(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026262
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】放射線感受性組織における細胞保護薬の選択的堆積およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240220BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240220BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240220BHJP
A61K 31/661 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 123
A61P35/04
A61P43/00 121
A61K31/661
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023204518
(22)【出願日】2023-12-04
(62)【分割の表示】P 2020546284の分割
【原出願日】2018-11-19
(31)【優先権主張番号】62/589,155
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510166102
【氏名又は名称】ウィリアム マーシュ ライス ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】WILLIAM MARSH RICE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】6100 Main Street,Houston,TX 77005, United States of America
(71)【出願人】
【識別番号】316014571
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】520178331
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ユニバーシテイ オブ テキサス システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ツアー
(72)【発明者】
【氏名】カレン タニグチ
(72)【発明者】
【氏名】キャシー メースン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放射線に感受性であり、かつ放射線放射の前の悪性腫瘍に隣接している組織および/または器官における細胞を保護する方法を提供する。
【解決手段】癌患者を併用療法で処置するための方法であって、a.前記患者へ、放射線に曝露することに先立って所定の時間に治療上有効な経口投与用細胞保護プロドラッグを投与することであって、前記患者が、放射線に対して感受性のある他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つに隣接する組織および器官のうちの少なくとも1つにおいて原発性癌および転移性癌のうちの少なくとも1つを有し、前記細胞保護プロドラッグの代謝産物が、前記治療有効量の放射線量に感受性のある前記他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つにおいて選択的に堆積するように構成されている、投与することと、b.前記少なくとも1つの組織および1つの器官を治療有効線量に曝露することと、を含む、方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌患者を併用療法で処置するための方法であって、
a.前記患者へ、放射線に曝露することに先立って所定の時間に治療上有効な経口投与用細胞保護プロドラッグを投与することであって、前記患者が、放射線に対して感受性のある他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つに隣接する組織および器官のうちの少なくとも1つにおいて原発性癌および転移性癌のうちの少なくとも1つを有し、前記細胞保護プロドラッグの代謝産物が、前記治療有効量の放射線量に感受性のある前記他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つにおいて選択的に堆積するように構成されている、投与することと、
b.前記少なくとも1つの組織および1つの器官を治療有効線量に曝露することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記細胞保護プロドラッグが、S-2-(3-アミノプロピルアミノ)エチル二水素ホスホロチオアートである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原発性癌および前記転移性癌のうちの前記少なくとも1つが、膵癌、前立腺癌、肝胆道系腫瘍、および後腹膜肉腫のうちの少なくとも1つである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記放射線に対して感受性のある他の組織が十二指腸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記放射線に対して感受性のある他の組織が空腸である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞保護プロドラッグがチオール型である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの組織および1つの器官を治療有効放射線量へ曝露する前記ステップが、体幹部定位放射線治療を使用して、前記患者へ約37.5グレイ(Gy)~約208Gyの合計放射線量を投与することを含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項8】
前記投与するステップが定位分割放射線を使用することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
放射線が1分割~約5分割で投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記放射線への曝露に先立った所定の時間は、約15分~約30分である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
治療有効経口用量が、約250mg/kg~約1000mg/kgを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記放射線が、1分割あたり5Gy~16Gyの3~5分割で投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記放射線への曝露に先立った所定の時間が、約25分である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
高線量放射線を必要とする患者において、第1の組織および第1の器官のうちの少なくとも1つを、隣接する第2の器官および隣接する第2の組織のうちの少なくとも1つに対する前記高線量放射線から保護する方法であって、前記第1の組織および/または器官が放射線に対して感受性があり、前記方法が、前記患者へ、少なくとも前記第1の組織および前記第1の器官に選択的に堆積するのに適した代謝産物を有する薬学的有効濃度の細胞保護薬を含む経口組成物を投与するステップを含み、前記経口組成物が、放射線放射に先立って所定の時間に投与される、方法。
【請求項15】
前記第1の組織および/または第1の器官が、消化管、十二指腸、空腸、小腸、大腸、直腸、食道、胃、膀胱、および尿路のうちの少なくとも1つである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の組織および前記第2の器官のうちの前記少なくとも1つが、膵臓、前立腺、肝臓、胆嚢、および副腎、腎臓、後腹膜、リンパ節、子宮、精巣、卵巣である、請求項14に記載の方法、
【請求項17】
前記高線量放射線が、少なくとも15Gyの合計線量である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞保護薬が、S-2-(3-アミノプロピルアミノ)エチル二水素ホスホロチオアートである、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
