はc-M
et阻害剤と比較した場合に特異性及び低減された標的外毒性の点で利点をもたらすこと
ができる。本発明は、本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体が、EGFR結合一
重特異性抗体とc-Met結合一重特異性抗体との混合物又は文献に記載されている二重
特異性EGFR/c-Met抗体と比較した場合に、大幅に向上した相乗的阻害作用をも
たらすという驚くべき発見に少なくとも一部基づいてなされたものである。アッセイに応
じて、観察される相乗的作用は、約14~約800倍超で変化した。本発明の二重特異性
EGFR/c-Met抗体は、セツキシマブ(エルビタックス(登録商標))よりも効率
的なEGFR及び/又はc-Metのシグナル伝達経路阻害をもたらし、より効率的に腫
瘍増殖を阻害するものである。本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、EGF
R活性化変異及び/又はゲフィチニブなどのチロシンキナーゼ阻害剤による治療に対する
耐性をもたらすことが知られているEGFRの変異を有する腫瘍及び/又は腫瘍細胞株に
おけるEGFRシグナル伝達を阻害し、NSCLCなどの癌においてEGFRチロシンキ
ナーゼ阻害剤による治療の際にアップレギュレートされ、補償的なシグナル伝達を提供す
ることが特定されている経路である、c-Metシグナル伝達経路を阻害する。本発明の
二重特異性EGFR/c-Met抗体は、EGFR及びc-Metシグナル伝達を直接阻
害する以外に、増進した抗体依存性細胞傷害性(ADCC)並びにEGFR及びc-Me
t受容体の分解によって抗腫瘍活性を示す。現在のEGFR治療(セツキシマブ及びパニ
ツムマブ)とは異なり、本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、増進したAD
CCによって、KRAS変異を有する腫瘍細胞の死滅を誘導する。
【0199】
国際特許公開第WO2010/115551号は、現在、第III相臨床試験が行われ
ている、セツキシマブのEGFR結合VH/VLペア及び抗体5D5(MetMab、オ
ナルツズマブ)のc-Met結合VH/VLペアを用いてIgGーscFvフォーマット
において操作された二重特異性EGFR/c-Met抗体(BSAB01)について述べ
ている。BSAB01は、親抗体と比較した場合に約2倍(相加的)増大したA431細
胞増殖の阻害を示し(国際特許公開第WO2010/115551号の実施例7、図8
)、2種類の親抗体の組合わせと比較した場合にOvarc-8細胞の増殖に対してある
程度の相加的阻害を示す(阻害率10%に対して15%)(国際特許公開第WO2010
/115551号の図10a、実施例16)。したがって、驚くべきことに、また予期せ
ずして、本発明は、EGFR及びc-Metシグナル伝達、癌細胞の生存、及び腫瘍増殖
の阻害において顕著な相乗的作用を示す二重特異性EGFR/c-Met抗体を提供する
ものである。何らの理論により束縛されることを望むものではないが、本発明の二重特異
性抗体の顕著な相乗的作用は、EGFR結合アーム及びc-Met結合アームの両方のエ
ピトープ特異性に少なくとも一部起因するものであり、EGFR及びc-Metのホモ二
量体だけではなく、EGFR/HERxヘテロ二量体によるシグナル伝達の阻害につなが
り得るものと考えられる。
【0200】
本発明の一実施形態は、単離された二重特異性上皮増殖因子受容体(EGFR)/肝細
胞増殖因子受容体(c-Met)抗体であって、
a)HC1定常ドメイン3(HC1 CH3)及びHC1可変領域1(VH1)を含む
第1の重鎖(HC1)と、
b)HC2定常ドメイン3(HC2 CH3)及びHC2可変領域2(VH2)を含む
第2の重鎖(HC2)と、
c)軽鎖可変領域(VL1)を含む第1の軽鎖(LC1)と、
軽鎖可変領域(VL2)を含む第2の軽鎖(LC2)と、を含み、VH1とVL1とが
対合してEGFRと特異的に結合する第1の抗原結合部位を形成し、VH2とVL2とが
対合してc-Metと特異的に結合する第2の抗原結合部位を形成し、HC1が前記HC
1 CH3に少なくとも1個の置換を含み、HC2がHC2 CH3に少なくとも1個の
置換を含み、HC1 CH3内の置換、及びHC2 CH3内の置換が、残基の番号付け
がEUインデックスに基づいたものである場合に、異なるアミノ酸残基の位置で生じる、
二重特異性EGFR/c-Met抗体である。
【0201】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、NCI-H292、NCI-H1975又はSKMES-1細胞株における細胞外シ
グナル関連キナーゼ1及び2(ERK1/2)のリン酸化を阻害し、そのIC50値は、重
鎖3(HC3)及び軽鎖3(LC3)を含むコントロール一価EGFR抗体と重鎖4(H
C4)及び軽鎖4(LC4)を含むコントロール一価c-Met抗体との混合物によるN
CI-H292、NCI-H1975又はSKMES-1細胞株におけるERK1/2の
リン酸化の阻害のIC50値と比較した場合に、少なくとも約10倍低い、少なくとも約2
0倍低い、少なくとも約30倍低い、少なくとも約40倍低い、少なくとも約50倍低い
、又は少なくとも約60倍低いIC50値であり、ただし、HC3とHC1、LC3とLC
1、HC4とHC2、LC4とLC2はそれぞれ同一のアミノ酸配列を有し、ERK1/
2のリン酸化は、抗ホスホERK1/2抗体を捕捉抗体とし、電気化学発光化合物と接合
された非リン酸化及びリン酸化ERK1/2と結合する抗体を検出抗体として使用するサ
ンドイッチイムノアッセイを用いて全細胞ライセート中で測定される。本発明の二重特異
性EGFR/c-Met抗体は、阻害率をERK1/2リン酸化の阻害によって評価した
場合に、一重特異性EGFR抗体と一重特異性c-Met抗体の組合わせと比較してEG
FR及びc-Metシグナル伝達の相乗的でより顕著な阻害をもたらす。このような代表
的な二重特異性EGFR/c-Met抗体としては、本発明の抗体EM1-mAbがある
【0202】
本明細書で使用するところの「コントロール一重特異性EGFR抗体」とは、試験され
る二重特異性EGFR/c-Met抗体のEGFR結合Fabアームと同一のアミノ酸配
列を有する、EGFRと結合する第1のFabアームを有するとともに、「不活性」であ
り、無関係/非関連抗原であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)gp120と結合する第
2のFabアームを有する抗体のことを指す。第2のFabアームは、試験される二重特
異性EGFR/c-Met抗体のEGFR結合FabアームがF405L置換を含む場合
、配列番号209の配列を有する軽鎖と配列番号198の配列を有する重鎖とを有する。
第2のFabアームは、試験される二重特異性EGFR/c-Met抗体のEGFR結合
FabアームがK409R置換を含む場合、配列番号209の配列を有する軽鎖と配列番
号197の配列を有する重鎖とを有する。
【0203】
本明細書で使用するところの「コントロール一重特異性c-Met抗体」とは、試験さ
れる二重特異性EGFR/c-Met抗体のc-Met結合Fabアームと同一のアミノ
酸配列を有する、c-Metと結合する第1のFabアームを有するとともに、「不活性
」であり、無関係/非関連抗原であるHIV gp120と結合する第2のFabアーム
を有する抗体のことを指す。第2のFabアームは、試験される二重特異性EGFR/c
-Met抗体のc-Met結合FabアームがF405L置換を含む場合、配列番号20
9の配列を有する軽鎖と配列番号198の配列を有する重鎖とを有する。第2の不活性F
abアームは、試験される二重特異性EGFR/c-Met抗体のc-Met結合Fab
アームがK409R置換を含む場合、配列番号209の配列を有する軽鎖と配列番号19
7の配列を有する重鎖とを有する。
【0204】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、ERK1/2のリン酸化を、約2×10-9M以下、約1×10-9M以下、又は約1×
10-10M以下のIC50値で阻害する。
【0205】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、ERK1は、残基Thr202及びT
yr204においてリン酸化され、ERK2は残基Thr185及びTyr197におい
てリン酸化されている。
【0206】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、NCI-H1975細胞株におけるタンパク質キナーゼB(AKT)のSer473
におけるリン酸化を阻害し、そのIC50値は、HC3及びLC3を含むコントロール一価
EGFR抗体とHC4及びLC4を含むコントロール一価c-Met抗体との混合物によ
るNCI-H1975細胞株におけるAKTのSer473におけるリン酸化阻害のIC
50値と比較した場合に、少なくとも約70倍低いIC50値であり、ただし、HC3とHC
1、LC3とLC1、HC4とHC2、及びLC4とLC2はそれぞれ同一のアミノ酸配
列を有し、AKTのSer473におけるリン酸化は、非リン酸化及びリン酸化AKTと
結合する抗体を捕捉抗体とし、電気化学発光化合物と接合された抗ホスホAKT Ser
473抗体を検出抗体として使用するサンドイッチイムノアッセイを用いて全細胞ライセ
ート中で測定される。
【0207】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、NCI-H1975細胞株におけるタンパク質キナーゼB(AKT)のThr308
におけるリン酸化を阻害し、そのIC50値は、HC3及びLC3を含むコントロール一価
EGFR抗体とHC4及びLC4を含むコントロール一価c-Met抗体との混合物によ
るNCI-H1975細胞株におけるAKTのThr308におけるリン酸化の阻害のI
50値と比較した場合に、少なくとも約100倍低いIC50値であり、ただし、HC3と
HC1、LC3とLC1、HC4とHC2、及びLC4とLC2はそれぞれ同一のアミノ
酸配列を有し、AKTのThr308におけるリン酸化は、非リン酸化及びリン酸化AK
Tと結合する抗体を捕捉抗体とし、電気化学発光化合物と接合された抗ホスホAKT T
hr308抗体を検出抗体として使用するサンドイッチイムノアッセイを用いて全細胞ラ
イセート中で測定される。
【0208】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、阻害率をAKTリン酸化の阻害によ
って評価した場合に、一重特異性EGFR抗体と一重特異性c-Met抗体の組合わせと
比較してEGFR及びc-Metシグナル伝達の相乗的でより顕著な阻害をもたらす。こ
のような代表的な二重特異性EGFR/c-Met抗体としては、本発明の抗体EM1-
mAbがある。
【0209】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、AKTのSer473又はThr308におけるリン酸化を約1×10-9M以下のI
50値で阻害する。
【0210】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、配列番号73のEGFRとEGFR残基K489、I491、K467及びS492
において、並びにc-Metと残基PEFRDSYPIKYVHAF(配列番号238)
及びFAQSKPDSAEPMDRSA(配列番号239)において結合する。このよう
な代表的な二重特異性抗体として、EM1-mAbがある。二重特異性EM1抗体は、上
記及び国際特許公開第WO2010/115551号に述べられるように、抗体BSAB
01と比較した場合にEGFR及びc-Metと異なるエピトープで結合する。BSAB
01の親EGFR結合アーム(セツキシマブ)は、配列番号73の完全長EGFRの残基
R367、Q408、Q432、H433、F436、S442、S464、K467、
K489、I491、S492、及びN497に対応する、成熟EGFRのEGFRアミ
ノ酸残基R353、Q384、Q408、H409、F412、S418、S440、K
443、K465、I467、S468、及びN473と結合する(Li et al.
,Cancer Cell 7:301~311,2005)。BSAB01の親c-M
et結合アーム(mAb 5D5)は、c-Metの残基325~340PGAQLAR
QIGASLNDD(配列番号240)と結合する。EM1-mAbのEGFR結合親抗
体(2F8)のエピトープマッピングについては、米国特許出願公開第US2011/0
256142A1号に述べられている。セツキシマブ及び親2F8抗体は、部分的に重な
るが別個のエピトープと結合する。
【0211】
エピトープマッピングは標準的な方法を用いて行うことができる。例えば、個々の要素
の両方の構造がわかっている場合、インシリコのタンパク質-タンパク質のドッキングを
行って、適合する相互作用の部位を特定することができる。抗原抗体複合体で水素-重水
素(H/D)交換を行うことによって、抗体が結合し得る抗原の領域をマッピングするこ
とができる。抗原のセグメント及び点変異誘発を用いることにより、抗体の結合に重要な
アミノ酸の位置を特定することができる。
【0212】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、EGFR及びc-Metシグナル伝達を無効にする。
【0213】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、同じアッセイ条件を用いた本発明の
二重特異性EGFR/c-Met分子の非存在下におけるシグナル伝達のレベルと比較し
た場合に、EGFR及びc-Metシグナル伝達を少なくとも30%、35%、40%、
45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、
91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は10
0%無効にすることができる。
【0214】
EGFRに対するEGFなどのリガンドの結合は、受容体の二量体化、自己リン酸化、
受容体の内部の細胞質チロシンキナーゼドメインの活性化、並びにDNA合成の調節(遺
伝子の活性化)及び細胞周期の進行又は細胞分裂に関与する複数のシグナルトランスダク
ション及びトランス活性化経路の開始を刺激する。EGFRシグナル伝達を無効にするこ
とは、1以上のEGFRの下流のシグナル伝達経路の阻害につながり得るため、EGFR
を無効にすることは、細胞の増殖及び分化、血管新生、細胞運動性、及び転移の阻害、並
びに下流のシグナル伝達経路の阻害をはじめとする様々な作用を有し得る。
【0215】
EGFRシグナル伝達及びEGFRシグナル伝達の無効は、例えば、本発明の二重特異
性抗体によるチロシンY1068、Y1148、及びY1173のいずれかにおける受容
体の自己リン酸化(Downward et al.,Nature 311:483~
5,1984)、並びに/あるいは天然又は合成基質のリン酸化、並びに天然又は合成基
質の自己リン酸化及び/又はリン酸化の阻害を測定するなど、様々な周知の方法を用いて
測定することができる。リン酸化は、ELISAアッセイ又はホスホチロシン特異的抗体
を用いたウェスタンブロットなどの周知の方法を用いて検出することができる。代表的な
アッセイは、Panek et al.,J Pharmacol Exp Thera
283:1433~44,1997及びBatley et al.,Life Sc
i 62:143~50,1998に見られ、更に本明細書に述べられる。
【0216】
c-Metに対するHGFの結合は、受容体の二量体化、自己リン酸化、受容体の細胞
質チロシンキナーゼドメインの活性化、並びにDNA合成の調節(遺伝子の活性化)及び
細胞周期の進行又は細胞分裂に関与する複数のシグナルトランスダクション及びトランス
活性化経路の開始を刺激する。c-Metシグナル伝達の阻害は、1以上のc-Metの
下流のシグナル伝達経路の阻害につながり得るため、c-Metを無効にすることは、細
胞の増殖及び分化、血管新生、細胞運動性、並びに転移の阻害をはじめとする様々な作用
を有し得る。
【0217】
c-Metのシグナル伝達及びc-Metのシグナル伝達無効は、例えば、チロシン残
基Y1230、Y1234、Y1235、若しくはY1349の少なくとも1つにおける
受容体の自己リン酸化、及び/又は天然若しくは合成基質のリン酸化を測定するなど、様
々な周知の方法を用いて測定することができる。リン酸化は、例えば、ELISAアッセ
イ又はウェスタンブロットでホスホチロシンに対する特異的な抗体を使用することなどに
より検出することができる。代表的なアッセイは、Panek et al.,J Ph
armacol Exp Thera 283:1433~44,1997及びBatl
ey et al.,Life Sci 62:143~50,1998に見られ、更に
本明細書に述べられる。
【0218】
EGFR及びc-Metのシグナル伝達は、ERK1/2及びAKTのリン酸化の阻害
を測定するなど、本明細書に述べられるような様々な周知の方法を用いて測定することが
できる。Thr202及びTyr204におけるERK1のリン酸化並びにThr185
及びTyr187におけるERK2のリン酸化の阻害、並びにSer473又はThr3
08におけるAKTの阻害は、例えば、NCI-H1975細胞のライセート中で、捕捉
抗体が固相支持体上にコーティングされ、検出抗体がMeso Scale Disco
ver(MSD)SULFO-TAG標識などの電気化学的発光化合物と接合された、サ
ンドイッチアッセイを用い、次いでプレートリーダーでシグナルを検出することによって
測定することができる。
【0219】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、NCI-H292又はNCI-H1975細胞の増殖を、NCI-H292又はNC
I-H1975細胞が低付着条件で増殖された場合のセツキシマブによるNCI-H29
2又はNCI-H1975細胞の増殖の阻害のIC50値と比較した場合に、少なくとも約
300倍低い、少なくとも約400倍低い、少なくとも約500倍低い、少なくとも約6
00倍低い、少なくとも約700倍低い、又は少なくとも約800倍低いIC50値で阻害
する。
【0220】
細胞増殖の阻害は既知の方法によって評価することができる。例えば、細胞付着を防止
又は低減するためにヒドロゲル又はバイオミメティックポリマー(例えばCorning
のUltra Low Attachmentプレート)でコーティングされたプレート
に細胞を播種し、7.5ng/mLのHGFで誘導した細胞増殖に対する抗体の影響を、
標準的な方法を用いた72時間のインキュベーション後に細胞生存率(%)を測定するこ
とによって評価することができる。
【0221】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、一重特異性EGFR抗体と一重特異
性c-Met抗体の組合わせ、及び標準的治療薬であるセツキシマブと比較した場合にE
GFR及びc-Metを発現する癌細胞の相乗的でより顕著な阻害をもたらす。このよう
な代表的な二重特異性EGFR/c-Met抗体としては、本発明の抗体EM1-mAb
がある。本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、野生型EGFR及び野生型c
-Metを発現する癌細胞、並びにゲフィチニブなどの小分子チロシンキナーゼ阻害剤(
TKI)による治療に対する耐性に寄与することが特定されているEGFRのL858R
/T790M変異体を発現する癌細胞を阻害する。したがって、本発明の二重特異性EG
FR/c-Met抗体は、セツキシマブ及びTKIと比較して、より広い患者集団におい
て利益をもたらし得る。
【0222】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、二重特異性抗体及びセツキシマブが20mg/kgの用量で投与された場合に、SC
ID BeigeマウスにおけるHGF発現SKMES-1細胞腫瘍の増殖を、セツキシ
マブと比較して36日目に少なくとも500倍低いT/C値(%)で阻害する。
【0223】
SCID Beigeマウスを用いた腫瘍異種移植モデルは周知である。SKMES-
1細胞は、標準的な方法を用いてヒトHGFを発現するように操作することができる。一
般的に、SCID Beigeマウスでは、各動物の背部脇腹の皮下にCulturex
などの細胞外マトリクス中に包埋されたヒトHGFを発現するSKMES-1細胞を接種
することができる。移植1週間後、同じ腫瘍体積を有する複数の群にマウスを分類した後
、本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体、コントロール又はベンチマーク抗体又
は小分子を例えば週3回投与することができる。腫瘍体積を週2回記録し、腫瘍増殖阻害
率(TGI)を、T/C値(%)を計算することによって観察することができる。T/C
値(%)は抗腫瘍有効性の指標である。T及びCは、それぞれ特定の日の処置群及びコン
トロール群の平均体積である。
【0224】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、標準治療薬であるセツキシマブと比
較した場合にインビボでの腫瘍殺滅において大幅に向上した有効性をもたらし、したがっ
て、セツキシマブと比較した場合に患者集団において利益をもたらし得る。
【0225】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、アイソタイプがIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4であるHC1及びHC2
を含む。
【0226】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、アイソタイプがIgG1であるHC1及びHC2を含む。
【0227】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、残基の番号付けがEUインデックスに
基づいたものである場合に、350、366、368、370、399、405、407
、又は409位の残基に、二重特異性EGFR/c-Met抗体のHC1 CH3は少な
くとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、又は8個の置換を含み、HC2 C
H3は少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、又は8個の置換を含む。
【0228】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、残基の番号付けがEUインデックスに
基づいたものである場合に、350、370、405、又は409位の残基に、二重特異
性EGFR/c-Met抗体のHC1 CH3は少なくとも1個、2個、3個、又は4個
の置換を含み、HC2 CH3は少なくとも1個、2個、3個、又は4個の置換を含む。
【0229】
抗体のドメイン及び番号付けは周知のものである。2個のCH3ドメイン(又はCH3
領域)は、互いに少なくとも1個のアミノ酸置換で異なる場合に非同一である。IgG1
のCH3領域は、一般的にIgG1の残基341~446からなる(残基の番号付けはE
Uインデックスに基づく)。代表的なIgG1の定常領域の1つを配列番号203に示す
。CH3ドメインは、配列番号203の残基224~329にわたり、EUインデックス
に基づく残基341~446に対応する。
【0230】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、残基の番号付けがEUインデックスに
基づいたものである場合に、405又は409位の残基に、二重特異性EGFR/c-M
et抗体のHC1 CH3は少なくとも1個の置換を含み、HC2 CH3は少なくとも
1個の置換を含む。
【0231】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、残基の番号付けがEUインデックスに
基づいたものである場合に、二重特異性EGFR/c-Met抗体のHC1 CH3はK
409R又はF405Lの置換を含み、HC2 CH3はK409R又はF405Lの置
換を含む。
【0232】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
のHC1 CH3はF405Lの置換を含み、HC2 CH3はK409Rの置換を含む
【0233】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3及びHC2 CH3の
置換は、366、368、370、399、405、407又は409位における置換で
ある(残基の番号付けはEUインデックスに基づく)。これらの位置は、それぞれ配列番
号203及び204の重鎖定常領域の直鎖の248、250、252、281、287、
289及び291位の残基に対応している。
【0234】
本明細書に述べられる特定の実施形態では、HC1 CH3の409位は、Lys、L
eu又はMet以外のアミノ酸置換を有し、HC2 CH3の405位は、Phe以外の
アミノ酸置換を有する。
【0235】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3の405位は、Phe
以外のアミノ酸置換を有し、HC2 CH3の409位は、Lys、Leu又はMet以
外のアミノ酸置換を有する。
【0236】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3の409位は、Lys
、Leu又はMet以外のアミノ酸置換を有し、HC2 CH3の405位は、Phe、
Arg又はGly以外のアミノ酸置換を有する。
【0237】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3の405位は、Phe
、Arg又はGly以外のアミノ酸置換を有し、HC2 CH3の409位は、Lys、
Leu又はMet以外のアミノ酸置換を有する。
【0238】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にPheを
有し、409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は4
05位にPhe以外のアミノ酸を有し、409位にLysを有する。
【0239】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にPhe以
外のアミノ酸を有し、409位にLysを有し、HC2 CH3は405位にPheを有
し、409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有する。
【0240】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にPheを
有し、409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は4
05位にPhe、Arg又はGly以外の置換を有し、409位にLysを有する。
【0241】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にPhe、
Arg又はGly以外の置換を有し、409位にLysを有し、HC2 CH3は405
位にPheを有し、409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有する。
【0242】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にPheを
有し、409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は4
05位にLeuを有し、409位にLysを有する。
【0243】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にLeuを
有し、409位にLysを有し、HC2 CH3は405位にPheを有し、409位に
Lys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有する。
【0244】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にPheを
有し、409位にaArgを有し、HC2 CH3は405位にPhe、Arg又はGl
y以外のアミノ酸を有し、409位にLysを有する。
【0245】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にPhe、
Arg又はGly以外のアミノ酸を有し、409位にLysを有し、HC2 CH3は4
05位にPheを有し、409位にArgを有する。
【0246】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にPheを
有し、409位にArgを有し、HC2 CH3は405位にLeuを有し、409位に
Lysを有する。
【0247】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にLeuを
有し、409位にLysを有し、HC2 CH3は405位にPheを有し、409位に
Argを有する。
【0248】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にPheを
有し、409位にLysを有し、HC2 CH3は405位にLeuを有し、409位に
aArgを有する。
【0249】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は405位にLeuを
有し、409位にaArgを有し、HC2 CH3は405位にPheを有し、409位
にLysを有する。
【0250】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にLys、
Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は409位にLysを、370
位にThrを、405位にLeuを有する。
【0251】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にLysを
、370位にThrを、405位にLeuを有し、HC2 CH3は409位にLys、
Leu又はMet以外のアミノ酸を有する。
【0252】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にArgを
有し、HC2 CH3は409位にLysを、370位にThrを、405位にLeuを
有する。
【0253】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にLysを
、370位にThrを、405位にLeuを有し、HC2 CH3は409位にArgを
有する。
【0254】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は370位にLysを
、405位にPheを、409位にaArgを有し、HC2 CH3は409位にLys
を、370位にThrを、405位にLeuを有する。
【0255】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にLysを
、370位にThrを、405位にLeuを有し、HC2 CH3は370位にLysを
、405位にPheを、409位にArgを有する。
【0256】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にLys、
Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は407位にTyr、Asp、
Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、Ser又はThr以外のアミノ酸を有する。
【0257】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にTyr、
Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、Ser又はThr以外のアミノ酸を
有し、HC2 CH3は409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有する。
【0258】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にLys、
Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は407位にAla、Gly、
His、Ile、Leu、Met、Asn、Val又はTrpを有する。
【0259】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にAla、
Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Val又はTrpを有し、HC2
CH3は409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有する。
【0260】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にLys、
Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は407位にGly、Leu、
Met、Asn又はTrpを有する。
【0261】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にGly、
Leu、Met、Asn又はTrpを有し、HC2 CH3は409位にLys、Leu
又はMet以外のアミノ酸を有する。
【0262】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にTyrを
、409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は409
位にTyr、Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、Ser又はThr以外
のアミノ酸を有する。
【0263】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にTyr、
Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、Ser又はThr以外のアミノ酸を
、409位にLysを有し、HC2 CH3は407位にTyrを、409位にLys、
Leu又はMet以外のアミノ酸を有する。
【0264】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にTyrを
、409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は407
位にAla、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Val又はTrpを、
409位にLysを有する。
【0265】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にAla、
Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Val又はTrpを、409位にL
ysを有し、HC2 CH3は、407位にTyrを、409位にLys、Leu又はM
et以外のアミノ酸を有する。
【0266】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にTyrを
、409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は407
位にGly、Leu、Met、Asn又はTrpを、409位にLysを有する。
【0267】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にGly、
Leu、Met、Asn又はTrpを、409位にLysを有し、HC2 CH3は40
7位にTyrを、409位にLys、Leu又はMet以外のアミノ酸を有する。
【0268】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にTyrを
、409位にArgを有し、HC2 CH3は407位にTyr、Asp、Glu、Ph
e、Lys、Gln、Arg、Ser又はThr以外のアミノ酸を、409位にLysを
有する。
【0269】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にTyr、
Asp、Glu、Phe、Lys、Gln、Arg、Ser又はThr以外のアミノ酸を
、409位にLysを有し、HC2 CH3は407位にTyrを、409位にArgを
有する。
【0270】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にTyrを
、409位にArgを有し、HC2 CH3は407位にAla、Gly、His、Il
e、Leu、Met、Asn、Val又はTrpを、409位にLysを有する。
【0271】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にAla、
Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Val又はTrpを、409位にL
ysを有し、HC2 CH3は407位にTyrを、409位にArgを有する。
【0272】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にTyrを
、409位にArgを有し、HC2 CH3は407位にGly、Leu、Met、As
n又はTrpを、409位にLysを有する。
【0273】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は407位にGly、
Leu、Met、Asn又はTrpを、409位にLysを有し、HC2 CH3は40
7位にTyrを、409位にArgを有する。
【0274】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にLys、
Leu又はMet以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は(i)368位にPhe、L
eu若しくはMet以外のアミノ酸を有するか、又は(ii)370位にTrpを有する
か、又は(iii)399位にAsp、Cys、Pro、Glu若しくはGln以外のア
ミノ酸を有する。
【0275】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は(i)368位にP
he、Leu若しくはMet以外のアミノ酸を有するか、又は(ii)370位にTrp
を有するか、又は(iii)399位にAsp、Cys、Pro、Glu若しくはGln
以外のアミノ酸を有し、HC2 CH3は409位にLys、Leu若しくはMet以外
のアミノ酸を有する。
【0276】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にArg、
Ala、His若しくはGlyを有し、HC2 CH3は(i)368位にLys、Gl
n、Ala、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Asn、Arg、Ser、Th
r、Val若しくはTrpを有するか、又は(ii)370位にTrpを有するか、又は
