(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026279
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】三次元表面粗度評価方法及び三次元表面粗度評価装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/30 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
G01B11/30 102
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205471
(22)【出願日】2023-12-05
(62)【分割の表示】P 2022018712の分割
【原出願日】2017-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2016147605
(32)【優先日】2016-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三重野 紘央
(57)【要約】 (修正有)
【課題】運搬不可能な物体や構造物などの三次元表面粗度に関する表面粗度パラメーターを、迅速に、連続的に、大量に、且つ直接取得することができる三次元表面粗度評価方法及び三次元表面粗度評価装置を提供する。
【解決手段】二次元レーザー変位計12の計測幅を変化させながら、測定対象22の表面粗度パラメーターを測定することで、二次元レーザー変位計の有効計測幅範囲を特定し、二次元レーザー変位計によって、特定された有効計測幅範囲内の計測幅で、X軸方向の一定間隔毎に変位を測定することにより変位データを取得し、変位データを、特定された有効計測幅範囲内の計測幅においてY軸方向に平均化して、各座標の基準面データを生成し、各X-Y平面座標の変位データから、各座標の基準面データを減算して、測定対象の三次元表面粗度データを生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の三次元表面粗度データを生成する三次元表面粗度評価方法であって、
二次元レーザー変位計の計測幅を変化させながら、前記測定対象の表面粗度パラメーターを測定することで、前記二次元レーザー変位計の有効計測幅範囲を特定し、
前記二次元レーザー変位計によって、特定された前記有効計測幅範囲内の計測幅で、X軸方向の一定間隔毎に変位を測定することにより変位データを取得し、
前記変位データを、特定された前記有効計測幅範囲内の計測幅においてY軸方向に平均化して、各座標の基準面データを生成し、
各X-Y平面座標の前記変位データから、前記各座標の基準面データを減算して、前記測定対象の三次元表面粗度データを生成することを特徴とする三次元表面粗度評価方法。
【請求項2】
前記有効計測幅範囲は、前記表面粗度パラメーターの変化の大きさに基づいて特定することを特徴とする請求項1に記載の三次元表面粗度評価方法。
【請求項3】
前記測定対象が、運搬不可能な物体や構造物の塗膜であり、前記塗膜の三次元表面粗度を直接測定することを特徴とする請求項1または2に記載の三次元表面粗度評価方法。
【請求項4】
二次元レーザー変位計と、
前記二次元レーザー変位計をX軸方向に移動させる移動機構と、
前記二次元レーザー変位計のX軸方向の移動距離を読み取る移動距離読取装置と、
前記二次元レーザー変位計により取得された変位データと、前記移動距離読取装置により取得された移動距離データとに基づき、測定対象の三次元表面粗度データを生成する演算装置と、を備える三次元表面粗度評価装置であって、
前記移動機構が、車輪またはクローラーであり、
前記演算装置は、
前記二次元レーザー変位計の計測幅を変化させながら、測定した前記測定対象の表面粗度パラメーターに基づき、前記二次元レーザー変位計の有効計測幅範囲を特定し、
前記二次元レーザー変位計によって、特定された前記有効計測幅範囲内の計測幅で、X軸方向の一定間隔毎に取得された前記変位データを、特定された前記有効計測幅範囲内の計測幅においてY軸方向に平均化して、各座標の基準面データを生成し、
各X-Y平面座標の前記変位データから、前記各座標の基準面データを減算して、前記測定対象の三次元表面粗度データを生成するように構成されることを特徴とする三次元表面粗度評価装置。
【請求項5】
前記演算装置が、前記有効計測幅範囲を、前記表面粗度パラメーターの変化の大きさに基づいて特定するように構成されることを特徴とする請求項4に記載の三次元表面粗度評価装置。