放射線が、前記第2の組織および前記第2の器官のうちの少なくとも1つを1~約5の照射分割へ曝露する体幹部定位分割放射線治療を使用するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの組織および1つの器官を治療有効線量へ曝露するステップが、前記患者へ約15Gy~約208Gyの合計放射線量を投与することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第2の器官が膵臓であり、前記第1の組織が十二指腸である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記経口組成物が、放射線への曝露に先立って約15分間~約30分間投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記放射線が、1分割あたり1.8Gy~16Gyの3~5分割で投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記治療有効経口用量の細胞保護薬が、約20mg/kg~約81mg/kgである、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本開示は、放射線を使用した原発性および転移性癌の治療を対象とする。具体的には、本開示は、放射線に感受性であり、かつ腫瘍の放射線放射の前の悪性腫瘍に隣接もしている組織および/または器官における細胞保護薬の選択的堆積を用意する方法を対象とする。
【0002】
適切な殺腫瘍線量の放射線を送達する上での主要な制限因子は、隣接器官の正常組織に対する毒性である。この問題は、膵腺癌および前立腺腺癌のような、腹部および骨盤の固形腫瘍によって強調され、消化(GI)管に対して有意な罹病率がないまま殺腫瘍線量に到達することがしばしばできない。例えば、膵癌は、膵頭部にしばしば発生し、膵頭部は血液供給を、腸管の放射線感受性部分である十二指腸と共有している。膵頭部の腫瘍は、局所制御を実現するために77Gyを超過する線量を必要とし、隣接する十二指腸は、出血性潰瘍または穿孔を引き起こすことなく最大50Gyしか許容することができないので、安全に投与することはしばしば不可能である。残念ながら、切除不能な膵癌に罹患している患者には、この放射線毒性からGI管を特異的に保護する有効な処置がなく、したがって、切除不能な膵癌における切除放射線治療は現在不可能である。
【0003】
アミホスチンとしても既知の(かつ本明細書では相互交換可能に使用される)WR-2721(S-2-[3-アミノプロピルアミノ]-エチルホスホロチオ酸)は、正常組織の放射線防護薬として証明されており、静脈内(IV)投与についてFDAの承認を受けている。静脈内に付与すると、アミホスチンは、重度の悪心および低血圧を引き起こすので、多量の液体を飲ませた後、患者へ投与し、その間、横になって血圧を継続的に監視する。WR-2721は、正常な(言い換えれば、非悪性の)組織において豊富な非特異的組織アルカリホスファターゼによって活性型細胞保護遊離チオール代謝産物であるWR-1065へ加水分解されるプロドラッグとして存在する。残念ながら、内皮に存在するこれらの汎存性細胞酵素は、自律神経系において望ましくない副作用を媒介する可能性がある。
【0004】
経口送達用に製剤されたWR-2721(例えば、米国特許第5,167,947号を参照されたい)は、有意な腸内代謝が、治療レベルが血清に蓄積して標的器官に到達するのを妨げるであろうことから、血漿濃度を高めるために再製剤された。
【0005】
本開示は、先に説明した欠点に対処し、それにより、経口WR-2721が、放射線感受性組織および/または器官に関するさもなくば致死線量である放射線に対する有効な放射線防護剤薬であり、経口WR-2721の活性型代謝産物WR-1065を、近くにある癌性組織よりも、保護されるよう選択された器官および/または組織において有意に高いレベルで選択的に堆積させることができることを実証している。
【発明の概要】
【0006】
実施形態では、癌患者を併用療法で処置するための方法が提供され、該方法は、該患者へ、放射線への曝露の前に、治療有効量の経口投与される細胞保護プロドラッグを所定の時間で投与することであって、該患者が、放射線に対して他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つに隣接した組織および器官のうちの少なくとも1つにおいて原発性癌および転移性癌のうちの少なくとも1つを有する、投与することと、少なくとも1つの組織および1つの器官を治療有効量の放射線量へ曝露することとを含む。
【0007】
別の実施形態では、高線量放射線を必要とする患者において、放射線に対して感受性のある第1の組織および第1の器官のうちの少なくとも1つを、隣接する第2の器官および隣接する第2の組織のうちの少なくとも1つに対する高線量放射線から保護する方法であって、患者へ少なくとも第1の組織および第1の器官に選択的に堆積するのに適した代謝産物を有する薬学的有効濃度の細胞保護薬を含む経口組成物を投与するステップを含み、経口組成物が、放射線放射に先立って所定の時間に投与される、方法が本明細書で提供される。
【0008】
さらに別の実施形態では、放射線に対して感受性のある他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つに隣接している組織および器官のうちの少なくとも1つにおいて原発性癌および転移性癌のうちの少なくとも1つを有する癌患者の処置のための薬剤の製造における経口投与用細胞保護プロドラッグの使用であって、他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つを放射線に曝露することに先立って所定の時間に薬剤が経口投与されるように構成された、使用が本明細書で提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
さもなくば毒性である放射線への隣接する組織および/または器官の曝露に先立って、放射線感受性のある健常な組織および/または器官において放射線防護薬を選択的に堆積させる方法の特色は、次の発明を実施するための形態から、図面とともに読み取られると明らかとなり、該図面は例示的であって制限するものではなく、同様の要素には、いくつかの図面において同様に番号が付けられている。
【0010】
【
図1】致死放射線後の小腸陰窩生存度を改善することができる経口WR-2721を示す。Withers-Elkindマイクロコロニーアッセイを実施し、処置後の十二指腸および空腸の横断面積当たりの生存中の陰窩を次の群について定量した。十二指腸:12Gy WBIに先立って(A)15分前(n=6~20/群)または(B)30分前(n=6~20/群)にWR-2721を経口投与。空腸:12Gy WBIに先立って(C)15分前(n=6~20/群)または(D)30分前n=6~42/群)にWR-2721を経口投与。(E)(C)および(D)において使用されている代表的なヘマトキシリン・エオシンであり、矢印は生存中の陰窩を強調。
【
図2A】
図2Aは、WR-2721の経口投与が、体重による全身注射よりも、
図2Bでは、摂食による全身注射よりも良好に許容されていることを示しており、いずれも強制経口投与(三角形、n=6)、腹腔内注射(赤色の正方形、n=5)、またはビヒクル対照(丸、n=5)のいずれかによって5日間連続でのWR-2721の投与後に毎日測定される。
【
図3】経口WR-2721が致死的分割放射線後の生存度を改善することを示し(A)10mm放射線照射野が配置されるであろう箇所の重ね合わせによる照射の直前に撮影されたマウスのコーンビームCT。レチクル内の目盛りは5mm間隔を示す。(B)マウスにメチレンブルーを強制経口投与し、25分後にマウスを解剖。青色の色素は、WR-2721の投与後の照射の時間であろうとき、空腸内で明らかであった(矢印G)が、遠位小腸ではそうではなかった(矢印W)。(C)直径10mmの円形放射線照射野を使用して、連続5日間にわたって投与される5分割の放射線でマウスを処置した(n=5/群)。(D)直径10mmの円形放射線照射野を使用して、12.5Gyの各分割の25分前に、マウスを強制経口投与によって500mg/kgのWR-2721で5日間連続処置した。
【