(iii)399位にAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Th
r、Trp、Phe、His、Lys、Arg若しくはTyrを有する。
【0277】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は(i)368位にL
ys、Gln、Ala、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Asn、Arg、S
er、Thr、Val若しくはTrpを有するか、又は(ii)370位にTrpを有す
るか、又は(iii)399位にAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、S
er、Thr、Trp、Phe、His、Lys、Arg若しくはTyrを有し、HC2
CH3は409位にArg、Ala、His若しくはGlyを有する。
【0278】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は409位にArgを
有し、HC2 CH3は(i)368位にAsp、Glu、Gly、Asn、Arg、S
er、Thr、Val若しくはTrpを有するか、又は(ii)370位にTrpを有す
るか、又は(iii)399位にPhe、His、Lys、Arg若しくはTyrを有す
る。
【0279】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3は(i)368位にA
sp、Glu、Gly、Asn、Arg、Ser、Thr、Val若しくはTrpを有す
るか、又は(ii)370位にTrpを有するか、又は(iii)399位にPhe、H
is、Lys、Arg若しくはTyrを有し、HC2 CH3は409位にArgを有す
る。
【0280】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、残基の番号付けがEUインデックスに
基づいたものである場合、HC1 CH3はK409Rの置換又はF405Lの置換を含
み、HC2 CH3はK409Rの置換又はF405Lの置換を含む。
【0281】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、HC1 CH3はF405Lの置換を
含み、HC2 CH3はK409Rの置換を含む。
【0282】
置換は、標準的な方法を用いて抗体の定常ドメインのような分子に対して通常はDNA
レベルで行われる。
【0283】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、VH1及びVL1を含み、
前記VH1は、それぞれ配列番号210、211及び212の重鎖相補性決定領域(H
CDR)1(HCDR1)、HCDR 2(HCDR2)及びHCDR 3(HCDR3
)アミノ酸配列を含み、
前記VL1は、それぞれ配列番号213、214及び215の軽鎖相補性決定領域(L
CDR)1(LCDR1)、LCDR 2(LCDR2)及びLCDR 3(LCDR3
)アミノ酸配列を含む。
【0284】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、VH2及びVL2を含み、
前記VH2は、それぞれ配列番号216、217及び218のHCDR1、HCDR2
及びHCDR3のアミノ酸配列を含み、
前記VL2は、それぞれ配列番号219、220及び221のLCDR1、LCDR2
及びLCDR3のアミノ酸配列を含む。
【0285】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、それぞれ配列番号189、190、193及び194のVH1、VL1、VH2及び
VL2のアミノ酸配列を含む。
【0286】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、それぞれ配列番号199、200、201及び202のHC1、LC1、HC2及び
LC2のアミノ酸配列を含み、HC1、HC2、又はHC1及びHC2の両方からC末端
のリシンが任意に除去されていてもよい。
【0287】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、VH1及びVL1を含み、
前記VH1は、それぞれ配列番号222、223及び224のHCDR1、HCDR2
及びHCDR3のアミノ酸配列を含み、
前記VL1は、それぞれ配列番号225、226及び227のLCDR1、LCDR2
及びLCDR3のアミノ酸配列を含む。
【0288】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、VH2及びVL2を含み、
前記VH2は、それぞれ配列番号228、229及び230のHCDR1、HCDR2
及びHCDR3のアミノ酸配列を含み、
前記VL2は、それぞれ配列番号231、232及び233のLCDR1、LCDR2
及びLCDR3のアミノ酸配列を含む。
【0289】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、それぞれ配列番号191、192、195及び196のVH1、VL1、VH2及び
VL2のアミノ酸配列を含む。
【0290】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、それぞれ配列番号234、235、236及び237のHC1、LC1、HC2及び
LC2のアミノ酸配列を含み、HC1、HC2、又はHC1及びHC2の両方からC末端
のリシンが任意に除去されていてもよい。
【0291】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、プレート上にコーティングされ且つ本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体の
存在下又は非存在下でインキュベートされた組換えヒトEGFR又は組換えヒトc-Me
t細胞外ドメインを用いた競合アッセイにおいて、EGFRに対するEGFの結合及びc
-Metに対するHGFの結合を、約1×10-8M未満、約1×10-9M未満、約1×1
-10M未満、約1×10-11M未満、又は約1×10-12M未満のIC50値でブロックす
ることができる。本明細書に述べられる二重特異性EGFR/c-Met抗体は、同じア
ッセイ条件を用いた本明細書に述べられる本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体
の非存在下におけるEGFRに対するEGFの結合及びc-Metに対するHGFの結合
と比較した場合に、EGFRに対するEGFの結合及びc-Metに対するHGFの結合
を、少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、7
0%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、9
6%、97%、98%、99%又は100%ブロックすることができる。
【0292】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
は、HC1、LC1、HC2及びLC2を含み、前記HC1、前記LC1、前記HC2及
び前記LC2は、それぞれ配列番号205、206、207及び208の配列を含む合成
ポリヌクレオチドによりコードされている。
【0293】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、CH3操作を用い、インビトロFa
bアーム交換を用いて抗体を生成するなど、本明細書に述べられる方法を用いて生成する
ことができる。代表的な二重特異性抗体は、2種類の一重特異性抗体から、75mMの2
-メルカプトエタノールアミン(2-MEA)の最終濃度を有するバッファ中でpH 7
.0~7.4のPBS中の約1~20mg/mLの各抗体を1:1のモル比で加え合わせ
、25~37℃で2~6時間インキュベートした後、透析、ダイアフィルトレーション、
タンジェンシャルフロー濾過、及びスピンセルフィルトレーション(spinned cell filtr
ation)により2-MEAを除去することによって、生成することができる。二重特異性
抗体の収率は、約80%超、約90%超、約91%、92%、93%、94%、95%、
96%、97%、98%又は99%超であり得る。
【0294】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態は、単離された二重特異性EGFR/c-M
et抗体を生成する方法であって、
配列番号199の2本の重鎖及び配列番号200の2本の軽鎖を含む単離された一重特
異性二価抗EGFR抗体と、配列番号201の2本の重鎖及び配列番号202の2本の軽
鎖を含む単離された一重特異性二価抗c-Met抗体と、を約1:1のモル比の混合物と
して加え合わせることと、
前記混合物中に還元剤を導入することと、
前記混合物を約90分~約6時間インキュベートすることと、
前記還元剤を除去することと、
配列番号199の第1の重鎖及び配列番号201の第2の重鎖、並びに配列番号200
の第1の軽鎖及び配列番号202の第2の軽鎖を含む二重特異性EGFR/c-Met抗
体を精製することと、を含み、配列番号199の前記第1の重鎖が配列番号200の前記
第1の軽鎖と対合してEGFRと特異的に結合する第1の結合ドメインを形成し、配列番
号201の前記第2の重鎖が配列番号202の前記第2の軽鎖と対合してc-Metと特
異的に結合する第2の結合ドメインを形成する、方法を提供する。
【0295】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、前記還元剤は2-メルカプトエタノー
ルアミン(2-MEA)である。
【0296】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、2-MEAは、約25mM~約75m
Mの濃度で存在する。
【0297】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、前記インキュベートする工程は、約2
5℃~約37℃の温度で行われる。
【0298】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態は、HC1、LC1、HC2及びLC2を含
む単離された二重特異性EGFR/c-Met抗体であって、前記HC1が配列番号19
9の配列を含み、前記LC1が配列番号200の配列を含み、前記HC2が配列番号20
1の配列を含み、前記LC2が配列番号202の配列を含み、前記HC1、前記LC1、
前記HC2及び/又は前記LC2が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11
、12、13、14又は15個の保存的アミノ酸置換を更に含む単離された二重特異性E
GFR/c-Met抗体を提供する。
【0299】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態は、前記HC1、前記LC1、前記HC2及
び前記LC2を含む単離された二重特異性EGFR/c-Met抗体であって、前記HC
1が配列番号234の配列を含み、前記LC1が配列番号235の配列を含み、前記HC
2が配列番号236の配列を含み、前記LC2が配列番号237の配列を含み、前記HC
1、前記LC1、前記HC2及び/又は前記LC2が、1、2、3、4、5、6、7、8
、9、10、11、12、13、14又は15個の保存的アミノ酸置換を更に含む単離さ
れた二重特異性EGFR/c-Met抗体を提供する。
【0300】
HC1、LC1、HC2及びLC2アミノ酸配列が本明細書に開示される抗体と大きく
異ならない二重特異性EGFR/c-Met抗体は、本発明の範囲に含まれる。一般的に
、これには、抗体の性質を不利に変化させることのない抗原結合部位又はフレームワーク
における同様の電荷、疎水性、立体化学的特性を有するアミノ酸による1以上の保存的ア
ミノ酸置換が含まれる。保存的置換は、例えば安定性又は親和性といった抗体の特性を向
上させるために行われてもよい。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、1
2、13、14、又は15個のアミノ酸置換を、例えばVH1、VL1、VH2及び/又
はVL2に行うことができる。例えば、「保存的アミノ酸置換」では、その位置のアミノ
酸残基の極性又は電荷にほとんど又はまったく影響しないように天然アミノ酸残基を非天
然残基と置換することを伴い得る。更に、アラニンスキャニング変異誘発についてこれま
でに述べられているように、ポリペプチド内の任意の天然残基をアラニンで置換すること
もできる(MacLennan et al.,Acta Physiol Scand
Suppl 643:55~67,1998;Sasaki et al.,Adv
Biophys 35:1~24,1998)。当業者であれば、所望のアミノ酸置換を
こうした置換が望ましい時点で決定することができる。例えば、アミノ酸置換を用いるこ
とによってその分子配列の重要な残基を特定したり、又は本明細書に述べられる分子の親
和性を増大若しくは減少させることができる。代表的な保存的アミノ酸置換については上
記に述べた。
【0301】
アミノ酸置換は、例えばPCR変異誘発(米国特許第4,683,195号)によって
行うことができる。例えばランダムコドン(NNK)又は非ランダムコドン、例えば11
種類のアミノ酸(Ala、Cys、Asp、Glu、Gly、Lys、Asn、Arg、
Ser、Tyr、Trp)をコードするDVKコドンを用い、所望の性質を有する変異体
についてライブラリをスクリーニングするなど、周知の方法を用いて変異体のライブラリ
を生成することができる。
【0302】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、抗体の定常領域にアミノ酸置換を行う
ことができる。例えば、周知のG1m17アロタイプ、G1m3アロタイプ若しくはG1
m1アロタイプ、又はこれらの組合わせなどの異なるIgG1のアロタイプを、本発明の
二重特異性EGFR/c-Met抗体に用いることができる。
【0303】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
の薬物動態学的特性を、抗体半減期を調節するFcドメインにおける置換によって向上さ
せることができる。本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR
/c-Met抗体は、HC1及び/又はHC2に置換M252Y/S254T/T256
Eを含み、ここで残基の番号付けは、EUインデックスに基づくものである。M252Y
/S254T/T256E置換は、抗体半減期を延ばすことが示されている(Dall'
Acqua et al.,J Biol Chem 281:23514~24,20
06)。
【0304】
Fc領域に保存的置換及び/又は更なる置換を有する二重特異性EGFR/c-Met
抗体を、本明細書に述べられる方法を用いてそれらの特性について試験する。
【0305】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
の免疫エフェクター特性を、当業者に既知の方法によるFcの修飾によって強化又は消失
させることができる。例えば、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性
細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貧食作用(ADCP)、細胞表面受容
体(例えば、B細胞受容体(BCR))のダウンレギュレーションなどのFcエフェクタ
ー機能を、これらの活性にあずかるFcの残基を修飾することによってもたらす及び/又
は制御することができる。
【0306】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」又は「ADCC」とは、Fc受容体(FcR)を発
現する非特異的な細胞傷害性細胞(例えばナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及び
マクロファージ)が、標的細胞に結合した抗体を認識した後、標的細胞の溶解を引き起こ
す細胞媒介反応のことを指す。
【0307】
ADCCを誘導するモノクローナル抗体の能力をそのオリゴ糖成分を操作することによ
って増進させることができる。ヒトIgG1又はIgG3はAsn297においてNーグ
リコシル化されており、大部分のグリカンは周知の二分枝型G0、G0F、G1、G1F
、G2又はG2Fのかたちとなっている。操作されていないCHO細胞によって産生され
る抗体は、通常、おおよそ少なくとも85%のグリカンフコース含量を有している。Fc
領域に結合された二分枝複合体型のオリゴ糖からコアとなるフコースを除去すると、抗原
結合性又はCDC活性を変化させることなく、高められたFcγRIIIaの結合力によ
り抗体のADCCが増強される。このようなmAbは、培養の浸透圧の調節(Konno
et al.,Cytotechnology 64(:249~65,2012)、
宿主細胞株として変異体CHO株Lec13の応用(Shields et al.,J
Biol Chem 277:26733~26740 2002)、宿主細胞株とし
て変異体CHO株EB66の応用(Olivier et al.,MAbs;2(4)
,2010;印刷物に先駆けたオンライン出版;PMID:20562582)、宿主細
胞株としてラットハイブリドーマ細胞株YB2/0の応用(Shinkawa et a
l.,J Biol Chem 278:3466~3473,2003)、α1,6-
フコシルトラスフェラーゼ(FUT8)遺伝子に対して特異的な小分子干渉RNAの導入
(Mori et al.,Biotechnol Bioeng 88:901~90
8,2004)、又はβ1,4-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII
とゴルジα-マンノシダーゼII又は強力なα-マンノシダーゼI阻害剤であるキフネン
シンとの同時発現(Ferrara et al.,J Biol Chem 281:
5032~5036,2006,Ferrara et al.,Biotechnol
Bioeng 93:851~861,2006;Xhou et al.,Biot
echnol Bioeng 99:652~65,2008)など、Fcオリゴ糖の二
分枝複合体型を有する比較的高度に脱フコシル化された抗体の効果的な発現につながるこ
とが報告されている異なる方法を用いて得ることが可能である。
【0308】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-Met抗体
によって誘発されるADCCも、抗体Fc内での特定の置換によって増強させることがで
きる。代表的な置換としては、例えば米国特許第6737056号に述べられるアミノ酸
の256、290、298、312、356、330、333、334、360、378
又は430位における置換がある(残基の番号付けはEUインデックスに基づく)。
【0309】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態では、本発明の二重特異性EGFR/c-M
et抗体は、約1%~約15%、例えば15%、14%、13%、12%、11%10%
、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%のフコース含量を有する
二分枝型グリカン構造を有する。いくつかの実施形態では、二重特異性EGFR/c-M
et抗体は、約50%、40%、45%、40%、35%、30%、25%。又は20%
のフコース含量を有するグリカン構造を有する。
【0310】
「フコース含量」とは、Asn297における糖鎖内のフコース単糖の量を意味する。
フコースの相対量は、すべての糖鎖構造に対するフコース含有構造の比率(%)である。
これらは、例えば、1)国際特許公開第WO2008/077546号に述べられるよう
にN-グリコシダーゼFで処理した試料(例えば、複合体、ハイブリッド、並びにオリゴ
及び高マンノース構造)のMALDI-TOFを使用する、2)Asn297グリカンの
酵素(enxymatic)による放出の後、誘導体化し、蛍光検出及び/又はHPLC-MS(
UPLC-MS)を用いてHPLC(UPLC)による検出/定量化を行う、3)第1及
び第2のGlcNAc単糖間で切断し、フコースを第1のGlcNAcに結合したままに
するEndo S又は他の酵素によるAsn297グリカンの処理を行うか又は行わない
天然型又は還元型mAbのインタクトタンパク質分析、4)mAbの酵素消化(例えばト
リプシン又はエンドペプチダーゼLys-C)による構成ペプチドへの消化の後、HPL
C-MS(UPLC-MS)による分離、検出及び定量化を行う、5)PNGase F
によるAsn297の特異的酵素脱グリコシル化によるmAbタンパク質からのmAbオ
リゴ糖の分離、などの多くの方法によって特性評価及び定量化を行うことができる。この
ようにして放出されたオリゴ糖は、フルオロフォアで標識し、様々な補足的方法によって
分離及び識別することが可能であるが、これらの方法は、マトリックス支援レーザー脱離
イオン化(MALDI)質量分析法による実験質量の理論質量との比較によるグリカン構
造の詳細な特性評価、イオン交換HPLC(GlycoSep C)によるシアリル化度
の測定、標準相HPLC(GlycoSep N)による親水度基準に基づいたオリゴ糖
体形態の分離及び定量化、並びに高性能キャピラリー電気泳動レーザー誘導蛍光法(HP
CE-LIF)によるオリゴ糖の分離及び定量化を可能とするものである。
【0311】
本出願で使用するところの「低フコース」又は「低フコース含量」とは、フコース含量
が約1%~15%である抗体のことを指す。
【0312】
本明細書で使用するところの「正常フコース」又は「正常フコース含量」とは、フコー
ス含量が約50%よりも高い、一般的に約80%よりも高い、又は85%よりも高い抗体
のことを指す。
【0313】
本発明のいくつかの実施形態は、本明細書に述べられる本発明の二重特異性EGFR/
c-Met結合抗体の重鎖及び軽鎖を、単離されたポリヌクレオチドとして、又は発現ベ
クターの一部として、又は直鎖状DNA配列の一部としてコードする合成核酸を提供する
ものであり、インビトロ転写/翻訳で使用される直鎖状DNA配列、組成物又はそれらの
指向性変異誘発物質の原核細胞、真核細胞若しくは繊維状ファージにおける発現、分泌及
び/若しくはディスプレイと適合するベクターが含まれる。
【0314】
本明細書のいくつかの実施形態は、配列番号205、206、207又は208のポリ
ヌクレオチド配列のポリヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する
【0315】
本発明のポリヌクレオチドは、自動ポリヌクレオチドシンセサイザでの固相ポリヌクレ
オチド合成などの化学合成により生成され、完全な一本鎖又は二本鎖分子として構築する
ことができる。あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、PCRの後に通常のクローニン
グを行うなどの他の方法によって生成することもできる。特定の既知の配列のポリヌクレ
オチドを生成する又は得るための技術は、当該技術分野では周知である。
【0316】
本発明のポリヌクレオチドは、プロモーター又はエンハンサー配列、イントロン、ポリ
アデニル化シグナル、RepA結合を促進するcis配列など、少なくとも1つの非コー
ド配列を含み得る。ポリヌクレオチド配列はまた、タンパク質の精製又は検出を促進する
ための、例えばヒスチジンタグ若しくはHAタグなどのマーカー又はタグ配列、シグナル
配列、RepA、Fc、又はpIX若しくはpIIIなどのバクテリオファージコートタ
ンパク質などの融合タンパク質パートナーをコードする更なるアミノ酸をコードする更な
る配列を含んでもよい。
【0317】
本明細書に述べられるいくつかのの実施形態は、本発明のポリヌクレオチドを含むベク
ターを提供する。こうしたベクターは、プラスミドベクター、ウイルスベクター、バキュ
ロウイルス発現ベクター、トランスポゾンに基づいたベクター、又は任意の手段によって
特定の生物又は遺伝子的バックグラウンドに本発明のポリヌクレオチドを導入するのに適
した他の任意のベクターであってよい。例えば、本発明の二重特異性抗体の重鎖及び軽鎖
をコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに挿入することができる。軽鎖及び重鎖は
、同じ又は異なる発現ベクターにクローニングすることができる。免疫グロブリン鎖をコ
ードするDNAセグメントを、免疫グロブリンポリペプチドを確実に発現させる発現ベク
ター内の制御配列に機能的に連結することができる。このような制御配列としては、シグ
ナル配列、プロモーター(例えば、天然に関連付けられた又は異種由来のプロモーター)
、エンハンサーエレメント、及び転写終結配列が挙げられ、抗体を発現させるために選択
される宿主細胞と適合するように選択することができる。ベクターが適当な宿主に組み込
まれると、宿主を、組み込まれた合成ポリヌクレオチドによってコードされたタンパク質
の高レベルの発現に適した条件下に維持することができる。
【0318】
好適な発現ベクターは一般的に、エピソームとして又は宿主染色体DNAの一部として
宿主生物内で複製可能である。一般的に、発現ベクターは、所望のDNA配列によって形
質転換された細胞の検出を可能とするためのアンピシリン耐性、ヒグロマイシン耐性、テ
トラサイクリン耐性、カナマイシン耐性、又はネオマイシン耐性などの選択マーカーを含
んでいる。
【0319】
本明細書に述べられるいくつかの実施形態は、本発明のベクターを含む宿主細胞を提供
する。「宿主細胞」なる用語は、ベクターが導入された細胞のことを指す。宿主細胞なる
用語は、特定の対象細胞のみでなく、こうした細胞の子孫も指すものであることが理解さ
れる。特定の修飾は変異又は環境的影響のために後続の世代に生じ得ることから、こうし
た子孫は親細胞とは同じではない可能性があるが、本明細書で使用するところの「宿主細
胞」なる用語の範囲にやはり含まれるものとする。このような宿主細胞は、真核細胞、原
核細胞、植物細胞又は古細菌細胞であることができる。
【0320】
代表的な真核細胞としては、哺乳動物、昆虫、鳥類又は他の動物由来のものが挙げられ
る。哺乳動物真核細胞としては、SP2/0(American Type Cultu
re Collection(ATCC),バージニア州マナッサ、CRL-1581)
、NS0(ECACC(European Collection of Cell C
ultures(ECACC),英国ウィルツシャー、サルスベリー,ECACC No
.85110503)、及びAg653(ATCC CRL-1580)マウス細胞株な
どのハイブリドーマ又はミエローマ細胞株などの不死化細胞株が挙げられる。代表的なヒ
トミエローマ細胞株としては、U266(ATTC CRL-TIB-196)がある。
その他の有用な細胞株としては、CHO-K1SV(Lonza Biologics、
メリーランド州ウォーカーズビル)、CHO-K1(ATCCCRL-61)、又はDG
44などのチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来するものが挙げられる。
【0321】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、二重特異性EG
FR/c-Met抗体、及びEGFR結合又はc-Met結合FN3ドメインの使用
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR結合F
N3ドメイン、c-Met結合FN3ドメイン、又は二重特異性EGFR/c-Met抗
体は、ヒトの疾患、又は細胞、組織、臓器、体液、若しくは広くは宿主における特定の病
理的状態を診断、監視、調節、治療、緩和し、その発病の予防の助けとなり、又はその症
状を軽減するために使用することができる。本発明の方法は、あらゆる分類に属する動物
患者を治療するのに使用することができる。このような動物の例としては、ヒト、齧歯類
、イヌ、ネコ、及び家畜などの哺乳動物が挙げられる。
【0322】
本発明の一態様は、EGFR及び/又はc-Metを発現する細胞の成長又は増殖を阻
害するための方法であって、細胞を、本発明の単離された二重特異性EGFR/c-Me
t FN3ドメイン含有分子、EGFR結合FN3ドメイン、c-Met結合FN3ドメ
イン、又は二重特異性EGFR/c-Met抗体と接触させることを含む方法である。
【0323】
本発明の別の態様は、対象におけるEGFR及び/又はc-Met発現腫瘍又は癌細胞
の成長又は転移を阻害するための方法であって、前記対象に、有効量の本発明の単離され
た二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR結合FN3ドメ
イン、c-Met結合FN3ドメイン、又は二重特異性EGFR/c-Met抗体を投与
して、EGFR及び/又はc-Met発現腫瘍又は癌細胞の成長又は転移を阻害すること
を含む方法である。
【0324】
本発明の別の態様は、癌を有する対象を治療する方法であって、癌を治療するのに十分
な期間にわたってその治療を必要とする患者に、治療上の有効量の本発明の単離された二
重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR結合FN3ドメイン
、c-Met結合FN3ドメイン、又は二重特異性EGFR/c-Met抗体を投与する
ことを含む方法である。
【0325】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR結合F
N3ドメイン、c-Met結合FN3ドメイン、又は二重特異性EGFR/c-Met抗
体は、EGFR、c-Met、EGF、可溶性EGFR、可溶性c-Met若しくはその
他のEGFRリガンド又はHGFの異常な活性化又は産生によって特徴付けられる任意の
疾患又は障害、あるいはEGFR、c-Met、EGF若しくは他のEGFRリガンド、
又はHGFの異常な活性化及び/又は産生が、前記疾患又は障害を有するか又はその素因
を有する対象の細胞又は組織において生じている悪性腫瘍又は癌が関与する場合も関与し
ない場合もあるEGFR又はc-Metの発現に関連した障害の治療に使用することがで
きる。
【0326】
本発明のc-Metと特異的に結合しc-Metに対するHGFの結合をブロックする
本発明のFN3ドメインは、癌及び良性腫瘍を含む腫瘍の治療に使用することができる。
本発明のc-Met結合FN3ドメインによる治療に適した癌としては、c-Metを過
剰発現するものが挙げられる。本発明のFN3ドメインによる治療に適した代表的な癌と
しては、上皮細胞癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、大腸直腸癌、肛門癌、前立腺癌、腎臓癌、膀
胱癌、頭頸部癌、胃癌、卵巣癌、膵臓癌、皮膚癌、口腔癌、食道癌、腟癌、子宮頸癌、脾
臓の癌、睾丸癌、及び胸腺の癌が挙げられる。
【0327】
EGFRと特異的に結合しEGFRに対するEGFの結合をブロックする本発明のFN
3ドメインは、癌及び良性腫瘍を含む腫瘍の治療に使用することができる。本発明のFN
3ドメインによる治療に適した癌としては、EGFR又はその変異体を過剰発現するもの
が挙げられる。本発明のFN3ドメインによる治療に適した代表的な癌としては、上皮細
胞癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、大腸直腸癌、肛門癌、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、頭頸部癌
、卵巣癌、膵臓癌、皮膚癌、口腔癌、食道癌、腟癌、子宮頸癌、脾臓の癌、睾丸癌、及び
胸腺の癌が挙げられる。本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有
分子又は二重特異性EGFR/c-Met抗体は、癌及び良性腫瘍を含む腫瘍の治療に使
用することができる。本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分
子又は二重特異性EGFR/c-Met抗体による治療に適した代表的な癌としては、E
GFR及び/又はc-Metを過剰発現するもの、EGFRの活性及び/又は発現レベル
の上昇(例えば、EGFRを活性化する変異、EGFR遺伝子の増幅、又はリガンド媒介
によるEGFR活性化など)並びにc-Metの活性及び/又は発現レベルの上昇(例え
ば、c-Metを活性化する変異、c-Met遺伝子の増幅、又はHGF媒介によるc-
Met活性化など)と関連した癌が挙げられる。
【0328】
癌と関連付けることができる代表的なEGFR活性化変異としては、チロシンキナーゼ
活性の上昇、受容体のホモ二量体及びヘテロ二量体の形成、リガンド結合の増強などのE
GFRの少なくとも1つの生物学的活性の増大につながる点変異、欠失変異、挿入変異、
逆位、又は遺伝子増幅が挙げられる。変異は、EGFR遺伝子又はEGFR遺伝子と関連
する調節領域の任意の部分に位置し得るものであり、エクソン18、19、20又は21
内の変異、及びキナーゼドメイン内の変異が含まれる。代表的なEGFR活性化変異とし
ては、G719A、L861X(Xは任意のアミノ酸)、L858R、E746K、L7
47S、E749Q、A750P、A755V、V765M、L858P、又はT790
Mの置換、E746~A750の欠失、R748~P753の欠失、M766とA767
との間のAlaの挿入、S768とV769との間のSVA(Ser,Val,Ala)
の挿入、及びP772とH773との間のNS(Asn,Ser)の挿入がある。EGF
R活性化変異の他の例も当該技術分野において知られている(例えば、米国特許出願公開
第US2005/0272083号を参照)。受容体のホモ及びヘテロ二量体、受容体リ
ガンド、自己リン酸化部位、及びErbB媒介シグナル伝達に関与するシグナル伝達分子
をはじめとするEGFR及び他のErbB受容体に関する情報は、当該技術分野では既知
である(例えば、Hynes and Lane,Nature Reviews Ca
ncer 5:341~354,2005を参照)。
【0329】
代表的なc-Met活性化変異としては、チロシンキナーゼ活性の上昇、受容体のホモ
二量体及びヘテロ二量体の形成、リガンド結合の増強などのc-Metタンパク質の少な
くとも1つの生物学的活性の増大につながる点変異、欠失変異、挿入変異、逆位、又は遺
伝子増幅が挙げられる。変異は、c-Metのキナーゼドメインにおける変異など、c-
Met遺伝子又はc-Met遺伝子と関連する調節領域の任意の部分に位置し得るもので
ある。代表的なc-Met活性化変異としては、N375、V13、V923、R175
、V136、L229、S323、R988、S1058/T1010及びE168位の
残基における変異がある。EGFR及びc-Metの変異を検出するための方法は周知で
ある。
【0330】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体などの本発明の二重特異性分子による治
療に適した代表的な癌としては、上皮細胞癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、非小細胞肺癌(NS
CLC)、肺腺癌、小細胞肺癌、大腸直腸癌、肛門癌、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、頭頸
部癌、咽頭癌、鼻の癌、膵臓癌、皮膚癌、口腔癌、舌癌、食道癌、腟癌、子宮頸癌、脾臓
の癌、睾丸癌、胃癌、胸腺の癌、結腸癌、甲状腺癌、肝臓癌(肝細胞癌(HCC))、又
は散発性若しくは遺伝性乳頭状腎細胞癌(PRCC)が挙げられる。
【0331】
本発明の別の態様は、癌を有する対象を治療する方法であって、治療上の有効量の本発
明の単離された二重特異性EGFR/c-Met抗体を、治療を要する患者に癌を治療す
るのに充分な期間にわたって投与することを含み、前記対象は、CD16の158位のフ
ェニルアラニンについて同型である(遺伝子型FcγRIIIa-158F/F)か、又
はCD16の158位のバリン及びフェニルアラニンについて異型である(遺伝子型Fc
γRIIIa-158F/V)方法である。CD16は、Fcγ受容体IIIa(Fcγ
RIIIa)又は低親和性免疫グロブリンγFc領域受容体III-Aアイソフォームと
しても知られる。FcγRIIIaタンパク質の158位の残基におけるバリン/フェニ
ルアラニン(V/F)多型は、ヒトIgGに対するFcγRIIIaの親和性に影響する
ことが示されている。FcγRIIIa-158F/F又はFcγRIIIa-158F
/Vの多型を有する受容体は、FcγRIIIa-158V/Vと比較してFcとの弱い
結合性、したがって低いADCCを示す。ヒトN結合オリゴ糖にフコースが存在しないか
又は低量である場合、ヒトFcγRIIIa(CD16)に対する抗体の結合が高められ
るために、ADCCを誘導する抗体の能力が高くなる(Shields et al.,
J Biol Chem 277:26733~40,2002)。本発明の抗体は、約
1%~約10%の低いフコース含量を有するものである。いくつかの実施形態では、二重
特異性EGFR/c-Met抗体は、フコース含量が約50%、40%、45%、40%
、35%、30%、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、
4%、3%、2%又は1%のグリカン構造を有する。したがって、本発明の抗体は、Fc
γRIIIa-158F/F又はFcγRIIIa-158F/Vの遺伝子型を有する患
者の治療においてより高い有効性を示し得る。通常の方法を用いてFcγRIIIaの多
型について患者を分析することができる。
【0332】
本明細書に述べられるいくつかの方法では、本発明の抗体は、1以上のEGFR阻害剤
による治療に対して耐性を有するか又は耐性を獲得した癌を有する対象を治療するのに使
用することができる。癌が耐性を獲得し得る代表的なEGFR阻害剤としては、抗EGF
R抗体であるセツキシマブ(Erbitux(登録商標))、パニツムマブ(Vecti
bix(登録商標))、マツズマブ、ニモツズマブ、小分子EGFR阻害剤であるTar
ceva(登録商標)(エルロチニブ)、IRESSA(ゲフィニチブ)、EKB-56
9(ペリチニブ、不可逆的EGFR TKI)、pan-ErbB及び他の受容体チロシ
ンキナーゼ阻害剤、ラパチニブ(EGFR及びHER2阻害剤)、ペリチニブ(EGFR
及びHER2阻害剤)、バンデタニブ(ZD6474、ZACTIMA(商標)、EGF
R、VEGFR2及びRET TKI)、PF00299804(ダコミチニブ、不可逆
的pan-ErbB TKI)、CI-1033(不可逆的pan-erbB TKI)
、アファチニブ(BIBW2992、不可逆的pan-ErbB TKI)、AV-41
2(二重EGFR及びErbB2阻害剤)、EXEL-7647(EGFR、ErbB2
、GEVGR及びEphB4阻害剤)、CO-1686(不可逆的変異体選択的EGFR
TKI)、AZD9291(不可逆的変異体選択的EGFR TKI)、並びにHKI
-272(ネラチニブ、不可逆的EGFR/ErbB2阻害剤)がある。本明細書に述べ
られる方法は、ゲフィニチブ、エルロチニブ、アファチニブ、CO-1686、AZD9
291及び/又はセツキシマブによる治療に対する耐性を有する癌の治療に使用すること
ができる。使用可能な代表的な抗体の1つにEM1-mAbがある。
【0333】
本発明の別の態様は、癌を有する対象を治療する方法であって、治療上の有効量の本発
明の二重特異性EGFR/c-Met抗体を、治療を要する患者に癌を治療するのに充分
な期間にわたって投与することを含み、前記対象が、エルロチニブ、ゲフィニチブ、アフ
