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特開2024-2628アコヤガイ殻黒変病原因細菌を検出するためのプライマーセット、方法、及びキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002628
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】アコヤガイ殻黒変病原因細菌を検出するためのプライマーセット、方法、及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/689 20180101AFI20231228BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20231228BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231228BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z
C12Q1/6851 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101950
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒徳 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】一色 正
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS16
4B063QS26
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アコヤガイ殻黒変病原因細菌の検出に有用なプライマーセット等を提供する。
【解決手段】アコヤガイ殻黒変病原因細菌をLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、(1)特定の配列を有する第1の塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むFIPプライマー、(2)特定の配列を有する第2の塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むBIPプライマー、(3)特定の配列を有する第3の塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むF3プライマー、及び(4)特定の配列を有する第4の塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むB3プライマーを含むプライマーセットが開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アコヤガイ殻黒変病原因細菌をLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、
(1) 配列番号1で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むFIPプライマー、
(2) 配列番号2で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むBIPプライマー、
(3) 配列番号3で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むF3プライマー、及び
(4) 配列番号4で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むB3プライマー
を含むプライマーセット。
【請求項2】
(5) 配列番号5で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むループプライマーを更に含む、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
アコヤガイ殻黒変病原因細菌が、Tenacibaculum属細菌である、請求項1又は2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
アコヤガイ殻黒変病原因細菌が、Tenacibaculumsp. Pbs-1株である、請求項1又は2に記載のプライマーセット。
【請求項5】
試料中のアコヤガイ殻黒変病原因細菌を検出する方法であって、
(1) 配列番号1で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むFIPプライマー、
(2) 配列番号2で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むBIPプライマー、
(3) 配列番号3で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むF3プライマー、及び
(4) 配列番号4で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むB3プライマー
を含むプライマーセットを用いたLAMP法により、試料中の核酸を鋳型として増幅反応を行う工程A、及び
工程Aの反応生成物中の増幅産物を検出する工程B
を含む方法。