【請求項6】
前記測定対象が、運搬不可能な物体や構造物の塗膜であり、前記塗膜の三次元表面粗度を直接測定することを特徴とする請求項4または5に記載の三次元表面粗度評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運搬不可能な物体や構造物などの三次元表面粗度に関する表面粗度パラメーターを取得する三次元表面粗度評価方法及び三次元表面粗度評価装置に関する。具体的には、表面粗度パラメーターを、迅速に、連続的に、大量に、且つ直接取得することができる三次元表面粗度評価方法及び三次元表面粗度評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の表面粗度形状は、その表面の摩擦特性を把握する上で重要である。近年では、非特許文献1に示すように、物体表面の水流摩擦特性の把握には、粗度高さだけではなく、波長等を含めた形状パラメーターの測定の重要性が示されている。
【0003】
非特許文献1では、船体の表面粗度(塗膜表面粗度)に関する評価について述べられており、船体のように運搬不可能な物体や構造物などの表面粗度を評価するには、非常に広大な範囲において、十分な点数の形状パラメーターを測定する必要があることが示されている。
【0004】
また、従来の粗度測定器である「BSRA HULL ROUGHNESS ANALIZER」を用いた場合、船体表面粗度の精密測定並びにパラメーター解析が出来ない問題が指摘されている。非特許文献1では、これを解決するため、熱可塑性樹脂を用いて船体表面の粗度レプリカを作成し、実験室内において、X-Yステージに搭載された点状レーザー変位計により、粗度レプリカの表面解析をすることによって船体の表面粗度を計測している。
【0005】
特許文献1では、運搬不可能な物体や構造物などの非接触粗度測定装置として、陰影画像記録装置を用いたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】三重野 紘央、増田 宏、「船底塗料の塗膜表面粗度による抵抗増加について-船底外板塗料による船体抵抗低減」、日本マリンエンジニアリング学会誌、第48巻、第 3 号(2013)、p300-307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に開示されている手法では、粗度レプリカにより複製できる面積に限りがあるため、広大な面積を評価するには過度な労力を必要とするといった問題があった。また、特許文献1に開示されている手法では、光源を照射して撮影した陰影画像を基に、粗度を測定するため、比較的平滑な表面の形状パラメーターを精度良く測定することには適していない。
【0009】
また、マイクロメートルオーダーの微細粗度の粗度パラメーターの測定において、レーザー型の光学式変位計をX-Yステージ等によりトラバースし、機械的精度を確保して行うことにより最も精度良く測定することができる。
【0010】
しかしながら、このような方法で、例えば、船体のように広い範囲を測定する必要がある場合には、トラバース装置が大型化し、トラバース装置の重量が増大することとなり、加工や塗装などの現場における取り扱いが困難となる。また、大型化したとしても、トラバース装置の動作範囲や計測範囲は限られてしまう技術的制約がある。
【0011】
また、X-Yステージを用いる場合には、X-Y方向に精密動作をさせるため、精密ステージとステッピングモーターとを用いる必要がある。また、このようなX-Yステージを制御するX-Yステージコントローラーと、レーザー変位計のコントローラーなども備える必要がある。このため、測定装置として重量が大きくなり、また、消費電力も大きくなるため、測定装置の持ち運びには適さない。
【0012】
本発明では、このような現状を鑑み、運搬不可能な物体や構造物などの三次元表面粗度に関する表面粗度パラメーターを、迅速に、連続的に、大量に、且つ直接取得することができる三次元表面粗度評価方法及び三次元表面粗度評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前述するような従来技術における課題を解決するために発明されたものであって、本発明の三次元表面粗度評価方法は、 測定対象の三次元表面粗度データを生成する三次元表面粗度評価方法であって、
二次元レーザー変位計の計測幅を変化させながら、前記測定対象の表面粗度パラメーターを測定することで、前記二次元レーザー変位計の有効計測幅範囲を特定し、