ァチニブ、CO-1686、AZD9291又はセツキシマブによる治療に対する耐性を
有するか又は耐性を獲得している、方法である。
【0334】
様々な定性的及び/又は定量的方法を用いて、対象がEGFR阻害剤による治療に対す
る耐性を有するか、耐性を生じたか、又は耐性を生じやすいかを判定することができる。
EGFR阻害剤に対する耐性と関連付けることができる症状としては、例えば、患者の健
康状態の悪化又は停滞、腫瘍のサイズの増大、腫瘍の増殖の低下の停止又は遅滞、及び/
又は体内の1つの場所から他の臓器、組織若しくは細胞への癌性細胞の拡散が挙げられる
。食欲低下、認知機能障害、うつ、呼吸困難、疲労感、ホルモン障害、好中球減少、疼痛
、末梢神経障害、及び性機能障害などの、癌に関連した様々な症状の再発又は悪化もまた
、患者が、EGFR阻害剤に対する耐性を生じたか又は生じやすいことの指標となり得る
。癌に関連した症状は、癌のタイプに応じて異なり得る。例えば、子宮頸がんに関連した
症状としては、異常出血、異常に重いおりもの、正常な月経周期と関係のない骨盤痛、膀
胱痛又は排尿痛、及び性交、膣洗浄又は内診後の規則的な月経の間の出血を挙げることが
できる。肺癌に関連した症状としては、持続性咳嗽、喀血、息切れ、喘鳴をともなう胸痛
、食欲低下、意図的でない体重減少、及び疲労感を挙げることができる。肝臓癌の症状と
しては、食欲及び体重の低下、腹痛(特に右上腹部から背中及び肩にかけての)、悪心嘔
吐、一般的な衰弱及び疲労感、肝臓肥大、腹部膨満(腹水)、並びに皮膚及び白目の黄変
(黄疸)を挙げることができる。腫瘍学の当業者であれば、特定の癌のタイプに関連した
症状を直ちに特定することができる。
【0335】
対象がEGFR阻害剤に対する耐性を生じたかを判定するための他の手段としては、癌
細胞におけるEGFRリン酸化、ERK1/2リン酸化、及び/又はAKTリン酸化を調
べることが挙げられ、その場合、増大したリン酸化は、対象がEGFR阻害剤に対する耐
性を生じたか又は耐性を生じやすいことを示し得る。EGFR、ERK1/2及び/又は
AKTのリン酸化を測定する方法は周知であり、また本明細書に述べられる。EGFR阻
害剤に対する耐性を生じた対象を特定するには、例えば、循環中のHGFのレベルの増大
、c-Met遺伝子の活性化変異、又はc-Met遺伝子の増幅に起因するc-Met発
現レベルの上昇又はc-Met活性の上昇の検出を伴い得る。
【0336】
本発明の別の実施形態は、EGFR活性化変異又はEGFR遺伝子の増幅を有するNS
CLC腫瘍又は腫瘍転移を有する患者のNSCLCを治療する方法であって、前記患者に
、治療上の有効量の本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体を投与することを含む
方法である。
【0337】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、扁平上皮細胞癌、腺癌、及び大細胞
癌を含む、非小細胞肺癌(NSCLC)を治療するために使用することができる。いくつ
かの実施形態では、NSCLCの細胞は上皮の表現型を有する。いくつかの実施形態では
、NSCLCは、1以上のEGFR阻害剤による治療に対する耐性を獲得している。
【0338】
NSCLCでは、EGFR遺伝子の特定の変異は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(
EGFR-TKI)に対する高い応答率(70~80%)を伴う。エクソン19の5個の
アミノ酸の欠失又はEGFRの点変異L858Rは、EGFRーTKI感受性と関連して
いる(Nakata and Gotoh,Expert Opin Ther Tar
gets 16:771~781,2012)。これらの変異は、EGFRキナーゼ活性
のリガンド非依存性活性化を生じる。EGFR活性化変異は、NSCLC患者の10~3
0%において生じ、東アジア人、女性、喫煙未経験者、及び腺癌の組織学的所見を有する
患者において有意に多く見られる(Janne and Johnson Clin C
ancer Res 12(14 Suppl):4416s~4420s,2006)
。EGFR遺伝子の増幅もまた、EGFR-TKIによる治療後の反応と強く相関してい
る(Cappuzzo et al.,J Natl Cancer Inst 97:
643~55,2005)。
【0339】
EGFR変異を有するNSCLC患者の大半が、EGFR TKI治療に初期には反応
するものの、事実上すべての患者が耐性を獲得し、持続的な反応が妨げられる。50~6
0%の患者が、EGFRのキナーゼドメインの第2の部位の点変異(T790M)によっ
て耐性を獲得する。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性を獲得した全腫瘍の約
60%で、c-Met発現の増大、c-Met遺伝子の増幅、又はその唯一知られるリガ
ンドであるHGFの増大が見られる(Turke et al.,Cancer Cel
l,17:77~88,2010)。
【0340】
本発明の別の実施形態は、癌を有する患者を治療する方法であって、治療上の有効量の
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体を、治療を要する患者に癌を治療するのに
充分な時間にわたって投与することを含み、前記癌が、EGFR活性化変異、EGFR遺
伝子の増幅、循環中のHGFのレベルの増大、c-Met活性化変異、c-Met遺伝子
の増幅、又は変異体KRASに関連している、方法である。
【0341】
特定の実施形態では、EGFR活性化変異は、G719A、G719X(Xは任意のア
ミノ酸)、L861X(Xは任意のアミノ酸)、L858R、E746K、L747S、
E749Q、A750P、A755V、V765M、L858P又はT790Mの置換、
E746~A750の欠失、R748~P753の欠失、M766とA767との間のA
la(A)の挿入、S768とV769との間のSer、Val及びAla(SVA)の
挿入、並びにP772とH773との間のAsn及びSer(NS)の挿入である。
【0342】
本発明の別の実施形態は、癌を有する患者を治療する方法であって、治療上の有効量の
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体を、治療を要する患者に癌を治療するのに
充分な時間にわたって投与することを含み、前記癌が、EGFR変異L858R、T79
0M、又は残基E746~A750の欠失(del(E746,A750))、EGFR
増幅、又はc-Met増幅に関連している、方法である。
【0343】
いくつかの実施形態では、癌は、野生型EGFR及び野生型c-Metに関連している
【0344】
いくつかの実施形態では、癌は、野生型EGFR及びc-Metの増幅に関連している
【0345】
いくつかの実施形態では、癌は、EGFR L858R及びT790M変異及び野生型
c-Metに関連している。
【0346】
いくつかの実施形態では、癌は、EGFR欠失del(E764,A750)及び野生
型c-Metに関連している。
【0347】
いくつかの実施形態では、癌は、EGFR欠失del(E764,A750)及びc-
Met増幅に関連している。
【0348】
いくつかの実施形態では、癌は、EGFR欠失del(E764,A750)、EGF
R増幅、及びc-Met増幅に関連している。
【0349】
いくつかの実施形態では、患者は、EGFR L858R及びT790M変異、並びに
野生型c-Metに関連したNSCLCを有する。
【0350】
いくつかの実施形態では、患者は、EGFR増幅及び野生型c-Metに関連したNS
CLCを有する。
【0351】
いくつかの実施形態では、患者は、EGFR増幅及びc-Met増幅に関連したNSC
LCを有する。
【0352】
いくつかの実施形態では、患者は、EGFR欠失del(E764,A750)及び野
生型c-Metに関連したNSCLCを有する。
【0353】
いくつかの実施形態では、患者は、EGFR欠失del(E764,A750)及びc
-Met増幅に関連したNSCLCを有する。
【0354】
いくつかの実施形態では、本発明のEM1-mAbにより治療される。本発明のEM1
-mAbは、腫瘍が、L858R、T790M、del(E746,A750)EGFR
、EGFR増幅、野生型c-Met、及び/又はc-Met増幅に関連している場合に、
インビボ腫瘍動物モデルにおいて有効性を示す。EGFR又はc-Metの増幅は、例え
ばサザンブロッティング、FISH、又は比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)
によってEGFR又はc-Met遺伝子のコピー数を決定するなどの標準的な方法によっ
て評価することができる。
【0355】
本発明の別の実施形態は、癌を有する患者を治療する方法であって、本発明の二重特異
性EGFR/c-Met抗体の治療上の有効量を、治療を要する患者に癌を治療するのに
充分な時間にわたって投与することを含み、前記癌が、EGFR変異L858R、T79
0M、又は残基E746~A750の欠失(del(E746,A750))、EGFR
増幅、又はc-Met増幅、及び変異体KRASに関連している、方法である。
【0356】
いくつかの実施形態では、変異体KRASはG12V置換を有する。KRASは、グア
ノシントリホスファターゼ(GTPases)をコードするRAS癌原遺伝子のファミリ
ーに属し、受容体の下流のEGFRシグナルトランスダクションを媒介する。したがって
、活性化G12V又はG12C変異などの癌原遺伝子KRAS変異のある腫瘍は、EGF
R抗体によって治療可能ではないことが予測される。抗EGFR抗体であるセツキシマブ
及びパニツムマブによる臨床試験により、KRAS変異を有する結腸直腸腫瘍を有する患
者はこれらの薬剤には応答しないことが示されている(Van Cutsem et a
l.,N Eng J Med 360:1408~1417,2009;Lievre
et al.,J Clin Oncol 26:374~379,2008;Ama
do et al.,J Clin Oncol 26:1626~1634m 200
8)。本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、効果的なADCCによりKRA
S変異体細胞株の殺滅を媒介するため、現在用いられている抗EGFR治療薬とは異なり
、KRAS活性化変異に関連した癌を有する患者の治療において有効であると考えられる
。このような抗体の代表的なものにEM1-mAbがある。
【0357】
「治療する」又は「治療」なる用語は、治療的処置又は予防的又は防止的措置の両方を
指し、その目的は、癌の発生又は拡散といった望ましくない生理学的変化又は疾患を予防
するか又は遅らせる(軽減する)ことである。本発明の目的において、有益又は望ましい
臨床結果としては、これらに限定されるものではないが、検出可能か検出不能であるかに
かかわらず、症状の緩和、疾患の程度の軽減、疾患の安定した(すなわち悪化していない
)状態、疾患の進行の遅延又は遅滞、病状の緩和又は軽減、及び寛解(部分的又は完全)
が挙げられる。「治療」は、治療を受けない場合に予測される生存期間と比較して延長さ
れた生存期間も意味し得る。治療を要する患者には、状態若しくは疾患を既に有している
者ばかりでなく、状態若しくは疾患を有する可能性の高い者、又は状態若しくは疾患を予
防する必要のある者が含まれる。
【0358】
「治療上の有効量」とは、望ましい治療結果を達成するうえで必要な用量及び時間で効
果的な量のことを指す。本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体の治療上の有効量
は、その個人の病状、年齢、性別、及び体重、並びに本発明の二重特異性EGFR/c-
Met抗体がその個人において望ましい応答を生じさせる能力といった要因に応じて異な
り得る。耐性にともなって低下又は弱まらせることができる有効な二重特異性EGFR/
c-Met治療の代表的な指標としては、例えば、患者の健康状態の改善、腫瘍のサイズ
の減少又は縮小、腫瘍の増殖の停止又は遅滞、及び/あるいは体内の他の場所への癌細胞
の転移がないことなどが挙げられる。
【0359】
投与/医薬組成物
本発明は、本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体及び医薬的に許容される担体
を含む医薬組成物を提供する。治療用途では、本発明の二重特異性EGFR/c-Met
FN3ドメイン含有分子、EGFR結合FN3ドメイン、c-Met結合FN3ドメイン
、又は二重特異性EGFR/c-Met抗体は、有効量の前記ドメイン、分子、又は抗体
を、医薬的に許容される担体中に有効成分として含有する医薬組成物として調製すること
ができる。「担体」なる用語は、活性化合物とともに投与される希釈剤、補助剤、賦形剤
又は溶媒のことを指す。このような溶媒は、落花生油、大豆油、鉱物油、ゴマ油などの、
石油、動物、植物、又は合成物由来のものを含む水及び油などの液体であってよい。例え
ば0.4%生理食塩水及び0.3%グリシンを用いることができる。これらの溶液は無菌
であり、通常は粒子状物質を含まない。これらは、従来の周知の滅菌技術(例えば濾過)
によって滅菌することができる。組成物は、pH調節及び緩衝剤、安定化剤、増粘剤、潤
滑剤及び着色剤など、生理学的条件に近づけるために必要な医薬的に許容される補助物質
を含んでよい。こうした医薬製剤中の本発明の分子又は抗体の濃度は、約0.5重量%未
満~通常少なくとも約1重量%、最大で15又は20重量%と大きく異なり得るものであ
り、選択された特定の投与方法にしたがって、必要な用量、流体体積、粘度などに主に基
づいて選択される。好適な溶媒及び製剤(他のヒトタンパク質、例えば、ヒト血清アルブ
ミンを含む)については、例えば、Remington:The Science an
d Practice of Pharmacy,21stEdition,Troy,D
.B.ed.,Lipincott Williams and Wilkins,Ph
iladelphia,PA 2006,Part 5,Pharmaceutical
Manufacturing pp 691~1092(特にpp.958~989を
参照)に述べられている。
【0360】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR結合F
N3ドメイン、c-Met結合FN3ドメイン、又は二重特異性EGFR/c-Met抗
体の治療用途での投与方法は、錠剤、カプセル、溶液、粉末、ゲル、粒子として、注射器
、移植式装置、浸透圧ポンプ、カートリッジ、マイクロポンプ、又は当該技術分野では周
知の、当業者により認識される他の手段に入れられた製剤を用いる、非経口的投与、例え
ば皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内又は皮下、肺、経粘膜(経口、鼻腔内、膣内、直腸)な
どの、薬剤を宿主に送達する任意の好適な経路であってよい。部位特異的投与は、例えば
、関節内、気管支内、腹内、関節包内、軟骨内、洞内、腔内、小脳内、脳室内、結腸内、
頚管内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内
、直腸内、腎臓内、網膜内、脊髄内、滑液嚢内、胸郭内、子宮内、血管内、膀胱内、病巣
内、膣内、直腸、口腔内、舌下、鼻腔内、又は経皮による送達によって実現することがで
きる。
【0361】
したがって、筋肉内注射用の本発明の医薬組成物は、1ml滅菌緩衝水、及び約1ng
~約100mg/kg、例えば約50ng~約30mg/kg、又はより好ましくは約5
mg~約25mg/kgの本発明の二重特異性EGFR/c-MetFN3ドメイン含有
分子、EGFR結合FN3ドメイン又はc-Met結合FN3ドメインを含有するように
調製することができる。
【0362】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、例えば、静脈内(IV)注入又はボ
ーラス注射による非経口投与、筋肉内投与又は皮下投与又は腹腔内投与などの任意の好適
な経路によって患者に投与することができる。IV注入は、最短で15分間程度、多くの
場合は、30分間、60分間、90分間、又は更には2時間若しくは3時間にわたって投
与することができる。本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体は、疾患の部位(例
えば腫瘍自体)に直接注入することもできる。癌を有する患者に投与される用量は、治療
される疾患を軽減又は少なくとも部分的に停滞させるのに充分なものであり(治療上の有
効量)、しばしば体重1kg当たり0.1~10mg、例えば、1、2、3、4、5、6
、7、8、9又は10mg/kgであってよいが、これよりも高い、例えば15、20、
30、40、50、60、70、80、90又は100mg/kgであってもよい。例え
ば、50、100、200、500又は1000mgの固定された単位用量を投与しても
よく、あるいは用量を、例えば400、300、250、200又は100mg/m2
いったように患者の体表面積に基づいたものとしてもよい。通常、癌の治療には1~8回
の用量(例えば1、2、3、4、5、6、7又は8回)を投与することができるが、10
、12、20回、又はそれ以上の用量を投与してもよい。本発明の二重特異性EGFR/
c-Met抗体の投与は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週
間、1ヶ月、5週間、6週間、7週間、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月又はそ
れ以上の期間の後、繰り返すことができる。長期的投与と同様、反復治療計画も可能であ
る。反復投与は同じ用量又は異なる用量とすることができる。
【0363】
例えば、静脈内注入用の本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体を含む医薬組成
物を、80kgの患者への投与には、約200mlの無菌リンゲル液、及び約8mg~約
2400mg、約400mg~約1600mg、又は約400mg~約800mgの二重
特異性EGFR/c-Met抗体を含むように作製することができる。非経口投与可能な
組成物を調製するための方法は周知であり、例えば、Remington’s Phar
maceutical Science,15th ed.,Mack Publish
ing Company,Easton,PAにより詳しく述べられている。
【0364】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR結合F
N3ドメイン、c-Met結合FN3ドメイン、又は二重特異性EGFR/c-Met抗
体は、保存用に凍結乾燥し、使用に先立って適当な担体中で戻すことができる。この方法
は、従来のタンパク質調製において有効であることが示されており、周知の凍結乾燥及び
もどす方法を用いることができる。
【0365】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR結合F
N3ドメイン、c-Met結合FN3ドメイン、又は二重特異性EGFR/c-Met抗
体は、第2の治療薬と併用して同時、逐次、又は別々に投与することができる。第2の治
療薬は、化学療法薬又は標的抗癌治療薬とすることができる。
【0366】
二重特異性EGFR/c-Met抗体は、1以上の任意の化学療法薬又は当業者には周
知の他の抗癌治療薬と一緒に投与することができる。化学療法薬は癌の治療に有用な化学
化合物であり、増殖阻害剤又は他の細胞傷害剤を含み、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗微
小管阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、受容体チロシンキナーゼ阻害剤、血管新生阻害剤
などが挙げられる。化学療法薬の例としては、アルキル化剤、例えばチオテパ及びシクロ
ホスファミド(CYTOXAN(登録商標));アルキルスルホン酸塩、例えばブスルフ
ァン、インプロスルファン及びピポスルファン;アジリジン、例えばベンゾドーパ、カル
ボコン、メツレドーパ及びウレドーパ;エチレンイミン及びメチルアメラミン(アルトレ
タミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホ
ラミド及びトリメチロロメラミンを含む);ナイトロジェンマスタード、例えばクロラム
ブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、
メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビチン、フェネ
ステリン、プレドニムスチン、トロフォスファミド、ウラシルマスタード;ニトロウレア
、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン及び
ラニムスチン;抗生物質、例えばアクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイ
シン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリチェアミシン、カラビシン
、カルミノマイシン、カルチノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノル
ビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、
エピルビシン、エソルビシン、イダムビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコ
フェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ぺプロマイシン、ポトフィロマイシン
、ピューロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプト
ゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン及びゾルビシン;代謝拮抗剤、例え
ばメトトレキサート及び5-FU;葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキサート
、プテロプテリン及びトリメトレキセート;プリン類似体、例えばフルダラビン、6-メ
ルカプトプリン、チアミプリン及びチオグアニン;ピリミジン類似体、例えばアンシタビ
ン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン
、ドキシフルリジン、エノシタビン及びフロクスウリジン;アンドロゲン、例えばカルス
テロン、ドロモスタノロンプロピオナート、エピチオスタノール、ルネピチオスタン及び
テストラクトン;抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン及びトリロスタン;葉
酸補充剤、例えばフロリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレ
ブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート;デフォフ
ァミン;デメコルチン;ジアジコン;エルフォルニチン;酢酸エリプチニウム;エトグル
シド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミト
キサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビ
シン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSKR(登録商標)
;ラゾキサン;シゾフラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,
2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マン
ノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノ
シド(Ara-C);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド又はタキサンファミリ
ーのメンバー、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標))及びドセタキセル(T
AXOTERE(登録商標))並びにこれらの類似体;クロラムブシル;ゲムシタビン;
6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似体、例えばシスプラ
チン及びカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスフ
ァミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベル
ビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバン
ドロネート;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害薬RFS2000;ジフルオロメチル
オルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラミシン;カペシタビン;受容体チロシ
ンキナーゼ及び/又は血管新生の阻害剤(ソラフェニブ(NEXAVAR(登録商標))
、スニチニブ(SUTENT(登録商標))、パゾパニブ(VOTRIENT(商標))
、トセラニブ(PALLADIA(商標))、バンデタニブ(ZACTIMA(商標))
、セドリラニブ(RECENTIN(登録商標))、レゴラフェニブ(BAY73-45
06)、アキシチニブ(AG013736)、レスタウルチニブ(CEP-701)、エ
ルロチニブ(TARCEVA(登録商標))、ゲフィニチブ(IRESSA(商標))、
BIBW2992(TOVOK(商標))、ラパチニブ(TYKERB(登録商標))、
ネラチニブ(HKI-272)などを含む);並びに上記のいずれかの医薬的に許容され
る塩、酸、又は誘導体が挙げられる。やはりこの定義に含まれるものとして、例えばタモ
キシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害性4(5)-イミダゾール、4-ヒドロ
キシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリ
ストン及びトレミフェン(FARESTON(登録商標))などの抗エストロゲン剤;並
びにフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド及びゴセレリンなどの抗アン
ドロゲン剤;並びに上記のいずれかの医薬的に許容される塩、酸、又は誘導体などの、腫
瘍に対するホルモン作用を調節又は阻害するように作用する抗ホルモン剤がある。他の従
来の細胞傷害性化学化合物(Wiemann et al.,1985,Medical
Oncology(Calabresi et aL,eds.),Chapter
10,McMillan Publishingに開示されるものなど)も本発明の方法
に適用可能である。
【0367】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met FN3ドメイン含有分子、EGFR結合F
N3ドメイン、c-Met結合FN3ドメイン、又は二重特異性EGFR/c-Met抗
体と併用することが可能な代表的な薬剤としては、チロシンキナーゼ阻害剤及び標的抗癌
治療薬、例えばIressa(登録商標)(ゲフィニチブ)及びTarceva(エルロ
チニブ)、並びにHER2、HER3、HER4又はVEGFの他のアンタゴニストが挙
げられる。代表的なHER2アンタゴニストとしては、CP-724-714、HERC
EPTIN(商標)(トラスツズマブ)、OMNITARG(商標)(パーツズマブ)、
TAK-165、ラパチニブ(EGFR及びHER2阻害剤)、及びGW-282974
が挙げられる。代表的なHER3アンタゴニストとしては、抗Her3抗体が挙げられる
(例えば米国特許出願公開第2004/0197332号を参照)。代表的なHER4ア
ンタゴニストとしては、抗HER4siRNAが挙げられる(例えばMaatta et
al.,Mol Biol Cell 17:67~79,2006を参照)。代表的
なVEGFアンタゴニストにはベバシズマブ(Avastin(商標))がある。
【0368】
小分子が本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体と併用される場合には、二重特
異性EGFR/c-Met抗体は、通常はより高い頻度、好ましくは1日1回投与される
が、1日2、3、4回、又はこれよりも多い回数も可能であり、2日おき、毎週、又は他
の間隔も可能である。小分子薬剤は経口投与されることが多いが、例えばIV注入又はボ
ーラス注射又は皮下投与若しくは筋肉内投与による非経口投与も可能である。小分子薬剤
の用量は、通常10~1000mg、又は約100、150、200若しくは250mg
でよい。
【0369】
本発明の二重特異性EGFR/c-Met抗体が第2の治療薬と併用して投与される場
合、併用は任意の便宜のよい時間枠で行うことができる。例えば、二重特異性EGFR/
c-Met抗体及び第2の治療薬を同じ日に、更には同じ静脈内注入で患者に投与するこ
とができる。しかしながら、二重特異性EGFR/c-Met抗体及び第2の治療薬は、
1日ごとに交互に、又は1週ごとに交互に、2週ごとに交互に、又は1ヶ月ごとに交互に
、といった要領で投与することもできる。いくつかの方法では、2つの薬剤が治療される
患者の体内に検出可能な濃度で同時に存在する(例えば血清中に)ように、二重特異性E
GFR/c-Met抗体及び第2の治療薬は、時間的に充分に近くで投与される。いくつ
かの方法では、所定の時間にわたる多くの回数の投与からなる二重特異性EGFR/c-
Met抗体の全治療過程の後、又は前に、やはり多くの回数の投与からなる第2の治療薬
の治療過程が行われる。いくつかの方法では、2番目に投与される二重特異性EGFR/
c-Met抗体による治療は、患者が、最初に投与された第2の治療薬に対する耐性を有
するか又は耐性を生じた時点で開始される。患者は、二重特異性EGFR/c-Met抗
体及び第2の治療薬の一方又は両方による治療過程を1回のみ受けるか又は複数回の治療
過程を受けることができる。二重特異性EGFR/c-Met抗体の投与と第2の治療薬
の投与との間に、1、2、若しくは数日間又は数週間の回復期間を用いてもよい。第2の
治療薬について適当な治療レジメンが既に確立されている場合には、そのレジメンを本発
明の二重特異性EGFR/c-Met抗体と組み合わせて用いることができる。例えば、
Tarceva(登録商標)(エルロチニブ)は100mg又は150mgの丸剤として
1日1回服用され、Iressa(登録商標)(ゲフィチニブ)は250mgの錠剤とし
て1日1回服用される。
【0370】
任意に第2の治療薬と併用される二重特異性EGFR/c-Met抗体は、外部放射線
照射、強度変調放射線治療(IMRT)、並びにガンマナイフ、サイバーナイフ、Lin
ac及び組織内放射線(例えば移植放射性シード、GliaSiteバルーン)などの任
意の形態の放射線手術を含む任意の形態の放射線治療、並びに/又は手術とともに投与す
ることができる。放射線治療との併用は、頭頸部癌及び脳腫瘍に特に適切となり得る。
【0371】
以上、本発明を一般論として説明したが、本発明の実施形態を、特許請求の範囲を限定
するものとして解釈すべきではない以下の実施例に更に開示する。
【実施例0372】
実施例1テンコンライブラリの構築
テンコン(配列番号1)は、ヒトテネイシンCの15個のFN3ドメインのコンセンサ
ス配列より設計された免疫グロブリン様の骨格であるフィブロネクチンIII型(FN3
)ドメインである(Jacobs et al.,Protein Engineeri
ng,Design,and Selection,25:107~117,2012;
米国特許出願公開第2010/0216708号)。テンコンの結晶構造は、7個のβ鎖
を連結する6個の表面が露出したループを示している。これらのループ、又は各ループ内
の選択された残基をランダム化することによって、フィブロネクチンIII型(FN3)
ドメインのライブラリを構築し、これを用いて特定の標的と結合する新規の分子を選択す
ることができる。
【0373】
テンコン:
Lpapknlvvsevtedslrlswtapdaafdsfliqyqese
kvgeainltvpgsersydltglkpgteytvsiygvkgghr
snplsaeftt(配列番号1):
【0374】
TCL1ライブラリの構築
cisディスプレイシステム(Jacobs et al.,Protein Eng
ineering,Design,and Selection,25:107~117
,2012)とともに使用するために、テンコン(配列番号1)のFGループのみをラン
ダム化するように設計したライブラリ(TCL1)を構築した。このシステムでは、Ta
cプロモーター、テンコンライブラリのコード配列、RepAコード配列、cisエレメ
ント、及びoriエレメントの配列を組み込む一本鎖DNAが生成される。インビトロ転
写/翻訳系で発現させると、テンコン-RepA融合タンパク質が、それがコードされた
DNAとcisで結合された複合体が生成される。その後、後述するように、標的分子と
結合する複合体を単離し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅する。
【0375】
cisディスプレイとともに使用するためのTCL1ライブラリの構築は、PCRを連
続したラウンドで行って、最終的な直鎖状の二本鎖DNA分子を1/2ずつ生成すること
によって行った(5'フラグメントがプロモーター及びテンコン配列を含むのに対して、
3'フラグメントはRepA遺伝子並びにcis及びoriエレメントを含む)。これら
の1/2ずつを、制限消化によって合わせることによってコンストラクト全体を生成する
。このTCL1ライブラリは、テンコンのFGループKGGHRSN(配列番号86)の
みにランダムなアミノ酸を組み込むように設計した。このライブラリの構築にはNNSコ
ドンを使用して、FGループに20種類全てのアミノ酸及び1つの終止コドンの組み込み
が可能になった。このTCL1ライブラリは、それぞれが、多様性を更に高めるために異
なるランダム化されたFGループの長さ(7~12個の残基)を有する、6つの別個のサ
ブライブラリを含む。テンコンに基づくライブラリの設計を表2に示す。
【0376】
【表2】
*TAPDAAFD:配列番号1の残基22~28
**KGGHRSN:配列番号86
Xは、NNSコドンによってコードされている縮重アミノ酸を指す。
#は、本文で述べられる「設計によるアミノ酸の分布」を指す。
【0377】
TCL1ライブラリを構築するため、PCRの連続したラウンドを行ってTacプロモ
ーターを付加し、FGループに縮重性を組み入れ、最終的なアセンブリに必要な制限部位
を付加した。最初に、プロモーター配列とFGループのテンコン配列5'を含むDNA配
列を2段階でPCRにより生成した。完全なテンコン遺伝子配列に対応するDNAをPC
Rテンプレートとして、プライマーPOP2220(配列番号2)及びTC5'toFG
(配列番号3)とともに使用した。この反応で得られたPCR産物をテンプレートとして
、プライマー130mer(配列番号4)及びTC5'toFGとともにPCR増幅の次
のラウンドで使用して、5'及びプロモーター配列のテンコンへの付加を完了した。次に
、第1の段階で生成されたDNA産物を、順方向プライマーPOP2222(配列番号5
)及び縮重ヌクレオチドを含む逆方向プライマーTCF7(配列番号6)、TCF8(配
列番号7)、TCF9(配列番号8)、TCF10(配列番号9)、TCF11(配列番
号10)、又はTCF12(配列番号11)を用いて増幅することによってFGループに
多様性を導入した。PCRサイクルを最小の回数にとどめライブラリの多様性を最大とす
るために各サブライブラリについて、少なくとも8回の100μLのPCR反応を行った
。少なくとも5μgのこのPCR産物をゲル精製し、プライマーPOP2222(配列番
号5)及びPOP2234(配列番号12)とともに次のPCR段階で使用して、6xH
isタグ及びNotI制限部位をテンコン配列の3'末端に付加した。このPCR反応は
、わずか15回のPCRサイクル及び少なくとも500ngのテンプレートDNAを用い
て行った。得られたPCR産物をゲル精製し、NotI制限酵素で消化し、Qiagen
カラムにより精製した。
【0378】
ライブラリの3'フラグメントは、PspOMI制限部位、repA遺伝子のコード領
域、並びにcis及びoriエレメントなどのディスプレイ用エレメントを含む一定のD
NA配列である。このDNAフラグメントを含むプラスミド(pCR4Blunt)(I
nvitrogen)をM13順方向プライマー及びM13逆方向プライマーとともに使
用してPCR反応を行った。得られたPCR産物をPspOMIで一晩消化し、ゲル精製
した。ライブラリDNAの5'部分を、repA遺伝子を含む3'DNAにライゲーション
するために、2pmolの5'DNAを等モル量の3'repA DNAと、NotI及び
PspOMI酵素並びにT4リガーゼの存在下でライゲーションした。37℃で一晩ライ
ゲーションした後、ライゲーションされたDNAの少量をゲル泳動にかけてライゲーショ
ンの効率を確認した。ライゲーションしたライブラリ産物を12個のPCR増幅物に分割
し、POP2250(配列番号13)及びDidLigRev(配列番号14)のプライ
マーペアを用いて12サイクルのPCR反応を行った。TCL1ライブラリの各サブライ
ブラリのDNA収率は32~34μgの範囲であった。
【0379】
ライブラリの質を評価するため、少量の活性ライブラリをプライマーTcon5new
2(配列番号15)及びTcon6(配列番号16)で増幅し、リガーゼ非依存性クロー
ニングによって修飾pETベクターにクローニングした。このプラスミドDNAをBL2
1-GOLD(DE3)コンピテント細胞(Stratagene)に形質導入し、ラン
ダムに選択された96個のコロニーをT7プロモータープライマーを用いて配列決定した
。重複配列は認められなかった。全体で約70~85%のクローンが、フレームシフト変
異のない完全なプロモーター及びテンコンのコード配列を有していた。終止コドンを有す
るクローンを除外した機能配列の割合は、59%~80%であった。
【0380】
TCL2ライブラリの構築
テンコンのBCループ及びFGループの両方がランダム化され、各位置のアミノ酸の分
布が厳密に制御されたTCL2ライブラリを構築した。表3は、TCL2ライブラリの所
望のループ位置におけるアミノ酸の分布を示す。設計によるアミノ酸の分布には2つの目
的があった。最初に、テンコンの結晶構造分析に基づき、かつ/又はホモロジーモデリン
グから、テンコンの折り畳み及び安定性にとって構造的に重要であると予測される残基に
ライブラリーを偏らせた。例えば、29位は、この残基がテンコンの折り畳み構造の疎水
性コアに埋め込まれていることから、疎水性アミノ酸のサブセットのみに固定した。設計
の第2層は、アミノ酸の分布を、抗体の重鎖HCDR3に選択的に見られる残基の分布に
近づくように偏らせることによって、親和性の高いバインダーを効率的に生成することを
含んでいた(Birtalan et al.,J Mol Biol 377:151
8~28,2008;Olson et al.,Protein Sci 16:47
6~84,2007)。この目的のための表3の「設計による分布」とは、以下のような
分布を指す。すなわち、6%アラニン、6%アルギニン、3.9%アスパラギン、7.5
%アスパラギン酸、2.5%グルタミン酸、1.5%グルタミン、15%グリシン、2.
