(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026258
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】パワーエレメント及びこれを用いた膨張弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/68 20060101AFI20240220BHJP
F25B 41/335 20210101ALI20240220BHJP
【FI】
F16K31/68 B
F25B41/335 Z
F16K31/68 S
F25B41/335 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023204365
(22)【出願日】2023-12-04
(62)【分割の表示】P 2019212470の分割
【原出願日】2019-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】早川 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 祐亮
(57)【要約】
【課題】安価でありながら、所望の温度/流量特性を得ることができるパワーエレメント及びそれを用いた膨張弁を提供する。
【解決手段】パワーエレメント8は、ダイアフラム83と、前記ダイアフラム83の外周部83aにおける一方の側に接合され、前記ダイアフラム83との間に圧力作動室POを形成する上蓋部材82と、前記ダイアフラム83の外周部83aにおける他方の側に接合された環状の支点調整部材85と、前記支点調整部材85に接合され、前記ダイアフラム83との間に冷媒流入室LSを形成する受け部材と、前記冷媒流入室LSに収容されるストッパ部材84と、を有し、前記ダイアフラム83は、前記支点調整部材85の支点に当接可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部と、中央部と、前記外周部と前記中央部との間に設けられた輪状部と、を備えたダイアフラムと、
前記ダイアフラムの前記外周部における一方の側に接合され、前記ダイアフラムとの間に圧力作動室を形成する上蓋部材と、
前記ダイアフラムの前記外周部における他方の側に接合される環状平板部と、前記環状平板部の内周に連接され下方に向かう支持曲面部とを有する支点調整部材と、
前記支点調整部材の環状平板部に接合されるフランジ部と、前記フランジ部の内周に連接され下方に向かう円錐部を備え、前記ダイアフラムと前記円錐部との間に冷媒流入室を形成する受け部材とを有し、
前記ダイアフラム、前記上蓋部材、前記支点調整部材、及び前記受け部材は、外径がほぼ等しく、外周が溶接されることにより一体化されており、
前記支点調整部材の前記環状平板部は、前記受け部材のフランジ部よりも径方向に幅が広く、
前記ダイアフラムは、前記ダイアフラムが撓み変位した際に、前記支点調整部材の前記支持曲面部に当接可能であり、
前記支点調整部材の硬度は、前記ダイアフラムの硬度より低いことを特徴とするパワーエレメント。
【請求項2】
外周部と、中央部と、前記外周部と前記中央部との間に設けられた輪状部と、を備えたダイアフラムと、
前記ダイアフラムの前記外周部における一方の側に接合され、前記ダイアフラムとの間に圧力作動室を形成する上蓋部材と、
前記ダイアフラムの前記外周部における他方の側に接合される環状平板部と、前記環状平板部の内周に連接され下方に向かう支持曲面部とを有する支点調整部材と、
前記支点調整部材の環状平板部に接合されるフランジ部と、前記フランジ部の内周に連接され下方に向かう円錐部を備え、前記ダイアフラムと前記円錐部との間に冷媒流入室を形成する受け部材とを有し、
前記ダイアフラム、前記上蓋部材、前記支点調整部材、及び前記受け部材は、外径がほぼ等しく、外周が溶接されることにより一体化されており、
前記支点調整部材の前記環状平板部は、前記受け部材のフランジ部よりも径方向に幅が広く、
前記ダイアフラムは、前記ダイアフラムが撓み変位した際に、前記支点調整部材の前記支持曲面部に当接可能であり、
前記支点調整部材の前記支持曲面部は、前記ダイアフラムの形状に沿った形状を有することを特徴とするパワーエレメント。
【請求項3】
前記冷媒流入室に収容されたストッパ部材を有することを特徴とする請求項1または2に記載のパワーエレメント。
【請求項4】