【請求項6】
プライマーセットが、(5) 配列番号5で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むループプライマーを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ループプライマ―の濃度が、0.5~1μMである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程Aが、60℃以上65℃未満で30~60分間実施される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
試料が、50pg以上の核酸を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
FIPプライマー及びBIPプライマーの濃度が、それぞれ、1~2μMである、及び/又は、F3プライマー及びB3プライマーの濃度が、それぞれ、0.1~0.5μMである、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
工程Bが、トリアリールメタン色素で染色して検出する工程である、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
アコヤガイ殻黒変病原因細菌が、Tenacibaculum属細菌である、請求項5~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
アコヤガイ殻黒変病原因細菌が、Tenacibaculumsp. Pbs-1株である、請求項5~11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
アコヤガイ殻黒変病原因細菌をLAMP法で検出するためのキットであって、請求項1又は2に記載のプライマーセットを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アコヤガイ殻黒変病原因細菌を検出するためのプライマーセット、方法、及びキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の真珠養殖は三重県、長崎県、及び愛媛県の3県を合わせて生産量の約9割を占めている。これらの地域で生産されるアコヤ真珠は、世界的にも非常に評価が高い。その年間生産量と輸出額はそれぞれ20トンと300億円を超え、地域経済・産業の根幹を担っているとともに、輸出品としても重要な産業となっている。特に、三重県は真珠養殖発祥の地であり、大珠作成法の開発や、厘珠や小珠の主要生産地として、生産量だけでは計れない重要な地域であるが、近年、真珠形成母貝アコヤガイの殻黒変病が深刻化し、そのような伝統技術の継承も危ぶまれている。
【0003】
本症例は1967年に初報告され、2022年現在も解決には至っていない。重症な殻黒変病個体は死に至り、真珠を収穫できる個体が養殖開始時の半分に満たない年すらある。また、死に至らなくても本疾病個体は、抱いている真珠にも黒変様の「しみ」が形成され、低品質真珠(ドクズ珠)として格下げとなり、取引価格に雲泥の差が出る。そのため、真珠養殖業者は真珠を安定的に生産することが非常に困難であり、1993年から2003年の10年間で、三重県、愛媛県、及び長崎県にける真珠養殖の経営体数は、それぞれ36%、28%、24%も減少した。特に三重県での減少が著しく、2013年時の経営体数は、283経営体(最盛期の10%)にまで減少している。このように、殻黒変病は、真珠養殖業者の間で大きな問題として捉えられており、殻黒変病に対する対策が急務とされているが、その原因すらわかっていなかった。そのような中、富山大学を中心とした研究コンソーシアムは、日本国内の主要養殖地(三重・愛媛・長崎)におけるアコアヤガイの殻黒変病の発症状況を調査し、殻黒変病に特定の細菌が高密度に感染している可能性を見出し(非特許文献1)、さらに研究を進めた結果、殻黒変病個体からTenacibaculum sp. Pbs-1株を単離し、本菌株を健常な母貝に感染させて殻黒変病を再現することに成功し、約50年間不明だった殻黒変病の一因を特定した(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】真珠形成母貝アコヤガイの寄生虫病に関する新展開-その被害状況の把握と原因の究明-、酒徳昭宏、藤村卓也、伊藤美智子、高島成剛、一色正、日本応用生物学会誌、30、1-6、2017
【非特許文献2】Newly isolated bacterium Tenacibaculum sp. Strain Pbs-1 from diseased pearl oysters is associated with black-spot shell disease, Sakatoku A., Fujimura T., Ito M., Takashima S., Isshiki T., Aquacluture, 493, 61-67, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アコヤガイ殻黒変病原因細菌の一つであるTenacibaculumsp. Pbs-1株の感染の有無を確認する方法は、非特許文献2に記載の、富山大学が開発したPCR-DGGEによるものしかなく、操作の煩雑性や検出までに時間が掛かることなど問題点も多い。
【0006】