前記二次元レーザー変位計によって、特定された前記有効計測幅範囲内の計測幅で、X軸方向の一定間隔毎に変位を測定することにより変位データを取得し、
前記変位データを、特定された前記有効計測幅範囲内の計測幅においてY軸方向に平均化して、各座標の基準面データを生成し、
各X-Y平面座標の前記変位データから、前記各座標の基準面データを減算して、前記測定対象の三次元表面粗度データを生成することを特徴とする。
【0014】
この場合、前記有効計測幅範囲は、前記表面粗度パラメーターの変化の大きさに基づいて特定することができる。
【0015】
また、前記測定対象を、運搬不可能な物体や構造物の塗膜とし、前記塗膜の三次元表面粗度を直接測定することができる。
【0016】
また、本発明の三次元表面粗度評価装置は、
二次元レーザー変位計と、
前記二次元レーザー変位計をX軸方向に移動させる移動機構と、
前記二次元レーザー変位計のX軸方向の移動距離を読み取る移動距離読取装置と、
前記二次元レーザー変位計により取得された変位データと、前記移動距離読取装置により取得された移動距離データとに基づき、測定対象の三次元表面粗度データを生成する演算装置と、を備える三次元表面粗度評価装置であって、
前記移動機構が、車輪またはクローラーであり、
前記演算装置は、
前記二次元レーザー変位計の計測幅を変化させながら、測定した前記測定対象の表面粗度パラメーターに基づき、前記二次元レーザー変位計の有効計測幅範囲を特定し、
前記二次元レーザー変位計によって、特定された前記有効計測幅範囲内の計測幅で、X軸方向の一定間隔毎に取得された前記変位データを、特定された前記有効計測幅範囲内の計測幅においてY軸方向に平均化して、各座標の基準面データを生成し、
各X-Y平面座標の前記変位データから、前記各座標の基準面データを減算して、前記測定対象の三次元表面粗度データを生成するように構成されることを特徴とする。
【0017】
このような三次元表面粗度評価装置では、前記演算装置が、前記有効計測幅範囲を、前記表面粗度パラメーターの変化の大きさに基づいて特定するように構成することができる。
【0018】
また、前記測定対象を、運搬不可能な物体や構造物の塗膜とし、前記塗膜の三次元表面粗度を直接測定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、測定対象が運搬不可能な物体や構造物などであったとしても、測定対象の表面から表面粗度パラメーターを、迅速に、連続的に、大量に、且つ直接取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施例における三次元表面粗度評価装置の構成を説明するための概略構成図である。
【
図2】
図2は、三次元表面粗度データ取得装置の構成を説明するための概略構成図である。
【
図3】
図3は、測定対象として金属板の表面を塗料により塗装した状態(乾燥塗膜で被覆された状態。以下同様。)の塗装板1について測定した場合の、X-Y平面座標の変位データである。
【
図4】
図4は、
図3のX-Y平面座標の変位データを、Y軸方向に平均化して生成した各座標の基準面データである。
【
図5】
図5は、
図4に示す基準面データの傾きを最小二乗法により補正した基準面データである。
【
図6】
図6は、
図3に示す変位データから、
図4に示す基準面データを減算して得られた三次元表面粗度データである。
【
図7】
図7は、
図6の三次元表面粗度データから得られた表面粗度パラメーターの解析結果をグラフ化したものである。
【
図8】
図8は、測定対象として塗装板1について、X-Yステージに取り付けたレーザー変位計により取得した表面粗度パラメーターの解析結果をグラフ化したものである。
【
図9】
図9は、測定対象として塗装板1について、Y軸方向の端から7.5mmの範囲について測定した場合の、X-Y平面座標の変位データの比較例である。
【
図10】
図10は、
図9のX-Y平面座標の変位データを、Y軸方向に平均化して生成した各座標の基準面データである。
【
図11】
図11は、
図10に示す基準面データの傾きを最小二乗法により補正した基準面データである。
【
図12】
図12は、
図9に示す変位データから、
図10に示す基準面データを減算して得られた三次元表面粗度データである。
【
図13】
図13は、
図12の三次元表面粗度データから得られた表面粗度パラメーターの解析結果をグラフ化したものである。
【
図14】