図4】強制経口投与による放射線防護代謝産物WR-1065の選択的集積(堆積)を示す(A)LC/MS-MS分析のための血液および組織の収集に先立つ25分前に、500mg/kg経口または250mg/kg腹腔内でWR-2721を用いて処置したC57BL/6マウスの概略図。C57BL/6血漿濃度(B)ならびにC57BL/6十二指腸、空腸および肝臓での濃度(C)。(D)に示すKPC動物におけるWR-1065測定についての概略図。(E)KPC血漿濃度ならびに(F)経口注射および腹腔内注射後のKPC十二指腸、空腸、肝臓および膵臓の腫瘍の濃度。(G~H)(F)からのデータは、特発性腫瘍と比較した注目の組織におけるWR-1065の比率として示すように再フォーマットされた。
【
図5】メチレンブルーの経口投与後のGI通過時間を示す。(A~E)(A)5分(B)10分(C)15分(D)25分および(E)30分の時点での強制経口投与後のGI管内でのメチレンブルー色素の位置をインサイツで示す。(F)AEに示す同じマウスからの胃から結腸までの切除されたGI管の比較。矢印は色素の前線を示す。
【
図6】ビヒクル単独、SBRT+ビヒクルまたはSBRT+経口WR2721に対して処置されたKPCマウスにおいてWR-2721を使用した処置後の生存度を示す。SBRT野は、腫瘍に対してAP/PAが与えられた10mmとし、線量は、1日当たり12.5Gyを5日間連続で、合計線量62.5Gyとした(EQD2=117.2Gy、α/β
10=140.6)。腫瘍を、マイクロCTおよび超音波によって基準なしで毎日同定した。ビヒクルのWR-2721を、各分割についての照射に先立って25分前に与えた。
【0011】
本開示は、種々の改変および代替形態をとることができるが、それらの具体的なことは、例として図面に示されており、以下でさらに詳細に説明される。
【0012】
しかしながら、その意図が、説明された詳細な実施形態に本開示を制限するものではないことは理解されるべきである。それどころか、その意図は、すべての改変、等価物、および代替物を網羅することにある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、一実施形態では、腫瘍の位置が放射線感受性組織に隣接しており、適切な殺腫瘍効果に必要な放射線量が隣接する組織および/または器官に対して毒性である、放射線を使用して癌を処置する方法に関する。
【0014】
膵癌は、生物学的等価線量が77Gy超であることが臨床的利益を得るために必要である。現在、このことは、腸から少なくとも1cm離れている位置にない限り、ほとんどの膵腫瘍にとって実現することはできない。膵癌患者についての転帰を改善するための経口WR-2721の使用に加えて、同様の戦略は、GI毒性により放射線を用いて決定的に処置することができない肝胆管腫瘍、後腹膜肉腫、または腹部内の転移性疾患のような他の腹部癌または骨盤癌に当てはまり得る。
【0015】
腸管全体には、十二指腸および空腸において最高レベルの発現を呈する腸内アルカリホスファターゼが集積されている。したがって、放射線照射の前の所定の時間に経口付与される次式を有するS-2-(3-アミノプロピルアミノ)エチル二水素ホスホロチオアート(以後WR-2721)の用量が、
十二指腸および空腸における内在性消化酵素によってその活性型2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールジヒドロクロリド(以後WR-1065)(またはその遊離一塩基または二塩基であって、いったん十二指腸内へと通過したり、十二指腸を経て通過したりすると、個々のHClおよび何らかの他の薬学的に許容される塩の形成を欠く)へと迅速に活性化され得ることが理由付けられた。
【0016】
腸内の非組織特異的アルカリホスファターゼの発現上昇により、経腸活性化型のWR-2721は腸内に高濃度で蓄積し、全身性副作用のより少ない選択的な局所放射線防護を提供するであろう。十二指腸および空腸は、切除処置を妨げる線量制限器官であるので、このことは、膵癌のための放射線照射の間、有用であり得る。本開示は、経口WR-2721が、上腹部に関するさもなくば致死線量の放射線に対する有効な放射線防護薬であることを示す。さらに、薬物が十分に許容され、その活性代謝産物であるWR-1065が、血清、肝臓、または特発性膵腫瘍と比較してGI管において有意に高いレベルで堆積するという事実が本明細書で実証される。このような局在効果は、WR-2721の静脈内投与では利用することができない。
【0017】
本処置方法に関する対象化合物の「有効量」は、所望の投与計画(用量、タイミング、頻度)の一部として適用されたとき、例えば、処置されるべき障害についての臨床的に許容される基準によって、細胞の生存度の変化をもたらすことを防ぐ製剤における細胞保護プロドラッグの量を指す。また、本明細書で使用される場合、「堆積する」という用語およびその文法上の派生語、例えば「堆積性の」または「堆積して」は、実施形態では、放射線防護されるべきである標的組織および/または器官における活性代謝産物の濃度の漸増を指す。
【0018】
したがって、実施形態において、処置することを必要とする癌患者を併用療法で処置するための方法であって、患者へ治療有効経口用量の細胞保護プロドラッグを、放射線への曝露に先立って所定の時間投与することであって、患者が、放射線に対して感受性のある他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つに隣接する組織および器官のうちの少なくとも1つにおける原発性癌および転移性癌のうちの1つを有し、プロドラッグが治療有効放射線量に感受性のある他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つにおいて選択的に堆積するように構成された、投与することと、少なくとも1つの組織および1つの器官を治療有効放射線量へ曝露することとを含む、方法が本明細書で提供される。
【0019】
実施形態では、細胞保護プロドラッグはWR-2721である。本明細書で使用される場合、「プロドラッグ」という用語は、薬理学的効果(複数可)を呈することに先立って生体内転化を受ける化合物の薬理学的に不活性型の形態を指す。プロドラッグとは、所望の薬理学的効果を生じるために、投与後に対象によってインビボで化合物の薬理学的に活性型の形態へと代謝されるものである。対象への投与後、化合物の薬理学的に不活性型の形態は、生体液および/または酵素の影響下で化合物の薬理学的に活性型の形態へとインビボで転化される。代謝は多くの化合物について主に肝臓および/または腎臓で発生するが、他のほとんどすべての組織および器官、特に肺は、様々な程度の代謝を行うことができる。化合物のプロドラッグ形態は、例えば、生物学的利用率を改善し、苦味のような不快な特徴を遮蔽し、静脈内使用のために溶解度を変化させ、または化合物の部位特異的送達を提供するために利用することができる。本明細書の化合物への言及には、化合物のプロドラッグ形態および薬物複合体(活性型の形態)が含まれる。
【0020】
WR-2721の経口剤形はまた、EDTA、EGTA、クエン酸塩およびそれらの治療上許容される塩からなる群から選択されるキレート剤の塩を含む組成物の一部であり得る。経口投与の場合、製剤は、液剤、溶液剤、懸濁剤、カプセル剤、錠剤、コーティング錠、および当技術分野で既知の他の標準的な手順として調製することができる。直腸適用の場合、製剤は、液体浣腸、微小浣腸、坐剤、直腸錠剤、および当技術分野で既知の他の標準的な手順として調製することができる。好ましい製剤は、WR-2721の薬理学的に必要な用量が約150mg/kg~約1000mg/kg、例えば、約250mg/kg~約750mg/kgまたは約500mg/kgで、および直腸適用の場合、許容される組成物を製剤するのに十分な坐剤基剤を作製することができる。賦形剤および坐剤基剤の方法および選択は当業者に周知であり、そして該製剤の組成は本発明によって、ゼラチンカプセル剤、圧縮錠剤または固形坐剤に限定されない。
【0021】
実施形態では、原発性癌および転移性癌のうちの少なくとも1つは、膵癌および前立腺癌のうちの少なくとも1つである。本明細書で使用される場合、「原発性癌」は、癌が発生する元の部位(器官および/または組織)を指す。例示的な原発性癌は、頭部、頸部、鼻腔、副鼻腔、咽頭鼻部、口腔、中咽頭、喉頭、下咽頭、唾液腺、傍神経節腫、膵臓、胃、皮膚、食道、肝臓および胆樹、骨、腸、結腸、直腸、卵巣、前立腺、肺、乳房、リンパ系、血液、骨髄中枢神経系、または脳に局在し得る。逆に、「転移性癌」という用語は、癌の細胞が転移した癌を指し、例えば、癌は癌細胞の転移を特徴とする。転移は、局所転移または遠隔転移であり得る。また、「転移性」という用語は、細胞の転移能力を査定するために使用される方法によってアッセイされたときに転移が観察されることを意味することを意図している。例えば、実験動物に細胞を移植する場合、この用語は、細胞が遠隔転移を形成している状態を指す。同様に、「転移性癌細胞」という用語は、転移能を有する癌細胞を指す。