したがって、本発明は、アコヤガイ殻黒変病原因細菌の検出に有用なプライマーセット、方法、及びキット等を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のプライマーセットを用いたLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法により、アコヤガイ殻黒変病原因細菌を迅速、特異的、及び高感度に検出できることを見出した。本発明は、当該知見を基に更に検討を重ねて完成したものである。
【0008】
本発明は、以下の態様を包含する。
[項1]
アコヤガイ殻黒変病原因細菌をLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、
(1) 配列番号1で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むFIPプライマー、
(2) 配列番号2で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むBIPプライマー、
(3) 配列番号3で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むF3プライマー、及び
(4) 配列番号4で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むB3プライマー
を含むプライマーセット。
[項2]
(5) 配列番号5で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むループプライマーを更に含む、項1に記載のプライマーセット。
[項3]
アコヤガイ殻黒変病原因細菌が、Tenacibaculum属細菌である、項1又は2に記載のプライマーセット。
[項4]
アコヤガイ殻黒変病原因細菌が、Tenacibaculumsp. Pbs-1株である、項1又は2に記載のプライマーセット。
[項5]
試料中のアコヤガイ殻黒変病原因細菌を検出する方法であって、
(1) 配列番号1で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むFIPプライマー、
(2) 配列番号2で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むBIPプライマー、
(3) 配列番号3で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むF3プライマー、及び
(4) 配列番号4で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むB3プライマー
を含むプライマーセットを用いたLAMP法により、試料中の核酸を鋳型として増幅反応を行う工程A、及び
工程Aの反応生成物中の増幅産物を検出する工程B
を含む方法。
[項6]
プライマーセットが、(5) 配列番号5で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むループプライマーを更に含む、項5に記載の方法。
[項7]
ループプライマ―の濃度が、0.5~1μMである、項5又は6に記載の方法。
[項8]
工程Aが、60℃以上65℃未満で30~60分間実施される、項5~7のいずれかに記載の方法。
[項9]
試料が、50pg以上の核酸を含む、項5~8のいずれかに記載の方法。
[項10]
FIPプライマー及びBIPプライマーの濃度が、それぞれ、1~2μMである、及び/又は、F3プライマー及びB3プライマーの濃度が、それぞれ、0.1~0.5μMである、項5~9のいずれかに記載の方法。
[項11]
工程Bが、トリアリールメタン色素で染色して検出する工程である、項5~10のいずれかに記載の方法。
[項12]
アコヤガイ殻黒変病原因細菌が、Tenacibaculum属細菌である、項5~11のいずれかに記載の方法。
[項13]
アコヤガイ殻黒変病原因細菌が、Tenacibaculumsp. Pbs-1株である、項5~11のいずれかに記載の方法。
[項14]
アコヤガイ殻黒変病原因細菌をLAMP法で検出するためのキットであって、項1~4のいずれかに記載のプライマーセットを含むキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプライマーセットを用いたLAMP法により、アコヤガイ殻黒変病原因細菌を迅速、特異的、及び高感度に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1のLAMP法による増幅産物の電気泳動結果を示す図である。
図2】実施例2のLAMP法による増幅産物の電気泳動結果を示す図である。
図3】実施例3のLAMP法による増幅産物の電気泳動結果を示す図である。
図4】実施例4のLAMP法による増幅産物及びその制限酵素消化物の電気泳動結果を示す図である。
図5】実施例5のLAMP法による増幅産物の電気泳動結果を示す図である。
図6】実施例6のLAMP法による増幅産物の電気泳動結果を示す図である。
図7】実施例7のLAMP法による増幅産物の電気泳動結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.プライマーセット
一実施形態において、本発明のプライマ―セットは、アコヤガイ殻黒変病原因細菌をLAMP法で検出するために好適に利用できる。