前記支持曲面部は、環状の凸曲面を径方向に離間して複数有している、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のパワーエレメント。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のパワーエレメントと、
前記冷媒流入室に連通する冷媒流路と、弁室及び弁座が設けられた弁本体と、
前記弁室に配置された弁体と、
前記弁体を前記弁座に向けて押圧するコイルばねと、
前記弁体に一端を当接させ、ストッパ部材に他端を当接させた作動棒と、を有し、
前記パワーエレメントの圧力作動室と冷媒流入室との圧力差により前記ダイアフラムが変位して、前記コイルばねの付勢力に抗して前記弁体を駆動することを特徴とする膨張弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーエレメント及びこれを用いた膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載される空調装置等に用いる冷凍サイクルにおいては、冷媒の通過量を温度に応じて調整する感温式の温度膨張弁が使用されている。このような温度膨張弁において、封入した作動ガスの圧力で弁体を駆動するパワーエレメントが採用されている。
【0003】
特許文献1に示す膨張弁に備えられたパワーエレメントは、ダイアフラムと、前記ダイアフラムとの間で作動ガスが封入される圧力作動室を形成する上蓋部材と、中央部に貫通孔を備えるとともに前記ダイアフラムに関して前記上蓋部材と反対側に配置される受け部材と、前記ダイアフラムと前記受け部材との間に形成される流体流入室に配置され、弁体を駆動する作動棒に連結されたストッパ部材と、を備える。ダイアフラムは、薄く可撓性を有する金属製の板から形成されている。
【0004】
流体流入室に流入する冷媒の温度が低ければ、圧力作動室の作動ガスから熱を奪うことで収縮が生じ、また該冷媒の温度が高ければ、圧力作動室の作動ガスに熱を付与することで膨張が生じる。作動ガスの収縮/膨張に応じてダイアフラムが変形するため、その変形量に応じて、ストッパ部材及び作動棒を介して弁体を開閉させることができ、それにより膨張弁を通過する冷媒の流量調整を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、膨張弁を使用する冷媒循環システムの仕様によっては、温度に対する冷媒の流量の特性(温度/流量特性という)を細かく調整したい場合がある。従来技術によれば、仕様ごとにパワーエレメントの形状を変更して、所望の温度/流量特性を得ている。しかしながら、わずかな特性の変更であっても、パワーエレメントの部品の型などを変更しなくてはならず、それにより膨張弁のコストの増大を招いている。
【0007】
そこで本発明は、安価でありながら、所望の温度/流量特性を得ることができるパワーエレメント及びそれを用いた膨張弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によるパワーエレメントは、
ダイアフラムと、
前記ダイアフラムの外周部における一方の側に接合され、前記ダイアフラムとの間に圧力作動室を形成する上蓋部材と、
前記ダイアフラムの外周部における他方の側に接合された環状の支点調整部材と、
前記支点調整部材に接合され、前記ダイアフラムとの間に冷媒流入室を形成する受け部材と、を有し、
前記ダイアフラムは、前記支点調整部材の支点に当接可能であり、
前記支点調整部材の硬度は、前記ダイアフラムの硬度より低いことを特徴とする。
本発明によるパワーエレメントは、
外周部と、中央部と、前記外周部と前記中央部との間に設けられた輪状部と、を備えたダイアフラムと、
前記ダイアフラムの前記外周部における一方の側に接合され、前記ダイアフラムとの間に圧力作動室を形成する上蓋部材と、
前記ダイアフラムの前記外周部における他方の側に接合される環状平板部と、前記環状平板部の内周に連接され下方に向かう支持曲面部とを有する支点調整部材と、
前記支点調整部材の環状平板部に接合されるフランジ部と、前記フランジ部の内周に連接され下方に向かう円錐部を備え、前記ダイアフラムと前記円錐部との間に冷媒流入室を形成する受け部材とを有し、
前記ダイアフラム、前記上蓋部材、前記支点調整部材、及び前記受け部材は、外径がほぼ等しく、外周が溶接されることにより一体化されており、
前記支点調整部材の前記環状平板部は、前記受け部材のフランジ部よりも径方向に幅が広く、
前記ダイアフラムは、前記ダイアフラムが撓み変位した際に、前記支点調整部材の前記支持曲面部に当接可能であり、
前記支点調整部材の硬度は、前記ダイアフラムの硬度より低いことを特徴とする。
本発明のパワーエレメントは、