3%ヒスチジン、2.5%イソロイシン、5%ロイシン、1.5%リシン、2.5%フェ
ニルアラニン、4%プロリン、10%セリン、4.5%トレオニン、4%トリプトファン
、17.3%チロシン、及び4%バリン。この分布には、メチオニン、システイン、及び
終止コドンは含まれていない。
【0381】
【表3】
*残基の番号付けは、配列番号1のテンコン配列に基づく。
【0382】
TCL2ライブラリの5'フラグメントは、プロモーター、及びライブラリプール(S
loning Biotechnology)として化学合成されたテンコンのコード領
域(配列番号1)を含んでいた。このDNAのプールは、少なくとも1×1011種類の異
なるメンバーを含んでいた。フラグメントの末端において、RepAにライゲーションす
るためのBsaI制限部位を設計に組み込んだ。
【0383】
ライブラリの3'フラグメントは、6xHisタグ、repA遺伝子のコード領域、及
びcisエレメントを含むディスプレイ用のエレメントを含む一定のDNA配列であった
。DNAは、既存のDNAテンプレート(上記)及び/又はプライマーLS1008(配
列番号17)及びDidLigRev(配列番号14)を用いてPCR反応によって調製
した。完全なTCL2ライブラリを構築するため、全体で1μgのBsaI消化した5'
テンコンライブラリDNAを同じ酵素による制限消化によって調製した3.5μgの3'
フラグメントにライゲーションした。一晩ライゲーションさせた後、DNAをQuiag
enカラムにより精製し、260nmで吸光度を測定することによりDNAを定量した。
このリガンドライブラリ産物を、プライマーペアPOP2250(配列番号13)及びD
idLigRev(配列番号14)を用いて12サイクルのPCR反応により増幅した。
合計で、それぞれが50ngのライゲーションされたDNA産物をテンプレートとして含
む72回の反応を行った。TCL2の活性ライブラリDNAの全体の収率は、約100μ
gであった。活性ライブラリの少量を上記でTCL1について述べたようにサブクローニ
ングして配列決定した。重複配列は認められなかった。これらの配列の約80%が、フレ
ームシフト変異のない完全なプロモーター及びテンコンのコード配列を含んでいた。
【0384】
TCL14ライブラリの構築
上部(BC、DE、及びFG)及び下部(AB、CD、及びEF)ループ、例えば、F
N3ドメイン内の報告されている結合表面は、FN3構造の中心を形成するβ鎖によって
分離されている。ループのみによって形成される表面とは異なる形状を有するFN3ドメ
インの2つの「側面」上に存在する別の表面は、2本の逆平行β鎖、C及びFβ鎖、並び
にCD及びFGループによってFN3ドメインの一方の側面に形成され、本明細書ではC
-CD-F-FG表面と呼ぶ。
【0385】
テンコンの別の表面をランダム化したライブラリを、C及びF鎖の選択された表面露出
残基、並びに図1に示されるようなCD及びFGル-プの一部をランダム化することによ
って生成した。テンコン(配列番号1)と比較した場合に以下の置換、すなわちE11R
L17A、N46V、E86Iを有するテンコンの変異体であるテンコン27(配列番
号99)を使用してライブラリを生成した。このライブラリを構築するために使用した方
法の詳細な説明は、米国特許出願公開第US2013/0226834号に述べられてい
る。
【0386】
実施例2:EGFRと結合し、EGFの結合を阻害するフィブロネクチンIII型ドメ
インの選択
ライブラリのスクリーニング
cisディスプレイを用いて、TCL1及びTCL2ライブラリーからEGFR結合ド
メインを選択した。IgG1 Fcと融合されたEGFRの組換えヒト細胞外ドメイン(
R&D Systems)を標準的な方法を用いてビオチン化し、パンニングに使用した
(配列番号73の完全長EGFRの残基25~645)。インビトロ転写及び翻訳(IT
T)を行うために、2~6μgのライブラリDNAを、0.1mMの全アミノ酸、1×S
30プレミックス成分、及び30μLのS30エクストラクト(Promega)と、全
体量を100μLとして30℃でインキュベートした。1時間後、450μLのブロッキ
ング溶液(2%ウシ血清アルブミン、100μg/mLのニシン精子DNA、及び1mg
/mLヘパリンを添加したPBS(pH 7.4))を加え、反応物を氷上で15分間イ
ンキュベートした。ブロッキング溶液中で、組換えヒトEGF(R&D Systems
)をビオチン化した組換えEGFR-Fcと室温で1時間混合することによって、EGF
R-Fc:EGF複合体をEGFRとEGFとのモル比1:1及び10:1で構築した。
結合を行うために、500μLのブロックしたITT反応液を100μLのEGFR-F
c:EGF複合体と混合し、室温で1時間インキュベートした後、結合した複合体を磁気
ニュートラアビジン又はストレプトアビジンビーズ(Seradyne)によって沈降さ
せた。結合しなかったライブラリのメンバーはPBST及びPBSで連続して洗浄して除
去した。洗浄後、65℃に10分間加熱することによりDNAを結合した複合体から溶離
させ、PCRにより増幅し、更なるパンニングのラウンドを行うために制限消化及びライ
ゲーションによってRepAをコードしたDNAフラグメントに付加した。高親和性のバ
インダーを、各ラウンドにおける標的EGFR-Fcの濃度を200nMから50nMに
連続的に低下させ、洗浄のストリンジェンシーを上げることによって単離した。ラウンド
4及び5では、10倍モル過剰量の非ビオチン化EGFR-Fcの存在下、PBS中で一
晩洗浄することによって、結合しなかった又は弱く結合したFN3ドメインを除去した。
【0387】
パンニングの後、選択したFN3ドメインを、オリゴヌクレオチドTcon5new2
(配列番号15)及びTcon6(配列番号16)を用いてPCRにより増幅し、リガー
ゼ非依存性クローニング部位を含むように改変したpETベクターにサブクローニングし
、標準的な分子生物学の手法を用いてBL21-GOLD(DE3)(Stratage
ne)細胞に形質導入して大腸菌内で可溶性発現させた。精製及び検出を可能とするため
、C末端ポリヒスチジンタグをコードする遺伝子配列を各FC3ドメインに付加した。培
養物を37℃の1mLの96穴ブロック内で、100μg/mLカルベニシリンを添加し
た2YT培地中で0.6~0.8の光学密度にまで増殖させた後、IPTGを1mMまで
加え、その時点で温度を30℃まで下げた。約16時間後に遠心分離によって細胞を収穫
し、-20℃で凍結させた。各ペレットを、0.6mLのBugBuster(登録商標
)HT溶解バッファ(Novagen EMD Biosciences)中、室温で振
盪しながら45分間インキュベートすることによって、細胞溶解を行った。
【0388】
細胞上のEGFRと結合するFN3ドメインの選択
より生理学的な設定でEGFRと結合する異なるFN3ドメインの能力を評価するため
に、A431細胞と結合するFN3ドメインの能力を測定した。A431細胞(Amer
ican Type Culture Collection、カタログ番号CRL-1
555)は、EGFRを細胞1個当たり約2×106個の受容体で過剰発現する。細胞を
不透明な黒色96穴プレートに5,000個/ウェルで播種し、加湿した5% CO2
囲気中、37℃で一晩付着させた。FN3ドメインを発現している菌ライセートをFAC
S染色バッファ(Becton Dickinson)に1,000倍に希釈し、3重の
プレート内で室温で1時間インキュベートした。ライセートを除去し、細胞を150μL
/ウェルのFACS染色バッファで3回洗浄した。細胞を50μL/ウェルのFACS染
色バッファに1:100で希釈した抗ペンタHis-Alexa488抗体コンジュゲー
ト(Qiagen)と室温で20分間インキュベートした。細胞を150μL/ウェルの
FACS染色バッファで3回洗浄した後、ウェルを100μLのFACS染色バッファで
満たし、Acumen eX3リーダーを使用して488nmで蛍光を読み取った。FN
3ドメインを含む菌ライセートを、A431細胞と結合する能力についてスクリーニング
したところ(TCL1及びTCL2ライブラリについて1320の粗菌ライセート)、5
16の陽性クローンが識別され、結合はバックグラウンドシグナルと比較して10倍高か
った。TCL14ライブラリから得た300のライセートを結合についてスクリーニング
したところ、EGFRに結合する58個の固有のFN3ドメイン配列が得られた。
【0389】
細胞上のEGFRへのEGFの結合を阻害するFN3ドメインの選択
EGFRの結合の機序を更に特徴付けるため、EGFRとEGF競合的に結合する異な
る特定されたFN3ドメインのクローンの能力を、A431細胞を用いて測定し、A43
1結合アッセイスクリーニングと並行して行った。A431細胞を不透明な黒色96穴プ
レートに5,000個/ウェルで播種し、加湿した5% CO2雰囲気中、37℃で一晩
付着させた。細胞を3重のプレート内で50μL/ウェルの1:1,000に希釈した菌
ライセートと、室温で1時間インキュベートした。ビオチン化EGF(Invitrog
en、カタログ番号E-3477)を30ng/mLの最終濃度となるように各ウェルに
加え、室温で10分間インキュベートした。細胞を150μL/ウェルのFACS染色バ
ッファで3回洗浄した。細胞を50μL/ウェルのFACS染色バッファに1:100で
希釈したストレプトアビジン-フィコエリトリンコンジュゲート(Invitrogen
)と室温で20分間インキュベートした。細胞を150μL/ウェルのFACS染色バッ
ファで3回洗浄した後、各ウェルを100μLのFACS染色バッファで満たし、Acu
men eX3リーダーを使用して600nmで蛍光を読み取った。
【0390】
FN3ドメインを含む菌ライセートを、上記に述べたEGF競合アッセイでスクリーニ
ングした。TCL1及びTCL2ライブラリからの1320の粗菌ライセートをスクリー
ニングしたところ、EGFの結合を50%以上阻害した451の陽性クローンが得られた
【0391】
EGFRと結合する特定されたFN3ドメインの発現及び精製
Hisタグを有するFN3ドメインをHis MultiTrap(商標)HPプレー
ト(GE Healthcare)により清澄化した大腸菌ライセートから精製し、20
mMのリン酸ナトリウム、500mMの塩化ナトリウム、及び250mMのイミダゾール
を含むpH 7.4のバッファ中に溶出させた。精製された試料を、PBS(pH 7.
4)中に交換し、PD MultiTrap(商標)G-25プレート(GE Heal
thcare)を用いて分析を行った。
【0392】
サイズ排除クロマトグラフィー分析
サイズ排除クロマトグラフィーを用いてEGFRと結合するFN3ドメインの凝集状態
を測定した。精製した各FN3ドメインのアリコート(10μL)をSuperdex
75 5/150カラム(GE Healthcare)にPBS(pH 7.4)の移
動相中で0.3mL/分の流速で注入した。カラムからの溶出を280nmの吸光度でモ
ニターした。SECにより高度の凝集を示したFN3ドメインは更なる分析から除外した
【0393】
EGFR-Fcからの選択されたEGFR結合FN3ドメインの解離速度
高親和性のバインダーの選択を容易にするために、ProteOn XPR-36装置
(Bio-Rad)で選択したEGFR結合FN3ドメインをスクリーニングして、EG
FR-Fcとの結合における解離速度(koff)が遅いものを特定した。5μg/mLの
濃度のヤギ抗ヒトFcIgG(R&D systems)を、0.005% Tween
-20を含むPBS中、30μL/分の流速でチップ上の横方向の6つのリガンドチャネ
ルすべてに、アミンカップリング(pH 5.0)により直接固定化した。固定化密度の
平均は約1500反応単位(RU)であり、異なるチャネル間での変動は5%未満であっ
た。EGFR-Fcは、縦リガンド方向に約600 RUの密度にまで抗ヒトFc-Ig
G表面上に捕捉された。試験したすべてのFN3ドメインを1μMの濃度に正規化し、水
平方向のそれらの結合について試験した。スクリーニングのスループットを最大にするた
め、6つの分析物チャネルのすべてをFN3ドメインに使用した。解離フェーズを100
μL/分の流速で10分間モニターした。分析物と固定化されたIgG表面との非特異的
結合をモニターするための基準としてスポット間の結合シグナルを用い、すべての結合反
応から差し引いた。処理した結合データを1:1の単純なLangmuir結合モデルに
局所的にフィッティングすることによって、捕捉されたEGFR-Fcに対する各FN3
ドメインの結合についてkoffを抽出した。
【0394】
EGFにより刺激されるEGFRリン酸化の阻害
精製されたEGFR結合FN3ドメインを、単一の濃度でA431細胞においてEGF
によって刺激されるEGFRのリン酸化を阻害する能力について試験した。EGFRリン
酸化は、EGFRホスホ(Tyr1173)キット(Meso Scale Disco
very)を使用してモニターした。細胞を、透明な96穴の組織培養処理したプレート
(Nunc)に、10%ウシ胎児血清(FBS)(Gibco)とともにGlutaMA
X(商標)を含んだ100μL/ウェルのRPMI培地(Gibco)中、20,000
個/ウェルで播種し、加湿した5% CO2雰囲気中、37℃で一晩付着させた。培地を
完全に除去し、細胞を、加湿した5% CO2雰囲気中、37℃でFBSを含まない10
0μL/ウェルの培地中で一晩飢餓状態においた。次いで、細胞を、加湿した5% CO
2雰囲気中、37℃で1時間、濃度2μMのEGFR結合FN3ドメインを含む100μ
/ウェルの予め加温した(37℃)飢餓培地で処理した。コントロールは飢餓培地のみで
処理した。細胞を、100ng/mLの組換えヒトEGF(R&D Systems、カ
タログ番号236-EG)を含む100μ/ウェルの予め加温した(37℃)飢餓培地を
加え、静かに混合することによって刺激し、最終濃度50ng/mLのEGF及び1μM
のEGFR結合FN3結合ドメインとして、37℃、5% CO2中で15分間インキュ
ベートした。1組のコントロールウェルは、ネガティブコントロールとして刺激を行わな
かった。培地を完全に除去し、細胞を、製造者の指示に従って100μL/ウェルのCo
mplete Lysisバッファ(Meso Scale Discovery)によ
り、10分間、室温で振盪しながら溶解した。チロシン1173がリン酸化されたEGF
Rを測定するように構成されたアッセイプレート(Meso Scale Discov
ery)を、製造者の指示に従って、提供されたブロッキング溶液により、室温で1.5
~2時間ブロッキングした。次いで、プレートを200μL/ウェルの1×Tris W
ashバッファ(Meso Scale Discovery)で4回洗浄した。細胞ラ
イセートのアリコート(30μL/ウェル)をアッセイプレートに移し、それをプレート
シーリングフィルム(VWR)で覆い、室温で振盪しながら1時間インキュベートした。
アッセイプレートを200μL/2ウェルのTris Washバッファで4回洗浄した
後、25μLの氷冷したDetection Antibody Solution(M
eso Scale Discovery)を気泡が入らないように気をつけながら各ウ
ェルに加えた。プレートを室温で振盪しながら1時間インキュベートした後、200μL
/ウェルのTris Washバッファで4回洗浄した。150μL/ウェルのRead
バッファ(Meso Scale Discovery)を加え、製造者によりインスト
ールされたアッセイ固有の初期設定値を用いてSECTOR(登録商標)Imager
6000装置(Meso Scale Discovery)で読み取ることによってシ
グナルを検出した。EGFにより刺激されたポジティブコントロールのシグナルの阻害率
(%)を各EGFR結合ドメインについて計算した。
【0395】
EGFにより刺激されるEGFRのリン酸化の阻害を、TCL1及びTCL2ライブラ
リから得られた232個の特定されたクローンについて測定した。これらのクローンの2
2個は、濃度1μMでEGFRリン酸化を50%阻害した。発現量が低いか又はサイズ排
除クロマトグラフィーにより多量体であると判断されたクローンを除去した後、9つのク
ローンで更なる生物学的特性評価を行った。これらのクローンのBC及びFGループの配
列を表4に示す。9つの選択されたクローンのうち8つが、共通のFGループの配列(H
NVYKDTNMRGL;配列番号95)を有しており、複数のクローン間でBCループ
の配列に著しく類似した領域が認められた。
【0396】
【表4】
【0397】
実施例3:EGF結合を阻害するEGFR結合FN3ドメインの特性評価
大規模発現、精製、及びエンドトキシン除去
より多くの材料を詳しい特性評価に与えるため、表4に示されるFN3ドメインを量産
した。各EGFR結合FN3ドメイン変異体を含む一晩培養物を用いて、100μg/m
Lのアンピシリンを添加し、一晩培養物を1/80の希釈率で希釈した0.8LのTer
rificブロス培地を新鮮培地に接種し、37℃で振盪しながらインキュベートした。
600nmの光学密度が約1.2~1.5に達した時点でIPTGを最終濃度1mMにま
で添加することによって培養物を誘導し、温度を30℃にまで下げた。4時間後、細胞を
遠心分離によって回収し、細胞ペレットを必要なときまで-80℃で保存した。
【0398】
細胞を溶解するために、解凍したペレットを、25U/mLのBenzonase(登
録商標)(Sigma-Aldrich)及び1kU/mLのrLysozyme(商標
)(Novagen EMD Biosciences)を添加した1xBugBust
er(登録商標)に、ペレット1g当たり5mLのBugBuster(登録商標)の比
率で再懸濁した。溶解を室温で静かに攪拌しながら1時間進行させた後、4℃で50分間
、56,000Gで遠心分離した。上清を回収し、0.2μmのフィルターで濾過し、次
いでAKTAexplorer 100sクロマトグラフィーシステム(GE Heal
thcare)を使用して、Buffer A(50mM Tris-HCl、pH 7
.5、500mM NaCl、10mMイミダゾール)で予め平衡化した5mLのHis
TraFFカラムにロードしたカラムをカラム20個分の体積のBuffer Aで洗浄
し、更にカラム6個分の体積の16% Buffer B(50mM Tris-HCl
、pH 7.5、500mM NaCl、250mMイミダゾール)で洗浄した。FN3
ドメインをカラム10個分の体積の50%のBで溶出し、カラム6個分の体積にわたって
50~100%で勾配させたBを流した。FN3ドメインタンパク質を含む画分をプール
し、Millipore 10K MWCO濃縮器を使用して濃縮し、濾過してから、P
BSで予め平衡化したHiLoad(商標)16/60 Superdex(商標)75
カラム(GE Healthcare)にロードした。サイズ排除カラムから溶出するタ
ンパク質モノマーのピークを確保した。
【0399】
ActiClean Etox樹脂(Sterogene Bioseparatio
ns)によるバッチアプローチを用いてエンドトキシンを除去した。エンドトキシンの除
去に先立って、樹脂を1N NaOHで2時間、37℃で(又は4℃で一晩)前処理し、
pH指示紙で測定したときにpHが概ね7で安定するまでPBSでよく洗った。精製され
たタンパク質を0.2μmのフィルターで濾過した後、1mLの樹脂に対して10mLの
タンパク質の比率で1mLのEtox樹脂に加えた。エンドトキシンの樹脂への結合を、
静かに回転させながら室温で少なくとも2時間進行させた。500Gで2分間遠心分離し
て樹脂を除去し、タンパク質上清を確保した。EndoSafe(登録商標)-PTS(
商標)カートリッジを使用してエンドトキシンレベルを測定し、EndoSafe(登録
商標)-MCSリーダー(Charles River)で分析した。エンドトキシンレ
ベルが、最初のEtox処理後に5EU/mgよりも高かった場合、エンドトキシンレベ
ルが×5EU/mgに低下するまで上記の手順を繰り返した。エンドトキシンレベルが5
EU/mgよりも高く、Etoxによる2回の連続的な処理後に安定化した場合、タンパ
ク質が残留するエンドトキシンを除去するためのアニオン交換又は疎水性相互作用クロマ
トグラフィー条件が確立されたことになる。
【0400】
選択されたEGFR結合FN3ドメインのEGFR-Fcに対する親和性(EGFR-
Fc親和性)の測定
選択されたEGFR結合FN3ドメインの組換えEGFR細胞外ドメインに対する結合
親和性に関して、Proteon装置(BioRad)を使用し、表面プラズモン共鳴法
によって更に特性評価を行った。アッセイのセットアップ(チップ調製、EGFR-Fc
捕捉)は、解離速度分析について上記で述べたものと同様であった。選択されたEGFR
結合FN3ドメインを、1μMの濃度で横方向に3倍の連続希釈シリーズで試験した。ベ
ースラインの安定性をモニターするためにバッファ試料も注入した。各EGFR結合FN
3ドメインのすべての濃度における解離フェーズを、100μL/分の流速で30分間(
解離速度スクリーニングからのkoffが約10-2-1のものについて)、又は1時間(ko
ffが約10-3-1又はそれよりも遅いものについて)モニターした。2つの参照データの
セットを、反応データから差し引いた。すなわち、1)EGFR結合FN3ドメインと固
定化されたIgG表面との非特異的相互作用について補正するためのスポット間シグナル
、及び2)捕捉されたEGFR-Fc表面の経時的な解離によるベースライン変動を補正
するためのバッファチャネルシグナル。各FN3ドメインのすべての濃度における処理さ
れた結合データを、1:1の単純なLangmuir結合モデルに全体的にフィッティン
グすることによって、動力学(kon,koff)及び親和性(KD)定数の推定値を抽出した
。表5は、コンストラクトのそれぞれについて運動定数を示したものであり、親和性は2
00pM~9.6nMで変化している。
【0401】
選択されたEGFR結合FN3ドメインの細胞上のEGFRとの結合(「A431細胞
結合アッセイ」)
A431細胞を不透明な黒色96穴プレートに5,000個/ウェルで播種し、加湿し
た5% CO2雰囲気中、37℃で一晩付着させた。精製したEGFR結合FN3ドメイ
ン(1.5μM~30μM)を3重のプレート中で細胞(50μL中)に1時間、室温で
加えた。上清を除去し、細胞を150μL/ウェルのFACS染色バッファで3回洗浄し
た。細胞を50μL/ウェルのFACS染色バッファに1:100で希釈した抗ペンタH
is-Alexa488抗体コンジュゲート(Qiagen)と室温で20分間インキュ
ベートした。細胞を150μL/ウェルのFACS染色バッファで3回洗浄した後、ウェ
ルを100μLのFACS染色バッファで満たし、Acumen eX3リーダーを使用
して488nmで蛍光を読み取った。データをFN3ドメインのモル濃度の対数に対して
生の蛍光シグナルとしてプロットし、GraphPad Prism4(GraphPa
d Software)を使用して変化する傾きを有するS字状用量反応曲線にフィッテ
ィングしてEC50値を計算した。表5は、2.2nM~20μM超の範囲にわたるコンス
トラクトのそれぞれのEC50を示す。
【0402】
選択されたEGFR結合FN3ドメインを使用した細胞上のEGFRへのEGFの結合
の阻害(A431細胞EGF競合アッセイ)
A431細胞を不透明な黒色96穴プレートに5,000個/ウェルで播種し、加湿し
た5% CO2雰囲気中、37℃で一晩付着させた。精製したEGFR結合FN3ドメイ
ン(1.5μM~30μM)を3重のプレート中で細胞(50μL/ウェル)に1時間、
室温で加えた。ビオチン化EGF(Invitrogen,カタログ番号E-3477)
を各ウェルに30ng/mLの最終濃度となるように加え、室温で10分間インキュベー
トした。細胞を150μL/ウェルのFACS染色バッファで3回洗浄した。細胞を、F
ACS染色バッファに1:100で希釈した50μL/ウェルのストレプトアビジン-フ
ィコエリトリンコンジュゲート(Invitrogen)と室温で20分間インキュベー
トした。細胞を150μL/ウェルのFACS染色バッファで3回洗浄した後、ウェルを
100μLのFACS染色バッファで満たし、Acumen eX3リーダーを使用して
600nmで蛍光を読み取った。データをFN3ドメインのモル濃度の対数に対して生の
蛍光シグナルとしてプロットし、GraphPad Prism 4(GraphPad
Software)を使用して変化する傾きを有するS字状用量反応曲線にフィッティ
ングしてEC50値を計算した。表5は、1.8nM~121nMの範囲にわたるIC50
を示す。
【0403】
EGFにより刺激されるEGFRリン酸化の阻害(ホスホEGFRアッセイ)
EGFにより刺激されるEGFRリン酸化を顕著に阻害する選択されたFN3ドメイン
を、阻害のIC50値を測定することによってより完全に評価した。EGFにより刺激され
るEGFRリン酸化の阻害を、「EGFにより刺激されるEGFRリン酸化の阻害」にお
いて上述したように、異なるFN3ドメイン濃度(0.5nM~10μM)で評価した。
データをFN3ドメインのモル濃度の対数に対して電気化学発光シグナルとしてプロット
し、GraphPad Prism 4(GraphPad Software)を使用
して、変化する傾きを有するS字状用量反応にデータをフィッティングすることによりI
50値を求めた。表5は、18nM~2.5nM超の範囲にわたるIC50値を示す。
【0404】
ヒト腫瘍細胞増殖の阻害(NCI-H292増殖及びNCI-H322増殖アッセイ)
EGFR依存型細胞増殖の阻害を、EGFRを過剰発現するヒト腫瘍細胞株であるNC
I-H292及びNCI-H322(American Type Culture C
ollection、それぞれカタログ番号CRL-1848及びCRL-5806)の
、EGFR結合FN3ドメインへの曝露後の生存率を測定することによって評価した。細
胞を、不透明な白色の96穴の組織培養処理したプレート(Nunc)中、10%熱不活
化ウシ胎児血清(Gibco)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)
を添加した、GlutaMAX(商標)及び10mM HEPESを含む100μL/ウ
ェルのRPMI培地(Gibco)中に500細胞/ウェル(NCI-H292)又は1
,000細胞/ウェル(NCI-H322)で播種し、加湿した5% CO2雰囲気中、
37℃で一晩付着させた。細胞を、一定の濃度範囲のEGFR結合FN3ドメインを含む
5μL/ウェルのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えることにより処理した。コント
ロールは、5μL/ウェルのPBSのみ、又はPBS中25mMのエチレンジアミン四酢
酸で処理した。細胞を37℃、5% CO2で120時間インキュベートした。75μL
/ウェルのCellTiter-Glo(登録商標)試薬(Promega)を添加した
後、プレートシェーカー上で2分間混合し、室温で更に10分間、暗所でインキュベート
することによって生存細胞を検出した。プレートを、ルミネセンスモードに設定したSp
ectraMax M5プレートリーダー(Molecular Devices)で、
培地のみのブランクに対して0.5秒/ウェルの読み取り時間で読み取った。データを、
FN3ドメインのモル濃度の対数に対するPBS処理した細胞の増殖率(%)としてプロ
ットした。GraphPad Prism 4(GraphPad Software)
を使用して、変化する傾きを有するS字状用量反応の式にデータをフィッティングするこ
とにより、IC50値を求めた。表5は、それぞれNCI-H292及びNCI-H322
細胞を使用した場合の5.9nM~1.15μM及び9.2nM~3.1μM超の範囲に
わたるIC50値を示す。表5に、各アッセイにおけるEGFR結合FN3ドメインの生物
学的特性の概要を示す。
【0405】
【表5】
【0406】
実施例4:EGFR結合FN3ドメインの操作
EGFR結合FN3ドメインのサブセットを、各分子のコンフォメーション安定性を高
めるように操作した。FN3ドメインの安定性を高めることが示されている変異L17A
、N46V、及びE86I(米国特許出願第US2011/0274623号に述べられ
る)を、DNA合成によってクローンであるP54AR4-83、P54CR4-31、
及びP54AR4-37に組み込んだ。新たな変異体P54AR5-83v2、P54C
R431-v2、及びP54AR4-37v2を上述したようにして発現させ、精製した
。PBS中で示差走査熱量測定を用いて各変異体の安定性を評価することによって、それ
を対応する親分子の安定性と比較した。表6は、Tmの平均の増大が18.5℃と、各変
異体分子が顕著に安定化されたことを示している。
【0407】
【表6】
【0408】
実施例5:c-Metと結合し、HGF結合を阻害するフィブロネクチンIII型(F
N3)ドメインの選択
ヒトc-Metのパンニング
c-Metと特異的に結合することが可能なFN3ドメインを特定するために、TCL
14ライブラリを、ビオチン化したヒトc-Met細胞外ドメイン(bt-c-Met)
に対してスクリーニングした。選択を行うため、3μgのTCL14ライブラリを、大腸
菌S30 Linear Extract(Promega,ウィスコンシン州マディソ
ン)中でインビトロ転写及び翻訳(IVTT)し、発現されたライブラリーをCisブロ
ック(2% BSA(Sigma-Aldrich,ミズーリ州セントルイス)、100
μg/mlニシン精子DNA(Promega)、1mg/mLヘパリン(Sigma-
Aldrich))でブロッキングした。選択を行うため、bt-c-Metを400n
M(ラウンド1)、200nM(ラウンド2及び3)、並びに100nM(ラウンド4及
び5)の濃度で添加した。ニュートラアビジン磁気ビーズ(Thermo Fisher
,イリノイ州ロックフォード)(ラウンド1、3、及び5)又はストレプトアビジン磁気
ビーズ(Promega)(ラウンド2及び4)を使用して、結合したライブラリのメン
バーを回収し、ビーズを500μLのPBSーTで5~14回洗浄し、続いて500μL
のPBSで2回洗浄することによって、結合しなかったライブラリのメンバーを除去した
【0409】
更なる選択ラウンドを行って親和性が向上したFN3ドメインの分子を特定した。簡単
に述べると、ラウンド5からの回収分を上述のように調製し、以下の変更を行って更なる
選択のラウンドを繰り返した。すなわち、bt-c-Metでのインキュベーションを1
時間から15分に短縮し、ビーズ捕捉を20分から15分に短縮し、btーc-Metを
25nM(ラウンド6及び7)又は2.5nM(ラウンド8及び9)に減少させ、過剰量
の非ビオチン化c-Metの存在下で更なる1時間の洗浄を行った。これらの変更の目的
は、大幅に低いKDにつながる、潜在的により速い結合速度及びより遅い解離速度を有す
るバインダーを同時に選択することである。
【0410】
ラウンド5、7、9の回収分を、TCON6(配列番号30)及びTCON5 E86
I短鎖(配列番号31)プライマーを使用して、リガーゼ非依存性クローニング部位(p
ET154-LIC)を含む修飾pET15ベクター(EMD Biosciences
、ニュージャージー州ギブスタウン)にPCRによりクローニングし、標準的なプロトコ
ルを用いた形質転換及びIPTGによる誘導(最終濃度1mM、30℃で16時間)の後
、C末端にHis6タグを有するタンパク質としてタンパク質を発現させた。細胞は、遠
心分離して収穫した後、0.2mg/mLのChicken Egg White Ly
sozyme(Sigma-Aldrich)が添加されたBugbuster HT(
EMD Chemicals)で溶解させた。遠心分離して細菌溶解物を清澄化し、上清
を新しい96ディープウェルプレートに移した。
【0411】
c-MetへのHGFの結合を阻害するFN3ドメインのスクリーニング
大腸菌ライセート中に存在するFN3ドメインを、生化学的フォーマットで、精製され
たc-Met細胞外ドメインへのHGFの結合を阻害する能力についてスクリーニングし
た。組換えヒトc-Met/Fcキメラ(PBS中、0.5μg/mL、100μL/ウ