【0012】
アコヤガイ殻黒変病原因細菌は、アコヤガイ殻黒変病の原因になり得る細菌であれば、特に制限されない。一実施形態において、アコヤガイ殻黒変病原因細菌は、Tenacibaculum属細菌であることが好ましく、Tenacibaculumsp. Pbs-1株(以下、単に「Pbs-1株」と表記する場合がある)及びその近縁種からなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましい。前記Pbs-1株は、アコヤガイ殻黒変病の原因細菌の一つとして、富山大学を中心とした研究コンソーシアムにより発見されたものであり、非特許文献2に記載の方法で入手可能である。前記近縁種は、その16S rRNA遺伝子及び/又は23S rRNA遺伝子が、前記Pbs-1株の16S rRNA遺伝子及び/又は23S rRNA遺伝子の塩基配列に対して、例えば95%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の同一性を有することが好ましい。なお、塩基配列の同一性は、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いて算出することができる。前記近縁種としては、例えば、T. mesophilum、T. amylolyticum、T. sediminilitoris、T. maritimum、T.ascidiaceicola等が挙げられる。アコヤガイ殻黒変病原因細菌は、Pbs-1株、T. mesophilum、T. amylolyticum、T. sediminilitoris、T. maritimum、及びT.ascidiaceicolaからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましく、Pbs-1株であることがより好ましい。本発明のプライマーセットは、Pbs-1株を特異的に検出するために好適に利用できる。
【0013】
LAMP法は、少なくとも4種類(好ましくは4、5、又は6種類)のプライマーを含む又は当該プライマーからなるプライマーセットを用いて、実質的に等温で反応させることを特徴とする核酸増幅方法である。LAMP法については、例えば、国際公開第00/28082号公報(対応の米国特許出願公開2002/168676号公報)を参照することができる。当該文献は参照することによりその全体が明細書に組み込まれる。
【0014】
LAMP法に用いられるプライマーセットは、標的核酸の一方の鎖の3’末端側から順にF3c、F2c、F1cという3つの領域、及び同一鎖の5’末端側から順にB3、B2、B1という3つの領域を規定し、これらの領域に基づいて設計し得る、少なくとも4種類(FIP、BIP、F3、及びB3)のプライマーを含み得る。F3c領域とF2c領域の間、及び、B3領域とB2領域との間は、それぞれ、0~20塩基であることが好ましい。F2c領域の3’末端からF1c領域の3’末端までの距離、及び、B2領域の5’末端からB1領域の5’末端までの距離は、それぞれ、40~60塩基であることが好ましい。
【0015】
FIPプライマーは、F1c領域を5’末端側に有し、F2c領域と相補的な配列であるF2領域を3’末端側に有するように設計することが好ましい。前記F1c領域と前記F2領域との間には、1又は2個の任意の塩基が存在していてもよい。前記F1c領域の5’末端及び前記F2領域の3’末端からそれぞれ6塩基のdG(自由エネルギーの合計)が-4kcal/mol以下であることが好ましい。FIPプライマーの長さは、特に制限されないが、例えば、20塩基以上、25塩基以上、30塩基以上、35塩基以上、又は40塩基以上であってもよく、60塩基以下、55塩基以下、又は50塩基以下であってもよい。
【0016】
BIPプライマーは、B1領域と相補的な配列であるB1c領域を5’末端側に有し、B2領域を3’末端側に有するように設計することが好ましい。前記B1c領域と前記B2領域との間には、1又は2個の任意の塩基が存在していてもよい。前記B1c領域の5’末端及び前記B2領域の3’末端からそれぞれ6塩基のdGが-4kcal/mol以下であることが好ましい。BIPプライマーの長さは、特に制限されないが、例えば、20塩基以上、25塩基以上、30塩基以上、35塩基以上、又は40塩基以上であってもよく、60塩基以下、55塩基以下、又は50塩基以下であってもよい。
【0017】
F3プライマーは、F3c領域と相補的な配列であるF3領域を有するように設計することが好ましい。前記F3領域の3’末端から6塩基のdGが-4kcal/mol以下であることが好ましい。B3プライマーは、B3領域を有するように設計することが好ましい。前記B3領域の3’末端から6塩基のdGが-4kcal/mol以下であることが好ましい。F3及びB3プライマーの長さは、特に制限されないが、例えば、10塩基以上又は15塩基以上であってもよく、40塩基以下、35塩基以下、又は30塩基以下であってもよい。
【0018】