外周部と、中央部と、前記外周部と前記中央部との間に設けられた輪状部と、を備えたダイアフラムと、
前記ダイアフラムの前記外周部における一方の側に接合され、前記ダイアフラムとの間に圧力作動室を形成する上蓋部材と、
前記ダイアフラムの前記外周部における他方の側に接合される環状平板部と、前記環状平板部の内周に連接され下方に向かう支持曲面部とを有する支点調整部材と、
前記支点調整部材の環状平板部に接合されるフランジ部と、前記フランジ部の内周に連接され下方に向かう円錐部を備え、前記ダイアフラムと前記円錐部との間に冷媒流入室を形成する受け部材とを有し、
前記ダイアフラム、前記上蓋部材、前記支点調整部材、及び前記受け部材は、外径がほぼ等しく、外周が溶接されることにより一体化されており、
前記支点調整部材の前記環状平板部は、前記受け部材のフランジ部よりも径方向に幅が広く、
前記ダイアフラムは、前記ダイアフラムが撓み変位した際に、前記支点調整部材の前記支持曲面部に当接可能であり、
前記支点調整部材の前記支持曲面部は、前記ダイアフラムの形状に沿った形状を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、安価でありながら、所望の温度/流量特性を得ることができるパワーエレメント及びそれを用いた膨張弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態における膨張弁を、冷媒循環システムに適用した例を模式的に示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のパワーエレメントの拡大断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態のパワーエレメントの分解図である。
【
図4】
図4は、第1変形例のパワーエレメントの拡大断面図である。
【
図5】
図5は、第2変形例のパワーエレメントの拡大断面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態のパワーエレメントを用いた膨張弁の温度/流量特性を示す図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態のパワーエレメントの拡大断面図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態における膨張弁を示す概略断面図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態におけるパワーエレメントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明にかかる実施形態について説明する。
【0012】
(方向の定義)
本明細書において、弁体3から作動棒5に向かう方向を「上方向」と定義し、作動棒5から弁体3に向かう方向を「下方向」と定義する。よって、本明細書では、膨張弁1の姿勢に関わらず、弁体3から作動棒5に向かう方向を「上方向」と呼ぶ。
【0013】
(第1実施形態)
図1を参照して、第1実施形態におけるパワーエレメントを含む膨張弁1の概要について説明する。
図1は、本実施形態における膨張弁1を、冷媒循環システム100に適用した例を模式的に示す概略断面図である。本実施例では、膨張弁1は、コンプレッサ101と、コンデンサ102と、エバポレータ104とに流体接続されている。膨張弁1の軸線をLとする。
【0014】
図1において、膨張弁1は、弁室VSを備える弁本体2と、弁体3と、付勢装置4と、作動棒5と、パワーエレメント8を具備する。
【0015】
弁本体2は、弁室VSに加え、第1流路21と、第2流路22と、中間室221と、戻り流路(冷媒通路ともいう)23とを備える。第1流路21は供給側流路であり、弁室VSには、供給側流路を介して冷媒が供給される。第2流路22は排出側流路であり、弁室VS内の流体は、弁通孔27、中間室221及び排出側流路を介して膨張弁外に排出される。
【0016】
第1流路21と弁室VSとの間は、第1流路21より小径の接続路21aにより連通している。弁室VSと中間室221との間は、弁座20及び弁通孔27を介して連通している。
【0017】
中間室221の上方に形成された作動棒挿通孔28は、作動棒5をガイドする機能を有し、作動棒挿通孔28の上方に形成された環状凹部29は、リングばね6を収容する機能を有する。リングばね6は、作動棒5の外周に複数のばね片を当接させて、所定の付勢力を付与するものである。
【0018】