【0022】
実施形態では、放射線に対して感受性のある組織は十二指腸および/または空腸である。例えば、従来の分割療法を考慮すると、十二指腸への最大放射線量の典型的な限度値は、器官の3分の1に対して約50グレイ(Gy)、または器官全体に対して40Gyであると考えられており、最近の指針では小腸の195cm3のみが>45Gyを受容することが推奨されている。逆に、本明細書に開示されているように、腫瘍制御の高い確率を実現するには、55Gyを(大きく)超える生物学的有効線量が必要であることがある。したがって、実施形態では、少なくとも1つの組織および1つの器官を治療有効放射線量に曝露するステップは、体幹部定位放射線治療(SBRT)を使用して、3~5分割で37.5Gy~208Gyの合計BED10または3~5分割で31.25Gy~173.3GyのD2EQであろう合計1~5分割(25~80Gy)について1分割当たり約5Gy~約16Gyの合計放射線量を患者に投与することを含む。
【0023】
体幹部定位放射線治療(SBRT)では、単一または限られた数の集中した高線量の放射線分割は、腫瘍へ送達されるように構成されており、これは、腫瘍および直接隣接する組織へ切除線量を送達することができる。実施形態では、SBRTは、その外科的切除を妨げる重要な構造が提示されるときに、切除の代替となり得る。その上、別の実施形態では、開示される方法は、例えば、呼吸相関コーンビームコンピュータ断層撮影(4D-CT)を使用する治療計画をさらに含み、腹部圧迫により、分割放射線を送達するステップ中に腫瘍の呼吸関連移動を制限する。ある特定の実施形態では、基準マーカーは、腫瘍の移動を能動的に追跡するために処置の経過の間使用される。
【0024】
放射線は、WR-2721を含む経口組成物の約250mg/kg~約1000mg/kgの経口薬用量の投与後15~約30分間に開始することができる。例えば、25分が選択され得、ここで、放射線は分割されている(したがって、健常細胞と比較して癌細胞の不十分なDNA修復機序を利用している)。分割数は、例えば、WR-2721を含む経口(および/または直腸)組成物の投与後約15分~約30分で各々与えられる、1~5、例えば5の放射線分割であり得る。分割あたり送達される線量(5分割を想定)は、1分割当たり約11Gy~約15Gy、例えば約12Gy~約15Gy、または約12.5Gy~約13Gyとすることができる。合計放射線量は、例えば、55Gy~約130Gyとすることができ、例えば、腫瘍の位置、腫瘍の分類、および腫瘍と関係する癌の種類のうちの少なくとも1つに依存することになる。
【0025】
したがって、別の実施形態では、高線量の放射線を必要とする患者において、放射線に対して感受性のある第1の組織および/または第1の器官のうちの少なくとも1つを、隣接する第2の器官および隣接する第2の組織のうちの少なくとも1つに対する高線量の放射線から保護する方法であって、患者へ、少なくとも第1の組織および第1の器官において選択的に堆積するのに適した代謝産物を有する薬学的有効濃度の細胞保護薬を含む経口組成物を投与するステップを含む方法であって、経口組成物が放射線照射に先立って所定の時間に投与される、方法が本明細書で提供される。
【0026】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示される経口薬用量は、治療有効量の先に説明した化合物、すなわちWR-2721、その類似体およびそれらの薬学的に許容される塩を、1つ以上の薬学的に許容される担体(助剤)および/または希釈剤とともに製剤される、薬学的に許容される組成物を含む。本明細書で提供される薬学的組成物は、次のうちの少なくとも1つに適合したものを含む、固体形態または液体形態での投与のために特別に製剤され得る:(a)経口投与、例えば、ドレンチ剤(水性または非水性の溶剤または懸濁液)、錠剤、例えば、頬側吸収、舌下吸収、および全身吸収を標的としたもの、カプセル剤、ボーラス剤、散剤、顆粒剤、舌への塗布用ペースト剤、(b)膣内または直腸内、例えばペッサリー、クリームまたはフォームとしてのもの、(c)舌下投与用製剤。
【0027】
本明細書で提供される薬学的組成物において採用することができる適切な水性および非水性の担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびこれらの適切な混合物、オリーブ油のような植物油、オレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルを挙げることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティング材料の使用により、分散剤の場合には必要な粒径の維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。
【0028】
これらの組成物はまた、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、潤滑剤、および/または酸化防止剤のようなアジュバントを含有することができる。本発明の化合物に対する微生物の作用の防止は、種々の抗菌薬および抗真菌薬、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などを含めることによって確保されることができる。糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物に含めることも望ましいことがある。加えて、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延させる薬剤を含めることにより、注射可能な薬学的形態の吸収を長引かせることができる。加えて、本明細書で提供される経口組成物はまた、許容される緩衝剤混合物(例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液など)、甘味料、および/または少なくとも1つのフレーバー剤を含むことができる。
【0029】
本明細書で提供される薬学的組成物中の有効成分の実際の薬用量レベルは、患者に対する毒性がなく、特定の患者、組成物、および投与様式に対する所望の治療応答を実現する上で有効である有効成分(例えば、WR-2721)の量を得るために変えることができる。選択された薬用量レベルは、本明細書で提供される特定の化合物、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、採用される特定の化合物の排泄または代謝の速度、吸収の速度および程度、処置の持続時間、採用される特定の化合物と併用される他の薬剤化合物(例えば、オキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル、ロイコボリン、転移性膵癌の場合はゲムシタビン)および/または材料、処置される患者の年齢、性別、体重、容態、全身の健康状態および既往歴、ならびに類似の因子およびそれらの組み合わせを含む、種々の因子によることになる。
【0030】
「処置する」および「予防する」という用語ならびにそれらから生じる語は、本明細書で使用される場合、必ずしも100%のまたは完全な処置または予防(例えば、隣接組織への損傷を予防すること)を含意するものではない。むしろ、当業者が潜在的な利益または治療効果を有すると認識する処置または予防の程度は様々である。この点で、本明細書で開示および特許請求される方法は、哺乳動物における癌の処置または予防を含む、診断、病期分類、スクリーニング、または他の患者管理の何らかのレベルの何らかの量を提供することができる。さらに、本明細書で開示および特許請求される方法によって提供される処置または予防は、処置または予防されている疾患、例えば癌の1つ以上の容態または症状の処置または予防を含むことができる。また、本明細書の目的のために、「予防」は、疾患、またはその症状もしくは容態の発症を遅延させることを包含することができる。
【0031】