図14は、塗装板2~6について、計測幅32mmでの要素の平均長さRSmに対する計測幅の倍率と、計測幅32mmでの最大高さ粗さRzに対する各計測幅でのRzの割合(%)との関係を示すグラフである。
【
図15】
図15は、本実施例の三次元表面粗度評価装置を用いて、測定対象として船体の三次元表面粗度を測定した際の表面粗度パラメーターの分布を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
図1は、本実施例における三次元表面粗度評価装置の構成を説明するための概略構成図であり、
図1(a)は側面から見た概略構成図、
図1(b)は正面から見た概略構成図である。
【0022】
図1に示すように、本実施例の三次元表面粗度評価装置10は、二次元レーザー変位計12と、移動機構14と、移動距離読取装置16と、演算装置18と、二次元レーザー変位計12、移動距離読取装置16、演算装置18を動作させるための可搬型バッテリー20とを備えている。
【0023】
なお、測定現場での演算結果の確認が不要である場合には、
図2に示すように、二次元レーザー変位計12により取得される変位データや、移動距離読取装置16により取得される移動距離データを、例えば、ハードディスクドライブやフラッシュメモリなどの記憶装置32に記憶したり、通信手段34などを用いて後述するような外部端末に送信するように構成することで、三次元表面粗度データ取得装置30として用いることもできる。
【0024】
このように演算装置18を切り離して、外部端末を演算装置18として使用することで、測定現場での装置構成を簡略化することができ、取得したデータは、例えば、パーソナルコンピューターなどといった外部の演算装置によって演算し、演算結果を表示するように構成することもできる。
【0025】
なお、二次元レーザー変位計12としては、特に限定されるものではないが、例えば、キーエンス社製LJ-V7080(基準距離におけるレーザー幅32mm)などを用いることができる。
また、二次元レーザー変位計12は、一定間隔毎にY軸方向の座標の変位データを一度に読み取れるように、二次元レーザー変位計12の幅方向が、移動機構14の移動方向(X軸方向)と垂直、すなわち、Y軸方向と一致するように配置されている。
【0026】
また、本実施例において、移動機構14は、所定方向(X軸方向)のみに移動可能な二対の車輪(すなわち、四輪)としているが、所定方向のみに移動可能な機構であれば特に限定されるものではなく、例えば、クローラーなどであってもよい。
【0027】
また、本実施例では、移動距離読取装置16として、ロータリーエンコーダーを用いており、移動機構14である車輪の回転数を読み取ることにより、車輪の周長と回転数とに基づいて移動距離を算出している。
【0028】
なお、移動距離読取装置16は、これに限らず、例えば、移動機構14と連動した円形スケールにより移動距離をスケールセンサーで読み取るような装置とすることもできる。
【0029】
また、演算装置18は、後述するように、二次元レーザー変位計12により取得される変位データや、移動距離読取装置16により取得される移動距離データに基づき、表面粗度パラメーターなどを算出可能なものであれば特に限定されるものではない。例えば、タブレットコンピューターやスマートフォン、パーソナルコンピューターなどの外部端末に変位データと移動距離データとを送信して、演算処理を実施し、演算結果を外部端末に表示するように構成することができる。
【0030】
演算装置18を三次元表面粗度評価装置10に内蔵する場合は、表面粗度パラメーターなどの演算結果を表示する表示手段を設けてもよいし、データ出力手段を設けて、例えば、上述の外部端末に演算結果を送信し、外部端末に演算結果を表示するように構成することもできる。
【0031】
また、可搬型バッテリー20としては、特に限定されるものではなく、例えば、鉛蓄電池やニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池など、既存の二次電池を用いることができる。
【0032】
なお、本実施例では可搬型バッテリー20を搭載することにより、持ち運び容易な三次元表面粗度評価装置10としているが、二次元レーザー変位計12や演算装置18などの電源を、例えば、外部バッテリーや商用電源などから供給するように構成することも可能である。
【0033】
[実施例1]
このように構成される本実施例の三次元表面粗度評価装置10による測定対象22の表面粗度評価の具体例を以下に示す。