弁体3は弁室VS内に配置される。弁体3が弁本体2の弁座20に着座しているとき、弁通孔27の冷媒の流れが制限される。この状態を非連通状態という。ただし、弁体3が弁座20に着座した場合でも、制限された量の冷媒を流すこともある。一方、弁体3が弁座20から離間しているとき、弁通孔27を通過する冷媒の流れが増大する。この状態を連通状態という。
【0019】
作動棒5は、弁通孔27に所定の隙間を持って挿通されている。作動棒5の下端は、弁体3の上面に接触している。作動棒5の上端は、後述するストッパ部材84の嵌合孔84cに嵌合している。
【0020】
作動棒5は、付勢装置4による付勢力に抗して弁体3を開弁方向に押圧することができる。作動棒5が下方向に移動するとき、弁体3は、弁座20から離間し、膨張弁1が開状態となる。
【0021】
図1において、付勢装置4は、断面円形の線材を螺旋状に巻いたコイルばね41と、弁体サポート42と、ばね受け部材43とを有する。
【0022】
弁体サポート42は、コイルばね41の上端に取り付けられており、その上面には球状の弁体3が溶接され、両者は一体となっている。
【0023】
コイルばね41の下端を支持するばね受け部材43は、弁本体2に対して螺合可能となっていて、弁室VSを密封する機能と、コイルばね41の付勢力を調整する機能とを有する。
【0024】
(パワーエレメント)
次に、パワーエレメント8について説明する。
図2は、パワーエレメント8の拡大断面図である。
図3は、パワーエレメント8の分解図である。パワーエレメント8の軸線をOとする。パワーエレメント8は、栓81と、上蓋部材82と、ダイアフラム83と、支点調整部材85と、受け部材86と、ストッパ部材84とを有する。ここでも、上蓋部材82側が上側であり、受け部材86側が下側であるものとする。
【0025】
上蓋部材82は、例えば金属製の板材をプレスにより成形することによって形成される。上蓋部材82は、環状の外側板部82bと、外側板部82bの内周に連設され上側に向かう外側テーパ部82cと、外側テーパ部82cの内周に連設された環状の中間板部82dと、中間板部82dの内周に連設され上側に向かう内側テーパ部82eと、内側テーパ部82eの内周に連設された頂部82fとを有する。頂部82fの中央には開口82aが形成され、栓81により封止可能となっている。
【0026】
上蓋部材82に対向する受け部材86は、例えば金属製の板材をプレスにより成形することによって形成される。受け部材86は、上蓋部材82の外側板部82bの外径とほぼ同じ外径を持つフランジ部86aと、フランジ部86aの内周に連設され下側に向かう円錐部86bと、円錐部86bの内周に連設された環状の内側板部86cと、内側板部86cの内周に連設された中空円筒部86dとを有している。中空円筒部86dの外周には、雄ねじ86eが形成されている。
【0027】
一方、
図1に示すように、中空円筒部86dが取り付けられる弁本体2の凹部2aの内周には、雄ねじ86eに螺合する雌ねじ2cが形成されている。
【0028】
図2において、上蓋部材82と支点調整部材85との間に配置されるダイアフラム83は、薄く可撓性を有する金属(たとえばSUS)製の板材からなり、上蓋部材82及び受け部材86の外径とほぼ同じ外径を有する。
【0029】
より具体的に、ダイアフラム83は、上蓋部材82と支点調整部材85とに挟持される外周部83aと、ストッパ部材84に当接する中央部83bとを有する。また、ダイアフラム83は、外周部83aと中央部83bとの間において、軸線Oに対してそれぞれ同軸であり、上側に突出した複数の上側輪状部83cと、下側に突出した複数の下側輪状部83dとを径方向に沿って交互に備える。本実施形態では、
図2に示す断面において、上側輪状部83cと下側輪状部83dとで略サインカーブを描くような周期的形状としているが、断面半円形である周溝状の上側輪状部と下側輪状部とを、平板に独立してそれぞれ形成するようにしてもよい。
【0030】
支点調整部材85は、SUSなどの金属製の板材をプレスにより成形することで、ダイアフラム83と外径がほぼ等しい略環状に形成されている。より具体的には、支点調整部材85は、受け部材86のフランジ部86aよりも径方向の幅が広い環状平板部85aと、環状平板部85aの内周に連設され下方に向かう支持曲面部85bとを有する。環状平板部85aと支持曲面部85bとは、滑らかな曲面を介して接続されていると好ましい。環状平板部85aは、ダイアフラム83の外周部83aと受け部材86のフランジ部86aとに挟持されて保持される。なお、支点調整部材85の硬度を、受け部材86の硬度より低くすることが望ましく、またダイアフラム83の硬度より低くすることが望ましい。これにより、支点調整部材85の支点近傍に異物が進入した場合に、かかる異物が支点調整部材85の表面に埋没することで、ダイアフラム83が受けるダメージを抑制することができる。