LAMP法に用いられるプライマーセットは、ループプライマーを更に含むことが好ましい。ループプライマーは、F2c領域とF1c領域との間に存在する塩基配列に相補的な塩基配列を有するもの、及び/又は、B2領域とB1領域との間の塩基配列に存在する塩基配列に相補的な塩基配列を有するものであることが好ましい。ループプライマーの3’末端から6塩基のdGが-4kcal/mol以下であることが好ましい。ループプライマーの長さは、特に制限されないが、例えば、10塩基以上又は15塩基以上であってもよく、40塩基以下、35塩基以下、又は30塩基以下であってもよい。ループプライマーについては、例えば、国際公開第02/24902号公報(対応の米国特許出願公開2004/038253号公報)を参照することができる。当該文献は参照することによりその全体が明細書に組み込まれる。
【0019】
上記の各プライマーのTm(融解温度)(Nearest Neighbor法により決定される)は、55℃以上65℃以下であることが好ましい。また、上記の各プライマーのGC含量は、40%以上65%以下であることが好ましい。
【0020】
上記の各プライマーは、例えば、慣用のプライマー設計支援ソフト(例えば、Primer Explorer Ver.5、栄研化学株式会社製)を用いて設計することができる。
【0021】
一実施形態において、本発明のプライマーセットは、アコヤガイ殻黒変病原因細菌の16S rRNA遺伝子と23S rRNA遺伝子との間のISR(Internal Spacer Region)領域を標的とするものであることが好ましく、Pbs-1株のISR領域:
CTAGAGAAAGATGGTGAGTTACAATAGAGGTTAGTTTTACTCTTTGCTGTTAATTTTAAAAAAATAGACTAAGATCTTAAAAAGGAGATAATTTTTAGATGTTTGATATTAATATCTAAGCTGTCTAAGACAGTCTCGTAGCTCAGCTGGTTAGAGCGCTACACTGATAATGTAGAGGTCGGCAGTTCGAGTCTGCCCGAGACTACAATTTTAAGACTAAGTAAAGGAAATTCTAGAAGTTGGGATTCACAATTCATAATTCTGAATTCATAATTTTGAATTTGCAATTGGGGGATTAGCTCAGCTGGCTAGAGCGCTTGCCTTGCACGCAAGAGGTCATCGGTTCGACTCCGATATTCTCCACTGGGCAATGCCTAGAGATAATAATAATTATTATTTCTGAGAGTATTGCAGGCAGATTGTGACTAACAAGTTTAATTACTTGTCAGTGGCGACTCGCCACAACGTTCATTGACATATTGGTAAAATGATATCGTAAAGAATCAAGATAGAGAGTTAGATAATATCTAACAACATATTTTTATAAGAACAAGAATTATAAAGAGCTCGTTGTAGTAGAGATACTACAGCAAAAAG(配列番号6)
を標的とするものであることがさらに好ましい。一実施形態において、前記ISR領域のF3c領域は、GTTCTCCAGTAGTAGCCAAGC(配列番号7)で表される塩基配列を含む又は当該塩基配列からなり、前記ISR領域のF2c領域は、TGAGGCTATAAGAGGTGACC(配列番号8)で表される塩基配列を含む又は当該塩基配列からなり、前記ISR領域のF1c領域は、TAATAAAGACTCTCATAACGTCCGT(配列番号9)で表される塩基配列を含む又は当該塩基配列からなり、前記ISR領域のB3領域は、TTCTTGTTCTTAATATTTCTCGAGC(配列番号10)で表される塩基配列を含む又は当該塩基配列からなり、前記ISR領域のB2領域は、AGTTCTATCTCTCAATCTATTGTAG(配列番号11)で表される塩基配列を含む又は当該塩基配列からなり、前記ISR領域のB1領域は、TGAGCGGTGTTGCAAGTAAC(配列番号12)で表される塩基配列を含む又は当該塩基配列からなることが好ましい。
【0022】
一実施形態において、本発明のプライマーセットは、下記(1)~(4)を含むことが好ましい:
(1) 配列番号1で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むFIPプライマー、
(2) 配列番号2で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むBIPプライマー、
(3) 配列番号3で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むF3プライマー、及び
(4) 配列番号4で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むB3プライマー。
【0023】
FIPプライマー(1)は、配列番号1で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むことが好ましい。或いは、FIPプライマー(1)は、配列番号9で表される塩基配列と相補的な塩基配列を5’末端側に有し、配列番号8で表される塩基配列を3’末端側に有し、これらの塩基配列の間に1又は2個の任意の塩基が存在し得る塩基配列を含むことが好ましい。より好ましくは、FIPプライマー(1)は、配列番号1で表される塩基配列を含む。
【0024】
BIPプライマー(2)は、配列番号2で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むことが好ましい。或いは、BIPプライマー(2)は、配列番号11で表される塩基配列と相補的な塩基配列を5’末端側に有し、配列番号11で表される塩基配列を3’末端側に有し、これらの塩基配列の間に1又は2個の任意の塩基が存在し得る塩基配列を含むことが好ましい。より好ましくは、BIPプライマー(2)は、配列番号2で表される塩基配列を含む。