まず、三次元表面粗度評価装置10を移動機構14により測定対象22の表面上で移動させることにより、一定間隔毎に移動距離読取装置16により得られる移動距離に基づく移動距離データと、二次元レーザー変位計12により得られる変位データを演算装置18に記録する。
【0034】
図3は、測定対象22として金属板の表面を塗料により塗装した状態の塗装板1について測定した、X-Y平面座標の変位データである。
なお、
図3に示す変位データは、本実施例の三次元表面粗度評価装置10により、塗装板1の30mm×30mmの測定範囲を250μmピッチで121×121(X軸方向、Y軸方向ともに121点)データを取得したものである。本実施例では、このような計測が1秒以内に完了した。
【0035】
次いで、演算装置18は、X-Y平面座標の変位データを、Y軸方向に平均化して、
図4に示すような、各座標の基準面データを生成した。
【0036】
図4に示す基準面データの傾きを、最小二乗法により補正した基準面データを
図5に示す。なお、
図5は、縦軸を±30μmに拡大している。
図5により、基準面データには、移動機構14である車輪の偏心が±30μm程度含まれていることがわかる。
【0037】
このように、
図3に示す変位データには、表面粗度に加えて、測定対象22の傾きや移動機構14である車輪を転がしたことによる偏心を含んでおり、表面粗度評価には適さない。そこで、演算装置18により、
図4に示す基準面データを、
図3に示す変位データから減算することにより、変位データに含まれる傾きと移動機構14である車輪を転がしたことによる偏心とを除去し、より正確な三次元表面粗度データを取得することができる。
【0038】
このようにして得られた三次元表面粗度データを
図6に示す。
図7は、
図6に示す三次元表面粗度データより、表面粗度パラメーターであるRz(最大高さ粗さ)、RSm(要素の平均長さ)、Rzjis(十点平均粗さ)、Ra(算術平均粗さ)、Rq(二乗平均平方根粗さ)、Rc(粗さ曲線の平均高さ)、Rsk(スキューネス)、Rku(クルトシス)を算出し、変位の最小点をゼロとしてグラフ化したものである。
【0039】
塗装板1のRzは78.9μm、RSmは3466μm、Rzjisは45.1μm、Raは14.2μm、Rqは17.6μm、Rcは29.9μm、Rskは0.08、Rkuは2.7であった。
【0040】
[比較例1]
本実施例の三次元表面粗度評価装置10により得られた表面粗度パラメーターの妥当性を検証するため、X-Yステージに取り付けたレーザー変位計(点状レーザー型変位計)により、実施例1における塗装板1の測定範囲と同一の範囲の表面粗度パラメーターを測定した。
【0041】
X-Yステージに取り付けたレーザー変位計により、実施例1と同様に、測定対象22の30mm×30mmの測定範囲を250μmピッチで測定する場合、X軸方向に250μmピッチで121点測定した後、Y軸方向に250μm移動させ、再度X軸方向に250μmピッチで121点測定するということを繰り返し行う必要がある。このため、本比較例では、このような計測に5分程度の時間を要した。
【0042】
図8は、実施例1における塗装板1について、X-Yステージに取り付けたレーザー変位計により取得した表面粗度パラメーターであるRz(最大高さ粗さ)、RSm(要素の平均長さ)、Rzjis(十点平均粗さ)、Ra(算術平均粗さ)、Rq(二乗平均平方根粗さ)、Rc(粗さ曲線の平均高さ)、Rsk(スキューネス)、Rku(クルトシス)を算出し、グラフ化したものである。
【0043】
レーザー変位計により測定した塗装板1のRzは78.1μm、RSmは3561μm、Rzjisは50.5μm、Raは13.1μm、Rqは16.3μm、Rcは35.2μm、Rskは-0.11、Rkuは2.8であり、実施例1の三次元表面粗度評価装置10を用いて得られた表面粗度パラメーターと同等の結果が得られた。
【0044】
[比較例2]
二次元レーザー変位計12として、レーザー幅7.5mmの二次元レーザー変位計を用いたケースをシミュレーションするため、実施例1における塗装板1の測定範囲の内、Y軸方向の端から7.5mmの範囲の表面粗度パラメーターを測定した。なお、二次元レーザー変位計12のレーザー幅以外の構成は、実施例1の三次元表面粗度評価装置10と同様のものを使用した。
【0045】
図9は、塗装板1について、30mm×7.5mmの測定範囲を250μmピッチで121×31(X軸方向に121点、Y軸方向に31点)データを取得したX-Y平面座標の変位データである。