【0031】
ストッパ部材84は、円筒状の本体84aと、本体84aの上端に連設され径方向に延在する円盤部84bと、本体84aの下面中央に形成された袋穴状の嵌合孔84cとを有する。円盤部84bの中央頂面は、ダイアフラム83の中央部83bの下面と接している。円盤部84bの中央頂面以外の外周部は、中央頂面より低くなって外周段部84dを形成している。
【0032】
次に、
図2、3を参照して、パワーエレメント8の組み立て手順を説明する。ダイアフラム83と受け部材86との間に、支点調整部材85及びストッパ部材84を配置した上で、上蓋部材82の外側板部82bと、ダイアフラム83の外周部83aと、支点調整部材85の環状平板部85aと、受け部材86のフランジ部86aをこの順序で重ね合わせ軸方向に押圧しつつ、その外周を例えばTIG溶接やレーザ溶接、プラズマ溶接等により溶接して全周にわたって溶接部W(
図2)を形成し、これらを一体化する。
【0033】
続いて、上蓋部材82に形成された開口82aから、上蓋部材82とダイアフラム83とで囲われる空間(圧力作動室PO、
図1参照)内に作動ガスを封入した後、開口82aを栓81で封止し、更にプロジェクション溶接等を用いて、栓81を上蓋部材82に固定する。
【0034】
このとき、圧力作動室POに封入された作動ガスにより、ダイアフラム83は、受け部材86側に張り出す形で圧力を受けるため、ダイアフラム83と受け部材86とで囲われる下部空間(冷媒流入室)LS(
図1参照)に配置されたストッパ部材84の中央頂面に、ダイアフラム83の中央部83bが当接する。これによりストッパ部材84の円盤部84bは、ダイアフラム83と受け部材86の内側板部86cとの間で保持される。
【0035】
以上のようにアッセンブリ化したパワーエレメント8を、弁本体2に組み付けるときは、軸線Oを軸線Lと合致させるようにして、受け部材86の中空円筒部86dの下端外周の雄ねじ86eを、弁本体2の凹部2aの内周に形成した雌ねじ2cに螺合させる。中空円筒部86dの雄ねじ86eを雌ねじ2cに対して螺進させてゆくと、受け部材86の内側板部86cが弁本体2の上端面に当接する。これによりパワーエレメント8を弁本体2に固定できる。
【0036】
このとき、パワーエレメント8と弁本体2との間には、パッキンPKが介装され、下部空間LSにつながる凹部2a内の空間が封止されて、凹部2aからの冷媒のリークを防止する。かかる状態で、パワーエレメント8の下部空間LSは、連通孔2bを介して戻り流路23と連通している。
【0037】
(膨張弁の動作)
図1を参照して、膨張弁1の動作例について説明する。コンプレッサ101で加圧された冷媒は、コンデンサ102で液化され、膨張弁1に送られる。また、膨張弁1で断熱膨張された冷媒はエバポレータ104に送り出され、エバポレータ104で、エバポレータの周囲を流れる空気と熱交換される。エバポレータ104から戻る冷媒は、膨張弁1(より具体的には、戻り流路23)を通ってコンプレッサ101側へ戻される。このとき、エバポレータ104を通過することで、第2流路22内の流体圧は、戻り流路23の流体圧より大きくなる。
【0038】
膨張弁1には、コンデンサ102から高圧冷媒が供給される。より具体的には、コンデンサ102からの高圧冷媒は、第1流路21を介して弁室VSに供給される。
【0039】
弁体3が、弁座20に着座しているとき(非連通状態のとき)には、弁室VSから弁通孔27、中間室221及び第2流路22を通ってエバポレータ104へ送り出される冷媒の流量が制限される。他方、弁体3が、弁座20から離間しているとき(連通状態のとき)には、弁室VSから弁通孔27、中間室221及び第2流路22を通って、エバポレータ104へ送り出される冷媒の流量が増大する。膨張弁1の閉状態と開状態との間の切り換えは、ストッパ部材84を介してパワーエレメント8に接続された作動棒5によって行われる。
【0040】
図1において、パワーエレメント8の内部には、ダイアフラム83により仕切られた圧力作動室POと下部空間LSとが設けられている。このため、圧力作動室PO内の作動ガスが液化されると、ダイアフラム83が上昇するため、コイルばね41の付勢力に応じてストッパ部材84及び作動棒5が上方向に移動する。一方、液化された作動ガスが気化されると、ダイアフラム83とストッパ部材84が下方に押圧されるため、作動棒5は下方向に移動する。このようにして、膨張弁1の開状態と閉状態との間の切り換えが行われる。