【0025】
F3プライマー(3)は、配列番号3で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むことが好ましく、配列番号3で表される塩基配列を含むことがより好ましい。
【0026】
B3プライマー(4)は、配列番号4で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むことが好ましく、配列番号4で表される塩基配列を含むことがより好ましい。
【0027】
本発明のプライマーセットは、ループプライマーを更に含むことが好ましい。ループプライマーは、配列番号5で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個(好ましくは1個)の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むことが好ましく、配列番号5で表される塩基配列を含むことがより好ましい。
【0028】
本発明のプライマーセットに含まれるプライマーは、化学合成、遺伝子工学的手法などの方法により、又は市販のDNA合成装置によって作製することができる。
【0029】
2.検出方法
一実施形態において、本発明の試料中のアコヤガイ殻黒変病原因細菌を検出する方法は、下記の工程A及びBを含むことが好ましい。
工程A
(1) 配列番号1で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むFIPプライマー、
(2) 配列番号2で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むBIPプライマー、
(3) 配列番号3で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むF3プライマー、及び
(4) 配列番号4で表される塩基配列、又は当該塩基配列において1又は2個の塩基が挿入、欠失、又は置換されている塩基配列を含むB3プライマー
を含むプライマーセットを用いたLAMP法により、試料中の核酸を鋳型として増幅反応を行う工程
工程B
工程Aの反応生成物中の増幅産物を検出する工程
【0030】
本明細書において、「試料中のアコヤガイ殻黒変病原因細菌を検出する」とは、試料に存在し得るアコヤガイ殻黒変病原因細菌の有無を判別することのみならず、試料に存在し得るアコヤガイ殻黒変病原因細菌の量を定性的又は定量的に評価することを含む。
【0031】
前記試料は、アコヤガイ殻黒変病原因細菌が存在し得るものであれば、特に制限されない。前記試料は、殻黒変病を発症していないアコヤガイ由来の試料であってもよい。本発明により、殻黒変病を発症していない健常個体であっても、殻黒変病原因細菌を保菌していれば検出することが可能であり、当該個体の殻黒変病の発症を未然に防ぐことができる。前記試料は、アコヤガイ殻由来の核酸抽出物であることが好ましい。核酸抽出は、公知又は慣用のキット(例えば、PowerSoil DNA isolation kit (Mo Bio社))を用いて実施することができる。前記核酸抽出物は、濃縮、希釈、精製等の1以上の処理を施したものであってもよい。前記試料中の核酸の量は、例えば、50pg以上、100pg以上、500pg以上、1ng以上、5ng以上、10ng以上、30ng以上、又は50ng以上であってもよく、1000ng以下であってもよい。
【0032】
一実施形態において、工程Aは、試料、プライマーセット、鎖置換型DNAポリメラーゼ、基質(dNTP等)、及び緩衝液を含むLAMP法反応用組成物をインキュベートする工程であることが好ましい。
【0033】
前記プライマーセットは、上記「1.プライマーセット」に記載のものと同様である。FIPプライマー及びBIPプライマーの濃度は、特に制限されないが、1μm以上であることが好ましく、2μM以下、1.9μM以下、1.8μM、1.7μM、又は1.6μMであることが好ましい。F3プライマー及びB3プライマーの濃度も、特に制限されないが、0.1μM以上であることが好ましく、0.5μM以下、0.4μM以下、又は0.3μMであることが好ましい。ループプライマーを使用する場合、その濃度は、特に制限されないが、0.5μM以上又は0.6μM以上が好ましく、1.5μM以下、1.2μM以下、又は1μMであることが好ましい。
【0034】
前記鎖置換型DNAポリメラーゼとしては、例えば、Bst DNAポリメラーゼ、Bca(Exo)DNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo)DNAポリメラーゼ、Z-Taq DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、これら2以上の組合せ等が挙げられる。これらの中では、Bst DNAポリメラーゼが好ましい。
【0035】
前記緩衝液としては、例えば、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス塩酸緩衝液、コハク酸緩衝液、これら2以上の組合せ等が挙げられる。
【0036】