【0046】
実施例1と同様に、X-Y平面座標の変位データを、Y軸方向に平均化して、
図10に示す各座標の基準面データを生成した。
図11は、基準面データの傾きを最小二乗法により補正したものである。
図5と同様に、移動機構14である車輪の偏心を確認できるが、
図5と比較して、その変位の幅は大きい。
【0047】
図12は、
図9に示す変位データから
図10に示す基準面データを減算し、変位データに含まれる傾きと移動機構14である車輪を転がしたことによる偏心を除去した三次元表面粗度データである。
【0048】
図13は、
図12に示す三次元表面粗度データより、表面粗度パラメーターであるRz(最大高さ粗さ)、RSm(要素の平均長さ)、Rzjis(十点平均粗さ)、Ra(算術平均粗さ)、Rq(二乗平均平方根粗さ)、Rc(粗さ曲線の平均高さ)、Rsk(スキューネス)、Rku(クルトシス)を算出し、変位の最小点をゼロとしてグラフ化したものである。
【0049】
比較例2で測定した塗装板1のRzは56.3μm、RSmは3900μm、Rzjisは34.9μm、Raは10μm、Rqは12.4μm、Rcは24.9μm、Rskは0.09、Rkuは2.8であった。
【0050】
比較例2は、実施例1や比較例1と比べ、Rz、Rzjis、Ra、Rq、Rcといった粗度高さに関わる表面粗度パラメーターが小さくなっている。これは、二次元レーザーの幅方向(Y軸方向)に平均化した基準面データに、表面粗度形状が含まれていることに起因する。
【0051】
また、測定対象22のRSm(要素の平均長さ)(比較例2では、3900μm=3.9mm)に対して、平均化するY軸方向の長さである二次元レーザー変位計12の計測幅(比較例2では、レーザー幅である7.5mm)が小さすぎると、粗度高さを過小評価してしまうためであると考えられる。
【0052】
粗度高さを適切に評価するためには、平均化するY軸方向の長さ(二次元レーザー変位計12の計測幅)を、測定対象22のRSmの2倍以上とすることが好ましい。以下に、二次元レーザー変位計12の計測幅と、測定対象22の要素の平均長さRSmとの関係について検討した。
【0053】
[実施例2]
表1は、測定対象22として金属板の表面を塗料により塗装した状態の塗装板2について測定し、二次元レーザー変位計12の計測幅を0.5mm、1mm、2mm、4mm、16mm、32mmと変化させて、各計測幅で二次元レーザーの幅方向(Y軸方向)に平均化した基準面データにより補正して得た各表面粗度パラメーターである。
【0054】
【0055】
表1に示すように、計測幅が小さくなるに従って、粗度高さに関わる表面パラメーターであるRz、Rzjis、Ra、Rq、Rcが小さくなっている。これは、計測幅が小さくなるほど、二次元レーザー変位計12の幅方向(Y軸方向)に平均化した基準面データに、表面粗度形状の含まれる量が増えることに起因する。
【0056】
また、計測幅が大きくなるにしたがって、粗度高さに関わる表面パラメーターであるRz、Rzjis、Ra、Rq、Rcは、いずれも真値に収れんしていく傾向が明らかとなった。これは、計測幅がRSmより十分に大きくなると、二次元レーザーの幅方向(Y軸方向)に平均化した基準面データに、表面粗度形状が含まれなくなることに起因する。
【0057】
なお、計測幅32mmでの最大高さ粗さRzは111.8μm、要素の平均長さRSmは3325μmである。
表2は、計測幅32mmでのRSm(3325μm)に対する表1における各計測幅の倍率と、計測幅32mmでの各表面粗度パラメーターに対する表1における各計測幅での各表面粗度パラメーターの割合を示している。
【0058】
【0059】
計測幅32mmでのRzに対する各計測幅でのRzの割合は、計測幅32mmでのRSmに対する計測幅の倍率が0.2倍では33.7%、0.3倍では57.7%、0.6倍では81.7%、1.2倍では95.2%、2.4倍では101.2%、4.8倍では104.4%となっており、RSmに対する計測幅の倍率が大きくなるにしたがって、100%に収れんする傾向は明らかである。特に、計測幅がRSmの2倍程度でほぼ100%に収れんしている。
【0060】
測定対象22として、表面粗度形状が未知のものを計測する場合、このように二次元レーザー変位計12の計測幅を変動させて、各表面粗度パラメーターの変動が少ない計測幅の範囲を有効な計測幅として選択することもできる。
【0061】