【0041】
更に、パワーエレメント8の下部空間LSは、戻り流路23と連通している。このため、戻り流路23を流れる冷媒の温度・圧力に応じて、圧力作動室PO内の作動ガスの体積が変化し、作動棒5が駆動される。換言すれば、
図1に記載の膨張弁1では、エバポレータ104から膨張弁1に戻る冷媒の温度・圧力に応じて、膨張弁1からエバポレータ104に向けて供給される冷媒の量が自動的に調整される。
【0042】
(支点調整部材)
支点調整部材85の作用について説明する。ダイアフラム83は、圧力作動室PO内の作動ガスの体積変化に応じて、中立位置を挟んで上蓋部材82側又は受け部材86側へと変位する。ここで、「中立位置」とは、ダイアフラムが上蓋部材側の支点からも、また支点調整部材側の支点からも反力を受けない位置をいう。
【0043】
なお、「上蓋部材側の支点」とは、ダイアフラムが撓んで変位する場合において、上蓋部材に当接することでダイアフラムが制止される(上蓋部材側に変位しない)部位と、上蓋部材側に変位する部位との境界点に接する上蓋部材の点をいう。
図2の例では、上蓋部材82側の支点はP1である。
【0044】
また、「支点調整部材側の支点」とは、ダイアフラムが撓んで変位する場合において、支点調整部材に当接することでダイアフラムが制止される(受け部材側に変位しない)部位と、受け部材側に変位する部位との境界点に接する支点調整部材の点をいう。
図2の例では、支点調整部材85側の支点は、支持曲面部85b上のP2である。支点P2を全周に沿ってつなげると、軸線Oを中心とする円となり、その直径(支点径という)をφ1とする。
【0045】
ここで、支点調整部材85の支持曲面部85bは、受け部材86のフランジ部86aよりも内側に張り出している。仮に、支点調整部材85を設けない場合、ダイアフラム83は受け部材86に直接当接することになるため、支点調整部材側の支点の代わりに受け部材86上に支点(受け部材側の支点)が生じるが、このときの受け部材側の支点の径は、明らかに支点調整部材側の支点径φ1よりも大きくなる。つまり、支点調整部材85を設けることにより、支点径を小さくする効果がある。
【0046】
(第1変形例)
図4は、第1変形例のパワーエレメント8Aの拡大断面図である。本変形例においては、第1実施形態のパワーエレメント8に対し、支点調整部材85Aの形状を変更している。より具体的には、第1実施形態に対して、環状平板部85Aaの径方向幅を内周側に広げている。これにより、支点調整部材85A側の支点は、支持曲面部85Ab上のP3となり、その支点径はφ2となる。このとき、φ1>φ2である。それ以外の構成は、上述した実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0047】
(第2変形例)
図5は、第2変形例のパワーエレメント8Bの拡大断面図である。本変形例においては、第1変形例のパワーエレメント8Aに対し、支点調整部材85Bの形状を更に変更している。より具体的には、第1変形例に対して、環状平板部85Baは同様とするが、支持曲面部85Bbをダイアフラム83の形状に沿わせながら軸線O側に延長させている。これにより、支点調整部材85B側の支点P4は、支持曲面部85Abの端部となり、その支点径はφ3となる。このとき、φ2>φ3である。
【0048】
本変形例では、上記実施形態の受け部材86に対して、形状を変更した受け部材を用いているが、両者は基本的には同じ構成であるため、同じ符号を付して説明を省略する。また、それ以外の構成は、上述した実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0049】
図6は、膨張弁1の温度/流量特性を示すグラフであり、縦軸に冷媒流量をとり、横軸にパワーエレメントの温度をとって表している。上述したように、膨張弁1は、パワーエレメントの温度が増大するにつれて、冷媒の流量を増大させることで、冷媒循環システム100の温度制御を行うことができる。しかしながら、いかなる温度のときに、いかなる冷媒の流量とすべきかは、冷媒循環システム100の仕様によって異なる。
【0050】
ここで、第1実施形態にかかるパワーエレメント8を備えた膨張弁の場合、支点調整部材85の支点径がφ1であるから、
図6の実線で示すグラフAに沿った温度/流量特性を得ることができる。
【0051】
これに対し、第1変形例にかかるパワーエレメント8Aを備えた膨張弁の場合、支点調整部材85Aの支点径をφ2(<φ1)と減少させている。このため、