前記LAMP法反応用組成物は、さらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、滅菌水、無機塩類、酵素保護剤、Tm調整剤、反応促進剤、これら2以上の組合せ等が挙げられる。前記無機塩類としては、例えば、KCl、NaCl、MgCl、MgSO、(NH)SO等が挙げられる。前記酵素保護剤としては、例えば、ウシ血清アルブミン、糖類等が挙げられる。前記Tm調整剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド等が挙げられる。前記反応促進剤としては、例えば、ベタイン、テトラアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0037】
前記LAMP法反応用組成物は、市販のLAMP法用核酸増幅キットに含まれる試薬を含んでいてもよい。当該試薬としては、例えば、栄研化学株式会社のReaction Mix、株式会社ニッポンジーンのLAMP MASTER等が挙げられる。
【0038】
一実施形態において、工程Aは60℃以上で実施することが好ましく、例えば65℃未満、好ましくは64℃以下、より好ましくは63℃以下で実施する。
【0039】
一実施形態において、工程Aは、例えば30分間以上、好ましくは35分間以上実施し、例えば60分間以下、好ましくは55分間以下、より好ましくは50分間以下、さらに好ましくは45分間以下実施する。
【0040】
工程Bは、工程Aの反応生成物中の増幅産物を検出し得る限り、特に制限されない。検出方法としては、例えば、電気泳動、トリアリールメタン色素による染色、標識核酸プローブとのハイブリダイズ等が挙げられる。これらのうち、電気泳動の場合、増幅産物についてスメア形状のバンドが出現すれば、反応生成物中に増幅産物が存在すると判断できる。また、増幅産物のMseI処理物について1本のバンドが出現しても、反応生成物中に増幅産物が存在すると判断できる。また、トリアリールメタン色素による染色の場合、反応生成物の色付きにより、簡便に反応生成物中に増幅産物が存在すると判断できる。トリアリールメタン色素としては、例えば、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ビクトリアブルー、ブリリアントグリーン、マラカイトグリーン等が挙げられる。これらの中では、マラカイトグリーンが好ましい。
【0041】
3.キット
一実施形態において、本発明のキットは、アコヤガイ殻黒変病原因細菌をLAMP法で検出するためのプライマーセットを含むことが好ましい。当該プライマーセットは、上記「1.プライマーセット」に記載のものと同様である。
【0042】
前記キットは、例えば、上記「2.検出方法」で使用される成分、例えば、鎖置換型DNAポリメラーゼ、基質、緩衝液、及び他の成分からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。また、前記キットは、さらにコントロールを含んでいてもよい。当該コントロールは、ポジティブコントロール及び/又はネガティブコントロールであり得る。さらに、前記キットは、さらに、試料の調製に必要な試薬、検出に使用する器具(例えば、反応チューブ等)、説明書等を含んでいてもよい。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。なお、実施例の結果を示す図1図6において、Mは100bp ラダーマーカー、1はTanacibaculum sp. Pbs-1株、2はTanacibaculum mesophilum、3はTanacibaculum amylolyticum、4はTanacibaculum sediminilitoris、5はTanacibaculum maritimum、6はTanacibaculum ascidiaceicola、N.C.はネガティブコントロール(DNAテンプレートの代わりに滅菌水を同量加えたもの)を表す。
【0044】
(製造例1:Tanacibaculum sp. Pbs-1株及びその他のTanacibaculum属細菌(近縁種)のDNAの調製)
Tanacibaculum sp. Pbs-1株(以下、単に「Pbs-1株」という)は、参考文献(Sakatokuら、Aquaculture, 493, 2018, pp. 61-67)に記載の方法で採取したものを使用し、その他のTanacibaculum属細菌(T. mesophilum、T. amylolyticum、T. sediminilitoris、T. maritimum、T.ascidiaceicola)は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構から購入したものを使用した。Pbs-1株及びその他のTanacibaculum属細菌のDNAは、海水サイトファーガ液体培地で約1日培養後の菌体からWizard Genomic DNA Purification Kit(プロメガ社)を用いてDNAを抽出した。そのようにして得られたDNA溶液をDNAテンプレートとして用いた。
【0045】
(実施例1:反応温度)
Pbs-1株のDNAをLAMP法を用いて増幅した後、2%(w/v) アガロースゲル電気泳動を行った。本LAMP法では、表1の反応液を用い、60℃又は63℃で35分間反応を行った。
【0046】
【表1】
【0047】
結果を図1に示す。図1から明らかなように、60℃及び63℃のいずれの反応温度でもPbs-1株のDNAが増幅された。Pbs-1株のDNAの増幅特異性を向上させる観点から、より高い反応温度である63℃が好適であることが分かった。