さらに、本明細書の「第1(first)」、「第2(second)」などの用語は、順序、量、または重要性を示すのではなく、ある要素から別の要素を示すために使用される。本明細書の用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、量の制限を示すものではなく、本明細書で特に明記しない限り、または文脈により明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるものとする。本明細書で使用される接尾辞「(s)」は、それが修飾する用語の単数形および複数形の両方を含むよう意図されており、それにより、該用語のうちの1つ以上を含む(例えば、腫瘍(複数可)は1つ以上の腫瘍を含む)。明細書全体にわたる「一実施形態」、「別の実施形態」、「実施形態」などへの言及は、実施形態に関連して説明された特定の要素(例えば、特徴、構造、および/または特性)が本明細書で説明される少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味し、他の実施形態では存在してもしなくてもよい。加えて、説明された要素は、様々な実施形態に任意の適切な方法で組み合わされてもよいことを理解されたい。
【実施例0032】
材料および方法
マウス
C57BL/6JLawマウスおよびC3Hf/KamLawマウスを、MD Anderson Cancer Centerにある実験放射線腫瘍学部の特定の病原体非含有動物施設から購入した。KrasLSL/+;Trp53FL/+;Ptf1aCre/+マウスを、すでに説明したとおり、遺伝子型が分類された10世代にわたって純粋なC57BL/6背景に戻し交雑した28。すべてのマウスは、実験動物管理評価認定協会および施設内動物管理使用委員会の指針に従って取得および維持され、谷口研究室についての施設承認を受けたプロトコルの下で実験を行った。雌C3Hf/KamLawマウスはマイクロコロニーアッセイ13に使用し、処置の開始時には12~14週齢であった。腫瘍を担持するKPCマウスをWR-1065濃度のLC/MS-MS組織分析に使用した。残りの研究では、すべての研究の開始時に8週齢の雄のC57BL/6JLawマウスを使用する。
【0033】
WR-2721
WR-2721三水和物(Toronto Research Chemicals Inc,ノースヨーク地区、オンタリオ州、カナダ国)をPBS(三水和物について調整するために0.2の換算係数を使用)で希釈し、0.1mlの容積中の25もしくは250もしくは500mg/kgの腹腔内注射または5~150~1000mg/kgの強制経口投与によって投与した。
【0034】
照射
生存試験については、連続5日間、ビヒクルまたはWR-2721の投与25分後に、XRAD225Cx小動物照射器(Precision X-Ray、ノースブランフォード町、コネチカット州)を使用し、直径10mmの円形放射線照射野を生じるコンフォーマルコリメーターを取り付けた。CT撮像および照射のために、イソフルランガスでマウスを麻酔した。各マウスは、照射に先立ってXRAD 225CxコーンビームCTを使用して撮像し、照射野を調整して、照射野の頭側の端がマウスの同心で横隔膜の下5mmに位置するようにした。この照射野は、膵臓、十二指腸、空腸および肝臓を放射線に曝露した。放射線を、前後-後前(AP-PA)で投与した。
【0035】
マイクロコロニーアッセイについて、WR-2721処置の15分または30分後に、Pantak 300X線装置(Pantak、イーストヘイブン町、コネチカット州)を使用して、12Gy全身照射(WBI)の単回線量を投与し、300kVpのX線を1.84Gy/分の線量率で用いた。麻酔されていないマウスを、WBIの間、十分に換気された15×15×2cmのルーサイトボックス内で緩く拘束した。
【0036】
メチレンブルー腸アッセイ
WR-2721のような経口液剤が強制経口投与後に8週齢のC57BL/6マウスの消化管を通過する速度を決定するために、PBS中のメチレンブルーの1%(w/v)溶液を0.1mlの合計容積で強制経口投与した。次に、色素投与5、10、15、25および30分後にマウスを安楽死させ、腸を経たメチレンブルー染色の進行を検討した。安楽死の8分前に、照射に先立って使用したのと同じ手順(3%イソフルランで8分間、酸素流量2L/分)でマウスをイソフルランで麻酔し、GI通過時間に対して有し得る何らかの潜在的な変化を説明した。メチレンブルー色素の進行をインサイツで検討し、標準的な放射線照射野の位置と比較した後、腸を切除して移動距離を決定することができた。
【0037】
生存度試験
マウスにWR-2721またはビヒクルを腹腔内(IP)注射または強制経口投与し、続いてSBRTによって処理し、毎日監視した。マウスが瀕死状態になった(波状毛皮、丸まった姿勢、持続性下痢および20%超の体重減少を呈した)ら、マウスを安楽死させた。安楽死までの時間および生存度を評価した。
【0038】
マイクロコロニーアッセイ
マイクロコロニーアッセイを使用して、生存可能な空腸陰窩を12GyのWBIの単回線量±放射線照射に先立つ15分前または30分前に単回経口用量のWR-2721を与えた後に定量した。WBI投与3日後および14時間後にマウスを安楽死させ、空腸および十二指腸の切片を摘出し、10%中性緩衝ホルマリン中で固定した。次に組織をパラフィン中に包埋し、マウス1匹当たり空腸および十二指腸の4つの横断切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。横断切片1枚当たりの再生陰窩数を顕微鏡下で点数化し、各組織種類について動物1匹当たり4枚の切片の平均を採った。すべてのスライドを、処置群を知らされていない1名の観察者によって点数化した。
【0039】
WR-1065組織濃度のLC/MS-MS分析
マウスを、500mg/kgのWR-2721を強制経口投与によって、または250mg/kgを腹腔内注射によって処置した。17分が経過した後、マウスをイソフルランガス(3%イソフルラン、酸素流量2L/分)で麻酔した。麻酔8分後、全血および組織を採取した。処置と組織採取の間の合計時間は25分であった。
【0040】
イソフルラン麻酔下で、心穿刺を介して全血試料を採取し、K2-EDTAを含有するBD Microtainer(登録商標)採血チューブ(Becton Dickinson、フランクリンレイクス地区、ニュージャージー州)に直ちに移した。次に、K2-EDTA全血を3,000gで4分間遠心分離して血漿へ加工した。加工後、一定量の血漿上清(典型的には200μL)を取り出し、10%トリクロロ酢酸(TCA)の50μL一定分量を含有する未使用の1.4mL Matrixポリプロピレン(PP)チューブ(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム市、マサチューセッツ州)に直ちに移した。ボルテックスした後、TCA処理した血漿試料を氷上に保存して、飼育室から実験室へ輸送して、さらに処理した。次に、TCA処理した血漿試料を17,000gで5分間遠心分離し、上清を未使用の1.4mLマトリックスチューブに移し、試料を抽出してすぐに分析するか、または分析まで-80℃で保存するために蓋をした。
【0041】
採血後、マウスを安楽死させ、十二指腸、空腸、肝臓、および腫瘍の組織試料を採取し、各組織試料を個別にラベル付けされたPPチューブに入れて秤量した。秤量後、2%TCAの一定分量を各チューブに入れ(すべての試料について溶液1mL当たり200mg以下の組織の組織密度)、Polytron PT 1200E手持ち式ホモジナイザーを使用して組織を均質化した。均質化後、TCA処理された組織試料を氷上で保存し、飼育室から実験室まで輸送して、さらに加工した。次に、TCA処理した組織死柳雄を4,500gで5分間遠心分離し、上清を未使用の2mL Simportチューブ(Simport、モントリオール市、カナダ)に移し、試料を抽出してすぐに分析するか、または分析まで-80℃で保存するために蓋をした。
【0042】
2%TCA(w/v)で処理したC57BL/6マウスK2-EDTA血漿マトリックスの調製
50mLのFalconPPコニカルチューブ(Thermo Fisher Scientific)内で0.400mgのTCAを20mLのC57BL/6マウスK2-EDTA血漿(BioreclamationIVT、ニューヨーク市、ニューヨーク州)と組み合わせることによって、2%TCA(w/v)処理した血漿マトリックス溶液を調製した。混合物を2分間ボルテックスし、4,500gで5分間遠心分離して、沈殿した蛋白質をすべて沈降させた。2%TCA処理血漿マトリックス上清を長期保存のために2本の15mL PPチューブに移した。2%TCA血漿マトリックスは、使用中は氷冷して維持し、使用しないときは-80℃で保存した。