図6の一点鎖線で示すグラフBに沿った温度/流量特性を得ることができ、グラフAと比較して同じパワーエレメントの温度でも冷媒の流量が低下する。その理由を以下に説明する。第1変形例において、受け部材86側に変位したダイアフラム83が、支点調整部材85Aの支点P3で支持されて変形する。かかる場合、支点P2で支持される場合に比べ、支点径が小さくなるため(φ2<φ1)、ダイアフラム83の中央部83bの変位量が減少し、弁体3の開弁量が減少することとなる。
【0052】
更に、第2変形例にかかるパワーエレメント8Bを備えた膨張弁の場合、ダイアフラム83が支点調整部材85Bの支点P4で支持されて変形するため、支点調整部材85Bの支点径がφ3(<φ2)と更に小さくなる。そのため、同様の理由で、
図6の二点鎖線で示すグラフCに沿った温度/流量特性を得ることができ、グラフBと比較して同じパワーエレメントの温度でも冷媒の流量が更に低下する。
【0053】
なお、
図5に点線で示すように、支持曲面部85Bbをダイアフラム83の形状に沿わせながら軸線O側に更に延長させることもできる。これにより、支点調整部材の支点径を更に小さくできる効果がある。
【0054】
加えて、
図5に点線で図示する構成によれば、別な効果もある。仮に、支点調整部材を設けないとすると、受け部材86の支点を用いてダイアフラム83を変位させることになるが、受け部材86の円錐部86bとストッパ部材84の円盤部84bとの干渉を回避することが要求されるため、受け部材86の支点の径を小さくすることには制限があった。
【0055】
これに対し、
図5に点線で図示する構成では、支点調整部材85Bの内周端(支点)P5が、ダイアフラム83とストッパ部材84の外周段部84dとの間に進入するため、支点調整部材85Bとストッパ部材84とを、互いに干渉することなく軸線O方向に重なるように設置できる。つまり、
図5に点線で図示する構成を用いることで、他部品との干渉を生じることなく、支点径を減少させる自由度が高まる。
【0056】
以上述べたように、本実施の形態によれば、上蓋部材82、ダイアフラム83、受け部材86に共通の部品を用いてパワーエレメントを構成した場合でも、形状が異なる支点調整部材85,85A,85Bのいずれかを選択して組み付けることで、膨張弁の異なる温度/流量特性を得ることができる。これにより、冷媒循環システム100の仕様に合わせて温度/流量特性の広範なチューニングが可能であるにもかかわらず、コストを抑えた膨張弁を提供できる。
【0057】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態のパワーエレメント8Cの拡大断面図である。第2実施形態においては、第2変形例のパワーエレメント8Bに対し、支点調整部材85Cの形状を変更している。より具体的には、
図7の断面において、支点調整部材85Cの支持曲面部85Cb上に、それぞれ環状の凸曲面を形成する外側凸部85Ccと内側凸部85Cdとを設けている。それ以外の構成は、上述した実施の形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0058】
ダイアフラム83が、上蓋部材82側から受け部材86側へと変位したときに、まず外側凸部85Ccに当接する(
図7に点線で図示)。かかる場合、支点調整部材85C側の支点は、外側凸部85Cc上のP6となり、その支点径はφ4となる。更にダイアフラム83が、受け部材86側へと変位すると、次に内側凸部85Cdに当接する(
図7に実線で図示)。かかる場合、支点調整部材85C側の支点は、内側凸部85Cd上のP7となり、その支点径はφ5(<φ4)となる。
【0059】
換言すれば、単一の支点調整部材85Cを用いつつ、二段階の温度/流量特性を得ることができる。具体的に説明すると、
図6を参照して、例えば所定温度未満では支点調整部材85C側の支点P6を用いることで、グラフBに類似した特性を得ることができる。また所定温度以上では、支点P6から径方向内側にシフトした支点P7を用いることで、グラフCに類似した特性を得ることができる。なお、以上の実施形態では支点の数を2個としたが、3個以上の径方向に異なる支点を用いてもよい。
【0060】
(第3の実施形態)
図8は、第3の実施形態における膨張弁1Dを示す概略断面図である。
図9は、第3の実施形態におけるパワーエレメント8Dの断面図である。
図10は、第3の実施形態における
図8のB部を拡大して示す断面図である。
【0061】