ェル)を、96穴White Maxisorp Plates(Nunc)にコーティ
ングし、4℃で一晩インキュベートした。プレートをBiotekプレートウォッシャー
で、300μl/ウェルの0.05% Tween 20を含むTris緩衝生理食塩水
(TBS-T,Sigma-Aldrich)で2回洗浄した。アッセイプレートを、S
tartingBlock T20(200μL/ウェル、Thermo Fisher
Scientific,イリノイ州ロックランド)で1時間、室温(RT)にて振盪し
ながらブロッキングし、再び300μlのTBS-Tで2回洗浄した。FN3ドメインの
ライセートをHamilton STARplusロボティクスシステムを使用して、S
tartingBlock T20で(1:10から1:100,000に)希釈した。
ライセート(50μL/ウェル)を1時間、室温で振盪しながらアッセイプレート上でイ
ンキュベートした。プレートを洗浄せずに、bt-HGF(StartingBlock
T20中、1μg/mL、50μL/ウェル、ビオチン化したもの)をプレートに30
分間、室温で振盪しながら加えた。テンコン27ライセートが入ったコントロールウェル
には、Starting Block T20又は希釈したbt-HGFを入れた。次い
で、プレートを300μl/ウェルのTBS-Tで4回洗浄し、100μl/ウェルのス
トレプトアビジン-HRP(TBS-T中、1:2000,Jackson Immun
oresearch,ペンシルベニア州ウェストグローブ)と30~40分間、室温で振
盪しながらインキュベートした。再びプレートをTBS-Tで4回洗浄した。シグナルを
発生させるために、製造者の指示に従って調製したPOD Chemiluminesc
ence Substrate(50μL/ウェル,RocheDiagnostics
,インディアナ州インディアナポリス)をプレートに加え、約3分以内にSoftMax
Proを用いてMolecular Devices M5で発光を読み取った。以下
の計算式により阻害率(%)を求めた:100-((RLU試料-平均RLUbt-HGFを加
えないコントロール)/(平均RLUbt-HGFコントロール-平均RLUbt-HGFを加えない
コントロール)×100)50%以上の阻害率(%)の値をヒットとみなした。
【0412】
FN3ドメインの高スループット発現及び精製
Hisタグを有するFN3ドメインを、清澄化した大腸菌ライセートからHis Mu
ltiTrap(商標)HPプレート(GE Healthcare)で精製し、20m
Mのリン酸ナトリウム、500mMの塩化ナトリウム、及び250mMのイミダゾールを
含むpH 7.4のバッファ中に溶出させた。精製された試料をPBS(pH 7.4)
に交換し、PD MultiTrap(商標)G-25プレート(GE Healthc
are)を用いて分析を行った。
【0413】
c-MetへのHGF結合の阻害のIC50の決定
選択されたFN3ドメインについてHGF競合アッセイで更に特性評価した。上述のア
ッセイを用いて、精製されたFN3ドメインの用量反応曲線を作成した(5μMの開始濃
度)。阻害率(%)の値を計算した。データをFN3ドメインのモル濃度の対数に対して
阻害率(%)としてプロットし、GraphPad Prism 4を使用して、変化す
る傾きを有するS字状用量反応にデータをフィッティングすることによりIC50値を求め
た。
【0414】
ラウンド5から、1:10の希釈度で活性を示し、0.5~1500nMの範囲のIC
50値を有する35個の固有の配列が特定された。ラウンド7からは、1:100の希釈度
で活性を有し、0.16~2.9nMの範囲のIC50値を有する39個の固有の配列が得
られた。ラウンド9からは、ヒットが1:1000の希釈度で活性であると定義された6
6個の固有の配列が特定された。ラウンド9では、0.2nMの低いIC50値が認められ
た(表8)。
【0415】
c-Met-Fcに対する選択されたc-Met結合FN3ドメインの親和性(EGF
R-Fc親和性)の決定
アッセイにおいてc-Met-Fcを使用した点以外は、選択されたEGFR結合FN
3ドメインの親和性の決定について実施例3で述べたように、選択されたc-Met結合
FN3ドメインの親和性を決定した。
【0416】
実施例6:c-Metと結合し、HGFの結合を阻害するFN3ドメインの特性評価
実施例2で上述したようにFN3ドメインを発現させ、精製した。実施例1及び2でそ
れぞれ上述したようにサイズ排除クロマトグラフィー及び動態解析を行った。表7は、C
鎖、CDループ、F鎖、及びFGループの配列、並びに各ドメインの全アミノ酸配列の配
列番号を示す。
【0417】
【表7】
【0418】
Cループ残基は、示される配列番号の残基28~37に相当する。
CD鎖残基は、示される配列番号の残基38~43に相当する。
Fループ残基は、示される配列番号の残基65~74に相当する。
FG鎖残基は、示される配列番号の残基75~81に相当する。
【0419】
細胞上のc-Metへの選択されたc-Met結合FN3ドメインの結合(「H441
細胞結合アッセイ」)
NCI-H441細胞(カタログ番号HTB-174、American Type
Culture Collection、バージニア州マナッサス)を、Poly-D-
リシンでコーティングした黒色透明96穴プレート(BD Biosciences、カ
リフォルニア州サンホセ)に20,000細胞/ウェルで播種し、37℃、5% CO2
で一晩付着させた。精製したFN3ドメイン(50μL/ウェル、0~1000nM)を
細胞に2重のプレート内で1時間、4℃で加えた。上清を除去し、細胞をFACS染色バ
ッファ(150μL/ウェル、BD Biosciences、カタログ番号55465
7)で3回洗浄した。細胞を、ビオチン化抗HIS抗体(FACS染色バッファ中に1:
160で希釈、50μL/ウェル、R&D Systems、カタログ番号BAM050
)と30分間、4℃でインキュベートした。細胞をFACS染色バッファ(150μL/
ウェル)で3回洗浄した後、ウェルを抗マウスIgG1-Alexa 488接合抗体(
FACS染色バッファ中に1:80で希釈、50μL/ウェル、Life Techno
logies、カタログ番号A21121)と30分間、4℃でインキュベートした。細
胞をFACS染色バッファ(150μL/ウェル)で3回洗浄し、FACS染色バッファ
(50μL/ウェル)中に放置した。全蛍光を、Acumen eX3リーダーを用いて
測定した。データをFN3ドメインのモル濃度の対数に対して生の蛍光シグナルとしてプ
ロットし、GraphPad Prism 4(GraphPad Software)
を使用して変化する傾きを有するS字状用量反応曲線にフィッティングしてEC50値を計
算した。表8に示されるように、FN3ドメインは、1.4nM~22.0nMのEC50
値を有し、広範囲の結合活性を示すことが分かった。
【0420】
HGFにより刺激されるc-Metリン酸化の阻害
精製したFN3ドメインを、Meso Scale Discovery(メリーラン
ド州ゲイザースバーグ)からのc-Metホスホ(Tyr1349)キットを使用し、N
CI-H441中で、HGFにより刺激されるc-Metのリン酸化を阻害する能力につ
いて試験した。細胞を、透明な96穴の組織培養処理したプレートに、10%ウシ胎児血
清(FBS、Life Technologies)を有する100μL/ウェルのRP
MI培地(Glutamax及びHEPES(Life Technologies)を
含む)中に20,000個/ウェルで播種し、加湿した5% CO2雰囲気中、37℃で
、一晩付着させた。培地を完全に除去し、細胞を無血清RPMI培地(100μL/ウェ
ル)中、37℃、5% CO2で一晩飢餓状態においた。この後、細胞に、FN3ドメイ
ンを20μM以下の濃度で含む新鮮な無血清RPMI培地(100μL/ウェル)を37
℃、5% CO2で1時間補充した。コントロールは培地のみで処理した。細胞を、10
0ng/mLの組換えヒトHGF(100μL/ウェル、R&D Systemsカタロ
グ番号294-HGN)で刺激し、37℃、5% CO2で15分間インキュベートした
。1組のコントロールウェルは、ネガティブコントロールとして刺激を行わなかった。次
いで、培地を完全に除去し、細胞を、製造者の指示に従ってComplete Lysi
sバッファ(50μL/ウェル、Meso Scale Discovery)で、10
分間、室温で振盪しながら溶解した。リン酸化されたc-Metを測定するように構成さ
れたアッセイプレートを、製造者の指示にしたがって提供されたブロッキング溶液により
、室温で1時間ブロッキングした。次いで、プレートをTris Washバッファ(2
00μL/ウェル、Meso Scale Discovery)で3回洗浄した。細胞
ライセート(30μL/ウェル)をアッセイプレートに移し、室温で振盪しながら1時間
インキュベートした。次いで、アッセイプレートをTrisWashバッファで4回洗浄
した後、氷冷したDetection Antibody Solution(25μL
/ウェル、Meso Scale Discovery)を各ウェルに1時間、室温で振
盪しながら加えた。プレートを再びTrisWashバッファで4回洗い流した。150
Readバッファ(150μL/ウェル、Meso Scale Discovery
)を加え、製造者によりインストールされたアッセイ固有の初期設定値を用いてSECT
OR(登録商標)Imager 6000装置(Meso Scale Discove
ry)で読み取ることによって、シグナルを検出した。データをFN3ドメインのモル濃
度の対数に対して電気化学発光シグナルとしてプロットし、GraphPad Pris
m 4を使用して変化する傾きを有するS字状用量反応にデータをフィッティングするこ
とによりIC50値を求めた。表8に示されるように、FN3ドメインは、4.6nM~1
415nMの範囲のIC50値でリン酸化されたc-Metを阻害することが示された。
【0421】
ヒト腫瘍細胞の増殖又は生存の阻害
c-Met結合FN3ドメインへの曝露後、U87-MG細胞(American T
ype Culture Collection、カタログ番号HTB-14)の生存率
を測定することによって、c-Met依存性細胞増殖の阻害を評価した。細胞を、不透明
な白色96穴の組織培養処理したプレート(Nunc)中、10% FBSを添加した1
00μL/ウェルのRPMI培地中に8000細胞/ウェルで播種し、37℃、5% C
2で一晩付着させた。播種の24時間後に培地を吸引し、細胞に無血清RPMI培地を
補充した。血清飢餓処理の24時間後に、c-Met結合FN3ドメイン(30μL/ウ
ェル)を含む無血清培地を加えることによって細胞を処理した。細胞を37℃、5% C
2で72時間インキュベートした。100μL/ウェルのCellTiter-Glo
(登録商標)試薬(Promega)を加えた後、プレートシェーカー上で10分間混合
することにより、生存細胞を検出した。プレートを、ルミネセンスモードに設定したSp
ectraMax M5プレートリーダー(Molecular Devices)で、
0.5秒/ウェルの読み取り時間で読み取った。データをFN3ドメインのモル濃度の対
数に対して生のルミネセンス単位(RLU)としてプロットした。GraphPad P
rism 4を使用して変化する傾きを有するS字状用量反応の式にデータをフィッティ
ングすることにより、IC50値を求めた。表8には、1nM~1000nM超の範囲のI
C50値が示されている。c-Met結合FN3ドメインの特性を表8にまとめて示す。
【0422】
【表8】
【0423】
c-Met結合FN3ドメインの熱安定性
PBS中で示差走査熱量測定法を用いて各FN3ドメインの安定性を評価した。実験の
結果を表9に示す。
【0424】
【表9】
【0425】
実施例7.二重特異性抗EGFR/c-Met分子の生成及び特性評価
二重特異性抗EGFR/c-Met分子の生成
実施例1~6で述べたEGFR結合FN3ドメインとc-Met結合FN3ドメインの
多数の組み合わせを、EGFR及びc-Metの両方と結合することが可能な二重特異性
分子として連結した。更に、配列番号107~110に示されるアミノ酸配列を有するE
GFR結合FN3ドメイン及び配列番号111~114に示されるアミノ酸配列を有する
c-Met結合FN3ドメインを調製し、二重特異性分子として連結した。以下のフォー
マット、すなわち、EGFR結合FN3ドメインに続いてペプチドリンカー、及びこれに
続いてc-Met結合FN3ドメイン、が維持されるように、配列番号50~72及び1
06(表10)に述べられるアミノ酸配列をコードする合成遺伝子を調製した。精製を助
けるために、ポリヒスチジンタグをC末端に組み込んだ。表10に示される分子以外に、
2個のFN3ドメインの間のリンカーを、表11に示されるものにしたがって、長さ、配
列の組成、及び構造に基づいて変えた。多くの他のリンカーを、こうしたFN3ドメイン
同士を連結するために用い得ることが想定される。IMAC及びゲル濾過クロマトグラフ
ィー工程を用い、一重特異性EGFR又はc-Met FN3ドメインについて述べたよ
うに二重特異性EGFR/c-Met分子を発現させ、大腸菌から精製した。
【0426】
【表10】
【0427】
【表11】
【0428】
二重特異性EGFR/c-Met分子は一重分子単独と比較して効能が高められ、アビ
ディティを示唆している。
【0429】
NCI-H292細胞を、96穴プレート中、10% FBSを含んだRPMI培地中
に播種した。24時間後、培地を無血清RPMIと交換した。血清飢餓処理の24時間後
、細胞を異なる濃度のFN3ドメインで処理した。すなわち、高親和性の一重特異性EG
FR FN3ドメイン(P54AR4-83v2)、弱親和性の一重特異性c-Met
FN3ドメイン(P114AR5P74-A5)、2つの一重特異性のEGFR FN3
ドメインとc-Met FN3ドメインとの混合物、又は高親和性EGFR FN3ドメ
インに連結された低親和性c-MetvFN3ドメインからなる二重特異性EGFR/c
-Met分子(ECB1)のいずれかである。細胞を1時間、一重特異性又は二重特異性
分子で処理した後、EGF、HGF、又はEGFとHGFとの組み合わせで15分間、3
7℃、5% CO2で刺激した。細胞をMSD Lysisバッファで溶解し、上記に述
べたように、製造者の指示に従って適当なMSDアッセイプレートを使用して、細胞シグ
ナル伝達を評価した。
【0430】
低親和性のc-Met FN3ドメインは、IC50=610nMでc-Metのリン酸
化を阻害した(図4)。予想されたように、EGFR FN3ドメインは、c-Metの
リン酸化を阻害することはできず、一重特異性分子の混合物は、c-Met FN3ドメ
イン単独と同じようであった。しかしながら、二重特異性EGFR/c-Met分子は、
IC50=1nMでc-Metのリン酸化を阻害し(図4)、c-Met一重特異性単独の
場合に対して効能が対数で2ログ超高められた。
【0431】
アビディティ効果によりc-Met及び/又はEGFRリン酸化の阻害を高める二重特
異性EGFR/c-Met分子の能力について、c-Met及びEGFRの密度及び比率
を変えて複数の細胞型において評価を行った(図5)。NCI-H292、NCI-H4
41、又はNCI-H596細胞を、96穴プレート中、10%FBSを含むRPMI培
地中に播種した。24時間後、培地を無血清RPMIと交換した。血清飢餓処理の24時
間後、細胞を異なる濃度の一重特異性EGFR結合FN3ドメイン、一重特異性c-Me
t結合FN3ドメイン、又は二重特異性EGFR/c-Met分子(P53A1R5-1
7v2とP114AR7P94-A3とからなるECB5)のいずれかで処理した。細胞
を1時間、一重特異性又は二重特異性分子で処理した後、EGF、HGF、又はEGFと
HGFとの組み合わせで15分間、37℃、5% CO2で刺激した。細胞をMSD L
ysisバッファで溶解し、上記に述べたように、製造者の指示に従って適当なMSDア
ッセイプレートを使用して、細胞シグナル伝達を評価した。
【0432】
図5(A~C)は、3つの異なる細胞株において、二重特異性EGFR/c-Met分
子と比較して一重特異性EGFR結合FN3ドメインを使用した場合のEGFRの阻害を
示す。EGFRリン酸化アッセイでアビディティを評価するために、中程度の親和性のE
GFR結合FN3ドメイン(1.9nM)(P53A1R5-17v2)を、高親和性の
c-Met結合FN3ドメインと連結された同じEGFR結合FN3ドメインを含む二重
特異性EGFR/c-Met分子(0.4nM)(P114AR7P94-A3)と比較
した。NCI-H292及びH596細胞では、EGFRのリン酸化の阻害は一重特異性
分子及び二重特異性分子で同等であった(図5A及び5B)が、これは、これらの細胞株
ではc-Met受容体に対するEGFR受容体の比が大きいためと考えられる。この理論
を検証するために、EGFRよりも多くのc-Met受容体を示すNCI-H441細胞
においてEGFRリン酸化の阻害の評価を行った。二重特異性EGFR/c-Met分子
でNCI-H441細胞を処理したところ、EGFRリン酸化の阻害のIC50は、一重特
異性EGFR結合FN3ドメインと比較して30倍低下した(図5C)。
【0433】
二重特異性EGFR/c-Met分子により効能が高められる可能性について、EGF
Rに対して高い親和性を有し(0.26nM)、c-Metに対して中程度の親和性を有
する(10.1nM)分子を用いたc-Metリン酸化アッセイで評価を行った。NCI
-H292細胞及びNCI-H596細胞の両方で、c-Metのリン酸化の阻害は、二
重特異性分子により、一重特異性c-Met結合FN3ドメインと比較してそれぞれ13
4倍及び1012倍高くなった(図3D及び3E)。
【0434】
二重特異性EGFR/c-Met分子によるEGFR及びc-Metのリン酸化の阻害
効能の増大が、シグナル伝達及び増殖の阻害の増大につながったことが確認された。これ
らの実験では、FN3 EGFR結合ドメインとc-Met結合FN3ドメインとの混合
物を、二重特異性EGFR/c-Met分子と比較した。表12及び13に示されるよう
に、ERKリン酸化(表12)及びNCI-H292細胞の増殖(表13)に対するIC
50値は、細胞を二重特異性EGFR/c-Met分子で処理した場合に一重特異性バイン
ダーの混合物で処理した場合と比較して低下した。二重特異性EGFR/c-Met分子
のERKリン酸化の阻害に関するIC50は、2種類の一重特異性EGFR結合FN3ドメ
インとc-Met結合FN3ドメインとの混合物に対して143倍低かったが、このこと
は、このアッセイにおける分子の効能に対するアビディティの効果を示すものである。表
12では、一重特異性のEGFR結合FN3ドメイン及びc-Met結合FN3ドメイン
は完全には活性を阻害してはおらず、したがって示されているIC50値は下限値とみなす
べきである。この増殖アッセイは、異なる組み合わせのEGFR結合FN3ドメインとc
-Met結合FN3ドメインを、混合物として又は二重特異性フォーマットで連結された
ものとして使用して行った。二重特異性EGFR/c-Met分子の増殖の阻害に関する
IC50は、一重特異性の親EGFR結合FN3ドメイン又はc-Met結合FN3ドメイ
ンの混合物に対して34~236倍低かった。このことは、受容体のレベルで見られるア
ビディティ効果(図4及び図5)が、細胞シグナル伝達(表12)及び細胞増殖(表13
)の阻害の向上につながることを裏付けるものであった。
【0435】
【表12】
【0436】
【表13】
【0437】
インビボ腫瘍異種移植:PK/PD
インビボでの一重特異性及び二重特異性FN3ドメイン分子の有効性を調べるため、ヒ
トHGFを分泌するように腫瘍細胞を操作した(マウスHGFはヒトc-Metに結合し
ない)。レンチウイルス感染(ヒトHGFを発現するレンチウイルスDNAベクター(ア
クセッション番号X16322)及びGenecopoeiaからのレンチウイルスパッ
ケージングキット)を利用して、ヒトHGFをNCI-H292細胞内で安定的に発現さ
せた。感染後、HGF発現細胞を4μg/mLプロマイシン(Invitrogen)で
選択した。ヒトHGFタンパク質を、MesoScale Discoveryからのア
ッセイプレートを用いて、プールした細胞の馴化培地中で検出した。
【0438】
ヒトHGFを発現しているNCI-H292細胞(Cultrex(Trevigen
)中、2.0×106細胞を体積200μL)を各SCID Beigeマウスの背部脇
腹に皮下接種した。腫瘍体積が150~250mm3の範囲となるまで腫瘍を週2回測定
した。次いで、マウスに、二重特異性EGFR/c-Met分子(半減期を延ばすために
アルブミン結合ドメインと連結したもの)及びPBS溶媒を単回腹腔内投与した。投与6
時間又は72時間後に腫瘍を摘出し、直ちに液体窒素中で凍結した。心穿刺により、3.
8%クエン酸塩を含むプロテアーゼ阻害剤中に血液試料を採取した。採取直後に血液試料
を遠心分離し、得られた血漿を試料チューブに移して-80℃で保存した。腫瘍を秤量し
、細片に切断し、RIPAバッファと、HALTプロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤(
Pierce)、50mMフッ化ナトリウム(Sigma)、2mM活性化オルトバナジ
ウム酸ナトリウム(Sigma)、及び1mM PMSF(Meso Scale Di
scovery)と、を含有するLysing MatrixAチューブ(LMA)中で
溶解した。LMAマトリクスからライセートを除去し、遠心して不溶性タンパク質を除去
した。可溶性の腫瘍タンパク質をBCAタンパク質アッセイによって定量し、腫瘍溶解バ
ッファ中に同じタンパク質濃度となるように希釈した。リン酸化されたc-Met、EG
FR及びERKを、MesoScale Discoveryからのアッセイプレートを
用いて測定した(製造者のプロトコルに従い、上記に述べたのと同様にして)。
【0439】
図6に、実験結果を示す。各二重特異性EGFR/c-Met分子は、リン酸化された
c-Met、EGFR及びERKの濃度を6時間後及び72時間後の両方において大幅に
低減させた。図6に示されるデータは、c-Met及びEGFRの両方を同時に阻害する
ことの重要性、並びに各受容体に対する二重特異性EGFR/c-Met分子の親和性が
下流のERKの阻害にどのような役割を果たしているかを示している。高親和性のEGF
R結合FN3ドメイン(図中、「8」として示されるP54AR4-83v2、KD=0
.26nM)を含む分子は、中程度の親和性のEGFR結合FN3ドメイン(図中、「1
7」として示されるP53A1R5-17v2、KD=1.9nM)を含む分子と比較し
て、6時間後、及び72時間後の両方で、EGFRのリン酸化を大きく阻害した。試験し
た4つの二重特異性分子はいずれも、親和性と関係なく、6時間後の時点でERKのリン
酸化を完全に阻害した。72時間後の時点では、強い親和性のc-Met結合FN3ドメ
イン(図中、「A3」として示されるP114AR7P94-A3、KD=0.4nM)
を含む分子は、中程度の親和性のc-Met結合FN3ドメイン(図中、「A5」として
示されるP114AR5P74-A5、KD=10.1nM、図6)と比較してERKの
リン酸化を大幅に阻害した。
【0440】
各二重特異性EGFR/c-Met分子の濃度を、血液中及び腫瘍中に投与した6時間
後及び72時間後に測定した(図7)。興味深い点として、中程度の親和性のEGFR結
合ドメイン(P53A1R5-17v2、KD=1.9nM)と高親和性のc-Met結
合FN3ドメイン(P114AR7P94-A3、KD=0.4nM)を有する二重特異
性分子は、他の分子と比較して6時間後に顕著に多くの腫瘍への蓄積が見られたが、その
差は72時間後までには減少した。腫瘍の外側の細胞はEGFR及びc-Metの両方の
表面発現レベルが低いために、中程度の親和性のEGFR分子は、より親和性が高いEG
FR結合FN3ドメインと比較して正常組織にそれほど強く結合しないものと仮説するこ
とができる。したがって、腫瘍内では、結合することが可能なより多くの遊離した中親和
度のEGFR結合FN3ドメインが存在する。したがって、各受容体に対する適切な親和
性を特定することによって、全身毒性が低く、腫瘍への蓄積性が高い治療薬を特定するこ
とが可能となり得る。
【0441】
二重特異性EGFR/c-Met分子による腫瘍有効性試験
ヒトHGFを発現しているNCI-H292細胞(Cultrex(Trevigen
)中、2.0×106細胞を200μL)を各SCID Beigeマウスの背部脇腹に
皮下接種した。移植の1週間後、マウスを同等の腫瘍体積を有する群に分類した(平均腫
瘍体積=77.9+/-1.7mm3)。マウスに週3回、二重特異性分子を投与し、腫
瘍体積を週2回記録した。腫瘍増殖の阻害(TGI)が、4つの異なる二重特異性分子で
認められ、c-Met及びEGFRに対する異なる親和性を示した。図8は、c-Met
結合FN3ドメインが中親和性である場合、高親和性のEGFR結合FN3ドメインを含
む分子で処理したマウスにおいて、中親和性のEGFR結合FN3ドメインと比較して、
腫瘍増殖の遅れとしてのc-Met及びEGFRの両方の阻害の効果が認められたことを
示している(白抜きの三角形と塗りつぶしの三角形;P54AR4-83v2-P114
AR5P74-A5とP53A1R5-17-P114AR5P74-A5との比較)。
更に、このデータは、高親和性又は中親和性のEGFR結合FN3ドメインのいずれかを
含む二重特異性分子として高親和性のc-Met結合FN3ドメインを有することの重要
性を示しているが、高親和性のc-Met結合FN3ドメインは最も高い有効性を示した
(破線の灰色及び黒い線;P54AR4-83v2-P114AR7P94-A3と、P
53A1R5-17v2-P114AR7P94-A3)。
【0442】
二重特異性分子及び他のEGFR及びc-Met阻害剤の有効性
二重特異性EGFR/c-Met分子(ECB38)並びにそれぞれ単一の薬剤として
、小分子阻害剤であるクリゾチニブ(c-Met阻害剤)及びエルロチニブ(EGFR阻
害剤)、セツキシマブ(抗EGFR抗体)、並びにクリゾチニブとエルロチニブの組み合
わせのインビボでの治療上の有効性を、SCID/Beigeマウスにおける皮下H29
2-HGFヒト肺癌異種移植モデルの処置において評価した。
【0443】
H292-HGF細胞を、ウシ胎児血清(10% v/v)及びL-グルタミン(2m
M)を添加したRPMI1640培地中、37℃、空気中5% CO2の雰囲気中、イン
ビトロで維持した。細胞をトリプシンーEDTA処理によって週2回、定期的に継代培養
した。指数増殖期に増殖する細胞を収穫し、腫瘍接種用にカウントした。
【0444】
各マウスの右脇腹領域に、Cultrex(1:1)を加えた0.1mlのPBS中で
H292ーHGF腫瘍細胞(2×106)を皮下接種して腫瘍を発生させた。平均腫瘍サ
イズが139mm3に達した時点で処置を開始した。各試験群の被験物質投与及び動物の
数を以下の実験計画表に示す。腫瘍細胞の接種日を0日目として示した。表14に、処置
群を示す。
【0445】
【表14】
N=動物数、p.o.=経口投与、i.p.=腹腔内注射3回/週、週の1、3、及び
5日目に投与した。
QD=1日1回、Q4d=4日に1回、クリゾチニブとエルロチニブの組み合わせの間
隔は0.5時間、投与体積は体重に基づいて調整(10l/g)、a=グループ分け後1
4日目に投与を行わなかった。
【0446】
処置の開始に先立って、全動物の体重を測定し、腫瘍体積を測定した。腫瘍体積は与え
られる任意の処置の効果に影響し得ることから、マウスを腫瘍体積に基づいてランダム化
ブロック計画を用いて各群に割り振った。これにより、すべての群をベースラインで比較
することが確実となる。ランダム化ブロック計画を用いて実験動物を各群に割り振った。
最初に、実験動物を初期の腫瘍体積に基づいて一様なブロックに分けた。次に、各ブロッ
ク内で、処置に対する実験動物のランダム化を行った。ランダム化ブロック計画を用いて
実験動物を割り振ることで、各動物がある所定の処置に割り振られる確率が同じとなり、
したがって系統誤差が低減される。
【0447】
定期的なモニタリングの時点において、運動性などの正常行動、食餌及び水の消費量の
目視による推定、体重増加/減少(体重は週2回測定した)、目/体毛のつやに対する腫
瘍増殖及び処置のあらゆる影響、並びにその他の任意の異常な影響について動物を調べた
【0448】
エンドポイントは、腫瘍増殖を遅らすことができるか、又は腫瘍を有するマウスを治癒
することができるかとした。腫瘍サイズを週2回、キャリパーを使用して2次元で測定し
、体積を式:V=0.5a×b2(ただし、a及びbはそれぞれ腫瘍の長径及び短径であ
る)を用いてmm3で表した。次いで、腫瘍サイズを用いてT-C及びT/C値を計算し
た。T-Cは、Tを処置群の平均腫瘍サイズが1000mm3に達するのに要した時間(
日)とし、Cをコントロール群の平均腫瘍サイズがそれと同じサイズに達するのに要した
時間(日)として計算した。T/C値(%)は抗腫瘍効果の指標であり、T及びCはそれ
ぞれ、任意の日における処置群及びコントロール群の平均腫瘍体積とした。完全腫瘍縮小
(CR)は、腫瘍が触診限界(62.5mm3)未満にまで縮小することとして定義され
る。部分腫瘍縮小(PR)は、腫瘍が初期腫瘍体積から縮小することとして定義される。
CP又はPRが恒久的とみなされるためには、3回以上の連続した腫瘍測定においてCR
又はPRが最低限持続することが必要とされる。
【0449】
体重減少が20%を上回るか、又はその群の平均腫瘍サイズが2000mm3を上回っ
た動物は安楽死させた。最終投与後、2週間観察した後、試験を終了した。
【0450】
各時点における各群の腫瘍体積について得られた、平均値及び平均の標準誤差(SEM
)を含む要約統計量を、表15に示す。一元配置分散分析に続いてGames-Howe
ll検定(等分散性を仮定しない)を用いた個々の比較を行って、各群間の腫瘍体積の差
の統計的分析を評価した。データはすべて、SPSS 18.0を用いて分析した。p<
0.05を統計的に有意とみなした。
【0451】
【表15】
【0452】
溶媒処置群(グループ1)の平均腫瘍サイズは、腫瘍接種後23日目に1,758mm
3に達した。25mg/kg用量レベルの二重特異性EGFR/c-Met分子による処
置(グループ2)は、すべてのマウスで、連続した3回以上の腫瘍測定において恒久的な
完全な腫瘍縮小(CR)につながった(平均TV=23mm3,T/C値=1%、23日
目の溶媒群と比較してp=0.004)。
【0453】
50mg/kgの用量レベルの単一薬剤としてのクリゾチニブによる処置(グループ3
)は抗腫瘍活性を示さず、平均腫瘍サイズは23日目で2,102mm3であった(T/
C値=120%、溶媒群と比較した場合のp=0.944)。
【0454】
50mg/kgの用量レベルの単一薬剤としてのエルロチニブによる処置(グループ4
)は軽度の抗腫瘍活性を示したが、溶媒群と比較して有意な差は見られなかった。平均腫
瘍サイズは23日目で1,122mm3であり(T/C値=64%、溶媒群と比較した場
合のp=0.429)、溶媒群と比較して1,000mm3の腫瘍サイズでの腫瘍増殖の
遅れは4日であった。
【0455】
クリゾチニブ(50mg/kg、グループ5)とエルロチニブ(50mg/kg、グル
ープ5)の組み合わせは顕著な抗腫瘍活性を示し、平均腫瘍サイズは23日目で265m
3であり(T/C=15%;p=0.008)、溶媒群と比較して1,000mm3の腫
瘍サイズでの腫瘍増殖の遅れは17日であった。
【0456】
単一薬剤としての1mg/マウスの用量レベルのセツキシマブ(グループ6)は顕著な
抗腫瘍活性を示し、平均腫瘍サイズは23日目で485mm3であり(T/C=28%、
p=0.018)、溶媒群と比較して1,000mm3の腫瘍サイズでの腫瘍増殖の遅れ
は17日であった。図15及び16に、様々な治療の抗腫瘍活性を示す。
【0457】
【表16】
【0458】
溶媒群では中度から重度の体重減少が認められたが、これは腫瘍の負荷の増大によるも
のである可能性がある。23日目までに体重減少(BWL)が20%を上回った時点でマ