【0043】
2%TCA(w/v)で処理したC57BL/6マウス十二指腸組織マトリックスの調製
硬質均質化チューブ(Bertin Instruments、ブルトヌー地区、フランス)内で、個別に秤量した十二指腸組織試料(BioreclamationIVT)を1.6mLの2%TCA水溶液と組み合わせることによって、2%TCA処理した十二指腸組織マトリックス溶液を調製し、事前にプログラムされた硬質組織試料設定を用いて、Precellys(登録商標)Evolution組織ホモジナイザー(Bertin Instruments)を用いて2サイクル均質化した。その後、均質化した組織マトリックスを17,000gで5分間遠心分離して、組織片を沈降させた。各チューブ内の2%TCA処理十二指腸組織マトリックス上清を15mLのPPチューブに移して、マトリックスを長期間保存した。2%TCA十二指腸マトリックスを、使用中は氷冷して維持し、使用しないときは-80℃で保存した。
【0044】
WR-2721およびWR-1065のストックおよび中間液の調製
WR-2721参照標準(米国薬局方(USP)、ロックビル地区、メリーランド州)およびWR-1065(Sigma-Aldrich、セントルイス市、ミズーリ州)のストックをそれぞれ10mM酢酸アンモニウム水溶液(pH9.2)または2%TCA水溶液中に調製した。中間濃度の溶液を各化合物について100μg/mLで、アセトニトリルと1:1で混合した一貫した溶媒を使用して調製した。
【0045】
WR-1065較正標準液の調製
WR-1065較正標準液(較正液)の2つの別個のセットを、希釈剤として2%TCA処理血漿マトリックスまたは2%TCA処理十二指腸マトリックスのいずれかを使用した連続希釈によって調製した。各セットにおける各較正液の調製後、標準液を最低30秒間ボルテックスして、その後の希釈を行うのに先立って適切な混合を確保した。較正液を、各マトリックス内で1.00、2.00、10.0、100、250、500、900、および1,000ng/mLで調製した。較正液は、ラベルを付けた2mLのSimportチューブ内に個別に調製および保存し、使用中は氷冷して維持し、使用しないときは-80℃で保存した。
【0046】
2%TCA処理した血漿および組織の試料のための抽出方法
すべての較正液、2%TCAブランク血漿マトリックスおよび試験試料を解凍し、抽出手順の間氷上で保存した。氷冷した10%TCA(w/v)水溶液の2μLの一定分量を各1.4mLのPPマトリックス試料チューブに入れた。各較正液、ブランク試料マトリックス、および試験試料の10μLの一定分量を適切なチューブに添加した。次に、氷冷したアセトニトリルの90μLの一定分量を各チューブに添加し、試料に蓋をして2分間ボルテックスした。最後に、試料を17,000gで5分間遠心した後、上清を試料分析のためにPP注入バイアルに移した。分析のための典型的な注入量は10μLとした。
【0047】
2%TCA処理された組織試料の抽出過程は、先に説明した血漿抽出手順と同様であったが、次の例外があり、組織試料は氷冷10%TCA水溶液の2μLの一定分量を受けない。先に説明したとおり蛋白質沈殿および遠心分離のステップを実行した後、組織試料上清をPP注入バイアルへ移し、試料を分析した。分析のための典型的な注入量は10μLとした。
【0048】
LC/MS-MS法
LC/MS-MS分析は、TSQ Quantiva直列質量分析計(Thermo Fisher Scientific)に連結されたUltimate 3000 RSLC超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)システムを使用して実行した。双性イオンZIC-pHILIC(150×2.1mm、5μm粒径)分析カラム(MillaporeSigma、ビレリカ町、マサチューセッツ州)を使用して、WR-2721およびWR-1065のベースラインの分離を、それぞれ2%ギ酸含有の95:5のアセトニトリル:200mMのギ酸アンモニウムからなる移動相A(MPA)の組成物、および2%ギ酸含有の85:10:5の水:アセトニトリル:200mMのギ酸アンモニウムからなる移動相B(MPB)の組成物を用いて実現した。クロマトグラフィー法には、40℃のカラム温度、4℃に冷却したオートサンプラートレイ、300μL/分の移動相流量、および次のとおり指定された勾配溶離プログラムが含まれており、すなわち、0~5分、50%MPB;5~5.5分、50~80%MPB;5.5~11分、80%MPB;11~11.5分、80~50%MPB;11.5~15分、50%MPB。クロマトグラフィー勾配プログラムの全体的なサイクル時間は、1試料当たり15.5分であった。最高の較正液(1,000ng/mL)の後のブランクの血漿試料は、0.1%ギ酸含有の1:1のアセトニトリル:水の溶液をニードルウォッシュとして使用したとき、キャリーオーバーがなかった。
【0049】
TSQ Quantivaは正イオンモードで稼働し、次のソースパラメータを有しており、すなわち、電源:H-ESI、電源電圧:+3,200V、シースガス:50、補助ガス:20、ガス掃引:1、イオン移送管の温度:370℃、気化管の温度:250℃とした。WR-1065についての次のSRM遷移を監視した。i)m/z:135.1→118(数量子)、CE:10.3V、ii)m/z:135.1→58(確認)、CE:16V、およびiii)m/z:135.1→61(確認)、CE:22.5V。MS-MSシステムは、単位/単位分解能で稼働し、RFレンズ電圧は59V、滞留時間は各SRM遷移について200msであった。
【0050】
統計分析
生存度試験には対数階級分析を使用し、生存度の中央値を95%信頼区間(CI)で決定した。不等分散による両側t検定を使用して、WR-1065の経口対腹腔内血漿および組織の濃度を比較した。0.05未満の値は有意と見なした。
【0051】
用量換算
FDAの推奨に従い、次式を使用して、マウスで得られた結果をヒトの等価用量(HED)に換算するために体表面積(BSA)を使用した。
HED=動物用量(mg/kg)×[(動物Km)/(ヒトKm)]
式中、HEDは、単位mg/kgのヒトの等価用量であり、
動物Km=3(マウス)であり
ヒトKm=37である
(例えば、(Center for Drug Evaluation and Research,Center for Biologics Evaluation and Research.(2002)Estimating the safe starting dose in clinical trials for therapeutics in adult healthy volunteers,U.S.Food and Drug Administration,Rockville,Maryland,USA)。
【0052】
実施例I:経口WR-2721は、照射後の腸陰窩の生存を促進する
腹腔内(IP)注射によるWR-2721の全身投与は、全身照射を受けているC3Hf/KamLawマウスの腸を放射線防護するのに有効であることがすでに示されてきたが、WR-2721の経口(PO)投与が同様に効果的であるかどうかを判断することが求められた。0~1000mg/kgの経口WR-2721の用量範囲を、続いて15分後または30分後のいずれかに全身照射(WBI)の病的線量を検査した。次に、すべてのマウスをマイクロコロニーアッセイに供した。実際、ビヒクル対照と比較して、経口WR-2721は、WBIに先立って15分前または30分前のいずれかで投与すると、十二指腸の陰窩生存を改善した(
図1Aおよび
図1B)。同様に、経口WR-2721はまた、薬物処置後15分(
図1C)および30分(
図1D)の両方で空腸の陰窩生存を促進した。経口WR-2721は、15分での十二指腸の最小用量を除いて、PBS対照と比較して、すべての用量および時点で十二指腸および空腸を保護した。12GyのWBIに先立って30分前に与えられたWR-2721について空腸においてより長い用量応答があり、放射線防護は500mg/kg(HED=41mg/kg)で最大となり、用量を1000mg/kgに倍増することによって得られるさらなる利益はないと結論付けられた(
図1D、HED=81mg/kg)。マイクロコロニーアッセイからの代表的なヘマトキシリン・エオシン染色した空腸切片を