以下、測定対象22として金属板の表面を塗料により塗装した状態の塗装板3~6について同様に測定し、二次元レーザー変位計12の計測幅を0.5mm、1mm、2mm、4mm、16mm、32mmと変化させて、各計測幅で二次元レーザーの幅方向(Y軸方向)に平均化した基準面データにより補正して得た粗度評価結果を表3、表5、表7、表9にそれぞれ示す。
【0062】
塗装板3の計測幅32mmでの最大高さ粗さRzは60.4μm、要素の平均長さRSmは1820μm、塗装板4の計測幅32mmでの最大高さ粗さRzは146.3μm、要素の平均長さRSmは2200μm、塗装板5の計測幅32mmでの最大高さ粗さRzは76.5μm、要素の平均長さRSmは4150μm、塗装板6の計測幅32mmでの最大高さ粗さRzは112.3μm、要素の平均長さRSmは5001μmであった。
【0063】
表4は、計測幅32mmでのRSm(3325μm)に対する表3における各計測幅の倍率と、計測幅32mmでの各表面粗度パラメーターに対する表3における各計測幅での各表面粗度パラメーターの割合を示しており、同様に、表6は表5、表8は表7、表10は表9におけるものである。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
いずれの塗装板3~6における粗度評価結果も、RSmに対する計測幅の倍率が大きくなるにしたがって、100%に収れんする傾向は明らかであり、特に、計測幅がRSmの2倍程度でほぼ100%に収れんすることは明らかである。
【0073】
図14は、塗装板2~6について、計測幅32mmでの要素の平均長さRSmに対する計測幅の倍率と、計測幅32mmでの最大高さ粗さRzに対する各計測幅でのRzの割合(%)との関係を示すグラフである。
【0074】
図14に示すように、いずれの塗装板2~6においても、計測幅をRSmの2倍程度以上にすると、Rzの割合が100%に収れんし、大きく変動しないことが明らかになった。
【0075】
これにより、二次元レーザー変位計12の計測幅が、測定対象22の要素の平均長さRSmの少なくとも2倍以上であれば、二次元レーザーの幅方向(Y軸方向)に平均化した基準面データに、表面粗度形状が含まれる可能性が減少し、精度を確保できることが明らかになった。
【0076】
なお、本発明の三次元表面粗度評価装置10を用いて、未知の粗度を有する測定対象22の表面粗度パラメーターを測定する場合には、例えば、前述するような従来技術による方法を用いて、測定対象22の要素の平均長さRSmを事前に評価しておくことも有効である。
【0077】
また、測定対象22の要素の平均長さRSmを事前に評価できない場合には、前述するように、二次元レーザー変位計12の計測幅を変化させて、各表面粗度パラメーターに大きな変動がない範囲を有効計測幅範囲とすることで、精度の高い表面粗度評価を行うことができる。
【0078】
[実施例3]
三次元表面粗度データ取得装置30と外部端末である演算装置18を用いて、測定対象22として船体の三次元表面粗度を測定した。なお、実施例3の三次元表面粗度データ取得装置30の構成は、実施例1の三次元表面粗度評価装置10から演算装置18を省いたものと同様である。
図15(a)は、三次元表面粗度データ取得装置30を用いて測定した船体の表面粗度パラメーターであるRz(最大高さ粗さ)、RSm(要素の平均長さ)の分布を示す三次元ヒストグラム、
図15(b)は、
図15(a)のRSm成分の分布を示すヒストグラム、
図15(c)は、
図15(a)のRz成分の分布を示すヒストグラムである。
【0079】
船体塗装の完了後、三次元表面粗度データ取得装置30を用いてX軸方向に27cm走査し、30mm×30mmのデータを9点取得することを繰り返し、船体全体で100ヶ所の測定を実施して、900点のデータを取得した。
【0080】
なお、100カ所の測定は2時間程度で完了した。全測定点900点中、測定エラー等を除いた有効データは620点であり、取得したデータを基に、外部端末である演算装置18で演算処理した結果、表面粗度パラメーターであるRz(最大高さ粗さ)は50.7μm、RSm(要素の平均長さ)は3187μmであった。
【0081】
また、
図15に示す三次元ヒストグラムにおけるRz分布は20μmから140μm、RSm分布は1750μmから7500μmであった。
【符号の説明】
【0082】
10 三次元表面粗度評価装置
12 二次元レーザー変位計
14 移動機構
16 移動距離読取装置
18 演算装置
20 可搬型バッテリー
22 測定対象
30 三次元表面粗度データ取得装置
32 記憶装置
34 通信手段