ウス3匹が死亡し、マウス1匹を安楽死させた。グループ2では、二重特異性EGFR/
c-Met分子のわずかな毒性が認められた。処置期間中にBWLが20%を上回った時
点でマウス3匹を安楽死させた。2週間の観察期間において処置をやめた時点で体重は徐
々に回復した。溶媒群と比較してより重度の体重減少がクリゾチニブ又はエルロチニブに
よる単一薬剤治療群で認められ、処置に関連した毒性であることが示唆された。クリゾチ
ニブとエルロチニブの組み合わせに対しては、投与段階中に概して耐性があったが、重度
の体重損失が試験の終了時に認められ、これは、非処置期間における速い腫瘍増殖の回復
によるものである可能性がある。セツキシマブの単一薬剤療法に関しては試験で十分に耐
性があり、腫瘍増殖の回復による体重損失は、試験の終了時にのみ認められた。
【0459】
要約すると、25mg/kgの二重特異性EGFR/c-Met分子(3回/週×3週
間)によって、SCID/BeigeマウスのH292-HGFヒト肺癌異種移植モデル
において完全な応答が生じた。この処置は10匹のマウスのうちの7匹で耐性があり、1
0匹のマウスのうちの3匹で重度の体重損失を生じた。図9は、処置後の各時点における
腫瘍サイズに対する様々な治療の影響を示している。
【0460】
実施例8:二重特異性EGFR/c-Met分子の半減期の延長
ポリエチレングリコール(PEG)又は他のポリマーによる修飾、アルブミンとの結合
、アルブミン又は他の血清タンパク質と結合するタンパク質ドメインとの融合、アルブミ
ンとの遺伝子融合、IgG Fcドメインとの融合、及び長鎖の非構造化アミノ酸配列と
の融合などの、腎臓での濾過を低減させ、それによりタンパク質の血清半減期を延ばすた
めの多くの方法がこれまでに述べられてきた。
【0461】
分子のC末端に遊離システインを組み込むことによって流体力学的半径を増大させるた
めに、二重特異性EGFR/c-Met分子をPEGにより修飾した。最も一般的には、
システイン残基の遊離チオール基を用いて、標準的な方法によってマレイミド又はヨード
アセトアミド基で官能化されたPEG分子を結合する。1000、2000、5000、
10,000、20,000、又は40,000kDaの直鎖状PEGなどの異なる形態
のPEGを用いてタンパク質を修飾することができる。これらの分子量の分枝したPEG
分子を修飾に用いることもできる。場合によっては、二重特異性EGFR/c-Met分
子内の一級アミンによってPEG基を結合させることもできる。
【0462】
PEG化以外に、二重特異性EGFR/c-Met分子の半減期を、これらのタンパク
質を、天然に存在する3重らせん結束血清アルブミン結合ドメイン(ABD)又はコンセ
ンサスアルブミン結合ドメイン(ABDCon)との融合分子として生成することにより
延長した。これらのタンパク質ドメインを、表12に示されるリンカーのいずれかによっ
てc-Met結合FN3ドメインのC末端に連結した。ABD又はABDConドメイン
は、一次配列中でEGFR結合FN3ドメインとc-Met結合FN3ドメインとの間に
配置することもできる。
【0463】
実施例9:選択された二重特異性EGFR/c-Met分子の特性評価
選択された二重特異性EGFR/c-Met分子を、EGFR及びc-Metの両方に
対する親和性、EGFR及びc-Metの自己リン酸化を阻害する能力、並びにHGF細
胞の増殖に対する影響について特性評価した。組換えEGFR及び/又はc-Met細胞
外ドメインに対する二重特異性EGFR/c-Met分子の結合親和性を、実施例3に記
載のプロトコルにしたがってProteon装置(BioRad)を使用して表面プラズ
モン共鳴法によって更に評価した。特性評価の結果を表17に示す。
【0464】
【表17】
【0465】
実施例10二重特異性EGFR/c-Met抗体の生成
複数の一重特異性EGFR及びc-Met抗体を、そのFc領域にFc置換K409R
又はF405L(番号付けはEUインデックスに基づく)を有するIgG1-κとして発
現させた。一重特異性抗体は、一方の細胞株が、フコシル化能力が低下しているために抗
体の多糖鎖のフコース含量が1~15%であるような抗体を生じる2つのCHO細胞株で
発現させた。
【0466】
一重特異性抗体は、ProteinAカラム(HiTrap MabSelect S
uReカラム)を使用し、標準的な方法により精製した。溶出後、プールをD-PBS(
pH 7.2)中に透析した。
【0467】
二重特異性EGFR/c-Met抗体を、インビトロFabアーム交換(国際特許公開
第WO2011/131746号に記載)で一重特異性EGFR mAbと一重特異性c
-Met mAbを組み合わせることによって生成した。簡単に述べると、PBS(pH
7~7.4)及び75mMの2-メルカプトエタノールアミン(2-MEA)中、約1
~20mg/mlの各抗体を1:1のモル比で互いに混合し、25~37℃で2~6時間
インキュベートした後、標準的な方法により、2-MEAを透析、ダイアフィルトレーシ
ョン、タンジェンシャルフロー濾過、及び/又はスピンセルフィルトレーション(spinne
d cell filtration)により除去した。
【0468】
複数の一重特異性抗EGFR抗体及び抗c-Met抗体を、マトリクス中でインビトロ
Fabアーム交換で組み合わせることによって二重特異性抗体を生成し、これを後で更に
特性評価した。生成された二重特異性抗体を、以下のようなアッセイを用いた4ステップ
の方法を用いてランク付けした。すなわち、ステップ1:FACSアッセイでのNCI-
H441、NCI-H1975及びA549細胞との結合。ステップ2:A549細胞に
おけるpMetリン酸化の阻害。ステップ3:NCI-H1975、KP4及びNCI-
H441細胞における増殖の阻害。ステップ4:A549及びSNU-5細胞におけるE
GFRリン酸化の阻害。注目すべき点として、親抗体の特性は二重特異性抗体で保存され
ていなかった。例えば、二重特異性抗体に特定のEGFR結合アームが存在することで、
c-Metリン酸化の阻害の消失若しくは低下、又は亢進につながった。これらの特性評
価試験に基づき、選択ペアを選択した。
【0469】
配列番号189のVH及び配列番号190のVLを有する抗EGFR抗体2F8のVH
及びVL領域(抗体2F8については国際特許公開第WO2002/100348号に述
べられている)と、K409R置換を有するIgG1定常領域とを含む一重特異性二価抗
EGFR抗体E1-K409Rを生成した。
【0470】
配列番号189のVH及び配列番号190のVLを有する抗EGFR抗体2F8のVH
及びVL領域(抗体2F8については国際特許公開第WO2002/100348号に述
べられている)と、F405L置換を有するIgG1定常領域とを含む一重特異性二価抗
EGFR抗体E1-F405Lを生成した。
【0471】
配列番号191のVH及び配列番号192のVLを有する抗EGFR抗体018のVH
及びVL領域(抗体018については国際特許公開第WO2009/030239号に述
べられている)と、K409R置換を有するIgG1定常領域とを含む一重特異性二価抗
EGFR抗体E2-K409Rを生成した。
【0472】
配列番号191のVH及び配列番号192のVLを有する抗EGFR抗体018のVH
及びVL領域(抗体018については国際特許公開第WO2009/030239号に述
べられている)と、F405L置換を有するIgG1定常領域とを含む一重特異性二価抗
EGFR抗体E2-F405Lを生成した。
【0473】
配列番号193のVH及び配列番号194のVLを有する抗c-Met抗体069のV
H及びVL領域(抗体069については国際特許公開第WO2011/110642号に
述べられている)と、K409R置換を有するIgG1定常領域とを含む一重特異性二価
抗c-Met抗体M1-K409Rを生成した。
【0474】
配列番号193のVH及び配列番号194のVLを有する抗c-Met抗体069のV
H及びVL領域(抗体069については国際特許公開第WO2011/110642号に
述べられている)と、F405L置換を有するIgG1定常領域とを含む一重特異性二価
抗c-Met抗体M1-F405Lを生成した。
【0475】
配列番号195のVH及び配列番号196のVLを有する抗c-Met抗体058のV
H及びVL領域(抗体058については国際特許公開第WO2011/110642号に
述べられている)と、K409R置換を有するIgG1定常領域とを含む一重特異性抗c
-Met抗体M2-K409Rを生成した。
【0476】
配列番号195のVH及び配列番号196のVLを有する抗c-Met抗体058のV
H及びVL領域(抗体058については国際特許公開第WO2011/110642号に
述べられている)と、F405L置換を有するIgG1定常領域とを含む一重特異性抗c
-Met抗体M2-F405Lを生成した。
【0477】
これらの抗体のVH、VL、HC及びLC配列を以下に示す。
配列番号189 EGFR mAb E1 VH
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFSTYGMHWVRQ
APGKGLEWVAVIWDDGSYKYYGDSVKGRFTISRDNSKNTL
YLQMNSLRAEDTAVYYCARDGITMVRGVMKDYFDYWGQGT
LVTVSS
【0478】
配列番号190EGFR mAb E1 VL
AIQLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDISSALVWYQQK
PGKAPKLLIYDASSLESGVPSRFSGSESGTDFTLTISSLQ
PEDFATYYCQQFNSYPLTFGGGTKVEIK
【0479】
配列番号191 EGFR mAb E2 VH
EVQLVESGGG LVQPGGSLRL SCAASGFTFS SYWMNW
VRQA PGKGLEWVAN IKKDGSEKYY VDSVKGRFTI SR
DNAKNSLY LQMNSLRAED TAVYYCARDL GWGWGWYFD
L WGRGTLVTVSS
【0480】
配列番号192 EGFR mAb E2 VL
EIVLTQSPAT LSLSPGERAT LSCRASQSVS SYLAWY
QQKP GQAPRLLIYD ASNRATGIPARFSGSGSGTD FTL
TISSLEP EDFAVYYCQQ RSNWPPTFGQ GTKVEIK
【0481】
配列番号193 cMet mAb M1 VH
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCETSGYTFTSYGISWVRQ
APGHGLEWMGWISAYNGYTNYAQKLQGRVTMTTDTSTSTA
YMELRSLRSDDTAVYYCARDLRGTNYFDYWGQGTLVTVSS
【0482】
配列番号194 cMet mAb M1VL
DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISNWLAWFQHK
PGKAPKLLIYAASSLLSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQ
PEDFATYYCQQANSFP-ITFGQGTRLEIK
【0483】
配列番号195 cMet mAb M2 VH
EVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFTFSDYYMYWVRQ
TPEKRLEWVATISDDGSYTYYPDSVKGRFTISRDNAKNNL
YLQMSSLKSEDTAMYYCAREGLYYYGSGSYYNQDYWGQGT
LVTVSS
【0484】
配列番号196 cMet mAb M2 VL
QLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGLSSALAWYRQKPG
KAPKLLIYDASSLESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPE
DFATYYCQQFTSYPQITFGQGTRLEIK
【0485】
配列番号199EM1-mAb H1(抗EGFR,405L)
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFSTYGMHWVRQ
APGKGLEWVAVIWDDGSYKYYGDSVKGRFTISRDNSKNTL
YLQMNSLRAEDTAVYYCARDGITMVRGVMKDYFDYWGQGT
LVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFP
EPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSS
SLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPA
PELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDP
EVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQ
DWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTL
PPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNY
KTTPPVLDSDGSFLLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEA
LHNHYTQKSLSLSPGK
【0486】
配列番号200EM-1 mAb L1
AIQLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDISSALVWYQQK
PGKAPKLLIYDASSLESGVPSRFSGSESGTDFTLTISSLQ
PEDFATYYCQQFNSYPLTFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFP
PSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNS
QESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQ
GLSSPVTKSFNRGEC
【0487】
配列番号201 EM-1 mAb H2(K409R,抗cMet)
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCETSGYTFTSYGISWVRQ
APGHGLEWMGWISAYNGYTNYAQKLQGRVTMTTDTSTSTA
YMELRSLRSDDTAVYYCARDLRGTNYFDYWGQGTLVTVSS
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVS
WNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQT
YICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGG
PSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNW
YVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGK
EYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREE
MTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPV
LDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYT
QKSLSLSPGK
【0488】
配列番号202 EM-1 mAb L2
DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISNWLAWFQHK
PGKAPKLLIYAASSLLSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQ
PEDFATYYCQQANSFPITFGQGTRLEIKRTVAAPSVFIFP
PSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNS
QESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQ
GLSSPVTKSFNRGEC
【0489】
配列番号234 E2 mAb HC1(EGFR-F405L)
EVQLVESGGG LVQPGGSLRL SCAASGFTFS SYWMNW
VRQA PGKGLEWVAN IKKDGSEKYY VDSVKGRFTI SR
DNAKNSLY LQMNSLRAED TAVYYCARDL GWGWGWYFD
LWGRGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCL
VKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSV
VTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHT
CPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVD
VSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSV
LTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPRE
PQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNG
QPENNYKTTPPVLDSDGSFLLYSKLTVDKSRWQQGNVFSC
SVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0490】
配列番号235E2 mAb LC1(EGFR)
EIVLTQSPAT LSLSPGERAT LSCRASQSVS SYLAWY
QQKP GQAPRLLIYD ASNRATGIPARFSGSGSGTD FTL
TISSLEP EDFAVYYCQQ RSNWPPTFGQ GTKVEIKRTV
AAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKV
DNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHK
VYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0491】
配列番号236 E2 mAb HC2(c-Met-K409R)
EVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFTFSDYYMYWVRQ
TPEKRLEWVATISDDGSYTYYPDSVKGRFTISRDNAKNNL
YLQMSSLKSEDTAMYYCAREGLYYYGSGSYYNQDYWGQGT
LVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFP
EPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSS
SLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPA
PELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDP
EVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQ
DWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTL
PPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNY
KTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEA
LHNHYTQKSLSLSPGK
【0492】
配列番号237
E2 mAb LC2(cMet)
QLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGLSSALAWYRQKPG
KAPKLLIYDASSLESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPE
DFATYYCQQFTSYPQITFGQGTRLEIKRTVAAPSVFIFPP
SDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQ
ESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQG
LSSPVTKSFNRGEC
【0493】
生成された一重特異性抗EGFR抗体とc-Met抗体とを混合してマトリクス中でイ
ンビトロFabアーム交換に供し、異なるアッセイで特性評価を行った。二重特異性抗体
EM1-mAbは、mAb E1-F405LのEGFR結合アームと、mAb M1-
K409Rのc-Met結合アームを含む。二重特異性抗体EM2-mAbは、mAb
E2-F405LのEGFR結合アームと、mAb M2-K409Rのc-Met結合
アームを含む。二重特異性抗体EM3-mAbは、mAb E1-K409RのEGFR
結合アームと、mAb M1-F405Lのc-Met結合アームを含む。二重特異性抗
体EM4-mAbは、mAb E2-K409RのEGFR結合アームと、mAb M2
-F405Lのc-Met結合アームを含む。EM1-mAb及びEM3-mAbは、同
等の特性を有していた。
【0494】
二重特異性EM1-mAbを、糖タンパク質のフコシル化能力が低下しているためにフ
コシル含量が約1~15%であるようなCHO細胞株中で培養した。Fc領域に結合され
た二分枝複合体型のオリゴ糖からコアとなるフコースを除去すると、抗原結合性又はCD
C活性を変化させることなく、高められたFcγRIIIaの結合力により抗体のADC
Cが大幅に増強される。このようなmAbは、二分枝複合体型Fcオリゴ糖を有する比較
的高度に脱フコシル化された治療用抗体の効果的な発現につながることが報告されている
異なる方法を用いて得ることが可能であり、上記に述べたもので上述してある。
【0495】
実施例11二重特異性EGFR/c-Met抗体の精製
インビトロFabアーム交換の後で、標準的な方法により疎水性相互作用クロマトグラ
フィーを用いて二重特異性EM1-mAbを更に精製することによって、残留する親のc
-Met及びEGFR抗体を最小限にした。
【0496】
実施例12二重特異性EGFR/c-Met抗体の特性評価
EGFR/c-Met二重特異性抗体EM1-mAbを、EGF刺激EGFRリン酸化
、HGF刺激c-Metリン酸化、ERK1/2リン酸化、AKTリン酸化、リガンド結
合の阻害、及び細胞生存率を含むその特性について異なるアッセイで試験した。EM1-
mAbの特性を、コントロールとしての一価のEGFR又はc-Met結合抗体、並びに
エルロチニブ(CAS 183321-74-6;チロシンキナーゼ阻害剤)及びセツキ
シマブ(CAS 205923-56-4)などの既知のEGFR阻害剤と比較した。
【0497】
EM1-mAb抗体の親抗体は二価であることから、コントロールの一価のEGFR及
びc-Met抗体は、二重特異性EM1-mAbの相乗効果及びアビディティを、対応す
るコントロール一価分子の混合物と対比して正確に比較するために、無関係/関連性のな
い抗原と結合するFabアームと組み合わされた二重特異性フォーマットで生成した。
【0498】
コントロールの一価のEGFR及びc-Met抗体を生成するため、配列番号198の
重鎖と配列番号209の軽鎖を含む一重特異性抗HIV gp120抗体gp120-K
409Rを生成した。配列番号197の重鎖と配列番号209の軽鎖を含む一重特異性抗
HIV gp120抗体gp120-K409Lを生成した。
【0499】
コントロールの一価の抗EGFR mAb E1-F405L-gp120-K409
Rを、E1-F405Lとgp120-K409Rとの間のインビトロFabアーム交換
によって生成し、コントロールの一価の抗-cMet mAb M1-K409R-gp
120-F405Lを、M1-K409Rとgp120-F405Lとの間のインビトロ
Fabアーム交換によって生成して、上記に述べたようにして精製した。
【0500】
以下の細胞株を、二重特異性抗体の特性評価に用いた。すなわち、NCI-H292(
American Type Culture Collection(ATCC)、カ
タログ番号CRL-1848)、NCI-H1975(ATCCカタログ番号CRL-5
908)、SKMES-1(ATCCカタログ番号HTB-58)、A431(ATCC
カタログ番号CRL-1555)、NCI-H441(ATCCカタログ番号HTB-1
74)、NCI-H3255(DCTD tumor/cell line repos
itory,NCI,Frederick,NCI-Navy Medical onc
ology Cell Line supplement.J Cell Bioche
m suppl 24,1996;Tracy S.cancer Res 64:72
41~4,2004;Shimamura T.cancer Res 65:6401
~8,2005)及びHCC-827(ATCCカタログ番号CRL-2868)。NC
I-H292及びSKMES-1細胞は、野生型EGFR及び野生型c-Metの両方を
発現する。NCI-3255は変異体L858R EGFRを発現し、EGFR及びc-
Metの増幅を示す。H1975は、変異体L858R/T790M EGFR及び野生
型c-Metを発現する。HCC-827は、Δ(E746,A750)EGFRを発現
し、EGFRの増幅を示す。細胞株NCI-H292、NCI-H975、NCI-H4
41及びNCI-H3255は、本明細書ではそれぞれ互換可能にH292、H975、
H441及びH3255と呼ばれる。
【0501】
細胞上のEGFR及びc-Metに対する二重特異性EGFR/c-Met抗体の結合
(A431細胞結合アッセイ)
二重特異性EGFR/c-Met抗体EM1-mAbを、実施例3(A431細胞結合
アッセイ)及び実施例6(H441細胞結合アッセイ)で述べたプロトコルを用いて細胞
上のEGFR及びc-Metとの結合について試験した。セツキシマブ及びEGFRに対
して一価のコントロール抗体E1-F405L-gp120-K409Rを、A431細
胞におけるコントロールとして用いた。セツキシマブのEC50値は、5.0nMであった
。表18に、結合のEC50値を示す。EM1-mAbは、二価一重特異性の親コントロー
ル抗体と比較した場合、1.9倍(A431細胞)及び2.3倍(H441細胞)の結合
力の低下を示した。セツキシマブは、二価の親コントロール抗体と同等であった。EM1
-mAbは、EGFR及びc-Metの一価の結合のために、親mAbの値よりも高いE
50の結合値を示している。EM1-mAbは、単一のアームのE1/不活性アーム及び
E2/不活性アームの二重特異性一価mAbと同様の結合のEC50値を有している。
【0502】
【表18】
【0503】
受容体へのリガンド結合の阻害
ELISAアッセイにおいて、二重特異性抗体を、EGFR細胞外ドメインに対するE
GFの結合及びc-Met細胞外ドメインに対するHGFの結合をブロックする能力につ
いて試験した。組換えヒトEGF R-Fc(R&D Systems,カタログ番号3
44-ER-050)又はヒトHGF(R&D Systems,カタログ番号294-
HGN-025/CF)をMSD HighBindプレート(Meso Scale
Discovery、メリーランド州ゲイザースバーグ)に室温で2時間コーティングし
た。MSD Blocker Aバッファ(Meso Scale Discovery
、メリーランド州ゲイザースバーグ)を各ウェルに加え、室温で2時間インキュベートし
た。プレートを0.1M HEPESバッファ(pH 7.4)で3回洗浄した後、蛍光
色素標識(MSD)したEGF又はビオチン化したHGFタンパク質と、異なる濃度の抗
体と、の混合物を加えた。ルテニウム標識したEGFタンパク質を、1nM~4μMまで
濃度を増大させた異なる抗体と室温で30分間インキュベートした。室温で穏やかに振盪
しながら2時間インキュベートした後、プレートを0.1M HEPESバッファ(pH
7.4)で3回洗った。MSD Read Buffer Tを希釈して分注し、SE
CTOR Imager6000によってシグナルを分析した。HGF阻害アッセイは、
10nMのビオチン化HGFを、1nM~2μMまで濃度を増大させた異なる抗体と室温
で30分間インキュベートした点以外は、EGF/EGFR阻害アッセイと同様にして行
った。
【0504】
EM1-mAbは、EGFRに対するEGFの結合を、50nMのEGFの存在下では
IC50値10.7nM±1.2で、また、80nMのEGFの存在下ではIC50値10.
6±1.5nMで阻害した。親二価抗体は、EGFRに対するEGFの結合を、50nM
のEGFの存在下ではIC50値0.14±1.5nMで、また、80nMのEGFの存在
下ではIC50値1.7±1.4nMで阻害した。EM1-mAbは、親二価mAbと比較
してEM1-mAbの一価の結合のために、EGFR細胞外ドメインに対するEGFの結
合のより弱い阻害を示した。
【0505】
EM1-mAbは、c-Metに対するHGFの結合を、IC50値29.9±1.5n
Mで阻害した。親二価抗体は、c-Metに対するHGFの結合を、IC50値14.8±
1.6nMで阻害した。EM1-mAbは、親二価mAbと比較してEM1-mAbの一
価の結合のために、c-Met細胞外ドメインに対するHGFの結合のより弱い阻害を示
した。
【0506】
EGF刺激EGFRリン酸化及びHGF刺激c-Metリン酸化の阻害
EGFR及びc-Metのリン酸化の阻害に対するIC50値を決定するために抗体を試
験した。EGF刺激EGFRリン酸化及びHGF刺激c-Metリン酸化の阻害を、実施
例2(「EGF刺激EGFRリン酸化の阻害」)及び実施例6(「HGF刺激c-Met
リン酸化の阻害」)で述べたように異なる抗体濃度(0.035~最終濃度700nM)
で評価した。いくつかの実施形態では、同じ細胞ライセートをEGFR及びc-Metの
リン酸化の両方の検出に使用できるように、EGF及びHGFの両方を細胞に加えた。
【0507】
EGFRに対して一価のコントロールとしての抗EGFR mAb E1-F405L
-gp120-K409R及び低フコース含量の親二価抗EGFR抗体を、コントロール
抗体として使用した。表19に、アッセイのIC50値を示す。
【0508】
【表19】
*抗体は低フコース含量を有していた。
【0509】
一価抗体の混合物と比較したEM1-mAbによるpERK及びpAKTの阻害の増大
(mAb pERKアッセイ)(mAb pAKTアッセイ)
二重特異性EGFR/c-Met抗体による効能の増大の可能性について、pERK及
びpAKTの下流のシグナル伝達に対するmAbの影響を評価することによって評価を行
った。これらの実験では、一価のコントロールEGFR抗体と一価のコントロールc-M
et抗体の混合物を、二重特異性EM1-mAbと比較した。細胞を、透明な96ウェル
の組織培養処理したプレート(Nunc)中、1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco
)、0.1mM NEAA(Gibco)、10%熱不活性化ウシ胎児血清(Gibco
)、及び7.5ng/mL HGF(R&D Systemsカタログ番号294-HG
N)を添加した、GlutaMAX及び25mM Hepes(Invitrogen)
を含む100μL/ウェルのRPMI培地中に播種し、加湿した5%CO2雰囲気中、3
7℃で一晩付着させた。細胞は血清飢餓処理を行わなかった。細胞を、異なる濃度(0.