図1Eに示す。
【0053】
実施例II:経口投与されたWR-2721は、腹腔内WR-2721よりも許容薬量が大きい
重度の悪心は全身性WR-2721の一般的で気になる副作用であり、薬物の経口投与がこの副作用を悪化させるかもしれないという懸念を検討した。マウスは有害な刺激に対して催吐性応答を生じないが、悪心は体重および摂餌量の減少として現れる可能性がある。したがって、マウスにおける悪心のモデルとして、体重および摂餌量を綿密に監視した。マイクロコロニーアッセイの結果(
図1)に基づいて、500mg/kgを毒性検査のための用量として使用した。マウスを腹腔内投与または経口(PO)投与したビヒクルまたはWR-2721で連続5日間毎日処置し、体重および食餌消費量を毎日監視した(それぞれ
図2Aおよび
図2B)。腹腔内経路または経口経路のいずれかからの薬物投与のストレスについてより厳密に制御するために、強制経口投与および腹腔内注射の両方に供したビヒクル対照群はたった1つとした。この集中的な介入にもかかわらず、ビヒクル対照動物は、本試験を通じて最初の体重および食餌消費量を維持した(
図2Aおよび
図2B)。しかしながら、500mg/kgでWR-2721を腹腔内投与されたマウスは、食餌消費量および体重の劇的な減少を呈し、4日後までに安楽死を要した(
図2Aおよび
図2B)。対照的に、経口WR-2721を投与されたマウスでは、体重および食餌消費量が最初はわずかに減少したが、急速に体重が戻り、処置を停止して2日以内で完全に回復した(
図2Aおよび
図2B)。これらのデータは、WR-2721の経口投与が全身投与よりも耐容されており、その上、経口で500mg/kgが短期の放射線防護に有効な治療用量であることを示唆している。
【0054】
実施例III:WR-2721は高線量分割放射線から保護する
電離放射線を用いて膵癌を切除するためには、近くの十二指腸および空腸の放射線防護を必要とする。経口投与されたWR-2721は、薬物が全身に吸収されることなく効果を最大限にするために放射線が与えられるので、腸内で直接活性化されるであろうと推論された。経口WR-2721の通過時間をメチレンブルーのボーラスでモデル化し、消化管を経た色素前線の進行を5分間隔で評価した(
図5)。メチレンブルーは10分以内に十二指腸に到達することがわかり、空腸では15~30分であった(
図5)。特に、30分以内に、色素は盲腸または大腸に到達しなかった。したがって、照射に先立つ25分前のWR-2721の強制経口投与は来るべき放射線防護に使用することができると推論された。
【0055】
体幹部定位放射線治療(SBRT)は、高度な画像手引きを使用する1~5回の処置の経過よりも高くかつ共形的な放射線量をより小さな体積へと送達することができる。しかしながら、SBRTは、膵臓の解剖学的構造によって依然として制約されており、膵腫瘍が、隣接する十二指腸および空腸に隣接または浸潤していることがよくある。マウスの膵癌を処置するために使用することができる10mmの放射線照射野を使用するSBRT処理を設計した(
図3A)。放射線画像は、メチレンブルー強制経口投与がこの集中照射野でさえ、膵臓の前にある胃前庭部の一部および肝臓の左葉とともに、膵臓、十二指腸、および空腸全体に影響することが実証された(
図3B)
【0056】
標準的な放射線量の漸増試験を実施して、この集束放射線のモデルについてLD50/10(10日以内に50%の致死率を生じるのに必要とされる線量)を決定した。1日あたりの分割は、1分割あたり10Gy~13Gyの範囲であり、連続5日間にわたって毎日与えられた。13Gy×5(65Gy、D2EQ=124.6Gy)が、処置後10日間で100%の死亡をもたらし、10Gy×5(50Gy、D2EQ=83.3Gy)は、処置後30日で100%の生存度を呈することが認められた(
図3C)。他の線量はすべて、中間的な表現型を示し、12Gy×5(60Gy、D2EQ=110Gy)での30日生存は20%であり、11Gy×5(55Gy)を受けたコホート(55Gy、D2EQ=96.3Gy)の30日生存は60%であった。
【0057】
繰り返すと、
D2等価(D2EQ)=D1(α/β+d1)/(α/β+d2)(等式1)
であり、式中、D2=等価合計線量、D1=初回合計線量、d1=初回線量/分割、およびd2=希望線量/分割である
【0058】
放射線防護の最大の利点は、12.5Gy×5分割の12~13Gyで発生する可能性があろうと仮定された(62.5Gy、D2Eq=117.2Gy)。したがって、マウスの新たなコホートを、
図3Aに示すように、同様の照射野で上腹部への12.5Gyの毎日の5分割で処置し、各放射線治療に先立って25分前に、経口投与されたWR-2721またはビヒクル対照によって放射線防護が生じた。驚くべきことに、WR-2721経口投与を受けたマウスの100%は30日間を超えて生存したが、すべてのビヒクル対照は10日間未満で死亡した
図3D、対数階級p=0.0035)。
【0059】
さらなる確認が
図6に示されている。KPCマウスを診断後すぐに本試験に登録し、ビヒクルのみ、ビヒクルを併用したSBRT、または経口WR-2721を併用したSBRTへ処置した。SBRT照射野は、腫瘍へのAP/PA所与10mmとし、線量は、1日当たり12.5Gyを5日間連続とし、合計線量は62.5Gyとした(EQD2=117.2Gy、α/β
10=140.6)。腫瘍を、基準なしで毎日、マイクロCTおよび超音波によって同定した。ビヒクルのアミホスチンを、各分割について照射に先立つ25分前に与えた。
【0060】
図6に示すように、VEHの生存期間中央値は15日(N=11)であり、SBRT+VEHは15日(N=7)であったのに対し、SBRT+WR-2721では40日(N=5)であった。Kaplan-Meier分析は、SBRT+WR-2721がSBRT+VEH(対数階級P=0.03)またはVEH単独(対数階級=0.03)に対して生存度を有意な改善したことを示した
【0061】
実施例IV:経口WR-2721による腸内でのWR-1065の選択的濃縮
経口WR-2721は、十二指腸および空腸の腸内アルカリホスファターゼによるWR-1065への局所的な転化を介して作用すると仮定された。このことが、放射能照射中の腸の線量制限領域においてのみ活性代謝産物WR-1065を堆積させるであろうし、おそらくオフターゲット効果が低減する。これが実際に生理学的な作用機序であるかどうかを理解するために、質量分析を使用して、血清および組織の両方におけるWR-2721の活性代謝産物であるWR-1065の濃度を測定した。まず、C57BL/6マウスにおける500mg/kgを用いて、または250mg/kg(HED=20mg/kg)のWR-2721による腹腔内注射を用いて、強制経口投与後の血漿および他の組織におけるWR-1065の出現の薬物動態を評価した(
図4Aの概略図を参照されたい)。強制経口投与の25分後に血清および組織を収集したが、これは放射線照射時の組織におけるWR-1065の分布に近い(
図3C、
図3D)。WR-2721の腹腔内注射は結果的に、経口投与と比較して、活性代謝産物WR-1065の血漿濃度のほぼ5倍の上昇をもたらした(119.1±17.3対27.0±7.0、腹腔内対経口、p=0.001、
図4B)。WR-2721の強制経口投与または腹腔内投与の25分後、組織を採取し、代謝産物収集のために即時加工した。腹腔内注射では、肝臓(254.3±34.1pmolのWR-1065/mg組織)、十二指腸(237.7±22.7pmolのWR-1065/mg組織)、および空腸(203.7±2.9pmolのWR-1065/mg組織、
図4C)においてほぼ均一な濃度の活性代謝産物WR-1065を生じることがわかった。逆に、経口WR-2721は、肝臓(89.0±22.4pmolのWR-1065/mg組織)と比較して、十二指腸(586.2±97.0pmolのWR-1065/mg組織)および空腸(1141±104.8pmolのWR-1065/mg組織)内で6~12倍のWR-1065の濃縮を示し、組織中での経口WR-2721代謝産物WR-1065の堆積による組織保護の特異性を示した。
【0062】
次に、腸でのWR-1065濃縮の特異性を、遺伝子操作されたマウスモデルで決定した。特発性膵癌を発症するKras
LSL/+;Trp53
FL/+;Ptf1a