図8に示す膨張弁1Dが、第1の実施形態にかかる膨張弁1と異なる点は、パワーエレメント8Dと、弁本体2Dの上部構成にある。すなわち本実施形態においては、パワーエレメント8Dと弁本体2Dは、ねじの螺合により結合されておらず、両者の結合はカシメにより行われる。それ以外の構成については、第1の実施形態と同様であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0062】
図9において、パワーエレメント8Dは、栓81と、上蓋部材82と、ダイアフラム83と、受け部材86Dと、支点調整部材85と、ストッパ部材84とを有する。ここでも、上蓋部材82側が上側であり、受け部材86D側が下側であるものとする。なお、ストッパ部材は設けなくてもよい。
【0063】
本実施形態のパワーエレメント8Dにおいては、第1の実施形態におけるパワーエレメント8に対して、受け部材86Dの構成のみが主として異なる。それ以外の栓81、上蓋部材82、ダイアフラム83、支点調整部材85、ストッパ部材84については、細部の形状が異なることを除き基本的に同様な構成であるため、同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0064】
金属製の板材をプレスにより成形することによって形成される受け部材86Dは、上蓋部材82の外側板部82bの外径とほぼ同じ外径を持つフランジ部86Daと、フランジ部86Daの内周に連設され下側に向かう中空円筒部86Dbと、中空円筒部86Dbの下端内周に連設された環状の内側板部86Dcと、を有している。内側板部86Dcは、ストッパ部材84の本体84aが嵌入する中央開口86Ddを備えている。
【0065】
パワーエレメント8Dの組み立て時において、ダイアフラム83と受け部材86Dとの間にストッパ部材84を配置しつつ、上蓋部材82の外側板部82bと、ダイアフラム83の外周部83aと、支点調整部材85の環状平板部85aと、受け部材86Dのフランジ部86Daをこの順序で重ね合わせ軸方向に押圧しつつ、その外周を例えばTIG溶接やレーザ溶接、プラズマ溶接等により溶接して全周にわたって溶接部Wを形成し、これらを一体化する。
【0066】
続いて、上蓋部材82に形成された開口82aから、上蓋部材82とダイアフラム83とで囲われる空間内に作動ガスを封入した後、開口82aを栓81で封止し、更にプロジェクション溶接等を用いて、栓81を上蓋部材82に固定する。以上により、パワーエレメント8Dが組み立てられる。
【0067】
図10において、アルミニウムなどの金属から形成される弁本体2Dは、その上端から延在する円管部2dを備える。円管部2dの内径は、パワーエレメント8Dの外径に等しいか、わずかに大きい。
【0068】
パワーエレメント8Dを弁本体2Dに組み付ける前において、円管部2dは点線で示すように、軸線L(
図8)を軸とする円筒形状となっている。パワーエレメント8Dを弁本体2Dに組み付けるときは、弁本体2Dの段部2eに環状のパッキンPKを配置して、受け部材86D側から弁本体2Dに接近させ、円管部2d内にパワーエレメント8Dを嵌合させる。このとき、内側板部86Dcと段部2eとの間にパッキンPKが挟持される。
【0069】
かかる状態で、不図示のカシメ工具を用いて、円管部2dの先端を内側に向かってかしめると、円管部2dの先端は軸線Lに向かって塑性変形して、環状のカシメ部2fが形成される。上蓋部材82の外側板部82bの外周上面がカシメ部2fから押圧されて固定される。これにより内側板部86Dcと段部2eとの間でパッキンPKが軸線L方向に圧縮され、下部空間LSにつながる凹部2a内の空間が封止されて、凹部2aからの冷媒のリークを防止する。
【0070】
図8に示す膨張弁1Dも、
図1に示す冷媒循環システム100に組み込むことができ、第1の実施形態にかかる膨張弁1と同様の機能を発揮する。
【0071】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1、1D :膨張弁
2、2D :弁本体
3 :弁体
4 :付勢装置
5 :作動棒
6 :リングばね
8、8A、8B、8C、8D:パワーエレメント
20 :弁座
21 :第1流路
22 :第2流路
221 :中間室
23 :戻り流路
27 :弁通孔
28 :作動棒挿通孔
29 :環状凹部
41 :コイルばね
42 :弁体サポート
43 :ばね受け部材
81 :栓
82 :上蓋部材
83 :ダイアフラム
84 :ストッパ部材
85、85A、85B、85C:支点調整部材
86,86D :受け部材
100 :冷媒循環システム
101 :コンプレッサ
102 :コンデンサ
104 :エバポレータ
VS :弁室
P1 :上蓋部材側の支点
P2~P7:支点調整部材側の支点