11~最終濃度700nM)の一価コントロール抗体又はEM1-mAbで30分間(p
ERKアッセイ)又は1時間(pAktアッセイ)、処理した。
【0510】
細胞を、Meso Scale Discoveryより販売される以下のキットを使
用し、製造者の指示に従ってpERK又はpAKTレベルについて評価した。すなわち、
Phospho-ERK1/2(Thr202/Tyr204;Thr185/Tyr1
87)アッセイ用全細胞ライセートキット(カタログ番号K151DWD)、Phosp
ho-Akt(Ser473)アッセイ用全細胞ライセートキット(カタログ番号K15
1CAD)、Phospho-Akt(Thr308)アッセイ用全細胞ライセートキッ
ト(カタログ番号K151DYD)。pERKアッセイでは、細胞を溶解し、全細胞ライ
セートを、抗リン酸化ERK1/2抗体(残基Thr202及びTyr204でリン酸化
されたERK1、及び残基Thr185及びTyr187でリン酸化されたERK2を認
識する)でコーティングされたプレートに加え、リン酸化されたERK1/2を、MSD
SULFO-TAG(商標)試薬と接合した抗全ERK1/2抗体により検出した。p
AKT Ser473アッセイでは、捕捉抗体は抗全AKT抗体とし、検出抗体は、MS
D SULFO-TAG(商標)試薬と接合した抗pAKT Ser473抗体とした。
pAKT Thr308アッセイでは、捕捉抗体は抗全AKT抗体とし、検出抗体は、M
SD SULFO-TAG(商標)試薬と接合した抗pAKT Thr308抗体とした
【0511】
各プレートを、製造者によりインストールされたアッセイ固有の初期設定を用いて S
ECTOR(登録商標)Imager 6000装置(Meso Scale Disc
overy)で読み取った。データを抗体濃度の対数に対して電気化学発光シグナルとし
てプロットし、GraphPad Prism 5ソフトウェアを使用して変化する傾き
を有するS字状用量反応曲線にデータをフィッティングすることによりIC50値を求めた
。これらのアッセイでは、NCI-H292、H1975、及びSKMES-1細胞株を
使用した。
【0512】
二重特異性EM1-mAbによるERKリン酸化の阻害のIC50は、試験した細胞株に
応じて、2つの一価コントロール抗体の混合物と比べて約14~63倍低かった(表20
)。2つの一価コントロール抗体の混合物と比較して向上したEM1-mAbdの効能は
、これらの細胞株に対するEM1-mAbの増大した結合性による協調的すなわち親和性
効果を示している。NCI-H1975細胞株におけるSer475(pAKTS475
)及びThr308(pAKTT308)AKTのリン酸化の阻害のIC50は、2つの一
価コントロール抗体の混合物と比較した場合に、それぞれ75倍及び122倍低かった(
表21)。2つの一価コントロール抗体の混合物と比較して向上したEM1-mAbdの
効能は、これらの細胞株に対するEM1-mAbの増大した結合性による協調的すなわち
親和性効果を示している。したがって、EM1-mAbの二重特異性によって、下流のシ
グナル伝達エフェクタに増大した作用がもたらされた。
【0513】
【表20】
【0514】
【表21】
【0515】
抗体によるヒト腫瘍細胞の増殖又は生存率の阻害
c-Met依存性細胞増殖の阻害を、二重特異性EM1-mAbへの曝露後に異なる腫
瘍細胞の生存率を測定することによって評価した。この試験では、NCI-H292、S
KMES-1、NCI-H1975及びNCI-H3255細胞を使用した。
【0516】
細胞は標準的な2D及び低付着フォーマットで培養した。エルロチニブ及びセツキシマ
ブをコントロールとして使用した。表22にアッセイのIC50値をまとめて示す。
【0517】
抗体によるヒト腫瘍細胞増殖又は生存率の阻害(標準2Dフォーマット)
細胞増殖の阻害を、2つのフォーマットで抗体に曝露した後で、NCI-H292及び
NCI-H1975の生存率を測定することによって評価した。標準2Dフォーマットで
は、細胞を、不透明な白色の96ウェルの組織培養処理したプレート(PerkinEl
mer)中、1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco)、0.1mM NEAA(Gi
bco)、及び10%熱不活化ウシ胎児血清(Gibco)を添加した、GlutaMA
X及び25mM Hepes(Invitrogen)を含むRPMI培地(Gibco
)中に播種し、37℃、5% CO2で一晩付着させた。細胞を、HGF(7.5ng/
mL,R&D Systemsカタログ番号294-HGF)とともに、異なる濃度の抗
体(0.035~最終濃度700nM)で処理してから、37℃、5% CO2で72時
間インキュベートした。一部のウェルは、コントロールとしてHGFによっても抗体によ
っても処理しないままとした。生存細胞を、CellTiter-Glo(登録商標)試
薬(Promega)を用いて検出し、データを、実施例3の「ヒト腫瘍細胞増殖の阻害
(NCI-H292増殖及びNCI-H322増殖アッセイ)」で述べたように分析した
【0518】
抗体によるヒト腫瘍細胞増殖又は生存率の阻害(低付着フォーマット)
低付着条件での生存率を評価するため、細胞を、Ultra Low Attachm
ent96ウェルプレート(Corning Costar)中、1mMピルビン酸ナト
リウム(Gibco)、0.1mM NEAA(Gibco)、及び10%熱不活化ウシ
胎児血清(Gibco)を添加した、GlutaMAX及び25mM Hepesを含む
50μL/ウェルのRPMI培地(Invitrogen)中に播種し、37℃、5%
CO2で一晩付着させた。細胞を、HGF(7.5ng/mL,R&D Systems
カタログ番号294-HGN)とともに、異なる濃度の抗体(0.035~最終濃度7
00nM)で処理してから、37℃、5% CO2で72時間インキュベートした。一部
のウェルは、コントロールとしてHGFによっても抗体によっても処理しないままとした
。生存細胞をCellTiter-Glo(登録商標)試薬(Promega)を用いて
検出し、発光を読み取る前にライセートを不透明な白色の96ウェルの組織培養処理した
プレート(PerkinElmer)に移した点以外は、実施例3の「ヒト腫瘍細胞増殖
の阻害(NCI-H292増殖及びNCI-H322増殖アッセイ)」で述べたようにデ
ータを分析した。
【0519】
EM1-mAbは、標準2D培養ではNCI-H292の増殖を31nMのIC50で、
低付着条件では0.64nMのIC50で阻害した。EM1-mAbは、NCI-H197
5細胞の増殖を、標準2Dでは700nMよりも高いIC50で、低付着培養では0.8~
1.35nMでそれぞれ阻害した。野生型EGFR及びcMetの両方を発現するNCI
-H292細胞では、EM1-mAbは、セツキシマブと比較して標準2Dで22倍を上
回る高い効能を、低付着培養条件では、約330倍高い効能を有していた。L858R、
T790M EGFR変異体、及び野生型cMetを発現するNCI-H1975細胞で
は、EM1-mAbは、低付着培養条件のセツキシマブと比較して少なくとも518倍高
い効能を有していた。表22に、各アッセイの概要を示す。
【0520】
【表22】
【0521】
エルロチニブとEM1-mAbの組み合わせは、EGFR変異体細胞株の増殖の阻害に
おいて効率的である
エルロチニブとEM1-mAbの組み合わせによる細胞増殖の阻害を、標準2D培養条
件及び低付着フォーマットの両方で評価した。NCI-H3255及びHCC-827細
胞を、上記の「抗体によるヒト腫瘍細胞増殖又は生存率の阻害」で述べたように播種した
。HGF(7.5ng/mL,R&D Systemsカタログ番号294-HGN)を
、抗体による処理とともに細胞に加えた。細胞を、異なる濃度の抗体(0.11~最終濃
度700nM)、又はエルロチニブ(0.46~最終濃度3000nM)、又はエルロチ
ニブと抗体の組み合わせ(固定された比でそれぞれの量を増加させて使用(例えば、最低
濃度の組み合わせ=最低濃度の抗体(0.11nM)+最低濃度のエルロチニブ(0.4
6nM))によって処理した。一部のウェルは、コントロールとしてHGFによっても抗
体によっても処理しないままとした。細胞を、37℃、5% CO2で72時間インキュ
ベートしてから、生存細胞をCellTiter-Glo(登録商標)試薬(Prome
ga)を用いて検出し、上記で「ヒト腫瘍細胞増殖の阻害(NCI-H292増殖及びN
CI-H322増殖アッセイ)」において述べたようにデータを分析した。表23に、実
験結果をまとめて示す。表中、組み合わせのIC50値は、括弧内に示されているものに応
じて、抗体又はエルロチニブのいずれかに対するものである。
【0522】
NCI-H3255及びHCC-827細胞(EGFR変異体細胞株)の両方において
、EM1-mAbをエルロチニブに加えることによって、細胞生存率の阻害の効能が増大
し、かつより効果的となり、その結果、全体的な生存細胞の数が少なくなった。標準2D
条件を用いたNCI-H3255細胞では、エルロチニブ単独でのIC50は122nMで
あったのに対して、組み合わせでは49nMであった。同様に、HCC-827細胞では
、エルロチニブ単独でのIC50は27nMであったのに対して、組み合わせでは15nM
であった。また、エルロチニブとEM1-mAbの組み合わせは、エルロチニブとセツキ
シマブの組み合わせよりも効果的であった。したがって、HGFの存在下では、EM1-
mAbを加えることにより、このアッセイにおけるエルロチニブの効果が高められた。
【0523】
NCI-H3255細胞は、L858R変異体EGFR及び増幅されたcMetを発現
する。HCC-827細胞は、746位及び750位のアミノ酸が欠失したEGFR変異
体及び野生型c-Metを発現する。EM1-mAbは、標準培養又は低付着培養のいず
れかで、エルロチニブ単独よりもエルロチニブの存在下でHCC-827及びNCI-3
255の生存率に強い影響をもたらす。
【0524】
【表23】
【0525】
実施例13インビトロ細胞株におけるEM1-mAbの抗体媒介細胞毒性(ADCC)
ADCCアッセイを、前述のように行った(Scallon et al.,Mol
Immunol 44:1524~1534 2007)。簡単に述べると、ヒト血液か
らPBMCをFicoll勾配により精製し、ADCCアッセイ用のエフェクター細胞と
して使用した。NCI-H292、NCI-H1975又はNCI-H441細胞を標的
細胞として、エフェクター細胞50個に対して標的細胞1個の比で使用した。標的細胞を
BATDA(PerkinElmer)により37℃で20分間前標識し、2回洗浄し、
DMEM、10%熱不活性化FBS、2mM L-グルタミン(いずれもInvitro
gen)中に再懸濁した。標的(1×104細胞)とエフェクター細胞(0.5×106
胞)を合わせ、100μlの細胞を96ウェルU字底プレートのウェルに加えた。追加の
100μlを、野生型及びプロテアーゼ耐性mAbコンストラクトとともに、又はこれら
なしで加えた。試料はすべて、二重に行った。プレートを200Gで3分間遠心分離し、
37℃で2時間インキュベートしてから、200Gで3分間再び遠心分離した。各ウェル
当たり合計20μLの上清を除去し、DELPHIA Europium系試薬(Per
kinElmer)200μLを加えることによって細胞の溶解を測定した。Envis
ion 2101 Multilabel Reader(PerkinElmer)を
使用して蛍光を測定した。データを、0.67% TritonX-100(Sigma
Aldrich)により最大細胞毒性に対して正規化し、下式を用いて抗体の非存在下
での標的細胞からのBATDAの自然放出により最小コントロールを求めた。すなわち(
実験放出量-自然放出量)/(最大放出量-自然放出量)×100%。データは、Gra
phPad Prism v5を使用して、S字状用量応答モデルにフィッティングした
【0526】
EM1-mAb及び比較試料のADCCの結果を、表24(NCI-H292細胞)、
表25(NCI-H1975細胞)及び表26(NCI-H441細胞)及び表27(N
CI-H1993細胞)に要約し、得られたEC50値及び最大の溶解率を示した。NCI
-H292細胞は、野生型(WT)EGFR、WT c-Met、及びWT KRASを
発現し、NCI-H1975細胞は、変異体EGFR(L858R T790M)、WT
cMet及びWT KRASを発現し、NCI-H441は、WT EGFR、WT
cMet、及び変異体KRAS(G12V)を発現し、NCI-H1993細胞は、WT
EGFR、増幅cMet、WT KRASを発現する。KRASは、GTPase K
Rasとして、また、V-Ki-ras2 Kirstenラット肉腫ウイルス癌遺伝子
ホモログとしても知られている。
【0527】
EM1-mAbは、より低いEC50値を有することにより示されるように、セツキシマ
ブ及びEM1-mAbの正常フコース型よりも高いADCC応答の効能を有している。E
M1-mAbは、得られた最大溶解度に関して、セツキシマブ及び正常フコース型二重特
異性mAbよりも高い有効性を有している。表24~27のプロファイルより、EM-1
mAbは、変異体及び野生型のEGFR、正常及び増幅されたc-Metのレベルを有
する野生型、並びに野生型及び変異体KRASを有する細胞にADCC活性を有すること
が分かる。
【0528】
【表24】
【0529】
【表25】
【0530】
【表26】
【0531】
【表27】
【0532】
実施例14 EM1-mAbによる腫瘍有効性試験
腫瘍増殖に対するEM1-mAbの有効性試験を、実施例7の「二重特異性EGFR/
c-Met分子による腫瘍有効性試験」で述べたように行った。簡単に述べると、2×1
6個のNCI-H292-HGF細胞を、雌性SCID Beigeマウスの皮下(s
.c.)にCultrexとともにを移植した。移植7日後に、マウスを腫瘍体積によっ
て各群10匹の5群に分類した。1群当たりの開始平均腫瘍体積が62~66mm3(小
さい腫瘍)の範囲となった後、投与を開始した。PBS又は治療用抗体を週2回腹腔内(
i.p.)投与した。
【0533】
この有効性の評価では、ヒトHGF(肝細胞増殖因子)をトランスフェクトしたヒト扁
平上皮細胞癌であるSKMES-HGFも使用した。10×106個のこれらの細胞を雌
性SCID Beigeマウスの皮下に移植した。移植12日後に、これらのマウスを腫
瘍体積によって各群8匹の5群に分類した。1群当たりの開始平均腫瘍体積が98~10
1mm3(大きい腫瘍)の範囲となった時点で、最初の試験を開始した。PBS又は治療
用mAbを週2回、4週間にわたって腹腔内投与した。大きなサイズの腫瘍での試験では
、腫瘍体積が約200~300mm3となった後、マウスを2群に分けることによって分
類した。次に、これらのマウスをセツキシマブ(20mg/kg)又はEM1-mAb(
20mg/kg)を週2回(3週間)腹腔内投与して処置した。
【0534】
データの概要を表28に示す。図10に経時的な分子の有効性を示す。EM1-mAb
は、H292-HGFの小腫瘍モデル並びにSKMES-HGFの小腫瘍及び大腫瘍モデ
ルにおいてセツキシマブと比較して高い腫瘍抑制プロファイルを有している。
【0535】
【表28】
【0536】
表29にSKMES-HGF腫瘍からの処置群における腫瘍サイズを示し、表30に抗
腫瘍活性を示す。
【0537】
EM1-mAbは、SKMES-HGFモデルにおいて1mg/kgまで下げた複数の
用量で腫瘍増殖を97%以上阻害した。セツキシマブは初期において非常に効果的であっ
た(20mg/kgで88% TGI)が、投与の終了後、セツキシマブで処置された腫
瘍は再増殖した。これに対して、5又は20mg/kgのEM1-mAbで処置した腫瘍
は、試験期間(2ヶ月以上)にわたって再増殖しなかった。
【0538】
【表29】
【0539】
【表30】
【0540】
実施例15インビトロでのEM1-mAbによる細胞遊走の阻害
方法
腫瘍細胞の遊走の阻害に対するEM-mAb及びコントロール一価抗体の影響をNIH
-1650細胞で評価した。EGFR変異体腫瘍細胞株H1650(エクソン19に変異
を有する(欠失E746、A750)肺細気管支肺胞性癌細胞を、通常の培養条件下(3
7℃、5% CO2、湿度95%)で組織培養フラスコ中で培養した。すべての培地及び
添加物質は、細胞の供給元により推奨されるものとした(American Type
Culture Collection,米国バージニア州マナッサス)。
【0541】
10,000細胞/ウェルのH1650肺腫瘍細胞を「U」字底Ultra Low
Adherence(ULA)96穴プレート(Corning、米国、テュークスベリ
ー)に200μL/ウェルで播種することによってスフェロイドを生成した。これらのプ
レートは、24時間以内(37℃、5% CO2でのインキュベーションにより)に1個
の細胞スフェロイドの自然形成を刺激し、これらのスフェロイドを4日間、通常の培養条
件下で増殖させた。
【0542】
丸底96穴プレート(BD Bioscience)を滅菌水中、0.1%ゼラチン(
EMD Millipore、米国、ビルリカ)で1時間、37℃でコーティングした。
化合物評価試験では、4日目の10,000個の細胞からなる腫瘍スフェロイド(H16
50及びNCI-H1975)を、コーティングされた丸底プレートに移し、20ng/
mlのHGF(R&D systems)により連続希釈した、EM1-mAb、コント
ロールの低フコース含量の一価抗EGFR mAb E1-F405L-gp120-K
409R、コントロールの低フコース含量の一価抗cMet mAb M1-K409R
-gp120-F405L、及び2種類の一価抗体E1-F405L-gp120-K4
09R及びM1-K409R-gp120-F405Lの組み合わせ(低フコースで生成
したもの)で処理した。コントロールは、IgG1κアイソタイプコントロール(最も高
濃度の薬物処理細胞に等しい濃度)である溶媒で処理した。化合物の作用を、48時間後
に、対物2倍の完全自動化Operetta高含量イメージングシステム(Perkin
Elmer)で明視野像を用いて、遊走細胞によって覆われた面積を測定することによ
り分析した。処理の効果による細胞遊走の阻害率(全面積)を、媒質のみのコントロール
の値で割ることによってデータを正規化してコントロールに対する細胞遊走率(%)を得
ることにより評価した。したがって、1未満の値は細胞遊走に対して阻害的とみなされる
【0543】
結果
EM1-mAbは、コントロールの一価の抗EGRF及び抗c-Met抗体E1-F4
05L-gp120-K409R及びM1-K409R-gp120-F405Lの組み
合わせと比較した場合に、H1650(L858R EGFR変異体)及びH1975(
L858R/T790M EGFR変異体)細胞における細胞遊走の強い相乗的阻害を示
したH1650細胞では、EM1-mAbの高い方から6つの濃度で、アイソタイプコン
トロールと比較して細胞遊走が有意に阻害された(p<0.001)。EM1-mAbの
EC50値が0.23nMであったのに対して、一重特異性コントロール抗体の組み合わせ
のEC50値は4.39nMであった。したがって、EM1-mAbは、H1650細胞の
遊走を阻害するうえで一価のコントロール抗体の組み合わせと比較して約19倍より効率
的であった。EM1-mAbの細胞遊走阻害のレベルは、H1650及びH1975細胞
に対する一重特異性コントロールmAbの組み合わせよりも優れていた。表31に、アッ
セイのEC50値を示す。
【0544】
【表31】
*抗体は低フコース含量を有する
【0545】
実施例16抗c-Met抗体069及び5D5のエピトープマッピング
抗c-Met mAb 069結合エピトープを、直鎖状及び拘束型CLIPSペプチ
ド技術を用いてマッピングした。これらのペプチドでヒトcMetのSEMA、PSI及
びIgドメインをスキャンした。標準的なFmoc化学反応を用いて上記のc-Metの
アミノ酸配列を使用して直鎖状及びCLIPSペプチドを合成し、スカベンジャーを含む
三フッ素酸を用いて脱保護した。Chemically linked Peptide
s on Scaffolds(CLIPS)技術(Timmermanら,J Mol
Recognition 20:283,2007)を用い、拘束型ペプチドを化学骨
格上で合成することによってコンフォーメーショナルエピトープを再構築した。直鎖状及
び拘束型ペプチドを、PEPSCAN based ELISA(Slootstra
et al.,Molecular Diversity 1,87~96,1996)
を用いてPEPSCANカードに結合させてスクリーニングを行った。抗c-Met m
ab069結合エピトープは、c-Metのアミノ酸239~253 PEFRDSYP
IKYVHAF(配列番号238)及び346~361 FAQSKPDSAEPMDR
SA(配列番号239)からなる不連続エピトープである。c-Metアミノ酸配列を配
列番号201に示す。
【0546】
同様の方法を用いて、mAb 5D5(MetMab,オナルツズマブ)エピトープを
マッピングした。mAb 5D5はc-Met残基325~340 PGAQLARQI
GASLNDD(配列番号240)に結合する。
【0547】
実施例17 EM1-mAbによるインビボ腫瘍有効性試験
腫瘍増殖に対するEM1-mAbの有効性試験を、EGFR変異又はEGFR及び/若
しくはc-Met増幅を有する更なる腫瘍細胞株を用いて実施例7の「二重特異性EGF
R/c-Met分子による腫瘍有効性試験」及び実施例14で述べたように行った。簡単
に述べると、SNU-5、H1975、HCC827細胞、ヒトHGFを発現するH19
75細胞、又は、エルロチニブに対する高い耐性について選択されたHCC827細胞の
クローン(HCC827-ER1細胞)を雌性ヌードマウスの皮下(s.c.)に移植し
たが、SNU-5細胞はCR17/SCIDマウスに移植した。マウスに、PBS若しく
はEM1-mAb、セツキシマブ(CAS 205923-56-4)、エルロチニブ(
CAS 183321-74-6)、アファチニブ(CAS 439081-18-2)
、又はEM-1mAbとアファチニブ、及びEM-1mAbとエルロチニブの組み合わせ
を、表32に示される用量及びスケジュールで腹腔内投与した。抗腫瘍有効性を、100
-T/C(%)(T=実施例7に述べたような特定の日における処理群の平均腫瘍サイズ
、C=コントロール群の平均腫瘍サイズ)として計算したTGI(%)(組織増殖阻害率
)として測定した。
【0548】
一次EGFR活性化変異(EGFR TKIに対する耐性を有さない)を有する腫瘍(
HCC827腫瘍、EGFR del(E746,A750))では、10mg/kgで
投与されたEM1-mAbは、腫瘍増殖を82%阻害した。エルロチニブはこのモデルで
は同様に効果的であり、エルロチニブとEM1-mAbの組み合わせも同様に効果的であ
った。図11に、HCC827腫瘍モデルにおける経時的な治療剤の有効性を示す。
【0549】
野生型EGFR及びc-Met遺伝子の増幅を有する腫瘍(胃癌モデルSNU-5)で
は、EM1-mAbは、完全腫瘍縮小をともなう抗腫瘍活性を示した(一元配置分散分析
に続いてGames-Howell法を用いた個々の比較により溶媒と比較した場合、3
4日目で98%のTGI(p<0.01))。このモデルでは、抗EGFR mAbであ
るセツキシマブの抗腫瘍活性はより低く、34日目で49%であった。図12に、SNU
-5モデルにおける経時的な治療剤の有効性を示す。
【0550】
一次EGFR活性化変異及び腫瘍を第1世代EGFR TKIに対して抵抗性にするT
790M EGFR変異を有するNSCLCモデルにおいてEM1-mAbを試験した(
H1975モデル)。EM1-mAbは、Prism 3.03によるLongrank
分析を用いてPBS溶媒と比較した場合に、ヌードマウスに移植されたH1975細胞株
モデルにおいて57% TGIで腫瘍増殖を阻害した(p<0.0001)。予想された
とおり、エルロチニブは、T790Mを有するこのモデルでは有効ではなかった。アフィ
チニブは、EM1-mAbと同程度に有効であった(57% TGI)。セツキシマブ及
びEM1-mAbとアフィチニブとの組み合わせが最も有効であり、それぞれ91%及び
96%の腫瘍増殖阻害率で腫瘍を縮小させた(Prism 3.03によるLongra
nk分析を用いてPBSと比較したセツキシマブ、及びPBS+アフィチニブ溶媒群と比
較したEM1-mAb+アフィチニブの両方で、p<0.0001)。マウスHGFはヒ
トc-Metに結合しないため、このモデルでは、c-Metシグナル伝達経路は活性化
されていない。
【0551】
レンチウイルストランスダクション系を用いてヒトHGFを発現するように操作した複
数のモデルにおいてEM1-mAbを試験した。マウスHGFは移植されたヒト腫瘍細胞
上のヒトc-Metを活性化しないことから、これによりc-Met経路のリガンド活性
化をインビボでモデル化することが可能である。SKMES-HGFモデルの結果を実施
例14及び図10に示し、TGI(%)を表32にまとめて示す。EM1-mAbは、H
1975-HGFモデルにおける腫瘍増殖を71%阻害した(Prism 3.03によ
るLongrank分析を用いてPBS溶媒と比較した場合にp<0.0001)。この
モデルでは、アフィチニブ、エルロチニブ、及びセツキシマブは有効性がより低かった。
EM1-mAbとアフィチニブの組合わせは極めて有効であった(Prism 3.03
によるLongrank分析を用いてPBS+アフィチニブ溶媒群と比較した場合に96
% TGI、p<0.0001)。図13に、H1975-HGFモデルにおける経時的
な分子の有効性を示す。したがって、エルロチニブ、アフィチニブ、及びセツキシマブは
、c-Met経路が活性化されている腫瘍モデルでは抗腫瘍有効性を失う。
【0552】
EM1-mAbを、一次EGFR活性化変異及びc-Met遺伝子増幅による第1世代
EGFR TK1(エルロチニブ)に対する高い耐性によって特徴付けられる腫瘍モデル
(HCC827-ER1モデル)において試験した。10mg/kgで投与されたEM1
-mAbは、移植されたHCC827-ER1腫瘍を25日目で86% TGIで部分縮
小させ、エルロチニブ単独(25日目で65% TGI)よりも有効性が高かった。EM
1-mAbとエルロチニブの組合わせでは、有効性はそれ以上高くならなかった。図14
に経時的な分子の有効性を示す。
【0553】
したがって、EM1-mAbは、野生型EGFRを有する腫瘍モデル、一次活性化EG
FR変異を有する腫瘍モデル、EGFR治療剤に対する耐性をともなうEGFR変異T7
90Mを有する腫瘍モデル、並びに、c-Metがリガンド依存的(自己分泌HGF発現
)又はリガンド非依存的(c-Met遺伝子の増幅)に活性化されているモデルにおいて
有効性を示した。EM1-mAbとエルロチニブ又はアフィチニブとの組合わせでは、特
定の腫瘍モデルにおいて有効性が高くなり得る。
【0554】
【表32-1】
【0555】
【表32-2】
BIW=週2回
QD=1日1回
WT=野生型
AMP=増幅された
【0556】
実施例18インビボでのEGFR及びc-MetのEM1-mAb誘導分解
腫瘍内におけるEM1-mAbのEGFR及びc-Metの両方との関与を実証するた
め、20mg/kgのEM1-mAbの単回投与後の異なる時点においてH1975-H
GF腫瘍から試料を採取した。腫瘍ライセートを調製し、全タンパク質に対して正規化し
、試料をSDS-PAGEゲルにかけた。ゲルをニトロセルロースに移し、EGFR(マ
ウス(mAb)抗ヒトEGFR(EGF-R2);Santa Cruz Biotec
hnology,カタログ番号)又はc-Met(マウス(mAb)抗ヒトMet(L4
1G3);Cell Signaling Technology,カタログ番号314
8)についてウエスタンブロットを行った。EGFRレベルはGAPDHに対して正規化
し、c-Metレベルはアクチンに対して正規化した。EGFRで処理した腫瘍の受容体
のレベルをPBSで処理した腫瘍の受容体のレベルと比較して全受容体の比率(%)を求
めた。EM1-mAb処理によって、H1975-HGF腫瘍における全EGFR及びc
-Met受容体レベルは、分析を行った時点に応じてコントロールの20%~60%に減
少した。図15は、経時的にPBSと比較した平均の受容体レベルを示す。pEGFR、
pc-Met及びpAKTもEM1の単回投与の72時間後に減少した。
【0557】
実施例19 EGFR/c-Met二重特異性mAbのIgG1及びIgG2δ変異体ア
イソフォームを比較する抗腫瘍活性
H1975-HGFモデルで観察された有効性に対するエフェクター機能の寄与をより
深く理解するために、EM1-mAbと、IgG2にエフェクターサイレンシング置換V
234A/G237A/P238S/H268A/V309L/A330S/P331S
(国際特許公開特許第WO2011/066501号に述べられる置換)(番号付けはE
Uインデックスに基づく)を有するIgG2 Fcを有するEM1-mAbの変異体との
比較を行った。V234A/G237A/P238S/H268A/V309L/A33
0S/P331S置換を有するIgG2抗体は、Fc受容体ともエフェクター細胞(NK
細胞及びマクロファージなど)とも相互作用しない。EM1-mAbのIgG2 V23
4A/G237A/P238S/H268A/V309L/A330S/P331S変異
体で観察された活性の喪失は、ADCC及び/又はADCPなどのエフェクター介在機構
が寄与する抗腫瘍活性を表し得る。上述のH1975-HGFモデルへの腫瘍細胞移植後
32日目に、親EM1-mAbと比較した場合にIgG2 V234A/G237A/P
238S/H268A/V309L/A330S/P331S変異体による抗腫瘍活性の
喪失の兆候が認められ、エフェクター介在機構がEM1-mAbの機能に寄与しているこ
とが示唆された。図16に、分子の抗腫瘍活性を示す。
【0558】
【表33-1】
【0559】
【表33-2】
【0560】
【表33-3】
【0561】
【表33-4】
【0562】
【表33-5】
【0563】
配列番号73,PRT,ヒト、EGFR(アミノ酸24個のシグナル配列を含む。成熟
タンパク質は残基25から開始)
【0564】
【0565】
【表34】
【0566】
配列番号75,PRT,ヒト、テネイシンC
【0567】
【0568】
【表35】
【0569】
>配列番号101
PRT
ヒト
cMet
【0570】
【0571】
【表36-1】
【0572】
【表36-2】
【0573】
【表36-3】
【0574】
【表36-4】
【0575】
【表36-5】
【0576】
【表36-6】
【0577】
【表36-7】
【0578】
【表36-8】
【0579】
>配列番号179
PRT
人工配列
EGFR結合FN3ドメインのFGループ
HNVYKDTNX9RGL;
ただし、X9は、M又はIである。
【0580】
>配列番号180
PRT
人工配列
EGFR結合FN3ドメインのFGループ
LGSYVFEHDVML(配列番号180),
【0581】
>配列番号181
PRT
人工配列
EGFR結合FN3ドメインのBCループ
12345678(配列番号181);ただし、
1は、A、T、G又はDであり、
2は、A、D、Y又はWであり、
3は、P、D又はNであり、
4は、L又は存在せず、
5は、D、H、R、G、Y又はWであり、
6は、G、D又はAであり、
7は、A、F、G、H又はDであり、
8は、Y、F又はLである。
【0582】
>配列番号182
PRT
人工配列
EGFR結合FN3ドメイン
LPAPKNLVVSEVTEDSLRLSWX12345678DSFLIQ
YQESEKVGEAINLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYTVSIYGV
HNVYKDTNX9RGLPLSAEFTT(配列番号182),
1は、A、T、G又はDであり、
2は、A、D、Y又はWであり、
3は、P、D又はNであり、
4は、L又は存在せず、
5は、D、H、R、G、Y又はWであり、
6は、G、D又はAであり、
7は、A、F、G、H又はDであり、
8は、Y、F又はLであり、
9は、M又はIである。
【0583】
>配列番号183
PRT
人工配列
EGFR結合FN3ドメイン
LPAPKNLVVSEVTEDSLRLSWX12345678DSFLIQ
YQESEKVGEAINLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYTVSIYGV
LGSYVFEHDVMLPLSAEFTT(配列番号183),
ただし、
1は、A、T、G又はDであり、
2は、A、D、Y又はWであり、
3は、P、D又はNであり、
4は、L又は存在せず、
5は、D、H、R、G、Y又はWであり、
6は、G、D又はAであり、
7は、A、F、G、H又はDであり、
8は、Y、F又はLである。
【0584】
>配列番号184
PRT
人工配列
c-Met結合FN3ドメインのC鎖及びCDループの配列
DSFX10IRYX11E X12131415GX16(配列番号184),ただし、
10は、W、F又はVであり、
11は、D、F又はLであり、
12は、V、F又はLであり、
13は、V、L又はTであり、
14は、V、R、G、L、T又はSであり、
15は、G、S、A、T又はKであり、
16は、E又はDである。
【0585】
>配列番号185
PRT
人工配列
c-Met結合FN3ドメインのF鎖及びFGループ
TEYX17VX18IX1920V KGGX2122SX23(配列番号185),ただし
17は、Y、W、I、V、G又はAであり、
18は、N、T、Q又はGであり、
19は、L、M、N又はIであり、
20は、G又はSであり、
21は、S、L、G、Y、T、R、H又はKであり、
22は、I、V又はLであり、
23は、V、T、H、I、P、Y又はLである。
【0586】
>配列番号186
PRT
人工配列
c-Met結合FN3ドメイン
LPAPKNLVVSRVTEDSARLSWTAPDAAFDSFX10IRYX11
12131415GX16AIVLTVPGSERSYDLTGLKPGTEYX17VX18
IX1920VKGGX2122SX23PLSAEFTT(配列番号186)、
ただし、
10は、W、F又はVであり、
11は、D、F又はLであり、
12は、V、F又はLであり、
13は、V、L又はTであり、
14は、V、R、G、L、T又はSであり、
15は、G、S、A、T又はKであり、
16は、E又はDであり、
17は、Y、W、I、V、G又はAであり、
18は、N、T、Q又はGであり、
19は、L、M、N又はIであり、
20は、G又はSであり、
21は、S、L、G、Y、T、R、H又はKであり、
22は、I、V又はLであり、
23は、V、T、H、I、P、Y又はLである。
【0587】
>配列番号187
PRT
人工配列
二重特異性EGFR/c-MetFN3ドメイン含有分子のEGFR FN3ドメイン
LPAPKNLVVSX24VTX25DSX26RLSWDDPX27AFYX28SFLIQ
YQX29SEKVGEAIX30LTVPGSERSYDLTGLKPGTEYTVSIY
31VHNVYKDTNX32RGLPLSAX33FTT(配列番号187)ただし、
24は、E、N又はRであり、
25は、E又はPであり、
26は、L又はAであり、
27は、H又はWであり、
28は、E又はDであり、
29は、E又はPであり、
30は、N又はVであり、
31は、G又はYであり、
32は、M又はIであり、
33は、E又はIである。
【0588】
>配列番号188
二重特異性EGFR/c-MetFN3ドメイン含有分子のc-MetFN3ドメイン
LPAPKNLVVSX34VTX35DSX36RLSWTAPDAAFDSFWIRYF
37FX383940GX41AIX42LTVPGSERSYDLTGLKPGTEYVVN
IX4344VKGGX45ISPPLSAX46FTT(配列番号188);ただし、
34は、E、N又はRであり、
35は、E又はPであり、
36は、L又はAであり、
37は、E又はPであり、
38は、V又はLであり、
39は、G、又はSであり、
40は、S又はKであり、
41は、E又はDであり、
42は、N又はVであり、
43は、L又はMであり、
44は、G又はSであり、
45は、S又はKであり、
46は、E又はIである。
【0589】
>配列番号189
EGFR mAb E1 VH
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFSTYGMHWVRQ
APGKGLEWVAVIWDDGSYKYYGDSVKGRFTISRDNSKNTL

LQMNSLRAEDTAVYYCARDGITMVRGVMKDYFDYWGQGT
LVTVSS
【0590】
>配列番号190
EGFR mAb E1 VL
AIQLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDISSALVWYQQK
PGKAPKLLIYDASSLESGVPSRFSGSESGTDFTLTISSLQ

EDFATYYCQQFNSYPLTFGGGTKVEIK
【0591】
>配列番号191
EGFR mAb E2 VH
1 EVQLVESGGG LVQPGGSLRL SCAASGFTFS SYWM
NWVRQA PGKGLEWVAN IKKDGSEKYY
61 VDSVKGRFTI SRDNAKNSLY LQMNSLRAED TAV
YYCARDL GWGWGWYFDL WGRGTLVTVS
121 S
【0592】
>配列番号192
EGFR mAb E2 VL
1 EIVLTQSPAT LSLSPGERAT LSCRASQSVS SYLA
WYQQKP GQAPRLLIYD ASNRATGIPA
61 RFSGSGSGTD FTLTISSLEP EDFAVYYCQQ RSN
WPPTFGQ GTKVEIK
【0593】
>配列番号193
cMet mAb M1 VH
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCETSGYTFTSYGISWVRQ
APGHGLEWMGWISAYNGYTNYAQKLQGRVTMTTDTSTSTA
YMELRSLRSDDTAVYYCARDLRGTNYFDYWGQGTLVTVSS
【0594】
>配列番号194
cMet mAb M1VL
DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISNWLAWFQHK
PGKAPKLLIYAASSLLSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQ
PEDFATYYCQQANSFP-ITFGQGTRLEIK
【0595】
>配列番号195
cMet mAb M2 VH
EVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFTFSDYYMYWVRQ
TPEKRLEWVATISDDGSYTYYPDSVKGRFTISRDNAKNNL
YLQMSSLKSEDTAMYYCAREGLYYYGSGSYYNQDYWGQGT
LVTVSS
【0596】
>配列番号196
cMet mAb M2 VL
QLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGLSSALAWYRQKPG
KAPKLLIYDASSLESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPE
DFATYYCQQFTSYPQITFGQGTRLEIK
【0597】
>配列番号197
F405Lを有するGp120重鎖
qvqlvqsgaevkkpgasvkvscqasgyrfsnfvihwvrq
apgqrfewmgwinpyngnkefsakfqdrvtftadtsanta
ymelrslrsadtavyycarvgpyswddspqdnyymdvwgk
gttvivssastkgpsvfplapsskstsggtaalgclvkdy
fpepvtvswnsgaltsgvhtfpavlqssglyslssvvtvp
ssslgtqtyicnvnhkpsntkvdkrvepkscdkthtcppc
papellggpsvflfppkpkdtlmisrtpevtcvvvdvshe
dpevkfnwyvdgvevhnaktkpreeqynstyrvvsvltvl
hqdwlngkeykckvsnkalpapiektiskakgqprepqvy
tlppsreemtknqvsltclvkgfypsdiavewesngqpen
nykttppvldsdgsfllyskltvdksrwqqgnvfscsvmh
ealhnhytqkslslspgk
【0598】
>配列番号198
K409Rを有するGp120重鎖
qvqlvqsgaevkkpgasvkvscqasgyrfsnfvihwvrq
apgqrfewmgwinpyngnkefsakfqdrvtftadtsanta
ymelrslrsadtavyycarvgpyswddspqdnyymdvwgk
gttvivssastkgpsvfplapsskstsggtaalgclvkdy
fpepvtvswnsgaltsgvhtfpavlqssglyslssvvtvp
ssslgtqtyicnvnhkpsntkvdkrvepkscdkthtcppc
papellggpsvflfppkpkdtlmisrtpevtcvvvdvshe
dpevkfnwyvdgvevhnaktkpreeqynstyrvvsvltvl
hqdwlngkeykckvsnkalpapiektiskakgqprepqvy
tlppsreemtknqvsltclvkgfypsdiavewesngqpen
nykttppvldsdgsfflysrltvdksrwqqgnvfscsvmh
ealhnhytqkslslspgk
【0599】
>配列番号199
EM1-mAb H1(抗EGFR,405L)
QVQLVESGGGVVQPGRSLRLSCAASGFTFSTYGMHWVRQ
APGKGLEWVAVIWDDGSYKYYGDSVKGRFTISRDNSKNTL
YLQMNSLRAEDTAVYYCARDGITMVRGVMKDYFDYWGQGT
LVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFP
EPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSS
SLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPA
PELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDP
EVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQ
DWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTL
PPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNY
KTTPPVLDSDGSFLLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEA
LHNHYTQKSLSLSPGK
【0600】
>配列番号200
EM-1 mAb L1
AIQLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDISSALVWYQQK
PGKAPKLLIYDASSLESGVPSRFSGSESGTDFTLTISSLQ
PEDFATYYCQQFNSYPLTFGGGTKVEIKRTVAAPSVFIFP
PSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNS
QESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQ
GLSSPVTKSFNRGEC
【0601】
>配列番号201
EM-1 mAb H2(K409R,抗cMet)
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCETSGYTFTSYGISWVRQ
APGHGLEWMGWISAYNGYTNYAQKLQGRVTMTTDTSTSTA
YMELRSLRSDDTAVYYCARDLRGTNYFDYWGQGTLVTVSS
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTV
SWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQ
TYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLG
GPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFN
WYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNG
KEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRE
EMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPP
VLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHY
TQKSLSLSPGK
【0602】
>配列番号202
EM-1 mAb L2
DIQMTQSPSSVSASVGDRVTITCRASQGISNWLAWFQHK
PGKAPKLLIYAASSLLSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQ
PEDFATYYCQQANSFPITFGQGTRLEIKRTVAAPSVFIFP
PSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNS
QESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQ
GLSSPVTKSFNRGEC
【0603】
>配列番号203
H1定常領域
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTV
SWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQ
TYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLG
GPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFN
WYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNG
KEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRE
EMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPP
VLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHY
TQKSLSLSPGK
【0604】
>配列番号204
H2定常領域
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTV
SWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQ
TYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLG
GPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFN
WYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNG
KEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRE
EMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPP
VLDSDGSFLLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHY
TQKSLSLSPGK
【0605】
>配列番号205
EM1-mAb H1 cDNA pdr000015499
caggtgcagctggtcgagagcggcggaggggtggtgcag
cccggcagaagcctgaggctgtcctgcgccgccagcggct
tcaccttcagcacctacggcatgcactgggtgcggcaggc
cccaggcaagggcctggagtgggtggccgtgatctgggac
gacggcagctacaagtactacggcgacagcgtgaagggca
ggttcaccatcagcagggacaacagcaagaacaccctgta
cctgcagatgaacagcctgagggccgaggacaccgccgtg
tactactgcgccagggacggcatcaccatggtgcggggcg
tgatgaaggactacttcgactactggggccagggcaccct
ggtgaccgtgagcagcgccagcaccaagggcccaagcgtg
ttccccctggcccccagcagcaagagcaccagcggcggca
cagccgccctgggctgcctggtgaaggactacttccccga
gccagtgaccgtgtcctggaactctggcgccctgacctcc
ggcgtgcacaccttccccgccgtgctgcagagcagcggcc
tgtacagcctgagcagcgtggtgaccgtgcccagcagcag
cctgggcacccagacctacatctgcaacgtgaaccacaag
cccagcaacaccaaggtggacaagagagtggagcccaaga
gctgcgacaagacccacacctgccccccctgcccagcccc
agagctgctgggcggacccagcgtgttcctgttccccccc
aagcccaaggacaccctgatgatcagcaggacccccgagg
tgacctgcgtggtggtggacgtgagccacgaggacccaga
ggtgaagttcaactggtacgtggacggcgtggaggtgcac
aacgccaagaccaagcccagagaggagcagtacaacagca
cctacagggtggtgtccgtgctgaccgtgctgcaccagga
ctggctgaacggcaaggaatacaagtgcaaggtctccaac
aaggccctgccagcccccatcgaaaagaccatcagcaagg
ccaagggccagccacgggagccccaggtgtacaccctgcc
ccccagccgggaggagatgaccaagaaccaggtgtccctg
acctgtctggtgaagggcttctaccccagcgacatcgccg
tggagtgggagagcaacggccagcccgagaacaactacaa
gaccacccccccagtgctggacagcgacggcagcttcctc
ctgtacagcaagctgaccgtggacaagtccaggtggcagc
agggcaacgtgttcagctgcagcgtgatgcacgaggccct
gcacaaccactacacccagaagtccctgagcctgagcccc
ggcaaatga
【0606】
>配列番号206
EM1-mAb L1 cDNA pDR000015499
atccagctgacccagagccccagcagcctgagcgccagc
gtgggcgaccgggtgaccatcacctgccgggccagccagg
acatcagcagcgccctggtctggtatcagcagaagcccgg
caaggcccccaagctgctgatctacgacgccagctccctg
gaaagcggcgtgcccagccggttcagcggcagcgagagcg
gcaccgacttcaccctgaccatcagcagcctgcagcccga
ggacttcgccacctactactgccagcagttcaacagctac
cccctgacctttggcggcggaacaaaggtggagatcaagc
gtacggtggccgctcccagcgtgttcatcttcccccccag
cgacgagcagctgaagagcggcaccgccagcgtggtgtgc
ctgctgaacaacttctacccccgggaggccaaggtgcagt
ggaaggtggacaacgccctgcagagcggcaacagccagga
gagcgtcaccgagcaggacagcaaggactccacctacagc
ctgagcagcaccctgaccctgtccaaggccgactacgaga
agcacaaggtgtacgcctgcgaggtgacccaccagggcct
gtccagccccgtgaccaagagcttcaacaggggcgagtgc
tga
【0607】
>配列番号207
EM-1 mAb H2 cDNA pDR000016584
caggttcagctggtgcagtctggagctgaggtgaagaag
cctggggcctcagtgaaggtctcctgcgagacttctggtt
acacctttaccagctatggtatcagctgggtgcgacaggc
ccctggacacgggcttgagtggatgggatggatcagcgct
tacaatggttacacaaactatgcacagaagctccagggca
gggtcaccatgaccacagacacatccacgagcacagccta
catggagctgaggagcctgagatctgacgacacggccgtg
tattactgtgcgagagatctgagaggaactaactactttg
actactggggccagggaaccctggtcaccgtctcctcagc
ctccaccaagggcccaagcgtgttccctctggcccccagc
agcaagagcacatctggcggaacagccgccctgggctgcc
tggtgaaagactacttccccgagcccgtgaccgtgtcctg
gaactctggcgccctgaccagcggcgtgcacacctttcca
gccgtgctgcagagcagcggcctgtacagcctgtccagcg
tggtgaccgtgcccagcagctccctgggcacccagaccta
catctgcaacgtgaaccacaagcccagcaacaccaaggtg
gacaagcgggtggaacccaagagctgcgacaagacccaca
cctgtcccccctgccctgcccctgaactgctgggcggacc
ctccgtgttcctgttccccccaaagcccaaggacaccctg
atgatcagccggacccccgaagtgacctgcgtggtggtgg
acgtgtcccacgaggaccctgaagtgaagttcaattggta
cgtggacggcgtggaagtgcacaacgccaagaccaagccc
agagaggaacagtacaacagcacctaccgggtggtgtccg
tgctgacagtgctgcaccaggactggctgaacggcaaaga
gtacaagtgcaaggtctccaacaaggccctgcctgctccc
atcgagaaaaccatcagcaaggccaagggccagccccgcg
agcctcaggtgtacacactgcctcccagccgggaagagat
gaccaagaaccaggtgtccctgacctgtctggtgaaaggc
ttctaccccagcgatatcgccgtggaatgggagagcaacg
gacagcccgagaacaactacaagaccaccccccctgtgct
ggacagcgacggctccttcttcctgtactctcggctgacc
gtggacaagagccggtggcagcagggaaacgtgttcagct
gcagcgtgatgcacgaggccctgcacaaccactacaccca
gaagtccctgagcctgagccccgggaagtga
【0608】
>配列番号208
EM-1 mAb L2 cDNA pDR000016584
gacatccagatgacccagtccccctcctccgtgtccgcc
tctgtgggcgacagagtgaccatcacctgtcgggcctccc
agggcatctccaactggctggcctggttccagcacaagcc
cggcaaggcccccaagctgctgatctacgccgcctcctcc
ctgctgtccggcgtgccctccagattctccggctctggct
ccggcaccgacttcaccctgaccatctccagcctgcagcc
cgaggacttcgccacctactactgccagcaggccaactcc
ttccccatcaccttcggccagggcacccggctggaaatca
agcgtacggtggccgctcccagcgtgttcatcttcccccc
cagcgacgagcagctgaagagcggcaccgccagcgtggtg
tgcctgctgaacaacttctacccccgggaggccaaggtgc
agtggaaggtggacaacgccctgcagagcggcaacagcca
ggagagcgtcaccgagcaggacagcaaggactccacctac
agcctgagcagcaccctgaccctgtccaaggccgactacg
agaagcacaaggtgtacgcctgcgaggtgacccaccaggg
cctgtccagccccgtgaccaagagcttcaacaggggcgag
tgctga
【0609】
>配列番号209
Gp120軽鎖
Eivltqspgtlslspgeratfscrsshsirsrrvawyqh
kpgqaprlvihgvsnrasgisdrfsgsgsgtdftltitrv
epedfalyycqvygassytfgqgtklerkrtvaapsvfif
ppsdeqlksgtasvvcllnnfypreakvqwkvdnalqsgn
sqesvteqdskdstyslsstltlskadyekhkvyacevth
qglsspvtksfnrgec
【0610】
>配列番号210
E1 HC1 HCDR1
TYGMH
【0611】
>配列番号211
E1 HC1 HCDR2
VIWDDGSYKYYGDSVKG
【0612】
>配列番号212
E1 HC1 HCDR3
DGITMVRGVMKDYFDY
【0613】
>配列番号213
E1 LC1 LCDR1
RASQDISSALV
【0614】
>配列番号214
E1 LC1 LCDR2
DASSLES
【0615】
>配列番号215
E1 LC1 LCDR3
QQFNSYPLT
【0616】
>配列番号216
E1 HC2 HCDR1
SYGIS
【0617】
>配列番号217
E1 HC2 HCDR2
WISAYNGYTNYAQKLQG
【0618】
>配列番号218
E1 HC2 HCDR3
DLRGTNYFDY
【0619】
>配列番号219
E1 LC2 LCDR1
RASQGISNWLA
【0620】
>配列番号220
E1 LC2 LCDR2
AASSLLS
【0621】
>配列番号221
E1 LC2 LCDR3
QQANSFPIT
【0622】
>配列番号222
E2 mAB HC1 HCDR1
SYWMN
【0623】
>配列番号223
E2 mAb HC1 HCDR2
NIKKDGSEKYYVDSVKG
【0624】
>配列番号224
E2 mAb HC1 HCDR3
DLGWGWGWYFDL
【0625】
>配列番号225
E2 mAB LC1 LCDR1
RASQSVSSYLA
【0626】
>配列番号226
E2 mAb LC1 LCDR2
DASNRAT
【0627】
>配列番号227
E2 mAb LC1 LCDR3
QQRSNWPPT
【0628】
>配列番号228
E2 mAB HC2 HCDR1
DYYMY
【0629】
>配列番号229
E2 mAb HC2 HCDR2
TISDDGSYTYYPDSVKG
【0630】
>配列番号230
E2 mAb HC2 HCDR3
EGLYYYGSGSYYNQDY
【0631】
>配列番号231
E2 mAB LC2 LCDR1
RASQGLSSALA
【0632】
>配列番号232
E2 mAb LC2 LCDR2
DASSLES
【0633】
>配列番号233
E2 mAb LC2 LCDR3
QQFTSYPQIT
【0634】
>配列番号234
E2 mAb HC1(EGFR-F405L)
EVQLVESGGG LVQPGGSLRL SCAASGFTFS SYWMNW
VRQA PGKGLEWVAN IKKDGSEKYY
VDSVKGRFTI SRDNAKNSLY LQMNSLRAED TAVYYC
ARDL GWGWGWYFDL WGRGTLVTVSSASTKGPSVFPLAP
SSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTF
PAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTK
VDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDT
LMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTK
PREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPA
PIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVK
GFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFLLYSKL
TVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0635】
>配列番号235
E2 mAb LC1(EGFR)
EIVLTQSPAT LSLSPGERAT LSCRASQSVS SYLAWY
QQKP GQAPRLLIYD ASNRATGIPA
RFSGSGSGTD FTLTISSLEP EDFAVYYCQQ RSNWPP
TFGQ GTKVEIK RTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVC
LLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYS
LSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
【0636】
>配列番号236
E2 mAb HC2(c-Met-K409R)
EVQLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFTFSDYYMYWVRQ
TPEKRLEWVATISDDGSYTYYPDSVKGRFTISRDNAKNNL
YLQMSSLKSEDTAMYYCAREGLYYYGSGSYYNQDYWGQGT
LVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFP
EPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSS
SLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPA
PELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDP
EVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQ
DWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTL
PPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNY
KTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEA
LHNHYTQKSLSLSPGK
【0637】
>配列番号237
E2 mAb LC2(cMet)
QLTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQGLSSALAWYRQKPG
KAPKLLIYDASSLESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPE
DFATYYCQQFTSYPQITFGQGTRLEIK RTVAAPSVFIFP
PSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNS
QESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQ
GLSSPVTKSFNRGEC
【0638】
>配列番号238
mAb 069のc-Met不連続エピトープ
PEFRDSYPIKYVHAF
【0639】
>配列番号239
mAb 069のc-Met不連続エピトープ
FAQSKPDSAEPMDRSA
【0640】
>配列番号240
5D5 mAbエピトープ
PGAQLARQIGASLNDD
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
2024026236000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-12-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0640
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0640】
>配列番号240
5D5 mAbエピトープ
PGAQLARQIGASLNDD

以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載の発明を列挙する。
[発明1]
単離された二重特異性上皮増殖因子受容体(EGFR)/肝細胞増殖因子受容体(c-Met)抗体であって、
a)HC1定常ドメイン3(HC1 CH3)及びHC1可変領域1(VH1)を含む第1の重鎖(HC1)と、
b)HC2定常ドメイン3(HC2 CH3)及びHC2可変領域2(VH2)を含む第2の重鎖(HC2)と、
c)軽鎖可変領域(VL1)を含む第1の軽鎖(LC1)と、
d)軽鎖可変領域(VL2)を含む第2の軽鎖(LC2)と、
を含み、
前記VH1と前記VL1とが対合してEGFRと特異的に結合する第1の抗原結合部位を形成し、前記VH2と前記VL2とが対合してc-Metと特異的に結合する第2の抗原結合部位を形成し、前記HC1が前記HC1 CH3に少なくとも1個の置換を含み、前記HC2が前記HC2 CH3に少なくとも1個の置換を含み、前記HC1 CH3内の前記置換及び前記HC2 CH3内の前記置換が、残基の番号付けがEUインデックスに基づいたものである場合に、異なるアミノ酸残基の位置で生じる、二重特異性抗体。
[発明2]
前記抗体が、NCI-H292、NCI-H1975又はSKMES-1細胞株における細胞外シグナル調節キナーゼ1及び2(ERK1/2)のリン酸化を阻害し、そのIC 50 値は、重鎖3(HC3)及び軽鎖3(LC3)を含むコントロール一価EGFR抗体と重鎖4(HC4)及び軽鎖4(LC4)を含むコントロール一価c-Met抗体との混合物によるNCI-H292、NCI-H1975又はSKMES-1細胞株におけるERK1/2のリン酸化阻害のIC 50 値と比較した場合に、少なくとも約10倍低い、少なくとも約20倍低い、少なくとも約30倍低い、少なくとも約40倍低い、少なくとも約50倍低い、又は少なくとも約60倍低いIC 50 値であり、
前記HC3と前記HC1、前記LC3と前記LC1、前記HC4と前記HC2、及び前記LC4と前記LC2が、それぞれ同一のアミノ酸配列を有し、
前記ERK1/2のリン酸化が、抗リン酸化ERK1/2抗体を捕捉抗体とし、電気化学発光化合物と接合された非リン酸化及びリン酸化ERK1/2と結合する抗体を検出抗体として使用したサンドイッチイムノアッセイを用いて全細胞ライセート中で測定される、発明1に記載の二重特異性抗体。
[発明3]
前記抗体が、ERK1/2のリン酸化を、約2×10 -9 M以下、約1×10 -9 M以下、又は約1×10 -10 M以下のIC 50 値で阻害する、発明1又は2に記載の二重特異性抗体。
[発明4]
ERK1が残基Thr202及びTyr204においてリン酸化され、ERK2が残基Thr185及びTyr197においてリン酸化される、発明2又は3に記載の二重特異性抗体。
[発明5]
前記抗体が、NCI-H1975細胞株におけるタンパク質キナーゼB(AKT)のSer473におけるリン酸化を阻害し、そのIC 50 値は、前記HC3及び前記LC3を含むコントロール一価EGFR抗体と前記HC4及び前記LC4を含むコントロール一価c-Met抗体との混合物によるNCI-H1975細胞株におけるAKTのSer473におけるリン酸化の阻害のIC 50 値と比較した場合に、少なくとも約70倍低いIC 50 値であり、
前記HC3と前記HC1、前記LC3と前記LC1、前記HC4と前記HC2、及び前記LC4と前記LC2が、それぞれ同一のアミノ酸配列を有し、
AKTのSer473におけるリン酸化が、非リン酸化又はリン酸化AKTと結合する抗体を捕捉抗体とし、電気化学発光化合物と接合された抗リン酸化AKT Ser473抗体を検出抗体として使用したサンドイッチイムノアッセイを用いて全細胞ライセート中で測定される、発明1~4のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。
[発明6]
前記抗体が、NCI-H1975細胞株におけるAKTのThr308におけるリン酸化を阻害し、そのIC 50 値は、前記HC3及び前記LC3を含むコントロール一価EGFR抗体と前記HC4及び前記LC4を含むコントロール一価c-Met抗体との混合物によるNCI-H1975細胞株におけるAKTのThr308におけるリン酸化阻害のIC 50 値と比較した場合に、少なくとも約100倍低いIC 50 値であり、
前記HC3と前記HC1、前記LC3と前記LC1、前記HC4と前記HC2、及び前記LC4と前記LC2が、それぞれ同一のアミノ酸配列を有し、
前記AKTのThr308におけるリン酸化が、非リン酸化又はリン酸化AKTと結合する抗体を捕捉抗体とし、電気化学発光化合物と接合された抗リン酸化AKT Thr308抗体を検出抗体として使用したサンドイッチイムノアッセイを用いて全細胞ライセート中で測定される、発明1~5のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。
[発明7]
前記抗体が、AKTのSer473又はThr308におけるリン酸化を約1×10 -9 M以下のIC 50 値で阻害する、発明5又は6に記載の二重特異性抗体。
[発明8]
前記HC1、前記LC1、前記HC2及び前記LC2が、それぞれ配列番号199、200、201及び202のアミノ酸配列を含み、前記HC1、前記HC2、又は前記HC1及び前記HC2の両方からC末端のリシンが任意に除去されていてもよい、発明1~7のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。
[発明9]
前記二重特異性抗体が、配列番号73に示されるアミノ酸配列を有するEGFRとEG
FR残基K489、I491、K467及びS492において結合し、c-Metと残PEFRDSYPIKYVHAF(配列番号238)及びFAQSKPDSAEPMDRSA(配列番号239)において結合する、発明1~8のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。
[発明10]
前記抗体が、NCI-H292又はNCI-H1975細胞の増殖を阻害し、そのIC 50 値は、NCI-H292又はNCI-H1975細胞が低付着条件で増殖された場合のセツキシマブによるNCI-H292又はNCI-H1975細胞の増殖阻害のIC 50 値と比較した場合に、少なくとも約300倍低い、少なくとも約400倍低い、少なくとも約500倍低い、少なくとも約600倍低い、少なくとも約700倍低い、又は少なくとも約800倍低いIC 50 値である、発明1~9のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。
[発明11]
前記抗体が、前記二重特異性抗体とセツキシマブが20mg/kgの用量で投与された場合に、SCID BeigeマウスにおけるHGF発現SKMES-1細胞腫瘍の増殖を、セツキシマブと比較して36日目に少なくとも500倍低いT/C値(%)で阻害する、発明1~10のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。
[発明12]
前記抗体が、EGFR及びc-Metシグナル伝達を無効にする、発明1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[発明13]
前記HC1及び前記HC2が、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4アイソタイプである、発明1~12のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。
[発明14]
前記HC1及び前記HC2が、IgG1アイソタイプである、発明13に記載の二重特異性抗体。
[発明15]
残基の番号付けがEUインデックスに基づいたものである場合に、350、366、368、370、399、405、407、又は409位の残基に、前記HC1 CH3が少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、又は8個の置換を含み、前記HC2 CH3が少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、又は8個の置換を含む、発明13又は14に記載の二重特異性抗体。
[発明16]
350、370、405又は409位の残基に、前記HC1 CH3が少なくとも1個、2個、3個、又は4個の置換を含み、前記HC2 CH3が少なくとも1個、2個、3個、又は4個の置換を含む、発明15に記載の二重特異性抗体。
[発明17]
405又は409位の残基に、前記HC1 CH3が少なくとも1個の置換を含み、前記HC2 CH3が少なくとも1個の置換を含む、発明16に記載の二重特異性抗体。
[発明18]
前記HC1 CH3が、K409R又はF405Lの置換を含み、前記HC2 CH3が、K409R又はF405Lの置換を含む、発明17に記載の二重特異性抗体。
[発明19]
前記HC1 CH3が前記F405Lの置換を含み、前記HC2 CH3が前記K409Rの置換を含む、発明18に記載の二重特異性抗体。
[発明20]
a)前記VH1が、それぞれ配列番号210、211及び212の重鎖相補性決定領域(HCDR)1(HCDR1)、HCDR2及びHCDR3のアミノ酸配列を含み、
b)前記VL1が、それぞれ配列番号213、214及び215の軽鎖相補性決定領域(LCDR)1(LCDR1)、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列を含む、請求項1~19のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。
[発明21]
a)前記VH2が、それぞれ配列番号216、217及び218のHCDR1、HCDR2及びHCDR3のアミノ酸配列を含み、
b)前記VL2が、それぞれ配列番号219、220及び221のLCDR1、LCR2及びLCDR3のアミノ酸配列を含む、発明20に記載の二重特異性抗体。
[発明22]
前記VH1、前記VL1、前記VH2及び前記VL2が、それぞれ配列番号189、190、193及び194のアミノ酸配列を含む、発明21に記載の二重特異性抗体。
[発明23]
a)前記VH1が、それぞれ配列番号222、223及び224のHCDR1、HCDR2及びHCDR3のアミノ酸配列を含み、
b)前記VL1が、それぞれ配列番号225、226及び227のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列を含む、発明1~7又は発明9~18のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
[発明24]
a)前記VH2が、それぞれ配列番号228、229及び230のHCDR1、HCDR2及びHCDR3のアミノ酸配列を含み、
b)前記VL2が、それぞれ配列番号231、232及び233のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列を含む、発明23に記載の二重特異性抗体。
[発明25]
前記VH1、前記VL1、前記VH2及び前記VL2が、それぞれ配列番号191、192、195及び196のアミノ酸配列を含む、発明24に記載の二重特異性抗体。
[発明26]
前記HC1、前記LC1、前記HC2及び前記LC2が、それぞれ配列番号234、235、236及び237のアミノ酸配列を含む、前記HC1、前記HC2、又は前記HC1及び前記HC2の両方からC末端のリシンが任意に除去されていてもよい、発明25に記載の二重特異性抗体。
[発明27]
前記HC1、前記LC1、前記HC2及び前記LC2に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個の保存的アミノ酸置換を更に含む発明22又は26に記載の二重特異性抗体。
[発明28]
前記HC1及び/又は前記HC2に置換M252Y/S254T/T256Eを含み、残基の番号付けがEUインデックスに基づくものである、発明27に記載の二重特異性抗体。
[発明29]
前記抗体が、フコース含量が約1%~約15%の二分枝型グリカン構造を有する、請求項1~29のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。
[発明30]
前記HC1、前記LC1、前記HC2及び前記LC2が、それぞれ配列番号205、206、207及び208の配列を含む合成ポリヌクレオチドによりコードされている、請求項2に記載の二重特異性抗体。
[発明31]
発明8又は26に記載の前記HC1、前記LC1、前記HC2及び前記LC2をコードする、単離された合成ポリヌクレオチド。
[発明32]
配列番号205、206、207又は208のポリヌクレオチド配列を含む、発明31に記載の単離されたポリヌクレオチド。
[発明33]
発明31又は32に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
[発明34]
発明33に記載のベクターを含む、単離された宿主細胞。
[発明35]
発明8に記載の単離された二重特異性EGFR/c-Met抗体を生成する方法であって、
a)配列番号199の2本の重鎖及び配列番号200の2本の軽鎖を含む単離された一重特異性二価抗EGFR抗体と、配列番号201の2本の重鎖及び配列番号202の2本の軽鎖を含む単離された一重特異性二価抗c-Met抗体と、を約1:1のモル比の混合物として加え合わせることと、
b)前記混合物中に還元剤を導入することと、
c)前記混合物を約90分~約6時間インキュベートすることと、
d)前記還元剤を除去することと、
e)配列番号199の第1の重鎖及び配列番号201の第2の重鎖、並びに配列番号200の第1の軽鎖及び配列番号202の第2の軽鎖を含む二重特異性EGFR/c-Met抗体を精製することと、
を含み、
配列番号199の前記第1の重鎖が配列番号200の前記第1の軽鎖と対合してEGFRと特異的に結合する第1の結合ドメインを形成し、配列番号201の前記第2の重鎖配列番号202の前記第2の軽鎖と対合してc-Metと特異的に結合する第2の結合ドメインを形成する、方法。
[発明36]
前記還元剤が、2-メルカプトエタノールアミン(2-MEA)である、発明35に記載の方法。
[発明37]
前記2-MEAが、約25mM~約75mMの濃度で存在する、発明36に記載の方法。
[発明38]
前記インキュベートする工程が、約25℃~約37℃の温度で行われる、発明37に記載の方法。
[発明39]
発明1~30のいずれかに記載の二重特異性抗体と、医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
[発明40]
癌を有する対象を治療する方法であって、発明2、8又は26に記載の二重特異性EGFR/c-Met抗体の治療上の有効量を、治療を要する患者に癌を治療するのに充な時間にわたって投与することを含む、方法。
[発明41]
前記癌が、EGFR活性化変異、EGFR遺伝子の増幅、循環中のHGFレベルの増大、c-Met活性化変異、c-Met遺伝子の増幅、又は変異体KRASに関連している、発明40に記載の方法。
[発明42]
前記EGFR活性化変異が、G719A、G719X(Xは任意のアミノ酸)、L861X(Xは任意のアミノ酸)、L858R、E746K、L747S、E749Q、A750P、A755V、V765M、L858P又はT790Mの置換、E746~A750の欠失、R748~P753の欠失、M766とA767との間のAla(A)の挿入、S768とV769との間のSer、Val及びAla(SVA)の挿入、並びにP772とH773との間のAsn及びSer(NS)の挿入である、発明41に記載の方法。
[発明43]
前記EGFR活性化変異が、L858R、del(E476,A750)及び/又はT790Mの置換である、発明42に記載の方法。
[発明44]
前記変異体KRASが、G12V又はG12Cの置換を有する、発明41に記載の方法。
[発明45]
前記変異体KRASが、G12Vの置換を有する、発明44に記載の方法。
[発明46]
前記対象が、エルロチニブ、ゲフィニチブ、アファチニブ、CO-1686、AZD9192又はセツキシマブによる治療に対する耐性を有するか又は耐性を獲得している、請求項41に記載の方法。
[発明47]
前記癌が、上皮細胞癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肺腺癌、小細胞肺癌、大腸直腸癌、肛門癌、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、頭頸部癌、咽頭癌、鼻の癌、膵臓癌、皮膚癌、口腔癌、舌癌、食道癌、腟癌、子宮頸癌、脾臓の癌、睾丸癌、胃癌、胸腺の癌、結腸癌、甲状腺癌、肝臓癌、肝細胞癌(HCC))、又は散発性若しくは遺伝性乳頭状腎細胞癌(PRCC)である、発明41に記載の方法。
[発明48]
前記対象が、CD16の158位のフェニルアラニンについてホモであるか、又はCD16の158位のバリン及びフェニルアラニンについてヘテロである、発明40に記載の方法。
[発明49]
第2の治療薬を投与することを含む、発明47に記載の方法。
[発明50]
前記第2の治療薬が、化学療法薬又は標的抗癌治療薬である、発明49に記載の方法。
[発明51]
前記化学療法薬が、シスプラチン又はビンブラスチンである、発明50に記載の方法。
[発明52]
前記化学療法薬又は前記標的抗癌治療薬が、EGFR、c-Met、HER2、HER3、HER4又はVEGFRのチロシンキナーゼ阻害剤である、発明50に記載の方法。
[発明53]
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、エルロチニブ、ゲフィチニブ、又はアファチニブである、発明52に記載の方法。
[発明54]
前記第2の治療薬が、同時、逐次、又は別々に投与される、発明49に記載の方法。
[発明55]
EGFR及び/又はc-Metを発現する細胞の成長又は増殖を阻害する方法であって、前記細胞を発明2、8又は26に記載の二重特異性抗体と接触させることを含む、方法。
[発明56]
対象のEGFR及び/又はc-Met発現腫瘍又は癌細胞の増殖又は転移を阻害する方法であって、前記対象に、有効量の発明2、8又は26に記載の二重特異性抗体を投与して、EGFR及び/又はc-Met発現腫瘍又は癌細胞の増殖又は転移を阻害することを含む、方法。
[発明57]
前記EGFR及び/又はc-Met発現腫瘍が、上皮細胞癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肺腺癌、小細胞肺癌、大腸直腸癌、肛門癌、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、頭頸部癌、咽頭癌、鼻の癌、膵臓癌、皮膚癌、口腔癌、舌癌、食道癌、腟癌、子宮頸癌、脾臓の癌、睾丸癌、胃癌、胸腺の癌、結腸癌、甲状腺癌、肝臓癌、肝細胞癌(HCC))、又は散発性若しくは遺伝性乳頭状腎細胞癌(PRCC)である、発明56に記載の方法。
[発明58]
前記EGFR及び/又はc-Met発現腫瘍が、EGFR活性化変異、EGFR遺伝子
の増幅、循環中のHGFレベルの増大、c-Met活性化変異、c-Met遺伝子の増、又は変異体KRASに関連している、発明57に記載の方法。
[発明59]
前記EGFR活性化変異が、G719A、G719X(Xは任意のアミノ酸)、L861X(Xは任意のアミノ酸)、L858R、E746K、L747S、E749Q、A750P、A755V、V765M、L858P又はT790Mの置換、E746~A750の欠失、R748~P753の欠失、M766とA767との間のAla(A)の挿入、S768とV769との間のSer、Val及びAla(SVA)の挿入、並びにP772とH773との間のAsn及びSer(NS)の挿入である、発明58に記載の方法。
[発明60]
前記EGFR活性化変異が、L858R、del(E476,A750)及び/又はT790Mの置換である、発明59に記載の方法。
[発明61]
前記変異体KRASがG12V又はG12Cの置換を有する、発明58に記載の方法。
[発明62]
前記変異体KRASがG12Vの置換を有する、発明61に記載の方法。
[発明63]
治療のための、発明1~30のいずれかに記載の二重特異性抗体の使用。
[発明64]
癌の治療において使用するための、発明1~30のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。
[発明65]
前記癌が、上皮細胞癌、乳癌、卵巣癌、肺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、肺腺癌、小細胞肺癌、大腸直腸癌、肛門癌、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、頭頸部癌、咽頭癌、鼻の癌、膵臓癌、皮膚癌、口腔癌、舌癌、食道癌、腟癌、子宮頸癌、脾臓の癌、睾丸癌、胃癌、胸腺の癌、結腸癌、甲状腺癌、肝臓癌、肝細胞癌(HCC))、又は散発性若しくは遺伝性乳頭状腎細胞癌(PRCC)である、発明64に記載の使用のための発明1~30のいずれか一つに記載の二重特異性抗体。