Cre/+(KPC)マウスを飼育した後、10世代にわたってC57BL/6背景に戻し交雑して、近交系マウスからの遺伝的分散の交絡問題を排除した。これらの自発性腫瘍は、これらの腫瘍をより攻撃的にする可能性があるヒト腫瘍において観察される線維増生を繰り返すと考えられている。有効な臨床用放射線防護薬であるためには、WR-1065は腫瘍に蓄積すべきではない。したがって、血漿、肝臓、十二指腸、空腸および膵臓の腫瘍を、500mg/kg(HED=41mg/kg)の経口投与または250mg/kgのWR-2721(HED=20mg/kg)の腹腔内投与の25分後に収集して、WR-1065の濃度を決定した(
図4Dにおける概略図を参照されたい)。野生型C57BL/6マウスの結果と同様に、KPCマウスにおけるWR-2721の腹腔内注射で、経口WR-2721と比較して血清中のWR-1065が30倍に濃縮されたが、統計的有意性には到達しなかった(
図4E、p=0.07)。WR-2721の腹腔内注射の結果、測定されたすべての組織で同様の濃度の放射線防護代謝産物WR-1065、言い換えれば、非選択的堆積が得られた(
図4F)。WR-1065の濃度は、肝臓で420±69.8pmolのWR-1065/mg組織、十二指腸で236.2±8.6pmolのWR-1065/mg組織、空腸で275.5±5.0pmolのWR-1065/mg組織、膵腫瘍で248±30.2pmolのWR-1065/mg組織であった。
【0063】
WR-2721の経口投与は、腸でWR-1065の非常に選択的な堆積を呈した(
図4F)。WR-1065の濃度は、肝臓では59.9±26.8pmolのWR-1065/mg組織にすぎないのと比較して、十二指腸では200.6±23.3pmolのWR-1065/mg組織、空腸では757.7±26.8pmolのWR-1065/mg組織、腫瘍では24.5±1.9pmolのWR-1065/mg組織であった。したがって、経口WR-2721は結果として、腫瘍と比較して腸での薬物の10~40倍の濃縮を生じた(
図4G)のに対し、腹腔内注射による全身投与は、正常組織および腫瘍の両方において放射線防護薬の等しい分布を引き起こした。
【0064】
したがって、経口投与されたWR-2721は十分に耐容性があり、切除線量の分割放射線から腸管を放射線防護するのに有効であることが実証された。十二指腸および空腸内の腸アルカリホスファターゼの自然な勾配が利用されて、腸内でWR-2721を放射線防護性WR-1065へと急速に代謝したのに対し、保護が必要とされない腫瘍の場合の身体の残部への曝露を制限することは、逆効果になるであろう。このことは、WR-1065が膵腫瘍内ではなく、腸内でより高濃度で有意に堆積することを示す遺伝子操作されたマウスで示されている。
【0065】
その上、WR-2721投与のための代替経路は、すでに検査されており、主として否定的な結果であった。例えば、アミホスチンの直腸内注入は、第I相試験において骨盤照射後の毒性プロファイルを改善することがわかったが、大規模な無作為化試験では評価項目を満たすことができなかった。これらは、一部には、ほとんどの細胞に存在する遍在的な非特異的アルカリホスファターゼによることが原因であるかもしれない。その上、直腸粘膜は粘液性の層が厚く、WR-2721を活性化するのに必要とされる低レベルの腸内アルカリホスファターゼを発現する。したがって、別の実施形態では、WER-2721は、その代謝産物WR-1065を直腸粘膜に堆積させて、WR-2721からWR-1065への代謝を有効濃度で作動させるように構成されたビヒクル中のアルカリホスファターゼへ結合させるかまたはそれと同時投与することができる。
【0066】
したがって、実施形態では、癌患者を併用療法で処置するための方法であって、患者へ治療有効量の経口投与される細胞保護プロドラッグを放射線への曝露に先立って所定の時間に投与することであって、患者が、放射線に感受性のある他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つに隣接する組織および器官のうちの少なくとも1つにおける原発性癌および転移性癌のうちの少なくとも1つを有し、治療有効放射線量に感受性のある他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つに選択的に堆積するように細胞保護プロドラッグ代謝産物が構成された、投与することと、少なくとも1つの組織および1つの器官を治療有効量の放射線線量へ曝露することであって、(i)細胞保護プロドラッグが、S-2-(3-アミノプロピルアミノ)エチル二水素ホスホロチオアート(WR-2721およびアミホスチンと相互交換可能)であり、(ii)原発性癌および転移性癌のうちの少なくとも1つが、膵癌、前立腺癌、肝胆管腫瘍、および後腹膜肉腫のうちの少なくとも1つであり、(iii)放射線に対して感受性のある他の組織が、十二指腸および/または(iv)空腸であり、(v)細胞保護プロドラッグがチオール型であり、(vi)少なくとも1つの組織および1つの器官を治療有効放射線量へ曝露するステップが、体幹部定位放射線治療を使用すること、患者へ約37.5グレイ(Gy)~約208Gyの合計放射線量を投与することを含み、(vii)曝露するステップが、定位分割放射線を使用することを含み、(viii)1から約5分割で投与され、(ix)放射線への曝露に先立つ所定の時間が約15分~約30分であり、(x)治療有効経口用量が約250mg/kg~約1000mg/kgであり、(xi)放射線が、1分割あたり5Gyおよび16Gyの3~5分割で投与され、(xii)放射線への曝露に先立つ所定の時間が約25分である、曝露することとを含む、方法が本明細書に提供される。
【0067】
別の実施形態では、高線量放射線を必要とする患者において、隣接する第2の器官および隣接する第2の組織への高線量放射線から、第1の組織および第1の器官のうちの少なくとも1つを保護する方法であって、患者へ少なくとも第1の組織および第1の器官において選択的に堆積するように適合した代謝産物を有する薬学的に有効な濃度の細胞保護薬を含む経口組成物を投与するステップを含む、方法であって、経口組成物が放射線照射に先立つ所定の時間に投与され、(xiii)第1の蘇漆器および/または第1の器官が、消化管、十二指腸、空腸、小腸、大腸、直腸、食道、胃、膀胱、および尿路のうちの少なくとも1つであり、(xiv)第2の組織および第2の器官のうちの少なくとも1つが、膵臓、前立腺、肝臓、胆嚢、および副腎、腎臓、後腹膜、リンパ節、子宮、精巣、卵巣であり、(xiv)高線量放射線が少なくとも15Gyの合計線量であり、(xv)細胞保護薬がS-2-(3-アミノプロピルアミノ)エチル二水素ホスホロチオアート(WR-2721およびアミホスチンと相互交換可能)であり、(xvi)放射線照射が、第2の組織および第2の器官のうちの少なくとも1つを1~約5の照射分割へ曝露する分割体幹部定位放射線治療を使用するステップをさらに含み、(xvii)少なくとも1つの組織および1つの器官を治療有効放射線量へ曝露するステップが、約15Gy~約208Gyの合計放射線量を患者に投与することを含み、(xviii)第2の器官が膵臓であり、第1の組織が十二指腸および空腸のうちの少なくとも1つであり、(xix)経口組成物が放射線への曝露に先立って約15分~約30分投与され、(xx)放射線が1分割当たり1.8Gyおよび16Gyの3~5分割で投与され、(xxi)細胞保護薬の治療有効経口用量が約20mg/kg~約81mg/kgである、方法が本明細書に提供される。
【0068】
さらに別の実施形態では、放射線に対して感受性のある他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つに隣接する組織および器官のうちの少なくとも1つにおいて原発性癌および転移性癌のうちの少なくとも1つに罹患している癌患者の処置のための医薬品の製造における経口投与される細胞保護プロドラッグの使用であって、医薬品が、他の組織および他の器官のうちの少なくとも1つを放射線へ曝露することに先立って、所定の時間に医薬品が経口投与されるように構成された、使用が本明細書に提供される。
【0069】
上述の明細書では、本明細書に説明するTEPを調節および/または監視するための装置、ならびにそれらの使用方法は、ある特定の好ましい実施形態に関連して説明され、多くの詳細が例示の目的で明らかにされているが、当業者には、本明細書に説明されるTEPを調節および/または監視するための装置の開示ならびにそれらの使用方法が、追加の実施形態の影響を受けやすいことと、本明細書に説明されるある特定の詳細および後続の特許請求の範囲においてより完全に描写されるように、本発明の基本原理から逸脱することなく、かなり変化させることができることとが明らかであることになる。