【0048】
(実施例2:FIP及びBIPプライマー濃度)
本LAMP法では、FIP及びBIPプライマーの終濃度を1.0μMから1.6μMまで0.2μM刻みで変化させた以外は、実施例1と同じ組成の反応液を用い、63℃で35分間反応を行った。
【0049】
結果を図2に示す。図2から明らかなように、FIP及びBIPプライマー濃度依存的にPbs-1株のDNAを特異的に増幅することが可能であった。FIP及びBIPプライマーの終濃度としては、DNA増幅性及び経済性の観点から、1.4μMが好適であることが分かった。
【0050】
(実施例3:反応時間)
本LAMP法では、Pbs-1株及びその他のTenacibaculum属細菌のDNAをDNAテンプレートとし、実施例1と同じ組成の反応液を用い、63℃で35分間、45分間、又は60分間反応を行った。
【0051】
結果を図3に示す。図3から明らかなように、反応時間が長くなるにつれて、各種DNAの増幅量は多くなる。反応時間としては、Pbs-1株のDNAの増幅特異性の観点から、35分が好適であることが分かった。
【0052】
(実施例4:目的遺伝子の増幅)
実施例1と同じ組成の反応液を用い、63℃で35分間LAMP反応を行った。反応後の溶液10μLに対し、制限酵素(Mse I)1μL、バッファー(タカラバイオ株式会社)5μL、及び滅菌水34μLを添加して37℃で15分間消化反応を行い、2%(w/v) アガロースゲル電気泳動を行った。
【0053】
結果を図4に示す。図4から明らかなように、制限酵素で消化することにより、約136bpのバンドが1本検出されたことから、目的遺伝子の増幅が行われていることが確認された。
【0054】
(実施例5:DNAテンプレート量)
本LAMP法では、Pbs-1株のDNAを50ngから50pgまで10倍段階希釈系列を作製して、それらをテンプレートとし、Loopプライマー(TCTTATTATCTCTGGACATTGC(配列番号5))を終濃度1.0μMとなるように添加した以外は、実施例1と同じ組成の反応液を用い、63℃で35分間反応を行った。2%(w/v) アガロースゲル電気泳動による検出に加え、反応後の溶液中に0.008% (w/v)のマラカイトグリーンを添加し、遺伝子増幅の目視検出を試みた。
【0055】
結果を図5に示す。図5から明らかなように、電気泳動による検出及びマラカイトグリーン添加による目視検出の両方において、ごく少量(50pg)のDNAテンプレート量であっても検出が可能であった。
【0056】
(実施例6:Loopプライマー濃度)
Pbs-1株のDNAテンプレート量を50pgとし、Loopプライマーを終濃度0.6μM又は1.0μMとなるように添加した以外は、実施例1と同じ組成の反応液を用い、63℃で35分間反応を行った。
【0057】
結果を図6に示す。図6から明らかなように、Loopプライマー濃度依存的にPbs-1株のDNAを特異的に増幅することが可能であり、Loopプライマーの終濃度が0.6μMであっても検出は可能であった。
【0058】
(実施例7:アコヤガイ殻から抽出したDNA)
殻黒変病を発症しているアコヤガイ(病貝)を3個体、及び殻黒変病を発症していないアコヤガイ(健常貝)を3個体用意し、これら6個体の殻から、PowerSoil DNA isolation kit (Mo Bio社))のプロトコールに従って、DNAを抽出した。この抽出液を2μL用いてDNAテンプレートとした以外は、実施例1と同様の反応液を用い、63℃で60分間LAMP反応を行った。
【0059】
結果を図7に示す。図7から明らかなように、病貝のみだけでなく、健常貝であっても殻黒変病原細菌を保菌していれば検出可能であった。したがって、本LAMP法は、健常貝における殻黒変病の発症を未然に防ぐことができる方法としても利用できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の方法、キット等は、養殖地のある県の水産試験場(三重県水産研究所、愛媛県水産研究センター、長崎県総合水産試験場等)や国立研究開発法人水産研究・教育機構増養殖研究所などのサーマルサイクラーを持っている研究機関だけでなく、真珠養殖に係る民間の企業でも簡便に使用することができ、原因細菌の発生状況の把握や感染個体の除去(間引き)など養殖過程での対応もできるようになることから、1級品真珠生産量の増加に大きく貢献することが期待できる。また、本発明で感染対策に関する研究を行う際に細菌の有無を簡便に調べることができ、その進捗を大きく加速させることができると予想できる。そして将来的に、感染対策法が確立された際には生産量が回復(現在殻黒変病で死亡している個体が真珠を作るようになり、約40トン/年)し、生産額と輸出額が2倍の300億円と600億円になると予想される。加えて、予備的な調査から、日本で養殖されている日本産やベトナム産アコヤガイ(Pinctada fucata)だけでなく、インド洋産アコヤガイ(P. radiata)など、他国の別種母貝でも本疾病と同様の黒変が見られていることから、本発明は、日本だけでなく、世界中の真珠養殖業者が求めているものであり、波及した際には、さらに大きな経済的効果が得られると予想される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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